特許第6189977号(P6189977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189977排ガス中のSOxを減少させるための洗浄システム及び洗浄方法
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  • 特許6189977-排ガス中のSOxを減少させるための洗浄システム及び洗浄方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189977
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】排ガス中のSOxを減少させるための洗浄システム及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/04 20060101AFI20170821BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20170821BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F01N3/04 A
   F01N3/04 D
   B01D53/50 230
   B01D53/78
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-560655(P2015-560655)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公表番号】特表2016-516931(P2016-516931A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】EP2014054109
(87)【国際公開番号】WO2014135509
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】13158355.1
(32)【優先日】2013年3月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509005513
【氏名又は名称】アルファ−ラヴァル・コーポレート・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セーレン・メルガード
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・ピーダ・ハンセン
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−503165(JP,A)
【文献】 特開昭61−204022(JP,A)
【文献】 特公昭57−010770(JP,B1)
【文献】 特開2006−241976(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0044335(US,A1)
【文献】 特開昭62−023420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
B01D 53/34−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶用内燃機関(104)、バーナー、又はボイラーからの排ガス中のSOx及び粒子状物質を減少させるための洗浄システム(1)であって、
第1スクラバ(102)及び第1水循環タンク(101)を備える第1スクラバ処理ループ(100)であって、
前記第1水循環タンクからの水が、前記第1スクラバ処理ループ(100)を循環するように構成されており、
前記第1スクラバ(102)が、前記内燃機関(104)、バーナー、又はボイラーからの排ガス及び前記第1水循環タンク(101)からの水を受け取るように構成されており、
前記第1水循環タンク(101)からの水が、少なくとも部分的に、前記排ガスとの接触により、前記第1スクラバ(102)内部で蒸発して水蒸気となるように構成されており、これにより、前記水蒸気及び前記排ガスが湿った排ガスを形成する、第1スクラバ処理ループ(100)と;
第2スクラバ(202)及び第2水循環タンク(201)を備える第2スクラバ処理ループ(200)であって、
前記第2水循環タンク(201)からの水が、前記第2スクラバ処理ループ(200)を循環するように構成されており、
前記第1スクラバ(102)と前記第2スクラバ(202)との間の連絡路(400)により、前記湿った排ガスが前記第1スクラバ(102)から前記第2スクラバ(202)へ移動することが可能となっており、
前記第2スクラバ(202)が、前記第2循環タンク(201)からの水を受け取るように構成されており、
前記第2循環タンク(201)からの水が、前記第2スクラバ(202)内部で、前記湿った排ガス中の前記水蒸気を少なくとも部分的に凝縮させるように構成されている、
第2スクラバ処理ループ(200)と;
前記第1スクラバ処理ループ(100)と前記第2スクラバ処理ループ(200)との間の連絡路(300;300’)であって、前記第2スクラバ処理ループ(200)から前記第1スクラバ処理ループ(100)への水の逆流を可能にする連絡路(300;300’)と、
を備え、
少なくとも前記第2スクラバ処理ループ(200)へアルカリ剤を供給するための装置(230)であって、前記洗浄システム(1)へ供給される前記アルカリ剤の全量の少なくとも60%前記第2スクラバ処理ループ(200)へ供給される、アルカリ剤供給用装置(230)をさらに備え
記第2スクラバ処理ループ(200)が、前記第2スクラバ処理ループ(200)を循環するように構成された水を前記第1スクラバ処理ループ(100)を循環するように構成された水より低温に冷却するように適合された第1熱交換器(207)を備える、洗浄システム(1)。
【請求項2】
前記第2スクラバ(202)により受け取られるように構成された前記水の温度を0〜35℃の範囲で維持するように適合された、請求項に記載の洗浄システム(1)。
【請求項3】
前記第1スクラバ(102)により受け取られるように構成された前記水の温度を40〜70℃の範囲で維持するように適合された、請求項1に記載の洗浄システム(1)。
【請求項4】
前記第2スクラバ(202)により受け取られるように構成された前記水のpH値が6〜10の範囲なるように、前記第2スクラバ処理ループ(200)への前記アルカリ剤の供給を調節するように適合された、請求項1に記載の洗浄システム(1)。
【請求項5】
前記第1スクラバ(102)により受け取られるように構成された前記水のpH値を2〜8の範囲維持するように適合された、請求項1に記載の洗浄システム(1)。
【請求項6】
前記第1スクラバ処理ループ(100)と連通すると共に前記第1スクラバ処理ループ(100)から汚水を受け取って、前記汚水をスラッジと残余水とに分離する第1セパレータユニット(110)を更に備える、請求項1に記載の洗浄システム(1)。
【請求項7】
前記第1セパレータユニット(110)からの前記残余水が供給されるように適合された水洗浄装置(600)であって、前記残余水に含まれる塩を沈殿させるために前記残余水を冷却するように適合された第2熱交換器(601)と、塩が沈殿している冷却残余水を受け取って前記冷却残余水沈殿した前記塩と浄化残余水とに分離するように適合された第2セパレータユニット(603)と、を備える前記水洗浄装置(600)を更に備える、請求項に記載の洗浄システム(1)。
【請求項8】
洗浄システム(1)を使用することにより、船舶用内燃機関(104)、バーナー、又はボイラーからの排ガス中のSOx及び粒子状物質を減少させる方法であって、
前記洗浄システムが、
第1スクラバ(102)及び第1水循環タンク(101)を備える第1スクラバ処理ループ(100)と;
第2スクラバ(202)及び第2水循環タンク(201)を備える第2スクラバ処理ループ(200)と;
前記第1スクラバ(102)と前記第2スクラバ(202)との間の連絡路(400)と;
前記第1スクラバ処理ループ(100)と前記第2スクラバ処理ループ(200)との間の連絡路(300;300’)と;
少なくとも前記第2スクラバ処理ループ(200)へアルカリ剤を供給するための装置(230)と;
を備えており、
−前記第1スクラバ処理ループ(100)において、前記第1水循環タンク(101)からの水を循環させるステップと;
−前記第2スクラバ処理ループ(200)において、前記第2水循環タンク(201)からの水を循環させるステップと;
−前記洗浄システム(1)へ供給される前記アルカリ剤の全量の少なくとも60%前記第2スクラバ処理ループ(200)へ供給するステップと;
−前記第1スクラバ(102)において、前記内燃機関(104)、バーナー、又はボイラーからの排ガス及び前記第1水循環タンク(101)からの水を受け取るステップであって、前記第1水循環タンク(101)からの水が、少なくとも部分的に、前記排ガスとの接触により、前記第1スクラバ(102)内部で蒸発して水蒸気となり、これにより、前記水蒸気及び前記排ガスが湿った排ガスを形成するステップと;
−前記湿った排ガスを前記第1スクラバ(102)から前記第2スクラバ(202)へ移動させるステップと;
−前記第2スクラバ(202)において、前記第2循環タンク(201)からの水を受け取るステップであって、前記第2循環タンク(201)からの水が、前記第2スクラバ(202)内部で、前記湿った排ガス中の前記水蒸気を少なくとも部分的に凝縮させ、これにより、前記排ガス中に含まれているSOxが酸化されて硫酸塩になるステップと;
−前記第2スクラバ処理ループ(200)から前記第1スクラバ処理ループ(100)へ水を逆流させるステップと、
−前記第2スクラバ処理ループ(200)を循環する前記水を、前記第1スクラバ処理ループ(100)を循環する水より低温に冷却するステップと、
を含む方法。
【請求項9】
前記第2スクラバ(202)において受け取られる前記水のpH値が6〜10の範囲なるように、前記第2スクラバ処理ループ(200)への前記アルカリ剤の供給を調節するステップを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1スクラバ(102)において受け取られるように構成された前記水のpH値を2〜8の範囲維持するステップを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2スクラバ(202)において受け取られるように構成された前記水を、0〜35℃の範囲の温度まで冷却するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1スクラバ(102)において受け取られるように構成された前記水の温度を40〜70℃の範囲で維持するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記船舶用内燃機関(104)、バーナー、又はボイラーからの排ガス中のSOX及び粒子状物質を減少させることを目的とする、請求項1〜の何れか一項に記載の洗浄システムの船上での使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用内燃機関、バーナー、又はボイラーからの排ガス中のSOx及び粒子状物質を減少させるための洗浄システム及び洗浄方法に関するものである。本発明はまた、このようなシステムの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の燃焼中、燃料中の硫黄が硫黄酸化物(SO)の形態で放出される。他の汚染物質としては、煤、油分、及び重金属粒子等の1次(primary)粒子状物質、並びに窒素酸化物(NO)がある。空気汚染が人々の健康及び環境に深刻な影響を及ぼしていることは広く知られている。二酸化硫黄及び窒素酸化物が酸性雨の主要な前駆体であることもまた広く知られている。
【0003】
国際海運の排出制御に関する現在の規制には、SO排出量を制御する方法として、燃料油中の硫黄含有量に上限を設けることが含まれる。排出規制海域(emission control areas)におけるSOについての燃料品質に関する特別規定が存在し、近い将来、燃料中の硫黄の許容上限量が大幅に引き下げられることが予想されている。いくつかのEU指令の明細(specifications)に従って2005年5月に発効されたMARPOL Annex VI規則により、船舶用ディーゼルが環境に及ぼす影響が抑制された。2015年までに、当該規則は、例えば燃料中の硫黄の上限量及びNOxの上限に関して一層厳しくなる予定である。
【0004】
排出量を低減することのできる可能性としては様々なものがあり、これらは単独で利用してもよく、組み合わせて利用してもよい。一つの可能性としては、留出燃料や低硫黄燃料等の新しい燃料を使用することである。別の可能性としては、通常船舶上で使用される、NaOH溶液等のアルカリ剤を使用する湿式スクラバ技術や、消石灰(Ca(OH))の粒状体を使用する乾式スクラバ技術といった、SOの排出を制御する方法を更に改良することである。
【0005】
今日の海洋産業では、船舶エンジンからの排気中のSOを減少させるという目的のために、排ガス洗浄(Exhaust Gas Cleaning:EGC)を利用することが広く知られている。
【0006】
EGCタイプの湿式スクラバのうち、広く知られた一つの湿式スクラバは、いわゆる閉ループスクラバである。これは、排ガスから硫黄酸化物及び煤粒子を洗い出すために、循環する淡水を水酸化ナトリウム(NaOH)や炭酸ナトリウム(NaCO)のようなアルカリ剤と組み合わせて使用するものである。循環する淡水の水質を制御するために、当該淡水は、少量ずつ、断続的又は継続的に、綺麗な淡水に交換することができ、洗浄後は船舶内に貯蔵するか、又は船上から排出することができる。
【0007】
上述の種類のスクラバは当該技術分野において広く知られているが、未解決の問題や解決困難な問題がいくつか残っている。一般に、蒸発による閉ループスクラバシステムの水の消費量は非常に大きいため、バランスを保つために大量の淡水をシステムに継続的に加える必要がある。更に、閉ループスクラバシステムにおける水の洗浄は重大な意味を持つものである。水の汚れが激しすぎると、排出することが許されず、また、スクラバシステム内で煤が積み上がるのを避けるのが困難になるおそれがある。このような煤は、最終的にはバルブ及びノズルを詰まらせて、スクラバシステムの構成要素の故障を引き起こすおそれがある。また、NaOHやNaCOのようなpH中和剤の消費量も非常に大きいため、スクラバシステムの運転がより高コストになる。
【0008】
欧州特許出願公開第1857169号明細書(特許文献1)には、二つのセクションスクラバを備える淡水スクラバシステムであって、第1セクションは硫黄除去用のものであり、第2セクションは濃縮用のものである淡水スクラバシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1857169号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、淡水の消費量の低減を可能にするシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、船舶用内燃機関、バーナー、又はボイラーからの排ガス中のSOx及び粒子状物質を減少させるための洗浄システムであって、
第1スクラバ及び第1水循環タンクを備える第1スクラバ処理ループであって、
第1水循環タンクからの水が、第1スクラバ処理ループを循環するように構成されており、
第1スクラバが、内燃機関、バーナー、又はボイラーからの排ガス及び第1水循環タンクからの水を受け取るように構成されており、
第1水循環タンクからの水が、少なくとも部分的に、排ガスとの接触により、第1スクラバ内部で蒸発して水蒸気となるように構成されており、これにより、水蒸気及び排ガスが湿った排ガスを形成する、第1スクラバ処理ループと;
第2スクラバ及び第2水循環タンクを備える第2スクラバ処理ループであって、
第2水循環タンクからの水が、第2スクラバ処理ループを循環するように構成されており、
第1スクラバと第2スクラバとの間の連絡路により、湿った排ガスが第1スクラバから第2スクラバへ移動することが可能となっており、
第2スクラバが、第2循環タンクからの水を受け取るように構成されており、
第2循環タンクからの水が、第2スクラバ内部で、湿った排ガス中の水蒸気を少なくとも部分的に凝縮させるように構成されている、第2スクラバ処理ループと;
第1スクラバ処理ループと第2スクラバ処理ループとの間の連絡路であって、第2スクラバ処理ループから第1スクラバ処理ループへの水の逆流を可能にする連絡路と、
を備え、
少なくとも第2スクラバ処理ループへアルカリ剤を供給するための装置であって、洗浄システムへ供給されるアルカリ剤の全量の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも90%が第2スクラバ処理ループへ供給される、アルカリ剤供給用装置をさらに備える、洗浄システムによって達成される。
【0012】
本発明に係る洗浄システムは、二つのセクション、即ち第1スクラバ処理ループと第2スクラバ処理ループとを有する。第1スクラバ処理ループは、高温の排ガスと接触するため温かく、これにより大量の水が蒸発する。従って、第1スクラバ処理ループは、蒸発ループとみなすことができる。第1スクラバ処理ループでは、以下で更に説明するように、排ガスが粒子状物質から洗浄される。
【0013】
第2スクラバ処理ループは、第1スクラバ処理ループと比較するとより低温であり、これにより蒸発水が少なくとも部分的に凝縮し、液体状態に戻る。蒸発により、塩及び粒子状物質等の不純物は分離されて残存するため、結果として第1スクラバ処理ループから第2スクラバ処理ループへの純水蒸気の正味の移動が起こる。「純、純粋な(pure)」との語は、本明細書中で使用する場合、硫酸塩及び粒子状物質を本質的に含まない、との意味で解釈されるべきものである。
【0014】
更に、洗浄システムへ供給されるアルカリ剤の全量の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも90%が第2スクラバ処理ループに供給され、この第2スクラバ処理ループにより、第2スクラバへ供給される湿った温排ガス中に含まれているSOxが当該排ガスから洗い出され、酸化されて亜硫酸塩及び硫酸塩の水溶液となる。従って、第2スクラバ処理ループは、排ガスをSOxから洗浄する洗浄ループとみなすことができる。
【0015】
逆流により、上述のSOx洗浄により生じる汚水は、第1スクラバ処理ループに戻る。これにより、第1スクラバ処理において塩及び粒子状物質が蓄積し、濃度が上昇することになる。シミュレーションによると、塩及び粒子状物質の濃度が、第1スクラバ処理ループにおいて、最大で第2スクラバ処理ループの20倍まで大きくなるであろうことが示された。以下で更に説明するように、これは当該洗浄システムにおいて蒸発、濃縮、及び逆流が起こる結果である。
【0016】
第2スクラバ処理ループは、第2スクラバ処理ループを循環するように構成された水を冷却するように適合された第1熱交換器を備えることができる。
【0017】
当該洗浄システムは、第2スクラバにより受け取られるように構成された水の温度を0〜35℃の範囲で維持するように適合され得る。水をこの温度まで冷却するには、冷媒として例えば海水を使用する熱交換器を用いてもよい。海水の温度は地理及び時季に応じて変動するということが理解されるであろう。一般に、温度が低いほど、より多くの水が湿った排ガスから凝縮することになる。海水以外の冷媒を使用してもよいということが理解されるであろう。
【0018】
当該洗浄システムは、第1スクラバにより受け取られるように構成された水の温度を40〜70℃の範囲で維持するように適合され得る。この温度範囲は、第1スクラバ処理ループを循環する水が高温の排ガスと接触することによるバランス効果により得られるようになる。
【0019】
当該洗浄システムは、第2スクラバにより受け取られるように構成された水のpH値が6〜10の範囲、より好ましくは7〜8の範囲となるように、第2スクラバ処理ループへのアルカリ剤の供給を調節するように適合され得る。pH値がこの範囲内であれば、排ガスからの最適なSOx除去が可能となる。従来式の(例えば特許文献1に開示されているような)スクラバにおける、流入時のpH値が高い状態、例えば流入時のpH値が9以上の状態での稼働は、結果としてアルカリ剤も排出用水も過度に消費することになり、許容可能なpH排出制限を超過してしまうおそれがあるため、望ましくない。本発明によると、第2スクラバの段階で過剰なアルカリ性成分の排出が起こらず、このような過剰なアルカリ性成分は、第1スクラバの段階において消費される。
【0020】
当該洗浄システムは、第1スクラバにより受け取られるように構成された水のpH値を2〜8の範囲、より好ましくは2〜4の範囲で維持するように適合され得る。pH値が低いと、洗浄システムにおけるアルカリ剤の消費量を減少させることが可能になる。これについて、以下で更に説明する。
【0021】
一般に、スクラバにおけるスクラブ効果は、スクラブ用水のアルカリ度により決定される。第1スクラバ処理ループの目的は、主として、第2スクラバ処理ループへ移動させる湿った排ガスを得るために水を蒸発させることである。第2スクラバ処理ループでは、排ガスの湿気の凝縮と併せてSOxの洗浄が行われる。第1スクラバ処理ループにおける水のpH値は、蒸発プロセスには大きな影響を及ぼさないため、できる限り低く保つことが可能である。しかしながら、通常の排出基準はpH値6.5超とされているため、排出前にpH値の調節が必要となる場合があるということは理解されるべきである。
【0022】
第2スクラバループから逆流するアルカリ性の水は、第1スクラバへ供給される排ガス中に含まれているSOxの中和にはそれほど寄与せず、第1スクラバ処理ループにおける水と接触する際に希釈されることになる。一般に、第1スクラバ処理ループにおいて、水にアルカリ剤を添加する必要はない。
【0023】
当該洗浄システムは、第1スクラバ処理ループと連通する第1セパレータユニットを更に備えることができる。第1セパレータユニットは、第1スクラバ処理ループにおいて水の中で高濃度となった粒子状物質を除去するために使用される。
【0024】
当該洗浄システムは、第1セパレータユニットからの残余水が供給されるように適合された水洗浄装置であって、残余水に含まれる塩を沈殿させるために残余水を冷却するように適合された第2熱交換器と、冷却残余水から沈殿した塩を分離するように適合された第2セパレータユニットと、を備える水洗浄装置を更に備えることができる。沈殿した塩から洗浄された冷却残余水は、第2スクラバ処理ループに戻すことができる。
【0025】
別の態様によると、本発明は、
洗浄システムを使用することにより、船舶用内燃機関、バーナー、又はボイラーからの排ガス中のSOx及び粒子状物質を減少させる方法であって、
当該洗浄システムが、
第1スクラバ及び第1水循環タンクを備える第1スクラバ処理ループと;
第2スクラバ及び第2水循環タンクを備える第2スクラバ処理ループと;
第1スクラバと第2スクラバとの間の連絡路と;
第1スクラバ処理ループと第2スクラバ処理ループとの間の連絡路と;
少なくとも第2スクラバ処理ループへアルカリ剤を供給するための装置と;
を備えており、
−第1スクラバ処理ループにおいて、第1水循環タンクからの水を循環させるステップと;
−第2スクラバ処理ループにおいて、第2水循環タンクからの水を循環させるステップと;
−洗浄システムへ供給されるアルカリ剤の全量の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも90%を、第2スクラバ処理ループへ供給するステップと;
−第1スクラバにおいて、内燃機関、バーナー、又はボイラーからの排ガス及び第1水循環タンクからの水を受け取るステップであって、第1水循環タンクからの水が、少なくとも部分的に、排ガスとの接触により、第1スクラバ内部で蒸発して水蒸気となり、これにより、水蒸気及び排ガスが湿った排ガスを形成するステップと;
−湿った排ガスを第1スクラバから第2スクラバへ移動させるステップと;
−第2スクラバにおいて、第2循環タンクからの水を受け取るステップであって、第2循環タンクからの水が、第2スクラバ内部で、湿った排ガス中の水蒸気を少なくとも部分的に凝縮させ、これにより、排ガス中に含まれているSOxが酸化されて硫酸塩になるステップと;
−第2スクラバ処理ループから第1スクラバ処理ループへ水を逆流させるステップと、
を含む方法に関するものである。
【0026】
当該方法は、上述の洗浄システムと本質的に同じ構成を有する洗浄システムに基づくものである。従って、同じ利点が得られる。必要以上の繰り返しを避けるために、上記のセクションを参照されたい。
【0027】
更に別の態様によると、本発明は、船舶用内燃機関、バーナー、又はボイラーからの排ガス中のSO及び粒子状物質を減少させることを目的とする、船上での上述の洗浄システムの使用に関するものである。
【0028】
更なる目的及び特徴が、詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0029】
以下、本発明の一実施形態について、一例として、添付の図面を参照して、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係るシステムの全体略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1には、洗浄システム1が図示されている。洗浄システム1は、内燃機関104からの排ガスを洗浄するために、船舶上で使用される。より詳細には、洗浄システム1は、水で排ガスを洗い流すことにより、排ガスから粒子状物質及びSOx等の酸性ガスを除去するように構成されている。以下で更に説明するように、粒子状物質は、水に溶解させられ、その後排ガスから分離されることにより、排ガスから除去される。更に、SOxは、アルカリ剤、例えばNaOHを含む水で排ガスを洗い流すことにより、SOxが酸素及びアルカリ剤と反応して、水に溶解する塩を形成し、これにより排ガスから除去される。
【0032】
洗浄システム1は、第1水循環タンク101を有する第1スクラバ処理ループ100と、第2水循環タンク201を有する第2スクラバ処理ループ200と、を備える。
【0033】
洗浄システム1は、閉鎖型淡水システムとみなすことができる。即ち、洗浄システム1は、新しい淡水を連続的に供給することなく、洗浄システム1を循環する淡水に対して動作するものである。当然ながら、例えば蒸気、残余水、又は排水としてスラッジと共に排出される淡水と交換するために、新しい淡水を供給してもよいということが理解されるであろう。
【0034】
第1スクラバ処理ループ100からスタートすると、第1スクラバ処理ループ100は、内燃機関104からの排ガスを受け取るように内燃機関104の排出部に接続された第1入口103を有する第1スクラバ102を備える。更に、第1スクラバ102は、第1スクラバ102の第1出口105を介して、第1水循環タンク101の第1入口106に接続されており、この第1水循環タンク101は、第1水循環タンク101の第1出口107を介して、第1スクラバ102の第2入口108に接続されている。これにより、第1スクラバ102と第1水循環タンク101との間で、水が循環して流れることができるようになる。
【0035】
第1スクラバ102に供給された水は、複数のノズル109を介して第1スクラバ102内部に分散される。このことは、当該技術分野において広く知られたことであるので、これ以上の説明は記載しないこととする。更に、これもまた当該技術分野において広く知られているように、第1スクラバ102内部の水の滞留時間は、ランダムな若しくは構造化された充填層材料を備える第1スクラバにより、又は追加のポンプ及び追加のスプレーノズル(図示せず)を用いて第1スクラバの上から下へ若干量の水を再循環させることにより、増加させることができる。
【0036】
第1スクラバ処理ループ100を循環する水のpH値は、第1スクラバ102の第2入口108で測定する場合において、2〜8の範囲であり、より好ましくは2〜4の範囲である。従って、第1スクラバに受け取られる水のpH値は、2〜8の範囲であり、より好ましくは2〜4の範囲である。
【0037】
洗浄システム1の稼働中に、第1水循環タンク101において高濃度となる粒子状物質等の汚染物質を処理するために、以下で更に説明するように、第1水処理ループ100は、第1セパレータユニット110に接続されている。第1セパレータユニット110は、第1水循環タンク101の第2出口117を介して、第1水循環タンク101に接続されている。第1セパレータユニット110は、一例として、当該技術分野において広く知られている高速セパレータとすることができる。
【0038】
第1セパレータユニット110は、汚水を、粒子状物質を含むスラッジとその残余水とに分離するように構成されている。第1セパレータユニット110により回収されたスラッジは、後で、例えばポートストップ(port stop)の間に、管理排出を行うために、スラッジタンク113中に回収され得る。
【0039】
残余水は、第1水循環タンク101の第2入口111を通って第1スクラバ処理ループ100に再導入されてもよく、第1セパレータユニット110の第1出口118、バルブ装置114、及び船外排出パイプ(図示せず)を通って排出されてもよい。
【0040】
残余水について、その水質が法定船外排出基準を満たすか否かを確認するために、水質管理が行われ得る(図示せず)。一例として、残余水を抜き取って海へ排出する際の、有機化合物の上限量、濁りとも呼ばれる懸濁固形物の上限量、及びpH値の上限値について定めた船外排出基準が存在する。
【0041】
水質が許容可能と認められれば、残余水は船外へ排出することができる。許容可能と認められない場合、ポートストップのために排出が許されない場合、又は排出の影響を受けやすい海域に船舶が位置している場合、残余水は、後で排出するために、残余水タンク(図示せず)中に回収され得る。
【0042】
第1セパレータユニット110は、稼働中に、第1スクラバ処理ループを循環する水の汚染レベルが予め設定されたレベルに達したと判断されたときに作動することにより第1水循環タンク101から水の供給を受けるように設定することができる。これは、予め設定された時間間隔で行われるように設定されてもよい。
【0043】
以下に記載されるように、第1セパレータユニット110は、粒子状物質等の汚れ成分を分離し、第1処理ループ100及び第2スクラバ処理ループ200の両方から洗い出すものである。これは、第1セパレータユニット110に第1水循環タンク101から水が供給され、この第1水循環タンク101も、直接的又は間接的に第2水循環タンク201から水の供給を受けるためである。
【0044】
次いで第2スクラバ処理ループ200を参照すると、第2スクラバ処理ループ200は、第2スクラバ202を備える。第2スクラバ202の第1出口203は、第2水循環タンク201の第1入口204に接続されている。第2水循環タンク201の第1出口205は、第1熱交換器207を介して第2スクラバ202の第1入口206に接続されている。これにより、第2スクラバ202と第2水循環タンク201との間で水が循環して流れることができるようになる。更に、第2スクラバ202の第2出口208は、浄化排ガス出口209に接続されている。第2スクラバ202に供給される水は、複数のノズル213を介して第2スクラバ202内部に分散される。このことは、当該技術分野において広く知られたことであるので、これ以上の説明は記載しないこととする。
【0045】
第1熱交換器207、例えばプレート熱交換器は、第2水循環タンク201と第2スクラバ202との間を循環する水を冷却するように構成されている。冷却に使用される冷媒は、最も簡単な形態としては、船体内の配管(図示せず)を介して得られる海水とすることができる。
【0046】
洗浄システム1は、アルカリ剤を入れておくアルカリ剤タンク210とバルブ231、232とを有する、アルカリ剤供給用装置230を備える。
【0047】
アルカリ剤タンク210は、第2水循環タンク201の第1出口205と第1熱交換器207との間の位置において、第2処理ループ200へアルカリ剤を供給することを可能にする、第1出口220を有するように構成されている。更に、アルカリ剤タンク210は、第1処理ループ100へアルカリ剤を供給することを可能にする第2出口221を有するように構成されている。このアルカリ剤供給は、第2水循環タンク201の第2出口212と第1水循環タンク101の第3入口116との間で延在する連絡路300を介して行われる。あるいは、第1スクラバ処理ループ100へのアルカリ剤供給は、別の位置で、例えば第2スクラバ水循環タンク201の第2出口212と第1スクラバ102の第2入口108との間で延在する連絡路300’を介して行われてもよい。
【0048】
このアルカリ剤供給は、バルブ231、232により制御することができる。
【0049】
同様にアルカリ剤タンク210も、別の位置、例えば第1熱交換器207と第2スクラバ202の第1入口206との間に配置されるように構成されてもよいということが理解されるであろう。
【0050】
洗浄システム1へ供給されたアルカリ剤の全体量の少なくとも60%、より好ましい少なくとも90%が第2処理ループ200へ供給されるべきである。
【0051】
第2処理ループ200を循環する水のアルカリ度は、第2スクラバ202の第1入口206で測定する場合において、pH値が6〜10の範囲、より好ましくは7〜8の範囲になるように、アルカリ剤で調節される。従って、第2スクラバにより受け取られる水のpH値は、6〜10の範囲であり、より好ましくは7〜8の範囲である。
【0052】
アルカリ剤は、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)又は炭酸ナトリウム(NaCO)とすることができる。当業者であれば、他のアルカリ剤も使用可能であることが理解できるであろう。水のアルカリ度、ひいてはアルカリ剤の量は、図示されていない制御機器により制御することができるということも理解されるであろう。
【0053】
第1スクラバ処理ループ100は、第1スクラバ102の第2出口115と第2スクラバ202の第2入口211との間で延在する連絡路400により、第2スクラバ処理ループ200と連通するように構成されている。更に、第2スクラバ処理ループ200は、連絡路300及び/又は連絡路300’により第1スクラバ処理ループ100と連通するように構成されている。
【0054】
これにより、連絡路300及び/又は連絡路300’を通って第2水タンク201から第1スクラバ処理ループ100へ水が流れることが可能となり、即ち水の逆流が可能となる一方、連絡路400を通って第1スクラバ102から第2スクラバ202へ湿った排ガスが流れることも可能になる。これについて、以下詳細に説明する。
【0055】
以下では、洗浄システム1の動作について説明する。
【0056】
稼働中、高温の汚れた排ガスが、約180〜350℃の温度で第1スクラバ102に流入する。第1スクラバ102内部で、当該排ガスはノズル109から供給された水の流れに曝される。ここで、ノズル109は、図示されている実施形態では第1スクラバ102の上部に設けられている。水は、第1水循環タンク101から供給される。
【0057】
水が高温の排ガスと接触することにより、大量の水が蒸発して水蒸気となり、同時に排ガスの温度は低下する。水が完全に蒸発してはならないことが理解されるであろう。第1スクラバ処理ループにおいて十分量の水を流すことにより、すべての水が蒸発してしまわないようにすることができる。一例として、蒸発の度合いは、第1スクラバで受け取られる水の少なくとも50%が液体状態で残るようなものとされ得る。水蒸気が排ガスと混ざることにより、湿った排ガスが形成され、この湿った排ガスは、連絡路400を通って第2スクラバ202へ移動する。
【0058】
液体状態の水、即ち蒸発していない水が第1スクラバ処理ループ100から第2スクラバ処理ループ200へ移動するのを避けるために、デミスタ500が連絡路400に配置され得る。デミスタ500の代わりとして、連絡路400に、液体の水が通るのを妨げる一つ又はいくつかの急カーブ等が設けられてもよい。
【0059】
残った、蒸発していない水は、第1スクラバ102の第1出口105を通って第1水循環タンク101に戻る。この水は、水により排ガスから洗い出された粒子状物質を含む。
【0060】
第1スクラバ処理ループ100を再循環する水のpH値は、第1スクラバ102の第2入口108で測定する場合において、好ましくは4未満である。これにより、第1スクラバ102においては、実質的に排ガスからのSOx除去が起こらない。従って、第1スクラバ処理ループ100は、蒸発した純水を発生させる蒸発ループとみなすことができる。この蒸発した純水は、排ガスと共に、湿った排ガスの形態で第2スクラバ処理ループ200へ供給される。
【0061】
第1スクラバ102と第1水タンク101との間で水が循環して流れることにより、水と排ガスとの間の熱交換が起こり、これにより水は、第1スクラバ102の第2入口108で測定する場合において、約40〜70℃というバランスの取れた温度に達する。従って、第1スクラバ102に受け取られる水の温度は40〜70℃の範囲内となる。
【0062】
湿った排ガスは、第2スクラバ202の第2入口211を通って第2スクラバ202に流入する。第2スクラバ202内部で、この湿った排ガスは、ノズル213から出てきた別の向きに流れる冷水と接触することになる。この水は、第2水循環タンク201から供給される。第2スクラバ処理ループを循環する水の温度は、第1熱交換器207により、第1スクラバ処理ループ100を循環する水よりも十分低いものである。第1熱交換器207において使用される冷媒の温度に応じて、第2スクラバ処理ループ200を循環する水の温度は、第2スクラバ202の第2入口206で測定する場合において、0〜35℃の範囲であってよい。従って、第2スクラバ202により受け取られる水の温度は、0〜35℃の範囲内となる。第2スクラバ202へ供給される水の好ましい温度については、以下で更に説明する。
【0063】
湿った排ガスの流れが第2スクラバ202中で別の向きに流れる冷水と接触するとき、この湿った排ガスと冷水との間で熱伝達が起こる。その結果、排ガス中の水蒸気が少なくとも部分的に凝縮し、その結果生じる液体状態の純水が冷水と混ざることになる。従って、この凝縮水により、第2スクラバループ200において余剰分の純水が生じる。
【0064】
更に、湿った排ガスの流れが別の向きに流れる冷水と接触すると、排ガスが第2スクラバ処理ループ200を循環する水の中のアルカリ剤と反応することにより、排ガス中に含まれているSOxが水に吸収され、酸化されて硫酸塩となる。従って、第2スクラバ処理ループは、排ガスをSOxから洗浄する洗浄ループとみなすことができる。
【0065】
第2スクラバ202を出た硫酸塩含有水は、第2スクラバ202の第1出口203を通って第2水循環タンク201に戻る。更に、得られた洗浄済み排ガスは、第2出口208を通って第2スクラバ202を出ることになる。この洗浄済み排ガスは、浄化排ガス出口209を通って、直接的又は間接的に外気へ放出され得る。
【0066】
第2水循環タンク201中に回収された水の一部は再循環され、第1熱交換器207を経由して第2スクラバ202に戻る。
【0067】
第2スクラバ202において水の凝縮が起こることにより、第1スクラバ処理ループ100から第2スクラバ処理ループ200へ流れる純水の正味の流れが存在する。ここで、純水(pure water)とは、塩及び粒子状物質の濃度が低い水を意味する。
【0068】
上述の純水の正味の流れに対応する水の流れは、連絡路300及び/又は連絡路300’を通って第2水循環タンク201から第1スクラバ処理ループ100に戻る逆流として生じる。SOxが酸化されて硫酸塩になるという、第2スクラバ処理ループ200におけるスクラブ作用により、この水の逆流は、塩その他の洗い出された汚染物質を含むことになる。この逆流により、これらの不要な物質は、第1スクラバ処理ループ100を循環する水の中で濃縮されることとなり、これより後の段階において水から分離することができる。
【0069】
第2スクラバ処理ループ200から第1スクラバ処理ループ100へ逆流する水の割合についてのイメージを説明するために、以下に非限定的な例を示す。この例は、コンピュータによるシミュレーションに基づくものである。
【0070】
2MWエンジンの稼働中、第1スクラバ処理ループ100における水の流量は約20m/hであり、第2スクラバ処理ループ200における水の流量は約40m/hであった。エンジン104から流入する排ガスの温度が300℃の場合、第1スクラバ102中で蒸発する水の量は2.6m/hであった。更に、第2スクラバ202中で凝縮した水の量は2.7m/hであった。水の凝縮量は、周囲空気の湿気のため、水の蒸発量よりも多くなることがある。従って、第1スクラバ処理ループ100へ逆流する正味の水の流量は、第1スクラバ処理ループにおける水の流量の2.7/20=13.5%であった。
【0071】
第1スクラバ処理ループ100及び第2スクラバ処理ループ200において使用される水の温度の違いにより、第1スクラバ処理ループ100のパフォーマンスが著しく影響を受けることはない。上述のシミュレーションにより、第1スクラバ処理ループ100を再循環する水は、しばらくすると63℃の温度で安定化するということが明らかになった。第2スクラバ処理ループ200からの水の逆流により、この温度が著しく影響を受けることはなかった。このシミュレーションにより、約2〜4℃の温度低下が示される。
【0072】
上述の洗浄システム1の主な利点は、水を排出することなく、非常に長時間稼働させることができるという点である。しかしながら、閉ループスクラバシステムを稼働させるにあたっての一制限要因として、いくつかの点で、循環水、ここでは第1スクラバ処理ループを循環する水が、亜硫酸塩及び硫酸塩の状態の硫黄で飽和するということがある。このため、循環水の徹底した洗浄及び排出が必要となる。
【0073】
洗浄システムには、図1に図示されるように、追加の水洗浄装置600が設けられてもよい。この水洗浄装置600は、第1セパレータユニット110と連通するように構成されている。連絡路610が、バルブ611を介して第1セパレータユニット110の第1出口118から第2熱交換器601まで延在する。一例として、第2熱交換器601は、冷媒として海水を使用することができる。第2熱交換器601は、第1セパレータユニット110から送られた残余水を30℃未満の温度まで冷却するように構成されている。冷却された残余水は、保持タンク602に回収される。残余水の温度を低下させることにより、残余水に含まれているナトリウム硫酸塩は、固体亜硫酸塩又は固体硫酸塩の状態で、固体として沈殿することになる。残余水が第2セパレータユニット603に移動する前に、当該残余水は、沈殿が生じるのに十分な時間、上記の保持タンク602中に保持される。第2セパレータユニット603では、固形物が残余水から分離され、その後当該固形物は、後で管理排出を行うために、回収タンク604に回収される。その結果得られる浄化残余水は、第2セパレータユニット603から第2スクラバ202まで延在する連絡路605を通って、第2スクラバ処理ループ200に戻る。従って、図示されている実施形態では、浄化残余水は、第1熱交換器207と第2スクラバ202との間の位置で第2処理ループ200に戻る。しかしながら、残余水は他の位置で第2スクラバループ200に戻ってもよいということが理解されるであろう。
【0074】
第2セパレータユニット603は、最も簡単な形態としては、沈降技術に基づくセパレータとすることができる。しかしながら、他のセパレータ技術も使用可能であるということが理解されるであろう。
【0075】
洗浄システム1において水洗浄装置600を使用することにより、高濃度の塩のために水を排出する必要がなくなり、むしろ塩の沈殿物の形成が制御可能となり、この塩の沈殿物は第2セパレータユニットにより除去することができる。
【0076】
このように、図1に図示された洗浄システムでは、第1セパレータユニット110に第1スクラバ処理ループ100から水が供給され、第1セパレータユニット110により、汚水が粒子状物質を含むスラッジと残余水とに分離される。この残余水は、バルブ114を通して排出されてもよく、塩の沈殿物と浄化残余水とに分離するために水洗浄装置600へ供給されてもよい。
【0077】
第2スクラバ202へ供給される水の好ましい温度は、エンジン104からの排ガス中の水蒸気量、ひいては周囲湿度、エンジン燃料に依存し、同様に、もし存在する場合は(図示せず)エンジン掃気冷却器にも依存する。排ガス中に水蒸気が僅かしかない場合、第2スクラバ中でできる限り大量の水を凝縮させることにより、別の場所で生産された水を「補給」しなくてもよくするために、高程度の冷却が必要となり、このため比較的低温の水が必要となる。このような「補給」用の水は通常、生産にコストが掛かり、また、船上では限られた量しか入手できないものである。高程度に冷却する必要がある場合、及び、低温側で海水を用いて稼働している第1熱交換器207が利用される場合、第2スクラバ202へ供給される水は、周囲の海水の温度にできる限り近い温度まで冷却されることが好ましい。この温度は、通常、周囲の海水の温度よりも2〜6℃高いものとなる。周囲湿度が高く、海水の温度が低いという別の状況では、凝縮によって第2スクラバ中に過剰量の水が生じるのを避けるために、冷却を制限することが必要となる場合がある。このような過剰量の水は、最終的に洗浄して排出することが必要となるためである。従って、第2スクラバ202へ供給される水は、好ましくは、洗浄システム1全体により全体として正味の水の消費も生成も起こらないような温度まで冷却される。
【0078】
船舶の航海条件の変化のため、一定期間第2スクラバ中で過剰な水を生じさせ、次いで、後日十分な冷却が得られずそのために十分量の水が生じない場合に使用するために、第1水循環タンク及び第2水循環タンク、又はその他の場所にこのような過剰な水を蓄積しておくことが有益な場合がある。
【0079】
本発明により、第1スクラバ処理ループを低pH値で稼働させることが可能になる。例えば、第1スクラバ102の第2入口108で測定する場合において、pH値が6.5で維持されると、閉ループ式の湿式スクラバについて当該技術分野で通常とされる、7を上回るpH値で第1スクラバ処理ループを稼働させる場合と比較して、ナトリウムと硫黄との反応モル比が低下し、ひいてはスクラバの運転費用も低減され得る。極端な一例として、pH値を2未満まで低下させてもよい。この状況下では、硫黄分は、硫酸ナトリウムではなく硫酸水素ナトリウムとして捕らえられる(bound)ことになる。その結果、ナトリウムと硫黄との反応比が通常の2:1ではなく1:1となり、運転費用が通常レベルのたった半分となる。
【0080】
十分な酸素が存在している場合、吸収された硫黄は、以下の反応に従って完全に酸化されると予想される:
2SO(g)+O(g)+4NaOH(aq)→2NaSO(aq)+2HO(l)
(pH>1.99)
2SO(g)+O(g)+2NaOH(aq)→2NaHSO(aq)
(pH<1.99)
【0081】
硫酸の第2酸解離定数(second acid constant)が1.99であるため、硫黄酸化物は、硫酸塩(SO2−)ではなく、主に重硫酸塩(HSO1−)として水中に現れることになる。
【0082】
上述の連絡路はすべて、適切な配管を備え得る。
【0083】
数々のスクラバが利用可能であり、本発明は開示された第1スクラバ及び第2スクラバの例に限定されるべきものではないということが理解されるであろう。
【0084】
一実施形態では、凝固剤供給用装置(図示せず)が第1水循環タンク101と第1セパレータユニット110との間の位置に配置されてもよい。凝固剤は、通常アルミニウムや鉄等の3価金属イオンの形態である。凝固剤によって粒子状物質が金属塩に結合した化学物質が形成されるため、これにより第1セパレータユニット110のパフォーマンスを向上させるために当該凝固剤が使用され得る。このような化学物質は、「自由」な粒子状物質に比べて重く、第1セパレータユニット110による分離がより容易である。
【0085】
また、上述の態様の代わりに、またはこれに加えて、本発明は油燃焼式バーナー又はボイラーからの燃焼排ガスを洗浄するために使用されてもよいということが強調されるべきである。
【0086】
上述された本発明の実施形態の変形例は、添付の特許請求の範囲内で多数考えられるということが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0087】
1 洗浄システム
100 第1スクラバ処理ループ
101 第1水循環タンク
102 第1スクラバ
104 内燃機関、エンジン
109、213 ノズル
110 第1セパレータユニット
113 スラッジタンク
200 第2スクラバ処理ループ
201 第2水循環タンク
202 第2スクラバ
207 第1熱交換器
209 浄化排ガス出口
210 アルカリ剤タンク
230 アルカリ剤供給用装置
300、300’、400、605、610 連絡路
500 デミスタ
600 水洗浄装置
601 第2熱交換器
602 保持タンク
603 第2セパレータユニット
604 回収タンク
図1