特許第6189983号(P6189983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189983抗真菌性重合骨セメントおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189983
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】抗真菌性重合骨セメントおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/04 20060101AFI20170821BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20170821BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20170821BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20170821BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20170821BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20170821BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61L24/04 100
   A61L24/00 200
   A61L24/00 310
   A61L24/00 210
   A61L27/16
   A61L27/26
   A61L27/44
   A61L27/50
   A61L27/54
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-23110(P2016-23110)
(22)【出願日】2016年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-165451(P2016-165451A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2016年4月15日
(31)【優先権主張番号】10 2015 102 210.9
(32)【優先日】2015年2月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510340506
【氏名又は名称】ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】フォクト セバスティアン
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037252(JP,A)
【文献】 特表2006−504716(JP,A)
【文献】 特開2006−225384(JP,A)
【文献】 特開昭64−043261(JP,A)
【文献】 特開昭53−066414(JP,A)
【文献】 特開平08−103491(JP,A)
【文献】 特表2001−503290(JP,A)
【文献】 特開2009−101159(JP,A)
【文献】 特開2014−097378(JP,A)
【文献】 Colloids and Surfaces B: Biointerfaces,2013年,107,p.160-166
【文献】 Clin Orthop Relat Res.,2002年,403,p.228-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72,47/00−47/69,
A61L24/00−24/12,27/00−27/60,
A61P1/00−43/00
CAplus(STN),
REGISTRY(STN),
MEDLINE(STN),
EMBASE(STN),
BIOSIS(STN),
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(ii)(i)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(iii)少なくとも1種の重合開始剤と、
(iv)少なくとも1種の放射線不透過剤と、
を含む重合骨セメントであって、
前記骨セメントは、アミノ官能性可溶化剤および少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含む少なくとも2種の可溶化剤から構成される化合物中に少なくとも1種の抗真菌薬を含むことを特徴とする、骨セメント。
【請求項2】
前記骨セメントは2つの成分AおよびBを含み、
(i)成分Aはペーストとして存在し、
(a1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(a2)(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(a3)少なくとも1種の重合開始剤と
を含み、かつ
成分Bはペーストとして存在し、
(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(b2)(i)、(b1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(b3)少なくとも1種の重合促進剤と
を含むか、または
(ii)成分Aは粉末として存在し、
(a1)少なくとも1種の粉末ポリアクリレートと、
(a2)少なくとも1種の粉末放射線不透過剤と、
(a3)少なくとも1種の重合開始剤と
を含み、かつ
成分Bは液体もしくはペーストとして存在し、
(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(b2)(ii)、(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(b3)少なくとも1種の重合促進剤と
を含み、
少なくとも成分Aおよび/または成分Bは、(a4)および/または(b4)として、少なくとも1種の可溶化剤とともに少なくとも1種の抗真菌薬を含むことを特徴とする、請求項1に記載の骨セメント。
【請求項3】
前記抗真菌薬はアンホテリシンBであることを特徴とする、請求項1または2に記載の骨セメント。
【請求項4】
前記抗真菌薬は、少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤を有する混合物中に存在し、
前記アミノ官能性可溶化剤は、アミノ官能性多糖、アミノ官能性多糖のN−アルキル官能性誘導体またはN−アセチル官能性誘導体、アミノデオキシ糖、アミノデオキシ糖アルコール、1−メチルアミノ−1−デオキシ糖、1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコール、2−デオキシ−2−アミノ糖、2−デオキシ−2−アミノ糖アルコール、グリコシルアミン、アミノコレステロール、N−アルキル置換アミノコレステロールもしくはN−アセチル置換アミノコレステロールおよび/またはα−アミノポリエーテル、α、ω−アミノポリエーテル、ならびに上記の可溶化剤の誘導体を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の骨セメント。
【請求項5】
前記抗真菌薬は、可溶化剤として少なくとも1種のカルボン酸を有する混合物中に存在し、前記可溶化剤は、アルキル残基および/またはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の骨セメント。
【請求項6】
前記カルボン酸は、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸/イコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸を含むことを特徴とする、請求項5に記載の骨セメント。
【請求項7】
前記抗真菌薬はアンホテリシンBであり、少なくとも1種のアミノ官能性多糖、アミノコレステロール、アミノポリエーテル、またはこれらの誘導体と、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸とを含む可溶化剤から構成される化合物中に存在することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の骨セメント。
【請求項8】
前記抗真菌薬は、1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールおよび少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸によって少なくとも部分的に被覆されたことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の骨セメント。
【請求項9】
前記抗真菌薬は、N−メチル−D−グルカミン(メグルミン)および少なくとも1種の少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸により被覆されたアンホテリシンBであることを特徴とする、請求項8に記載の骨セメント。
【請求項10】
(i)前記モノマーは、各々が独立してアルキル基内に1〜20個のC原子を有し、各々が独立してアリール基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアリールアルキル基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアルキルエステル基内に1〜10個のC原子を有する、少なくとも1種のアルキル−2−アクリル酸アルキルエステル、アリール−2−アクリル酸アルキルエステル、アリールアルキル−2−アクリル酸アルキルエステル、または前記モノマーのうち少なくとも2つを含む混合物から選択され、かつ/または
(ii)有機ポリマーは、各々が独立してアルキル基内に1〜20個のC原子を有し、各々が独立してアリール基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアリールアルキル基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアルキルエステル基内に1〜10個のC原子を有する、少なくとも1種のポリ(アルキル−2−アクリル酸アルキルエステル)、ポリ(アリール−2−アクリル酸アルキルエステル)、ポリ(アリールアルキル−2−アクリル酸アルキルエステル)、または前記ポリマーのうち少なくとも2つを含む混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の骨セメント。
【請求項11】
アミノ官能性可溶化剤および少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含む少なくとも2種の可溶化剤またはアミノ官能性可溶化剤および少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含む可溶化剤から構成される化合物を抗真菌薬と混合するステップによる請求項1〜10のいずれか一項に記載の骨セメントの製造方法。
【請求項12】
(I)少なくとも1種もしくは2種の可溶化剤または可溶化剤の化合物は溶解され、抗真菌薬は溶解された化合物に添加されるか、または
(ii)機械的エネルギーの作用を使用し、
a)少なくとも1種もしくは2種の可溶化剤または可溶化剤の化合物を抗真菌薬と混合するか、または
b)少なくとも2種の可溶化剤および任意に抗真菌薬を第1のステップb.1)で混合するか、またはb.2)可溶化剤の化合物を抗真菌薬と混合し、前記抗真菌薬はその後機械的エネルギーの作用によってb.1)の混合物と混合されることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記可溶化剤は、少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤ならびにアルキル残基および/またはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
(i)a)少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤ならびにアルキル残基および/もしくはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸が溶解され、アンホテリシンBは抗真菌薬として溶解された化合物に添加され、
b)アンホテリシンBを含む溶解された混合物を冷却し、任意に、機械的エネルギーの作用により粉状化させるか、または
(ii)機械的エネルギーの作用を使用し、
a)少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤と、アルキル残基および/またはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を混合し、
− アンホテリシンBを得られた前記混合により得られた化合物に添加し、機械的エネルギーの作用により混合するか、または
b)少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤と、アルキル残基および/またはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸と、アンホテリシンBとを混合することを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
真菌症の治療および/または予防に使用するための組成物であって、
前記組成物は、
(i)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(ii)(i)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(iii)少なくとも1種の重合開始剤および少なくとも1種の抗真菌薬と、
(iv)放射線不透過剤と、
(v)任意に、少なくとも1種の重合促進剤と
を含み、
前記抗真菌薬は、アミノ官能化可溶化剤および少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含む少なくとも2種の可溶化剤から構成される化合物中に存在することを特徴とする、組成物。
【請求項16】
重合骨セメント製造のためのキットであって、
前記キットは成分AおよびBを含み、
(i)成分Aはペーストとして存在し、
(a1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(a2)(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(a3)少なくとも1種の重合開始剤と
を含み、かつ
成分Bはペーストとして存在し、
(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(b2)(i)、(b1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(b3)少なくとも1種の重合促進剤と
を含むか、または
(ii)成分Aは粉末として存在し、
(a1)少なくとも1種の粉末ポリアクリレートと、
(a2)少なくとも1種の粉末放射線不透過剤と、
(a3)少なくとも1種の重合開始剤と
を含み、かつ
成分Bは液体もしくはペーストとして存在し、
(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(b2)(ii)、(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(b3)少なくとも1種の重合促進剤と
を含み、
少なくとも成分Aおよび/または成分Bは、(a4)および/または(b4)として、少なくとも1種の抗真菌薬、ならびにアミノ官能性可溶化剤および少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含む少なくとも2種の可溶化剤から構成される化合物を含むことを特徴とする、キット。
【請求項17】
請求項2または請求項16に記載の成分AおよびBを混合するステップにより得られる重合骨セメント。
【請求項18】
前記抗真菌薬は水分、水、水性環境または水溶液の存在下で放出されることを特徴とする、請求項2、16または17に記載の成分AおよびBを混合するステップにより得られる真菌症の治療および/または予防のための重合され硬化された骨セメント。
【請求項19】
請求項17に記載の前記骨セメントを成形し重合することによって得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリメチルメタクリレート等の有機ポリマーをベースとする抗真菌効果を有する骨セメントについて記載する。骨セメントは、水または体液等の水性媒体の存在下で重合された骨セメントから放出される抗真菌薬、特にアンホテリシンBを含む。一代替物によると、抗真菌薬は微粒子形態にて存在し、少なくとも1種の1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールと少なくとも1種の脂肪酸との混合物によって少なくとも部分的に被覆されている。加えて、アンホテリシンB粒子等の抗真菌薬と、1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールと、少なくとも1種の脂肪酸とを含む混合物の製造方法が提案される。好ましくは、抗真菌薬は1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールおよび少なくとも1種の脂肪酸によって少なくとも部分的に被覆されている。本発明の目的は、菌類グループ、特に酵母およびアスペルギルス属由来の病原微生物が原因物質である感染性再置換術(septic revision)領域における再置換関節エンドプロテーゼの機械的係留を対象とした抗真菌性骨セメントである。加えて、抗生物質ポリメチルメタクリレート骨セメントは、二期的感染性再置換術の一時的なプレースホルダであるスペーサの製造にも打ってつけである。
【背景技術】
【0002】
関節エンドプロテーゼは、患者の運動能を維持するために広範囲の関節疾患に広範にかつ非常に成功裏に使用されている。免疫系が弱まった患者、例えば、HIV感染している、臓器移植後、および癌疾患のある患者は菌類グループ由来の微生物により関節エンドプロテーゼが感染しやすくなりうる。これらの疾患は極めて稀であり、また治療が非常に難しい。
【0003】
病原菌が原因物質である感染性再置換術では、これらの感染症を治療するために関節エンドプロテーゼの一期的置換術および二期的置換術が行われる。抗生物質または2種以上の抗生物質を含有する再置換ポリメチルメタクリレート骨セメントは、再置換関節エンドプロテーゼの永久的な機械的固定に好都合であることが分かっている。該抗生物質は、少なくとも手術直後に再置換関節エンドプロテーゼならびにその周囲の骨組織および軟組織を新たな微生物のコロニー形成から保護する。医師により個人に合わせて混合された抗生物質の他に、工業的に製造された再置換ポリメチルメタクリレート骨セメントが好都合であると分かっている。
【0004】
菌類が関節エンドプロテーゼの感染原因物質である稀な事例では、滲出液および血液等の体液に曝露された際に有効量の抗真菌薬が放出される工業的に製造される均質な再置換ポリメチルメタクリレート骨セメントは未だ利用可能ではない。このため、これまでは臨床用途で一般的な抗真菌薬を通常のポリメチルメタクリレート骨セメント粉末に混合していた。関連する問題の1つは、一般的な抗真菌薬、例えば、トリアゾール系抗真菌薬の大半は水にはほとんど溶けず、人体においては高いタンパク結合率を示すことである。このため、疎水性ポリメチルメタクリレート骨セメントに一般的な抗真菌薬の溶解は困難であり、真菌薬の抗真菌効果を有する量が実際に放出されたかどうかが不確かである。
【0005】
抗真菌薬アンホテリシンB(CAS1397−89−3)は、ストレプトミセス菌株であるストレプトミセスノドスム(Streptomyces nodosum)から単離されたポリエンマクロラクトンである。これは、菌類に特有のステロイド、エルゴステリンに結合し、菌類の細胞膜の構成要素である。アンホテリシンBの殺真菌効果は、細胞膜のカリウムイオン透過性の増加に関係している(非特許文献1)。アンホテリシンBが、ヒトに対して病原となるカンジダ種を含む幅広い菌類に対する非常に広範な抗真菌効果を有することは特に有利である。アンホテリシンBはpH範囲6〜7の水中で不十分にしか可溶性でない。したがって、人体でのアンホテリシンBの全身使用に関しては、少なくとも部分的に水溶性である製剤を製造しようと試みられている。脂質とのアンホテリシンBエマルジョンがこの目的で開発された(特許文献1)。また、二ナトリウムデオキシコレート(非特許文献2)およびナトリウムコレステリルサルフェート(特許文献2)との付加物が知られている。これらのエマルジョンおよび付加物は、水または有機溶媒中に溶解しているアンホテリシンBを使用して製造される。これらの溶媒に頼ったプロセスは材料も時間も非常にかかる。
【0006】
特許文献3は、骨インプラントとして使用されるリン酸三カルシウム骨セラミック材料の製造方法について開示しており、当該方法ではセラミック材料が焼成プロセス後に作用物質を含有する溶液で処理され、その後乾燥される。特許文献4は、医薬品を含浸させたヒドロゲルでコーティングされた整形外科用固定具について開示している。ヒドロゲルは水の存在下で膨張する。作用物質は予め作製されたセラミックインプラントにだけ、しかもインプラントの表面にのみ含浸されうることがこれら2つの出願の不利点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第0317120号
【特許文献2】欧州特許第0303683号
【特許文献3】独国特許出願公開第133016A1号
【特許文献4】欧州特許第0642363B1号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Baginski, J.Czub:Amphotericin B and Its New Derivatives−Mode of Action.Current Drug Metabolism 10(5)(2009年)459〜69ページ
【非特許文献2】Barnerら, Antibiotics Annual 1957〜1958年:53〜58ページ
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリメチルメタクリレート骨セメント等の有機ポリマーおよびモノマーをベースにした抗真菌効果を有する骨セメントを開発することが本発明の一目的であった。本目的はさらに、水性液体に曝露された際に重合された骨セメントから放出される、抗真菌的に有効量の抗真菌薬、好ましくはアンホテリシンBからなる。さらに、その構造を変化させずに上記の目的に抗真菌薬の水溶性を適合させることも目的であった。さらに、水適合性(water suitability)を増加させるために使用される添加剤は安価であるべきである。さらに、抗真菌薬、好ましくはアンホテリシンBがその水溶性を改善するために、溶媒等のさらなる不純物の使用を伴うことなく少なくとも1種の添加剤によって改質できる簡単かつ安価な方法が開発されるべきである。
【0010】
本発明の目的は、請求項1に従って、また請求項10に記載の方法および請求項16に記載のキットならびにそれらの使用により達成される。有利な実施形態は下位クレームに提示され、本明細書で詳細に説明される。
【0011】
本発明の目的は、メチルメタクリレート、少なくとも1種のポリメチルメタクリレートまたはポリメチルメタクリレートコポリマー、少なくとも1種のラジカル反応開始剤、少なくとも1種の促進剤、および少なくとも1種の放射線不透過剤(radiopaquer)を含む抗真菌性ポリメチルメタクリレート骨セメントであり、一代替物においては、これらの成分は、粉末成分および液体モノマー成分中、または室温でペースト状の2種の成分中に存在しうる。本発明によれば、骨セメントは、アンホテリシンBを含有する粒子を含み、アンホテリシンBは、少なくとも1種の1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールと少なくとも1種の脂肪酸との混合物によって少なくとも部分的に被覆されている。
【0012】
驚くべきことに、アンホテリシンB、より詳細には1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールと脂肪酸との混合物で完全にまたは部分的に被覆されたアンホテリシンB粒子を含有するポリメチルメタクリレート骨セメントは、水溶液の存在下で抗真菌的に有効量のアンホテリシンBを放出することが見出された。
【0013】
本発明の目的は、
(i)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマー、特に液体モノマーと、
(ii)(i)、特に少なくとも1種のポリメタクリレートまたは1種のポリメタクリレートコポリマーに可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(iii)少なくとも1種の重合開始剤および少なくとも1種の抗真菌薬と、
(iv)任意に、少なくとも1種の放射線不透過剤と、
(v)少なくとも1種の重合促進剤とを含み、抗真菌薬、好ましくはアンホテリシンBは、少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤と少なくとも1種の炭酸との混合物中に存在する、重合骨セメントである。
【0014】
本発明による骨セメントは、抗真菌薬が重合骨セメントマトリックスおよび硬化された骨セメントマトリックスの両方に分散し、好ましくはほぼ均一に分散するように存在するという点で有利である。適用後に重合されるかまたは外科用インプラントもしくはその一部に加工可能な、加工可能骨セメントの形態で提供されることが、本発明による骨セメントの不可欠な利点である。
【0015】
特に好ましい実施形態によると、骨セメントは2K系として存在することができる。2K系では、骨セメントはペースト/ペースト成分、粉末/ペースト成分、および/または粉末/液体成分として存在することができる。2つの成分は、重合骨セメントを製造するために互いと混合され、加工できる。本発明による骨セメントは、簡単で経済的な方法で使用され、骨セメントのいかなる応用分野も抗真菌剤用途に広げることができる。
【0016】
したがって、特に好ましい実施形態によると、本発明の目的は2つの成分、特に互いと別個に存在する成分、好ましくは成分Aおよび成分Bを含む骨セメントであって、
(i)成分Aはペーストとして存在し、(a1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、(a2)(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、(a3)少なくとも1種の重合開始剤とを含み、かつ
成分Bはペーストとして存在し、(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、(b2)(i)、(b1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、(b3)少なくとも1種の重合促進剤とを含むか、または
(ii)成分Aは粉末として存在し、(a1)少なくとも1種の粉末ポリアクリレートと、(a2)少なくとも1種の粉末放射線不透過剤と、(a3)少なくとも1種の重合開始剤とを含み、かつ
成分Bは液体もしくはペーストとして存在し、(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、(b2)任意に、(ii)、(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、(b3)少なくとも1種の重合促進剤とを含み、少なくとも成分Aおよび/または成分Bは、(a4)および/または(b4)として少なくとも1種の抗真菌薬、特にアミノ官能性可溶化剤および炭酸を含む少なくとも2種の可溶化剤とともに1種の抗真菌薬を含む、骨セメントである。
【0017】
本文脈中では、抗真菌薬および可溶化剤は微粒子混合物として存在することが特に好ましい。理論的な考慮事項によって限定されることは意図しないが、可溶化剤が抗真菌薬を被覆すると推定されている。特に好ましくは、可溶化剤はアミノ官能性多糖、アミノ官能性ポリオール、アミノ官能性ポリエーテル、および/またはそれらの誘導体、ならびにカルボン酸から選択される。好ましくは、親水性アミノ官能性可溶化剤および親油性カルボン酸は可溶化剤混合物中の可溶化剤として一緒に使用される。
【0018】
2つの可溶化剤は水溶液、特に体液に可溶性の酸−塩基付加物を形成することが好ましい。
【0019】
また、理論的な考慮事項によって限定されることは意図しないが、可溶化剤は抗真菌薬、特にアンホテリシンBを被覆または取り囲むことができ、これにより、好ましくは水溶性が不十分な抗真菌薬の一種のマスキングおよび/または錯化が起こると推定される。
【0020】
作用物質アンホテリシンBはCAS番号1397−89−3を有し、3−(4−アミノ−3,5−ジヒドロキシ−6−メチルオキサン−2−イル)オキシ−19,25,27,30,31,33,35,37−オクタヒドロキシ−18,20,21−トリメチル−23−オキソ−22,39−ジオキサビシクロ[33.3.1]ノナトリアコンタ−4,6,8,10,12,14,16−ヘプタエン−38−カルボン酸とも称される。
【0021】
可溶化剤の目的は、水性媒体への可溶性が不十分な抗真菌薬を水相中に移動させることである。親水性アミノ官能性可溶化剤と、第2の可溶化剤として親水性アルキルおよび/またはアリール官能性カルボン酸とを含む少なくとも2種の可溶化剤の混合物は特に水性媒体の存在下で重合された骨セメントから抗真菌薬を十分に放出できることが明らかになっている。さらに、抗真菌薬および可溶化剤を含む該混合物は非硬化骨セメント中で均一に分散されうる。別の利点は、該混合物は溶媒を必要とすることなく製造できるという点である。
【0022】
さらに、抗真菌薬を少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤、特に、親水性アミノ官能性可溶化剤を有する混合物中に存在させることが好ましい。本文脈中、可溶化剤は、アミノ官能性多糖、アミノ官能性多糖のN−アルキル官能性誘導体またはN−アセチル官能性誘導体、特に、キトサン、アミノデオキシ糖、アミノデオキシ糖アルコール、1−メチルアミノ−1−デオキシ糖、1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコール、例えば、N−メチルグルカミン、2−デオキシ−2−アミノ糖、2−デオキシ−2−アミノ糖アルコール、グリコシルアミン、アミノコレステロール、例えば、3−アミノコレステロールまたはそのアルキル誘導体もしくはアセチル誘導体、N−アルキル置換アミノコレステロールもしくはN−アセチル置換アミノコレステロールおよび/または(アミノポリエーテル)α−アミノポリエーテル、α、ω−アミノポリエーテル、ならびに上記の可溶化剤の誘導体を含むことができる。N−アルキルポリオール、N−アセチルポリオール、N−アルキルポリエーテル、N−アセチルポリエーテルも好ましい。N−アルキルアミノ糖、N−アセチルアミノ糖、N−アルキルアミノ糖アルコール、N−アセチルアミノ糖アルコール(非環式ポリオール)が特に好ましく、1−デオキシ−1−メチルアミノ糖、1−デオキシ−1−メチルアミノソルビトール(N−メチル−D−グルカミン)、2−デオキシ−2−アミノ糖、2−デオキシ−2−アミノ−D−ガラクトース、およびN−アルキル官能性2−デオキシ−2−アミノ糖、N−アセチル官能性2−デオキシ−2−アミノ糖、N−アルキル官能性D−グルコサミン、N−アルキルガラクトサミン、N−アセチル官能性D−グルコサミン、N−アルキルガラクトサム(N−alkyl−galactosam)もまた好ましい。
【0023】
本発明によれば、N−メチル−D−グルカミン(1−デオキシ−1−メチルアミノソルビトール、CAS6284−40−8)は1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールとして好ましい。炭素原子1においてメチルアミンにより置換可能であり、その後水素添加できる任意のアルドースが1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールの製造用として考えられる。アロース、アルトロース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、エリトロース、およびトレオースが本文脈中ではアルドースとして好ましい。このことは別にして、原理として、ケトンおよびメチルアミンの水素添加転化生成物を使用することが可能である。
【0024】
さらに、抗真菌薬を可溶化剤として少なくとも1種のカルボン酸、特に、親油性カルボン酸を有する混合物中に存在させることが好ましい。可溶化剤は好ましくは、アルキル残基および/またはアリール残基を有するカルボン酸を含み、カルボン酸は、少なくとも8個のC原子を含み、好ましくは偶数個のC原子を有する。本文脈中、8〜50個、好ましくは8〜24個のC原子が特に好ましく、アルカンモノカルボン酸も好ましく、飽和脂肪酸が特に好ましい。ここで明記した特に好ましいカルボン酸としては、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸/イコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸が挙げられるが、カルボン酸は上記のものに限定されない。アリール官能性カルボン酸、例えば、安息香酸、フェニル酢酸、またはその他の薬理学的カルボン酸もまた、好都合なことに可溶化剤としても使用可能である。
【0025】
生物学的分解を受けやすいため、偶数個の炭素原子を有する飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、およびラウリン酸が特に好ましい。加えて、アミノ官能性可溶化剤と固体を形成するのであれば、室温で溶解可能であるかまたは液体である他の脂肪酸を使用することもまた可能である。
【0026】
本発明によれば、抗真菌薬はアンホテリシンBであり、少なくとも1種のアミノ官能性多糖、アミノコレステロール、アミノポリエーテル、またはこれらの誘導体と、少なくとも1種のカルボン酸とを含む可溶化剤を有する混合物中に存在することが特に好ましい。好ましくは、抗真菌薬、好ましくはアンホテリシンBは1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールおよび少なくとも1種の脂肪酸によって被覆され、N−メチル−D−グルカミンおよび少なくとも1種の脂肪酸により被覆されたアンホテリシンBが特に好ましい。
【0027】
特に好ましい抗真菌薬、特にアンホテリシンB対脂肪酸対1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールの重量比は、1.0:1.0:1.5〜1.0:6.0:6.0であると分かっており、アンホテリシンB対脂肪酸対1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールの重量比は好ましくは1.0:1.7:1.7である。
【0028】
さらに、抗真菌薬はアンホテリシンBであり、少なくとも1種のアミノ官能性多糖、アミノコレステロール、アミノポリエーテル、またはこれらの誘導体と、少なくとも1種のカルボン酸とを含む可溶化剤の混合物中に存在し、アミノ官能性可溶化剤対カルボン酸の重量比は1:5:1.0〜1.0:1.0であることが好ましくなりうる。あるいは、アミノ官能性可溶化剤対カルボン酸のモル比は1.5:1.0〜1.0:1.0、特に好ましくは1.0:1.7:1.7である。
【0029】
さらに、抗真菌薬、特にアンホテリシンB対アミノ官能性可溶化剤対カルボン酸の重量比は、1.0:1.5:1.0〜1.0:6.0:6.0、特におよそ1.0:1.7:1.7であることが好ましい。一代替物によれば、抗真菌薬、特にアンホテリシンB対アミノ官能性可溶化剤対カルボン酸のモル比は、1.0:1.5:1.0〜1.0:6.0:6.0であり、およそ1.0:1.7:1.7の比が特に好ましい。本文脈中、重量比およびモル比の両方はそれぞれ±0.25〜±0.5だけずれてもよい。
【0030】
本発明の別の主題は、アミノ官能性可溶化剤および炭酸を含む少なくとも1種もしくは2種の可溶化剤またはアミノ官能性可溶化剤および炭酸を含む可溶化剤の混合物を抗真菌薬と混合することによる、重合骨セメントを製造するための中間生成物の製造方法、ならびに該方法により得ることができる中間生成物である。本文脈中、溶媒がない状態で、またはさらなる添加なしで混合を進めることが特に好ましい。好ましくは、微粒子中間生成物は該方法に従って得ることができる。中間生成物の粒径は好ましくは250μm、特に100nm〜250μm、好ましくは50〜250μmの範囲である。
【0031】
したがって、本発明の別の目的は、少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤、ならびにアルキル残基および/またはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を含み、任意に、好ましくは抗真菌薬を含む中間生成物、特に微粒子中間生成物である。
【0032】
特に好ましい代替物によれば、本方法は(i)少なくとも1種もしくは2種の可溶化剤または可溶化剤の混合物を溶解させて、抗真菌薬を溶解混合物に添加するステップ、または
(ii)機械的エネルギーの作用を使用して、a)少なくとも1種もしくは2種の可溶化剤または可溶化剤の混合物と抗真菌薬を混合、特に、トライボ化学的に粉砕するステップにより行われる。好ましくは、アミノ官能性可溶化剤およびカルボン酸は超分子構造を形成する。別の代替物b)によると、少なくとも2種の可溶化剤と任意に抗真菌薬とを第1のステップb.1)で混合できるか、またはb.2)可溶化剤の混合物と抗真菌薬を混合することができ、特にトライボ化学的に粉砕できる。好ましくは、アミノ官能性可溶化剤およびカルボン酸は超分子構造を形成し、抗真菌薬はその後機械的エネルギーの作用によってb.1)の混合物と混合される。
【0033】
混合物の調製は任意の順序で進めることができるが、最初に可溶化剤を互いに混合し、その後抗真菌薬を該混合物に添加し、混合物を再度混合することが好ましい。
【0034】
本発明による方法は、完全に溶媒の使用なしで済ませるため特に環境に優しい方法である。さらに、本発明による方法は特に経済的である。溶解物である場合、得られた混合物は冷却され、粉状化される。粉状化は機械的に、例えば、粉砕、破砕、切断等により進めることができる。同様にして、ウォームメルトまたは冷却メルトが押し出すことができる。その後、混合物を重合骨セメントの通常の組成物中に組み込む。
【0035】
このようにして製造される重合骨セメント、特に本方法に従って得られる重合骨セメントは可溶化剤の具体的な選択により生理学的に許容範囲内であり、重合された骨セメントからの抗真菌薬の後の放出、特に遅延放出を可能にする。
【0036】
本方法に使用される可溶化剤は好ましくは、少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤と、アルキル残基および/またはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸とを含む。特に好ましい本方法の変形によれば、製造は、(i)a)少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤、ならびに/またはアルキル残基および/もしくはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を溶解させ、抗真菌薬としてアンホテリシンBを溶解混合物に添加することにより実施される。後のステップにおいて、得られた溶解物を冷却し、凝固した溶解物を粉状化するか、または展性溶解物が押し出される。あるいは、b)アンホテリシンBを含む溶解混合物を冷却し、任意に、機械的エネルギーの作用により粉状化させ、かつ/または粉砕することができる。
【0037】
さらなる好ましい代替物によれば、混合物は機械的エネルギーの作用、例えば、トライボ化学処理により生成できる。これは例えば、ボールミルで混合物を生成することにより実施できる。フリッチュ(Fritsch)によって製造されたプルヴァリセッテ7(Pulverisette 7)が好ましいボールミルである。
【0038】
したがって、中間生成物は、
a)少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤と、アルキル残基および/もしくはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を混合し、
− アンホテリシンBを得られた混合物に添加し、機械的エネルギーの作用により混合するステップ、または
b)少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤と、アルキル残基および/もしくはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸と、アンホテリシンBとを混合するステップ、または
c)少なくとも1種のアミノ官能性可溶化剤、またはアルキル残基および/もしくはアリール残基を有し、少なくとも8個のC原子を含む少なくとも1種のカルボン酸を、アンホテリシンBと混合し、第1のステップで添加されない可溶化剤は後で混合物に添加され、次に再度混合するステップ
による(ii)機械的エネルギーの作用により生成することができる。
【0039】
したがって、本発明の別の主題は、アンホテリシンB、1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコール、および脂肪酸を含む粒子の製造方法である。
【0040】
本発明による方法は好都合にも以下のようにして実施できる。1−メチルアミノ−1−デオキシ糖アルコールを100℃超の温度で溶解させること。少なくとも1種の脂肪酸を100℃超の温度で溶解物に添加し、任意に混合すること。このようにして得られた溶解物に抗真菌薬、特にアンホテリシンBを添加し、任意に混合すること。このようにして得られた溶解物を、好ましくは室温まで冷却すること。凝固した冷却溶解物を室温で粉砕し、ふるい分級物が250μm以下の粒子を形成すること。
【0041】
抗真菌薬を添加し混合するステップでは、アンホテリシンBへの熱応力が数秒から数分間しか続かないように、抗真菌薬、特にアンホテリシンBと混合した直後に溶解物をできるだけ室温近くまで冷却することが重要である。本発明による方法の特別な利点は、少なくとも部分的に被覆されたアンホテリシンB粒子は短時間で、わずかな労力で溶媒を使用せずに製造できるということである。冷却は好都合にも溶解物を液体窒素中に導入または押し出すことにより行うことができる。
【0042】
本発明の別の主題は、真菌症の治療および/または予防のために使用される組成物であり、本組成物は、
(i)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマー、特に液体モノマーと、
(ii)(i)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマー、特に少なくとも1種のポリメタクリレート、またはポリメタクリレートコポリマーと、
(iii)少なくとも1種の重合開始剤および少なくとも1種の抗真菌薬と、任意に、
(iv)少なくとも1種の放射線不透過剤と、
(v)少なくとも1種の重合促進剤とを含み、抗真菌薬は、アミノ官能性可溶化剤および炭酸を含む少なくとも1種または2種の可溶化剤を有する混合物中に存在する。
【0043】
本発明の別の主題は、互いから別個に存在する2つの成分AおよびBを含む重合骨セメントの製造のためのキットである。したがって、本発明の主題は成分AおよびBを含むキットであって、
(i)成分Aはペーストとして存在し、(a1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、(a2)(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、(a3)少なくとも1種の重合開始剤とを含み、かつ
成分Bはペーストとして存在し、(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、(b2)(i)、(b1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、(b3)少なくとも1種の重合促進剤とを含むか、または
(ii)成分Aは粉末として存在し、(a1)少なくとも1種の粉末ポリアクリレートと、(a2)少なくとも1種の粉末放射線不透過剤と、(a3)少なくとも1種の重合開始剤とを含み、かつ
成分Bは液体もしくはペーストとして存在し、(b1)ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、(b2)任意に、(ii)、(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、(b3)少なくとも1種の重合促進剤とを含み、少なくとも成分Aおよび/または成分Bは、(a4)および/または(b4)として、少なくとも1種の抗真菌薬、特に可溶化剤としてアミノ官能性の少なくとも1種の可溶化剤、好ましくはアミノ官能性ポリオールおよび/またはアミノ官能性ポリエーテルとともに1種の抗真菌薬を含む。
【0044】
好ましい実施形態によれば、以下の成分を含む骨セメントまたはキットは特許請求の範囲であり、
(i)成分Aはペーストとして存在し、
(a1)特に15〜85重量%、好ましくは22〜70重量%、より好ましくは25〜60重量%、特に好ましくは25〜50重量%のラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(a2)特に5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%の(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(a3)特に0.01〜10重量%、好ましくは0.01〜8重量%、特に好ましくは0.01〜5重量%の少なくとも1種の重合開始剤とを含み、かつ
成分Bはペーストとして存在し、
(b1)特に15〜85重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは25〜60重量%、特に好ましくは25〜50重量%のラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(b2)特に5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%の(i)、(b1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(b3)特に0.0005〜0.5重量%の少なくとも1種の重合促進剤とを含むか、または、
(ii)成分Aは粉末として存在し、
(a1)特に1〜95重量%、好ましくは15〜85重量%の少なくとも1種の粉末ポリアクリレートと、
(a2)特に3〜60重量%、好ましくは3〜30重量%の少なくとも1種の粉末放射線不透過剤と、
(a3)特に0.01〜10重量%、好ましくは0.01〜8重量%、特に好ましくは0.01〜5重量%の少なくとも1種の重合開始剤とを含み、かつ
成分Bは液体もしくはペーストとして存在し、
(b1)特に15〜85重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは25〜60重量%、特に好ましくは25〜50重量%のラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーと、
(b2)任意に、特に5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%の(ii)、(a1)に可溶性の少なくとも1種の有機ポリマーと、
(b3)特に0.0005〜0.5重量%の少なくとも1種の重合促進剤とを含み、
少なくとも成分Aおよび/または成分Bは、(a4)および/または(b4)として、少なくとも1種の抗真菌薬、特にアミノ官能性可溶化剤および炭酸を含む少なくとも2種の可溶化剤とともに1種の抗真菌薬を含む。
【0045】
好ましくは、0.01〜2.0重量%、特に0.01重量%〜1.0重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%の成分(a4)および/または(b4)は適正な配合の(perspective)成分、例えば粉末成分AまたはペーストAおよび/またはB中に存在する。本文脈中、両方のペースト中に抗真菌薬を有することが好ましい。骨セメントの全組成物中の抗真菌薬含量は好ましくは、0.001〜2.0重量%の範囲内、好ましくは0.001〜1.0重量%、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。
【0046】
これにより、粉末成分Aおよび液体AまたはペーストAをおよそ2:1〜1:2の比で混合することが好ましい。一般に、ペーストAとBとをいかなる任意の比で互いに混合してもよく、本質的に1:1の比でペーストAおよびBを使用することは、混合物生成に好ましいと分かっており、よってこの比は互いに独立して±50%変動してもよい。
【0047】
本発明の別の主題は、成分AとBとを混合することにより得ることができる重合されかつ/または硬化された骨セメントである。本発明の別の主題は、真菌症の治療および/または予防のための重合されかつ/または硬化された骨セメントであり、抗真菌薬は水分、水、水性環境、例えば、体液、または水溶液の存在下で放出され、特に抗真菌薬は遅延して放出される。本発明のさらに別の主題は、硬化(重合と同義)骨セメントを重合する際に成形することによって得ることができる成形体である。
【0048】
別の実施形態による本発明の別の主題は、一次全関節エンドプロテーゼの機械的固定のため、再置換全関節エンドプロテーゼの機械的固定のため、骨粗しょう症の骨組織の増強のため、特に好ましくは、椎体形成術、椎骨形成術、椎体形成術、骨粗しょう症の骨組織の穿孔の増強のため、骨空洞充填のため、大腿骨形成術のため、スペーサの製造のため、関節エンドプロテーゼの機械的固定のため、頭蓋骨欠損を補うため、または局所的抗生物質療法用のキャリア材料の製造のため、または薬学的活性物質の局所的放出用のキャリア材料としての外科用インプラントまたはインプラントの一部、抗真菌インプラント、再置換インプラント、スクリュ、くぎ、外科用プレートである。
【0049】
一実施形態によれば、本発明の主題は、モノマーとして、各々が独立してアルキル基内に1〜20個のC原子を有し、各々が独立してアリール基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアリールアルキル基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアルキルエステル基内に1〜10個のC原子を有する、少なくとも1種のアルキル−2−アクリル酸アルキルエステル、アリール−2−アクリル酸アルキルエステル、アリールアルキル−2−アクリル酸アルキルエステル、または該モノマーのうち少なくとも2つを含む混合物を含む骨セメントである。
【0050】
好ましくは、本発明によるペーストは、15〜85重量%、より好ましくは20〜70重量%、さらにより好ましくは25〜60重量%、特に好ましくは25〜50重量%の範囲の量のラジカル重合のためのモノマーを含有し、これらの量はそれぞれ本発明によるペーストの全重量に対する量である。
【0051】
有機ポリマーは好ましくは、各々が独立してアルキル基内に1〜20個のC原子を有し、各々が独立してアリール基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアリールアルキル基内に6〜14個のC原子を有し、各々が独立してアルキルエステル基内に1〜10個のC原子を有する、少なくとも1種のポリ(アルキル−2−アクリル酸アルキルエステル)、ポリ(アリール−2−アクリル酸アルキルエステル)、ポリ(アリールアルキル−2−アクリル酸アルキルエステル)、または該ポリマーのうち少なくとも2つを含む混合物から選択される。好ましくは、有機ポリマーは、ポリ(メタクリル酸メチルエステル)、ポリ(メタクリル酸エチルエステル)、ポリ(メチルメタクリル酸プロピルエステル)、ポリ(メタクリル酸イソプロピルエステル)、ポリ(メチルメタクリレート−コ−メチルアクリレート)、ポリ(スチレン−コ−メチルメタクリレート)、該化合物のコポリマー、および該ポリマーのうち少なくとも2つを含む混合物の群から選択される。
【0052】
本発明の別の主題は、ポリ(メタクリル酸メチルエステル)(PMMA)等の少なくとも1種の有機ポリマーおよびモノマーであるメタクリル酸メチルエステル(MMA)を含む骨セメントである。
【0053】
ラジカル重合のための少なくとも1種のモノマーに可溶性であるポリマーは、ラジカル重合のための該モノマーに少なくとも10g/l、好ましくは少なくとも25g/l、特に好ましくは少なくとも50g/l、さらにより特に好ましくは少なくとも100g/l溶解するポリマーであると理解されるべきである。重合性モノマーに可溶性であるポリマーはホモポリマーまたはコポリマーであってよい。該可溶性ポリマーは好ましくは、少なくとも150,000g/mol、特に少なくとも200,000g/molから5,000,000g/mol以下の平均(重量基準)モル質量(Mw)を有するポリマーである。可溶性ポリマーは例えば、メタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーであってよい。特に好ましい実施形態によれば、該少なくとも1種の可溶性ポリマーは、ポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルエステル(PMAE)、ポリメタクリル酸プロピルエステル(PMAP)、ポリメタクリル酸イソプロピルエステル、ポリ(メチルメタクリレート−コ−メチルアクリレート)、ポリ(スチレン−コ−メチルメタクリレート)、および該ポリマーのうち少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【0054】
本発明による骨セメント中に存在する該ラジカル重合のためのモノマーに可溶性のポリマーの量は、骨セメントの全重量に対して通常1〜85重量%の範囲内である。したがって、次のペーストA、Bおよび/または液体Bのいずれかの、ならびに粉末成分Aの有機ポリマー含有量は互いに独立して、ペースト、液体、または粉末成分の対応する全組成に対して1〜85重量%であってよい。
【0055】
好ましくは200,000g/mol以上の分子量(MW)を有するポリマー、特にポリアクリレートは粉末成分を製造するためのモノマーに可溶性であるポリマーとして使用され、500,000g/mol以上の分子量が好ましい。500,000g/mol以下の分子量を有するポリマーもまたペーストに使用することができる。本文脈中、一方で、好適な分子量は、ペースト成分または粉末成分のどちらが製造されるか、ペースト中に存在するさらなる成分、および使用されるモノマーに可溶性でなければならないポリマーにより決定される。
【0056】
本発明による骨セメントは、可溶性有機ポリマー、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)およびラジカル重合のためのモノマー、特にメタクリル酸メチルエステル以外に、全組成に対して好ましくは0.01〜0.5重量%、特に0.01〜0.25重量%、好ましくは0.02〜0.14%の濃度の微粒子無機添加剤を含む。本発明によれば、粉末成分と液体モノマー成分とを混合することにより製造される骨セメント生地は、0.02〜0.14重量%の濃度の微粒子無機添加剤を含む。上記の成分に加えて、本発明による骨セメントは、放射線不透過剤、重合開始剤および/または重合促進剤、ならびに任意に単純に増粘効果を有する添加剤以外の追加の充填剤を含む。
【0057】
微粒子無機添加剤は、発熱性二酸化ケイ素、発熱性混合金属シリコン酸化物、ベントナイト、モンモリロナイト、および該添加剤のうち少なくとも2つを含有する混合物の群から選択される。さらに、疎水性にされた発熱性二酸化ケイ素を使用することもまた可能である。疎水性二酸化ケイ素は、先行技術に従って、発熱性二酸化ケイ素をジアルキルジクロロシラン(例えば、ジメチルジクロロシラン)で処理することにより製造できる。
【0058】
本発明による骨セメント、ペースト成分、液体成分、および/または粉末成分は、少なくとも1種の重合開始剤(好ましくはラジカル重合のためのモノマーに可溶性である)と、少なくとも1種の重合促進剤(好ましくはラジカル重合のためのモノマーに可溶性である)と、適用可能であれば少なくとも1種の重合共促進剤(co−accelerator)とを、または少なくとも1種の重合開始剤と、少なくとも1種の重合促進剤と、適用可能であれば少なくとも1種の重合共促進剤とを含有しうる。
【0059】
本発明の組成物である一成分系の場合、重合開始剤は好ましくは、活性化可能な重合開始剤、例えば、ペーストとして存在する組成物中に溶解もしくは懸濁した光反応開始剤、またはペースト中に溶解もしくは懸濁した光反応開始剤系である。例えば、容器部分、投薬設備または輸送カニューレ内で、一時的にペーストと接触する反応開始剤(単数または複数)を提供することが好都合にも可能である。さらに、一成分系において、本発明による骨セメントまたはペーストは活性化可能な重合開始剤以外に導電性放射線不透過剤も含有しうる。0.5〜500μmの粒径を有するコバルト、鉄、NdFeB、SmCo、コバルト−クロム鋼鉄、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、チタン−アルミニウム−ケイ素合金、およびチタン−ニオビウム合金から構成される粒子は、本文脈において特に適切である。放射線不透過剤を加熱させる500Hz〜50kHzの範囲内の周波数の交番磁界により、該導電性放射線不透過剤に渦電流を誘導することが可能である。伝熱により反応開始剤も加熱され、熱分解が誘発される。
【0060】
重合開始剤としては特に、過酸化物およびバルビツル酸誘導体が考えられ、好ましくは少なくとも1g/l、より好ましくは少なくとも3g/l、さらにより好ましくは少なくとも5g/l、特に好ましくは少なくとも10g/lの過酸化物およびバルビツル酸誘導体は25℃の温度で重合性モノマーに溶解可能である。
【0061】
本発明によれば、過酸化物は少なくとも1つのペルオキソ基(−O−O−)を含有する化合物を意味すると理解される。過酸化物は好ましくは、遊離酸基を含まない。過酸化物は、無機過酸化物または有機過酸化物、例えば、毒性学的に許容可能なヒドロペルオキシド等でありうる。特に好ましい実施形態によれば、過酸化物は、クメンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、およびこれらのうち少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。バルビツル酸誘導体は、好ましくは1−一置換バルビツレート、5−一置換バルビツレート、1,5−二置換バルビツレート、および1,3,5−三置換バルビツレートからなる群から選択されるバルビツル酸誘導体である。本発明によるペーストの特定の改善によると、バルビツル酸誘導体は、1,5−二置換バルビツレートおよび1,3,5−三置換バルビツレートからなる群から選択される。1,5−二置換チオバルビツレートまたは1,3,5−三置換チオバルビツレートを使用することが好ましい。好ましい実施形態によれば、置換基はそれぞれ、1〜10個の炭素原子鎖を有する。特に好ましい実施形態によれば、バルビツル酸誘導体は、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツル酸、1−フェニル−5−エチルバルビツル酸、および1,3,5−トリメチルバルビツル酸からなる群から選択される。
【0062】
重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される重金属化合物が重合促進剤として好ましい。本発明において好ましい重金属化合物は、水酸化銅(II)、銅(II)メタクリレート、銅(II)アセチルアセトネート、銅(II)−2−エチルヘキサノエート、水酸化コバルト(II)、コバルト(II)−2−エチルヘキサノエート、塩基性銅(II)カーボネート、鉄(II)−2−エチルヘキサノエート、鉄(II)−2−エチルヘキサノエート、およびこれらのうち少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【0063】
別の実施形態によれば、骨セメント、または少なくとも1つのペースト成分、液体成分、もしくは粉末成分は、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、塩化リチウム、サッカリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノン−5−エン、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、ピロメリト酸ジイミド、およびこれらのうち少なくとも2つの混合物からなる群から選択される重合促進剤を含みうる。
【0064】
本発明の別の有利な改善は、重合促進剤として、重金属塩と、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、塩化リチウム、サッカリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノン−5−エン、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、およびピロメリト酸ジイミドを含む群から選択される少なくとも1つの員との組み合わせの使用を含む。本文脈中において、2つの異なる重合促進剤の組み合わせおよび3つの異なる重合促進剤の組み合わせが本発明の範囲内で開示される。
【0065】
本発明の別の有利な改善は、本発明による組成物、またはペースト成分A、B、もしくは液体成分B、もしくは粉末成分Aのいずれかは、適用可能な場合、少なくとも1種の共重合促進剤を含有し、三級アミンおよびアミジンが重合共促進剤として好ましく、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)−ノン−5−エンが特に共促進剤として好ましい。
【0066】
特にペーストの形態の本発明の骨セメントは、骨セメントの全重量に対して、またはペースト成分A、B、液体成分B、もしくは粉末成分Aのいずれかの全重量に対して、各々互いに独立して、最大10重量%の(全)量の重合開始剤、重合促進剤、重合共促進剤、または重合開始剤、重合促進剤、および重合共促進剤を含有できる。
【0067】
特にペーストの形態の本発明による骨セメント、またはペースト成分A、B、もしくは液体成分B、もしくは粉末成分Aは、上述の成分とは別にさらなる成分を含むことができる。
【0068】
本発明による骨セメントまたはペースト成分A、B、液体成分B、もしくは粉末成分Aのいずれかの好ましい実施形態によると、これらは互いに独立して少なくとも1種の放射線不透過剤を含むことができる。放射線不透過剤は当分野において一般的な放射線不透過剤であってよい。好適な放射線不透過剤はラジカル重合のためのモノマーに可溶性または不溶性であってよい。放射線不透過剤は好ましくは、金属酸化物(例えば、酸化ジルコニウム等)、硫酸バリウム、毒性学的に許容可能な重金属粒子(例えば、タンタル等)、フェライト、マグネタイト(適用可能な場合、超常磁性(supramagnetic)マグネタイトも)、および生体適合性カルシウム塩からなる群から選択される。該放射線不透過剤は好ましくは、10nm〜500μmの範囲の平均粒径を有する。さらに、考えられる放射線不透過剤としては、3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨード安息香酸のエステル、ガドリニウム化合物、例えば、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)のエステルを含むガドリニウムキレートも挙げられる。骨セメントまたはペースト成分A、B、液体成分B、もしくは粉末成分Aのいずれかにおける放射線不透過剤の濃度、特に二酸化ジルコニウムの濃度は、それぞれ互いに独立して、対応する全組成物に対して例えば、3〜30重量%の範囲内でありうる。放射線不透過剤は、本明細書において充填剤であるとは考えられない。
【0069】
さらなる好ましい実施形態によれば、本発明による骨セメントまたはペースト成分A、B、液体成分B、もしくは粉末成分Aのうち少なくとも1つは少なくとも1種の安定剤を含有することができる。安定剤は、ペースト中に含まれるラジカル重合のためのモノマーの自発的重合を防ぐのに適しているべきである。さらに、安定剤は本発明によるペースト中に含まれる他の成分との干渉相互作用を起こすべきではない。該種類の安定剤は先行技術において公知である。好ましい実施形態によると、安定剤は2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールおよび/または2,6−ジ−tert−ブチルフェノールである。
【0070】
本発明は以下で提示される実施例により説明されるが、本発明の範囲は該実施例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】実施例1の試験体を有する寒天プレート。
図2】実施例2の試験体を有する寒天プレート。
図3】実施例3の試験体を有する寒天プレート。
図4】実施例4の試験体を有する寒天プレート。
図5】実施例5の試験体を有する寒天プレート。
【発明を実施するための形態】
【0072】
被覆されたアンホテリシンB粒子の調製
実施例1の粒子
合計2.000gのN−メチルグルカミンを丸底フラスコ内に量り取った。N−メチルグルカミンを140℃の温度で撹拌しながら溶解させた。N−メチルグルカミンがすべて溶解したら、2.000gのパルミチン酸を添加し、140℃での撹拌を10分間続けた。その後、0.400gのアンホテリシンを添加し、アンホテリシンB粒子が完全に溶解物中に分散するまで撹拌した。次に、試料をすぐに室温まで冷却した。溶解物は本プロセスで凝固した。その後、溶解物を乳鉢を使用して粉末へと粉砕した。
【0073】
実施例2の粒子
合計1.000gのN−メチルグルカミンを丸底フラスコ内に量り取った。N−メチルグルカミンを140℃の温度で撹拌しながら溶解させた。N−メチルグルカミンがすべて溶解したら、1.000gのパルミチン酸を添加し、140℃での撹拌を10分間続けた。その後、0.400gのアンホテリシンを添加し、アンホテリシンB粒子が完全に溶解物中に分散するまで撹拌した。次に、試料をすぐに室温まで冷却した。溶解物は本プロセスで凝固した。その後、溶解物を乳鉢を使用して粉末へと粉砕した。
【0074】
実施例3の粒子
合計0.700gのN−メチルグルカミンを丸底フラスコ内に量り取った。N−メチルグルカミンを140℃の温度で撹拌しながら溶解させた。N−メチルグルカミンがすべて溶解したら、0.700gのパルミチン酸を添加し、140℃での撹拌を10分間続けた。その後、0.400gのアンホテリシンを添加し、アンホテリシンB粒子が完全に溶解物中に分散するまで撹拌した。次に、試料をすぐに室温まで冷却した。溶解物は本プロセスで凝固した。その後、溶解物を乳鉢を使用して粉末へと粉砕した。
【0075】
次に、事前に準備されたアンホテリシンB粒子を使用して、実施例1〜3のセメント粉末を製造した。実施例4のセメント粉末は対照であり、Palacos Rおよび純粋な添加剤から構成された。実施例5のセメント粉末は純粋なPalacos Rセメント粉末からなっていた。
【0076】
実施例1〜5のセメント粉末の組成
【表1】
【0077】
試験体の後の製造のため、実施例1〜5の各セメント粉末40.5gを20mLのモノマー液体とそれぞれ混合した。それぞれのケースのモノマー液体は18.50gのメチルメタクリレート、0.38gのN,N−ジメチル−p−トルイジン、0.002gのヒドロキノン、および微量のクロロフィリン(E241)から構成された。実施例1〜4のセメント粉末を20mLのモノマー液体とそれぞれ混合した後、可塑的に変形可能な緑色を帯びたセメント生地を約60秒後に製造し、これを使用して試験体を製造した。セメント生地は約4分後に硬化した。
【0078】
3.3mm×10.0mm×75mmサイズの細片状の試験体を、ISO5833に従って曲げ強度および曲げ弾性率を測定するために製造した。直径6mmおよび高さ10mmの円筒形の試験体を、圧縮強度測定のために製造した。ISO5833に従った曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度の測定に汎用試験装置Zwick Z010を使用した。
【0079】
【表2】
【0080】
ISO5833では50MPa超の曲げ強度、1,800MPa超の曲げ弾性率、および70MPa超の圧縮強度が要求される。実施例1〜3のアンホテリシンBおよび添加剤修飾骨セメントは、曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度に関してISO5833の要件に適合している。
【0081】
抗真菌効果の試験のために、実施例1〜5のセメントを使用して、直径20mm、高さ3mmの円筒形状試験体を製造した。抗真菌効果の試験はDIN58940−3および欧州薬局方2.7.2章と同様に行った。カンジダアルビカンスATCC10231を試験病原菌として使用した。各試料の3つ試験体をその抗真菌効果に関して並行して試験した。
【0082】
酵母を40〜48時間、35〜37℃でカゼインペプトン−大豆粉ペプトン寒天(TSA)上で2度移し替えて増殖させた。次に、病原菌を0.9%NaCl溶液5mLで洗い流し、575nmの光減衰量測定により約10cfu/mLになるよう調整した。試験毎に終濃度が約10cfuになるように、合計100μlの病原菌懸濁液をそれぞれ、42〜45℃で維持された20mLのTSA(TSA、液体)中に入れた。各試験の試料は三つ組で試験した。プレートを35〜37℃で48時間インキュベートした。その後、プレート上の対応する抑制ゾーン(=病原菌のないゾーン)をミリメートル単位で決定した。
【0083】
【表3】
【0084】
実施例1〜3のすべての試験体がはっきりと識別できる抑制ゾーンを示した。実施例5の試験体は酵母増殖の抑制を示さなかった。明らかに、Palacos Rセメントは抗真菌効果を有していない。同様に、実施例4の試験体も酵母増殖に対する抑制効果を示さなかった。これは、Palacos Rセメントと添加剤との組み合わせもまた抗真菌効果を有しないことを意味する。実施例1〜3の試験体の抗真菌効果はアンホテリシンB粒子に基づく。
【0085】
実施例1〜3のアンホテリシンB粒子と同様にして、アンホテリシンB粒子はさらに、N−メチルグルカミンとラウリン酸、N−メチルグルカミンとミリスチン酸、およびN−メチルグルカミンとステアリン酸の組み合わせを使用して調製した。該粒子は、ポリメチルメタクリレート骨セメントにおいてN−メチルグルカミンとパルミチン酸を組み合わせた粒子と同等の挙動を示した。

図1
図2
図3
図4
図5