【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 経済産業省「産業技術研究開発(三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム(次世代型産業用3Dプリンタ技術開発及び超精密三次元造形システム技術開発))」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記最適条件収集制御手段は、前記カソードと前記ウェネルト電極と前記制御電極と前記アノードとを備える電子銃のエミッション電流に基づいて、前記カソードの消耗具合を判定し、判定結果に基づいて、前記電子銃の前記バイアス電圧を変化させる微調整または前記バイアス電圧および前記制御電極電圧を変化させる再調整を実行して、前記組合せを決定することを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
前記最適条件収集制御手段は、前記エミッション電流の減少量が、所定の閾値以上である場合には、前記再調整を実行し、前記所定の閾値未満である場合には、前記微調整を実行することを特徴とする請求項2または3に記載の電子銃。
前記最適条件収集制御手段は、所望のエミッション電流を得るために、前記バイアス電圧を変更して、前記微調整を実行することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の電子銃。
前記最適条件収集制御手段は、所望のエミッション電流を得るために、前記バイアス電圧および前記制御電極電圧を変更して、前記再調整を実行することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の電子銃。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献に記載の電子銃では、エミッション電流を変化させた場合に、電子ビームの輝度の低下を防止することができなかった。
【0005】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る電子銃は、
熱電子を放出するカソードと、
前記熱電子を集束するウェネルト電極と、
前記カソードの先端から前記熱電子を引き出す制御電極と、
前記熱電子を加速して、電子ビームとして粉体に照射するアノードと、
前記ウェネルト電極に印加するバイアス電圧および前記制御電極に印加する制御電極電圧の少なくともいずれか一方を変化させることにより、前記電子ビームの輝度がピークを形成する、前記バイアス電圧と前記制御電極電圧との組合せを決定する最適条件収集制御手段と、
を備えた。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る電子銃の制御方法は、
電子銃のエミッション電流に基づいて、カソードの消耗具合を判定する判定ステップと、
前記エミッション電流の減少量が所定の閾値以上である場合には、前記電子銃のバイアス電圧および制御電極電圧
を変化させる再調整を実行する再調整ステップと、
前記エミッション電流の減少量が前記所定の閾値未満である場合には、前記電子銃の前記バイアス電圧
を変化させる微調整を実行する微調整ステップと、
を含むことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る電子銃の制御プログラムは、
電子銃のエミッション電流に基づいて、カソードの消耗具合を判定する判定ステップと、
前記エミッション電流の減少量が所定の閾値以上である場合には、前記電子銃のバイアス電圧および制御電極電圧
を変化させる再調整を実行する再調整ステップと、
前記エミッション電流の減少量が前記所定の閾値未満である場合には、前記電子銃の前記バイアス電圧
を変化させる微調整を実行する微調整ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る3次元造形装置は、
上記電子銃を用いた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エミッション電流を変化させた場合に、電子ビームの輝度の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、例示的に詳しく説明記載する。ただし、以下の実施の形態に記載されている、構成、数値、処理の流れ、機能要素などは一例に過ぎず、その変形や変更は自由であって、本発明の技術範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0013】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としての電子銃100について、
図1を用いて説明する。電子銃100は、電子ビームを供給する装置である。
【0014】
図1に示すように、電子銃100は、電子ビーム供給部101と最適条件収集制御部105とを備える。電子ビーム供給部101は、カソード111と、ウェネルト電極112と、制御電極113と、アノード114とを備える。カソード111は、熱電子を放出する。ウェネルト電極112は、熱電子を集束する。
【0015】
制御電極113は、カソード111の先端の電界強度を制御して、カソードの先端から熱電子を引き出す。アノード114は、熱電子を加速して、電子ビーム120として粉体に照射する。
【0016】
最適条件収集制御部105は、ウェネルト電極112に印加するバイアス電圧および制御電極113に印加する制御電極電圧の少なくともいずれか一方を変化させることにより、電子ビーム120の輝度がピークを形成する、バイアス電圧と制御電極電圧との組合せを決定する。
【0017】
本実施形態によれば、エミッション電流が変化した場合に、電子ビームの輝度の低下を防止することができる。また、電子ビームの輝度の低下を防止するために、電子ビームの輝度がピークを形成するバイアス電圧と制御電圧との組合せを決定することができる。
【0018】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係る3次元造形装置について、
図2〜
図9を用いて説明する。
【0019】
(前提技術について)
図2は、本実施形態の前提技術に係る3次元造形装置に用いられている電子銃201の構成を説明するための図である。電子銃201は、カソード211とウェネルト電極212とアノード214とを備えている。電子銃201は、3電極型の電子銃である。電子銃201は、容易に大電流を得ることができるので、例えば、電子顕微鏡や電子ビーム描画装置、電子ビーム分析装置、電子ビーム加工装置(溶接や表面改質、積層造形等)といった幅広い装置などに使用されている。
【0020】
例えば、電子ビーム加工装置には一般的に様々な加工モードが設けられており、使用している加工モードや使用状況などに応じて電子ビーム220の径や電子ビーム220のビーム電流を迅速に変更させる必要がある。さらに、このような電子ビーム加工装置の電子ビームは、高加速電圧(数10kV以上)、大電流(10mA以上)であるので、装置内部の構造物に電子ビーム220が照射されると、その構造物が損傷する恐れがある。
【0021】
また、これらの装置では、試料上(粉体上)のビーム電流を制御するための電流制御絞りを電子光学鏡筒に配置することができないので、カソード211(電子銃201)から放出された電子ビーム220は全て試料上に到達することになる。すなわち、試料上のビーム電流とエミッション電流とは同じ値となる。この場合、ビーム電流を変更するには、電子銃201のエミッション電流そのものを変更させなくてはならない。
【0022】
電子銃201でエミッション電流を迅速に変更させるためには、バイアス電圧(ウェネルト電極212の印加電圧)を変更する方法が考えられるが、この方法では、バイアス電圧の変化にともない、電子ビーム220の輝度も変化する。
【0023】
輝度は、試料上に形成される電子ビーム220のビーム径の大きさと関連がある。つまり、電子ビーム220の輝度が低下すると、電子ビーム220のビーム径が大きくなる。電子銃201のように、エミッション電流の変化とともに電子ビーム220の輝度も同時に変化してしまうと、あるエミッション電流では輝度が小さくなり、所望のビーム径が得られないという問題があった。
【0024】
(本実施形態の3次元造形装置について)
図3は、本実施形態に係る3次元造形装置300の構成を説明する図である。
図4は、本実施形態に係る電子銃301の構成を説明する図である。
図5は、本実施形態に係る3次元造形装置300によるビームスキャンにより取得した電流信号曲線を説明する図である。3次元造形装置300は、鏡筒360と真空チャンバ320と高圧電源330とコンピュータ340と電子光学系制御部350とを備える。
【0025】
鏡筒360は、電子銃301とレンズ305と偏向器306とを備える。電子銃301は、カソード311とウェネルト電極312と制御電極313とアノード314とを備えている。つまり、電子銃301は、4電極で構成される、4電極型の電子銃である。真空チャンバ320は、ファラデーカップ322と冷却管323と電流計324とを備える。ファラデーカップ322を使用して、電子ビーム370のビーム電流とビーム径とを測定する。ファラデーカップ322には、電子ビーム370の照射による温度上昇を抑制するために冷却管323が設けられている。
【0026】
電流計324は、電子ビーム370のビーム電流325を計測する。高圧電源330は、カソード加熱電源332とバイアス電源334と制御電極電源335と電源制御部336と電流計337と加速電源338とを備える。電流計337は、ロード電流333を計測する。コンピュータ340は、最適条件収集制御部341と近似計算演算部342とを備える。電子光学系制御部350は、レンズ305と偏向器306とを含む電子光学系を制御する。
【0027】
電子銃301は、カソード311、ウェネルト電極312、制御電極313およびアノード314の4つの電極から構成される熱電子放出型電子銃である。電子銃301は、高圧電源330に設けられたカソード加熱電源332、バイアス電源334、制御電極電源335および加速電源338によって動作する。電子銃301から放出された電子ビーム370は、レンズ305と偏向器306とによって制御され、所定の位置にある粉体上に焦点を結ぶ。
【0028】
3次元造形装置300は、電子ビーム370の輝度がピークを形成するバイアス電圧と制御電極電圧との最適な組合せ条件を決定して、電子銃301の調整を行なう。バイアス電圧と制御電極電圧との最適組合せ条件を決定するためには、ビーム電流とビーム径とを測定する必要がある。そこで、
図3に示したように、真空チャンバ320に設けられたナイフエッジ付きのファラデーカップ322を使用する。ファラデーカップ322には、ビーム照射による温度上昇を抑制するために、冷却管323が設けられている。電子銃301から照射される電子ビーム370をナイフエッジの境界にビームスキャンすることにより、
図5に示したような、電流信号曲線が測定される。なお、ここでは、ファラデーカップを用いてビーム電流を測定したが、ビーム電流の測定に用いる機器はこれに限定されない。
【0029】
さらに、近似計算演算部342は、取得した電流信号曲線にカーブフィッティングと微分計算処理を施して、電子ビーム370のビーム径を算出する。試料面上(粉体上)に到達する電子ビーム370のビーム電流については、ファラデーカップ322の測定値から求めてもよいが、これに限定されない。電子ビーム370のビーム電流は、カソード311(電子銃301)から放出されるエミッション電流と同じ値となるので、高圧電源330に流れるロード電流333を電流計337で測定して求めることもできる。
【0030】
上述の一連の動作は、コンピュータ340に含まれる最適条件収集制御部341によって自動的に行なわれる。最適条件収集制御部341は、電源制御部336に指令を送り、バイアス電圧と制御電極電圧とをマトリクス状に変化させる。この時、最適条件収集制御部341は、上述した手法により電子ビーム370のビーム径とビーム電流とを測定し、各条件における電流密度を算出し、特定のエミッション電流を得るためのバイアス電圧と制御電極電圧との最適な組合せ条件を記録する。最適条件収集制御部341は、電子光学系制御部350にも指令を送り、ナイフエッジ上の電子ビーム370のビームスキャンや、電子ビーム370のフォーカスやデフォーカスなどを適宜行なう。
【0031】
ここで、3次元造形装置300に使用される4電極構成の電子銃301を例に取り、バイアス電圧と制御電極電圧との最適組合せ条件の決定方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る電子銃301の電流密度とエミッション電流のバイアス電圧特性を示す図である。
図7は、本実施形態に係る電子銃301の電流密度とエミッション電流のバイアス電圧特性を示す他の図である。
【0032】
制御電極電圧をV
c1に固定し、バイアス電圧を変化させながら電子ビーム370のビーム径とビーム電流とを測定して、電子ビーム370の電流密度を算出する。これにより、
図6に示したような、電流密度とエミッション電流とのバイアス電圧特性が得られる。同図に示したように、電流密度が最大となるバイアス電圧V
b1が存在し、この場合のエミッション電流はI
1となる。
【0033】
電流密度が最も大きくなる条件と、輝度が最も大きくなる(ピークを形成する)条件とはほぼ同じであるので、この場合、バイアス電圧と制御電極電圧との組合せ(V
b1,V
c1)が、エミッション電流I
1を得るための最適な組合せ条件となる。
【0034】
この一連の操作を制御電極電圧をV
c2、V
c3、V
c4、・・・と徐々に大きくしながら実施する。これにより、
図7に示したような、電流密度とエミッション電流とのバイアス電圧特性が複数得られ、特定のエミッション電流に対するバイアス電圧と制御電極電圧との最適組合せ条件が得られる。これに対して、3電極構成の電子銃では、加速電圧が一定なので、電流密度とエミッション電流とのバイアス電圧特性が1つしか得られない。つまり、3電極構成の電子銃では、大きなエミッション電流が必要な場合には、電子ビームの輝度を低下させなければならず(輝度を犠牲にしていたので)、ビーム径が広がってしまい、精度の高い造形をすることはできなかった。
【0035】
4電極構成の電子銃は、エミッション電流を変えても輝度がほとんど劣化(低下)しないという特性を有するため、エミッション電流を変化させながら使用することを前提としている3次元造形装置などの電子ビーム加工装置に用いるのに適している電子銃である。つまり、エミッション電流を変化させても、それに対応して輝度の高い電子ビームを使うことができ、電子ビームを絞ってビーム径を小さくすることができるので、精度の高い造形(加工)をすることができる。
【0036】
ただし、最適な組合せ条件を得るためには、バイアス電圧および制御電極電圧の2つのパラメータをマトリクス状に変化させながら電流密度とエミッション電流とを取得しなければならない。そのため、手動でのデータ収集には多大な時間を要する。しかも、カソード消耗に伴い最適な組合せ条件が変化するので、カソードの消耗がある程度進むと、その都度最適な組合せ条件を記録し直さなくてはならない。
【0037】
図8は、本実施形態に係る3次元造形装置300の動作を説明するためのフローチャートである。
図9は、本実施形態に係る3次元造形装置300によるカソード消耗具合の判定の概要を説明するための図である。
【0038】
3次元造形装置300は、このフローチャートに従って、カソード311の消耗具合の判定や、バイアス電圧および制御電極電圧の再調整や微調整を自動で行なう。
【0039】
3次元造形装置300は、ステップS801において、電子銃301の自動調整を行ない、粉体を積層して造形物を製造するために適した電子ビーム370が得られるようにする。つまり、3次元造形装置300は、エミッション電流と電流密度とを測定して、輝度が最も高くなる(ピークを形成する)バイアス電圧と制御電極電圧との組合せの条件(最適組合せ条件)を複数決定する。そして、電子銃301は、決定した最適組合せ条件の中から、造形物の造形の条件に最も適した組合せを適用して、造形物を製造する。これにより、常に最高輝度またはピーク輝度の電子ビーム370を使うことが可能となる。
【0040】
3次元造形装置300は、ステップS803において、装置がアイドリング状態にあるか否かを判定する。すなわち、3次元造形装置300は、装置が造形物を製造中であれば、動作を終了する。3次元造形装置300は、装置がアイドリング状態、つまり、造形物を製造しないで装置が待機状態(ウェイト状態)にある場合、ステップS805において、カソード311の消耗具合の判定を行なう判定モードに移行する。
【0041】
3次元造形装置300は、カソード311の消耗具合の判定モードに移行すると、ステップS807において、電子銃301の自動調整モードで導出した最適組合せ条件を用いて、再びエミッション電流と電流密度とを測定する。
【0042】
3次元造形装置300は、ステップS809において、ステップS807において再測定したエミッション電流が、最後に電子銃301の調整で得たエミッション電流と比較して5%以上低下しているか否かを判断する。ここでは、最後(再測定の直前)に得たエミッション電流と比較をしているが、比較の対象はこれに限定されない。例えば、3次元造形装置300を最初に起動した時のエミッション電流と比較をしてもよい。また、例えば、カソード311の消耗により、カソード311を交換した直後のエミッション電流などと比較してもよい。
【0043】
そして、再測定したエミッション電流が、比較対象のエミッション電流と比較して5%以上低下していれば、3次元造形装置300は、ステップS811において、電子銃301の再調整を行なう。また、エミッション電流が5%以上低下していなければ、3次元造形装置300は、ステップS813において、電子銃301の微調整を行なう。
【0044】
電子銃301の再調整を行なう場合、3次元造形装置300は、ステップS815において、バイアス電圧と制御電極電圧とをマトリクス状に変化させ、最適組合せ条件を一から記録し直す。また、電子銃301の微調整を行なう場合、3次元造形装置300は、ステップS817において、バイアス電圧のみを変え、所望するエミッション電流が得られるように、最適組合せ条件を記録し直す。
【0045】
カソード311の消耗具合の判定は、装置がアイドリング状態(ウェイト状態)にある場合に行なわれる。まず、バイアス電圧と制御電極電圧とを最適条件収集制御回路341に記録されている最適組合せ条件(V
b1,V
c1)、(V
b2,V
c2)、(V
b3,V
c3)、・・・に順番に変化させ、再度、エミッション電流と電流密度とを取得する。
【0046】
カソード311の先端は、使用に伴い消耗するので、エミッション電流は電子銃311の調整を行なった時よりも小さくなる。また、カソード311が消耗すればカソード311の先端はウェネルト電極312から遠ざかるため、各々の制御電極電圧に対する最適なバイアス電圧条件は元の条件よりも低くなる。
【0047】
例えば、バイアス電圧と制御電極電圧の最適組合せ条件(V
b1,V
c1)は、カソード311の消耗に伴い
図9に示したような変化をする。同図の実線は、電子銃301の調整時にバイアス電圧と制御電極電圧とをマトリクス状に変化させた際に取得した測定結果である。また、同図の点は、カソード消耗具合判定で測定した結果を、破線は、カソード消耗具合判定で取得したデータから予測される結果を、それぞれ示している。なお、バイアス電圧と制御電極電圧とをマトリクス状に変化させると、データ取得に時間を要するので、カソード消耗具合判定では、最適組合せ条件(V
b1,V
c1)、・・・(V
b5,V
c5)でデータ取得を行なう。
【0048】
カソード311の消耗具合判定で測定したエミッション電流が、最後に電子銃調整で得たエミッション電流と比較して5%未満の低下に収まっている場合には、電子銃301の「微調整」を実施する。電子銃301の微調整は、所望するエミッション電流を得る際に、制御電極電圧は変えずにバイアス電圧のみを変更する調整である。例えば、
図9に示したように、電子銃調整時に最適組合せ条件(V
b1,V
c1)で所望するエミッション電流I
1を得ていたのが、カソード311の消耗に伴いI
1’しか得られなくなっている。
【0049】
このとき、微調整では最適組合せ条件を(V
b1,V
c1)から(V
b1’,V
c1)に変更することで、エミッション電流の低下を補償している。同様に、他の最適組合せ条件(V
b2,V
c2)、(V
b3,V
c3)、・・・(V
b5,V
c5)においても、(V
b2’,V
c2)、(V
b3’,V
c3)、・・・(V
b5’,V
c5)とバイアス電圧のみを変更し、各条件で所望するエミッション電流が得られるようにする。
【0050】
カソード311が消耗すると、
図9(b)に示すように、電子銃301の最適条件(電流密度、輝度がピークを示す(最も高くなる)条件)はバイアス電圧が小さくなる方向に変化する。この変化は、電子銃301の微調整でバイアス電圧を変化させる方向と同じである。すなわち、電子銃調整は、エミッション電流を補償するだけではなく、完全ではないものの電子銃設定を最適条件付近に近づける効果もある。
【0051】
一方、カソード消耗具合判定で測定したエミッション電流が、最後に電子銃調整で得たエミッション電流と比較して5%以上低下していた場合には、電子銃301の「再調整」を実施する。電子銃301の再調整は、バイアス電圧と制御電極電圧との最適組合せ条件を初めから取得し直して、所望するエミッション電流を得る調整である。エミッション電流の減少が大きくなると、バイアス電圧の変更のみでは、エミッション電流を補償できても、電流密度の低下までは補償しきれなくなる。
【0052】
これは、各条件で電子銃301の輝度が劣化(低下)していることと同じであり、ビーム径を小さく絞れなくなるので、3次元造形装置300の加工精度も低下する。そこで、カソード消耗具合判定で5%以上のエミッション電流の低下がみられた場合、電子銃301の再調整を実施する。4電極構成の熱電子放出型電子銃は電子銃調整が煩雑であるが、上述した自動調整機構を備えることで、常に適切な設定で電子銃の運用が可能となる。
【0053】
なお、ここでは、エミッション電流の低下「5%」を微調整と再調整との判断基準としたが、判断基準はこれに限定されない。微調整のみでは徐々に離れていく電子銃最適条件をどの段階で調整し直すが重要であり、判断基準の決定要因となる。ここで説明したように、エミッション電流の低下5%を判断基準とする場合、輝度が最適条件からそれほど逸脱しないうちに、電子銃301の再調整が実施される。
【0054】
高い加工精度が要求される装置の場合、このように判断基準を5%に設定し、頻繁に再調整を行なうとよい。一方、高い加工精度が必要とされない装置ならば、輝度が適正値でなくても装置は問題なく運用できるので、エミッション電流低下10%や20%を判断基準として、ほとんどを微調整で済ませてもよい。
【0055】
本実施形態によれば、エミッション電流が変化した場合に、電子ビームの輝度の低下を防止することができる。また、電子ビームの輝度の低下を防止するために、電子ビームの輝度を最高輝度(ピーク輝度)に保つバイアス電圧と制御電圧との組み合わせの最適条件を決定することができる。
【0056】
なお、上述の説明では、3次元造形装置を用いて電子銃の説明をしたが、本実施形態に係る電子銃の用途はこれに限定されず、例えば、電子顕微鏡などに用いることもできる。
【0057】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0058】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、本発明の範疇に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の範疇に含まれる。