特許第6190047号(P6190047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190047心不全リスクを層別化するための医療デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190047
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】心不全リスクを層別化するための医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20170821BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20170821BHJP
   A61N 1/39 20060101ALI20170821BHJP
   A61N 1/37 20060101ALI20170821BHJP
   A61N 1/365 20060101ALI20170821BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20170821BHJP
   A61N 1/08 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61B5/00 C
   A61B5/00 G
   A61B10/00 H
   A61N1/39
   A61N1/37
   A61N1/365
   A61N1/36
   A61N1/08
【請求項の数】15
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-514999(P2016-514999)
(86)(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公表番号】特表2016-523600(P2016-523600A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】US2014038720
(87)【国際公開番号】WO2014189885
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2015年11月30日
(31)【優先権主張番号】61/825,181
(32)【優先日】2013年5月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505003528
【氏名又は名称】カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】スウィーニー、ロバート ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】チャン、イー
(72)【発明者】
【氏名】アン、キ
(72)【発明者】
【氏名】タクール、プラモドシン ヒラシン
【審査官】 佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02008581(EP,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0157856(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第00917078(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0080348(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療デバイスであって:前記医療デバイスは、信号分析回路であって:
患者の少なくとも第1の慢性症状指示子及び第2の慢性症状指示子を受信するように構成されている患者の状態入力ユニットであって、前記第2の慢性症状指示子は前記第1の慢性症状指示子と非同一である、患者の状態入力ユニット;
前記患者の1つ又は複数の生理学的信号を受信するように構成されている信号受信回路;
前記1つ又は複数の生理学的信号から複数の信号メトリックを生成するように構成されている信号メトリック生成回路であって、前記複数の信号メトリックは、前記第1の慢性症状指示子との第1の関連に従うとともに前記第1の慢性症状指示子が少なくとも1つの第1の特定の基準を満たすことに応答して生成される第1のセットの1つ又は複数の信号メトリックと、前記第2の慢性症状指示子との第2の関連に従うとともに前記第2の慢性症状指示子が少なくとも1つの第2の特定の基準を満たすことに応答して生成される第2のセットの信号メトリックと、を含む、信号メトリック生成回路;及び
前記複数の信号メトリックから、前記第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック及び前記第2のセットの1つ又は複数の信号メトリックの双方を含む群から選択される1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択するように構成されている患者特有の信号メトリック選択回路を含む、信号分析回路;並びに前記選択された1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを用いて複合リスク指数を生成するように構成されているリスク層別化回路であって、前記複合リスク指数は、前記患者が心不全の悪化を示す事象を後に発症する確率を示す、リスク層別化回路を備える、医療デバイス。
【請求項2】
前記リスク層別化回路は、特定の時間枠内で前記患者が非代償性心不全事象を発症する確率を示す複合リスク指数を生成するように構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記患者の前記第1の慢性症状指示子及び前記第2の慢性症状指示子は、前記患者の慢性病指示子、前記患者の以前の医療処置指示子又は前記患者の人口動態特性指示子のうちの少なくとも1つをそれぞれ含む、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記患者の状態入力ユニットは、少なくとも前記患者の前記第1の慢性症状指示子及び前記第2の慢性症状指示子を格納する電子医療記録(EMR)システムに結合されるように構成されており、少なくとも前記第1の慢性症状指示子及び前記第2の慢性症状指示子を前記EMRシステムから検索するように構成されている、請求項1又は3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記信号受信回路は、前記患者から前記1つ又は複数の生理学的信号を感知するように構成されている少なくとも1つの生理的センサに結合されるように構成されており;前記信号メトリック生成回路は、前記複数の信号メトリックについて、信号品質尺度、信号感度尺度又は信号特異度尺度のうちの少なくとも1つを含むそれぞれの信号メトリック性能尺度を生成するように構成されている信号メトリック性能分析回路を含み;前記患者特有の信号メトリック選択回路は、前記それぞれの信号メトリック性能尺度を用いて、前記複数の信号メトリックから1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択するように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記信号メトリック性能分析回路は、基準の日最高呼吸数(MRR)からの相対変化を示す日最高呼吸数の感度を生成するように構成されており、前記信号メトリック生成回路は、前記患者が以前に腎疾患を患っていない場合に、前記日最高呼吸数を含む信号メトリックのセットを生成するように構成されている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記リスク層別化回路は、前記1つ又は複数の患者特有の信号メトリックについて、少なくとも前記第1の慢性症状指示子及び前記第2の慢性症状指示子を用いて、それぞれのリスクスコアを生成し、該それぞれのリスクスコアを用いて前記複合リスク指数を計算するように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記リスク層別化回路は、前記1つ又は複数の患者特有の信号メトリックについて、前記リスクスコアの重み付けされた関数を用いて前記複合リスク指数を計算するように構成されている、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記リスク層別化回路は、前記複合リスク指数と標準尺度との比較を用いて2つ以上のカテゴリリスクレベルを生成するように構成されており、該2つ以上のカテゴリリスクレベルは、前記患者が前記事象を後に発症する高いリスクを示す、請求項1〜8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記標準尺度は、患者の母集団の信号メトリックを用いて計算され、前記患者の母集団の少なくとも一部は前記第1の慢性症状指示子及び前記第2の慢性症状指示子を有する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記リスク層別化回路は、重み因子によってそれぞれ重み付けされる前記それぞれのリスクスコアの線形の組み合わせを含む重み付けされた関数を用いて前記複合リスク指数を計算するように構成されている、請求項に記載のデバイス
【請求項12】
前記1つ又は複数の患者特有の信号メトリックの前記重み因子を、それぞれの信号メトリック性能尺度を用いて求める、請求項11に記載のデバイス
【請求項13】
前記信号メトリック性能分析回路は、標的事象の非存在下での第1の状態から第2の状態へのそれぞれの信号メトリックの相対変化を含む信号特異度尺度を生成するように構成されている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項14】
前記信号メトリック性能分析回路は、信号強度、信号変動または信号対雑音比を含む信号品質尺度を生成するように構成されている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項15】
前記リスク層別化回路は、複合リスク指数のヒトが知覚できる提示または少なくとも第1及び第2の慢性症状指示子を生成するように構成されている、請求項1乃至14のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本文書は、包括的には医療デバイスに関し、より詳細には、非代償性心不全(heart failure decompensation)を検出及び監視するシステム、デバイス並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鬱血性心不全(CHF)は深刻な健康問題であり、米国だけでも500万人を超える人々を侵している。CHF患者は通常、心筋が弱った肥大した心臓を有し、結果として血液の心拍出量が乏しくなる。高い肺血管圧は、肺において経時にわたって液体貯留を引き起こす可能性がある。多くのCHF患者では、液体貯留は、非代償性心不全(HF)の発現に先立つ。非代償性心不全は、肺水腫又は末梢浮腫、心拍出量の低下、及び、疲労、息切れ等といった症状を特徴とし得る。
【0003】
CHF患者を頻繁に監視すること、及び、胸腔内液体貯留、又は、非代償性心不全状態を示す他の事象を適時に検出することは、CHF患者におけるHFの悪化の防止を助けることができ、したがって、HFによる入院期間に関連する費用を低減できる。
【0004】
携帯型(Ambulatory)医療デバイスを、HF患者の監視及び非代償性心不全事象の検出に使用することができる。そのような携帯型医療デバイスの例としては、埋め込み型医療デバイス(IMD)、皮下医療デバイス、装着可能医療デバイス又は他の体外医療デバイスが挙げられる。携帯型又は埋め込み型医療デバイスは、心臓の電気的活動及び機械機能を感知するように構成することができる生理的センサを含むことができ、医療デバイスは任意選択的に、電気刺激パルス等の治療を標的エリアに送達し、心臓機能を回復又は改善することができる。これらのデバイスの幾つかは、経胸腔的インピーダンス又は他のセンサ信号を使用するといった診断特徴を提供することができる。例えば、肺の液体貯留は、肺の空気よりも液体のより低い抵抗率に起因して経胸腔的インピーダンスを低下させる。液体貯留は心室充満圧も高くする可能性があり、結果としてS3心音がより大きくなる。さらに、肺の液体貯留は、肺系統を刺激する可能性があり、1回換気量の低下及び呼吸数の増加につながる。
【0005】
HFの悪化といった将来的なHF事象を発症するリスクが高い患者の同定は、適時の治療を確実にするのを助けることができ、それによって、予後及び患者の転帰を改善する。他方で、将来的なHF事象のリスクが低い患者の同定及び安全な管理は、不必要な医学的介入を回避し、医療費を低減することができる。将来的なHF事象のリスクを評価するといったリスク層別化(stratification)方法の望ましい性能は、高感度、高特異性、高陽性的中率(PPV)又は陰性的中率(NPV)のうちの1つ又は複数を含むことができる。非代償性心不全事象のリスク層別化の文脈では、例えば、感度は、高リスク患者(例えば、将来的な非代償性心不全の発現を生じる可能性がより高い患者)を同定する精度を表すことができる。特異度は、低リスク患者(例えば、将来的な非代償性心不全の発現を生じる可能性がより低い患者)を同定する精度を表すことができる。リスクの層別化は、従来では、年齢、性別若しくは人種等の患者の人口動態データ;又は、高血圧、冠動脈疾患若しくは以前のHFによる入院等の素因となる危険因子の使用に注目していた。しかしながら、患者にわたる病状の差異及び/又は或る患者における疾患の進行等の因子が、従来のリスク層別子(stratifier)に依拠するリスク層別化の性能に悪影響を与える可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、将来的な非代償性心不全事象等といったHFの悪化の将来的な事象を発症するリスクが高いCHF患者を正確に同定することができるシステム及び方法がかなり必要とされていることを認識している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書において記載されている種々の実施形態は、非代償性心不全状態を示す事象等の将来的なHF事象を発症するリスクが高い患者を同定するプロセスを改善することを助けることができる。例えば、医療デバイス(埋め込み型医療デバイス又は装着可能医療デバイス等)は、患者の慢性症状に基づいて選択されるセンサ信号又は信号メトリック(signal metric)を用いて、患者が将来的なHF事象を発症するリスクを層別化することができる。信号分析回路が、少なくとも第1及び第2の慢性症状指示子を含むことができる患者の状態の入力を受信することができる。第2の慢性症状指示子は、第1の慢性症状と非同一であるものとすることができる。信号分析器は、患者から1つ又は複数の生理学的信号を感知し、1つ又は複数の生理学的信号から複数の信号メトリックを生成することができる。信号メトリックは、第1の慢性症状指示子が少なくとも1つの第1の特定の基準を満たす場合に第1のセットの1つ又は複数の信号メトリックを、及び、第2の慢性症状指示子が少なくとも1つの第2の特定の基準を満たす場合に第2のセットの信号メトリックを含む。信号分析回路は、複数の信号メトリックから、第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック及び第2のセットの1つ又は複数の信号メトリックの双方を含む群から選択される1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択するように構成されている患者特有の信号メトリック選択回路を含むことができる。医療デバイスは、選択された1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを用いて複合リスク指数を生成するように構成されている層別化回路を含むことができ、複合リスク指数は、患者がHFの悪化を示す事象を後に発症する確率を示すことができる。
【0008】
方法は、患者の少なくとも第1の慢性症状指示子、及び、第1の慢性症状指示子と非同一の第2の慢性症状指示子を受信すること、患者の1つ又は複数の生理学的信号を感知すること、並びに、1つ又は複数の生理学的信号から複数の信号メトリックを生成することを含むことができる。信号メトリックは、第1の慢性症状指示子が少なくとも1つの第1の特定の基準を満たす場合に第1のセットの1つ又は複数の信号メトリックを、及び、第2の慢性症状指示子が少なくとも1つの第2の特定の基準を満たす場合に第2のセットの信号メトリックを含むことができる。方法は、複数の信号メトリックから、第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック及び第2のセットの1つ又は複数の信号メトリックの双方を含む群から選択される1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択すること、並びに、選択された1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを用いて複合リスク指数を生成することを含むことができる。生成された複合リスク指数は、患者がHFの悪化を示す事象を後に発症する確率を示すことができる。
【0009】
この概説は、本願の教示の幾つかの概説であり、本発明の主題の排他的又は網羅的な表現方法であることは意図されない。本発明の主題についての更なる詳細は、詳細な説明及び添付の特許請求の範囲において見出される。本発明の他の態様は、以下の詳細な説明を読んで理解し、その一部を形成する図面を検討すれば当業者には明らかであろうが、説明及び図面はそれぞれ限定する意味で解釈されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びそれらの法的な均等物によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】心調律管理(CRM)システムの一例、及び、CRMシステムが動作する環境の部分を示す図である。
図2】患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路の例を示す図である。
図3】信号メトリック生成回路の例を示す図である。
図4】HFリスク層別化回路の例を示す図である。
図5】将来的なHF事象についてのリスク層別化方法の例を示す図である。
図6】生理学的信号から信号メトリックを生成する方法の例を示す図である。
図7】将来的なHF事象のリスク層別化を提供する方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付の図面の図において種々の実施形態が例として示される。そのような実施形態は、例証的であり、本発明の主題の網羅的又は排他的な実施形態であることは意図されない。
本明細書において開示されるのは、非代償性心不全事象といった、HFの悪化に関連する将来的な事象を発症するリスクが高い患者を同定するシステム、デバイス及び方法である。リスク層別化は、埋め込み型ペースメーカ又は除細動器等の医療デバイスに関連する生理的センサから感知されるような生理学的信号を用いて行うことができる。本発明者らは、患者の人口動態特性(demographic characteristics)又は患者の慢性病指示子を含む患者の慢性症状が、HF患者において特定のタイプのセンサ信号に影響を与え得ることを認識している。したがって、患者の慢性症状に従ってセンサ信号を選択するとともにセンサ信号に由来する信号メトリックを分析することによって、本文書は、HFの悪化といった、将来的なHF事象のリスクを予測する方法及びデバイスを提供することができ、したがって、患者への即時の医学的な配慮を可能にする。
【0012】
図1は、心調律管理(CRM)システム100の一例、及び、CRMシステム100が動作することができる環境の部分を示している。CRMシステム100は、1つ又は複数のリード108A〜C等を通じて心臓105に電気的に結合することができる埋め込み型医療デバイス(IMD)110等の携帯型医療デバイス、及び、通信リンク103等を介してIMD110と通信することができる外部システム120を含むことができる。IMD110は、ペースメーカ等の埋め込み型心臓デバイス、埋め込み型除細動器(ICD)、又は、心臓再同期療法除細動器(CRT−D)を含むことができる。IMD110は、皮下埋め込み型デバイス、装着可能体外デバイス、神経刺激装置、薬剤送達デバイス、生物学的治療デバイス、又は、1つ又は複数の他の携帯型医療デバイス等の1つ又は複数の監視又は治療デバイスを含むことができる。IMD110は、ベッドサイドモニタ又は他の外部モニタ等の監視用医療デバイスに結合することができるか、又は、それらによって代替することができる。
【0013】
図1に示されているように、IMD110は、心臓105において生理学的信号を感知することができるとともに、1つ又は複数のリード108A〜C等を通じて心臓等の標的領域に1つ又は複数の治療電気パルスを送達することができる、電子回路を収容することができる密閉缶112を含むことができる。CRMシステム100は、108B等の1つのみのリードを含むことができるか、又は、108A及び108B等の2つのリードを含むことができる。
【0014】
リード108Aは、IMD110に接続されるように構成することができる近位端、及び、心臓105の右心房(RA)131等における標的位置に配置されるように構成することができる遠位端を含むことができる。リード108Aは、その遠位端に又はその付近に位置付けることができる第1のペーシング感知電極141、及び、電極141に又はその付近に位置付けることができる第2のペーシング感知電極142を有することができる。電極141及び142は、右心房活動の感知及び心房ペーシングパルスの任意選択的な送達を可能にするように、リード108Aの別個の導体等を介してIMD110に電気的に接続することができる。リード108Bは、IMD110に接続することができる近位端、及び、心臓105の右心室(RV)132等における標的位置に配置することができる遠位端を含むことができる除細動リードであるものとすることができる。リード108Bは、上大静脈(SVC)留置等のために、遠位端に位置付けることができる第1のペーシング感知電極152、電極152付近に位置付けることができる第2のペーシング感知電極153、電極153付近に位置付けることができる第1の除細動コイル電極154、及び、遠位端から或る距離を置いて位置付けることができる第2の除細動コイル電極155を有することができる。電極152〜155は、リード108Bにおける別個の導体等を介してIMD110に電気的に接続することができる。電極152及び153は、心室電位図の感知を可能にすることができ、任意選択的に、1つ又は複数の心室ペーシングパルスの送達を可能にすることができ、電極154及び155は、1つ又は複数の心室電気的除細動/除細動パルスの送達を可能にすることができる。一例では、リード108Bは、3つの電極152、154及び155のみを含むことができる。電極152及び154は、1つ又は複数の心室ペーシングパルスの感知又は送達に使用することができ、電極154及び155は、1つ又は複数の心室電気的除細動又は除細動パルスの送達に使用することができる。リード108Cは、IMD110に接続することができる近位端、及び、心臓105の左心室(LV)134等において標的位置に配置されるように構成することができる遠位端を含むことができる。リード108Cは、冠状静脈洞133を通して埋め込むことができ、LVへの1つ又は複数のペーシングパルスの送達を可能にするようにLVにわたって冠状静脈に配置することができる。リード108Cは、リード108Cの遠位端に位置付けることができる電極161、及び、電極161付近に位置付けることができる別の電極162を含むことができる。電極161及び162は、LV電位図の感知を可能にし、任意選択的に、LVからの1つ又は複数の再同期ペーシングパルスの送達を可能にするように、リード108Cの別個の導体等を介してIMD110に電気的に接続することができる。
【0015】
IMD110は、生理学的信号を感知することができる電子回路を含むことができる。生理学的信号は、心臓105の機械機能を表す電位図又は信号を含むことができる。密閉缶112は、感知又はパルス送達等のための電極として機能することができる。例えば、リード108A〜Cの1つ又は複数からの電極を、電位図の単極感知又は1つ又は複数のペーシングパルスの送達等のために缶112とともに使用することができる。リード108Bからの除細動電極を、1つ又は複数の電気的除細動/除細動パルスの送達等のために缶112とともに使用することができる。一例では、IMD110は、例えばリード108A〜Cの1つ又は複数に位置付けられる電極又は缶112との間のインピーダンスを感知することができる。IMD110は、一対の電極間に電流を注入し、同じか又は異なる対の電極間の結果として生じる電圧を感知し、オームの法則を用いてインピーダンスを求めるように構成することができる。インピーダンスは、同じ対の電極を電流の注入及び電圧の感知に使用することができる双極構成、電流を注入する電極の対及び電圧を感知する電極の対が共通の電極を共有することができる三極構成、又は、電流を注入するのに使用される電極を、電圧を感知するのに使用される電極とは別個であるものとすることができる4極構成で感知することができる。一例では、IMD110は、RVリード108B上の電極と缶ハウジング112との間で電流を注入し、RVリード108B上の同じ電極又は異なる電極と缶ハウジング112との間の結果として生じる電圧を感知するように構成することができる。生理学的信号を、IMD110内に一体化することができる1つ又は複数の生理学的センサから感知することができる。IMD110は、IMD110に結合することができる1つ又は複数の外部の生理的センサ又は1つ又は複数の外部電極から生理学的信号を感知するように構成することもできる。生理学的信号の例としては、心拍数、心拍変動、胸郭内インピーダンス、心臓内インピーダンス、動脈圧、肺動脈圧、RV圧力、LV冠状動脈圧、冠動脈血流温度、血液酸素飽和度、1つ又は複数の心音、身体活動又は運動レベル、活動に対する生理的反応、姿勢、呼吸、体重又は体温のうちの1つ又は複数が挙げられる。
【0016】
これらのリード及び電極の配置並びに機能は、限定的ではなく例として上述した。患者の必要性及び埋め込み型デバイスの機能に応じて、これらのリード及び電極の他の配置並びに使用が可能である。
【0017】
図示のように、CRMシステム100は、患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路113を含むことができる。患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路113は、信号分析回路及びリスク層別化回路を含むことができる。信号分析回路は、患者から患者の慢性症状指示子及び1つ又は複数の生理学的信号を受信し、生理学的信号から1つ又は複数の患者特有のセンサ信号又は信号メトリックを選択することができる。信号分析回路は、リード108A〜Cの1つ又は複数の電極、又は、患者上若しくは患者内で展開されてIMD110と通信する生理的センサを用いて、患者から生理学的信号を受信することができる。リスク層別化回路は、選択された患者特有のセンサ信号又は信号メトリック等を用いて、患者が、HFの悪化事象(例えば非代償性心不全事象)を後に発症する確率を示す複合リスク指数を生成することができる。非代償性心不全事象は、非代償性心不全発現、又は、HF状態の回復若しくは悪化等のHFの進行を示す事象の1つ又は複数の前兆を含むことができる。患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路113の例を、例えば図2図3を参照して後述する。
【0018】
外部システム120は、IMD110のプログラミングを可能にすることができ、通信リンク103を介して受信することができるといったように、IMD110が取得した1つ又は複数の信号についての情報を受信することができる。外部システム120は、ローカル外部IMDプログラマを含むことができる。外部システム120は、遠隔の場所等から患者の状態を監視するか又は1つ又は複数の治療を調整することができる遠隔患者管理システムを含むことができる。
【0019】
通信リンク103は、インターネット接続等の誘導テレメトリリンク、無線周波数テレメトリリンク又は遠隔通信リンクのうちの1つ又は複数を含むことができる。通信リンク103は、IMD110と外部システム120との間のデータ伝送を提供することができる。伝送されるデータとしては、例えば、IMD110が取得するリアルタイムの生理学的データ、IMD110が取得するとともにIMD110に格納される生理学的データ、治療歴データ、又は、IMD110に格納されるIMDの動作状態を示すデータ、プログラム可能に特定可能な感知電極及び構造等を用いた生理学的データ取得、デバイス自己診断テスト又は1つ又は複数の治療の送達を含むことができる1つ又は複数の動作を行うようにIMD110を構成するための、IMD110への1つ又は複数のプログラミング命令が挙げられる。
【0020】
患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路113は、外部システム120に実装することができ、IMD110から抽出されるデータ又は外部システム120内のメモリに格納されているデータ等を使用してHFリスク層別化を行うように構成することができる。患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路113の部分は、IMD110と外部システム120との間で分配することができる。
【0021】
IMD110又は外部システム120の部分は、ハードウェア、ソフトウェア又はハードウェア及びソフトウェアの任意の組み合わせを用いて実装することができる。IMD110又は外部システム120の部分は、1つ又は複数の特定の機能を行うように構築若しくは構成することができる特定用途向け回路を用いて実装することができるか、又は、1つ又は複数の特定の機能を行うようにプログラミング若しくは別様に構成することができる汎用回路を用いて実装することができる。そのような汎用回路は、マイクロプロセッサ若しくはその一部、マイクロコントローラ若しくはその一部、又は、プログラマブル論理回路若しくはその一部を含むことができる。例えば、「コンパレータ」は、特に、2つの信号間の比較の特定の機能を行うように構築することができる電子回路コンパレータを含むことができるか、又は、コンパレータは、2つの信号間の比較を行うように汎用回路の一部に命令するコードによって駆動され得る汎用回路の一部として実装することができる。IMD110を参照して説明したが、CRMシステム100は、皮下医療デバイス(例えば皮下ICD、皮下診断デバイス)、装着可能医療デバイス(例えばパッチベースの感知デバイス)又は他の体外医療デバイスを含むことができる。
【0022】
図2は、患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路113の一実施形態であるものとすることができる患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路200の一例を示している。患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路200は、信号分析回路220、HFリスク層別化回路230、コントローラ回路240及び命令受信回路250のうちの1つ又は複数を含むことができる。
【0023】
信号分析回路220は、患者の状態入力ユニット221、信号受信回路222、信号メトリック生成回路223及び患者特有の信号メトリック選択回路224を含むことができる。患者の状態入力ユニット221は、少なくとも患者の第1の慢性症状指示子及び第2の慢性症状指示子を受信するように構成することができる。第2の慢性症状指示子は第1の慢性症状指示子と非同一であるものとすることができる。患者の慢性症状指示子は、およそ少なくとも6ヶ月といった或る特定の時間にわたって変化しないか又はゆっくりと変化する患者の特性又は持続する医学的状態を説明することができる。患者の第1及び第2の慢性症状指示子は、患者の慢性病指示子、患者の以前の医療処置指示子、又は、患者の人口動態特性指示子のうちの少なくとも1つをそれぞれ含むことができる。患者の慢性病指示子の例としては、特に、患者の以前の心筋梗塞(MI)、虚血性又は拡張型心筋症、弁膜症、腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢血管病、脳血管疾患、高血圧、肝疾患、糖尿病、喘息、貧血、鬱病、肺高血圧、睡眠呼吸障害、脂質異常症が挙げられる。以前の医療処置の例は、以前の冠動脈バイパス移植(CABG)術、胸部手術、弁膜手術又は他の外科的介入が挙げられる。人口動態特性指示子の例としては、特に、患者の年齢、性別、人種、身長、民族性、血液型、過去又は現在の喫煙者、ニューヨーク心臓協会(NYHA)機能分類が挙げられる。
【0024】
患者の状態入力ユニット221は、命令受信器250等を介してシステムのユーザから少なくとも第1及び第2の慢性症状指示子を受信するように構成することができる。一例では、患者の状態入力ユニット221は、患者の少なくとも第1及び第2の慢性症状指示子を格納することができる、電子医療記録(EMR)システムを含む格納デバイスに結合されるように構成することができる。患者の状態入力ユニット221は、システムのユーザ(例えば医師)が発行するようなコマンドを、命令受信器250等を介して受信すると、EMRシステム等の格納デバイスから、少なくとも第1の患者の慢性状態及び第2の患者の慢性状態を検索することができる。第1及び第2の慢性症状指示子は非同一であるものとすることができる。例えば、第1の慢性症状指示子は、患者の以前の胸部手術の指示子を含み、第2の慢性症状指示子は、腎疾患を有する患者の指示子を含む。
【0025】
患者の状態入力ユニット221が受信する慢性症状指示子は、特定の症状の存在又は非存在を示すバイナリ値を含むことができる。付加的に又は代替的に、慢性症状指示子は、特に、人口動態特性指示子、又は、HFのステージ(例えばNYHA分類I、II、III及びIV)、1型糖尿病及び2型糖尿病、ステージ1〜ステージ5の慢性腎疾患(CKD)等の慢性病指示子のカテゴリ分類又は進行ステージを含むことができる。慢性症状指示子は、患者の慢性症状の機能評価を示す生理的パラメータの複数の値範囲も含むことができる。例えば、慢性症状指示子は、CKDの進行を示す糸球体濾過量(GFR)の複数の値範囲、HFの進行を示す駆出率(EF)の複数の値範囲、糖尿病の進行を示す血糖の複数の値範囲、睡眠呼吸障害の進行を示す無呼吸低呼吸指数(AHI)の複数の値範囲、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の進行を示す1秒間努力呼気容量(FEV1)の複数の値範囲を含むことができる。第1及び第2の慢性症状指示子は、患者の同じか又は異なる慢性症状指示子からの非同一のカテゴリ分類をそれぞれ含むことができる。
【0026】
信号受信回路222は、患者から1つ又は複数の生理学的信号を受信するように構成することができる。信号受信回路222は:リード108A〜C又は缶112のうちの1つ又は複数の電極等の1つ又は複数の電極、1つ又は複数の生理的センサ又は1つ又は複数の患者のモニタ等のうちの1つ又は複数に結合することができる。信号受信回路222は、HF状態の悪化を示すことができる生理学的信号を感知するように構成することができる。そのような生理学的信号の例としては、リード108A〜C又は缶112のうちの1つ又は複数の電極等からの1つ又は複数の電気記録図、心拍数、心拍変動、胸郭内インピーダンス、心臓内インピーダンス、動脈圧、肺動脈圧、RV圧力、LV冠状動脈圧、冠動脈血流温度、血液酸素飽和度、1つ又は複数の心音、活動に対する生理的反応、無呼吸低呼吸指数、呼吸数信号又は1回換気量信号等の1つ又は複数の呼吸信号が挙げられる。信号受信回路222は、信号調節(例えば信号増幅、デジタル化若しくはフィルタリング)、又は、感知した生理学的信号からのパラメータ抽出を行うように1つ又は複数のモジュールを含むことができる。抽出された信号パラメータの例としては:信号平均、中央値又は他の代表値;信号強度のヒストグラム;経時にわたる1つ又は複数の信号の傾向;1つ又は複数の信号形態記述子;又は特定の周波数範囲における信号電力スペクトル密度を含むことができる。一例では、信号感知回路は、2つ以上の生理学的信号を感知することができ、2つ以上の生理学的信号等を用いて複合信号パラメータセットを生成することができる。
【0027】
信号メトリック生成回路223は、1つ又は複数の生理学的信号から複数の信号メトリックを生成するように構成することができる。信号メトリックは、生理的センサから、又は、リード108A〜C若しくは缶112のうちの1つ又は複数の1つ又は複数の電極から取得されるアナログの又はデジタル化された時系列等のセンサ信号を含むことができる。信号メトリックは、統計的尺度(例えば、平均、中央値、標準偏差、分散、相関、共分散、若しくは、特定の時間領域にわたる他の統計値)、形態学的尺度(例えば、ピーク、谷、傾き、曲線下面積)、又は、生理的活動を示す特徴(例えば、電位図信号におけるP波及びQRS群(QRS complex)、若しくは、心音信号のS1、S2、S3若しくはS4成分、呼吸信号の吸気段階及び呼気段階)等のセンサ信号から抽出される信号の特徴も含むことができる。信号メトリック生成回路223によって生成される信号メトリックは、少なくとも第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック及び第2のセットの信号メトリックを含むことができる。第1のセットの信号メトリックは、第1の特定の基準を満たす第1の慢性症状指示子に応答して生成することができ、第2のセットの信号メトリックは、第2の特定の基準を満たす第2の慢性症状指示子に応答して生成することができる。例えば、第1のセットの信号メトリックは、患者が腎疾患の慢性症状を有する場合に、心臓内インピーダンス信号の5日間平均及び日最高呼吸数信号を含むことができ、第2のセットの信号メトリックは、患者が糖尿病の慢性症状を有する場合に、(電位図又は心臓内電位図信号から取得されるような)R−R間隔信号の標準偏差、及び、経胸腔的インピーダンス信号の5日間平均を含むことができる。それぞれの慢性症状指示子に対応する信号メトリックは、母集団に基づく情報を用いて選択することができる。信号メトリック生成回路223の例は、例えば図3を参照して後述する。
【0028】
患者特有の信号メトリック選択回路224は、信号メトリック生成回路223によって生成される複数の信号メトリックから1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択するように構成することができる。患者特有の信号メトリックを用いて、患者が非代償性心不全事象といった将来的なHF事象を発症するリスクを推定することができる。患者特有の信号メトリックは、第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック及び第2のセットの1つ又は複数の信号メトリックの双方を含む群から選択される1つ又は複数の信号メトリックを含むことができる。一例では、第1及び第2のセットの信号メトリックが共有する少なくとも1つの信号メトリックがある(すなわち、第1及び第2のセットの信号メトリックの共通部分(intersection)が空ではない)場合、患者特有の信号メトリックは、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックの共通部分からの少なくとも1つの信号メトリックを含むことができる。別の例では、患者特有の信号メトリック選択回路は、第1のセットの信号メトリックからの少なくとも1つの信号メトリック、及び、第2のセットの信号メトリックからの少なくとも1つの信号メトリックを含むことができる。
【0029】
HFリスク層別化回路230は、患者特有の信号メトリック選択回路224からの入力を受信することができ、選択された1つ又は複数の患者特有の信号を用いて複合リスク指数を生成するように構成することができる。複合リスク指数は、およそ3ヶ月〜6ヶ月又は6ヶ月超といった特定の時間枠内で将来的な非代償性心不全事象を発症するといった、患者がHFの悪化を示す事象を後に発症する確率を示すことができる。種々の例では、HFリスク層別化回路230は、特に、肺浮腫、COPD、喘息及び肺炎等の肺症状の憎悪、心筋梗塞、拡張型心筋症(DCM)、虚血性心筋症、収縮性HF、拡張性HF、弁膜症、腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢血管病、脳血管疾患、肝疾患、糖尿病、喘息、貧血、鬱病、肺高血圧、睡眠呼吸障害、脂質異常症等の、新たな疾患を発症するか又は既存の疾患を悪化させるリスクが高い患者を同定するように構成することができる。
【0030】
コントローラ回路240は、信号分析回路220、及び、サブ構成要素回路221〜224の動作、HFリスク層別化回路230、並びに、これらの構成要素間のデータの流れ及び命令を制御することができる。コントローラ回路240は、命令受信回路250から外部プログラミング入力を受信し、受信する患者の状態、信号感知、信号メトリック生成、患者特有の信号メトリック選択又はHFリスク層別化のうちの1つ又は複数を制御することができる。命令受信器250が受信する命令の例としては:生理学的信号の感知に使用される電極若しくはセンサの選択、患者の慢性症状の選択、又は、HFリスク層別化回路230の構成が挙げられる。命令受信回路250は、ユーザにプログラミングオプションを提示するとともに、ユーザのプログラミング入力を受信するように構成されているユーザインタフェースを含むことができる。命令受信回路250は、患者の状態入力ユニット221に結合され、ユーザインタフェース等を介して患者の慢性症状指示子を受信することができる。一例では、ユーザインタフェース等の、命令受信回路250の少なくとも一部を外部システム120に実装することができる。
【0031】
図3は、信号メトリック生成回路223の一実施形態であるものとすることができる信号メトリック生成回路300の一例を示している。信号メトリック生成回路300は、信号メトリック抽出器310、信号メトリック性能分析回路320、及び、信号メトリック性能コンパレータ330のうちの1つ又は複数を含むことができる。
【0032】
信号メトリック抽出器310は、患者から感知された1つ又は複数の処理された生理学的信号を受信し、生理学的信号から信号特徴を抽出することができる。抽出される信号メトリックは、統計的な信号特徴、形態学的な信号特徴、又は、生理的活動を示す特徴を含むことができる。抽出される信号特徴の例としては、特に、平均、中央値、標準偏差、分散、相関、共分散、若しくは、特定の時間領域にわたる他の統計値;センサ信号のピーク、谷、傾き、曲線下面積、電位図信号におけるP波及びQRS群、又は、心音信号のS1、S2、S3若しくはS4成分、呼吸信号の吸気段階及び呼気段階が挙げられる。
【0033】
信号メトリック抽出器310は、患者の状態入力ユニット221が受信するような患者の慢性症状指示子が特定の条件を満たす場合に、信号特徴を抽出することができる。例えば、慢性腎疾患を患っているという患者の慢性症状を患者の状態入力ユニット221が受信する場合、信号メトリック抽出器310は、日最高呼吸数(MRR)、経胸腔的インピーダンス及びS3心音振幅を含む信号特徴を抽出することができる。2つ以上の患者の慢性症状指示子が受信されると、信号メトリック抽出器310は、患者の慢性症状指示子のそれぞれについて信号特徴を抽出することができる。慢性症状指示子と対応する信号メトリックとの関連は、記憶デバイス等の機械可読媒体に格納することができる。関連は、ルックアップテーブル又は関連マップ等の検索可能データ構造の形態で作成し、時間窓の自動的な選択を容易にすることができる。データ構造は、複数の慢性症状指示子、又は、慢性症状指示子の1つ又は複数のカテゴリ分類を含み、これらはそれぞれ、対応する1つ又は複数の信号メトリックにマッピングすることができる。
【0034】
信号メトリック性能分析回路320は、信号メトリック抽出器310からの信号メトリックの1つ又は複数について、将来的なHF事象のリスクを予測する信頼性又は精度を示すそれぞれの性能尺度を生成するように構成することができる。図3に示されているように、信号メトリック性能分析回路320は、信号感度計算回路321、信号特異度計算回路322又は信号品質計算回路323のうちの少なくとも1つを含むことができる。計算回路321〜323のそれぞれは、単独で又は任意の組み合わせで、信号メトリック抽出器310が提供する1つ又は複数の信号メトリックの性能を評価するのに使用することができる。
【0035】
感度計算回路321は、2つの非同一の状態における信号メトリックの測定値の比較等を用いて、HF状態の進行に関連する生理的変化に応答して信号メトリックの感度を求めるように構成することができる。第1の状態及び第2の状態は、非同一の一時的な情報を含むことができる。一例では、感度計算回路321は、信号メトリック(X)について、第1の状態における信号メトリック(XS1)と第2の状態における信号メトリック(XS2)との相対変化(差ΔX等)を計算することができ、すなわち、ΔX=XS1−XS2である。相対変化は、第1の状態と第2の状態との間の持続時間にわたる信号メトリックの変化率(ΔX/Δt)を含むことができ、すなわち、ΔX/Δt=(XS1−XS2)/(TS1−TS2)であり、式中、TS1及びTS2はそれぞれ、第1の状態及び第2の状態の発生時間を表す。一例では、TS1は、患者が非代償性心不全事象といった標的事象を発症する前のおよそ14日〜28日であるものとすることができ、TS2は、およそ1ヶ月〜6ヶ月又はおよそ1ヶ月〜3ヶ月の特定の持続時間だけTS1に先行する時間であるものとすることができる。第2の状態は、患者が標的事象を発症しない、信号メトリックの履歴傾向を表す基準状態であるものとすることができる。基準状態における信号メトリックは、信号メトリックの複数の履歴測定値の線形又は非線形の組み合わせを用いて計算することができる。(非代償性心不全事象前の状態等の)第1の状態から(第1の状態に先行する状態すなわち基準状態等の)第2の状態への信号メトリックの相対変化はしたがって、HF状態の進行に応じた信号メトリックの予測内容を示すことができる。高感度の信号メトリックは、非代償性心不全事象といったHFの悪化の事象を発症する将来的なリスクを同定する上で高い予測内容を保つ。一例では、感度計算回路321は、相対変化ΔX又はΔX/XS2の統計的有意性を計算することができる。有意性は、患者の群からの相対変化データを統計的モデルに当てはめることによって得られるp値として計算することができる。信号メトリックの感度は、上述したようなp値及び相対変化ΔX又はΔX/XS2の双方を使用して計算することができる。大きいΔX又はΔX/XS2及び小さいp値等の大きく有意な変化を有する信号メトリックは、非代償性心不全事象等の標的事象を検出するのにより望ましい。一例では、感度スコアは、相対変化ΔX/XS2及びp値の負対数の積として計算することができ、すなわち、−log(p−値)×ΔX/XS2である。より高い感度スコアは、標的事象を検出する上で高い予測内容を保つ。
【0036】
特異度計算回路322は、HFの悪化に関連しない生理的又は非生理的な変化に応じて信号メトリックの特異度を求めるように構成することができる。例えば、将来的な非代償性心不全事象の尤度を予測する上で、ノイズ等の交絡事象、影響、患者の活動、リードの破損、リードの改正(revision)、ペーシング形態の変化又はデバイスの交換は、近い将来の非代償性心不全事象に関連する生理的変化ではない。特異度は、HFの悪化に起因しない事象を予測する上で信号メトリックの精度を特性化することができる。特異度計算回路322は、2つの非同一状態における信号メトリックの測定値の比較を用いて特異度を求めることができる。第1の状態及び第2の状態は、非同一の一時的な情報を含むことができる。特異度計算回路322は、第1の状態から第2の状態への信号メトリック(X)の相対変化を計算することができる。第1の状態は、患者が非代償性心不全事象といった標的事象を発症する前のおよそ14日〜28日といった時間で生じることができる。第2の状態は、およそ1ヶ月〜6ヶ月又はおよそ1ヶ月〜3ヶ月等の少なくとも特定の持続時間だけ第1の状態に先行する時間で生じることができる。第2の状態は、信号メトリックの履歴傾向を表す基準状態であるものとすることができる。(非代償性心不全事象前の状態等の)第1の状態から(第1の状態に先行する状態すなわち基準状態等の)第2の状態への信号メトリックの相対変化はしたがって、HFの悪化を示す事象がない信号メトリックの反応を示すことができる。高特異度の信号メトリックはしたがって、低リスク事象を高リスク事象として過って予測する割合を低減する。
【0037】
信号品質計算回路323は、信号メトリックの信号品質を求めるように構成することができる。信号品質としては、特に、信号強度、信号変動又は信号対雑音比が挙げられる。信号変動の例としては、範囲、四分位範囲、標準偏差、分散、サンプル分散、又は、変動の程度を表す他の一次、二次若しくはより高次の統計が挙げられる。例えば、S1心音強度の信号メトリックの質を求める上で、信号品質計算回路323は、特定の時間期間中の複数の心臓周期等からS1心音強度の複数の測定を行うことができる。信号品質計算回路323は、S1強度の複数の測定値の分散を計算することによってS1強度の変動性を求めることができる。高信号対雑音比、高信号強度又は低信号変動の1つ又は複数によって示されるような高信号品質が、将来的なHF事象を発症するリスクが高い患者を同定するために望ましい。
【0038】
信号感度計算回路321、信号特異度計算回路322又は信号品質計算回路323は、母集団に基づく統計値を用いてそれぞれの信号性能尺度(例えば、信号感度、特異度又は質)を求めることができる。例えば、日最高呼吸数(MRR)の信号メトリックは、現在の患者と同一又は同様である(腎疾患等の)慢性症状を有する患者のコホートにおいて測定することができる。母集団に基づく日最高呼吸数に関する信号感度、信号特異度又は信号品質等の統計値は、母集団に基づくデータから求めることができる。これらの統計的データは、データベースから検索されるか、又は、信号メトリック性能分析回路320に別様に提供され、信号感度計算回路321、信号特異度計算回路322若しくは信号品質計算回路323のうちの1つ又は複数によって使用されることができる。一例では、信号メトリック性能分析回路320は、母集団に基づく統計値(例えば日最高呼吸数の母集団に基づく感度)及び患者の性能尺度(例えば日最高呼吸数の感度)の双方を用いてそれぞれの信号性能尺度を求めることができる。
【0039】
信号メトリック性能コンパレータ330は、信号メトリック性能分析回路320に結合され、信号感度、信号特異度若しくは信号品質又はそれらの任意の組み合わせを含む性能尺度の比較に少なくとも部分的に基づいて、複数の信号メトリックから1つ又は複数の信号メトリックを選択するように構成することができる。一例では、信号メトリック性能コンパレータ330は、性能尺度の1つ又は複数の線形の組み合わせ又は非線形の組み合わせを用いて、信号メトリックに関する複合性能スコアを計算することができる。複合性能スコアを次に、信号メトリックを選択することができるか否かを判断するために特定の閾値と比較することができる。例えば、日最高呼吸数(MRR)の信号メトリックについての複合性能スコア(FMRR)は、FMRR=a×Ss+b×Sp+c×Qとして計算することができ、式中、a、b、cは、それぞれの性能尺度の感度(Ss)、特異度(Sp)及び質(Q)に対するスカラ重みである。信号メトリック性能コンパレータ330は、FMRRが特定の閾値を超える場合、例えばFMRR>FMRR−THである場合に、将来的な非代償性心不全事象の尤度を予測するためにセンサベースの「リスク層別子」として日最高呼吸数を選択することができる。別の例では、信号メトリック性能コンパレータ330は、1つ又は複数の性能尺度が特定の基準を満たす場合に信号メトリックを選択することができる。例えば、信号メトリック性能コンパレータ330は、感度、特異度又は質がそれぞれの閾値をそれぞれ超える場合、例えばSs>Ss−TH、Sp>Sp−TH又はQ>QTHである場合に、患者が将来的な非代償性心不全事象を発症するリスクを同定するために日最高呼吸数を選択することができる。
【0040】
信号メトリック抽出器310が、信号メトリック性能分析回路320に提供される2つ以上の信号メトリックを生成する場合、信号メトリック性能コンパレータ330は、信号メトリックを優先順位付けすること等、信号メトリックを構造化することができる。信号メトリック性能コンパレータ330は、それらのそれぞれの性能尺度に少なくとも部分的に基づいて、信号メトリックを優先順位付けすることができる。例えば、糖尿病を患う患者の慢性症状指示子に対応して、信号メトリック抽出器310は、平均正常RR間隔の標準偏差(SDANN)、24時間の最高心臓内インピーダンス(Zmax)、日最高呼吸数(MRR)及び日最高1回換気量(TV)を含む信号メトリックのセットを生成することができる。信号メトリック性能分析回路320は、信号メトリックのそれぞれについて複合性能スコア(F)を計算することができる。信号メトリック性能コンパレータ330における性能尺度の比較によって、FMRR≧FTV≧FZmax≧FSDANNであることが示される場合、優先順位が付けられた信号メトリックは、(MRR、TV、Zmax、SDANN)の順であるものとすることができる。
【0041】
患者特有の信号メトリック選択回路224は、信号メトリック生成回路223に結合され、第1の慢性症状指示子に対応する少なくとも第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック及び第2の慢性症状指示子に対応する第2のセットの信号メトリックを受信することができる。患者特有の信号メトリック選択回路224は、慢性症状インデックス付き信号メトリック性能コンパレータ341及び慢性症状インデックス付き信号メトリックセレクタ342を含むことができる。慢性症状インデックス付き信号メトリック性能コンパレータ341は、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックが共有する1つ又は複数の共通の信号メトリックを特定するように、第1のセットの信号メトリックと第2のセットの信号メトリックとを比較することができる。慢性症状インデックス付き信号メトリック性能コンパレータ341も、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックの信号感度、特異度又は信号品質等の性能尺度を比較することができる。
【0042】
慢性症状インデックス付き信号メトリックセレクタ342は、複数の信号メトリックから、第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック及び第2のセットの1つ又は複数の信号メトリックの双方を含む群から選択される1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択するように構成することができる。一例では、慢性症状インデックス付き信号メトリックセレクタ342は、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックの共通部分から少なくとも1つの信号メトリックを選択することができ、この場合、共通部分は、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックの双方が共有する少なくとも1つの共通の信号メトリックを含む。慢性症状インデックス付き信号メトリックセレクタ342は、第1のセットの信号メトリックから少なくとも1つの信号メトリックを、及び、第2のセットの信号メトリックから少なくとも1つの信号メトリックを選択することができる。例えば、慢性症状インデックス付き信号メトリックセレクタ342は、信号メトリック性能コンパレータ330によって提供されるような優先順位が付けられた信号メトリックを使用し、第1のセットから最高複合性能の信号メトリックを、及び、第2のセットから最高複合性能スコアの信号メトリックを選択することができる。性能尺度に少なくとも部分的に基づいて第1のセット及び第2のセットから患者特有の信号メトリックを選択する他の手法も意図されてきた。
【0043】
図4は、HFリスク層別化回路230の一実施形態であるものとすることができるHFリスク層別化回路400の一例を示している。HFリスク層別化回路400は、患者特有の信号メトリック選択回路224から慢性症状インデックス付き信号メトリックを受信し、受信した信号メトリックを用いて複合リスク指数(CRI)を生成することができる。CRIは、患者が、HFの悪化を示す事象を後に発症する確率を示す量であるものとすることができる。一例では、HFの悪化は、非代償性心不全状態を示す事象であるものとすることができる。HFリスク層別化回路400は、HFリスク分析器401、HFリスク報告生成器402、並びに、信号メトリック選択及び性能報告生成器403を含むことができる。
【0044】
HFリスク分析器401は、慢性症状インデックス付き信号メトリックを用いてCRIを生成することができる。HFリスク分析器401は、慢性症状インデックス付き信号メトリック(Mi)のそれぞれについて、特定の確率モデルを用いてそれぞれの個々のリスクスコア(RMi)を生成することができる。HFリスク分析器401は、それぞれの慢性症状インデックス付き信号メトリックに関連するリスクスコアの線形又は非線形の組み合わせを用いて複合リスク指数を計算することができる。重み因子は、それぞれの信号メトリックの性能尺度に比例するものとすることができる。例えば、患者特有の信号メトリック選択回路224が患者の慢性症状に従ってMRR及びSDANNを選択し、それぞれの性能尺度がFMRR及びFSDANNであり、それぞれの個々のリスクスコアがRMRR及びRSDANNである場合、CRIは、CRI=RMRR×FMRR/(FMRR+SDANN)+RSDANN×FSDANN/(FMRR+SDANN)として計算することができる。CRIは、機械学習法の中でも、決定木、ニューラルネットワーク、ベイジアンネットワーク等の個々のリスク指数を用いてパラメトリック又は非パラメトリックモデルとして求めることもできる。一例では、CRIは、確率モデルp(D)=1/(1+exp(x))を用いて計算することができ、式中、p(D)は、非代償性心不全(D)事象等の標的事象の確率を表し、xは、個々のリスクスコアの線形若しくは非線形の組み合わせ、又は、選択された1つ又は複数の患者特有の信号メトリックの測定値の線形若しくは非線形の組み合わせを表す。
【0045】
HFリスク分析器401は、CRIと標準尺度との比較を用いて2つ以上のカテゴリリスクレベルを生成することができる。標準尺度は、患者の母集団の慢性症状インデックス付き信号メトリックを用いて計算することができる。CRIと標準との間のより高い相違は、同様の慢性症状を有する平均的な患者よりも、患者が将来的にHF事象を発症するリスクがより高いことを示すことができる。慢性症状インデックス付き信号メトリックを用いたHFリスク層別化の例を、例えば図7を参照して以下で説明する。
【0046】
HFリスク報告生成器402は、ユーザに、患者が将来的なHF事象を発症するリスクが高いことを知らせるか、注意するか又は警告するように報告を生成することができる。報告は、リスクが予測される対応する時間枠を有する1つ又は複数の複合リスク指数を含むことができる。報告は、確認試験、診断又は治療の選択肢等の推奨動作も含むことができる。報告は、例えばテキスト若しくはグラフィックメッセージ、音、画像又はそれらの組み合わせを含む媒体の1つ又は複数のフォーマットを含むことができる。一例では、HFリスク報告生成器402は、命令受信回路250に結合することができ、報告は、命令受信回路250上のインタラクティブユーザインタフェースを介してユーザに提示することができる。HFリスク報告生成器402は、外部デバイス120に結合され、ユーザに、外部デバイス120を介して、将来的なHF事象を発症する患者のリスク(複合リスク指数等)を提示するように構成することができる。
【0047】
信号メトリック選択及び性能報告生成器403は、患者の状態入力ユニット221から受信されるような慢性症状指示子、信号メトリック生成回路223によって生成されるような信号メトリック及びそれぞれの性能尺度、又は、患者特有の信号メトリック選択回路224によって生成されるような慢性症状インデックス付き信号メトリックを含む報告のうちの1つ又は複数を生成してユーザに提示することができる。信号メトリック選択及び性能報告生成器403は、外部デバイス120又は命令受信回路250に結合され、内部においてユーザに信号メトリック情報を提示するように構成することができる。ユーザの入力は、患者特有の信号メトリック又は患者の慢性症状指示子に対して動作するように、確認、格納又は他のプログラミング命令を含むことができる。
【0048】
図5は、1つ又は複数の生理学的信号を用いて非代償性心不全事象等の将来的なHF事象のリスクを予測する方法500の一例を示している。方法500は、携帯型医療デバイス又は遠隔の患者管理システムにおいて実施されて動作することができる。一例では、方法500は、IMD110に実装される患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路113、又は、IMD110と通信することができる外部デバイス120によって行うことができる。
【0049】
501において、患者の少なくとも2つの慢性症状指示子を受信することができる。患者の慢性症状指示子は、およそ少なくとも6ヶ月といった或る特定の時間にわたって変化しないか又はゆっくりと変化する患者の特性又は持続する医学的状態を説明することができる。患者の第1及び第2の慢性症状指示子を含む少なくとも2つの慢性症状指示子は非同一であるものとすることができる。例えば、第1及び第2の慢性症状指示子は、患者の慢性病指示子(例えば、以前のMI、虚血性若しくは拡張型心筋症、弁膜症、腎疾患、COPD)、患者の以前の医療処置指示子(例えばCABG、胸部手術)、又は、患者の人口動態特性指示子(例えば、年齢、性別、人種、身長、NYHA分類)のうちの少なくとも1つをそれぞれ含むことができる。慢性症状指示子は、特定の症状の存在若しくは非存在を示すバイナリ値、複数のカテゴリ分類、又は、特定の慢性症状の進行ステージ、又は、生理的パラメータの複数の値範囲を含むことができる。
【0050】
502において、1つ又は複数の生理学的信号を患者から感知することができる。生理学的信号は、身体における電気的又は機械的活動を表すことができる。生理学的信号の例としては:心拍数、心拍数変動、伝導時間、不整脈、胸郭内インピーダンス、心臓内インピーダンス、動脈圧、肺動脈圧、RV圧力、LV冠状動脈圧、心音、呼吸数若しくは1回換気量を含む呼吸信号;冠動脈血流温度、血液酸素飽和度、電解質濃度、又は、患者の生理機能を示す他の尺度が挙げられる。生理学的信号は、108A〜C等のリードのうちの1つ又は複数の電極に結合される信号感知回路、又は、携帯型医療デバイスに関連する埋め込み型若しくは外部の生理的センサから受信することができる。生理学的信号は、生理学的データが格納される信号メモリから受信することもできる。
【0051】
503において、複数の信号メトリックを1つ又は複数の生理学的信号から生成することができる。信号メトリックは、統計的尺度、形態学的尺度、又は、生理的活動を示す生理学的信号の一部等の、1つ又は複数の生理学的信号から抽出される信号特徴を含むことができる。信号メトリックの例としては、平均、中央値若しくは生理学的信号の一部の他の中心傾向;分散、標準偏差又は生理学的信号の一部の他の二次若しくはより高次の統計的尺度;生理学的信号の一部のピーク、谷、傾き若しくは他の形態学的な特徴;電位図信号におけるP波及びQRS群;心音信号のS1、S2、S3若しくはS4成分;呼吸信号の吸気段階及び呼気段階が挙げられる。
【0052】
生成された信号メトリックは、第1の慢性症状指示子が第1の特定の基準を満たす場合に第1のセットの1つ又は複数の信号メトリック、及び、第2の慢性症状指示子が第2の特定の基準を満たす場合に第2のセットの1つ又は複数の信号メトリックを含むことができる。第1及び第2の慢性症状指示子は互いに非同一であるものとすることができるため、第1のセットの信号メトリックは、第2のセットの信号メトリックとは非同一であり得る。一例では、第1の慢性症状指示子はCKDであり、第2の慢性症状指示子は糖尿病である。第1の慢性症状指示子が「ステージ3以上のCKD」の基準を満たす場合、第1のセットの信号メトリック(MCKD)は:MCKD={日最高呼吸数信号(MRR),心臓内インピーダンス信号の平均(AvgZ1),S3心音振幅(S3Amp)}を含むことができる。第2の慢性症状指示子が「過去5年以内に糖尿病を患った患者」の基準を満たす場合、第2のセットの信号メトリック(MDiabetes)は:MDiabetes={平均R−R間隔の標準偏差(SDANN),心臓内インピーダンス信号の平均(AvgZ1)}を含むことができる。患者の慢性症状指示子に従った信号メトリックの選択の例を、図6等を参照して以下で説明する。
【0053】
504において、1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを、503において生成されるような複数の信号メトリックから選択することができる。患者特有の信号メトリックは、第1の慢性症状指示子に対応する第1のセットの信号メトリック及び第2の慢性症状指示子に対応する第2のセットの信号メトリックの共通部分からの少なくとも1つの信号メトリックを含むことができる。CKDに対応する第1のセットの信号メトリックがMCKD={MRR,AvgZ1,S3Amp}を含み、第2のセットの信号メトリックがMDiabetes={SDANN,AvgZ1}を含む例では、2つのセットのMCKD及びMDiabetesの共通部分、すなわちAvgZ1を、患者特有の信号メトリックとして選択することができ、すなわち、M={AvgZ1}である。別の例では、患者特有の信号メトリックは、第1のセットの信号メトリックからの少なくとも1つの信号メトリック、及び、第2のセットの信号メトリックからの少なくとも1つの信号メトリックを含むことができる。上記で説明したようなMCKD及びMDiabetesの例を用いて、患者特有の信号メトリックを、M={MRR,SDANN}として選択することができる。患者特有の信号メトリックとなるように各セットから信号メトリックを選択することは、各セットにおいてそれぞれの信号メトリックの性能尺度を用いて行うことができる。信号メトリックの性能尺度の例を、図6等を参照して以下で説明する。
【0054】
505において、複合リスク指数(CRI)を、504において求めたような選択された患者特有の信号メトリックを用いて生成し、患者が、患者の非代償性心不全状態を示す事象等の将来的なHF事象を発症する確率を推定することができる。CRIを、1つ又は複数の患者特有の信号メトリックに関連するリスクスコアを用いて計算することができる。例えば、CRIは、リスクスコアの線形関数又は非線形関数であるものとすることができる。第1及び第2の慢性症状指示子によってインデックス付けされるリスクスコアを、母集団に基づくデータを用いて作成した確率モデルを用いて計算することができる。慢性症状インデックス付き信号メトリックについてのリスクスコアを生成する例を、図7等を参照して以下で説明する。
【0055】
計算したCRIを、患者がHF事象を後に発症する高いリスクを示す2つ以上のリスクレベルに更に分類することができる。CRIを標準尺度と比較することができ、CRIと標準尺度との相違を用いて将来的なHF事象のリスクを評価することができる。
【0056】
図6は、1つ又は複数の生理学的信号から複数の信号メトリックを生成する方法600の一例を示している。方法600は、503の例であるものとすることができる。方法は、患者からの少なくとも第1及び第2の慢性症状指示子を含む複数の慢性症状指示子、及び、1つ又は複数の生理的センサ等を用いて患者から感知した1つ又は複数の生理学的信号の入力を受け取り、各それぞれの慢性症状指示子に対応するセットの信号メトリックを生成することができる。方法600は、504等において1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択するのに用いることができる各信号メトリックの性能尺度も生成することができる。一例では、方法600は、図2に示されているような信号メトリック生成回路223によって行うことができる。
【0057】
601において、各受信した慢性症状指示子について、それぞれのセットの候補信号メトリックを、慢性症状指示子が、状態の特定の分類、疾患のステージ又は生理的パラメータの値範囲として分類されるような特定の基準を満たす場合に生成することができる。候補信号メトリックの数、タイプ又は候補信号メトリックを生成する方法を含む、各慢性症状指示子に関連する候補信号メトリックは、母集団に基づくデータ等を用いて予め求めることができる。例えば、ステージ3以上のCKDを患う患者の場合、種々の信号メトリックを、同様の慢性症状(例えばステージ3以上のCKD)を有する患者のコホート、及び、同様の慢性症状を有しない患者の別のコホートにおいて評価することができる。信号メトリック(例えば日最高呼吸数、すなわちMRR)が患者の2つのコホート間の望ましい差異のレベルを示す場合、その信号メトリックを、CKDの慢性症状に関連する候補信号メトリックとして決定することができる。
【0058】
602において、各候補信号メトリックについて信号感度尺度を生成することができる。感度尺度は、標的事象又は症状の進行を予測する上で信号メトリックの能力を示すことができる。感度尺度は、第1の状態から第2の状態へのそれぞれの信号メトリックの相対変化として計算することができる。一例では、第2の状態は、第1の状態の一時的な情報とは非同一の一時的な情報を含む。例えば、将来的な非代償性心不全事象のリスクを予測する上で、第1の状態は、患者が非代償性心不全事象等の標的事象を発症する前の時間で生じることができ、第2の状態は、およそ1ヶ月〜6ヶ月又はおよそ1ヶ月〜3ヶ月といった少なくとも特定の持続時間だけ第1の状態に先行する時間で生じることができる。別の例では、第2の状態は、信号メトリックの複数の履歴測定値を用いて計算される基準状態であるものとすることができる。感度尺度は、標的事象又は症状を検出する偽陰性率を含むことができる。低い偽陰性率が、高感度尺度に相当することができる。感度尺度は、標的事象又は症状を正確に認識する尤度を表す陽性的中率(PPV)も含むことができる。高感度の信号メトリックは、非代償性心不全事象等の将来的なHF事象のリスクを予測する上で予測内容を保つ。
【0059】
603において、計算した信号感度尺度を用いて、それぞれの信号メトリックについての性能尺度を求めることができる。性能尺度は、信号メトリックがどの程度良好にHFの悪化を予測することができるかを示すことができる。一例では、性能尺度は、信号メトリックの感度尺度及び信号メトリックの母集団に基づく統計値を含むことができる。感度尺度は、非同一の一時的な情報を有する2つの状態間の信号メトリックの「1人の患者の(intra−patient)」相対変化を含むことができるが、母集団に基づく統計値は、将来的なHF事象のリスクを推定する上で予測内容を保つときに信号メトリックの「複数の患者間の(inter−patient)」一貫性を含むことができる。例えば、同様のタイプの慢性症状(例えばステージ3以上のCKD)を有する患者のコホートにわたる日最高呼吸数の感度尺度の平均、分散又は統計的分布等の母集団に基づく統計値を、患者のデータベースから検索し、性能尺度を求める上で更に用いることができる。
【0060】
それぞれの信号メトリックの性能尺度を、それぞれの信号メトリックの感度尺度と併せて又は代替的に、他のパラメータを用いて求めることができる。1つの例では、性能尺度は、HF又は非代償性心不全事象の悪化といった標的事象又は症状に関連しない生理的又は非生理的な変化に応じた信号メトリックの特異度尺度を含むことができる。特異度尺度は、標的事象の非存在下での、(非代償性心不全事象前の状態等の)第1の状態から(第1の状態に先行する状態すなわち基準状態等の)第2の状態への信号メトリックの相対変化として計算することができる。特異度尺度は、標的事象又は症状を検出する偽陽性率を含むことができる。低い偽陽性率は、高特異性尺度に相当することができる。特異度尺度は、非標的事象又は症状を正確に認識する尤度を表す陰性的中率(NPV)も含むことができる。別の例では、性能尺度は、信号強度、信号変動又は信号対雑音比等の信号品質尺度を含むことができる。種々の例では、同様のタイプの慢性症状を有する患者のコホートのデータを用いて計算される中心傾向又は統計的分布等の特異度尺度又は信号品質尺度の母集団に基づく統計値を、データベースから検索し、性能尺度を求める上で用いることができる。
【0061】
604において、各慢性症状指示子入力に関する候補信号メトリックを、少なくともそれらのそれぞれの性能尺度を用いて比較し、優先順位を付けることができる。一例では、各候補信号メトリックについて、感度尺度、特異度尺度又は信号品質尺度の1つ又は複数の線形の組み合わせ又は非線形の組み合わせ等の複合性能スコアを計算することができる。各慢性症状指示子に関する候補信号メトリックに、少なくともそれらのそれぞれの複合性能スコアに基づいて降順で構成するといったように優先順位を付けることができる。優先順位が付けられた候補信号メトリック及びそれぞれの複合性能スコアは、504等において1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを選択するためのものであり得る。
【0062】
図7は、患者の慢性症状指示子の情報を用いるといった、1つ又は複数の生理学的信号を用いて将来的なHF事象のリスク層別化を提供する方法700の一例を示している。方法700は方法500の一実施形態であるものとすることができる。一例では、方法700を、患者の慢性症状ベースのHFリスク評価回路200によって行うことができる。
【0063】
701において、患者の1つ又は複数の生理学的信号を受信することができる。生理学的信号は、電極に結合される信号感知回路、又は、携帯型医療デバイス若しくは生理学的モニタに関連する外部の若しくは埋め込み型の生理的センサ、又は、信号メモリから受信することができる。
【0064】
702において、患者の第1の慢性症状指示子を、システムのユーザ(例えば医師)等から、携帯型医療デバイスと通信する送受信機上のユーザインタフェースを介して受信することができる。慢性症状指示子は、患者の慢性病指示子、患者の以前の医療処置指示子、患者の人口動態特性指示子、又は、およそ少なくとも6ヶ月といった或る特定の時間にわたって変化しないか若しくはゆっくりと変化する患者の特性若しくは持続的な医学的状態を説明する任意の他の症状を含むことができる。第1の慢性症状指示子を、703において特定の基準と比較することができ、例えば、第1の慢性症状指示子が慢性病の或るカテゴリ分類又は進行ステージに入るか否かを判断する。第1の慢性症状指示子が特定の基準を満たす場合、703において、第1のセットの信号メトリックを、1つ又は複数の生理学的信号を用いて生成することができる。信号メトリックは、携帯型医療デバイスに格納されている特定の命令及び方法に従って生成することができる。各信号メトリックについて、信号メトリックの感度、特異度、信号対雑音比等の信号品質尺度又はそれらの任意の組み合わせを含むそれぞれの性能尺度を計算することができる。
【0065】
704において、患者の第2の慢性症状指示子を受信することができる。第2の慢性症状指示子は第1の慢性症状指示子と非同一であるものとすることができる。第2のセットの信号メトリックを、703における第1の慢性症状指示子についての信号メトリック生成と同様の手法を用いて、705において生成することができる。第2の慢性症状指示子は第1の慢性症状指示子と非同一であるため、第2のセットの信号メトリックは、第1のセットの信号メトリックと非同一であるものとすることができる。
【0066】
706において、1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックの双方を含む群から選択することができる。一例では、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックが共有する少なくとも1つの信号メトリックがある場合、患者特有の信号メトリックは、第1のセット及び第2のセットの信号メトリックの共通部分からの少なくとも1つの信号メトリックを含むことができる。代替的に又は加えて、患者特有の信号メトリックは、第1のセットの信号メトリックからの少なくとも1つの信号メトリック及び第2のセットの信号メトリックからの少なくとも1つの信号メトリックを含むことができる。例えば、各慢性症状指示子に関する信号メトリックを、それらのそれぞれの性能尺度に従って構成することができる。患者特有の信号メトリックは、第1のセットからの最高の性能尺度を有する信号メトリック、及び、第2のセットからの最高の性能尺度を有する信号メトリックを含むことができる。
【0067】
707において、複合リスク指数(CRI)を、1つ又は複数の患者特有の信号メトリックを用いて生成することができる。CRIは、過剰な胸腔内液体貯留、心音の上昇、心拍数の上昇、呼吸数の上昇、1回換気量の低下、活動の低下又は非代償性心不全状態を示す他の事象等の、HFの悪化を示す事象を患者が後に発症する確率を示す量であるものとすることができる。
【0068】
706において選択された各患者特有の信号メトリックについて、それぞれの個々のリスクスコアを、確率モデル等を用いて計算することができる。例えば、個々のリスクスコア(RMi)を、信号メトリック(Mi)の測定値を前提として、患者が将来的なHF事象(E)を発症する事後確率として計算することができ、すなわち、RMi=P(E|M)である。事後確率は、ベイズの定理RMi=P(Mi|E)×P(E)/P(Mi)を使用して計算することができ、式中、P(Mi|E)は尤度であり、P(E)は事前確率である。尤度P(Mi|E)は、母集団に基づくデータを用いて生成することができる。
【0069】
707において、複合リスク指数(CRI)を、慢性症状インデックス付き信号メトリックに関するリスクスコアの少なくとも一部の線形又は非線形の組み合わせを使用して計算することができる。例えば、ステージ3以上の慢性腎疾患(CKD)の患者の慢性症状によってインデックス付けされる3つの信号メトリックを仮定すると、MCKD={MRR,AvgZ1,S3Amp}によって表される。これらの信号メトリックを有するそれぞれのリスクスコアは、RMRR、RAvgZ1及びRS3Ampとして示すことができる。次に、CRIを、CRI=f(RMRR,RAvgZ1,RS3Amp)であるように、それぞれのリスクスコアの関数として計算することができる。リスク積分関数fは、CRIを、個々のリスクスコアの加重和として計算することができるように、線形関数であるものとすることができ、すなわち、CRI=a×RMRR+b×RAvgZ1+c×RS3Ampであり、式中、a、b及びcはそれぞれのリスクスコアに割り当てられる重み因子である。重み因子は、メモリに格納されるような予め求められたスカラであるものとすることができ、メモリにおいて、スカラを用いるために読み取ることができる。重み因子は、706において1つ又は複数の患者特有の信号メトリックについて求めたように信号メトリック性能尺度を用いて求めることもできる。一例では、特定のリスクスコアについての重み因子を、それぞれの信号メトリックの性能尺度に比例する量として求めることができる。一例では、CRIは、確率モデルp(D)=1/(1+exp(x))を用いて計算することができ、式中、p(D)は、非代償性心不全(D)事象等の標的事象の確率を表し、xは、個々のリスクスコアの線形若しくは非線形の組み合わせ、又は、選択された1つ又は複数の患者特有の信号メトリックの測定値の線形若しくは非線形の組み合わせを表す。
【0070】
リスク積分関数fは、非線形多変量モデル等の非線形関数であるものとすることができる。幾つかの例では、積分関数fは、ベイジアンネットワーク等の確率ネットワークを含む計算方法を表すことができる。707において、個々のリスクスコアに加えて結合リスクスコア(joint risk score)を計算することができる。結合リスクスコアは、2つ以上の慢性症状インデックス付き信号メトリックの合同測定値(joint measurements)を前提として、将来的なHF事象を有する患者の事後確率を示すことができる。例えば、HFリスク分析器401は、R(Mi,Mj)=P(E|(Mi,Mj))=P((Mi,Mj)|E)×P(E)/P(Mi,Mj)として計算することができる結合リスクスコアR(Mi,Mj)を計算することができる。尤度P((Mi,Mj)|E)は、母集団に基づくデータを使用して求めることができる。MCKD={MRR,AvgZ1,S3Amp}の以前の例を用いて、CRIは、個々のリスクスコア及び結合リスクスコアの関数として計算することができ、すなわち、CRI=f(RMRR,RAvgZ1,RS3Amp,R(MRR,AvgZ1),R(MRR,S3Amp),R(AvgZ1,S3Amp),R(MRR,AvgZ1))である。積分関数fは、ベイジアンネットワーク等の確率ネットワークであるものとすることができる。
【0071】
708において、CRIを、標準又は閾値等の特定の基準に対してチェックし、患者が将来的なHF事象を発症するリスクを求める。標準尺度は、患者の母集団の慢性症状インデックス付き信号メトリックを用いて計算することができる。患者の母集団のうちの複数の患者は、分析中の患者として少なくとも第1及び第2の慢性症状指示子を有することができる。そのような母集団から計算される標準尺度は、将来的なHF事象を発症する「平均的な」患者のリスクを示すことができる。標準尺度としては:平均、中央値、範囲又は患者の母集団にわたるリスクの他の中心傾向;分散、標準偏差又は患者の母集団にわたる他の二次若しくはより高次の統計的尺度;ヒストグラム、統計的分布、又は、ヒストグラム若しくは統計的分布を表すパラメトリック若しくは非パラメトリックモデルが挙げられる。
【0072】
比較は、CRIと標準との相違を計算することを含むことができる。相違の例としては、差、比、パーセンタイル変化又は他の相対変化が挙げられる。相違は、標準尺度の統計的分布を用いて多次元距離として計算することができる。相違は、CRIを、患者がHF事象を後に発症する高いリスクを示す2つ以上のカテゴリリスクレベルに分類することができるように、1つ又は複数の閾値と比較されることができる。例えば、カテゴリレベルは、「高リスク」、「中リスク」又は「低リスク」を含むことができる。CRIと標準とのより高い相違は、同様の慢性症状を有する平均的な患者よりも、患者が将来的にHF事象を発症するリスクが高いことを示すことができる。
【0073】
CRIが「中リスク」又は「高リスク」レベルとして分類されるCRI値等の特定の基準を満たす場合、710において、ユーザに、患者の高いリスクを知らせるように報告が生成される。報告は、分析のために選択される患者特有の信号メトリック、CRI、CRIのカテゴリ分類、又は、介入、更なる試験若しくは患者の治療オプションの推奨の情報のいずれか又は全てを含むことができる。報告は、テキスト若しくはグラフィックメッセージ、音、画像又はそれらの任意の組み合わせの形態であるものとすることができる。
【0074】
CRIが特定の基準を満たさない場合、709において、CRIの計算に新たなセットの患者特有の信号メトリックを用いるか否かに関して決定を行う。新たなセットの患者特有の信号メトリックは、706において用いた患者特有の信号メトリックとは異なるものとすることができる。例えば、706において、患者特有の信号メトリックが、703において生成されたような第1のセットの信号メトリックと705において生成されたような第2のセットの信号メトリックとの共通部分のみを含む場合、709において、患者特有の信号メトリックは、第1のセットからの最高性能スコアを有する信号メトリック、及び、第2のセットからの最高性能スコアを有する信号メトリックを含むことができる。別の例では、706において、患者特有の信号メトリックが、第1及び第2のセットからの最高性能スコアを有する信号メトリックを含む場合、709において、患者特有の信号メトリックは、第1及び第2のセットからの第2の最高性能スコアを有する信号メトリックを含むことができる。709における決定は、システムのユーザから受信するか、又は、僅差だけ(例えば閾値を下回る)基準を満たさないCRIに応じて自動的に実行することができる。異なるセットの患者特有の信号メトリックが使用されると決定される場合、新たなCRIを707において生成することができ;そうでなければ、患者は将来的なHF事象を発症するリスクが低いとみなされ;予防処置は必要であるとみなされない。患者の監視を、701における生理学的信号の受信とともに続けることができる。
【0075】
上記の詳細な説明は、当該詳細な説明の一部を形成する添付の図面への言及を含む。図面は、例証として、本発明が実施され得る特定の実施形態を示している。これらの実施形態はまた、本明細書では「例」とも称される。そのような例は、図示又は説明されるものに加えて要素を含むことができる。しかしながら、本発明者らは、示されるか又は説明されるそれらの要素のみが提供される例も意図する。さらに、本発明者らはまた、図示又は説明されるそれらの要素の任意の組み合わせ又は並べ替え(若しくはそれらの1つ又は複数の態様)を用いた例を、本明細書において図示又は説明される特定の例(若しくはそれらの1つ又は複数の態様)又は他の例(若しくはそれらの1つ又は複数の態様)に関して意図する。
【0076】
本文書と、参照により援用される任意の文書との間で用法が一致しない場合には、本文書における用法が支配する。
本文書において、用語「a」又は「an」は、特許文献において一般的であるように、「少なくとも1つ」又は「1つ又は複数」の任意の他の例又は用法とは無関係に、1つ又は2つ以上を含むように用いられる。本文書において、用語「又は」は、別段の指示がない限り、非排他的論理和を示すために、すなわち、「A又はB」が、「AだがBではない」、「BだがAではない」、及び、「A及びB」を含むように、用いられる。本文書において、用語「含む(including)」及び「〜において(in which)」は、「備える(comprising)」及び「〜において(wherein)」という各用語の平易な英語の同意義として用いられる。また、以下の請求項において、用語「含む(including)」及び「備える(comprising)」は非制限的であり、すなわち、請求項においてそのような用語の後に列記されたものに加えて要素を含むシステム、デバイス、物品、組成物、配合物又はプロセスは、依然としてその請求項の範囲内にあるとみなされる。さらに、以下の請求項において、用語「第1」、「第2」及び「第3」等は、単に標識として用いられており、それらの対象に対して数的な要件を課すようには意図されない。
【0077】
本明細書において記載した方法の例は、少なくとも一部が機械又はコンピュータによって実施され得る。幾つかの例としては、上記の例に記載したような方法を行うために電子デバイスを構成するように作動可能な命令によってコード化されたコンピュータ可読媒体又は機械可読媒体が挙げられる。そのような方法の実施は、マイクロコード、アセンブリ言語コード、高水準言語コード等のようなコードを含み得る。そのようなコードは、様々な方法を行うためのコンピュータ可読命令を含み得る。コードは、コンピュータプログラム製品の一部を形成し得る。さらに、一例では、コードは、実行の間又は他のとき等に、1つ又は複数の揮発性、非一時的又は不揮発性の有形コンピュータ可読媒体上に有形に格納され得る。これらの有形コンピュータ可読媒体の例としては、ハードディスク、リムーバブル磁気ディスク、リムーバブル光ディスク(例えばコンパクトディスク及びデジタルビデオディスク)、磁気カセット、メモリカード又はメモリスティック、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
上記の説明は、例示であり、限定的なものではないことが意図される。例えば、上述の例(又はそれらの1つ又は複数の態様)は互いに組み合わせて用いてもよい。上記の説明の検討により、当業者等によって、他の実施形態が用いられ得る。要約書は、読み手が技術的な開示の性質を迅速に確認可能であるように、米国特許法施行規則第1.72条(b)に準拠するために提供される。要約書は、特許請求の範囲又は意味を解釈又は限定するためには用いられないという理解で提出されている。また、上記の詳細な説明において、種々の特徴は開示を簡素化するためにグループ化され得る。これは、特許請求されていない開示された特徴が任意の請求項に対して必須であることを意図していると解釈されるべきではない。むしろ、発明の主題は、特定の開示された実施形態の全ての特徴よりも少ない状態にあってもよい。したがって、以下の特許請求の範囲は、これにより例又は実施形態として詳細な説明に援用され、各請求項は別個の実施形態として自立し、そのような実施形態を、種々の組み合わせ又は並べ替えで互いに組み合わせることができることが意図される。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を、そのような特許請求の範囲が権利を享受する均等物の全範囲とともに参照して決定されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7