特許第6190080号(P6190080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190080エステル化セルロースエーテルを含むカプセル殻
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190080
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】エステル化セルロースエーテルを含むカプセル殻
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/38 20060101AFI20170821BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61K47/38
   A61K9/48
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-567030(P2016-567030)
(86)(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公表番号】特表2017-515825(P2017-515825A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】US2015027867
(87)【国際公開番号】WO2015179073
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】62/000,714
(32)【優先日】2014年5月20日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ジャオ
(72)【発明者】
【氏名】ローラント・アデン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・コブリンスキー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・エル・シュミット
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−016372(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/150331(WO,A1)
【文献】 特開2008−100997(JP,A)
【文献】 特開平10−330253(JP,A)
【文献】 特開平08−245423(JP,A)
【文献】 特開昭58−135807(JP,A)
【文献】 特表2013−504565(JP,A)
【文献】 特表2003−510348(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0295188(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0297565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/38
A61K 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーカプセル殻であって、
(A)サクシノイル基の一部が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和されている、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートと、
(B)前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、
(C)前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの総重量に基づいて、0〜2重量パーセントの分散剤と、を含み、
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量が、前記カプセル殻中の総ポリマー重量の100パーセントである、ポリマーカプセル殻。
【請求項2】
水性組成物から調製されたポリマーカプセル殻であって、
(A)ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが前記水性組成物に可溶性になるように、サクシノイル基の少なくとも一部が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和されている、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートと、
(B)エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、
(C)前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの総重量に基づいて、0〜2重量パーセントの分散剤と、を含み、
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量が、前記水性組成物中の総ポリマー重量の100パーセントである、ポリマーカプセル殻。
【請求項3】
炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムで部分的に中和されているヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、請求項1または2に記載のカプセル殻。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のカプセル殻を含み、薬物、または栄養もしくは食品サプリメント、またはそれらの組み合わせをさらに含む、カプセル。
【請求項5】
ポリマーカプセル殻を生成するためのプロセスであって、
(A)ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが水性組成物に可溶性になるように、サクシノイル基が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩を用いるような程度まで完全にまたは部分的に中和されている、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートと、(B)エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、(C)前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの総重量に基づいて、0〜2重量パーセントの分散剤と、を含み、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量が前記水性組成物中の総ポリマー重量の100パーセントである、水性組成物を提供するステップと、
成形ピンを前記水性組成物に浸漬させるステップと、
前記ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記成形ピン上に膜を形成するステップと、
前記成形ピン上の前記膜を乾燥させるステップと、を含む、プロセス。
【請求項6】
前記水性組成物よりも高い温度まで成形ピンを事前加熱するステップと、
前記事前加熱された成形ピンを前記水性組成物に浸漬させるステップと、
前記ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記成形ピン上に膜を形成するステップと、
前記成形ピン上の前記膜を乾燥させるステップと、を含む、請求項に記載のプロセス。
【請求項7】
少なくとも75モルパーセントのサクシノイル基が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和されている、請求項5または6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記成形ピン上の前記膜を、少なくとも60℃の温度で乾燥させて、前記生成されたカプセル殻から炭酸、ギ酸、もしくは酢酸のアンモニウム塩、またはその分解生成物を部分的に除去する、請求項6または7に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化セルロースエーテルを含むポリマーカプセル殻、カプセル殻及びかかるカプセル殻を含むカプセルを生成するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルのエステル、それらの使用、及びそれらを調製するためのプロセスは、一般に当該技術分野で周知である。セルロースエーテル−エステルを生成する既知の方法は、例えば、米国特許第4,226,981号及び同第4,365,060号に記載されるように、セルロースエーテルの、脂肪族モノカルボン酸無水物またはジカルボン酸無水物またはそれらの組み合わせとの反応を含む。
【0003】
様々な既知のエステル化セルロースエーテルは、メチルセルロースフタレート(MCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、メチルセルロースサクシネート(MCS)、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)等の、薬学的剤形のための腸溶性ポリマーとして有用である。エステル化セルロースエーテルは、錠剤、微粒子、またはカプセル等の剤形をコーティングするために使用される。腸溶性ポリマーは、酸性環境での不活性化もしくは分解から薬物を保護するか、またはその薬物による胃へ刺激を防止するが、腸管内で溶解して、その中に含有する薬物を放出する。
【0004】
米国特許第4,365,060号は、卓越した腸溶性挙動を有すると言われている腸溶性カプセルを開示する。カプセルは、スクシニル無水物及び脂肪族モノカルボン酸無水物でエステル化されたアルキル−、ヒドロキシアルキル−、またはヒドロキシアルキル−アルキル−セルロースの混合エステルから調製される。米国特許は、セルロース誘導体が、従来の浸漬方法によってだけではなく、圧縮成形、真空形成、マッチドモールド形成等の圧力下、昇温での塑性変形によってもカプセルに成形することができることを開示する。米国特許は、腸溶性カプセルが、可塑剤をまったく添加することなく、または非常に少量の可塑剤を添加することにより卓越した柔軟性を有することを提示する。残念なことには、浸漬方法は、アルキル−、ヒドロキシアルキル−、またはヒドロキシアルキル−アルキル−セルロースの混合エステルを溶解するために有機溶媒の使用を必要とする。有機溶媒は、しばしば、薬学的または栄養的用途には望ましくない。さらに、有機溶媒の取り扱いは、カプセルを生成するためのプロセスの複雑さを増大させる。塑性変形によるカプセルの形成は、しばしば、熱成形のために必要とされる熱によって生じる有意な熱応力及び熱劣化、または薄膜カプセルを熱成形するための複雑かつ高価な成形プロセスにより、望ましくない。
【0005】
上述の不利点を克服するために、米国特許出願公開第US2012/0161364号は、HPMCASまたはHPMCP等の腸溶性基剤材料、セルロースエーテル等のカプセル形成助剤、及び水酸化ナトリウム、水性アンモニア、水酸化カリウム、または水酸化カルシウム等の中和剤を含む、腸溶性硬カプセル用の水性組成物を開示する。カプセル形成助剤は、有意な量で使用される。実施例によれば、カプセルは、HPMCPが腸溶性ポリマーとして使用されるときに、腸溶性ポリマー及びカプセル形成助剤の総重量に基づいて、カプセル形成助剤として、少なくとも10パーセントのセルロースエーテルを含む。HPMCASが腸溶性ポリマーとして使用されるときに、カプセルは、腸溶性ポリマー及びカプセル形成助剤の総重量に基づいて、カプセル形成助剤として、さらに30パーセントのセルロースエーテルを含む。これらの膜形成助剤は、非腸溶性ポリマーである。膜形成助剤として、そのような大量のセルロースエーテルは、カプセルの腸溶性に影響を及ぼす。120分間を超える崩壊時間が1.2のpH、すなわち、胃内のような酸性環境下で報告されるが、カプセル中に含まれる薬物の放出は、完全な崩壊前に生じ得る。さらに、HPMCASに基づいたカプセルは、第US2012/0161364号において濁っていると報告されている。
【0006】
国際特許公開第WO2013/164121号は、カプセルを調製するための多くの技法が腸溶性(酸不溶性)ポリマーと従来の非腸溶性ポリマーとの組み合わせを依然として必要とし、結果として得られるカプセル殻の感水性または脆弱性を生じる塩またはpH調節剤を必要とし、複数の処理ステップを必要とし、及び/または非水媒体中で処理される必要があることを教示する。これらの問題を解決するために、第WO2013/164121号は、水中に分散されたHPMCASポリマーを含む水性組成物を開示し、このポリマーは、少なくとも1つのアルカリ性物質、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、カチオン性ポリマー、及びそれらの混合物で部分的に中和される。第WO2013/164121号は、実施例において、これらの分散体から生成されたカプセルが、良好なまたは優れた柔軟性及び脱塩水に対して良好な耐性を有する、すなわち、カプセルが2時間後に溶解することを示す。残念なことには、これらの分散体もまた、大量の可塑剤トリアセチン、すなわち、HPMCASの重量に基づいて、10重量%含む。そのような大量は、しばしば、カプセルにおける薬学的または栄養的用途には望ましくない。さらに、第WO2013/164121号はまた、NHで完全に中和されたHPMCASの水性分散体から調製された比較カプセルが脆弱であり、脱塩水に対して不良な耐性を有し、30分未満で溶解することも示す。比較カプセルは、それらが約25重量%のHPMCAS以外の他の構成成分、具体的には、ポリマー分散剤Tween 80、膜形成剤HPMC、ゲル化剤ポリキサマ、及び/または可塑剤トリアセチンを含むとしても、脆弱である。
【0007】
したがって、大量のポリマー膜形成助剤または大量の非ポリマー可塑剤の使用を必要としない、腸溶性を示すポリマーカプセル殻、特に硬カプセル殻を提供する差し迫った必要が依然としてある。そのようなポリマーカプセル殻を提供することは、本発明の1つの目的である。有効な様式で、具体的には、1つ以上のさらなる層で生成されたカプセルの後処理を行うことなく、腸溶性を与えるようなポリマーカプセル殻を生成することは、本発明のもう1つの目的である。
【0008】
驚くべきことには、卓越した特性のポリマーカプセル殻が、以下にさらに記載されるように、特定の塩で少なくとも部分的に中和されたある特定のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物から調製され得ることが見出される。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様は、(A)脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOHの基を含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、Rが二価の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、(B)エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含み、前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量は、カプセル殻中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントである、ポリマーカプセル殻である。
【0010】
本発明の別の態様は、(A)脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOHの基を含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、Rが二価の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、(B)エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含む、水性組成物であって、前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量が、水性組成物中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントである、水性組成物から調製されるポリマーカプセル殻である。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、上述のカプセル殻を含み、薬物、または栄養もしくは食品サプリメント、またはそれらの組み合わせをさらに含む。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、(A)式−C(O)−R−COOHの基を含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、Rが二価の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、(B)エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含む、水性組成物を提供するステップであって、前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量が、水性組成物中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントである、提供するステップと、
成形ピンを前記水性組成物に浸漬させるステップと、
前記ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記成形ピン上に膜を形成するステップと、
前記成形ピン上の前記膜を乾燥させるステップと、を含む、ポリマーカプセル殻を生成するためのプロセスである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のポリマーカプセル殻の写真を提示する。
図2】薬物が本発明のカプセル殻に充填された後の、充填及び密閉されたカプセルが、それぞれ、1.2または6.8のpHで緩衝された水性溶液に入れられる、本発明のカプセルからの薬物の放出を例示する。
図3】薬物が本発明のカプセル殻に充填された後の、充填及び密閉されたカプセルが、それぞれ、1.2または6.8のpHで緩衝された水性溶液に入れられる、本発明のカプセルからの薬物の放出を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
驚くべきことには、卓越した特性のポリマーカプセル及びカプセル殻が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で少なくとも部分的に中和されたある特定のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物から調製され得ることが見出された。卓越した品質のカプセル殻は、有機溶媒を必要とせず、大量のポリマー膜形成助剤または大量の非ポリマー可塑剤を必要とせず、単純な浸漬プロセスにおいて生成され得る。
【0015】
本発明のカプセル及びカプセル殻中に含まれる1つ以上のエステル化セルロースエーテルは、本発明の文脈において無水グルコース単位として表される、β−1,4グリコシド結合D−グルコピラノース反復単位を有するセルロース主鎖を有する。エステル化セルロースエーテルは、好ましくは、エステル化アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、またはヒドロキシアルキルアルキルセルロースである。これは、本発明のカプセル及びカプセル殻中に含まれるエステル化セルロースエーテル中で、無水グルコース単位のヒドロキシル基の少なくとも一部が、アルコキシル基、もしくはヒドロキシアルコキシル基、またはアルコキシル基とヒドロキシアルコキシル基との組み合わせによって置換されることを意味する。ヒドロキシアルコキシル基は、典型的には、ヒドロキシメトキシル基、ヒドロキシエトキシル基、及び/またはヒドロキシプロポキシル基である。ヒドロキシエトキシル基及び/またはヒドロキシプロポキシル基が好ましい。典型的には、1または2種類のヒドロキシアルコキシル基が、エステル化セルロースエーテル中に存在する。好ましくは、単一の種類のヒドロキシアルコキシル基、より好ましくは、ヒドロキシプロポキシルが存在する。アルコキシル基は、典型的には、メトキシル基、エトキシル基、及び/またはプロポキシル基である。メトキシル基が好ましい。上で定義されるエステル化セルロースエーテルの実例となるものは、エステル化メチルセルロース、エチルセルロース、及びプロピルセルロース等のエステル化アルキルセルロース;エステル化ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシブチルセルロース等のエステル化ヒドロキシアルキルセルロース;ならびにエステル化ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、及びヒドロキシブチルエチルセルロース等のエステル化ヒドロキシアルキルアルキルセルロース;ならびにエステル化ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロース等の2つ以上のヒドロキシアルキル基を有するものである。最も好ましくは、エステル化セルロースエーテルは、エステル化ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のエステル化ヒドロキシアルキルメチルセルロースである。
【0016】
ヒドロキシアルコキシル基による、無水グルコース単位のヒドロキシル基の置換度は、ヒドロキシアルコキシル基のモル置換、MS(ヒドロキシアルコキシル)によって表される。MS(ヒドロキシアルコキシル)は、エステル化セルロースエーテル中の無水グルコース単位当たりのヒドロキシアルコキシル基の平均モル数である。ヒドロキシアルキル化反応中、セルロース主鎖に結合したヒドロキシアルコキシル基のヒドロキシル基は、アルキル化剤、例えば、メチル化剤及び/またはヒドロキシアルキル化剤によってさらにエーテル化され得ることを理解されよう。無水グルコース単位の同じ炭素原子位置に対する複数の後続のヒドロキシアルキル化エーテル化反応は、側鎖をもたらし、複数のヒドロキシアルコキシル基が、エーテル結合によって互いに共有結合し、各側鎖は、全体として、セルロース主鎖に対するヒドロキシアルコキシル置換基を形成する。
【0017】
それ故に、「ヒドロキシアルコキシル基」という用語は、MS(ヒドロキシアルコキシル)の文脈において、ヒドロキシアルコキシル置換基の構成単位としてのヒドロキシアルコキシル基を称すると解釈されるべきであり、このヒドロキシアルコキシル置換基は、単一のヒドロキシアルコキシル基または上に概説される側鎖のいずれかを含み、2つ以上のヒドロキシアルコキシル単位は、エーテル結合によって互いに共有結合している。この定義内では、ヒドロキシアルコキシル置換基の末端ヒドロキシル基が、さらにアルキル化されるかどうかは重要ではなく、アルキル化及び非アルキル化ヒドロキシアルコキシル置換基の両方が、MS(ヒドロキシアルコキシル)の決定に対して含まれる。エステル化セルロースエーテルは、概して、少なくとも0.05、好ましくは少なくとも0.08、より好ましくは少なくとも0.12、最も好ましくは少なくとも0.15のヒドロキシアルコキシル基のモル置換を有する。モル置換度は、概して、1.00未満、好ましくは0.90未満、より好ましくは0.70未満、最も好ましくは0.50未満である。
【0018】
無水グルコース単位当たりの、メトキシル基等のアルコキシル基によって置換されるヒドロキシル基の平均数は、アルコキシル基の置換度、DS(アルコキシル)として表される。上に与えられたDSの定義では、「アルコキシル基によって置換されるヒドロキシル基」という用語は、本発明内においては、セルロース主鎖の炭素原子に直接的に結合したアルキル化ヒドロキシル基だけではなく、セルロース主鎖に結合したヒドロキシアルコキシル置換基のアルキル化ヒドロキシル基も含むと解釈されるものとする。エステル化セルロースエーテルは、好ましくは、少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.1、さらにより好ましくは少なくとも1.2、最も好ましくは少なくとも1.4、及び特に少なくとも1.6のDS(アルコキシル)を有する。DS(アルコキシル)は、好ましくは、2.5未満、より好ましくは2.4未満、さらにより好ましくは2.2未満、最もは2.05未満である。
【0019】
最も好ましくは、エステル化セルロースエーテルは、DS(アルコキシル)に関して上記に示された範囲内のDS(メトキシル)、及びMS(ヒドロキシアルコキシル)に関して上記に示された範囲内のMS(ヒドロキシプロポキシル)を有するエステル化ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0020】
本発明のカプセル及びカプセル殻中に含まれるエステル化セルロースエーテル(複数を含む)は、脂肪族一価アシル基と式−C(O)−R−COOHの基とを有し、Rが二価の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、基−C(O)−R−COOHの一部が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和される。
【0021】
脂肪族一価アシル基は、好ましくは、アセチル、プロピオニル、及びn−ブチリルまたはi−ブチリル等のブチリルからなる群から選択される。
【0022】
式−C(O)−R−COOHの好ましい基は、
−C(O)−CH−CH−COOH、−C(O)−CH=CH−COOH、または−C(O)−C−COOHである。式−C(O)−C−COOHの基において、カルボニル基及びカルボン酸基は、好ましくは、オルト位で配列される。
【0023】
好ましいエステル化セルロースエーテルは、
i)HPMCXYであって、HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロースであるか、XはA(アセテート)であるか、もしくはXはB(ブチラート)であるか、もしくはXはPr(プロピオネート)であり、YはS(サクシネート)であるか、もしくはYはP(フタレート)であるか、もしくはYはM(マレアート)であり、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート(HPMCAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレアート(HPMCAM)、もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)である、または
ii)ヒドロキシプロピルセルロースアセテートサクシネート(HPCAS)、ヒドロキシブチルメチルセルロースプロピオネートサクシネート(HBMCPrS)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースプロピオネートサクシネート(HEHPCPrS);及びメチルセルロースアセテートサクシネート(MCAS)である。
【0024】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)は、最も好ましいエステル化セルロースエーテルである。
【0025】
カプセル及びカプセル殻中に含まれるエステル化セルロースエーテル(複数を含む)は、概して、少なくとも0.05、より好ましくは少なくとも0.10、及び最も好ましくは少なくとも0.20のアセチル基、プロピオニル基、またはブチリル基等の脂肪族一価アシル基の置換度を有する。脂肪族一価アシル基の置換度は、概して、最大1.75、好ましくは最大1.50、より好ましくは最大1.25、及び最も好ましくは最大1.00、またはさらに最大0.65である。
【0026】
本発明のカプセル及びカプセル殻中に含まれるエステル化セルロースエーテル(複数を含む)は、概して、少なくとも0.05、好ましくは少なくとも0.10の部分的に中和されたサクシノイル等の式−C(O)−R−COOHの部分的に中和された基の置換度を有する。式−C(O)−R−COOHの部分的に中和された基の置換度は、概して、最大1.6、好ましくは最大1.30、より好ましくは最大1.00、最も好ましくは最大0.70、またはさらに最大0.60である。
【0027】
i)脂肪族一価アシル基の置換度と、ii)式−C(O)−R−COOHの部分的に中和された基の置換度の合計は、概して、少なくとも0.10、好ましくは少なくとも0.15、より好ましくは少なくとも0.20、最も好ましくは少なくとも0.30、及び特に少なくとも0.40である。言及された合計は、概して、2.0未満、好ましくは1.4未満、より好ましくは1.15未満、最も好ましくは1.10未満、及び特に1.00未満である。
【0028】
本明細書で使用される、「式−C(O)−R−COOHの部分的に中和された基」という用語は、式−C(O)−R−COOHの一部が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和されたことを意味する。炭酸、ギ酸、または酢酸の好ましいアンモニウム塩は、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ギ酸アンモニウム、または酢酸アンモニウムである。炭酸水素アンモニウムが最も好ましい。最も好ましくは、カプセル及びカプセル殻中に含まれるエステル化セルロースエーテルは、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムで部分的に中和されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートである。
【0029】
アセテート及びサクシネートエステル基の含有量は、米国薬局方及び国民医薬品集、NF29、1548〜1550頁、「ヒプロメロースアセテートサクシネート」に従って決定される。サクシネートエステル基が酸性または中性形態でエステル化セルロースエーテル中に存在するかどうかにかかわらず、サクシネートエステル基の含有量が、それらの酸性形態(−CO−CH−CH−COOH)でサクシノイル基として決定される。
【0030】
報告された値は、揮発物に対して補正した(上記のHPMCAS研究論文中の「乾燥減量」の節に記載されるように決定される)。本方法は、プロピオニル、ブチリル、フタリル、及び他のエステル基の含有量を決定するために類似した様式で使用されてもよい。
【0031】
エステル化セルロースエーテル中のエーテル基の含有量は、米国薬局方及び国民医薬品集、USP35、3467〜3469頁、「ヒプロメロース」に関して記載されるものと同じ様式で決定される。
【0032】
上記の分析によって得られたエーテル基及びエステル基の含有量は、以下の式に従って個々の置換基のDS及びMS値に変換される。この式は、他のセルロースエーテルエステルの置換基のDS及びMSを決定するために、類似した様式で使用され得る。
【0033】
【数1】
【0034】
慣例により、重量パーセントは、すべての置換基を含む、セルロース反復単位の総重量に基づく平均重量百分率である。メトキシル基の含有量は、メトキシル基(すなわち、−OCH)の質量に基づき報告される。ヒドロキシアルコキシル基の含有量は、ヒドロキシプロポキシル(すなわち、−O−CHCH(CH)−OH)等のヒドロキシアルコキシル基(すなわち、−O−アルキレン−OH)の質量に基づき報告される。脂肪族一価アシル基の含有量は、−C(O)−Rの質量に基づき報告され、式中、Rは、アセチル(−C(O)−CH)等の一価脂肪族基である。式−C(O)−R−COOHの基の含有量は、サクシノイル基(すなわち、−C(O)−CH−CH−COOH)の質量等のこの基の質量に基づいて報告される。
【0035】
本発明のカプセル及びカプセル殻中に含まれるエステル化セルロースエーテル(複数を含む)は、概して、米国薬局方及び国民医薬品集、NF29、1548〜1550頁、「ヒプロメロースアセテートサクシネート」に従って20℃の0.43重量%の水性NaOH中のエステル化セルロースエーテルの2.0重量パーセント溶液として測定される、少なくとも1.2mPa・s、好ましくは、少ない1.8mPa・s、より好ましくは少なくとも2.4mPa・s、及び一般に、200mPa・s未満、好ましくは100mPa・s未満、より好ましくは50mPa・s未満、最も好ましくは30mPa・s未満の粘度を有する。
【0036】
本発明のポリマーカプセル殻は、上記のように、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で部分的に中和された式−C(O)−R−COOHの基を有するエステル化セルロースエーテルのうちの1つ以上を含み得る。しかしながら、本発明のカプセル殻中のこれらのエステル化セルロースエーテルの総重量が、カプセル殻中の総ポリマー重量に基づいて、少なくとも80パーセント、好ましくは少なくとも85パーセント、さらにより好ましくは少なくとも90パーセント、及びしばしばさらに少なくとも94パーセントであることは本発明の大きな利点である。カプセル殻中のこれらのエステル化セルロースエーテルの総重量は、カプセル殻中の総ポリマー重量に基づいて、最大100パーセント、または最大98パーセント、または場合によっては最大96パーセントである。
【0037】
一実施形態では、本発明のポリマーカプセル殻は、カプセル殻中の総ポリマー重量に基づいて、典型的には、2パーセント以上、または4パーセント以上のような少量のみでポリマーカプセル形成助剤を含む。しかしながら、カプセル殻が、もしあれば、カプセル殻中の総ポリマー重量に基づいて、最大20パーセント、好ましくは最大15パーセント、より好ましくは最大10パーセント、最も好ましくはわずかに最大6パーセントのポリマーカプセル形成助剤のみを含むことは大きな利点である。ポリマーカプセル形成助剤(複数を含む)の量は、カプセル殻の腸溶性に影響を及ぼさないように十分少量である。ポリマーカプセル形成助剤の例示は、セルロースエーテル、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、例えば、USP30−NF25において定義されるようなHPMCタイプ2910、2906、及び/もしくは2208;ゼラチン、プルラン、非腸溶性スターチ誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルスターチ;ポリビニルアセテート誘導体(PVAP);ならびにそれらの混合物である。他のポリマーカプセル形成助剤の例示は、ゲル化剤である。ゲル化剤は、典型的には、以下にさらに記載されるような、カプセルを生成するために、「コールドピン法」において使用される。典型的なゲル化剤は、カラゲナン、ペクチン、またはゲランガムである。ゲル化剤を含むポリマーカプセル形成助剤の総量は、上に示される範囲内である。驚くべきことには、卓越した品質の本発明のカプセル及びカプセル殻を得るために、ポリマーカプセル形成助剤は必要とされない。
【0038】
別の実施形態では、本発明のポリマーカプセル殻は、エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、最大7パーセント、好ましくは最大5パーセント、より好ましくは最大3パーセント、及び最も好ましくはわずかに最大2.5パーセントの非ポリマー可塑剤を含む。可塑剤の下限は、エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0、1.0、または2.0パーセントである。驚くべきことには、卓越した品質の本発明のカプセル及びカプセル殻を得るために、可塑剤は必要とされない。非ポリマー可塑剤の例示は、フタル酸エステル、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、及びフタル酸ジイソプロピル;クエン酸エステル、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、及びクエン酸アセチルトリブチル;リン酸エステル、例えば、リン酸トリエチル、リン酸トリクレジル、及びリン酸トリフェニル;乳酸アルキル;グリセロールエステル;グリセロール及びグリセロールエステル、例えば、トリアセチンとしても知られているグリセロールトリアセテート;ショ糖エステル;油及び脂肪酸エステル;ステアリン酸ブチル;セバシン酸ジブチル;酒石酸ジブチル;アジピン酸ジイソブチル、トリブチリン;プロピレングリコール;ソルビタンモノエステル;脂肪酸エステル;グリコールリシノレエート;クエン酸トリエチル(TEC);クエン酸アセチルトリブチル;タルク;ならびにそれらの混合物である。
【0039】
本発明のポリマーカプセル殻は、任意のアジュバント、例えば、1つ以上のゲル化剤、着色剤、色素、乳白剤、風味及び呈味改善剤、酸化防止剤、ならびにそれらの混合物を含んでもよい。任意の添加剤は、好ましくは薬学的に許容される。任意の添加剤の量は、典型的には、カプセル殻の総重量に基づいて、最大40パーセント、より典型的には最大20パーセント、及び最も典型的には最大10パーセントであるが、但し、上記の1つ以上のエステル化セルロースエーテルの重量がカプセル殻中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントになるものとし、さらに、カプセル殻が、エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、7重量パーセント超の非ポリマー可塑剤を含まないものとする。
【0040】
本発明のポリマーカプセル殻は、(A)上にさらに記載される脂肪族一価アシル基と式−C(O)−R−COOHの基とを含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、(B)エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含み、前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量は、水性組成物中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントである、水性組成物から調製される。
【0041】
水性組成物は、典型的には、水性組成物の総重量に基づいて、少なくとも2パーセント、好ましくは少なくとも5パーセント、及びより好ましくは少なくとも10パーセント、またはさらに少なくとも12パーセントのエステル化セルロースエーテル(複数を含む)を含む。水性組成物は、典型的には、水性組成物の総重量に基づいて、最大35パーセント、または最大30パーセント、またはより典型的には最大25パーセントのエステル化セルロースエーテル(複数を含む)を含む。本発明の水性組成物は、1種、2種、またはそれ以上の上記のエステル化セルロースエーテルを含むことができるが、それらの総量は、上に示される範囲内でなければならない。任意の添加剤、例えば、カプセル形成助剤(複数を含む)、非ポリマー可塑剤(複数を含む)、他の任意の添加剤、及びそれらの量は、カプセル殻について上に記載されるものである。それらの有用な重量範囲は、本明細書に開示されるカプセル殻ならびに水性組成物中のエステル化セルロースエーテル(複数を含む)及び水性希釈剤の重量パーセントについて記載される範囲から計算することができる。
【0042】
本発明のポリマーカプセル殻を調製するために使用される水性組成物では、エステル化セルロースエーテル(複数を含む)中の基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部は、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で部分的にまたは完全に中和され得る。好ましくは、基−C(O)−R−COOHは、エステル化セルロースエーテルがポリマーカプセル殻を調製するために使用される水性組成物中に可溶性である、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩を用いるような程度まで完全にまたは部分的に中和される。ポリマーカプセル殻を調製するためにエステル化セルロースエーテルの水性溶液を用いることにより、多くの利点をもたらす。例えば、水性溶液は、典型的には、有機溶媒に基づいた溶液よりも容易に取り扱われる。さらに、エステル化セルロースエーテルが水性組成物に可溶性であるときには、国際公開第WO2013/164121号に開示された分散体に必要とされる多量の分散剤を使用する必要がない。本発明のポリマーカプセル殻を調製するために使用される水性組成物では、分散剤の重量は、エステル化セルロースエーテル(複数を含む)の総重量に基づいて、典型的には、5パーセント未満、より典型的には、2パーセント未満、さらにより典型的には、1パーセント未満である。最も典型的には、本発明のポリマーカプセル殻を調製するために使用される水性組成物は、分散剤を含まない。
【0043】
本発明のポリマーカプセル殻を調製するために使用される水性組成物では、好ましくは少なくとも50モルパーセント、より好ましくは少なくとも75モルパーセント、最も好ましくは少なくとも85モルパーセント、及び特に少なくとも87モルパーセントの、エステル化セルロースエーテル(複数を含む)中の式−C(O)−R−COOHの基が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和される。好ましくは、最大100モルパーセント、より好ましくは最大95モルパーセント、及び最も好ましくは最大93モルパーセントの式−C(O)−R−COOHの基が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和される。式−C(O)−R−COOHの基の中和を100パーセント達成するために必要とされるものよりも多量の炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩を水性組成物に組み込むことが望ましい場合がある。好ましくは、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩は、23℃で測定される、本組成物の得られたpHが少なくとも5.5、より好ましくは少なくとも5.8、最も好ましくは少なくとも6.3、好ましくは最大7.5、より好ましくは最大7.2、最も好ましくは最大7.0であるような量で、水性組成物に組み込まれる。そのような中和度を達成するために、典型的には、水性組成物中に含まれる式−C(O)−R−COOHの基の1ミリモル当たり少なくとも0.5ミリモル、好ましくは少なくとも0.8ミリモル、より好ましくは少なくとも0.9ミリモル、典型的には、最大2.0ミリモル、好ましくは最大1.5ミリモル、より好ましくは最大1.2ミリモルの、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩が、水性組成物中に組み込まれる。カプセル殻の生成中、具体的には、昇温でそれらの乾燥中、エステル化セルロースエーテル中の中和基−C(O)−R−COONHのいくつかまたはほぼすべてが変換されてそれらの酸性形態に戻り、そのため、生成されたポリマーカプセル殻では、エステル化セルロースエーテル中の式−C(O)−R−COOHの基の、一部のみ、及び時には少数のみが炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で依然として中和状態である:
−C(O)−R−COONH ⇔ −C(O)−R−COOH+NH(↑)。
【0044】
本発明のカプセル及びカプセル殻、特に、本発明の乾燥カプセル及びカプセル殻では、典型的には、3モルパーセント以上、より典型的には、10モルパーセント以上、最も典型的には、20モルパーセント以上であるが、典型的には、55モルパーセント未満、より典型的には、45モルパーセント未満、最も典型的には、40モルパーセント未満の、エステル化セルロースエーテル(複数を含む)中の式−C(O)−R−COOHの基が、依然として、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和されている。
【0045】
本発明のカプセルを生成するために使用される水性組成物は、水性希釈剤を含む。水性希釈剤は水であり、任意に少量の有機溶媒と混合される。水性希釈剤は、水及び有機溶媒の総重量に基づいて、好ましくは50〜100重量パーセント、より好ましくは65〜100重量パーセント、最も好ましくは75〜100重量パーセントの水、及び好ましくは0〜50重量パーセント、より好ましくは0〜35重量パーセント、最も好ましくは0〜25重量パーセントの有機溶媒からなる。有用な有機溶媒は、酸素、窒素、または塩素のようなハロゲン等の1つ以上のヘテロ原子を有する、極性有機溶媒である。より好ましい有機溶媒は、アルコール、好ましくは、単官能アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、もしくはn−プロパノール;エーテル、例えば、テトラヒドロフラン、ケトン、例えば、アセトン;メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトン;アセテート、例えば、塩化エチル;ハロゲン化炭化水素、例えば、塩化メチレン;またはニトリル、例えば、アセトニトリルである。好ましくは、本発明の水性組成物は、水性希釈剤として、単独で水を含む。水性希釈剤の量は、水性組成物の総重量に基づいて、典型的には、少なくとも60パーセント、より典型的には、少なくとも70パーセント、最も典型的には、少なくとも75パーセントである。水性希釈剤の量は、水性組成物の総重量に基づいて、典型的には、95パーセント未満、より典型的には、90パーセント未満、最も典型的には、87パーセント未満である。
【0046】
英国特許出願第GB 2 353 215号は、水のpHを7.8まで増大させ、セルロースアセテートフタレート(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、またはポリメタクリル酸エステル等の腸溶性ポリマーを溶解させるための、炭酸水素アンモニウム等の高蒸気圧を有する緩衝剤の使用を開示する。この溶液は、錠剤をコーティングするために使用される。水性コーティング溶液の乾燥時、緩衝液は蒸発し、ポリマーをその非イオン性形態に変化させる。自立した膜を生成するためまたはカプセルを生成するための溶液の使用は、英国特許出願第GB 2 353 215号において開示されていない。さらに、コーティング溶液は、大量の可塑剤トリアセチンを含む。HPMCASが腸溶性ポリマーとして使用される場合、可塑剤トリアセチンの量は、HPMCASの重量に基づいて、わずか20パーセントである。
【0047】
英国特許出願第GB 2,353,215号の教示を考慮して、高品質のカプセルが、(A)式−C(O)−R−COOHの基を含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、(B)エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含む、水性組成物から生成され得、前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルが水性組成物中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントになることは大いに驚くべきことである。好ましくは、腸溶性用途のカプセル殻、すなわち、カプセル中に含まれる薬物のような活性成分を放出するための、腸管中に溶解されるカプセル殻が生成される。好ましくは、硬カプセルが、記載される水性組成物から生成される。
【0048】
高品質のカプセルが単純な浸漬プロセスにおいてそのような水性組成物から生成され得ることはさらになお驚くべきことである。したがって、本発明のさらに別の態様では、そのような水性組成物は、成形ピンを水性組成物に浸漬させるステップと、前記成形ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記ピン上に膜を形成するステップと、成形ピン上の膜を乾燥させるステップと、を含むプロセスにおいてカプセル殻の製造のために使用される。
【0049】
好ましい実施形態によれば、カプセル殻を生成するためのプロセスは、上記のような水性組成物を提供するステップと、水性組成物よりも高い温度まで成形ピンを事前加熱するステップと、事前加熱した成形ピンを水性組成物に浸漬させるステップと、前記成形ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記ピン上に膜を形成するステップと、前記成形ピン上の膜を乾燥させるステップと、を含む。本方法は、概して、「ホットピン法」として知られており、典型的には、3つの主要な要因を特徴とする。第1の要因は、水性組成物の温度である。水性組成物の温度は、成形ピン上にコーティングされた水性組成物の流動性を決定する。水性組成物の温度は、典型的には、少なくとも5℃、より典型的には、少なくとも10℃、典型的には、最大30℃、より典型的には、最大25℃である。水性組成物は、典型的には、そのゲル化温度の2〜12℃、例えば、2〜10℃下の温度で維持される。第2の要因は、成形ピンの温度である。事前加熱した成形ピンの温度は、それぞれ、カプセルまたはカプセル殻の膜厚さを決定するために重要な要因である。カプセルまたはカプセル殻の膜厚さは、それぞれ、温度が低下するにつれて低下してもよく、カプセルまたはカプセル殻の膜厚さは、それぞれ、温度が増加するにつれて増加してもよい。成形ピンの温度が、カプセルのサイズに応じて変動し得るとしても、成形ピンは、典型的には、水性組成物のゲル化温度を超える温度である10〜75℃、好ましくは20〜70℃で維持される。成形ピンの温度は、典型的には、少なくとも40℃、より典型的には、少なくとも50℃、典型的には、最大95℃、より典型的には、最大90℃である。第3の要因は、乾燥温度である。乾燥温度は、概して、成形ピン上にコーティングされた水性組成物の流動性を制御する。概して、成形ピン上にコーティングされ、乾燥されるべきである水性組成物は、乾燥デバイスに移動される。その際、乾燥の初めに、水性組成物は、成形ピン上に水性組成物を完全に固定して、水性組成物を流動から防ぐための所定期間中、水性組成物のゲル化温度以上である温度で維持される。典型的な乾燥温度は、60℃以上、好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上である。典型的な乾燥温度は、最大85℃、好ましくは最大80℃、より好ましくは最大75℃である。第1の乾燥期間は、概して、1〜240分、例えば、60〜150分の範囲内である。次いで、成形ピンは、概して、カプセルを完全に乾燥させるための第2の乾燥期間中、低温で、典型的には、20〜40℃で、例えば、30〜60分間、乾燥デバイス中に維持される。
【0050】
カプセルの製造のための別の方法は、「コールドピン法」である。この方法では、上記の炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で少なくとも部分的に中和されたエステル化セルロースエーテル、さらに、カラゲナン、ペクチン、またはゲランガム等のゲル化剤、またはカリウム、マグネシウム、アンモニウム、もしくはカルシウムイオン等の別の金属イオン封鎖剤もしくはゲル化助剤を含む上記の水性組成物。コールドピン法では、成形ピンの温度は、典型的には、少なくとも15℃、より典型的には、少なくとも20℃、典型的には、最大22℃、より典型的には、最大25℃である。最も好ましくは、成形ピンは室温で保持される。成形ピンは、成形ピンよりも高い温度まで事前加熱される水性組成物に浸漬される。水性組成物は、概して、そのゲル化温度を上回る温度で維持される。水性組成物の温度は、典型的には、少なくとも40℃、より典型的には、少なくとも45℃、典型的には、最大48℃、より典型的には、最大50℃である。浸漬ピンを水性組成物から取り出し、この膜を浸漬ピン上に得、この膜を浸漬ピン上で乾燥させて、ピン上に成形したカプセル殻を得る。典型的な乾燥温度は、30℃以上、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上である。典型的な乾燥温度は、最大80℃、好ましくは最大70℃、より好ましくは最大65℃である。
【0051】
カプセル殻は、キャップ及び本体の形態をとり、次いで、これらをピンから取り外すことができる。キャップを本体に嵌合させて、カプセルを形成する。
【0052】
理論に拘束されることを望むものではないが、出願者は、水性組成物が水性組成物よりも高い温度を有する事前加熱した成形ピンと接触されるとき、または水性組成物がコールドピンと接触させる前に事前加熱されるとき、及び水性組成物が浸漬プロセスの間に成形ピン上に膜を形成するときに、HCO等の中和反応の残留する副生成物が、コハク酸基−C(O)−R−COOHとの会合を介して可塑剤としての役割を果たすと考える。水性組成物を成形ピン上で乾燥させるときに、残留する炭酸、ギ酸、もしくは酢酸のアンモニウム塩(複数を含む)は、典型的には、乾燥温度で分解される。例えば、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)は、大気圧下、約60℃以上で、NH3、CO、及びHOに分解される。理論に拘束されることを望むものではないが、出願者は、HOに加えてNH及びCOの蒸発が、成形ピン上の膜または均一な膜をもたらす配置の一因になると考える。乾燥カプセル殻及びカプセルは、相当量の残留するアルカリ性材料を含まない。これは、第WO2013/164121号に開示されるカプセルと比較して大きな有利点である。第WO2013/164121号に開示されるカプセルは、乾燥時に蒸発せず、大量のトリアセチン等の非ポリマー可塑剤を含むアルカリ性材料を含む。
【0053】
さらに、昇温での成形ピン上のカプセル殻の乾燥中、エステル化セルロースエーテル中の中和基−C(O)−R−COONHのいくつかまたはほぼすべてが変換されて、それらの酸性形態に戻る:
−C(O)−R−COONH ⇔ −C(O)−R−COOH+NH(↑)。
【0054】
酸性基−C(O)−R−COOHを含むエステル化セルロースエーテルは、腸溶性を有する、換言すれば、それらは、胃液中で実質的には不溶性であり、腸液中に急速に溶解する。したがって、本発明のポリマーカプセル殻及びカプセルは、特に、腸溶性用途、すなわち、カプセル中に含まれる薬物のような活性成分を放出するための、腸管中に溶解されるカプセル殻に有用である。硬カプセル殻が好ましい。
【0055】
本発明の別の態様は、本発明のカプセル殻を含み、1つ以上の薬物、及び/または1つ以上のビタミン、ハーブ、もしくはミネラルサプリメント等の1つ以上の栄養もしくは食品サプリメントをさらに含む、カプセル、特に、硬カプセルである。薬物、栄養もしくは食品サプリメントは、本発明の殻材料によって取り囲まれる。硬カプセルは、好ましくはツーピース硬カプセルである。キャップ及び本体の形態でのカプセル殻は、上記のように調製され得る。1つ以上の薬物、及び/または1つ以上の栄養もしくは食品サプリメントは、カプセル本体に入れることができ、キャップは、本体に嵌合させて、カプセルを形成することができ、形成されたカプセルは、当該技術分野において周知の方法に従って密閉することができる。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態は、これより、以下の実施例において詳細に説明されよう。
【実施例】
【0057】
特に言及されない限り、すべての部及び百分率は、重量による。実施例において、以下の試験手順が使用される。
【0058】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)の粘度
0.43重量%の水性NaOH中の2.0重量%のHPMCASを、米国薬局方及び国民医薬品集、NF29、1548〜1550頁、「ヒプロメロースアセテートサクシネート」に記載されるように調製し、続いて、DIN 51562−1:1999−01(January 1999)に従って、20℃でウベローデ粘度測定を行った。
【0059】
HPMCASの酸性解離定数(pKa)
HPMCASのpKaを、以下の滴定方法を用いて測定した。約0.4gのHPMCAS試料を200mLのポリエチレン滴定ビーカーに入れて正確に計量し、Milli−Qプロセスによって約60mLの超高純度の水で希釈した。次いで、この溶液を、Teflon撹拌棒を用いて磁気撹拌プレート上で撹拌し、溶液のpHがpH7〜8に増加するまで、0.1M NaOHを添加した。溶液の温度を23℃で維持した。溶解後、試料を連続して撹拌しながら、0.1M HClを用いてMetrohm 904 Titrando上で滴定した。滴定曲線を作製し、pKaを、当量点で体積の半分でpH値を決定することによって決定された。
【0060】
【数2】
【0061】
HPMCASのエーテル基及びエステル基の含有量
HPMCASのエーテル基の含有量は、米国薬局方及び国民医薬品集、USP35、3467〜3469頁、「ヒプロメロース」に関して記載されるものと同じ様式で決定された。
【0062】
アセチル基(−CO−CH)によるエステル置換ならびにサクシノイル基(−CO−CH−CH−COOH)及び中和されたサクシノイル基によるエステル置換は、米国薬局方及び国民医薬品集、NF29、1548〜1550頁、ヒプロメロースアセテートサクシネートに従って決定された。エステル置換について報告された値は、揮発物に対して補正した(上記のHPMCAS研究論文中の「乾燥減量」の節に記載されるように決定される)。DSサクシノイルは、それらの酸性形態(−CO−CH−CH−COOH)でのサクシノイル基として決定される。
DS(サクシノイル)=DS(−CO−CH−CH−COO)+DS(−CO−CH−CH−COOH)
【0063】
水性組成物の見かけ粘度
HPMCASを含む水性溶液の見かけ粘度は、CC−27カップ幾何形状及び4ブレード翼幾何形状ST26−4V−20を有するAnton Paar MCR 301レオメーターを用いて、10〜50℃の温度範囲にわたって、3℃/分の加熱速度及び40rpmの翼幾何形状の一定速度及び0.2721分の測定点の持続時間で行われた温度掃引実験に従って様々な温度で測定した。この温度掃引試験前に、材料を、SpeedMixer(商標)DAC 150.1 FV(FlackTek Inc.)を用いて2300rpmで1分間処理して、気泡を除去した。20mlのサンプル容積を、これらの測定のために使用した。サンプルを、粘度の測定前に室温で保存した。
【0064】
乾燥カプセル殻におけるサクシノイル基の中和度
乾燥カプセル殻におけるサクシノイル基の総数に基づいて、中和されたサクシノイル基のモル百分率を、乾燥カプセル殻におけるNの残留モルに相当するNHの残留モルとして検出することができる。カプセル殻におけるNの元素分析を、Flash 2000 Organic Elemental Analyzer(Thermo Fisher Scientific)において行った。
【0065】
【数3】
【0066】
カプセル殻を生成するために使用された水性溶液中のサクシノイル基の中和度
水性溶液におけるサクシノイル基の総数に基づいて、中和されたサクシノイル基のモル百分率を、23℃で測定された溶液のpH値、及び以下の式に従ってHPMCASのpKaから計算した:
【0067】
【数4】
【0068】
カプセル材料の膜強度
膜穿刺力及び距離は、25kgの負荷細胞を装備したテクスチャ分析器(Model TA.XT2,Texture Technologies,Scarsdale,NY)において測定した。直径7mm、長さ45mmのプローブ(モデルTA−57R)及び9mmの円形の開口部(元の10mmの開口部から修正)を有する膜拡張用治具(TA−108S5)を使用して、試験を行った。膜厚さは、それぞれのサンプルが治具に設置される前に記録された。治具はプローブ下で調整され、膜は、機能停止するまで、2.1mm/秒の速度で10gの力で圧縮された。それぞれの検査サンプルにおいて5回の起動が行われた;膜厚さ及び破損での伸びによって正規化された平均膜破損強度が記録された。
【0069】
実施例1
カプセル殻の調製
水性溶液を、水性組成物の総重量に基づいて、15%のプロピルメチルセルロースサクシネート(HPMCAS)、1.1%のNHHCO、及び83.9%の脱イオン水から調製した。水性組成物は、サクシノイル基(−CO−CH−CH−COOH)の1ミリモル当たり0.89ミリモルの添加されたNHHCOを含有した。
23.5%のメトキシル基(DSメトキシル=1.93)、
7.3%のヒドロキシプロポキシル基(MSヒドロキシプロポキシル=0.25)、
9.8%のアセチル基(DSアセチル=0.58)、
10.5%のサクシノイル基(DSサクシノイル=0.26)、
254g/molのAGU(無水グルコース単位)の分子量、
5.1のpKa、及び
2.9mPa・sの粘度、を有し、0.43重量%の水性NaOH中の2.0重量%のHPMCAS溶液として測定された、HPMCASを使用した。
【0070】
水性溶液は、HPMCAS粉末を、約23℃の脱イオン水を含有する3ブレードシャフトを装備した800mLのビーカーに迅速に分散させることによって調製した。粉末の添加中の回転速度は、粉末を水に連続的に引き込む渦(>400rpm)を維持するように設定した。HPMCAS粉末の添加後、NHHCO塩を分散体にゆっくりと添加し、室温で3時間、400rpmで撹拌して、透明な水性溶液を得た。カプセル形成助剤、ゲル化剤、または可塑剤のようなアジュバントは添加しなかった。最終pHは、約5.9であると測定された。以下の表1中に示されるように、溶液の粘度は、標準的なカプセル製造の必要条件を満たした。溶液中のサクシノイル基の得られた中和度は、86モルパーセントであり、すなわち、86モルパーセントの、水性溶液中に含まれるHPMCASの基−CO−CH−CH−COOHが中和され、−CO−CH−CH−COONH基として示された。
【0071】
【表1】
【0072】
カプセル殻は、80℃の温度まで成形ピンを事前加熱し、それらを20℃の温度で維持される透明な水性溶液に浸漬させることによって調製した。次いで、ピンを水性溶液から取り出し、成形ピン上に膜を形成した。成形ピン上の膜を、83%の湿度及び80℃の温度を有する乾燥チャンバ内で120分間乾燥させた。カプセル本体及びキャップを生成した。カプセルのキャップは、先端9ミル(0.23mm)の平均厚さ及び側壁8ミル(0.20mm)の平均厚さを有した。カプセルの本体は、先端8.5ミル(0.22mm)の平均厚さ及び側壁8ミル(0.20mm)の平均厚さを有した。卓越した透明度及び膜品質のカプセル殻が得られた。図1は、実施例1に従って生成されたポリマーカプセル殻の写真を提示する。
【0073】
サクシノイル基の得られた中和度は、29モルパーセントであり、すなわち、29モルパーセントの、乾燥カプセル殻に含まれるHPMCASの基−CO−CH−CH−COOHが中和され、−CO−CH−CH−COONH基として示された。
【0074】
カプセルの調製
カプセルの本体は、150mgの薬物メトホルミン、ならびに19〜24%のメトキシル基及び7〜12重量%のヒドロキシプロポキシル基を含み、20℃で、水中2重量%の溶液として測定される、3000〜5600mPa・sの見かけ粘度を有する、160mgのヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)で充填した。HPMCは、商標Methocel K4M下で、The Dow Chemical Companyから市販されている。
【0075】
カプセルの本体をカプセルのキャップに嵌合させて、25℃で一晩乾燥させることによってキャップ及び本体の接合部分で、アセトン中の10重量パーセントの実施例1のHPMCAS溶液の薄層に塗布することによって密閉した。
【0076】
そのようにして調製されたカプセルの溶解挙動は、米国薬局方(USP37)のGeneral Chapterにおける遅延放出剤形の方法Aに従って測定された。<711>密閉したカプセルは、まず、37±0.5℃でpH=1.2の750mlの0.1N HCl緩衝液中に浸漬させて、放出されたメトホルミンの割合(%)を測定した。120分後であっても、薬物メトホルミンの測定可能な割合は放出されなかった。次いで、250mlの0.2M リン酸三ナトリウムを添加し、37±0.5℃に平衡を保つことによって、緩衝液を6.8のpHまで調節した。次いで、密閉したカプセルから放出されたメトホルミンの割合(%)を測定した。pH1.2及び6.8でのメトホルミン放出プロファイルを図2に示し、これは、本発明のカプセルの腸溶性を示す。
【0077】
他のカプセルの本体は、200mgの薬物メトホルミン(APAP)で充填され、カプセルの本体をカプセルのキャップに嵌合させ、上記のように密閉した。そのようにして調製されたカプセルの溶解挙動は、メトホルミンで充填されたカプセルに対して上記のように測定された。pH1.2及び6.8でのAPAP放出プロファイルを図3に示し、これもまた、本発明のカプセルの腸溶性を示す。
【0078】
カプセル材料の膜強度を決定するための自立した膜の調製
約8インチ×14インチ(20cm×35cm)の膜を、50ミル(1.27mm)のギャップ膜成型棒を用いて、室温でTeflon(商標)基材上に成型した。成型した膜を一定温度の部屋(22℃及び部屋の湿度50%)中で2日間乾燥させて、取り出し、任意の膜特性を測定する前に、さらに1日間アニーリングした。
【0079】
実施例1の水性溶液から調製した膜強度は、2332g/ミル(=91827g/mm)であった。
【0080】
比較実施例A
水性溶液は、水性組成物の総重量に基づいて、14.7%のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP50)、3.0%のNHHCO、及び82.3%の脱イオン水から調製した。最低量のNHHCOを選択して、溶液にHPMCPを得た。HPMCPは、20〜24重量%のメトキシル基、6〜10重量%のヒドロキシプロポキシル基、21〜27重量%のフタリル基を含むHPMCP50としてCole−Parmerから市販されており、44〜66mPa・sの粘度は、Acros Organics N.Vから、20℃でメタノール及び塩化メチレン(50/50体積/体積)の混合溶媒中の10重量%の溶液として測定された(USP/NF法)。
【0081】
溶液は、実施例1について上記のように調製した。膜は、上の実施例1について記載されるように調製した。膜の膜強度は、1318g/ミル(=51875g/mm)であった。
【0082】
実施例1と比較実施例Aとの比較は、本発明のカプセル材料が比較実施例Aの膜強度よりもかなり高い膜強度を有することを示す。
(態様)
(態様1)
ポリマーカプセル殻であって、
(A)脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOHの基を含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、Rが二価の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、基−C(O)−R−COOHの一部が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、
(B)前記エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含み、
前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量が、前記カプセル殻中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントである、ポリマーカプセル殻。
(態様2)
水性組成物から調製されたポリマーカプセル殻であって、
(A)脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOHの基を含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、Rが二価の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部が、炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、
(B)前記エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含み、
前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量が、前記水性組成物中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントである、ポリマーカプセル殻。
(態様3)
前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量が、前記カプセル殻中の総ポリマー重量の少なくとも85パーセントである、態様1または2に記載のカプセル殻。
(態様4)
前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテル中の前記脂肪族一価アシル基が、アセチル基、プロピオニル基、またはブチリル基であり、式−C(O)−R−COOHの基が、
−C(O)−CH−CH−COOH、−C(O)−CH=CH−COOH、または−C(O)−C−COOHである、態様1〜3のいずれか1項に記載のカプセル殻。
(態様5)
炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムで部分的に中和されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、態様1〜4のいずれか1項に記載のカプセル殻。
(態様6)
ゲル化剤、着色剤、色素、乳白剤、風味及び呈味改善剤、ならびに抗酸化剤からなる群から選択される少なくとも1つのアジュバントをさらに含む、態様1〜5のいずれか1項に記載のカプセル殻。
(態様7)
硬カプセル殻である、態様1〜6のいずれか1項に記載のカプセル殻。
(態様8)
態様1〜7のいずれか1項に記載のカプセル殻を含み、薬物、または栄養もしくは食品サプリメント、またはそれらの組み合わせをさらに含む、カプセル。
(態様9)
ポリマーカプセル殻を生成するためのプロセスであって、
(A)式−C(O)−R−COOHの基を含む少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルであって、Rが二価の脂肪族または芳香族炭化水素基であり、基−C(O)−R−COOHの少なくとも一部が炭酸、ギ酸、または酢酸のアンモニウム塩で中和された、エステル化セルロースエーテルと、(B)前記エステル化セルロースエーテルの重量に基づいて、0〜7重量パーセントの非ポリマー可塑剤と、を含む、水性組成物を提供するステップであって、前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量が、前記水性組成物中の総ポリマー重量の少なくとも80パーセントである、提供するステップと、
成形ピンを前記水性組成物に浸漬させるステップと、
前記ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記成形ピン上に膜を形成するステップと、
前記成形ピン上の前記膜を乾燥させるステップと、を含む、プロセス。
(態様10)
前記水性組成物よりも高い温度まで成形ピンを事前加熱するステップと、
前記事前加熱された成形ピンを前記水性組成物に浸漬させるステップと、
前記ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記成形ピン上に膜を形成するステップと、
前記成形ピン上の前記膜を乾燥させるステップと、を含む、態様9に記載のプロセス。
(態様11)
ゲル化剤をさらに含む水性組成物を提供するステップと、
前記成形ピンよりも高い温度まで前記水性組成物を事前加熱するステップと、
前記成形ピンを前記事前加熱された水性組成物に浸漬させるステップと、
前記ピンを前記水性組成物から取り出すことによって前記成形ピン上に膜を形成するステップと、
前記成形ピン上の前記膜を乾燥させるステップと、を含む、態様9に記載のプロセス。
(態様12)
前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテルの重量が、前記カプセル殻中の総ポリマー重量の少なくとも85パーセントである、態様9〜11のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様13)
前記少なくとも1つのエステル化セルロースエーテル中の前記脂肪族一価アシル基が、アセチル基、プロピオニル基、またはブチリル基であり、式−C(O)−R−COOHの基が、
−C(O)−CH−CH−COOH、−C(O)−CH=CH−COOH、または−C(O)−C−COOHである、態様9〜12のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様14)
前記エステル化セルロースエーテルが、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムで少なくとも部分的に中和されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートである、態様10または13のいずれか1項に記載のプロセス。
(態様15)
前記成形ピン上の前記膜を、少なくとも60℃の温度で乾燥させて、前記生成されたカプセル殻から炭酸、ギ酸、もしくは酢酸のアンモニウム塩、またはその分解生成物を部分的に除去する、態様10または14のいずれか1項に記載のプロセス。
図1
図2
図3