(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190098
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】鞍乗型車両のスプロケットカバー
(51)【国際特許分類】
B62J 13/04 20060101AFI20170821BHJP
B62J 13/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
B62J13/04
B62J13/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-134611(P2012-134611)
(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公開番号】特開2013-256248(P2013-256248A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 貴洋
【審査官】
常盤 務
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−253378(JP,A)
【文献】
実開昭58−178090(JP,U)
【文献】
国際公開第2011/052249(WO,A1)
【文献】
実開昭59−019493(JP,U)
【文献】
特開平09−100898(JP,A)
【文献】
実開昭60−169080(JP,U)
【文献】
特開2000−335462(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3033614(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0282670(US,A1)
【文献】
実開平01−147791(JP,U)
【文献】
米国特許第06398683(US,B1)
【文献】
米国特許第07032555(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 13/04
B62J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両のケースの側壁に取り付けられ、前記ケースから車幅方向に突出する出力軸の端部に固定されたスプロケットを車幅方向外側から覆うスプロケットカバーであって、
前記鞍乗型車両の側面視において、車体外方に露出する外カバー部と、
前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられ、前記外カバー部で覆われて前記スプロケットを覆う内カバー部と、を備え、
前記外カバー部及び前記内カバー部が異なる成型用樹脂材料からそれぞれ成型され、
前記外カバー部の内面に、環状リブ部及び放射リブ部を有するリブが設けられ、
前記内カバー部の外面に、前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられる被取付部と、当該被取付部とは別個に、前記リブの環状リブ部及び放射リブ部にそれぞれ係合する環状溝部及び放射溝部を有する係合溝と、が設けられている、鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【請求項2】
前記外カバー部の板厚が前記内カバー部の板厚よりも薄い、請求項1に記載の鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【請求項3】
前記外カバー部には、前記内カバー部よりも高剛性の樹脂材料が用いられる、請求項2に記載の鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【請求項4】
前記外カバー部は、繊維強化樹脂材料から型成型され、前記内カバー部は、非繊維強化樹脂材料から型成型される、請求項3に記載の鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【請求項5】
前記外カバー部は、前記スプロケットを覆う蓋部と、前記蓋部から前記ケース側に向けて突出する側壁部とを有し、前記蓋部は前記スプロケットを車幅方向外側から全て覆うように設けられており、且つ前記蓋部及び前記側壁部が前記スプロケットを収納する内部空間を形成しており、
前記内カバー部は、前記蓋部の内面と前記スプロケットとの間に配置される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【請求項6】
前記外カバー部は、前記スプロケットを覆う第1蓋部と、前記第1蓋部から前記ケース側に向けて突出する第1側壁部とを有し、前記内カバー部は、前記スプロケットを覆う第2蓋部と、前記第2蓋部から前記ケース側に向けて突出する第2側壁部とを有し、前記内カバー部の第2側壁部の外周面は、全周に渡って、前記外カバー部の第1側壁部の内面と接触している、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【請求項7】
前記内カバー部は、前記スプロケットを覆う板状の蓋部と、前記蓋部の外縁を取り囲むようにして設けられた外縁壁部とを有し、前記外縁壁部は前記蓋部の中心軸の延在方向において前記蓋部より前記スプロケット側に突出しており、前記蓋部の前記スプロケット側の主面の中央部に凹部が設けられ、当該凹部に対向するように前記出力軸の端部が配置されている、請求項1に記載の鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【請求項8】
鞍乗型車両のケースの側壁に取り付けられ、前記ケースから車幅方向に突出する出力軸の端部に固定されたスプロケットを車幅方向外側から覆うスプロケットカバーであって、
車体外方に露出する外カバー部と、
前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられ、前記外カバー部で覆われて前記スプロケットを覆う内カバー部と、を備え、
前記外カバー部及び前記内カバー部が異なる成型用樹脂材料からそれぞれ成型され、
前記外カバー部の前記出力軸の軸方向における板厚が、前記内カバー部の前記軸方向における板厚よりも薄く、
前記外カバー部の内面に、環状リブ部及び放射リブ部を有するリブが設けられ、
前記内カバー部の外面に、前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられる被取付部と、当該被取付部とは別個に、前記リブの環状リブ部及び放射リブ部にそれぞれ係合する環状溝部及び放射溝部を有する係合溝とが設けられている、鞍乗型車両のスプロケットカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪の回転駆動に用いるスプロケットを覆うスプロケットカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両では、駆動輪に回転を伝達するための機構に、チェーンを適用することがある。この場合、出力軸をケースから側方に突出させ、スプロケットがその端部に設けられる。スプロケットの保護のため、また、スプロケット及びチェーンからの騒音放散の抑制のため、ケースの側壁には、スプロケットを覆うスプロケットカバーが取り付けられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−147791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、スプロケットカバーは、金属材料から製作される。しかし、スプロケットカバーを金属材料から製作すると、重量が大きくなるしコストも高くなる。そこでスプロケットカバーを樹脂材料から製作することも考えられる。しかしこの場合、スプロケットカバーを軽量化可能になるかもしれないが、スプロケットカバーとして要求される複数の設計目標(例えば、取付け剛性、美観向上、騒音放散防止)を満足しようとすると、材料及び形状の選択自由度が低下する。
【0005】
そこで本発明は、複数の設計目標を同時に実現する鞍乗型車両のスプロケットカバーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成すべくなされたものである。本発明に係る鞍乗型車両のスプロケットカバーは、鞍乗型車両のケースの側壁に取り付けられ、前記ケースから車幅方向に突出する出力軸の端部に固定されたスプロケットを車幅方向外側から覆うスプロケットカバーであって、前記鞍乗型車両の側面視において、車体外方に露出する外カバー部と、
前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられ、前記外カバー部で覆われて前記スプロケットを覆う内カバー部と、を備
え、前記ケースの側壁に取り付けられ、前記外カバー部及び前記内カバー部が異なる成型用樹脂材料からそれぞれ成型さ
れ、前記外カバー部の内面に、環状リブ部及び放射リブ部を有するリブが設けられ、前記内カバー部の外面に、前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられる被取付部と、当該被取付部とは別個に、前記リブの環状リブ部及び放射リブ部にそれぞれ係合する環状溝部及び放射溝部を有する係合溝と、が設けられている。
【0007】
前記構成によれば、外カバー部及び内カバー部のどちらも樹脂材料で成型される。このため、金属材料で製作する場合と比べて、スプロケットカバーを軽量化することができる。外カバー部及び内カバー部は、異なる成型用樹脂材料から製作される。このように樹脂材料を異ならせることで、外カバー部と内カバー部とに異なる機能を分担させることができ、複数の設計目標を同時に実現可能なスプロケットカバーを提供することができる。また、内カバー部を外カバー部に取り付けた状態で、外カバー部をケースに着脱することで、内カバー部と外カバー部とをそれぞれケースに対して別々に着脱する場合と比べて、メンテナンス性を向上することができる。
また、リブによってスプロケットカバーの強度が向上する。また、リブと係合溝とを用いて内カバー部を外カバー部に対して位置決めすることができる。リブと係合溝との接触及び係合により、スプロケットカバー全体としての剛性が向上すると共に、外カバー部から放射音が発生するのを抑制することができる。また、リブを外カバー部に設けても、内カバー部を外カバー部に近づけて配置することができ、スプロケットカバー全体が車幅方向に大型化するのを抑えることができる。
【0008】
前記外カバー部の板厚が前記内カバー部の板厚よりも薄くてもよい。
【0009】
前記構成によれば、外カバー部の外観に成型時の表面荒れ(いわゆるヒケ)が現れるのを回避することができる。一方、内カバー部においては美観の考慮を必要とせず、ヒケが生じたとしても用いることができ、歩留まりを向上して製造コストを低減することができる。
【0010】
前記外カバー部には、前記内カバー部よりも高剛性の
樹脂材料が用いられてもよい。
【0011】
前記構成によれば、外カバー部の板厚を薄くして美観の向上を図りながら外カバー部の強度を高くすることができ、外カバー部のケースに対する取付け剛性を確保できる。
【0012】
前記外カバー部は、繊維強化樹脂材料から
型成型され、前記内カバー部は、非繊維強化樹脂材料から
型成型されてもよい。
【0013】
前記構成によれば、外カバー部の板厚を薄くして美観の向上を図りながら、外カバー部における剛性を確保することができる。
【0014】
前記外カバー部は、前記スプロケットを覆う蓋部と、前記蓋部から前記ケース側に向けて突出する側壁部とを有し、
前記蓋部は前記スプロケットを車幅方向外側から全て覆うように設けられており、且つ前記蓋部及び前記側壁部が前記スプロケットを収納する内部空間を形成しており、前記内カバー部は、前記蓋部の内面と前記スプロケットとの間に配置されてもよい。
【0015】
前記構成によれば、内カバー部と外カバー部とでユニット化されたスプロケットカバーを全体として見たときに、スプロケットの外側のカバー厚みが大きくなり、スプロケットカバーの全体として強度や防音性を高くすることができる。
【0016】
前記外カバー部は、前記スプロケットを覆う第1蓋部と、前記第1蓋部から前記ケース側に向けて突出する第1側壁部とを有し、前記内カバー部は、前記スプロケットを覆う第2蓋部と、前記第2蓋部から前記ケース側に向けて突出する第2側壁部とを有し、前記内カバー部の第2側壁部の外周面は、全周に渡って、前記外カバー部の第1側壁部の内面と接触していてもよい。
【0017】
前記構成によれば、外カバー部の内面側を内カバー部の外面側と接触させる領域が増える。このため、外カバー部から放射音が発生するのを抑制することができる。外カバー部の板厚を薄くした場合には、放射音の抑制効果が顕著になって有益である。
【0018】
前記内カバー部は、前記スプロケットを覆う板状の蓋部と、前記蓋部の外縁を取り囲むようにして設けられた外縁壁部とを有し、前記外縁壁部は前記蓋部の中心軸の延在方向において前記蓋部より前記スプロケット側に突出しており、前記蓋部の前記スプロケット側の主面の中央部に凹部が設けられ、当該凹部に対向するように前記出力軸の端部が配置されていてもよい。【0020】
また、本発明に係る鞍乗型車両のスプロケットカバーは、鞍乗型車両のケースの側壁に取り付けられ、前記ケースから車幅方向に突出する出力軸の端部に固定されたスプロケットを車幅方向外側から覆うスプロケットカバーであって、車体外方に露出する外カバー部と、前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられ、前記外カバー部で覆われて前記スプロケットを覆う内カバー部と、を備
え、前記外カバー部及び前記内カバー部が異なる成型用樹脂材料からそれぞれ成型され、前記外カバー部の前記出力軸の軸方向における板厚が、前記内カバー部の前記軸方向における板厚よりも薄
く、前記外カバー部の内面に、環状リブ部及び放射リブ部を有するリブが設けられ、前記内カバー部の外面に、前記外カバー部の内側に脱着自在に取り付けられる被取付部と、当該被取付部とは別個に、前記リブの環状リブ部及び放射リブ部にそれぞれ係合する環状溝部及び放射溝部を有する係合溝と、が設けられている。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、複数の設計目標を同時に実現可能なスプロケットカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る鞍乗型車両の一部を左から見た一部側面図である。
【
図2】
図1に示すII−II線に沿って切断して示すケースの断面図である。
【
図3】
図1に示すスプロケットカバーを左、上、後から見て示す分解斜視図である。
【
図4】
図1に示すスプロケットカバーを右、上、後から見て示す分解斜視図である。
【
図5】
図1に示すスプロケットカバーの左側面図である。
【
図6】
図5に示すVI−VI線に沿って切断して示すスプロケットカバーの斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。同一の又は対応する要素には、全ての図を通じて同一の符号を付し、重複する詳細な説明を省略する。以下の説明における方向の概念は、鞍乗型車両に騎乗した運転者が見る方向を基準としている。車幅方向は左右方向に相当し、車幅方向外側は、車体の左右中心線から離れる側、車幅方向中心側は、車両の左右中心線に近付く側である。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る鞍乗型車両の一部を左から見た一部側面図である。
図1に示すように、自動二輪車、自動三輪車及びATV等の鞍乗型車両は、駆動源として例えばエンジン1を備える。
図1に例示されるように、エンジン1は、クランク軸3と共に変速機4を収容するケース2を有し、ケース2の後部は、変速機4を収容する変速機ケース5を構成している。変速機4は、クランク軸3の回転が伝達される入力軸(図示せず)と、入力軸の回転が伝達される出力軸7とを有する。出力軸7は、クランク軸3と平行に配置され、左右方向に向けられている。出力軸7の回転は、チェーン8を介して駆動輪としての後輪(図示せず)に伝達される。
【0026】
図2は、
図1に示すII−II線に沿って切断して示すケース2の断面図である。
図2に示すように、出力軸7の端部(例えば左端部)は、ケース2から車幅方向(例えば左方)に突出しており、スプロケット9が当該端部に固定されている。スプロケット9は、軸線を左右方向に向けた状態でケース2の車幅方向外方(例えば左方)に配置され、チェーン8は、このスプロケット9に巻き掛けられる。鞍乗型車両は、スプロケット9を車幅方向外側(例えば左側)から覆うスプロケットカバー10を備えており、スプロケットカバー10は、ケース2の一側壁(例えば左側壁)に着脱可能に取り付けられる。なお、スプロケット9はケース2の右方に配置されていてもよい。この場合、出力軸7の右端部がケース2の右側壁から右方に突出し、スプロケットカバー10がケース2の右側壁に取り付けられてスプロケット9を右側から覆うことになる。
【0027】
図1に示すように、ケース2の左側壁には、発電機カバー11及びポンプカバー12が取り付けられている。発電機カバー11はクランク軸3の左端部に固定された発電機(図示せず)を左側から覆い、ポンプカバー12は、クランク軸3の下後方に配置されたウォーターポンプ(図示せず)を左側から覆う。スプロケットカバー10は、発電機カバー11の後方且つポンプカバー12の上後方に配置され、発電機カバー11及びポンプカバー12と側面視で重なることなくケース2の左側壁に取り付けられている。
【0028】
図2に示すように、スプロケットカバー10は、ケース2の側壁(例えば左側壁)に取り付けられた外カバー部20と、外カバー部20の内側に取り付けられる内カバー部30とを備える。スプロケットカバー10は、前述のとおりケース2の側壁に取り付けられた他のケースとは側面視で重なっておらず、外カバー部20の外面は車体外方に露出する。内カバー部30は、外カバー部20で車幅方向外側(例えば左側)から覆われ、また、スプロケット9を車幅方向外側(例えば左側)から覆う。外カバー20がケース2に着脱されると、内カバー部30が外カバー部20と共にケース2に着脱される。従来の一般的なスプロケットカバーが単一材料で製作され且つ単一部品で構成されていたのに対し、本実施形態に係るスプロケットカバー10は、互いに異なる成型用樹脂材料からモールド成型された内外のカバー部20,30を備え、これら内外のカバー部20,30をユニット化することにより構成されたものである。
【0029】
外カバー部20の板厚は、内カバー部30の板厚よりも薄い(
図6も参照)。このため、外カバー部20が成型用樹脂材料からモールド成型されても、外カバー部20の表面にいわゆるヒケが現れるのを避けることができる。内カバー部30は外カバー部20で覆われるので、美観を考慮せずに、要求される強度や遮音性に応じて、内カバー部30の板厚を大きくすることができる。このように、異なる成型用樹脂材料から製作された内外のカバー部20,30のユニット化によって、外カバー部20と内カバー部30とに異なる機能を分担させることができる。例えば、車両外方に露出する外カバー部20には美観向上機能を担わせ、外カバー部20で隠される内カバー部30には強度向上機能や騒音拡散機能を担わせることができる。
【0030】
外カバー部20には内カバー部30よりも高剛性の材料が用いられる。これにより、ケース2に取り付けられる外カバー部20の剛性を高くすることができ、外カバー部20のケース2に対する取付け剛性を高くすることができる。また、美観向上の目的で外カバー部20を薄くしていても、高剛性材料を使用することによって、外カバー部20の強度や剛性をなるべく高くすることができる。
【0031】
外カバー部20には、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastic:ガラス繊維強化樹脂)やCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic:炭素繊維強化樹脂)のように、強化繊維を充填した樹脂材料(繊維強化樹脂材料)が用いられる。外カバー部20には、一例として、PA6−GF30(ポリアミド6にガラス繊維を30%含有した樹脂材料)を好適に適用可能である。内カバー部30には、ポリプロピレンのように、繊維強化を充填していない樹脂材料(非繊維強化樹脂材料)が用いられる。これにより、外カバー部20と内カバー部30とで剛性を異ならせることを容易に実現することができる。また、外カバー部20の板厚を薄くしながら、外カバー部20の強度や剛性を高くすることができる。一般に、繊維強化樹脂材料は、繊維強化樹脂材料よりも低剛性の非繊維強化樹脂材料と比べて高価である。板厚を小さくした外カバー部20に繊維強化樹脂材料を用いると、高価な材料の使用量を極力減らすことができ、スプロケットカバー10の製作コストが嵩むのを抑えることができる。
【0032】
このように、互いに異なる成型用樹脂材料からモールド成型された内外のカバー部20,30をユニット化することによってスプロケットカバー10を構成すると、単一材料・単一部品でスプロケットカバーを製作する場合と比べ、複数の設計目標を容易に同時に達成することができ、これら複数の設計目標を同時達成されたスプロケットカバーを廉価で製作することができる。そして、内外のカバー部20,30には分担機能に応じて最適な材料を振り分けることができ、材料の選択自由度も向上する。
【0033】
また、スプロケットカバー10がユニット化されるので、内カバー部30が外カバー部20に取り付けられた状態で、外カバー部20をケース2に着脱することができる。すると、内側のカバー体と外側のカバー体とをそれぞれケースに対し別々に着脱しなければならない構造と比べて、スプロケット9及びチェーン8のメンテナンス性が向上する。スプロケットカバー10は、発電機カバー11やポンプカバー12とは無関係に着脱することができ、この点からもスプロケット9及びチェーン8のメンテナンス性に優れる。
【0034】
なお、成型用樹脂材料は、モールド成型に用いる樹脂材料であり、非発泡材料であることが好ましい。吸音効果を得るためにウレタン等の発泡材料が用いられてもよいが、その場合においても、内カバー部30及び外カバー部20を成型用樹脂材料でモールド成型しておき、発泡材料製のシートを内カバー部30の内面若しくは外面又は外カバー部20の内面に接着するのが好ましい。スプロケットカバー10の主要構成部品である内外のカバー部20,30に成型用樹脂材料を用いると、発泡材料を用いた場合と比べ、カバー部20,30の形状を安定させやすく、経年による性能劣化が小さくなるし、強度を向上することができるので有益である。
【0035】
以下、外カバー部20及び内カバー部30の構造と合わせて本実施形態に係るスプロケットカバー10の更なる効果について説明する。
図3は、
図1に示すスプロケットカバー10を左、上、後から見て示す分解斜視図である。
図4は、
図1に示すスプロケットカバー10を右、上、後から見て示す分解斜視図である。
【0036】
図3に示すように、外カバー部20は、ケース2に当接するケース当接部21と、ケース当接部21からスプロケット9(
図2参照)の軸線方向(すなわち車幅方向)外側(例えば左側)に立設する側壁部22と、側壁部22を塞ぐように設けられた蓋部23とを有する。蓋部23は、スプロケット9(
図2参照)を車幅方向外側(例えば左側)から大きく覆うようにして設けられており、側壁部22は、蓋部23の縁部からケース2側に向かって突出している。外カバー部20は、これら蓋部23及び側壁部22の内側にスプロケット9(
図2参照)を収納するための内部空間24を形成している。内カバー部30は、内部空間24に収められ、蓋部23の内面とスプロケット9(
図2参照)との間に配置される。チェーン8がスプロケットカバー10と干渉することなく後方に延びるのを許容するため、側壁部22は、外カバー部20の後部においては省略されている。
【0037】
図4に示すように、外カバー部20は、蓋部23の内面から車幅方向中心側(例えば右側)に突出するリブ25を有している。リブ25には、外カバー部20(より詳しくは蓋部23)の中央部に設けられた環状リブ部26と、環状リブ部26から放射状に延びた複数本の放射リブ部27とが含まれる。放射リブ部27は、蓋部23の内面から車幅方向中心側(例えば右側)に突出すると共に、環状リブ部26の外周面を側壁部22の内面に接続している。このように放射状のリブ部27を設けたことにより、外カバー部20の強度が向上する。
【0038】
外カバー部20は、蓋部23の内面から車幅方向中心側(例えば右側)に突出する複数の取付部28を有する。取付部28は、車幅方向中心側(例えば右側)では開放されて車幅方向外側(例えば左側)では閉鎖された有底筒状である。取付部28は、内周面にネジ溝を形成したネジ孔を有している。複数の取付部28は、環状リブ部26よりも外周に位置し、蓋部23の内面上で広く分散配置されている。複数の取付部28は、放射リブ部27に一体的に設けられている。複数(例えば3つ)の取付部28が、環状リブ部26の円周方向に略等間隔に離れた複数本の放射リブ部27(例えば略120度おきに離れた3本の放射リブ部27)それぞれに一体的に設けられている。
【0039】
内カバー部30は、スプロケット9(
図2参照)を覆う蓋部31と、蓋部31の外縁を取り囲むようにして設けられた外縁壁部32とを有する。外縁壁部32は、蓋部31の軸線方向中心側端面(例えば右側面)よりも軸線方向中心側(例えば右側)に突出しており、蓋部31の軸線方向中心側端面(例えば右側面)は、外縁壁部32の軸線方向中心側端面(例えば右側面)から軸線方向外側(例えば左側)に向けて凹んでおり、この凹みに出力軸7の端部が配置されるようにすることで、スプロケットカバー10と出力軸7との干渉を避けながらスプロケットカバー10の車幅方向外側への突出量を小さくすることができる。
【0040】
図3に示すように、内カバー部30は、蓋部31の軸線方向外側の端面(例えば左側面)に、外カバー部20のリブ25に係合される係合溝33を有している。この係合溝33には、内カバー部30(より詳しくは蓋部31)の中央部に設けられた環状溝部34と、環状溝部34から放射状に延びる放射溝部35とが含まれる。放射溝部35は、外縁壁部32の表面まで連続している。内カバー部30は、蓋部31を貫通する複数の取付孔36を有している。この取付孔36は、軸線方向外側の大径部36aと軸線方向中心側の小径部36bとを有し、大径部36aは小径部36bよりも大きい内径を有し、大径部36aと小径部36bとの間には円環状の段差36cが形成される。複数の取付孔36は、放射溝部35の中間に設けられている。
【0041】
内カバー部30を外カバー部20に取り付けるにあたっては、内カバー部30を外カバー部20の内部空間24に収容し、リブ25(
図3参照)を係合溝33(
図4参照)に係合させる。環状リブ部26が環状溝部34に嵌め込まれ、全ての放射リブ部27が対応の放射溝部35に嵌め込まれる。また、外カバー部20の取付部28が、取付孔36の大径部36bに嵌め込まれて段差36cに突き当てられる。これにより、取付部28のネジ孔が、取付孔36の小径部36bと整合する。次いで、複数本のボルト16が、複数の小径部36bそれぞれに車幅方向中心側(例えば右側)から挿し込まれ、取付部28のネジ孔内に螺入される。
【0042】
図4に示すように、外カバー部20の内面後部には、金属製のチェーンガイド18がボルト固定される。外カバー部20は、チェーンガイド18を取り付けるための内面から突出するボス19を有しており、このボス19は、概略後方に延びる放射リブ部27の先端に設けられている。このため、内カバー部30を取り付けた後にチェーンガイド18を外カバー部20に取り付けることができる。
【0043】
図5は、ユニット化されたスプロケットカバー10の左側面図であり、外カバー部20で隠された内カバー部30を破線で示している。
図6は、
図5のVI−VI線に沿って切断して示す斜視断面図である。
図5に示すように、取付部28は、蓋部23の内面上に広く分散配置されている。このため、内カバー部30を外カバー部20に対ししっかりと偏りなく強固に取り付けることができる。
【0044】
図5及び
図6に示すように、取付部28は、車幅方向外側(例えば左側)には開放されていない。このため、スプロケットカバー10をユニット化した状態で、ボルト16が蓋部23から外方に露出するようなことはない。スプロケットカバー10が内外のカバー部20,30をユニット化することによって構成される場合にあっても、これら2つのカバー部20,30を固定する取付具(ボルト16)によりスプロケットカバー10の美観が損なわれるような事態を避けることができる。
【0045】
リブ25及び係合溝33の係合によって、内カバー部30を外カバー部20に位置決めすることができる。また、外カバー部20の強度向上のためリブ25を設けていても、リブ25が係合溝33内に嵌め込まれるので、内カバー部30の蓋部31を外カバー部20の蓋部23へと軸線方向に近付けることができる。よって、スプロケットカバー10が全体として車幅方向に大型化するのを抑えることができる。
【0046】
内カバー部30の外縁壁部32は、下部を除き略全体的に、外カバー部20の側壁部22の内面に密着している。これにより、スプロケットカバー10の周壁(蓋部23,31を取り囲む側壁部22及び外縁壁部32)が、全体として大きな板厚を有するようになる。このため、スプロケットカバー10の強度が向上する。本実施形態では、美観向上のために外カバー部30の板厚を薄くしているが、側壁部22は、板厚の大きい外縁壁部32と密着していることにより、外縁壁部32と協働して高い強度を得ることができる。
【0047】
このように内カバー部30の外縁壁部32が側壁部22の内面に密着するので、内カバー部30は、ケース当接部21、側壁部22及び蓋部23で形成された内部空間24にスプロケット9と共に収められ、内カバー部30が外カバー部20と車幅方向に重なる。スプロケット9は内カバー部30で覆われ更に外側の外カバー部20で覆われる。すると、内カバー部30と外カバー部20とでユニット化されたスプロケットカバー10を全体として見たときに、スプロケット9の外側のカバー厚みが大きくなる。よって、スプロケットカバー10の全体として強度及び防音性が高くなる。
【0048】
外カバー部20は、取付部35とは異なる部分でも、内カバー部22の表面と接触している。当該異なる部分には、前述のとおり、リブ25の表面や側壁部22の内面などが含まれる。このように、本実施形態に係るスプロケットカバー10では、外カバー部20の内面側とカバー部30の表面と接触している領域が大きい。このため、内カバー部30の蓋部31が外カバー部20の蓋部23から軸線方向に離れていても、また、外カバー部20の板厚を薄くしても、外カバー部20から振動放射音が発生するのを抑制することができる。すなわち、外カバー部20と内カバー部30との接触域の確保により、外カバー部20の蓋部23が振動放射音を生じる振動板として機能してしまうのを避けることができる。特に、本実施形態では、リブ25が、中央の環状リブ部26と、環状リブ部26から放射状に延びる放射リブ部27とを有し、そのため、外カバー部20の蓋部23のうち内カバー部20と接触してない領域が、周方向に細切れになっている。このため、蓋部23を大きくして外カバー部20がスプロケット9(
図2参照)を広く覆っていても、外カバー部20からの振動放射音を好適に抑えることができる。
【0049】
そして、外カバー部20の蓋部23の内面と、内カバー部30の蓋部31の外面との間には隙間が形成されている。この隙間により、防音性を維持しながら、内カバー部の大型化を防いで軽量化を図ることができる。
【0050】
図3及び
図4に示すように、外カバー部20は、側壁部22に設けられた複数のケース取付部29を有している。ケース取付部29は、軸線方向に延びる貫通穴を有しており、貫通穴は軸線方向中央側(例えば右側)ではケース当接部21に開口する。ユニット化されたスプロケットカバー10は、スプロケット9(
図1参照)を車幅方向外側から覆うようにしてケース2(
図1参照)の車幅方向外方に設置され、ボルト17がケース取付部29に車幅方向外側から挿し込まれてケース2に螺入される。これにより、ユニット化されたスプロケットカバー10がケース2に取り付けられる。ケース取付部29は、側面視で内カバー部30よりも外側に位置し、スプロケットカバー10のケース2への取付けが、内カバー部30の外側で行われる。この構造により、内カバー部30が外カバー部20に取り付けられた状態で、外カバー部20を内カバー部30とは無関係にケース2に対して着脱することができる。
【0051】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成は、本発明の範囲内で適宜変更可能である。例えば、内カバー部30は、リブ及び外縁壁部とは異なる部分において、外カバー部20と接触していてもよい。例えば、内カバー部の蓋部が、係合溝よりも大きい板厚を有し、蓋部の軸線方向外側端面(例えば左側面)が、外カバー部の蓋部の内面に面接触していてもよい。また、内カバー部が、蓋部から部分的に軸線方向外側(例えば左側)に突出する突部を有し、この突部が外カバー部の蓋部の内面に接触していてもよい。この場合、突部は、環状溝部の内周に配置されていてもよいし、環状溝部の外周に配置されていてもよい。
【0052】
また、内カバー部30を外カバー部20に取り付けるための取付具16は、ボルトに限られず、例えばリベットであってもよい。また、専用の取付具を用いずに内カバー部30が外カバー部20に取り付けられてもよい。一例として、内カバー部30及び外カバー部20の一方に設けた爪を他方に形成された溝に係止することにより、内カバー部30が外カバー部20に取り付けられてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、スプロケットが固定される出力軸を変速機の出力軸としたが、変速機を搭載していない鞍乗型車両においては、スプロケットが固定される出力軸を、駆動源の出力軸としてもよい。駆動源にはエンジン(内燃機関)に替えて又は加えて電気モータが適用されてもよい。このため、出力軸は、変速機ケースから突出する場合に限られず、エンジンのクランクシャフトを収容するケース部分から突出していてもよいし、電気モータを収容するケース部分から突出していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば取付け剛性の向上、美観の向上及び騒音放散の防止など、複数の設計目標を同時に実現するスプロケットカバーを提供することができるとの顕著な作用効果を奏し、ケース外方に配置されたスプロケットを備えた鞍乗型車両に適用すると有益である。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
2 ケース
4 変速機
5 変速機ケース
7 出力軸
9 スプロケット
10 スプロケットカバー
16,17 ボルト
20 外カバー部
21 ケース当接部
22 側壁部
23 蓋部
25 リブ
28 取付部
29 ケース取付部
30 内カバー部
33 係合溝
36 取付孔