特許第6190107号(P6190107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190107家畜の肝臓酵素分解物を含有する食肉加工食品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190107
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】家畜の肝臓酵素分解物を含有する食肉加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/40 20160101AFI20170821BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20170821BHJP
【FI】
   A23L13/40
   A23L13/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-255835(P2012-255835)
(22)【出願日】2012年11月22日
(65)【公開番号】特開2014-100118(P2014-100118A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000118497
【氏名又は名称】伊藤ハム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】沼田 正寛
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−271377(JP,A)
【文献】 特開2011−254762(JP,A)
【文献】 特開平03−219842(JP,A)
【文献】 特開昭60−120963(JP,A)
【文献】 特許第4245089(JP,B2)
【文献】 特開2011−109945(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074359(WO,A1)
【文献】 特公昭47−002538(JP,B1)
【文献】 中国特許出願公開第102763830(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102366026(CN,A)
【文献】 国際公開第2011/011472(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00−17/00
CAplus/FROSTI/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜の肝臓をアルカラーゼによって処理した酵素分解物を含有する食肉加工食品の製造方法であって、前記酵素分解物に対してアルギニンを0.5重量%以上4.0重量%以下添加する工程を少なくとも含むことを特徴とする食肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記酵素分解物に対して、さらにトレハロースを添加することを特徴とする請求項1記載の食肉加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工食品の栄養・生理活性機能を高めるために、家畜の肝臓酵素分解物を食肉加工食品に含ませた場合であっても、家畜の肝臓の特有の臭いがマスキングされ、さらには食感、物性が良好な食肉加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛肉、豚肉、鶏肉等の食肉は良質なタンパク源として非常に重要な食材であるが、と殺した家畜を解体する工程で発生した家畜副生物も栄養・生理活性機能が高い食材として利用されている。
【0003】
この「家畜副生物」には、心臓、肝臓、小腸、胃、舌等があり、特に、肝臓(レバー)は、ビタミンA、B1、B2、鉄の宝庫であるが、十分に血抜きして調理したとしても肝臓特有の臭みを完全にマスキングするのは難しい。
【0004】
肝臓(レバー)を使用した食肉加工食品の代表例として、レバーソーセージ、レバーペーストがある。レバーソーセージは、豚や牛の挽き肉に細切した肝臓を混合して、湯煮したクックドソーセージの1種であり、欧米諸国ではかなりの種類が作られている。一方、レバーペーストは、家畜の肝臓を主体に畜肉を加えたペースト状の食品でパンに塗れるよう軟らかくしている。肝臓を原料としているため、いずれも栄養価は高いものの、肝臓特有の臭みがあり、物性も通常のソーセージとは異なり、敬遠する消費者も多い。
【0005】
これまで家畜の肝臓特有の臭みをマスキングする技術としては、レバーペーストにカレー粉を含有させる方法(特許文献1)、レバーソーセージにカテキンを含有させる方法(特許文献2)が開示されている。また、レバーペーストにコク味を付与する方法(特許文献3)も開示されている。
【0006】
また、肝臓特有の臭みをマスキングという観点ではないが、豚肝臓の酵素分解物を含有させることで糖代謝の改善に有効な食品(特許文献4)、牛肉又は牛肉加工食品の製造においてアルギニンを添加することでグラス臭や獣臭等の不快な畜臭がマスキングされる技術も開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−120963
【特許文献2】特許第4245089号
【特許文献3】特開2011−109945
【特許文献4】特開2006−271377
【特許文献5】特開2011−254762
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで、肝臓を添加した食肉加工食品において、肝臓特有の臭いをマスキングし、かつ、食感を損なわない食肉加工食品は知られていなかった。そこで、本発明は、上記事情に鑑み、食肉加工食品の栄養・生理活性機能を高めるために、家畜の肝臓酵素分解物を食肉加工食品に含ませた場合であっても、家畜の肝臓特有の臭いがマスキングされ、しかも酵素分解した肝臓を使用することによって、たとえ大量に添加しても食感、物性を損なわない食肉加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、食肉加工食品に含まれる肝臓酵素分解物にアルギニンを添加することで、肝臓特有のレバー臭がマスキングされ、しかも酵素分解し、肝臓タンパク質の加熱凝集性を消失させれば、例え大量に添加しても食肉加工食品の食感、物性を損なわないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(1)家畜の肝臓酵素分解物を含有する食肉加工食品の製造方法であって、前記肝臓酵素分解物にアルギニンを添加する工程を少なくとも含むことを特徴とする食肉加工食品の製造方法、(2)前記肝臓酵素分解物は、肝臓をプロテアーゼで加水分解したことを特徴とする(1)記載の食肉加工食品の製造方法。(3)前記アルギニンの濃度は肝臓酵素分解物に対して0.5重量%以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の食肉加工食品の製造方法。(4)(1)〜(3)いずれか1つに記載の製造方法により製造された食肉加工食品、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、食肉加工食品の栄養・生理活性機能を高めるために、家畜の肝臓酵素分解物を食肉加工食品に含ませた場合であっても、アルギニンの効果により家畜の肝臓の特有の臭いをマスキングすることができ、また肝臓を酵素分解することによって食肉加工食品の食感、物性を損なうことなく大量に添加することができる。さらに、乾燥食肉製品では配合時4.5〜6.0重量%トレハロースを添加することで、しなやかな好ましい食感に改良することができる。また、アルギニンはアミノ酸であるため、本発明の食肉加工食品そのものの旨味に影響を及ぼすことなく、かつ安全性にも優れている。本発明の製造方法により製造された食肉加工食品は、二日酔い防止にも効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、家畜の肝臓酵素分解物を含有する食肉加工食品の製造方法であって、前記肝臓酵素分解物にアルギニンを添加する工程を少なくとも含むことを特徴とする食肉加工食品の製造方法、に関する。
【0013】
本発明における食肉加工食品としては、ウインナー、フランクフルト、ボロニアソーセージ等のソーセージ加工品、ドライソーセージやジャーキーのような乾燥食肉製品、焼豚やハンバーグ等の加工品を挙げることができる。原料肉としては、豚肉、牛肉、鶏肉、馬肉、羊肉等の食肉であればいずれでもよく、特に種類や使用する部位が限定されることはない。
【0014】
本発明における家畜の肝臓を分解するに際して、酵素はアルカラーゼを使用することが好ましいが、プロテアーゼであれば特に種類は限定されない。家畜の肝臓を所定の大きさにミンチし、所定量の酵素を添加した後、所定の温度、時間、pHで作用させることで、肝臓酵素分解物を得ることができる。例えばアルカラ−ゼ(酵素活性2.4AU−A/gの場合)を用いた酵素反応の際は、酵素の添加量は肝臓に対して0.2%とし、反応条件は50〜55℃、pH8.5とすることが望ましいが、肝臓タンパク質の加熱凝集性を消失するまで分解できれば特にこの条件に限定されるものではない。酵素分解・失活後の形態は粉末状でもスラリ−状でも、分解前の肝臓重量換算で所定量が添加できれば特に拘らないが、乾燥工程のないスラリ−状が安価で好ましい。
【0015】
食肉加工食品に対する肝臓酵素分解物の添加量としては、ソーセージの場合は10重量%以下、乾燥食肉製品の場合は20重量%以下とすることが好ましい。前記配合量を超える肝臓酵素分解物を添加すれば、特有の臭みが残ってしまう。
【0016】
本発明において、肝臓酵素分解物に添加するアルギニンは、どのような光学的異性体も使用できるが、L−体のアルギニンが好ましい。また、魚類プロタミン等、アルギニンを多く含む食品から適宜抽出したアルギニン濃縮物、あるいは食品タンパク質を分解後、アルギニン画分を分取した分画物等も使用できる。
【0017】
アルギニンの添加量は、肝臓酵素分解物に対して0.5重量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.75重量%以上である。この範囲でアルギニンが添加されると、優れた肝臓臭のマスキング効果が得られる。本発明の食肉加工食品の呈味性に影響することもない。
【0018】
アルギニンの添加方法としては、肝臓酵素分解物に直接添加するのがより好ましいが、肉塊に添加し肉塊の水分で溶解させる手法を採用してもよいし、水あるいは塩漬剤、他の添加物等に混合、分散させて添加してもよく特に限定されない。
【実施例】
【0019】
(実施例1)豚肝臓酵素分解物の製造
豚肝臓1400gを5mm目でミンチし、アルカラーゼ(酵素活性2.4AU−A/g)を2.8g(豚肝臓重量の0.2%)添加し、50℃で3時間反応させた。酵素反応中、pH8.5を維持するよう水酸化ナトリウムを添加しながら調整した。反応終了後、アスコルビン酸でpHを約7.0に調整し、90℃で1時間アルカラーゼを加熱失活させた。
【0020】
(実施例2)ソーセージの製造
豚うで肉を9.6mm、豚脂を3.2mmでミンチした。その後、ミンチ後の原料肉と実施例1で調製した肝臓酵素分解物を塩漬し、4℃で24時間熟成処理した。原料肉の塩漬配合割合を表1、酵素処理していない豚肝臓又は豚肝臓酵素分解物(実施例1で調製)の熟成時の配合割合を表2に示す。試験区1は酵素未処理の豚肝臓(アルギニン無添加)、試験区2は酵素未処理の豚肝臓(アルギニン添加)、試験区3は豚肝臓酵素分解物(アルギニン無添加)、試験区4は豚肝臓酵素分解物(アルギニン添加)をそれぞれ含有した際のソーセージの配合割合である。その後、熟成後の原料肉と豚肝臓酵素分解物を、カッティング処理により混合、味付けした。その際の配合割合は表3の通りである。カッティング処理後、羊腸に充填し、63℃で20分間乾燥し、70℃で15分間くん煙し、さらに78℃で30分間蒸煮することで加熱処理を行った後、冷却処理した。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
(官能評価)
8名のパネリストで官能検査を行った。その結果を表4に示す。風味について、○:肝臓特有の臭いがマスキングされて風味は良好、△:肝臓特有の臭いがやや残っている、×:肝臓特有の臭いが残っており、風味が悪い。一方、食感について、○:良好、△:やや良好、×:不良である。
【0025】
【表4】
【0026】
(結果)
豚肝臓の添加区の風味について、アルギニン無添加の試験区(試験区1)は、豚肝臓特有の臭いが残っていたが、アルギニン添加の試験区(試験区2)は肝臓特有の臭いがマスキングされ、良好だった。しかし、食感は両試験区ともレバー特有のボソボソ感があり、好ましくなかった。一方、豚肝臓酵素分解物の添加区について、アルギニン無添加の試験区(試験区3)は、豚肝臓特有の臭いが残っていたものの、レバー特有の好ましくない食感が改善され、アルギニン添加の試験区(試験区4)では、豚肝臓特有の臭いがマスキングされ、さらに食感も良好であった。
【0027】
(実施例3)乾燥食肉製品の製造
牛ネック肉を3.2mmでミンチした。その後、ミンチ後の原料肉と実施例1で調製した肝臓酵素分解物を塩漬し、4℃で24時間熟成処理した。ミンチ原料肉の塩漬配合割合を表5、酵素処理していない豚肝臓又は豚肝臓酵素分解物(実施例1で調製)の熟成時の配合割合を表6に示す。試験区1は酵素未処理の豚肝臓(アルギニン無添加)、試験区2は酵素未処理の豚肝臓(アルギニン添加)、試験区3は豚肝臓酵素分解物(アルギニン無添加)、試験区4は豚肝臓酵素分解物(アルギニン添加)をそれぞれ含有した際の乾燥食肉製品の配合割合である。熟成後の原料肉と豚肝臓酵素分解物を、混合、味付けした。その際の配合割合は表7の通りである。カッティング処理後、セルロースケーシングに充填し、凍結処理し、半解凍の状態でスライス処理した。さらに、スライス処理した原料肉を、75℃で120分間乾燥し、70℃で15分間加熱し、75℃で28分乾燥し、75℃で5分間乾燥した。
【0028】
【表5】
【0029】
【表6】
【0030】
【表7】
【0031】
(官能評価)
9名のパネリストで官能検査を行った。その結果を表8に示す。評価方法は実施例2と同様である。
【0032】
【表8】
【0033】
(結果)
豚肝臓の添加区の風味は、アルギニン無添加では豚肝臓特有の臭いが残っていたが(試験区1)、アルギニン添加によりマスキングされた(試験区2)。しかし、食感は両試験区とも豚肝臓酵素分解物の添加区に比べてやや劣っていた。一方、豚肝臓酵素分解物の添加区は、アルギニン無添加の試験区(試験区3)は、豚肝臓特有の臭いが残っていたものの、アルギニン添加の試験区(試験区4)は、豚肝臓特有の臭いがマスキングされており、良好な風味であった。さらに、レバー特有の粉っぽい食感が改善され、好ましい食感であった。
【0034】
(まとめ)
ソーセージ、乾燥食肉製品いずれにおいても、アルギニンの添加によって、豚肝臓特有の臭いがマスキングされることが示された。さらに、肝臓の酵素分解処理により、食感が良くなることが示された。
【0035】
(実施例4)最適なアルギニン添加量の検証(ソーセージ)
原料肉の塩漬配合割合を表9、豚肝臓酵素分解物とアルギニンの配合割合は表10、原料肉と豚肝臓酵素分解物の混合時の配合割合を表11に示す。アルギニンは、試験区1〜9まで9段階に分けて濃度の調製を行った。ミンチ、塩漬、熟成、混合、加熱の製造条件は、実施例2と同様の方法を採用した。
【0036】
【表9】
【0037】
【表10】
【0038】
【表11】
【0039】
(官能検査)
10名のパネリストで官能検査を行った。その結果を表12に示す。評価方法は実施例2と同様である。
【0040】
【表12】
【0041】
(結果)
風味の評価について、アルギニン無添加(試験区1)では、特有の臭みが残っており、アルギニン濃度0.25重量%(試験区2)では、臭みがやや残っていたが、0.5重量%(試験区3)以上で特有の臭みがマスキングされており、風味は良好との評価であった。食感については、アルギニンの濃度に関係なく、全ての試験区で良好との評価が得られた。
【0042】
(実施例5)最適なトレハロース添加量の検証(乾燥食肉製品)
原料肉の塩漬配合割合を表13、豚肝臓酵素分解物とアルギニンの配合割合は表14、原料肉と豚肝臓酵素分解物の混合時の配合割合を表15に示す。味付け時に添加するトレハロースの濃度を、試験区1〜7まで7段階に設定した。塩漬、熟成、混合、加熱の製造条件は、実施例3と同様の方法を採用した。
【0043】
【表13】
【0044】
【表14】
【0045】
【表15】
【0046】
(官能検査)
8名のパネリストで官能検査を行った。その結果を表16に示す。評価方法は実施例2と同様である。
【0047】
【表16】
【0048】
(結果)
風味の評価について、トレハロースの濃度による違いは認められなかった。一方、食感については、トレハロース濃度が3.0重量%までは変化はなかったが、4.5〜6.0重量%(試験区5〜6)で、しっとり軟らかい良好な食感が得られる結果となった。7.5重量%(試験区7)では軟らかすぎて好ましくない食感となった。
【0049】
(産業上の利用可能性)
本発明により、食肉加工食品の栄養・生理活性機能を高めることに加えて、家畜の肝臓酵素分解物を食肉加工食品に含ませた場合であっても、家畜の肝臓の特有の臭いがマスキングされ、さらには食感、物性が改善された食肉加工食品を製造することができる。