(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、図中に示した矢印に従って、上下方向、左右方向、及び前後方向を定義する。
【0027】
まず、
図1を用いて、本発明の第一実施形態に係るスラスト軸受100を具備するターボチャージャ1の構成について説明する。
【0028】
ターボチャージャ1は、エンジンのシリンダに圧縮空気を送り込むためのものである。
図1に示すように、ターボチャージャ1は、主としてシャフト10と、タービン20と、コンプレッサ30と、軸受ハウジング40と、を具備する。
【0029】
シャフト10は、その長手方向(軸線方向)を前後方向へ向けて配置される。シャフト10の一端(後端)にはコンプレッサホイール32が固定され、シャフト10の他端(前端)にはタービンホイール22が固定される。このように、シャフト10は、コンプレッサホイール32とタービンホイール22とを連結する。シャフト10は、軸受ハウジング40内に回動可能に支持される。
【0030】
タービン20は、軸受ハウジング40の前方に配置される。タービン20は、主としてタービンハウジング21と、タービンホイール22と、を具備する。
【0031】
タービンハウジング21は、タービンホイール22を内包するものである。タービンハウジング21は、軸受ハウジング40の前端に固定され、タービンホイール22を覆うように形成される。タービンホイール22は、シャフト10に固定され、当該シャフト10と一体的に回動可能に構成される。
【0032】
コンプレッサ30は、軸受ハウジング40の後方に配置される。コンプレッサ30は、主としてコンプレッサハウジング31と、コンプレッサホイール32と、を具備する。
【0033】
コンプレッサハウジング31は、コンプレッサホイール32を内包するものである。コンプレッサハウジング31は、軸受ハウジング40の後端に固定され、コンプレッサホイール32を覆うように形成される。コンプレッサホイール32は、シャフト10に固定され、当該シャフト10と一体的に回動可能に構成される。
【0034】
軸受ハウジング40は、シャフト10を回動可能に支持するものである。軸受ハウジング40には、主としてすべり軸受部41と、スラスト軸受部42と、給油油路45と、が設けられる。
【0035】
すべり軸受部41は、シャフト10を回動可能に支持する部分である。すべり軸受部41は、円形断面を有し、軸受ハウジング40を前後方向に貫通するように形成される。すべり軸受部41には、シャフト10を滑らかに回動させるためのすべり軸受43が配置される。すべり軸受43は、シャフト10に外嵌される。
【0036】
スラスト軸受部42は、シャフト10の軸線方向に作用するスラスト荷重を支承するための部分である。スラスト軸受部42は、軸受ハウジング40の後側面に形成される。より詳細には、軸受ハウジング40の後側面には、前方へ向けて凹んだ凹部が形成される。そして、当該凹部により形成された空間が、スラスト軸受部42となる。スラスト軸受部42には、スラスト荷重を支承するためのスラスト軸受100が配置される。
なお、スラスト軸受100の構成については、後述する。
【0037】
図1に示すように、給油油路45は、すべり軸受43及びスラスト軸受100に潤滑油を供給(給油)するための孔である。給油油路45は、軸受ハウジング40の上側面に設けられたハウジング給油口48から下方へ向けて延出される。そして、当該延出端部(下側端部)が、すべり軸受部41に設けられた第一ハウジング吐出口49に接続される。こうして、ハウジング給油口48と第一ハウジング吐出口49とが連通され、すべり軸受部41(ひいては、すべり軸受43)に潤滑油を供給することができる。
【0038】
また、給油油路45の上下中途部には、当該給油油路45が分岐した第二給油油路46が形成される。第二給油油路46は、給油油路45との分岐部から後方へ向けて延出される。そして、当該延出端部(後側端部)が、スラスト軸受部42に設けられた第二ハウジング吐出口50に接続される。こうして、ハウジング給油口48と第二ハウジング吐出口50とが連通され、スラスト軸受部42(ひいては、スラスト軸受100)に潤滑油を供給することができる。
【0039】
このように構成されたターボチャージャ1においては、エンジンのシリンダ内で燃焼した後の高温の空気(排気)によって、タービンホイール22が回動される。そして、当該タービンホイール22の回動は、シャフト10を介してコンプレッサホイール32に伝達され、当該コンプレッサホイール32が回動される。そして、コンプレッサホイール32が回動することにより、圧縮された空気を前記エンジンのシリンダへと供給することができる。
【0040】
次に、スラスト軸受100の構成について、より詳細に説明する。
【0041】
図1及び
図2に示すスラスト軸受100は、シャフト10の軸線方向(前後方向)に作用するスラスト荷重を支承するための部材である。
図2に示すように、スラスト軸受100は、主として本体部110と、摺動部120と、により構成される。また、スラスト軸受100には、潤滑油を流通させるための潤滑油路130(
図7等参照)が設けられる。
【0042】
図2及び
図3に示す本体部110は、スラスト軸受100の主たる構造体である。本体部110は、比較的安価な材料である鉄系材料により構成される。本体部110は、平板状に形成され、その板面を前後方向へ向けて配置される。本体部110は、正面視で開口する側を下方へ向けた略C字状に形成される。より詳細には、本体部110は、正面視で略真円形状の部材が、当該本体部110の中央部を残して下方から上方へ向けて切り欠いた形状に形成される。
【0043】
本体部110には、取付孔111と、ピン孔112と、油路給入部113と、第一油路114と、が設けられる。
【0044】
図2及び
図3に示す取付孔111は、後述する摺動部120を取り付けるための孔である。取付孔111は、本体部110の略中央に、正面視で略真円状に形成される。取付孔111は、本体部110を前後方向に貫通し、その軸心を前後方向へ向けて形成される。取付孔111の内径は、摺動部120の外径よりも若干短くなるように形成される。
【0045】
図2及び
図3に示すピン孔112は、スラスト軸受100の位置決めを行うための孔である。ピン孔112は、本体部110の左上部に、正面視で略真円状に形成される。ピン孔112は、本体部110を前後方向に貫通し、その軸心を前後方向へ向けて形成される。ピン孔112は、スラスト軸受100が軸受ハウジング40(より詳細には、スラスト軸受部42)に配置された場合に、ピン(不図示)が挿通される。これにより、スラスト軸受100の位置が決まり、当該スラスト軸受100が回り止めされる。
【0046】
図2及び
図3に示す油路給入部113は、潤滑油路130に潤滑油を供給するためのものである。油路給入部113は、本体部110の上部中央であって、取付孔111の上方に形成される。油路給入部113は、本体部110の前側面から後方へ向けて切り欠いて形成される。より詳細には、油路給入部113は、頂点を上方へ向けた略円錐形状の後側半分の形状に形成され、本体部110の前側面から前方を臨むように開口される。
図1に示すように、油路給入部113は、第二給油油路46の第二ハウジング吐出口50に対向して配置され、当該第二ハウジング吐出口50に接続される。これにより、軸受ハウジング40(給油油路45及び第二給油油路46)からスラスト軸受100(油路給入部113)に潤滑油が供給可能となる。
【0047】
図2及び
図3に示す第一油路114は、潤滑油路130の一部であって、当該潤滑油路130の上流側を構成する油路である。第一油路114は、本体部110の内部に穿孔される。第一油路114は、油路給入部113の下側面に開口された第一油路給入口115から後下方へ向けて延出される。第一油路114の延出側端部(下流側端部)は、取付孔111の内周面の上側に開口された第一油路吐出口116に接続される。これにより、油路給入部113と取付孔111とが、第一油路114により連通される。すなわち、油路給入部113に供給された潤滑油が、第一油路114を流通して取付孔111に供給可能となる。
【0048】
図2、
図4及び
図5に示す摺動部120は、後述する第一カラー11及び第二カラー12と摺動する(摺動面を有する)部材である。摺動部120は、(前記鉄系材料と比較して)比較的優れた耐焼き付き性や耐摩耗性を有する摺動材料により構成される。本実施形態では、摺動部120は、摺動材料としての銅系材料により構成される。摺動部120は、平板状に形成され、その板面を前後方向へ向けて配置される。摺動部120は、正面視で略円環状に形成される。摺動部120の外径は、本体部110の取付孔111の内径よりも若干長くなるように形成される。また、摺動部120の前後方向(幅方向)の長さは、本体部110の前後方向の長さと略同一か、又は若干長くなるように形成される。
【0049】
摺動部120には、挿通孔123と、テーパ部124と、溝部125と、第三油路126と、が設けられる。
【0050】
図2、
図4及び
図5に示す挿通孔123は、(後述する第二カラー12を介して)シャフト10を挿通させるための孔である。挿通孔123は、摺動部120の略中央に、正面視で略真円状に形成される。挿通孔123は、摺動部120を前後方向に貫通し、その軸心を前後方向へ向けて形成される。挿通孔123の内径は、後述する第二カラー12の円筒部12aの外径よりも若干長くなるように形成される。こうして、スラスト軸受100が軸受ハウジング40に配置された場合に、挿通孔123と第二カラー12の円筒部12aとの間に隙間が形成される(
図10参照)。
【0051】
図2及び
図4に示すテーパ部124は、シャフト10の軸線方向に作用するスラスト荷重を支承するための部位である。テーパ部124は、摺動部120の前側面及び後側面にそれぞれ形成される。より詳細には、テーパ部124は、摺動部120の前側面及び後側面が、周方向へ向けて緩やかに傾斜した部位として形成される。テーパ部124は、摺動部120の前側面及び後側面に、周方向に適宜の間隔をあけて(テーパ部124よりも周方向に短く設定されたフラット部を挟んで)複数形成される。本実施形態では、テーパ部124は、摺動部120の前側面及び後側面に、それぞれ4つ(図中における色付きの部分)形成される。
【0052】
図2、
図4及び
図5に示す溝部125は、摺動部120の外周縁部に形成される。溝部125は、摺動部120の外周縁部の前後方向(幅方向)中央部が、周方向に亘って内側に向けて凹んで形成される。こうして、摺動部120の外周縁部の前部には、当該摺動部120の前側面が外径方向に延出して形成された前側延出部121が形成される。また、摺動部120の外周縁部の後部には、当該摺動部120の後側面が外径方向に延出して形成された後側延出部122が形成される。そして、前側延出部121と後側延出部122との間の隙間が、溝部125として形成される。溝部125は、摺動部120の外周縁部の周方向に延出され、一側端部と他側端部とが連通される。こうして、溝部125は、正面視で略円環状に形成される。
【0053】
図4及び
図5に示す第三油路126は、潤滑油路130の一部であって、当該潤滑油路130の下流側を構成する油路である。第三油路126は、摺動部120の内部に穿孔される。第三油路126は、溝部125の上部の底面に開口された第三油路給入口127から真下方へ向けて延出される。すなわち、第三油路126は、上下方向に延出して形成されるものであり、挿通孔123の軸心(前後)方向に対して垂直方向に向けて設けられる。なお、第三油路給入口127は、溝部125の上部の底面において、前後方向(幅方向)中央部に形成される。第三油路126の延出側端部(下流側端部)は、挿通孔123の内周面の上側に開口された第三油路吐出口128に接続される。これにより、溝部125と挿通孔123とが、第三油路126により連通される。すなわち、後述する溝部125に充填された潤滑油は、第三油路126を介して挿通孔123に供給可能となる。
【0054】
以下では、摺動部120の本体部110への取り付けの構成について説明する。
【0055】
図2に示すように、摺動部120は、本体部110の取付孔111に取り付けられる。より詳細には、摺動部120は、本体部110の取付孔111に圧入されることにより、当該取付孔111に取り付けられる。前述したように、摺動部120の外径は、本体部110の取付孔111の内径よりも若干長く形成されている。すなわち、摺動部120の外径において前記若干長く形成された部分が、圧入の締め代として構成される。こうして、摺動部120が本体部110の取付孔111に圧入されると、摺動部120の外周面(より詳細には、前側延出部121及び後側延出部122の外周面)と本体部110の取付孔111の内周面とが略隙間無く密着することになる。
【0056】
こうして、
図6及び
図7に示すように、スラスト軸受100は、摺動部120が本体部110に取り付けられると、前側面及び後側面が面一である略平板状に形成され、その板面を前後方向へ向けて配置される。
【0057】
なお、本実施形態では、摺動部120の本体部110への取り付けは圧入により行うものとしたが、これに限定するものではない。すなわち、摺動部120の本体部110への取り付けは、溶接等、他の方法により行われてもよい。
【0058】
以下では、前述したように摺動部120が本体部110へ取り付けられた状態における溝部125の構成について、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0059】
前述したように摺動部120が本体部110に取り付けられた場合、当該摺動部120の溝部125の開口部(すなわち、前側延出部121と後側延出部122との間の隙間)は、当該本体部110の取付孔111の内周面により閉塞される。すなわち、
図7に示すように、溝部125は、側面断面視で略四角形状の密閉された空間として区画されることになる。なお、当該空間には、後述するように潤滑油が充填される。以下では、前記空間(溝部125及び取付孔111の内周面により区画された空間)を「第二油路129」と称する。
【0060】
このように、第二油路129は、溝部125及び取付孔111の内周面により区画された空間である。すなわち、第二油路129は、溝部125と同様に、摺動部120の外周縁部の周方向に延出され、一側端部と他側端部とが連通される。こうして、
図8(b)に示すように、第二油路129は、正面視で略円環状に形成される。なお、摺動部120の外周面(より詳細には、前側延出部121及び後側延出部122の外周面)と本体部110の取付孔111の内周面とは略隙間無く密着(当接)されるので、第二油路129に潤滑油が充填された場合に、当該充填された潤滑油が漏れないように構成される。
【0061】
以下では、前述したように摺動部120が本体部110へ取り付けられた状態における潤滑油路130の構成について、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0062】
図7及び
図8に示す潤滑油路130は、潤滑油を流通させるための油路である。より詳細には、潤滑油路130は、軸受ハウジング40の給油油路45及び第二給油油路46により油路給入部113に供給された潤滑油を、摺動部120(より詳細には、第一カラー11及び第二カラー12との摺動面)に供給するための油路である。潤滑油路130は、本体部110に設けられた前記第一油路114と、摺動部120の溝部125と本体部110の取付孔111の内周面とにより区画された前記第二油路129と、摺動部120に設けられた前記第三油路126と、により構成される。
【0063】
図7及び
図8に示すように、第一油路114は、側面視で斜めに傾いた直線状に形成される。そして、第一油路114の第一油路吐出口116は、第二油路129(すなわち、摺動部120の溝部125)内を臨むように形成される。また、第三油路126は、側面視で上下方向に延出された直線状に形成される。そして、第三油路126の第三油路給入口127は、第一油路114の第一油路吐出口116の真下方よりも若干前方に配置され、第二油路129内を臨むように形成される。すなわち、第一油路114の第一油路吐出口116と第三油路126の第三油路給入口とは、側面視で前後方向にずれて配置されるとともに、第二油路129を介して概ね対向するように形成される。
【0064】
こうして、
図8(b)に示すように、潤滑油路130は、全体として、第一油路114及び第三油路126により形成された概ね上下方向に延出した細長い油路に対して、略円環状に形成された油路(第二油路129)の上部中央が交わるように形成される。
【0065】
以下では、スラスト軸受100がターボチャージャ1に配置される場合の配置構成について、
図9及び
図10を用いて説明する。
【0066】
図9及び
図10に示すように、スラスト軸受100は、ターボチャージャ1(より詳細には、軸受ハウジング40のスラスト軸受部42)に配置された場合、第一カラー11及び第二カラー12を介してシャフト10に外嵌される。
【0067】
まず、第一カラー11及び第二カラー12の構成について説明する。
【0068】
図9及び
図10に示すように、第一カラー11は、その軸線方向を前後方向へ向けた円筒部11aと、当該円筒部11aの前端部から外方へ向けて延出した延出部11bと、により構成される。また、第二カラー12は、その軸線方向を前後方向へ向けた円筒部12aと、当該円筒部12aの前端部から外方へ向けて延出した延出部12bと、により構成される。
【0069】
第一カラー11及び第二カラー12は、前後方向に並設される。より詳細には、第一カラー11及び第二カラー12はそれぞれシャフト10に外嵌され、第一カラー11の前端部と第二カラー12の後端部とが当接するように配置される。第一カラー11及び第二カラー12は、シャフト10に固定され、当該シャフト10と一体的に回動可能に構成される。
【0070】
次に、スラスト軸受100と、第一カラー11及び第二カラー12との配置構成について説明する。
【0071】
図9及び
図10に示すように、スラスト軸受100がターボチャージャ1(より詳細には、軸受ハウジング40のスラスト軸受部42)に配置された場合、スラスト軸受100は、前後方向において第一カラー11と第二カラー12との間に介挿される。そして、スラスト軸受100の挿通孔123には、第二カラー12の円筒部12aが前方から挿通される。なお、スラスト軸受100の挿通孔123の内周面と、第二カラー12の円筒部12aの外周面との間には、若干の隙間が形成される。
【0072】
こうして、シャフト10が回動すると、当該シャフト10に固定された第二カラー12は、円筒部12aとスラスト軸受100の挿通孔123との間に若干の隙間が形成された状態で、当該シャフト10と共に回動することになる。
【0073】
また、スラスト軸受100は、第一カラー11と対向して配置される。より詳細には、スラスト軸受100は、第一カラー11の延出部11bの直ぐ前方に配置される。そして、スラスト軸受100は、摺動部120が第一カラー11の延出部11bと前後方向に対向し、摺動部120の後側面が第一カラー11の延出部11bの前側面と略当接する。
【0074】
また、スラスト軸受100は、第二カラー12と対向して配置される。より詳細には、スラスト軸受100は、第二カラー12の延出部12bの直ぐ後方に配置される。そして、スラスト軸受100は、摺動部120が第二カラー12の延出部12bと前後方向に対向し、摺動部120の前側面が第二カラー12の延出部12bの後側面と略当接する。
【0075】
こうして、シャフト10が回動すると、当該シャフト10に固定された第一カラー11及び第二カラー12は、その延出部11b及び延出部12bがスラスト軸受100の摺動部120の前側面及び後側面と略当接した状態で回動(摺動)することになる。このように、スラスト軸受100の摺動部120の前側面及び後側面は、第一カラー11及び第二カラー12との摺動面となる。
【0076】
以下では、スラスト軸受100に供給された潤滑油の流通態様について、
図11及び
図12を用いて説明する。
【0077】
スラスト軸受100には、軸受ハウジング40の給油油路45及び第二給油油路46により潤滑油が供給される。そして、スラスト軸受100に供給された潤滑油は、潤滑油路130を流通して、摺動部120の第一カラー11及び第二カラー12との摺動面に供給される。
【0078】
より詳細には、軸受ハウジング40の給油油路45及び第二給油油路46からの潤滑油は、まずスラスト軸受100の油路給入部113に供給される。そして、
図11(a)に示すように、油路給入部113に供給された潤滑油は、第一油路給入口115を介して第一油路114に給入される。そして、第一油路114に給入された潤滑油は、当該第一油路114を下流側へ向けて流通する。
【0079】
そして、
図11(b)に示すように、第一油路114を下流側へ向けて流通した潤滑油は、第一油路吐出口116を介して第二油路129に吐出される。第二油路129に吐出された潤滑油は、当該第二油路129が充填されるまで、当該第二油路129に滞留する。すなわち、第二油路129に吐出された潤滑油は、当該第二油路129を下部へ向けて流通する。そして、下部へ向けて流通した潤滑油が当該第二油路129の下部から徐々に滞留し、第二油路129が潤滑油により充填されることになる。
【0080】
なお、前述したように、第一油路114の第一油路吐出口116と第三油路126の第三油路給入口127とは第二油路129を介して概ね対向するように形成されているため、第一油路吐出口116から第二油路129に吐出された潤滑油の一部は、当該第二油路129を下部へ向けて流通するのではなく、第三油路給入口127を介して第三油路126に給入される。
【0081】
そして、
図12(a)に示すように、第二油路129に充填された潤滑油は、第三油路給入口127を介して第三油路126に給入される。そして、第三油路126に給入された潤滑油は、当該第三油路126を下流側へ向けて流通する。
【0082】
そして、
図12(b)に示すように、第三油路126を下流側へ向けて流通した潤滑油は、第三油路吐出口128を介して摺動部120の挿通孔123の内周面に吐出される。挿通孔123の内周面に吐出された潤滑油は、当該挿通孔123の内周面と第二カラー12の円筒部12aとの間に形成された隙間を充填する。そして、潤滑油は、当該隙間を充填すると共に、第一カラー11の延出部11b及び第二カラー12の延出部12bと、摺動部120の前側面及び後側面との間の略当接された隙間を流通する。
【0083】
このように、スラスト軸受100に供給された潤滑油は、潤滑油路130を流通して、第一カラー11の延出部11b及び第二カラー12の延出部12bと、摺動部120の前側面及び後側面との間の略当接された隙間、すなわち摺動部120の摺動面に供給されることになる。
【0084】
なお、摺動部120の摺動面に供給された潤滑油は、当該摺動面のテーパ部124に供給される。そして、テーパ部124に潤滑油が供給されると、シャフト10に固定された第一カラー11及び第二カラー12がスラスト軸受100に対して相対的に回動することにより、当該テーパ部124に供給された潤滑油の圧力が高くなる。そして、シャフト10の軸線方向に作用するスラスト荷重が生じたとしても、当該スラスト荷重を抑制する方向へ向けての圧力が生じることになる。その結果、スラスト軸受100は、シャフト10の軸線方向に作用するスラスト荷重を支承することができ、摺動部120(摺動面)における焼き付きや異常摩耗(損傷)等を防止することができる。
【0085】
以上のように、本発明の第一実施形態に係るスラスト軸受100は、
シャフト10に設けられたスラストカラー(第一カラー11及び第二カラー12)に対向して配置されるスラスト軸受であって、
摺動材料により形成され、前記スラストカラー(第一カラー11及び第二カラー12)に対して摺動する第一部材(摺動部120)と、
前記摺動材料とは異なる材料により形成され、前記第一部材(摺動部120)に外嵌される第二部材(本体部110)と、
を具備するものである。
【0086】
このような構成により、スラストカラー(第一カラー11及び第二カラー12)との摺動面を有する第一部材(摺動部120)を摺動部材(銅系材料)により形成し、その他の(スラストカラーと摺動しない)面を有する第二部材(本体部110)を当該摺動部材よりも比較的安価な材料(鉄系材料)により形成することができるので、製造コストを比較的安くすることができ、且つ当該スラストカラー(第一カラー11及び第二カラー12)との摺動面における焼き付きや異常摩耗(損傷)等を充分に防止することができる。
【0087】
また、スラスト軸受100においては、
前記第一部材(摺動部120)の外周縁部には、幅方向中央部が内側へ向けて凹んだ溝部125が設けられるものである。
【0088】
ここで、ターボチャージャ1は、特にタービン20側がエンジンのシリンダからの排気により高温となり易く、ひいては当該ターボチャージャ1全体が高温となり易い構成となっている。
【0089】
本実施形態において、スラスト軸受100を構成する摺動部120及び本体部110は異なる材料により構成され、それぞれの熱膨張係数も異なっている。より詳細には、銅系材料により構成される摺動部120は、鉄系材料により構成される本体部110よりも熱膨張係数が大きい。したがって、ターボチャージャ1が高温となると、摺動部120は本体部110よりも熱膨張して変形し易い構成となっている。
【0090】
ここで、
図13は、ターボチャージャ1が高温となり、摺動部120が熱膨張して変形した状態を示している。なお、
図13中における一点鎖線は、摺動部120が熱膨張して変形する前の状態の、溝部125の内側面(前側延出部121の後側面及び後側延出部122の前側面)の位置を示している。このように、摺動部120が熱膨張して変形する場合、摺動部120のうち最も幅の小さい箇所である溝部125(より詳細には、前側延出部121及び後側延出部122)が、幅方向(前後方向)に太くなるように(溝部125の内径が狭まるように)変形する(
図13中の黒色矢印参照)。すなわち、摺動部120が熱膨張して変形する場合、外径方向へ変形し難くして、ひいては摺動部120の外径方向に配置される本体部110への影響を軽減させることができる。
【0091】
このように、前述したような構成により、例えば第一部材(摺動部120)が第二部材(本体部110)よりも熱膨張係数が大きい材料である場合に、当該第一部材(摺動部120)が熱膨張すると溝部125の内径が狭まるように(幅方向に)変形することになり、第二部材(本体部110)への影響を低減させることができる。
【0092】
また、スラスト軸受100においては、
前記溝部125は、前記外周縁部の周方向に延出され、一側端部と他側端部とが連通するものである。
【0093】
このような構成により、溝部125は正面視で円環状となる。すなわち、溝部125は一側端部と他側端部とが連通することにより、当該第一部材(摺動部120)の外周縁部を一周することになり、摺動部120が熱膨張して変形した場合であっても、第二部材(本体部110)への影響をより低減させることができる。
【0094】
また、スラスト軸受100においては、
前記第一部材(摺動部120)の前記スラストカラー(第一カラー11及び第二カラー12)との摺動面(摺動部120の前側面及び後側面)に潤滑油を供給するための潤滑油路130を具備し、
前記潤滑油路130には、前記第一部材(摺動部120)に形成される第一部材油路(第二油路129及び第三油路126)を含み、
前記第一部材油路には、当該第一部材油路の一部として前記溝部125(第二油路129)が用いられるものである。
【0095】
ここで、
図13は、第二油路129が潤滑油により充填された状態を示している。
図13に示すように、第二油路129に充填された潤滑油がスラスト軸受100よりも低温である場合には、当該充填された潤滑油により当該スラスト軸受100(特に、摺動部120)の熱を奪い、当該スラスト軸受100(特に、摺動部120)を冷却することができる(
図13中の白色矢印参照)。
【0096】
また、第二油路129には第一油路114から常に新しい潤滑油が供給されるため、当該潤滑油による冷却効果を継続させることができる。
【0097】
このように、前述したような構成により、溝部125(第二油路129)に潤滑油が流通することにより、第一部材(摺動部120)を冷却することができる。
【0098】
また、スラスト軸受100においては、
前記潤滑油路130には、前記第二部材(本体部110)に形成される第二部材油路(第一油路114)を含み、
前記第二部材油路(第一油路114)の吐出口(第一油路吐出口116)は、前記溝部125(第二油路129)内を臨むように形成され、
前記第一部材油路には、前記溝部125(第二油路129)と前記シャフト10に挿通される挿通孔123とを連通する連通路(第三油路126)が設けられるものである。
【0099】
ここで、
図18は、従来のスラスト軸受900の構成を示している。従来のスラスト軸受900は、その内部に潤滑油路910が形成される。そして、潤滑油路910の潤滑油給入口920は、スラスト軸受900の前上部に形成されている。他方、潤滑油路910の潤滑油吐出口930は、スラスト軸受900の貫通孔940の内周面の後部に形成されている。こうして、潤滑油給入口920と潤滑油吐出口930とを結ぶ潤滑油路910は、上下方向(スラスト軸受900の板面方向)に対して若干傾斜した斜め方向に形成されることになる。このように、従来のスラスト軸受900は、比較的細長い一本の潤滑油路910をドリル加工により斜め方向に形成する必要があり、その加工が困難であった。
【0100】
これに対して、本実施形態では、スラスト軸受100は、摺動部120及び本体部110が別体により構成される。そして、摺動部120には、潤滑油路130の一部として溝部125及び第三油路126がそれぞれ形成される。また、本体部110には、潤滑油路130の一部として第一油路114が形成される。そして、潤滑油路130は、摺動部120が本体部110へ取り付けられることにより形成される。したがって、スラスト軸受100は、潤滑油路130を形成するために、従来のスラスト軸受900のように比較的細長い一本の潤滑油路910をドリル加工により斜め方向に形成する必要が無い。すなわち、スラスト軸受100の潤滑油路130は、比較的短い長さの油路(第一油路114及び第三油路126)を組み合わせて形成されるので、その加工を容易とすることができる。
【0101】
また、スラスト軸受100においては、
前記第一部材油路の連通路(第三油路126)は、前記溝部125の幅方向中央部から前記挿通孔123の軸心方向に対して垂直方向に向けて設けられるものである。
【0102】
こうして、第三油路126は、挿通孔123の軸心(前後)方向に対して垂直方向に向けて設けられるため、例えば挿通孔123の軸心(前後)方向に対して垂直方向から傾いた方向(斜め方向)に設けられる場合よりも容易に形成することができる。
また、第三油路126は、第一油路114と合わせて同一直線状に形成されていなくても(具体的には、第一油路114の第一油路吐出口116と第三油路126の第三油路給入口とが側面視で前後方向にずれて配置されていても)摺動部120の摺動面に潤滑油を供給することができる。つまり、摺動部120を本体部110へ取り付けるときに、摺動部120と本体部110との位置合わせを精密に行わなくても摺動部120の摺動面に潤滑油を供給することができるため、当該位置合わせを精密に行う必要が無く、その加工をより容易とすることができる。
【0103】
また、スラスト軸受100においては、
前記スラスト軸受100は、ターボチャージャ1に用いられるものである。
【0104】
このような構成により、ターボチャージャ1は、製造コストを比較的安くすることができ、且つスラスト軸受100とスラストカラー(第一カラー11及び第二カラー12)との摺動面における焼き付きや異常摩耗(損傷)等を充分に防止することができる。
【0105】
なお、本実施形態における銅系材料は、本発明に係る「摺動材料」の一実施形態である。本発明に係る「摺動材料」は、銅系材料に限定するものではなく、比較的優れた耐焼き付き性や耐摩耗性を有する材料であればよい。
また、本実施形態に係る鉄系材料は、本発明に係る「前記摺動材料とは異なる材料」の一実施形態である。本発明に係る「前記摺動材料とは異なる材料」とは、鉄系材料に限定するものではなく、比較的優れた耐焼き付き性や耐摩耗性を有していなくても、比較的安価な材料であることが望ましい。
【0106】
なお、第一カラー11及び第二カラー12は、本発明に係る「スラストカラー」の一実施形態である。本発明に係る「スラストカラー」の構成は、第一カラー11及び第二カラー12の構成に限定するものではない。例えば、本発明に係る「スラストカラー」は、2つのカラーから構成されるのではなく、1つのカラーから構成されてもよい。
【0107】
また、摺動部120は、本発明に係る「第一部材」の一実施形態である。本発明に係る「第一部材」の構成は、摺動部120の構成に限定するものではない。例えば、本発明に係る「第一部材」は、外周縁部の形状が正面視で略矩形状であってもよい。
また、溝部125は、本発明に係る「溝部」の一実施形態である。本発明に係る「溝部」の構成は、溝部125の構成に限定するものではない。例えば、本発明に係る「溝部」は、断面視で略U字状に凹んだ形状であってもよい。
【0108】
また、本体部110は、本発明に係る「第二部材」の一実施形態である。本発明に係る「第二部材」の構成は、本体部110の構成に限定するものではない。
【0109】
また、潤滑油路130は、本発明に係る「潤滑油路」の一実施形態である。また、第二油路129及び第三油路126は、本発明に係る「第一部材油路」の一実施形態である。また、第三油路126は、本発明に係る「連通路」の一実施形態である。また、第一油路114は、本発明に係る「第二部材油路」の一実施形態である。本発明に係るこれらの構成は、本実施形態に係る構成に限定するものではない。
【0110】
以下では、本発明の第二実施形態に係るスラスト軸受200の構成について、
図14から
図16を用いて説明する。
【0111】
図14及び
図15(a)に示すように、第二実施形態に係るスラスト軸受200の構成においては、第三油路126が溝部125の上部に形成されるのではなく、溝部125の下部に形成される。
【0112】
このような構成により、
図15(a)に示すように、第一油路114から第二油路129に供給された潤滑油は、当該第二油路129の上部から下部まで左右に分かれて流通した後に、第三油路126に給入されることになる。したがって、第二油路129には第一油路114から供給された新しい潤滑油が常に流通することになため、潤滑油による冷却効果をより高めることができる。
【0113】
なお、
図15(b)に示すように、第三油路126は、1つだけ形成するのではなく、複数形成してもよい。これによって、スラスト軸受200の摺動部120において、潤滑油が必要とする箇所に、必要な量だけ当該潤滑油を供給することができる。
【0114】
また、
図16に示すように、スラスト軸受200は、摺動部120の幅方向(前後方向)の長さW2が、本体部110の幅方向(前後方向)長さW1よりも長くなるように形成されてもよい。これによって、摺動部120の第一カラー11及び第二カラー12との摺動面が摩耗した場合であっても、摺動部120の幅方向の長さが本体部110の幅方向の長さよりも短くなり難くし、例えば第一カラー11及び第二カラー12が摺動部120の摺動面以外の箇所と摺動することを防止することができる。
【0115】
以下では、本発明の第三実施形態に係るスラスト軸受300の構成について、
図17を用いて説明する。
【0116】
図17に示すように、第三実施形態に係るスラスト軸受300の構成においては、前記第二部材油路(第一油路114)と、前記第一部材油路の連通路(第三油路126)とは、同一直線状に形成されるものである。
【0117】
こうして、第一油路114と第三油路126とが同一直線状に形成されることにより、第一油路吐出口116と第三油路給入口127とが近くに配置される。すなわち、第一油路吐出口116と第三油路給入口127とが対向し、第一油路吐出口116から吐出された潤滑油の吐出方向に第三油路吐出口128が配置されるため、第一油路吐出口116を介して当該第二油路129に吐出される潤滑油により、第三油路給入口127を介して第三油路126に潤滑油を給入し易くすることができる。
【0118】
このように、前述したような構成により、比較的低い圧力であっても潤滑油をシャフト10に挿通される挿通孔123まで供給することができる。すなわち、潤滑油を供給するための油圧ポンプ等(不図示)を小型化することができる。