【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(安心安全な再生医療を実現する細胞回収自動化システムの開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【文献】
今城明典 ほか,抗体担持MPCポリマー修飾マイクロアレイ上でのHACをもつ微小核細胞と血球系細胞の融合,高分子学会予稿集,2012年,61巻2号,4806頁、2Pa111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の遺伝子試料導入用基板は、基板の上に固定された導入促進ポリマーを備えている。
【0022】
−導入促進ポリマー−
導入促進ポリマーは、導入促進部位と、細胞親和性部位と、ターゲット結合部位とを含有している。導入促進部位は、遺伝子試料の細胞への導入を促進する部位であり、例えば、導入促進ポリマーの主鎖から枝分かれした細胞膜貫通性又は融合性のポリマー鎖を有している。細胞親和性部位は、細胞との親和性が高い部位であり、例えばリン脂質極性基を有している。また、細胞表面の抗原を特異的に認識する抗体等を細胞親和性部位とすることもできる。ターゲット結合部位は、遺伝子試料及び細胞と直接又は間接に結合する部位であり、アミノ基等と反応する反応性官能基を有している。ターゲット結合部位は、細胞接着性のフィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、フィブリノーゲン、オステオスポンジシン、若しくはトロンビン等のタンパク質又はこれらに含まれる細胞接着性のセグメントでもよい。
【0023】
導入促進部位における細胞貫通性又は融合性のポリマー鎖は、脂質2重膜である細胞膜の貫通性又は、細胞膜との融合性を有しているポリマー鎖とすることができる。なお、細胞貫通性を有するポリマー鎖とは、細胞膜を貫通して一部が細胞の内部に存在し、一部が細胞の外部に存在する状態と容易になることができるポリマー鎖である。細胞膜との融合性を有するポリマー鎖とは、細胞膜に取り込まれ一体となった状態に容易になることができるポリマー鎖である。また、細胞膜との貫通性と細胞膜との融合性の両方の特性を有していてもよい。
【0024】
細胞貫通性又は融合性のポリマーとして例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、及びポリプロピレングリコール等の炭素数が2〜6のポリオキシアルキレングリコールを用いることができる。また、細胞貫通性又は融合性のポリマー鎖としてカチオン性ポリマーを用いることもできる。カチオン性ポリマーとしては、カチオン化デキストラン、カチオン化プルラン、カチオン化マンナン等のカチオン化多糖、プロタミン、ポリ-L-リジン、ポリ-L-オルニチン、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)、アルギニンオクタペプチド等のカチオン性ポリペプチド、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ乳酸、ポリビニルピロリドン、ポリブレン、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンデンドリマーを用いることができる。また、カチオン性脂質である1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−フォスファチジルコリン等を用いることもできる。さらに、膜貫通性及び膜融合性のタンパク質、ペプチド、又は糖ペプチド等を用いることもできる。細胞貫通性又は融合性のポリマー鎖は、導入促進ポリマーの主鎖と共有結合していればよいが、必ずしも導入促進ポリマーの主鎖と強く結合している必要はなくイオン結合又は水素結合等により結合していてもよい。
【0025】
中でも細胞膜貫通性又は融合性のポリマー鎖として、ポリオキシアルキレングリコール又はそのアルキルエーテルが好ましい。アルキレンの炭素数は2〜6が好ましく、中でもアルキレンの炭素数が2のポリオキシエチレンからなるポリエチレングリコール(PEG)又はそのアルキルエーテルを用いることができる。疎水性のアルキル基は細胞膜と結合しやすいため、末端が疎水性のアルキル基となったポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテルがより好ましい。疎水性アルキル基としては、特に限定されず、例えばメチル基とすることができる。また、疎水性を高くするために、炭素数8〜24程度のアルキル基を用いることができる。この場合には、アルキル基は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖でも分岐鎖でもよい。中でも、炭素数が18で不飽和結合を有する直鎖のアルキル基であるオレイル基は細胞膜に結合しやすく好ましい。
【0026】
ポリオキシアルキレングリコールの分子量は、400以上が好ましく、600以上がより好ましく、800以上がさらに好ましい、そして10000以下が好ましく、8000以下がより好ましく、4000以下がさらに好ましく、2000以下がよりさらに好ましい。
【0027】
細胞親和性部位は、例えばリン脂質を含むブロック又は側鎖とすることができる。中でもホスホリルコリン等のリン脂質極性基を有する部位を含むことが好ましい。
【0028】
本実施形態においてターゲット反応部位に含まれる反応性官能基とは、アミノ基、カルボキシル基又は水酸基等と反応させることができる官能基を意味する。中でも、アミノ基と反応させることができる官能基が好ましい。アミノ基と反応する官能基は、例えばスクシンイミド基、グリシジル基、(チオ)イソシアネート基、p-ニトロフェニルエステル、酸アジド基、及びホルミル基等を挙げることができる。中でも、スクシンイミド基が好ましい。さらに、アミノ基あるいはカルボキシル基を反応性官能基の前駆体として、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド等を用いてこれらの官能基を活性化して、反応性官能基としてもよい。反応性官能基とターゲットとの反応によりどのような構造が形成されてもよく、例えば縮合反応によりペプチド結合が形成される構成とすることができる。
【0029】
導入促進ポリマーは、導入促進部位、細胞親和性部位及びターゲット結合部位のみを含んでいてもよいが、これら以外の他の部位を含んでいてもよい。他の部位は、どのような組成となっていてもよいが、細胞との親和性を向上させる、及び非特異吸着を低減するという観点からは、他の部位は親水性の部位であることが好ましい。一方、細胞膜との結合を容易にするという観点からは、他の部位として疎水性の部位を含んでいてもよい。疎水性の部位としては、例えばアルキル基等を用いることができ、中でもオレイル基は細胞膜と結合しやすいため好ましい。なお、親水性の部位と疎水性の部位との両方を含んでいる構成としてもよい。
【0030】
導入促進ポリマーは、導入促進部位、細胞親和性部位及びターゲット結合部位を有していればどのような骨格のポリマーであってもよいが、基板の上に直接重合できることからビニルポリマーであることが好ましい。例えば、細胞膜貫通性又は融合性のポリマー鎖を有するアクリル酸誘導体モノマー又はメタアクリル酸誘導体モノマー(以下、両方を合わせて(メタ)アクリル酸誘導体モノマーと記載する。)と、反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーと、リン脂質極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとの共重合体とすることが好ましい。細胞膜貫通性又は融合性のポリマーを有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位は導入促進部位となり、リン脂質極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位は細胞親和性部位となり、反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位はターゲット結合部位となる。なお、本明細書において「モノマーに由来するモノマー単位」とは、当該モノマーを重合して得られるホモポリマーにおける繰り返し構造単位に対応する構造単位をいう。
【0031】
細胞膜貫通性又は細胞融合性のポリマー鎖を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーは、例えば、下記の式(1)に示すようなモノマーとすることができる。
【0033】
ただし、式(1)において、R
11は水素又はメチル基であり、R
12は水素又は炭素数1〜24の飽和若しくは不飽和のアルキル基である。(AO)はポリオキシアルキレン(炭素数2〜6)基であり、ポリオキシアルキレン基の分子量は、400以上が好ましく、600以上がより好ましく、800以上がさらに好ましい、そして10000以下が好ましく、8000以下がより好ましく、4000以下がさらに好ましく、2000以下がよりさらに好ましい。中でも、式(1)のR
11がメチル基であり、R
12がメチル基であり、(AO)がポリオキシエチレン基である、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタアクリレート(PEGMEMA)を用いることができる。また、R
12がオレイル基であるポリエチレングリコールオレイルエーテルメタアクリレートを用いてもよい。なお、ポリオキシアルキレン基の分子量は、重量平均分子量(Mw)である。
【0034】
リン脂質極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとしては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)が好ましい。
【0035】
反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーは、例えば、アミノ基反応性のN−アクリロイルオキシスクシンイミド(NAS)が好ましい。
【0036】
導入促進ポリマーにおける細胞膜貫通性又は融合性のポリマー鎖を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位の含有量は、5mol%以上が好ましく、10mol%以上がより好ましく、そして40mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましい。
【0037】
導入促進ポリマーにおける反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位の含有量は、5mol%以上が好ましく、10mol%以上がより好ましく、そして60mol%以下が好ましく、50mol%以下がより好ましい。
【0038】
導入促進ポリマーがリン脂質極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位を含んでいる場合には、その含有量は、細胞膜貫通性又は細胞融合性のポリマーを有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位及び反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位の残部としてよい。また、リン脂質極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来するモノマー単位の含有量は、好ましくは20mol%以上が、より好ましくは30mol%以上、そして好ましくは90mol%以下、より好ましくは70mol%以下としてよい。
【0039】
導入促進ポリマーは、細胞膜貫通性又は細胞融合性のポリマーを有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、リン脂質極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、及び反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーの3元共重合体でよい。しかし、他の部位をさらに加えた4元以上の共重合体としてもよい。他の部位は、非イオン性で親水性のモノマーに由来する親水性部位とすることができる。非イオン性で親水性のモノマーしては、アクリルアミド等を用いることができる。また、他の部位は、疎水性のモノマーに由来する疎水性部位とすることもできる。疎水性のモノマーとしては、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを用いることができ、中でもオレイル(メタ)アクリレートが好ましい。さらに、親水性部位と疎水性部位との両方を加えた5元以上の共重合体としてもよい。
【0040】
導入促進ポリマーにおける、細胞膜貫通性又は細胞融合性のポリマーを有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、リン脂質極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、及び反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー以外のモノマーに由来するモノマー単位の含有量は、特に限定されないが、好ましくは70mol%以下、より好ましくは50mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下である。
【0041】
導入促進部位は、細胞膜貫通性又は細胞融合性のポリマーを有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを共重合するのではなく、あらかじめ形成した主鎖に細胞膜貫通性又は細胞融合性のポリマーをグラフトすることにより形成してもよい。例えば、主鎖にターゲット結合部位とは別の反応性の官能基を導入しておき、その官能基を用いて主鎖に細胞貫通性又は細胞融合性のポリマー鎖を結合させることができる。また、ターゲット結合部位の一部を用いて、主鎖に細胞貫通性又は細胞融合性のポリマー鎖を結合させることも可能である。さらに、イオン結合又は水素結合により細胞貫通性又は細胞融合性のポリマー鎖を主鎖に結合させてもよい。
【0042】
導入促進ポリマーが、細胞親和性部位及びターゲット結合部位を含む主鎖と、導入促進部位である側鎖とを有するくし形ポリマーである例を説明したが、導入促進ポリマーは、線状ポリマーとすることもできる。また、多数の分岐を有するハイパーブランチポリマー、複数のポリマー鎖が一点で結合した星形ポリマー、星形ポリマーの各腕がさらに分岐したポリマー、又は中心から規則的に分岐したデンドリマー等の分岐ポリマーとすることもできる。さらに、複数のポリマー鎖が架橋されたはしご状ポリマー、網目状ポリマー、又は相互侵入網目状ポリマー等となっていてもよく、ロタキサン又はカテナン等であってもよい。
【0043】
−基板−
導入促進ポリマーを固定する基板は、特に限定されない。例えば、ガラス基板、シリコン基板、ダイヤモンド様カーボン基板、若しくはセラミクス基板等の無機性基板、ITO(酸化インジウムスズ)、若しくは金・チタン・クロム等の金属性基板、又は樹脂基板等の有機性基板等を用いることができる。透明な基板は、工学的な観察が容易であり好ましい。これらの基板は、均一な平面を有する基板であってもよく、凸部又は凹部からなるスポットを有している基板であってもよい。基板の表面にスポットを設け、設けられたスポットに導入促進ポリマーを固定することにより、基板上において細胞を操作する位置を明確にすることができ、細胞の取り扱いが容易となる。また、複数のスポットを配列することにより、1つの基板で複数の細胞を取り扱うことも容易となる。中でも、ターゲット細胞の大きさに応じた凹部を有する基板が好ましい。ただし、基板の全面に導入促進ポリマーを固定してもよい。また、凸部又は凹部を設けていない基板においても、導入促進ポリマーを選択的に固定してもよい。
【0044】
スポットは、基板の一部をエッチングすることにより形成することができる。また、基板の表面に他の材料を堆積させた後、選択的に除去したり、基板の表面に他の材料を選択的に堆積させることにより形成したりして形成することもできる。
【0045】
スポットを設ける場合には、取り扱う細胞の大きさにもよるが、直径を10μm〜500μm程度とすればよい。また、スポット同士の中心間の間隔は直径に応じて決めればよいが、30μm〜500μm程度のマトリックス状に配置すればよい。スポットが凹部の場合には、深さは数nmから数十μmとすることが好ましい。スポットを凸部とする場合には、高さは数nmから数μmとすることが好ましい。
【0046】
スポットを形成するために堆積する材料は、特に限定されない。堆積及び加工が容易で、細胞に対する毒性が小さい材料が好ましい。例えば、金、若しくはクロムとチタンとの合金等の金属、ダイヤモンド様カーボン、又は樹脂等を用いることができる。なお、スポットを形成するために堆積する材料は、基板と同じであってもよい。また、複数の材料を積層してもよい。
【0047】
基板の表面は平坦であってもよいが、周期が1μm〜5μm程度で、高さが1μm程度の周期的な凹凸構造を有していてもよい。基板の表面に周期的な凹凸構造を設けることにより、細胞への遺伝子試料の導入効率をさらに高めることができる。凹凸構造はどのようなものであってもよいが、例えば、円錐状、角錐状、円錐台状、角錐台状、円筒状又は角筒状等の凸部又は凹部とすることができる。これらの凸部又は凹部の表面にさらに周期的な凸部又は凹部が設けられた形状であってもよい。凹凸構造の形状、周期及び高さ等は特に限定されないが、周期が1μm以上、5μm以下程度で、高さが1μm以下程度の周期的な凹凸構造は、リソグラフィーを用いて容易に形成することができ好ましい。
【0048】
凹凸構造は、基板の全面に形成してもよく、選択的に形成してもよい。例えば、基板の表面にスポットを形成する場合にはスポットの部分のみに形成してもよく、スポットの部分には形成せずに、スポット以外の部分のみに形成してもよい。
【0049】
凹凸構造は、基板の表面に他の材料を堆積して形成しても、基板の表面を選択的に除去して形成してもよい。スポットに凹凸構造を形成する場合には、例えばスポット自体をエッチング等により選択的に除去すればよい。
【0050】
導入促進ポリマーを基板に固定する方法は特に限定されないが、ビニルモノマーを重合して導入促進ポリマーを形成する場合には、基板の表面に重合開始点を形成し、形成した重合開始点を用いてモノマーを重合する方法を用いることができる。重合開始点の形成方法として、重合開始剤を基板の表面に固定する方法を用いることができる。例えば、基板がガラス又はシリコンである場合には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を用いて、基板の表面にまずアミノ基を有するリンカーを導入する。次に、導入されたアミノ基に、酸クロライドを有する開始剤である4,4’−アゾビス(2−シアノ吉草酸)クロライド(V501−Cl)を結合させる。このようにして基板の表面に導入した開始剤を用いて、モノマーを重合することにより、導入促進ポリマーが固定された基板を容易に得ることができる。リンカーのアミノ基と重合開始剤の酸クロライドとを反応させる例を示したが、これに限らずどのようにしてリンカーと重合開始剤とを結合させてもよい。
【0051】
シリコンと反応する部位を有する(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン又は2−フェニル−2−[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ)オキシ]オクチルトリエトキシシラン等を用いれば、リンカーを用いることなく重合開始剤を基板に導入できる。この場合には、原子移動ラジカル重合(ATRP)法等により導入促進ポリマーを形成すればよい。なお、ATRP法に限らず熱重合法、光重合法又は付加開裂移動型(RAFT)重合法等のどのような重合方法を用いてポリマーの重合を行ってもよい。さらに、導入する開始剤を適宜選択することによりアニオン重合又はカチオン重合を用いてもよい。
【0052】
重合開始剤を基板に固定するのではなく、基板にプラズマ照射等を行い、基板の表面にラジカルを発生させ、発生させたラジカルを重合開始点として導入促進ポリマーの重合を行ってもよい。樹脂基板の場合には、プラズマ照射等により基板の表面にラジカルを容易に発生させることができるので、この方法は有用である。
【0053】
基板の表面に導入した重合開始点を用いて、導入促進ポリマーの主鎖を重合した後、基板上に重合された導入促進ポリマーの主鎖に細胞膜貫通性のポリマーを結合させて、導入促進ポリマーを形成してもよい。
【0054】
また、あらかじめ形成した導入促進ポリマーを、シランカップリング剤又は二官能性のリンカー等を用いて基板の表面に結合させてもよい。この場合、導入促進ポリマーの末端にアミノ基又はカルボキシル基等が導入されるような開始剤を用いて重合を行ったり、アミノ基又はカルボキシル基等が導入されるような共重合成分を添加して重合を行ったりしてもよい。
【0055】
導入促進ポリマーは、基板の表面に共有結合により固定されている必要はない。疎水性相互作用、イオン結合等により固定されていてもよい。
【0056】
導入促進歩ポリマーを、選択的に固定する場合には、基板の導入促進ポリマーが固定される以外の場所に、細胞の非特異吸着が生じにくい細胞非接着性ポリマーを固定してもよい。例えば、スポットの部分にのみ導入促進ポリマーを固定し、他の部分には細胞非接着性ポリマーを固定することが好ましい。このようにすれば、ターゲット細胞をスポットの部分に集中させることができ、導入効率をさらに向上させることができる。
【0057】
細胞非接着性ポリマーは、ポリ2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の合成リン脂質系ポリマー、ポリ2−エトキシアクリレート又はポリエチレングリコール等とすればよい。合成リン脂質系ポリマーは、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの共重合体等であってもよい。ポリエチレングリコールは、ポリ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール又はポリ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールアルキルエステル等とすればよい。
【0058】
また、ポリビニルアルコールと、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸の水溶性塩、ポリアクリル酸の水溶性塩、ポリグルタミン酸の水溶性塩及びポリビニルピロリドン等のうちの少なくとも1つとからなる混合高分子の含水ゲル成型物等を用いてもよい。ポリ(MPC)等の双性構造イオンのポリマー、ポリ(O−メタクリロイル−L−セリン)等の両性イオン構造のポリマー並びにポリアクリル酸及びポリエチレンイミン等のポリイオンコンプレックスを用いてもよい。さらに、これらのポリマーセグメントに、ランダム、ブロック又はグラフト状に他の共重合セグメントが含まれている構成としてもよい。合成ポリマーに限らず細胞非接着性のタンパク質等の天然高分子を用いてもよい。細胞非接着性のタンパク質としては、例えばアルブミンを用いることができる。また、親水性にするのではなく、含フッ素ポリマー等を用いて高撥水性の表面とすることにより細胞非接着性を実現してもよい。この他、細胞又は微生物等をスポット以外の部分に吸着させることにより、スポット以外の部分をターゲット細胞が吸着しにくい表面としてもよい。
【0059】
また、基板の一部に、温度応答性ポリマーを固定してもよい。例えば、スポットの部分に導入促進ポリマーと、温度応答性ポリマーとを固定し、スポット以外の部分には細胞非接着性ポリマーを固定することが好ましい。このようにすれば、例えば、温度応答性ポリマーを細胞接着性の状態として、ターゲット細胞を導入促進ポリマーが固定されたスポットに誘導し、ターゲット結合部へのターゲット細胞の結合を促進することができる。また、ターゲット細胞に遺伝子試料を導入した後に、温度応答性ポリマーを細胞非接着性の状態として、遺伝子試料を導入したターゲット細胞の回収を容易に行うことができる。
【0060】
温度応答性ポリマーは、細胞培養の際に細胞接着性のタンパク質及びペプチド等を補助物質として細胞を接着させる足場を形成でき、温度変化によって接着した細胞が表面から遊離する性質を有していればよい。細胞の温度応答性ポリマーからの遊離は、温度変化によるポリマー鎖の媒体への溶解性の変化、ポリマー表面の親水性と疎水性との間の変化又はポリマー表面のイオン状態の変化等により引き起こすことができる。従って、これらの少なくとも1つの変化が生じるポリマーを温度応答性ポリマーとして用いることができる。細胞が温度応答性ポリマーから遊離する際に、タンパク質及びペプチド等の細胞接着の補助物質が共に遊離してもよく、補助物質の遊離が生じなくてもよく、補助物質の遊離が別のタイミングで生じてもよい。
【0061】
細胞非接着性ポリマー又は温度応答性ポリマーの基板への固定は、導入促進ポリマーの固定と同様に、リンカーを用いる方法、表面に導入した開始剤を用いて重合する方法等により行うことができる。また、イオン結合、又は疎水結合等により固定してもよい。
【0062】
−ターゲット細胞−
遺伝子試料を導入するターゲット細胞は、特に限定されない。浮遊性の細胞であってもよく、接着性の細胞であってもよい。例えば、間葉系幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等であってもよい。
【0063】
−遺伝子試料−
ターゲット細胞に導入する遺伝子試料は、特に限定されない。例えば、DNA、DNA断片、DNAベクター、染色体、染色体断片、染色体ベクター等を用いることができる。数kbのDNA断片から数Mbの染色体断片、数十Mbの染色体まで細胞に導入することができる。DNAは二本鎖であっても一本鎖であてもよい。遺伝子試料は、遺伝子そのものに限られず、細胞に導入された場合に、何らかの形質を細胞に発現させる物質であればよい。例えば、タンパク質、ペプチド、又はウイルスベクター等であってもよい。
【0064】
ターゲット細胞に導入する遺伝子試料は、むき出しの状態のDNA等であってもよいが、マイクロセルに担持されたDNA等としてもよい。遺伝子試料はマイクロセルの内部に包摂されていても、表面に固定されていてもよい。マイクロセルは、ターゲット細胞に取り込まれるものであればどのようなものであってもよい。例えば、遺伝子試料を導入した細胞をマイクロセル化して形成すればよい。また、リポソーム等を用いることもできる。マイクロセルは、表面に認識物質を有していることが好ましい。本明細書において認識物質とは、特定の対となる認識物質を認識するか、特定の対となる認識物質により認識され、特異的に結合する物質である。認識物質と対となる認識物質との例としては、抗原と抗体との組み合わせ、糖鎖とレクチンとの組み合わせ、各種のリガンドとレセプターとの組み合わせ等が挙げられる。マイクロセルの素材は磁性微粒子、高分子微粒子、ウイルスベクター、高分子ミセル、高分子微粒子、ナノゲル等を用いることができる。
【0065】
マイクロセルの大きさは特に限定されない。マイクロセルの素材は、リン脂質又はカチオン性の材料とすればターゲット固定結合部位への結合、及びターゲット細胞への取り込みが容易となり好ましい。
【0066】
−使用方法−
本実施形態の遺伝子試料導入用基板は、以下のようにして使用することができる。まず、遺伝子試料導入用基板に固定された導入促進ポリマーのターゲット結合部位に、第1の認識物質を結合させる。また、遺伝子試料を担持したマイクロセルを準備する。マイクロセルの表面には、第1の認識物質と結合する第2の認識物質と、第2の認識物質とは異なる第3の認識物質を導入する。次に、遺伝子試料を包摂させたマイクロセルを、遺伝子試料導入用基板に播種し、第1の認識物質と第2の認識物質とを結合させ、マイクロセルをターゲット結合部位に結合させる。次に、第3の認識物質と対となる第4の認識物質を有するターゲット細胞を遺伝子試料導入用基板に播種する。これにより、第3の認識物質と第4の認識物質とを結合させて、ターゲット細胞をマイクロセルと結合させる。これにより、基板に固定された導入促進ポリマーのターゲット結合部位に、マイクロセルに担持された遺伝子試料と、ターゲット細胞とが結合される。
【0067】
具体例を挙げると、ターゲット結合部位に固定する第1の認識物質を抗ヒスチジン抗体とし、マイクロセルに導入する第2の認識物質をヒスチジンタグとし、第3の認識物質をCD46と結合する補体調整因子(ファクターH)とし、ターゲット細胞に存在する第4の認識物質はCD46とする。CD46は一般的な細胞表面レセプターであり、種々の細胞をターゲット細胞とすることができる。
【0068】
第1の認識物質は、ターゲット結合部位に直接結合させてもよい。しかし、リンカー物質を介して結合した方が、第1の認識物質の失活が生じにくい。また、第1の認識物質を変更することが容易にでき好ましい。例えば、第1の認識物質が抗体である場合には、リンカー物質としてプロテインA/Gを用いることができる。プロテインA/G以外の抗体と結合するリンカー物質を用いてもよい。また、二官能性のスペーサ等を介して抗体をターゲット結合部位に結合させてもよい。
【0069】
基板の表面に固定された導入促進ポリマーに遺伝子試料とターゲット細胞とを結合させるため、液相においてターゲット細胞と遺伝子試料とが遭遇する確率と比べて、ターゲット細胞と遺伝子試料とが遭遇する確率が遙かに高い。このため、導入操作において遺伝子試料の濃度を低くすることができ、効率良い導入が可能となる。
【0070】
また、フィブロネクチンやコラーゲン等の細胞接着因子を用いていないため、遺伝子試料を導入した細胞の機能が、細胞接着因子により影響を受けることがない。
【0071】
さらに、導入を促進する細胞膜貫通性又は融合性のポリマーを液相に添加する場合には、ターゲット細胞に細胞膜貫通性又は融合性のポリマーを効率良く作用させるために、液相中における細胞膜貫通性又は融合性のポリマーの濃度を高くする必要がある。これらのポリマーは細胞に対して毒性を有しているものが多く、ポリエチレングリコールのような比較的毒性が低いといわれているものであっても、高濃度にすると細胞に大きなストレスを与える。このため、遺伝子試料の導入効率が低下したり、導入後の細胞の生存率が低下したりする。しかし、本実施形態の導入促進ポリマーは、導入促進用の細胞膜貫通性又は融合性のポリマーを分岐鎖として有している。このため、細胞貫通性又は融合性のポリマーの濃度を高くしなくても効率良く細胞に作用させることができ、細胞に対するストレスを低減することができる。
【0072】
マイクロセルを介してターゲット細胞を導入促進ポリマーと結合させる例を示したが、先にターゲット細胞を導入促進ポリマーと結合させ、ターゲット細胞を介してマイクロセルを導入促進ポリマーに結合させてもよい。この場合には、プロテインA/Gにターゲット細胞の表面に存在する抗原を特異的に認識する抗体を結合させればよい。また、遺伝子試料を担持したマイクロセルの表面には、ターゲット細胞により認識される抗原、リガンド、又はレセプター等があればよい。
【0073】
具体例を挙げると、CD46と、CD15とを有するU937細胞をターゲット細胞とする場合には、ファクターHを表面に有するマイクロセルを用い、プロテインA/Gに抗CD15抗体を結合させればよい。
【0074】
また、マイクロセルとターゲット細胞とを別々に導入促進ポリマーに結合させてもよい。この場合には、ターゲット結合部位にマイクロセルを認識する抗体と、ターゲット細胞を認識する抗体とを結合させればよい。
【0075】
遺伝子試料を担持したマイクロセルを用いる例を示したが、遺伝子試料のサイズが小さい場合には、マイクロセルに担持されていない遺伝子試料を用いることもできる。この場合には、例えばプロテインA/Gに抗DNA抗体と、ターゲット細胞を特異的に認識する抗体とを結合させればよい。マイクロセルに担持されていない遺伝子試料であっても、マイクロセルに担持されている場合と同様にターゲット細胞に導入することができる。
【0076】
認識物質の組み合わせとしては、例示した物以外に種々の組み合わせを用いることができる。例えば、抗体を介してターゲット細胞又はマイクロセルを結合させるのではなく、プロテインA/Gがタンパク質のN末端と結合する性質を用いて、ターゲット細胞又はマイクロセルとプロテインA/Gとを結合させてもよい。さらに、プロテインA/Gを介するのではなく、アミノ基又はカルボキシル基等と反応するターゲット結合部位の反応性官能基と、ターゲット細胞又はマイクロセルとを直接結合させることも可能である。
【実施例】
【0077】
<遺伝子試料導入用基板の製造>
−スポットの形成−
基板は、10mm角で厚さが0.21mmのガラス基板を用いた。基板の表面にクロム及びチタンの合金(Cr/Ti)膜及び金膜を順次堆積した後、選択的にエッチングして基板を露出させ、スポットを形成した。具体的には、成膜された金基板上にスピンコーターにより感光レジストをコーティングし、石英ガラス上にクロムコーティングされたフォトマスクを重ねる。クロムコーティングが施されていない箇所(ガラス露出部)は光を透過するため、そのガラス露出部を透過させ露光(紫外線照射)する。次に露光部のレジストを現像液により除去して、薬液を用いたウエットエッチングを行う。最後にアセトンにより残ったレジストを除去することにより、マイクロアレイを作製した。
【0078】
スポットは、直径50μmとし、スポットの中心間の間隔は100μmとした。70×70のスポットをアレイ状に形成した。
【0079】
−導入促進ポリマーの固定−
まず、スポットを形成した基板にリンカーである3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成社製)を固定した。具体的には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン179mgを2mlのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた溶液に浸漬し、60℃で3時間反応させた。
【0080】
次に、開始剤である4,4’−アゾビス(2−シアノ吉草酸)(和光純薬工業社製)を5塩化リンで酸クロリドとした4,4’−アゾビス(2−シアノ吉草酸)クロライド(V501−Cl)をリンカーと結合させた。具体的には、79mgのV501−Clを2mlのクロロホルムに溶解させた溶液に、3−アミノプロピルトリメトキシシランを固定した基板を浸漬し、30℃で2時間反応させた。
【0081】
次に、MPC(シグマアルドリッチ社製)0.18g(6mmol)、PEGMEMA(シグマアルドリッチ社製、PEGの分子量は1100)0.33g(3mmol)、及びNAS0.10g(6mmol)を1mlのエタノール(0.48ml)とジメチルホルムアミド(0.52ml)に溶解させたモノマー溶液に開始剤を固定した基板を浸漬し、80℃で20時間反応させた。これにより、ポリ(MPC−NAS−PEG)である導入促進ポリマーをスポットの表面に重合して固定した。
【0082】
基板のスポット以外の部分に、細胞非接着性ポリマーを固定した。具体的には、金膜の表面をヨウ素とヨウ化アンモニウムとの混合溶液によりエッチングした後、MPC0.50g及びブチルメタクリレート(BMA)0.97gを5mlのエタノールに溶解させ、開始剤アゾビスイソ酪酸メチルを60℃、15時間反応してポリ(MPC-BMA)を得た。1重量%のポリ(MPC-BMA)エタノール溶液を基板の塗布し、室温で12時間静置してコーティングした。超純水で15分超音波洗浄を3回繰返し、真空乾燥して、ガラススポット外を細胞非接着性ポリ(MPC−BMA)からなる基板1を得た。
【0083】
モノマー溶液をMPC0.18g(6mmol)、及びNAS0.25g(1.5mmol)を1mlのエタノール(0.48ml)とジメチルホルムアミド(0.52ml)溶解させた溶液に変更して、同様の操作を行い、導入促進部を有していない、ポリ(MPC−NAS)がスポットの表面に固定された基板2を得た。
【0084】
−遺伝子試料導入用基板の物性評価−
・接触角:
接触角は、以下のようにして測定した。エルマ製ゴニオメータ式接触角測定機G−1型を用いてステージ温度を20℃とした後、基板上に15μlの水滴を置き接触角を測定した。測定は計5回のうち、最大値および最小値を除いた平均値を接触角とした。
【0085】
ポリ(MPC−NAS−PEGMEMA)を固定した基板1の接触角は、20°であり、ポリ(MPC−NAS)を固定した基板2の接触角は10°であり、ポリマーを固定していない基板(対照基板)の接触角は75°であった。
【0086】
・グラフト量:
スポット部分におけるポリマーのグラフト量は、グラフト前のマイクロアレイの重量とポリマーグラフト重合後のマイクロアレイの重量との差から求めた。
【0087】
基板1のグラフト量は0.021g/cm
2であり、基板2のグラフト量は0.017mg/cm
2であった。
【0088】
・分子量:
スポット部分に固定したポリマーの分子量(数平均分子量Mn)は、以下のようにして測定した。V501−Clを修飾したマイクロアレイをジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)1.0×10
−4Mの溶液に浸漬し、60℃、10h反応させ、吸収強度の減少から、単位面積あたりのV501−Clの固定化量を算出した。その後、マイクロアレイへのポリマーグラフト量をV501−Clの全てが重合開始に関与してとして、分子量を見積もった。
【0089】
基板1に固定したポリ(MPC−NAS−PEGMEMA)の分子量は0.66×10
4であり、基板2に固定したポリ(MPC−NAS)の分子量は0.53×10
4であった。
【0090】
表1に各導入用基板の物性をまとめて示す。
【0091】
【表1】
【0092】
<マイクロセルの調製>
既知の方法(Katoh et al. BMC Biotechnology 2010,10:37)に基づいて、遺伝子試料を包摂し、表面にヒスチジンタグと、ファクターHとウイルスエンベローブタンパク質(VP)を有するマイクロセルVP
+を調製した。遺伝子試料には、緑色蛍光タンパク質(GFP)及び抗生物質であるプラストサイジンS耐性をコードする遺伝子を用いた。同様にして、ウイルスエンベローブタンパク質を有していないマイクロセルVP
-を調製した。
【0093】
<VP
+マイクロセルの調製>
マイクロセル供与細胞として、CHO4H6.1M株(Katoh et al. BMCBiotechnology 2010, 10:37)を用いた。25cm
2遠心用フラスコ(ヌンク)12本にCHO4H6.1M細胞(合計約1.5×10
7個)を播種し、コルセミド(0.1μg/ml、ギブコ)を含む培地(20%ウシ胎児血清(Biowest)、F12(和光純薬))中において48時間培養して微小核(ミクロセル)を誘導した。あらかじめ保温(37℃)しておいたサイトカラシンB(無血清F12培地中に10μg/ml、シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、アクリル製遠心容器に遠心用フラスコを挿入し、34℃、8,000rpm(11,899×g)、1時間の遠心を行った(JLA−10.5ローター、ベックマン)。ミクロセルを無血清培地(F12)24mlに懸濁して回収し、フィルタホルダ(SWINNEX?25、ミリポア)に装着した孔径8μm、5μm、及び3μmのフィルター(ワットマン)を用いて順に濾過して精製した。精製したマイクロセルは室温にて2,000rpmで10分間遠心し、得られたペレットを無血清培地(F12)に再懸濁して規定濃度に調整した。
【0094】
<VP
-マイクロセルの調製>
マイクロセル供与細胞として、CHO(21HAC2)株(Kazuki et al.Gene Theapy 2011, 18:384)を用いた。マイクロセル調製法については、VP
+マイクロセルと同様の方法で行った。
【0095】
(実施例1)
プロテインA/G(ThermoSCIENTIFIC社製)のリン酸緩衝液(pH7.2)(1mg/ml)に、基板1を浸漬して、ターゲット結合部にプロテインA/Gを結合させた。次に、抗ヒスチジンIgG(Miltenyi Biotec社製)を10倍希釈した溶液250μlにプロテインA/Gを結合させた基板1を浸漬して、プロテインA/Gに抗ヒスチジンIgGを結合させた。
【0096】
次に、GFP及びプラストサイジンS耐性をコードする遺伝子を担持したマイクロセルVP
+の浮遊液(4.3×10
6個/ml)に、抗ヒスチジンIgGを結合させた基板1を浸漬し、ターゲット結合部位に遺伝子試料を結合させた。
【0097】
次に、遺伝子試料を結合させた基板1をU937細胞の浮遊液(2×10
5個/ml)に浸漬し、ターゲット結合部位にターゲット細胞を結合させた。この後、37℃で3日間培養を行い、遺伝子試料のターゲット細胞への導入を行った。培養は、37℃、5%CO
2雰囲気にて行った。
【0098】
遺伝子試料の導入後、ピペッティングにより細胞を基板1から回収し、ブラストサイジンを添加したRPMI(ロズウェルパーク記念研究所)1640培地により培養した。所定の期間培養した後、遺伝子試料の導入率を求めた。遺伝子試料の導入率は培養細胞中の蛍光細胞率とした。具体的には、蛍光顕微鏡を用いて観察を行い生細胞数と、GFPをコードする遺伝子試料が発現した細胞(蛍光細胞)数とを求め、蛍光細胞数/生細胞数を蛍光細胞率とした。
【0099】
(実施例2)
マイクロセル浮遊液の濃度を1.0×10
6個/mlとした以外は、実施例1と同様にした。
【0100】
(実施例3)
マイクロセルとしてウイルスエンベローブタンパク質を有していないマイクロセルVP
-を用い、マイクロセル浮遊液の濃度を2.8×10
6個/mlとした以外は、実施例1と同様にした。
【0101】
(実施例4)
マイクロセル浮遊液の濃度を2.8×10
6個/mlとすると共に、抗ヒスチジン抗体をプロテインA/Gに結合させていない他は、実施例1と同様にした。
【0102】
(比較例1)
基板をMPC−NASポリマーを固定した基板2とした以外は、実施例2と同様にした。
【0103】
(比較例2)
基板をポリマーが固定されていない対照基板とし、マイクロセル浮遊液の濃度を1.4×10
6個/mlとした以外は、実施例1と同様にした。
【0104】
(比較例3)
マイクロセル浮遊液の濃度を2.8×10
6個/mlとすると共に、抗ヒスチジン抗体をプロテインA/Gに結合させていない他は、比較例1と同様にした。
【0105】
(比較例4)
マイクロセル浮遊液の濃度を1.4×10
6個/mlとすると共に、ポリ(MPC−NAS−PEGMEMA)を固定した基板1のターゲット固定化部位を1mMに調整した2−アミノエタノール(pH7.2リン酸緩衝液)と反応させてブロッキングした他は、実施例1と同様にした。
【0106】
【表2】
【0107】
表2に各実施例及び比較例における蛍光細胞率をまとめて示す。また、
図1は実施例1、2及び比較例1について培養日数と蛍光細胞率との関係を示している。導入促進部を有していないポリマーを固定した基板2及びポリマーを固定していない対照基板を用いた場合と比べて、導入促進部を有するポリマーを固定した基板1を用いた場合には、蛍光細胞率の上昇が早い段階で生じている。また、マイクロセルの濃度を高くすることにより、蛍光細胞率の上昇はさらに早くなっている。これは、細胞膜貫通生のポリマーを有する導入促進部を設けたことにより、遺伝子試料のターゲット細胞への導入率が向上したことを示している。
【0108】
蛍光細胞率の経時変化は、細胞融合ファクターであるVPが存在していない場合においても、VPが存在している場合とほぼ同様の傾向を示した。
【0109】
抗ヒスチジン抗体をプロテインA/Gに固定していない場合においても、基板1を用いた場合には、蛍光細胞率の上昇が早期に生じ、遺伝子導入率が向上している。
【0110】
ターゲット固定化部位をブロッキングした場合には、抗生物質ブラストサイジンの耐性を示し、蛍光を示す細胞を獲得できず、細胞融合が生じなかった。