(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
航空機は、ラジオ、テレビジョン、レーダー、送信機、および他のソースからの電磁環境(Electro-Magnetic Environment)である高放射電界強度(HIRF:High Intensity Radiated Fields)に対し、巡航飛行中あるいは離着陸時において、誤作動や不時の挙動(Up-Set)等が発生せず、安全に飛行できるようにしなければならない。このため、FAA(連邦航空局:Federal Aviation Administration)のRegulations(耐審要求)である、(14CFR)§§23.1308, 25.1317, 27.1317および29.1317, High-intensity Radiated Fields (HIRF) protectionで要求されるHIRF保護対策を施さなければならない。
【0003】
以下の理由から、近年、航空機の電気/電子システムの保護の重要性は著しく増加している。
(1)航空機の継続的な安全な飛行と着陸のために必要な機能を実行する電気/電子システムへの、より大きな依存。
(2)航空機の設計で用いられるある種の複合材(繊維強化樹脂)による電磁遮蔽の低下。
(3)データ・バスやプロセッサの動作速度の高速化、より高密度のIC(Integrated Circuit)やカード、そして電子機器のより高い感度に伴う、電気/電子システムのHIRFに対するサセプティビリティ(感受性)の上昇。
(4)使用周波数の特に1GHz以上の高周波帯域への拡大。
(5)RF送信器の数と電力の増加に伴う、HIRF環境の苛酷さの上昇。
(6)HIRFに曝された時に一部の航空機が受けた悪影響。
【0004】
一方、航空機内においては、携帯電話やゲーム機、ノート型パーソナルコンピュータ等の各種電子機器や航空貨物に付けられるアクティブタイプのRFID(Radio Frequency Identification)タグ等のPED(Personal Electro Device)が発する電波や電磁波(以下、これらを電磁波と称する)により、例えば、管制塔との通信、所定のルートで飛行を行うための航法(Navigation)の通信や制御に悪影響が生じ得る。そこで、機内での各種電子機器の使用を控えることを乗客に求めているのは周知の通りである。
【0005】
航空機の機体の内部、例えば、キャビン(客室)やコックピット(フライトデッキ)、電子機器室へは、機体に形成された開口部に設けられた窓を通して電磁波が侵入する。
そこで、電磁波の侵入を防ぐために、窓を構成する複数の窓パネルの間に電磁シールド膜を挟み込むことが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
航空機の窓は、一般に、
図10に示すように、窓本体21と、窓本体21の外周部を囲む窓フレーム30と、窓フレーム30を介して窓本体21を機体に固定するクランプ28等の固定部材を備える。窓本体21は、窓パネル22,23と、電磁シールド層25とが積層された構造とされる。
窓本体21と窓フレーム30との間には、気密性を確保するためのガスケット50(介装部材)が挟み込まれる。
ここで、一般のガスケットに用いられるEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)やシリコンゴム等のゴム系材料は、非導電性であって、電磁シールド効果がない。このような非導電性のガスケットは、電磁波が通過するスロットとして作用する。スロットの開口幅に対して1/2波長が十分に小さい高周波帯の電磁波は、減衰することなく窓本体21と窓フレーム30との間を抜けて、機内に侵入することとなる。
【0007】
そこで、ゴム系材料に金属やカーボン等のフィラーを混入して導電性を持たせた材料によりガスケットを形成することが提案されている。本発明の出願人も、導電性を有するガスケット50に関して出願し、特許を取得している(特許文献2)。
特許文献2では、窓パネル22,23の最外周部に導電性ペイント43が塗布されており、窓パネル22,23の間から露出した電磁シールド層25の外周が、導電性ペイント43によりガスケット50に面によるインターフェイスで導通される。そして、電磁シールド層25は、ガスケット50、クランプ28等の固定部材、および窓フレーム30を介して機体に接地(Bonding)される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
窓に求められる気密性は、窓本体と窓フレームとの間でガスケットが圧縮されて撓むことによって確保される。
しかし、ガスケットの導電性を高めて十分な電磁シールド効果を得るために、ガスケットのゴム系材料に混入する導電性フィラーの量を増やすと、気密性を担保するためにガスケットに必要な可撓性(弾性)が失われてしまう。
そのため、現状では、導電性のガスケットの体積抵抗率の下限値は例えば5Ωcmに留めざるを得ず、導電性のガスケットにより電磁波を十分に減衰させることが難しい。
【0010】
例えば、
図10に矢印L1で示す角度から窓パネル22に入射した電磁波は、電磁シールド層25で反射され、ガスケット50を通過した後に窓フレーム30で反射され、さらにガスケット50を通過する。このときガスケット50による吸収損失による減衰効果が小さいために、電磁波は十分に減衰されず、機内へと侵入する。
また、L1よりも浅い入射角で矢印L2に沿って、導電性ペイント43が塗布された窓パネル22の端面と斜面との間の角部Cに向けて進行した電磁波も、ガスケット50を通過するときに十分に減衰されないので機内へと侵入する。
【0011】
以上で示した課題に基づいて、本発明は、電磁波を十分に減衰させるために必要な導電性をガスケット(介装部材)に付与することができなくても、あるいは介装部材が非導電性であっても、電磁シールド性能を十分に確保することができる航空機の窓、および航空機の窓と同様に開口部に設けられる閉塞部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の本発明の航空機の窓は、航空機の機体に設けられた窓であって、光透過性を有した窓パネル、および窓パネルに積層される電磁シールド層を有する窓本体と、導電性材料からなり、窓本体を囲む窓フレームと、ゴム系材料を用いて形成されるとともに導電性を有し、窓本体と窓フレームとの間に少なくともその一部が装着される介装部材と、窓本体に設けられて電磁シールド層の外周と介装部材とを導通させる導電層と、を備える。
窓フレームは、機外側から介装部材を介して窓本体を保持する保持部を有する。
そして、本発明は、導電層が、窓本体において保持部と対向する
区間にわたり延在し、導電層と保持部とが電磁波の導波管を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明は、窓フレームの保持部と導電層とが介装部材を挟んで対向した導波管構造を備える。これにより、窓フレームの保持部と導電層との間で電磁波が多重反射されるので、反射損失と、反射される電磁波の行路における吸収損失とによって電磁波を十分に減衰させることができる。
また、窓パネルに入射した電磁波が電磁シールド層と導電層とで多重反射されることによっても、電磁波を十分に減衰させることができる。
【0014】
本発明の航空機の窓において、保持部には、窓本体の厚み方向に対して傾斜した斜面が形成され、窓本体にも、保持部の斜面に倣う斜面が形成されることが好ましい。
斜面により、導波管構造の全長が長く確保されるので、導波管構造における反射回数が増えて反射損失が増大するとともに、吸収損失も累積して増大する。
【0015】
本発明における導電層は、窓本体に導電性の塗料を塗布することにより形成することができる。
【0016】
本発明における窓本体は、電磁シールド層を介して貼り合わせられる2つの窓パネルにより構成することができる。
あるいは、本発明における窓本体は、空気層を介して配置される2つの窓パネルを有するものであって、機外側に配置される窓パネルの空気層側の面に電磁シールド層が積層されていてもよい。
【0017】
第2の本発明は、航空機の機体に設けられた航空機の窓であって、光透過性を有した窓パネル、および窓パネルに積層される電磁シールド層を有する窓本体と、導電性材料からなり、窓本体を囲む窓フレームと、ゴム系材料を用いて形成され、窓本体と窓フレームとの間に少なくともその一部が装着される介装部材と、窓本体の端面に設けられて電磁シールド層の外周に導通する第1導電層と、を備える。
窓フレームは、機外側から介装部材を介して窓本体を保持する保持部を有する。
そして、本発明は、第1導電層の機外側に導通するとともに、窓本体および保持部の間を横断して保持部に導通する第2導電層が設けられることを特徴とする。
ここで、第2導電層は、窓本体と保持部とを結ぶ方向に沿って横断するものとする。
本発明によれば、窓パネルに入射した電磁波が電磁シールド層、第1導電層、第2導電層、および保持部とで多重反射されることにより、電磁波を十分に減衰させることができる。
【0018】
第1および第2の本発明においては、機外側から窓本体と保持部との間を覆う第3導電層を備えることが好ましい。
そうすると、窓パネルと窓フレームの保持部との間から介装部材を通じて入射しようとする電磁波を第3導電層における反射および吸収により減衰させることができるので、電磁シールド性能を高めることができる。
【0019】
本発明は、航空機の窓の他にも、開口部を閉塞する部材に広く適用することができる。
本発明の開口部の閉塞部材は、物品に形成された開口部を塞ぐ閉塞部材であって、パネル状の閉塞パネル、および閉塞パネルに積層される電磁シールド層を有する閉塞部材本体と、導電性材料からなり、閉塞部材本体を囲むフレームと、ゴム系材料を用いて形成されるとともに導電性を有し、閉塞部材本体とフレームとの間に少なくともその一部が装着される介装部材と、閉塞部材本体に設けられて電磁シールド層の外周と介装部材とを導通させる導電層と、を備える。
フレームは、電磁シールド層に面する側から介装部材を介して閉塞部材本体を保持する保持部を有する。
そして、本発明は、導電層が、閉塞部材本体において保持部と対向する
区間にわたり延在し、導電層と保持部とが電磁波の導波管を形成することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の別の、開口部の閉塞部材は、物品に形成された開口部を塞ぐ閉塞部材であって、パネル状の閉塞パネル、および閉塞パネルに積層される電磁シールド層を有する閉塞部材本体と、導電性材料からなり、閉塞部材本体を囲むフレームと、ゴム系材料を用いて形成され、閉塞部材本体とフレームとの間に少なくともその一部が装着される介装部材と、閉塞部材本体の端面に設けられて電磁シールド層の外周に導通する第1導電層と、を備える。
フレームは、電磁シールド層に面する側から介装部材を介して閉塞部材本体を保持する保持部を有する。
そして、本発明は、第1導電層の電磁シールド層に面する側に導通するとともに、閉塞部材本体および保持部の間を横断して保持部に導通する第2導電層が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電磁波を十分に減衰させるために必要な導電性を介装部材に付与することができなくても、あるいは介装部材が非導電性であっても、電磁シールド性能を十分に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、航空機のキャビンに設けられた窓20を示す。
窓20は、航空機の機体10を構成するスキン11に形成された開口部12に設けられる。窓20は、光透過性を有する窓本体21と、窓本体21を囲む窓フレーム30とを備える。窓本体21は、開口部12の周縁の複数箇所に配置される固定部材27により、窓フレーム30を介してスキン11に固定される。
【0024】
窓本体21は、
図2に示すように、2つの窓パネル22,23と、これら窓パネル22,23の間に介在する電磁シールドメッシュ(電磁シールド層)25とを有する。電磁シールド層25は、窓パネル22,23と同等の平面サイズに形成される。
窓本体21は、窓パネル22,23および電磁シールド層25を含む積層体である。
【0025】
窓パネル22,23は、アクリル、またはポリカーボネート等の樹脂材料から形成することができる。本実施形態の窓パネル22,23には、アクリルから形成された部材を引っ張ることで強度を高めたストレッチ・アクリル部材が用いられる。
【0026】
電磁シールド層25は、織られた繊維基材にめっきを施すことにより、メッシュ状に形成されており、導電性メッシュと呼ばれる。繊維基材はポリエステル等の樹脂材料から形成することができる。めっきには、銅、ニッケル等の金属材料を用いることができる。電磁シールド層25は、窓パネル22,23のいずれか一方の面に保持される。
電磁シールド層25の繊維基材の繊維間には微小な開口が存在する。電磁シールド層25は、その開口の寸法に対して1/2波長がより大きな低周波数帯の電磁波を遮蔽する。
【0027】
上記のような導電性メッシュに代えて、金、銀等の金属材料やITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)から形成された薄膜や、導電性フィラーを含有したインクを透明な樹脂材料から形成された基材にメッシュ状に印刷することで形成された印刷メッシュ、金属板を打ち抜いたエキスパンドメタル等を用いることもできる。
窓パネル22,23に積層される電磁シールド層25は、導電性を有し、窓本体21の光透過性を担保できる限り、任意に構成することができる。
【0028】
窓パネル22は機体10の外側(機外側)に配置され、窓パネル23は機体10の内側(機内側)に配置される。
窓パネル23の機内側の面と機外側の面とは、それらの面に直交する側面231によって繋がれる。
一方、窓パネル22の機内側の面と機外側の面とは、窓パネル23の側面231とほぼ面一に配置される側面221と、窓パネル23の厚み方向に対して傾斜した傾斜側面222とによって繋がれる。窓パネル22の側面(端面)は、全周に亘り、側面221および傾斜側面222により構成される。
傾斜側面222は、機外側の端部222Aが機内側の端部(符号省略)よりも窓パネル22の内周側に位置するように傾斜する。
【0029】
窓パネル22,23は、ポリウレタン等の樹脂フィルム24を電磁シールド層25の片面または両面に介在させて貼り合わせられる。
【0030】
電磁シールド層25の外周は、窓パネル22,23の合わせ目から露出し、窓パネル22,23の側面に設けられた導電層40に接触導通される。
導電層40は、金属やカーボン等の導電性粒子を含むことで導電性が与えられた塗料を塗布し、乾燥させることで形成される。導電層40は、窓パネル22,23の全周に亘り設けられる。
また、導電層40は、窓パネル23の側面231、窓パネル22の側面221および傾斜側面222に亘り連続し、窓本体21の厚みの全体またはほぼ全体に亘り設けられる。
導電層40は、窓パネル23の側面231および窓パネル22の側面221に設けられる第1区間41と、窓パネル22の傾斜側面222に設けられる第2区間42とに区分される。
【0031】
導電層40に用いる導電性の塗料は、電気抵抗率、窓パネル22,23の材質との親和性、作業性、色、コストなどを考慮して種々のものを用いることができる。塗料の性状は問わず、ペースト状、液状などの導電性塗料を用いることができる。
導電層40には、銅の粒子が分散された水溶性塗料(水溶性銅ペイント)や、ニッケルの粒子が分散された水溶性塗料(水溶性ニッケルペイント)を好ましく用いることができる。水溶性の塗料は、揮発性の有機溶媒を含む塗料と比べて安全性が高く、且つ作業性が良い。
【0032】
水溶性銅ペイントとしては、SPLAYRAT社の製品である「599−Z1619」を例示できる。この製品を用いた場合の導電層40の厚みは例えば2mil(約0.05mm)であり、このとき導電層40の表面抵抗率は例えば0.015Ω/sqである。
水溶性ニッケルペイントとしては、Randolph社の製品である「WB−120」を例示できる。この製品を用いた場合の導電層40の厚みは例えば2mil(約0.05mm)であり、このとき導電層40の表面抵抗率は例えば0.5Ω/sqである。
【0033】
導電層40は、窓パネル22,23の側面221,231だけでなく窓パネル22の傾斜側面222にも設けられるので、傾斜側面222に設けられた部分がキャビン内から見える場合がある。その場合に、太陽光の散乱光が導電層40により反射された光が眩しく感じられるのを防ぐため、導電層40は光反射率の低い色、例えば濃い灰色や黒色であると好ましい。
防眩性の観点では、濃い灰色であるニッケルペイントを好ましく用いることができる。このような光反射率の低い色をしたペイントを導電層40に用いれば、導電層40に光反射率が低い色の塗料を塗り重ねる必要がない。
導電層40の色は、キャビンの内装の色との調和性の観点からも、適宜に選択することができる。
【0034】
導電層40は、導電性の塗料を塗装する他、めっき、化学気相成長法、スパッタリング等の物理気相成長法などの任意の方法により形成することができる。導電層40は、積層される複数の層から構成されていてもよい。
【0035】
導電層40は、窓20が有する電磁シールド性能に寄与する。
また、導電層40は、窓パネル22,23の間の隙間を封止することで、湿気や水分が窓パネル22,23の間に入り込むのを妨げる。これにより、樹脂フィルム24に用いられたポリウレタンの加水分解を妨げることができる。
【0036】
窓フレーム30は、アルミニウム合金などの金属や、炭素繊維を含む炭素繊維強化樹脂(CFRP;carbon fiber reinforced plastic)などの導電性材料から形成される。
窓フレーム30は、スキン11の内側に突き当てられる突当部31と、突当部31からスキン11の開口部12の内側に連続し、窓本体21を保持する保持部32と、突当部31および保持部32の間から機内側に立ち上がり、固定部材27が取り付けられる取付部33とを備える。
【0037】
突当部31は、導電性材料からなるファスナ35でスキン11に結合される。これにより、導電性の窓フレーム30と、窓フレーム30と同様に導電性材料から形成されたスキン11とが、互いの対向面により、またはファスナ35を介して接触導通される。
突当部31とスキン11との間にはシール部材38,39が設けられる。
保持部32には、窓パネル22の傾斜側面222に倣う斜面322が形成される。傾斜側面222と斜面322とは互いに平行に配置される。
飛行中、機内の圧力に対して機外が負圧となったときに、窓パネル22の傾斜側面222を窓フレーム30の斜面322で確実に受け止めて保持する。
取付部33は、窓20を組み付けるために用いる固定部材27の設置を容易とするために、窓本体21の側面に対して間隔をおいて立ち上がる。
【0038】
窓フレーム30と窓本体21との間には、導電性を有するガスケット50の一部が挟み込まれる。
ガスケット50は、シリコンゴムやEPDM等のゴム系材料に導電性フィラーを混入することで、導電性を付与したものである。
導電性フィラーは、Ag、Ag−Cu合金、Ag−Al合金、Ni−Cu合金、Ni−Al合金、Ag−C合金、Ni−C合金、カーボン等の導電性材料から形成することができる。
ガスケット50の体積抵抗率は、導電性フィラーの混入量に応じて調整することができ、例えば、5Ωcm〜300Ωcmである。
【0039】
ガスケット50は、窓パネル22の傾斜側面222と窓フレーム30の斜面322との間に挟み込まれる封止部51と、封止部51から窓本体21の側面を経由して窓パネル23の機内側の面に回り込む固定部52とを備える。全体として断面略C字状に形成されるガスケット50の内側に、窓本体21の外周部が挿入される。
封止部51が窓フレーム30に突き当てられ、固定部52が固定部材27で押さえられることによってガスケット50が窓フレーム30および窓本体21の双方に保持される。
【0040】
封止部51は、傾斜側面222および斜面322の双方に密着されることで、窓本体21と窓フレーム30との間の隙間を封止する。窓本体21と窓フレーム30との間から露出する封止部51の端部51Aは、剛性確保のため厚肉に形成される。
固定部52は、窓本体21の側面に沿う導通部521と、窓パネル23の機内側の面に沿う押さえ部522とを有する。
導通部521は、窓本体21の側面に設けられた導電層40の第1区間41に密着される。これにより、導電層40とガスケット50とが接触導通するので、導電層40を介して、電磁シールド層25とガスケット50とが導通される。
【0041】
ガスケット50を含んで構成される電磁シールド構造55は、導電層40の第2区間42と、窓フレーム30の保持部32の斜面322とがガスケット50の封止部51を挟んで対向する構造とされる。
電磁シールド構造55は、窓フレーム30の周方向の全周に亘り連続する。
この電磁シールド構造55は、あたかも電磁波の導波管として機能し、窓本体21と窓フレーム30の保持部32との間に入射した電磁波を導く。その電磁波は、電磁シールド構造55により導かれながら減衰される。
【0042】
固定部材27は、ガスケット50および窓フレーム30を介して窓本体21をスキン11に固定する。
固定部材27は、クランク状のクランプ28と、L字状のクリップ29とを備える。クランプ28およびクリップ29のいずれも、窓フレーム30と同様に導電性材料から形成される。
クランプ28は、ガスケット50の押さえ部522に重ねられる一端部281と、窓フレーム30の取付部33よりも機内側に位置する他端部282とを有する。
一端部281には、ガスケット50の導通部521を窓本体21の側面に向けて押さえる押さえ部281Aが設けられる。
クリップ29は、窓フレーム30の取付部33の外周側に導電性材料からなるリベット37で結合される一端部291と、クランプ28の他端部282に導電性材料からなるスクリュー36で結合される他端部292とを有する。クリップ29の他端部292には、スクリュー36が締め付けられるプレートナット292Aが設けられる。
【0043】
クランプ28により、ガスケット50を介して窓本体21を窓フレーム30に対して押さえ、窓フレーム30に固定されたクリップ29にクランプ28をスクリュー36で結合すると、窓フレーム30が固定されたスキン11に対して窓本体21が固定される。
このとき、窓フレーム30と窓本体21との間でガスケット50の封止部51が圧縮されて弾性変形し、窓パネル22の傾斜側面222と窓フレーム30の斜面322とに密着する。これによって窓本体21と窓フレーム30との間の気密性が確保される。
【0044】
クランプ28の一端部281は、ガスケット50の押さえ部522に導通される。また、クランプ28の他端部282とクリップ29の他端部292とが導通される。
これらクランプ28およびクリップ29は、電磁シールド層25をスキン11に接地させる接地経路の一部を構成する。
その接地経路は、
図2に破線で示すように、電磁シールド層25から導電層40、ガスケット50、クランプ28、クリップ29、および窓フレーム30を経由してスキン11に至る。
【0045】
ここで、ガスケット50とクランプ28との間の接触抵抗を小さくするために、ガスケット50に対向するクランプ28の面に導電性皮膜28Aを形成することが好ましい。
また、クランプ28とクリップ29との間の接触抵抗を小さくするために、クリップ29に対向するクランプ28の面にも導電性皮膜28Bを形成することが好ましい。導電性皮膜28Bは、クリップ29に対向するクランプ28の面、およびクランプ28に対向するクリップ29の面のいずれか一方または両方に形成することができる。
導電性皮膜28A,28Bは、化成皮膜とすることができる。化成皮膜としては、クロメート皮膜を例示できる。
【0046】
以上で説明した窓20によって得られる電磁シールド効果について説明する。
まず、
図3を参照し、接地された電磁シールド層25および導電層40による第1シールド効果について説明する。
上述のように、電磁シールド層25の外周に導電層40が接触導通され、導電層40は窓パネル22の傾斜側面222まで延在する。このように互いに連続して設けられる電磁シールド層25と導電層40は、電磁シールド層25と、窓パネル22の側面221と、窓パネル22の傾斜側面222との三方から電磁波を囲い込む袋小路として機能する。
【0047】
窓パネル22に対して矢印L1に沿って入射した電磁波は、電磁シールド層25により反射された後、導電層40の第2区間42により反射される。さらに、電磁シールド層25により反射された後、導電層40の第1区間41により反射される。そして、第2区間42により反射されることで、機外へと戻される。
また、L1よりも浅い入射角で矢印L2に沿って窓パネル22に入射した電磁波は、導電層40の第1区間41により反射される。その後、電磁シールド層25により反射され、機外へと戻される。
【0048】
また、窓パネル22に入射した電磁波の一部は、電磁シールド層25および導電層40を透過する際に吸収される。
電磁波が電磁シールド層25および導電層40に入射する都度、反射損失および吸収損失が生じる。これらの損失が多重的に生じることで、電磁波は大幅に減衰される。
【0049】
次に、
図4を参照し、電磁シールド構造55による第2シールド効果について説明する。
気密性を確保するために必要なガスケット50の可撓性を維持するために、ガスケット50に含有させることのできる導電性フィラーの量には限界がある。このため、ガスケット50の導電性は金属と比べて低い。
そのため、導電性フィラーによりガスケット50に導電性を付与したことによって得られる電磁波の減衰量は例えば3dB程度に留まる。
このガスケット50単体では、電磁波を十分に減衰させることはできなくても、ガスケット50を含む電磁シールド構造55が、電磁波を十分に減衰させることができる第2シールド効果を発揮する。
【0050】
ガスケット50を挟んで対向する導電層40の第2区間42および窓フレーム30の保持部32により、電磁波をガイドする導波管構造が形成される。
そうすると、矢印L3に示すように窓本体21と窓フレーム30との間に入射した電磁波は、第2区間42と保持部32との間で反射を繰り返しながらガスケット50を通過する。
電磁波が反射すると、電磁波が進む導波行路は、導波管構造の実際の長さ(第2区間42と保持部32とが対向する区間の長さ)よりも長くなる。ガスケット50による吸収損失は、導電層40および窓フレーム30と比べて少ないものの、導波行路が長ければ、導波行路を通じて累積し、大きな値となる。矢印L3で示す電磁波は、多重反射損失、導電層40および窓フレーム30による吸収損失に加え、ガスケット50による吸収損失によって十分に減衰される。
また、L3よりも入射角が浅い矢印L4で示す電磁波は、導電層40および窓フレーム30の間にガイドされて機内側へと進行する。このとき電磁波がガスケット50を通過する行路長は、
図10に矢印L1および矢印L2で示す電磁波がガスケット50を横切る行路が短いのとは異なり、長い。このため、ガスケット50の吸収損失により、電磁波を十分に減衰させることができる。
【0051】
以上で説明した第1シールド効果および第2シールド効果により、十分な電磁シールド性能を確保することができる。
図5(a)は、
図10に示す従来例によって得られる電磁波の水平偏波の減衰効果を示し、
図5(b)は、本実施形態によって得られる電磁波の水平偏波の減衰効果を示す。
減衰量は、帯域幅平均値を実線で示すとともに、機外の電界強度に対する機内の電界強度の比率を対数(20log)で示す。
これらのグラフからわかるように、本実施形態によれば、100MHzから18GHzまでの全周波数範囲で、従来例に対して水平偏波の減衰量を4〜8dB程度増加させることができる。
【0052】
また、同様に、
図6(a)および(b)に、電磁波の垂直偏波の減衰効果を示す。
これらのグラフからわかるように、本実施形態(
図6(b))によれば、100MHzから18GHzまでの全周波数範囲で、従来例(
図6(a))に対して垂直偏波の減衰量を5〜10dB程度増加させることができる。
【0053】
〔第1実施形態の変形例〕
第1実施形態は、
図7に示すように、窓パネル22,23の間に空気層が設けられるエアギャップタイプの窓にも適用することができる。
図7に示す構成では第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付している。
窓パネル22,23は、空気層26を介して対向する。窓パネル23には、エア抜きのための図示しない小さな孔が形成される。
ガスケット50は、窓パネル22,23の間に配置されるリブ53を有する。
窓パネル22の機内側の面には、電磁シールド層25が設けられる。電磁シールド層25の外周は、窓パネル22の傾斜側面222に設けられた導電層40に接触導通される。
【0054】
本変形例においても、電磁シールド層25および導電層40により、上述した第1シールド効果および第2シールド効果の双方が得られるので、航空機の窓に求められる電磁シールド性能を確保することができる。
【0055】
第1実施形態では、窓本体21と保持部32との間に装着される部分(封止部51)と、窓本体21の側面および機内側の面に沿う部分(固定部52)とが一体に形成されたガスケット50により、窓本体21と窓フレーム30の保持部32との間に装着される介装部材が構成される。
ここで、介装部材は、単一の部材から構成される必要はなく、複数の部材から構成することもできる。例えば、封止部51と、固定部52とを別体とし、それらを一体化することもできる。
【0056】
また、導電層40は、第1実施形態のように窓パネル23の側面231、窓パネル22の側面221および傾斜側面222に亘り連続して設けられることが好ましいが、本発明は、導電層が僅かな隙間を介して断続的に設けられる形態をも許容する。また、導電層は一体に形成されることが好ましいが、導電層の複数の区間を別々に形成することもできる。
上記のような形態の導電層であっても、窓本体において窓フレームの保持部と対向する部分に導電層が延在し、その導電層によって従来構造よりも優れた電磁波シールド効果を発揮するものと認めることができる。
【0057】
〔第2実施形態〕
次に、
図8を参照し、本発明の第2実施形態に係る航空機の窓について説明する。
第2実施形態では、第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付している。
第2実施形態の窓は、窓本体21の側面(端面)に形成された第1導電層61と、非導電性のガスケット70とを備える。
第1導電層61は、窓パネル22の側面221に形成されており、電磁シールド層25の外周に導通される。第1導電層61は、窓パネル22において窓フレーム30の保持部32と対向する傾斜側面222には延在していない。第1導電層61の機外側の端部は、窓パネル22の側面221と傾斜側面222とがなす角部Cに位置する。
第1導電層61は、上述の導電層40と同様に、導電性の塗料から形成することができる。
【0058】
ガスケット70は、ガスケット50と同様の形態に構成された封止部51および固定部52を備える。ガスケット70は、シリコンゴムやEPDM等のゴム系材料から、導電性フィラーを混入させずに形成されており、導電性は付与されていない。
封止部51には、第1導電層61の機外側の端部、および保持部32に導通される第2導電層62が設けられる。
第2導電層62は、窓パネル22の側面221と傾斜側面222とがなす角部Cに対向する位置で、窓パネル22と保持部32とを結ぶ方向に沿って窓パネル22および保持部32の間を横断する。
第2導電層62は、金属やカーボン等の導電性材料から形成される。第2導電層62は、電磁シールド層25と同様に構成することもできる。
第2導電層62は、ガスケット70において封止部51の先端(機外側)から角部Cまでの区間と、他の区間との間に介在する。第2導電層62は、例えば、金属製のシートを用いてガスケット70をインサート成形することにより形成することができる。
【0059】
第2導電層62を介して第1導電層61と窓フレーム30とが導通されるので、電磁シールド層25から第1導電層61、第2導電層62、および窓フレーム30へと至り、さらに、窓フレーム30からファスナ35(
図1)を介して機体10へと至る接地経路が形成される。
【0060】
第2実施形態では、上述のように、電磁シールド層25の外周に第1導電層61が接触導通され、第1導電層61の機外側の端部が第2導電層62に導通され、第2導電層62は窓フレーム30の保持部32に導通される。このように互いに連続して設けられる電磁シールド層25、第1導電層61、第2導電層62、および保持部32は、電磁シールド層25と、窓パネル22の側面221と、窓パネル22の傾斜側面222との三方から電磁波を囲い込む袋小路として機能する。
【0061】
そのため、第1実施形態で説明したのと同様に第1シールド効果が得られる。
窓パネル22に入射した電磁波は、入射角に応じて、電磁シールド層25、第1導電層61、第2導電層62、および保持部32の間で適宜反射された後、最終的に機外へと戻される。これは、傾斜側面222に沿ってガスケット70の封止部51に入射した電磁波についても同様である。
また、窓パネル22に入射した電磁波の一部は、電磁シールド層25、第1導電層61、および第2導電層62を透過する際に吸収される。
電磁波が電磁シールド層25、第1導電層61、および第2導電層62に入射する都度、反射損失および吸収損失が生じる。これらの損失が多重的に生じることで、電磁波は大幅に減衰される。
以上により、第2実施形態によっても十分な電磁シールド性能を確保することができる。
【0062】
〔第2実施形態の変形例〕
第2実施形態において、
図9に示すように、ガスケット70の機外側の端部51Aに第3導電層63を設けることもできる。
本実施形態においてガスケット70の端部51Aは、窓パネル22と保持部32との間を閉塞することが好ましい。
第3導電層63は、窓パネル22と保持部32との間を機外側から覆う。
第3導電層63は、金属やカーボン等の導電性材料から形成される。第3導電層63には、導電性の塗料や、導電性材料から形成されたプレートを用いることができる。また、第3導電層63は、電磁シールド層25と同様に構成することもできる。
【0063】
本例によれば、ガスケット70の封止部51に入射しようとする電磁波を第3導電層63における反射および吸収により減衰させることができるので、電磁シールド性能を高めることができる。
【0064】
ところで、第2実施形態(
図8)における第2導電層62は、第1実施形態の窓20に適用することもできる。
また、第2実施形態の変形例(
図9)における第3導電層63も、第1実施形態の窓20に適用可能である。
第1実施形態に第2導電層62を付加すると、導波管と同様に機能する電磁シールド構造55の終端側(機内側)において電磁波を反射および吸収し、また、第1実施形態に第3導電層63を付加すると、電磁シールド構造55の始端側(機外側)において電磁波を反射および吸収することができるので、電磁シールド性能を高めることができる。
【0065】
また、第2実施形態およびその変形例におけるガスケット70は、導電性フィラーをゴム系材料に混入することにより、導電性を付与したものでもよい。その場合、ガスケット70を通過する電磁波を吸収損失により減衰させることができる。
【0066】
本発明は、キャビンの窓に限らず、フライトデッキの窓にも適用することができる。
また、本発明は、航空機のドア(扉)に設けられた窓(ドア窓)にも適用することができる。
さらには、航空機のドアやエスケープハッチ等にも本発明を適用することができる。
【0067】
本発明は、航空機用途に限らず、開口部を塞ぐ閉塞体一般に適用することができる。その閉塞体は、パネル状の閉塞パネル、および閉塞パネルに積層される電磁シールド層を有する閉塞部材本体と、導電性材料からなり、閉塞部材本体を囲むフレームとを備える。
適用可能な閉塞部材としては、例えば、自動車用のウインドウやサンルーフ、電子機器のモニター、各種カメラのレンズ保護フィルタ等が挙げられる。
【0068】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。