特許第6190217号(P6190217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000002
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000003
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000004
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000005
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000006
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000007
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000008
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000009
  • 特許6190217-圧電材料を用いた制震装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190217
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】圧電材料を用いた制震装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20170821BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F16F15/02 A
   E04H9/02 331Z
   E04H9/02 311
   E04H9/02 331A
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-181005(P2013-181005)
(22)【出願日】2013年9月2日
(65)【公開番号】特開2015-48894(P2015-48894A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 直幹
(72)【発明者】
【氏名】高木 賢二
【審査官】 葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−106482(JP,A)
【文献】 実開平04−007749(JP,U)
【文献】 特開平02−021044(JP,A)
【文献】 特開平06−276762(JP,A)
【文献】 特開平06−073915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物が水平力を受けたときに引張力と圧縮力が交互に繰り返して作用し、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部において、
一方の荷重受け部と他方の荷重受け部のそれぞれに組み込まれ、前記水平力の作用時に前記引張力と圧縮力を厚さ方向の圧力として負担する圧電材料を備え、
前記一方の荷重受け部に前記引張力、または圧縮力が作用したときに、その一方の荷重受け部の圧電材料が発生する、伸び変形量、または縮み変形量に応じた電圧が前記他方の、圧縮力、または引張力が作用している荷重受け部の圧電材料に印加され、この他方の荷重受け部の圧電材料は前記一方の荷重受け部の圧電材料が発生し、印加された前記電圧に応じた伸び変形、または縮み変形を前記圧縮力、または引張力の作用方向に生じ、この伸び変形量、または縮み変形量に応じた反力を前記他方の荷重受け部に作用させ
前記一方の圧電材料が変形時に発生する前記電圧は前記他方の圧電材料を変形させ、この他方の圧電材料の変形はその側の荷重受け部に作用している前記圧縮力、または引張力に対する反力になることを特徴とする圧電材料を用いた制震装置。
【請求項2】
前記他方の荷重受け部に前記圧縮力、または引張力が作用したときに、その他方の荷重受け部の圧電材料が発生する、縮み変形量、または伸び変形量に応じた電圧が前記一方の、引張力、または圧縮力が作用している荷重受け部の圧電材料に印加され、この一方の荷重受け部の圧電材料は前記他方の荷重受け部の圧電材料が発生し、印加された前記電圧に応じた縮み変形、または伸び変形を前記引張力、または圧縮力の作用方向に生じ、この縮み変形量、または伸び変形量に応じた反力を前記一方の荷重受け部に作用させることを特徴とする請求項1に記載の圧電材料を用いた制震装置。
【請求項3】
前記各荷重受け部の圧電材料に、厚さ方向に予め圧縮力が与えられていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の圧電材料を用いた制震装置。
【請求項4】
前記圧電材料は前記荷重受け部を構成する一方の構造部材と他方の構造部材との間に介在し、前記一方の構造部材と前記他方の構造部材は前記圧電材料の、外力を受ける方向である厚さ方向、もしくは軸方向の正負の向きに相対変位自在な状態に接合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の圧電材料を用いた制震装置。
【請求項5】
構造物が水平力を受けたときに引張力と圧縮力が交互に繰り返して作用し、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部において、
一方の荷重受け部と他方の荷重受け部のそれぞれに組み込まれ、前記水平力の作用時に前記引張力と圧縮力を厚さ方向の圧力として負担する圧電材料を備え、
前記圧電材料は前記荷重受け部に圧縮力が作用したときに圧縮力を負担する圧縮抵抗部と、前記荷重受け部に引張力が作用したときに圧縮力を負担する引張抵抗部とに分割され、
前記一方の荷重受け部に引張力が作用し、その一方の荷重受け部の引張抵抗部が圧縮力を負担したときに発生する縮み変形量に応じた電圧が、圧縮力が作用している前記他方の荷重受け部において圧縮力を負担している前記圧縮抵抗部に印加され、この他方の荷重受け部の圧縮抵抗部は前記一方の荷重受け部の前記引張抵抗部が発生し、印加された前記電圧に応じた伸び変形を前記圧縮力の作用方向に生じ、この伸び変形量に応じた反力を前記他方の荷重受け部に作用させることを特徴とする圧電材料を用いた制震装置。
【請求項6】
前記一方の荷重受け部に圧縮力が作用し、その一方の荷重受け部の圧縮抵抗部が圧縮力を負担したときに発生する縮み変形量に応じた電圧が、引張力が作用している前記他方の荷重受け部において圧縮力を負担している前記引張抵抗部に印加され、この他方の荷重受け部の引張抵抗部は前記一方の荷重受け部の前記圧縮抵抗部が発生し、印加された前記電圧に応じた伸び変形を前記引張力の作用方向に生じ、この伸び変形量に応じた反力を前記他方の荷重受け部に作用させることを特徴とする請求項5に記載の圧電材料を用いた制震装置。
【請求項7】
構造物が水平力を受けたときに引張力と圧縮力が交互に繰り返して作用し、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部において、
一方の荷重受け部と他方の荷重受け部のそれぞれに組み込まれ、前記水平力の作用時に前記引張力と圧縮力を厚さ方向の圧力として負担する圧電材料を備え、
前記圧電材料は前記各荷重受け部に圧縮力が作用したときに圧縮力を負担する圧縮抵抗部と、前記各荷重受け部に引張力が作用したときに圧縮力を負担する引張抵抗部とに分割され、前記圧縮抵抗部には厚さ方向に予め圧縮力が与えられており、
前記一方の荷重受け部に引張力が作用し、前記他方の荷重受け部に圧縮力が作用したときに、前記一方の荷重受け部の前記圧縮抵抗部が発生する縮み変形量に応じた電圧が前記他方の荷重受け部の前記圧縮抵抗部に印加され、この圧縮抵抗部は前記一方の荷重受け部の前記圧縮抵抗部が発生し、印加された前記電圧に応じた伸び変形を前記圧縮力の作用方向に生じ、この伸び変形量に応じた反力を前記他方の荷重受け部に作用させることを特徴とする圧電材料を用いた制震装置。
【請求項8】
構造物が水平力を受けたときに引張力と圧縮力が交互に繰り返して作用し、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部において、
一方の荷重受け部と他方の荷重受け部のそれぞれに組み込まれ、前記水平力の作用時に前記引張力と圧縮力を厚さ方向の圧力として負担する圧電材料を備え、
前記圧電材料は前記各荷重受け部に圧縮力が作用したときに圧縮力を負担する圧縮抵抗部と、前記各荷重受け部に引張力が作用したときに圧縮力を負担する引張抵抗部とに分割され、前記引張抵抗部には厚さ方向に予め圧縮力が与えられており、
前記一方の荷重受け部に圧縮力が作用し、前記他方の荷重受け部に引張力が作用したときに、前記一方の荷重受け部の前記引張抵抗部が発生する縮み変形量に応じた電圧が前記他方の荷重受け部の前記引張抵抗部に印加され、この引張抵抗部は前記一方の荷重受け部の前記引張抵抗部が発生し、印加された前記電圧に応じた伸び変形を前記引張力の作用方向に生じ、この伸び変形量に応じた反力を前記他方の荷重受け部に作用させることを特徴とする圧電材料を用いた制震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物が地震等による水平力を受けたときに引張力と圧縮力が交互に繰り返して作用し、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部に、引張力を受けたときに変形量に応じた電圧を発生し、また電圧に応じた変形量分の反力を発生する圧電材料を組み込むことで構造物の振動を抑制する圧電材料を用いた制震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物内における構造部材が軸方向の引張力、または圧縮力を受けたときに変形(歪み)量に応じた電圧(電位差)を発生し、また電圧に応じた変形量分の軸方向力を発生する圧電材料は、加えられる電圧に応じて生ずる伸縮変形が構造物の揺れを抑制する向きの反力として利用可能であることから、構造物の振動を低減、あるいは抑制する制震装置(ダンパ)の構成材料として利用されることがある(特許文献1、2、非特許文献1参照)。
【0003】
これらの場合、圧電材料が両面間に与えられる電圧に応じて生じる、例えば伸び変形の発生方向を構造物に作用する外力に抵抗する反力の作用方向に一致させることで、圧電材料の変形(反力)が構造物に対しては外力の向きと逆向きの抵抗力として作用するため、振動の発生と同時に圧電材料に電圧を印加することで、構造物の振幅を抑制し、振動を低減する効果を得ることができる。
【0004】
特許文献1と非特許文献1では構造物に振動が発生したときの加速度を検出し、加速度の値から、圧電材料が発生すべき変形量(軸方向力)に対応した、圧電材料に与えるべき最適な電圧(制御電圧信号)を算出(生成)し、この電圧を圧電材料に加えることで圧電材料を伸縮させ、構造物に反力(抵抗力)を作用させている。
【0005】
特許文献2では構造物に生じた振動に応じて発生した圧電材料の電圧を検出し、この電圧を構造物の振動とは逆向きの振動のために印加する電圧として利用し、圧電材料に構造物の振動を抑制する振動を発生させることで構造物の振動の増幅を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−227149号公報(段落0002〜0004、0038〜0044、図3図4図8
【特許文献2】特開2010−216140号公報(段落0019〜0026、図1図2
【非特許文献1】遠山幸太郎他、21468「固体アクチュエータを用いたスマート構造のアクティブ制振に関する研究」、日本建築学会大会学術講演梗概集、1996年9月、第931頁〜第932頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では構造物に生じた振動の加速度から圧電材料に与えるべき電圧を算出し、算出された電圧を圧電材料に加えることで圧電材料を伸縮させているが、圧電材料が構造物の振動に伴って伸縮したときに発生する電圧が他の圧電材料の伸縮には直接、反映されていないため、外力を受けて変形したことに起因して電圧を発生することの、圧電材料自体の圧電効果が有効に利用されているとは必ずしも言えない。
【0008】
特許文献2では構造物の振動に伴って圧電材料が発生する電圧が圧電材料の伸縮のために利用されているが、圧電材料は特許文献1のように構造物の振動(正負)の方向に対になる状態で配置されてはいないため、電圧に応じて圧電材料に生じる伸縮が構造物の振動を抑制するために有効に利用されているとは言い難い。
【0009】
本発明は上記背景より、圧電材料自体の圧電効果を有効に利用しながら、電圧に応じて圧電材料に生じる伸縮を構造物の振動抑制のために有効に利用することが可能な圧電材料を用いた制震装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明の圧電材料を用いた制震装置は、構造物が水平力を受けたときに引張力と圧縮力が交互に繰り返して作用し、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部において、一方の荷重受け部と他方の荷重受け部のそれぞれに組み込まれ、前記水平力の作用時に前記引張力と圧縮力を厚さ方向の圧力として負担する圧電材料を備え、
前記一方の荷重受け部に前記引張力、または圧縮力が作用したときに、その一方の荷重受け部の圧電材料が発生する、伸び変形量、または縮み変形量に応じた電圧が前記他方の、圧縮力、または引張力が作用している荷重受け部の圧電材料に印加され、この他方の荷重受け部の圧電材料が、前記一方の荷重受け部の圧電材料が発生し、印加された前記電圧に応じた伸び変形、または縮み変形を前記圧縮力、または引張力の作用方向に生じ、この伸び変形量、または縮み変形量に応じた反力を前記他方の荷重受け部に作用させ
前記一方の圧電材料が変形時に発生する前記電圧は前記他方の圧電材料を変形させ、この他方の圧電材料の変形はその側の荷重受け部に作用している前記圧縮力、または引張力に対する反力になることを構成要件とする。
【0011】
「一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部」とは、構造物に入力する水平力の作用に伴い、構造物内外におけるいずれかの構造部材の一部(継手部等)において、または構造部材同士の接合部等において引張力と圧縮力を交互に負担する部分(部位)を指す。引張力を負担する部分と圧縮力を交互に負担する部分に作用する外力の向きは水平力の向きの変化に応じて交互に入れ替わるため、水平力の向きの変化に伴い、引張力を負担する部分は圧縮力を負担する部分になり、圧縮力を負担する部分は引張力を負担する部分になる。圧電材料(圧電素子)は荷重受け部における配置状態に応じ、厚さ方向の圧力としての引張力と圧縮力を圧電材料の厚さ方向、または軸方向に交互に受ける。
【0012】
「水平力の作用時に引張力と圧縮力を厚さ方向の圧力として負担する圧電材料」とは、一方と他方の各荷重受け部に組み込まれた各圧電材料が各荷重受け部に作用する引張力と圧縮力を厚さ方向の引張力、もしくは圧縮力として負担することを言う。原則的には各圧電材料4、5が各荷重受け部2、3に作用する引張力と圧縮力を交互に負担することになるが、荷重受け部2、3の部位によっては圧電材料4、5は図3に示すように荷重受け部2、3に作用する引張力を圧縮力として負担する状態に荷重受け部2、3に組み込まれることもある。一方と他方の荷重受け部2、3が引張力を受けるときには、荷重受け部2、3を構成する一方の構造部材(図3の鉄骨梁71)と他方の構造部材(図3の鉄骨柱61)が互いに遠ざかる向きに相対変位しようとするため、一方の構造部材と他方の構造部材間に介在する圧電材料4、5は原則的には引張力を負担することになる。
【0013】
但し、引張力が作用する荷重受け部2、3に組み込まれる圧電材料4、5に引張力を負担させるには、一方の構造部材を他方の構造部材に接合している、例えばボルトがいずれかの構造部材に対して軸方向に相対移動可能であることと、圧電材料4、5の厚さ方向の両面全面が両構造部材に接着された状態を維持する必要があるため、荷重受け部2、3に引張力が作用するときに、圧電材料4、5に圧縮力を負担させる方が両構造部材間に圧電材料4、5を介在させ易い場合がある。このような場合には図3に示すように荷重受け部2、3に引張力が作用するときに圧電材料4、5が圧縮力を負担する状態に荷重受け部2、3に組み込まれることがある。詳しくは後述する。
【0014】
対になる荷重受け部2、3は、例えば一方と他方の構造部材が図2−(a)に示すように梁7と柱6であれば、梁7の上部と下部における柱6との接合部であり、特に図2−(b)に示すように梁7が鉄骨梁71であれば、上部のフランジ71aと柱6との接合部、及び下部のフランジ71aと柱6との接合部である。一方と他方の構造部材が図8に示すようにブレース12と、フレームを構成する梁7、または柱6等であれば、圧縮側のブレース12とフレーム(梁7、または柱6)との接合部、及び引張側のブレース12とフレームと(梁7、または柱6)の接合部が対になる荷重受け部2、3になる。荷重受け部2、3は構造部材自体の一部であることもあり、図8に示すブレース12における軸方向の一部の、軸方向等に分離した部分間に跨って圧電材料4、5が組み込まれることもある。
【0015】
また図9に示すように構造物20が積層ゴム支承等の免震装置15、16を挟んで上部構造17と下部構造18に区分される場合には、構造物20に入力する外力(水平力)の作用に伴い、引張力を負担する側になる免震装置15と上部構造17、もしくは下部構造18との接合部、及び圧縮力を負担する側になる免震装置16と上部構造17、もしくは下部構造18との接合部が対になる荷重受け部2、3になる。荷重受け部2、3を構成する上部構造17と免震装置15(16)、及び下部構造18と免震装置16(15)は一方と他方の構造部材になる。
【0016】
図9の場合、構造物20が水平力を受けたときに軸方向(鉛直方向)の引張力を受けるいずれかの免震装置15と、それと対になり、軸方向の圧縮力を受けるいずれかの免震装置16が荷重受け部2、3を構成する。免震装置15、16が介在する上部構造17と下部構造18の接合部は上部構造17の柱と下部構造18の柱との間に形成される他、上部構造17の基礎と下部構造18の基礎との間等に形成される場合があり、下部構造18は杭である場合もある。
【0017】
対になる荷重受け部2、3は2箇所で一組になり、一方の荷重受け部2(3)が引張力を受ける(負担する)ときに他方の荷重受け部3(2)が圧縮力を受ける(負担する)関係にある。但し、引張力と圧縮力は交互に作用し、一方の荷重受け部2(3)は引張力を受けた直後には圧縮力を受け、他方の荷重受け部3(2)は圧縮力を受けた直後には引張力を受けるため、対になる荷重受け部2、3はいずれも引張力と圧縮力を交互に負担する関係にあり、符号2、3は便宜的に付されているに過ぎない。
【0018】
請求項1における「一方の荷重受け部に引張力、または圧縮力が作用したときの圧電材料の伸び変形量、または縮み変形量」とは、一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が一方の荷重受け部2(3)に作用する引張力を負担して伸び変形する場合と、荷重受け部2(3)に作用する引張力を圧縮力として負担して縮み変形する場合の他、荷重受け部2(3)に作用する圧縮力を負担して縮み変形する場合と、荷重受け部2(3)に作用する圧縮力を引張力として負担して伸び変形をする場合の変形量を言う。圧電材料4(5)は伸び変形量、または縮み変形量に応じた大きさの電圧を発生する。
【0019】
一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が引張力を負担して伸び変形を生ずるときには、圧電材料4(5)の、引張力の作用方向両面の内、一方の面(例えば上面(一方の側面))に正の電荷が、他方の面(例えば下面(他方の側面))に負の電荷が生じ、両面間に電位差(電圧)が生ずる。同時に、他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)は圧縮力を負担して縮み変形するときに、圧電材料5(4)の、圧縮力の作用方向両面の内、一方の面(上面(一方の側面))に負の電荷が、他方の面(下面(他方の側面))に正の電荷が生じ、両面間に電位差(電圧)が生ずる。以下、圧電材料4(5)の厚さ方向の一方の面と他方の面をそれぞれ上面と下面に代表させる。
【0020】
一方、圧電材料4(5)は引張力と圧縮力の作用方向両面間に電圧を掛けられたときには、外力(引張力、または圧縮力)を負担したときに発生する電圧と逆向きの電圧を掛けられたときの変形を生ずる。すなわち、圧電材料4(5)は引張力を負担して伸び変形するときに発生する電圧とは逆向きの電圧を両面間に掛けられたときに伸び変形を生じ、圧縮力を負担して縮み変形するときに発生する電圧とは逆向きの電圧を両面間に掛けられたときに縮み変形を生ずる。
【0021】
例えば圧電材料4(5)が引張力を負担して伸び変形するときには、上記の通り、一方の面(上面)に正の電荷が、他方の面(下面)に負の電荷が生ずるが、両面間に電圧を掛けられるときには、一方の面(上面)に負の電位を与え、他方の面(下面)に正の電位を与えたときに伸び変形する。同様に圧電材料5(4)が圧縮力を負担して縮み変形するときには、一方の面(上面)に負の電荷が、他方の面(下面)に正の電荷が生ずるが、両面間に電圧を掛けられるときには、一方の面(上面)に正の電位を与え、他方の面(下面)に負の電位を与えたときに縮み変形する。
【0022】
このような特性から、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある荷重受け部2、3に圧電材料4、5を対にして組み込むことで、一方の圧電材料4(5)が変形時に発生する電圧を他方の圧電材料5(4)を変形させるために使用し、他方の圧電材料5(4)の変形(伸び変形、または縮み変形)をその側の荷重受け部3(2)に作用している外力(圧縮力、または引張力)に対する抵抗力(反力)として活用することが可能になる。一方の圧電材料4(5)が発生する電圧を他方の圧電材料5(4)の変形に利用することは、他方の圧電材料5(4)が発生する電圧を一方の圧電材料4(5)の変形とそれによる反力の発生に利用することにも当てはまる(請求項2)。
【0023】
例えば図2−(a)に示すように圧縮力が作用している他方の荷重受け部3(2)において圧電材料5(4)が厚さ方向の圧力として圧縮力、もしくは引張力を負担して縮み変形、もしくは伸び変形しているときに、引張力が作用している一方の荷重受け部2(3)において厚さ方向の圧力として引張力、もしくは圧縮力を負担して伸び変形、もしくは縮み変形している圧電材料4(5)が発生する電圧を他方の圧電材料5(4)に印加することで、他方の圧電材料5(4)に伸び変形、もしくは縮み変形を生じさせ、他方の荷重受け部3に圧縮力に対する抵抗力(押し返す力)を発生させることができる(請求項1)。一方の圧電材料4(5)が発生した電圧を他方の圧電材料5(4)に印加するには、一方の圧電材料4(5)の厚さ方向の両面に接続された電極を他方の圧電材料5(4)の厚さ方向の両面に直接、接続するか、一方の圧電材料4(5)が発生した電圧を、正負を維持したまま他方の圧電材料5(4)に印加するための電気回路、もしくは後述の反転回路10等の電気回路を介して間接的に接続すればよい。
【0024】
同様に引張力が作用している一方の荷重受け部2(3)において圧電材料4(5)が厚さ方向の圧力として引張力、もしくは圧縮力を受けて伸び変形、もしくは縮み変形しているときに、圧縮力が作用している他方の荷重受け部3(2)において圧縮力、もしくは引張力を受けて縮み変形、もしくは伸び変形している圧電材料5(4)が発生する電圧を一方の圧電材料4(5)に印加することで、一方の圧電材料4(5)に縮み変形、もしくは伸び変形を生じさせ、一方の荷重受け部2に引張力に対する抵抗力(引き寄せる力)を発生させることが可能である(請求項2)。
【0025】
但し、前記のように伸び変形している圧電材料4(5)が発生する電圧と、縮み変形している圧電材料5(4)を伸び変形させるために与えるべき電圧の向きは逆であり、縮み変形している圧電材料5(4)が発生する電圧と、伸び変形している圧電材料4(5)を縮み変形させるために与えるべき電圧の向きは逆になる。このため、一方の圧電材料4(5)の変形と他方の圧電材料5(4)の変形が逆である場合、すなわち一方の圧電材料4(5)が伸び変形し、他方の圧電材料5(4)が縮み変形している場合には、一方の圧電材料4(5)が発生する電圧を他方の圧電材料5(4)に印加する際に、一方の圧電材料4(5)が発生する電圧の向きを逆にして他方の圧電材料5(4)に印加することが必要になる。他方の圧電材料5(4)が発生する電圧を一方の圧電材料4(5)に印加する場合も、両圧電材料5、4の変形が逆である場合には、電圧の向きを逆にする必要がある。
【0026】
一方の圧電材料4(5)の変形と他方の圧電材料5(4)の変形が同一である場合、すなわち一方の圧電材料4(5)が伸び変形し、他方の圧電材料5(4)も伸び変形している場合、または一方の圧電材料4(5)が縮み変形し、他方の圧電材料5(4)も縮み変形している場合には、一方の圧電材料4(5)が発生する電圧の向きを逆にして他方の圧電材料5(4)に印加する必要はない。他方の圧電材料5(4)が発生する電圧を一方の圧電材料4(5)に印加するときも(請求項2)、一方と他方の圧電材料4、5の変形が同一であれば、電圧の向きを逆にする必要はない。
【0027】
例えば縮み変形している他方の圧電材料5(4)の上面と下面にそれぞれ負の電荷と正の電荷が生じているとすれば、この状態にある圧電材料5(4)を伸び変形させるには、圧電材料5(4)の上面と下面に存在する負の電荷と正の電荷をそれぞれ反対側へ移動させる必要があり、それには圧電材料5(4)の上面と下面に外部からそれぞれ負の電荷と正の電荷を掛ける必要がある。同様に伸び変形している一方の圧電材料4(5)の上面と下面にはそれぞれ正の電荷と負の電荷が生じているため、この圧電材料4(5)を縮み変形させるには、圧電材料4(5)の上面と下面に外部からそれぞれ正の電荷と負の電荷を掛ける必要がある。
【0028】
ここで、前記のように伸び変形している一方の圧電材料4(5)の上面と下面にはそれぞれ正の電荷と負の電荷が生じているため、この圧電材料4(5)から取り出した電圧を縮み変形している他方の圧電材料5(4)の上面と下面間に印加するときに、正負を入れ替えることが必要になる。同様に縮み変形している他方の圧電材料5(4)の上面と下面にはそれぞれ負の電荷と正の電荷が生じているため、この圧電材料5(4)から取り出した電圧を伸び変形している一方の圧電材料4(5)の上面と下面間に印加するときに、正負を入れ替えることが必要になる。
【0029】
従って一方の圧電材料4(5)の変形と他方の圧電材料5(4)の変形が逆である場合、縮み変形している他方の圧電材料5(4)を伸び変形させるには、伸び変形している一方の圧電材料4(5)が発生した電圧を、正負を入れ替えて印加しなければならず、伸び変形している一方の圧電材料4(5)を縮み変形させるには、縮み変形している他方の圧電材料5(4)が発生した電圧を、正負を入れ替えて印加しなければならない。一方の圧電材料4(5)の変形と他方の圧電材料5(4)の変形が同一である場合、すなわち一方の圧電材料4(5)が縮み変形し、他方の圧電材料5(4)も縮み変形している場合、または一方の圧電材料4(5)が伸び変形し、他方の圧電材料5(4)も伸び変形している場合には、電圧の正負を入れ替える必要はないため、電圧を発生した一方の圧電材料4(5)から取り出した電圧をそのまま他方の圧電材料5(4)に印加すればよい。
【0030】
電圧の正負を入れ替える場合、伸び変形している一方の圧電材料4(5)が発生した電圧を、正負を入れ替えて他方の圧電材料5(4)に印加するための、電圧の正負を入れ替える手段として、一方の圧電材料4(5)と他方の圧電材料5(4)との間に反転増幅器(反転増幅回路)等、負の電圧を正の電圧に変換するための反転回路10が接続される。縮み変形している他方の圧電材料5(4)が発生した電圧を、正負を入れ替えて一方の圧電材料4(5)に印加する場合(請求項2)は、図2−(b)に示すように他方の圧電材料5(4)と一方の圧電材料4(5)との間に反転回路11が接続される。
【0031】
反転増幅器を使用する場合、一方の荷重受け部2(3)の、伸び変形、または縮み変形した圧電材料4(5)が発生した電圧が反転増幅器の負の入力端子に接続されることで、出力端子から正負が入れ替わった電圧が出力されるため、他方の荷重受け部3(2)の、縮み変形、または伸び変形している圧電材料5(4)の両面に、伸び変形、または縮み変形を生じさせる向きの電圧を印加することが可能になる。
【0032】
電圧の正負を入れ替える場合と入れ替えない場合のいずれも、一方の圧電材料4(5)が発生した電圧が他方の圧電材料5(4)に印加されることで、他方の圧電材料5(4)は印加された電圧に応じた伸び変形、または縮み変形を圧縮力、または引張力の作用方向に生じ、この伸び変形量、または縮み変形量に応じた反力(押し返す力、または引き寄せる力)を他方の荷重受け部3(2)に作用させることになる。他方の圧電材料5(4)が発生した電圧が一方の圧電材料4(5)に印加されるときにも、一方の圧電材料4(5)は印加された電圧に応じた縮み変形、または伸び変形を引張力、または圧縮力の作用方向に生じ、この縮み変形量、または伸び変形量に応じた反力(引き寄せる力、または押し返す力)を一方の荷重受け部2(3)に作用させる(請求項2)。
【0033】
他方の圧電材料5(4)が圧縮力、または引張力を受けて縮み変形、または伸び変形しているときに、その圧電材料5(4)が現在、生じている変形と逆向きの伸び変形、または縮み変形を生ずることで、圧電材料5(4)は他方の荷重受け部3(2)において圧縮力、または引張力に対する抵抗力としての押し返す力、または引き寄せる力を発生する。他方の圧電材料5(4)の伸び変形量、または縮み変形量は一方の圧電材料4(5)が発生した電圧に応じた大きさであり、外力に対する抵抗力は伸び変形量、または縮み変形量に応じた大きさになる。
【0034】
縮み変形している他方の圧電材料5(4)が伸び変形しようとするときに発生する抵抗力は外力の圧縮力に抵抗する反力(押し返す力)として作用するため、外力としての圧縮力は抵抗力分、相殺され、外力の圧縮力が軽減される。外力として作用する圧縮力が軽減されることで、実質的に外力として荷重受け部3(2)に作用する圧縮力が小さくなるため、荷重受け部3(2)に生ずる変形量も小さくなり、結果的に外力による構造物20の揺れが低減される。
【0035】
同様に一方の圧電材料4(5)が引張力、または圧縮力を受けて伸び変形、または縮み変形しているときに、その圧電材料4(5)が現在、生じている変形と逆向きの縮み変形、または伸び変形を生ずることで、圧電材料4(5)は一方の荷重受け部2(3)において引張力、または圧縮力に対する抵抗力としての引き寄せる力、または押し返す力を発生する。一方の圧電材料4(5)の縮み変形量、または伸び変形量は他方の圧電材料5(4)が発生した電圧に応じた大きさであり、外力に対する抵抗力は縮み変形量、または伸び変形量に応じた大きさになる。
【0036】
伸び変形している一方の圧電材料4(5)が縮み変形しようとするときに発生する抵抗力は外力の引張力に抵抗する反力(引き寄せる力)として作用するため、外力としての引張力は抵抗力分、相殺され、外力の引張力が軽減される。外力として作用する引張力が軽減されることで、実質的に外力として荷重受け部3(2)に作用する引張力が小さくなるため、荷重受け部3(2)に生ずる変形量も小さくなり、結果的に外力による構造物20の揺れが低減される。
【0037】
図1は引張力を受けた圧電材料4が発生した電圧を反転回路10に出力し、反転回路10から出力された電圧を、圧縮力を受けた圧電材料5に印加することで圧縮力を受けた圧電材料5に圧縮力に対する反力を発生させる様子を概念的に示している。この場合、圧縮力を受けた圧電材料5が発生した電圧を反転回路10(11)に出力し、反転回路10(11)から出力された電圧を、引張力を受けた圧電材料4に印加することで、引張力を受けた圧電材料4に引張力に対する反力を発生させることも可能である(請求項2)。
【0038】
以上のように対になる荷重受け部2、3の各圧電材料4、5の内、少なくとも一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が構造物20の振動に伴って伸び変形、または縮み変形したときに発生する電圧が他方の荷重受け部3(2)の、縮み変形、または伸び変形している圧電材料5(4)の伸び変形、または縮み変形に直接、反映されるため、圧電材料自体が外力を受けて変形したことに起因して電圧を発生することの圧電効果が有効に利用される。また電圧の授受が行われる圧電材料4、5は特許文献1のように構造物20の振動に伴って正負の向きに交互に変形する方向に対になる状態で配置されているため、与えられる電圧に応じて圧電材料4、5に生じる伸長が直接、構造物20の振動を抑制するために有効に利用される。
【0039】
構造物20に入力する外力としての水平力は正負の向きに交互に作用することから、例えば前記のように一方の荷重受け部2(3)が引張力を受け、圧電材料4(5)が伸び変形したときには、同時に他方の荷重受け部3(2)が圧縮力を受け、圧電材料5(4)が縮み変形しており、それぞれの圧電材料4、5が発生する電圧は互いに対になる側の圧電材料5、4に生じている変形と逆向きの変形を生じさせるために利用可能である。
【0040】
そこで、一方の荷重受け部2、3に引張力、または圧縮力が作用したときに、他方の荷重受け部3、2において厚さ方向の圧力を負担して縮み変形、または伸び変形している圧電材料5、4が発生する、縮み変形量、または伸び変形量に応じた電圧を一方の、引張力、または圧縮力を負担している荷重受け部2、3の、伸び変形、または縮み変形している圧電材料4、5に印加することで(請求項2)、対になる荷重受け部2、3の圧電材料4、5が同時に発生する電圧を互いに他方側の荷重受け部3、2に、外力と逆向きの反力を発生させるために利用することが可能になる。この場合も、一方の圧電材料4(5)の変形と他方の圧電材料5(4)の変形が逆である場合には、電圧の授受の際に電圧の正負を入れ替えることが必要になる。
【0041】
請求項2では前記のように一方の荷重受け部2、3の圧電材料4、5は、他方の荷重受け部3、2の圧電材料5、4が発生し、印加された電圧に応じた縮み変形、または伸び変形を引張力、または圧縮力の作用方向(圧電材料4、5の厚さ方向)に生ずるため、縮み変形量、または伸び変形量に応じた反力(引き寄せる力、または押し返す力)を一方の荷重受け部2、3に作用させることになる。
【0042】
請求項2では対になる荷重受け部2、3の圧電材料4、5が外力の作用時に同時に発生する電圧を互いに他方側の荷重受け部3、2に、外力と逆向きの反力を発生させるために利用できる関係が成立することで、正負の向きに交互に繰り返される外力(水平力)の向きに関係なく、常に一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が発生した電圧を他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)に印加すると同時に、他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)が発生した電圧を一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)に印加する状態が得られる。
【0043】
従って外力(水平力)が作用し続ける限り、対になる荷重受け部2、3の内、いずれか一方の荷重受け部2(3)の、伸び変形、または縮み変形した圧電材料4(5)が発生する電圧を他方の荷重受け部3(2)の、縮み変形、または伸び変形した圧電材料5(4)に加えると同時に、他方の荷重受け部3(2)の、伸び変形、または縮み変形した圧電材料5(4)が発生する電圧を一方の荷重受け部2(3)の、縮み変形、または伸び変形した圧電材料4(5)に加える状況が連続して繰り返される。
【0044】
この結果、一方の荷重受け部2(3)と他方の荷重受け部3(2)は互いに、いずれか一方が負担する外力を他方が負担する外力に起因する反力が打ち消す関係になり、外力のいずれの向きの作用時にも外力を軽減する効果が生ずるため、構造物20の振動を低減し、減衰させる効果が向上する。
【0045】
各荷重受け部2、3の圧電材料4、5には圧縮力と引張力の作用方向に予め圧縮力が与えられていることもある(請求項3)。
【0046】
圧電材料4、5に予め圧縮力が与えられることは、例えば後述のように荷重受け部2、3を構成する一方の構造部材と他方の構造部材との間に圧電材料4、5が介在した状態で、一方の構造部材と他方の構造部材が圧電材料4、5の外力を受ける方向の正負の向きに相対変位自在な状態に接合されることで可能になる(請求項4)。その上で、図3に示すように圧電材料4、5が厚さ方向、もしくは軸方向に縮み変形可能な範囲で、一方の構造部材と他方の構造部材が互いに接近する向きに圧力を及ぼし合った状態で接合されることで、圧電材料4、5に予め圧縮力が与えられる状態になる。
【0047】
各荷重受け部2、3は前記のように主に構造部材同士の接合部(継手部を含む)であり、圧電材料4、5は接合部において異なる構造部材間に挟まれた状態で介在するが、外力の作用していない状態から、外力の作用の向きに応じて伸び変形、または縮み変形を生じ、その変形の直後に縮み変形、または伸び変形を生ずることから、外力の作用していない平常時には伸び変形と縮み変形のいずれの変形も生じ得る状態にある必要がある。
【0048】
そこで、接合部等の荷重受け部2、3を構成する一方の構造部材と他方の構造部材との間に圧電材料4、5が介在した状態で、一方の構造部材と他方の構造部材が圧電材料4、5の、外力を受ける方向である厚さ方向、もしくは軸方向の正負の向きに相対変位自在な状態に接合されていることが適切である(請求項4)。一方と他方の構造部材は前記した柱、梁、ブレース、免震装置等である。
【0049】
圧電材料4、5は両構造部材間に直接、もしくは間接的に挟み込まれる。「間接的に」とは、圧電材料4、5が直接的には構造部材に突設(接合)されるプレート等の部材に挟み込まれるようなことを言う。また請求項4における「一方の構造部材と他方の構造部材が相対変位自在な状態」とは、一方の構造部材と他方の構造部材が圧電材料4、5を挟んだ状態で、両構造部材が圧電材料4、5の厚さ方向(対向する方向)に互いに相対移動できる状態に連結されていることを言う。このことは例えば圧電材料4、5が図2−(b)に示すように一方の構造部材(鉄骨梁71)に接合されたプレート(フランジプレート8a)と他方の構造部材(鉄骨柱61)のプレート(フランジ61a)との間に挟み込まれ、両プレートが対向する方向を向くボルト9により連結される場合に、図3−(a)、(b)に示すように両プレートがボルト9の軸方向に互いに接近する向きにも、遠ざかる向きにも相対移動可能な状態にあることを言う。
【0050】
圧電材料4、5を挟み込む構造部材同士が圧電材料4、5を挟み込んだ状態で、外力の作用に応じて圧電材料4、5の厚さ方向等のいずれの向きにも相対変位可能であることで、圧電材料4、5は平常時の状態から外力の作用の向きに応じて伸び変形することも縮み変形することもできる状態にあり、伸び変形と縮み変形を交互に繰り返すことができるため、いずれの変形を生じたときにも変形量に応じた電圧を発生することが可能になる。
【0051】
圧電材料4、5が圧縮力と引張力の作用方向、すなわち圧電材料4、5の厚さ方向(軸方向)に予め圧縮力(初期圧縮力)が与えられている場合(請求項3)、外力として作用する引張力の大きさが初期圧縮力の大きさ以下であれば、例えば図2−(b)に示す対になる荷重受け部2、3の各圧電材料4、5に外力としての圧縮力が作用したときと引張力が作用したときのいずれのときにも、図6−(a)に示すように圧電材料4、5を、時刻毎に荷重の大きさが変動する圧縮力を負担した状態に置くことができる。
【0052】
厚さ方向に初期圧縮力が与えられた圧電材料4、5は想定される外力としての引張力の大きさ以上の大きさの初期圧縮力が与えられていれば、荷重受け部2、3に外力として引張力が作用し、圧電材料4、5が引張力を負担していないときにも圧縮力を負担し続ける状態になるため、図6−(b)に示すように外力として引張力が作用している間にも圧電材料4、5は電圧を発生し続けることができる。
【0053】
荷重受け部2、3に引張力が作用したときにも圧電材料4、5が圧縮力を負担し続ける状態になることで、実際に圧電材料4、5が引張力や圧縮力を負担していなくても、圧縮力を負担している場合と同じように圧縮力を負担し、電圧を発生し続けることができるため、外力として引張力が作用している間も対になる他方の圧電材料5、4に、圧縮力の負担による縮み変形分の電圧を供給することが可能になる。このことは圧電材料4、5に初期圧縮力を与えておけば、荷重受け部2、3に引張力が作用するときに、必ずしも圧電材料4、5に引張力を負担させる状態に、圧電材料4、5を荷重受け部2、3に組み込んでおく必要がないことを意味する。
【0054】
予め初期圧縮力が与えられた一方の圧電材料4(5)はその側の荷重受け部2(3)に外力としての引張力が作用しているときに、引張力を負担せずに縮み変形分の電圧を発生し続ける。その荷重受け部2(3)と対になる他方の荷重受け部3(2)における、電圧を供給される他方の圧電材料5、4は外力としての圧縮力を負担し、縮み変形しているため、予め初期圧縮力が与えられた一方の圧電材料4(5)が発生した電圧を伸び変形のために利用することができる。逆に一方の圧電材料4(5)が外力としての圧縮力を負担し、縮み変形するときに、引張力が作用する他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)に予め初期圧縮力を与えておくことで、圧縮力を負担して縮み変形している一方の圧電材料4(5)を伸び変形させるために、縮み変形し続けている他方の圧電材料5(4)が発生する電圧を利用することができる。これらの場合、荷重受け部2、3に外力が作用しているときは対になる圧電材料4、5は共に縮み変形しているため、電圧の正負を入れ替える必要はない。
【0055】
図2−(b)の例においても、上部のフランジ71aに配置された圧電材料4と下部のフランジ71aに配置された圧電材料5の双方に初期圧縮力を与えておく場合には、圧電材料4と圧電材料5が常に縮み変形して電圧を発生する状況になるため、圧電材料4、5のそれぞれが発生した電圧を、正負を入れ替えることなく互いに授受すればよいことになる。
【0056】
ある荷重受け部2、3に外力としての圧縮力と引張力が交互に作用するときの時刻毎の荷重は図4に示すように変動する。外力としての引張力が作用したときに引張力を負担できる状態にない圧電材料4、5に初期圧縮力が与えられていない場合には、圧電材料4、5は図5−(a)に示すように外力としての圧縮力が作用したときにのみ圧縮力を負担し、図5−(b)に示すように圧縮力を負担したときにのみ電圧を発生する。外力として引張力が作用したときには圧縮力を負担することはなく、引張力も負担しないため、電圧を発生することはない。
【0057】
これに対し、図2−(b)における圧電材料4、5に初期圧縮力が与えられている場合(請求項3)には、圧電材料4、5は前記のように荷重受け部2、3に外力としての圧縮力が作用しているときと引張力が作用しているときのいずれのときにも、図6−(a)に示すように大きさが時刻毎に変動する圧縮力を負担し続ける状態になる。この結果、初期圧縮力が与えられたる圧電材料4、5は図6−(b)に示すように電圧を発生し続けることができるため、電圧の発生効率が向上する。圧電材料4、5は静的荷重には応答しにくい性質があるが、荷重受け部2、3に外力としての圧縮力と引張力のいずれが作用しているときにも、圧電材料4、5が圧縮力を変動荷重として負担し続ける状態になることで、圧電材料4、5の応答性が向上するため、圧電材料4、5が発生する電圧を有効に利用することが可能である。
【0058】
このことから、図3−(a)、(b)に示すように各荷重受け部2(3)において、圧電材料4(5)を荷重受け部2(3)に黒塗りの矢印で示す圧縮力が作用したときに圧縮力を負担する圧縮抵抗部41(51)と、荷重受け部2(3)に白抜きの矢印で示す引張力が作用したときに圧縮力を負担する引張抵抗部42(52)とに分割し、圧縮抵抗部41(51)と引張抵抗部42(52)の少なくともいずれか一方に、厚さ方向に予め圧縮力(初期圧縮力)を与えておくことで(請求項7、8)、後述のように一方の荷重受け部2(3)と他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部41、51間、または引張抵抗部42、52間で互いに電圧を授受させる関係を成立させることが可能になる。
【0059】
初期圧縮力が与えられている場合の圧縮抵抗部41(51)と引張抵抗部42(52)のいずれかは外力として圧縮力が作用しているときと引張力が作用しているときのいずれのときにも、図6−(a)に示すように圧縮力を負担した状態になる。
【0060】
但し、図3−(a)〜(c)に示す例のように圧電材料4と圧電材料5をそれぞれ圧縮抵抗部41、51と引張抵抗部42、52とに分割する場合に、一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)と、他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部42(52)との間で互いに電圧を授受させる場合(請求項5、6)には、圧縮抵抗部41(51)と引張抵抗部42(52)に厚さ方向の初期圧縮力を与えておくことは必要ではない。
【0061】
図3−(a)〜(c)に示すように各荷重受け部2(3)において、圧電材料4(5)を荷重受け部2(3)に黒塗りの矢印で示す圧縮力が作用したときに圧縮力を負担する圧縮抵抗部41(51)と、荷重受け部2(3)に白抜きの矢印で示す引張力が作用したときに圧縮力を負担する引張抵抗部42(52)とに分割した場合(請求項5〜8)を考える。この場合に、圧縮抵抗部41(51)と引張抵抗部42(52)に初期圧縮力が与えられていない場合(請求項5、6)、各荷重受け部2(3)に圧縮力が作用するときと引張力が作用するときのいずれのときにも、圧縮抵抗部41(51)と引張抵抗部42(52)のいずれかが圧縮力を負担し、負担した圧縮力に応じた電圧を発生させることが可能になる。この場合、荷重受け部2(3)に圧縮力が作用したとき、圧縮抵抗部41(51)が圧縮力を負担しながら圧縮力に応じた電圧を発生し、荷重受け部2(3)に引張力が作用したときに引張抵抗部42(52)が圧縮力を負担しながら圧縮力に応じた電圧を発生する。
【0062】
図3−(a)は荷重受け部2、3を構成する一方の構造部材である鉄骨梁71に接合されたスプリットティー金物8のフランジ8aと、他方の構造部材である鉄骨柱61のフランジ61aとの間に圧縮抵抗部41(51)を介在させ、引張抵抗部42(52)をフランジ61aとナット91との間に介在させた場合の例を示している。スプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aとは両者を貫通するボルト9により接合されている。この例では荷重受け部2(3)に圧縮力が作用し、圧縮抵抗部41(51)がフランジ8aとフランジ61aから圧縮力を受けたときに、圧縮抵抗部41(51)が縮み変形して電圧を発生し、荷重受け部2(3)に引張力が作用し、引張抵抗部42(52)がフランジ61aとナット91から圧縮力を受けたときに、引張抵抗部42(52)が縮み変形して電圧を発生する。
【0063】
図3−(b)は引張抵抗部42(52)をスプリットティー金物8のフランジ8aと、その側に位置するボルト9の頭部との間に介在させた場合であり、(c)は(a)における1枚板の圧縮抵抗部41(51)を各ボルト9単位で分割した場合である。図3−(b)に示す例では荷重受け部2(3)に圧縮力が作用したときに、圧縮抵抗部41(51)がフランジ8aとフランジ61aから圧縮力を受けて縮み変形し、荷重受け部2(3)に引張力が作用したときには、引張抵抗部42(52)がボルト9の頭部とフランジ8aから圧縮力を受けて縮み変形する。
【0064】
一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が圧縮力を負担したときに発生する電圧を、対になる他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部51(41)に印加する場合(請求項5)、図7−(a)に示すように一方の荷重受け部2(3)に引張力が作用し、その一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が圧縮力を負担したときに発生する縮み変形量に応じた電圧が、圧縮力が作用している他方の荷重受け部3(2)において圧縮力を負担し、縮み変形している圧縮抵抗部51(41)に印加される。この他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部51(41)は一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を圧縮力の作用方向に生じ、この伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させる(請求項5)。
【0065】
同様に一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が圧縮力を負担したときに発生する電圧を他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部52(42)に印加する場合(請求項6)も図7−(a)に示すように一方の荷重受け部2(3)に圧縮力が作用し、その一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が圧縮力を負担したときに発生する縮み変形量に応じた電圧が、引張力が作用している他方の荷重受け部3(2)において圧縮力を負担し、縮み変形している引張抵抗部52(42)に印加される。この他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部52(42)は一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を引張力の作用方向に生じ、この伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させる(請求項6)。
【0066】
図7−(a)に示す電圧の授受の場合(請求項5、6)も、共に圧縮力を負担して縮み変形している圧縮抵抗部41(51)と引張抵抗部52(42)間で電圧を授受するため、電圧の正負を入れ替える必要はない。
【0067】
圧電材料4、5が圧縮抵抗部41、51と引張抵抗部42、52とに分割され、圧縮抵抗部41、51と引張抵抗部42、52の少なくともいずれか一方に、厚さ方向に予め圧縮力(初期圧縮力)を与えておく場合(請求項7、8)においては、圧縮抵抗部41(51)が圧縮力を負担していないときは荷重受け部2(3)に引張力が作用しているときであり、引張抵抗部42(52)が圧縮力を負担しているときである。この関係から、初期圧縮力は図7−(b)に示すように圧縮抵抗部41(51)に与えられ、この圧縮抵抗部41(51)が圧縮力を負担せずに縮み変形し続けるときの電圧は他方の荷重受け部3(2)において圧縮力を負担し、縮み変形している圧縮抵抗部41(51)に印加される(請求項7)。
【0068】
同様に引張抵抗部42(52)が圧縮力を負担していないときは荷重受け部2(3)に圧縮力が作用しているときであり、圧縮抵抗部41(51)が圧縮力を負担しているときであるから、初期圧縮力は図7−(c)に示すように引張抵抗部42(52)に与えられ、引張抵抗部42(52)が圧縮力を負担せずに縮み変形し続けるときの電圧は他方の荷重受け部3(2)において圧縮力を負担し、縮み変形している引張抵抗部45(42)に印加される(請求項8)。
【0069】
請求項7では図7−(b)に示すように一方の荷重受け部2(3)に引張力が作用し、圧縮力を負担せずに縮み変形し続ける圧縮抵抗部41(51)が発生する縮み変形量に応じた電圧が他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部51(41)に印加される。他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部51(41)は一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を他方の荷重受け部3(2)に作用している外力としての圧縮力の作用方向に生じ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させる。
【0070】
図7−(b)に示すように一方の荷重受け部2(3)に引張力が作用し、引張抵抗部42(52)が外力としての引張力により圧縮力を負担し、縮み変形しているとき、一方の圧縮抵抗部41(51)は図6−(a)に示すように初期圧縮力により圧縮された状態にあり、縮み変形中であるから、(b)に示すように電圧を発生し続けている。他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部51(41)は一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が発生した電圧が印加されることで、伸び変形を生じ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に生じさせる(請求項7)。図3−(a)〜(c)の例では圧縮抵抗部51(41)の伸び変形は収縮しているスプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aとの間の距離を拡大しようとする。
【0071】
請求項8では図7−(c)に示すように一方の荷重受け部2(3)に圧縮力が作用し、圧縮力を負担せずに縮み変形し続ける引張抵抗部42(52)が発生する縮み変形量に応じた電圧が他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部52(42)に印加される。他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部52(42)は一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を他方の荷重受け部3(2)に作用している外力としての引張力の作用方向に生じ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させる。
【0072】
図7−(c)に示すように一方の荷重受け部2(3)に圧縮力が作用し、圧縮抵抗部41(51)が外力としての圧縮力をそのまま負担し、縮み変形しているとき、一方の引張抵抗部42(52)は初期圧縮力により圧縮された状態にあり、縮み変形中であるから、電圧を発生し続けている。他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部52(42)は一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が発生した電圧が印加されることで、伸び変形を生じ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に生じさせる(請求項8)。図3−(a)、(c)の例では引張抵抗部52(42)の伸び変形は収縮しているフランジ61aとナット91との間の距離を拡大しようとする。図3−(b)の例では引張抵抗部52(42)の伸び変形は収縮しているボルト9頭部とフランジ8aとの間の距離を拡大しようとする。
【発明の効果】
【0073】
対になる圧電材料の内、一方の圧電材料が構造物の振動に伴って伸び変形、または縮み変形したときに発生する電圧を、縮み変形、または伸び変形している他方の圧電材料に印加し、他方の圧電材料を伸び変形、または縮み変形させるために利用し、他方の圧電材料に、受けている外力の向きに抵抗する向きの変形を生じさせるため、他方の荷重受け部に作用している外力を相殺させ、軽減することができる。他方の圧電材料が発生した電圧を一方の圧電材料に印加する場合には、対になる圧電材料が互いに外力を相殺する向きの変形を他方側の圧電材料が発生した電圧から生じさせられるため、より効果的に対になる荷重受け部に作用する外力を軽減し、構造物の揺れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】構造物に外力(水平力)が作用して引張力を受けた圧電材料が発生した電圧を反転回路に出力し、反転回路から出力された電圧を、圧縮力を受けた圧電材料に印加し、圧縮力を受けた圧電材料に圧縮力に対する反力を発生させる様子を示した概念図である。
図2】(a)は荷重受け部が圧縮力と引張力を交互に受けるフレームの梁と柱との接合部である場合に、梁の上端部に引張力が作用し、下端部に圧縮力が作用しているときの様子を示した立面図、(b)は(a)における梁が特に鉄骨梁である場合の梁と圧電材料との関係を示した(a)における破線円部分の拡大図である。
図3】(a)、(b)は荷重受け部を構成する一方の構造部材である梁と他方の構造部材である柱が圧電材料の厚さ方向の正負の向きに相対変位自在な状態に接合されている様子を示した図2−(b)の拡大断面図であり、(a)は一方と他方の圧電材料を鉄骨梁のフランジに接合されたスプリットティー金物と鉄骨柱のフランジとの間、及び鉄骨柱フランジとナットとの間に介在させた場合、(b)は一方と他方の圧電材料をスプリットティー金物と鉄骨柱のフランジとの間、及びスプリットティー金物とボルト頭部との間に介在させた場合である。(c)は図3−(a)における1枚の圧縮抵抗部を複数個の圧縮抵抗部に分割した場合の例を示した断面図である。
図4】圧電材料に初期圧縮力が与えられていない場合に、時間の経過に伴い、圧電材料に外力としての圧縮力と引張力が交互に作用する様子を示したグラフである。
図5】(a)は圧縮力の負担時に電圧を発生する圧電材料に図4に示す外力が作用したときに圧縮力の作用時にのみ圧縮力を負担している様子を示したグラフ、(b)は(a)に示す圧電材料が圧縮力の負担時にのみ電圧を発生している様子を示したグラフである。
図6】(a)は初期圧縮力が与えられている圧電材料に図4に示す外力が作用したときに圧縮力と引張力の作用時のいずれのときにも圧縮力を負担している様子を示したグラフ、(b)は(a)に示す圧電材料が外力としての圧縮力と引張力が作用しているときのいずれのときにも電圧を発生している様子を示したグラフである。
図7】(a)は対になる荷重受け部の圧縮抵抗部と引張抵抗部間での電圧の授受の様子を示した概要図、(b)は対になる荷重受け部の圧縮抵抗部間での電圧の授受の様子を示した概要図、(c)は対になる荷重受け部の引張抵抗部間での電圧の授受の様子を示した概要図である。
図8】荷重受け部が圧縮力と引張力を交互に受けるブレースとフレームとの接合部である場合のブレースと圧電材料の関係を示した立面図である。
図9】(a)は構造物が免震装置を介して上部構造と下部構造とに区分される場合に、荷重受け部が上部構造と下部構造との間に設置される免震装置と上部構造、もしくは下部構造との接合部である場合の免震装置と圧電材料の関係を示した立面図、(b)は(a)における免震装置部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
図1は構造物20が水平力を受けたときに引張力と圧縮力が交互に繰り返して作用し、一方に引張力が作用するときに他方に圧縮力が作用する関係にある、対になる荷重受け部2、3において、一方の荷重受け部2(3)と他方の荷重受け部3(2)のそれぞれに組み込まれ、水平力の作用時に引張力と圧縮力を厚さ方向の圧力として負担する圧電材料(圧電素子)4、5を備えた制震装置1が外力を受けたときの、対になる圧電材料4、5に作用する外力と変形の関係を示す。制震装置1は負担する力の向きが互いに相違する、対になる圧電材料4、5の組み合わせからなる。圧電材料4、5には水晶、圧電セラミックス等が使用される。
【0076】
対になる荷重受け部2、3は一方の荷重受け部2に引張力が作用するときに、他方の荷重受け部3に圧縮力が作用する関係にあればよく、対になる荷重受け部2、3の構造物20内、あるいは構造物20外における部位は特定されない。制震装置1は図1等に示す建築構造物の他、橋梁の橋脚と橋桁との接合部等にも適用可能であるため、構造物20は土木構造物も含まれる。
【0077】
対になる荷重受け部2、3の内、一方の荷重受け部2(3)に引張力、または圧縮力が作用したときに、その一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)はそれが負担する厚さ方向の圧力に応じ、伸び変形量、または縮み変形量に応じた電圧を発生する。この一方の圧電材料4(5)が発生する電圧はそのまま、または正負が入れ替わった状態で他方の、圧縮力、または引張力が作用している荷重受け部3(2)の、縮み変形、または伸び変形している圧電材料5(4)に印加される。一方の圧電材料4(5)が発生した電圧は両端の正極と負極を維持したまま、または反転増幅器(反転増幅回路)等の反転回路10を経由することで、正極と負極が入れ替えられた状態で、他方の圧電材料5(4)に印加される。
【0078】
一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が一方の荷重受け部2(3)に作用する引張力を負担して伸び変形したときに発生する電圧を、他方の荷重受け部3(2)の縮み変形している圧電材料5(4)に印加する場合のように、電圧を発生する圧電材料4(5)の変形と電圧が印加される圧電材料5(4)の変形が逆、すなわち一方の圧電材料4(5)が伸び変形(縮み変形)を生じ、他方の圧電材料5(4)が縮み変形(伸び変形)を生ずる場合には、一方の圧電材料4(5)が発生した電圧は正極と負極が入れ替えられて他方の圧電材料5(4)に印加される。
【0079】
一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が一方の荷重受け部2(3)に作用する引張力を圧縮力として負担し、縮み変形したときに発生する電圧を他方の荷重受け部3(2)の縮み変形している圧電材料5(4)に印加する場合のように、電圧を発生する圧電材料4(5)の変形と電圧が印加される圧電材料5(4)の変形が同一の場合、すなわち両圧電材料4、5が共に縮み変形の場合、または共に伸び変形の場合には、一方の圧電材料4(5)が発生した電圧は正極と負極が入れ替えられることなく、他方の圧電材料5(4)に印加される。
【0080】
他方の圧電材料5(4)は一方の圧電材料4(5)が発生し、正負極を維持したまま、または正負極が反転して印加された電圧に応じた伸び変形、または縮み変形を現在、受けている圧縮力、または引張力の作用方向に生じ、この伸び変形量、または縮み変形量に応じた反力を圧縮力に対する押し返す力、または引張力に対する引き寄せる力として他方の荷重受け部3(2)に作用させる。反力は外力としての圧縮力、または引張力の作用の向きとは逆向きに作用するため、外力に対する抵抗力になり、外力を低減(相殺)する。
【0081】
図2−(a)は対になる荷重受け部2、3が柱6と梁7からなるフレームにおける、一方の構造部材である梁7と他方の構造部材である柱6との接合部であり、一方の荷重受け部2が梁7の上端部と柱6との接合部で、他方の荷重受け部3が梁7の下端部と柱6との接合部である場合の、外力と各荷重受け部2、3における圧電材料4、5に生ずる変形の様子を示す。一方の荷重受け部2と他方の荷重受け部3は便宜的に区別されているだけであり、ある時点で圧縮力を受ける荷重受け部2と引張力を受ける荷重受け部3の外力の負担状態は交互に入れ替わるから、一方の荷重受け部2が圧縮力を受けた直後には引張力を受け、他方の荷重受け部3が引張力を受けた直後には圧縮力を受ける状態になる。図2−(a)の具体例を(b)に示す。
【0082】
図2−(b)は特に柱6と梁7が共に鉄骨であり、一方の荷重受け部2が構造部材としての鉄骨梁71の上部のフランジ71aと、構造部材としての鉄骨柱61のフランジ61aとの接合部であり、他方の荷重受け部3が鉄骨梁71の下部のフランジ71aと鉄骨柱61のフランジ61aとの接合部である場合の具体例を示している。
【0083】
ここでは鉄骨梁71の上部と下部のフランジ71a、71aの端部に接合金物としてのスプリットティー金物8を接合し、このスプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aとの間に圧電材料4、5を介在させている。スプリットティー金物8はウェブ8bにおいて鉄骨梁71のフランジ71aにボルト等により接合されるが、鉄骨柱61のフランジ61aとの間には圧電材料4、5が介在することから、鉄骨柱61のフランジ61aにはスプリットティー金物8のフランジ8aとフランジ61aを貫通するボルト9を用いて接合している。ボルト9は圧電材料4、5も貫通する。
【0084】
ここで、スプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aとの間に介在する圧電材料4、5が柱・梁の接合部に作用する曲げモーメントによる引張力を受けて伸び変形を生じ、圧縮力を受けて縮み変形を生じ得るよう、スプリットティー金物8のフランジ8aは鉄骨柱61のフランジ61aに対しては、圧電材料4、5の厚さ方向の変形量を見込んだ距離分程度、鉄骨梁71の軸方向に相対変位可能な状態に接合される。詳しくは図3−(a)、(b)に示すように圧電材料4、5がスプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aとの間に挟まれた状態から、更にスプリットティー金物8のフランジ8aが鉄骨柱61のフランジ61aに接近する向きと遠ざかる向きに変位可能な状態に、フランジ8aがフランジ61aに接合される。
【0085】
図2図3に示す例では圧電材料4、5はスプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aとの間に鉄骨梁71の軸方向に直接、もしくは間接的に介在した状態にある。これらの例では、原則として図2に示すように構造物20の振動開始と同時に引張力を受けるいずれか一方の荷重受け部2の圧電材料4が鉄骨梁6の軸方向に伸び変形を生じ、伸び変形量に応じた電圧を発生する。この場合、引張力を受けた荷重受け部2の圧電材料4に生ずる変形(伸び変形)と、圧縮力を受けた荷重受け部3の圧電材料5に生ずる変形(縮み変形)は逆であるため、伸び変形を生じた圧電材料4の電圧は正負が入れ替えられて他方の荷重受け部3において外力として圧縮力を受けて収縮している圧電材料5に印加される。
【0086】
伸び変形した一方の圧電材料4(5)が発生した電圧を縮み変形した他方の圧電材料5(4)に印加する際、または縮み変形した他方の圧電材料5(4)が発生した電圧を伸び変形した一方の圧電材料4(5)に印加する際には、電圧の向きを入れ替える必要があるため、一方の圧電材料4(5)の電圧の正負を入れ替えて他方の圧電材料5(4)に印加するために、一方の圧電材料4(5)と他方の圧電材料5(4)には電圧の向きを変換する、反転増幅器(反転増幅回路)等の反転回路10が接続される。電圧を発生した圧電材料4(5)の、外力の作用方向の両面側に接続された正負の電極を反転回路10の正負の入力端子にそれぞれ接続することで、圧電材料4(5)が発生した電圧の正負が反転回路10で入れ替えられる。
【0087】
この場合、一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)は鉄骨梁71の軸方向に伸び変形したときに、鉄骨梁71の軸方向(負担する引張力の作用方向)の両面間に電位差(電圧)を発生し、この電位差が反転回路10の正負の入力端子に加えられる。反転回路10の出力端子からは入力電圧と同じ大きさの、逆向きの電圧が出力され、この電圧が他方の荷重受け部3(2)の縮み変形している圧電材料5(4)の、鉄骨梁71軸方向(負担する圧縮力の作用方向)の両面間に加えられる。
【0088】
図2−(a)に示す時点で、いずれか一方の荷重受け部2の圧電材料4が引張力を受けて伸び変形したときには、同時に他方の荷重受け部3の圧電材料5が圧縮力を受けて縮み変形しているため、他方の圧電材料5は縮み変形量に応じた電圧を発生している。この他方の圧電材料5が発生した電圧を、伸び変形をしている一方の圧電材料4を縮み変形させるために利用する場合には、他方の圧電材料5が発生した電圧を一方の荷重受け部2の圧電材料4に印加するために、図2−(b)に示すように他方の荷重受け部3の圧電材料5と一方の荷重受け部2の圧電材料4との間にも反転回路11が接続される。
【0089】
図2−(b)において外力として圧縮力を受け、鉄骨梁6の軸方向に縮み変形している、他方の荷重受け部3の圧電材料5に、引張力を受け、伸び変形量に応じた電圧を発生した一方の荷重受け部2の圧電材料4の両面間の電圧が印加されることで、他方の荷重受け部3の圧電材料5は鉄骨梁71の軸方向に電圧分の伸び変形を生じ、外力としての圧縮力に対する抵抗力を発生する。外力の圧縮力に対する抵抗力は外力に対し、押し返す力として作用し、圧縮力を軽減するため、外力として作用する圧縮力による荷重受け部5の、鉄骨梁71の軸方向の変形量は実際の圧縮力に伴って生ずる変形量より小さくなる。
【0090】
特に図2−(b)に示すように一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が発生した電圧を他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)に加える反転回路10と、他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)が発生した電圧を一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)に加える反転回路11が圧電材料4、5間に接続された場合には、外力の作用の向きに関係なく、対になる圧電材料4、5のいずれか一方に生ずる伸び変形による電圧を他方の圧縮力に対する抵抗力として利用し、他方に生ずる縮み変形による電圧を一方の引張力に対する抵抗力として利用することが可能になる。
【0091】
この場合、一方の圧電材料4(5)が発生した電圧が他方の圧電材料5(4)に加えられると同時に、他方の圧電材料5(4)が発生した電圧が一方の圧電材料4(5)に加えられる状態になるため、両荷重受け部2、3において外力(水平力)の作用と同時に外力の圧縮力を軽減する反力を発生させ、構造物20の振動を早期に減衰させることが可能になる。
【0092】
図3−(a)、(b)は図2−(b)の具体例として荷重受け部2、3を構成する一方の構造部材である梁7(鉄骨梁71)と他方の構造部材である柱6(鉄骨柱61)を圧電材料4、5の厚さ方向の正負の向きに相対変位自在な状態に接合した場合の具体例を示す。図2−(b)は鉄骨梁71のフランジ71aと鉄骨柱61のフランジ61aを、スプリットティー金物8を介して間接的に接合した場合の例を示しているが、図3では特にスプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aを、圧電材料4、5の厚さ方向(軸方向)に互いに相対移動できる状態にボルト9により連結した様子を示している。
【0093】
具体的にはスプリットティー金物8のフランジ8aと鉄骨柱61のフランジ61aとの間に架設されるボルト9の軸部を鉄骨柱61のフランジ61aに、ボルト9の軸方向に相対移動自在に挿通させ、ボルト9の頭部をフランジ8aとフランジ61aの一方に、対向する面の外側に係止させると共に、ボルト9の軸部に螺合するナット91を他方に、対向する面の外側に係止させている。その上で、図3−(a)では圧電材料4、5をフランジ8aとフランジ61aとの間、及びフランジ61aとナット91、もしくはボルト9の頭部との間に介在させている。
【0094】
図3−(a)、(b)に示す例では各荷重受け部2、3が圧縮力を受けるときと引張力を受けるときのいずれのときにも圧電材料4、5が圧縮力を負担するよう、荷重受け部2、3が圧縮力を受けるときにその圧縮力を負担する圧縮抵抗部41、51と、荷重受け部2、3が引張力を受けるときにその引張力を圧縮力として負担する引張抵抗部42、52とに分割している。引張抵抗部42、52は荷重受け部2、3が引張力を受けるときに厚さ方向に圧縮力を負担することによりその引張力に抵抗する。
【0095】
この場合、圧縮抵抗部41、51はフランジ8aとフランジ61aとの間に介在させられ、引張抵抗部42、52は図3−(a)に示すようにフランジ61aとナット91との間、もしくは(b)に示すようにフランジ8aとボルト9の頭部との間に介在させられ、圧縮抵抗部41、51と引張抵抗部42、52はいずれも、厚さ方向に圧縮力を負担したときに電圧を発生する状態に荷重受け部2、3に組み込まれる。図3−(a)に破断した断面で示すようにスプリットティー金物8のフランジ8aと柱6のフランジ61aを貫通するボルト9はフランジ61aを軸方向に相対移動自在に挿通し、フランジ8aはフランジ61aに対してボルト9の軸方向に相対移動自在な状態にある。
【0096】
図3図2)の例では鉄骨梁71の上部のフランジ71a側の荷重受け部2は黒塗りの矢印で示す、上部のフランジ71aが鉄骨柱61に接近する向きの相対変位が生じたときに圧縮力を受け、白抜きの矢印で示す、遠ざかる向きの相対変位が生じたときに引張力を受ける。鉄骨梁71の下部のフランジ71a側の荷重受け部3も同様に下部のフランジ71aが鉄骨柱61に接近する向きの相対変位が生じたときに圧縮力を受け、遠ざかる向きの相対変位が生じたときに引張力を受ける。
【0097】
フランジ61aとナット91との間に介在させられた図3−(a)に示す引張抵抗部42、52と、フランジ8aとボルト9の頭部との間に介在させられた図3−(b)に示す引張抵抗部42、52はいずれも、荷重受け部2、3が引張力を受けてフランジ8aがフランジ61aから遠ざかる向きに相対移動したときに圧縮力を負担する状態にある。よって図3−(a)、(b)に示す例の場合、圧縮抵抗部41、51は荷重受け部2、3が圧縮力を受けたときに圧縮力を負担することにより縮み変形して縮み変形量に応じた電圧を発生し、引張抵抗部42、52は荷重受け部2、3が引張力を受けたときに圧縮力を負担することにより縮み変形して縮み変形量に応じた電圧を発生する。
【0098】
図3−(a)、(b)に示す例の場合に、対になる荷重受け2、3の圧電材料4と圧電材料5との間で電圧の授受をする場合には、図7−(a)に示すように引張力を受けた一方の荷重受け部2において圧縮力を負担している引張抵抗部42が発生した電圧が圧縮力を受けた他方の荷重受け部3において圧縮力を負担し、縮み変形している圧縮抵抗部51に印加される。同時に他方の荷重受け部3において圧縮力を負担している圧縮抵抗部51が発生した電圧が引張力を受けた一方の荷重受け部2において圧縮力を負担し、縮み変形している引張抵抗部42に印加される(請求項5)。この場合、他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部41(51)は一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を圧縮力の作用方向に生じ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させる(請求項5)。
【0099】
同様に圧縮力を受けた一方の荷重受け部2において圧縮力を負担している圧縮抵抗部41が発生した電圧が引張力を受けた他方の荷重受け部3において圧縮力を負担し、縮み変形している引張抵抗部52に印加され、同時に他方の荷重受け部3において圧縮力を負担している引張抵抗部52が発生した電圧が圧縮力を受けた一方の荷重受け部2において圧縮力を負担し、縮み変形している圧縮抵抗部41に印加される(請求項6)。この場合、他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部42(52)は一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を引張力の作用方向に生じ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させる(請求項6)。
【0100】
これらの場合、電圧の授受をする引張力を受けた荷重受け部2の圧電材料4(引張抵抗部42)に生ずる変形(縮み変形)と、圧縮力を受けた荷重受け部3の圧電材料5(圧縮抵抗部51)に生ずる変形(縮み変形)が同一であり、圧縮力を受けた荷重受け部2の圧電材料4(圧縮抵抗部41)に生ずる変形(縮み変形)と、引張力を受けた荷重受け部3の圧電材料5(引張抵抗部52)に生ずる変形(縮み変形)が同一であるため、一方と他方の圧電材料4、5が発生する電圧をそれぞれ他方と一方の圧電材料5、4に印加する際には、各圧電材料4、5が発生した電圧の正負を入れ替える必要はない。
【0101】
なお、図3−(a)に示す例ではボルト9の頭部をスプリットティー金物8のフランジ8aに溶接等により固定しておき、引張抵抗部42、52の厚さ方向両面を鉄骨柱61のフランジ61aとナット91に接着しておけば、荷重受け部2、3に圧縮力が作用したときに、引張抵抗部42、52に厚さ方向に引張力を作用させ、伸び変形を生じさせることはできる。同様に図3−(b)に示す例の引張抵抗部42、52の厚さ方向両面をフランジ8aとボルト9の頭部に接着しておけば、荷重受け部2、3に圧縮力が作用したときに、引張抵抗部42、52に厚さ方向に引張力を作用させ、伸び変形を生じさせることはできる。
【0102】
図3−(a)、(b)に示す例ではまた、一方の荷重受け部2に配置された圧電材料である圧縮抵抗部41と引張抵抗部42、及び他方の荷重受け部3に配置された圧電材料である圧縮抵抗部51と引張抵抗部52の少なくともいずれかに予め厚さ方向に圧縮力(初期圧縮力)を付与しておくことで、図6−(a)に示すように荷重受け部2、3のそれぞれに圧縮力が作用したときばかりでなく、引張力が作用したときにも、全圧電材料41、42、51、52に圧縮力を負担させた状態に置くことができ、図6−(b)に示すように荷重受け部2、3圧縮力が作用したときと引張力が作用したときのいずれのときにも、電圧を発生し続けさせることができる。
【0103】
具体的には圧電材料4(5)を荷重受け部2(3)に圧縮力が作用したときに圧縮力を負担する圧縮抵抗部41(51)と、荷重受け部2(3)に引張力が作用したときに圧縮力を負担する引張抵抗部42(52)とに分割し、圧縮抵抗部41(51)に厚さ方向に予め圧縮力(初期圧縮力)を与えておくことができる(請求項7)。この場合、図7−(b)に実線の矢印で示すように一方の荷重受け部2(3)に引張力が作用し、他方の荷重受け部3(2)に圧縮力が作用したときに、一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が初期圧縮力により発生する縮み変形量に応じた電圧を他方の荷重受け部3(2)の圧縮抵抗部51(41)に印加し、他方の圧縮抵抗部51(41)に一方の荷重受け部2(3)の圧縮抵抗部41(51)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を圧縮力の作用方向に生じさせ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させることができる。
【0104】
図7−(b)に示す時点の次の時点には破線の矢印で示すように一方の荷重受け部2(3)に圧縮力が作用し、他方の荷重受け部3(2)に引張力が作用するため、一方の荷重受け部2(3)と他方の荷重受け部3(2)の両圧縮抵抗部41、51に初期圧縮力を与えておけば、各荷重受け部2、3の圧縮抵抗部41、51に常に電圧を発生させ、それぞれの電圧を互いに対になる側の圧縮抵抗部51、41の反力の発生に利用する状態を得ることができる。
【0105】
同様に圧電材料4(5)を荷重受け部2(3)に圧縮力が作用したときに圧縮力を負担する圧縮抵抗部41(51)と、荷重受け部2(3)に引張力が作用したときに圧縮力を負担する引張抵抗部42(52)とに分割し、引張抵抗部42(52)に厚さ方向に予め圧縮力(初期圧縮力)を与えておくことができる(請求項8)。この場合、図7−(c)に実線の矢印で示すように一方の荷重受け部2(3)に圧縮力が作用し、他方の荷重受け部3(2)に引張力が作用したときに、一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が初期圧縮力により発生する縮み変形量に応じた電圧を他方の荷重受け部3(2)の引張抵抗部52(42)に印加し、他方の引張抵抗部52(42)に一方の荷重受け部2(3)の引張抵抗部42(52)が発生し、印加された電圧に応じた伸び変形を引張力の作用方向に生じさせ、伸び変形量に応じた反力を他方の荷重受け部3(2)に作用させることができる。
【0106】
図7−(c)に示す時点の次の時点には破線の矢印で示すように一方の荷重受け部2(3)に引張力が作用し、他方の荷重受け部3(2)に圧縮力が作用するため、一方の荷重受け部2(3)と他方の荷重受け部3(2)の両引張抵抗部42、52に初期圧縮力を与えておけば、各荷重受け部2、3の引張抵抗部42、52に常に電圧を発生させ、それぞれの電圧を互いに対になる側の引張抵抗部52、42の反力の発生に利用する状態が得られる。
【0107】
圧電材料4、5に初期圧縮力を与えておくことにより荷重受け部2、3に圧縮力と引張力が作用したときに圧電材料4、5に電圧を発生し続けさせることは、図2−(b)の例でも可能である。図2−(b)における一方の荷重受け部2の圧電材料4と他方の荷重受け部3の圧電材料5に共に初期圧縮力を付与しておくことで、両荷重受け部2、3に圧縮力と引張力が作用するときのいずれのときにも、両圧電材料4、5に常に変動する圧縮力を負担させることができるため、両圧電材料4、5が共に圧縮力を負担して電圧を発生する状況を形成することができる。その場合、電圧の授受をし合う両圧電材料4、5が共に縮み変形を生ずるため、一方の圧電材料4(5)が発生する電圧を他方の圧電材料5(4)の伸び変形に利用するために電圧の向きを入れ替える必要がないため、図2−(b)中の反転回路10、11は不要になる。
【0108】
図8は対になる荷重受け部2、3が柱6と梁7からなるフレーム内に架設される、一方の構造部材であるブレース12と他方の構造部材であるフレームのいずれかの部分との接合部である場合の例を示す。
【0109】
図8ではフレーム内に対になる状態で架設される2本のブレース12、12の各フレームとの接合部が圧縮力と引張力を交互に受ける荷重受け部2、3となるよう、梁7の軸方向中央部の下面側にブラケット13を突設し、ブラケット13と各ブレース12の端面に固定されたエンドプレート14との間に圧電材料4、5を介在させている。この場合、圧電材料4、5はブレース12とフレーム間に、ブラケット13とエンドプレート14を介して間接的に挟み込まれる形になる。フレーム内に対になる状態で架設される2本のブレース12、12は一方のブレース12が圧縮力を負担するときに、他方のブレース12が引張力を負担する状態にあればよいため、図3に示すようなK型の架設状態には限らず、X型に互いに交差した状態で架設されることもある。
【0110】
図8の例では対になる荷重受け部2、3はフレームを構成する上側の梁7の中央部に突設されたブラケット13に接合される2本のブレース12、12の内、一方のブレース12の接合部と他方のブレース12の接合部になる。下側の梁7の柱6、6との接合部(隅角部)に接合された一方のブラケット13とその側のブレース12の下端部との接合部と、他方のブラケット13とその側のブレース12の下端部との接合部も対になる荷重受け部2、3になる。
【0111】
図8に示す例の場合、圧電材料4、5はエンドプレート14とブラケット13との間にブレース12の軸方向に直接、もしくは間接的に介在した状態にあり、構造物20が振動の開始と同時に引張力を受けるいずれか一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)がブレース12の軸方向に伸び変形を生じ、伸び変形量に応じた電圧を発生する。伸び変形を生じた圧電材料4(5)の電圧は反転回路10を経ることで逆向きに変換されて他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)に印加される。
【0112】
構造物20が振動の開始と同時に圧縮力を受ける他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)はブレース12の軸方向に縮み変形し、縮み変形量に応じた電圧を発生するが、この他方の圧電材料5(4)が発生した電圧を、伸び変形を起こしている一方の圧電材料4(5)を縮み変形させるために利用する上では、他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)と一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)との間にも反転回路11が接続される。
【0113】
この例ではブラケット13の、エンドプレート14側の縁にエンドプレート14に対向するプレートが接合され、このプレートとエンドプレート14との間に圧電材料4、5が介在する。この場合も、エンドプレート14とブラケット13(プレート)との間に介在する圧電材料4、5が平常状態からブレース12に作用する軸方向力による引張力を受けたときに伸び変形を生じ、また圧縮力を受けたときにて縮み変形を生じ得るよう、図3に示す例と同様にエンドプレート14はブラケット13(プレート)に対し、ブレース12の軸方向に相対変位可能な状態に接合される。
【0114】
図9−(a)は構造物20が積層ゴム支承等、構造物20の振動時に鉛直方向の軸方向力が作用する形態の免震装置15、16を挟んで上部構造17と下部構造18とに区分された場合の圧電材料4、5の設置例を示す。この例では構造物20の振動時に鉛直方向の圧縮力を負担するいずれかの免震装置15と、鉛直方向の引張力を負担する他のいずれかの免震装置16が組になり、各免震装置15、16とそれぞれに対向する上部構造17との接合部が対になる荷重受け部2、3になり、各免震装置15、16とそれぞれに対向する下部構造18との接合部も対になる荷重受け部2、3になる。この場合、上部構造17と免震装置15(16)が荷重受け部2(3)を構成する一方と他方の構造部材になり、下部構造18と免震装置16(15)も荷重受け部3(2)を構成する一方と他方の構造部材になる。
【0115】
免震装置15、16は上下に一体化するフランジにおいて上部構造17と下部構造18に接合されるが、図9−(b)に示すようにこの上部フランジと上部構造17との間と、下部フランジと下部構造18との間の少なくともいずれか一方に圧電材料4、5が鉛直方向に圧縮力を受けた状態で介在させられる。
【0116】
図9の例では構造物20が外力(水平力)を受けて水平方向の一方側へ揺れたときに、上部構造17が下部構造18から浮き上がろうとする側の免震装置15のフランジと上部構造17、もしくは下部構造18との間に介在する圧電材料4が鉛直方向(免震装置15の軸方向)の引張力を負担し、上部構造17が沈み込もうとする側の免震装置16のフランジと上部構造17、もしくは下部構造18との間に介在する圧電材料5が鉛直方向(免震装置16の軸方向)の圧縮力を負担する。
【0117】
この場合も、免震装置15、16のフランジと上部構造17、もしくは下部構造18との間に介在する圧電材料4、5が構造物20に作用する水平力に伴って免震装置15、16に軸方向に作用する軸方向力による引張力を受けて伸び変形を生じ、圧縮力を受けて縮み変形を生じ得るよう、図3に示す例と同様に免震装置15、16のフランジは上部構造17、もしくは下部構造18に対し、免震装置15、16の軸方向に相対変位可能な状態に接合される。
【0118】
引張力を負担し、伸び変形を生じた一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)が発生した電圧は反転回路10を経て圧縮力を負担し、縮み変形を生じた他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)に逆向きの電圧として印加されることで、この圧電材料5(4)が伸び変形を生じ、圧縮力に対する抵抗力を発生する。
【0119】
一方の荷重受け部2(3)が引張力を受けたときに圧縮力を受ける他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)は縮み変形による電圧を発生しているため、この電圧を一方の荷重受け部2(3)の、伸び変形している圧電材料4(5)を縮み変形させる目的で利用するために、他方の荷重受け部3(2)の圧電材料5(4)と一方の荷重受け部2(3)の圧電材料4(5)との間にも反転回路11が接続される。
【符号の説明】
【0120】
1……制震装置、20……構造物、
2……荷重受け部、3……荷重受け部、
4……圧電材料(一方の荷重受け部2)、41……圧縮抵抗部、42……引張抵抗部、
5……圧電材料(他方の荷重受け部3)、51……圧縮抵抗部、52……引張抵抗部、
6……柱、61……鉄骨柱、61a……フランジ、
7……梁、71……鉄骨梁、71a……フランジ、
8……スプリットティー金物、8a……フランジ、8b……ウェブ、
9……ボルト、91……ナット、
10……反転回路、11……反転回路、
12……ブレース、13……ブラケット、14……エンドプレート、
15……免震装置、16……免震装置、
17……上部構造、18……下部構造。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9