【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・平成25年5月13日,米国の法人「SAE;Society of Automotive Engineers,Inc.」が頒布する「SAE Int.J.Passeng.Cars‐Mech.Syst.,Volume 6,Issue 2(July 2013)」にて論文発表。 ・平成25年5月23日,米国の法人「SAE;Society of Automotive Engineers,Inc.」が開催する集会「SAE 2013,Noise and Vibration Conference and Exhibition」,場所「DeVos Place Convention Center Grand Rapids,Michigan,USA」にて発表。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記横曲げモードに加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれかのモードの固有振動数を算出するための演算式データを含む、請求項1又は2に記載のタイヤの物理量算出装置。
前記演算式データと物理パラメータとに基づき算出される固有振動数の演算値と、予め計測された固有振動数の実測値との誤差をパラメータの一つとして含む目的関数の値が最小値となるように、最適化手法を用いて前記物理パラメータを算出する最適化実行部を備える、請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤの物理量算出装置。
前記目的関数は、横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードの少なくともいずれか1つのモードにおける固有振動数の演算値と実測値の誤差をパラメータの一つとして更に含む、請求項4に記載のタイヤの物理量算出装置。
前記横曲げモードの固有振動数の算出に加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれか1つのモードの固有振動数を算出する、請求項6又は7に記載のタイヤの物理量算出方法。
前記物理パラメータを設定するステップ及び前記固有振動数を算出するステップを繰り返し行うことにより、前記演算式データと物理パラメータとに基づき算出される固有振動数の演算値と、予め計測された固有振動数の実測値との誤差をパラメータの一つとして含む目的関数の値が最小値となるように、最適化手法を用いて前記物理パラメータを算出する、請求項6〜8のいずれかに記載のタイヤの物理量算出方法。
前記目的関数は、前記横曲げモードに加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれか1つのモードにおける固有振動数の演算値と実測値の誤差をパラメータの一つとして更に含む、請求項9に記載のタイヤの物理量算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1,2に例示するようなタイヤ力学モデルを用いてタイヤ振動問題を取り扱う研究では、タイヤの径方向モードの振動が主に取り上げられており、タイヤ横方向(幅方向)については述べられていない。すなわち、タイヤ力学モデルを用いて、横曲げモードを表現するモデルについては論じられていない。
【0006】
一方、タイヤ力学モデル以外のタイヤ物理モデルとしては、タイヤを複数の要素に分割して表現する有限要素モデルが知られている。近年は、計算機の発達に伴いCAE(Computer Aided Engineering)の利用が普及しており、タイヤの振動解析には有限要素モデルがよく利用される。しかしながら、有限要素モデルを用いた振動解析では振動を可視化できるが、計算コストが膨大であるという問題があることに加えて、振動形状や固有振動数の決定要因が明確にならないという問題がある。
【0007】
そのため、タイヤ各部の物理パラメータと振動現象の発生メカニズムとの因果関係を明らかにするためには、タイヤ力学モデルによって横曲げモードを含むあらゆる振動モードを表現できることが好ましい。しかし、そのような力学モデルは提案されていない。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、低計算コストであって、タイヤの横曲げモードを含む振動を表現可能なモデルを構築し、当該モデルを用いたタイヤの物理量算出装置、方法及びコンピュータプログラムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0010】
すなわち、本発明のタイヤの物理量算出装置は、タイヤ力学モデルの物理パラメータを演算式の入力値とし横曲げモードの固有振動数を算出するために必要な演算式データを記憶する記憶部と、予め設定された前記物理パラメータを入力値として、前記演算式データに基づき前記横曲げモードの固有振動数を算出する演算部と、を備え、前記演算式データは、トレッド部を円筒状のトレッドリングとし、サイドウォール部を前記トレッドリングの両端とホイールを接続する一対のサイドウォールバネと定義したタイヤ力学モデルにおいて、前記トレッドリングに生じる歪みが0であるという条件を満たす前記トレッドリングの振動を表す変位関数と、前記モデルから得られる運動エネルギー及びポテンシャルエネルギーと、を用いてレイリー法を適用することで導出された固有振動数の演算式を前記演算部に演算させるデータであることを特徴とする。
【0011】
本発明のタイヤの物理量算出方法は、コンピュータが実行する方法であって、タイヤ力学モデルの物理パラメータを設定するステップと、設定された前記物理パラメータと、当該物理パラメータを入力値として横曲げモードの固有振動数を算出するために必要な演算式データと、を用いて横曲げモードの固有振動数を算出するステップと、を含み、前記演算式データは、トレッド部を円筒状のトレッドリングとし、サイドウォール部を前記トレッドリングの両端とホイールを接続する一対のサイドウォールバネと定義したタイヤ力学モデルにおいて、前記トレッドリングに生じる歪みが0であるという条件を満たす前記トレッドリングの振動を表す変位関数と、前記モデルから得られる運動エネルギー及びポテンシャルエネルギーと、を用いてレイリー法を適用することで導出された固有振動数の演算式を演算させるデータであることを特徴とする。
【0012】
このように、タイヤ力学モデルをトレッドリングと一対のバネで定義することで、従来のタイヤ力学モデルでは表現できなかったタイヤの横曲げモードの振動を表現することが可能となる。それでいて、トレッドリングに生じる歪みが0である条件を満たす変位関数に基づいて、横曲げモードの固有振動数を算出するための演算式データが導出されているので、簡素な演算式で横曲げモードの固有振動数を算出することが可能となる。しかも、物理パラメータを入力値として固有振動数を算出可能になるので、物理パラメータと固有振動数の因果関係を解析することも可能となる。
【0013】
具体的には、モデルの物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)を入力値とし、式(19)を演算する。
【0014】
横曲げモードだけでなく他の振動モードの固有振動数を算出可能にして解析の作業効率を向上させるためには、横曲げモードに加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれかのモードの固有振動数を算出するための演算式データを含むことが好ましい。
【0015】
実測値に応じた物理パラメータを適切に同定するためには、前記演算式データと前記物理パラメータとに基づき算出される固有振動数の演算値と、予め計測された固有振動数の実測値との誤差をパラメータの一つとして含む目的関数の値が最小値となるように、最適化手法を用いて物理パラメータを算出することが好ましい。
【0016】
物理パラメータの同定精度を向上させるためには、目的関数は、横曲げモードに加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれか1つのモードにおける固有振動数の演算値と実測値の誤差をパラメータの一つとして更に含んでいることが好ましい。
【0017】
物理パラメータを同定する他の形態の装置としては、タイヤ力学モデルの物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)のうち未知パラメータの数をM個とした場合に、横曲げモードにおけるM個の固有振動数を演算式の入力値とし各々の未知パラメータを算出するために必要な連立方程式データを記憶する記憶部と、予め設定された前記M個の固有振動数を入力値とし、前記連立方程式データに基づき各々の未知パラメータを算出する演算部と、を備える。前記連立方程式データは、トレッド部を円筒状のトレッドリングとし、サイドウォール部を前記トレッドリングの両端とホイールを接続する一対のサイドウォールバネと定義したタイヤ力学モデルにおいて、前記トレッドリングに生じる歪みが0であるという条件を満たす前記トレッドリングの振動を表す変位関数と、前記モデルから得られる運動エネルギー及びポテンシャルエネルギーと、を用いてレイリー法を適用することで導出された物理パラメータの連立方程式を演算部に演算させるデータである。
【0018】
物理パラメータを同定する他の形態の方法としては、コンピュータが実行する方法であって、タイヤ力学モデルの物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)のうち未知パラメータの数をM個とした場合に、横曲げモードにおけるM個の固有振動数を設定するステップと、設定された前記M個の固有振動数と、当該固有振動数を演算式の入力値として各々の未知パラメータを算出するために必要な連立方程式データと、を用いて各々の未知パラメータを算出するステップと、を含む。
【0019】
具体的には、モデルの既知の物理パラメータ(R,b,l,ρ)及び横曲げモードにおける5つの固有振動数を入力値とし、式(23)を演算する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
[タイヤの物理量算出装置]
本実施形態のタイヤの物理量算出装置は、
図2に示すタイヤ力学モデルを用いてタイヤの物理量を算出する装置である。具体的には、タイヤの物理パラメータを入力値として固有振動数を算出するために用いられると共に、所望の固有振動数となる物理パラメータを算出するために用いられる。
【0023】
図1に示すように、装置1は、設定部10と、記憶部11と、演算部12と、最適化実行部13と、を有する。これら各部10〜13は、CPU、メモリ、各種インターフェイスを備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図示しない処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0024】
設定部10は、キーボードやマウス、タッチパネル等の既知の操作部15を介してユーザからの操作を受け付け、装置の動作モードの切り替え、解析対象とする振動モードの指定、タイヤモデルの物理パラメータの入力、固有振動数の入力など、解析に必要となる各種設定を行う。動作モードとして、物理パラメータを入力値として指定された振動モードの固有振動数を算出する固有振動数算出モードと、固有振動数を入力値として指定された振動モードにおける物理パラメータを算出するパラメータ同定モードと、が挙げられる。
【0025】
記憶部11は、タイヤ力学モデルの物理パラメータを演算式の入力値として固有振動数を算出するために必要な演算式データ14を記憶する。演算式データ14は、予め設定された物理パラメータが入力値として入力された場合に、所定の数式(例えば式(19)に従って演算を実行し、その結果を返す関数の役割を担っている。演算式データ14には、横曲げモード、横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードの固有振動数を算出するための演算式データ(横曲げモード用データ14a,横並進モード用データ14b,面内捩りモード用データ14c,径方向モード用データ14d)がそれぞれ含まれる。振動の各モードについては後述する。
【0026】
演算部12は、設定部10により指定された動作モードに従って、予め設定された物理パラメータpm及び演算式データ14を用いて固有振動数fを算出する。算出された固有振動数fは、動作モードが固有振動数算出モードである場合には、ディスプレイ等の出力部16を介して出力される。
【0027】
本発明の基幹となるタイヤ力学モデルは、
図2に示すように、非接地及び非転動時において、タイヤのトレッド部を円筒状のトレッドリングとし、サイドウォール部をトレッドリングの両端とホイールを接続する一対のサイドウォールバネと定義したものである。モデルの座標系としては、横方向(タイヤ幅方向)をy、周方向をθ、径方向をzとする。z=0をトレッドリング断面の中央面とし、(y,θ,z)方向に対応するトレッドリング断面の任意点の中央面上の微小変位を(u,v、w)とする。なお、車軸−ホイールは、タイヤに対して高剛性であることから剛体として取り扱う。タイヤのビード部はホイールに一体であると取り扱う。このモデルによれば、トレッドリングの両端にサイドウォールバネが接続されているので、トレッド部の横方向の移動だけでなく、回転が可能となり、その結果、トレッド部の横曲げモードを表現可能となる。
【0028】
このタイヤ力学モデルにおける物理パラメータは、下記の通りである。
R:トレッドリングの平均半径
b:トレッドリングの肉厚
l:トレッドリングの半幅
ρ:トレッドリングの密度
ν:トレッドリングのポアソン比
S
0:トレッドリングにかかる周方向の張力
E:トレッドリングの周方向の縦弾性係数
I:トレッドリングの径方向に関する断面二次モーメント
K
y:サイドウォールバネの横方向の単位周長あたりのばね定数
K
θ:サイドウォールバネの周方向の単位周長あたりのばね定数
K
r:サイドウォールバネの径方向の単位周長あたりのばね定数
【0029】
このモデルでは、円筒肉厚がトレッドリング半径に比べ十分に小さいことを考慮して、横方向の歪ε
y,周方向の歪ε
θ,中央面のせん断歪γ
yθが0であると仮定する。すなわち、タイヤ振動に対して不伸張変形仮定が成り立つとしている。このときの中央面内の3つの歪成分は、次の式を満たす。
ε
y=∂u/∂y=0 …(1)
ε
θ=(∂v/R∂θ)−(w/R)=0 …(2)
γ
yθ=(∂u/R∂θ)+(∂v/∂y)=0 …(3)
【0030】
次に、力学的エネルギーについて述べる。
横方向、周方向、径方向に対応する速度成分より、運動エネルギーTは次の式のようになる。
トレッドリングの曲げによるポテンシャルエネルギーU
1は、次の式のようになる。
トレッドリングの捩りによるポテンシャルエネルギーU
2は、次の式のようになる。
トレッドリングの周方向に作用する張力によるポテンシャルエネルギーU
3は、次の式のようになる。
サイドウォール部のバネ定数K
y,K
θ,K
rによるポテンシャルエネルギーU
4,U
5,U
6は、次の式のようになる。
【0031】
次に、トレッドリングの振動を表す変位関数(中央面上の微小変位)は、次の式のようになる。ここで、Aは振動振幅、ωは角振動数である。
【0032】
横並進モードの変位関数:
横並進モードの振動形状を
図3Aに示す。横並進モードは、トレッド部がタイヤ軸(横方向)に沿ってスライドするように振動するモードである。同図では、・が振動前の座標であり、○が最大振幅時の変位位置を表す。
【0033】
面内捩りモードの変位関数:
面内捩りモードの振動形状を
図3Bに示す。面内捩りモードは、トレッド部が周方向に沿って回転するように振動するモードである。同図では、・が振動前の座標であり、○が最大振幅時の変位位置を表す。
【0034】
径方向モードの変位関数:
径方向モードの振動形状を
図3Cに示す。径方向モードは、トレッド部が径方向に振動するモードである。同図では、・が振動前の座標であり、○が最大振幅時の変位位置を表す。同図は、2次モードの振動を例示している。
【0035】
横曲げモードの変位関数:
横曲げモードの振動形状を
図3Dに示す。横曲げモードは、トレッド部が捩れる振動モードである。同図では、・が振動前の座標であり、○が最大振幅時の変位位置を表す。同図は、2次モードの振動を例示している。
【0036】
これら変位関数の式(11)〜(14)は、式(1)〜(3)を満たすことから、トレッドリングに生じる歪みが0であるという条件(不伸張変形)を満たしている。
【0037】
上記のように、各振動モードにおいて振動形状を関数で表現できたことから、レイリー法(Rayleigh's Method)を用いて固有振動数を導出できる。レイリー法は、振動形状を境界条件を満たす変位関数で近似し、運動エネルギーの最大値とポテンシャルエネルギーの最大値が等しくなることをもとに固有振動数を求める方法である。すなわち、次の式が成立する。
U
max/T
max=1 …(15)
【0038】
固有振動数を算出するための演算式は、上記変位関数と、運動エネルギー及びポテンシャルエネルギーと、を用いてレイリー法を適用することで導出される。
【0039】
横並進モードについて、変位関数の式(11)を式(4)に代入して運動エネルギーを導出する。同様に、式(11)を式(5)〜(10)に代入してポテンシャルエネルギーを導出する。これらエネルギーの式を式(15)に代入すれば、横並進モードの固有振動数f
traはω=2πfにより次のようになる。
図1に示す横並進モード用データ14bは、予め記憶部11に設定された物理パラメータを入力値として上記式(16)を演算するための演算式データである。
【0040】
面内捩りモードについて、変位関数の式(12)を式(4)に代入して運動エネルギーを導出する。同様に、式(12)を式(5)〜(10)に代入してポテンシャルエネルギーを導出する。これらエネルギーの式を式(15)に代入すれば、面内捩りモードの固有振動数f
torはω=2πfにより次のようになる。
図1に示す面内捩りモード用データ14cは、予め記憶部11に設定された物理パラメータを入力値として上記式(17)を演算するための演算式データである。
【0041】
径方向モードについて、変位関数の式(13)を式(4)に代入して運動エネルギーを導出する。同様に、式(13)を式(5)〜(10)に代入してポテンシャルエネルギーを導出する。これらエネルギーの式を式(15)に代入すれば、径方向モードの固有振動数f
cir, nはω=2πfにより次のようになる。nは、振動モードの変位をタイヤ周方向に見たときの波の数、即ち波数を表しており、非接地の場合は自然数となる。
図1に示す径方向モード用データ14dは、予め記憶部11に設定された物理パラメータを入力値として上記式(18)を演算するための演算式データである。
【0042】
横曲げモードについて、変位関数の式(14)を式(4)に代入して運動エネルギーを導出する。同様に、式(14)を式(5)〜(10)に代入してポテンシャルエネルギーを導出する。これらエネルギーの式を式(15)に代入すれば、横曲げモードの固有振動数f
ben, nはω=2πfにより次のようになる。nは、振動モードの変位をタイヤ周方向に見たときの波の数、即ち波数を表しており、非接地の場合は自然数となる。
図1に示す横曲げモード用データ14aは、予め記憶部11に設定された物理パラメータを入力値として上記式(19)を演算するための演算式データである。
【0043】
図1に示す最適化実行部13は、動作モードが「パラメータ同定モード」である場合に、最適化手法を用いて入力値としての固有振動数が得られるための物理パラメータを算出する。具体的には、演算式データと物理パラメータとに基づき算出される固有振動数の演算値と、予め計測された固有振動数の実測値との誤差をパラメータの一つとして含む目的関数の値が最小となるように、最適化手法を用いて物理パラメータを算出する。最適化手法では、予め設定された計算限度数の範囲内において、物理パラメータの設定、そのパラメータによる固有振動数の算出、及び目的関数の評価を繰り返し実行する。最適化手法は既知であるので、詳細な説明を省略する。最適化手法として用いることができるのは、例えば、遺伝的アルゴリズム(GA;genetic algorithm)が挙げられる。
【0044】
目的関数Optは、次のように表される。
Σは、評価対象となる全ての次数について合計を取ることを意味する。n=1,2,3…というように必ずしも次数が連続する必要はなく、適宜設定可能である。例えば、(n=1)、(n=1,3,5…)というように設定することも可能である。
f
expは、予め測定された横曲げモードの固有振動数の実測値であり、ユーザにより予め設定される。
f
anaは、上記演算式データと物理パラメータとに基づき算出される横曲げモードの固有振動数の演算値である。
a
nは、重み付け関数を次数毎に設定したもので、適宜設定可能である。
Pは、ペナルティ関数であり、物理パラメータの取り得る範囲外に最適値が収束しないようにするために、適宜任意の値を設定可能である。例えば、P=10000とすれば、上記物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)<0となる場合があり、P=0とすれば、物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)>0となる場合がある。なお、本実施形態では、固有振動数の実測値と演算値の誤差(f
exp−f
ana)が負の値を含むため、これを二乗して正の値にしているが、(f
exp−f
ana)の絶対値を取る式にしてもよい。
なお、ここでは、全ての物理パラメータが未知であるとして説明しているが、物理パラメータの一部が既知である場合には、予め設定された既知の物理パラメータを用いてもよい。
【0045】
上記目的関数は、横曲げモードの誤差をパラメータの一つとして有するが、横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードの少なくともいずれか1つのモードにおける固有振動数の演算値と実測値の誤差をパラメータの一つとして更に含めることが可能である。全ての振動モードを含めた目的関数は、次のように表される。
上記式(21)の右辺は、左から右へ順に、横曲げモードの誤差値、径方向モードの誤差値、面内捩りモードの誤差値、横並進モードの誤差値を表す。a
benは、横曲げモードの重み付け関数を次数毎に定義したものであり、a
cirは、径方向モードの重み付け関数を次数毎に定義したものであり、a
torは、面内捩りモードの重み付け関数であり、a
traは、横並進モードの重み付け関数である。
【0046】
[タイヤの物理量算出方法]
上記装置1を用いたタイヤの物理量を算出する方法について、
図4を参照しつつ説明する。
初めに、装置の動作モードが”固有振動数算出モード”で、横曲げモードが指定された場合について説明する。まず、ステップST1において、
図1に示す設定部10は、ユーザの操作に基づいて、タイヤ力学モデルの物理パラメータpmをメモリに設定する。
【0047】
次のステップST2において、
図1に示す演算部12は、演算式データ14と、演算式データ14が表す演算式の入力値として予め設定された物理パラメータpmとに基づき横曲げモードの固有振動数を算出する。具体的には、演算式データとして横曲げモード用データ14aを用い、タイヤ力学モデルの物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)を入力値とし、式(19)を演算する。
【0048】
また、ステップST2において、演算部12は、横曲げモードの固有振動数の算出に加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれかのモードの固有振動数を算出してもよい。
【0049】
次のステップST3において、演算部12による演算結果を、出力部16(ディスプレイ等)を介して出力する。
【0050】
次に、装置の動作モードが”パラメータ同定モード”である場合について説明する。まず、ステップST4において、演算式データ14と当該演算式の入力値である物理パラメータpmとに基づき算出される固有振動数の演算値と、予め計測された固有振動数の実測値との誤差をパラメータの一つとして含む目的関数の値が最小値となるように、最適化手法を用いて物理パラメータpmを算出する。具体的に、ステップST4では、物理パラメータ(初期値)を設定し、物理パラメータを演算式の入力値として固有振動数を算出し、目的関数の値を算出する。目的関数の値を評価して最小値であると評価されるまで、最適化実行部13による物理パラメータの再設定、演算部12による固有振動数の算出、最適化実行部13による目的関数の値の算出及びその評価を繰り返す。
【0051】
次のステップST5では、目的関数の値が最小となる物理パラメータpmを、出力部16(ディスプレイ等)を介して出力する。
【0052】
上記装置及び方法の有効性を確認するために、タイヤサイズ195/65R15のタイヤを用いて試験を行い、各種振動モードの固有振動数を実測した。各固有振動数の解析値を算出するためには、物理パラメータが必要となる。トレッドリングの平均半径R、幅2lはタイヤ形状により概算寸法を与えた。ρ,bは設計諸元から概算値を与えた。未知の物理パラメータは、EI,S
0,K
y,K
θ,K
rである。まず、式(18)に関して4つの方程式、式(16)について1つの方程式が成り立ち、それら5つの方程式を連立して、各未知パラメータの初期値を算出した。その初期値を用い、各固有振動数の実測値と演算値との二乗誤差を目的関数として、その値が最小になるように最適化処理を行った。
【0053】
図5(a)は、面内捩りモードと径方向モードの固有振動数の演算値と実測値に比較を示す。次数が0のところが面内捩りモードであり、次数1,2…が径方向モードの次数である。また、
図5(b)は、横並進モードと横曲げモードの固有振動数の演算値と実測値の比較を示す。次数が0のところが横並進モードであり、次数1,2…が横曲げモードの次数である。図中において、+が実測値を示し、○が解析値(演算値)を示す。同図により算出した演算値と実測値は良好に一致しており、構築したモデルは振動特性を十分に表現できていると言える。
【0054】
以上のように、本実施形態の物理量算出装置は、タイヤ力学モデルの物理パラメータpmを演算式の入力値とし横曲げモードの固有振動数を算出するために必要な演算式データ14(横曲げモード用データ14a)を記憶する記憶部11と、予め設定された物理パラメータpmを入力値として、演算式データ14に基づき横曲げモードの固有振動数を算出する演算部12と、を備える。演算式データ14は、トレッド部を円筒状のトレッドリングとし、サイドウォール部をトレッドリングの両端とホイールを接続する一対のサイドウォールバネと定義したタイヤ力学モデルにおいて、トレッドリングに生じる歪みが0であるという条件を満たすトレッドリングの振動を表す変位関数「式(14)」と、モデルから得られる運動エネルギー「式(4)」及びポテンシャルエネルギー「式(5)〜(10)」と、を用いてレイリー法を適用することで導出された固有振動数の演算式「式(19)」を演算部12に演算させるデータである。
【0055】
本実施形態の物理量算出方法は、コンピュータが実行する方法であって、タイヤ力学モデルの物理パラメータpmを設定するステップ(ST1)と、設定された物理パラメータpmと、物理パラメータpmを演算式の入力値として横曲げモードの固有振動数を算出するために必要な演算式データ14(横曲げモード用データ14a)と、を用いて横曲げモードの固有振動数を算出するステップ(ST2)と、を含む。演算式データ14は、トレッド部を円筒状のトレッドリングとし、サイドウォール部をトレッドリングの両端とホイールを接続する一対のサイドウォールバネと定義したタイヤ力学モデルにおいて、トレッドリングに生じる歪みが0であるという条件を満たすトレッドリングの振動を表す変位関数「式(14)」と、モデルから得られる運動エネルギー「式(4)」及びポテンシャルエネルギー「式(5)〜(10)」と、を用いてレイリー法を適用することで導出された固有振動数の演算式「式(19)」を演算させるデータである。
【0056】
このように、タイヤ力学モデルをトレッドリングと一対のバネで定義することで、従来のタイヤ力学モデルでは表現できなかったタイヤの横曲げモードの振動を表現することが可能となる。それでいて、トレッドリングに生じる歪みが0である条件を満たす変位関数に基づいて、横曲げモードの固有振動数を算出するための演算式データ14が導出されているので、簡素な演算式で横曲げモードの固有振動数を算出することが可能となる。しかも、物理パラメータを入力値として固有振動数を算出可能になるので、物理パラメータと固有振動数の因果関係を解析することも可能となる。
【0057】
本実施形態の装置においては、演算式データ14(横曲げモード用データ14a)は、前記モデルの物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)を入力値とし、式(19)を演算部12に演算させるためのデータである。
本実施形態の方法においては、モデルの物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)を入力値とし、式(19)を演算する。
ただし、Rはトレッドリングの平均半径,bはトレッドリングの肉厚,lはトレッドリングの半幅,ρはトレッドリングの密度,νはトレッドリングのポアソン比,S
0はトレッドリングにかかる周方向の張力,Eはトレッドリングの周方向の縦弾性係数,Iはトレッドリングの径方向に関する断面二次モーメント,K
yはサイドウォールバネの横方向の単位周長あたりのばね定数,K
θはサイドウォールバネの周方向の単位周長あたりのばね定数,K
rはサイドウォールバネの径方向の単位周長あたりのばね定数、をそれぞれ示す。nは振動モードの変位をタイヤ周方向に見たときの波の数、即ち波数である。
【0058】
本実施形態の装置において、横曲げモードに加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれかのモードの固有振動数を算出するための演算式データ14を含む。
本実施形態の方法において、横曲げモードの固有振動数の算出に加え、横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードの少なくともいずれか1つのモードの固有振動数を算出する。
このようにすれば、1つの力学モデルによって、横曲げモードを含む複数の振動モードの固有振動数を算出可能であるので、複数の力学モデルを別々に用いなくても横曲げモードだけでなく他の振動モードの固有振動数を算出でき、解析の作業効率を向上させることが可能となる。
【0059】
本実施形態の装置において、演算式データ14と物理パラメータpmとに基づき算出される固有振動数の演算値と、予め計測された固有振動数の実測値との誤差をパラメータの一つとして含む目的関数の値が最小値となるように、最適化手法を用いて物理パラメータpmを算出する最適化実行部13を備える。
本実施形態の方法において、物理パラメータpmを設定するステップ及び固有振動数を算出するステップを繰り返し行うことにより、演算式データと物理パラメータとに基づき算出される固有振動数の演算値と、予め計測された固有振動数の実測値との誤差をパラメータの一つとして含む目的関数の値が最小値となるように、最適化手法を用いて物理パラメータを算出する(ST5)。
このようにすれば、固有振動数の実測値に基づいてタイヤの物理パラメータを同定することができるので、実測値に応じた物理パラメータを適切に同定することが可能となる。
【0060】
本実施形態の装置及び方法において、目的関数は、横曲げモードに加え、少なくとも横並進モード、面内捩りモード及び径方向モードのいずれか1つのモードにおける固有振動数の演算値と実測値の誤差をパラメータの一つとして更に含んでいる。
このようにすれば、横曲げモードだけでなく、他の振動モードも考慮するので、物理パラメータの同定精度を向上させることが可能となる。
【0061】
本実施形態に係るコンピュータプログラムは、上記タイヤの物理量算出方法を構成する各ステップをコンピュータに演算させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、装置は、上記方法を使用しているとも言える。
【0062】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0063】
例えば、本実施形態では、演算式データ14として、横曲げモード用データ14a、横並進モード用データ14b、面内捩りモード用データ14c及び径方向モード用データ14dの全てを記憶部11に記憶しているが、少なくとも横曲げモード用データ14aを記憶していればよい。横並進モード、面内捩りモード、径方向モードは適宜組み合わせて記憶可能である。
【0064】
また、目的関数としては、横曲げモードの誤差値を含んでいれば、他のモードについては適宜組み合わせ可能である。
【0065】
本実施形態では、出力部16がディスプレイである例を挙げているが、出力部16は、ファイルとして装置内部の記憶装置に記憶することや、ネットワークを介して外部のコンピュータにデータを送信するようにしてもよい。
【0066】
本実施形態では、未知の物理パラメータを最適化処理を用いて算出しているが、連立方程式として解くようにしてもよい。すなわち、
図6に示すように、装置1の記憶部11は、タイヤ力学モデルの物理パラメータ(R,b,l,ρ,ν,S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)のうち未知パラメータの数をMとした場合に、横曲げモードにおけるM個の固有振動数を演算式の入力値とし各々の未知パラメータを算出するために必要な連立方程式データ17を記憶する。M個の固有振動数は、互いに次数が異なる固有振動数である。連立方程式の数は未知パラメータの数に合わせてある。
【0067】
具体的には、式(19)は次の式(22)のように変形できる。
自然数n
1,n
2,n
3,n
4,n
5を用いて式(22)について5つの連立方程式を行列形式で表し、その逆行列をとると、次の式(23)になる。n
1,n
2,n
3,n
4,n
5は、それぞれ異なり、横曲げモードにおける波数を表す。
この連立方程式データ17は、予め記憶部11に設定された既知の物理パラメータ(R,b,l,ρ)及び横曲げモードにおける5つの固有振動数を入力値とし、式(23)を演算部12に演算させるためのデータである。この連立方程式データ17を用いれば、未知の物理パラメータ(S
0,EI,K
y,K
θ,K
r)を算出することが可能となる。
【0068】
なお、上記では、未知の物理パラメータが5つであるが、未知の物理パラメータの数をM個とし、M個の連立方程式を成立させれば、既知パラメータの数は、種々変更可能である。また、上記は装置として説明しているが、方法及びコンピュータプログラムとしても特定可能である。
【0069】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。