特許第6190252号(P6190252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190252
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20170821BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B60C11/03 100A
   B60C11/03 B
   B60C5/00 H
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-243151(P2013-243151)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-101212(P2015-101212A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】早苗 隆平
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−8342(JP,A)
【文献】 特開2012−218651(JP,A)
【文献】 特開2009−113652(JP,A)
【文献】 特開2002−2225(JP,A)
【文献】 特開平8−197912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00−11/24
B60C 5/00− 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両への装着方向が指定されることにより、車両内側に位置する内の接地端及び車両外側に位置する外の接地端を有する空気入りタイヤであって、
トレッド部に、最も外の接地端側をタイヤ周方向にのびる外の周方向溝と、
それよりも車両内側に配され、かつ前記外の周方向溝との間でタイヤ周方向に連続してのびるセンターリブを形成する内の周方向溝とを含む周方向溝を具え、
しかも前記外の周方向溝はジグザグ溝であり、かつそのジグザグの振幅Zoは溝巾Woよりも大とするとともに、
前記内の周方向溝はジグザグ溝又は直線溝であり、かつジグザグ溝の場合そのジグザグの振幅Ziは、前記外の周方向溝の前記振幅Zoよりも小であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記内の周方向溝は直線溝であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記センターリブの車両外側の側縁のうち、最も車両内側に位置する内点は、センターリブの車両内側の側縁のうち、最も車両外側に位置する外点よりも車両外側に位置することを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記外の周方向溝は、ジグザグの振幅Zoが接地巾TWの0.12〜0.20倍、かつジグザグのピッチ数nが12〜19であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記外の周方向溝は、その溝壁面のトレッド面の法線に対する角度θが5〜20°であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い排水性能を確保しながら、特にサーキット走行時の耐偏摩耗性能を向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの排水性能を高める方法として、周方向溝を直線溝とするとともに、周方向溝の本数を増やす、或いは溝巾を増加することなどが知られている。
【0003】
しかし、周方向溝の本数を増やす場合、本数の増加に伴って、周方向溝によって区画される陸部の巾が狭くなるため、各陸部のタイヤ軸方向に対する剛性が大きく低下する。そのため、旋回時の横グリップが重視されるスポーツタイヤのカテゴリでは、タイヤ軸方向の大きな力に耐えるための横剛性を確保するため、溝本数の増加に代えて溝巾を増加する方法が一般に採用されている。
【0004】
しかし前記方法で十分な排水性能を確保しようとした場合、サーキット走行時、特に車両最外側の陸部(ショルダー陸部)における車両外側部分に強い力を受けることが原因となって、この部分が偏摩耗を起こすなど、十分な耐偏摩耗性能が得られないという問題がある。
【0005】
なお高い排水性能を確保しながら、特にサーキット走行時の耐偏摩耗性能を向上させた空気入りタイヤとしては、下記の特許文献1のものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−338628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、最も車両外側に配される外の周方向溝を、溝巾よりも振幅を大としたジグザグ溝で形成することを基本として、高い排水性能を確保しながら、特にサーキット走行時の耐偏摩耗性能を向上させた空気入りタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両への装着方向が指定されることにより、車両内側に位置する内の接地端及び車両外側に位置する外の接地端を有する空気入りタイヤであって、
トレッド部に、最も外の接地端側をタイヤ周方向にのびる外の周方向溝と、
それよりも車両内側に配され、かつ前記外の周方向溝との間でタイヤ周方向に連続してのびるセンターリブを形成する内の周方向溝とを含む周方向溝を具え、
しかも前記外の周方向溝はジグザグ溝であり、かつそのジグザグの振幅Zoは溝巾Woよりも大とするとともに、
前記内の周方向溝はジグザグ溝又は直線溝であり、かつジグザグ溝の場合そのジグザグの振幅Ziは、前記外の周方向溝の前記振幅Zoよりも小であることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記内の周方向溝は直線溝であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記センターリブの車両外側の側縁のうち、最も車両内側に位置する内点は、センターリブの車両内側の側縁のうち、最も車両外側に位置する外点よりも車両外側に位置することが好ましい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記外の周方向溝は、ジグザグの振幅Zoが接地巾TWの0.12〜0.20倍、かつジグザグのピッチ数nが12〜19であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記外の周方向溝は、その溝壁面のトレッド面の法線に対する角度θが5〜20°であることが好ましい。
【0013】
なお前記接地巾TWとは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤに正規荷重を負荷した時に接地するトレッド接地面におけるタイヤ軸方向最大巾を意味する。又接地端とは、前記トレッド接地面におけるタイヤ軸方向端の位置を意味する。
【0014】
又前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim"を意味する。前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。前記「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は叙上の如く、外の周方向溝を、溝巾よりも振幅を大としたジグザグ溝で形成している。従って、溝底における剛性が高まり、溝底を起点としたトレッド部の変形を抑えることができる。即ち、外の周方向溝に隣り合うショルダー陸部の動きを抑えることができ、特にサーキット走行における前記ショルダー陸部の耐偏摩耗性能を向上することができる。
【0016】
又この外の周方向溝は、振幅が大であることにより排水効率に不利がある。しかし本発明では、内の周方向溝が、直線溝或いは振幅が外の周方向溝の振幅よりも小なジグザグ溝としているため、前記不利を補うことができ、前記効果を発揮しながら高い排水性能を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施例を示すトレッドパターンの展開図である。
図2】外の周方向溝の断面図である。
図3】(A)、(B)は外の周方向溝による効果を説明する概念図である。
図4】本発明の他の実施例のトレッドパターンの展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、左右非対称のトレッドパターンを有し、車両への装着方向が指定されることにより、トレッド部2の接地端TEは、車両内側に位置する内の接地端TEiと、車両外側に位置する外の接地端TEoとが区別される。本例では、前記空気入りタイヤ1が、公道走行と、サーキット競技及びジムカーナ競技等のレース走行との双方を前提とした高性能タイヤである場合が示される。
【0019】
前記トレッド部2は、タイヤ周方向にのびる少なくとも2本の周方向溝3を具える。この周方向溝3は、最も外の接地端TEo側をタイヤ周方向にのびる外の周方向溝3oと、この外の周方向溝3oに車両内側で隣り合う内の周方向溝3iとを含む。
【0020】
本例では、周方向溝3が、前記内、外の周方向溝3i、3oのみからなる場合が示される。これによりトレッド部2は、外の周方向溝3oよりも車両外側の外のショルダー陸部4oと、内、外の周方向溝3i、3o間のセンター陸部4cと、内の周方向溝3oよりも車両内側の内のショルダー陸部4iとに区分される。
【0021】
このうち前記センター陸部4cには、このセンター陸部4cを横切る横溝、及びサイピングの形成がなく、これによりセンター陸部4cは、タイヤ周方向に連続してのびるセンターリブ5として形成される。本例では、前記センターリブ5は、タイヤ赤道C上をのびる。これに対して、本例の内、外のショルダー陸部4i、4oには、各ショルダー陸部4i、4oを横切る横溝6i、6oが形成され、それぞれブロック7i、7oが周方向に並ぶブロック列として形成される。
【0022】
次に、前記外の周方向溝3oは、ジグザグ状に蛇行しながら周方向にのびるジグザグ溝8からなり、そのジグザグの振幅Zoは、溝巾Woよりも大に設定される。なおジグザグ状には、例えばサイン曲線などの波状も含まれる。前記溝巾Woは、トレッド面2S上で測定されたタイヤ軸方向の巾であり、以下、周方向溝3の溝巾はこの寸法を意味する。
【0023】
ここで図3(A)、(B)に概念的に示すように、振幅Zが溝巾Wよりも小なジグザグ溝Ga、或いは直線溝Gbの場合、溝底gs内に、周方向に直線状にのびる領域gs1が存在する。この領域gs1ではタイヤ軸方向の剛性が段差的に低くなるため、この領域gs1を起点としてトレッド部2が曲げ変形し易くなる。これに対して、前記ジグザグ溝8の場合には、前記領域gs1が存在しないためトレッド部2の曲げ変形が抑えられる。その結果、外の周方向溝3oに隣り合う外のショルダー陸部4oの動きが抑えられ、特にサーキット走行におけるショルダー陸部4oの耐偏摩耗性能を向上させることができる。
【0024】
なお、溝底での剛性確保の観点から、前記振幅Zoと溝巾Woとの差(Zo−Wo)は、1mm以上さらには5mm以上が好ましい。又ジグザグ溝8の振幅Zoが大きすぎる場合、及びジグザグのピッチ数nが多すぎる場合、排水時の水の抵抗が大きくなって排水効率の低下を招く。又振幅Zoが小さすぎる場合にも、それにつれて必然的に溝巾Woも小となるため、排水効率の低下を招く。又ピッチ数nが少なすぎると、直線溝に近づき、接地面内において前記領域gs1が形成される傾向となるため、耐偏摩耗性能の向上効果が少なくなる。このような観点から、振幅Zoは、接地巾TWの0.12〜0.20倍の範囲が好ましく、またピッチ数nは12〜19の範囲が好ましい。特に、前記振幅Zoでは、その下限値は接地巾TWの0.14倍以上がより好ましく、また上限値は0.18倍以下がより好ましい。又ピッチ数nでは、その下限値は14以上がより好ましく、また上限値は17以下が好ましい。
【0025】
次に、前記内の周方向溝3iは、ジグザグ溝9(図1に示す。)又は直線溝10(図4に示される。)から形成される。本例では、内の周方向溝3iがジグザグ溝9からなる場合が例示される。ジグザグ溝9の場合、そのジグザグの振幅Ziは、前記外の周方向溝3oの振幅Zoよりも小に設定される。
【0026】
これは、前記外の周方向溝3oでは、振幅Zoが大であることにより排水効率に不利がある。しかし本発明では、内の周方向溝3iを、振幅Ziが小なジグザグ溝9或いは直線溝10とすることで前記不利を補い、タイヤ全体として高い排水性能を確保する。
【0027】
なおセンター陸部4c(センターリブ5)及び内のショルダー陸部4iでは、旋回時に作用するタイヤ軸方向の力が外のショルダー陸部4oに比して小である。そのため内の周方向溝3iに、振幅Ziが小なジグザグ溝9或いは直線溝10を採用しても、前述の耐偏摩耗性能の向上効果を維持することができる。
【0028】
このような観点から、内の周方向溝3iの振幅Ziは、その溝巾Wiよりも小であるのが好ましく、特に振幅Ziが零(0)、即ち図4に示す直線溝10とするのがより好ましい。なおジグザグ溝9の場合、そのピッチ数nは、ジグザグ溝8の前記ピッチ数nと同数、かつ同位相とすることが、センター陸部4c(センターリブ5)における偏摩耗を抑制する上で好ましい。
【0029】
本例では、センター陸部4c(センターリブ5)の車両外側の側縁eoのうち、最も車両内側に位置する内点P1は、センター陸部4c(センターリブ5)の車両内側の側縁eiのうち、最も車両外側に位置する外点P2よりも車両外側に位置する。これにより、センター陸部4c(センターリブ5)の剛性を確保し、直進走行性、及び偏摩耗性を高めている。このときの内点P1と外点P2とのタイヤ軸方向距離Lは、1mm以上さらには5mm以上であるのが好ましい。
【0030】
図2に示すように、本例の外の周方向溝3oでは、その長さ方向と直角な断面において、溝壁面3Sは、トレッド面2Sの法線に対して5〜20°の角度θで傾斜する。また内の周方向溝3iの溝壁面3Sも、前記範囲の角度θで傾斜している。
【0031】
また前記横溝6i、6oは、本例では、タイヤ周方向に対する角度αが70〜110°の範囲であり、それぞれ、ジグザグのタイヤ軸方向外側の頂部から、接地端TEを越えて延在している。なお横溝6i、6oは円弧状に湾曲しても良く、係る場合その接線の角度が前記範囲をなす。このような横溝6i、6oは、ブロック7i、7oの横剛性を維持し、旋回時の横グリップ性を確保しながら排水性能を高める。
【0032】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0033】
本発明の効果を確認するために、図1、2のトレッドパターンを基本パターンとした乗用車用ラジアルタイヤ(225/45R17)を表1の仕様で試作し、それらの排水性能及び耐偏摩耗性能についてテストした。表1に記載以外は、実質的に同仕様である。周方向溝及び横溝の形成位置は同一である。
(共通仕様)
・内、外の周方向溝:
溝深さ:6.0mm、
溝壁面角度θ:15°、
・内、外の横溝
溝巾:6.5mm、
溝深さ:6.0mm、
【0034】
(1)排水性能:
タイヤをリム(7.5JJ−17)、内圧(220kPa)にて、車両(排気量2000cc2)の全輪に装着し、半径100mのアスファルト路面に、水深10mm、長さ20mの水たまりを設けたコース上を、速度を段階的に増加させながら前記車両を進入させ、横加速度(横G)を計測し、50〜80km/hの速度における前輪の平均横Gを算出した。結果は、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きい程、排水性能が高く良好である。
【0035】
(2) 耐偏摩耗性能:
上記車両にて、テストコースを限界走行によって30km走行し、外のショルダー陸部における偏摩耗の発生状況を、目視によって観察し、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きい程、耐偏摩耗性能に優れている。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、実施例のタイヤは、高い排水性能を確保しながら、耐偏摩耗性能を向上させうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0038】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 周方向溝
3o 外の周方向溝
3i 内の周方向溝
3S 溝壁面
5 センターリブ
8 ジグザグ溝
9 ジグザグ溝
10 直線溝
ei、eo 側縁
P1 内点
P2 外点
TEi 内の接地端
TEo 外の接地端
図1
図2
図3
図4