(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明の不織布はエアスルー不織布であることが好ましい。「エアスルー不織布」とは、50℃以上の流体、例えば気体や水蒸気を、ウエブ又は不織布に吹き付ける工程(好ましくは貫通させる工程)を経て製造された不織布を言い、本工程のみで製造される不織布のみならず、他の方法で作製された不織布に本工程を付加して製造した不織布、あるいは本工程の前や本工程の後に何らかの工程を行って製造した不織布をも含む意味である。また、本発明の不織布は、エアスルー不織布のみならず、エアスルー不織布と、他の不織布等の繊維シートやフィルム材とを複合化したものも包含する。
【0012】
本発明の不織布は、上述した(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する繊維処理剤が付着した熱融着性繊維を、構成繊維の1種として用いたものである。
【0013】
前記の繊維処理剤が付着した熱融着性繊維は、不織布のいずれかの部位に存在していればよい。また、本発明の不織布は、この繊維処理剤が付着した熱融着性繊維のみから構成されていてもよく、あるいは他の1種又は2種以上の繊維を付加的に含んでいてもよい。
【0014】
本発明の不織布は、
図1に示す不織布1や
図3に示す不織布1Aにおけるように、第1部11と第1部11に比して厚みが薄い第2部12を交互に有し、片面1aに、第1部11が凸条部13を形成し、第2部12が溝部14を形成している。また、第2部12の繊維密度が、第1部11の繊維密度よりも低くなっている。
【0015】
本発明の不織布に用いられる前記の繊維処理剤は、上述した(A)成分、(B)成分及び(C)成分、すなわちポリオルガノシロキサン、アルキルリン酸エステル、及び一般式(1)で表されるアニオン界面活性剤を含有している。この3成分を含む繊維処理剤が付着した繊維は、熱処理を施すことにより、ポリオルガノシロキサンが、アルキル鎖を有するアニオン界面活性剤の繊維内部への浸透を促進するため、繊維の表面の親水度が熱処理によって低い値へと変化する。これは、ポリオルガノシロキサンのポリシロキサン鎖と、アニオン界面活性剤の持つ、アルキル鎖が不相溶なため、アニオン界面活性剤が、より馴染みやすい繊維内部へ、繊維が加熱溶融した際に浸透するために起こると考えられる。その中でも一般式(1)で表されるアニオン界面活性剤は、アルキル基が嵩高で、親水基を包み込むようにして繊維内部へ浸透していくことが可能なため、ポリオルガノシロキサンの存在により繊維内部への浸透が促進されやすい。
これにより、例えば後述する製造工程の一工程であるウエブに熱風を吹き付ける工程において、ウエブ中の繊維が受ける熱量は、熱風吹き付け面とその反対側の面(ネット面)とにおいて自ずと異なっていることにより、熱風吹き付け面の繊維とその反対側の面の繊維とでは、受ける熱量が異なり、熱風吹き付け面の繊維とその反対側の面の繊維とではその繊維の接触角の値も変わってくることになる。このことを利用して、第1部11が、凸条部14の頂部P1から、該凸条部が突出する第1面1a側とは反対側の第2面1b上の底部P3に向けて親水度に勾配を有する不織布を製造することができる。また、熱風を吹き付ける工程の前から、第2部12の繊維密度を、第1部11の繊維密度よりも低くしておくことにより、第2部12の親水度が、第1部11の親水度よりも低い不織布を製造することもできる。以下、それぞれの成分について説明する。
【0016】
〔(A)成分〕
ポリオルガノシロキサンとしては、直鎖状のもの、架橋二次元又は三次元網状構造を有するものいずれも使用できる。好ましくは実質上直鎖状のものである。
【0017】
ポリオルガノシロキサンのうち好適なものの具体例は、アルキルアルコキシシランやアリールアルコキシシラン、アルキルハロシロキサンの重合物あるいは環状シロキサンであり、アルコキシ基としては、典型的にはメトキシ基である。アルキル基としては炭素数1以上18以下、好ましくは1以上8以下、特に1以上4以下の側鎖を有してもよいアルキル基が適当である。アリール基としては、フェニル基やアルキルフェニル基、アルコキシフェニル基等が例示される。アルキル基やアリール基に代えて、シクロヘキシル基やシクロペンチル基等の環状炭化水素基、ベンジル基のごときアラルキル基であってもよい。また、本発明で言うポリオルガノシロキサンは、界面活性剤の浸透をより促進させ、加熱により繊維表面の接触角をより高い目的にする観点から、親水性の高いPOE鎖で変性したポリオルガノシロキサンを含まない概念である。
【0018】
本発明において好ましい最も典型的なポリオルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジプロピルシロキサン等が挙げられ、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0019】
ポリオルガノシロキサンの分子量は、高分子量であることが好ましく、具体的には、重量平均分子量で好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、好ましくは100万以下、より好ましくは80万以下、更に好ましくは60万以下である。また、ポリオルガノシロキサンとして、分子量の異なる2種類以上のポリオルガノシロキサンを用いてもよい。分子量が異なる2種類以上のポリオルガノシロキサンを用いる場合、そのうちの一種類は、重量平均分子量が、好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、また、好ましくは100万以下、より好ましくは80万以下、更に好ましくは60万以下であり、他の一種類は、重量平均分子量が、好ましくは10万未満、より好ましくは5万以下、より好ましくは3万5千以下、更に好ましくは2万以下であり、また、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、更に好ましくは5000以上である。また、重量平均分子量が10万以上のポリオルガノシロキサンと重量平均分子量が10万未満のポリオルガノシロキサンとの好ましい配合比率(前者:後者)は、質量比で、好ましくは1:10〜4:1、より好ましくは1:5〜2:1である。
【0020】
ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量はGPCを用いて測定される。測定条件は下記のとおりである。また、換算分子量の計算はポリスチレンで行う。
分離カラム:GMHHR−H+GMHHR−H(カチオン)
溶離液:LファーミンDM20/CHCl
3
溶媒流速:1.0ml/min
分離カラム温度:40℃
【0021】
ポリオルガノシロキサンの繊維処理剤中の含有量は、熱処理による親水度の変化を大きくする観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましく7.5質量%以上である。また、不織布表面で液を吸収させやすい観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。例えばポリオルガノシロキサンの繊維処理剤中の含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、7.5質量%以上15質量%以下であることが更に好ましい。
【0022】
ポリオルガノシロキサンとしては市販品を用いることもできる。例えば、信越シリコーン社製の「KF−96H−100万Cs」、東レ・ダウコーニング社製の「SH200 Fluid 1000000Cs」、また2種類のポリオルガノシロキサンを含有するものとしては、信越シリコーン社製の「KM−903」や、東レ・ダウコーニング社製の「BY22−060」を用いることができる。
【0023】
〔(B)成分〕
(B)成分であるアルキルリン酸エステルは、原綿のカード機通過性やウエブの均一性などの特性を改良し、これによって不織布の生産性の向上と品質低下を防止することを目的として、繊維処理剤に配合される。
アルキルリン酸エステルの具体例としては、ステアリルリン酸エステル、ミリスチルリン酸エステル、ラウリルリン酸エステル、パルミチルリン酸エステルなどの飽和の炭素鎖を持つものや、オレイルリン酸エステル、パルミトレイルリン酸エステルなどの不飽和の炭素鎖及び、これらの炭素鎖に側鎖を有するものが挙げられる。より好ましくは、炭素鎖が16〜18のモノ又はジアルキルリン酸エステルの完全中和または部分中和塩である。なお、アルキルリン酸エステルの塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属、アンモニア、各種アミン類などが挙げられる。アルキルリン酸エステルは、一種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
前記繊維処理剤中の(B)成分の配合割合は、カード機通過性やウエブの均一性などの観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、熱処理に起因するポリオルガノシロキサンによる繊維の疎水化を妨げないようにする観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0025】
〔(C)成分〕
(C)成分は、先に示した一般式(1)で表わされるアニオン界面活性剤である。
(C)成分は、(B)成分であるアルキルリン酸エステルは含まない成分を指す。また、(C)成分は、一種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
一般式(1)中のXが―SO
3M、すなわち親水基がスルホン酸又はその塩である前記アニオン界面活性剤としては、例えば、ジアルキルスルホン酸又はそれらの塩を挙げることができる。ジアルキルスルホン酸の具体例としては、ジオクタデシルスルホコハク酸、ジデシルスルホコハク酸、ジトリデシルスルホコハク酸、ジ2‐エチルヘキシルスルホコハク酸などの、ジアルキルスルホコハク酸、ジアルキルスルホグルタル酸などのジカルボン酸をエステル化し、ジエステルのアルファ位をスルホン化した化合物や、2−スルホテトラデカン酸1−エチルエステル(又はアミド)ナトリウム塩や、2−スルホヘキサデカン酸1−エチルエステル(またはアミド)ナトリウム塩などの飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸エステル(又はアミド)のα位をスルホン化したアルファスルホ脂肪酸アルキルエステル(又はアミド)や、炭化水素鎖の内部オレフィンや不飽和脂肪酸の内部オレフィンをスルホン化することで得られるジアルキルアルケンスルホン酸などを挙げることができる。ジアルキルスルホン酸の2鎖のアルキル基それぞれの炭素数は、4個以上14個以下、特に、6個以上10個以下であることが好ましい。
【0027】
親水基がスルホン酸又はその塩である前記アニオン界面活性剤としては、より具体的には下記のアニオン界面活性剤を挙げることができる。
【0030】
一般式(1)中のXが―OSO
3M、すなわち親水基が硫酸又はその塩である前記アニオン界面活性剤としては、ジアルキル硫酸エステルを挙げることができ、その具体例としては、2−エチルヘキシル硫酸ナトリウム塩や、2−ヘキシルデシル硫酸ナトリウム塩などの分岐鎖を有するアルコールを硫酸化した化合物や、硫酸ポリオキシエチレン2−ヘキシルデシルや硫酸ポリオキシエチレン2−ヘキシルデシルなどの分岐鎖を有するアルコールと硫酸基の間にPOE鎖を導入したような化合物や、12−サルフェートステアリン酸1‐メチルエステル(またはアミド)3‐サルフェートへキサン酸1−メチルエステル(またはアミド)などのヒドロキシ脂肪酸エステル(またはアミド)を硫酸化した化合物などを挙げることができる。
【0031】
親水基が硫酸又はその塩である前記アニオン界面活性剤としては、より具体的には下記のアニオン界面活性剤を挙げることができる。
【化4】
【0032】
一般式(1)中のXが―COOM、すなわち親水基がカルボン酸又はその塩である前記アニオン界面活性剤としては、ジアルキルカルボン酸を挙げることができ、その具体例としては、11‐エトキシヘプタデカンカルボン酸ナトリウム塩や2‐エトキシペンタカルボン酸ナトリウム塩などのヒドロキシ脂肪酸のヒドロキシ部分をアルコキシ化し、脂肪酸部分をナトリウム化した化合物や、サルコシンやグリシンなどのアミノ酸のアミノ基にアルコキシ化したヒドロキシ脂肪酸クロリドを反応させ、アミノ酸部のカルボン酸をナトリウム化させた化合物や、アルギニン酸のアミノ基に脂肪酸クロリドを反応させて得られる化合物などを挙げることができる。
【0033】
親水基がカルボン酸又はその塩である前記アニオン界面活性剤としては、より具体的には下記のアニオン界面活性剤を挙げることができる。
【化5】
【0034】
本発明においては、繊維処理剤として、一般式(1)で表されるアニオン界面活性剤とポリオルガノシロキサンが配合された繊維処理剤を用いることにより、繊維処理剤で処理された熱融着性繊維は、熱処理により親水度が低下しやすい繊維となる。この理由は、ポリオルガノシロキサンが、特に2鎖以上のアルキル鎖を有するアニオン界面活性剤の繊維内部への浸透を促進するため、繊維表面の親水度が熱処理によって低下しやすい。これは、ポリオルガノシロキサンのポリシロキサン鎖と、アニオン界面活性剤の持つ、アルキル鎖が不相溶なため、より馴染みやすい繊維内部へ、繊維が加熱溶融した際に、アニオン界面活性剤が浸透するために起こると推定される。
【0035】
前記繊維処理剤中の前記(C)成分の配合割合は、熱処理による親水度の変化を大きくする観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、親水性が高くなりすぎると、液を持ちやすくなりドライ性を損なう観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは13質量%以下である。また、前記(C)成分の前記配合割合は、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上13質量%以下である。
【0036】
繊維処理剤における(A)成分のポリオルガノシロキサンと、(C)成分のアニオン界面活性剤との含有比率(前者:後者)は、質量比で、好ましくは1:3〜4:1であり、より好ましくは1:2〜3:1である。
また、繊維処理剤における(A)成分のポリオルガノシロキサンと、(B)成分のアルキルリン酸エステルとの含有比率(前者:後者)は、質量比で、好ましくは1:5〜10:1であり、より好ましくは1:2〜3:1である。
【0037】
本発明で用いる繊維処理剤は、上述した(A)成分ないし(C)成分に加えて、他の成分を含んでいてよい。前記(A)成分ないし(C)成分以外に配合する他の成分としては、アニオン性、カチオン性、両性イオン性及びノニオン性の界面活性剤等を用いることができる。
【0038】
アニオン性の界面活性剤の例としては、アルキルホスフェートナトリウム塩、アルキルエーテルホスフェートナトリウム塩、ジアルキルホスフェートナトリウム塩、ジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、アルキルベンゼンスルホネートナトリウム塩、アルキルスルホネートナトリウム塩、アルキルサルフェートナトリウム塩、セカンダリーアルキルサルフェートナトリウム塩等が挙げられる(いずれのアルキルも炭素数6以上22以下、特に8以上22以下が好ましい)。これらは、ナトリウム塩に代えてカリウム塩等の他のアルカリ金属塩を用いることもできる。
【0039】
カチオン性の界面活性剤の例としては、アルキル(又はアルケニル)トリメチルアンモニウムハライド、ジアルキル(又はアルケニル)ジメチルアンモニウムハライド、アルキル(又はアルケニル)ピリジニウムハライド等が挙げられ、これらの化合物は、炭素数6以上18以下のアルキル基又はアルケニル基を有するものが好ましい。上記ハライド化合物におけるハロゲンとしては、塩素、臭素等が挙げられる。
【0040】
両性イオン性の界面活性剤の例としては、アルキル(炭素数1〜30)ベタイン、アルキル(炭素数1〜30)ジメチルベタイン、アルキル(炭素数1〜30)アミドアルキル(炭素数1〜4)ジメチルベタイン、アルキル(炭素数1〜30)ジヒドロキシアルキル(炭素数1〜30)ベタイン、スルフォベタイン型両性界面活性剤等のベタイン型両性イオン性界面活性剤や、アラニン型[アルキル(炭素数1〜30)アミノプロピオン酸型、アルキル(炭素数1〜30)イミノジプロピオン酸型等]両性界面活性剤、アルキルベタイン等のグリシン型[アルキル(炭素数1〜30)アミノ酢酸型等]両性界面活性剤などのアミノ酸型両性界面活性剤、アルキル(炭素数1〜30)タウリン型などのアミノスルホン酸型両性界面活性剤が挙げられる。
【0041】
ノニオン性の界面活性剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリ(好ましくはn=2〜10)グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル(いずれも好ましくは脂肪酸の炭素数8〜60)、ポリオキシアルキレン(付加モル数2〜20)アルキル(炭素数8〜22)アミド、ポリオキシアルキレン(付加モル数2〜20)アルキル(炭素数8〜22)エーテル、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、アミノ変性シリコーン等が挙げられる。
【0042】
本発明で用いる繊維処理剤は、変性シリコーン等の膠着防止剤等の処理剤を添加してもよい。
【0043】
図1には、本発明の第1実施形態の不織布1が示されている。
第1実施形態の不織布1は、
図1に示すように、単層構造の不織布である。
第1実施形態の不織布1は、先に述べた通り、第1部11と第1部11に比して厚みが薄い第2部12を有し、片面1aに、第1部11が凸条部13を形成し、第2部12が溝部14を形成している。
第1部11と第2部12は、それぞれ不織布1の一方向Xに延びて形成され、互いに平行に形成されている。また、第1部11と第2部12は、それぞれ複数本形成され、前記一方向Xに直交する方向Yに交互に形成されている。凸条部13及び溝部14も、同様に、それぞれ不織布1の一方向Xに延びて形成され、互いに平行に形成されており、また、それぞれ複数本形成され、前記一方向Xに直交する方向Yに交互に形成されている。
凸条部13は、前記一方向Xにおいて高さが一定であり、溝部14は、前記一方向Xにおいて深さが一定である。また、凸条部13は、断面が半円形である。
【0044】
不織布1は、凸条部13及び溝部14を有する凹凸面となっている第1面1aと、平坦であるか又は前記凹凸面に比して凹凸の程度が明確に小さい第2面1bとを有している。
【0045】
第1実施形態の不織布1は、前述したように、第2部12の繊維密度が、第1部11の繊維密度よりも低くなっている。また、第2部12の親水度が、第1部11の凸条部の頂部P1の親水度よりも低くなっている。
【0046】
本発明に言う「親水度」は、以下に述べる方法で測定された繊維の接触角に基づきその程度が判断される。具体的には、親水度が低いことは接触角が大きいことと同義であり、親水度が高いことは接触角が小さいことと同義である。
【0047】
〔接触角の測定方法〕
不織布の所定の部位から繊維を取り出し、その繊維に対する水の接触角を測定する。測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA−Jを用いる。接触角の測定には蒸留水を用いる。インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC−25)から吐出される液量を20ピコリットルに設定して、水滴を、繊維の真上に滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析や画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に画像が録画される。録画された映像において、不織布から取り出した繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.6.2、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と繊維のなす角を算出し、接触角とする。不織布から取り出した繊維は、繊維長1mmに裁断し、該繊維を接触角計のサンプル台に載せて、水平に維持する。該繊維1本につき異なる2箇所の接触角を測定する。N=5本の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10箇所の測定値を平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を接触角と定義する。
【0048】
第1実施形態の不織布1においては、第1面1a側に液が供給されると、その液の一部は溝部14へと移行するが、前述した通り、その溝部14を形成する第2部12の繊維密度が凸条部13を形成する第1部11の繊維密度より低いことによって、溝部14に移行した液は、第2部12における繊維の隙間を通過して、第2面1b側へと素早く透過する。しかも、第2部12の親水度が、第1部11の親水度、特に凸条部の頂部P1の親水度よりも低いことによって、第2面1b側に移行した液が、繊維密度の低い第2部12を介して、第1面1a側へと移行することも防止される。これにより、不織布1は、凸条部13及び溝部14を有する第1面1aの表面に、液が残りにくいものとなっている。これらの効果は、本発明の不織布を、第1面1a側が着用者の肌側を向くように、吸収性物品の表面シートとして用いた場合に一層顕著なものとなる。
吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、液が第2部12を介して第2面1b側に移行しやすい上に、第1面1a側に戻りにくいことは、着用者の肌に液が接触することを低減して、べたつき等の不快感が生じないようにする観点や、経血等の色つきの液体が目立つのを防ぎ、吸液後の吸収性物品の外観を良好とする観点から好ましい。
【0049】
液が第2部12を介して第2面1b側に移行しやすくする観点から、第2部12の繊維密度(d2)は、第1部11の繊維密度(d1)に対する割合(%)が、好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下であり、また、好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上であり、また、好ましくは5%以上80%以下であり、更に好ましくは10%以上70%以下である。
同様の観点から、第1部11の繊維密度(d1)は、好ましくは0.10g/cm
3以下、更に好ましくは0.07g/cm
3以下であり、また、好ましくは0.01g/cm
3以上、更に好ましくは0.02g/cm
3以上であり、また、好ましくは0.01g/cm
3以上0.10g/cm
3以下、更に好ましくは0.02g/cm
3以上0.07g/cm
3以下である。
【0050】
〔第1部及び第2部の繊維密度の測定方法〕
繊維密度は、まず測定したい場所の不織布を切り取る。この際不織布は溝の長さ方向が50mm、幅方向も50mmとする。測定ケ所の幅が狭い場合は、複数個所をカッター等で切り取り合計50mmとなるようにする。その合計重量から不織布の単位面積当たりの重量を測定する。次に不織布を液体窒素中で冷凍した後、それをカッターで、
図1のX方向に切断する。次にその断面をマイクロスコープで撮影した写真(倍率20倍)から測定したい部分の断面の厚さ(mm)を測定する。不織布の単位面積当たりの重量を不織布の断面の厚さで除した値を繊維密度とする。
【0051】
液が第2部12を介して第2面1b側に移行しやすくするとともに、移行した液が第1面1a側に戻りにくくする観点から、第2部12は、繊維に対する水の接触角が、好ましくは60度以上、更に好ましくは65度以上であり、また、好ましくは80度以下、更に好ましくは75度以下であり、また、好ましくは60度以上80度以下、更に好ましくは65度以上75度以下である。同様の観点から、第2部12と第1部11の凸条部の頂部P1とは、第2部12の接触角が頂部P1の接触角よりも高いことを前提にして、繊維に対する水の接触角の差が、好ましくは1度以上であり、また、好ましくは10度以下、更に好ましくは5度以下であり、また、好ましくは1度以上10度以下、更に好ましくは1度以上5度以下である。
なお、第2部について、繊維に対する水の接触角を測定するための繊維は、第2部12の厚み方向における、第2面1bとは反対側に位置する表面部位P4から採取する。また、第1部11について、繊維に対する水の接触角を測定するための繊維は、頂部P1については、頂部P1から採取し、底部P3については、不織布1の第2面1b上における該頂部P1と重なる部位から採取し、中間部位P2について、第1部における、頂部P1と底部P3との間を2等分する部位から採取する。
【0052】
また、第1実施形態の不織布1は、前述したように、第1部11が、凸条部14の頂部P1から、該凸条部が突出する第1面1a側とは反対側の第2面1b上の底部P3に向けて親水度に勾配を有している。
つまり、第1実施形態の不織布1における第1部11は、凸条部14の頂部P1、第2面1b上の底部P3、及び中間部位P2の親水度を比較したときに、底部P3の親水度が最も高く、中間部位P2の親水度が次に高く、頂部P1の親水度が最も低くなっている。
【0053】
第1実施形態の不織布1においては、第1面1a側に液が供給されると、前述した通り、その液の一部は溝部14へと移行するが、第1部11の厚み方向にも、親水度に、このような勾配が設けられていることに起因して、供給された液の他の一部は、凸条部13の表面から凸条部13に取り込まれるとともに、親水度の勾配によって、取り込まれた液が、凸条部13の頂部P1から底部P3に向かって誘導される。そのため、凸条部13の表面から吸収した液を、不織布1内の頂部P1から離れた位置にスムーズに誘導でき、凸条部13の頂部P1付近や中間部位P2付近に液が残留しにくくなる。
これらの効果は、本発明の不織布を、第1面1a側が着用者の肌側を向くように、吸収性物品の表面シートとして用いた場合に一層顕著なものとなる。
吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、液が、凸条部13の頂部P1付近や中間部位P2付近に液が残留しにくくなることは、着用者の肌の表面から液を迅速に隔離して、べたつき等の不快感が生じないようにする観点や、経血等の色つきの液体が目立つのを防ぎ、吸液後の吸収性物品の外観を良好とする観点から好ましい。
【0054】
凸条部13の表面から取り込まれた液を底部P3にスムーズに移行させる観点から、第1部11は、頂部P1の接触角が底部P3の接触角よりも大きいことを前提として、頂部P1と底部P3とは、繊維に対する水の接触角の差が好ましくは1度以上、更に好ましくは4度以上であり、また、好ましくは15度以下、更に好ましくは10度以下であり、また、好ましくは1度以上15度以下、更に好ましくは4度以上10度以下である。
また、頂部P1の接触角が中間部位P2の接触角よりも大きいことを前提として、頂部P1と中間部位P2とは、繊維に対する水の接触角の差が好ましくは1度以上、更に好ましくは2度以上であり、好ましくは1度以上10度以下、更に好ましくは2度以上5度以下である。また、中間部位P2の接触角より底部P3の接触角が大きいことを前提として、中間部位P2と底部P3とは、繊維に対する水の接触角の差が好ましくは1度以上、更に好ましくは2度以上であり、また、好ましくは1度以上10度以下、更に好ましくは2度以上5度以下である。
【0055】
親水度が漸次高くなっているか、それともステップ状に高くなっているかを問わず、第1部11においては、凸条部13の頂部P1に存在する繊維に対する水の接触角が60度以上、特に65度以上であることが好ましく、また80度以下、特に75度以下であることが好ましく、また、60度以上80度以下であることが好ましく、65度以上75度以下であることが更に好ましい。また、第1部11の底部P3に存在する繊維に対する水の接触角は50度以上、特に55度以上であることが好ましく、また75度以下、特に70度以下であることが好ましく、また、50度以上75度以下であることが好ましく、55度以上70度以下であることが好ましい。
【0056】
上述した一又は二以上の効果が一層確実に奏されるようにする観点や、不織布1の性能の一層の向上の観点から、第2部12の親水度が、第1部11の底部P3の親水度より低いことが好ましく、第2部12と第1部の底部P3とで、繊維に対する水の接触角との差が、好ましくは1度以上、更に好ましくは5度以上であり、また、15度以下であることが好ましく、10度以下であることが更に好ましく、また、好ましくは1度以上15度以下、更に好ましくは5度以上10度以下である。
【0057】
また、上述した一又は二以上の効果が一層確実に奏されるようにする観点や、不織布1の性能の一層の向上の観点から、第2部12の厚みt2は、第1部11の厚みt1に対する割合(%)が、好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下であり、また、好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。また、第2部12の厚みt2は、好ましくは1.2mm以下、更に好ましくは0.8mm以下であり、また、好ましくは0.2mm以上、更に好ましくは0.4mm以上である。
また、同様の観点から、第1部11の厚みt1と第2部12の厚みt2との差t3、換言すれば、凸条部13の高さ又は溝部の深さは、第1部11の厚みt1に対して、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、また、好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下であり、また、好ましくは10%以上80%以下であり、更に好ましくは20%以上70%以下である。
また、同様の観点から、第1部11の厚みt1と第2部12の厚みt2との差t3は、好ましくは0.1mm以上、更に好ましくは0.2mm以上であり、また、好ましくは1.0mm以下、更に好ましくは0.8mm以下であり、また、好ましくは0.1mm以上1.0mm以下、更に好ましくは0.2mm以上0.8mm以下である。
【0058】
〔第1部の厚み及び第2部の厚みの測定方法〕
第一部及び第二部の厚みを測定するには、不織布を液体窒素中で冷凍した後、それをカッターで、
図1のX方向に切断する。次にその断面をマイクロスコープで撮影した写真から厚みを測定する。この写真の倍率は20倍以上とする。
【0059】
また、不織布1は、凸条部13の幅W1が、好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.8mm以上であり、また、好ましくは10.0mm以下、更に好ましくは6.0mm以下であり、また、好ましくは0.5mm以上10.0mm以下、更に好ましくは0.8mm以上6.0mm以下である。
また、不織布1は、溝部14の幅W2が、好ましくは0.2mm以上、更に好ましくは0.4mm以上であり、また、好ましくは3.0mm以下、更に好ましくは2.0mm以下であり、また、好ましくは0.2mm以上3.0mm以下、更に好ましくは0.4mm以上2.0mm以下である。
【0060】
不織布1を構成する繊維は、繊維の交点においてエアスルー方式で融着している。付加的に、不織布1を構成する繊維は、エアスルー方式の融着以外の手段で結合していてもよい。例えば熱エンボス加工による融着、高圧ジェット流による絡合、接着剤による接着などの手段で付加的に結合していてもよい。
【0061】
次に、本発明の不織布に含まれる、前記繊維処理剤が付着した前記熱融着性繊維について説明する。熱融着性繊維は、繊維処理剤が付着していることによって、これを付着させる前に比して、繊維の表面の親水度が高められている。繊維処理剤の付着量は、繊維処理剤を除く熱融着性繊維の全質量に対する割合が、繊維の親水度を高める観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.1〜1.5質量%であり、より好ましくは0.2〜1.0質量%である。
【0062】
繊維処理剤を熱融着性繊維の表面に付着させる方法としては、各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、スプレーによる塗布、スロットコーターによる塗布、ロール転写による塗布、繊維処理剤への浸漬等が挙げられる。これらの処理は、ウエブ化する前の繊維に対して行ってもよいし、繊維を各種の方法でウエブ化した後に行ってもよい。ただし、後述するエアスルー処理よりも前に処理を行う必要がある。繊維処理剤が表面に付着した繊維は、例えば、熱風送風式の乾燥機により、ポリエチレン樹脂の融点より十分に低い温度(例えば120℃以下)で乾燥される。
【0063】
熱融着性繊維としては、例えば熱融着性芯鞘型複合繊維、非熱伸長性繊維、熱収縮繊維、立体捲縮繊維、潜在捲縮繊維、中空繊維等を挙げることができる。これらの繊維は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの繊維のうち、熱融着性芯鞘型複合繊維を用いることが特に好ましい。
【0064】
熱融着性繊維は、繊維処理剤の付着の前後いずれにおいても熱融着性を有し、かつ芯鞘型の複合構造を有している。芯鞘型の複合繊維は、同心の芯鞘型でも、偏心の芯鞘型でも
よい。熱融着性繊維は、サイド・バイ・サイド型でも、異型形でもよい。特に同心の芯鞘型であることが好ましい。繊維がどのような形態をとる場合であっても、柔軟で肌触り等のよい不織布等を製造する観点からは、熱融着性繊維の繊度は1.0dtex以上10.0dtex以下が好ましく、2.0dtex以上8.0dtex以下であることがより好ましい。
【0065】
特に好ましい熱融着性芯鞘型複合繊維としては、例えば、特開2010−168715号公報に記載の「ポリエチレン樹脂を含む鞘部及び該ポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分からなる芯部を有する芯鞘型複合繊維(以下、この繊維を芯鞘型複合繊維Pと言う)」が挙げられる。芯鞘型複合繊維Pの鞘部を構成するポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられる。特に、密度が0.935〜0.965g/cm
3である高密度ポリエチレンであることが好ましい。芯鞘型複合繊維Pの鞘部を構成する樹脂成分は、ポリエチレン樹脂単独であることが好ましいが、他の樹脂をブレンドすることもできる。ブレンドする他の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が挙げられる。ただし、鞘部を構成する樹脂成分は、鞘部の樹脂成分中の50質量%以上が、特に70質量%以上100質量%以下がポリエチレン樹脂であることが好ましい。また、芯鞘型複合繊維Pの鞘部を構成するポリエチレン樹脂は、結晶子サイズが10nm以上20nm以下であることが好ましく、11.5nm以上18nm以下であることがより好ましい。
【0066】
芯鞘型複合繊維Pの鞘部は、熱融着性芯鞘型複合繊維に熱融着性を付与するとともに、熱処理時に、前述した繊維処理剤を内部に取り込む役割を担う。他方、芯部は、熱融着性芯鞘型複合繊維に強度を付与する部分である。芯鞘型複合繊維Pの芯部を構成する樹脂成分としては、鞘部の構成樹脂であるポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分を特に制限なく用いることができる。芯部を構成する樹脂成分としては、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂を除く)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂等が挙げられる。更に、ポリアミド系重合体や前述した樹脂成分の2種以上の共重合体なども使用することができる。複数種類の樹脂をブレンドして使用することもでき、その場合、芯部の融点は、融点が最も高い樹脂の融点とする。
繊維処理剤を付着させる熱融着性芯鞘型複合繊維は、芯部を構成する樹脂成分の融点と鞘部を構成する樹脂成分との融点の差(前者−後者)が、20℃以上であることが、不織布の製造が容易となることから好ましく、また150℃以下であることが好ましい。芯部を構成する樹脂成分が複数種類の樹脂のブレンドである場合の融点は、融点が最も高い樹脂の融点とする。
【0067】
繊維処理剤を付着させる熱融着性芯鞘型複合繊維は、加熱によってその長さが伸びる繊維(以下、熱伸長性複合繊維とも言う)であることが好ましい。熱伸長性繊維としては、例えば加熱により樹脂の結晶状態が変化して自発的に伸びる繊維が挙げられる。熱伸長性繊維は、不織布中において、加熱によってその長さが伸長した状態、及び/又は、加熱によって伸長可能な状態で存在している。熱伸長性繊維は、加熱時に、表面の繊維処理剤が内部に取り込まれやすく、繊維やそれを用いて製造した不織布等に、加熱処理によって親水度の大きく異なる複数の部分を形成しやすくなる。
【0068】
好ましい熱伸長性複合繊維は、芯部を構成する第1樹脂成分と、鞘部を構成する、ポリエチレン樹脂を含む第2樹脂成分とを有しており、第1樹脂成分は、第2樹脂成分より高い融点を有している。第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用い、細かく裁断した繊維試料(サンプル重量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定し、その融解ピーク温度で定義される。第2樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合、その樹脂を「融点を持たない樹脂」と定義する。この場合、第2樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に第2樹脂成分が融着する温度を軟化点とし、これを融点の代わりに用いる。
【0069】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分の好ましい配向指数は、用いる樹脂により自ずと異なるが、例えばポリプロピレン樹脂の場合は、配向指数が60%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは25%以下である。第1樹脂成分がポリエステルの場合は、配向指数が25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。一方、第2樹脂成分は、その配向指数が5%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上であり、更に好ま
しくは30%以上である。配向指数は、繊維を構成する樹脂の高分子鎖の配向の程度の指標となるものである。そして、第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数がそれぞれ前記の値であることによって、熱伸長性複合繊維は、加熱によって伸長するようになる。
【0070】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数は、特開2010−168715号公報の段落〔0027〕〜〔0029〕に記載の方法によって求められる。また、熱伸長性複合繊維における各樹脂成分が前記のような配向指数を達成する方法は、特開2010−168715号公報の段落〔0033〕〜〔0036〕に記載されている。
【0071】
熱伸長性複合繊維は、第1樹脂成分の融点よりも低い温度において熱によって伸長可能になっている。そして熱伸長性複合繊維は、第2樹脂成分の融点(融点を持たない樹脂の場合は軟化点)より10℃高い温度での熱伸長率が0.5〜20%であることが好ましく、より好ましくは3〜20%、更に好ましくは5.0〜20%である。このような熱伸長率の繊維を含む不織布は、該繊維の伸長によって嵩高くなり、あるいは立体的な外観を呈する。繊維の熱伸長率は、特開2010−168715号公報の段落〔0031〕〜〔0032〕に記載の方法によって求められる。
【0072】
熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分と第2樹脂成分との比率(質量比、前者:後者)は10:90〜90:10、特に20:80〜80:20、とりわけ50:50〜70:30であることが好ましい。熱伸長性複合繊維の繊維長は、不織布の製造方法に応じて適切な長さのものが用いられる。不織布を例えば後述するようにカード法で製造する場合には、繊維長を30〜70mm程度とすることが好ましい。
【0073】
熱伸長性複合繊維の繊維径は、不織布の具体的な用途に応じ適切に選択される。不織布を吸収性物品の表面シート等の吸収性物品の構成部材として用いる場合には、10〜35μm、特に15〜30μmのものを用いることが好ましい。なお熱伸長性複合繊維は、伸長によってその繊維径が小さくなるところ、前記の繊維径とは、不織布を実際に使用するときの繊維径のことである。
【0074】
熱伸長性複合繊維としては、上述の熱伸長性複合繊維のほかに、特許第4131852号公報、特開2005−350836号公報、特開2007−303035号公報、特開2007−204899号公報、特開2007−204901号公報及び特開2007−204902号公報等に記載の繊維を用いることもできる。
【0075】
熱融着性繊維として、熱伸長性繊維と非熱伸長性繊維を混綿されたものを用いてもよい。非熱伸長性繊維は、高融点成分と低融点成分とを含み、低融点成分が繊維表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して存在している二成分系の複合繊維である。複合繊維(非熱伸長性繊維)の形態には芯鞘型やサイド・バイ・サイド型などの様々な形態があり、いずれの形態であっても用いることができる。熱融着性の複合繊維は原料の段階で延伸処理が施されている。ここで言う延伸処理とは、延伸倍率2〜6倍程度の延伸操作のことである。熱伸長性繊維と非熱伸長性繊維との混合割合は、質量比で、前者:後者が1:9〜9:1が好ましく、より好ましくは4:6〜6:4である。これにより熱風で不織布の嵩を回復させることがより容易になり、それぞれの繊維を単独で用いるよりも、肌触りとドライ性の良好な不織布とすることができる。また、第1層に熱伸長性繊維を用い、第2層に非熱伸長性繊維を用いてもよいし、第2層に熱伸長性繊維を用い、第2層に非熱伸長性繊維を用いてもよい。
【0076】
第1実施形態の不織布1は、例えば、ウエブの形成工程、凹凸形成工程、熱風処理工程を具備する不織布の製造方法により容易に製造することができる。
ウエブの形成工程においては、繊維処理材が表面に付着した熱融着性繊維を構成繊維として含む繊維ウエブを形成する。繊維ウエブの形成方法としては、カード法、エアレイド法、スパンボンド法等の各種公知の方法を用いることができる。繊維ウエブは、典型的には厚みが均一なものである。繊維処理材は、繊維の段階で付着させておくことが、厚み方向及び平面方向に繊維処理剤を分布させ得るので好ましいが、繊維ウエブの形成後に適宜の方法により付着させても良い。特に好ましい方法は、繊維処理材が表面に付着した熱融着性繊維を、カード機11にかけて繊維ウエブとする方法である。カード機を用いるカード法により形成した繊維ウエブは、凹凸形成工程において、繊維の再配置による凹凸の形成が容易である。
【0077】
凹凸形成工程においては、ウエブの形成工程で得られた繊維ウエブに対して、噴射ノズルから空気等の流体を噴射し、その圧力によって、繊維ウエブの表面の繊維を移動させ、該繊維ウエブの片面に凸条部と溝部とを有する凹凸面を形成する。ウエブの形成工程において帯状の繊維ウエブを形成し、凹凸形成工程においては、その繊維ウエブをその長手方向に搬送しながら、その搬送方向に直交する方向に間欠に配置した複数の噴射ノズルから流体を噴射し、繊維ウエブの搬送方向に沿って連続して延びる溝部13及び凸条14を形成することが好ましい。繊維ウエブに対して噴射する流体は、空気、窒素等の気体であることが好ましい。あるいは水蒸気等の液体の蒸気を含むものが例示できる。また気体の中に固体または液体の微粒子を含ませることもできる。繊維ウエブに対して吹き付ける気体は、温度が、繊維ウエブを構成する熱融着性繊維が融解しない温度であることが好ましく、繊維を構成する樹脂融点プラス50度未満であることが溝部形成途中で繊維が融着し溝部の形成を妨げる事を防ぐ点から好ましい。また溝部(凹凸)等の成形性を良好にするには、繊維集合体を構成する少なくとも熱可塑性繊維の軟化点以上であることが、繊維を柔らかくし凹凸を形成する上で望ましい。
【0078】
熱風処理工程においては、
図4に示すように、凹凸形成後の繊維ウエブ15を、凹凸面を上方に向けて、耐熱性のネット16等からなる通気性の搬送手段に載せて搬送しつつ、該繊維ウエブ15に対して上方から熱風17を吹き付ける。熱風の吹き付けは、熱風を貫通させるエアスルー方式の熱風処理装置を用いることが好ましい。
本製造方法においては、前述した凹凸形成工程において、繊維の再配置により凹凸を形成しており、凹部を有する第2部相当部分12’の繊維密度が低下しているため、第2部相当部分12’に凸条部を有する第1部相当部分11’に比して多量の熱風が流通する。これにより、得られた不織布1は、第2部12の親水度が、第1部11の頂部P1等の親水度よりも低いものとなる。また、繊維ウエブ15の第1部相当部分11’は、熱風を吹き付ける吹き付け面から反対側のネット面側にむかって、受ける熱量が低下するため、親水度が低下する程度が最も大きいのが頂部P1、最も小さいが底部P3となる。そのため、得られた不織布1の第1部は、底部P3の親水度が最も高く、中間部位P2の親水度が次に高く、頂部P3の親水度が最も低いものとなっている。
【0079】
このようにして得られた本発明の不織布には、その後、二次加工を施してもよい。二次加工としては、例えば公知の立体賦形加工が挙げられる。
【0080】
図3には、本発明の第2実施形態の不織布1Aが示されている。不織布1Aは、エアスルー不織布であり、且つ第1層10及び第2層20を含む多層構造を有する。第1層10と第2層20とは隣接して直接に接しており、両層間に他の層は介在していない。本実施形態の不織布1Aは、繊維処理剤が付着した熱融着性繊維を、第1層10及び第2層20の両層に含んでいるが、他の実施形態としては、第1層10及び第2層20の何れか一方のみに含んでいても良い。
【0081】
第1層10と第2層20とは、それらの層を構成する繊維の材料の種類、繊維の太さ、親水化処理の有無、層の形成方法等の要因によって区別される。本発明のエアスルー不織布の厚さ方向断面を電子顕微鏡で拡大すると、これらの要因に起因して、両層の境界部分を観察することができる。
熱融着性繊維の繊度は、第1層10と第2層20とで同じであってもよく、あるいは相違していてもよい。各層10,20における熱融着性繊維の繊度が相違する場合、第1層10に含まれる熱融着性繊維の繊度よりも、第2層20に含まれる熱融着性繊維の繊度の方が大きいことが好ましい。
第1層10と第2層20とを含む多層構造の不織布1Aは、ウエブの形成工程において、第1ウエブ及び第2ウエブを重ねた積層ウエブを製造し、凹凸形成工程において、第1ウエブ側から気体等の流体を噴射する以外は、前述した不織布1の製造方法と同様にして製造することができるが、その流体を吹き付ける際に、第1層側の第1ウエブの繊度を小さくしておくと、流体の圧力で、溝部となる部分から、繊維が細く密である第1ウエブの繊維が移動し易い一方、繊維が太く疎である第2ウエブの繊維は移動しにくいため、溝部14を形成する第2部12における繊維間距離が一層拡大する。これにより、第2部12を介した液の透過性に一層優れた不織布が得られる。
【0082】
第2層20の繊度は、液の透過性の観点から、好ましくは1dtex以上、更に好ましくは2dtex以上であり、透過した液の液戻り防止の観点から、好ましく7dtex以下、更に好ましく6dtex以下である。また、第2層20の繊度と、第1層10の繊度との差は、好ましくは1dtex以上、更に好ましくは2dtex以上であり、また、好ましくは5dtex以下、更に好ましく4dtex以下である。
第2実施形態の不織布1Aも、第1実施形態の不織布1と同様に、第2部12の繊維密度が、第1部11の繊維密度よりも低くなっており、また、第2部12の親水度が、第1部11の凸条部の頂部P1の親水度よりも低くなっている。また、第2実施形態の不織布1Aにおける第1部11も、凸条部14の頂部P1、第2面1b上の底部P3、及び中間部位P2の親水度を比較したときに、底部P3の親水度が最も高く、中間部位P2の親水度が次に高く、頂部P1の親水度が最も低くなっている。そのため、第2実施形態の不織布1Aも、前述したように、第2部12の繊維密度が、第1部11の繊維密度よりも低くなっている。また、第2部12の親水度が、第1部11の凸条部の頂部P1の親水度よりも低くなっている。そのため、第2実施形態の不織布1Aによっても、第1実施形態の不織布1と同様の作用効果が奏される。
【0083】
本発明の不織布は、その厚み方向及び/又は平面方向に沿った親水度の勾配を活かして、種々の分野に適用できる。例えば生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ、失禁パッドなどの身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品における表面シート、セカンドシート(表面シートと吸収体との間に配されるシート)、裏面シート、防漏シート、あるいは対人用清拭シート、スキンケア用シート、更に対物用のワイパーなどとして好適に用いられる。本発明のエアスルー不織布を吸収性物品の表面シートやセカンドシートとして用いる場合には、該エアスルー不織布の第1面1a層側を肌対向面側として用いることが好ましい。本発明の不織布は、吸収性物品の表面シートとして用いる場合には、第1面1a側を着用者の肌側に向けられる使用面とすることが、該不織布が有する種々の特性を最大限活かすことができるので好ましい。
【0084】
エアスルー不織布の製造に用いるウエブの坪量は、目的とするエアスルー不織布の具体的な用途に応じて適切な範囲が選択される。最終的に得られる不織布の坪量は、10g/m
2以上80g/m
2以下、特に15g/m
2以上60g/m
2以下であることが好ましい。
【0085】
身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品は、典型的には、表面シート、裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備している。本発明のエアスルー不織布を表面シートとして用いた場合の吸収体及び裏面シートとしては、当該技術分野において通常用いられている材料を特に制限なく用いることができる。例えば吸収体としては、パルプ繊維等の繊維材料からなる繊維集合体又はこれに吸収性ポリマーを保持させたものを、ティッシュペーパーや不織布等の被覆シートで被覆してなるものを用いることができる。裏面シートとしては、熱可塑性樹脂のフィルムや、該フィルムと不織布とのラミネート等の液不透過性ないし撥水性のシートを用いることができる。裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。吸収性物品は更に、該吸収性物品の具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。例えば吸収性物品を使い捨ておむつや生理用ナプキンに適用する場合には、表面シート上の左右両側部に一対又は二対以上の立体ガードを配置することができる。
【0086】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述した実施形態に制限されず適宜変更可能である。
例えば、凸条部14の断面形状は、半円形に代えて、三角形、四角形等であっても良い。また、凸状部14の断面形状は、半円形に代えて、半円がつぶれたような半楕円形状であってもよいし、凸状部14の延びる方向において、断面形状が変化していてもよい。
【0087】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の不織布を開示する。
<1>
繊維処理剤が付着している熱融着性繊維を含む不織布であって、
第1部と第1部より厚みが薄い第2部とを交互に有し、片面に、第1部が凸条部を形成し、第2部が溝部を形成しており、
第2部の繊維密度が、第1部の繊維密度よりも低く、
前記繊維処理剤が、下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する不織布。
(A)ポリオルガノシロキサン、
(B)アルキルリン酸エステル、
(C)下記の一般式(1)で表わされるアニオン界面活性剤
【化1】
(式中、Zはエステル基、アミド基、アミン基、ポリオキシアルキレン基、エーテル基若しくは2重結合を含んでいてもよい、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル鎖を表わし、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、エステル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基、エーテル基若しくは2重結合を含んでいてもよい、炭素数2〜16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表わし、Xは―SO
3M、―OSO
3M又は―COOMを表わし、MはH、Na、K、Mg、Ca又はアンモニウムを表わす。)
【0088】
<2>
第2部の親水度が、第1部の凸条部の頂部の親水度よりも低い、前記<1>に記載の不織布。
<3>
第2部は、繊維に対する水の接触角が、好ましくは60度以上、更に好ましくは65度以上であり、また、好ましくは80度以下、更に好ましくは75度以下である、前記<1>又は<2>に記載の不織布。
<4>、
第1部11においては、凸条部13の頂部P1に存在する繊維に対する水の接触角が60度以上、特に65度以上であることが好ましく、また80度以下、特に75度以下であることが好ましい、前記<1>〜<3>の何れか1に記載の不織布。
<5>
第2部12と第1部11の凸条部の頂部P1とは、第2部12の接触角が頂部P1の接触角よりも高いことを前提にして、繊維に対する水の接触角の差が、好ましくは1度以上、更に好ましくは2度以上であり、また、好ましくは10度以下、更に好ましくは5度以下であり、また、好ましくは1度以上10度以下、更に好ましくは1度以上5度以下である、前記<1>〜<4>の何れか1に記載の不織布。
<6>
第1部は、前記凸条部の頂部P1、該凸条部が突出する第1面側とは反対側の第2面上の底部P3、及び該頂部P1と該底部P3との中間部位P2の親水度を比較したときに、底部P3の親水度が最も高く、中間部位P2の親水度が次に高く、頂部P1の親水度が最も低くなっている、前記<1>〜<5>の何れか1に記載の不織布。
<7>
第2部の親水度が、第1部の前記底部P3の親水度より低い、前記<6>に記載の不織布。
<8>
第1部11は、頂部P1の接触角が底部P3の接触角よりも大きいことを前提として、頂部P1と底部P3とは、繊維に対する水の接触角の差が好ましくは1度以上、更に好ましくは4度以上であり、また、好ましくは15度以下、更に好ましくは10度以下である、る、前記<6>又は<7>の何れか1に記載の不織布。
<9>
頂部P1の接触角が中間部位P2の接触角よりも大きいことを前提として、頂部P1と中間部位P2とは、繊維に対する水の接触角の差が好ましくは1度以上、更に好ましくは2度以上であり、好ましくは1度以上10度以下、更に好ましくは2度以上10度以下である、前記<6>〜<8>の何れか1に記載の不織布。
<10>
中間部位P2の接触角より底部P3の接触角が大きいことを前提として、中間部位P2と底部P3とは、繊維に対する水の接触角の差が好ましくは1度以上、更に好ましくは2度以上であり、また、好ましくは1度以上10度以下、更に好ましくは2度以上10度以下である、前記<6>〜<9>の何れか1に記載の不織布。
<11>
第1部11においては、凸条部13の頂部P1に存在する繊維に対する水の接触角が60度以上、特に65度以上であることが好ましく、また80度以下、特に75度以下であることが好ましい、前記<1>〜<10>の何れか1に記載の不織布。
<12>
第1部11の底部P3に存在する繊維に対する水の接触角は50度以上、特に55度以上であることが好ましく、また75度以下、特に70度以下であることが好ましい、前記<1>〜<11>の何れか1に記載の不織布。
<13>
第2部12の親水度が、第1部11の底部P3の親水度より低いことが好ましく、第2部12と第1部の底部P3とで、繊維に対する水の接触角との差が、好ましくは1度以上、更に好ましくは5度以上であり、また、15度以下であることが好ましく、10度以下であることが更に好ましい、前記<1>〜<12>の何れか1に記載の不織布。
<14>
第1部は、前記凸条部の頂部に近い側に、第1層を有し、該頂部から遠い側に、構成繊維の繊維径が第1層よりも太い第2層を有する、前記<1>〜<13>の何れか1に記載の不織布。
<15>
前記熱融着性繊維が、熱融着性を有する熱伸長性繊維である前記<1>〜<14>のの何れか1に記載の不織布。
<16>
前記熱伸長性複合繊維は、第2樹脂成分の融点(融点を持たない樹脂の場合は軟化点)より10℃高い温度での熱伸長率が0.5〜20%であることが好ましく、より好ましくは3〜20%、更に好ましくは5.0〜20%である、前記<15>に記載の不織布。
<17>
前記ポリオルガノシロキサンがポリジメチルシロキサンである、前記<1>〜<16>の何れか1に記載の不織布。
<18>
ポリオルガノシロキサンの分子量は、重量平均分子量で好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、好ましくは100万以下、より好ましくは80万以下、更に好ましくは60万以下である、前記<1>〜<17>の何れか1に記載の不織布。
<19>
ポリオルガノシロキサンとして、分子量の異なる2種類以上のポリオルガノシロキサンを用いられている、前記<1>〜<18>の何れか1に記載の不織布。
<20>
分子量が異なる2種類以上のポリオルガノシロキサンは、そのうちの一種類は、重量平均分子量が、好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、また、好ましくは100万以下、より好ましくは80万以下、更に好ましくは60万以下であり、他の一種類は、重量平均分子量が、好ましくは10万未満、より好ましくは5万以下、より好ましくは3万5千以下、更に好ましくは2万以下であり、また、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、更に好ましくは5000以上である、前記<19>に記載の不織布。
<21>
重量平均分子量が10万以上のポリオルガノシロキサンと重量平均分子量が10万未満のポリオルガノシロキサンとの好ましい配合比率(前者:後者)は、質量比で、好ましくは1:10〜4:1、より好ましくは1:5〜2:1である、前記<19>又は<20>に記載の不織布。
<22>
前記ポリオルガノシロキサンが前記繊維処理剤の全質量に対して1質量%以上30質量%以下の割合で含まれている、前記<1>〜<21>の何れか1に記載の不織布。
<23>
ポリオルガノシロキサンの繊維処理剤中の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、7.5質量%以上であることがより好ましく、また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以下がより好ましい、前記<1>〜<22>の何れか1に記載の不織布。
<24>
(B)成分であるアルキルリン酸エステルが、炭素鎖が16〜18のモノ又はジアルキルリン酸エステルの完全中和又は部分中和塩である、前記<1>〜<23>の何れか1に記載の不織布。
<25>
前記繊維処理剤中の(B)成分の配合割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である、前記<1>〜<24>の何れか1に記載の不織布。
<26>
前記(C)成分が、ジアルキルスルホン酸又はその塩である、前記<1>〜<25>の何れか1に記載の不織布。
<27>
前記繊維処理剤中の前記(C)成分の配合割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは13質量%以下である、前記<1>〜<26>の何れか1に記載の不織布。
<28>
繊維処理剤における(A)成分のポリオルガノシロキサンと、(B)成分のアルキルリン酸エステルとの含有比率(前者:後者)は、質量比で、好ましくは1:5〜10:1であり、より好ましくは1:2〜3:1である、前記<1>〜<27>の何れか1に記載の不織布。
<29>
前記(A)成分と前記(C)成分との含有比率(前者:後者)が、質量比で1:3〜4:1である、前記<1>〜<28>の何れか1に記載の不織布。
<30>
第1部11と第2部12は、それぞれ不織布1の一方向Xに延びて形成され、互いに平行に形成されており、第1部11と第2部12は、それぞれ複数本形成され、前記一方向Xに直交する方向Yに交互に形成されている、前記<1>〜<29>の何れか1に記載の不織布。
<31>
凸条部13及び溝部14も、それぞれ不織布1の一方向Xに延びて形成され、互いに平行に形成されており、また、それぞれ複数本形成され、前記一方向Xに直交する方向Yに交互に形成されている、前記<30>に記載の不織布。
<32>
凸条部13は、前記一方向Xにおいて高さが一定であり、溝部14は、前記一方向Xにおいて深さが一定である、前記<30>又は<31>に記載の不織布。
<33>
不織布1は、凸条部13及び溝部14を有する凹凸面となっている第1面1aと、平坦であるか又は前記凹凸面に比して凹凸の程度が明確に小さい第2面1bとを有している、前記<1>〜<32>の何れか1に記載の不織布。
<34>
第2部12の繊維密度(d2)は、第1部11の繊維密度(d1)に対する割合(%)が、好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下であり、また、好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である、前記<1>〜<33>の何れか1に記載の不織布。
<35>
第1部11の繊維密度(d1)は、好ましくは0.10g/cm3以下、更に好ましくは0.07g/cm3以下であり、また、好ましくは0.01g/cm3以上、更に好ましくは0.02g/cm3以上である、前記<1>〜<34>の何れか1に記載の不織布。
<36>
第2部12の厚みt2は、第1部11の厚みt1に対する割合(%)が、好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下であり、また、好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である、前記<1>〜<35>の何れか1に記載の不織布。
<37>
第1部11の厚みt1と第2部12の厚みt2との差t3は、好ましくは0.1mm以上、更に好ましくは0.2mm以上であり、また、好ましくは1.0mm以下、更に好ましくは0.8mm以下である、前記<1>〜<36>の何れか1に記載の不織布。
<38>
液透過性の表面シートとして、前記<1>〜<36>の何れか1に記載の不織布を用いた吸収性物品であって、
前記不織布は、前記凸条部及び前記溝部を有する面側が、着用者の肌側を向くように用いられている吸収性物品。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0090】
〔実施例1ないし4〕
繊維処理剤を付着させた熱融着性繊維を原料としてカード機により繊維ウエブに製造した後、その繊維ウエブに対して、複数の噴射ノズルから空気を噴射し、表面の繊維を移動させて凹凸を有する繊維ウエブを形成した。その繊維ウエブに対して、
図4に示すように、エアスルー方式の熱風処理を施し、
図1に示す形態のエアスルー不織布を得た。
ウエブの原料繊維を以下の表1に示す。同表には、各原料繊維に対して施した繊維処理剤の組成も記載されている。熱風処理の熱風の温度は136℃、風速は0.5m/secに設定した。また、円形(直径1mm)の噴射ノズルから噴射させた圧搾空気の温度は20から30℃の常温で、風量は10L/分・孔であった。このようにして、同表に示す坪量を有する単層構造のエアスルー不織布を得た。
【0091】
表1に示す熱融着性繊維1は、芯がポリエチレンテレフタレートであり、鞘がポリエチレンである同心タイプの芯鞘型複合繊維であり、芯と鞘との質量比は芯:鞘=50:50であり、繊度は3.3dtexで、繊維長は51mmであった。また、表2に示す熱融着性繊維2は、芯がポリエチレンテレフタレートであり、鞘がポリエチレンである同心タイプの芯鞘型複合繊維であり、芯と鞘との質量比は芯:鞘=50:50であり、繊度は6,6dtexで、繊維長は51mmであった。また、同表に示す熱伸長性繊維は、芯がポリエチレンテレフタレートであり、鞘がポリエチレンである同心タイプの芯鞘型複合繊維であり、芯と鞘との質量比は芯:鞘=50:50であり、繊度は4.2dtexで、繊維長は44mmであった。芯の樹脂の融点+10℃における熱伸長率は9.5%であった。
【0092】
表1に示す繊維処理剤は、以下の表3に示すとおりである。なお表1中、成分(A)の配合量は、表3に示す成分(A)の「KM−903」の組成のうち、シリコーンのみの配合量のことであり、「KM−903」全体の配合量でないことに注意を要する(以下の表2についても同様である。)。
【0093】
〔実施例5〕
繊維処理剤を付着させた熱融着性繊維を原料としてカード機により、第1ウエブ及び第2ウエブを製造した。第1ウエブ及び第2ウエブを重ねて、その積層ウエブに対して、第1ウエブ側から、実施例1と同様にして空気を噴射し、表面の繊維を移動させて第1ウエブ側に凹凸を有する繊維ウエブを形成した。その繊維ウエブに対して、
図4に示すように、エアスルー方式の熱風処理を施し、
図3に示す形態のエアスルー不織布を得た。第1ウエブの原料繊維及び第2ウエブの原料繊維を以下の表2に示す。同表には、各原料繊維に対して施した繊維処理剤の組成も記載されている。記載されている。同表に示す繊維及び繊維処理剤は、前述の実施例1ないし4と同じものである。
熱風処理の熱風の温度は136℃、風速は0.5m/secに設定した。また、噴射ノズルから噴射させた圧搾空気の温度は20から30℃の常温で、風量は10L/分・孔であった。これ以外は実施例1と同様にして、同表に示す坪量を有する2層構造のエアスルー不織布を得た。
【0094】
〔比較例1〕
特許文献2(特開2010−168715号公報)の比較例4に使用されている下記親水化剤Nを付着させた熱融着性繊維を原料繊維として用いる以外は、実施例1と同様にして、表1に示す坪量を有するエアスルー不織布を得た。
親水化剤N:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、KF−6004)およびジグリセリンラウリン酸エステル(理研ビタミン株式会社製、リケマールL−71−D)を50重量%:50重量%で配合した親水化剤
【0095】
〔評価〕
〔液残り量の測定〕
測定は、吸収性物品の一例として生理用ナプキン(花王株式会社製:ロリエ 肌キレイガード ふつうの日用 羽なし)から表面シートを取り除き、その代わりに、測定対象の不織布を前記のナプキン吸収体における前記表面シートが存していた箇所(ナプキン吸収体の肌当接面上)に、凹凸面とは反対側の面が該ナプキン吸収体と対向するよう固定した。これによって、測定対象の不織布を表面シートとして用いた評価用の生理用ナプキンを得た。
次に、得られた生理用ナプキンの表面上に、直径10mmの円筒状の透過孔を有するアクリル板を重ねて、注入口から脱繊維馬血3gを一度に流し込み60秒後に、アクリル板を取り除いた。
表面シートの上に、縦6cm×横9.5cmで坪量13g/m
2の吸収紙(テ
ィッシュぺーパー)を16枚重ねて載せ、圧力が4.0×102 Paになるよう重りを載せて5秒間加圧した後、吸収紙を取り出し、吸収紙の質量を、吸収させる前と比較することで、吸収紙に吸収された脱繊維馬血の質量を測定し、液戻り量とした。
【0096】
〔凹部液残り面積率の測定
〕
液残り量の測定と同様にして作成した評価用の生理用ナプキンを用いて、凹部液残り面積率の測定を行った。凹部液残り面積率は、生理用ナプキン使用後の外観の良否を判断する指標となり、面積率の値が高いほど、使用後の外観から使用者が不快感を感じる。
次に、上記の液残り測定後の不織布の凹部の馬血に触れた部分の面積に対する、馬血が不織布の凹部に残っている面積の比率を求め、液残り面積率とした。凹部の馬血に触れた部分の面積は、馬血に触れた部分の溝の合計長さを溝の幅と乗じた値とする。また馬血が不織布の凹部に残っている面積は、馬血が残っている部分の溝の合計長さを溝の幅と乗じた値とする。溝の幅は前述の厚みを測定する際に用いた写真から溝の幅を物差しで測定する。溝の長さは、例えば透明なシートを表面材に重ね、凹部及び馬血が不織布の凹部に残っている部分を目視で写し取り、その長さを物差しやを重量法や各種の画像処理装置で求める。馬血が不織布に触れた部分は、色が薄い赤色に変化しており、また馬血が残る部分は濃赤色に変化しており、その色を目視で判断し溝の長さを測定する。面積率は、それぞれの面積より計算する。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
表1及び表2に示す結果から明かなとおり、本発明の不織布を表面シートとして用いた吸収性物品は、液を素早く透過させ、表面に液が広がらないようにでき、また表面シートの表面への液戻りも生じにくいことが判る。