(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の凸部を有する第1の回転体と、前記第1の回転体と所定のギャップを設けて配置され、前記複数の凸部の数と異なる数の複数の凹部を有する第2の回転体と、を備え、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが回転することにより、前記複数の凸部及び前記複数の凹部の中で、対応する凸部と凹部とが順番に噛み合う回転機に関して、異常を診断する回転機の異常診断装置であって、
前記回転機から生じる弾性波を検出し、前記弾性波の強度と時間との関係を示す信号を出力するセンサーと、
前記センサーから出力された前記信号を、時間周波数解析する解析部と、
前記解析部が前記時間周波数解析して得られたデータである第1のデータから、所定の周波数成分の強度と時間との関係を示すデータである第2のデータを抽出する抽出部と、
前記第1の回転体の回転周期をT1、前記第2の回転体の回転周期をT2、前記複数の凸部の数と前記複数の凹部の数との比率をa:bとし、前記第2のデータに、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれている場合、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが接触していると判定する判定部と、を備える回転機の異常診断装置。
前記判定部は、前記第1の回転体と前記ケーシングとが接触しているか否かの判定、及び、前記第2の回転体と前記ケーシングとが接触しているか否かの判定をした後、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが接触しているか否かを判定する請求項2に記載の回転機の異常診断装置。
複数の凸部を有する第1の回転体と、前記第1の回転体と所定のギャップを設けて配置され、前記複数の凸部の数と異なる数の複数の凹部を有する第2の回転体と、を備え、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが回転することにより、前記複数の凸部及び前記複数の凹部の中で、対応する凸部と凹部とが順番に噛み合う回転機に関して、異常を診断する回転機の異常診断方法であって、
前記回転機から生じる弾性波を検出し、前記弾性波の強度と時間との関係を示す信号を出力する検出ステップと、
前記検出ステップで出力された前記信号を、時間周波数解析する解析ステップと、
前記解析ステップで前記時間周波数解析して得られたデータである第1のデータから、所定の周波数成分の強度と時間との関係を示すデータである第2のデータを抽出する抽出ステップと、
前記第1の回転体の回転周期をT1、前記第2の回転体の回転周期をT2、前記複数の凸部の数と前記複数の凹部の数との比率をa:bとし、前記第2のデータに、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれている場合、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが接触していると判定する判定ステップと、を備える回転機の異常診断方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1の回転体と、第1の回転体と所定のギャップを設けて配置されている第2の回転体と、第1の回転体及び第2の回転体が収容されるケーシングと、を備える回転機において、回転機に発生する異常として、第1の回転体と第2の回転体との接触や、これらの回転体とケーシングとの接触がある。前者は、回転機の故障に直結するため、第1の回転体と第2の回転体とが接触しているか否かを正確に判定できる技術が望まれる。
【0007】
本発明は、第1の回転体と第2の回転体とが接触しているか否かを正確に判定できる回転機の異常診断装置、回転機の異常診断方法、及び、回転機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の局面に係る回転機の異常診断装置は、複数の凸部を有する第1の回転体と、前記第1の回転体と所定のギャップを設けて配置され、前記複数の凸部の数と異なる数の複数の凹部を有する第2の回転体と、を備え、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが回転することにより、前記複数の凸部及び前記複数の凹部の中で、対応する凸部と凹部とが順番に噛み合う回転機に関して、異常を診断する回転機の異常診断装置であって、前記回転機から生じる弾性波を検出し、前記弾性波の強度と時間との関係を示す信号を出力するセンサーと、前記センサーから出力された前記信号を、時間周波数解析する解析部と、前記解析部が前記時間周波数解析して得られたデータである第1のデータから、所定の周波数成分の強度と時間との関係を示すデータである第2のデータを抽出する抽出部と、前記第1の回転体の回転周期をT1、前記第2の回転体の回転周期をT2、前記複数の凸部の数と前記複数の凹部の数との比率をa:bとし、前記第2のデータに、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれている場合、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが接触していると判定する判定部と、を備える。
【0009】
本発明において、凸部と凹部とが噛み合うとは、凸部が凹部に入っているが、正常な状態では、凸部と凹部とが接触しておらず、上記所定のギャップを有していることである。凸部と凹部との接触は、第1の回転体と第2の回転体との接触を意味する。
【0010】
弾性波を検出する上記センサーから出力された信号を高速フーリエ変換し、この変換によって得られたデータから、所定の周波数成分の強度を示すデータを抽出し、この抽出されたデータを利用して、第1の回転体と第2の回転体との接触を判定することが考えられる。第1の回転体と第2の回転体との接触は、第1の回転体及び第2の回転体が回転しているときに、凸部と凹部とが噛み合う毎に、それらの噛み合う凸部と凹部とが接触する態様ではなく、多くの場合、複数の凸部のある凸部と、複数の凹部のある凹部とが噛み合う毎に、それらの噛み合う凸部と凹部とが接触する態様である。
【0011】
具体的に説明すると、第1の回転体が第1の凸部、第2の凸及び第3の凸部を備え、第2の回転体が第1の凹部及び第2の凹部を備えるとする。第1の回転体及び第2の回転体が回転しているときに、第1の凸部と第1の凹部とが噛み合い、次に、第2の凸部と第2の凹部とが噛み合い、次に、第3の凸部と第1の凹部とが噛み合い、次に、第1の凸部と第2の凹部とが噛み合い、次に、第2の凸部と第1の凹部とが噛み合い、次に、第3の凸部と第2の凹部とが噛み合う。これが繰り返される。接触は、これらの噛み合いの度に発生するのではなく、例えば、第3の凸部と第1の凹部とが噛み合う度に発生する。
【0012】
ここで、第1の回転体の回転周期をT1、第2の回転体の回転周期をT2、複数の凸部の数と複数の凹部の数との比率をa:b、とする。後者の態様では、T1×b=T2×aの周期で、センサーから出力された信号の強度変動が発生する。本発明者は、その信号を高速フーリエ変換した場合、高速フーリエ変換して得られたデータには、時間情報が含まれないので、所定の周波数成分に、T1×b=T2×aの周期の強度変動が含まれるか否かを正確に判定することが困難であることを見出した。
【0013】
そこで、本発明の第1の局面に係る回転機の異常診断装置は、弾性波を検出するセンサーから出力された信号を時間周波数解析し、これによって得られたデータである第1のデータから、所定の周波数成分の強度と時間との関係を示すデータである第2のデータを抽出し、第2のデータを利用して、第1の回転体と第2の回転体との接触を判定する。第2のデータには、時間情報が含まれるので、第2のデータ(すなわち、所定の周波数成分)に、T1×b=T2×aの周期の強度変動が含まれているか否かを正確に判定することが可能となる。以上より、本発明の第1の局面に係る回転機の異常診断装置によれば、第1の回転体と第2の回転体とが接触しているか否かを正確に判定することができる。
【0014】
上記構成において、前記回転機は、前記第1の回転体及び前記第2の回転体が収容されるケーシングをさらに備え、前記判定部は、前記第2のデータに、前記T1で示される周期の強度変動が含まれている場合、前記第1の回転体と前記ケーシングとが接触していると判定し、前記T2で示される周期の強度変動が含まれている場合、前記第2の回転体と前記ケーシングとが接触していると判定する。
【0015】
この構成によれば、第1の回転体とケーシングとの接触、第2の回転体とケーシングとの接触を区別して判定することができる。
【0016】
上記構成において、前記判定部は、前記第1の回転体と前記ケーシングとが接触しているか否かの判定、及び、前記第2の回転体と前記ケーシングとが接触しているか否かの判定をした後、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが接触しているか否かを判定する。
【0017】
T1×b=T2×aで示される周期の強度変動には、T1で示される周期の強度変動及びT2で示される周期の強度変動が含まれる。そこで、第2のデータに、T1で示される周期の強度変動やT2で示される周期の強度変動が含まれるか否かを先に判定し、その後、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれるか否かを判定すれば、第2のデータに、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれるか否かを正確に判定することができる。
【0018】
本発明の第2の局面に係る回転機の異常診断方法は、複数の凸部を有する第1の回転体と、前記第1の回転体と所定のギャップを設けて配置され、前記複数の凸部の数と異なる数の複数の凹部を有する第2の回転体と、を備え、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが回転することにより、前記複数の凸部及び前記複数の凹部の中で、対応する凸部と凹部とが順番に噛み合う回転機に関して、異常を診断する回転機の異常診断方法であって、前記回転機から生じる弾性波を検出し、前記弾性波の強度と時間との関係を示す信号を出力する検出ステップと、前記検出ステップで出力された前記信号を、時間周波数解析する解析ステップと、前記解析ステップで前記時間周波数解析して得られたデータである第1のデータから、所定の周波数成分の強度と時間との関係を示すデータである第2のデータを抽出する抽出ステップと、前記第1の回転体の回転周期をT1、前記第2の回転体の回転周期をT2、前記複数の凸部の数と前記複数の凹部の数との比率をa:bとし、前記第2のデータに、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれている場合、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが接触していると判定する判定ステップと、を備える。
【0019】
本発明の第2の局面に係る回転機の異常診断方法は、上述した本発明の第1の局面に係る回転機の異常診断装置と同様の理由により、第1の回転体と第2の回転体とが接触しているか否かを正確に判定することができる。
【0020】
本発明の第3の局面に係る回転機は、上記回転機の異常診断装置を備える回転機である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1の回転体と第2の回転体とが接触しているか否かを正確に判定できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
図1は、回転機1の一例を示す模式図である。回転機1は、第1の回転体2と、第1の回転体2と所定のギャップGを設けて配置された第2の回転体3と、第1の回転体2及び第2の回転体3が収容されるケーシング4と、を備える。
【0024】
第1の回転体2は、回転軸5を備え、回転軸5を中心に矢印A方向(例えば、反時計回りの方向)に回転駆動される。第2の回転体3は、回転軸6を備え、回転軸6を中心に矢印A方向と逆の矢印B方向(例えば、時計回りの方向)に回転駆動される。
【0025】
第1の回転体2の周面には、複数の凸部(不図示)が形成されている。第2の回転体3の周面には、複数の凸部の数と異なる数の複数の凹部(不図示)が形成されている。以下、複数の凸部とは、第1の回転体2の周面に形成されている複数の凸部を意味し、凸部とは、その複数の凸部のいずれかを意味する。複数の凹部とは、第2の回転体3の周面に形成されている複数の凹部を意味し、凹部とは、その複数の凹部のいずれかを意味する。
【0026】
第1の回転体2が矢印A方向に回転し、かつ、第2の回転体3が矢印B方向に回転することにより、複数の凸部及び複数の凹部の中で、対応する凸部と凹部とが順番に噛み合う。すなわち、第1の回転体2が矢印A方向に回転し、かつ、第2の回転体3が矢印B方向に回転することにより、ある凸部とある凹部とが噛み合い、さらに回転することにより、それらの噛み合いが解消され、次の凸部と次の凹部とが噛み合い、さらに回転することにより、それらの噛み合いが解消され、その次の凸部とその次の凹部とが噛み合う。これが繰り返される。
【0027】
凸部と凹部とが噛み合うとは、凸部が凹部に入っているが、正常な状態では、凸部と凹部とが接触しておらず、ギャップGを有していることである。凸部と凹部との接触は、第1の回転体2と第2の回転体3との接触を意味する。
【0028】
ケーシング4の外壁には、センサー11が取り付けられている。センサー11は、回転機1から生じる弾性波を検出し、弾性波の強度と時間との関係を示す信号Sを出力する。弾性波とは、例えば、振動波や超音波を意味する。
【0029】
図2は、本実施形態に係る回転機の異常診断装置10の構成を示すブロック図である。回転機の異常診断装置10は、センサー11及びコンピュータ12を備える。
【0030】
本実施形態に係る回転機の異常診断装置10は、(1)第1の回転体2と第2の回転体3との接触、(2)第1の回転体2とケーシング4との接触、及び、(3)第2の回転体3とケーシング4との接触を弁別して検知することができる。
【0031】
(1)は、例えば、第1の回転体2及び第2の回転体3が回転しているとき、複数の凸部のある凸部と、複数の凹部のある凹部と、が噛み合う毎に、それらの噛み合う凸部と凹部とが接触することである。(2)は、例えば、第1の回転体2及び第2の回転体3が回転しているとき、複数の凸部が、順番に、ケーシング4の内壁のある箇所に接触、又は、第1の回転体2及び第2の回転体3が回転しているとき、複数の凸部のある凸部がケーシング4の内壁のある箇所に接触することである。(3)は、例えば、第1の回転体2及び第2の回転体3が回転しているとき、複数の凹部のそれぞれの入口を規定する部分が、順番に、ケーシング4の内壁のある箇所と接触、又は、第1の回転体2及び第2の回転体3が回転しているとき、複数の凹部のある凹部の入口を規定する部分が、ケーシング4の内壁のある箇所と接触することである。
【0032】
センサー11は、上記(1)〜(3)の接触により生じる弾性波を検出することができればよい。接触により生じる超音波を、弾性波として検出する場合、AE(Acoustic Emission)センサーが用いられる。接触により生じる振動を、弾性波として検出する場合、振動センサーが用いられる。本実施形態では、センサー11として、AEセンサーを例にして説明する。
【0033】
コンピュータ12は、表示部13及び制御部14を備える。表示部13は、液晶パネルのようなディスプレイである。制御部14は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及び、RAM(Random Access Memory)を備える。ROMには、回転機の異常診断を実行するための各種プログラムやソフトウェアが格納されている。
【0034】
制御部14は、機能ブロックとして、解析部15、抽出部16及び判定部17を備える。これらのブロックの説明は後でする。
【0035】
本実施形態に係る回転機の異常診断装置10の動作を説明する。
図3及び
図4は、その動作を説明するフローチャートである。第1の回転体2の回転周期をT1、第2の回転体3の回転周期をT2、複数の凸部の数と複数の凹部の数との比率をa:b、とする。
【0036】
第1の回転体2及び第2の回転体3が回転された状態で、センサー11から出力される信号Sは、連続的にコンピュータ12に送られ、制御部14は、信号Sを連続的に取得する(ステップS1)。
【0037】
第1の回転体2と第2の回転体3との接触、第1の回転体2とケーシング4との接触、及び、第2の回転体3とケーシング4との接触について、いずれも、接触時、始めに、広い周波数帯域で信号Sの強度が変動する。このことを利用して、信号Sの時間的な強度変動が、複数の周波数帯域で同時に発生したときを、接触したタイミングとする。すなわち、信号Sを示す関数A(t)を時間で微分した値が、予め定められたしきい値φより大きくなる時間を、接触のタイミングとする。
【0038】
制御部14は、ステップS1で取得した信号Sを示す関数A(t)を時間で微分した値が、予め定められたしきい値φより大きくなる時間があるか否かを判断する(ステップS2)。なお、接触したタイミングを特定するのは、後で説明する時間周波数解析の計算量を減らすためである。従って、接触したタイミングの特定は、上記(1)〜(3)の接触を判定するために、必須の処理ではない。
【0039】
制御部14が、関数A(t)を時間で微分した値がしきい値φより大きくなる時間がないと判断したとき(ステップS2でNo)、判定部17は、接触が発生していないと判定する(ステップS3)。
【0040】
制御部14が、関数A(t)を時間で微分した値がしきい値φより大きくなる時間があると判断したとき(ステップS2でYes)、解析部15は、その時間の前後に(主にその時間の後に)、センサー11から出力された信号Sに対して、時間周波数解析する(ステップS4)。時間周波数解析とは、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて、センサー11から出力された信号Sを、時間と周波数との関係を示す情報に変換する処理である。
【0041】
図5は、センサー11から出力された信号Sに対して、時間周波数解析して得られたデータ(第1のデータ)の一例を示すグラフである。横軸は、時間を示し、縦軸は、周波数を示す。
図5において、白色は、周波数成分の強度が大きいことを示し、灰色は、周波数成分の強度が小さいことを示している。低い周波数成分の強度が高くなっていることが分かる。これは、低い周波数成分に、回転機1の固有の振動等により生じるノイズが多く含まれていることを意味する。
【0042】
時間周波数解析において、解析の時間間隔は、時間を、第1の回転体2の回転周期T1、第2の回転体3の回転周期T2、及び、回転周期T1×bで表される周期(言い換えれば、回転周期T2×aで表される周期)に、十分に分解できる程度の値に設定される。
【0043】
なお、信号Sに含まれるノイズや信号Sのばらつきが大きい場合、制御部14にノイズ低減処理部を設けて、信号Sに対してノイズ低減処理をしてから、解析部15が時間周波数解析をするようにしてもよい。ノイズ低減処理としては、移動平均処理やエンベロープ処理がある。
【0044】
抽出部16は、解析部15が時間周波数解析した結果を用いて、所定の周波数成分の強度と時間との関係を示すデータである第2のデータを抽出する(ステップS5)。すなわち、抽出部16は、上記第1のデータから第2のデータを抽出する。上述したように、低い周波数成分には、ノイズが多く含まれているので、ノイズがあまり含まれていない周波数成分(例えば、150kHz以上)が、所定の周波数成分として選択することが好ましい。本実施形態では、200kHzの周波数成分が選択される。従って、抽出部16は、
図5において、200kHzの周波数成分のデータを抽出する。
【0045】
図6は、抽出部16によって抽出された第2のデータを表す関数の第1例を示すグラフである。
図7は、抽出部16によって抽出された第2のデータを表す関数の第2例を示すグラフである。横軸は、時間を示し、縦軸は、200kHzの周波数成分の強度を示す。
【0046】
後で説明するように、
図6は、第1の回転体2とケーシング4との接触又は第2の回転体3とケーシング4との接触を示しており、
図7は、第1の回転体2と第2の回転体3との接触を示している。
【0047】
判定部17は、第2のデータを表す関数の周期性を明確にするために、その関数の自己相関関数を算出する(ステップS6)。
図8は、
図6のグラフを示す関数の自己相関関数を示すグラフである。
図9は、
図7のグラフを示す関数の自己相関関数を示すグラフである。
図8及び
図9において、横軸は、時間を示し、縦軸は、相関係数を示す。なお、相互相関関数やフーリエ変換を用いて、上記データの周期性を明確にすることもできる。
【0048】
判定部17は、ステップS6で算出した自己相関関数について、相関係数の値が所定のしきい値(例えば、0.9)より大きい極大点を抽出する(ステップS7)。しきい値は、0.9に限定されず、異常診断の対象となる回転機1に応じて、最適な値が設定される。
【0049】
判定部17は、ステップS6で算出した自己相関関数に、第1の回転体2の回転周期T1で示される強度変動が含まれているか否かを判定する(ステップS8)。この判定には、ステップS7で抽出された極大点が利用される。判定部17は、例えば、
図8に示すように、回転周期T1毎に同じ数の極大点が発生していると判定したとき、ステップS6で算出した自己相関関数に、回転周期T1で示される強度変動が含まれていると判定する(ステップS8でYes)。これは、第1の回転体2とケーシング4との接触を意味する。従って、制御部14は、表示部13を用いて、第1の回転体2とケーシング4との接触を報知する(ステップS9)。
【0050】
次に、判定部17は、ステップS6で算出した自己相関関数に、回転周期T1で示される強度変動が含まれていないと判定したとき(ステップS8でNo)、ステップS6で算出した自己相関関数に、第2の回転体3の回転周期T2で示される強度変動が含まれているか否かを判定する(ステップS10)。この判定には、ステップS7で抽出された極大点が利用される。判定部17は、例えば、
図8に示すように、回転周期T2毎に同じ数の極大点が発生していると判定したとき、ステップS6で算出した自己相関関数に、回転周期T2で示される強度変動が含まれていると判定する(ステップS10でYes)。これは、第2の回転体3とケーシング4との接触を意味する。従って、制御部14は、表示部13を用いて、第2の回転体3とケーシング4との接触を報知する(ステップS11)。
【0051】
判定部17は、ステップS6で算出した自己相関関数に、回転周期T2で示される強度変動が含まれていないと判定したとき(ステップS10でNo)、ステップS6で算出した自己相関関数に、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれているか否かを判定する(ステップS12)。この判定には、ステップS7で抽出された極大点が利用される。複数の凸部と複数の凹部との比率a:bを、例えば、1:2とし、回転周期T1を20msecとし、回転周期T2を40msecする。判定部17は、例えば、
図9に示すように、40msec(=20msec×2)毎に極大点が発生していると判定したとき、ステップS6で算出した自己相関関数に、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれていると判定する(ステップS12でYes)。これは、第1の回転体2と第2の回転体3との接触を意味する。従って、制御部14は、表示部13を用いて、第1の回転体2と第2の回転体3との接触を報知する(ステップS13)。
【0052】
判定部17は、ステップS6で算出した自己相関関数に、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれていないと判定したとき(ステップS12でNo)、判定部17は、第1の回転体2とケーシング4との接触、第2の回転体3とケーシング4との接触、及び、第1の回転体2と第2の回転体3との接触以外の事象が発生している判定する。従って、制御部14は、表示部13を用いて、それを報知する(ステップS14)。
【0053】
なお、ステップS5において抽出される第2のデータは、一つの場合で説明したが、複数でもよい。この場合、判定部17は、複数の第2のデータのそれぞれを用いて、第1の回転体2とケーシング4との接触、第2の回転体3とケーシング4との接触、及び、第1の回転体2と第2の回転体3との接触を判定する。ステップS5において抽出される第2のデータが一つであれば、そのデータにノイズが含まれていれば、上記接触を正確に判定できない。複数の第2のデータのそれぞれを用いて、接触を判定することにより、接触をより正確に判定することができる。
【0054】
第2のデータを表す関数の周期性が明確であれば、ステップS6を省略してもよい。この場合、第2のデータを表す関数について、ステップS7以降の処理をする。よって、判定部17は、第2のデータを表す関数に、T1で示される周期の強度変動が含まれている場合、第1の回転体2とケーシング4とが接触していると判定し、T2で示される周期の強度変動が含まれている場合、第2の回転体3とケーシング4とが接触していると判定し、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれている場合、第1の回転体2と第2の回転体3とが接触していると判定する。
【0055】
本実施形態の主な効果を説明する。センサー11から出力された信号Sを高速フーリエ変換し、この変換によって得られたデータから、所定の周波数成分の強度を示すデータを抽出し、この抽出されたデータを利用して、第1の回転体2と第2の回転体3との接触を判定することが考えられる。第1の回転体2と第2の回転体3との接触は、第1の回転体2及び第2の回転体3が回転しているときに、凸部と凹部とが噛み合う毎に、それらの噛み合う凸部と凹部とが接触する態様ではなく、多くの場合、複数の凸部のある凸部と、複数の凹部のある凹部とが噛み合う毎に、それらの噛み合う凸部と凹部とが接触する態様である。
【0056】
具体的に説明すると、第1の回転体2が第1の凸部、第2の凸及び第3の凸部を備え、第2の回転体3が第1の凹部及び第2の凹部を備えるとする。第1の回転体2及び第2の回転体3が回転しているときに、第1の凸部と第1の凹部とが噛み合い、次に、第2の凸部と第2の凹部とが噛み合い、次に、第3の凸部と第1の凹部とが噛み合い、次に、第1の凸部と第2の凹部とが噛み合い、次に、第2の凸部と第1の凹部とが噛み合い、次に、第3の凸部と第2の凹部とが噛み合う。これが繰り返される。接触は、これらの噛み合いの度に発生するのではなく、例えば、第3の凸部と第1の凹部とが噛み合う度に発生する。
【0057】
ここで、第1の回転体2の回転周期をT1、第2の回転体3の回転周期をT2、複数の凸部の数と複数の凹部の数との比率をa:b、とする。後者の態様では、T1×b=T2×aの周期で、センサー11から出力された信号Sの強度変動が発生する。本発明者は、信号Sを高速フーリエ変換した場合、高速フーリエ変換して得られたデータには、時間情報が含まれないので、所定の周波数成分に、T1×b=T2×aの周期の強度変動が含まれるか否かを正確に判定することが困難であることを見出した。
【0058】
そこで、本実施形態に係る回転機の異常診断装置10は、センサー11から出力された信号Sを時間周波数解析し、これによって得られたデータである第1のデータから、所定の周波数成分の強度と時間との関係を示すデータである第2のデータを抽出し、第2のデータを利用して、第1の回転体2と第2の回転体3との接触を判定する。第2のデータには、時間情報が含まれるので、第2のデータ(すなわち、所定の周波数成分)に、T1×b=T2×aの周期の強度変動が含まれているか否かを正確に判定することが可能となる。以上より、本実施形態に係る回転機の異常診断装置10によれば、第1の回転体2と第2の回転体3とが接触しているか否かを正確に判定することができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、ステップS8,S9,S10,S11で説明したように、第1の回転体2とケーシング4との接触、第2の回転体3とケーシング4との接触を区別して判定することができる。
【0060】
図9に示すようなT1×b=T2×aで示される周期の強度変動には、T1で示される周期の強度変動及びT2で示される周期の強度変動が含まれる。そこで、本実施形態によれば、自己相関関数に、T1で示される周期の強度変動やT2で示される周期の強度変動が含まれるか否かを先に判定し(ステップS8,S10)、その後、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれるか否かを判定する(ステップS12)。これにより、自己相関関数に、T1×b=T2×aで示される周期の強度変動が含まれるか否かを正確に判定することができる。
【0061】
本実施形態に係る回転機の異常診断装置10によって、異常の診断対象となる回転機1として、例えば、圧縮機があるが、圧縮機に限定されない。