(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190393
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】イオン移動度分光分析のための装置と方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
G01N27/62 101
【請求項の数】42
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-558070(P2014-558070)
(86)(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公表番号】特表2015-509588(P2015-509588A)
(43)【公表日】2015年3月30日
(86)【国際出願番号】EP2013052994
(87)【国際公開番号】WO2013124207
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年2月4日
(31)【優先権主張番号】1202895.7
(32)【優先日】2012年2月21日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】マカロフ アレクサンダー
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−500967(JP,A)
【文献】
特表2009−516327(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0291001(US,A1)
【文献】
特開2005−079049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン移動度分光分析方法であって、
(i)イオンの塊をドリフト空間内へ導入する工程と、
(ii)前記イオンに前記ドリフト空間を通過させ、前記イオンをそれぞれのイオン移動度により分離する工程と、
(iii)前記ドリフト空間を通過した前記イオンを反射または偏向させて前記ドリフト空間へ戻し、前記イオンをそれぞれのイオン移動度によりさらに分離する工程と、を含み、前記反射または偏向は前記ドリフト空間より低い圧力の領域内でイオンミラーまたは偏向器を用いて行われ、前記イオンミラーまたは偏向器内でのガスとのイオン衝突間の平均自由行程は前記イオンミラーまたは偏向器内での前記イオンの経路長より著しく長い、イオン移動度分光分析方法。
【請求項2】
工程(iii)の後、必要なイオン分離長または分解能を達成するために工程(ii)と工程(iii)を順繰りに必要に応じて複数回反復する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(iii)は、第1方向に前記ドリフト空間を通過した前記イオンを、前記第1方向と反対の第2方向で前記ドリフト空間へ反射または偏向して戻す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(iv)前記第2方向に前記ドリフト空間を通過した前記イオンを、前記第1方向で前記ドリフト空間へ再び反射または偏向して戻す工程であって、前記反射または偏向は前記ドリフト空間より低い圧力の領域内で再びイオンミラーまたは偏向器を用いて行われ、前記イオンミラーまたは偏向器内でのガスとのイオン衝突間の平均自由行程は前記イオンミラーまたは偏向器内での前記イオンの経路長より著しく長い、前記再び反射または偏向して戻す工程をさらに含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(iv)の後に、工程(iii)と(iv)を必要なだけ複数回順繰りに繰り返す工程をさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ドリフト空間に沿って切り替え可能軸方向電界を供給して、前記第1及び第2方向に順繰りに前記イオンを駆動する工程をさらに含む請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ドリフト空間より低い圧力の領域内に含まれる2つのイオンミラーまたは2つのイオン偏向器が存在し、前記領域は、前記ドリフト空間の各端部において前記イオンを反射または偏向するために前記ドリフト空間の両端に隣接する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ドリフト空間はバッファガスにより充たされ、1つまたは複数の前記イオンミラーまたは1つまたは複数の前記イオン偏向器が含まれる1つまたは複数の前記領域は高真空状態である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
それぞれのイオン移動度による前記イオンの分離は、1つまたは複数の前記イオンミラーまたは1つまたは複数の前記イオン偏向器が含まれる1つまたは複数の前記領域内では発生しない、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記イオンは、非線形電界により反射または偏向される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記非線形電界は、前記イオンの飛行時間集束を実現する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記非線形電界は、放物線電界または多項式電界である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記非線形電界において前記イオンを反射または偏向する直前に前記イオンを加速する工程をさらに含む請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
それぞれのイオン移動度により前記イオンを分離した後に前記ドリフト空間からイオンを抽出する工程をさらに含む請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記イオンは前記ドリフト空間からイオンミラーまたはイオン偏向器を介して抽出される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
別のイオン移動度分離、イオンフラグメンテーション、質量分析のうちの1つまたは複数を含む別の処理に先立って、前記抽出したイオンをイオン蓄積装置内に格納する工程をさらに含む請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記イオンはイオンミラーまたはイオン偏向器を介して前記ドリフト空間内へ導入される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
イオン移動度分光計であって、
イオンをそれぞれのイオン移動度により分離するためのドリフト空間と、
前記ドリフト空間を通過したイオンを受け取り、前記イオンを前記ドリフト空間内へ反射または偏向して戻すためのイオンミラーまたはイオン偏向器と、を含み、
前記イオンミラーまたはイオン偏向器は、前記ドリフト空間より低い圧力の領域に配置され、前記イオンミラーまたはイオン偏向器内でのガスとのイオン衝突間の平均自由行程は前記イオンミラーまたはイオン偏向器内での前記イオンの経路長より著しく長い、イオン移動度分光計。
【請求項19】
前記イオンミラーまたはイオン偏向器は、第1方向にドリフト空間を通過したイオンを受け取り、前記イオンが前記第1方向と反対の第2方向に前記ドリフト空間を通過するように前記イオンを前記ドリフト空間内へ反射または偏向して戻す、請求項18に記載のイオン移動度分光計。
【請求項20】
前記イオンミラーまたは偏向器は、第1のイオンミラーまたは偏向器であり、
前記分光計はさらに、前記第2方向に前記ドリフト空間を通過したイオンを受け取り、前記イオンが前記第1方向に前記ドリフト空間を通過するように前記イオンを前記ドリフト空間内へ反射または偏向して戻すための第2のイオンミラーまたはイオン偏向器を含む、請求項19に記載のイオン移動度分光計。
【請求項21】
前記2つのミラーまたは偏向器は、前記ドリフト空間の両端に隣接して配置された2つの対向するミラーまたは偏向器を構成し、これにより、前記イオンは、各反射または偏向間に前記ドリフト空間を通過することにより、前記イオンミラーまたは偏向器間で繰り返し反射または偏向され得る、請求項20に記載のイオン移動度分光計。
【請求項22】
前記ミラーまたは偏向器、または各ミラーまたは偏向器は、前記イオンを反射または偏向するために非線形電界を生成する、請求項19〜21のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項23】
前記ミラーまたは各ミラーにおいて前記イオンを反射または偏向することで、前記イオンの飛行時間集束を実現する、請求項22に記載のイオン移動度分光計。
【請求項24】
前記ミラーまたは偏向器、または各ミラーまたは偏向器の前の短い領域をさらに含み、加速器が、反射または偏向に先立って小さな軸方向電界により前記イオンを加速する、請求項19〜23のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項25】
前記第1または第2方向に順繰りに前記イオンを駆動するために前記ドリフト空間に沿った軸方向電界を生成する切り替え可能軸方向電界生成手段、をさらに含む請求項19〜24のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項26】
前記ドリフト空間は、多重極内に含まれる、請求項18〜25のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項27】
使用中、前記ドリフト空間はバッファガスで満たされ、前記イオンミラーまたは偏向器、または各イオンミラーまたは偏向器は高真空に保たれた領域内に含まれる、請求項18〜26のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項28】
請求項18〜27のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計と、
イオンをイオンのパルスとして前記ドリフト空間内へ導入する前にイオン源からの前記イオンを格納するための、前記ドリフト空間の上流のイオン蓄積装置とを含む、装置。
【請求項29】
前記上流のイオン蓄積装置はまた、イオン移動度分離が発生した後前記ドリフト空間から抽出されたイオンを格納するためのものである、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
請求項18〜27のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計と、
イオン移動度分離が発生した後に前記ドリフト空間から抽出されたイオンを格納するための、前記ドリフト空間の下流のイオン蓄積装置とを含む、装置。
【請求項31】
請求項18〜27のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計と、
イオン移動度分離が発生した後に前記ドリフト空間から抽出されたイオンを質量分析するための質量分析器とを含む、装置。
【請求項32】
前記質量分析器は、イオン移動度分離が発生した後に前記ドリフト空間から抽出されたイオンを格納するための、前記ドリフト空間の上流または下流に配置された上流のイオン蓄積装置または下流のイオン蓄積装置のうちの少なくとも1つと接続する、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記イオンミラーまたはイオン偏向器、または各イオンミラーまたはイオン偏向器の1つまたは複数の前記領域内の圧力は、それぞれのイオン移動度による前記イオンの分離がこのような1つまたは複数の領域では発生しないが、イオン横断面と無関係であるが質量電荷比(m/z)に依存する分離が発生するようになっている、請求項18〜27のいずれか一項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項34】
前記イオンミラーまたはイオン偏向器、または各イオンミラーまたはイオン偏向器は、前記イオンの飛行時間集束を実現する、請求項33に記載のイオン移動度分光計。
【請求項35】
1つまたは複数のドリフト空間においてイオンを複数の段階のイオン移動度により分離する工程と、イオンに対して複数の段階の慣性イオン運動をさせる工程とを行うイオン移動度分光分析方法であって、
慣性イオン運動をさせる工程の段階においてガスとのイオン衝突間の平均自由行程はイオン移動度により分離する工程の段階におけるものより著しく長く、
慣性イオン運動をさせる工程の各段階はイオン移動度により分離する工程の連続段階間に存在し、前記1つまたは複数のドリフト空間は、イオンにより複数回通過されるように構成されている、イオン移動度分光分析方法。
【請求項36】
前記イオンは、前記慣性イオン運動の領域内で、イオンミラーにより反射されまたは偏向器により偏向される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記イオンは、非線形電界により反射または偏向される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記非線形電界は、前記イオンの飛行時間集束を実現する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
イオン移動度分光計であって
イオンをそれぞれのイオン移動度により分離するための1つまたは複数のドリフト空間と、
前記ドリフト空間より低いガス圧で作動される1つまたは複数の領域であって、前記ドリフト空間より低いガス圧により、前記イオンが前記1つまたは複数の領域で慣性イオン運動を受けることを可能にする、前記1つまたは複数の領域と、を含み、
ガスとの衝突間のイオンの平均自由行程は前記1つまたは複数のドリフト空間内のものより著しく長く、
前記1つまたは複数の領域のそれぞれは、前記1つまたは複数のドリフト空間のうちの1つから前記イオンを受け取るように構成され、前記1つまたは複数のドリフト空間のうちの同じまたは別のものの中へ前記イオンを導くためのイオン光学系を含み、これにより前記1つまたは複数のドリフト空間のそれぞれが前記イオンにより複数回通過されるように構成される、イオン移動度分光計。
【請求項40】
前記1つまたは複数の慣性イオン運動領域のそれぞれはイオンミラーまたは偏向器を含む、請求項39に記載のイオン移動度分光計。
【請求項41】
前記イオンミラーまたは偏向器は、イオンを反射または偏向するために非線形電界を供給する、請求項40に記載のイオン移動度分光計。
【請求項42】
前記非線形電界はイオンの飛行時間集束を実現する、請求項41に記載のイオン移動度分光計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン移動度分光分析(IMS:ion mobility spectrometry)のための装置と方法に関する。本装置と方法は、質量分析(MS:mass spectrometr)と組み合わせて使用するのに好適である(例えば、ハイブリッドIMS/MS計測器において)。
【背景技術】
【0002】
公知のイオン移動度分光計は通常、イオンが一定の印加電界の影響下で空間を通してドリフトさせられるドリフト管を含む。様々な構成のドリフト管が提案されてきた。ドリフト管は例えば、分光計の長さに沿って軸方向に離間された一連のリング電極を含み得、一定の電界が軸方向に生成されるように一定電位差が隣接リング電極間に維持される。バッファガスを含むドリフト管内にイオンのパルスが導入される。イオンが一定の電界の影響下で管中を走行するにつれて、イオンは一定のドリフト速度に達し、それらのイオン移動度により軸方向に分離する。バッファガスはしばしば、イオン走行の方向に対し反対方向に流れるように構成される。
【0003】
イオン移動度分光計は、イオン分離手段としてそのまま作動されても、所謂ハイブリッドIMS計測器内の他のイオン分離装置と組み合わせて使用されてもよい。ハイブリッドIMS計測器の例として、液体クロマトグラフィIMS(LC−IMS)、ガスクロマトグラフィIMS(GC−IMS)、およびIMS質量分析(IMS−MS)に基づくものが挙げられる。後者のタイプの計測器は、イオン移動度スペクトル内のピークをさらに分離および/または特定するための質量分析法を採用する強力な分析ツールである。3つ以上の分離技術が組み合わせられ得る(例えば、LC−IMS−MS)。
【0004】
イオン移動度分光計は大気圧において動作可能であってもよく(例えば、米国特許第5162649号明細書を参照)、最大150の分解能を提供することができる(例えば、Wu et al.,Anal.Chem.1998,70,4929−4938参照)。しかし、低圧における動作は、ハイブリッドIMS−MS計測器(例えば、米国特許第5905258号明細書、国際公開第01/64320号パンフレット参照)が分離の速度を上げイオン損失を低減するのにより好適である。より低い圧力におけるイオン移動度分光計の動作はしばしば、より大きな拡散損失とより低い分解能をもたらす。拡散損失の問題に対応するために、RF擬ポテンシャル井戸が、イオンガイドとして働くようにイオンを半径方向に閉じ込めるためにドリフト管内に構成され、イオンを効率的に輸送するために使用され得る(例えば、米国特許第6630662号明細書参照)。
【0005】
イオン移動度分光計に対する変形形態では、米国特許第6914241号明細書は、複数の軸方向に離間された電極を含むイオン移動度分光計またはRFイオンガイドの長さに沿って一時的DC電圧を徐々に印加することにより、イオンがそのイオン移動度によりどのように分離され得るかについて記載する。イオン移動度分光計は、多重極ロッドセットまたは積層リングセットなどのRFイオンガイドを含み得る。イオンガイドは、独立した一時的DC電位が各セグメントに適用されるように軸方向にセグメント化される。一時的DC電位は、イオンを半径方向に閉じ込めるように働くRF電圧および/または任意の一定のDCオフセット電圧の上に重畳される。これにより、一時的DC電位は、軸方向のイオンガイドの長さに沿って移動する所謂進行波であってイオン移動度分光計の長さに沿ってイオンを移動させるように働く所謂進行波を生成する。
【0006】
上記タイプのイオン移動度分光計では、イオンはイオンガイドに沿って推進され、イオンはそれらのイオン移動度により分離され得る。しかし、比較的低い圧力においてイオン移動度分離の高分解能または分解能(resolving power)を実現するために、以下にさらに詳細に説明されるように、所謂低電界限界(low field limit)内に保つために比較的長いドリフト管が採用されなければならない。
【0007】
イオンをRFイオンガイド内のそれらのイオン移動度により軸方向に沿って分離するために、半径方向閉じ込めのための半径方向RF電界に直角な軸方向DC電界が生成され得る。一定の軸方向電界Eが、ガスを含むイオンガイドに沿ってイオンを移動させ、イオンガイドを通過させるように印加される場合、イオンは、下式に従って特性速度vを得る。
v=E
*K (式1)
ここで、Kはイオン移動度である。
【0008】
イオンが駆動電界から大きな運動エネルギーを受け取らない所謂低電界状態(low field regime)にイオン移動度分離を維持するために、E(V/m)と背景ガスの圧力P(mbar)との比は、約200V/(m
*mbar)未満の値に維持されるべきである。同時に、イオン移動度(FWHH)による分離の分解能(R)は、拡散により制限され、下式のように近似的に推測することができる。
【数1】
ここで、zはイオンの電荷状態、Lは分離の長さ(m)、Tは背景ガスの温度(ケルビン度)、eは電気素量(1.602
*10
-19クーロン)、kはボルツマン定数(1.38
*10
-23J/K)である。より精密な計算は、例えばG.E.Spangler,“Expanded Theory for the resolving power of a linear ion mobility spectrometer”,Int.J.Mass Spectrom.220(2002)399−418に見出すことができる。Eの増加は低電界条件により制限され、Tの低下は煩わしい極低温技術を伴うので、より高いRの実現に向けた唯一のやり方は分離長Lを増加することであるということがわかる。しかし、空間は通常、制限されるので、分離長を増加することは問題である可能性がある。
【0009】
国際公開第2008/104771号パンフレット、英国特許第2447330号明細書、および英国特許第2457556号明細書の従来技術に提案された分離長を増加する問題の1つの解決策は、イオン移動度ドリフト管をコイル状にすることである。しかし、その場合、ドリフト管の構築は複雑になり、移動度分離が必要無い場合の分光計中のイオンの速い転送を妨げる。
【0010】
コンパクトなイオン移動度分光計は、イオンが閉円形経路を辿る複数巻きまたはレーストラック構成を有する国際公開第2008/028159号パンフレットおよび米国特許出願公開第2011/121171号明細書に開示されている。狭い範囲のイオン移動度だけが円形軌道上に保持されるが、分解能は何百に達し得る。再び、ドリフト管の構築は複雑になる。
【0011】
上記背景技術に鑑み本発明はなされた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によると、(i)イオンの束をドリフト空間内へ導入する工程と、(ii)イオンを、イオンがそのイオン移動度により分離するドリフト空間を通過させる工程と、(iii)ドリフト空間を通過したイオンを反射または偏向して、イオンがそのイオン移動度によりさらに分離することができるドリフト空間内へ戻す工程とを含むイオン移動度分光分析方法が提供される。反射または偏向はドリフト空間より低い圧力の領域内で発生する。
【0013】
本発明の別の態様によると、イオンをそれらのイオン移動度によりイオン源から分離するためのドリフト空間と、ドリフト空間を通過したイオンを受け取り、ドリフト空間を再び通過するようにイオンをドリフト空間内へ反射または偏向して戻すためのイオンミラーまたは偏向器とを含むイオン移動度分光計が提供される。イオンミラーまたはイオン偏向器はドリフト空間より低い圧力の領域に配置される。
【0014】
本発明のさらに別の態様によれば、イオンをそれらのイオン移動度により分離するためのドリフト空間と、ドリフト空間からイオンを受け取りそのイオンをドリフト空間内へ戻すための、ドリフト空間の両端の1つまたは両方に隣接して配置された少なくとも1つのイオンミラーまたは少なくとも1つのイオン偏向器であって、イオンミラーまたはイオン偏向器の領域内の圧力はイオン移動度によるイオンの分離がその領域内では発生しないようにされた、イオンミラーまたはイオン偏向器とを含むイオン移動度分光計が提供される。
【0015】
本発明の別の態様によれば、イオンは複数の段階のイオン移動度分離と複数の段階の慣性イオン運動を受け、複数の段階の慣性イオン運動におけるイオンとガスとの衝突間の平均自由行程は複数の段階のイオン移動度分離のものより著しく長く、慣性イオン運動の各段階はイオン移動度分離の連続段階間に存在する、イオン移動度分光分析方法が提供される。
【0016】
本発明のさらに別の態様によると、イオンをそれらのイオン移動度により分離するための1つまたは複数のドリフト空間と、イオンが慣性イオン運動を受けることを可能にするための1つまたは複数の領域とを含むイオン移動度分光計であって、ガスとの衝突間のイオンの平均自由行程は1つまたは複数のドリフト空間内のものより著しく長く、1つまたは複数の領域のそれぞれは、1つまたは複数のドリフト空間のうちの1つからイオンを受け取るように構成され、1つまたは複数のドリフト空間のうちの同じまたは別のものの中へイオンを導くためのイオン光学系を含み、これにより、1つまたは複数のドリフト空間のそれぞれがイオンにより複数回通過されるように構成される、イオン移動度分光計が提供される。
【0017】
本発明によると、ドリフト空間(本明細書では、各ドリフト空間には2つ以上のドリフト空間が存在することを意味する)は、イオンのイオン移動度分離のために少なくとも2回、例えば、第1方向に少なくとも1回および第2方向(好適には、第1方向と反対方向)に少なくとも1回、または各回同じ方向に、利用され得る。したがって、イオン移動度による分離の高分解能を可能にするために同じドリフト空間が再利用される。互いに反対方向であるイオン走行の第1と第2方向はそれぞれ順方向と逆方向とみなされ得る。したがって、1つのタイプの実施形態では、本発明は、第1方向にドリフト空間を通過したイオンを、第1方向と反対の第2方向のドリフト空間内へ反射または偏向して戻す工程を含み、これにより、イオンはそれらのイオン移動度により分離し得る。
【0018】
好適には、ドリフト空間は複数回再使用される。より好適には、工程(iii)後、本方法は、必要なイオン分離長または分解能を達成するために必要に応じて工程(ii)と次に工程(iii)を順番に何度も反復する工程を含む。
【0019】
好適には、慣性イオン運動の複数の領域、すなわちイオンをあるドリフト空間から同じまたは別のドリフト空間へ導くイオン光学系を含む複数の領域が存在する。好適には、軸方向のドリフト空間のいずれか一端にこのような領域が存在する。
【0020】
ドリフト空間は好適にはドリフト管内に配置される。ドリフト空間および従ってドリフト管は通常、本明細書では軸方向と呼ぶ長手軸に沿って細長い。イオンは通常、ドリフト空間の一端の入口を通ってドリフト空間に入り、ドリフト空間の他端の出口を通ってドリフト空間から出る。ドリフト空間は好適には、細長いイオンガイド内に配置される。ドリフト空間は、いくつかの実施形態では湾曲され得るが、縦方向にほぼ線形に細長い(すなわち、直線である)ことが最も好ましい。ドリフト空間は好適には、ガス充填ドリフト空間である(すなわち、バッファガスで充填される)。ドリフト空間は、大気圧イオン移動度分離を実現するために大気圧まで充填されても、高圧に充填されてもよい。他のアプリケーションでは、例えば、0.01〜1000mbar、0.01〜100mbar、または0.01〜10mbar、または好適には0.01〜3mbarの範囲の低減ガス圧がガス充填ドリフト空間内で使用され得る。ガス充填ドリフト空間内のガス圧力は0.01mbar以上であることが好ましい。低減ガス圧はハイブリッドIMS−MS計測器に好適である。例えば空気またはヘリウムなどのIMS内で通常使用されるバッファガスが使用され得る。
【0021】
好適には、減圧で動作中の拡散損失を低減するために、RF擬ポテンシャル井戸が、イオンを半径方向に閉じ込めるようにドリフト空間内に構成される。ドリフト空間を通るイオンの経路は、RFイオンガイド、好適にはRF多重極イオンガイド(すなわち、例えば四重極、六重極、または八重極電界を生成するために複数の多重極ロッドを含むイオンガイド)内に配置され得る。多重極の代替案として、線形電界が軸方向に生成されるように一定電位差が隣接リング電極間に維持される一連の軸方向に離間されたリング電極(積層リング)を例えば含むイオントンネル、イオンファンネル、または他の装置が、ドリフト空間を通るイオン経路を規定するために使用され得る。または、ドリフト空間の軸方向に離間された電極(例えば、リング電極またはセグメント化多重極)の使用は、所謂「進行波」DC電界の印加(一時的DC電圧が複数の軸方向に離間された電極を含むイオンガイドの長さに沿って漸進的に印加される)がイオンをイオン移動度により分離できるようにし得る。
【0022】
軸方向電界をドリフト空間に沿って生成しイオンをドリフト空間を通過するように駆動するために軸方向電界生成手段が設けられることが好ましい。ドリフト空間に沿った軸方向電界を生成しイオンを所望の第1または第2方向に駆動するために、すなわちイオンを1回目に第1方向に次の回に第2方向に駆動する等々のために、切り替え可能な軸方向電界生成手段が設けられることが好ましい。イオンをドリフト空間を通して交互に反対方向に通過させないがドリフト空間を通してパス毎に同じ方向に通過させるいくつかの実施形態では、通常、静的軸方向電界を使用できる可能性があるので、切り替え可能な軸方向電界を必要としない。その場合、イオンエネルギーは、イオンが低圧領域内のイオン光学素子のうちの1つ(ミラーまたは偏向器)を通って飛行するにつれて、例えば後者のその電圧オフセットを上昇させることにより(すなわち、エネルギーリフト(energy lift)をイオンに与えることにより)変更される必要がある。これにより、イオンはドリフト空間を再び横断するのに適切なエネルギーを有してドリフト空間に再び入るようになる。
【0023】
切り替え可能な軸方向電界については、切り替えは、当該イオンがドリフト空間の外のミラーに反射している間に、それらのイオンの摂動が一切発生しないようにまたは最小限の摂動が発生するように、発生することが好ましい。ミラー全体のオフセット電圧もまた、同時に変更することができ、このような「電圧リフト(voltage lift)」内でイオンは無摂動で飛行する。したがって、ドリフト空間内の軸方向電界の方向は、必要に応じ第1方向または第2方向のいずれかにイオンを駆動するように第1と第2方向間で切り替え可能なことが好ましい。軸方向電界生成手段は、例えば、軸方向のドリフト空間長に沿って離間された複数または一連の補助電極により実現され得る。このような補助電極には、異なる(好適には階段状の)電圧が供給され得る(好適には補助電極は抵抗分割器を介し接続される)。このような補助電極は好適には、ドリフト空間を通るイオン経路が多重極内に設けられる場合は多重極ロッドの半径方向外向きに配置される。または、例えば米国特許第6,111,250号明細書に示すように、軸方向にセグメント化された多重極(すなわち、多重極ロッドのセグメントが上述の軸方向に離間された電極を実現する多重極)が使用され得る。多重極イオンガイド内の軸方向電界を生成するための以下のような他の手段もまた当業者に知られている:上述のような軸方向に離間されたリング電極、例えば米国特許第7,064,322号明細書、米国特許第7,164,125号明細書、または米国特許第7,564,025号明細書に示すような層状RFロッドまたは抵抗性被覆を有するロッド、例えば米国特許第6,674,071号明細書に示すような形状表面、および、先細りロッド、互いにある角度で配置されたロッド、多重極ロッド周囲のセグメント化ケース、抵抗性被覆補助ロッド、またはバンド間に抵抗性被覆を有する各ロッドに沿って離間された一組の導電性金属バンド、または抵抗性外部被覆と導電性内部被覆を有する管としてロッドなど、米国特許第6,111,250号明細書に開示されるような様々な他の手段。軸方向電界は所望の軸方向イオン速度を達成するように構成される。軸方向電界は好適には、軸方向イオン速度が50〜200m/sの範囲に入るように設定される。0.01〜3mbarの範囲の圧力では、ドリフト空間内の適切な軸方向電界は上述のイオン速度を達成するために0.2〜10V/cmの範囲であることが好ましい。
【0024】
イオンは好適には、イオンミラーを使用する方法で反射される。イオンミラーは好適には、ドリフト空間に隣接して、より好適にはドリフト空間より低い圧力の領域内に、最も好適には高真空のガス無し領域内に配置される。すなわち、これらの領域においては、ガス中のイオンの平均自由行程がミラーまたは偏向器の特性長(すなわち、ドリフト空間から出てからドリフト空間へ再び入るまでの距離として測定されたミラーまたは偏向器内の経路長)より著しく長い。このガスとの衝突間の平均自由行程長は、1つまたは複数のドリフト空間内の平均自由行程長よりより長いまたは、好適には著しく長い。イオンがガス中で運び去られるのを停止されたこのような状態下では、それらの運動は慣性状態となり、衝突の無いイオン光学の法則に従う。したがって、これらの領域は本明細書では慣性イオン運動領域とも称される。例えば第1方向にドリフト空間を通過したイオンを反射するイオンミラーは好適には、ドリフト空間の第1の端に隣接して配置され、本明細書では第1のイオンミラーと呼ばれることがある(後で説明するように2つのミラーが存在する)。
【0025】
さらに好ましい実施形態では、本方法はさらに、ドリフト空間を通過したイオンを第2方向に反射し、続いて、反射されたイオンを第1方向のドリフト空間を通して戻す工程(iv)を含む。このようにして、ドリフト空間は、イオンのイオン移動度分離のために少なくとも3回利用され得る。ドリフト空間を通過したイオンを第2方向に反射するイオンミラーはまた、好適にはドリフト空間に隣接して、より好適には第1の端と反対のドリフト空間の第2の端に隣接して配置される。このイオンミラーは本明細書では第2のイオンミラーと呼ばれることがある。
【0026】
第2のイオンミラーは通常、上述のように第1のイオンミラーを含む領域と同様な圧力状態(すなわち、低圧力でかつ最も好適には高真空状態)を有するドリフト空間に隣接する領域に配置される。第1のミラーと任意選択的に第2のミラーとを含む領域は共通のガスポンプ装置を共有しても、別個のポンプ装置を有してもよい。第1のミラーと任意選択的に第2のミラーとを含む領域は、低圧力にあるのでドリフト空間をポンプで汲み出す又は排気するポンプ装置と異なる1つまたは複数のポンプ装置を有することが好ましい。
【0027】
好適には、第2のイオンミラーは第1のイオンミラーとほぼ同一のミラーであるが反対方向に向けられる。したがって、このような実施形態における発明は、ドリフト空間の両端に隣接して配置された2つの対向するイオンミラーを含み得るということが理解される。イオンは好適には、反射後同じ経路に沿って(すなわち、同じ軸に沿って)であるが反対方向に走行して戻るように上記イオンミラーまたは各イオンミラーにおいて180度反射される。したがってドリフト空間と1つまたは複数のイオンミラーの構成は、単純線形ドリフト空間が2回以上利用される拡大された経路長のイオン移動度分離器(IMS:ion mobility separator)を実現する。
【0028】
イオンを第1方向のドリフト空間に再び通過させる工程後、イオンは必要に応じ再度反射され、イオン移動度により、必要程度のイオン分離が発生するまで、第2方向のドリフト空間に戻され通過され得るということが理解される。換言すれば、工程(iv)後、本方法は工程(iii)と(iv)を必要な回数だけ(例えば、複数回)順番に反復する工程を含み得る。したがって、このような実施形態における本発明は、ドリフト空間の両端に隣接して配置された2つの対向するイオンミラーを含み、これにより、イオンは各反射間にドリフト空間を通過することによりイオンミラー間で繰り返し(すなわち、順方向と逆方向を交互に)反射され得るということが理解される。
【0029】
ドリフト空間の各パスはイオン移動度分離長をLだけ延ばす。ここで、Lはドリフト空間の長さである。したがって、全イオン移動度分離経路はM
*Lにより与えられる。ここで、Mはドリフト空間を通過する回数である。これは、それらのイオン移動度によるイオンの分解能の事実上無限の増加を可能にする。
【0030】
本発明はまた、上記イオンミラーまたは各イオンミラーの代わりにイオン偏向器を使用することにより実施され得る。換言すれば、本発明は、イオン移動度分離の段階後にドリフト空間からイオンを受け取りこのイオンを別の段階のイオン移動度分離のための同じまたは別のドリフト空間内へ導くイオン光学系としてミラーおよび/または偏向器を使用することにより実施され得る。簡潔さのために、本発明のいくつかの機能については、本明細書ではイオンミラーの使用に関連して説明される。しかし、イオンミラーに関連して説明される機能は、必要な変更を加えて(例えば、イオンの反射はイオンの偏向に変更する等々)、イオン偏向器を使用する実施形態に適用されるということを理解すべきである。
【0031】
1.当該イオンミラーまたは各イオンミラー内では、好適には、イオン移動度によるイオンの分離は発生しない。当該イオンミラーまたは各イオンミラーが含まれる領域は好適には、ドリフト空間より低いガス圧、より好適には大幅に低いガス圧である。イオンミラーの領域内の圧力は好適には高真空であり、好適には10
-3mbar以下、より好適には10
-4mbar以下である。したがって、当該イオンミラーまたは各イオンミラーは好適には、それらのイオン移動度によるイオンの分離はこのような領域内で発生しないようにガス無し(例えば、高真空)領域内に配置される。したがって、ミラーはほぼ衝突の無いイオン光学系を提供することが好ましい。したがって、イオンミラー内では、イオン横断面(ion cross section)と無関係であるが質量電荷比(m/z)に依存するイオン分離が発生することが好ましい。
【0032】
当該イオンミラーまたは各イオンミラーは、イオンを減速および反射するために電界を供給する。当該イオンミラーまたは各イオンミラーは好適には、イオンを反射するために、電位がミラー内の距離と共に(すなわち、軸方向に)非線形に変化する非線形電界を供給する。当該イオンミラーまたは各イオンミラーは通常、軸方向(すなわち、ドリフト空間の伸長の方向と同じ)に細長い。当該イオンミラーまたは各イオンミラーにより供給される電界は好適には、当該イオンミラーまたは各イオンミラーが配置されるドリフト空間に隣接する1つまたは複数の領域にわたる軸方向のイオンの飛行時間集束(time−of−flight focusing)を実現する。イオン光学配置の目標物はドリフト管の端にあるイオンのパルス源であるので、ミラーはイオンの焦点をこの像に再び合わせ、したがってイオンの焦点をドリフト空間の入口に一時的に合わせることができる。非線形電界を使用することで、この全領域にわたるイオンの飛行時間集束を実現し得る。このようにして、1つまたは複数のミラーを含む領域内のドリフト空間の外のイオンの空間的広がりは、イオン移動度分離が発生するドリフト空間内の拡散による広がりより小さい(通常は著しく小さい)。このイオンの軸方向エネルギー広がりは、ミラーによる軸方向の飛行時間集束が有利となるように大きくなる可能性が高い。
【0033】
集束の時間の質(quality of time of focusing)は、好適な反射電界が理想的放物線電界(米国特許第4,625,112号明細書と米国特許第5,077,472号明細書に記載のような)、多項式電界(米国特許第5,464,985号明細書と米国特許第5,814,813号明細書に記載のような)、および追加加速度を有する非線形電界(米国特許第6,365,892号明細書に記載のような)を含むように、高くする必要は無い。好適には、イオンは、例えば、圧力がドリフト空間から高真空まで急激に低下するパッチポテンシャル(patch potential)を克服するために加速器により加速され、続いてイオンを非線形電界において反射する。このような加速は好適には、小さな加速電界(例えば、1〜10V)を有する短い領域により与えられる。したがって、本発明は好適には、ドリフト空間内の線形軸方向電界または進行波と、ドリフト空間外の(すなわち、1つまたは複数のイオンミラー内の)1つまたは複数の非線形軸方向電界とを使用することにより実施される。
【0034】
1つまたは複数のイオンミラーの減速および反射電界(retarding and reflecting electric field)は好適には、軸方向に離間された補助電極(例えば、適正電圧が印加されたリング電極)により供給される。イオンミラーの先端における少なくとも1つまたは複数の端部補助電極には通常、減速電圧(retarding voltage)が印加される。イオンミラーの先端における1つまたは複数の端部補助電極が端部アパーチャを形成することが好ましい。イオンミラーの端部アパーチャ上の電圧を変調することにより、イオンがアパーチャおよびしたがってイオンミラーを介し抽出され得る。イオンミラー内の減速電界を生成する他の手段は、当業者にとって公知である。当該イオンミラーまたは各イオンミラーは好適には多重極イオンガイドを含む。
【0035】
ミラーの少なくとも1つ(好適には少なくとも第1のミラー)のオフセット電圧は、イオンがミラーに入った方向と反対方向に戻されドリフト管を通過することができるように、例えばイオンが反射されるにつれてオフセット電圧を増加させることにより切り替え可能であることが好ましい。
【0036】
イオンは複数のイオンミラーまたはその1つを介しドリフト空間内へ導入され得る(すなわち、イオンは複数のイオンミラーまたはその1つを介しドリフト空間の入口に到達する)。例えば、2つのイオンミラーが存在する場合、イオンは第2のイオンミラー(すなわち、第2の反射が発生するミラー)を介し導入され得る。イオンミラーを介したイオン抽出と同様に、イオン導入はイオンミラーの端部アパーチャ上の電圧を変調することにより実現され得る。
【0037】
本発明は好適にはさらに、イオンをそれらのイオン移動度により分離する工程後に、好適にはイオンミラーの1つを介しドリフト空間から、例えば選択されたイオン移動度のイオンを抽出する工程を含む。イオンの抽出後、本発明は好適には、検出器を使用することによりおよび/またはイオンを別の処理に付すことにより、抽出されたイオンを検知する工程を含む。抽出されたイオンは、検出器として質量分析器(すなわち、ハイブリッドイオン移動度分光計−質量分析計(IMS−MS)構成の)を使用することにより検知されても、単純なイオン移動度スペクトルを提供するためにSEMなどのイオン検出器を使用して単純に検知されてもよい。好適には、抽出されたイオンは、任意選択的にイオンフラグメンテーション後に、例えばイオン移動度分離器の下流で、質量分析器を使用することにより質量分析される。抽出されたイオンの別の処理はさらに、イオン移動度による分離、質量−電荷による分離、および/またはフラグメンテーションを含み得る。
【0038】
選択されたイオン移動度の抽出されたイオンは、任意選択的に1つまたは複数の段階のイオンフラグメンテーションと共に、別の処理例えば1つまたは複数の段階の質量分離または分析(例えば、MS/MSまたはMS
n)に付され得る。本発明は、例えばIMS/MSまたはIMS/MS/MSまたはIMS/(MS)
nなどの様々なハイブリッド計測器構成で利用され得る。いくつかの実施形態では、質量濾過器の質量分析器は、例えばMS/IMS/MS、MS/IMS/MS/MS、またはMS/IMS/(MS)
nなどの計測器構成を提供するためにIMSの上流で利用され得る。
【0039】
本発明のイオン移動度分光計は、そのいくつかが以下に説明される様々な計測器構成においておよび様々な他の部品と共に使用され得る。
【0040】
ドリフト空間中の分離のためにイオンを供給するためのイオン源が存在することが好ましい。イオン源は、例えば、タンパク質の混合物を含む生体サンプルのための電気スプレーイオン(ESI:electrospray ion)源または特にMALDIイオン源を含むイオンを生成するための任意の好適なイオン源であり得る。イオンは好適には、それらのイオン移動度による分離のためにイオンのパルスまたは束としてドリフト空間へ渡される。
【0041】
イオン移動度分光計は好適には、イオンがイオン蓄積装置からドリフト空間内へ導入される(例えば、その後ドリフト空間において発生するイオン移動度分離のためのイオンのパルスまたは束として)ようにドリフト空間の上流にイオントラップなどのイオン蓄積装置を含む。イオン蓄積装置は、ドリフト空間内への導入に先立ってイオン源からのイオンを格納する。イオン蓄積装置はドリフト空間中へイオンを注入するための多重極を含み得る。イオンは、イオン蓄積装置からドリフト空間内へイオンミラーを介し導入され得る。例えば、2つのイオンミラーが存在する場合、イオンは第2のイオンミラー(すなわち、第2の反射が発生するミラー)を介し導入され得る。
【0042】
好適には、イオン移動度により分離されたイオンがドリフト空間から抽出されイオン蓄積装置内に格納されるように、上流のイオン蓄積装置またはドリフト空間の下流のイオントラップなどの別のイオン蓄積装置のいずれかが使用され得る。イオン蓄積装置から、選択されたイオン移動度の抽出されたイオンは、ドリフト空間内の別のイオン移動度分離に付されても、例えばイオン蓄積装置の下流の質量分析器において質量分析されてもよい。または、例えばイオン蓄積装置がイオントラップである場合、イオン蓄積装置は質量分析器として使用され得る。下流のイオン蓄積装置が使用される場合、下流のイオン蓄積装置からのイオンは、例えば別のイオン移動度分離のために上流のイオン蓄積装置へ戻され再導入され得る。
【0043】
イオン蓄積装置は、例えば国際公開第2008/081334号パンフレットに記載のような線形イオントラップ、特には湾曲線形イオントラップ(Cトラップとしても知られる)であり得る。軌道イオントラップなどの質量分析器中へイオンを射出するイオン蓄積装置は好適にはCトラップである。
【0044】
質量分析に先立ってイオンが任意選択的に送られ得るフラグメンテーションセルが設けられ得る。例えば、イオン移動度分離からのイオンを含むイオン蓄積装置は、質量分析に先立ってフラグメンテーションセルへイオンを任意選択的に送り得る。このようにして、イオンの質量スペクトルは、必要に応じフラグメンテーション有りまたはフラグメンテーション無しのいずれかで取得され得る。
【0045】
質量分析器は、イオントラップ(例えば、線形イオントラップ、3Dイオントラップ、静電気イオントラップ、軌道イオントラップ(例えば、Orbitrap(商標)質量分析器))、TOF質量分析器、例えば線形TOF、単一反射TOF、または多重反射TOF、磁場型質量分析器、またはフーリエ変換質量分析器(例えば、FT−ICR質量分析器)などの当該技術領域で知られた任意の好適なタイプの質量分析器であり得る。
【0046】
質量濾過器(例えば、透過四重極質量濾過器、イオントラップ質量濾過器)が、ドリフト空間内への導入に先立ってイオン源からのイオンの質量前濾過(mass pre−filtering)のためにドリフト空間の上流に設けられ得る。質量濾過器は好適には、質量濾過されたイオンが、イオン蓄積装置からドリフト空間内へ導入される前にイオン蓄積装置において収集されるように、イオン蓄積装置(ドリフト空間の上流にある)の上流に設けられる。本発明の好ましい構成の例として、Q−IMS−TOFとQ−IMS軌道トラップが挙げられる。ここで、Qは四重極質量濾過器を表す。
【0047】
1つのタイプの動作モードでは、質量分析器は、1つまたは限定数のm/z値(すなわち、狭いm/zバンド)を有する選択されたイオン移動度のイオン移動度分離器から抽出されたイオンを検知し、これにより計測器がイオン固有検出器を実現するように構成され得る。移動度濾過モードと呼ばれるより典型的な動作モードでは、質量濾過はほとんどまたは全く適用されない、または少なくとも広範囲のm/z値がイオン移動度分離器を介し送られ、質量スペクトルは、イオン移動度分離器により送られる複数の狭い範囲のイオン移動度のそれぞれ毎に質量分析器により得られる(すなわち、質量スペクトルは各イオン移動度ピークまたは各範囲の移動度毎に得られ、これにより、各単一イオン移動度ピークまたは範囲をそのm/z成分に分解する)。このようにして2次元(2D)移動度/質量図を得ることができる。
【0048】
別のタイプの動作モード(所謂リンク走査モード)は、いくつかのタイプのイオンの選択だけ(例えば、ペプチドだけ)を可能にし、複雑な混合物の分析のダイナミックレンジを著しく改善することができ、分析無用イオン(例えば、ペプチド混合物の場合の一価のイオンおよびポリマーイオン)を分析しないようにできる。リンク走査法では、所定の移動度/質量比のイオンまたは移動度/質量図上の所定の曲線上にあるイオンだけが、選択されたイオンの中間フラグメンテーションの有無にかかわらずその後の処理または検出(例えば、質量分析)のために選択されるように、質量濾過器(例えば、四重極質量濾過器)はイオン移動度分離器により移動度走査と同時に走査される。このようにして所定の移動度/質量比の選択されたイオンまたは移動度/質量図上の所定の曲線上にある選択されたイオンは好適には、その後の質量分析の前にイオントラップ内に蓄積される(例えば、Orbitrap質量分析器またはTOF質量分析器を使用して)。当該イオンだけが選択されてトラップ内に蓄積されるので、イオントラップの空間電荷容量を十分に利用することができる。
【0049】
本発明のイオン移動度分光計は、MS分析の有無に関らず液体クロマトグラフィIMS(LC−IMS)とガスクロマトグラフィIMS(GC−IMS)などのイオン移動度分離の前に好適には発生する他の分離技術と共に使用され得る。
【0050】
本発明による分光計と方法は電界非対称イオン移動度分光分析(FAIMS:field−asymmetric ion mobility spectrometry)に使用される可能性がある。この場合のFAIMS電界は、ドリフト空間に沿って軸方向に流れるイオンが当該技術領域で知られるように差分イオン移動度により分離されるように、ドリフト空間全体にわたって半径方向に印加され、周期的非対称電界を含むだろう。このため、ドリフト空間内のE/Pを200V/(m
*mbar)より著しく越えて増加させることが一般的である。
【0051】
本発明は改善されたイオン移動度分光計およびイオン移動度分光分析方法を提供するということが前述の説明と以下のより詳細な説明からわかる。特に、本発明の様々な実施形態は、以下のうちの1つまたは複数を提供し得る。限定された空間内の長いイオン分離長、使用されるイオン反射の数に依存して変えることができるイオン分離長、簡単な設計により提供される長いイオン分離長を有するイオン移動度分光計、異なるイオン分離分解能と速度のモード間で容易に切り替え可能なイオン移動度分光計、質量分析計特にイオントラップ質量分析計を使用する分析と結合された、イオンをそれらのイオン移動度に基づき濾過する方法。
【0052】
本発明をより十分に理解するために、本発明について非限定的な実施例として添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明によるイオン移動度分光計の実施形態を概略的に示す。
【
図2】本発明で使用するRFアパーチャの実施形態を概略的に示す。
【
図3A】本発明によるイオン移動度分光計の別の実施形態を概略的に示す。
【
図3B】本発明によるイオン移動度分光計のさらに別の実施形態を概略的に示す。
【
図3C】本発明によるイオン移動度分光計のさらにまた別の実施形態を概略的に示す。
【
図4A】本発明によるIMSを使用するハイブリッドIMS−MSシステムの2つのそれぞれの実施形態を概略的に示す。
【
図4B】本発明によるIMSを使用するハイブリッドIMS−MSシステムの2つのそれぞれの実施形態を概略的に示す。
【
図5】本発明の実施形態を使用することにより得ることができる2次元(2D)移動度/質量図を示す。
【
図6】示された1組の移動度/質量比と共に移動度/質量図(本発明を利用することにより実行され得るリンク走査法で走査されることができる)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1を参照すると、本発明によるイオン移動度分光計の実施形態が側面図で概略的に示されている。イオン源(図示せず)または任意選択的に前段階の質量分析または他のイオン処理(図示せず)からのイオンは当初は、イオン格納装置またはトラップ装置10内に格納される。このトラップ装置は例えば多重極イオントラップひいてはCトラップであり得る。使用中、トラップされたイオンは、トラップ装置10からドリフト空間に向けて第1または順方向に短い束またはパルスとして射出される。ドリフト空間は、この例ではトラップ装置10の下流に配置されたガス充填RF多重極20内に配置される。イオンは、多重極20に入るために多重極20の上流端における入口アパーチャ22を通過する。示された実施形態では、イオンはまた、最初に、以下にさらに詳細に述べるそれぞれ入口アパーチャ22の上流に配置された第1のアパーチャ11とガス無し領域46内に含まれるイオンミラー48とを通過する。他の実施形態では、イオンミラー48は存在しなくてもよい(例えば、イオンの単一反射だけが使用される場合)。使用される場合、アパーチャ11には、イオンがイオントラップ装置10からイオンミラー48を通ってガス充填多重極20の中へ入るように、変調された電圧が印加され得る。
【0055】
ガス充填RF多重極20は細長い多重極ロッド24(例えば、四重極の場合には4つのこのようなロッド)を含み、軸方向に細長く、中央長手軸60は軸方向に多重極ロッド24を貫通する。いくつかの実施形態では、以下に述べるように、多重極には、例えば、始めからいくつかの不要なイオンを濾過できるようにする質量分解(mass resolving)DC電圧が印加され得る。通常、ロッドの内接半径は2〜4mmであり、ロッド長は100〜500mmである。ドリフト空間は多重極ロッド24内にある。イオンを半径方向に制約し、イオンが多重極内のドリフト空間を通って軸方向に移動するにつれてイオンを誘導するために、ロッドにはRF電圧(通常は1〜5MHzの500〜3000V最大振幅)が供給される。イオンを軸方向に駆動するために、多重極20には使用中、切り替え可能軸方向電界が供給される(同図に示される例では多重極ロッド24に隣接しその半径方向外向きに配置される軸方向分離補助電極21により供給される)。電極21は好適には、所望の電位の傾きを与えるために抵抗分割器(図示せず)を介し接続される。他の実施形態では、軸方向電界は他の手段により供給され得る。
図1では、イオン移動度分光計の様々な領域内に印加されるDC電位は、分光計の図の下方に概略的に示される。実線は、正に帯電されたイオンの場合の分光計を通る第1/順方向のパスのDC電位曲線を表す。点線は、以下にさらに詳細に説明されるように分光計を通る第2/逆方向のパスのDC電位曲線を表す。本発明は、電位を反転させることにより正または負のいずれかに帯電されたイオンを分離することに適用可能であるということが理解される。
【0056】
多重極20は、斜線領域62により図に示されるガス充填領域内に含まれる。多重極20の領域62内の圧力は好適には0.01〜3mbarの範囲にある。軸方向電界は、ガス充填ドリフト空間内の軸方向イオン速度が好適には、50〜200m/sの範囲となるように、好適には約0.2〜10V/cmの範囲にある。使用中、イオンは、ガス充填多重極内のドリフト空間を軸方向に通過するにつれて、それらのイオン移動度により分離する。ドリフト空間を通る各パスは、約5〜20の分解能R1でもってイオンを分離する。
【0057】
使用中、イオンが第1または順方向の多重極20内のドリフト空間を通る軸方向にそれらの第1回目のパスをなし、これによりイオン移動度による一次の分離を受けた後、イオンは、この実施形態では出口アパーチャ23を通ってガス充填領域62から出、イオンを反射するための第1のイオンミラー38を含むガス無し領域36に入る。ガス無し領域は、実際には少なくとも高真空(好適には10
-3mbar未満、より好適には10
-4mbar未満)である真空の領域を意味する。イオンミラー38は、軸方向に細長く細長い多重極ロッド34(例えば、四重極の場合には4つのこのようなロッド)を含むRF多重極30を含む。イオンは第1のイオンミラー38に入り、多重極30内を走行し、ここで、適正電圧が端部アパーチャ32だけでなく、軸方向に離間された補助電極31(多重極ロッド34の半径方向外向きに配置された)へも印加されることにより供給される減速軸方向電界による反射を経験する。ミラーの減速電界のDC電位は、
図1の下方に実線により示される。ミラーの全長は通常は50〜200mmである。
【0058】
好適には、イオンがガス充填多重極20内のドリフト空間へ戻るときに飛行時間によるイオン束の空間的広がりΔ
TOFがイオン移動度領域(すなわち、ドリフト空間)内の拡散による束の広がりΔ
IMより著しく小さくなるように、イオンミラーの減速電界は、イオンが走行するガス無し領域36全体にわたる飛行時間へのイオンの集束を実現する。これは次のように表すことができる。
【数2】
ここで、Lはガス充填領域(ドリフト空間)内のイオン移動度分離経路の長さ(m)、Uはドリフト空間に沿った(すなわち、多重極20の軸に沿った)電位降下(V)、zはイオンの帯電状態、Tはガス充填領域内のガスの温度(K)、eは電気素量(1.602
*10
-19クーロン)、kはボルツマン定数(1.38
*10
-23J/K)である。イオンは多重極20からの出口において熱運動化されるので、それらのエネルギーは数mVから最大50〜100meVの範囲にあり、したがってそれらの相対的軸方向エネルギーの広がりは大きい。飛行時間集束が多重極20へ再び入るときに発生するように非線形電界がイオンの反射に使用されれば、このようなエネルギーの広がりにもかかわらず飛行時間集束を実現することが可能である。このような集束に必要な質はそれほど高くないので、この目的のために許容可能な電界は、追加の加速度を有する非線形電界(例えば、米国特許第6,365,892号明細書内に記載のものを参照)だけでなく、理想的放物線状電界(例えば、米国特許第4,625,112号明細書と米国特許第5,077,472号明細書に記載されたものを参照)から多項式電界(例えば、米国特許第5,464,985号明細書と米国特許第5,814,813号明細書に記載のものを参照)まで多岐にわたる。イオンミラーの特に好ましい電界は、例えば米国特許第4,625,112号明細書による、圧力が高真空まで急激に低下するパッチ電位を克服するために非常に小さな加速軸方向電界を有する短い領域(放物線電界内の反射がそれに続く領域)により実現されるだろう。
【0059】
低い軸方向エネルギーを考えると、例えば2010年9月30日出願の我々の同時係属中英国特許出願第GB1116837.4号明細書に記載のように多重極30の電極上のパッチ電位が最小限にされることが好ましい。この実施形態では、加熱および/またはパッチ電位を低減するための一様な被覆の利用をアセンブリ全体に実施できる可能性がある。
【0060】
ガス充填多重極20からの出口上のイオンビームのさらなる散乱を低減するために、端部アパーチャ22と23のうちの1つまたはその両方は、ガスの障壁を与えるがRF電界の連続性を遮断しないように構成される可能性がある。好適には、ガス充填多重極の端部アパーチャにはRFが印加される。四重極電界の特定ケースのこのようなアパーチャの例を
図2に概略的に示す。アパーチャは端と端を合わせて示され、小さなギャップxだけ分離された4つの導電性セグメントまたはフィンガー28を含む。対向ペア(すなわち、RFの位相1を有する第1のペアの対向セグメントとRFの位相2を有する第2のペアの対向セグメント、ここで1と2はRFの反対位相である)は、四重極電界を供給するために、同じRFの位相でもって電気的に互いに接続されている。イオンは、システムの中心軸60が走るセグメント内の半径方向中央アパーチャ27を通過する。一般的に、2N極電界(四重極ではN=2、六重極ではN=3、八重極ではN=4など)では、アパーチャ22および/または23は、小さなギャップだけ分離された2Nセグメントで構築され得る。2N極電界では、アパーチャ22および/または23は、小さなギャップ(例えば、約0.5mmのギャップ距離)だけ分離された2Nセグメントまたはフィンガーを有する金属被覆PCBとして構築される可能性がある。アパーチャ22と23上のRFの振幅は好適には2N極(この場合、四重極20)上のRFより小さく、より好適には有効半径の比のN乗に等しい係数だけ小さい。これは、容量的に整合された分割器を設けることにより実現できる可能性がある。「有効半径」により意味するものは、中心軸上に実際の構造と同じ電界構造を生成するであろう理想的多重極の内接半径である。例えば、フラットポール(flatapole)では、有効半径は電極間のギャップの2分の1より小さい。
図2に示すタイプのアパーチャでは、有効半径は、各象限の端が軸により近付くので、理想四重極におけるように曲げられ離されるのではなく、その実際の半径に対してさらに低減される。
【0061】
ガス充填多重極20内に含まれるドリフト空間を通る第2のパスのためにイオンがガス充填多重極20に向かって逆方向に戻るように、第1のイオンミラー38により供給される減速電界は上述のようにイオンを反射する。イオンが多重極20方向に戻るにつれて、第1のミラーに最も近いドリフト空間に沿った一連の補助電極21の端部だけでなく第1のイオンミラー(すなわち、多重極30)のDCオフセット電圧は、
図1の電位プロット内の点線により示されるように増加される。この上昇はイオン運動が乱されないように厳密に同期されるべきである。このようにして、ドリフト空間へ再び入ると、イオンは、ドリフト空間を通る逆または第2方向に走行しながらイオン移動度分離を続けることになる。したがって、ガス充填多重極20内のドリフト空間に沿った軸方向電界は反転される。ガス充填多重極20の他端に到達すると、イオンはガス充填ドリフト空間から出て、イオンを反射するための第2のイオンミラー48を含むガス無し領域46へ入る。このガス無し領域は実際上、少なくとも高真空(好適には10
-3〜10
-4mbar未満)である真空の領域を再び意味する。イオンは、第2のイオンミラー48において同様に反射され、第2のイオンミラー48は、第1のイオンミラー38とほぼ同一であるが第1のイオンミラーの反対方向に向けられ、細長い多重極ロッド44を有するガス無し多重極40を含む。第2のイオンミラー48には、第1のミラーと同様であるが反対方向に向けられた減速軸方向電界が供給される。第2のミラーの減速電界は、端部アパーチャ11だけでなく、軸方向に離間され多重極ロッド44の半径方向外向きに配置された補助電極41も介し供給される。主要な差異は、今回は、イオンが反射されるにつれて多重極40のDCオフセットを変更する必要が無いということである。但し、ドリフト空間に沿った一連の補助電極21の端部だけ順方向のドリフト空間を通る第1のパスに関し当初使用された状態まで再び下降される必要がある(電位プロット内の実線を参照)。次に、イオンは、第1または順方向のドリフト空間を再び通過するためにガス充填多重極20内のドリフト空間に再び入る。このようにして、イオン移動度分離処理全体が何度も開始され得る。
【0062】
図1に示す実施形態では、多重極20、30、40はそれ自身の一組のロッド24、34、44をそれぞれ含むが、いくつかの実施形態では、ロッド24、34、44は、多重極20、30、40が同じ組のロッドの異なる部分であるように物理的に同じ組のロッドであり得る。このような実施形態では、アパーチャ22、23は多重極20、30、40を構成する部分間に入り組んで設置され得る。ロッドのいくつかは、この目的のために分割される可能性がある。いくつかのロッドは、すべての多重極に対して物理的に同じである可能性があり、いくつかは分割される可能性がある。多重極のうちの1つがそれ自身の一組のロッドを含む可能性があり、他の多重極のうちの2つが物理的に同じ一組のロッドである可能性がある。
【0063】
イオンを反射してドリフト空間を通過させる処理は、それらのイオン移動度による当該イオンの分離が所望のレベルに達するまで複数回反復される(およそ通過数Mの二乗根に比例)。ドリフト空間を通る各パスは通常、約5〜20の分解能R1でイオンを分離する。両端において、選択された1つのイオン移動度またはイオン移動度の範囲を有するイオンは、端部アパーチャ11または32上の電圧を変調することにより、選択されたイオンが端部アパーチャ11または32を通って出るように(すなわちミラーの減速電界を非減速状態へ変調することによりいずれかのイオンミラーを通って出るように)濾過されることができる。上流端アパーチャ11を通って出る選択されたイオンを、上流のイオン格納装置またはトラップ装置10内に閉じ込めることができる。下流端部アパーチャ32を通って出る選択されたイオンを、下流のイオン格納装置またはトラップ装置50内に閉じ込めることができる。
【0064】
イオン移動度により分離され、その後トラップ装置10または50のいずれかに格納されるイオンは、計測器構成に応じて質量分析または他のイオン処理のために質量分析器へ射出され得る。トラップ装置10または50は、線形イオントラップ、特には、この目的のための湾曲線形イオントラップ(Cトラップ)であり得る。
【0065】
より高い移動度のイオンを除去するために、アパーチャ32上の電圧は、当該イオンが依然として多重極20内部に存在する間に変調される(正に帯電されたイオンを考慮する場合は下げられる)可能性がある。より低い移動度のイオンは分離の最初から最後まで多重極20の内部に留まる。より低い移動度のイオンは、当該イオンの移動度分離の質に悪影響を与える空間電荷効果を生じ得る。より低い移動度のイオンを除去するために、多重極20上のRFは時折スイッチオフされる、または四重極構成の場合には分解(resolving)DCが多重極20のロッドに印加される可能性がある。任意選択的に、分解DCはまた、不要な化学種またはイオン−分子反応の任意の生産物の迅速な除去を行うために移動度分離の最初から最後まで使用される可能性がある。
【0066】
本発明の代替的実施形態では、TOF集束によりイオンを反対方向に戻すために反射イオンミラーの代わりに180度トロイダル電場セクター(toroidal electric sector)などの偏向器が使用される可能性がある。この偏向器は好適には、上述のイオンミラーの場合のようにガス無し領域内に存在する。この構成の例を
図3Aに概略的に示す。蓄積装置10からのイオンは、トロイダル電場セクター偏向器90を含むガス無し領域を通って第1の軸70に沿って、イオン移動度分離が発生するガス充填ドリフト空間72内へ導入される。偏向器90は、イオンが蓄積装置10からアパーチャを通過してドリフト空間72内に入るようにするアパーチャ(図示せず)を有する。イオンはまた、ドリフト空間72と偏向器90間に設置された4つの短いイオンガイド71のうちの第1のものを通過する。イオンは第1のRF多重極74によりドリフト空間内の第1の軸70に沿って誘導され、軸方向DC電界はイオンを軸70に沿って追い立てる。陰影領域82はガス充填ドリフト空間領域全体を表す。このような実施形態は、軸に対し平行である逆方向にイオンを軸に沿って戻らせ、続いて順方向(であるが逆方向とはずらされた方向)に戻らせ得る。ドリフト空間の他端における同様なガス無し領域内の同様な偏向器は、イオンを反対方向の軸に沿って戻すためにイオンを180度にわたって偏向するだろう。示されたケースでは、同じくガス無し領域内の同様なトロイダル電場セクター偏向器90へのトロイダル電場セクター偏向器100は、第1の軸70に沿って走行したイオンを受け取り、それらを、第1の軸70と平行であるがそれからずらされた第2の軸80に沿って反対方向に走行するように飛行時間集束により戻す。各軸はそれ自身のイオンガイドを有するように設計されるだろう(例えば、2つの平行イオンガイドが存在するだろう)。したがって、イオンは、第2のRF多重極84によりドリフト空間内の第2の軸80に沿って誘導され、軸方向DC電界はイオンを軸に沿って追い立てる。イオンは、その後第1の偏向器90に入り、180度にわたって偏向され、第1の軸70上へ飛行時間集束し、ドリフト空間中へ再び入る等々である。これは、「DC電界が第1の(順方向)軸70に沿って一方向に維持され、第2の(反対)軸80上の反対方向に維持される可能性がある」ということを意味するであろう。電位の整合は、1つまたは両方の偏向器内のイオンの電圧リフトにより、または上記実施形態に記載のようにイオンガイド内の電圧分布をずらすことにより達成される可能性がある。この実施形態では、2つの別個のイオン経路がそれぞれの軸70と80に沿って規定され、各経路はそれ自身のそれぞれの多重極74と84内に存在し、両方の経路はイオン移動度分離の2つのパスを与えるために単一ガス充填ドリフト空間82内に設けられるということがわかる。この実施形態では、イオンミラーを使用する上記実施形態と同様に、イオン偏向器内では、イオンのイオン移動度による分離は発生しない。イオンミラーまたはイオン偏向器は好適には、イオンのイオン移動度分離がこのような領域において発生しないように、ガス無し領域(例えば、高真空)内に配置される。このようなイオンミラーまたは偏向器は好適には、それらの領域全体にわたるイオンの飛行時間集束を実現する。イオンミラーを使用する本発明の実施形態に関連して本明細書に記載される他の特徴は、必要な変更を加えて、イオン偏向器を使用する本発明の別の実施形態へ適用可能である。イオンは例えば、当該イオンがイオン移動度により十分に分離されると、偏向器90または100のうちの1つを介し(例えば、その中のアパーチャを介し)抽出できる可能性がある。
【0067】
本発明の別の実施形態を
図3Bに概略的に示すが、
図3Aに示す実施形態と大部分は似ているので同様な参照符号は同様な部品を示す。
図3Bに示す実施形態では、軸70に沿った1つのイオン移動度分離経路だけが小さなガス充填ドリフト空間82内に設けられる。イオンは、1回目は、その入口から出口までドリフト空間を通過し、次に、偏向器100、直線多重極84、偏向器90を含むイオン光学系を介し入口へ戻され、ここで、再度、ガス充填ドリフト空間82を通過することができ、以上の動作が続けられる。戻りイオン光学系は前と同様に高真空領域内に含まれる。
【0068】
図3Cに、本発明によるイオン移動度分光計のさらに別の実施形態を概略的に示す。ここでは、2つの対向する180度トロイダルセクターが、湾曲したほぼ円形のイオン経路を提供するために利用される。この実施形態では、ドリフト空間は、入口91と出口93を有するガス充填型180度トロイダルセクター92を含む。イオン運動の方向は矢印により示される。イオンは、ドリフト空間の出口93から受け取られ、ガス無し180度トロイダルセクター94に入り、ここでイオンは慣性運動を受ける。次に、イオンは、飛行時間集束によりドリフト空間の入口91にもう一度戻される。所望の分解能に達するまで、ガス充填トロイダルセクターを通る必要なだけ多くのパスが行われる。示されたイオン経路に沿った運動を開始するために、イオンは例えば、セクター92および94のいずれか内のアパーチャ(図示せず)を通りドリフト空間またはガス無し領域に入り得る。同様に、当該イオンは、イオン移動度による分離が必要な程度まで発生した後、セクターのうちの1つを通り抽出され得る。他の実施形態では、他の湾曲経路が例えば湾曲RF多重極内に設けられ得る。
【0069】
例えば以下に示すものなどイオン移動度分光計の様々な動作モードが可能である。
1)上述のような高分解能モード:狭い範囲のイオン移動度がズームインされ、全イオン飛行長がL
*Mであり、イオン移動度範囲が係数Mだけ低減される。
2)低分解能モード:イオンは反射無しに(M=1)システム全体にわたって飛行することができ、当該イオンは端部アパーチャ32上の電圧を変調することにより蓄積装置50内へゲート制御されそこでトラップされる可能性がある。そこから、イオンは、さらなるイオン移動度分離のためにイオン蓄積装置10の上流まで転送され戻される(必要に応じ)可能性がある、または質量分析器において質量分析される可能性がある。
3)所謂拡張モード:一範囲のイオン移動度が高分解能法または低分解能法により分析され、所望のイオン移動度のイオンはイオン蓄積装置50中へ濾過される。次に、別の範囲のイオン移動度が分析され、各回、所望のイオンがイオン格納装置50に入れられる。その後、イオンは下流または上流へ(例えば、質量分析または別の処理のために)転送され、(別のイオン移動度分離)のためにイオン蓄積装置10中へ入れられる可能性がある。イオン格納装置50に入るように導くことの代替案として、選択されたイオンをイオン格納装置10内へ導き、そこからイオンを質量分析または別の処理またはさらなるイオン移動度分離のために転送される可能性がある。
4)フラグメンテーションモード:多重極のうちの1つのオフセットを非常に大きくして、イオンがガス充填多重極20のドリフト空間においてフラグメンテーションを受けることを可能にする可能性がある。別のイオン移動度分離または他の別の処理または質量分析がこれに続く可能性がある。
5)透過モード:イオンを準連続的やり方で装置に沿ってドリフトさせ、装置10から装置50間の軸方向電界により引っぱる。
6)多重化モード:1つまたは複数の追加のイオンのパルスが当該イオンと同期するようにイオン格納装置10からドリフト空間中へ注入される(例えば、当該イオンが毎回ミラー48において反射を経験した直後に、上記追加パルスまたは各追加パルスを注入する)。これは当該イオンが低強度を有する場合に特に効果的であるが、高入力イオン電流が空間電荷効果を目立たせる。このモードは、長い分離のために50%超までのデューティサイクルの大きな増加を可能にする。
【0070】
他の動作モードもまた可能であるということが理解される。
【0071】
本発明は
図1と
図2に特に示されたものに対する様々な代替手段を使用することにより実施され得るということがさらに理解される。例えば、多重極20、30、40の代わりに、イオントンネル、イオンファネル、および/または他の装置が、印加されるRFの有無に関らず、多重極20、30、40のうちの任意のまたはそれぞれの代わりに使用される可能性がある。さらに、DC軸勾配電界をイオン移動度分離に使用する代わりに、当該技術領域で知られるようにそして上記のように進行波が使用される可能性がある。
【0072】
図4Aと
図4Bに、Q/IMS/トラップまたはQ/IMS/Orbitrap構成であり得る好ましいMS/IMS/MSハイブリッド計測器の実施形態を示す。
図4Aと
図4Bに示される構成では、参照符号は以下の意味を有する。ISはイオン源を示す、Qは四重極質量濾過器を示す、CTはCトラップを示す、OrbitrapはOrbitrap(商標)質量分析器を示す、IMSは、ドリフト空間および対向するミラーを含む本発明によるイオン移動度分離器(例えば、
図1に示すような)を示す、ITはイオン記憶装置またはトラップを示す。他の好ましいMS/IMS/MSハイブリッドはOrbitrap質量分析器の代わりにTOF質量分析器を使用し得る。
【0073】
MS/IMS/MSの
図4Aレイアウトは「デッドエンド」位置にIMSを有し、ここではイオン移動度により分離されたイオンはOrbitrap質量分析器において質量分析される前に上流へ戻される。MS/IMS/MSの
図4Bレイアウトは「一列に並んだ(in−line)」構成のIMSを有し、ここでは、イオン移動度により分離されたイオンがIMSの下流のOrbitrap質量分析器において質量分析される。
【0074】
Cトラップは、
図1の実施形態におけるトラップ装置10または50のいずれかの機能を実行し得る(特にその内部の追加の軸方向電界により)。次に、Cトラップは、当該技術領域で知られるように質量分析器へイオンを射出し得る。Orbitrap質量分析器の代わりに、任意の他の質量分析型イオントラップ、静電気イオントラップ、FT−ICR質量分析器、またはTOF質量分析器を使用できる可能性がある。
【0075】
本発明によるイオン移動度分離器の2つ以上を直列に結合することなどにより他の構成が可能であるということが理解される。例えば、イオン移動度によるより高い分離度を実現するために、本発明による1つのイオン移動度分離器装置から抽出される選択されたイオンを第1の装置に直列に接続された第2のイオン移動度分離器内へ送るまたは導入し、これを繰り返すことができてもよい。
【0076】
1つのタイプの動作モードでは、質量分析計は、1つまたは限定数のm/z値を有する選択された移動度のIMSから抽出されたイオンを検知し、これにより計測器がイオン固有検出器を提供するように構成され得る。より一般的な動作モードでは、質量スペクトルは、IMSにより送られる狭い範囲毎に(すなわち、イオン移動度ピーク毎に)、イオン移動度の質量分析計により得られ、これにより単一のイオン移動度ピークをそのm/z成分に分解する可能性がある。好ましい動作モードでは、質量前濾過は無く、イオン移動度分光計(IMS)は、高デューティサイクルにもかかわらず狭い範囲のイオン移動度(K)だけのイオンを送るように、上述の濾過モードにおいて作動される。
図5を参照すると、この狭い範囲の移動度K(すなわち、図の点線間)は、m/zに対するKの移動度/質量プロット上に示される。Orbitrap質量分析器などの後続の質量分析器は、狭い範囲のイオン移動度のイオンを受け取り、質量分析(すなわち、m/z走査)を行う。例えば、
図4Aまたは4Bに示すハイブリッド計測器を使用することにより、四重極質量濾過器(Q)は質量前濾過を行わないようにRF唯一モードで作動されることができ、狭い範囲の移動度のイオンが抽出され、Cトラップ内に格納され、次に、質量分析が行われるOrbitrap質量分析器中へ射出される。別の範囲の移動度(K)を送るためのイオン移動度分光計によるその後の走査が次に行われ、質量分析は、2次元(2D)移動度/質量図が
図5に示すように得られるように移動度走査毎に行われる。イオン種が検知される移動度/質量プロットの領域は影付き帯により
図5に示される。
図5に示すようなKとm/z間の既知の相関を利用することにより、分析速度を、いくつかの値のKを1つの質量スペクトルに合成することにより(例えば、Orbitrap質量分析器においてそれらを一緒に分析する前にいくつかの値のKのイオンをCトラップ内に蓄積することにより)、増加できる可能性がある。加えて、上述のように、選択されたイオンのフラグメントを生成するためにフラグメンテーションセル内のフラグメンテーションを使用できる可能性がある。
【0077】
図6を参照して別の好ましい方法を示す。この所謂リンク走査法では、いくつかのタイプの(例えば、選択された帯電状態の)イオンの選択だけを可能にし、これにより、複雑な混合物の分析のダイナミックレンジを著しく改善し、分析無用イオン(例えば、ペプチド混合物の場合の単独に帯電されたポリマーイオン)を分析しないようにすることができる。このリンク走査法では、例えば
図4Aまたは4Bの四重極質量濾過器などの質量濾過器は、IMSにより移動度走査と同時に走査される。規定された移動度/質量比のイオンまたは移動度/質量図上の定義された曲線上のイオンだけが後続の例えばOrbitrap分析器などの質量分析器へ渡される。後者の質量分析段に先立って、規定された移動度/質量比により選択されたイオンが好適には蓄積され、最も好適には例えば
図4Aまたは4BのCトラップなどのイオントラップ内に入れられる。次に、蓄積イオンは、トラップから解放され質量分析器へ入ることができる。
図6では、1つの走査においてCトラップ内に蓄積された代表的な移動度/質量比が点線間に示される。先に述べたように、走査の最後に、蓄積イオンのすべては質量分析されることができる(例えば、Orbitrap分析器内に注入され、質量スペクトルが得られる)。このような動作では、Orbitrap分析器またはTOFなど他の高分解能タイプ分析器を使用して得られような、当該イオンだけ(例えば、2または3個の帯電イオン、または糖ペプチドだけなど)を含むことになる高分解能質量スペクトルを得ることができ、したがって、トラップの空間電荷容量が十分に利用される。同様にして、1つまたは複数の後続の走査を、様々な移動度/質量比において行うことができる。質量濾過器の質量分解能は、全体のデューティサイクルがまずまずのレベル(例えば、1〜2%)となるようにIMSのものと同様になるように選択される可能性がある。任意選択的に、質量濾過は、分解DCを多重極20の四重極ロッド24へ印加することにより、IMS分離と組み合わせられる可能性がある。
【0078】
加えて、いくつかの選択されたm/zは、対応する前駆イオンの確認のためのフラグメントを提供するために任意選択的フラグメンテーションセル内でフラグメント化される可能性がある。任意選択的に、多重極20をこのようなセルとして使用される可能性があり、衝突のエネルギーは多重極に印加された「電圧リフト」の適切な振幅により供給される。
【0079】
本発明は、イオントラップ型質量分析器と共に使用するのに特にうまく最適化されるが、TOF分析器などの他のタイプの質量分析器と共に使用される可能性がある。
【0080】
特許請求の範囲を含み本明細書において使用されるように、文脈が別途示さない限り、本明細書における用語の単数形は、複数形を含むものとして解釈されるべきであり、その逆もまた同様である。例えば、文脈が別途示さない限り、単数冠詞など特許請求の範囲を含む本明細書における単数指示「a」または「an」は「1つまたは複数」を意味する。
【0081】
本明細書の記載および特許請求の範囲の全体にわたって、単語「含む(comprise)」、「有する(including)」、「備える(having)」および「包含する(contain)」と、その文法的変化形(例えば、「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」など)は、「含むがそれらに限定されない」を意味し、他の部品を除外することを目的としない(および除外しない)。
【0082】
本発明の前述の実施形態に対する変化形は、本発明の範囲内に依然として入るように、なすことができるということが理解される。本明細書で開示された各特徴は、別途記載のないかぎり、同じ、均等、または同様な目的を果たす代替の特徴で置換され得る。したがって、別途記載のないかぎり、開示された各特徴は、一般的な一連の均等又は同様の特徴の単なる一例である。
【0083】
本明細書に記載の全ての例の使用または例示的言語(「例えば(for instance)」、「など(such as)」、「例えば(for example)」および同様な言語)は、本発明をより良く説明することだけを目的としており、別途請求されない限り本発明の範囲に関する限定を示さない。本明細書内の言語は、本発明の実施に不可欠なものとして任意の非請求要素を示すものとして解釈されるべきでない。
【0084】
本明細書で記載された任意の工程は、任意の順序で、または別途明示されない限り、または文脈上必要な場合以外は同時に行われ得る。
【0085】
本明細書に開示された特徴のすべては、このような特徴および/または工程の少なくともいくつかが互いに排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで合成され得る。特に、本発明の好ましい特徴は本発明のすべての態様に適用可能であり、任意の組み合わせで使用され得る。同様に、非本質的な組み合わせで記載された特徴は、個別に(組み合わせてではなく)使用され得る。