【実施例】
【0085】
以下の例により本発明を更に説明するが、これらの例はいかなる点においてでも本発明の範囲を限定するものではない。
比較例1A:RU2182482に開示されたフミン酸を調製する方法及び前記化合物の特性評価
【0086】
比較のため、露国特許RU2182482の実施例1に記載された周知のフミン酸を調製し、以下のように特性評価を行った。
調製
【0087】
加水分解リグニン。非特異的腸内投与吸収吸着剤(商標名「Polyphepanum」としてScientek社から入手可能)を開始材料として用いた。
【0088】
1kgの開始材料、100gの水酸化ナトリウム、及び8.1kgの水からなる溶液を、酸素を5l/分で供給しながら、機械的撹拌機構を備えた酸化反応器で1時間、160℃の温度、2.5MPaの圧力で処理した。反応混合物を室温まで冷却し、固体残渣を濾過により取り除いた。この濾液は、フミン酸物質を含むアルカリ性溶液であるが、そのpHを硫酸で2〜3に調整した。フミン酸の残留物を濾過して分離し、pHが6.0〜6.5になるまで蒸留水、次いで水とアルコールの混合物で洗浄した。質量が一定になるまで得られた生成物を105℃で乾燥した。
特性評価
【0089】
上記のように調製したフミン酸を以下のように特性評価した。
灰分(鉱物不純物):13.5%
元素組成:C(67.0%)、H(4.0%)、N(1.0%)O(0.28%)
低分子不純物:次の
13C−NMRピークによって同定した。168.5ppm(カルボン酸陰イオン)、171ppm(ギ酸陰イオン)、173ppm(シュウ酸陰イオン)、181〜182ppm(酢酸陰イオン)。特定された不純物の全量は乾燥重量の4.1%であった。
【0090】
このフミン酸の構造を
13C−NMRにより分析した。結果を以下の表1及び
図1に示す。
【0091】
表1
13C−NMRの分析結果
【表1】
【0092】
実施例1B:本発明のベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物を調製する方法、及び前記化合物の特性評価
【0093】
調製
加水分解リグニン。非特異的腸内投与吸収吸着剤 (商標名「Polyphepanum」としてScientek社から入手可能)を開始材料として用いた。
【0094】
この開始材料は以下の物理・化学特性を有する。pH6.5、含水量66.63%、乾燥重量で多糖類の含有量25%、リグニンの含有量72.5%、水溶性化合物1.5%。
【0095】
工程a。0.998kgのPolyphepanumを15リットルの容器に入れ、6kgの蒸留水を加えた。この混合物を十分に撹拌した。
【0096】
工程b。約2リットルの50%水酸化ナトリウム溶液を、工程aの混合物に断続的に加えてpH13にした。この懸濁液を10リットルの酸化加水分解反応器でアルカリ処理した。温度が160℃、圧力が2.2MPaに達したら、空気の供給量を5dm
3/分に下げて、さらに2時間処理を継続して不溶性リグニンを完全に加水分解及び酸化した。得られた生成物、すなわちベンゼンポリカルボン酸のナトリウム塩溶液を加圧濾過器にて固体残渣から分離した。
【0097】
工程c。工程bで調製したベンゼンポリカルボン酸のナトリウム塩溶液をpHが1〜2になるまで塩酸で処理した。その後、15分間2500rpmで前記溶液を遠心力にかけて、密度勾配によりベンゼンポリカルボン酸の重合を誘導した。このように、緻密化した粗ベンゼンポリカルボン酸重合体を調製した。
【0098】
工程d。粗ベンゼンポリカルボン酸重合体を3.5kDa透析管に入れて、
13C−NMRまたは他の典型的な方法(例えばガスクロマトグラフィ)で検出される低分子不純物量が重合体の乾燥重量の1%になるまで蒸留水に対して透析した。ベンゼンポリカルボン酸の最終精製重合体化合物が調製された。
【0099】
ベンゼンポリカルボン酸の最終精製重合体化合物を乾燥して、さらに特性評価を行った。
【0100】
特性評価
工程dで調製した重合体を以下のように特性評価した。
性状:黒色結晶
同定:IRスペクトル吸収帯:3400〜3600cm
−1(ОН)、1050cm
−1(С−О)、1250〜1300cm
−1(ОН)。2800〜3000cm
−1の領域には、2928cm
−1及び2853cm
−1にピークを有する吸収帯が含まれ、それぞれCH
3基及びCH
2基のCH基の原子価振動に相当する。小さな吸収ピークが1750cm
−1に特定された。これはC=O基の振動に相当する。重合体のIRスペクトルを
図2に示す。
固体残渣:93.25%
灰分(鉱物不純物):0.67%
塩化物:0.03%未満
重金属:0.001%未満
元素組成:C(62.5%)、H(3.8%)、N(0.18%)、O(33.7%)
低分子不純物:次の
13C−NMRピークによって同定した。168.5ppm(カルボン酸陰イオン)、171ppm(ギ酸陰イオン)、173ppm(シュウ酸陰イオン)、181〜182ppm酢酸陰イオン)。同定された不純物の全量は乾燥重量で0.8%であった。
【0101】
この重合体化合物の構造を
13C−NMRにより分析した。その結果を以下の表2及び
図3に示す。
【0102】
表2
13C−NMRの分析結果
【表2】
【0103】
本発明の重合体について、二次元NMR同核種スペクトル及び異種核スペクトルも得た(
図4)。ピーク同定の結果を以下の表3に示す。
【0104】
表3 本発明の重合体の二次元NMR同核種スペクトル及び異種核スペクトル
【表3】
【0105】
このNMR分析から得たデータによると、本発明の重合体は、事実上すべての位置でアルキル基、メトキシ基、アルコール、ヒドロキシ基、カルボキシ基で置換された芳香族核として特徴づけることができる。表3から明らかなように、脂肪族炭素の4.5〜6個の原子が芳香族炭素の炭素数6に相当する。ここで、断片構造(C
3H
2O)、C
2H
2O)、(CH
2)が繰り返されている。
【0106】
本発明の重合体の分子量をゲル濾過法により分析した。これにより求められた本発明の重合体の断片の分子量は1.5kDaであった。この分子量、元素組成及びNMR分析のデータに基づいて以下の構造式を算出した。
(C
3H
2O)
x1(C
2H
2O)
x2(CH
2)
x3
(ただし、x1≦12、х2≦9、х3≦33)
【0107】
本発明の重合体の単量体をフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析により調べた(FTICR−MS)(
図5)(表4)。
【0108】
表4 本発明の重合体中に同定された高存在量の単量体
【表4-1】
【0109】
【表4-2】
【0110】
【表4-3】
【0111】
【表4-4】
【0112】
【表4-5】
【0113】
【表4-6】
【0114】
【表4-7】
【0115】
実験データ
本発明のベンゼンポリカルボン酸重合体化合物をさらに蒸留水で希釈して異なる濃度の溶液を調製し、健康な提供者の血液からリンポプレップ(Lymphoprep)を用いる遠心分離によって分離したリンパ球(70〜80%)及び単球(20〜30%)からなる末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell、PBMC)に対して試験を行った。
【0116】
本発明のベンゼンポリカルボン酸重合体化合物を215μg/L含む細胞培地を15日間培養した後、PBMCに対して効果を発揮したことが認められた。これは、
図7に示すように、リンパ球の運動性及び単球の持続性の増加として現れた。
【0117】
実施例2A:RU2182482による抗癌剤の調製方法及び前記抗癌剤の特性評価
調製
RU2182482で開示された方法に従って実施例1Aで調製したフミン酸を、フミン酸1gにつき80mlの量の5%アンモニア溶液で処理し、水槽で加熱して過剰のアンモニアを取り除いた。その後、得られた溶液を濾過して、30体積%の蒸留水と混合した。さらに、フミン酸の塩として得られたこの溶液をフミン酸1gにつき0.27質量%の量の四塩化白金酸カリウムで処理し、40W/cm
2、22kHzで4分間、音響キャビテーションに晒した。水で溶液の体積を100mlに調整した。
【0118】
実験2A−1
このように調製した抗癌剤を、エールリッヒ腫瘍を接種したマウスに、体重あたり62.5mg/kgの量を皮下投与した。腫瘍は、10
7個の細胞を皮下に接種した。腫瘍の接種後48時間後に治療を開始した。0.3ml/マウスの量を週に3回、3週間(合計9回の注射)注射した。対照群には、同じ投与計画に従って等張塩化ナトリウム溶液を与えた。治療されなかった対照群と比べて60%(10匹中6匹)が生存し、腫瘍の成長が50%阻害されたことが実験で認められた。
動物の死亡は、フミン酸に未結合の白金化合物の毒性が原因となっていた。
【0119】
実施例2B:本発明の白金(II)を含む複合物質を調製する方法及び前記複合物質の特性評価
調製
工程a。実施例1Bに記載した方法で調製した乾燥重合体4.529グラムを1リットルの蒸留水で希釈した。10%アンモニア溶液でpHを9.2に調整した。この溶液に0.8373gの二塩化シス−ジアンミン白金(II)を加えた。得られた溶液を、未結合の白金量が元の量の25%未満になるまで3.5W/cm
3、22kHzで超音波処理を行った。
【0120】
未結合の白金の検出方法
上記白金錯体の形成の完成を標準的な孔径500〜1000Daのセルロースの透析膜で制御した。この範囲の孔径とすると、白金化合物は透析膜を透過することができるが、1500Daの本発明の重合体は透過されず、従って白金との錯体もまた透過されない。
【0121】
この試験を行うため、超音波処理中に集めた複合物質の試料8mlを透析管に入れた。この透析管を、蒸留水で満たした容器に4時間浸して透析液を得た。
【0122】
0.8373gの二塩化シス−ジアンミン白金(II)を1リットルの蒸留水で希釈してモデル溶液(対照溶液)を得た。モデル溶液から透析液に移動した白金の量を100%とした。
【0123】
モデル溶液の透析液を測定したところ、未結合の白金濃度は76mg/l(100%)であった。一方、本発明の複合物質の透析液を測定したところ、未結合の白金濃度は18mg/l(24%)であった。
【0124】
工程b。さらに、上記のベンゼンポリカルボン酸と二塩化シス−ジアンミン白金(II)とを含む重合体化合物を含む反応混合物を40℃で24時間、自動温度調節して、所望の錯体の形成を完了させた。未結合の白金濃度(上記方法で求めた)が工程aで添加した量の10%未満になるまでこの自動温度調節を継続した。
【0125】
工程c。さらに10.0μmのポリプロピレン濾過器で工程bの粗複合物質を機械的含有物から分離して、実施例3に記載する医薬品組成物の調製に用いた。
【0126】
実験2B−1
このように調製した複合物質を、エールリッヒ腫瘍を接種した動物に、体重あたり62.5mg/kgの量を皮下投与した。腫瘍は、10
7個の細胞を皮下接種した。腫瘍の接種48時間後に治療を開始した。0.3ml/マウスの量を週に3回、3週間(合計9回の注射)注射した。対照群には、同じ投与計画に従って等張塩化ナトリウム溶液を与えた。治療されなかった対照群と比べて100%(10匹中10匹)が生存し、腫瘍の成長が65%阻害されたことが実験で認められた。
【0127】
本発明の複合物質はRU2182482の抗癌剤に比べてより高い安全性及び効力を有するが、複合物質内に上記白金化合物がよりよく錯化されていた結果によるものである。
【0128】
特性評価
ベンゼンポリカルボン酸重合体化合物と二塩化シス−ジアンミン白金(II)との新規な錯体の形成をさらに広域X線吸収微細構造分析(EXAFS)(
図6を参照)により調査した。本発明のベンゼンポリカルボン酸重合体化合物と二塩化シス−ジアンミン白金(II)を含む本発明の複合物質、無機二塩化シス−ジアンミン白金(II)(スペクトルでは「シスプラチン」として示される)、及びシス−ジアンミン(シクロブタン−1,1−ジカルボキシラート−O,O’)白金(II)(図では「カルボプラチン」として示される)間の有意な違いがEXAFSスペクトルに見られる。
【0129】
本発明の複合物質は、以下のIRスペクトルの特性吸収帯によって特徴づけられる。3400〜3600cm
−1、2800〜3000cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、1250〜1300cm
−1、及び1050cm
−1(ここで3400〜3600cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、及び1250〜1300cm
−1帯域の複合物質の強度は、ベンゼンポリカルボン酸重合体化合物の強度よりも小さい)。
【0130】
13C−NMR及びEXAFS法で得たデータに基づき、この複合物質の分子式を以下のように算出した。
(C
3H
2O)
x1(C
2H
2O)
x2(CH
2)
x3(Pt(NH
3)
2)
x4
(ただし、x
1、x
2、x
3、及びx
4は任意の正の整数または小数である)。
【0131】
実施例3:上記ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物とPt化合物を含む複合物質に基づく医薬品組成物の使用を裏付ける非臨床データ及び臨床データの記載、及びその特性評価
調製
実施例2Bに従って調製された0.5%の複合物質を、さらに等張塩化ナトリウム溶液などの溶媒として賦形剤を含む医薬品組成物を調製するための主成分として用いて0.05%の医薬品組成物を調製し、塩酸などの緩衝剤でpH7〜8にした。pHを常に監視しながら上記複合物質と賦形剤を機械的に撹拌して医薬品組成物を調製した。この医薬品組成物をさらに殺菌濾過して精製した。
このように調製した医薬品組成物を非経口(皮下または筋肉内)投与に用いた。
【0132】
特性評価
この医薬品組成物をヨーロッパ薬局方第6版に記載された方法で以下のように特性評価を行った。
性状:透明な暗褐色の液体
pH:7.27
同定:3400〜3600cm
−1、2800〜3000cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、1250〜1300cm
−1、及び1050cm
−1に特性IR吸収帯が見られ、3400〜3600cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、及び1250〜1300cm
−1のピーク強度はベンゼンポリカルボン酸重合体化合物のピーク強度よりも小さい。
白金の含有量:0.0049%
殺菌状態:殺菌
毒性:0.1mg/マウスで非毒性
発熱:体重当たり1.3mg/kgの量を筋肉内投与して発熱がない(ウサギ試験)
【0133】
非臨床データ
本発明の医薬品組成物の抗癌効力を、HER−2/neu癌遺伝子、上皮成長因子の発現水準の上昇と複数の乳腺腫瘍の自発的発達の蓋然性が高いHER−2/neu雌のマウスの自然発生乳癌で評価した。
【0134】
選択された計画によれば、乳癌の直径が少なくとも5mmに成長したら、動物を対照群及び実験群に無作為に分けた。本発明の医薬品組成物を、動物が死亡するまで週に3回、2種類の投与量(体重当たり62.5mg/kg及び3.0mg/kg)を皮下注射した。
【0135】
体重当たり62.5mg/kgまたは3mg/kgの本発明の医薬品組成物で7〜14日間治療された動物の寛解率は、それぞれ13%と12%であった(結果は統計的に有意であった)。一方、対照群は0%であった。
【0136】
これは本発明の医薬品組成物の乳癌治療における効力をよく示すものであり、ヒト及び非食用動物種への投与量を推定することができる。
【0137】
臨床データ
本発明の薬剤のフェーズIb臨床試験を8人の転移性乳癌患者に対して行った。32日間、この薬剤を毎日1回患者に注射した。評価した累積投与量範囲は体重当たり0.96mg/kgから1.12mg/kgであった。
【0138】
本発明の医薬品組成物を用いて以下のような結果が得られた。完全寛解(すべての転移の消滅)が1例、部分寛解(転移の大きさが25%超減少)が1例、安定した病気(転移の大きさの変化が−25%から25%の間)が3例、及び進行した病気(転移の大きさが25%超増加)が3例。
これらの結果は、転移性乳癌治療における本発明の医薬品組成物の臨床効力をよく示すものである。
【0139】
この臨床試験では78例の有害事象も登録された。登録された有害事象のいずれも深刻なものではなかった。有害事象は主に軽度または中度のものであり、78例の有害事象のうち2%のみが本発明の医薬品組成物に関するものであった。
【0140】
更に、本発明の医薬品組成物の治療量の増加に伴って副作用数の減少が観察された。このデータは、本発明の医薬品組成物の際だった安全性と、例えば末期患者の緩和療法の可能性をよく示すものである。
【0141】
また、本発明の医薬品組成物は血液パラメータの正常化に役立つことが裏付けられた。このように観察期間の終わりまでに以下の血液パラメータが正常になった。ヘモグロビンについて4患者中2患者、赤血球について3患者中2患者、血小板について3患者中1患者、白血球について5患者中3患者、好中球について3患者3患者、リンパ球について1患者が、検査で登録された水準と比較して正常になった。
【0142】
このデータは、本発明の医薬品組成物が例えば癌などの主たる病気の進行遅延に効果的に用いることができることをよく示すものである。
【0143】
実施例4:ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物とモリブデン化合物を含む複合物質を調製する方法、及び前記複合物質の特性評価
工程a。実施例1Bに記載された方法で調製された乾燥重合体15グラムを、1リットルの蒸留水で希釈した。約15mlの10%アンモニア溶液でpHを9.2に調整した。さらに、この溶液を60℃まで加熱して1.5時間撹拌し、過剰のアンモニアを取り除いた。5gのモリブデン酸アンモニウム四水和物を加えて、得られた溶液を、未結合のモリブデンの含有量が元の量の25%未満になるまで3.5W/cm
3、22kHzで超音波処理した。
【0144】
未結合のモリブデンの検出方法
上記モリブデン錯体の形成の完成を標準的な孔径500〜1000Daのセルロースの透析膜で制御した。この範囲の孔径とすると、モリブデン化合物は透析膜を透過することができるが1500Daの本発明の重合体は透過することができず、従ってモリブデンとの錯体もまた透過されない。
【0145】
この試験を行うため、超音波処理中に集めた複合物質の試料8mlを透析管に入れた。この透析管を、蒸留水で満たした容器に4時間浸して透析液を得た。
【0146】
5gのモリブデン酸アンモニウム四水和物を1リットルの蒸留水で希釈してモデル溶液(対照溶液)を調製した。モデル溶液から透析液に移動したモリブデンの量を100%とした。
【0147】
モデル溶液の透析液中の未結合モリブデン濃度は52mg/l(100%)であったが、本発明の複合物質の透析液中の未結合モリブデン濃度は11mg/l(21%)であった。
【0148】
工程b。さらに工程aの上記のベンゼンポリカルボン酸重合体化合物とモリブデン酸アンモニウム四水和物を含む複合物質を40℃で24時間、自動温度調節して所望の錯体形成を完了させた。未結合のモリブデン濃度(上記方法で求めた)が工程aで添加した量の10%未満になるまでこの自動温度調節を継続した。
【0149】
工程c。工程bの粗複合物質を10.0μmのポリプロピレン濾過器で機械的含有物から分離して、実施例5に記載する医薬品組成物の調製に用いた。
【0150】
特性評価
複合物質は、以下のIRスペクトルの特性吸収帯によって特徴づけられる。3400〜3600cm
−1、2800〜3000cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、1250〜1300cm
−1、及び1050cm
−1(ここで3400〜3600cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、1250〜1300cm
−1帯域の複合物質の強度はベンゼンポリカルボン酸重合体化合物の強度よりも小さい)。
【0151】
13C−NMR方法で得たデータに基づき、この複合物質の分子式を以下のように算出した。
(C
3H
2O)
x1(C
2H
2O)
x2(CH
2)
x3(MoO
3)
x4(H
2O)
x5(NH
4)
x6
(ただし、x
1、x
2、x
3、x
4、x
5、及びx
6は任意の正の整数または小数である)。
【0152】
実施例5:ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物とモリブデン化合物とを含む複合物質に基づく医薬品組成物の臨床での使用を裏付ける実験データの記載、及びその特性評価
調製
実施例4に従って調製された複合物質を、さらに溶媒として蒸留水を含む医薬品組成物を調製するための主成分として用いた。このとき、0.55%の複合物質を1:40の比で蒸留水と混合し、機械的に撹拌した。このように調製した医薬品組成物は経口投与に用いることができる。
【0153】
特性評価
この医薬品組成物をヨーロッパ薬局方第6版に記載された方法で以下のように特性評価を行った。
性状:不透明な暗褐色の液体
pH:8.27
同定:3400〜3600cm
−1、2800〜3000cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、1250〜1300cm
−1、及び1050cm
−1に特性IR吸収帯が見られ、3400〜3600cm
−1、1500〜1700cm
−1、1410cm
−1、及び1250〜1300cm
−1領域の医薬品組成物の強度はベンゼンポリカルボン酸重合体化合物の強度よりも小さい。
生物汚染度:100cfu/g未満
毒性:0.1mg/マウスで非毒性
発熱:体重当たり1.3mg/kgの量を筋肉内投与して発熱がない(ウサギ試験)
【0154】
実験データ
上記ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物とモリブデン化合物を含む複合物質に基づく医薬品組成物を、さらに蒸留水で希釈して異なる濃度の溶液を調製し、リンポプレップを用いる遠心分離によって健康な提供者の血液から分離したリンパ球(70〜80%)及び単球(20〜30%)からなる末梢血単核細胞(PBMC)に対して試験を行った。
【0155】
35及び215μg/Lの医薬品組成物を含む細胞培地を11日間培養した後、後者がPBMCに対する効果を発揮したことが認められた。これは、リンパ球の運動性及び単球の持続性の増加として現れた。
【0156】
上記医薬品組成物の、末梢血単核細胞(PBMC)によって作られたサイトカインのパネルに対する効果が同様の一連の実験で評価された。細胞培地で11日間培養した後、インターフェロンγ(IFN−γ)の産出が対照群では0〜75pg/mlであったが上記医薬品組成物で治療した群では2000〜3000pg/mlに増加したことが認められた。また、腫瘍壊死因子TNF−αの産出が対照群では0であったのが、上記医薬品組成物で治療した群では400〜650pg/mlに増加したことが認められた。
【0157】
このデータは、上記医薬品組成物が細胞周期破壊(例えば放射線に誘発された発癌や細胞の自然老化による発癌)に関連する病気の予防及び治療に有効に用いることができることをよく示すものである。
【0158】
実施例6:従来の放射線治療または化学療法に関連した副作用の低減/最小化での、上記ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物とモリブデン化合物を含む複合物質に基づく医薬品組成物の臨床での使用を裏付ける実験データの記載
【0159】
患者の特徴
この試験の患者は、長期の胃腸病歴がある64歳の女性であった。2012年5月にリンパ節への局所転移がある大腸癌と診断されて、手術を勧められ、同年6月に手術を受けた。様々な状況から、患者は二度再手術を受けなければならなかった。患者は、化学療法開始について8月の終わりまでに1回目の評価がなされた。
【0160】
結果及び手順
この1回目の評価に関する実験結果では、実質的に少量の血清アルブミンが、少量のヘモグロビン、白血球、好中性顆粒球ン、及びリンパ球とともに検出された。また、実験室での分析により、好酸球、アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase、ALAT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase、ASAT)及びアルカリ性ホスファターゼの減少が検出された(表5)。担当の癌専門医は化学療法の開始を避けて、2週間以内に新たに評価を行わなければならなかった。この期間に、患者は新規なモリブデンとのベンゼンポリカルボン酸錯体を含む医薬品組成物20mlを毎日投与された。この組成物は経口投与された。2回目の評価で得た実験結果はアルブミンの正常化を示すものであった。実質的にヘモグロビン、白血球、好中性顆粒球、リンパ球、及び好酸球の水準が上昇していた。また、ALAT及びASATいずれの水準も上昇していた。すぐに化学療法を開始した。
【0161】
化学療法による治療
患者は2日間で12回の注射を受け、次の化学療法治療までの2週間の休息期間を設けた。治療ごとに実験室での分析のために血液試料を採取した。また、この休息期間の途中で患者は生活の質(Quality of Life、QoL)に関する質問票C−30を記入した。
【0162】
患者は、1回目の2日間の注射前2週間と1回目の2日間の注射後の第1週目には本発明の組成物(すなわちベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物とモリブデン化合物を含む複合物質)を20ml経口投与された。
【0163】
2回目の注射期間の前1週間と2回目の注射期間後の1週間は、本発明の組成物を利用しなかった。本発明の組成物による治療を2回目の注射期間の1週間後に再開し、続く3回の注射期間の前後は毎日投与された。6回目の注射期間の前1週間は、患者は再度、本発明の組成物を投与されなかった。この追加治療は、7回目の治療期間直前に再開され、12回の化学療法による治療期間の残りの間は行われなかった
【0164】
1回目の治療期間及び2回目の治療期間の後に患者はQoL質問票C−30を記入した。また5回目、6回目、7回目の治療期間の後にも質問票を記入した。
【0165】
結果
実験変数。血清アルブミンは化学療法による治療の開始にあたって低いことがわかった。最初は、血清アルブミンは28(表5)と低かったが、本発明の組成物で10日間治療した後に39まで増加した。この値は、本発明の組成物による追加治療により1回目の化学療法による治療期間中も保持された。患者がまた本発明の組成物で治療された前後の回と比べると、アルブミンは、本発明の組成物による追加治療を行わなかった2回目、6回目の化学療法による治療の間わずかに減少した。
【0166】
ヘモグロビン、白血球、顆粒球、リンパ球、及び好酸球についても同様のパターンが検出された。これら変数のすべては、化学療法前は低かったが、10日間本発明の組成物を経口投与する追加治療を行ったところ実質的に増加した。これらの得られた水準は、本発明の組成物による追加治療により1回目の化学療法による治療期間中ほとんど変化がなかった。
【0167】
表5 1回目の化学療法(7回)による治療期間中のいくつかの実験変数の変化
太字で表示された列は、本発明の組成物による追加治療が行われなかったことを示す。
【0168】
【表5】
*追加治療は、化学療法とともに本発明の組成物の投与が行われたか否かを示し、「あり」はその期間に本発明の組成物を投与したことを、「なし」はその期間に本発明の組成物を投与しなかったことを示す。
【0169】
2回目の化学療法治療期間は、本発明の組成物を投与しない治療が行われた。上記の変数は、再び減少したことが分かった。続く3回の化学療法期間は、本発明の組成物を追加投与して治療が行われた。ヘモグロビン、白血球、顆粒球、及びリンパ球は再びその前のレベルにまで上昇した。好酸球については3回目の治療期間を除き、ほとんど同様のパターンが検出された。6回目の化学療法治療期間は、2回目と同様に本発明の組成物を追加投与しない治療が行われた。再び、ほぼ同じような数値の減少が起こった。
【0170】
ALAT及びASATは、1回目の化学療法治療の開始前と1回目の2日間の治療期間中にのみ測定された。しかしながら、上記血液変数で記載したのと同じパターンが示された。
【0171】
QOL質問票C−30。本発明の組成物を追加投与しなかった2回目の化学療法治療後の休息期間のC−30の合計は、本発明の組成物を追加投与した1回目の化学療法治療後の休息期間の合計から53%減少した。同様のパターンが5回目、6回目、7回目の化学療法治療後の休息期間にも検出された。本発明の組成物を追加投与した5回目の治療後のC−30の合計は、投与しなかった6回目の治療後のC−30の合計から48%減少した。本発明の組成物を追加投与した7回目の治療後のC−30の合計は6回目の治療後のC−30の合計から58%増加した。
【0172】
結論。本試験は体系化されていない症例報告ではあるが、化学療法治療に対する有力な補充療法として本発明の組成物の有益な効果を明確に示している。
【0173】
実施例7:本発明の化合物で処理した癌細胞生存率についての試験
この試験で用いた細胞は、以下のものである。
・MCF−7、ヒト乳癌細胞(高分化)
・T47−D、ヒト乳癌細胞(低分化)
・PL45、ヒト脾臓細胞(低分化)
・T24P、ヒト膀胱癌細胞(低分化)
・SKOV、ヒト卵巣癌細胞(低分化)
・HCT116、ヒト結腸直腸癌細胞
・Fadu、ヒト頭部及び頸部癌細胞
【0174】
これらの細胞を以下の化合物の量(10〜200μg/well)を変えて72時間処理した。
・ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物(
図8〜13では「化合物2」として示す)
・ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物と白金化合物を含む複合物質(
図8〜13では「化合物1」として示す)、及び
・ベンゼンポリカルボン酸水溶性重合体化合物とモリブデン化合物を含む複合物質(
図8〜13では「化合物3」として示す)
【0175】
細胞生存率
細胞を96ウェルプレート(5×10
4細胞s/ml)に蒔き、2日目にこの培地を、上記化合物/複合物質の濃度が異なる培地に変えた。72時間後及び96時間後、細胞生存率をXTT試験でキットに添付された手順に従って求めた。
【0176】
結果を
図8〜11に示す。
【0177】
これらの結果から、3種類の化合物/複合物質すべてがすべての細胞株の生存率に影響することが分かった。生存率は、調べた細胞株によって40%から90%低減した。試験物質の最も有効な殺細胞効果は、ヒト結腸癌細胞株及びヒト頭部及び頸部癌細胞株で見られた。また、最も低い殺細胞効果は卵巣癌細胞株及び肝臓癌細胞株で見られた。以下の表6を参照のこと。
【0178】
表6 白金を含む複合物質の推定IC50値
【表6】
【0179】
乳酸脱水素酵素(LDH)の測定による細胞毒性
細胞膜の完全性は、培養培地に放出されたLDH活性を測定することにより求めた。LDH活性は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドNADHの酸化後、334nmでの吸光度の減少として監視された。放出されたLDHの百分率は、上澄み液中のLDH活性の、放出されたLDH量と細胞溶解物で測定されたLDH活性の和に対する比として定義される。
【0180】
結果を
図12〜13に示す。
【0181】
この結果から、細胞損傷の兆候が見られないことが示された。LDHは、対照細胞からも試験物質で処理された細胞からも放出された。すなわち試験物質は非毒性である。壊死などの細胞損傷は培地のLDH濃度を上昇させる。処理後の細胞膜の完全性は、培養培地に放出されたLDH活性を測定することにより求めた。酵素活性は、分光光度法(Moran and Schnellmann 1996)で測定した。