(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記冷却水温調節部は、前記冷却水の放熱を抑制させる制御、又は、前記エンジンの発熱を増大させる制御のうちの少なくとも一方の制御を行う、請求項1に記載のサーモスタットの異常診断装置。
前記冷却水温調節部は、前記冷却水の温度が前記第2の基準温度を下回ったときに、燃料カット制御状態である場合には、前記燃料カット制御を中断させる、請求項1又は2に記載のサーモスタットの異常診断装置。
前記冷却水温調節部は、前記冷却水の温度が前記第2の基準温度を下回ったときに、車両の走行モードがEVモードである場合には、前記エンジンの駆動を開始させる、請求項1又は2に記載のサーモスタットの異常診断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、サーモスタットに異常が生じている場合、エンジンの始動後、暖機が完了した場合において、再度、冷却水温が大きく低下することがある。このような冷却水温の低下を伴うサーモスタットの異常は、適正に検出されなければならないと考えられる。例えば、車両では、冷却水温が条件の一つとして使用される種々の自己診断が行われる場合があり、冷却水温が大きく低下した場合には、他の自己診断の実行を中止させる必要がある。
【0008】
これに対して、冷却水温を監視し、冷却水温が、暖機完了時の水温を超えた後に、再度、サーモスタットの異常を判定し得る基準温度以下に低下した場合に、サーモスタットの異常を検出することが有効と考えられる。しかしながら、車両の走行状態によっては、サーモスタットが正常であるにもかかわらず、エンジンの暖機完了後に、冷却水温が大きく低下する場合が考えられる。例えば、車両が長い下り坂を走行している場合など、長時間定常走行が続いた場合、冷却水温が大きく低下することがある。このような場合にまで、サーモスタットの異常が検出されないようにすることが必要となる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、冷却水温センサにより検出される冷却水温を用いて、サーモスタットの異常判定を適正に実行可能な、新規かつ改良されたサーモスタットの異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、エンジンの冷却水の温度に応じて冷却水通路を開閉し、放熱装置への冷却水の流通の可否を切り替えるサーモスタットの異常診断装置において、冷却水温センサのセンサ信号に基づき冷却水の温度を検出する温度検出部と、冷却水の温度が第1の基準温度に到達した後、第1の基準温度よりも低い異常判定基準温度を下回ったときに、サーモスタットの異常を検出する異常判定部と、冷却水の温度が第1の基準温度に到達した後、冷却水の温度が第1の基準温度よりも低く、かつ、異常判定基準温度よりも高い第2の基準温度を下回ったときに、冷却水の温度低下を抑制する制御を行う冷却水温調節部と、を備える、サーモスタットの異常診断装置が提供される。
【0011】
冷却水温調節部は、冷却水の放熱を抑制させる制御、又は、エンジンの発熱を増大させる制御のうちの少なくとも一方の制御を行ってもよい。
【0012】
冷却水温調節部は、冷却水の温度が第2の基準温度を下回ったときに、燃料カット制御状態である場合には、燃料カット制御を中断させてもよい。
【0013】
冷却水温調節部は、冷却水の温度が第2の基準温度を下回ったときに、車両の走行モードがEVモードである場合には、エンジンの駆動を開始させてもよい。
【0014】
冷却水温調節部は、少量の燃料微小噴射を実行させてもよい。
【0015】
冷却水温調節部は、冷却水の熱量を利用するヒータ装置の出力を低下させてもよい。
【0016】
冷却水温調節部は、エンジンを通過する冷却水の流量を減少させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるサーモスタットの異常診断装置によれば、エンジンの運転中に、冷却水温が第1の基準温度に到達した後に異常判定基準温度まで低下した場合には、サーモスタットの異常が検出される。その際に、冷却水温が、第1の基準温度よりも低く、異常判定基準温度よりも高い第2の基準温度を下回った場合には、冷却水温の低下を抑制する制御が行われるため、単に燃焼熱が発生していないことによる冷却水温の低下によって、サーモスタットの異常が検出されることを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
<1.エンジン冷却システムの全体構成例>
まず、本発明の実施の形態にかかるサーモスタットの異常診断装置を適用可能なエンジン冷却システム10の全体構成の一例について説明する。
図1は、エンジン冷却システム10の全体構成を概略的に示す模式図である。かかるエンジン冷却システム10は、水平対向型の4気筒ガソリンエンジンに適用された例である。エンジンは、V型や列型の従来のエンジンであってもよく、気筒数も4気筒に限定されない。
【0021】
エンジンの左バンク(
図1では「LHバンク」と表記。)12及び右バンク(
図1では「RHバンク」と表記。)14には、それぞれ図示しないウォータジャケット(冷却水通路)が設けられている。エンジンの冷却システム10は、冷却水を、エンジンの左バンク12及び右バンク14のウォータジャケットに分配しながら循環させ、エンジンを冷却する。かかるエンジンの冷却システム10は、冷却水ポンプ(
図1では、「W/P」と表記。)22と、ラジエータ30と、サーモスタット32と、ヒータコア74とを備える。
【0022】
冷却水ポンプ22としては、例えばモータ等により駆動される電動ポンプが用いられる。冷却水ポンプ22は、エンジンのクランクシャフトにギヤを介して連結されたギヤポンプであってもよい。
【0023】
冷却水ポンプ22が駆動される間、冷却水ポンプ22により圧送される冷却水は、左バンク12及び右バンク14に分配されて、左バンク12及び右バンク14に設けられたウォータジャケットを流れる。左バンク12及び右バンク14に設けられたウォータジャケットを通過した冷却水は、集合管28に流入する。また、冷却水ポンプ22により圧送される冷却水の一部は、補機回路68を流れて、集合管28に流入する。補機回路68は、例えばEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置に設けられた冷却水通路であって、エンジン以外の発熱部を冷却するために設けられる。
【0024】
集合管28には、第1の循環通路34、第2の循環通路42、及び、第3の循環通路72が接続されている。第1の循環通路34、第2の循環通路42、及び、第3の循環通路72は、それぞれ、冷却水ポンプ22の上流側に通じている。エンジン及び補機回路68を通過して、集合管28で合流した冷却水は、第1の循環通路34、第2の循環通路42、及び、第3の循環通路72を介して、冷却水ポンプ22の上流側に戻される。
【0025】
第1の循環通路34に設けられたラジエータ30は、冷却水を放熱させて冷却水の温度を低下させる放熱装置の一例である。ラジエータ30を通過した冷却水は、サーモスタット32を介して、冷却水ポンプ22の上流側に戻される。
【0026】
サーモスタット32は、第1の循環通路34の出口を開閉可能に設けられている。かかるサーモスタット32は、冷却水温が所定の閾値未満のときに第1の循環通路34を遮断し、ラジエータ30を介した冷却水の循環を禁止させる。一方、サーモスタット32は、冷却水温が所定の閾値以上のときに第1の循環通路34を開放し、ラジエータ30を介した冷却水の循環を可能とする。サーモスタット32の開閉状態にかかわらず、第2の循環通路42及び第3の循環通路72を経由して冷却水ポンプ22の上流側へと循環する冷却水の流路は開放され得る。
【0027】
例えば、サーモスタット32は、温度によってワックスの体積が変化してサーモバルブを開閉するワックスエレメントを備えたサーモスタットであってよい。サーモスタット32は、ボトムバイパス弁付のサーモスタット32であってよい。かかるサーモスタット32は、冷却水温が所定の閾値未満の場合に、第1の循環通路34を遮断し、かつ、第2の循環通路42側を開放する。したがって、冷却水温が所定の閾値未満のときには、エンジン及び補機回路68を通過した冷却水は、ラジエータ30を通らずに、第2の循環通路42を介して循環する。これにより、冷却水温が低い場合には、冷却水を速やかに昇温させることができ、エンジンの暖機を促進させることができる。サーモスタット32が第1の循環通路34を開放する閾値は、例えば75℃とすることができる。なお、サーモスタット32は、ラジエータ30よりも上流側の第1の循環通路34に設けられてもよい。
【0028】
第3の循環通路72に設けられたヒータコア74は、冷却水が有する熱量を利用して車室内を暖房するために用いられる装置である。第3の循環通路72には、例えば図示しないヒータコックが設けられ、暖房要求があった場合等にヒータコックが開かれ、冷却水がヒータコア74に流入するようにしてもよい。ヒータコア74を通過する冷却水は、ヒータコア74において熱交換により冷却され、サーモスタット32を介して冷却水ポンプ22の上流側に戻される。
【0029】
また、集合管28には、冷却水温センサ40が設けられている。冷却水温センサ40は、設置位置における冷却水温に応じたセンサ信号を生成し、図示しない制御装置に送信する。冷却水温センサ40の設置位置は、集合管28に限定されない。冷却水温センサ40の設置位置は、エンジンの温度状態が反映されやすい位置であればよく、例えば左バンク12又は右バンク14のウォータジャケットの出口部分に設けられてもよい。
【0030】
<2.サーモスタットの異常診断装置>
次に、本実施形態にかかるサーモスタットの異常診断装置の構成例について説明する。
図2は、サーモスタットの異常診断装置100の機能構成を示すブロック図である。かかる異常診断装置100は、公知のマイクロコンピュータを備えて構成され、温度検出部102と、冷却水温調節部104と、異常判定部106とを備える。これらの各部は、マイクロコンピュータによるソフトウェアプログラムの実行により実現されてもよい。また、異常診断装置100は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の図示しない記憶素子を備える。かかる異常診断装置100は、冷却水温センサ40のセンサ信号、エンジンの燃料噴射量、及び、エンジン回転数の情報を取得可能になっている。
【0031】
(温度検出部)
温度検出部102は、冷却水温センサ40のセンサ信号に基づいて、冷却水温Twを検出する。検出された冷却水温Twは、図示しない記憶部に記憶される。
【0032】
(異常判定部)
異常判定部106は、冷却水温センサ40により検出される冷却水温Twに基づき、サーモスタット32の異常の有無を判定する。異常判定部106は、エンジンの始動後に、冷却水温Twが第1の基準温度Tw1に到達した後、第1の基準温度Tw1よりも低い異常判定基準温度Tw_thre未満になった場合に、サーモスタット32の異常を検出する。
【0033】
サーモスタット32が正常な場合、エンジンの暖機が完了し、冷却水温Twが一旦上昇した後は、エンジンの運転が継続する限り、大幅に低下することがない。これに対して、冷却水温Twが、エンジンの暖機完了が推定される第1の基準温度Tw1に到達した後に、異常判定基準温度Tw_thre未満になった場合には、冷却水温Twが低下してもサーモスタット32が閉じられなくなる開固着状態になっていると考えられる。したがって、異常判定部106は、かかる状態が検出されたときに、サーモスタット32の異常を検出する。異常判定部106は、サーモスタット32の異常を検出した場合、警告表示又は警告音等の警告手段を作動させ、サーモスタット32の異常をドライバ等に知らせる。これにより、燃焼効率が低い状態でエンジンの運転が継続されることを防ぐ。
【0034】
図3は、異常判定部106によるサーモスタット32の異常診断の基本的な考え方を示す説明図である。
図3には、冷却水温センサ40により検出された冷却水温Twの推移が示されている。エンジンが始動された時刻t0以降、冷却水は燃焼熱により加熱されて、冷却水温Twは次第に上昇する。エンジンの始動時において、第1の循環通路34はサーモスタット32により遮断されており、冷却水はラジエータ30を通らずに循環するため、エンジン及び冷却水温Twは早期に暖機され、冷却水温Twは時刻t1において第1の基準温度Tw1に到達する。
【0035】
サーモスタット32が正常な場合には、冷却水温Twが、一旦第1の基準温度Tw1に到達した後において大幅に低下することは稀である。一方、サーモスタット32が異常な場合には、冷却水温Twが、一旦第1の基準温度Tw1に到達した後においても、異常判定基準温度Tw_threを下回ることが考えられる。これは、サーモスタット32が異常な場合には、冷却水温Twが低下した場合であっても第1の循環通路34が遮断されずに、冷却水がラジエータ30を通って循環する場合に生じ得る。
図3に示した例では、異常判定部106は、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_thre未満になってからの時間をカウントし、カウンタ値が、あらかじめ設定される基準時間T0に到達したときに、サーモスタット32に異常が生じたと判定する。基準時間T0は、例えば1〜5秒に設定されてよい。かかる基準時間T0を設けることにより、冷却水温Twが一時的に異常判定基準温度Tw_threを下回った場合にまで、サーモスタット32の異常が検出されることを防ぐことができる。
【0036】
第1の基準温度Tw1は、例えば、エンジンの暖機の完了を判定し得る温度に設定される。例えば、第1の基準温度Tw1は、80〜90℃の範囲内に設定されてもよい。また、異常判定基準温度Tw_threは、サーモスタット32の開弁の閾値を考慮して設定される。例えば、異常判定基準温度Tw_threは、サーモスタット32が正常な場合に、エンジンの暖機後においてサーモスタット32により第1の循環通路34が遮断されることで冷却水温Twの低下が抑制され、本来低下し得ない温度に設定されてもよい。これにより、サーモスタット32の異常時には、例えばフェールセーフモードでエンジンを駆動させて、燃焼効率が低い状態でエンジンが通常運転されることを防ぐことができる。
【0037】
また、車両において、冷却水温Twが所定の温度以上の条件で他の診断が実行されるべき場合に、当該所定の温度が、異常判定基準温度Tw_threとして設定されてもよい。異常判定基準温度Tw_threが、他の診断の温度条件に関連づけられることにより、サーモスタット32の異常時には、当該他の診断を停止させることができ、他の診断の誤判定を防ぐことができる。そのような他の診断が複数存在する場合には、診断条件となる温度のうち最も高い温度が、異常判定基準温度Tw_threとして設定されてもよい。例えば、異常判定基準温度Tw_threは、60℃に設定されてもよい。
【0038】
(冷却水温調節部)
冷却水温調節部104は、エンジンの始動後に、冷却水温Twが、第1の基準温度Tw1に到達した後、第2の基準温度Tw2を下回ったときに、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行する。第2の基準温度Tw2は、第1の基準温度Tw1よりも低く、かつ、異常判定基準温度Tw_threよりも高い温度に設定される。エンジンの暖機が完了し、冷却水温Twが第1の基準温度Tw1に到達した後において、サーモスタット32が正常な場合であっても、車両の走行状態及び周囲の環境条件によっては、冷却水温Twが低下することが有り得る。例えば、燃料噴射量がゼロの状態が長時間続いた場合には、サーモスタット32が閉じられて、ラジエータ30を通らずに冷却水が循環する場合であっても、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_thre未満になり得る。特に、寒冷地において、車室内の暖房機器の出力が高く、燃料噴射量がゼロの状態の高速走行が長時間続く場合には、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_thre未満になりやすい。
【0039】
そこで、冷却水温調節部104は、サーモスタット32に異常がない場合にまで、誤ってサーモスタット32の異常が検出されないように、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threまで低下する前に、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行する。冷却水温Twの低下を抑制する制御を開始させる第2の基準温度Tw2は、例えば、異常判定基準温度Tw_threより、所定のマージン温度分高い温度とすることができる。これにより、冷却水温Twが第2の基準温度Tw2を下回った後、冷却水温Twが上昇し始めるまでに時間差が生じる場合であっても、冷却水温Twが異常判定閾値Tw_threを下回らないようにすることができる。例えば、異常判定基準温度Tw_threが60℃である場合、第2の基準温度Tw2は、70℃に設定されてもよい。
【0040】
サーモスタット32の正常時における冷却水温Twの低下は、エンジンの燃焼室で燃焼が生じない状態、例えば、燃料カット制御状態、又は、ハイブリッド車両におけるEVモード状態に代表されるように、燃料噴射量がゼロの状態に生じ得る。燃料カット制御状態は、例えば、燃料噴射量の情報に基づいて検知することができる。また、EVモード状態は、例えば、ハイブリッド制御モードの情報を取得することにより検知することができる。
【0041】
図4及び
図5は、車両が、燃料カット状態で、長い下り坂を走行する場合の冷却水温Twの推移を示すタイムチャートであり、
図4は、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行しない場合の参考例を示し、
図5は、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行した場合の例を示している。
図5の例では、冷却水温Twの低下を抑制する制御として、燃料カット制御を中断させる制御が実行される。
【0042】
図4及び
図5のいずれの場合においても、時刻t10でエンジンが始動された後、冷却水は燃焼熱により加熱されて冷却水温Twが徐々に上昇し、第1の基準温度Tw1を超える。この間、サーモスタット32は、所定の時期に第1の循環通路34を開放し、冷却水は、ラジエータ30を通って循環し始める。そして、車両が長い下り坂を走行しはじめ、時刻t11において、ドライバがアクセルペダルを開放することにより、燃料カット制御がオフからオンに切り替わる。
【0043】
冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行しない場合、
図4に示すように、燃焼熱により冷却水が加熱されることがないことと併せて、低温になったエンジンを冷却水が通過することでさらに冷却水が冷却される。この間、サーモスタット32により第1の循環通路34が遮断されて、冷却水はラジエータ30を通らずに循環するものの、エンジンの温度が低下することの影響によって、冷却水温Twは、異常判定基準温度Tw_threを下回り得る。時刻t12において、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threを下回り、時刻t12から所定の基準時間T0が経過した時刻t13において、異常判定部106は、サーモスタット32が正常であるにもかかわらず、サーモスタット32の異常を検出することになる。
【0044】
一方、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行した場合、
図5に示すように、冷却水温Twは一旦低下するものの、時刻t14において、冷却水温Twが第2の基準閾値Tw2を下回ると、冷却水温調節部104により燃料カット制御が中断される(オン→オフ)。これにより、エンジンでは燃焼熱の発生が再開され、冷却水温Twは上昇傾向に変化している。したがって、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threを下回ることがなく、異常判定部106が、サーモスタット32の異常を検出することがない。
【0045】
サーモスタット32が異常な場合には、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行した場合であっても、冷却水はラジエータ30を通って循環することになり、冷却水温Twは、徐々に低下して、異常判定基準温度Tw_threを下回り得る。したがって、冷却水温調節部104は、サーモスタット32が異常な場合に、冷却水がラジエータ30を通って循環する際には冷却水温Twが低下し得る程度に、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行させる。
【0046】
冷却水温Twの低下を抑制する制御は、エンジンの発熱量を増大させる制御、又は、冷却水の放熱量を減少させる制御のうちの少なくとも一方の制御であってよい。つまり、エンジンの発熱量を増大させて、冷却水温Twに伝達される熱量を増やすか、あるいは、冷却水の放熱量を減少させて、冷却水温Twの低下を抑制する制御が実行され得る。
【0047】
エンジンの発熱量を増大させる制御は、例えば、エンジンが燃料カット制御状態の場合には、燃料カット制御を中断させる制御であってよい。この場合、燃焼熱を発生させつつも、エンジンの出力トルクができる限り小さく抑えられる程度の少量の燃料噴射(燃料微小噴射)に切り替えられる。これにより、ドライバに与える違和感を少なくでき、かつ、燃費の低下を抑制することができる。
【0048】
また、エンジンの発熱量を増大させる制御は、車両がEVモードで走行している場合には、エンジン駆動を開始させる制御であってよい。この場合、車両の要求トルクをエンジン及び駆動モータに適切に配分させて、エンジンを駆動させる。特に、エンジンの出力トルクができる限り小さく抑えられる程度の少量の燃料噴射(燃料微小噴射)とすることにより、燃費の低下を抑制することができる。
【0049】
また、冷却水の放熱量を減少させる制御は、エンジン冷却システム10における冷却水の循環を遮断させ、又は、循環量を減少させる制御であってよい。例えば、集合管28に、エンジン及び補機回路68を通過した冷却水が冷却水ポンプ22の上流側に戻される際の循環通路を、第1の循環通路34、第2の循環通路42、及び、第3の循環通路72とで切り替える電子制御式の流路切替弁が設定されている場合、当該流路切替弁を用いて、冷却水の循環が遮断され、又は、循環量が減少されてもよい。あるいは、冷却水ポンプ22の上流側又は下流側等のいずれかの位置に電子制御式の遮断弁を設けて、冷却水の循環を遮断させてもよい。これにより、燃焼熱が発生しておらず比較的低温になったエンジンを循環する冷却水の量が少なくなって、冷却水温Twの低下を抑制することができる。
【0050】
また、冷却水の放熱量を減少させる制御は、車室の暖房機器の出力を低下させる制御であってよい。暖房機器の出力を低下させることにより、ヒータコア74を通過する冷却水から、熱交換によって失われる放熱量が減少し、冷却水温Twの低下を抑制することができる。ただし、寒冷地においては、暖房機器の出力を低下させることで車室内の搭乗者の快適性が低下する場合もあることから、暖房機器の出力を低下させる際には、設定温度を1〜3℃程度の範囲で低下させるようにしてもよい。
【0051】
このようにして、冷却水温調節部104が、冷却水温Twが第2の基準温度Tw2を下回ったときに、冷却水温Twの低下を抑制させることで、サーモスタット32が正常であるにもかかわらず冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threを下回って異常と判定されることを防ぐことができる。これにより、サーモスタット32の異常診断の信頼性を向上させることができる。
【0052】
<3.サーモスタットの異常診断方法>
ここまで、本実施形態にかかるサーモスタット32の異常診断装置100の構成例について説明した。以下、異常診断装置100により実行されるサーモスタット32の異常診断方法の一例について説明する。
【0053】
図6は、サーモスタット32の異常診断方法のフローチャートを示す。ステップS10において、異常診断装置100がエンジンの始動を検出すると、温度検出部102は、所定の処理サイクルで冷却水温センサ40のセンサ信号を取得し、冷却水温Twを検出する。次いで、ステップS12において、異常診断装置100の異常判定部106は、冷却水温Twが第1の基準温度Tw1を超えたか否かを判別する。
【0054】
冷却水温Twが第1の基準温度Tw1以下の場合(S12:No)、ステップS14において、異常判定部106は、車両のキースイッチがオフになったか否かを判別する。車両のキースイッチがオフになっていれば(S14:Yes)、異常診断装置100は、本ルーチンを終了する。一方、車両のキースイッチがオフになっていなければ(S14:No)、異常判定部106は、冷却水温Twが第1の基準温度Tw1を超えるまで、ステップS12及びS14を繰り返す。
【0055】
冷却水温Twが第1の基準温度Tw1を上回っている場合(S12:Yes)、ステップS16において、異常診断装置100の冷却水温調節部104は、冷却水温Twが第2の基準温度Tw2を下回ったか否かを判別する。冷却水温Twが第2の基準温度Tw2以上の場合(S16:No)、ステップS18において、冷却水温調節部104は、車両のキースイッチがオフになったか否かを判別する。ステップS12の後の最初のステップS16では、Noと判定される。車両のキースイッチがオフになっていれば(S18:Yes)、異常診断装置100は、本ルーチンを終了する。一方、車両のキースイッチがオフになっていなければ(S18:No)、冷却水温調節部104は、冷却水温Twが第2の基準温度Twを下回らない限り、ステップS16及びS18を繰り返す。
【0056】
冷却水温Twが第2の基準温度Tw2を下回った場合(S16:Yes)、ステップS20において、冷却水温調節部104は、冷却水温Twの低下を抑制する制御を実行する。冷却水温調節部104は、例えば、燃料カット制御を中断させたり、EVモード走行を中断させてエンジンを始動させたりすることで、エンジンの発熱を増大させる。また、冷却水温調節部104は、例えば、冷却水の循環を強制的に停止させたり、循環量を減少させたり、あるいは、車室の暖房機器の出力を低下させたりしてもよい。これにより、サーモスタット32に異常が無ければ、冷却水温Twの低下が終了する。
【0057】
次いで、ステップS22において、異常判定部106は、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threを下回ったか否かを判別する。冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_thre以上の場合(S22:No)、ステップS24において、異常判定部106は、車両のキースイッチがオフになったか否かを判別する。車両のキースイッチがオフになっていれば(S24:Yes)、異常診断装置100は、本ルーチンを終了する。一方、車両のキースイッチがオフになっていなければ(S24:No)、異常判定部106は、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threを下回らない限り、ステップS22及びS24を繰り返す。
【0058】
冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threを下回った場合(S22:Yes)、異常判定部106は、タイマカウントを開始し、ステップS26において、カウンタ値が、あらかじめ設定した基準時間T0に到達したか否かを判別する。カウンタ値が基準時間T0に到達していない場合(S26:No)、ステップS28において、異常判定部106は、車両のキースイッチがオフになったか否かを判別する。車両のキースイッチがオフになっていれば(S28:Yes)、異常診断装置100は、本ルーチンを終了する。一方、車両のキースイッチがオフになっていなければ(S28:No)、異常判定部106は、カウンタ値が基準時間T0に到達するまで、ステップS26及びS28を繰り返す。
【0059】
一方、カウンタ値が基準時間T0に到達した場合(S26:Yes)、ステップS30において、異常判定部106は、サーモスタット32に異常が生じていると判定する。これに伴って、異常判定部106は、ドライバ等にサーモスタット32の異常を知らせるための警告表示をさせたり、警告音を発生させたりしてもよい。さらに、異常判定部106は、エンジンの制御モードをフェールセーフモードに移行させて、エンジンの出力を抑制させてもよい。
【0060】
以上説明したように、本実施形態にかかるサーモスタット32の異常診断装置100によれば、エンジンが始動し、冷却水温Twが、暖機完了と推定される第1の基準温度Tw1に到達した後に、異常判定基準温度Tw_threを下回ったときに、サーモスタット32の異常が検出される。その際に、冷却水温Twが、第1の基準温度Tw1に到達した後、第1の基準温度Tw1よりも低く、異常判定基準温度Tw_threよりも高い第2の基準温度Tw2を下回った場合には、冷却水温Twの低下を抑制する制御が開始される。これにより、サーモスタット32が正常な場合には、冷却水温Twのさらなる低下が抑制され、冷却水温Twが異常判定基準温度Tw_threを下回ることがない。したがって、サーモスタット32が正常な場合にまで、サーモスタット32の異常が検出されることを防ぐことができる。
【0061】
また、冷却水温調節部104は、サーモスタット32が異常な場合には冷却水温Twが引き続き低下し続ける程度に、冷却水温Twの低下を抑制することで、サーモスタット32の異常時には、異常判定部106により、当該異常が適正に検出される。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば、上記実施形態では、サーモスタット32として、ワックスエレメントを備えたサームスタットを使用していたが、本発明はかかる例に限定されない。サーモスタット32は、冷却水温に基づいて制御装置によって制御される1つ又は複数の制御弁を備え、冷却水の流路の切り替が可能とされた流路切替機構であってもよい。
【解決手段】サーモスタットの異常診断装置は、冷却水温センサのセンサ信号に基づき冷却水の温度を検出する温度検出部と、冷却水の温度が第1の基準温度に到達した後、第1の基準温度よりも低い異常判定基準温度を下回ったときに、サーモスタットの異常を検出する異常判定部と、冷却水の温度が第1の基準温度に到達した後、冷却水の温度が第1の基準温度よりも低く、かつ、異常判定基準温度よりも高い第2の基準温度を下回ったときに、冷却水の温度低下を抑制する制御を行う冷却水温調節部と、を備える。