特許第6190556号(P6190556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6190556
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】曳糸性チーズ様加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23C 20/02 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   A23C20/02
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-73710(P2017-73710)
(22)【出願日】2017年4月3日
【審査請求日】2017年4月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000189970
【氏名又は名称】植田製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武藤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】熊西 敦則
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩志
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−205940(JP,A)
【文献】 特開2015−188387(JP,A)
【文献】 特開2015−065948(JP,A)
【文献】 特開昭60−012931(JP,A)
【文献】 特開平02−211827(JP,A)
【文献】 特開2015−065947(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129230(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1123658(EP,A2)
【文献】 国際公開第2013/138728(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/165956(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0243926(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0008502(US,A1)
【文献】 米国特許第5486375(US,A)
【文献】 Eur. Food Res. Technol.,2008年,Vol.226,pp.1039-1046
【文献】 Journal of Food Science,2001年,Vol.66,pp.586-591
【文献】 Food Hydrocolloids,2008年,Vol.22,pp.1612-1621
【文献】 Food Hydrocolloids,2008年,Vol.22,pp.1160-1169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/FSTA(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
由来タンパク質含量が0.1質量%以下であって、酸化デンプンを15〜30質量%、ヒドロキシプロピルデンプンを2〜8質量%含みそれらの総量は加工食品の総質量の20〜35質量%であり、酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプンの含有比が15:1〜2:1であり、上昇融点30℃以上の油脂を10〜40質量%、及び水を含有し、酸化デンプン総量中のアミロース含量が0.1〜23質量%で、実質的に乳由来タンパク質を含有せずとも加熱時に曳糸性を有するチーズ様加工食品。
【請求項2】
タンパク質含量が0.1%以下で実質的にタンパク質を含有しない請求項1に記載のチーズ様加工食品。
【請求項3】
油脂のSFCが10℃で50〜95%、20℃で40〜85%である請求項1または2に記載のチーズ様加工食品。
【請求項4】
実質的に乳由来原料を含有しない請求項1〜のいずれかに記載のチーズ様加工食品。
【請求項5】
形状がブロック状、スライス状、サイノメ状、短冊状、シュレッド状、粉状である請求項1〜のいずれかに記載のチーズ様加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱時にチーズ様の曳糸性を有する実質的に乳タンパク質を含有しない加工食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チーズは乳及び/または乳から得られる原料から造られている乳製品の一つであり、牛、水牛、山羊、羊等から得られる乳、中でも牛乳が最もよく使用されている。日本においてチーズとは法令上ナチュラルチーズ、プロセスチーズであり、チーズの文言が入るものとしてチーズフードがあるが、いずれも乳が成分として含まれており、製造方法や成分及びその量に厳格な制約がある。
【0003】
チーズの需要は年々増加しており、そのものを食するだけでなく様々な食品に使用され、調理には欠かせない原材料として定着している。使用する際の選択基準において、チーズの独特な風味の重要性はさることながら、硬さや弾力性、固形、半固形、流動状等の形状や切断、粉砕のし易さ、加熱時の溶け具合や焼き色等、用途が広がるほど種々要求される物性が多岐にわたっている。中でも加熱時に適度に溶けて、独特な粘性と曳糸性を持つというチーズ独特の性質が食する時の見た目と食感の点で好ましいものとしてとらえられている。これらの求められる性質に十分に対応するにはナチュラルチーズでは限界があるので、プロセスチーズやチーズフード、さらにはチーズに加えるための様々な食品原料や食品添加物の使用が検討され、チーズ風味食品と称するものが提案されている
【0004】
チーズ特有の曳糸性という物性は調理において食感と見た目で非常に魅力的であるが、この物性を発現させるにはたとえ少量であってもチーズを加えるか、乳タンパク質の代わりとなるタンパク質を利用する必要があった。一方、近年、食物アレルギーを持つ人への配慮も社会的使命の1つであり、アレルギーの心配なく食事を楽しめるようにするには、アレルギーの原因となる乳タンパク質あるいは更に拡大してタンパク質を含有していないにもかかわらず、チーズ様の風味や食感を味わうことができるような食品を提供してほしいとの要望が国内外で高まっている。
【0005】
タンパク質を低減しつつ、曳糸性を有するものとして特許文献1に増粘剤と酸処理デンプン、パーム油中融点画分、トータルミルクプロテイン等のタンパク質の使用が提案されている。タンパク質含量が10重量%以下である糸曳き性チーズ食品において、最もタンパク質含量の低いものとして本文中の実施例には2.0重量%の配合例しか記載されておらず、タンパク質を含有していない糸曳き性チーズ食品の品質の評価はされていない。また、特許文献2には馬鈴薯由来のデキストリンとカラギナン等の増粘多糖類、アラビアガム等の乳化剤を構成成分とし、実質的にタンパク質を含まないものが提示されているが、曳糸性を持ち合わせていない。チーズの多岐にわたる特性を発揮するには乳タンパク質が重要な役割を果たしており、乳タンパク質の機能を代替できるタンパク質も一切使用しないでチーズに期待される特性を全て満足させることは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−188387
【特許文献2】特開2010−142181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は実質的に乳タンパク質を含有しないにもかかわらず、チーズ特有の保形性及び食感を有し、切断、裁断、切削等の加工適性を持ち、加熱時には良好な溶融性と曳糸性を示すチーズ様加工食品を提供することを目的とする。更には乳成分をはじめとする食物アレルギーを引き起こす可能性のある原材料やタンパク質を含有しないチーズ様加工食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は特定の加工デンプンの組み合わせとすること、及び油脂と水を含有させ、微細化された無数の油滴粒子の周りを水により膨潤したデンプンが覆う乳化構造を有する加工食品とすることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。更には該食品の構成成分である油脂を、特定の物性を持つ油脂とすることで乳化構造の安定性を高め、常温で良好な保形性を保持しつつ加熱により良好な溶融性が見られ、表面に艶のある見栄えの良いチーズ様加工食品としたのである。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)乳由来タンパク質含量が0.1質量%以下であって、酸化デンプンを15〜30質量%、ヒドロキシプロピルデンプンを2〜8質量%含みそれらの総量は加工食品の総質量の20〜35質量%であり、酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプンの含有比が15:1〜2:1であり、上昇融点30℃以上の油脂を10〜40質量%、及び水を含有し、酸化デンプン総量中のアミロース含量が0.1〜23質量%で、実質的に乳由来タンパク質を含有せずとも加熱時に曳糸性を有するチーズ様加工食品、
(2)タンパク質含量が0.1%以下で実質的にタンパク質を含有しない(1)に記載のチーズ様加工食品、
(3)油脂のSFCが10℃で50〜95%、20℃で40〜85%である(1)または)に記載のチーズ様加工食品、
(4)実質的に乳由来原料を含有しない(1)〜()のいずれかに記載のチーズ様加工食品、
(5)形状がブロック状、スライス状、サイノメ状、短冊状、シュレッド状、粉状である(1)〜()のいずれかに記載のチーズ様加工食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の曳糸性チーズ様加工食品は、常温ではブロック状のものをサイノメ状、短冊状等への形状に自在にカットでき、シュレッド状への裁断や粉状への粉砕も可能となる等形状の加工適性に優れ、それらをオーブンやトースター等の調理器具内で加熱すると溶融して曳糸性を発現するといったチーズに類似した特有の物性を持つことに加えて、本発明の構成成分は、ほぼ無味無臭なため様々な呈味成分や香料を含有させることでチーズ風味にとどまらず、バター風味やチョコレート風味、マヨネーズ風味等任意の風味を付けることでき、使用できる調理食品の範囲が格段に広がる。しかも、本発明品は実質的に乳タンパク質や乳成分を含有していないので食物アレルギーを心配する人に配慮した加工食品であり、加える風味成分のアレルゲンに留意することで食物が原因となるアレルギーを引き起こさない加工食品とすることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の曳糸性チーズ様加工食品は、乳タンパク質含量が0.1質量%以下であって、酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプン、上昇融点30℃以上の油脂及び水を含有し、酸化デンプン総量中のアミロース含量が0.1〜23質量%で、実質的に乳タンパク質を含有せずとも加熱時に曳糸性を有するチーズ様加工食品であり、酸化デンプンを含む水相部中に油脂が分散された構造を持つ食品である。
【0012】
「実質的に」とは、タンパク質が含まれていないか、分析上、わずか痕跡程度である状態をいう。本発明においてはナチュラルチーズやプロセスチーズはもちろんのこと、脱脂粉乳やホエーパウダー等の乳タンパク質を含有する原料やあるいは大豆タンパク質や小麦タンパク質等の植物性タンパク質の使用を必要としない。
【0013】
本発明の構成成分であるデンプンは、化学処理を施された加工デンプンに属するものである。その加工デンプンの1つである酸化デンプンはデンプンを次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理して得られるものであり、その酸化処理の程度はカルボキシル基量で規定することができ、カルボキシル基量が多いほど酸化処理程度が進んだことを意味する。未処理のデンプンはカルボキシル基がほぼない。起源原料としては馬鈴薯由来、タピオカ由来、コーン由来、ワキシーコーン由来、サゴヤシ由来、米由来、エンドウ由来、甘藷由来のデンプンから選ばれた1種類以上の酸化デンプンを用いることができる。本発明にはいずれの起源のデンプンであってもよいが、良好な曳糸性と加熱溶融性、成形加工適性の物性を兼ね備えるためには、用いた酸化デンプン総量中のアミロース含量を0.1〜23質量%とし、馬鈴薯由来、タピオカ由来、ワキシーコーン由来の酸化デンプンを1種類以上用いることがより好ましい。ただし、乳以外にもアレルギー疾患を心配する人を対象とする場合は、対象となるアレルゲンを有する可能性のある植物由来の加工デンプンを選択しないことが必要である。具体的には小麦由来、米由来、エンドウ由来を用いないことである。
【0014】
本発明に用いるヒドロキシプロピルデンプンはデンプンを酸化プロピレンでエーテル化して得られ、デンプンのいくつかの水酸基がヒドロキシプロピル基でエーテル化されたものである。馬鈴薯由来、タピオカ由来、コーン由来、ワキシーコーン由来、小麦由来、サゴヤシ由来、米由来、エンドウ由来、甘藷由来を起源とするデンプンから選ばれた1種類以上のヒドロキシプロピルデンプンを用いることができる。本発明にはいずれの起源のデンプンであってもよいが、タピオカ由来がより好ましい。酸化デンプン同様、アレルギー疾患を心配する人を対象とする場合は、小麦由来、米由来、エンドウ由来を用いないことである。
【0015】
本発明に用いる酸化デンプン及びヒドロキシプロピルデンプンの添加量は目的とする物性に応じて適宜調整することが可能であり、例えば酸化デンプン含量を5〜50質量%、10〜40質量%、15〜35質量%とすることができる。好ましい酸化デンプン含量は15〜30質量%であり、さらに好ましくは20〜30質量%である。また、ヒドロキシプロピルデンプン含量を1〜15質量%、1〜10質量%、2〜10質量%とすることができる。ヒドロキシプロピルデンプンの好ましい含量は2〜8質量%であり、さらに好ましくは3〜7質量%である。
【0016】
本発明に用いる酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプンの総量は加工食品の総質量の10〜50質量%がよく、酸化デンプンに対してヒドロキシプロピルデンプンの含量を少なくし、酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプンの含有比を質量比として15:1〜2:1とするのがよい。好ましくは酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプンの総質量が本発明の加工食品中の20〜35質量%で、酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプンの含有比が質量比として10:1〜4:1である。
【0017】
酸化デンプンと名称が類似している酸処理デンプンは、デンプンを塩酸や硫酸等の酸性水溶液に浸漬し、糊化温度以下で半日ないし数日間放置した後、中和、水洗、ろ過、乾燥を行って製造される加工デンプンであり、酸化デンプンと同様に低粘度で冷却によりゲル化能が増大する性質を持っているが、タンパク質を含有せず酸処理デンプン主体で構成したチーズ様加工食品では、ピザ用ナチュラルチーズのように良好な曳糸性や加熱溶融性等の物性を兼ね備えることは困難である。
【0018】
本発明に用いる油脂は食用に使用される油脂であり、上昇融点が30℃以上のものであれば特に制限はなく、パーム油、カカオ脂等の植物油脂や大豆硬化油、なたね硬化油等の植物硬化油、豚脂、牛脂等の動物油脂またはこれらの硬化油、魚油等水産動物油脂の硬化油等が例示でき、これら油脂の分別油やエステル交換油であってもよい。また、これらの油脂から選ばれた2種以上の油脂の混合油脂、さらにその分別油やエステル交換油であってもよい。より好ましい曳糸性チーズ様加工食品の物性のためには上昇融点が30℃以上で10℃のSFCが50〜95%、20℃のSFCが40〜85%である油脂とするのがよい。また、油脂添加量として本発明の加工食品に対して10〜40質量%がよく、好ましくは15〜35質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
【0019】
本発明の曳糸性チーズ様加工食品の含有する水分量は、含有させる水溶性成分を溶解することができる量であればよく、目的とする加工食品の物性に応じて適宜調整すればよい。水溶性成分の一部が不溶となれば曳糸性効果が十分に発揮できず、またザラついた食感となり好ましくない。含有する水分量が多すぎると流動物となってしまい、切断、裁断等の加工ができず、加熱時の曳糸性が非常に弱いものとなる。水分量は酸化デンプンとヒドロキシプロピルデンプンを合わせた質量の1.4〜1.8倍とすることが好ましく、その他に水溶性成分を含有させる場合にはそのものらを溶解できる水分量を余分に加えるとよい。
【0020】
本発明の曳糸性チーズ様加工食品には発明の効果に影響を与えない範囲内において、呈味成分や風味成分を加えることができる。例えば、塩や砂糖等の糖類や甘味料及び化学調味料、ココアパウダーやコーヒーパウダー、イチゴやマスカット等の各種果汁、チーズ香料やバター香料等の各種香料等が挙げられる。このような呈味成分や風味成分を加えることでチーズ様の食感や加熱時の曳糸性を持ちつつ、チーズ風味はもちろんのこと多岐にわたる風味を付与した加工食品とすることができる。また、着色料や日持ち向上剤も使用することができる。アレルギーに配慮した加工食品とするには、アレルゲンを含有しない原料を選択すればよい。
【0021】
さらに、本発明の加工食品の物性に変化を加えるために増粘安定剤を使用してもよく、例えばグアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラギナン、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、タラガム、デキストリン、ペクチン、寒天、セルロース、CMC、食物繊維、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。また、本発明の加工食品中の油脂の分散を良くするために乳化剤を使用することも可能である。例えば、レシチンやグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。いずれも発明の効果に影響をきたさない範囲内で使用ができる。
【0022】
本発明のチーズ様加工食品の製造としては、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、水を主原料として、必要に応じて食塩、風味成分、酸味料、乳化剤、日持ち向上剤等の副原料を混合溶解した水相部に油脂を添加し、混合乳化させる。乳化の温度は乳化の効率と殺菌の効果が発揮できることから80℃以上、望ましくは85〜95℃で混合物の粘度を下げた状態で行うのがよい。
【0023】
混合物の乳化機としては、ステファン型乳化機、表面掻取型乳化機、ケトル型乳化機またはスパイラル型乳化機等、通常のプロセスチーズの乳化に用いられる乳化機を使用することができる。また、乳化混合物の粘度が低い場合にはホモミキサーやプロペラミキサーを具備した混合乳化タンクであってもよい。加熱や温度の保持のためにジャケットタイプがよく、この時に直接蒸気の通気が可能な加圧耐用容器であれば短時間で加熱が行えるためより望ましい。乳化物の冷却方法としては、そのまま容器に移し替えて冷蔵庫等で保管することや容器をクーリングトンネルに通して連続式に行う方法が挙げられ、パーフェクターやオンレーター等の掻取式連続熱交換装置での冷却であってもよい。
【0024】
(パーム核極度硬化油の調製)
1リットルのオートクレーブにパーム核油(ヨウ素価18.0)100質量部、ニッケル触媒(堺化学工業株式会社製 SO−750R)0.3質量部を添加し、水素圧0.2MPa、回転数750rpmで攪拌しながら、180℃で水素添加反応を行い、油脂のヨウ素価が0.5に低下するまで反応を続けた。その後、活性白土を対油0.3質量部添加して脱色、脱臭をして表1に示す分析値を有する油脂1を得た。
【0025】
(エステル交換油の調製)
パーム核極度硬化油60質量部とパームオレイン40質量部を混合した油脂に、0.2質量部のナトリウムメトキシドを加え、80℃で60分混合攪拌してランダムエステル交換反応を行い、反応後、水洗して触媒を除去した。次に脱色、脱臭して表1に示す分析値を有する油脂2を得た。
【0026】
(その他油脂)
その他油脂として、パーム油(ヨウ素価51.2、油脂3)、パームステアリン(ヨウ素価31.5、油脂4)、大豆油(ヨウ素価130.8、油脂5)、パームオレイン(ヨウ素価57.5、油脂6)、パーム核極度硬化油70質量部とパームオレイン30質量部を混合した油脂(ヨウ素価17.6、油脂7)、バターから抽出したバターオイル(ヨウ素価31.7、油脂8)を用いて実施例、比較例を行った。実施例、比較例に使用した油脂1〜8の詳細な情報は表1に示した。
【0027】
実施例、比較例に使用した酸化デンプン及びヒドロキシプロピルデンプン、酸処理デンプン、ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン、未加工デンプンの由来原料は以下の通りである。酸化デンプン1:馬鈴薯、酸化デンプン2:サゴヤシ、酸化デンプン3:ワキシーコーン、酸化デンプン4:タピオカ、酸化デンプン5:コーン、ヒドロキシプロピルデンプン1:タピオカ、ヒドロキシプロピルデンプン2:馬鈴薯、酸処理デンプン:サゴヤシ、ヒドロキシプロピリン酸架橋デンプン:コーン、未加工デンプン:サゴヤシ。
本発明に使用した酸化デンプンのアミロース含量及びカルボキシル基量は由来原料ごとに分類して表2に示し、表3〜表5に示した酸化デンプンの中のアミロース含量は表2の値をもとに算出した。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。尚、本発明の実施例における評価方法は下記の通りである。上昇融点については、基準油脂分析試験法2.2.4.2−1996にて、SFCについては、基準油脂分析試験法2.2.9−2013固体脂含量(NMR法)にて分析を行った。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
曳糸性チーズ様加工食品の品質評価
(曳糸性)
曳糸性の評価方法は、シュレッド状(縦35mm×横5mm×厚さ2mm)に成形した曳糸性チーズ様加工食品10g分をアルミ箔の上に乗せ、100V、810Wのオーブンで3分間加熱した後、測定装置として、株式会社山電製「クリープメータ レオナー(RE−3305S)」、測定プランジャーとして、同社規定の円盤型プランジャーNo.37(直径11.3mm、厚さ1mm)を使用して下記の条件で測定した。
円盤型プランジャーの先端が曳糸性チーズ様加工食品と接触するようにセットし、曳糸性チーズ様加工食品を10mm/secのテーブルスピードで下方向に移動させ、プランジャーの先端から曳糸性チーズ様加工食品が剥離した時点で移動を停止した。アルミ箔上の曳糸性チーズ様加工食品の表面とプランジャーの先端との距離を測定し、3回測定した平均を曳糸性の長さとした。プランジャーから剥離せずに装置の測定限界(77mm)に達した場合は77mm以上とした。なお曳糸性評価判定は下記に示す基準とした。
◎:60mm以上 ○:20mm以上60mm未満 ×:20mm未満
(加熱溶融性)
加熱溶融性の評価方法は以下の条件で評価した。シュレッド状(縦35mm×横5mm×厚さ2mm)に成形した曳糸性チーズ様加工食品10g分をアルミ箔の上に乗せ、100V、810Wのオーブンで加熱し、溶融性が良好なものから以下の基準にて3段階で評価した。
◎:3〜5分で溶融し、かつ程よい流動性が見られる
○:3〜5分で溶融するが、流動性は見られない
×:5分経過して加熱してもほとんど溶融しない
(成形加工適性)
成形加工適性は以下の2つの方法によって評価した。
(1) カット適性
5℃で3日間冷蔵保管した曳糸性チーズ様加工食品を室温下、ナイフで切断した時の切り易さについて以下の基準で評価した。
◎:曳糸性チーズ様加工食品がナイフに付着することなく切れ、ナイフがほとんど汚れない
○:曳糸性チーズ様加工食品がナイフに付着するが、ナイフとチーズ様食品は容易に分離する
×:曳糸性チーズ様加工食品がナイフに付着し、ナイフとチーズ様食品が容易に分離しない
(2) 硬度
直径50mm、深さ25mmのカップに曳糸性チーズ様加工食品を30g入れ、5℃で3日間冷蔵保管した。株式会社山電製「クリープメータ レオナー(RE−3305S)」に該サンプルをセットし、プランジャーNo.5(5mm×22mm)、試料台速度を5mm/secに設定し、プランジャーを挿入した時の応力(gf)を読みとった。硬度は以下の基準で評価した。
◎:1000gf以上
○:500gf以上1000gf未満
×:500gf未満
(30℃での油脂の分離)
シュレッド状(縦35mm×横5mm×厚さ2mm)に成形した曳糸性チーズ様加工食品5g分を30℃に静置させ、以下の基準で評価した。
〇:4時間経過しても曳糸性チーズ様加工食品の表面に油滴(=オイルオフ)が見られない
×:1時間以上4時間未満で曳糸性チーズ様加工食品の表面に油滴が見られる
(食感の評価)
ダイス状(縦20mm×横20mm×厚さ20mm)に成形した20℃の曳糸性チーズ様加工食品を食べた時の感触を、以下の基準で評価した。
○:チーズ特有の弾力感、粘りを感じる
×:チーズ特有の弾力感、粘りを感じない
【0032】
(実施例1)ヒドロキシプロピルデンプン:タピオカ
水相部として食塩を1.5質量部、水を45.5質量部添加して昇温し、50℃に達した後、酸化デンプン1(アミロース含量:21質量%、カルボキシル基量:1.1質量%)を26.0質量部、ヒドロキシプロピルデンプン1を5.0質量部添加し、プロペラミキサー(1,300rpm)で混合攪拌して溶解させた。デンプンがしっかり膨潤糊化した後、油脂1を22.0質量部添加し乳化させ85℃まで混合攪拌した。85℃に到達後、そのままの回転数で1分間攪拌保持した。加熱乳化したチーズ様乳化物を容器に充填し、5℃の冷蔵庫で3日間冷却して曳糸性チーズ様加工食品を得た。このものについて曳糸性や加熱溶融性、成形加工適性等を評価した。
該曳糸性チーズ様加工食品のタンパク質含量は0.0質量%、酸化デンプンの中のアミロース含量は21.0質量%、酸化デンプン/ヒドロキシプロピルデンプン比は5.2、5℃における硬度は1,800gfであり、曳糸性及び810W、3分間加熱した際の加熱溶融性、成形加工適性とも良好な物性であった。品質評価結果は表3に示した。
【0033】
(実施例2) ヒドロキシプロピルデンプン:馬鈴薯
表3に示した配合により、実施例1と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。実施例1と同様の評価を行ったところ、曳糸性及び加熱溶融性、成形加工適性とも良好な物性であった。品質評価結果は表3に示した。
【0034】
(実施例3〜10) 酸化デンプンの組み合わせ
表3に示した配合により、実施例1〜2において酸化デンプンの由来や、酸化デンプンの組み合わせを変えた以外は同様の手順で製造し、曳糸性チーズ様加工食品を得た。品質評価結果は表3に示した。
【0035】
(実施例11) 酸化デンプン/ヒドロキシプロピルデンプン比:3.1
水相部として食塩を2.5質量部、クエン酸を0.15質量部、アミノ酸を0.2質量部、酵母エキスを0.15質量部、水を46.8質量部添加して昇温し、50℃に達した後、酸化デンプン1(アミロース含量:21質量%、カルボキシル基量:1.1質量%)を22.0質量部、ヒドロキシプロピルデンプン1を7.0質量部添加し、プロペラミキサー(1,300rpm)で混合攪拌して溶解させた。デンプンがしっかり膨潤糊化した後、油脂2を21.0質量部添加し、乳化させ85℃まで混合攪拌した。85℃に到達後、チーズ香料を0.2質量部添加してそのままの回転数で1分間攪拌保持した。加熱乳化したチーズ様乳化物を容器に充填し、5℃の冷蔵庫で3日間冷却して曳糸性チーズ様加工食品を得た。品質評価結果は表4に示した。
【0036】
(実施例12) 酸化デンプン/ヒドロキシプロピルデンプン比:13.0
表4に示した配合により、実施例11と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表4に示した。
【0037】
(実施例13〜16)他の油脂の使用:パーム油、パームステアリン、配合油脂、バターオイル
表4に示した配合により、実施例11と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表4に示した。
【0038】
(実施例17)乳以外のタンパク質使用:大豆タンパク質
表4に示した配合により、実施例11と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表4に示した。
【0039】
(実施例18)増粘剤使用:アラビアガム
表4に示した配合により、実施例11と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表4に示した。
【0040】
(実施例19)チーズ風味以外の加工食品:チョコレート風味
水相部として砂糖を6.0質量部、水を44.3質量部添加して昇温し、50℃に達した後、酸化デンプン1(アミロース含量:21質量%、カルボキシル基量:1.1質量%)を19.0質量部、酸化デンプン2(アミロース含量:25質量%、カルボキシル基量:0.4質量%)を4.0%、ヒドロキシプロピルデンプン1を4.0質量部添加し、プロペラミキサー(1,300rpm)で混合攪拌して溶解させた。デンプンがしっかり膨潤糊化した後、ココアパウダーを10.0質量部添加し、デンプンとよく馴染むように混合攪拌した。そこに油脂1を12.5質量部添加し、乳化させ85℃まで混合攪拌した。85℃に到達後、チョコレート香料を0.2質量部添加してそのままの回転数で1分間攪拌保持した。加熱乳化したチョコレート様乳化物を容器に充填し、5℃の冷蔵庫で3日間冷却して曳糸性チョコレート様加工食品を得た。品質評価結果は表4に示した。
【0041】
(実施例20)乳化剤使用:ポリグリセリン脂肪酸エステル
表4に示した配合により、実施例11と同様の手順でチーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表4に示した。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
(比較例1)酸化デンプン以外のデンプン:酸処理デンプン
水相部として食塩を1.5質量部、水を45.5質量部添加して昇温し、50℃に達した後、酸処理デンプンを26.0質量部、ヒドロキシプロピルデンプン1を5.0質量部添加し、プロペラミキサー(1,300rpm)で混合攪拌して溶解させた。デンプンがしっかり膨潤糊化した後、油脂1を22.0質量部添加し乳化させ85℃まで混合攪拌した。85℃に到達後、そのままの回転数で1分間攪拌保持した。加熱乳化したチーズ様乳化物を容器に充填し、5℃の冷蔵庫で3日間冷却して曳糸性チーズ様加工食品を得た。品質評価結果は表5に示した。
【0045】
(比較例2)酸化デンプン以外のデンプン:ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン
表5に示した配合により、酸処理デンプンをヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプンに代えた以外は比較例1と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造しようとしたが、水相部が高粘度となり、油相部と乳化せずチーズ様加工食品は得られなかった。品質評価結果は表5に示した。
【0046】
(比較例3)酸化デンプン以外のデンプン:酸化デンプン+未加工デンプン
表5に示した配合により、比較例1と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表5に示した。
【0047】
(比較例4)アミロース含量:23.0質量%以上
表5に示した配合により、比較例1と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表5に示した。
【0048】
(比較例5〜6)油脂の変更:大豆油、パームオレイン
表5に示した配合により、比較例1と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表5に示した。
【0049】
(比較例7)酸化デンプン/ヒドロキシプロピルデンプン含有比:下限以下(1.0)
表5に示した配合により、比較例1と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表5に示した。
【0050】
(比較例8)酸化デンプン/ヒドロキシプロピルデンプン含有比:上限以上(26.0)
表5に示した配合により、比較例1と同様の手順で曳糸性チーズ様加工食品を製造した。品質評価結果は表5に示した。
【0051】
【表5】
【要約】
【課題】実質的に乳タンパク質を含有しないにもかかわらず、チーズ特有の保形性及び食感を有し、裁断、切削等の加工適性を持ち、加熱時には良好な溶融性と曳糸性を示すチーズ様加工食品を提供する。更には乳成分をはじめとする食物アレルギーを引き起こす可能性のある原材料を含有しないチーズ様加工食品を提供する。
【解決手段】特定の加工デンプンと油脂と水を含有させ、微細化された無数の油滴粒子の周りを水により膨潤したデンプンが覆う乳化構造を有する加工食品とした。更には該加工食品の構成成分である油脂に特定の物性を持たせることで乳化構造の安定性を高め、常温で良好な保形性を保持しつつ加熱により良好な溶融性が見られ、表面に艶のある見栄えの良いチーズ様加工食品とした。

【選択図】なし