(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マルテンサイト系鋼が、100Cr6、100CrMn6、16MnCr5、C80、X30CrMoN 15 1、または、Din:1.4108またはSAE:AMS5898に基づくスチール、のうちの一つであることを特徴とする請求項4または5に記載のベアリングコンポーネント。
【背景技術】
【0002】
転がり接触軸受は、鉄道車両の輪軸やトラクションモータ、動力伝達装置に用いられるDCモータおよび電気モータ、および、例えば風力によって駆動される発電機などの、様々な装置における多くの産業上の応用例に用いられる。
【0003】
こうした転がり軸受は電流に曝されうる。予想される最悪の場合には、軌道および転動体を損傷させ、それによりモータまたは発電機をあまりにも早く何の前触れも無く故障させる。修理にかかる臨時経費に加えて、このことはまた機械のダウン・タイムに起因する追加の費用およびその結果として生じる生産損失を意味する。
【0004】
さらに経済的な解決策は、関係する製品に電流絶縁ベアリングの使用を提供することである。これにより維持費や修理費が低減され、機械の利用可能性が向上する。これらは全て顧客にとって重要な課題である。
【0005】
場合によっては、ベアリングハウジングと関連するシャフトとの間の電気回路を遮断し、用途に応じて、装置のハウジングとシャフトとの間の少なくとも1つ以上のベアリング位置に電流絶縁ベアリングを据え付けることで十分である。
【0006】
多くの場合セラミックで被覆された電流絶縁ベアリングは、標準的なベアリングに比べ、電流に対して著しく高い抵抗をもたらす。
【0007】
一般的に、電気モータによって誘導されたベアリング電圧の原因を取り除くことは非常に難しい。すなわち、より一般的に述べると、関係する電気装置のエネルギー供給に関連する電流のような、好ましくない経路をとる電流を取り除くことは非常に難しい。それでもなお、電流の流れを防ぎあるいは少なくとも著しく低減させることができる場合、ベアリングへの損傷を防ぐことが可能である。今日、多くの種類の電流絶縁転がり軸受が利用可能である。絶縁する必要のあるコンポーネントの種類は、関係する電圧の種類および特定の応用例または設備によって決まる。
【0008】
電気モータまたは発電機のロータのシャフトに沿って延在する誘導電圧は、シャフトを支持するとともに、その間に延在するハウジングを支持するベアリングを介して閉じられた円形電流を発生させる。こうしたシャフト電圧は多くの場合、モータ内の磁束の非対称分布の結果である。これはほんの僅かの対の電極しか有していないモータに特に明らかである。このような場合、2つのベアリングのうちの一方を絶縁することにより、十分に電流の流れを中断させることができる。またシャフトとハウジングとの間に電位差が存在する状況も発生する。このような場合、シャフトを支持するベアリングの各々を通して電流が同じ方向に流れる。こうした電位差の最もありそうな原因は、コンバータの同相モード電圧である。この種の状況は、2つのベアリングの両方の絶縁を必要とする。
【0009】
用いられる絶縁の種類は、関連する電圧の時間応答によって決まる。DC電圧および低周波AC電圧にとって、ベアリングのオーム抵抗は電流絶縁の決定特性である。多くの場合コンバータにおいて生じるより高周波のAC電圧では、ベアリングの容量リアクタンスはベアリングの電流絶縁特性を選択する際に考慮する重要なパラメータである。一般的に言えば、電流絶縁ベアリングは並列に接続された抵抗器およびコンデンサのようにふるまう。優れた絶縁を保証するように、抵抗はできるだけ高く、キャパシタンスはできるだけ低い必要がある。
【0010】
ベアリングが直流に曝されるか、交流に曝されるかにかかわらず、ベアリングの表面にもたらされる変化は、少なくともメガヘルツ帯の周波数までは一定して同じである。両方の場合において、電流は、転動体の軌道(raceway)に均一な鈍い灰色の痕跡を形成する。これらの痕跡は全く特有のものではなく、その他の要因によっても生じる(例えば、研磨剤を含有する潤滑油の被膜により)。回転方向に延在するベアリングの軌道表面に沿って生じる一種のウォッシュボードのパターンが見られる。「みぞ削り(fluting)」と呼ばれるこの種の損傷は、電流がベアリングを通電したことを示す。電流フローの結果としてベアリングに見られる損傷を走査電子顕微鏡によって検査する場合、その損傷は、局所的な融解によって生じた高密度の窪みと、軌道を覆うミクロンサイズの直径を有する溶接ビードとを特徴とすることが示される。こうした損傷は、電流がベアリングを通流した証拠として明確に認めることができる。軌道や転動体の表面に常に見られるこれらの窪みや溶接ビードは、微細なピークの間の放電の結果である。スパークがボトルネック部における十分に発達した潤滑膜を浸透した場合、その隣接する表面を瞬間的に溶融させる。混合摩擦領域(金属同士の接触面)ではその有効表面が一時的に融合し、ベアリングの回転により即座に再び別々になる。両方の場合でも、物質は、その即座に凝固した表面から分離されて溶接ビードを形成する。それらのビードの一部は潤滑剤と混合し、残余がその表面に溶着する。転動体が横切るに従い、窪みおよび溶接ビードは平らになり、平滑化される。連続的な電流フローがある場合、通常薄い表面層は時間が経つに従い繰り返し何度も溶融、凝固プロセスを繰り返す。
【0011】
実際の大部分のベアリングの欠陥は、前述の「みぞ削り」に起因し、これは電流の連続的な流れと、ベアリングコンポーネントの振動特性と、の組み合わされた影響の結果として生じるものと考えられる。転動体が十分に大きい窪みと接触するたびに、その転動体は径方向にずらされる。転動体のずれの範囲は、ベアリングに作用する負荷だけでなく、ベアリングの内部形態およびベアリングの速度によって決まる。転動体が揺れ戻るに従い、潤滑膜の厚さは侵食され、その結果その領域により多くのスパークが生じる。自立したプロセスが引き起こされる。しばらくすると、リングの軌道の全周がみぞ削りの損傷で覆われる。これにより、より顕著なベアリングの振動が生じ、最終的にベアリングの破損を招く。電流によってもたらされる危険度のレベルを評価する信頼性のある基準は、技術的に「計算電流密度(calculated current density)」と呼ばれ、これはすなわち、転動体とベアリングの内輪および外輪との間の接触総面積で割った、実効アンペア数である。電流密度はベアリングの種類および動作条件に基づく。受けた電流に応じ、電流密度が約0.1A
eff/mm
2未満である場合には、通常みぞ削りの危険性はない。一方、1A
eff/mm
2を上回る電流密度は、この種の損傷を生じさせやすい。
【0012】
電流はまた潤滑剤に悪影響を及ぼす。基油および基油中の添加剤は酸化や亀裂を生じさせる傾向がある。これは赤外スペクトルにより明らかである。この潤滑特性は、ベアリングを過熱するおそれのある鉄粒子濃度の増加だけでなく、早期老化によって障害が生じる。
【0013】
電流絶縁ベアリングを提供する必要性を考慮すると、その典型的な概念は、酸化物セラミックコーティングを適用するようにプラズマ溶射を用いることである。特別なシーラントにより、溶射されたセラミックコーティングが湿気のある環境においてさえその絶縁特性を維持できる効果が発揮される。結果として生じた酸化物セラミックコーティングは非常に硬く、耐摩耗性の、優れた熱良導体である。時には外輪がその外側で被覆され、時には内輪がその内側で被覆される。コーティング厚さは、通常、セラミックで被覆されたベアリングが例えばDIN616(ISO15)に準拠する標準ベアリングと交換可能となることを考慮に入れるように形成される。ベアリングは深溝玉軸受でもよく、開放バージョンおよび(片側もしくは両側にリップシールを有する)密閉バージョンの両方が利用可能である。これによりユーザは、潤滑によって得られる利点からの恩恵を無期限で受けることができる。
【0014】
プラズマ溶射法は、プラズマトーチから発せられた希ガスをイオン化するように2つの電極間でアークを発生させることを含む。結果として生じるプラズマジェットは、注入された酸化アルミニウム粉末を運ぶように用いられ、この粉末は熱によって溶解されるとともに外輪または内輪に高速で噴射される。このように適用されると、酸化物層は基材に非常によく付着し、次いで配置され、ある一定の粒径になるまですりつぶされる。少なくとも1000VDCあるいは少なくとも500VDCの絶縁耐力を保証する電流コーティングが利用可能である。
【0015】
この電圧未満では、絶縁層は極めて低いレベルの電流しかベアリングに通電しない。これはDC電流およびAC電流への抵抗を示す。
【0016】
室温では、溶射されたセラミック層は通常、ベアリングサイズに応じて1〜10GOhmのDC抵抗を有する。温度が上昇するにしたがい、DC抵抗は指数関数的に減少し、一般に10°K当たり約40〜50%減少する。しかしながら、60°Cまたは80°Cの動作温度でさえ、絶縁層はまだ数MOhmの抵抗を有する。オームの法則(すなわち、I=V/R)によれば、これは1000Vまでの電圧が、ベアリングにとっては重要でない1mAを大きく下回る電流を発生させるだけであることを意味する。
【0017】
AC抵抗を考慮すると、絶縁ユニットは、電荷を蓄えることのできるコンデンサのように振舞う。AC電圧に曝された場合、それにより交流電流が転動体と軌道との間の接触面を通電する。角振動数ωとの調波時間依存性(harmonic time dependence)については、電流および電圧の2乗平均平方根値は公式I=V・ω・Cを用いて算出される。
【0018】
オームの法則に類似して、Z=1/ω・Cはベアリングの容量性リアクタンスである。酸化物セラミックコーティングを有するベアリングはベアリングのサイズに応じて通常2〜20nfのキャパシタンスを有する。したがって、50Hzの周波数では、0.15〜1.5MOhmの容量性リアクタンスを有し、これはそのDC抵抗よりも著しく低い。より高い周波数では、この値はさらに減少する。それでもなお、多くの場合では、これは非絶縁ベアリングの抵抗よりも著しく高く、1Vよりも高い電圧では非常に低い(1Ohm以下)。使用されるコーティング厚さは100μmを幾分下回るところから200μmの平均値まで、または200μmをさらに上回るまで異なる。
【0019】
従来技術にも観察される一つの特定の条件は、コーティングされる表面が円筒形である必要があり、潤滑穴や溝によって分断されてはならない。
【0020】
また一般に転がり軸受鋼で作られるリングを有するハイブリッドベアリングが知られているが、セラミックの転動体である。この転動体は本質的に摩耗がなく、必要な電流絶縁を提供する。こうしたベアリングはセラミックが被覆されたベアリングに比べて大きい、電流の経路への抵抗を有する。高温でさえ、DC抵抗はGOhmの範囲にある。ベアリングは通常、約40pfの抵抗を有し、セラミックが被覆されたベアリングの抵抗よりも100倍小さい。こうした転がり軸受はより高速においてもより低い摩擦を有し、これは低い動作温度を意味する。これらの軸受はまたより優れたドライ・ラン特性を有する。またこうしたハイブリッドベアリングは通常、従来の長期に潤滑されたベアリングに比べて長い潤滑寿命を有する。
【0021】
従来技術の上記の記載は概して転動体ベアリングに関するが、リニア軸受および滑り軸受にも同様の問題が生じる可能性があり、状況次第でこうしたリニア軸受および滑り軸受にも電流絶縁を提供することが有利である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
全ての図面において、同一のコンポーネントまたは同一の特徴部、あるいは同じ機能を有するコンポーネントには同じ参照符号が用いられ、重要な違いがない場合、任意の特定のコンポーネントについて述べた記載を不要に繰り返さない。したがって、特定のコンポーネントまたは特徴部について一度述べた記載は、同じ参照符号が与えられた任意のその他のコンポーネントにも適用される。また本発明は、第1の層に物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)、プラズマ化学気相堆積法(PECVD)を用い、第1の層に第2の層を堆積させるように原子層成長法(ALD)を用いたベアリングコンポーネントの被覆方法を含むことと理解される。
【0032】
DLCコーティング(ダイヤモンド状炭素コーティング)の適用については、非特許文献1を参照されたい。この論文は1990年代からのダイヤモンド状炭素コーティングの製造について述べている。そこに記載されているように、最初のダイヤモンド状炭素コーティング(DLCコーティング)が自動車コンポーネントの市場に導入された。それらのコーティングにより、HPディーゼル燃料噴射技術の発達が可能となった。
【0033】
独国規格VDI2840(「カーボンフィルム:基本原則、フィルムの種類、および特性」)は、複数の炭素膜の明確な概要を提供し、それらは全てダイヤモンドコーティング、またはダイヤモンド状コーティングとして示される。
【0034】
摩擦学に関する重要なコーティングは水素フリー(hydrogen-free)の正方晶の「ta−C」コーティングであり、水素を組み込んだこの種のコーティングはta−C:Hコーティングと呼ばれる。また摩擦学に関して重要なのは、水素を組み込んだまたは組み込んでいない無定形炭素コーティングであり、それぞれ、a−Cコーティングおよびa−C:Hコーティングと呼ばれる。さらに、タングステンカーバイドなどの金属カーバイド材料を含む、a−C:H:Meコーティングがよく用いられる。a−C:Hコーティングは、周知のように化学蒸着法(CVD)、特にプラズマ化学気相堆積法(PECVD)、および物理蒸着法(PVD)により堆積される。PVDプロセスは、a−C:H:Meコーティングの堆積にもまた使用される。これらの堆積法は、非特許文献1に見られるように本質的に周知であり、ここではそれ以上は説明しない。
【0035】
現在まで、アーク法を用いることによりta−Cコーティングが形成されている。20GPa〜90GPa、特に30GPa〜80GPaの硬度が有用であると考えられる(ダイヤモンドは100GPaの硬度を有する)。しかしながら、アーク法はマクロ粒子の生成を引き起こすため、コーティングはかなり粗い。マクロ粒子により、その表面は粗い部分を有する。したがって、低摩擦は得られるが、摩擦学システムにおける対応する部分の摩耗率はマクロ粒子に起因する表面粗さにより、相対的に高い。
【0036】
水素フリーのta−Cコーティングはその優れた電気絶縁特性により本発明にとって特に注目すべきものである。
【0037】
まず
図1を参照すると、複数の基体すなわちワークピース12を被覆するための真空コーティング装置10を示す。この装置は、金属の真空チャンバ14を含み、この例では少なくとも1つ、好ましくは2つ以上のマグネトロンカソード16を有し、これらのマグネトロンカソードにはそれぞれ、チャンバ14内の気相に存在する物質、すなわち不活性ガスイオンのイオン、および/または、各カソードを形成する物質のイオンを発生させるための高出力インパルス電源18が設けられる(ここではそのうちの一つのみを示す)。カソード16のうちの2つが、好ましくはデュアル・マグネトロン・スパッタリングモードで作動するように向かい合って配置される。これは以下に詳述するようにマグネトロンスパッタリングによるAl
2O
3コーティングの被覆にとって有利となる。ワークピース12が、テーブル20の形態の支持装置の上の保持装置に取付けられ、このテーブルは、電気モータ24により矢印22の方向に回転する。この電気モータはテーブル20に連結されたシャフト26を駆動する。シャフト26は、チャンバ14の基部の貫通部28を本質的に周知のように密封かつ隔離した状態で貫通する。これによりバイアス電源32の一つのターミナル30が、導線27を介してワークピース支持テーブル20に接続され、それによりワークピースに接続される。この基体バイアス電源32は、ここではbias power supplyの略語である文字BPSで示す。BPSは好ましくは特許文献1の特に
図1〜
図3の実施例に関して述べられているHIPIMS−バイアシング機能(biasing capability)を搭載する。テーブル20についてただ一つの回転を示すが、ワークピース12の保持装置のツリー29がそれ自体の長手方向軸を中心として回転しても良く(2つの部分の回転)、保持装置が適切に設計される場合には、必要に応じてワークピースが自身の軸を中心として回転してもよい(3つの部分の回転)。
【0038】
バイアスはパルス・バイアシングまたはRF−バイアシングによっても行われる。パルス・バイアシングは、HIPIMS−カソードパルス(特許文献1にも記載されている)とも同期する。特許文献1の
図1〜3に関連して述べられたHIPIMS−DCバイアシングにより優れた結果が得られる。
【0039】
この実施例では、真空チャンバ14の金属ハウジングが接地される。一つまたは複数の高インパルスカソード電源18の正極が同様にハウジング14に接続され、それによりバイアス電源32の正極と同様に接地36に接続される。
【0040】
この装置をPECVDモードで作動させる際に用いるように、更なる電圧源(electric voltage supply)17が設けられ、以下に詳述する。この電圧源は、スイッチ19を通してバイアス電源32の代わりに回転テーブル20に接続されてもよい。電圧源17は、9000Vまでの、通常は500〜2500Vの範囲の、周期的に変動する中波電圧(medium frequency voltage)を印加するように適合され、テーブル20に取り付けられたワークピース12に20〜250kHzの範囲の周波数で印加するように適合される。
【0041】
真空チャンバ14の頂部に連結スタブ40が設けられ(同様にその他の位置に取付けられてもよい)、処理チャンバ14を真空にするために、弁42および更なるダクト44を介して真空装置に連結される。実際にはこの連結スタブ40は図示されたものに比べて遥かに大きく、チャンバ内に高真空をつくり出すのに適切なポンプスタンドへの連結部を形成するとともにダクト44にフランジが付けられる、またはチャンバ14に直接フランジが付けられる。真空システムまたはポンプスタンドは図示されていないがこの分野では周知である。
【0042】
同様に、不活性ガス、特にアルゴンを真空チャンバ14に供給する役割を果たす配管50が、弁48および更なる連結スタブ46を介して真空チャンバ14の頂部に連結される。アセチレン、酸素、または窒素などのその他のプロセス・ガスを供給するように、追加のガス供給システム43,45,47が用いられうる。
【0043】
概して記載した真空コーティング装置は従来から知られており、2つ以上のカソード16が最もよく搭載される。例えば真空コーティング装置はハウツァー・テクノ・コーティング・BV社から入手可能であり、そのチャンバは断面が概ね正方形でありその四面の各々にカソードを1つ有する。この設計はチャンバ14へのアクセスを可能にするドアとして設計された一つの面を有する。その他の設計では、チャンバはその断面がほぼ八角形であるとともに2つのドアを有しており、その各々がチャンバの三面を形成する。各ドアは3つまでのマグネトロンと、対応するカソード16と、を支持する。一般的な真空コーティング装置は、本発明の概略図面に示されていない複数の更なる装置を含む。こうした更なる装置は、暗黒シールド、基体の予熱用のヒータ、および時にさまざまな設計の電子ビーム源またはプラズマ源などの装置部品を備える。プラズマ化学気相堆積法モードに用いられるイオン源は
図1に参照符号21で示し、概ね真空チャンバの中央長手方向軸上に配置される。これは自身の電源に接続された抵抗加熱フィラメントでもよく、またはその他の周知の設計のイオン源でもよい。イオン源21は直流電源(図示せず)のマイナス出力に接続される。直流電源の正極はスイッチを介してテーブル20に適用され、プラズマ化学気相堆積法の被覆処理中に保持装置およびワークピース12に適用される。
【0044】
また
図1の真空チャンバはそれぞれチャンバの頂部および底部に2つのコイル23,25を搭載する。それらのコイルはDC電源またはそれぞれのDC電源に接続することができ、ヘルムホルツコイルとして動作し、チャンバの軸に沿って磁界を強化する。同じように電流がコイル23,25の各々を通流する。ワークピース12を流れるプラズマ強度および電流はコイル23,25を流れる電流に比例し、それによって発生する磁界に比例することが知られる。
【0045】
マグネトロンカソードに加えて、同じチャンバにそれぞれのアーク電源を備えたアークカソードを提供することも可能である。
【0046】
コーティング装置の個々の装置部品は好ましくは全てコンピュータベースのプロセス制御装置に接続される。これにより、真空コーティング装置(真空ポンプ装置、真空レベル(真空チャンバ内の圧力)、電源、スイッチ、プロセス・ガス供給およびガス流制御、コイル23,25の電流、種々の可変的に配置されたマグネットの位置、安全管理など)の全ての基本的機能を統合することが可能となる。また、関連する全ての可変パラメータの特性値が、いずれの時点においてもコーティング要求やプロセス要求に柔軟に整合され、特定の再現可能な製法に沿ってコーティングを製造することを可能にする。
【0047】
この装置を使用する場合、まず真空ポンプシステムにより真空チャンバ14から空気がダクト44、弁42、およびスタブ40を介して引き出され、配管50、弁48、および連結スタブ46を介してアルゴンが供給される。ポンプダウン時には、ワークピースまたはチャンバ壁に付着した任意の揮発性ガスまたは化合物を追い出すように、チャンバおよびワークピースが予熱される。
【0048】
チャンバに供給される不活性ガス(アルゴン)は、例えば宇宙放射線により、初期範囲で常にイオン化して、イオンと電子に分離する。
【0049】
ワークピースに十分に高い負バイアスの電圧を発生させることにより、ワークピースにグロー放電が発生する。アルゴンイオンがワークピースに引き付けられ、ワークピースの材料に衝突し、それによりワークピースをエッチングする。
【0050】
代替的に、アルゴンイオンはプラズマ源によって発生させることができる。発生したイオンは基体の負バイアス電圧によりワークピース12に引き付けられ、ワークピース12をエッチングする。
【0051】
エッチング処理が行われるとすぐに、コーティングモードのスイッチが入れられる。スパッタ放電では、蒸着時にカソードが作動される。Arイオンがターゲットと衝突し、原子をターゲットから突き出す。スパッタリングにより、電子がターゲットからはじき出され、暗部の電圧傾度によって電子が加速される。そのエネルギーによりそれらの電子がAr原子と衝突することが可能となり、そこで二次電子が放出されて放電の維持に役立つ。カソードの各々はマグネットシステム(
図1に図示せず)を備え、これは本質的に周知であり、通常、関連するカソードの表面に亘って延在する閉ループの形態の磁気トンネルを発生させる。閉ループとして形成されたこのトンネルは、電子をループの周りに移動させてアルゴン原子と衝突させ、真空チャンバ14のガス雰囲気に更なるイオン化を生じさせる。これにより関連するカソードの物質からチャンバ内に更なるイオン化が生じ、更なるアルゴンイオンの発生がもたらされる。蒸着時にこれらのイオンは例えば10V〜1200Vの印加された負バイアス電圧により基体に引き付けられ、コーティング特性を制御するように適切なエネルギーでワークピースの表面に衝突する。
【0052】
HIPIMS放電の場合、異なる放電モードが有効である。イオンの数が劇的に増加し、その結果、ターゲットから突き出されたターゲット材料の粒子がイオン化される。これは通常のスパッタ放電の場合とは異なる。その結果チャンバ内に存在するガスは同様に高度にイオン化される。これはドープ剤が適用されたときに特に有益である。
【0053】
一つまたは複数のカソードへの電力供給により、カソードの物質のイオン流がワークピース12によって占有される空間へと移動し、ワークピースを各々のカソードの物質で被覆する。コーティングの構造は、ワークピースへと向かうイオンの動きに影響を与える印加された負バイアス電圧によって影響される。
【0054】
スパッタリング処理はさまざまな形態で知られている。カソードにおける一定の電圧とワークピースにおける一定の負電圧とによって作動するものがあり、これはDCマグネトロンスパッタリングと称される。パルスDCスパッタリング(pulsed DC sputtering)も同様に知られており、ここでカソードの少なくとも一つが、パルスモード、すなわちパルス電源によりパルス電力がカソードに印加されるモードで作動する。
【0055】
パルス放電の特別な形態はHIPIMS放電である。HIPIMSモードでは、電力インパルス時に各カソードに供給される電力はDCスパッタリングモードの電力に比べて遥かに大きく、これは各パルス間に十分な間隔があるためである。一方、平均電力はDCスパッタリングに対するものと同様のままである。電力への限定的な制約は、その過熱の前にカソードから消散しうる熱量である。
【0056】
HIPIMSを用いることにより、真空チャンバ内でのより高いイオン化と改良されたコーティングがもたらされる。例えば、周知のHIPIMSスパッタリング(high power impulse magnetron sputtering)では、各電力パルスは例えば10μsの継続時間を有し、例えば2000μsのパルス繰返し時間(500Hzのパルス繰返し周波数、すなわち1990μsのインパルス間の間隔に相当)が用いられる。もう一つの例として、パルス繰返し周波数は50Hz、100μsのパルス幅、すなわち20ms〜100μsのインパルス間の間隔である。これらの値は一例として与えられているに過ぎず、広範な範囲で変化させることができる。例えば、インパルス継続時間(impulse duration)は10μs〜4msの間で選択され、パルス繰返し時間は200μs〜1sの間で選択される。非常に高いピーク電力がカソードに印加される間の時間は短いため、平均電力は、DCスパッタリング処理の平均電力に相当する適度のレベルに維持される。カソードに高出力のインパルスを適用することにより、カソードからはじき出されたイオンのイオン化が非常に高い割合で生じる、異なるモードで動作することがわかっている。物質に依存するこのイオン化の割合は、40%〜90%の範囲に及ぶ。この高い割合のイオン化の結果、さらに多くのイオンがワークピースに引き付けられ、より高速でワークピースに到達してより高密度のコーティングをもたらし、通常のスパッタリングまたはアークコーティングで可能であったものとは全く異なるより優れたコーティング特性を実現することが可能となる。
【0057】
一方、電力が出力ピークで供給されることは、それらの出力ピーク時に相対的に高い電流がバイアス電源に流れ、取り込まれる電流は通常の電源によっては容易に供給されないことを意味する。
【0058】
この問題を克服するため、特許文献1には、追加の電源60が設けられたバイアス電源(BPS)(32)に関連する本発明の
図1に示すような解決策が記載されている。この追加の電源60はコンデンサによって最もよく実現される。コンデンサ60が通常のバイアス電源によって所望の出力電圧に荷電される。出力インパルスがHIPIMS電源18からカソードの一つに到達したとき、これによりイオンの物質の流れの増加、特にカソード物質のイオンのワークピース12への流れの増加がもたらされ、このことはワークピースの支持テーブル20および導線27を介したバイアス電源におけるバイアス電流の増加を意味する。通常のバイアス電源は、それがHIPIMS動作の代わりに一定のDC動作用に設計されている場合には、こうしたピーク電流を供給することはできない。しかしながら、バイアス電源により出力インパルスの間の時間に所望の電圧に荷電されたコンデンサ62は、基体における所望のバイアスを狭い範囲内に一定に保つことができるとともに、コンデンサに僅かな放電しか生じさせずに必要な電流を供給することができる。このように、バイアス電圧は少なくとも実質的に一定に保たれる。
【0059】
一例として、−40Vへの出力パルスの間に−50Vのバイアス電圧が降下するように放電が行われる。
【0060】
本発明の教示の単純な形態では、カソード16の一つはボンド層材料を供給するためのCr,Ti,またはSiターゲットである。あるいは、ボンド層のその他の材料が用いられてもよい。
【0061】
ta−C層の形態のDLC層を被覆する際、ワークピースがテーブル20に配置され、本質的に周知のようにカーボンカソードからPVDアーク法によって形成された。チャンバ10は、ワークピースが配置される空間の、850mmの作業高さを有していた。硬質の水素フリーの炭素層の、基体への優れた付着を保証するように、この装置ではまず、カーボンアークによりta−Cを堆積させる際に用いるような、標準的なARC接着層を用いた。これは好ましい解決方法ではなく、いずれにせよアーク法は公知であるため詳細には説明しない。
【0062】
図2は、
図1の真空チャンバの垂直軸に対して垂直な、追加の詳細を示すがワークピースを示していない断面図を示す。このチャンバはまた4つのカソードを有し、そのうちの一つはボンド層材料としてのCrであり、一つは炭素源としての黒鉛であり、2つは、反応性酸素雰囲気中でデュアル・マグネトロン・スパッタリングによりAl
2O
3層を形成するためのアルミニウムである。
【0063】
Alとして標識された2つのカソード16はアルミニウムであり、マグネトロンの周知の磁気トンネルを発生させるように、「N極」(N)の極性を有する中央極と、「S極」(S)の極性を有する外側極とを備えた磁石配列を有する。カソードは正面から見たときに細長い矩形の形状を有しており、ここではその長軸に対して垂直な断面で示す。図示のようなSNS極性を有する代わりに、
図2の頂部および底部のCrおよびCのカソードの磁石配列に示されるように、NSN極性を有してもよい。その場合CrおよびCのカソード16はSNS極性を有する磁石配列を有する。
【0064】
これらの磁石配列はその各々の二重矢印82の方向に、各カソード16に向かう方向および各カソードから離れる方向へと動かすことができる。これはHIPIMSカソードの動作において重要な制御パラメータである。
【0065】
この概念は、マグネトロンが真空チャンバ14の周りを進む交互の極性を有するためのものである。これは、偶数のカソードでは、磁極がチャンバの周りを進むときに磁極が常に交替する、すなわち、N,S,N,S,N,S,N,S,N,S,N,S,となることを意味する。これによりプラズマの強化された磁気的閉じ込めがもたらされる。全てのカソードが例えばNSNなどの同じ極性を有している場合も、同様の磁気的閉じ込めが達成される。チャンバの周りに同様のN,S,N,S,N配列を得るように、隣り合うマグネトロンの間の補助のS極で動作する必要がある。当然のことながら、記載の配置は偶数のマグネトロンのみにしか作用しない。一方、一部の極を他の極よりも強くすることにより、または補助極を用いることにより、奇数のマグネトロンでも同様の効果を得ることが可能である。こうした閉じられたプラズマを得るための設計は周知であり、様々な特許出願に記載されている。閉じられたプラズマが達成されることが本質ではない。
【0066】
また
図2にはSNS極またはNSN極を有する磁石のようにチャンバ14の外側に配置された4つの矩形コイル80を示す。このコイルは電磁石を形成するとともに、各カソード16の外側の磁石と同じ極性を有する。それらの電磁石コイル80により、カソード16の前およびチャンバ14内部の磁束を変化させることができる。
【0067】
真空コーティング装置は次のように操作される。
【0068】
まずチャンバおよびチャンバ内に配置されたワークピースが例えば10
-5mbarなどの、10
-4mbar未満の低圧に排気され、例えば75sccmといった流量でチャンバにアルゴンを供給しながら予熱される。この期間の間、チャンバおよびワークピースを加熱することにより、ワークピースの表面およびチャンバ壁に吸着したガスや水などの汚染物質が追い出され、真空装置により、その汚染物質が真空チャンバ内の残余の環境ガスおよびある割合の供給されたアルゴンガスとともに除去される。このようにアルゴンガスが真空チャンバを徐々に洗い流す。この予熱および清浄ステップの後、清浄およびエッチング処理時に更なる清浄が行われる。この処理は、ワークピース12にArイオンを用いて、真空チャンバ内のアルゴン雰囲気を利用して行われる。この処理は10〜30分間行われる。イオン源は、前述のイオン源21または別のイオン源でもよい。
【0069】
エッチングステップの別の選択肢は、−500〜−2000Vの相対的に高い基体バイアスのHIPIMSマグネトロンエッチングモードで作動するCr,Ti,またはSiターゲットを用いたHIPIMSエッチングを使用することである。これは周知であり、シェフィールド・ハラム大学の特許文献2に記載されている。Cr,TiまたはSiカソードに印加された代表的な時間平均等価DCエッチング電力(time averaged equivalent DC etching power)は1〜25kWの範囲である。
【0070】
第2のステップでは、Cr,TiまたはSiのボンド層が金属面に被覆される。これはスパッタ放電モードまたはHIPIMS被覆モードで操作されるCr,TiまたはSiのターゲットから約10〜20分間行われる。この点について留意すべきは、HIPIMSモードを用いた場合、カソードによって消費されそれによりカソードに効果的に印加される最大平均電力は、カソードの望ましくない温度上昇またはその不要な融解を生じさせない電力であることである。したがってDCスパッタリング動作では、間接的に冷却されたターゲットの場合、ターゲットの許容される熱負荷に対応する、約15W/cm
2の最大電力が特定のカソードに印加される。HIPIMS操作では、一般に1Hz未満〜5kHzのパルス繰返し周波数で、10〜4000μsの幅のパルスの電力を印加するパルス電源が用いられる。一例では、20マイクロ秒間パルスのスイッチが入れられ、5kHzのパルス周波数が適用される場合、各パルスは、180kWのそれに関連する電力を有し、以下の平均電力:
P=180kW×(20μs/(200−20)μs)=20kW
を生じさせる。
【0071】
この例では、HIPIMSパルス時に供給される最大パルス電力は180kWである。
【0072】
ボンド層の被覆時に約0〜200Vの適切な負の基体バイアスが供給される。チャンバの圧力は10
-4〜10
-3mbarである。ボンド層の被覆はフィルタ処理したアークカソードによっても行われうる。またフィルタ処理されていないアークカソードを使用する可能性もあるが、これは液滴の発生によりコーティングに余分な粗さが生じるため、有効ではない。
【0073】
第3のステップでは、約1〜5分間、Cr,TiまたはSiターゲットの操作と、黒鉛ターゲットの操作と、をHIPIMSモードで同時に行うことにより、または約−50〜−2000Vの基体バイアスで炭素アークカソードを用いることにより、Cr−C,Ti−CまたはSi−C遷移層が被覆される。チャンバの圧力は10
-4〜10
-3mbarの範囲である。
【0074】
従って、本発明の装置は通常、複数のマグネトロンと、それに対応するカソードと、を備え、カソードの少なくとも一つがボンド層の材料(Cr,TiまたはSi)を備える。ボンド層材料の少なくとも一つのカソードがアークカソード(フィルタ処理された、またはフィルタ処理されていない)であってもよい。この装置はさらに、DLC層の被覆前の一つまたは複数の基体上にボンド層材料を被覆するように、ボンド層材料をスパッタリングするための電源を備える。ボンド層材料の一般的な例は、上述のようにCr,TiまたはSiである。したがって、通常は最低限2つのカソード、一般的に一つはCr,一つは黒鉛である。実際には4つ以上のカソードを有するスパッタリング装置を用いることがより便利である。これにより、マグネトロンおよび/またはアークカソードの配置が比較的簡単になり、プラズマのより強力な磁気的閉じ込め(クローズフィールド)を確実にするように本質的に周知のように真空チャンバの周りに配置された、N,S,N(マグネトロン1)、S,N,S(マグネトロン2)、N,S,N(マグネトロン3)、およびS,N,S(マグネトロン4)の交互の極配置を有する。
【0075】
パルス繰返し周波数は好ましくは1Hz〜2kHzの範囲、特に1Hz〜1.5kHzの範囲、より具体的には10〜30Hzの範囲である。
【0076】
a−C:Hまたはta−Cコーティングが用いられる場合、コーティングにドープ剤が添加されうる。この点についてドープ剤は、アークスパッタリングまたはマグネトロンスパッタリングで操作されるスパッタターゲットからの金属でもよく、HIPIMSカソード(Si,Cr,Ti,W,WC)からの金属でもよい。ドープ剤は気相中の前駆物質から供給されてもよい(例えば、炭化水素ガス、窒素、酸素、(シラン、HMDSO、TMSなどの)Si含有前駆物質など)。本発明はまた、計算電流密度が許容値を超えるほどドープ剤が絶縁特性を望ましくなく低減させない限り、ta−Cコーティングへのドープ剤の使用を備える。
【0077】
ここでa−C:H層、すなわち水素を含有するDLC層コーティングの被覆の特定の例について述べる。
【0078】
この処理工程はまず、周知のようにチャンバを、被覆処理の実際のチャンバ圧力よりも少なくとも一桁下の、例えば10
-5mbarなどの10
-4未満の比較的低圧にまで、ポンプで減圧することにより開始される。この間、またはこれに続けて、チャンバ内や、チャンバ表面およびチャンバ内に存在する装置部品に吸着した揮発性ガスを追い出すように、チャンバおよびその中身が周知のように加熱処理にかけられる。予熱の間、インレットを通してアルゴンを供給し、真空ポンプを通してアルゴンを除去することにより、チャンバ内のアルゴンの流れが維持される。加熱状態は通常約20〜25分間継続される。
【0079】
予熱処理に続いて、一旦ある一定した温度に到達すると、エッチングが行われる。このエッチングは例えば特許文献2のHIPIMSエッチング処理を用いることによって行われるが、その他のエッチング処理を用いてもよい。エッチング中、アルゴンガスが真空チャンバに例えば75sccmで供給され、真空チャンバに組み込まれた一つまたは複数のマグネトロンを作動させることによりアルゴンガスがイオン化され、例えばCrのターゲット16を有するマグネトロンが用いられる。
【0080】
必要と思われる場合、DLCコーティングの付着を容易にするようにワークピースに接着剤層、またはボンド層と称される層を設けてもよい。このようなボンド層は必ずしも必要ではない。一部のワークピース材料では、特に100Cr6などのCr,TiまたはSiを含有するワークピース材料、DLC層、または一種のDLC層が、ボンド層を用いることなく清浄、エッチングされたワークピースに直接被覆される。接着剤層がワークピースに設けられる場合、これはSiに加えてIV族、V族、およびVI族の亜族の元素の群から選択される。好ましくは、この目的において特に適していることが判明した、CrまたはTi元素の接着剤層が用いられる。
【0081】
接着剤層はアークスパッタリングまたはフィルタ処理したアークスパッタリング(filtered arc sputtering)によって被覆されるが、好ましくは
図2のCrターゲット16からのマグネトロンスパッタリングを用いて被覆される。
【0082】
また、アルゴンが真空チャンバに供給される。この段階の間のアルゴン流は予熱時よりも高く、エッチングは例えば120sccmに設定される。真空チャンバ内の圧力は通常10
-3mbarであるが、一桁まで低くてもよく、あるいは10
-3mbarよりも幾分高くてもよい。約50Vの負バイアスが基体の支持体に印加され、カソードに印加された約10kWの電力(マグネトロンカソードがHIPIMSモードで作動している場合の平均電力)により、ボンド層の被覆は数分しかかからない。
【0083】
接着剤層とDLC層との間に傾斜層を設けることもまた有利である。こうした傾斜層はワークピースへのDLC層の付着をさらに向上させる。
【0084】
傾斜層の概念は、層内の炭素の割合を徐々に増やしながら、層内のCrの割合を徐々に減少させ、それにより炭化クロムを形成させるとともに、DLCコーティングのみが被覆されるまで炭素の含有量を増やすことである。
【0085】
傾斜層を被覆するための幾つかの可能性が存在する。一つの可能性は、例えばHIPIMSスパッタリングを用いることにより、Crターゲットと同時に炭素ターゲット16をマグネトロンで操作することである。Cターゲットに供給される電力が徐々に増加され、または次第に増加されると同時に、Crターゲットに供給される電力が徐々に低減され、または次第に低減される。もう一つの可能性は、真空チャンバに炭素をアセチレンまたはメタンなどの反応ガスの形で加え、Crターゲットに供給する電力を低減させながらチャンバの雰囲気中に存在する炭素の量を徐々に増加させることである。
【0086】
もう一つの可能性は、接着剤層、傾斜層、続いてDLC層の被覆に特許文献3に記載の技術を用いることである。
【0087】
その処理が用いられる場合、Cr層の一部すなわち接着剤層の一部の被覆後、一定のバイアス電源32の代わりに二極発電機である電圧源17をテーブル20に接続するようにスイッチ19を用いることにより、基体バイアスが直流から中波に切り換えられる。電圧源は500〜2500Vの間、例えば700Vの好ましい振幅電圧、および、20〜250kHzの間、例えば50kHzの周波数で作動する。真空チャンバの圧力は通常、約10
-3mbarであるが、それより一桁まで低くてもよく、または10
-3mbarよりも幾分高くてもよい。約2分後、アセチレンランプ(ramp)が50sccmで起動されるとともに、約30分間、350sccmまで上昇される。中波発生器のスイッチを入れた約5分後、使用したCrターゲットの電力が7kWに低減される。さらに10分後、5kWまで低減され、そこでさらに2分間一定に保たれる。したがって、傾斜接着剤層の生成については、接着剤層またはボンド層の被覆時にその層の約3分の1が被覆された後、アセチレン(または別の炭素含有ガス)が次第に増加する量で真空チャンバに供給され、接着剤層またはボンド層の組成がクロムから炭化クロムへと徐々に変化する。
【0088】
一旦傾斜層が完成すると、スクリーンがターゲットの前に移動され、スイッチが切られて、それにより本質的に炭素原子と、少量の水素と、さらに少量のアルゴン原子と、から構成される「純粋な」DLC層の被覆が開始される。
【0089】
この目的により、一番単純なケースでは、蒸発源のスイッチを切ることによりこの処理が完了するが、そうでなければ先行する傾斜層の場合と同じパラメータで完了する。一方、純粋なDLC層の被覆の過程でガス流の炭化水素の部分を増加させるか、希ガスの部分を低下させるか、のいずれか、または特に好ましくは、その両方の手段を一緒に行うことが有利であることが認められている。ここでまた上述したように、縦磁場を形成するようにコイル23,25を使用することが、安定したプラズマを維持するための特別な意味を有する。
【0090】
純粋なDLC層の適用の間、Crターゲットのスイッチを切った後、中波の供給が一定に保たれるように調節され、アルゴン流は同じ状態のままであり、傾斜層の間に開始されたアセチレンランプが、約10分間、約200〜400sccmの流れへと一様に増加する。続いて5分間、アルゴン流が約0〜100sccmの間、例えば50sccmの流れへと連続的に低下する。次の55分間、設定が同じ状態のまま、この処理が完了する。真空チャンバの圧力は通常、約10
-3mbarであるが、それより一桁まで低くてもよく、または10
-3mbarよりも幾分高くてもよい。頂部のコイルは約10Aの励磁電流で作動し、底部のコイルは頂部のコイルの約3分の1の励磁電流で作動する。
【0091】
したがってDLC層の被覆は、プラズマ・アシストCVD(化学蒸着法)によって行われる。プラズマ・アシストは、(たとえマグネトロンスパッタリングが行われないとしても磁界を発生させるように動作可能な)マグネトロンに関連する磁石などの、存在するまたは動作中のその他の磁石による磁界に対する貢献のみならず、チャンバ内の真空と、頂部コイル23および底部コイル25によりチャンバ内に生成された磁界と、が組み合わされたイオン源21によって生成されたプラズマから生じる。
【0092】
これらの条件により相対的に高い溶着速度がもたらされ、アルゴンガスの存在によりプラズマのイオン化が保証される。溶着速度は通常、1時間あたり約1〜2ミクロンである。
【0093】
DLCコーティングは約25GPaの硬度と、約0.2の摩擦係数を有する。このコーティングは約13%の水素含有量と、約500kOhmの抵抗を有する。DVI3824,Sheet4に従って測定されたDLCコーティングの付着力は非常に優れており、DVI3824によりHF1に分類されている。
【0094】
DLC層の層粗さは、Ra=0.01〜0.04を有し、DINに従って測定されたRzは0.8未満、通常0.5未満である。
【0095】
鋼のワークピースにDLC層を被覆するその他の多くの可能性が存在する。例えば、本発明に利用することのできる一部の可能な方法が種々の従来技術に記載されている。したがって、耐食性だけでなく優れた摩擦特性と硬度とを有するハードコートとしての、DLC層と、ケイ素−DLC層と、の交互の層を被覆するためのプラズマ・アシスト化学気相堆積法が、特許文献4に記載されている。
【0096】
特許文献5は、水素で強化されたシランガスをSi源に用い、水素で強化されたメタンを炭素源に用いたPACVDによる、a−Sil−xCx:Hの傾斜遷移層を有するDLCコーティングの鉄基体への被覆方法を記載している。まず15nmの厚さのSiの薄層が被覆され、次いでSiの割合が減少するとともにCの割合が増加する25nmの厚さの傾斜層が被覆され、この傾斜層が相対的に厚いDLC層によって覆われて、全体的な層厚さが2.3ミクロンとなる。
【0097】
また特許文献6は、50〜1000Paの圧力範囲で作動するプラズマ化学気相堆積法による、特許文献5と同様の薄い傾斜Si−C層を用いた、DLC層の鋼基体への被覆方法を記載している。この堆積法はワークピースに接続された二極式の電源を使用し、この二極式電源は堆積中の正パルス幅が負パルス幅よりも小さくなるように設計される。その結果、10nm〜10μmの範囲の、15〜40GPaの硬度の層が被覆される。
【0098】
またプラズマ化学気相堆積法による硬質のDLC層の適用方法が特許文献7に記載されている。この特許文献は、HFプラズマを適用しながらDLCを被覆する方法を記載しており、その間、10
-3〜1mbarの圧力範囲で、混和された希ガスまたは水素を含んだ酸素フリーの炭化水素プラズマを用いることにより層の形成が行われる。
【0099】
特許文献8は、a−C:H(DLC)層と交互に配された金属炭化物(炭化チタンまたは炭化クロム)層の多層構造を記載している。
【0100】
一旦所望の厚さのDLCコーティングが完成すると、PVDコーティング処理は完了し、ALD(atomic layer deposition、原子層成長法)コーティングを被覆するようにワークピースが
図5のような別の真空チャンバに移される。
【0101】
まず
図3A〜3Cを参照すると、第1のALD層の一連の形成ステップが示される。
図3Aのステップでは、O−Hで終端した面を有するワークピースまたは物品12が作成される。これは
図5を参照しながら後述するように、CVD(化学蒸着法)条件下、特にPECVD(プラズマ化学気相堆積法)条件下、すなわちプラズマの存在下で、ウエハーボンディングの分野で周知のように、チャンバに水を入れることにより、真空チャンバ内で行われる。このステップの前に、例えばPVD(物理蒸着法)条件下で、例えば
図5を参照しながら以下に述べるように、基体の表面をアルゴンイオン衝撃に曝すことにより、基体を広範な清浄およびエッチングにかけることができる。
【0102】
一旦−OHで終端された表面が形成されると、真空ポンプによりチャンバから水が除去され、−OHで終端した表面を有する基体が同じ条件下でトリメチルアルミニウム((CH
3)
3Al)の雰囲気に曝され、それによりAl原子が水素原子に取って代わり、アルミニウム原子のその他の2つの結合がそれぞれCH
3基に占有される。この状態を
図3Bに示す。更なる化学反応の可能性がないため、トリメチルアルミニウムとの反応はここで停止する。トリメチルアルミニウムと−OHで終端した表面の水素原子との反応によって形成されたCH
4
((CH
3)
3Al+H→(CH
3+H+(CH
3)
2Al),CH
3+H→CH
4)
とともに、過剰のトリメチルアルミニウムが真空システムによって引き出され、ただ一つの原子層(分子層)の生成後に反応が化学的に停止する。
【0103】
次のステップでは、CVDまたはPECVD条件下で水が再びチャンバに加えられて、CH
3で終端したAlと基体表面上で次の反応を導く:
2CH
3+2H
2O→2CH
4+2(−OH)。
【0104】
2−OHラジカルはアルミニウムと結合して、
図3Cに示す状態をもたらす。これらの反応は通常、100°C〜400°Cの範囲の温度で生じる。形成されたCH
4は過剰の水蒸気とともに真空ポンプによって真空チャンバから吸い出される。また全てのCH
3基が−OH基によって置換されると反応は化学的に停止する。
【0105】
当然のことながら、
図3Cに示す状態は
図3Aの状態と同じであり、したがってAl
2O
3の更なるALD層が形成されるたびにこの処理は繰り返される。より多くの層は、より処理時間が長くなることを意味するが、原則的にこのように形成される層の数には制限はなく、したがって必要以上に多くの層は提供されない。Al
2O
3層の被覆における例では、これらの層は、非常に高密度であり、基体10に到達する腐食性の物質を止めることができる高品質の層である。留意すべきは、本発明はAl
2O
3層の被覆に限定されるものではなく、原則として、Al
2O
3、TaO、SiO
2、TiO
2、Ta
2O
5、HfO
2、これらの酸化物の2つ以上を備えた混合層、それらの2つ以上の酸化物の交互の層を備えた多層構造、またはALDによって成長される場合のta−C層などのDLC層、を含む、ALDによって成長させることが可能な全ての層材料に用いられる。ALDによるそれらの材料の被覆は非特許文献2に記載の反応物を用いて行われる。ALDプロセスの一つの特定の用途は集積回路の製造であり、それに関連する方法は非特許文献2に少し詳しく記載されている。そこに記載されている詳細は本発明の教示の理解の助けとなり、非特許文献2の記載は本発明の参照となる。
【0106】
ALD処理によって製造されるコーティングの更に長いリストが非特許文献3に記載されている。この論文はALD処理の広範な詳細を示し、その分野における他者によって公表された研究を要約している。そこに記載されている詳細は本発明の教示の理解の助けとなり、非特許文献3の記載は本発明の参照となる。上記の非特許文献3で確認されているように、用語「ALD層」または「原子層成長法」は幾分誤解を招きやすい。その処理は、あたかもその各サイクルが、一つ以上の層を被覆するように用いられるかのように都合よく考えられるが、用いられたコーティングが上記のリストのCu,Mo,Ni,Ta,TiまたはWなどの元素のコーティングである場合、各層は本質的に原子一つ分の厚さである。コーティングが分子、例えばAl
2O
3コーティングである場合、その名前は厳密に言えば不適当であるが、国際的に理解されている。さらに、Puurunenにより強調されているように、基体上または先行するALD層上の全ての部位がさまざまな理由で必ずしも反応点ではないため、ALD処理のサイクル当たりの実際の成長は一つ未満である。
【0107】
留意すべきは、上述のALD処理はプロセスがどのように行われるかの一例であり、決して限定的な例として理解されるべきではない。トリメチルアルミニウムはまた表面上の2つのOH基と「同時に」結合して、突き出したただ一つのメチル基を有することもある。その両方が発生する。そのどちらが優先的に起こるかは(特に)立体障害の程度に関係し、これはある程度は何が最適な幾何学的適合性を有するかを意味する。トリメチルアルミニウムと水を用いたALD処理の別の変種が非特許文献4に記載されている。そこに記載されている詳細は本発明の教示の理解の助けとなり、非特許文献4の記載は本発明の参照となる。
【0108】
さらに前駆物質として酸素(O
2)を用いたALDにより、Al
2O
3を堆積させることが知られている。水の利用がALDチャンバの有効なパージングを必要とするため、これは特に魅力的である。ALDによるAl
2O
3の被覆におけるO
2の利用が例えば非特許文献5に記載されている。そこに記載されている詳細は本発明の教示の理解の助けとなり、非特許文献5の記載は本発明の参照となる。
【0109】
本発明により形成された第一の被覆物品12を
図4Aに示す。ここでは表面領域110のみを示し、以下に基体と呼ぶその物品は、表面領域110に、PVD(物理蒸着法)、またはCVD(化学蒸着法)、例えばPECVD(プラズマ化学気相堆積法)、によって適用された少なくとも一つの第1の層112と、同じ表面領域110にALD(原子層成長法)によって被覆された電気絶縁材料の一つ以上の原子層を備えた第2の層114と、を有する。
【0110】
図1,2を参照しながら上述したように、PVDまたはCVD層112は電気絶縁層であり、任意選択的に低摩擦係数を備えた、概ね高い硬度と高い耐摩耗性とを有する。この例では、層110はマルテンサイト系鋼のワークピースの表面に直接被覆されたDLC層であり、すなわちDLC層とワークピースとの間にボンド層または傾斜層を備えていない層であるが、DLC層に優れた付着性を与え、かつ/または剥離を防ぐように、必要に応じてこうしたボンド層または傾斜層を設けてもよい。ALD層114はAl
2O
3層である。DLC層112は通常、柱状構造および/または多孔質構造を有しており、さもなくば液体または気体などの腐食性物質を基体に到達させ、そこで腐食を生じさせてしまう。
【0111】
こうした柱状構造および/または多孔質構造は、コーティング自体は優れた絶縁体であるが、電気的遮へいの観点から見れば、電気絶縁ALD層114をもたない場合には、不十分なコーティングである。問題なのは、柱状構造および/または多孔質構造は、物品表面の小さな複数の領域を事実上露出してしまい、特に薄いコーティングでは、回避されるべき局所的な伝導路が容易に生じてしまうことを意味することである。このことはALD層(層構造)114の形態の絶縁保護(conformal sealing)層によって回避することができる。
【0112】
転がり接触軸受などの軸受コンポーネントでは、コーティングは通常、外側ベアリングレースの外側面および/または内側ベアリングレースの径方向内側面に被覆されるが、概ね転動体と接触する軌道の表面には被覆されない。しかしながら、PVD(物理蒸着法)、CVD(化学蒸着法)、または(ALD法またはプラズマALD法を除く)PECVD(プラズマ化学気相堆積法)によって被覆された層が、DLC層のように高い硬度と高い耐摩耗性とを有する場合は例外であり、なぜなら、内側および/または外側レースの軌道もまた被覆されてしまうからである。たとえ前述の層に被覆されたALD層がその前述の層の表面から磨滅したとしても、ALD層は非常に薄いだけであるため、このことは当てはまる。
【0113】
外側ベアリングレースの外側面および/または内側ベアリングレースの径方向内側面に被覆されたコーティングは必ずしも非常に硬くまたは耐摩耗性を有する必要はなく、なぜなら、それらはハウジング内または関連するシャフト上で動くことを意図されていないためである。それでもなお、内側および外側レースはハウジング内またはシャフト上で小刻みに動かされるため、こうした位置においても、硬質の耐摩耗コーティングは好ましい。
【0114】
本発明のコーティングは、非常に硬くあるいは耐摩耗性を有しやすく、また非常に薄いため、これらのコーティングが十分に硬質かつ耐摩耗性を有する場合には、軌道面(raceway surface)にも形成させることができる。理論上、必要に応じて少なくともこのコーティングを転動体に設けることができる。
【0115】
図4Aに示すように、物品または基体の表面領域110は、その基体上に直接被覆されたPVDまたはCVD層112を有し、ALD層(層構造)114は、PVDまたはCVD層112の上に被覆される。
図4Bの拡大図はこの実施例に関連して非常に役立つ。ここではこの拡大図は、PVDまたはCVD層112の柱状構造を示すように誇張して示している。単なる図示の目的で、
図4BはPVDまたはCVD層112の柱状部118の間に形成された間隙経路(interstitial passages)116を示す。
【0116】
この実施例は、原子層の成長が、深く狭い間隙、すなわちここでは間隙経路の側壁部や、開口気孔および亀裂などのその他の欠陥における側壁部に生じるという、ALDプロセスの重要な利点を認識、利用している。このことは、たとえ少数の層のみがALDによって成長するとしても、それらの層がPVD層を密閉するのに十分であることを意味している。十分なALD層が成長する場合、それらの層は
図4Bに示す開口気孔や間隙経路を密閉し、優れた電気絶縁を達成することができる。
【0117】
一方、開口気孔や間隙空間、またはその他の欠陥をALD成長材料で必ずしも完全に塞ぐ必要はない。ALD層114が柱状部、気孔、またはその他の欠陥部分の側壁部分に沿って並べば十分である。この状態を
図4Dに示す。一般的に言えば、ALD層114が1nm〜50nmの厚さを有する複数の単一層を備えていれば十分である。層114の形成に必要なALD処理の繰返しの数(サイクル)は制限されているため、1nmまたは数nmの厚さの薄層は比較的素早く被覆される。
【0118】
通常それ自体が非常に硬い絶縁保護ALD層114が、使用中に著しく摩損すると、その層は
図4C,4Eに示すPVDまたはCVD層の表面まで磨滅し、その後は硬質のDLC層の結果、摩耗は長期間、問題にはならない。この長期間の間、基体110は、PVDまたはCVD層112によって保護され、このPVDまたはCVD層112は、その層内の「開口部」に並んだまたはこれを完全に塞いだALD層材料により、電気的にシールドされた状態が維持される。
【0119】
ALD層がPVDまたはCVD層の自由表面まで磨滅したとき、たとえ腐食性物質がPVD、CVDまたはPECVD層の自由表面まで到達できたとしても、それらの物質は基体自体の表面には依然到達することができないため、
図4A〜4Eの実施例はまた有益である。
【0120】
必然的に、
図4Dおよび(特に)
図4EのPVD層112は腐食性物質が浸透しうる間隙経路を有する多孔質構造または柱状構造を備える。しかしながら、そうした間隙経路内における物品の実際の表面にまで達したALD層(層構造)114により、腐食性物質は基体に到達することはできない。
【0121】
PVDまたはCVD層112はまた、(図示しないが、複数の異なるPVDおよび/またはCVD層、または交互の層構造、または超格子構造を備えた)層構造または傾斜層を備えうる。こうした層構造は本質的に周知である。
【0122】
この実施例では、ALD層(層構造)114は、これに限定しないが、Al
2O
3、SiO
2、TiO
2、Ta
2O
5、HfO
2のうちの一つ、それらのうちいずれかの混合層、およびそれらの2つ以上の多層構造である。
【0123】
PVDまたはCVD層112は、これに限定せず、かつ可能なボンド層を含まずに、DLC層、金属DLC層、または、ALD層と同じ構成の層、のうちの一つを備える。PVD層は例えばAl
2O
3層であってもよい。
【0124】
ALDコーティングを被覆するための装置を、
図5を参照しながら説明する。
【0125】
図5に示す処理チャンバ130は、どの側面から見たときにも、主要な少なくとも実質的に矩形の形状を有する。
図5に図示しないチャンバドアが垂直ピボット軸、すなわち図面の平面に対して平行に存在する軸を中心として、チャンバの正面に回動可能に連結される。チャンバの背面は、
図1のチャンバ14の一つの側面に対応するように設計された開口部に、ロードロックによって連結され、その開口部は、通常、開口部内に配置された、マグネトロンおよび関連するカソードを有するチャンバ14のドアによって閉じられている。しかしながら、実際にはこうしたロードロックは必要なく、
図1,2のチャンバから処理された物品が、通常の雰囲気中で、単純に
図5のチャンバへと移送されうる。また、
図1,2のチャンバなどの、DLCコーティングを適用するための一つのチャンバが、被覆されたワークピースを、
図5の装置などの、ALDコーティングを適用するための複数の装置へと供給することができる。
【0126】
その配置は、ワークピース12とともに
図1のワークピーステーブル20が、PVDコーティング112の被覆後にALDチャンバへと移されたものである。ロードロックシステムが用いられる場合、この移送は真空の損失なく、かつワークピース表面上に汚染物質なく、行われる。必要に応じてテーブル20はチャンバ130内で回転させることができるが、これは本質的なものではない。移送システムは図示しないが、一般的なロードロックシステムのように設計される。この装置は、
図1,2に示されるDLCコーティングの被覆用の一つのチャンバの周りに配置された、符号130などの複数の衛星ALDチャンバを有するクラスタ・システムとして設計されうる。
【0127】
ドアおよびロードロックが閉じられると、チャンバ130は全側面が閉じられる。チャンバの内側にアクセスして、ALDで被覆したテーブル20上のワークピースを取り除くことができるように、そのドアを開けることができる。参照符号132は、拡散ポンプ、クライオポンプ、または単純に処理チャンバ内に必要な真空を周知のように発生させる役割を果たす機械式ポンプなどの、パフォーマンス真空ポンプ(図示せず)の連結ダクト用のダクトを示す。確かに、チャンバ内に高温の温度空間ができるほどゆっくりと進める必要はないが、その真空はおよそ100millitorrである。その圧力は概ね1〜1000millitorrの範囲にある。真空連結ダクト162の反対側に配置されているのが、ポート166を通るバルブシステム(図示しないが、流量調整弁およびオン/オフバルブを含む)を介してチャンバ130へと供給されるO
2ガスからプラズマを発生させる、プラズマ発生器164である。参照符号168は、供給源172からrfエネルギーを供給するコイル170を基本的に備えたrfプラズマ発生器を示す。
【0128】
参照符号174は、アルゴンなどの不活性ガス源を示し、パージングサイクル時にはその不活性ガスが弁176を介してチャンバに直接供給されるとともに、ALDによりAl
2O
3層を被覆するための前駆物質としてのAl(CH
3)
3をチャンバ130に供給する際には、その不活性ガスが弁178および容器180を介して間接的に供給される。このため、容器180とチャンバ130との間に更なる弁または弁機構182が存在するとともに、アルゴン流によって同伴された所定量のAl(CH
3)
3がポート184を介してチャンバ130へと送られるように(この装置におけるその他の全ての弁と同様に)電気的に制御される。
【0129】
図5の機械装置は次のように作動する。
【0130】
まず、チャンバ130内の雰囲気がダクト162を介して排気され、アルゴンに置き換えられる。これは、真空ポンプを作動させると同時に、真空チャンバ130から元々存在する残気を流し出すように弁176を介してアルゴンを供給することにより、周知のように行われる。チャンバ130は通常、壁面ヒータにより、200〜400°Cに加熱される。
【0131】
次いでこの装置は酸素投入サイクルに移行され、rf発生器および供給された酸素により、チャンバ内でプラズマがつくり出される。続いてALDにより第1のAl
2O
3層を形成させるように所定量のAl(CH
3)
3がチャンバ内に追加される。次いでプラズマALD処理により、所望の数のALD層が生成されるまでこのプロセスが繰り返される。ひとたび最後の層がALD処理により被覆されると、すなわち、ひとたびALD層(層構造)114が完成すると、チャンバドアを開けることにより物品がチャンバから取り出される。
【0132】
留意すべきは、上述したようなPVDおよび/またはCVD処理、およびALD処理を実行するためのクラスタ・プラントの例は、単なる一例として示したものであり、プラントは全く異なる形態を有してもよい。
【0133】
ALD層または層構造114は相対的に薄く、PVDまたはCVDによる層112の被覆に要求される概算時間に匹敵する時間で相対的に素早く被覆できるため、クラスタ配置は理想的なレイアウトではないかもしれない。
【0134】
完全な装置は、例えば、個々の物品が移送されるPVD被覆工程および/またはCVD被覆工程、およびALD被覆工程の連続したステーションを有する、長い管状のプラントとして実現される。このプラント内に物品を入れ、かつこのプラントから物品を取り出すためのロードロックを用いることにより、減圧の損失なくこの全体的な管状のプラントを排気することができる。例えば物品がコンベア上を連続的に移動する個々のステーションにおいて所望の雰囲気を維持するように、個々のステーションに局所的なガス供給源や、局所的な真空ポンプを設けてもよい。こうした配置により、要求されるガスの消耗を最小限に抑え、有益でない真空の生成時間に関連する有用な工程所要時間を向上させる役割を果たす。しかしながら、単に、DLC層の被覆用チャンバと、ALD層の被覆用チャンバとの2つの独立したチャンバを使用することがおそらく最も簡単である。
【0135】
ここで本発明の教示により被覆された有利な層構造の幾つかの例を、
図6A〜6Fを参照しながら示す。
【実施例1】
【0136】
まず
図6Aを参照すると、4ミクロンの厚さの水素フリーのta−C層の、層112が設けられた、100Cr6スチールのベアリングレースの形態の物品の表面領域110が見られる。この層112は
図4Dに示されたものと同様の構造を有する。層112の上部には、
図5の装置を用いたALD(原子層成長法)によって被覆された10nmの厚さのAl
2O
3の層114を備える。この場合、スチールのCr含有量とta−C層の炭素とは適切であると考えられるため、ボンド層は設けられていない。
【実施例2】
【0137】
(
図6B)
この例は実施例1に類似するが、上記の詳述した
図1の装置を用いて被覆した、または炭化クロムターゲット(カソード)を用いることにより被覆した、炭化クロム傾斜層を有するクロムの薄いボンド層112´上に、上記に詳述したように被覆したa−C:H層(DLC層)を有する。このボンド層112´は相対的に薄く、この例では10〜300nmの厚さである。
【実施例3】
【0138】
(
図6C)
この例ではコーティングは実施例2のコーティングに類似するが、
図1の装置内でPVDによって被覆された200nm〜2μmの厚さのAl
2O
3の追加の層112´´を含む。そのため、チャンバ雰囲気に酸素を用いた反応スパッタリングのために、真空チャンバ14に付加的に設けられた2つの向かい合ったAlのマグネトロンカソードからデュアル・マグネトロン・スパッタリングを実行するように、
図1,2の装置が修正される。Al
2O
3の反応スパッタリングは特許文献9に記載されている。この装置はまたHIPIMSと特許文献10に記載のようなデュアル・マグネトロン・スパッタリングとの組み合わせで利用するように設計される。
【実施例4】
【0139】
(
図6D)
この例では層構造は
図6Aに示されるような二層構造であるが、層112はCVD処理(ALD処理ではない)によって被覆された1〜4ミクロンの厚さのa−C:H層である。Al
2O
3のALD層114は10nmの厚さを有する。
【実施例5】
【0140】
(
図6E)
この例は実施例2と同様であるが、ALD層114はより大きい26〜50nmの厚さを有する。
【実施例6】
【0141】
(
図6F)
この例は実施例1と同様であるが、ここでの層112は、実施例3のようにPVD(反応性酸素雰囲気中でのデュアル・マグネトロン・スパッタリング)によって被覆された4ミクロンの厚さのAl
2O
3の層である。
【実施例7】
【0142】
この実施例では層構造は実施例6(
図6E)の構造に類似するが、PVDによって被覆されたCrまたはTiのボンド層112´を有する。留意すべきは、たとえボンド層が導電性であっても、その状態はコンポーネント自体が導電性を有しているのと同じであるので、ボンド層が導電性であるか絶縁性であるかは重要ではない。
【0143】
全ての実施例において、特に記載がない限りそれらの層は他の実施例と同じ厚さを有する。したがって、層112は概ね1〜4μmの厚さを有する。層112´が存在するなら、その厚さは概ね50nm〜2.5μmの厚さであり、ALD層114は概ね10〜50nmの厚さである。
【0144】
全ての実施例において、層の厚さは、特に記載がない限り、層112´では10nm、層112では4μm、層112´´では10nm、層114では10nmである。全ての実施例の電気絶縁性および耐食性は優れていることがわかった。