特許第6190596号(P6190596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6190596-擁壁の監視システムおよび監視方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190596
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】擁壁の監視システムおよび監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 9/00 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   G01C9/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-43334(P2013-43334)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-169982(P2014-169982A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】竜田 尚希
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−311873(JP,A)
【文献】 特開2008−159036(JP,A)
【文献】 特開2002−318114(JP,A)
【文献】 特開2013−024828(JP,A)
【文献】 特開2003−279561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00− 1/14
G01C 5/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
擁壁の監視システムであって、
擁壁を構成する壁面材のうち監視対象の壁面材にそれぞれ設置する、複数の傾斜測定装置と、
前記傾斜測定装置と無線通信可能な、外部端末と、からなり、
前記傾斜測定装置は、
前記壁面材の傾斜角度を測定する傾斜計と、
記傾斜計の測定値を取得する機能を少なくとも備える、パッシブ形のICタグと、を少なくとも具備し、
前記ICタグは、前記測定値の履歴を保存可能で、かつ前記壁面材の過去の測定値情報を追加で書き込み可能に構成し、
前記外部端末は、前記ICタグで保存した前記測定値を取得する機能を少なくとも有することを特徴とする、
擁壁の監視システム
【請求項2】
前記外部端末が、前記ICタグから取得した測定値から、各壁面材間の相対変位と、擁壁の絶対変位とを算出する機能をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の擁壁の監視システム。
【請求項3】
前記外部端末が、前記ICタグで保存した前記測定値の履歴を保存する機能を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の擁壁の監視システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の擁壁の監視システムを用いた擁壁の監視方法であって、
前記傾斜測定装置を、前記外部端末から無線通信が可能な範囲で擁壁を構成する壁面材の表面又は内部に設け、
前記外部端末でもって、各壁面材に設けた傾斜測定装置に対し連続的に無線通信を行って前記ICタグで保存した前記測定値を取得することを特徴とする、
擁壁の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強土壁などの擁壁の維持管理にあたり、該擁壁の変状を監視するための、擁壁の監視システムおよび擁壁の監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
擁壁は、設置した壁面材や補強部材などによって地盤や山肌を土留めする構造物であり、一般道、高速道路、造成地、急傾斜地、河川や海岸の岸壁、崖の保護などで多く用いられている。
【0003】
擁壁は、全国各地に多数構築されており、設置年数が長期にわたる擁壁も多数存在する。これらの擁壁が崩落するなどの事故を未然に防止するために、事前に補修、改修、再構築等(以下、「補修等」という。)の必要性を監視しておく必要がある。
【0004】
擁壁の補修等の必要性を判断する方法としては、壁面材の脱落、傾斜、変形などを監視する方法がある。
壁面材の脱落は、主に人による目視点検にて監視することができる。
しかし、壁面材の傾斜や変形は前記の目視点検では把握することが困難であるため、光波測量やステレオカメラ測量など、専用機材を用いて行う方法が一般的である。
【0005】
なお、以下の非特許文献1には、コンクリート構造物の傾斜を計測するものではないが、コンクリート構造物内部の鉄筋のひずみをRFIDで計測して、コンクリート構造物の劣化を監視するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】http://www.taiheiyo-cement.co.jp/rd/rfid/hizumi/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来の方法では、以下に記載する問題のうち、少なくとも何れか一つを含む問題が生じうる。
(1)測定場所の確保の観点
光波測量やステレオカメラ測量は、擁壁の前方のスペースから計測する必要があり、急峻な斜面等に構築した擁壁などでは、そのスペースが確保できない場合があった。
(2)測定値の履歴管理の観点
擁壁の安定性を検討するために重要となるのは初期値と異常時の変位差や、前回の測定値からの急激な変位差の発生である。従って、擁壁の安定性を検討するには、現在の測量結果だけでなく、過去の測量結果が必要となる。
しかし、従来の測量方法では、ターゲットを壁面材に設置する必要があるため、ターゲットの脱落や、再設置による測定場所の狂いが生じると、過去の測量結果との連続性が維持できない場合がある。
また、過去の測量結果は、事務所にて文書ファイルやPC等へのデータ保存によって管理していることが殆どで、全ての擁壁についてこれらの測量結果の履歴を管理したり、過去の測量結果を検索したりする作業は、非常に手間がかかり煩雑である。
(3)作業コストの観点
従来の測量方法を実施するためには、専門知識と高価な機材が必要であり、無数に存在する擁壁全てに従来の測量方法で監視することは非現実的であった。
(4)迅速な安定性評価の観点
上記(2)の通り、擁壁の安定性を検討するには、現在の測量結果だけでなく、過去の測量結果も必要とするため、擁壁の安定性を測量現場で迅速に評価することが困難であった。
(5)既設擁壁への導入容易性の観点
非特許文献1のようなひずみ計測システムは、新設する構造物に予め組み込んでおく必要があり、既設構造物に対して追加的に計測システムを導入することができない。
【0008】
したがって、本発明は、従来よりも効率性又は利便性の高い擁壁の監視システムおよび監視方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の第1発明は、擁壁の監視システムであって、擁壁を構成する壁面材のうち監視対象の壁面材にそれぞれ設置する、複数の傾斜測定装置と、前記傾斜測定装置と無線通信可能な、外部端末と、からなり、前記傾斜測定装置は、前記壁面材の傾斜角度を測定する傾斜計と、記傾斜計の測定値を取得する機能を少なくとも備える、パッシブ形のICタグと、を少なくとも具備し、前記ICタグは、前記測定値の履歴を保存可能で、かつ前記壁面材の過去の測定値情報を追加で書き込み可能に構成し、前記外部端末は、前記ICタグで保存した前記測定値を取得する機能を少なくとも有することを特徴とする、擁壁の監視システムを提供する。
た、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記外部端末が、前記ICタグから取得した測定値から、各壁面材間の相対変位と、擁壁の絶対変位とを算出する機能をさらに有することを特徴とする。
た、本願の第3発明は、前記第1発明または第2発明において、前記外部端末が、前記ICタグで保存した前記測定値の履歴を保存する機能を有することを特徴とする。
た、本願の第4発明は、前記第1乃至第3発明のうち何れかに記載の擁壁の監視システムを用いた擁壁の監視方法であって、前記傾斜測定装置を、前記外部端末から無線通信が可能な範囲で擁壁を構成する壁面材の表面又は内部に設け、前記外部端末でもって、各壁面材に設けた傾斜測定装置に対し無線通信を行って前記ICタグで保存した前記測定値を取得することを特徴とする、擁壁の監視方法を提供する
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくともいずれか一つの効果を得ることができる。
(1)擁壁の前方に測定スペースを確保する必要が無く、現場の条件を選ばない。
(2)管理者に専門知識を必要とせず、取得手段によって傾斜計の計測・記録・読み込みができ、擁壁の傾斜の過去と現在の値を即座に確認できる。
(3)ICタグに傾斜計の測定履歴を記録することで、あたかも擁壁自身が測定履歴を保管することとなり、管理者が別途記録を管理する必要が無くなる。
(4)傾斜計の測定値以外の情報(例えば施工業者、点検業者、擁壁諸元、補修履歴などの関連情報)をICタグに別途記録しておくことにより、監視以外の施工管理にも活用できる。
(5)本発明を構成する各手段を、広く普及した公知の部品で流用できるため、低コストで本発明を実施できる。
(6)パッシブ形のICタグを用いることにより、傾斜測定装置そのものに電源をもたせる必要がなく、半永久的に変位を計測・記録でき長期的な維持管理が可能となる。
(7)既設の擁壁に対する導入が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の擁壁の監視システムの基本構成を示す概要図。
図2】本発明の擁壁の監視システムの使用例を示す概要図。
図3】本発明の擁壁の監視システムのその他の使用例を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0013】
まず、本発明に係る擁壁の監視システムの基本構成について説明する。
<1>全体構成
本発明に係る傾斜測定装置Aは、測定対象である擁壁又は壁面材(以下擁壁等という。)に予めまたは事後的に取り付ける装置であり、傾斜計1とICタグ2の二つの要素を少なくとも含んで構成する。
傾斜計1とICタグ2は、各自独立した部材で構成してもよいし、それぞれの機能を一体化した一つの部材で構築してもよい。
また、傾斜測定装置Aは、擁壁等の表面に貼り付けてもよいし、新設の際には擁壁の外側から無線通信が可能な範囲内で予め擁壁内部に予め埋め込んでおいてもよい。
以下、各要素の詳細について説明する。
【0014】
<2>傾斜計
傾斜計1は、擁壁等に設置して、該擁壁等の傾斜角度を測定する装置である。
傾斜計1は、振り子式や、水準器式など、傾斜角度を検知可能な公知のセンサを用いることができる。
【0015】
<3>ICタグ
ICタグ2は、傾斜計1とともに、擁壁に設置される装置である。
ICタグ2は、外部と通信するアンテナ21と、測定値を記録するメモリ22と、前記アンテナ21及びメモリ22と前記傾斜計11を制御する制御部23とを備える。
ICタグ2は、自己電源を必要としないパッシブ型とすることが望ましい。
ICタグ2は、後述する外部端末Bの接近によるRFIDの電磁誘導によって確保した電力を利用して、前記傾斜計1の起動、測定値の記録、測定値の外部端末Bへの送信を行う機能を有する。
【0016】
<4>その他の要素
外部端末は、前記ICタグ2と無線通信によって情報を送受信可能とする装置である。
外部端末Bは、ICタグ2へのリーダライタ3を少なくとも含む。
より好ましくは、外部端末は、ICタグから取得した測定値に基づいて擁壁の変位を算定する機能を少なくとも備えた制御部4、前記変位を保存するメモリ5、擁壁の変位を図示する表示手段6、の何れかを設けてもよい。
【0017】
なお、制御部4における擁壁等の変位は、相対変位と絶対変位の両方を算定することができる。
変位の算定は、取得した測定値と擁壁等の構造諸元等の条件に基づいて、当業者が適宜実施可能な方法で実施することができる。
例えば、変形せずに傾斜し得る擁壁を想定したとき、擁壁等の上下方向に離隔するように複数の傾斜測定装置Aを設けておくと、それぞれの測定値やそれらの測定値の差分によって、各傾斜測定装置Aの間の相対変位を算出したり、擁壁等の姿勢を把握したりすることができる。
そして、擁壁等の任意の一箇所の絶対座標を別途計測しておき、前記の相対変位と組み合わせれば、擁壁等の絶対変位を算出することができる。
【0018】
<5>測定方法
既設の傾斜測定装置Aから外部端末Bを用いて測定値を無線通信で取得する手順としては種々の方法が考えられる。
例えば、擁壁等の天端から外部端末Bを吊りおろしたり、擁壁等の前面に足場を設けて作業員の出入りを可能して、擁壁に設置されているICタグ2と外部端末Bとを近接通信させたりする方法などがある。
【0019】
<6>第1実施例
一体型の擁壁の傾斜を測定する方法について図2を参照しながら説明する。
【0020】
図2(a)は、一体型の擁壁Cの天端部分に傾斜測定装置Aを設置した状態の概要図である。
図2(b)は、図2(a)の簡易モデル図である。
初期状態での傾斜測定装置Aの測定値は0°と仮定し、擁壁の高さはLである。この擁壁Cの高さが、地表から傾斜測定装置Aまでの高さに相当することとなる。
【0021】
図2(c)は、擁壁Cの底面を中心として擁壁Cが傾斜した場合の簡易モデル図である。
傾斜測定装置Aの測定値をθとした場合、図2(c)に示す通り、擁壁Cの天端部分がt=Lsinθだけ前方に変位していることを外部端末Bにて算出できる。
これらの単純な演算処理で、擁壁Cの変位を簡単に算出することができる。
【0022】
また、図示しないが、擁壁Cの鉛直方向の変位も前記と同様の考え方によって算出することができる。
【0023】
なお、斜面に設置した傾斜形の擁壁であっても、初期状態を基準として傾斜角度を算出していけば、同様の考え方で擁壁Cの変位を算出することができる。
【0024】
擁壁の監視方法は、所定期間毎に、擁壁Cの傾斜角度及び変位を算出し、任意の判定条件に基づいて補修の必要性を判定することで実現することができる。
【0025】
<7>第2実施例
次に、分割型の擁壁Cの傾斜を測定する方法について図3を参照しながら説明する。
【0026】
図3(a)は、擁壁Cを構成する各壁面材(D1,D2,D3・・・Dn)に個別に傾斜測定装置(A1,A2,A3・・・An)を設置した状態の概要図である。
図3(b)は、図3(a)の簡易モデル図である。
初期状態でのそれぞれの傾斜測定装置Aの測定値の値は0°と仮定し、各壁面材Dの高さをLとする。
【0027】
図3(c)は、各壁面材Dがそれぞれ傾斜した場合の簡易モデル図である。
傾斜測定装置A中のICタグ2には、異なる識別番号が付されており、これらの識別番号を外部端末Bが測定値とともに取得することで、それぞれの壁面材Dの傾斜角度を把握することができる。
【0028】
それぞれの傾斜測定装置Aの測定値に基づく水平方向の相対変位量は以下の式で求まる。
擁壁底面からのA1の相対変位量 (t1):Lsinθ1
A1からのA2の相対変位量 (t2):Lsinθ2
A2からのA3の相対変位量 (t3):Lsinθ3
・・
An-1からのAnの相対変位量 (tn):Lsinθn
【0029】
なお、本実施例では、擁壁Cの底面を不動と仮定しているため、各傾斜測定装置Aに基づく相対変位量(t1,t2・・・tn)を下方から順に合算すれば、擁壁C全体の絶対変位を算出することができる。
【0030】
全体変位の算出方法は上記した方法に限られず、特定の一箇所(例:ある傾斜測定装置A)の絶対位置を求めれば、当該絶対位置を基準とした相対変位の合算により擁壁C全体の絶対変位を算出することができる。
【0031】
<8>変形例
本発明に係る傾斜測定装置の変形例について以下説明する。
【0032】
[測定値の履歴機能]
本発明は、ICタグ2及び外部端末の一方或いは両方に、傾斜測定装置の測定値又は外部端末Bで算出した変位の履歴を保存しておいても良い。
当該構成によれば、擁壁等の状態を時系列に把握することができる。
例えば、測定値は小さいものの、前回の測定から大きく変化した場合には補修を行う必要性が高いことを予測したり、測定値は大きいものの、前回の測定から変化が少ない場合には現状維持して監視継続としたりするなどの柔軟な判断が可能となる点で有益である。
【0033】
[ICタグの追加情報]
本発明は、ICタグ2にその他の情報を記録しておいても良い。
例えば、擁壁等の施工業者、管理業者の情報や、擁壁等の仕様諸元などのデータを保存しておくことができる。
当該構成によれば、擁壁等自身に種々の情報を格納しておくことで、作業員側で予め情報収集を行ったり、外部端末B側での情報処理に必要な情報をその都度ICタグ2側から取得したりすることが可能となる点で有益である。
【0034】
[外部端末からの書き込み機能]
本発明は、外部端末B又はその他の情報処理装置から傾斜測定装置A内のICタグ2に情報を書き込み可能に構成することもできる。
例えば、既に文書等で管理していた既設擁壁の傾斜状態を本発明の傾斜測定装置に対応する形式に変換してICタグ2に記録しておくことにより、本発明の傾斜測定装置を導入する以前の情報を活用する形で擁壁の維持管理が可能となる。
【符号の説明】
【0035】
A 傾斜測定装置
1 傾斜計
2 ICタグ
21 アンテナ
22 メモリ
23 制御部
B 外部端末
3 リーダライタ
4 制御部
5 メモリ
6 表示手段
C 擁壁
D 壁面材
図1
図2
図3