【実施例】
【0013】
まず、本発明に係る
擁壁の監視システムの基本構成について説明する。
<1>全体構成
本発明に係る傾斜測定装置Aは、測定対象である擁壁又は壁面材(以下擁壁等という。)に予めまたは事後的に取り付ける装置であり、傾斜計1とICタグ2の二つの要素を少なくとも含んで構成する。
傾斜計1とICタグ2は、各自独立した部材で構成してもよいし、それぞれの機能を一体化した一つの部材で構築してもよい。
また、傾斜測定装置Aは、擁壁等の表面に貼り付けてもよいし、新設の際には擁壁の外側から無線通信が可能な範囲内で予め擁壁内部に予め埋め込んでおいてもよい。
以下、各要素の詳細について説明する。
【0014】
<2>傾斜計
傾斜計1は、擁壁等に設置して、該擁壁等の傾斜角度を測定する装置である。
傾斜計1は、振り子式や、水準器式など、傾斜角度を検知可能な公知のセンサを用いることができる。
【0015】
<3>ICタグ
ICタグ2は、傾斜計1とともに、擁壁に設置される装置である。
ICタグ2は、外部と通信するアンテナ21と、測定値を記録するメモリ22と、前記アンテナ21及びメモリ22と前記傾斜計11を制御する制御部23とを備える。
ICタグ2は、自己電源を必要としないパッシブ型とすることが望ましい。
ICタグ2は、後述する外部端末Bの接近によるRFIDの電磁誘導によって確保した電力を利用して、前記傾斜計1の起動、測定値の記録、測定値の外部端末Bへの送信を行う機能を有する。
【0016】
<4>その他の要素
外部端末
Bは、前記ICタグ2と無線通信によって情報を送受信可能とする装置である。
外部端末Bは、ICタグ2へのリーダライタ3を少なくとも含む。
より好ましくは、外部端末は、ICタグから取得した測定値に基づいて擁壁の変位を算定する機能を少なくとも備えた制御部4、前記変位を保存するメモリ5、擁壁の変位を図示する表示手段6、の何れかを設けてもよい。
【0017】
なお、
制御部4における擁壁等の変位は、相対変位と絶対変位の両方を算定することができる。
変位の算定は、取得した測定値と擁壁等の構造諸元等の条件に基づいて、当業者が適宜実施可能な方法で実施することができる。
例えば、変形せずに傾斜し得る擁壁を想定したとき、擁壁等の上下方向に離隔するように複数の傾斜測定装置Aを設けておくと、それぞれの測定値やそれらの測定値の差分によって、各傾斜測定装置Aの間の相対変位を算出したり、擁壁等の姿勢を把握したりすることができる。
そして、擁壁等の任意の一箇所の絶対座標を別途計測しておき、前記の相対変位と組み合わせれば、擁壁等の絶対変位を算出することができる。
【0018】
<5>測定方法
既設の傾斜測定装置Aから外部端末Bを用いて測定値を無線通信で取得する手順としては種々の方法が考えられる。
例えば、擁壁等の天端から外部端末Bを吊りおろしたり、擁壁等の前面に足場を設けて作業員の出入りを可能して、擁壁に設置されているICタグ2と外部端末Bとを近接通信させたりする方法などがある。
【0019】
<6>第1実施例
一体型の擁壁の傾斜を測定する方法について
図2を参照しながら説明する。
【0020】
図2(a)は、一体型の擁壁Cの天端部分に傾斜測定装置Aを設置した状態の概要図である。
図2(b)は、
図2(a)の簡易モデル図である。
初期状態での傾斜測定装置Aの測定値は0°と仮定し、擁壁の高さはLである。この擁壁Cの高さが、地表から傾斜測定装置Aまでの高さに相当することとなる。
【0021】
図2(c)は、擁壁Cの底面を中心として擁壁Cが傾斜した場合の簡易モデル図である。
傾斜測定装置Aの測定値をθとした場合、
図2(c)に示す通り、擁壁Cの天端部分がt=Lsinθだけ前方に変位していることを外部端末Bにて算出できる。
これらの単純な演算処理で、擁壁Cの変位を簡単に算出することができる。
【0022】
また、図示しないが、擁壁Cの鉛直方向の変位も前記と同様の考え方によって算出することができる。
【0023】
なお、斜面に設置した傾斜形の擁壁であっても、初期状態を基準として傾斜角度を算出していけば、同様の考え方で擁壁Cの変位を算出することができる。
【0024】
擁壁の監視方法は、所定期間毎に、擁壁Cの傾斜角度及び変位を算出し、任意の判定条件に基づいて補修の必要性を判定することで実現することができる。
【0025】
<7>第2実施例
次に、分割型の擁壁Cの傾斜を測定する方法について
図3を参照しながら説明する。
【0026】
図3(a)は、擁壁Cを構成する各壁面材(D1,D2,D3・・・Dn)に個別に傾斜測定装置(A1,A2,A3・・・An)を設置した状態の概要図である。
図3(b)は、
図3(a)の簡易モデル図である。
初期状態でのそれぞれの傾斜測定装置Aの測定値の値は0°と仮定し、各壁面材Dの高さをLとする。
【0027】
図3(c)は、各壁面材Dがそれぞれ傾斜した場合の簡易モデル図である。
傾斜測定装置A中のICタグ2には、異なる識別番号が付されており、これらの識別番号を外部端末Bが測定値とともに取得することで、それぞれの壁面材Dの傾斜角度を把握することができる。
【0028】
それぞれの傾斜測定装置Aの測定値に基づく水平方向の相対変位量は以下の式で求まる。
擁壁底面からのA1の相対変位量 (t
1):Lsinθ
1
A1からのA2の相対変位量 (t
2):Lsinθ
2
A2からのA3の相対変位量 (t
3):Lsinθ
3
・・
An-1からのAnの相対変位量 (t
n):Lsinθ
n
【0029】
なお、本実施例では、擁壁Cの底面を不動と仮定しているため、各傾斜測定装置Aに基づく相対変位量(t
1,t
2・・・t
n)を下方から順に合算すれば、擁壁C全体の絶対変位を算出することができる。
【0030】
全体変位の算出方法は上記した方法に限られず、特定の一箇所(例:ある傾斜測定装置A)の絶対位置を求めれば、当該絶対位置を基準とした相対変位の合算により擁壁C全体の絶対変位を算出することができる。
【0031】
<8>変形例
本発明に係る傾斜測定装置の変形例について以下説明する。
【0032】
[測定値の履歴機能]
本発明は、ICタグ2及び外部端末の一方或いは両方に、傾斜測定装置の測定値又は外部端末Bで算出した変位の履歴を保存しておいても良い。
当該構成によれば、擁壁等の状態を時系列に把握することができる。
例えば、測定値は小さいものの、前回の測定から大きく変化した場合には補修を行う必要性が高いことを予測したり、測定値は大きいものの、前回の測定から変化が少ない場合には現状維持して監視継続としたりするなどの柔軟な判断が可能となる点で有益である。
【0033】
[ICタグの追加情報]
本発明は、ICタグ2にその他の情報を記録しておいても良い。
例えば、擁壁等の施工業者、管理業者の情報や、擁壁等の仕様諸元などのデータを保存しておくことができる。
当該構成によれば、擁壁等自身に種々の情報を格納しておくことで、作業員側で予め情報収集を行ったり、外部端末B側での情報処理に必要な情報をその都度ICタグ2側から取得したりすることが可能となる点で有益である。
【0034】
[外部端末からの書き込み機能]
本発明は、外部端末B又はその他の情報処理装置から傾斜測定装置A内のICタグ2に情報を書き込み可能に構成することもできる。
例えば、既に文書等で管理していた既設擁壁の傾斜状態を本発明の傾斜測定装置に対応する形式に変換してICタグ2に記録しておくことにより、本発明の傾斜測定装置を導入する以前の情報を活用する形で擁壁の維持管理が可能となる。