特許第6190637号(P6190637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190637延伸フィルムの製造方法及びその製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190637
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】延伸フィルムの製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/08 20060101AFI20170821BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20170821BHJP
【FI】
   B29C55/08
   B29L7:00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-133433(P2013-133433)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-6775(P2015-6775A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】大門 敦
(72)【発明者】
【氏名】田内 公昭
(72)【発明者】
【氏名】荻 武司
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−144359(JP,A)
【文献】 特開平04−173333(JP,A)
【文献】 特開平04−298325(JP,A)
【文献】 特開平04−133718(JP,A)
【文献】 実開昭58−120017(JP,U)
【文献】 特開2010−099889(JP,A)
【文献】 特開平01−009236(JP,A)
【文献】 特開昭61−160222(JP,A)
【文献】 特開昭61−008325(JP,A)
【文献】 特開昭50−133272(JP,A)
【文献】 特開2009−113405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸する延伸フィルムの製造方法であって、
前記搬送方向に向かって互いに前記幅方向に拡がり、かつ互いに対向するように間隔をあけて配置された延伸ディスクのそれぞれの外周部に沿うように形成された環状の溝部の一部のそれぞれに、無限軌道に沿って移動可能な無端の線材を前記フィルムの両側端部を挟み込むように装着するとともに、第3搬送ローラを前記無限軌道の内周に沿って配置し、前記フィルムを前記搬送方向に搬送しながら前記幅方向に延伸するフィルムの延伸工程、を備え、
前記延伸ディスクは、前記無限軌道の内周に沿って配置され、
前記第3搬送ローラの位置を変更することによって、前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整する倍率調整工程をさらに備え、
前記倍率調整工程は、前記第3搬送ローラを前記第1延伸ディスクの搬送方向前方において上下方向に移動させることによって前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整する工程であって、前記第3搬送ローラを上位置に移動させたときには前記フィルムの延伸区間の搬送方向前端部における前記延伸ディスクのそれぞれに装着された前記線材の間の距離が小さくなって延伸後の前記フィルムの前記幅方向の長さが小さくなる工程である、製造方法
【請求項2】
フィルムを搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸する延伸フィルムの製造方法であって、
前記搬送方向に向かって互いに前記幅方向に拡がり、かつ互いに対向するように間隔をあけて配置された延伸ディスクのそれぞれの外周部に沿うように形成された環状の溝部の一部のそれぞれに、無限軌道に沿って移動可能な無端の線材を前記フィルムの両側端部を挟み込むように装着するとともに、第2搬送ローラを前記無限軌道の内周に沿って配置し、前記フィルムを前記搬送方向に搬送しながら前記幅方向に延伸するフィルムの延伸工程、を備え、
前記延伸ディスクは、前記無限軌道の内周に沿って配置され、
前記第2搬送ローラの位置を変更することによって、前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整する倍率調整工程をさらに備え、
前記倍率調整工程は、前記第2搬送ローラを前記延伸ディスクの下方において前記搬送方向の前後方向に移動させることによって前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整する工程であって、前記第2搬送ローラを搬送方向前方に位置させたときには前記フィルムの延伸区間の搬送方向前端部における前記延伸ディスクのそれぞれに装着された前記線材の間の距離が小さくなって延伸後の前記フィルムの前記幅方向の長さが小さくなる工程である、製造方法。
【請求項3】
フィルムを搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸する延伸フィルムの製造装置であって、
前記搬送方向に向かって互いに前記幅方向に拡がり、かつ互いに対向するように間隔をあけて配置され、外周部に沿う環状の溝部がそれぞれ形成された延伸ディスクと、
前記延伸ディスクの前記溝部の一部のそれぞれに前記フィルムの両側端部を挟み込むように装着され、前記フィルムを前記搬送方向に搬送しながら前記幅方向に延伸するように無限軌道に沿って移動可能な無端の線材と、
前記無限軌道の内周に沿って配置された第3搬送ローラと、を備え、
前記延伸ディスクは、前記無限軌道の内周に沿って配置され、
前記第3搬送ローラの位置を変更することによって、前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整する倍率調整機構をさらに備え、
前記第3搬送ローラは、前記第1延伸ディスクの搬送方向前方に配置されており、
前記製造装置は、前記第3搬送ローラを上下方向に移動させることによって前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整することができるように構成されており、
前記製造装置は、前記第3搬送ローラを上位置に移動させたときには前記フィルムの延伸区間の搬送方向前端部における前記延伸ディスクのそれぞれに装着された前記線材の間の距離が小さくなって延伸後の前記フィルムの前記幅方向の長さが小さくなるように構成されている、製造装置
【請求項4】
フィルムを搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸する延伸フィルムの製造装置であって、
前記搬送方向に向かって互いに前記幅方向に拡がり、かつ互いに対向するように間隔をあけて配置され、外周部に沿う環状の溝部がそれぞれ形成された延伸ディスクと、
前記延伸ディスクの前記溝部の一部のそれぞれに前記フィルムの両側端部を挟み込むように装着され、前記フィルムを前記搬送方向に搬送しながら前記幅方向に延伸するように無限軌道に沿って移動可能な無端の線材と、
前記無限軌道の内周に沿って配置された第2搬送ローラと、を備え、
前記延伸ディスクは、前記無限軌道の内周に沿って配置され、
前記第2搬送ローラの位置を変更することによって、前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整する倍率調整機構をさらに備え、
前記第2搬送ローラは、前記延伸ディスクの下方に配置されており、
前記製造装置は、前記第2搬送ローラを前記搬送方向の前後方向に移動させることによって前記フィルムの前記幅方向の延伸倍率を調整することができるように構成されており、
前記製造装置は、前記第2搬送ローラを搬送方向前方に位置させたときには前記フィルムの延伸区間の搬送方向前端部における前記延伸ディスクのそれぞれに装着された前記線材の間の距離が小さくなって延伸後の前記フィルムの前記幅方向の長さが小さくなるように構成されている、製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムを搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸する延伸フィルムの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の延伸フィルムの製造方法には、フィルムの両端をチェーンに設けられたクリップで把持しチェーンをガイドレールに沿ってフィルムを幅方向に広げる方向に駆動させることによってフィルムを幅方向に延伸する、いわゆるテンタ方式の延伸フィルムの製造方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかし、テンタ方式の延伸フィルムの製造方法では、延伸したフィルムの一部においてフィルムの幅が小さくなるネックインや穴あきが発生したり、延伸したフィルムに延伸ムラが生じることがある。そこで、このような問題を解決するために、ワイヤ式の延伸フィルムの製造方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
ワイヤ式の延伸フィルムの製造方法が採用された延伸フィルム製造装置101は、図12に示すように、延伸ローラ102の外周部とワイヤ104を搬送する搬送ローラ103A,103B,103Cの外周部とでフィルム110を挟んで、ワイヤ104をフィルム110を幅方向に広げる方向に駆動させることによってフィルム110を幅方向に延伸する。フィルム110を延伸する区間においてフィルム110の側端部の全部をワイヤ104で挟むことによって、延伸したフィルム110の一部においてネックイン及び穴あきの発生を抑え、延伸したフィルム110に延伸ムラが生じにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−67804号公報
【特許文献2】特開2010−99889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らが検討したところ、特許文献2に開示されている延伸フィルム製造装置101では、フィルム110は、延伸ローラ102の外周部と、搬送ローラ103A,103B,103Cの外周部とで挟持されているので、特に、延伸ローラ102の外周部と、フィルム110の延伸区間の両端に配置された搬送ローラ103A及び103Cの外周部とで挟持されている部分のフィルム110に応力が集中しやすい。このため、フィルム110の延伸区間において、フィルム110の搬送方向に均一な力を加えながら、フィルム110を延伸することが難しい。
【0007】
本発明は、延伸ムラが生じにくく、フィルムの延伸区間においてフィルムの搬送方向に均一な力を加えながらフィルムを延伸することができる延伸フィルムの製造方法及び製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
フィルムを搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸する延伸フィルムの製造方法であって、
前記搬送方向に向かって互いに前記幅方向に拡がり、かつ互いに対向するように間隔をあけて配置された延伸ディスクのそれぞれの外周部に沿うように形成された環状の溝部の一部のそれぞれに、無限軌道に沿って移動可能な無端の線材を前記フィルムの両側端部を挟み込むように装着するとともに、搬送ローラを前記無限軌道の内周に沿って配置し、前記フィルムを前記搬送方向に搬送しながら前記幅方向に延伸するフィルムの延伸工程、を備え、
前記延伸ディスクは、前記無限軌道の内周に沿って配置された、延伸フィルムの製造方法、を提供する。
【0009】
また、本発明は、
フィルムを搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸する延伸フィルムの製造装置であって、
前記搬送方向に向かって互いに前記幅方向に拡がり、かつ互いに対向するように間隔をあけて配置され、外周部に沿う環状の溝部がそれぞれ形成された延伸ディスクと、
前記延伸ディスクの前記溝部の一部のそれぞれに前記フィルムの両側端部を挟み込むように装着され、前記フィルムを前記搬送方向に搬送しながら前記幅方向に延伸するように無限軌道に沿って移動可能な無端の線材と、
前記無限軌道の内周に沿って配置された搬送ローラと、を備え、
前記延伸ディスクは、前記無限軌道の内周に沿って配置された、延伸フィルムの製造装置、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、延伸ディスクは無限軌道の内周に沿って配置されているので、延伸ディスクの外周部と搬送ローラの外周部とでフィルムが挟持されることがなくなり、その結果、延伸ムラの解消に有効な線材を用いながらも、フィルムへの部分的な応力集中が生じることがなくなる。したがって、延伸ムラを抑制しつつ、フィルムの延伸区間においてフィルムの搬送方向に均一な力を加えながらフィルムを延伸することができる延伸フィルムの製造方法及び製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による延伸フィルムの製造装置の一形態の側面概略図である。
図2図1の延伸フィルム製造装置の平面概略図である。
図3図1の延伸フィルム製造装置の第3搬送ローラを上位置に移動させたときの側面概略図である。
図4図1の延伸フィルム製造装置の第3搬送ローラを上位置に移動させたときの平面概略図である。
図5図1の延伸フィルム製造装置の第3搬送ローラを最上位置に移動させたときの側面概略図である
図6図1の延伸フィルム製造装置の第3搬送ローラを最上位置に移動させたときの平面概略図である。
図7図1の延伸フィルム製造装置の第3搬送ローラを最下位置に移動させたときの側面概略図である。
図8図1の延伸フィルム製造装置の第3搬送ローラを最下位置に移動させたときの平面概略図である。
図9図1の延伸フィルム製造装置の第1延伸ディスク及び第2延伸ディスクが向き合う角度を小さくしたときの平面概略図である。
図10】本発明の延伸フィルム製造装置の別の実施形態の側面概略図である。
図11図10の延伸フィルム製造装置の第2搬送ローラがより後方に位置し、第1延伸ディスク及び第2延伸ディスクがより上方に位置しているときの側面概略図である。
図12】従来の延伸フィルム製造装置の側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は本実施形態の延伸フィルムの製造方法を採用した延伸フィルム製造装置1Aの側面概略図であり、図2は延伸フィルム製造装置1Aの平面概略図である。
【0014】
図1及び図2に示された延伸フィルム製造装置1Aは、フィルム10を搬送方向(MD)に搬送しながら幅方向(TD)に延伸する延伸フィルム製造装置である。フィルム10は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム等である。延伸フィルム製造装置1Aでは、フィルム10を幅方向に延伸することによって、延伸前よりも薄いフィルムを得たり、多孔化したフィルム(多孔質膜)を得たりすることが可能である。
【0015】
延伸フィルム製造装置1Aは、供給ローラ31と、第1押圧ローラ32と、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bと、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bと、第1搬送ローラ25A及び25Bと、第2搬送ローラ26A及び26Bと、第3搬送ローラ27A及び27Bと、テンション制御装置29と、フィルム切断装置30と、第2押圧ローラ33と、送出ローラ34と、第3押圧ローラ35と、巻取ローラ36と、を備えている。なお、図2は、延伸フィルム製造装置1Aを搬送方向に向かって右側の側面から見た概略図であるため、図2には、第1延伸ディスク23A、第1ワイヤ24A、第1搬送ローラ25A、第2搬送ローラ26A及び第3搬送ローラ27Aが図示されていないが、第1延伸ディスク23A、第1ワイヤ24A、第1搬送ローラ25A、第2搬送ローラ26A及び第3搬送ローラ27Aの各構成は、それぞれ第2延伸ディスク23B、第2ワイヤ24B、第1搬送ローラ25B、第2搬送ローラ26B及び第3搬送ローラ27Bの各構成と同一であるものとして図示を省略する。
【0016】
供給ローラ31は、外周部に巻回されたフィルム10を搬送方向に繰り出すための部材である。供給ローラ31は、右側の側面から見て反時計回りに回転し、この回転に伴って、フィルム10は、供給ローラ31の下部から搬送方向に繰り出される。
【0017】
第1押圧ローラ32は、供給ローラ31の搬送方向前方側に配置されている。第1押圧ローラ32は、供給ローラ31から繰り出されたフィルム10の上面に接触する位置に配置され、フィルム10を下方に押圧するための部材である。第1押圧ローラ32は、上下方向に移動自在かつ上下方向の任意の位置で固定できるように構成されている。第1押圧ローラ32の下端は、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bの上端より下方に位置しており、フィルム10に張力を付与している。
【0018】
第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bは、フィルム10を幅方向に延伸する部材である。第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bは、第1押圧ローラ32の搬送方向前方側に配置されている。第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bは、搬送方向に向かって互いに幅方向に拡がり、かつ互いに対向するように間隔をあけて配置されている。第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bは、それぞれ円板状の部材であって、外周部に沿う環状の第1溝部28A及び第2溝部28Bがそれぞれ形成されている。第1溝部28A及び第2溝部28Bの一部、具体的には、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bの上方に位置する第1溝部28A及び第2溝部28Bの一部には、フィルム10の両側端部を第1溝部28Aと第2溝部28Bとの間に挟み込むように第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bが装着される。第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bによってフィルム10の両側端部が挟み込まれている区間(フィルム10の延伸区間)において、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bが移動することによって、フィルム10は、搬送方向に搬送されながら幅方向に延伸される。第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bは、ディスクの面方向がフィルム10の面に垂直な方向と一致するように配置されている。
【0019】
延伸フィルム製造装置1Aでは、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bの位置を変更することによって、フィルム10の幅方向の延伸倍率を調整することができる。例えば、延伸フィルム製造装置1Aでは、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bが向き合う角度を変更することによって、フィルム10の幅方向の延伸倍率を調整することができる。フィルム10の幅方向の延伸倍率は、搬送方向後端部(延伸開始部)における第1ワイヤ24Aと第2ワイヤ24Bとの間の距離に対する搬送方向前端部(延伸終了部)における第1ワイヤ24Aと第2ワイヤ24Bとの間の距離の比によって決定される。図9に示すように、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bが向き合う角度が小さくなるように(θ9<θ2)、点Pを中心として第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bを移動させると、フィルム10の延伸倍率が小さくなり、延伸された後のフィルム10の幅方向の長さが小さくなる。第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bが向き合う角度の調整は、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23B、第1搬送ローラ25A及び25B、第2搬送ローラ26A及び26B、第3搬送ローラ27A及び27Bが含まれるユニットを移動させることにより行われる。なお、点Pは、図示したとおり、フィルム10の面に垂直な方向から観察したときに、搬送方向前端部と同後端部とを結ぶ直線の交点である。
【0020】
第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bは、フィルム10を搬送方向に搬送しながら幅方向に延伸するように無限軌道に沿って移動可能な無端の線材である。第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bは、金属製のワイヤである。第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23B、第1搬送ローラ25A及び25B、第2搬送ローラ26A及び26B、第3搬送ローラ27A及び27Bは、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bの無限軌道の内周に沿って配置され、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bに張力を与えている。なお、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bは、金属製のワイヤに限定されるものではなく、金属製又は樹脂製のチェーンであってもよい。
【0021】
第1搬送ローラ25A及び25Bは、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bの無限軌道の内周に沿って配置されている。第1搬送ローラ25A及び25Bは、回転自在に配置されたフリーローラである。第1搬送ローラ25A及び25Bは、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bの下方に配置されている。
【0022】
第2搬送ローラ26A及び26Bは、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bの無限軌道の内周に沿って配置された駆動ローラである。第2搬送ローラ26A及び26Bは、図示しない動力源の駆動力によって所定方向(右側の側面から見て時計回りの方向)に回転可能となるように構成されている。第2搬送ローラ26A及び26Bも、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bの下方に配置されている。また、第2搬送ローラ26A及び26Bには、テンション制御装置29が接続されており、第2搬送ローラ26A及び26Bは、テンション制御装置29によって、前後方向に移動自在かつ前後方向の任意の位置で固定できるようになっている。第2搬送ローラ26A及び26Bを搬送方向前方に移動すると、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bに作用する張力が大きくなり、第2搬送ローラ26A及び26Bを搬送方向後方に移動すると、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bに作用する張力が小さくなる。
【0023】
テンション制御装置29は、第2搬送ローラ26A及び26Bの回転軸に固定された伸縮自在なアームを有しており、アームを前後方向に伸縮させることによって、第2搬送ローラ26A及び26Bを前後方向に移動させ、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bに作用する張力を調整する。
【0024】
第3搬送ローラ27A及び27Bは、第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bの無限軌道の内周に沿って配置されている。第3搬送ローラ27A及び27Bは、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bの搬送方向前方に配置されている。第3搬送ローラ27A及び27Bは、回転自在に配置されたフリーローラである。また、第3搬送ローラ27A及び27Bは、上下方向に移動自在かつ上下方向の任意の位置で固定できるようになっている。第3搬送ローラ27A及び27Bを上方に移動すると、延伸倍率が小さくなり、第3搬送ローラ27A及び27Bを下方に移動すると、延伸倍率が大きくなる。
【0025】
延伸フィルム製造装置1Aでは、第3搬送ローラ27A及び27Bの位置を変更することによっても、フィルム10の幅方向の延伸倍率を調整することができる。例えば、延伸フィルム製造装置1Aでは、第3搬送ローラ27A及び27Bを上下方向に移動することによって、フィルム10の幅方向の延伸倍率を調整することができる。図3及び図4に示すように、第3搬送ローラ27A及び27Bを上位置に移動させたときには、フィルム10の延伸区間の搬送方向前端部における第1ワイヤ24Aと第2ワイヤ24Bとの間の距離が小さくなるため、延伸後のフィルム10の幅方向の長さが小さくなる。図5及び図6に示すように、第3搬送ローラ27A及び27Bを最上位置に移動させたときには、フィルム10の延伸区間の前端部における第1ワイヤ24Aと第2ワイヤ24Bとの間の距離がさらに小さくなるため、フィルム10の幅方向の長さがさらに小さくなる。図7及び図8に示すように、第3搬送ローラ27A及び27Bを最下位置に移動させたときには、フィルム10の延伸区間の前端部における第1ワイヤ24Aと第2ワイヤ24Bとの間の距離が大きくなるので、フィルム10の幅方向の長さが大きくなる。
【0026】
なお、搬送ローラの位置の変更によってフィルム10の幅方向の延伸倍率を調整する方法は、第3搬送ローラ27A及び27Bの移動に限定されるものではない。例えば、図10に示す延伸フィルム製造装置1Bのように、第3搬送ローラ27A及び27Bを設けないで、第2搬送ローラ26A及び26Bを前後方向に移動させることによって、フィルム10の幅方向の延伸倍率を調整するようにしてもよい。図10では、第2搬送ローラ26A及び26Bが前方に位置しているため、フィルム10の延伸区間の前端部における第1ワイヤ24Aと第2ワイヤ24Bとの間の距離が小さくなるため、フィルム10の幅方向の長さが小さくなる。なお、図11に示すように、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bを上下方向に移動させることによって、フィルム10の幅方向の延伸倍率を調整するようにしてもよい。図11では、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bがより上方に位置しているため、フィルム10の延伸区間が拡大し、延伸後のフィルム10の幅方向の長さが大きくなる。
【0027】
第2押圧ローラ33は、第3搬送ローラ27A及び27Bの搬送方向前方側に配置されている。第2押圧ローラ33は、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bから繰り出されたフィルム10の上面に接触する位置に配置され、フィルム10を下方に押圧するための部材である。第2押圧ローラ33は、上下方向に移動自在かつ上下方向の任意の位置で固定できるように構成されている。第2押圧ローラ33の下端は、送出ローラ34の上端より下方に位置しており、フィルム10に張力を付与している。
【0028】
送出ローラ34は、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bから繰り出されたフィルム10を搬送方向に繰り出すための部材である。送出ローラ34は、右側の側面から見て時計回りに回転する。送出ローラ34の上方には、フィルム10の両側端部を切断するフィルム切断装置30が配置されている。
【0029】
フィルム切断装置30は、フィルム10の幅が所定の長さになるように、フィルム10の両側端部を切断するための装置である。フィルム切断装置30は、例えば、2つの回転するカッターによりフィルム10の両側端部を切断する汎用のロータリシートカッターである。
【0030】
第3押圧ローラ35は、送出ローラ34の搬出方向前方側に配置されている。第3押圧ローラ35は、送出ローラ34から繰り出されたフィルム10の上面に接触する位置に配置され、フィルム10を下方に押圧するための部材である。第3押圧ローラ35は、上下方向に移動自在かつ上下方向の任意の位置で固定できるようになっている。第3押圧ローラ35の下端は、巻取ローラ36の上端より下方に位置しており、フィルム10に張力を付与している。
【0031】
巻取ローラ36は、送出ローラ34から繰り出されたフィルム10を外周部に巻き取るための部材である。巻取ローラ36は、右側の側面から見て時計回りに回転する。フィルム10は、巻取ローラ36の上部から巻き取られる。
【0032】
延伸フィルム製造装置1Aは、フィルム10の搬送方向に所定の張力を作用させることによって、フィルム10の搬送方向の延伸倍率を調整できるようにしてもよい。例えば、供給ローラ31と第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bとの間のフィルム10の搬送速度と、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bと巻取ローラ36との間のフィルム10の搬送速度とを異ならせることによって、フィルム10の搬送方向の延伸倍率を調整するようにしてもよい。
【0033】
延伸フィルム製造装置1Aは、供給ローラ31と第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bとの間において、及び/又は、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bと巻取ローラ36との間において、フィルム10を加熱又は乾燥するヒータをさらに含んでいてもよい。あるいは、延伸フィルム製造装置1A全体を、例えば、乾燥炉の内部に配置してもよい。
【0034】
本実施形態の以上の構成によれば、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bは第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bの無限軌道の内周に沿って配置されているので、第1延伸ディスク23A及び第2延伸ディスク23Bの外周部と、第1搬送ローラ25A及び25B、第2搬送ローラ26A及び26B、第3搬送ローラ27A及び27Bの外周部とでフィルム10が挟持されることがなくなり、その結果、延伸ムラの解消に有効な第1ワイヤ24A及び第2ワイヤ24Bを用いながらも、フィルム10への部分的な応力集中が生じることがなくなる。したがって、延伸ムラを抑制しつつ、フィルム10の延伸区間においてフィルム10の搬送方向に均一な力を加えながらフィルム10を延伸することができる。
【0035】
本実施形態の以上の構成によれば、搬送ローラ及び/又は延伸ディスクの位置を変更することによってフィルムの幅方向の延伸倍率を調整する倍率調整工程を実施することができる。フィルムは、倍率調整工程により調整された延伸倍率によって延伸工程において延伸される。また、本実施形態の以上の構成は、搬送ローラ及び/又は延伸ディスクの位置を変更することによってフィルムの幅方向の延伸倍率を調整する倍率調整機構を備えている。この機構には、具体的には、例えば搬送ローラや延伸ディスクの回転中心となる軸の位置を移動させる公知の装置を用いることができる。ここで、搬送ローラ及び/又は延伸ディスクの位置の変更は、ローラやディスクの平行移動のみならず、これらの向き(姿勢)の変更(回転移動)、あるいはこれらの組み合わせによっても実施できる。
【実施例】
【0036】
PTFEファインパウダー(ポリフロン・ファインパウダー F106、ダイキン工業社製)100重量部に対して、押出助剤として炭化水素油(アイソパーM、エッソ石油株式会社製)20重量部を加え、得られた混合物を、ペースト状に押出してシートを得た。得られたシートを、金属製圧延ロール間に通して厚さ400μmに圧延し、圧延原反を得た。得られた圧延原反を、170℃の乾燥炉で乾燥し、PTFEシート(PTFEフィルム)を得た。得られたPTFEフィルムを、本実施形態の延伸フィルム製造装置1Aにて、搬送方向に延伸倍率1倍、幅方向に4.5倍で延伸し、200μmに延伸した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の延伸フィルムの製造方法及びその製造装置は、PTFEフィルム、PETフィルム、PIフィルム等の薄いフィルムの延伸に好適に使用できる。また、本発明の延伸フィルムの製造方法及びその製造装置は、従来の延伸フィルムの製造方法及びその製造装置と同様の用途に使用できる。
【符号の説明】
【0038】
1A,1B 延伸フィルム製造装置
10,110 フィルム
23A,23B 第1及び第2延伸ディスク
24A,24B 第1及び第2ワイヤ
25A,25B 第1搬送ローラ
26A,26B 第2搬送ローラ
27A,27B 第3搬送ローラ
28A,28B 第1及び第2溝部
29 テンション制御装置
30 フィルム切断装置
31 供給ローラ
32,33,35 第1〜第3押圧ローラ
34 送出ローラ
36 巻取ローラ
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