【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様の特徴とするところは、インナ軸部材の外周側にアウタ筒部材が配されて、それらインナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で径方向に連結された防振ブッシュを製造するに際して、前記アウタ筒部材において、軸方向両側部分で軸方向外方に向かって次第に小径になる一対の第一傾斜筒部と、該各第一傾斜筒部の軸方向端部から更に軸方向外方に向かって該第一傾斜筒部よりも小さな傾斜角度で延びる一対の第二傾斜筒部とを設けて、該アウタ筒部材を前記インナ軸部材の外周側に配して前記本体ゴム弾性体で連結せしめた後、該アウタ筒部材における該一対の第二傾斜筒部に絞り加工を施して傾斜角度を増大させ
て、該絞り加工後において該一対の第二傾斜筒部の傾斜角度を該一対の第一傾斜筒部の傾斜角度よりも小さい範囲内で設定すると共に、該絞り加工により該一対の第二傾斜筒部の傾斜角度を増大させることにより、
該本体ゴム弾性体の軸方向両端面に開口して設けた肉抜部の軸方向底面を該第一傾斜筒部よりも軸方向外方に位置せしめて該本体ゴム弾性体の軸方向端部に
圧縮変形を及ぼす防振ブッシュの製造方法にある。
【0010】
本態様の製造方法に従えば、本体ゴム弾性体の軸方向両端部分における軸方向外方への膨出変形に対して、アウタ筒部材の第一傾斜筒部が規制作用を発揮することにより、軸直角方向の荷重入力に際しての本体ゴム弾性体の変形が抑えられて硬いばね特性が発揮され得る。一方、かかる第一傾斜筒部は、こじり方向の荷重入力に際してのインナ軸部材に対する相対変位方向に傾斜しており、本体ゴム弾性体の弾性変形において圧縮成分に対する剪断成分を増大させ得て、柔らかいばね特性を実現せしめ得る。
【0011】
そのうえで、アウタ筒部材の第二傾斜筒部を、本体ゴム弾性体の加硫成形後に絞り加工することにより、本体ゴム弾性体の軸方向両端部分に対する予圧縮を一層細かく調節設定することができる。その際、本体ゴム弾性体の加硫成形等による固着前から傾斜形状とされた第一傾斜筒部による上述の如き軸直角方向の高ばね特性とこじり方向の低ばね特性を確保したうえで、本体ゴム弾性体の加硫成形等による固着後に第二傾斜筒部を絞り加工することにより、それらの特性の更なる向上と調節を精度良く図ることが可能になる。それ故、目標とする軸直角方向の高ばね特性とこじり方向の低ばね特性の両立に際して、予め傾斜形状とされた第一傾斜筒部が有効に作用することとなり、第二傾斜筒部を絞り加工で大きく縮径する必要もないことから、本体ゴム弾性体の成形後における第二傾斜筒部の縮径加工に起因した本体ゴム弾性体の軸方向端部における過大な歪や応力の発生を抑えることが可能になり、良好な耐久性も併せて得ることができるのである。
さらに、本態様の製造方法に従えば、第二傾斜筒部の絞り加工に伴って本体ゴム弾性体の軸方向端部に及ぼされる予圧縮を適切に抑えると共に、本体ゴム弾性体の軸方向端面の自由表面をある程度大きく設定することが可能になり、本体ゴム弾性体ひいては防振ブッシュの耐久性を一層効果的に確保することができる。
【0014】
本発明の第
二の態様は、前記第
一の態様に従う防振ブッシュの製造方法において、前記絞り加工に際して、前記一対の第一傾斜筒部の傾斜角度を維持しつつ、前記一対の第二傾斜筒部の傾斜角度を大きくするものである。
【0015】
本態様の製造方法に従えば、第一傾斜筒部に予め設定された傾斜角度によって発揮される軸直角方向のばね特性とこじり方向のばね特性との関係を維持しつつ、第二傾斜筒部の傾斜角度を変更設定することにより、軸直角方向のばね特性とこじり方向のばね特性との関係をより精度良く予測可能に調整することが可能になる。尤も、本態様では、第一傾斜筒部の傾斜角度を積極的に変更することなく実質的に維持されれば良く、例えば第二傾斜筒部の傾斜角度を変更設定するのに伴って第一傾斜角度に歪が及ぼされること等により、第一傾斜筒部の傾斜角度が僅かに変化することも、特性に悪影響が及ぼされない範囲で許容され得る。
【0016】
本発明の第
三の態様は、前記第一
又は第二の態様に従う防振ブッシュの製造方法であって、前記本体ゴム弾性体において軸方向両端面に開口する
前記肉抜部を設けて、該肉抜部の軸方向底面を、前記アウタ筒部材の絞り加工前において前記第一傾斜筒部の内周側に位置せしめるものである。
【0017】
本態様の製造方法に従えば、本体ゴム弾性体の軸方向端面における自由表面積を肉抜部により確保して、荷重入力時の最大歪を抑えることで耐久性の更なる向上を図ることが可能になる。また、アウタ筒部材の絞り加工前の状態で肉抜部の軸方向最深部を第一傾斜筒部の内周側に位置せしめたことにより、それ以上の深底とすることに伴う軸直角方向のばね定数の低下を回避しつつ、自由表面積を十分に確保して優れた耐久性を得ることが可能になる。
【0018】
本発明の第
四の態様は、前記第一〜
三の何れかの態様に従う防振ブッシュの製造方法であって、前記本体ゴム弾性体において軸方向両端面に開口する
前記肉抜部を設けて、前記絞り加工で前記本体ゴム弾性体に軸直角方向の圧縮変形を及ぼして軸方向両側に膨出変形させることにより、該肉抜部の軸方向底面を前記第二傾斜筒部の内周側に位置せしめるものである。
【0019】
本態様の製造方法に従えば、上述の第
三の態様と同様に、肉抜部による本体ゴム弾性体の耐久性の更なる向上と併せて、アウタ筒部材の絞り加工後の状態で肉抜部の軸方向最深部を第二傾斜筒部の内周側に位置せしめたことにより、軸直角方向のばね特性の確保と耐久性の向上とを、高度に両立して実現することが可能になる。なお、本態様では、アウタ筒部材の絞り加工前における肉抜部の軸方向底面位置を限定するものでなく、例えばアウタ筒部材の絞り加工前に第一傾斜筒部の内周側に位置せしめられていた肉抜部の軸方向底面位置が、アウタ筒部材の絞り加工に伴う本体ゴム弾性体の変形に伴って、第二傾斜筒部の内周側に変位して位置せしめられるものであっても良い。
【0020】
本発明の第
五の態様は、前記第一〜
四の何れかの態様に従う防振ブッシュの製造方法であって、前記アウタ筒部材の軸方向中央部分および前記一対の第一傾斜筒部に対しても絞り加工を施して縮径することにより前記本体ゴム弾性体に対して予圧縮を及ぼすものである。
【0021】
本体ゴム弾性体の成形後にアウタ筒部材を縮径することで、形成条件等によって本体ゴム弾性体に内在する引張応力を解消して軸直角方向ばね特性や耐久性の更なる向上を図ることも可能になる。
【0022】
本発明の第
六の態様は、前記第一〜
五の何れかの態様に従う防振ブッシュの製造方法であって、前記アウタ筒部材を前記インナ軸部材の外周側に配して前記本体ゴム弾性体で連結せしめる工程では、該本体ゴム弾性体の軸方向端部が該アウタ筒部材の軸方向開口に対して軸方向のアンダーカットを有しない構造とし、その後に前記第二傾斜筒部に絞り加工を施して傾斜角度を増大させることにより、該本体ゴム弾性体の軸方向端部において該アウタ筒部材の軸方向開口に対する軸方向のアンダーカットを設定するものである。
【0023】
本態様の製造方法に従えば、本体ゴム弾性体の成形時にはアンダーカットのない構造で容易な成形を実現しつつ、成形後のアウタ筒部材への絞り加工により、本体ゴム弾性体にアンダーカットを設定することで、製品たる防振ブッシュにおける本体ゴム弾性体の形状の設計自由度を大きくすることができる。例えば、本体ゴム弾性体の成形後に施されるアウタ筒部材への絞り加工で本体ゴム弾性体にアンダーカットを設定することにより、弾性変形時に応力や歪の発生し安い本体ゴム弾性体の端面の自由表面積を大きくして耐久性の更なる向上を図ること等も容易に実現可能となる。
【0024】
本発明の第
七の態様は、前記第一〜
六の何れかの態様に従う防振ブッシュの製造方法であって、前記インナ軸部材の外周面において、前記アウタ筒部材の軸方向中間部分に対して内周側に離隔位置する部分に突部を設け、該突部に対して前記本体ゴム弾性体の軸方向中間部分の内周面を固着せしめるものである。
【0025】
本態様の製造方法に従えば、インナ軸部材の突部により本体ゴム弾性体の軸方向中間部分の肉厚寸法を軸方向両側部分の肉厚寸法に比して相対的に小さく設定することが可能になる。その結果、こじり方向のばね定数に対して軸直角方向のばね定数を相対的に一層大きく設定することが可能になると共に、耐久性の確保と軸直角方向のばね定数の増大とをより高度に両立して設定することも可能になる。なお、インナ軸部材に設ける突部の形状は具体的に限定されるものでないが、例えば軸方向中央部分が両側部分よりも大きな突出高さとされた円弧状や台形状等の山形形状の如き断面形状とされて中央が膨らんだバルジ状の突部が好適に採用される。
【0026】
本発明の第
八の態様は、前記第一〜
七の何れかの態様に従う防振ブッシュの製造方法であって、前記インナ軸部材の外周面において、前記アウタ筒部材の前記第二傾斜筒部の先端部分に対して内周側に離隔位置する部分に凹所を設け、該凹所に対して前記本体ゴム弾性体の軸方向両端部分の内周面を固着せしめるものである。
【0027】
本態様の製造方法に従えば、こじり方向でのインナ軸部材とアウタ筒部材との相対変位に際しての歪が大きくなる本体ゴム弾性体の軸方向端部のゴムボリュームが、インナ軸部材の凹所によって有利に確保され得る。その結果、本体ゴム弾性体の耐久性の更なる向上が図られ得る。
【0028】
本発明の第
九の態様は、前記第一〜
八の何れかの態様に従う防振ブッシュの製造方法において、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材と前記本体ゴム弾性体を、中心軸回りの回転対称構造をもって形成するものである。
【0029】
本態様の製造方法に従えば、インナ軸部材やアウタ筒部材,本体ゴム弾性体の形状が簡略化されて製造が容易になるだけでなく、荷重入力時に本体ゴム弾性体に生ずる応力や歪が周方向で分散されて局所的な集中の軽減や回避が図られることにより、耐久性の更なる向上も実現可能となる。
【0030】
本発明の第
十の態様は、インナ軸部材の外周側にアウタ筒部材が配されて、それらインナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体で径方向に連結された防振ブッシュにおいて、前記アウタ筒部材には、軸方向両側部分で軸方向外方に向かって次第に小径になる一対の第一傾斜筒部と、該各第一傾斜筒部の軸方向端部から更に軸方向外方に向かって該第一傾斜筒部よりも小さな傾斜角度で延びる一対の第二傾斜筒部とが設けられていると共に、該アウタ筒部材の縮径により前記本体ゴム弾性体に予圧縮が及ぼされている一方、該本体ゴム弾性体において軸方向両端面に開口する肉抜部が設けられていると共に、該
肉抜部の軸方向底面が該第一傾斜筒部よりも軸方向外方に位置せしめられており、該本体ゴム弾性体の軸方向端部が該第二傾斜筒部によって圧縮変形されている防振ブッシュを特徴とする。
本発明の第十一の態様は、前記第十の態様に従う防振ブッシュにおいて、前記本体ゴム弾性体において軸方向両端面に開口する前記肉抜部が設けられていると共に、前記第二傾斜筒部の軸方向先端開口部に対して該本体ゴム弾性体に軸方向のアンダーカット部が設けられているものである。
【0031】
第十及び第十一の態様に従う構造とされた防振ブッシュでは、軸直角方向の荷重入力時における本体ゴム弾性体の軸方向外方への膨出変形に対して第一及び第二傾斜筒部が規制作用を発揮する一方、こじり方向の荷重入力時における本体ゴム弾性体の弾性変形に際して圧縮成分に対する剪断成分を増大させることにより、軸直角方向の硬いばね特性とこじり方向の柔らかいばね特性の両立が実現可能となる。
【0032】
特に、第一傾斜筒部より軸方向外方に位置する第二傾斜筒部において傾斜角度が小さくされて二段階の傾斜角度が設定されていることにより、本体ゴム弾性体の軸方向先端部分における過大な応力や歪の発生を回避して、良好な耐久性も併せて得ることが可能になる。
【0033】
加えて、
第十一の態様に従う構造とされた防振ブッシュでは、本体ゴム弾性体には、アウタ筒部材に対する軸方向のアンダーカット部が設けられていることにより、第一及び第二傾斜筒部の傾斜によりアウタ筒部材の軸方向開口部が小径とされていても本体ゴム弾性体の軸方向端面の自由表面を大きく設定することが出来ることから、第一及び第二傾斜筒部の傾斜設定に基づいて発揮される上述の如き軸直角方向の硬いばね特性とこじり方向の柔らかいばね特性との両立と共に、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が一層効果的に実現可能となる。