特許第6190647号(P6190647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190647
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】合成繊維ロープ
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/02 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   D07B1/02
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-148572(P2013-148572)
(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公開番号】特開2014-111851(P2014-111851A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2016年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-237477(P2012-237477)
(32)【優先日】2012年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595054213
【氏名又は名称】株式会社オルセン
(73)【特許権者】
【識別番号】595064887
【氏名又は名称】小浜製綱株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100080252
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 征四郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 悠三
(72)【発明者】
【氏名】木下 善裕
(72)【発明者】
【氏名】小阪 俊之
(72)【発明者】
【氏名】森本 崇介
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−053597(JP,U)
【文献】 特表2009−520659(JP,A)
【文献】 実公昭28−007685(JP,Y1)
【文献】 特開2002−038386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維の経糸と緯糸により織成された筒状織物と、
該筒状織物内に集束して拘束された、引き揃えられた複数の合成繊維の芯材と、
から成るストランドを複数本撚り合わせて、又は組み合わせて構成され
筒状織物の経糸と芯材がロープの長さ方向に沿って配置されている
ことを特徴とする合成繊維ロープ。
【請求項2】
請求項1に記載の合成繊維ロープにおいて、
前記合成繊維が、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ビニロン等のポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン系繊維から選択される1または複数の繊維の組み合わせであ
ことを特徴とする合成繊維ロープ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の合成繊維ロープにおいて、
上記筒状織物の一部の経糸を他の経糸とは異なる色にした識線を織り込
ことを特徴とする合成繊維ロープ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の合成繊維ロープにおいて、
外周面に、合成樹脂の薄膜、合成繊維の複数のヤーンを組紐構造に編み上げたもの、或いは上記筒状織物と同様の織物構造の被覆を施
ことを特徴とする合成繊維ロープ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の合成繊維ロープにおいて、
記ストランドをサーキュラー織機により製造す
ことを特徴とする合成繊維ロープ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の合成繊維ロープにおいて、
漁網用ロープまたは船舶繋留用ロープおよび海上又は海中構造物(魚礁又は石油リグ等)の固定の用途に使用され
ことを特徴とする合成繊維ロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維ロープ、特に複数本のストランドを撚り合わせて又は組み合わせて構成した合成繊維ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維ロープは、一般に複数本の原糸を1回もしくは2回の撚り工程を経てヤーン(撚糸)を製造して、このヤーンを複数本引き揃えながら撚りをかけて、ヤーンの集合体であるストランドを製造し、更に、このストランドを複数本撚り合わせる又は組み合わせることによって構成される。一般に、3本のストランドを撚り合わせて作られるロープを3つ打ち、8本のストランドを組み合わせるロープを8つ打ちと称し、12本、16本等の偶数本のストランドを組み合わせたロープもある。(特許文献1、2参照)
また、上記ストランドとして、多数の合成繊維を芯材として、これを組紐状に構成した筒状の外層により集束したものがあり、これらのストランドを撚り合わせたロープもある。(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−103870号公開公報
【特許文献2】特開2000−228931号公開公報
【特許文献3】実開平3−53597号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のロープは、ヤーンおよびストランドの撚りを重ねることにより構成されるので、ロープの伸び率は増加し、合成繊維が本来有する引張り強さを十分に生かすことができないだけでなく、ロープの称呼太さ(直径)が大きくなるに従って、ストランドを構成するヤーンの本数は増加し、複数本ヤーンの張力を合わせることが困難となり、合成繊維の本来有する引張強さの強力利用率は低下する等の問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、合成繊維の経糸と緯糸により構成された筒状織物と、該筒状織物内に集束された合成繊維束の芯材と、から成るストランドを複数本撚り合わせて又は組み合わせて構成したことを特徴とする合成繊維ロープを提供することにある。
【発明の効果】
【0006】
本発明の合成繊維ロープは、合成繊維の経糸と緯糸により構成された織物をストランドとし、これらを撚り合わせて又は組み合わせて構成されているので、下記の作用効果がある。
1)
筒状織物の経糸および芯材が、ロープの長手方向に配向されているので、高張力で伸び率の小さいロープを提供することができ、合成繊維の引張り強さの強力利用率を飛躍的に向上させることができると共に、使用される合成繊維の伸び率とほぼ同一の伸び率を確保することができる。
2)
筒状織物で芯材を拘束するため、ロープの形状を安定的に保ち易く、ロープリード(ストランドの1回の撚り程)を自由に設定することができる。
3)称呼太さ(直径)の大きいロープの製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の合成繊維ロープの実施例を示す構成説明図(A)およびその端面図(B)である。
図2図1に示すストランドの構成説明図である。
図3】サツマ加工によりロープの端部にループを形成した別の実施例の構成説明図である。
図4】被覆を施した合成繊維ロープの他の実施例の構成説明図である。
図5】試験データに基づくロープリードと強力利用率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の合成繊維ロープの実施例について、図面を参照しながら説明する。
図1において、1は合成繊維ロープであって、複数本(本実施例では12本)のストランド2を撚り合わせて構成されている。この撚り合わせに際して、各ストランド2は捻らないことが、伸び率を小さくするために好ましいが、本発明において捻りを排除するものではない。ストランドの捻りがはいらないよう、各ストランドの筒状織物のタテ糸の一部に色の異なる識線を入れてもよい。上記ストランド2の撚り合わせ本数は、本実施例の12本に限定するものではなく、水産分野、船舶分野、陸上分野等の用途や、使用する合成繊維の種類や太さ等に応じて適宜決定する。また、合成繊維ロープ1の中心部に合成繊維や金属線などから成る中心材を入れても良い。
【0009】
上記ストランド2は、図2から明らかなように、合成繊維の経糸と緯糸により構成された筒状織物3と、該筒状織物3内に集束された合成繊維束から成る芯材4と、から構成される。上記合成繊維としては、例えば、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ビニロン等のポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン系繊維が挙げられるが、高引張力に耐えられる強度や伸度の観点からポリエステル系繊維の他、超高分子量ポリエチレン、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、炭素繊維、金属線等の高強度であるが伸び率の少ない合成繊維が好ましい。また、上記筒状織物は、例えば、平織り、綾織り等、筒状に織成できる織組織を適宜選定すればよい。
【0010】
図3は、サツマ加工Sによりロープの端部にループRを形成した別の実施例を示すもので、従来の組紐構造のストランドに比べて、経糸と緯糸の織物組織の本発明ストランドは伸び難くて滑り難く、強固なループRを構成することができる。
【0011】
図4は、被覆5を施した合成繊維ロープの他の実施例を示すもので、該被覆5としては、合成樹脂の薄膜、合成繊維の複数のヤーンを組紐構造に編み上げたもの、或いは上記筒状織物と同様の織物構造のいずれであっても良い。
【0012】
(本発明の具体例)
次に、本発明の具体例について、表1を参照しながら説明する。
【0013】
【表1】
【0014】
上記表1では、原糸の合成繊維としてポリエステルフィラメント(1500d)を使用したストランドが8本の場合、実測引張り強さは345kN、強力利用率は69.4%であり、ストランドが12本の場合、実測引張り強さは534kN、強力利用率は71.7%であった。
【0015】
(既存技術例)
本発明の上記具体例に対して、既存技術例を表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
表2において、原糸の合成繊維としてポリエステルフィラメント(1500d)を使用したストランドが8本の場合、実測引張り強さは61.0(直径18mm)〜187(直径36mm)kN、強力利用率は40〜35.3%である。
【0018】
(既存技術と本発明技術の比較)
続いて、上記既存技術と本発明技術を比較して、本発明の利点について説明する。
【0019】
【表3】
【0020】
上記表3から明らかなように、新技術(本発明)の合成繊維ロープは、従来技術に比べて、同一呼称太さ(直径)が36mmで同一ストランド本数が8本において、強力利用率が2.12倍(69.4%/32.7%)であり、引張り強さが1.84倍と優れていることが証明された。また、新技術(本発明)の合成繊維ロープは、従来技術に比べて、同一呼称太さ(直径)において約8%の軽量化を図ることができることが分かった。
【0021】
本発明のストランドは、合成繊維の経糸と緯糸により構成された筒状織物と、該筒状織物内に集束された合成繊維束から成る芯材と、から構成されているため保形性が良い。従って、リードを長くしても実用性を失うことがない。
表4は、ロープリードの違いによるロープの破断強力および強力利用率の変化等の試験データを示すもので、ロープリードが、3.00、3.78、4.58、5.64および6.39の場合、破断強力(kN)は、それぞれ236、305、352、376および366であり、強力利用率(%)は、それぞれ46.3、59.8、69.0、73.7および71.8であった。上記ロープリードと強力利用率(%)の関係をグラフにしたものが、図5のグラフであって、ロープリードが5.6倍程度で強力利用率(%)が極大となることが判った。通常のストランドを用いた場合では、強力利用率は46.3%くらいであるので、データの73.7%は、かなり高い強力利用率である。

【0022】
ロープでは、本発明のようにロープリードを伸ばすとストランドの形状が保持されず、耐摩耗性が低下する等、実使用上問題となる場合がある。(よって、例えば、8つ打ちロープでは、JIS規格上、ロープリードは、3.5倍以下と定められている。)
一方、本発明では、筒状織物内に芯材を集束しているため、ストランドの形状を保持することができ、ロープリードを3.5倍超に伸ばすことができる。これにより、表4に示すように、ロープリードを最適化すれば、73.7%と高い強力利用率を得ることができる。
【0023】
【表4】
【0024】
経糸と緯糸により構成される筒状織物3の組織は、平織り、綾織り等、従来公知の組織のいずれでもよく、特に、綾織りは経糸の拘束が少なく、引っ張り強度が大きく、ストランドが柔軟になる利点がある。
【0025】
上記筒状織物3は、シャトル織機、ニードル織機あるいはサーキュラー織機のいずれで織成してもよい。
上記シャトル織機やニードル織機などの平織機は、交互に開閉運動をする経糸の間に、シャトルあるいはニードルで緯糸を通して平織物を織成し、該平織物の両端を別の糸で縫い合わせたり、ニードルの緯糸により縢ったりして、筒状に形成する。
【0026】
また、環状織機であるサーキュラー織機は、経糸は織機外周部から放射状に供給され、緯糸を円周方向に回転させながら進めて織成する織機であって、このサーキュラー織機で織成した場合、上記平織機で織成された筒状織物のように、綴じ耳部ができないので、筒状織物の円周方向の強度を上げることが可能となるだけでなく、次のような利点がある。すなわち、(1)綴じ耳部(凹凸)がないので筒状織物の組織が均一となり耐摩耗性が向上する。(2)綴じ耳部がないので全方向への曲がりが柔軟になり曲げクセがなくなる。(3)綴じ耳部がないのでストランドの長さ方向への伸度が揃い強度が向上する。(4)同程度の円周方向強度を目指した場合、緯糸の打ち込み本数を少なくすることができ、柔軟なストランドとすることができる。(5)緯糸打ち込み本数を少なくすることができるため、ロープ全体の繊維量に占める経糸の割合が増え、強力利用率が更に向上する。
【0027】
さらに、上記いずれの織機においても、筒状織物3の一部の経糸を他の経糸とは異なる色にした識線を織り込むことにより、ストランド2の捻れ具合を識別して、捻れの少ないストランド2を判別し易くなる利点がある。ストランドが捻れると強度が弱くなるから、捻れの少ないストランドが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の合成繊維ロープは、高張力で、合成繊維の伸び率とほぼ同等の伸び率を有し、従来のワイヤーロープが使用されていた水産分野、船舶分野あるいは陸上分野での代替用ロープとして利用可能性がある。
【符号の説明】
【0029】
1 合成繊維ロープ
2 ストランド
3 筒状織物
4 芯材
5 被覆
R ループ
S サツマ加工
図1
図2
図3
図4
図5