特許第6190648号(P6190648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190648
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4282 20120101AFI20170821BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20170821BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20170821BHJP
【FI】
   D04H1/4282
   D04H1/728
   D04H1/4382
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-148940(P2013-148940)
(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公開番号】特開2014-208918(P2014-208918A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-68424(P2013-68424)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−129534(JP,A)
【文献】 特開2009−248000(JP,A)
【文献】 特開2011−127262(JP,A)
【文献】 特開2001−276630(JP,A)
【文献】 特表2013−501163(JP,A)
【文献】 特開2011−153386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体とヒドロキシ基含有化合物において、50モル%を超えて存在している前記メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を主成分とし、前記ヒドロキシ基含有化合物で架橋した、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を含有する不織布であって、前記ヒドロキシ基含有化合物で架橋しているメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体は、官能基としてアミノ基を有する、不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布に関する。特に、別の官能基を生成することができる、官能基を導入するための足場不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
気体や液体などの流体中における不純物を除去又は回収するために、不織布が使用されている。特に、平均繊維径の小さい極細繊維を含む不織布は表面積が広いため流体との接触機会が多く、また、下流側への流出の心配がなく取り扱いやすい、というメリットがある。
【0003】
このようなフィルタ用途に使用できる極細繊維を含む不織布(繊維集合体)として、「ポリビニルアルコールと酸無水物基を有するポリマーとを主成分とする繊維集合体であって、酸無水物基を有するポリマーに含まれる反応性官能基のモル比が、ポリビニルアルコールの活性水素に対して0.02以上であり、該反応性官能基がポリビニルアルコールの活性水素と架橋反応することにより、酸無水物基を有するポリマーとポリビニルアルコールとが結合していることを特徴とする水不溶性ポリビニルアルコール繊維集合体。」(特許文献1)が提案されている。この繊維集合体においては、酸無水物基を有するポリマーの量が多くなると、繊維集合体を製造しにくく、水不溶性が低下することもあって、酸無水物基を有するポリマーの含有量はポリビニルアルコールの量と同量が上限である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この繊維集合体は耐水性に優れ、また、極細繊維からなるため、フィルタ性能等の性能に優れていると考えられるが、更にフィルタ性能等の性能を高めるために、官能基を導入しようとしても、官能基に関与できる酸無水物基がポリビニルアルコールとの架橋反応のために使用されていることから、十分に官能基を導入することができず、更なる性能を付与することが困難であった。
【0006】
本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、更なる性能を付与するために、官能基を導入できる不織布、特には、イオン交換機能を有する官能基を導入して、イオン交換性能に優れる不織布を製造することのできる不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体とヒドロキシ基含有化合物において、50モル%を超えて存在している前記メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を主成分とし、前記ヒドロキシ基含有化合物で架橋した、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を含有する不織布であって、前記ヒドロキシ基含有化合物で架橋しているメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体は、官能基としてアミノ基を有する、不織布。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1にかかる「メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体とヒドロキシ基含有化合物において、50モル%を超えて存在している前記メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を主成分とし、前記ヒドロキシ基含有化合物で架橋した、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を含有する不織布」は、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を主成分とする、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を含有する不織布であることによって、多くの官能基を導入できる足場として使用できる不織布である。つまり、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を主成分とし、官能基に関与できる酸無水物基が多いため、多くの官能基を導入できる、足場として使用できる不織布である。また、平均繊維径が2μm以下の極細繊維は表面積が広いため、共重合体の酸無水物基をより有効に利用して、官能基を導入することができる。更に、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体は、ヒドロキシ基含有化合物で架橋していることから、耐水性に優れ、実用的である。
そして、本発明の請求項1にかかる発明は、前記不織布におけるヒドロキシ基含有化合物で架橋しているメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体が、官能基としてアミノ基を有するため、陰イオン交換性能に優れた不織布を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の不織布は、酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体を主成分とし、ヒドロキシ基含有化合物で架橋した、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を含有している。本発明の極細繊維は酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体を主成分としているため、このモノマーに由来する酸無水物基により、イオン交換性能を発揮することができるし、酸無水物基に官能基を導入することにより、各種性能を付与することができる。例えば、イオン交換性能を有する官能基を導入することにより、イオン交換性能を付与することができる。
【0010】
この共重合成分である酸無水物基を有するモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、ジアクリル酸無水物、ジメタクリル酸無水物などを挙げることができ、共重合体として、スチレン/無水マレイン酸共重合体、オレフィン(例えば、イソブチレン、ブタジエン)/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、メタクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸系共重合体;ジアクリル酸無水物/スチレン共重合体などのジアクリル酸無水物系共重合体;ジメタクリル酸無水物/スチレン共重合体などのジメタクリル酸無水物系共重合体、などを挙げることができる。これらの中でも、無水マレイン酸系共重合体は紡糸性に優れているため好適である。
【0011】
なお、酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体が、2種類以上、併存していても良い。
【0012】
また、酸無水物基を有するモノマーと別の共重合成分とのモル比率は特に限定するものではないが、酸無水物基を有するモノマーがある程度存在していることによって、官能基を多く導入できるように、また、イオン交換容量が高いように、酸無水物基を有するモノマーを1モルとした時に、別の共重合成分は0.1〜5モルであるのが好ましく、0.1〜3モルであるのがより好ましく、0.2〜2モルであるのが更に好ましく、0.2〜1モルであるのが更に好ましい。
【0013】
更に、酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体の分子量は特に限定するものではないが、2万〜500万であるのが好ましく、5万〜400万であるのがより好ましく、10万〜300万であるのがより好ましい。
【0014】
本発明の極細繊維は上述のような共重合体を主成分とするものであるが、前記共重合体は耐水性に劣る傾向があり、実用性に乏しい傾向があるため、上述のような共重合体はヒドロキシ基含有化合物で架橋している。
【0015】
このヒドロキシ基含有化合物(架橋剤)として、例えば、ポリビニルアルコール、糖類(例えば、でんぷん)、フェノールなどの高分子量化合物、糖類(例えば、グルコース)などの低分子量化合物を挙げることができる。これらの中でも、高分子量化合物であるポリビニルアルコールは添加したとしても、共重合体の高い紡糸性を阻害しないため、好適である。
【0016】
また、ヒドロキシ基含有化合物による架橋は、高分子量化合物のみで架橋することができるし、低分子量化合物のみで架橋することができる。また、高分子量化合物と低分子量化合物を混ぜ合わせて架橋することもでき、高分子量化合物と低分子量化合物の割合は任意に設定することができるが、この場合、低分子量化合物の割合が多くなると、低分子量化合物が溶出して、均一な架橋が困難になることがあるため、低分子量化合物の添加量割合はヒドロキシ基含有化合物(架橋剤)全体の99mass%以下であるのが好ましく、95mass%以下であるのがより好ましく、90mass%以下であるのが更に好ましい。
【0017】
この好適であるポリビニルアルコールは、通常、ビニルアルコールから直接重合することができないため、酢酸ビニル重合体をけん化して調製する。100モル%けん化したポリビニルアルコール以外に、酢酸ビニルが残存する部分けん化ポリビニルアルコールも使用することができ、部分けん化ポリビニルアルコールのけん化の程度は、架橋しやすいように、50モル%以上であるのが好ましく、65モル%以上であるのがより好ましく、80モル%以上であるのが更に好ましい。なお、これらの範囲のけん化度を有する再酢化物であっても使用することができる。
【0018】
このポリビニルアルコールの平均重合度は、特に限定するものではないが、極細繊維の強度が優れているように200以上であるのが好ましく、300以上であるのがより好ましい。また、平均重合度が高すぎると、溶媒に対する溶解性が低下し、生産性に劣る場合があるため、30,000以下であるのが好ましく、20,000以下であるのがより好ましく、12,000以下であるのが更に好ましい。この「けん化度」、「平均重合度」ともに、JIS K6726に準じて測定した値をいう。なお、けん化度が約70モル%を下回る場合であっても、前記JIS規格に則って測定した値をいう。
【0019】
このように、本発明の極細繊維は共重合体以外にヒドロキシ基含有化合物を含んでいるが、共重合体は酸無水物基へ官能基を多く導入できるように、また、イオン交換性能に優れているように、極細繊維中、80mass%以上を占めているのが好ましい。なお、ヒドロキシ基含有化合物(架橋剤)は1mass%以上含んでいるのが好ましく、3mass%以上含んでいるのがより好ましい。一方で、ヒドロキシ基含有化合物(架橋剤)は共重合体の酸無水物基を少なくしないように、また、イオン交換性能を損なわないように、20mass%以下であるのが好ましい。
【0020】
前記の通り、本発明の極細繊維は酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体を主成分としているため、酸無水物基へ官能基を多く導入でき、また、イオン交換性能に優れている。別の表現をすれば、極細繊維中、共重合体は50モル%を超えて存在しており、好ましくは51モル%以上存在しており、より好ましくは55モル%以上存在しており、更に好ましくは60モル%以上存在している。前述の通り、ヒドロキシ基含有化合物を含んでいるため、極細繊維中、共重合体は90モル%以下であるのが好ましく85モル%以下であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の不織布を構成する極細繊維の平均繊維径は、表面積が広く、共重合体の酸無水物基をより有効に利用して、官能基を導入できるように、また、気体や液体などの流体との接触機会に恵まれるように、2μm以下である。平均繊維径が小さければ小さい程、表面積が広く、また、流体との接触機会が多くなるため、1μm以下であるのが好ましく、800nm以下であるのがより好ましく、600nm以下であるのが更に好ましく、400nm以下であるのが更に好ましく、200nm以下であるのが更に好ましく、150nm以下であるのが更に好ましい。一方で、平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、強度的に優れるように、1nm以上であるのが好ましい。また、本発明における「繊維径」は、不織布の平面における電子顕微鏡写真から測定して得られる繊維の直径を意味し、「平均繊維径」は50箇所の繊維径の算術平均値をいう。
【0022】
本発明の不織布を構成する極細繊維の繊維長は特に限定するものではないが、極細繊維が不織布から脱落しにくいように、0.1mm以上であるのが好ましい。特に、極細繊維が連続繊維であると、脱落防止性という点で好ましい。
【0023】
本発明の不織布は前述のような極細繊維を含有するものであるが、極細繊維が多い程、共重合体の酸無水物基の量が多く、多くの官能基を導入でき、また、イオン交換性能に優れているため、極細繊維は不織布中、50mass%以上含有されているのが好ましく、70mass%以上含有されているのがより好ましく、90mass%以上含有されているのが更に好ましく、100mass%極細繊維から構成されているのが最も好ましい。
【0024】
なお、極細繊維以外の繊維は平均繊維径が2μmを超える通常の繊維であることができ、例えば、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維(ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維など)、ポリウレタン繊維などの合成繊維を挙げることができる。或いは、極細繊維以外の繊維は、(1)平均繊維径が2μm以下の、酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体を主成分としない繊維、(2)平均繊維径が2μm以下の、酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体を主成分とするものの、架橋していないか、ヒドロキシ基含有化合物以外の架橋剤で架橋した繊維、であっても良い。
【0025】
本発明の不織布は前述のような極細繊維を含有するものであるが、官能基を導入しやすいように、多くの酸無水物基を含んでいるのが好ましい。具体的には、酸無水物基がイオン交換性能を発揮して、陽イオン交換容量は0.5meq/g以上であるのが好ましく、1.0meq/g以上であるのがより好ましく、1.5meq/g以上であるのが更に好ましい。
【0026】
なお、この「陽イオン交換容量」は、次のようにして得られる値をいう。
(1)不織布を5cm角の大きさに切り取って試験片を採取し、質量(M、単位:g)を測定する。
(2)試験片を10%硝酸水溶液に1時間浸漬した後、硝酸水溶液から引き上げ、純水で洗浄する。
(3)0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL秤量後、試験片を入れて1時間保持し、その後、試験片を取り出す。
(4)前記塩化ナトリウム水溶液にフェノールフタレイン液を1滴滴下した後、0.02mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下ビュレットで滴下して滴定を行い、液の赤色が消失した時を終点とし、終点までに要した水酸化ナトリウム量をb(mL)とする。
(5)一方で、0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液100mLに試験片を入れず、1時間保持した後に滴定を行うブランク試験も行い、終点までに要した水酸化ナトリウム量をc(mL)とする。
(6)このとき、次の式から算出される値を陽イオン交換能力(単位:meq/g)とする。
陽イオン交換能力=[(c−b)×0.02]/M
【0027】
本発明の不織布の目付(JIS L1085に準じて10cm×10cmとして測定した値)は特に限定するものではないが、0.1〜20g/mであるのが好ましく、0.5〜18g/mであるのが好ましく、1〜15g/mであるのがより好ましい。また、不織布の厚さは、5N荷重時の外側マイクロメーターを用いて測定した値(μm)で、2〜100μmであるのが好ましく、3〜80μmであるのがより好ましい。
【0028】
本発明の不織布は、例えば次のようにして製造することができる。
【0029】
まず、酸無水物基を有するモノマーを共重合成分とする共重合体を用意する。また、前記共重合体の架橋剤として、ヒドロキシ基含有化合物も用意する。前述の通り、共重合体としては、無水マレイン酸系共重合体が好ましく、架橋剤としては、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0030】
また、共重合体と架橋剤のいずれも溶解させることのできる溶媒を用意する。この溶媒は特に限定するものではないが、例えば、水、アルコール類、その他の有機溶媒を用いることができる。好適である無水マレイン酸系共重合体とポリビニルアルコールとを溶解させる場合、製造環境も考慮すると、水であるのが好ましい。
【0031】
そして、前記共重合体と架橋剤を溶媒に溶解させて、紡糸原液を調製する。なお、前記共重合体と架橋剤を溶媒に溶解させて紡糸原液を調製する場合には、前記共重合体と架橋剤は別々に溶媒に溶解させて、それぞれ溶解液とした後に、任意の割合で混ぜ合わせて、紡糸原液を調製するのが好ましい。前記共重合体と架橋剤とを同じ溶媒に混ぜ合わせて溶解させると、架橋反応が進み、紡糸原液がゲル化してしまい、紡糸が不安定になったり、均一な架橋が困難になる傾向があるためである。
【0032】
なお、前記共重合体と架橋剤とを溶解させる場合、共重合体と架橋剤との質量比率は80対20か、それよりも共重合体の方が多い質量比率で溶解させるのが好ましい。共重合体の量が多いことによって、酸無水物基が多く、多くの官能基を導入でき、また、イオン交換性能に優れているためである。なお、架橋剤の架橋作用を損なわないように、共重合体の質量比率は95%以下であるのが好ましい。
【0033】
別の表現をすれば、共重合体は50モル%を超えて配合し、好ましくは51モル%以上配合し、より好ましくは55モル%以上配合し、更に好ましくは60モル%以上配合する。架橋剤を含んでいるため、共重合体は90モル%以下配合するのが好ましく、85モル%以下配合するのがより好ましい。
【0034】
なお、紡糸原液における共重合体の濃度は共重合体が溶解できる濃度以下であれば良く、特に限定するものではないが、3〜30mass%であることができる。なお、平均繊維径がより細い極細繊維を製造するためには、3〜10mass%であるのが好ましい。
【0035】
次いで、前記紡糸原液を用いて繊維を紡糸する。この紡糸方法として、従来公知の紡糸方法を採用することができ、例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、遠心紡糸法、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような、ガスの剪断作用により紡糸する方法、或いは特開2011−32593号公報に開示されているような、電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法などによって紡糸し、紡糸した繊維を直接、ドラムやネット上に集積して、本発明の不織布とすることができる。これらの中でも静電紡糸法によれば、平均繊維径が細く(平均繊維が2μm以下)、繊維径が揃っており、しかも連続した繊維を紡糸しやすいため好適である。
【0036】
次いで、架橋処理を実施して、不織布を製造する。例えば、好適である無水マレイン酸系共重合体をポリビニルアルコールで架橋する場合、100〜200℃で加熱することによって、架橋させて不織布を製造する。100℃未満であると、無水マレイン酸系共重合体の酸無水物基とポリビニルアルコールの水酸基とのエステル化反応が十分に進行せず、架橋させているにもかかわらず耐水性に劣る傾向があるためで、120℃以上であるのがより好ましく、130℃以上であるのが更に好ましい。一方で、200℃を超えると、不織布に着色が生じたり、繊維の部分的な融着が生じたり、収縮が大きく、安定して不織布を製造できないため、190℃以下であるのが好ましく、180℃以下であるのが更に好ましい。なお、上記の温度は架橋前の不織布表面の温度であり、加熱する熱源の温度は200℃以上であってもよい。
【0037】
また、加熱時間は、十分に架橋が進行する時間であれば良く、特に限定するものではないが、1分以上であるのが好ましく、3分以上であるのがより好ましく、5分以上であるのが更に好ましい。他方、あまり長時間加熱しても架橋が進行しないため、1時間以内であるのが好ましく、45分以内であるのがより好ましい。
【0038】
なお、必要であれば、不織布が各種用途に適合するように、各種後処理を実施することができる。例えば、緻密化するためのカレンダー処理、親水処理、撥水処理、界面活性剤付着処理、純水洗浄処理などを実施することができる。
【0039】
本発明の不織布は酸無水物基の多いものであるため、各種官能基を導入して、各種性能を付与できる不織布である。例えば、不織布を、アミン化合物を含有する溶液中に浸漬することによって、アミノ基を導入することができる。前記アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジシアンジアミン、3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノー3,3−ジメチルブタン、γアミノ酪酸、2−アミノー2−メチルー1,3−プロパンジオールを挙げることができる。これらの中でも、エチレンジアミンは高い陰イオン交換容量を示すため好適である。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
参考例9〜11、比較例1〜3)
<紡糸原液の調製>
溶液A;メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(メチルビニルエーテル1モル:無水マレイン酸1モル、分子量:198万)を純水に溶解させ、濃度6wt%の溶液Aを調製した。
【0042】
溶液B;完全ケン化ポリビニルアルコール(平均重合度:1000)を純水に溶解させ、濃度6wt%の溶液Bを調製した。
【0043】
メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体と完全ケン化ポリビニルアルコールとのモル比が、表1で示すモル比となるように混合して、紡糸原液を調製した。
【0044】
<不織布の作製>
静電紡糸法により前記紡糸原液を紡糸した極細連続繊維を、ドラム上に集積させた後、温度140℃で30分間の熱処理を実施して、表1で示すような陽イオン交換容量を有する、表1に示すような平均繊維径を有する極細連続繊維のみからなる不織布(目付:5g/m、厚さ:25μm)を作製した。なお、静電紡糸条件は次の通りとした。
【0045】
・ノズルからの吐出量:0.5g/時間
・ノズル先端とドラムとの距離:8cm
・印加電圧:15kV
・紡糸空間内の温湿度:25℃/20%RH
【0046】
【表1】
#:(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体):(完全ケン化ポリビニルアルコール)のモル比
【0047】
表1から明らかなように、参考例9〜11の不織布は酸無水物基が多いため、陽イオン交換容量が2.5meq/g以上の陽イオン交換性能の優れるものであった。
【0048】
(官能基導入性の評価)
参考例9、比較例2の不織布を、エチレンジアミン溶液(シグマアルドリッチ製)を濃度1%に調整した水溶液中に1時間浸漬した後、100℃に設定したオーブンで1時間の加熱乾燥を行った。
【0049】
その後、各不織布の陰イオン交換容量を、次の操作により測定した。この結果は表2に示す通りであった。また、エチレンジアミン溶液に浸漬していない参考例9の不織布の陰イオン交換容量も測定し、この結果も表2に示した。
(1)各不織布を5cm角の大きさに切り取って試験片を採取し、質量(M1、単位:g)をそれぞれ測定する。
(2)0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL秤量後、試験片を塩化ナトリウム水溶液中に1時間浸漬した後、試験片を取り出す。
(3)前記塩化ナトリウム水溶液にメチルレッドメチレンブルー液を1滴滴下した後、0.02mol/Lの塩酸水溶液を滴下ビュレットで滴下して滴定を行い、液が赤色に変化した時を終点とし、終点までに要した塩酸量をb1(mL)とする。
(4)一方で、0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液100mL秤量後、試験片を塩化ナトリウム水溶液中に浸漬することなく、1時間保持した後に滴定を行うブランク試験を行い、終点までに要した塩酸量をc1(mL)とする。
(5)このとき、次の式から算出される値を陰イオン交換能力(単位:meq/g)とする。
陰イオン交換能力=[(c1−b1)×0.02]/M1
【0050】
【表2】
#:(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体):(完全ケン化ポリビニルアルコール)のモル比
【0051】
表2から明らかなように、参考例9の不織布をエチレンジアミン溶液中に浸漬することによって、実施例1の不織布に陰イオン交換能が確認された。これは、不織布の繊維表面または繊維中にアミノ基が導入されたためであると考えられた。
【0052】
参考例12〜13、参考例1〜7)
<紡糸原液の調製>
実施例1と同じ条件で作製した溶液Aと溶液Bとを、表3で示す質量比で混合して、紡糸原液を調製した。
【0053】
<不織布の作製>
静電紡糸法により、前記紡糸原液を紡糸した極細連続繊維をドラム上に集積させた後、温度140℃で30分間の熱処理を実施して、表3に示すような平均繊維径を有する極細連続繊維のみからなる不織布(目付:5g/m、厚さ:25μm)を作製した。なお、静電紡糸条件は次の通りとした。
【0054】
・ノズルからの吐出量:0.5g/時間
・ノズル先端とドラムとの距離:8cm
・印加電圧:15kV
・紡糸空間内の温湿度:25℃/25%RH
【0055】
【表3】
【0056】
(参考例8)
<紡糸原液の調製>
溶液C;メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(メチルビニルエーテル1モル:無水マレイン酸1モル、分子量:125万)を純水に溶解させ、濃度12wt%の溶液Cを調製した。
溶液D;完全ケン化ポリビニルアルコール(平均重合度:1000)を純水に溶解させ、濃度12wt%の溶液Dを調製した。
【0057】
溶液Cと溶液Dとを78:22の質量比(モル比=1:1)で混合し、固形分濃度が10wt%となるように、純水を加えて攪拌し、紡糸原液を調製した。
【0058】
<不織布の作製>
静電紡糸法により、前記紡糸原液を紡糸した極細連続繊維をドラム上に集積させた後、温度140℃で30分間の熱処理を実施して、極細連続繊維のみからなる、不織布(目付:5g/m、厚さ:25μm、平均繊維径:250nm)を作製した。なお、静電紡糸条件は次の通りとした。
【0059】
・ノズルからの吐出量:0.5g/時間
・ノズル先端とドラムとの距離:8cm
・印加電圧:15kV
・紡糸空間内の温湿度:25℃/25%RH
【産業上の利用可能性】
【0060】
参考例9〜13の不織布は酸無水物基が多く、陽イオン交換容量の高いものであり、また、耐水性に優れているため、水処理用途、有害物質の除去用途、有用物質の吸着用途、酸塩基の個体触媒用途、電子材料の分離精製用途、或いは医薬製薬成分の抽出、分離、精製用途に使用することができる。
【0061】
また、不織布は酸無水物基が多いため、この酸無水物基をもとに別の官能基を生成することができる。したがって、別の官能基を生成するための足場不織布として使用することもできる。例えば、酸無水物基が多いため、アミノ基と縮合反応させることにより、アミド基を生成することができる。また、ジアミン等を含有する溶液中に不織布を浸漬することによって、不織布表面にアミノ基を導入し、陰イオン交換性能を付与することもできる。このようにアミノ基を導入した本願発明の不織布は、上述のアミノ基導入前の酸無水物基が多い不織布と同様の用途に適用することができる。