特許第6190693号(P6190693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6190693-車両用液圧マスタシリンダ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190693
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】車両用液圧マスタシリンダ
(51)【国際特許分類】
   B60T 11/16 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   B60T11/16 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-220819(P2013-220819)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-81048(P2015-81048A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】オートリブ日信ブレーキシステムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】山木 勝人
(72)【発明者】
【氏名】東條 淳
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−072519(JP,A)
【文献】 実開昭55−068669(JP,U)
【文献】 特開2008−202717(JP,A)
【文献】 実開平01−068974(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを移動可能に収容する有底円筒状のシリンダ孔を備えたシリンダボディの底部に、作動液の吐出口が形成されると共に、前記シリンダボディに、シリンダ孔を加工する際に前記シリンダボディを固定するクランプ治具を嵌合させる嵌合孔を備えた車両用液圧マスタシリンダにおいて、
前記シリンダボディ底のシリンダ孔中心軸上に、前記シリンダ孔に連通する前記吐出口を備えた出力筒部が、前記シリンダ孔中心軸に対して傾いた状態で突設され、
前記出力筒部の外周面の前記シリンダ孔中心軸上、該シリンダ孔中心軸に直交する直交面が形成する肉盛り部が突設され、
前記直交面の前記シリンダ孔中心軸上に、前記嵌合孔が形成されている
ことを特徴とする車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記出力筒部の外周面に、前記クランプ治具を前記嵌合孔に嵌合する際に、前記クランプ治具との当接を避ける凹部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項3】
前記凹部は、前記シリンダ孔中心軸と前記出力筒部の中心軸とを通る断面形状において、前記シリンダ孔側に、前記直行面を備えると共に、前記出力筒部の先端側に、前記シリンダ孔中心軸と平行、又は、前記シリンダ孔中心軸よりも前記出力筒部の中心軸側に傾斜した出力筒部先端側面を備えていることを特徴とする請求項記載の車両用液圧マスタシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動四輪者及び自動二輪車を始め、各種車両に用いられる車両用液圧マスタシリンダに関し、詳しくは、シリンダボディに、シリンダ孔を加工する際にシリンダボディを固定するクランプ治具の嵌合孔を備えた車両用液圧マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用液圧マスタシリンダでは、シリンダボディの底壁外面に、クランプ治具を嵌合させる嵌合孔が形成されており、シリンダ孔を加工する際には、嵌合孔に嵌合させたクランプ治具でシリンダボディを固定させて、シリンダ孔の加工が行われていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−72519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シリンダボディの底部に、シリンダ孔に連通する吐出口を備えた出力筒部が、シリンダ孔の中心軸に対して傾いた状態で突設された液圧マスタシリンダでは、シリンダ孔を加工する際に、シリンダボディの底壁外面にクランプ治具を嵌合させてシリンダボディを固定することは困難であった。
【0005】
そこで本発明は、シリンダ孔に連通する吐出口を備えた出力筒部が、シリンダ孔の中心軸に対して傾いた状態で突設された液圧マスタシリンダを、シリンダ孔を加工する際にクランプ治具で良好に固定させることができる車両用液圧マスタシリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用液圧マスタシリンダは、ピストンを移動可能に収容する有底円筒状のシリンダ孔を備えたシリンダボディの底部に、作動液の吐出口が形成されると共に、前記シリンダボディに、シリンダ孔を加工する際に前記シリンダボディを固定するクランプ治具を嵌合させる嵌合孔を備えた車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記シリンダボディ底のシリンダ孔中心軸上に、前記シリンダ孔に連通する前記吐出口を備えた出力筒部が、前記シリンダ孔中心軸に対して傾いた状態で突設され、
前記出力筒部の外周面の前記シリンダ孔中心軸上、該シリンダ孔中心軸に直交する直交面が形成する肉盛り部が突設され、前記直交面の前記シリンダ孔中心軸上に、前記嵌合孔が形成されていることを特徴としている。
【0007】
らに、前記出力筒部の外周面に、前記嵌合孔に前記クランプ治具を嵌合する際に、該クランプ治具との当接を避ける凹部が形成されていると好適である。また、前記凹部は、前記シリンダ孔中心軸と前記出力筒部の中心軸とを通る断面形状において、前記シリンダ孔側に、前記直交面を備えると共に、前記出力筒部の先端側に、前記シリンダ孔中心軸と平行、又は、前記シリンダ孔中心軸よりも前記出力筒部の中心軸側に傾斜した出力筒部先端側面を備えていると好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用液圧マスタシリンダによれば、出力筒部の外周面に形成した嵌合孔にクランプ治具を嵌合させることにより、シリンダ孔を加工する際に、シリンダボディを良好に固定させることができる。また、シリンダボディの底壁外面に嵌合孔が形成された従来の車両用液圧マスタシリンダに用いられていたクランプ治具を共用することができることから、コストの削減化を図ることができる。
【0009】
さらに、出力筒部の外周面に肉盛り部が形成され、肉盛り部に嵌合孔が形成されることから、クランプ治具の力が掛かる部分の強度を確保することができる。また、出力筒部の外周面に、クランプ治具を嵌合孔に嵌合する際に、クランプ治具との当接を避ける凹部が形成されていることにより、クランプ治具を良好に嵌合させることができる。さらに、凹部は、シリンダ孔の中心軸と出力筒部の中心軸とを通る断面形状において、シリンダ孔側に、シリンダ孔の中心軸と直交する直交面を備え、出力筒部の先端側に、シリンダ孔の中心軸と平行、又は、シリンダ孔の中心軸よりも出力筒部の中心軸側に傾斜した出力筒部先端側面を備えていることから、出力筒部の強度を極力低下させることなく、クランプ治具との当接を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一形態例を示す車両用液圧マスタシリンダのシリンダボディの断面図である。
図2図3のII-II断面図である。
図3】本発明の一形態例を示すシリンダボディの平面図である。
図4】同じくシリンダボディの側面図である。
図5】同じくシリンダボディの要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至図4は本発明の車両用液圧マスタシリンダの一形態例を示す図である。この車両用液圧マスタシリンダ1は、シリンダボディ2の上部に作動液を貯留するリザーバ3が連結され、シリンダボディ2の内部には、有底のシリンダ孔4が一方を開口して設けられている。
【0012】
シリンダボディ2は、車体上部側壁に、液通孔となるリリーフポート2aとサプライポート2bとを備えたリザーバ取付部2cが突設されると共に、該リザーバ取付部2cの近傍のシリンダ孔開口側には、リザーバ3をシリンダボディ2に固定する固定部2dが突設されている。リザーバ取付部2cには、前記リリーフポート2aとサプライポート2bとが開口する嵌合凹部2eが形成され、該嵌合凹部2eにリザーバ3に形成された嵌合ボス部3aをシール部材6を介して嵌合させることにより、リリーフポート2aとサプライポート2bとを介して、リザーバ3とシリンダ孔4とが連通している。また、シリンダボディ2の底部側には、シリンダ孔4に連通する吐出口5を備えた出力筒部2fが、シリンダ孔4の中心軸CL1に対して下方に傾いた状態で突設されている。
【0013】
出力筒部2fの上方の外周面には、前記中心軸CL1よりも上方に突出する肉盛り部2gが形成され、該肉盛り部2gの吐出口開口側に、中心軸CL1に直交する直交面2hが形成されると共に、該直交面2hの中心軸CL1上に、シリンダ孔4を加工する際にシリンダボディ2を固定するクランプ治具7を嵌合させる嵌合孔2iが形成されている。また、出力筒部2fの外面には、嵌合孔2iにクランプ治具7を嵌合する際に、クランプ治具7との当接を避けるための凹部2jが形成されている。
【0014】
凹部2jは、図5に示されるように、シリンダ孔4側に形成される、前記嵌合孔2iを備えた直交面2hと、出力筒部2fの先端側に形成される、シリンダ孔4の中心軸CL1と平行な平行面2k(本発明の出力筒部先端側面)と、直交面2hと平行面2kとを連結し、出力筒部2fの中心軸CL2と平行な連結面2mとを備えている。
【0015】
シリンダ孔4に内挿されるピストン8は、シリンダ孔底部側とシリンダ孔開口側にカップシール9,10を嵌着する周溝8a,8bを有し、底部側の周溝8aに嵌着されるカップシール9とシリンダ孔4の底壁4aとの間に液圧室11が画成され、液圧室11と吐出口5とが連通している。液圧室11の、ピストン8とシリンダ孔4の底壁4aとの間にはリターンスプリング12が縮設され、ピストン8は、リターンスプリング12によってシリンダ孔開口側に付勢されている。シリンダ孔開口側には、クリップ装着溝2nが形成され、該クリップ装着溝2nに嵌着されるクリップ13によりピストン8の抜け止めが図られている。また、ピストン8のシリンダ孔開口側にはピストン作動子14が当接しており、ブレーキ操作子(図示せず)の操作に伴ってピストン作動子14がピストン8をシリンダ孔底部側に押し込み、カップシール9がリリーフポート2aを通過すると、液圧室11に液圧が発生し、昇圧した作動液が吐出口5を介して、該吐出口5に連結された液圧配管(図示せず)へ供給される。
【0016】
シリンダ孔4は、シリンダボディ2を鋳造した後、図2及び図3に示されるように、嵌合孔2iにクランプ治具7を嵌合させ、シリンダボディ2を固定した状態で切削加工される。このとき、嵌合孔2iが、出力筒部2fの肉盛り部2gに形成したシリンダ孔4の中心軸CL1に直交する直交面2hの中心軸CL1上に形成されていることから、クランプ治具7によってシリンダボディ2を確実に固定させることができる。また、出力筒部2fの外面には、クランプ治具7との当接を避けるための凹部2jが形成されていることから、クランプ治具7を嵌合孔2iに嵌合させる際に、クランプ治具7が出力筒部2fに当接することなく、嵌合孔2iに良好に嵌合させることができる。特に、本形態例では、シリンダ孔4の中心軸CL1に対して下方に傾いた出力筒部2fに、シリンダ孔4の中心軸CL1に直交する直交面2hと、中心軸CL1と平行に形成される平行面2kと、出力筒部2fの中心軸CL2と平行な連結面2mとを備えた凹部2jが形成されていることから、出力筒部2fの強度を極力低下させることなく、クランプ治具7との当接を避けることができる。さらに、嵌合孔2iは、出力筒部2fの外周面から突出する肉盛り部2gに形成されていることから、クランプ治具7の力が掛かる部分の強度を確保することができる。また、クランプ治具7は、シリンダ孔の底壁外面に嵌合孔が形成された従来の車両用液圧マスタシリンダに用いられていたクランプ治具を共用することができることから、コストの削減化を図ることができる。
【0017】
尚、本発明は上述の形態例に示した車両用液圧マスタシリンダに限らず、シリンダボディの底部に、シリンダ孔に連通する吐出口を備えた出力筒部が、シリンダ孔の中心軸に対して傾いた状態で突設されるものであれば、タンデムタイプのものやプランジャタイプのもの等、どのようなタイプの車両用液圧マスタシリンダにも適用することができる。さらに、出力筒部は、シリンダ孔の中心軸に対して、どのような角度で傾斜していても差し支えない。また、凹部の形状は、本形態例に限らず、シリンダ孔の中心軸に対する出力筒部の傾斜角度や、クランプ治具の形状に応じて任意の形状に形成すれば良く、円弧面や球面であっても良い。
【符号の説明】
【0018】
1…液圧マスタシリンダ、2…シリンダボディ、2a…リリーフポート、2b…サプライポート、2c…リザーバ取付部、2d…固定部、2e…嵌合凹部、2f…出力筒部、2g…肉盛り部、2h…直交面、2i…嵌合孔、2j…凹部、2k…平行面、2m…連結面、2n…クリップ装着溝、3…リザーバ、3a…嵌合ボス部、4…シリンダ孔、4a…底壁、5…吐出口、6…シール部材、7…クランプ治具、8…ピストン、8a,8b…周溝、9,10…カップシール、11…液圧室、12…リターンスプリング、13…クリップ、14…ピストン作動子
図1
図2
図3
図4
図5