(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190726
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】基板収納容器
(51)【国際特許分類】
H01L 21/673 20060101AFI20170821BHJP
B65D 85/86 20060101ALN20170821BHJP
【FI】
H01L21/68 T
!B65D85/38 R
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-6358(P2014-6358)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135881(P2015-135881A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勝彦
【審査官】
儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−199354(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/107254(WO,A1)
【文献】
特公平02−039867(JP,B2)
【文献】
特開平09−270459(JP,A)
【文献】
特開2005−320028(JP,A)
【文献】
特開2011−131940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/673
B65D 85/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に所定の加工が施された半導体ウェーハを収納する容器本体と、この容器本体の開口面に着脱自在に嵌合される蓋体とを備え、蓋体に、半導体ウェーハを支持するリテーナを装着した基板収納容器であって、
半導体ウェーハは、その表裏両面の周縁に先細りの斜面がそれぞれ形成されるとともに、この一対の斜面間に端面が一体形成され、表面側の斜面に酸化膜と金属薄膜とが積層形成されており、
リテーナは、蓋体に装着されて半導体ウェーハに対向可能な被装着部材と、この被装着部材に形成される保持部と、この保持部に形成されて半導体ウェーハの周縁部を嵌入保持する保持溝とを含み、保持溝を断面略V字形に形成してその各傾斜面を半導体ウェーハ用の接触領域と回避領域とに区画し、保持溝の接触領域を回避領域よりも谷底側に位置させるとともに、これら接触領域と回避領域のうち、少なくとも回避領域の傾斜角度を23.5°〜55°とし、保持溝の接触領域に半導体ウェーハの周縁部の斜面と端面との境界角部を線接触させるようにしたことを特徴とする基板収納容器。
【請求項2】
リテーナの保持溝を形成する一対の傾斜面の接触領域を半導体ウェーハの1/2の厚さの1.1〜2倍以下の半径で略円弧形に形成した請求項1記載の基板収納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの収納、保管、搬送、輸送等の際に使用される基板収納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の基板収納容器は、複数枚の半導体ウェーハ1を収納する容器本体と、この容器本体の開口した正面に圧入して嵌合される蓋体とを備えたフロントオープンボックスタイプに構成され、工程間を搬送されたり、工場間の輸送に供される(特許文献1、2、3、4、5参照)。
【0003】
各半導体ウェーハ1は、現在φ300mmのタイプが主流となっているが、φ200mmやそれ以下のサイズのものも使用されている。また、φ450mmのタイプの開発も進められている。このような半導体ウェーハ1は、表面2に様々な加工や処理が施される。この半導体ウェーハ1の周縁部3の形状は、端面の仕上げ加工により、幾つかの種類に分類される。
【0004】
例えば
図9に示すように、半導体ウェーハ1の表裏両面の周縁に先細りの斜面(べベルアングル部ともいう)4がそれぞれ形成され、この一対の斜面4の先端間に直線的な端面5が連結して一体形成されるタイプや半導体ウェーハ1の周縁から端面までが断面半円形に湾曲形成(フルR加工)されるタイプに分類される(
図10参照)。半導体ウェーハ1の周縁部3の斜面4についても、一定の傾斜角度で傾斜するのではなく、様々な傾斜角度で傾斜する。
【0005】
容器本体は、所定の樹脂により例えば、フロントオープンボックスに成形され、両側壁の内面に、蓋体が取り外されている場合に半導体ウェーハ1の周縁部両側を水平に支持する一対の支持片が対設されており、この一対の支持片が容器本体の上下方向に所定の間隔で配列されている。
【0006】
容器本体の両側壁の内面後方には、複数の支持片の後方に位置する一対のV溝が対設され、この一対のV溝が容器本体の上下方向に所定の間隔で配列されており、各V溝が上下方向に隣接する支持片と支持片との間に介在するよう切り欠かれている。複数のV溝は、容器本体に蓋体が嵌合された場合に、支持片から浮上した半導体ウェーハ1の周縁部両側を圧接支持するよう機能する。
【0007】
蓋体は、正面略矩形に形成され、裏面には、半導体ウェーハ1を支持する樹脂製のフロントリテーナが装着されており、このフロントリテーナの保持ブロック43に断面V字形の保持溝44Aが切り欠かれている。この保持ブロック43の保持溝44Aは、
図9や
図10に示すように、半導体ウェーハ1の輸送時の回転や回転に伴う発塵を抑制する観点から、一対の傾斜面45Aが半導体ウェーハ1の周縁部3の斜面4に整合するよう狭く窄んで形成されている。
【0008】
このような保持溝44Aは、容器本体に蓋体が嵌合された場合に、半導体ウェーハ1の周縁部前方に接触して嵌入挟持し、半導体ウェーハ1を容器本体の背面側方向に押圧して一対の支持片から浮上させ、容器本体のV溝と共に半導体ウェーハ1を支持するよう機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−4380号公報
【特許文献2】特開2011−222587号公報
【特許文献3】特開2009−124063号公報
【特許文献4】特許第4255261号
【特許文献5】特許第4667769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで近年、半導体ウェーハ1に加工される半導体チップ部品は益々微細化が進んでおり、半導体ウェーハ1には表面2の他、周縁部3にも所定の加工や処理が施されるので、基板収納容器に半導体ウェーハ1が収納される際、フロントリテーナによる接触痕が半導体ウェーハ1に生じないようにすることが求められる。また、半導体ウェーハ1がφ450mmのタイプに大口径化することで、安定的な保持には大きな保持力が必要となるが、この場合にも、フロントリテーナによる接触痕が半導体ウェーハ1に生じないようにすることが求められる。
【0011】
この点について詳しく説明すると、半導体ウェーハ1は、大部分の表面2の他、表面2側の周縁部3の斜面4にも半導体チップを製作するための酸化膜や金属薄膜が順次形成される。このため、半導体ウェーハ1の周縁部3は、均一な面になっていないと、酸化膜や金属薄膜が剥がれやすくなったり、微細なクラックが発生したりして半導体チップ部品の歩留まりを低下させてしまう要因となる。そこで、基板収納容器に半導体ウェーハ1を収納する場合には、フロントリテーナの保持ブロック43との接触に伴う接触痕(樹脂との接触痕)が半導体ウェーハ1に生じないようにすることが強く要望される。
【0012】
しかしながら、従来の基板収納容器に半導体ウェーハ1を単に収納すると、輸送時の振動等により、フロントリテーナの保持溝44Aに半導体ウェーハ1の周縁部3が回転して強く摺接し、その結果、半導体ウェーハ1の周縁部3に接触痕が発生するという問題が生じる場合がある。さらに、フロントリテーナの保持溝44Aに半導体ウェーハ1の周縁部3が強く摺接すると、フロントリテーナの保持溝44Aに半導体ウェーハ1の表面2側の周縁部3の斜面4も強く摺接するので、半導体ウェーハ1の周縁部3の表面近傍にも接触痕が残存することとなる。
【0013】
本発明は上記に鑑みなされたもので、半導体ウェーハの周縁部の形状にかかわらず、半導体ウェーハに接触痕が残存するのを抑制し、回転を抑制して半導体ウェーハを安定して保持することのできる基板収納容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては上記課題を解決するため、表面に所定の加工が施された半導体ウェーハを収納する容器本体と、この容器本体の開口面に着脱自在に嵌合される蓋体とを備え、蓋体に、半導体ウェーハを支持するリテーナを装着したものであって、
半導体ウェーハは、その表裏両面の周縁に先細りの斜面がそれぞれ形成されるとともに、この一対の斜面間に端面が一体形成され、
表面側の斜面に酸化膜と金属薄膜とが積層形成されており、
リテーナは、蓋体に装着されて半導体ウェーハに対向可能な被装着部材と、この被装着部材に形成される保持部と、この保持部に形成されて半導体ウェーハの周縁部を嵌入保持する保持溝とを含み、保持溝を断面略V字形に形成してその各傾斜面を半導体ウェーハ用の接触領域と回避領域とに区画し、保持溝の接触領域を回避領域よりも谷底側に位置させるとともに、これら接触領域と回避領域のうち、少なくとも回避領域の傾斜角度を23.5°〜55°とし、保持溝の接触領域に半導体ウェーハの周縁部の斜面と端面との境界角部を線接触させるようにしたことを特徴としている。
【0015】
なお、容器本体をフロントオープンボックスに形成し、この容器本体の両側壁の内面に、蓋体が取り外されている場合に半導体ウェーハの周縁部両側を略水平に支持する支持片をそれぞれ設けるとともに、容器本体の両側壁の内面には、容器本体に蓋体が嵌合された場合に支持片から浮上した半導体ウェーハの周縁部両側を支持するV溝をそれぞれ設け、この複数のV溝を複数の支持片の後方に位置させることができる。
【0016】
また、リテーナの保持溝を形成する一対の傾斜面の接触領域を半導体ウェーハの1/2の厚さの1.1〜2倍以下の半径で略円弧形に形成することもできる。
【0017】
ここで、特許請求の範囲における半導体ウェーハには、少なくともφ200mm、φ300mm、あるいはφ450mmのタイプが含まれる。容器本体は、透明、不透明、半透明のいずれでも良い。また、リテーナの保持溝の断面略V字形には、断面V字形やおおよそ断面V字形と認められる形が含まれる。したがって、保持溝の傾斜面は、一部湾曲したり、弧を描いていても良い。この傾斜面の接触領域と回避領域とは、必要に応じ、1:1、1:2、2:1等に区画することができる。
【0018】
本発明によれば、リテーナの保持溝の接触領域は、半導体ウェーハの周縁部に斜面や端面が形成されている場合には、半導体ウェーハの周縁部の斜面と端面との境界付近に線接触し、半導体ウェーハの周縁部の表面近傍に回避領域が接触するのを
規制する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、半導体ウェーハの周縁部の形状にかかわらず、半導体ウェーハに接触痕が残存するのを抑制し、半導体ウェーハの回転を抑制して半導体ウェーハを安定して保持することができるという効果がある。
具体的に説明すると、リテーナの保持溝の接触領域が半導体ウェーハの周縁部の斜面と端面との境界角部に線接触することにより、半導体ウェーハの周縁部を支持するので、半導体ウェーハの表面側の周縁部の斜面に保持溝の回避領域が接触することが少ない。したがって、半導体ウェーハの周縁部の表面側近傍に接触痕が生じ、半導体ウェーハにダメージが生じるのを低減することができる。また、半導体ウェーハがφ200mmやφ450mmのタイプであっても、本発明に係るリテーナの保持溝を使用すれば、同様の効果を得ることができる。また、保持溝の接触領域が面接触ではなく、線接触するので、輸送時の振動等により、半導体ウェーハの周縁部に接触痕が発生するのを低減することができる。また、接触痕の低減により、半導体ウェーハの周縁部を均一な面にすることができるので、酸化膜や金属薄膜の剥離や微細なクラックの発生を招くことが少なく、半導体チップ部品の歩留まり低下を防ぐことが可能になる。
【0020】
また、保持溝の傾斜面の少なくとも回避領域の傾斜角度が23.5°以上なので、例え半導体ウェーハの周縁部に斜面が形成されている場合にも、半導体ウェーハの表面側の周縁部斜面と保持溝の回避領域とを非接触にすることができる。また、傾斜面の少なくとも回避領域の傾斜角度を55°以下とするので、振動や衝撃等に伴う半導体ウェーハの回転を抑制することができる。
【0021】
請求項2記載の発明によれば、保持溝の接触領域を半導体ウェーハの1/2の厚さの1.1倍以上の半径で緩やかに弧に描くので、例え半導体ウェーハの周縁部に斜面が形成されている場合にも、保持溝の接触領域を半導体ウェーハの周縁部の斜面ではなく、斜面と端面との境界付近に線接触させることが可能になる。また、保持溝の接触領域を半導体ウェーハの1/2の厚さの2倍以下の半径で緩やかに弧に描くので、振動や衝撃に伴う半導体ウェーハの回転を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す全体斜視図である。
【
図2】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋体の裏面とフロントリテーナとを模式的に示す説明図である。
【
図3】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す縦断面説明図である。
【
図4】本発明に係る基板収納容器の実施形態における容器本体の支持片とV溝とを模式的に示す斜視説明図である。
【
図5】本発明に係る基板収納容器の実施形態におけるフロントリテーナの弾性片、保持ブロック、及び保持溝を模式的に示す斜視説明図である。
【
図6】本発明に係る基板収納容器の実施形態における半導体ウェーハと保持ブロックの保持溝との関係を模式的に示す断面説明図である。
【
図7】本発明に係る基板収納容器の実施形態における他のタイプの半導体ウェーハと保持ブロックの保持溝との関係を模式的に示す断面説明図である。
【
図8】本発明に係る基板収納容器の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【
図9】半導体ウェーハの周縁に先細りの斜面が形成され、この斜面の先端に端面が一体形成されたタイプを示す断面説明図である。
【
図10】半導体ウェーハの周縁部が断面半円形に湾曲形成されたタイプを示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における基板収納容器は、
図1ないし
図7に示すように、複数枚の半導体ウェーハ1を整列収納する容器本体10と、この容器本体10の開口した正面に圧入して嵌合される着脱自在の蓋体20と、容器本体10の正面に嵌合した蓋体20を施錠する施錠機構30と、蓋体20に装着されて複数枚の半導体ウェーハ1を支持するフロントリテーナ40とを備え、このフロントリテーナ40の保持溝44を断面略V字形に形成し、この保持溝44の接触領域46に半導体ウェーハ1の周縁部前方を線接触させるようにしている。
【0024】
各半導体ウェーハ1は、
図1、
図3、
図6、
図7に示すように、例えばφ300mmタイプのシリコンウェーハからなり、表面2に様々な加工や処理が施される。この半導体ウェーハ1は、従来例同様、(1)表裏両面の周縁に先細りの斜面4がそれぞれ形成され、この一対の斜面4の先端間に起立した直線的な端面5が連結して一体形成されるタイプ、(2)周縁から端面までが断面半円形に湾曲形成されるタイプに分類される。半導体ウェーハ1の表面2側の周縁部3の斜面4には、酸化膜と金属薄膜とが順次積層形成される。
【0025】
容器本体10、蓋体20、施錠機構30、及びフロントリテーナ40は、所要の樹脂を含有する成形材料により射出成形される。この成形材料に含まれる樹脂としては、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、液晶ポリマーといった熱可塑性樹脂やこれらのアロイ等があげられる。
【0026】
容器本体10は、
図1ないし
図3に示すように、所定の成形材料により正面の開口したフロントオープンボックスに成形され、両側壁11の内面に、蓋体20が取り外されている場合に半導体ウェーハ1の周縁部両側を水平に支持する左右一対の支持片12が対設される。この一対の支持片12は、容器本体10の上下方向に所定の間隔で配列され、各支持片12が容器本体10の前後方向に指向する長板に形成される。
【0027】
容器本体10の両側壁11の内面後方には
図3や
図4に示すように、複数の支持片12の後方に位置する左右一対のV溝13が対設され、この一対のV溝13が容器本体10の上下方向に所定の間隔で配列されており、各V溝13が上下方向に隣接する支持片12と支持片12との間に介在するよう断面V字形に切り欠かれる(
図3参照)。この複数のV溝13は、容器本体10に蓋体20が嵌合されない場合には、容器本体10に対する半導体ウェーハ1の過剰な挿入を規制し、容器本体10に蓋体20が嵌合された場合には、支持片12から浮上した半導体ウェーハ1の周縁部両側を圧接して支持する。
【0028】
容器本体10の底板における前後部の両側には取付孔がそれぞれ貫通して穿孔され、各取付孔に気体置換用のフィルタバルブ15が必要に応じて選択的に嵌着される。この複数のフィルタバルブ15は、エアやパージガス等の気体を内外に流通させることにより、基板収納容器の内外圧力差を解消するよう機能する。このようなフィルタバルブ15は、蓋体20に取り付けることもできる。
【0029】
容器本体10の天板中央部には、半導体製造工場の天井搬送機構に把持される搬送用のトップフランジ16が着脱自在に装着され、容器本体10の正面内周における上下の両側には、施錠機構30用の施錠穴17がそれぞれ穿孔される。また、容器本体10の両側壁11中央部には、握持操作用に機能するグリップ部18がそれぞれ着脱自在に装着され、両側壁11の下部には、搬送用のサイドレール19がそれぞれ水平に装着される。
【0030】
蓋体20は、
図1ないし
図3に示すように、容器本体10の開口した正面内に圧入して嵌合される蓋本体21と、この蓋本体21の開口した正面を被覆する表面プレート24と、容器本体10の正面内周と蓋本体21との間に介在される密封封止用のシールガスケット26とを備え、容器本体10の開口した正面内周に蓋本体21の周壁が接触する。
【0031】
蓋本体21は、基本的には底の浅い断面略皿形に形成され、内部に補強用や取付用のリブが複数配設されており、半導体ウェーハ1に対向する対向面である裏面の中央部付近には、半導体ウェーハ1との接触を回避するフロントリテーナ40用の凹部22が凹み形成される。また、蓋本体21の裏面周縁部には枠形の嵌合溝が凹み形成され、この嵌合溝内に、容器本体10の正面内周に圧接するシールガスケット26が密嵌されており、蓋本体21の周壁における上下の両側部には、容器本体10の施錠穴17に対向する施錠機構30用の出没孔23が貫通して穿孔される。
【0032】
表面プレート24は、横長の正面矩形に形成され、補強用や取付用のリブ、螺子孔等が複数配設される。この表面プレート24の両側部には、施錠機構30用の操作孔25がそれぞれ穿孔される。
【0033】
施錠機構30は、
図1に示すように、蓋体20の蓋本体21における左右両側部にそれぞれ軸支されて外部から回転操作される左右一対の回転プレート31と、各回転プレート31の回転に伴い蓋体20の上下方向にスライドする複数の進退動プレート33と、各進退動プレート33のスライドに伴い蓋本体21の出没孔23から出没して容器本体10の施錠穴17に接離する複数の施錠爪34とを備え、蓋本体21と表面プレート24との間に介在される。
【0034】
各回転プレート31は、蓋体20の表面プレート24の操作孔25に対向し、この操作孔25を貫通した蓋体開閉装置の操作キーにより回転操作される。この回転プレート31の周縁部付近には、湾曲した一対のカム溝32が所定の間隔をおいて切り欠かれ、各カム溝32に進退動プレート33の末端部の連結ピンがスライド可能に嵌入される。
【0035】
フロントリテーナ40は、
図1や
図2に示すように、蓋本体21の裏面の凹部22に装着されて半導体ウェーハ1に対向可能な縦長の枠体41と、この枠体41の複数の弾性片42にそれぞれ形成される複数の保持ブロック43と、各保持ブロック43に形成されて半導体ウェーハ1の周縁部前方を嵌入保持する保持溝44とを備えて一体形成される。枠体41の左右両側部には,内方向に屈曲しながら伸びる左右一対の弾性片42が対向して形成され、この一対の弾性片42が上下方向に所定の間隔で配列される。各弾性片42は、可撓性や弾性が付与され、先端部には
図5に示すように、保持ブロック43が一体形成される。
【0036】
保持溝44は、
図5ないし
図7に示すように、従来例よりも広い断面略V字形に拡開形成され、相対向する一対の傾斜面45が半導体ウェーハ1用の接触領域46と回避領域47とにそれぞれ区画される。この保持溝44の接触領域46は、隣接する回避領域47よりも谷底48側に位置し、半導体ウェーハ1の周縁部3と線接触することにより、開口側の回避領域47が半導体ウェーハ1の周縁部3と接触するのを規制する。
【0037】
保持溝44の傾斜面45を形成する接触領域46と回避領域47のうち、少なくとも回避領域47の傾斜角度θは、
図6や
図7に示すように、半導体ウェーハ1の周縁部3の斜面4(θ0)よりも大きい角度に設定することができる。例えば、半導体ウェーハ1の斜面4の傾斜角度が22.5°の場合、23.5°〜55°、好ましくは28°〜50°、より好ましくは32°〜45°の範囲に調整される。これは、傾斜面45の傾斜角度θが23.5°以上であれば、半導体ウェーハ1の周縁部3に斜面4が形成されていても、半導体ウェーハ1の表面2側の周縁部3の斜面4と保持溝44の回避領域47とが非接触になるからである。
【0038】
また、傾斜面45の傾斜角度θが55°以下であれば、輸送時の振動や衝撃に伴う半導体ウェーハ1の回転を効果的に防止することができるからである。以上の構成により、半導体ウェーハ1は、厚さ方向の中心線と表面2との中間部分で線接触して保持されることとなる。
【0039】
上記構成において、複数枚の半導体ウェーハ1を整列収納した容器本体10の開口した正面に蓋体20を圧入して嵌合すると、フロントリテーナ40の保持溝44が半導体ウェーハ1の周縁部前方に接触して嵌入挟持し、半導体ウェーハ1が容器本体10の背面側方向(
図6の右方向)に押圧され、半導体ウェーハ1の周縁部両側が容器本体10のV溝13の下部傾斜面14を摺り上がり始め、その後、半導体ウェーハ1の周縁部両側が容器本体10のV溝13の谷底で停止する。
【0040】
この際、保持溝44の接触領域46は、半導体ウェーハ1の周縁部3に斜面4や端面5が形成されている場合には、半導体ウェーハ1の周縁部3の斜面4ではなく、斜面4と端面5との境界角部に線接触し、半導体ウェーハ1の周縁部3を支持する(
図6参照)。また、半導体ウェーハ1の周縁部3が断面半円形に湾曲形成されている場合には、半導体ウェーハ1の周縁部3の表面近傍から離れた湾曲面に線接触し、半導体ウェーハ1の周縁部3を支持する(
図7参照)。すなわち、保持溝44の接触領域46は、半導体ウェーハ1の表面近傍から厚さ方向の中心線方向に移動して接触し、半導体ウェーハ1の周縁部3の表面近傍に回避領域47が接触するのを規制する。
【0041】
半導体ウェーハ1の周縁部両側が容器本体10のV溝13の谷底で停止すると、半導体ウェーハ1は、容器本体10のV溝13とフロントリテーナ40の保持溝44とにより、一対の支持片12から浮上した状態で支持される。
【0042】
これに対し、複数枚の半導体ウェーハ1を整列収納した容器本体10の正面から蓋体20を取り外すと、フロントリテーナ40の保持溝44が半導体ウェーハ1の周縁部前方から離隔し、半導体ウェーハ1が容器本体10の背面側から正面側方向に復帰し、半導体ウェーハ1の周縁部両側が容器本体10のV溝13の谷底から下部傾斜面14に案内されて滑落した後、半導体ウェーハ1の周縁部両側が容器本体10の一対の支持片表面に再度支持される。
【0043】
上記構成によれば、フロントリテーナ40の保持溝44の接触領域46が半導体ウェーハ1の周縁部3の斜面4と端面5との境界角部に線接触したり、半導体ウェーハ1の周縁部3の表面近傍から離れた湾曲面に線接触することにより、半導体ウェーハ1の周縁部3を支持するので、半導体ウェーハ1の表面2側の周縁部3の斜面4に保持溝44の回避領域47が接触することがない。したがって、半導体ウェーハ1の周縁部3の表面側近傍に接触痕が生じ、半導体ウェーハ1にダメージが生じるのを大幅に低減することができる。また、半導体ウェーハ1がφ200mmやφ450mmのタイプであっても、本発明に係るフロントリテーナ40の保持溝44を使用すれば、同様の効果を得ることができる。
【0044】
また、保持溝44の接触領域46が面接触ではなく、線接触するので、輸送時の振動等により、半導体ウェーハ1の周縁部3に接触痕が発生するのを著しく低減することができる。また、接触痕の低減により、半導体ウェーハ1の周縁部3を均一な面にすることができるので、酸化膜や金属薄膜の剥離や微細なクラックの発生を招くことが少なく、半導体チップ部品の歩留まり低下を防ぐことが可能になる。さらに、傾斜面45の傾斜角度θが55°以下なので、半導体ウェーハ1の回転防止が大いに期待できる。
【0045】
次に、
図8は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、保持溝44を形成する一対の傾斜面45の接触領域46を半導体ウェーハ1の1/2の厚さの1.1〜2倍以下の半径で断面略円弧形に形成するようにしている。
【0046】
半導体ウェーハ1の1/2の厚さの1.1〜2倍以下の半径とするのは、1.1倍以上の半径であれば、緩やかに弧を描く接触領域46を半導体ウェーハ1の周縁部3の斜面4ではなく、斜面4と端面5との境界角部に線接触させることができるからである。また、2倍以下の半径であれば、輸送時の振動や衝撃に伴う半導体ウェーハ1の回転を有効に防止することができるからである。
【0047】
傾斜面45の回避領域47の傾斜角度θは、半導体ウェーハ1の周縁部3の斜面4よりも大きい角度、具体的には、23.5°〜55°、好ましくは28°〜50°、より好ましくは32°〜45°の範囲に調整される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0048】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、保持溝44の接触領域46の多様化を図ることができるのは明らかである。
【0049】
なお、上記実施形態ではフロントリテーナ40の被装着部材として枠体41を示したが、何らこれに限定されるものではなく、例えば板材等でも良い。また、枠体41の左右両側部に複数本の弾性片42を並べて架設し、各弾性片42に複数の保持ブロック43を間隔をおいて形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る基板収納容器は、半導体ウェーハの製造分野等で使用される。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体ウェーハ
2 表面
3 周縁部
4 斜面
5 端面
10 容器本体
11 側壁
12 支持片
13 V溝
14 下部傾斜面
20 蓋体
30 施錠機構
40 フロントリテーナ
41 枠体(被装着部材)
42 弾性片
43 保持ブロック(保持部)
44 保持溝
45 傾斜面
46 接触領域
47 回避領域
48 谷底