【実施例】
【0084】
実施例の電子写真用部材について、図面を用いて具体的に説明する。
【0085】
(実施例1)
実施例1に係る電子写真用部材の概略構成を
図1〜
図3を用いて説明する。
図1、
図2に示すように、電子写真用部材Rは、電子写真装置に用いられるものである。本例の電子写真用部材は、具体的には、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれるロール状の導電性部材であり、現像部材としての現像ロールまたは帯電部材としての帯電ロールとして用いることができる。
【0086】
電子写真用部材Rは、ポリマー層1を有している。本例の電子写真用部材Rは、具体的には、芯金よりなる軸体2と、軸体2の外周面に沿って形成された導電性を有するゴム弾性体よりなる弾性層3とをさらに有している。但し、軸体2の両端部は、弾性層3の両端面から突出した状態とされている。そして、この弾性層3の外周面に沿ってポリマー層1が形成されている。
【0087】
電子写真用部材Rは、現像部材として用いる場合には、例えば、摺擦によりトナーを帯電させたり一定厚みのトナーを形成したりするためのブレード部材を、ポリマー層1表面に接触させた状態で使用することができる。また、電子写真用部材Rは、帯電部材として用いる場合には、例えば、用紙へトナー像を定着させる定着工程の後に表面に残存するトナーを除去するためのブレード部材を、ポリマー層1表面に接触させた状態で使用することができる。
【0088】
図3に模式的に示すように、ポリマー層1は、ポリマー層1の骨格を形成するマトリックスポリマー11と、マトリックスポリマー11中に添加された表面改質剤12とを有している。
【0089】
マトリックスポリマー11は、具体的には、熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとの混合ポリマーよりなる。表面改質剤12は、分子内にシリコーン基を有する第1化合物に基づく第1重合単位121、および/または、分子内にフッ素含有基を有する第2化合物に基づく第2重合単位122と、第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンとの塩からなる第3化合物に基づく第3重合単位123とを含む共重合体からなる。本例では、具体的には、表面改質剤12を構成する共重合体は、第1重合単位121と第2重合単位122と第3重合単位123とを含んでいる。
【0090】
本例では、第1化合物は、分子内にシリコーン基を有する(メタ)アクリレートである。第2化合物は、分子内にフッ素含有基を有する(メタ)アクリレートである。第3化合物は、(メタ)アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンとの塩からなる。
【0091】
また、上記疎水性アニオンは、具体的には、過塩素酸アニオン、ビス(フルオロアルカンスルホニル)イミドアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、および、ヘキサフルオロリン酸アニオンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0092】
表面改質剤12は、ポリマー層1の表面近傍に相対的に多く存在している。表面改質剤12は、100質量部のマトリックスポリマー11に対して0.01〜40質量部の範囲内で含有されている。なお、ポリマー層1には、導電性を付与するために電子導電剤が添加されている。
【0093】
(実施例2)
実施例2の電子写真用部材の概略構成を
図4、
図5を用いて説明する。
図4、
図5に示すように、電子写真用部材Bは、電子写真装置に用いられるものである。本例の電子写真用部材Bは、具体的には、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる無端ベルト状の導電性部材であり、転写部材としての中間転写ベルトとして用いることができる。
【0094】
電子写真用部材Bは、ポリマー層4を有している。本例の電子写真用部材Bは、具体的には、導電性を有する樹脂材料より形成された筒状の基層5をさらに有している。そして、この基層5の外周面に沿ってポリマー層4が形成されている。電子写真用部材Bは、例えば、用紙へトナー像を二次転写した後に表面に残存するトナーを除去するためのブレード部材を、ポリマー層5表面に接触させた状態で使用することができる。
【0095】
ポリマー層4は、図示はしないが、実施例1の
図3と同様に、マトリックスポリマー中に上記特定の表面改質剤が添加された構成を有している。
【0096】
マトリックスポリマーは、具体的にはゴムを主成分とする。したがって、ポリマー層4はゴム弾性を有している。表面改質剤については、実施例1と同様の構成であるので説明を省略する。なお、ポリマー層4には、導電性を付与するためにイオン導電剤が添加されている。
【0097】
以下、電子写真用部材の試料を作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
【0098】
<実験例>
<表面改質剤の準備>
先ず、ポリマー層のマトリックスポリマー中に添加する表面改質剤を合成するための原材料として、以下の化合物を準備した。
【0099】
・アクリレート変性シリコーン化合物(信越化学工業社製、「X−22−174DX」)
なお、上記アクリレート変性シリコーン化合物は、上記式8にて示される化合物であり、式8中、R
1およびR
2はいずれもメチル基である。R
3は(CH
2)
3である。シリコーン基は、ジメチルシロキサン単位の繰り返しからなるポリジメチルシロキサン骨格を含んでおり、その重量平均分子量は、4200である。
・2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン工業社製、「R−1620」)
・ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)(KOHJIN社製)
・ヨウ化メチル(東京化成工業社製)
・過塩素酸カリウム(和光純薬工業社製)
・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(和光純薬工業社製)
・トリフルオロ酢酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
・テトラフルオロホウ酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
・ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(東京化成工業社製)
・メタクリル酸メチル(純正化学工業社製)
・ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)(重合開始剤)(和光純薬工業社製、「VE−73」)
【0100】
・アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとヨウ素アニオンとの塩(1)
1Lの反応フラスコに、DMAPAA 156g(1000mmol)、ヨウ化メチル170g(1200mmol)とメタノール1000gとを仕込み、窒素雰囲気下、内液の温度30℃にて6時間撹拌した。その後、溶媒および余ったヨウ化メチルを減圧留去した。これにより、下式15に示される、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとヨウ素アニオンとの塩(1)を得た。なお、ヨウ素アニオンは、親水性アニオンの一つである。
【0101】
【化15】
【0102】
・アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと過塩素酸アニオンとの塩(2)
200mLの反応フラスコに、上記塩(1)を29.8g(100mmol)と、過塩素酸カリウム16.6g(120mmol)と、メチルイソブチルケトン(MIBK)100gとを仕込み、窒素雰囲気下、内液の温度30℃にて6時間撹拌した。その後、純粋100mLを添加してヨウ化カリウムを抽出し、残った溶媒を減圧留去した。これにより、式16に示される、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと過塩素酸アニオンとの塩(2)を得た。
【0103】
【化16】
【0104】
・アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンとの塩(3)
200mLの反応フラスコに、上記塩(1)を29.8g(100mmol)と、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム34.5g(120mmol)と、MIBK100gとを仕込み、窒素雰囲気下、内液の温度30℃にて6時間撹拌した。その後、純粋100mLを添加してヨウ化カリウムを抽出し、残った溶媒を減圧留去した。これにより、式17に示される、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンとの塩(3)を得た。
【0105】
【化17】
【0106】
・アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとトリフルオロ酢酸アニオンとの塩(4)
200mLの反応フラスコに、上記塩(1)を29.8g(100mmol)と、トリフルオロ酢酸ナトリウム16.3g(120mmol)と、MIBK100gとを仕込み、窒素雰囲気下、内液の温度30℃にて6時間撹拌した。その後、純粋100mLを添加してヨウ化カリウムを抽出し、残った溶媒を減圧留去した。これにより、式18に示される、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとトリフルオロ酢酸アニオンとの塩(4)を得た。
【0107】
【化18】
【0108】
・アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとテトラフルオロホウ酸アニオンとの塩(5)
200mLの反応フラスコに、上記塩(1)を29.8g(100mmol)と、テトラフルオロホウ酸ナトリウム13.2g(120mmol)と、MIBK100gとを仕込み、窒素雰囲気下、内液の温度30℃にて6時間撹拌した。その後、純粋100mLを添加してヨウ化カリウムを抽出し、残った溶媒を減圧留去した。これにより、式19に示される、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとテトラフルオロホウ酸アニオンとの塩(5)を得た。
【0109】
【化19】
【0110】
・アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとヘキサフルオロリン酸アニオンとの塩(6)
200mLの反応フラスコに、上記塩(1)を29.8g(100mmol)と、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム20.2g(120mmol)と、MIBK100gとを仕込み、窒素雰囲気下、内液の温度30℃にて6時間撹拌した。その後、純粋100mLを添加してヨウ化カリウムを抽出し、残った溶媒を減圧留去した。これにより、式20に示される、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンとヘキサフルオロリン酸アニオンとの塩(6)を得た。
【0111】
【化20】
【0112】
次に、各表面改質剤を以下のようにして準備した。
【0113】
・表面改質剤A
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル7.37g(73.64mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK14.38gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK26.64gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Aを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Aは、表1に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。この表面改質剤Aは、シリコーン・フッ素系の表面改質剤である。
【0114】
・表面改質剤B
100mLの反応フラスコに、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、DMAPAA 11.50g(73.64mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル0.04g(0.36mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK16.4gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK30.4gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Bを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Bは、表1に示される各化合物に基づく第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。この表面改質剤Bは、フッ素・アミン系の表面改質剤である。
【0115】
・表面改質剤C
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、DMAPAA 11.50g(73.64mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル1.30g(13mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK17.8gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK32.9gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Cを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Cは、表1に示される各化合物に基づく第1重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。この表面改質剤Cは、シリコーン・アミン系の表面改質剤である。
【0116】
・表面改質剤D
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、DMAPAA 11.50g(73.64mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK20.6gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK38.2gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Dを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Dは、表1に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。この表面改質剤Dは、シリコーン・フッ素・アミン系の表面改質剤である。
【0117】
・表面改質剤E
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、塩(1) 11.50g(38.57mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル3.51g(35.07mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK20.6gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK38.2gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Eを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Eは、表2に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。なお、この表面改質剤Eにおける第3重合単位の構成に用いた塩(1)は、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと親水性アニオンであるヨウ素アニオンとの塩である。
【0118】
・表面改質剤F
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、塩(2) 11.50g(42.49mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル3.12g(31.15mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK20.3gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK37.6gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Fを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Fは、表2に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。なお、この表面改質剤Fにおける第3重合単位の構成に用いた塩(2)は、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンである過塩素酸アニオンとの塩である。
【0119】
・表面改質剤G
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、塩(3) 11.50g(25.48mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル4.82g(48.16mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK21.7gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK40.2gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Gを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Gは、表2に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。なお、この表面改質剤Gにおける第3重合単位の構成に用いた塩(3)は、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンであるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンとの塩である。
【0120】
・表面改質剤H
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、塩(4) 11.50g(40.45mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル3.32g(33.19mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK20.5gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK37.9gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Hを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Hは、表2に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。なお、この表面改質剤Hにおける第3重合単位の構成に用いた塩(4)は、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンであるトリフルオロ酢酸アニオンとの塩である。
【0121】
・表面改質剤I
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、塩(5) 11.50g(44.56mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル2.91g(29.08mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK20.1gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK37.3gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Iを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Iは、表2に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。なお、この表面改質剤Iにおける第3重合単位の構成に用いた塩(5)は、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンであるテトラフルオロホウ酸アニオンとの塩である。
【0122】
・表面改質剤J
100mLの反応フラスコに、アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、塩(6) 11.50g(36.37mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、メタクリル酸メチル3.73g(37.27mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、MIBK20.8gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。次いで、MIBK38.5gを仕込み、固形分で30%の表面改質剤Jを含有する溶液を得た。
上記表面改質剤Jは、表2に示される各化合物に基づく第1重合単位と第2重合単位と第3重合単位と第4重合単位と第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体からなる。なお、この表面改質剤Iにおける第3重合単位の構成に用いた塩(6)は、アクリロイル基を有する第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンであるヘキサフルオロリン酸アニオンとの塩である。
【0123】
以下、上記表面改質剤の合成における各重合成分の仕込み量をまとめて表1、表2に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
<ポリマー層形成用材料の調製>
表3に示すように、熱可塑性ポリウレタン(日本ポリウレタン工業(株)製、「ニッポラン5199」)10質量部と、ポリエーテルジオール(3官能ポリプロピレングリコール)((株)ADEKA製、「アデカポリエーテルP−1000」)60質量部と、ポリイソシアネート(HDI型ブロックイソシアヌレート)(日本ポリウレタン工業(株)製、「コロネートL」)30質量部と、電子導電剤(カーボンブラック)(ライオン(株)製、「ケッチェンEC300J」)3質量部と、表3に示す所定の種類かつ所定の配合量の各表面改質剤とを、濃度20質量%となるようにMEKに溶解し、三本ロールを用いて十分に混合、分散させた。これにより、導電性ロール試料1〜10の作製に用いる各ポリマー層形成用材料を調製した。
【0127】
<導電性ロール試料の作製>
導電性シリコーンゴム(信越化学工業(株)製、「X−34−264A/B、混合質量比A/B=1/1」)をスタティックミキサーにて混合することにより、弾性層形成用材料を調製した。
【0128】
軸体として、直径6mmの中実円柱状の鉄棒を準備し、外周面に接着剤を塗布した。この軸体をロール成形用金型の中空空間にセットした後、上記調製した弾性層形成用材料を中空空間内に注入し、190℃で30分間加熱して硬化させ、脱型した。これにより、軸体の外周面に沿って導電性シリコーンゴムよりなるロール状の弾性層(厚み3mm)を形成した。
【0129】
次いで、上記弾性層の外周面に、ロールコート法により、上記調製した各ポリマー層形成用材料を塗工した後、120℃で45分間加熱して硬化させ、ポリマー層(厚み15μm)を形成した。これにより、上記弾性層の外周面に沿ってポリマー層としてのポリマー層を有する二層構造の導電性ロール試料1〜10を作製した。ポリマー層は、ポリマー層の骨格を形成する熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとの混合ポリマー中に、添加剤として表3に示す各表面改質剤を含有している。
【0130】
−滑り性−
静・動摩擦係数測定器(協和界面科学(株)製、「Triboster500」)のステージ上に固定した導電性ロール試料の表面、つまり、ポリマー層表面に、接触子(直径3mmの鋼球製)による垂直荷重W50gを加えた。この状態でステージを移動速度7.5mm/秒で水平方向に1cm移動させた。これにより導電性ロール試料と接触子との間に生じた摩擦力Fから、導電性ロール試料のポリマー層表面における初期の動摩擦係数μk(F/W)を算出した。
上記動摩擦係数μkが1.5以下であった場合を、ポリマー層表面の滑り性に優れるとして「A」とした。上記動摩擦係数μkが1.5以上2未満であった場合を、ポリマー層表面の滑り性が良好であるとして「B」とした。上記動摩擦係数μkが2超であった場合を、ポリマー層表面の摩擦力が大きく、滑り性に劣るとして「C」とした。
【0131】
−トナー離型性−
上記調製した各ポリマー層形成用材料を、上記ポリマー層形成時と同じ条件で加熱、硬化させ、シート状の各試験片(厚み15μm)を作製した。次いで、電子写真方式を採用するデジタルフルカラー複合機(富士ゼロックス(株)製、「DocuCentre−IV C2260」)のカートリッジのトナーを、各試験片の表面に定量散布した。次いで、このトナーを散布した各試験片を遠心分離機にセットし、12000Gを付加した後のトナーの残存量を画像処理にて評価した。画像中のトナーの残存面積が3割未満であった場合をトナー離型性に優れるとして「A」、画像中のトナーの残存面積が3割以上5割未満であった場合をトナー離型性を有するとして「B」、画像中のトナーの残存面積が5割超であった場合をトナー離型性を有さないとして「C」とした。
【0132】
−高温高湿環境下におけるトナー荷電性−
各導電性ロール試料を、現像ロールとして市販のカラープリンター(日本ヒューレット・パッカード社製、「Color Laser Jet Pro 400 Color M451dn」)に組み込み、32.5℃×85%RHの高温高湿環境下にてベタ画像を出力した。この出力時の初期段階において、現像ロールのポリマー層表面のトナー(スチレン−アクリル系トナー)を金属円筒管と円筒フィルターを用いて吸引収集し、その際、金属円筒管を通じてコンデンサーに蓄えられた荷電量の絶対値Q(μC)、吸引収集したトナーの全質量M(g)を測定した。そして、単位質量あたりのトナー荷電量Q/M(μC/g)を算出した。
高温高湿環境下においてトナーの荷電不足により発生するカブリ画像を抑制できる観点から、トナー荷電量Q/Mが18(μC/g)以上であった場合を、高温高湿環境下におけるトナー荷電性に優れるとして「A」とした。また、高温高湿環境下においてトナーの荷電不足によりカブリ画像が発生しやすくなる観点から、トナー荷電量Q/Mが12(μC/g)以上〜18(μC/g)未満であった場合を、トナー荷電性が劣るとして「B」とした。高温高湿環境下においてトナーの荷電不足によりカブリ画像が目視で明らかなほどに発生しやすくなる観点から、トナー荷電量Q/Mが12(μC/g)未満であった場合を、高温高湿環境下におけるトナー荷電性がさらに劣るとして「C」とした。
なお、吸引した面積A(cm
2)も併せて測定し、単位面積あたりのトナー搬送量M/A(mg/cm
2)も算出したところ、いずれの導電性ロール試料もトナー搬送量M/Aは0.5(mg/cm
2)程度であった。したがって、いずれも現像ロールとして機能するのに問題ないトナー搬送性を備えているといえる。
【0133】
以下、各導電性ロール試料の詳細な構成と評価結果をまとめて表3に示す。
【0134】
【表3】
【0135】
表3によれば、以下のことがわかる。
試料1の導電性ロールは、ポリマー層にシリコーン・フッ素系の表面改質剤Aが添加されている。表面改質剤Aは、第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンとの塩からなる第3化合物に基づく第3重合単位を有していない。そのため、試料1の導電性ロールは、高温高湿環境下におけるトナー荷電性を発揮することができなった。
【0136】
試料2の導電性ロールは、フッ素・アミン系の表面改質剤Bがポリマー層に添加されている。つまり、表面改質剤Bは、第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンとの塩からなる第3化合物に基づく第3重合単位を有しておらず、アミノ基によりトナー荷電性を得ようとするものである。そのため、試料2の導電性ロールは、高温高湿環境下において、周囲の水分とアミノ基との間で相互作用が生じ、トナー荷電性が低下した。また、表面改質剤Bは、シリコーン基を含む第1重合単位を有していないので、滑り性を発揮することができなった。
【0137】
試料3の導電性ロールは、シリコーン・アミン系の表面改質剤Cがポリマー層に添加されている。つまり、表面改質剤Cは、第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンとの塩からなる第3化合物に基づく第3重合単位を有しておらず、アミノ基によりトナー荷電性を得ようとするものである。そのため、試料3の導電性ロールは、高温高湿環境下において、周囲の水分とアミノ基との間で相互作用が生じ、トナー荷電性が低下した。また、表面改質剤Bは、フッ素含有基を含む第2重合単位を有していないので、トナー離型性を発揮することができなった。
【0138】
試料4の導電性ロールは、シリコーン・フッ素・アミン系の表面改質剤の表面改質剤Dがポリマー層に添加されている。つまり、表面改質剤Dは、第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンとの塩からなる第3化合物に基づく第3重合単位を有しておらず、アミノ基によりトナー荷電性を得ようとするものである。そのため、試料4の導電性ロールは、高温高湿環境下において、周囲の水分とアミノ基との間で相互作用が生じ、トナー荷電性が低下した。
【0139】
試料5の導電性ロールは、表面改質剤Eがポリマー層に添加されている。しかし、表面改質剤Eは、第3重合単位が、第4級アンモニウムカチオンと親水性アニオンであるヨウ素アニオンとの塩からなる第3化合物に基づいて構成されている。そのため、試料5の導電性ロールは、高温高湿環境下において、周囲の水分とアミノ基との間で相互作用が生じ、トナー荷電性が低下した。
【0140】
これらに対し、試料6〜試料10の導電性ロールは、いずれも、ポリマー層のマトリックスポリマー中に、分子内にシリコーン基を有する第1化合物に基づく第1重合単位と、分子内にフッ素含有基を有する第2化合物に基づく第2重合単位と、第4級アンモニウムカチオンと疎水性アニオンとの塩からなる第3化合物に基づく第3重合単位とを含む共重合体からなる表面改質剤F、G、H、I、Jのいずれかを含有している。
【0141】
そのため、試料6〜試料10の導電性ロールは、部材表面であるポリマー層表面の滑り性とトナー離型性と高温高湿環境下におけるトナー荷電性とを同時に発揮できることが確認された。
【0142】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。