(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、水性ボールペンインクには、書き味向上剤として慣用的にリン酸エステルが用いられてきている。
例えば、染料3〜10重量%、保湿湿潤剤10〜40重量%、架橋型アクリル酸重合体からなるチクソトロピック性付与剤0.6〜1.0重量%、リン酸エステル系界面活性剤などの防錆潤滑剤0.2〜2.0重量%、水残部とからなるペン体に直接供給する水性ボールペン用インク(例えば、特許文献1参照)や、必須成分として、水、及び着色剤として着色顔料を含み、さらにポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸モノエステルのアルカリ金属塩などのリン酸エステルと平均分子量200〜1000のポリエチレングリコールを含有してなるボールペン用水性インク組成物(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記文献1及び2に水性ボールペン用インクに用いるリン酸エステルは、しばしば超鋼製ボールの腐食を促進させたり、ボールホルダーの摩耗を引き起こす原因となることがわかっている。経験的には、HLBの高いタイプは腐食を促進させ、逆にHLBの低いタイプは摩耗が発生しやすい傾向があるなどの課題がある。
上記の課題等は、樹脂粒子を塩基性染料で染着した色材(蛍光顔料)を用いたインクにおいて発生しやすいことがわかっている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の水性ボールペン用インク組成物は、下記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルの少なくとも1種を含有することを特徴とするものである。
【化2】
【0010】
本発明に用いる上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルは、水性ボールペンにおけるボールの腐食の防止成分、並びに、ボールホルダーの摩耗を抑制する成分となるものであり、水性ボールペン用インク組成中に、上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルの少なくとも1種を含有することにより、初めて、本発明の効果を発揮せしめるものである。
【0011】
用いる上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルにおいて、式(I)及び(II)中、nは5〜20の数、Rは上述の如く、CH
3〜C
5H
11までのアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−プロピル基n−ペンチル基、i−ペンチル基など)であり、また、Rはメチル基、エチル基、n−プロピル基であることが望ましい。
なお、本発明において、上記nが5〜20の範囲外や、RがCH
3〜C
5H
11までのアルキル基の範囲外では、十分な発明の効果が得られず、好ましくない。
【0012】
用いる上記式(I)で示されるリン酸エステルは、リン酸ポリオキシアルキレンエステルのモノエステルであり、上記式(II)で示されるリン酸エステルはリン酸ポリオキシアルキレンエステルのジエステルである。
上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルは、既知の方法において製造することができ、例えば、一般式R−〔−O−CH(CH)
3−CH
2−〕
n−OHのアルコールをリン酸または五酸化リンによってエステル化することにより製造することができる。
また、エステル化の過程において形成された水を結合することができるポリリン酸を使用することも可能である。この製造方法では、一般的に、モノエステルとジエステルの混合物が生成され、その一方で、トリエステルは一般的に形成されない。
【0013】
本発明において、上記式(I)、(II)で示されるリン酸モノエステル、ジエステルの各単独又はこれらの混合物を使用することができる。好ましくは、上記式(I)で示されるリン酸モノエステルである。なお、当該反応混合物は、二次成分として、さらに、リン酸および/またはポリリン酸の残留物などが含むことがあるが、この種の二次成分などは、使用前に分離してもよい。
【0014】
具体的に用いることができる上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルとしては、上記製造法等により得られるモノエステル、ジエステルの少なくとも1種、または、これらの混合物が挙げられ、また、これらの市販品があれば、市販品を用いることができる。
【0015】
これらのリン酸エステルの合計含有量は、水性ボールペン用インク組成物全量に対して、好ましくは、0.01〜5質量%、更に好ましくは、0.05〜3質量%、特に好ましくは、0.1〜2質量%であることが望ましい。
この含有量が0.01質量%未満では、本発明の効果を発揮することができず、一方、5質量%を越えると、不溶解物が発生することがあり、好ましくない。
【0016】
本発明の水性ボールペン用インク組成物において、上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルの他、色材、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)、更に、水性ボールペン用に通常用いられる各成分、例えば、水溶性有機溶剤、粘度調整剤、分散剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、pH調整剤などを本発明の効果を損なわない範囲で、適宜含有することができる。
【0017】
本発明に用いる色材としては、水に溶解もしくは分散する染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂粒子を塩基性染料で染着した蛍光顔料などの樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料等を本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6−C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットB00B等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0018】
無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
これらの色材は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの色材の含有量は、水性ボールペン用インク組成物全量に対して、0.1〜40質量%に範囲で適宜調整することが可能である。
【0019】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、水性ボールペン用インク組成物全量に対して、好ましくは、3〜30質量%とすることが望ましい。
【0020】
用いることができる粘度調整剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレン−アクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0021】
分散剤としては、スチレン−マレイン酸共重合体及びその塩、スチレン−アクリル酸共重合体及びその塩、α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体及びその塩、ポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物などの少なくとも1種が挙げられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミン等のアミン化合物、アンモニア等が挙げられる。
【0022】
この水性ボールペン用インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルの少なくとも1種、色材の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0023】
本発明の水性ボールペン用インク組成物は、金属チップ、樹脂チップなどのペン先部を備えたボールペンに搭載して使用に供することができる。
用いることができる水性ボールペンは、上記組成となる水性ボールペン用インク組成物を搭載したものであり、好ましくは、金属ボール等を回転自在に抱持したボールペンチップを直接又は中継部材を介して挿着したパイプ又はパイプ形状の成形物等からなるインク収容管内に上記特性のインク組成物を充填し、かつ、該インク組成物後端面にインク追従体を配設してなる構成となるものが望ましい。インク追従体としては、インク収容管内に収容された水性ボールペン用インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性ボールペン用インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等が挙げられる。
なお、ボールペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の水性ボールペン用インク組成物を充填したコレクター構造(インキ保持機構)を備えた直液式のボールペンであってもよいものである。
【0024】
本発明で用いる上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルの少なくとも1種による効果は、本発明の効果を発揮せしめる持続効果が極めて優れているために多くの含有量が必要でなく、しかも、その効果の発現期間・持続時間も長く、更に水溶性であるために経時的な安定性にも優れたものとなる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1〜8及び比較例1〜4〕
下記に示す各リン酸エステル1〜3を用いると共に、下記表1に示す配合処方にしたがって、常法により各水性ボールペン用インク組成物を調製した。
得られた各水性ボールペン用インク組成物(全量100質量%)について、下記方法により水性ボールペンを作製し、下記腐食試験、摩耗試験を行い評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0027】
(実施例1〜8及び比較例1〜4で用いるリン酸エステル1〜3)
1) 実施例1及び6で用いたリン酸エステル1は、上記式(I)、(II)中のRがメチル基であり、n=18であるリン酸ポリオキシアルキレンエステルのモノエステル、ジエステルの混合物である。
2) 実施例2、4、5及び7で用いたリン酸エステル2は、上記式(I)、(II)中のRがエチル基であり、n=13であるリン酸ポリオキシアルキレンエステルのモノエステル、ジエステルの混合物である。
3) 実施例3及び8で用いたリン酸エステル3は、上記式(I)、(II)中のRがn−プロピル基であり、n=7であるリン酸ポリオキシアルキレンエステルのモノエステル、ジエステルの混合物である。
4) 比較例1及び4のリン酸エステルは、プライサーフA208F〔ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、HLB:8.7、第一工業製薬社製〕を用いた。
5) 比較例2及び3のリン酸エステルは、プライサーフA219B〔ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、HLB:16.2、第一工業製薬社製〕を用いた。
【0028】
(水性ボールペンの作製)
ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−151〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmのポリプロピレン製インク収容管とボールペンチップ(ホルダー:ステンレス製、ボール:超硬合金ボール、ボール径0.7mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各インクを充填し、インク後端にポリブテンからなるインク追従体を充填し、遠心処理(500G、5分)にて脱泡し、水性ボールペン(各5本)を作製した。
【0029】
〔腐食試験(ボール腐食)の評価方法〕
上記のようにして作製したボールペンを50℃、80%の恒温槽中に放置した。3ヶ月後、恒温槽からボールペンを取り出し、室温で1日放置した。次いで、この室温で1日放置したボールペンについて、ボール表面の観察行い、下記評価基準で評価した。
評価基準:
〇:良好な金属光沢を有し、全く腐食は見られない。
△:金属光沢は弱くなっていて、わずかに腐食が見られる。
△△:金属光沢は更に弱くなっていて、一部に腐食が見られる。
×:金属光沢はなく、金属表面全体に腐食が認められる。
【0030】
〔摩耗試験(ホルダー摩耗)の評価方法〕
機械筆記試験にて1000m(終筆)螺旋筆記させ、下記評価基準にて評価した。
筆記条件:100gf、筆記角度75度、筆記速度4.5mm/min
評価基準:
○:全て問題なく筆記可能。
△:カスレあるが終筆まで筆記可能。
×:著しく摩耗し全て途中で筆記不能。
【0031】
【表1】
【0032】
上記表1の結果を具体的にみると、比較例1〜4は、従来の水性ボールペン用インクに汎用されているリン酸エステルであり、HLBの低いタイプの比較例1及び4は摩耗が発生しており、また、HLBの高いタイプの比較例2及び3では、ボール腐食を発生していることが判る。
これに対して、本発明の上記式(I)及び(II)で示されるリン酸エステルを用いた実施例1〜8の組成では、比較例1〜4に見られる問題もなく、十分な潤滑性を有し、ボールの腐食や摩耗の発生がない水性ボールペン用インク組成物となることが判明した。