(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
評価したい劣化モードを複数選択し、各劣化モードについて前記状態評価工程を繰り返すことにより、前記評価対象のアンカーボルトの状態を評価することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンカーボルトの状態評価方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物などの基礎に装置機器類を据え付け、固定するに際して、接着系アンカーや金属系アンカーを使用することが行われている。具体的には、例えば、接着系アンカーの場合は、予めケミカル樹脂からなる接着剤組成物を基礎に設けられた挿入孔に挿入した後、アンカーボルトを埋込むことにより、ケミカル樹脂を化学反応により硬化させて、アンカーボルトを物理的に固着し、固定させる。
【0003】
また、金属系アンカーの場合は、拡張部を有するアンカーボルトを基礎に設けられた挿入孔に挿入した後、拡張部を拡張させることにより、アンカーボルトを基礎に機械的に固定させる。
【0004】
このような施工方法で固定されたアンカーボルトには、ケミカル樹脂量の不足や異物の混入、ボルトの緩み、ボルトの変形(曲がり等)、締付不足(打込み不足)、孔内清掃不足、撹拌不良、コンクリートの強度不足、コンクリートのひび割れなどによる施工不良が発生したり、ケミカル樹脂の劣化、剥離、コンクリートのひび割れ、ボルトの腐食減肉、ボルトの変形(曲がり等)、ボルトのき裂、ボルトの破断、ナットの緩み、コンクリート強度の劣化などによる経年劣化などが発生したりすることがあり、これらを放置すると構造物の安全性に問題が生じる恐れがある。
【0005】
そこで、構造物の安全性を確保する観点より、コンクリート構造物に埋設されて目視観測することができない部分においても、使用されているアンカーボルトの状態を非破壊で評価することが求められ、例えば、打音検査法や超音波検査法などの検査方法が用いられている(例えば特許文献1〜3)。
【0006】
打音検査法は、コンクリートの表面から露出しているアンカーボルトの頭部をハンマーで打撃し、その時にハンマーが発する打音とハンマーを通した打感との二つから、検査者が異常の有無を判定する手法である。また、ハンマーなどでの打撃によって発生した弾性波を解析することによりアンカーボルトの異常を判定することも行われている。
【0007】
超音波検査法は、露出しているアンカーボルトの頭部に超音波センサを設置し、アンカーボルトに加えられた超音波に基づくアンカーボルトからの反射信号に基づいて、アンカーボルトの腐食や傷などの欠陥を判定する手法であり、一般的に広く採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、アンカーボルトの状態を非破壊で定量的に精度高く評価することが求められている。しかしながら、従来の方法は定量的に評価する点において、未だ十分とは言えなかった。
【0010】
即ち、打音検査法の定量性は検査者の熟練度に大きく依存しているため、検査結果に対する信頼性が充分とは言えず、アンカーボルトの状態評価を非破壊で定量的に精度高く行うことが困難であった。また、検査環境(騒音環境やアンカーボルトの設置状況など)などによっては検査自体が困難となる恐れもあった。
【0011】
また、打撃によって発生した弾性波を解析する方法や超音波検査法は、検査者の熟練度に依存することなく、アンカーボルト自体の健全性を検査することはできるものの、施工不良や経年劣化などを定量的に評価することは困難であった。
【0012】
そこで、本発明は、接着系アンカーや金属系アンカーによって基礎に固定されたアンカーボルトの状態を非破壊で定量的に評価することができるアンカーボルトの状態評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、
接着系アンカーまたは金属系アンカーによって基礎に固定されたアンカーボルトの状態を評価するアンカーボルトの状態評価方法であって、
健全な状態のアンカーボルトと、劣化状態の複数のアンカーボルトの各々について、各アンカーボルトの状態に対応した複数の解析モデルを用いて固有値解析することにより、各アンカーボルトの状態に対応した固有周波数を取得すると共に、各アンカーボルトの状態を劣化モード毎に分類して、各アンカーボルトの状態評価データとして記憶させる状態評価データベース作成工程と、
健全な状態にあるアンカーボルトのモックアップに基づいて弾性波の応答信号を周波数解析することにより健全な状態のアンカーボルトの固有周波数を取得すると共に、評価対象のアンカーボルトの弾性波の応答信号を周波数解析することにより評価対象のアンカーボルトの固有周波数を取得して、
取得された2つの固有周波数を実測評価データとする実測評価データ取得工程と、
評価対象のアンカーボルトの評価したい劣化モードに対応する固有周波数を、前記状態評価データベース作成工程において記憶された状態評価データから抽出し、抽出された固有周波数と、前記実測評価データ取得工程において取得された実測評価データとに基づいて、前記評価対象のアンカーボルトの状態を評価する状態評価工程と
を備えていることを特徴とするアンカーボルトの状態評価方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、
前記解析モデルを、前記アンカーボルトを構成する材料の物性値に基づいて作成することを特徴とする請求項1に記載のアンカーボルトの状態評価方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
評価したい劣化モードを複数選択し、各劣化モードについて前記状態評価工程を繰り返すことにより、前記評価対象のアンカーボルトの状態を評価することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンカーボルトの状態評価方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、
前記評価データベース作成工程が、
アンカーボルトの状態を評価する指標として引抜き強度を設定し、
健全な状態のアンカーボルトと、劣化状態の複数のアンカーボルトの各々について、各アンカーボルトの引抜き強度に対応した複数の解析モデルを用いて固有値解析することにより、各アンカーボルトの引抜き強度に対応した固有周波数を取得すると共に、各アンカーボルトの引抜き強度を劣化モード毎に分類して、各アンカーボルトの状態評価データとして記憶させる工程である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアンカーボルトの状態評価方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、接着系アンカーや金属系アンカーによって基礎に固定されたアンカーボルトの状態を非破壊で定量的に評価することができるアンカーボルトの状態評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施の形態に係るアンカーボルトの状態評価方法について説明する。
【0020】
[1]第1の実施の形態(接着系アンカー)
最初に、第1の実施の形態として、接着系アンカーにおけるアンカーボルトの状態評価について説明する。
【0021】
1.アンカーボルトの状態評価方法の概要
図1は、本実施の形態に係る接着系アンカーのアンカーボルトの状態評価方法の概要を示すフロー図である。
【0022】
(1)状態評価データベース作成工程
図1に示すように、本実施の形態に係るアンカーボルトの状態評価方法は、状態評価データベースに基づいて評価対象のアンカーボルトの状態(健全性)を評価する方法である。この状態評価データベースは、以下に示す手順に従って予め作成され準備される。
【0023】
なお、既に状態評価データベースが作成されている場合には、本工程は不要となり、直接、次工程である実測評価データ取得工程に進む。
【0024】
(a)固有周波数の取得
先ず、アンカーボルトの状態(健全性)が異なる複数の解析モデルを作成し、それぞれの解析モデルにおける固有周波数を取得する。これらの解析モデルは、アンカーボルトを構成する各材料、即ち、コンクリート、ケミカル樹脂、ボルト、ナット、L型プレートなどの材料における物性値を適宜設定することにより作成する。このように物性値を適宜設定して解析モデルを作成することにより、健全な状態のアンカーボルトや所定の劣化状態(施工不良や経年劣化など)のアンカーボルトに模した解析モデルとすることができる。
【0025】
作成した解析モデルのそれぞれに対して有限要素法を用いて固有値解析することにより、解析モデル毎に固有周波数を取得する。これにより、様々な状態に対応したアンカーボルトの固有周波数を容易に取得することができる。
【0026】
(b)状態評価データベースの作成
次に、各アンカーボルトの状態を劣化モード毎に分類して、取得した各解析モデルにおける固有周波数のデータを、各アンカーボルトの状態評価データとして、劣化モード毎に記憶させることにより、状態評価データベースを作成する。即ち、状態評価データベースには、健全な状態にあるアンカーボルトの固有周波数の状態評価データや、施工不良や経年劣化などの様々な劣化モードに対応した状態評価データが記憶される。
【0027】
(2)実測評価データ取得工程
本工程においては、健全な状態のアンカーボルトのモックアップ(模型)の固有周波数と、評価対象のアンカーボルトの固有周波数とを、実測評価データとして取得する。
【0028】
(a)健全なモックアップの固有周波数の取得
最初に、評価対象と同一のアンカーボルトで健全な状態のアンカーボルトのモックアップ(模型)を作成し、このモックアップのアンカーボルトの頭部を打撃したときに生じる弾性波の応答信号をAEセンサや加速度センサなどを用いて計測する。次に、得られた応答信号を、例えばフーリエ解析することにより周波数情報を求め、その周波数情報におけるピーク周波数を健全な状態におけるアンカーボルトの固有周波数として取得する。
【0029】
(b)評価対象であるアンカーボルトの固有周波数の取得
次に、上記の健全な状態のモックアップの固有周波数の取得と同様の手順で、評価対象となるアンカーボルトの実機の固有周波数を取得する。
【0030】
(3)状態評価工程
本工程においては、上記により作成された状態評価データベースと、取得した実測評価データとに基づいて、評価対象のアンカーボルトの状態を評価する。
【0031】
(a)評価する劣化モードの選択
最初に、評価対象のアンカーボルトについて評価したい劣化モード(施工不良や経年劣化などの劣化状態)を、前記の通り作成された状態評価データベースから選択して、対応する固有周波数を抽出する。
【0032】
(b)状態評価データベースに基づいた状態評価
次に、上記で取得された健全な状態のモックアップにおける固有周波数と、評価対象である実機の固有周波数に基づいて、その変化の程度を求める。そして、得られた変化の程度と、選択された劣化モードにおける固有周波数とを比較する。これにより、評価対象のアンカーボルトの選択した劣化モードにおける劣化の進行度(健全性)を定量的に評価することができる。
【0033】
この後は、選択する劣化モードを変更して、その都度、上記と同様にして評価を行う。この評価の繰り返しにより、複数の劣化モードにおける評価対象のアンカーボルトの健全性が、それぞれ定量的に評価される。
【0034】
以上のように、本実施の形態によれば、特定の劣化モードの固有周波数が複数記録された状態評価データベースを予め作成し、健全な状態のアンカーボルトの固有周波数と評価対象となるアンカーボルトの固有周波数とを比較した結果に基づいて、特定の施工不良や経年劣化の状態について定量的に評価することができるため、評価したい劣化モードを複数選択し、各劣化モードについて状態評価工程を繰り返すことにより、複数の劣化モードにおけるアンカーボルトの健全性の状態を定量的に評価することができる。
【0035】
なお、本実施の形態において、状態評価データベースのパラメータとしてアンカーボルトの固有周波数に着目したのは、この固有周波数が対象とする振動系の自由振動における特有の振動であることによる。
【0036】
そして、状態評価データベースを予め作成しておくことにより、多種多様なモックアップを作成せずとも、健全なアンカーボルトのモックアップを一つ作成するだけで、評価対象となるアンカーボルトの状態(健全性)を定量的に評価することができる。
【0037】
2.アンカーボルトの状態評価方法の具体例
以下、本実施の形態に係るアンカーボルトの状態評価方法について、劣化モードとしてケミカル樹脂量の不足による施工不良を例に挙げて、具体的なデータを交えながら、さらに詳しく説明する。
【0038】
(1)状態評価データベースの準備
(a)解析モデルの作成
状態評価データベースを作成するための解析モデルとしては、例えば、
図2に示すような、コンクリート構造物の基礎10に設けられた挿入孔11にアンカーボルト1が挿入されてケミカル樹脂4に固定され、アンカーボルト1にL型プレート3が挟み込まれて、頭部1aにナット2が締めつけられた状態(ナット締付プレート付ボルト)を想定した解析モデルである。
【0039】
また、コンクリート構造物の基礎10に設けられた挿入孔11にアンカーボルト1が挿入されてケミカル樹脂4に固定されただけの状態(ボルトのみ)や、固定されたアンカーボルト1の頭部1aにナット2が締めつけられた状態(ナット締付ボルト)を想定した解析モデルも併せて作成する。そして、各々について、施工不良(ケミカル樹脂の樹脂量の不足、異物の混入)や、経年劣化(樹脂の劣化(機械的強度の低下や接着力の低下)、剥離、コンクリートのひび割れ、ボルトの腐食減肉)などの状態を模して複数の解析モデルを作成する。
【0040】
(b)状態評価データベースの作成
次に、上記で作成された各解析モデルについて、有限要素法を用いて固有値解析することにより、それぞれの固有周波数を取得して、状態評価データベースを作成する。表1に、この固有値解析により取得された固有周波数の一例を示す。
【0041】
なお、表1は、M16鉄製アンカーボルトの前記したナット締付プレート付ボルト、ボルトのみ、ナット締付ボルトのそれぞれの状態において、健全な状態にあるアンカーボルトにおける結果(健全)と、ケミカル樹脂の樹脂量が不足している施工不良における結果(欠陥)を記載している。そして、表1においては、物体が振動しやすい固有周波数を低い周波数から順に、17番目(step17)までを示している。
【0043】
上記の表1で得られた各固有周波数は、解析モデル全体の固有周波数であり、この結果には、打撃によるアンカーボルトの頭部の変形以外に基づいて発生した固有周波数も含まれているため、次に、これらの固有周波数の内から、アンカーボルトの頭部の変形が支配的となる固有モードを抽出する。抽出結果を表2に示す。
【0044】
なお、表2においては、表1と異なり、抽出された固有周波数に対応するstepは記載していない。これは、各解析モデルにおける状態(健全、欠陥等の状態)により、それぞれ、抽出したstepが異なっているためである。
【0046】
このように、欠陥の程度(上記では、ケミカル樹脂の樹脂量の不足の程度)を適宜変更した解析モデルについて、上記と同様に有限要素法により固有周波数を取得することにより、その欠陥による劣化モード(上記の場合では、「ケミカル樹脂量の不足による施工不良」)を対象とする状態評価データベースが作成される。
【0047】
(2)評価対象のアンカーボルトの状態評価
(a)モックアップ試験
次に、表3に示すように、適切なケミカル樹脂量である健全なアンカーボルトのモックアップ(健全なモックアップ)と、ケミカル樹脂量を変化させて施工不良を模した評価対象のアンカーボルトのモックアップ(評価対象例1〜3)を作成する。なお、ここでは、表1に示した「ボルトのみ」に対応したモックアップを作成している。
【0049】
そして、健全なモックアップにおける弾性波の応答信号をフーリエ解析することにより、周波数情報を求め、その周波数情報におけるピーク周波数を健全なアンカーボルトにおけるアンカーボルトの固有周波数とする。
【0050】
(b)評価対象のアンカーボルトの固有周波数の測定
ここでは、上記のモックアップ試験と同様の手順で、評価対象例1〜3のアンカーボルト(M16鉄製アンカーボルト)の固有周波数を取得した。
【0051】
次に、健全なモックアップおよび評価対象例1〜3において、フーリエ解析により得られたピーク周波数のうち、最も低い周波数のピーク周波数を1次モードの固有周波数(1次周波数)、2番目に低い周波数のピーク周波数を2次モードの固有周波数(2次周波数)とした。解析結果を表4に示す。
【0053】
(c)健全性の評価
健全なモックアップにおける固有周波数に対して、評価対象のアンカーボルトの固有周波数がどの程度変化しているかを確認し、その結果と状態評価データベースとに基づいて、特定の施工不良や経年劣化における劣化の程度を定量的に評価する。
【0054】
具体的には、表4中の健全なモックアップと評価対象例1〜3のモックアップとにおける1次周波数、あるいは2次以降の高次の周波数において、健全なモックアップに比べて固有周波数がどの程度変化しているかを比較し、それぞれの評価対象における変化量を求める。そして、上記で選択した劣化モード(ケミカル樹脂量の不足による施工不良)に対応する状態評価データベースのデータと照合することによって、この劣化モードにおける健全性を定量的に評価することができる。
【0055】
即ち、表4より、樹脂量100%(評価対象例1)では健全なモックアップにおける固有周波数と数値が殆ど変わらず、ケミカル樹脂の樹脂量が50%(評価対象例2)、35%(評価対象例3)と樹脂量の不足が大きくなるにつれて、健全なモックアップにおける固有周波数に対して数値が著しく減少していることが分かり、樹脂量の減少と固有周波数の減少とが関係していることが分かる。
【0056】
そして、この健全なモックアップにおける固有周波数に対する固有周波数の減少度合を、状態評価データベースにおける樹脂量が不足している場合の固有周波数の変化度合と比較した場合、評価対象例2における固有周波数の減少度合が状態評価データベースにおける樹脂量50%の場合における固有周波数の変化度合に対応しており、評価対象例3における固有周波数の減少度合が状態評価データベースにおける樹脂量35%の場合における固有周波数の変化度合に対応していることが確認された。
【0057】
この結果、健全なモックアップにおける固有周波数に対する固有周波数の減少度合を、状態評価データベースにおける樹脂量が不足している場合の周波数の変化度合と比較することにより、樹脂量がどの程度不足しているかを判断することができることが確認でき、この方法に基づけば、アンカーボルトの健全性を定量的に評価することができることが分かる。
【0058】
[2]第2の実施の形態(金属系アンカー)
次に、第2の実施の形態として、金属系アンカーにおけるアンカーボルトの状態評価について説明する。
【0059】
なお、本実施の形態においても、アンカーボルトの状態評価は、上記した接着系アンカーの場合と、基本的に略同様に考えることができるため、以下においては、アンカーボルトの状態評価方法の具体例について、主として、接着系アンカーの場合と異なる部分を説明する。
【0060】
(1)状態評価データベース準備
(a)解析モデルの作成
本実施の形態において、状態評価データベースを作成するための解析モデルは、例えば、
図3に示すように、コンクリート構造物の基礎20に設けられた挿入孔21にアンカーボルト25が挿入された後、アンカーボルト25の拡張部を拡張させることで基礎20に固定して構成されている。なお、
図3は、金属系アンカーのアンカーボルトの解析モデルを模式的に示す側面図である。
【0061】
具体的には、アンカーボルト25は、スタッド51と、スリーブ(拡張部)52とを備えている。スタッド51は、雄ねじ部53と、スリーブ52を放射状に拡張するためのウェッジ54とを有する。そして、アンカーボルト25を基礎20の挿入孔21に挿入し、ナット55を基礎20から突き出るスタッド51の雄ねじ部53にねじ込んで、ナット55を回転させることにより、スタッド51およびウェッジ54を引き上げる。このとき、ウェッジ54によりスリーブ(拡張部)52が放射状に拡張されて、スリーブ52が挿入孔21の壁面に食い込んで基礎20に固定される。即ち、ウェッジ54の移動に伴ってスリーブ52が拡張して基礎20に固定される。なお、符号「56」はワッシャであり、符号「23」はアンカーボルト25の頭部を打撃したときに生じる弾性波の応答信号を測定するセンサである。
【0062】
このような構成の解析モデルを種々の劣化状態(施工不良や経年劣化など)に模して複数作成する。
【0063】
(b)状態評価データベースの作成
上記で作成された各解析モデルについて、接着系アンカーの場合と同様にして、有限要素法を用いて固有値解析することにより、それぞれの固有周波数を取得し、状態評価データベースを作成する。
【0064】
(2)評価対象のアンカーボルトの状態評価
(a)モックアップ試験
次に、接着系アンカーの場合と同様にして、健全なアンカーボルトのモックアップ(模型)を作成し、この健全なモックアップのアンカーボルトの頭部を打撃したときの弾性波の応答信号を計測して、フーリエ解析することにより周波数情報を求め、その周波数情報におけるピーク周波数を健全なアンカーボルトにおける固有周波数とする。
【0065】
(b)評価対象のアンカーボルトの固有周波数の測定
同様に、評価対象となる金属系アンカーボルトの実機の固有周波数を取得する。
【0066】
(c)健全性の評価
評価対象のアンカーボルトについて評価したい劣化モードを状態評価データベースから選択して、対応する固有周波数を抽出する。
【0067】
そして、上記で取得された健全な状態のモックアップにおける固有周波数と、評価対象である実機の固有周波数に基づいて、その変化の程度を求め、その変化の程度と、選択された劣化モードにおける固有周波数とを比較する。これにより、評価対象のアンカーボルトの選択した劣化モードにおける劣化の進行度(状態)を定量的に評価する。
【0068】
以降、選択する劣化モードを変更して、その都度、上記と同様にして評価を行う。
【0069】
[3]アンカーボルトの引抜き強度(状態)と固有周波数
次に、本発明者は、アンカーボルトの劣化は具体的に引抜き強度の低下として現れることに着目し、固有周波数と引抜き強度との間の関係について検討したところ、固有周波数と引抜き強度とは高い相関関係にあり、固有周波数を求めることにより引抜き強度の低下、即ち、アンカーボルトの劣化状況を知ることができることが分かった。以下、接着系アンカー、金属系アンカーに分けて、具体的に説明する。
【0070】
1.接着系アンカー
M16鉄製アンカーボルトを基礎の挿入孔に挿入してケミカル樹脂で固定する際に、上記の表3に示す条件でケミカル樹脂量を調整し、健全な引抜き強度のアンカーボルトのモックアップ(健全なモックアップ)、異なる引抜き強度のアンカーボルトのモックアップ(評価対象例1、評価対象例2、および評価対象例3)を作成した。
【0071】
そして、健全なモックアップ、評価対象例1、評価対象例2、および評価対象例3について、アンカーボルトの引抜き強度を測定すると共に、弾性波の応答信号をフーリエ解析することにより周波数情報を求め、その周波数情報におけるピーク周波数をアンカーボルトの固有周波数として取得した。結果を、
図4に示す。
【0072】
図4より、アンカーボルトのモックアップの引抜き強度が低い場合は固有周波数が低周波数側へシフトし、引抜き強度が高い場合は固有周波数が高周波数側へシフトしていることが分かる。
【0073】
この結果より、上記した接着系アンカーにおける状態評価データベースの作成に合わせて、各解析モデルの引抜き強度を測定し、それぞれの固有周波数との間で状態評価データベースを作成しておけば、健全なモックアップの固有周波数に対する評価対象の固有周波数の変化度合を、状態評価データベースにおける引抜き強度が低下している場合の周波数の変化度合と比較することにより、引抜き強度がどの程度低下しているかを定量的に判定できることが分かる。
【0074】
2.金属系アンカー
金属系アンカーを用いて、上記と同様に、健全な引抜き強度のアンカーボルトのモックアップ(健全なモックアップ)、異なる引抜き強度のアンカーボルトの複数のモックアップを作成して、それぞれのモックアップについて、引抜強度を測定すると共に、弾性波の応答信号をフーリエ解析することにより周波数情報を求め、そのピーク周波数をアンカーボルトの固有周波数として取得した。結果を
図5に示す。
【0075】
図5より、アンカーボルトの引抜き強度が増加するに従って、固有周波数がほぼ直線的に高周波数側へシフトする傾向が認められることが分かる。
【0076】
この結果より、上記した金属系アンカーにおける状態評価データベースの作成に合わせて、各解析モデルの引抜き強度を測定し、それぞれの固有周波数との間で状態評価データベースを作成しておけば、健全なモックアップの固有周波数に対する評価対象の固有周波数の変化度合を、状態評価データベースにおける引抜き強度が低下している場合の周波数の変化度合と比較することにより、引抜き強度がどの程度低下しているかを定量的に判定できることが分かる。
【0077】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。