特許第6190791号(P6190791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190791耐熱性に優れた陽極酸化処理アルミニウム合金部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190791
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】耐熱性に優れた陽極酸化処理アルミニウム合金部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   C25D11/04 308
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-230036(P2014-230036)
(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-120971(P2015-120971A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-239177(P2013-239177)
(32)【優先日】2013年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 悟
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 角王
(72)【発明者】
【氏名】慈幸 範洋
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−241992(JP,A)
【文献】 特開2003−171727(JP,A)
【文献】 特開2009−114470(JP,A)
【文献】 特開2013−021283(JP,A)
【文献】 特開2013−199629(JP,A)
【文献】 特開2015−098627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/02,21/00
C25D 11/04,11/06
H01L 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:0.02%以上4.0%以下(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、Si:0.05%以下、Fe:0.05%以下を満足するアルミニウム合金基材と、
この基材表面に形成された陽極酸化皮膜とから構成され、
前記陽極酸化皮膜中に存在する最大長さが4μm以上の金属間化合物の、前記陽極酸化皮膜における任意断面での1mm2当たりの個数が40個以下であり、
且つ前記陽極酸化皮膜の少なくとも一部が、その表面を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造になっていることを特徴とする耐熱性に優れた陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項2】
前記基材のアルミニウム合金は、更にMg:3.5%を超え6.5%以下で含有する請求項1に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項3】
前記金属間化合物の、前記陽極酸化皮膜における任意断面での1mm2当たりの個数が15個以下である請求項1または2に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項4】
前記陽極酸化皮膜の厚みDが、8μm以上150μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項5】
前記陽極酸化皮膜表面からの絶縁物における厚みが10μm以下であり、且つ前記陽極酸化皮膜の厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)が2以上である請求項4に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項6】
前記陽極酸化皮膜は、シュウ酸系皮膜、またはリンを含有するシュウ酸系皮膜である請求項1〜5のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項7】
前記絶縁物は、珪素酸化物、シロキサン樹脂、ポリシラザン、珪素窒化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、チタン窒化物、アルミ酸化物およびアルミ窒化物の少なくともいずれかを含む化合物、またはこれらの化合物の基本骨格の少なくともいずれかを含む化合物であり、且つ疎水基を含むものである請求項1〜のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項8】
前記複合皮膜構造の表面部分での水に対する接触角が75°以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項9】
前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、半導体素子が接合される請求項1〜のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項10】
前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金を挟んで半導体素子が接するように構成される請求項1〜のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項11】
前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、冷却溶液が接するように構成される請求項1〜のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の陽極酸化処理アルミニウム合金部材を製造する方法であって、
アルミニウム合金基材の表面に、少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液、または少なくともシュウ酸とリン酸を含む陽極酸化処理液を用いて陽極酸化皮膜を形成することを特徴とする、陽極酸化処理アルミニウム合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス向け絶縁部材に有用な陽極酸化処理アルミニウム合金部材に関するものである。例えば、CPU(Central Processing Unit)、パワーデバイス、LED(Light Emitting Diode)、太陽電池等の半導体や液晶に関する絶縁部材に適用される陽極酸化処理アルミニウム合金部材に関するものであり、特に高い絶縁性(高い耐電圧性、大きい体積抵抗率)、および良好な放熱性を両立しつつ、更に高温でのクラックの発生を抑制できる陽極酸化処理アルミニウム合金部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、CPU(Central Processing Unit)、パワーデバイス、LED(Light Emitting Diode)、太陽電池等の半導体や液晶に適用される部材には、これらの素子から多くの熱が発生することから、高い絶縁性と共に放熱性が良好であることが要求される。こうした特性が要求される部材(以下、こうした部材を「絶縁部材」と呼ぶ)の素材としては、これまでアルミナ(Al23)、窒化珪素(Si34)、窒化アルミ(AlN)等のセラミックスが使用されてきた。しかしながら、これらの素材は、非常に高価であり、またセラミックスであるがゆえに割れが発生する恐れがある。
【0003】
低コスト、高い絶縁性および良好な放熱性を具備する素材として、高い絶縁性および良好な放熱性を有するフィラーを含む樹脂を金属基板表面にコートした絶縁層付基板や、陽極酸化皮膜を絶縁層とする試みがなされている。
【0004】
絶縁性に関しては、体積抵抗率(電気抵抗率)が大きく、耐電圧性が高い必要がある。また放熱性の観点からは、皮膜自体の厚みが薄いほど放熱性が向上することから、単位膜厚当たりの耐電圧(所定電流が流れるときの電圧値:以下、単に「耐電圧」と呼ぶことがある)が高いことが望ましい。また、絶縁部材を用いた絶縁モジュール製造プロセスにおいては、高温雰囲気に曝されることがあることから、高温でのクラック発生が生じない様な耐熱性(耐高温クラック性)を有していることも重要である。
【0005】
アルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム合金部材(陽極酸化皮膜処理アルミニウム合金部材)を、絶縁部材として用いることも検討されている。また陽極酸化皮膜処理アルミニウム合金部材の特性を改善するための技術についても、これまでに様々提案されている。
【0006】
このような技術として、例えば特許文献1には、金属基材として用いるアルミニウム合金の純度を上げることによって、基材中の金属間化合物の個数を減らし、部材の耐電圧性を改善する技術が提案されている。しかしながら、このような陽極酸化処理アルミニウム合金部材では、高温下において陽極酸化皮膜にクラックが発生することがあり、絶縁性が低下することが懸念される。
【0007】
一方、特許文献2には、アルミニウム合金中の金属Siをできるだけ低減することによって、耐電圧性を改善した太陽電池用絶縁層付き金属基材が提案されている。この技術においても、基材表面には陽極酸化皮膜だけが形成されたものであり、高電圧側で漏れ電流が増加しやすく、絶縁性が低下しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−241992号公報
【特許文献2】特開2010−283342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、高い絶縁性(高い耐電圧性、大きい体積抵抗率)および良好な放熱性を両立すると共に、耐熱性(高温耐クラック性)にも優れた陽極酸化処理アルミニウム合金部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成することのできた本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材とは、Cu:0.02%以上4.0%以下(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、Si:0.05%以下、Fe:0.05%以下を満足するアルミニウム合金基材と、この基材表面に形成された陽極酸化皮膜とから構成され、前記陽極酸化皮膜中に存在する最大長さが4μm以上の金属間化合物の任意断面での1mm2当たりの個数が40個以下であり、且つ前記陽極酸化皮膜の少なくとも一部が、その表面を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造になっていることを特徴とする。
【0011】
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材において、前記基材のアルミニウム合金は、更にMg:3.5%を超え6.5%以下で含有するものが好ましい。更に前記金属間化合物の1mm2当たりの個数が15個以下であることも好ましい要件である。
【0012】
前記陽極酸化皮膜の厚みDは、8μm以上、150μm以下であることが好ましい。また陽極酸化皮膜表面からの絶縁物の厚みdは、10μm以下であり、且つ前記陽極酸化皮膜の厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)が2以上であることが好ましい。
【0013】
前記陽極酸化皮膜は、(a)少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液、または(b)少なくともシュウ酸とリン酸を含む陽極酸化処理液で形成されたものであることが好ましい。
【0014】
前記絶縁物としては、珪素酸化物、シロキサン樹脂、ポリシラザン、珪素窒化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、チタン窒化物、アルミ酸化物およびアルミ窒化物の少なくともいずれかを含む化合物、またはこれらの化合物の基本骨格の少なくともいずれかを含む化合物であり、且つ疎水基を含むものが挙げられる。
【0015】
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材において、前記複合皮膜構造の表面部分での水に対する接触角が75°以上であることが好ましい。
【0016】
例えば、パワーモジュールの絶縁・放熱構造において、本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材における好ましい実施形態としては、絶縁に必要となる複合皮膜構造(絶縁物を被覆した陽極酸化皮膜)が、絶縁に必要な部分にのみ存在することであり、こうしたことから絶縁に必要な片面だけが複合皮膜構造になっていることが望ましい。なぜなら、陽極酸化皮膜は、溶液に浸漬し電解処理を施すことによって形成されることから、基本的に部材全面に皮膜が形成されるが、絶縁に必要な部分は基本的には片面であり、もう一面は放熱性の妨げになるからである。
【0017】
即ち、絶縁に必要な部分のみ複合皮膜構造になっていればよく、例えば、片面に複合皮膜構造をつけた複合部材において、複合皮膜構造が無いサイドに半導体素子を置く構造としては、(1)前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に半導体素子が接合されること、或は(2)前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、銅若しくは銅合金、またはアルミニウム若しくはアルミニウム合金を挟んで半導体素子が接する様に構成されること、等が挙げられる。また、複合皮膜構造が無いサイドに冷却部を置く構造としては、本発明のアルミニウム合金部材を冷却構造に使用し、このアルミニウム合金部材上に、本発明の複合皮膜構造を配することが挙げられ、即ち(3)前記アルミニウム合金基材表面で、陽極酸化皮膜と絶縁物が被覆されていない部分に、冷却溶液が接する様に構成されること、が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、基材として用いるアルミニウム合金における化学成分組成および陽極酸化皮膜中に存在する金属間化合物の大きさや個数を適切に規定すること、陽極酸化皮膜の少なくとも一部を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造にすることで、高い絶縁性、良好な放熱性、および耐熱性(高温耐クラック性)を兼備した陽極酸化処理アルミニウム合金部材が実現でき、このような陽極酸化処理アルミニウム合金部材は、CPU(Central Processing Unit)、パワーデバイス、LED(Light Emitting Diode)、太陽電池等の半導体や液晶等に適用される絶縁部材として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、高い絶縁性(高い耐電圧性、大きい体積抵抗率)、および良好な放熱性を両立しつつ、更に高温耐クラック性を兼備した陽極酸化処理アルミニウム合金部材の実現を目指して、様々な角度から検討した。その結果、基材として用いるアルミニウム合金における化学成分組成および陽極酸化皮膜中に存在する金属間化合物の大きさや個数を適切に規定すること、陽極酸化皮膜の少なくとも一部を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造にすれば、これらの特性を兼備できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明で規定する各要件について説明する。
【0020】
本発明で基材として用いるアルミニウム合金は、Cuを所定量含むものであるが、この成分の範囲限定理由は下記の通りである。
【0021】
(Cu:0.02%以上4.0%以下)
Cuは陽極酸化皮膜の耐熱性(高温耐クラック性)を向上させるのに有効な元素であり、特にMgが共存した場合にはその性能がより向上する。こうした観点から、Cuは0.02%以上含有させる必要がある。好ましくは0.03%以上である。また、アルミニウム合金の成分にMgを含まない場合は、Cu含有量は0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上である。
【0022】
Cuは、強度を向上させる元素であり、強度を高くすることで基材厚みを薄くすることができることから、放熱性を高めること(熱抵抗を小さくすること:熱伝導の障害を小さくすること)ができる。しかしながら、Cu含有量が過剰になって4.0%を超えると、
強度が高くなりすぎ、圧延が困難となる。Cu含有量の好ましい上限は3.0%以下である。
【0023】
本発明のアルミニウム合金における基本成分は上記の通りであり、残部はAlおよび不可避不純物であるが、不可避不純物中のSiおよびFeは下記のように抑制することが必要である。また、必要によって、Mg、Cr、Zn等を含有することも許容できる。
【0024】
(Si:0.05%以下、Fe:0.05%以下)
FeはAl−Fe系金属間化合物、SiはMg−Si系金属間化合物を夫々生成し、これらの金属間化合物は耐電圧性を低下させる原因となることから、金属間化合物のサイズや個数を所定以下とするために、いずれも0.05%以下に抑制する必要がある。より高い耐電圧性を得るには、夫々0.02%以下とすることが好ましい。
【0025】
(Mg:3.5%を超え6.5%以下)
Mgは、基材の強度を向上させる元素であり、強度を高くすることで基材厚さを薄くすることができることから、放熱性を高めること(熱抵抗を小さくすること)ができる。またアルミニウム合金中のMg含有量が多いほど、陽極酸化皮膜の成膜速度が速くなり、製造コストを低減できる。こうした理由から、アルミニウム合金中のMg含有量は3.5%超えて含有することが望ましく、より好ましくは3.6%以上である。しかしながら、Mg含有量が過剰になって6.5%を超えると、アルミニウム合金に圧延割れが発生しやすくなり、圧延加工が困難になる。Mg含有量のより好ましい上限は6.0%以下である。
【0026】
(Cr:0.02%以上0.1%以下)
CrについてもMgと同様に、強度向上に有効な元素(再結晶粒の微細化による)である。こうした効果を発揮させるためには、Crは0.02%以上含有させることが好ましい。より好ましくは、0.03%以上であり、更に好ましくは0.04%以上である。しかしながら、Cr含有量が過剰になって0.1%を超えると、晶出物サイズの粗大化を招くことになる。Cr含有量のより好ましい上限は0.08%以下であり、更に好ましくは0.07%以下である。
【0027】
(Zn:0.5%以下)
Znのようにアルミニウム合金中に均一に固溶する元素は、耐電圧性に影響を与えないので含まれていても問題はない。Znの場合、0.5%を超えると、Znの析出核が大きくなり、前処理のエッチングにより粒界部が深くエッチングされ欠陥が形成されるため、表面処理としては適切な表面状態でなくなる。より好ましくは0.3%以下である。Znの下限については、特に定めるものではないが、含有量が0.002%未満となると、極めて高価なアルミニウム合金地金が必要となるため、0.002%以上であることが好ましい。
【0028】
(陽極酸化皮膜中に存在する金属間化合物の大きさ・個数)
耐電圧性を低下させる要因は、アルミニウム合金中に存在する金属間化合物が陽極酸化処理中に溶解すること無く、ほぼ金属の状態で陽極酸化皮膜中に取り込まれること、および溶解により形成される陽極酸化皮膜中のボイドである。陽極酸化処理中に溶解されず陽極酸化皮膜中に残る金属間化合物は、サイズ(大きさ)が大きいほど単位質量当たりの表面積が小さくなって、溶解に時間がかかるため、陽極酸化皮膜中に残る可能性が高くなる。
【0029】
また、アルミニウム合金中の金属間化合物が陽極酸化中に溶解され形成されるボイドの一部には、後工程の絶縁物導入工程で、絶縁物が充填あるいはボイドの内面の一部を被覆あるいは表面修飾することから、この部分での耐電圧性の低下は抑制される。こうしたことから、溶解を完了せずとも、耐電圧性に大きく影響を与えない条件は陽極酸化皮膜に存在する金属間化合物の大きさ(最大長さ)が4μm以上のもので、個数が任意断面で1mm2当たり40個(40個/mm2)以下とする必要がある。この要件を満足すれば、十分な耐電圧性を発揮することができる。更に耐電圧性を高めるためには、上記個数は15個/mm2以下であることが好ましい(より好ましくは10個/mm2以下)。尚、本発明で測定対象とした金属間化合物は、Al−Fe系金属間化合物、Mg−Si系金属間化合物、または非固溶Cuである。
【0030】
(陽極酸化皮膜)
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材は、上記のようなアルミニウム合金からなる基材表面の全面または一部(片面も含む)に陽極酸化皮膜を形成したものであるが、この皮膜を形成するときの陽極酸化処理液としては、少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液、または少なくともシュウ酸とリン酸を含む陽極酸化処理液を用いることが好ましい。これは陽極酸化皮膜がアルミニウム合金基材にシュウ酸系皮膜を形成することで、高温耐クラック性を向上させることができるからである。
【0031】
即ち、一般的な陽極酸化処理液として、シュウ酸、ギ酸等の有機酸、リン酸、クロム酸、硫酸などの無機酸が挙げられるが、高温でのクラックの発生を著しく低減させつつ耐電圧性を向上させるという観点からして、少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液を用いることが好ましい。陽極酸化処理液中のシュウ酸濃度は、所望とする作用効果を有効に発揮することができるように適宜適切に制御すれば良いが、おおむね、10〜40g/Lの範囲に制御することが好ましい(より好ましくは15〜35g/L程度)。
【0032】
また陽極酸化皮膜中にリン(P)を含有することで、絶縁物(またはその前駆体)が、陽極酸化皮膜表面の少なくとも一部を被覆(微細孔の充填による被覆も含む)、或は表面修飾した複合皮膜構造となりやすくなる。しかしながら、リンを含有する陽極酸化皮膜は厚膜化が難しい。こうした理由から、上記したシュウ酸とリン酸の混酸、即ち少なくともシュウ酸とリン酸を含む陽極酸化処理液にすることによって、所定の厚みを確保でき、耐電圧を確保しつつ、高抵抗率の実現が可能となる。処理液中のリン酸濃度が高すぎると厚膜化が難しくなるため、上記シュウ酸に対し、リン酸は150g/L以下(より好ましくは100g/L以下)にすることが好ましいが、リン酸の濃度の下限は、Pが若干でも含まれていればよい。また、シュウ酸溶液を含む溶液で、陽極酸化皮膜を形成した後、リン酸溶液に浸漬することで、Pを皮膜中に導入しても良い。
【0033】
陽極酸化処理を行うときの温度(液温)は、生産性を欠くことなく、また皮膜の溶解が顕著に起こらない範囲で設定すれば良く、おおむね、0℃〜50℃とすることが好ましい。
【0034】
陽極酸化処理時の電圧(電解電圧)は、具体的には5〜150V程度(より好ましくは15〜120V)であることが好ましい。或いは、陽極酸化処理時に流す電流の電流密度は、100A/dm2以下(より好ましくは30A/dm2以下、更に好ましくは5A/dm2以下)が好ましい。但し、これらの条件は、使用する電解処理液の組成や、陽極酸化処理を行う温度、記載の化学成分組成等にも関係するため、適宜設定すればよい。
【0035】
形成する陽極酸化皮膜の厚みは、耐電圧性を担う重要な因子であり、仕様により調整すればよいが、耐電圧の観点からは8μm以上であることが好ましい(より好ましくは15μm以上)。また耐熱性(高温耐クラック性)および放熱性の観点からは、150μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下である。
【0036】
(陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造)
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材では、陽極酸化皮膜の少なくとも一部が、その表面を絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造となっている。この様な複合皮膜構造とは、多孔質による微細孔が存在する陽極酸化皮膜表面の少なくとも一部を、絶縁物が被覆または表面修飾した複合皮膜構造を有し(微細孔への充填による被覆も含む)、その陽極酸化皮膜上に絶縁物が積層した構造も含まれる。
【0037】
陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造にすることによって、微細孔が存在する陽極酸化皮膜表面の大きな表面積を、微細孔への充填により低減でき、また水分の付着による低い表面抵抗を絶縁物で被覆または表面修飾することで、付着水分を低減できる。即ち、体積抵抗率を向上させることができる。
【0038】
また陽極酸化皮膜の微細孔に絶縁物が充填される構造となることで、皮膜応力を圧縮方向にする効果があることから、耐熱性の観点からも有利に作用する。陽極酸化皮膜上への積層は熱抵抗を小さくする(熱伝達の障害を小さくする)という観点から、できるだけ薄いことが望まれる。こうしたことから、絶縁物の厚みは10μm以下であることが望ましく、より好ましくは5μm以下である。
【0039】
体積抵抗率の観点からは、絶縁物は少なくとも陽極酸化皮膜表面の一部を被覆、或は表面修飾している必要があり、より望ましくは微細孔内についても少なくとも一部が充填、被覆、或は表面修飾していることである。評価方法としては、EDX等による、微細孔内の元素同定が挙げられる。より好ましくは、少なくとも微細孔の一部に絶縁物が充填、被覆、或は表面修飾されており、且つ陽極酸化皮膜上の厚みが0.001μm以上である。また、絶縁物の熱伝導率が陽極酸化皮膜の熱伝導率より低い場合は、陽極酸化皮膜の厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)の値は、2以上に設定することが好ましい(より好ましくは5以上)。体積抵抗率を上げるという観点からは、絶縁物が陽極酸化皮膜の少なくとも一部を被覆・表面修飾していればよいことから、この比(D/d)の上限値は、特に定めるものではないが、被覆・表面修飾の観点から、100000以下に設定することが好ましい(より好ましくは50000以下)。
【0040】
本発明で用いる絶縁物としては、体積抵抗率の観点からはその絶縁物自体の体積抵抗率が高いこと、より好ましくは水分の吸着が少ないことであり、耐熱性の観点からは、耐熱性があることが好ましく、特に定めるものではないが、例えば、珪素酸化物(SiO2等)、シロキサン樹脂(シロキサン系SOG等)、ポリシラザン(熱処理物を含む)、珪素窒化物(Si34等)、ジルコニウム酸化物(ZrO2等)、チタン酸化物(TiO2等)、チタン窒化物(TiN等)、アルミ酸化物(Al23)、アルミ窒化物(AlN等)等が挙げられ、これらを少なくともいずれかを含む化合物、或はこれらの化合物の基本骨格の少なくともいずれかを含む化合物、等を適宜選択して使用することができる。またこれらの化合物に有機物や有機成分等が含まれても良く、例えば水分の付着を防止するために、フルオロ基、アルキル基等の疎水基(疎水性の官能基)を含むことが好ましい。
【0041】
水分の付着を防止するという観点から、絶縁物が存在する部分、即ち陽極酸化皮膜の少なくとも一部が絶縁物で被覆または表面修飾した複合皮膜構造の表面部分は、水に対する接触角が75°以上であることが好ましい。接触角が高いことは、複合皮膜構造の表面部分を疎水化することであり、この表面部分に存在する水分量を減らすことができ、表面部分での電気抵抗を高くすることができる。その結果、体積抵抗率をより高くすることができる。接触角を高めるには、上記のようにフルオロ基、アルキル基等の疎水基を絶縁物中に含ませることによって達成される。この接触角は、より好ましくは85°以上であり、更に好ましくは95°以上である。接触角の上限は160°程度以下(特には、130°以下)である。
【0042】
分子量が大きな絶縁物を導入する場合は、陽極酸化皮膜表面に存在する微細孔への導入が難しくなるので、分子量が小さな絶縁物を前駆体の形で微細孔に導入した後、熱処理等の方法で分子量を上げることもできる。但し、その前駆体が反応しきらず陽極酸化皮膜上(微細孔内を含む)に多少残っても不都合はない。また、例えばポリシラザンのように、熱処理過程でシリカ転化することで基本骨格が変化する場合は、完全に変化させる必要はなく、前駆体の基本骨格と、処理後の基本骨格が交じり合う化合物でも良い。
【0043】
絶縁物の形成方法としては、上記各種物質を、CVD等の化学的気相法やディップコート、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーンコートの無電解によるウエットプロセス、電着などの電気化学的な方法を採用することができる。またこのようして導入した化合物を熱処理、紫外線照射等で高分子化、陽極酸化皮膜との化学結合を促すようにしてもよい。
【0044】
例えば、絶縁物としてシロキサン系のSOG(スピンオングラス)をウエットプロセスで形成する場合には、Si−O−Si結合(シロキサン結合)を有するシロキサンポリマーを、陽極酸化皮膜表面にスピンコートし、その後所定雰囲気で乾燥・加熱すればよい。または、Si−N結合を持ち、(−R1SiR2−NR3)[R1,R2,R3はH、またはアルキル基]を基本単位とするポリシラザンを、陽極酸化皮膜表面にスピンコートし、その後所定雰囲気で乾燥・加熱すればよい(後記実施例参照)。
【0045】
上述のようにして作製された陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造は、放熱性を高めるという観点からは、厚みは薄い方が良く、絶縁性を高くするという観点からは厚い方がよい。これらの特性を両立させるためには、単位膜厚当たりの耐電圧が高いことが推奨される。こうしたことから、単位膜厚当たりの耐電圧は50V/μm以上であることが好ましく、より好ましくは60V/μm以上である。
【0046】
(絶縁モジュール構造)
本発明の陽極酸化処理アルミニウム合金部材では、基材として使用されるアルミニウム合金の少なくとも一部に陽極酸化皮膜と絶縁物が形成されていることを特徴とする。即ち、アルミニウム合金基材の全面がこの陽極酸化皮膜と絶縁物の複合皮膜構造となっていてもよいが、アルミニウム合金基材の一部がこの構造を持てばよい。
【0047】
半導体素子を搭載する観点からすれば、例えば複合皮膜構造を片面に持つ部材を作製し、半導体素子を複合皮膜構造のないアルミニウム合金側に直接接合、或は銅(銅合金含む)材料を介して、接合することができる。このときの接合には、ハンダやロウ材などが使用できるが、特に方法を規定するものではない。また上記銅材料とは、銅若しくは銅合金を指し、アルミニウムと銅(銅合金含む)とのクラッド材や、銅箔(銅合金)をドライプロセスやメッキで形成してもよく、特に方法を規定するものではない。また、複合皮膜構造側にデバイスを直接、或は銅材料を介して配置しても良い。また、半導体素子を複合皮膜構造に直接配置する場合は、上記絶縁物を接着剤の代わりとして使用することもできる。
【0048】
冷却の観点からは、例えば複合皮膜構造を片面に持つ部材を作製する場合は、複合皮膜構造を、冷却母材のアルミニウム合金上に直接形成することもできる。また、複合皮膜構造のサイドを、冷却サイドに接合することもでき、接合の方法は問わないが、上記絶縁物を冷却器との接合に使用することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されず、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
下記表1に示す化学成分組成のアルミニウム合金を、通常の方法により、溶解し鋳造した鋳塊に、500℃の温度で均質化熱処理を行い、板厚が1.5mmになるまで冷間圧延を施し、350℃の温度で焼鈍を行い、45mm×45mm×1.5mmの基材を切り出し、表面を50μm研削し、試料を調製した。尚、表1中、「−」は無添加(測定限界以下)であることを示す。
【0051】
上記のように切り出した試料(基材)を、脱脂工程として、50℃−15%NaOH水溶液中に2分間浸漬した後、水洗した。次に、デスマット工程として、上記脱脂工程を経た試料を40℃−20%硝酸溶液中に2分間浸漬した後、水洗して表面を清浄化した。
【0052】
【表1】
【0053】
次いで、上記の各試料に対し、下記表2に示す条件(処理液種類、処理液温度、電解電圧)にて陽極酸化処理を行い、所定の厚みの陽極酸化皮膜を作製し、陽極酸化処理後、水洗し乾燥し、基材表面に陽極酸化皮膜を形成した各種陽極酸化処理アルミニウム合金部材を得た。
【0054】
【表2】
【0055】
得られた陽極酸化処理アルミニウム合金部材の表面に、シロキサンポリマー、ポリシラザンを原料として塗布し、絶縁物を形成した。このとき、シロキサンポリマーは、全体における15質量%のメチルがSi−O−Si結合(シロキサン結合)のSi原子に結合されているシロキサンポリマーを使用し、スピンコートし、350℃(窒素雰囲気)で1時間加熱して、絶縁物(シロキサン系のSOG)を陽極酸化皮膜上に形成した。皮膜の厚みの調整は、薬液の希釈(IPAを使用)、スピンコート条件を調整することで、また厚膜化は上記の工程を数回繰り返すことで行った。またポリシラザンは、全モノマーユニットにおいてモノマーユニットを構成しているSi原子にメチル基2つが結合され、更にN原子にメチル基1つが結合されている化合物を、ブチルアセテートで希釈し、スピンコートし、200℃(大気雰囲気)で0.5時間加熱して、絶縁物を陽極酸化皮膜上に形成した。
【0056】
絶縁物の厚みdは、試料の断面SEMから厚みを見積もった。また、EDX分析により陽極酸化皮膜の微細孔、皮膜表面に存在する元素を調査したところ、絶縁物を形成しなかった試料(試験No.7)ではSiが検出されなかったが、シロキサン、ポリシラザンを原料として使用した試料からは、微細孔および皮膜表面からSiが検出された。
【0057】
各種の条件で陽極酸化処理を施した後、陽極酸化皮膜中の金属間化合物の大きさ・個数、絶縁物表面の高温クラックの発生状況、および陽極酸化皮膜の厚みDを下記の方法によって測定すると共に、得られた陽極酸化処理アルミニウム合金部材(絶縁物を形成したもの)について(試験No.1〜10)、下記の方法によって、水に対する接触角、体積抵抗率、耐電圧性(平均耐電圧)を評価した。これらの結果を、陽極酸化皮膜の厚みDと絶縁物の厚みdの比(D/d)と共に、下記表3に示す(表3中、「−」は未測定であることを意味する)。
【0058】
[陽極酸化皮膜中の金属間化合物の大きさ・個数の測定]
陽極酸化皮膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて、倍率1000倍の反射電子像で20視野以上を観察した。母相より白く写る部分、および母相より黒く写る部分を測定対象とし、陽極酸化皮膜上にある窪みと判断がつかない場合は、その部分をEDXで元素分析することで金属間化合物かどうかの判断を行った。画像処理により最大長さを求め、最大長さが4μm以上の金属間化合物の個数を測定し、単位面積当たりの個数(個数密度)を算出した。
【0059】
[絶縁物表面の高温クラックの発生状況の評価]
高温クラックの発生状況は、各試料を大気炉で350℃×5分加熱後、複合皮膜構造の表面を目視観察、および顕微鏡で観察することで(倍率:200倍)、クラック発生状況を評価した。そして、陽極酸化皮膜表面に明確なクラックが存在する場合を高温耐クラック性が悪い(×)とし、クラックが目視できない場合を高温耐クラック性が良好(◎)と判断した。
【0060】
[陽極酸化皮膜の厚みDの測定]
陽極酸化皮膜膜の厚みDは、渦電流式膜厚計を用いて測定した。測定は、同一の箇所を5回測定し、その平均値を箇所の厚みとし、試料の5箇所(全体の測定ができるように)測定し、その平均を陽極酸化皮膜の厚みDとした。
【0061】
[水に対する接触角の測定]
絶縁物を形成した表面に、約0.5ミクロンリットルの純水を滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製:商品名「CA−05型」)を用いて水に対する接触角を測定した。
【0062】
[体積抵抗率の測定]
高温耐クラック性を確認し、クラックがないことを確認した試料を、湿度50%、温度25℃の環境で7日間保管後、そのサンプルにφ3mmの金を蒸着し、電極とした。アドバンテスト R8340A デジタル超高抵抗/微少電流計を用い、+端子を金電極に接続し、−端子をアルミニウム合金基材に接続し、DC電圧(直流電圧)500Vを印加し、そのとき流れる電流を測定することによって、各試料の体積抵抗率(Ωcm)を求めた。陽極酸化皮膜ままの体積抵抗率(試験No.7)は、2.3×109(2.3E9)Ωcmであり、体積抵抗率は十分でない。体積抵抗率が3桁以上向上した1.0×1012(1E12)Ωcm以上を良好な体積抵抗率であるとし、1.0×1012(1E12)Ωcm以上、1.0×1013(1E13)Ωcm未満を合格(○)、1.0×1013(1E13)Ωcm以上を優秀(◎)とした[1.0×1012(1E12)Ωcm未満は不合格(×)]。
【0063】
[平均耐電圧の測定]
各試料の耐電圧は、耐電圧試験器(「GPT−9802」、商品名:インステック社製、DCモード)を用い、+端子を金電極のプローブに接続し、陽極酸化皮膜上に接触させ、−端子をアルミニウム合金基材に接続し、DC電圧(直流電圧)を徐々に印加し、1mA以上の電流が流れた時点での電圧(測定個数10点での平均値)を平均耐電圧とした。また測定に当たっては、沿面放電を避けるため、N2ガスを金電極に吹き付けながら測定した。
【0064】
測定した平均耐電圧を、ハイブリッド構造の厚み(合計厚み)で割ることで、単位厚み当たりの耐電圧(V/μm)を求めた。単位膜厚当たりの耐電圧が高いことは、仕様耐電圧を作製するための皮膜厚を薄くすることができ、放熱性を向上できることから、この値が50V/μm以上を合格(○)、60V/μm以上を優秀(◎)とした[50V/μm未満は不合格(×)]。
【0065】
【表3】
【0066】
これらの結果から、以下のように考察することができる。まず試験No.1〜6は、本発明で規定する要件を満足する実施例であり、高温でクラックが発生することなく、良好な耐電圧性を示していることが分かる。また、体積抵抗率も高い値を示している。
【0067】
これに対し、試験No.7〜10は、本発明で規定する要件を満足しない例であり、いずれかの特性が劣化している。即ち、試験No.7は、複合構造の絶縁物を形成しない陽極酸化処理アルミニウム合金部材を用いたものであり、水に対する接触角が小さくなっており、体積抵抗率が2.3×109(2.3E9)Ωcmと低くなっている。
【0068】
試験No.8、10は、Cu含有量が不足する(添加せず)アルミニウム合金を基材として用いたものであり、高温耐クラック性が劣化している(耐電圧、および体積抵抗率については測定せず)。試験No.9は、Si,Feが過剰なアルミニウム合金を基材として用いたものであり、Si,Feの過剰によって金属間化合物の個数も多くなっており、耐電圧性が不足している。