(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
まずタッチパネル構造における液晶表示装置部分について説明する。尚、以下ではディスプレイ、即ち表示装置として液晶表示装置を例に挙げるが、本発明はこれに限定されず、その他の表示装置として例えば有機EL装置等にも適用できる。
【0028】
図1は、一般的な液晶表示装置1の構成を模式的に示す概略断面図である。
図1に示す液晶表示装置1は、TFT(Thin Film Transistor)基板2を有している。TFT基板2は、例えば、アレイ基板である。TFT基板2には、対向基板3が対向して配置されている。対向基板3は、例えば、カラーフィルタ(CF、Color Filter)基板4であり、視認される側に配置される。対向基板3には、緑色、青色、赤色のカラーフィルタ5A、5B、5C、ブラックマトリックス(Black Matrix、BM)6、カラーフィルタ基板4が形成される。TFT基板2と対向基板3との間には液晶が導入された液晶層7が狭持され、液晶層7は液晶封止材8により封止される。更に、対向基板3の外側の面には、図示しないが偏光板及び位相差板等が設けられる。また、液晶表示パネルの反視認側、即ち、
図1におけるTFT基板2の下方には、図示しないがバックライトユニット等が配設される。
【0029】
本発明の電極を含む入力装置、特にタッチパネルセンサーは、上記液晶表示装置1のカラーフィルタ基板4の上方、即ち、操作面側に配置される。
【0030】
以下、上記入力装置のパターンを例示しながら、本発明の電極の好ましい実施態様について説明する。詳細には、入力装置例その1における実施の態様1および2と、入力装置例その2における実施の態様3および4を例示しながら、本発明の電極について説明する。
【0031】
(1)入力装置例その1
図2は、静電容量型のタッチパネルにおける入力装置の一例を示す概略平面図である。
図2に示す入力装置10は、配線が格子形状となっている。詳細には、透明基板の一種であるカラーフィルタ基板4の上部に、行ごとにX方向に配される駆動用の複数の金属電極11と;列ごとにY方向に配される検出用の複数の金属電極12と;が設けられる。駆動用電極11と検出用電極12とは、それぞれ異なる層に設けられており、絶縁層13により互いに絶縁される。
【0032】
図2の構成では、駆動用電極11への電圧の印加により、駆動用電極11と検出用電極12の間に生じるキャパシタンスの変化によって、ユーザのタッチ位置を検出する。
【0033】
本構成は、抵抗の小さい金属電極を駆動用電極11および検出用電極12として用いることから、それぞれの電極を幅の狭い配線として形成することが可能である。そのためアクティブエリアの透過率を十分高くすることができる特徴を有する。
【0034】
実施の態様1:入力装置例その1における断面構造例その1
前記
図2の点線A1−A1における断面構造の一例として、
図3の断面構造が挙げられる。
図3は、
図2の入力装置10を、
図1に示す液晶表示装置1のカラーフィルタ基板4に搭載した構造の一例を示す概略断面図である。
【0035】
図3に示されるように、カラーフィルタ基板4の上部には、行ごとにX方向に配される複数の第1の金属電極11が、同一の層に配置される。さらに列ごとにY方向に配される複数の第2の金属電極12が、第1の金属電極11とは異なる層に配置される。この複数の第1の金属電極11と第2の金属電極12は、表示装置の視認性を低下させないために、図示していないがブラックマトリックスの直上に配置することが好ましい。複数の第1の金属電極11の間、複数の第2の金属電極12の間、および、第1の金属電極11と第2の金属電極12との間には、第1の絶縁層13A、第2の絶縁層13Bが配置される。第1の絶縁層13Aと第2の絶縁層13Bには、例えば公知の透光性絶縁樹脂などを用いることができる。そして第2の絶縁層13Bが設けられた面を覆うように、カバーガラス14が設けられる。尚、
図3における15はバックライトを示す。
【0036】
前記
図3において、第1の金属電極11や第2の金属電極12として、本発明の電極を好適に用いることができる。以下では、前記
図3の第1の金属電極11を例として、その好ましい具体例を
図4、
図5および
図6に示しながら、本発明の電極の好ましい実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の電極はこれらの図に限定されない。尚、
図4、
図5および
図6では、基板を、
図3のカラーフィルタ基板4ではなく透明基板24としている。基板は特に限定されない意図である。液晶表示装置に適用する場合は、透明基板としてカラーフィルタ基板を用いるが、本発明の電極を有機EL表示装置に用いる場合は、カラーフィルタ基板は不要な場合が多く、カバーガラスのようなガラス基板等の透明基板を用いることができる。本発明に用いられる透明基板の種類は後に詳述する。
【0037】
実施の態様1A:第1層と第2層の二層構造からなる電極
図4は、本発明の電極の一構造例を示す概略断面図である。
図4の電極構造20Aにおいて、透明基板24は、ガラスやプラスチック等からなる基板を用いることができる。透明基板24上には、Al膜またはAl合金膜からなる第1層21、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22が少なくとも形成されている。積層構造において、第1層21は電極に用いられる配線用膜として作用し、第2層22は光学調整層として作用する。
【0038】
実施の態様1B:第1層、第2層および第3層からなる三層構造の電極
図5は、本発明の電極の別の構造例を示す概略断面図である。
図5の電極構造20Bにおいて、電極は、Al膜またはAl合金膜からなる第1層21、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22、および透明導電膜からなる第3層23が少なくとも形成された積層構造を有している。積層構造において、第1層21は電極に用いられる配線用膜として作用し、第2層22および第3層23は光学調整層として作用する。なお、この積層構造において第2層22と第3層23の順序は入れ替わってもよい。
【0039】
以下では、前記の第1層21、第2層22および第3層23の各層について詳述する。まずは第1層について説明する。
【0040】
本発明に用いられる第1層は、Al膜またはAl合金膜(以下、Al/Al合金膜と略記する場合がある。)で構成される。配線用金属として上記Al/Al合金膜を使用することにより、リン硝酢酸系エッチング液によるウェットエッチング加工性が向上する。ここで、上記リン硝酢酸系エッチング液とは、リン酸と硝酸と酢酸を少なくとも含む混合液を意味する。これに対し、第1層として、上記以外のAg若しくはCu、またはこれらの合金を用いた場合、積層構造としたときに低シート抵抗は得られるが、リン硝酢酸系エッチング液に対するウェットエッチング加工性に劣り、エッチングレートが速くなるため、良好なパターニング形状が得られない(後記する
図23を参照)。
【0041】
具体的には、第1層単膜の電気抵抗率が20μΩ・cm以下の上記Al/Al合金膜を用いることが好ましい。上記第1層の電気抵抗率は、電気抵抗率が1kΩ・cm以下である第2層や、電気抵抗率が数百μΩ・cmである第3層と比較して電気抵抗率が十分低いため、電荷の流れは第1層が支配的となり、積層構造のシート抵抗も低減される。
【0042】
電極層として用いられる上記第1層のAl合金膜は、合金成分として、高融点金属元素、希土類金属元素の少なくとも一種以上を含有することが好ましい。これにより、熱凝集抑制効果が発揮される。ここで、高融点金属元素は、Mo、Ti、Ta、W、Cr、Mnなどの融点が1200℃以上の金属を意味する。また、希土類金属元素とは、ランタノイド元素、即ちLaからLuまでの15元素およびスカンジウムとイットリウムを含む意味である。これらのうち、特にTi、Ta、Mnの高融点金属元素を含有するAl合金を用いることによって耐熱性が高められ、更に使用環境によって存在するハロゲン、塩水などによる腐食に対する耐食性も向上する。また、合金成分として、Cu、Ge、Zr、NiなどのAlに対して貴な電極電位を有する元素を含有することも好ましい。これにより、例えば後述する実施の態様3のように、Al合金電極と透明電極が接する構造を用いた場合、Al合金薄膜と透明電極との接続界面における電池反応を抑制し、電解腐食を抑制することができる。
【0043】
これらの中でも、より好ましくはNd、Cu、Mn、Ta、Ge、La、Zr、およびNiよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むAl合金膜である。
【0044】
上記第1層のAl合金膜の合金元素含有量は、次の通りとすることが好ましい。即ち、該合金元素含有量の下限は、上述した耐熱性と耐食性を確保するため、前記高融点金属元素、希土類金属元素、およびAlよりも貴な電極電位を有する元素のうちの、少なくとも一種以上の元素を、合計で0.1原子%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.2原子%以上である。
【0045】
一方、上記合金元素含有量の上限は、低シート抵抗を実現するために次の通りとすることが好ましい。即ち、前記希土類金属元素や前記高融点金属元素を含有させる場合には、該希土類金属元素の合計含有量の上限と、該高融点金属元素の合計含有量の上限を、それぞれ2原子%以下とすることが好ましく、それぞれ1原子%以下とすることがより好ましい。前記Alよりも貴な電極電位を有する元素を含有させる場合には、該元素の合計含有量の上限を、3原子%以下とすることが好ましく、より好ましくは2原子%以下である。また前記高融点金属元素、希土類金属元素、およびAlよりも貴な電極電位を有する元素の合計含有量は、3原子%以下とすることが好ましく、より好ましくは2原子%以下である。
【0046】
上記第1層の膜厚は、積層構造としたときのシート抵抗値を所定範囲まで下げるため、50nm以上であることが好ましい。第1層の膜厚が50nmを下回ると、所望とするシート抵抗値を得ることが難しい。より好ましくは100nm以上である。しかし、上記第1層の膜厚が400nmを超えると、リン硝酢酸系エッチング液によるウェットエッチング加工性や製造性が低下する虞があるため、第1層の膜厚を400nm以下とすることが好ましい。より好ましくは300nm以下である。
【0047】
本発明に用いられる第2層は、Alと;Mn、Cu、Ti、およびTaよりなる群から選択される少なくとも一種の元素(以下、X群元素と呼ぶ場合がある。)と;を含むAl合金(以下、Al−X合金と呼ぶ場合がある。)の一部が窒化(以下、Al−X合金−N層と略記する場合がある)している層である。上記Al−X合金として、MnおよびCuよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むAl合金の使用がハロゲン、塩水などに対する耐食性向上の観点から好ましい。
【0048】
前記第2層は、波長450nm、波長550nm、および波長650nmの消衰係数が0.15以上を満足していることが好ましい。また前記第2層は、波長450nm、波長550nm、および波長650の屈折率が1.0以上であることが好ましい。前記第2層として、このように消衰係数が高く、かつ屈折率の高いAl−X合金−N層を使用することによって、積層構造全体の反射率を低減することができる。
【0049】
更に、上記第2層の電気抵抗率は、好ましくは1.0kΩ・cm以下である。第2層の電気抵抗率がこの様に抑えられることによって、本発明の電極を例えばタッチパネルに適用した場合であってタッチセンサー信号を受信するIC(Integrated Circuit)と接合した際に、直列抵抗を十分に小さくすることができ、信号強度に悪影響を与えない。上記第2層の電気抵抗率が1.0kΩ・cmよりも大きい場合、積層構造の膜厚によってはICとのコンタクトに悪影響を与えてしまい、信号受信強度が小さく、ノイズ等の影響を受けやすくなる。
【0050】
これに対し、特許文献1のように金属の酸化物を用いると、反射率を低減できたとしても、電気抵抗率が増加してしまう。また、上記Al−X合金でなく、純Alの一部が窒化されたAl−N層を用いた場合、消衰係数が低くなり、積層構造全体の反射率が低下する(後記する実施例を参照)。
【0051】
本明細書において「その一部が窒化されている」とは、所望の効果が有効に発揮されるよう、上記Al合金中に少なくとも窒素原子を含有していれば良く、必ずしも、化学量論組成を満足する窒化物である必要はない。
【0052】
例えば、上記Al−X合金の窒化物をAl−X−Nyで表した場合、Al原子とX群元素原子と窒素原子との総和を分母としたときの、窒素原子の含有比率yは、14原子%以上57原子%以下の範囲内とすることが挙げられる。以下、この「窒素原子の含有比率y」を「窒素原子比率」ということがある。後述する実施例の表1のNo.D、10およびWに示す通り、窒素原子比率が58原子%の場合は、所望とする消衰係数が得られない場合があるが、窒素原子比率を57原子%以下とすることによって所望とする消衰係数が得られやすくなる。所望とする消衰係数をより確実に得るには、前記窒素原子比率の下限を20原子%以上とすることが好ましく、また上限を好ましくは56原子%以下、より好ましくは50原子%以下、更に好ましくは40原子%以下とするのがよい。Alは窒化によってAlと窒素原子が1対1で化合したAlNを形成する。そのため、化学量論組成まで窒化されるには50原子%以上の窒素原子が必要になる。本発明では、化学量論組成に達しない程度の窒素原子を含むことがより好ましく、つまりは、膜中に金属AlまたはX群元素が金属として分散し、金属状態のAlやX群元素と;AlやX群元素の窒化物と;が混在している状態であることがより好ましい。
【0053】
上記第2層の膜厚は、Al−X合金の組成などに基づいて決定される消衰係数に応じて、所望とする消衰係数や低電気抵抗率が得られるよう、適切に制御することが好ましい。後記する表1に示すように、Al中に同じX群元素を含む場合、X群元素の含有量が多い程、Al−X合金−N層における消衰係数も大きくなるため、当該Al−X合金−N層の膜厚を薄くしても、積層構造全体の反射率を低く抑えることができる。逆に、X群元素の含有量が少ない程、Al−X合金−N層における消衰係数も小さくなるため、当該Al−X合金−N層の膜厚を厚くしないと、積層構造全体の反射率を低く抑えることができない。例えば、後記する実施例において、第2層に用いたAl−7原子%Cu合金の窒化物(表2、3、5および6に「Al−7at%Cu−N」と記載)とAl−17原子%Cu合金の窒化物(表2や表3に「Al−17at%Cu−N」と記載)の消衰係数を比較すると、後記する表1に示すように、Al−17at%Cu−Nの方がAl−7at%Cu−Nに比べて大きい。そのため、消衰係数が大きいAl−17at%Cu−Nを用いた場合は、その膜厚を少なくとも10nm超にするだけで、積層構造としたときの低反射率を確保できるのに対し、消衰係数が小さいAl−7at%Cu−Nを用いた場合は、その膜厚を少なくとも100nm超にしないと、積層構造としたときの高反射率を確保することができない(後記する表2を参照)。
【0054】
上記第2層に含まれるX群元素の好ましい含有量は元素の種類によって異なるが、Cuであれば、5原子%以上30原子%以下含むことが好ましく、より好ましくは7原子%以上20原子%以下である。Mnであれば、30原子%以上80原子%以下含むことが好ましく、より好ましくは40原子%以上80原子%以下である。Tiであれば、1原子%以上20原子%以下含むことが好ましく、より好ましくは2原子%以上15原子%以下である。Taであれば、5原子%以上30原子%以下含むことが好ましい。各元素の含有量が好ましい上限値を超えても光学特性や電気抵抗率は満足するが、薄膜形成に用いるスパッタリングターゲットを容易に製造する観点から、また、第1層、第2層および第3層の積層膜の配線加工を容易に行う観点からは、上記の組成範囲とすることが好ましい。
【0055】
また、上記第2層中の窒素原子比率やAl合金中のX群元素の含有量は、第2層内の膜厚方向において、一定であっても良いし、変化しても良い、すなわち、濃度分布を有していても良い。本発明において、上記第2層は積層構造の光学調整としての役割を担っており、所望とする消衰係数を有する限り、第2層中の窒素原子比率や合金元素の分布は問わない。
【0056】
本発明に用いられる第3層は透明導電膜で構成される。上記第3層は、前述した第2層と合わせて、本発明に係る積層構造の光学調整層として有効に作用する層であり、これにより、低反射率を実現することができる。上記透明導電膜としては、本発明の技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されないが、InとSnを少なくとも含む酸化物からなる透明導電膜、またはInとZnを少なくとも含む酸化物からなる透明導電膜、例えば、ITO(In−Sn−O)、IZO(In−Zn−O)などが、好ましく用いられる。
【0057】
上記第3層の膜厚は、前述した第1層と第2層からの反射光の位相を調整して積層膜の反射率が最小になるように、また、ウェットエッチング加工性などが確保されるよう、適切に制御することが好ましい。
【0058】
透明基板は、本発明の技術分野に通常用いられ、透明性を有するものであれば特に限定されず、例えば、カラーフィルタ基板やカバーガラスを構成する、ガラス基板、フィルム基板、プラスチック基板、石英基板などが挙げられる。
【0059】
本発明の電極は、所望とする低シート抵抗および低反射率の更なる向上を目的として、或いは、他の特性向上を目的として、公知の膜を介在させることもできる。以下に、五層構造からなる本発明電極の、好ましい実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0060】
実施の態様1C:第1層、第2層、第3層およびMo膜の五層構造の電極
図6は、本発明の電極の別の構造例を示す概略断面図である。この電極構造20Cは、本発明に係る電極の好ましい実施形態の一つであり、上述した
図5の電極構造20Bにおいて、第1層21を構成するAl/Al合金膜の上下にMo膜25を積層したもの(五層構造)である。Mo膜25は、密着性や耐熱性などの特性を向上させる膜として知られており、本発明でも好ましく用いられる。尚、
図6では、第1層21の上下共にMo膜25を積層しているが、第1層21の上または下のいずれかにMo膜25が形成されていてもよい。
【0061】
以下、実施の態様2〜4について説明するが、第1層21、第2層22、第3層23、その他の層や透明基板20については、上記実施の態様1と同じである。
【0062】
実施の態様2:入力装置例その1における断面構造例その2
前記
図2の点線A1−A1における断面構造の他の例として、
図7の断面構造が挙げられる。
図7は、
図2の入力装置10を、
図1に示す液晶表示装置のカラーフィルタ基板4に搭載した構造の別の一例を示す概略断面図である。
【0063】
図7では、複数の第2の金属電極12はカバーガラス14の裏面に接するように設けられ、複数の第1の金属電極11は、カラーフィルタ基板4の直上ではなく第2の絶縁層13Bに接するように設けられている。この点が
図3と異なっている。
【0064】
詳細には
図7では、カラーフィルタ基板4の上に第1の絶縁層13Aが配置される。第1の絶縁層13Aの上部にカラーフィルタ基板と接することなく、行ごとにX方向に配される複数の第1の金属電極11が配置される。複数の第1の金属電極11の上には第2の絶縁層13Bが配置される。さらに列ごとにY方向に配される複数の第2の金属電極12が、第2の絶縁層13Bの上部に配置される。複数の第2の金属電極12は、カバーガラス14に接するように配置される。
【0065】
前記
図7における第1の金属電極11や第2の金属電極12として、本発明の電極を好適に用いることができる。以下では、前記
図7の第2の金属電極12を例として、その電極構造の具体例を
図8、
図9および
図10に示しながら、本発明に係る電極の好ましい実施形態を詳しく説明する。
図8〜10の透明基板24は、前記
図7のカバーガラス14に相当する。但し、本発明の電極はこれらの図に限定されない。
【0066】
実施の態様2A:第1層と第2層の二層構造からなる電極
図8は、本発明の電極の別の構造例を示す概略断面図である。
図8の電極構造20Eにおいて、透明基板24には、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22、Al膜またはAl合金膜からなる第1層21が少なくとも形成される。本態様では、第1層21のAl合金膜層が視認されないように、光学調整層である第2層22が、透明基板24側により近い位置に設けられる。
【0067】
実施の態様2B:第1層、第2層および第3層からなる三層構造の電極
図9は、本発明の電極の別の構造例を示す概略断面図である。
図9の電極構造20Fにおいて、透明基板24には、透明導電膜からなる第3層23、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22、そしてAl膜またはAl合金膜からなる第1層21が少なくとも形成されている。この積層構造において第2層22、第3層23の順序は入れ替わってもよい。
【0068】
実施の態様2C:第1層、第2層、第3層およびMo膜の五層構造の電極
図10は、本発明の電極の別の構造例を示す概略断面図である。
図10の電極構造20Gは、本発明に係る電極の好ましい実施形態の一つであり、上述した
図9の電極構造20Fにおいて、第1層21を構成するAl/Al合金膜の上下にMo膜25を積層した五層構造である。Mo膜25の効果は、上記
図6で説明した通りである。この
図10では、第1層21の上下共にMo膜25を積層しているが、第1層21の上または下のいずれかにMo膜が形成されていてもよい。
【0069】
(2)入力装置例その2
図11は、静電容量型のタッチパネルにおける入力装置の別の一例を示す概略平面図である。
図11の入力装置30では電極がダイヤ形状の透明電極となっている。詳細には、透明基板33と、透明基板33の上部に、行ごとにX方向に配されるダイヤ形状を有する複数の第1の電極パターン31Aと、第1の透明電極31A間を接続する第1のブリッジ電極31Bと、列ごとにY方向に配されるダイヤ形状を有する複数の第2の電極パターン32Aと、第2の透明電極32A間を接続する第2のブリッジ電極32Bが設けられる。第1の電極パターン31Aおよびブリッジ電極31Bからなる第1の透明電極と、第2の電極パターン32Aおよびブリッジ電極32Bからなる第2の透明電極とは、図示しない絶縁層により互いに絶縁される。それぞれの電極パターンは、外周配線31Cや32Cを介して、図示しない制御部に接続される。
【0070】
図11の構成では、スクリーンへ指などが接触した際に、第1の電極パターン31Aと第2の電極パターン32Aとの間に生じるキャパシタンスの変化を通じてユーザのタッチ位置を検出する。
【0071】
第1の電極パターン31Aおよび第2の電極パターン32Aには、一般的に透明導電性材料が用いられる。具体的には例えば、ITO(In−Sn−O)や、IZO(In−Zn−O)などの金属酸化物が挙げられる。
【0072】
本構成は、それぞれの電極パターン間を接続するブリッジ電極31B、32Bや入力装置の外周配線31C、32Cに、抵抗の小さい金属電極を用いることによって、検出能の高い入力装置を形成することができる特徴を有する。
【0073】
なお、本構成は、入力装置を液晶セルと別個に形成する、入力装置外付型、すなわちアウトセル構造型の液晶表示装置において適用することが可能である。アウトセル型構造は、カバーガラス、タッチパネル、ディスプレイをそれぞれ個別に作成して接着するので製造方法がシンプルという特徴を有しており、広く一般的に使用されている。
【0074】
図12は、入力装置外付型の液晶表示装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図12に示す液晶表示装置40は、カバーガラス41、タッチパネル42、ディスプレイ43を有している。タッチパネル42として上述した
図11の構造の入力装置が用いられうる。カバーガラス41、タッチパネル42、ディスプレイ43のそれぞれは、OCA(Optically Clear Adhesive、光学透明両面)テープ、もしくはOCR(Optical clear resin、光学透明樹脂)などの接着層44によって接着されている。ディスプレイ43には、図示していないがカラーフィルタ基板、液晶、TFT基板、バックライトユニット等が配設される。
【0075】
実施の態様3:入力装置例その2における断面構造例その1
前記
図12の断面構造の一例として、
図13の断面構造50が挙げられる。この
図13は、前記
図12におけるカバーガラス41、このカバーガラス41と接する接着層44、およびタッチパネル42の断面構造の一例を示すものである。
図13における矢印は、表面側から見る方向を示す。
図13に示すように、第1の透明基板に該当するカラーフィルター4には、X方向に配される第1の透明電極52と、Y方向に配される第2の透明電極53が設けられる。座標の検出は互いの透明電極52,53間における静電容量の変化に基づき行う。第1の透明電極52A、および第2の透明電極53はそれぞれが接触しないよう、絶縁層54により分離される。
図13において第1のブリッジ電極52Bは、第1の透明電極52A間を電気的に接続している。接着層44は、第2の透明基板であるカバーガラス41と、それぞれの透明電極およびブリッジ電極などを接合する層である。接着層は、OCAやOCRなどの透明粘着層であり、アクリル系粘着材などが用いられる。
【0076】
前記
図13における第1のブリッジ電極52Bとして、本発明の電極を好適に用いることができる。以下では、前記
図13のA2−A2における断面構造の好ましい例として、
図14、
図15および
図16の構造を示しながら、本発明に係る電極の好ましい実施形態を詳しく説明する。
【0077】
実施の態様3A:第1層と第2層の二層構造からなる電極
図14は、本発明の電極の別の構造例を示す図である。
図14の電極構造20Hにおいて、透明基板24上には、静電容量を形成する透明電極26、Al膜またはAl合金膜からなる第1層21、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22が少なくとも形成されている。
【0078】
実施の態様3B:第1層、第2層および第3層からなる三層構造の電極
図15は、本発明の電極の別の構造例を示す図である。
図15の電極構造20Iにおいて、透明基板24上には、透明電極26、Al膜またはAl合金膜からなる第1層21、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22、透明導電膜23からなる第3層が形成されている。なお、この積層構造では第2層22、第3層23の順序を入れ替えることが可能である。
【0079】
実施の態様3C:第1層、第2層、第3層およびMo膜の五層構造の電極
図16は、本発明の電極の別の構造例を示す図である。
図16の電極構造20Jは、上述した
図15の電極構造20Iにおいて、第1層21を構成するAl/Al合金膜の上下にMo膜25を積層した五層構造である。Mo膜25の効果は、上記
図6で説明した通りである。この
図16では、第1層21の上下共にMo膜25を積層しているが、第1層21の上または下のいずれかにMo膜25が形成されていてもよい。
【0080】
なお、前記の
図14、
図15および
図16に示す電極の積層構造は、透明基板24と本発明の電極との間に透明電極26が介在している例を示しているが、これに限定されず、例えば、透明電極26の代わりにまたは透明電極26と共に、絶縁層や接着層などが介在する場合や、透明基板と本発明の電極が直接接触する場合も含まれる。
【0081】
実施の態様4:入力装置例その2における断面構造例その2
前記
図12の断面構造の他の一例として、
図17の断面構造60が挙げられる。
図17において前記
図12と同一箇所には同一符号を付している。
図17の断面構造60では、第2の透明基板、即ちカバーガラス41の裏面側に、透明電極52Aや53、絶縁層54、および第1のブリッジ電極52Bとして金属電極が設けられており、この点が前述の実施の態様3と異なる。
図13における矢印は、表面側から見る方向を示す。
図17に示すように、接着層44は、第1の透明基板であるカラーフィルタ基板と、これに対向する第1、第2の透明電極52A、53および第1のブリッジ電極52Bを接合する層として設けられる。
【0082】
前記
図17における第1のブリッジ電極52Bとして、本発明の電極を好適に用いることができる。以下では、前記
図17のA3−A3における断面構造の好ましい例として、
図18、
図19および
図20の構造を示しながら、本発明の電極の好ましい実施形態を詳しく説明する。
【0083】
実施の態様4A:第1層と第2層の二層構造からなる電極
図18は、本発明の電極の別の構造例を示す図である。
図18の電極構造20Kにおいて、透明基板24には、静電容量を形成する透明電極26、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22、Al膜またはAl合金膜からなる第1層21が少なくとも形成されている。本態様では、第1層21のAl/Al合金膜が視認されないように、光学調整層である第2層22が、視認される側、すなわち透明基板により近い位置に設けられる。
【0084】
実施の態様4B:第1層、第2層および第3層からなる三層構造の電極
図19は、本発明の電極の別の構造例を示す図である。
図19の電極構造20Lにおいて、透明基板24には、静電容量を形成する透明電極26、透明導電膜からなる第3層23、一部が窒化しているAl合金からなる第2層22、およびAl膜またはAl合金膜からなる第1層21が少なくとも形成される。本態様では、第1層21のAl合金膜層が視認されないように、光学調整層である第2層22、第3層23が、視認される側、すなわち透明基板24により近い位置に設けられる。なお、この積層構造において第2層22、第3層23の順序は入れ替わっていてもよい。
【0085】
実施の態様4C:第1層、第2層、第3層およびMo膜の五層構造の電極
図20は、本発明の電極の別の構造例を示す図である。
図20の電極構造20Mは、上述した
図19の電極構造20Lにおいて、第1層21を構成するAl/Al合金膜の上下にMo膜25を積層した五層構造である。Mo膜25の効果は、上記
図6で説明した通りである。この
図20では、第1層21の上下共にMo膜25を積層しているが、第1層21の上または下のいずれかにMo膜25が形成されていてもよい。
【0086】
以上、本発明の電極について詳述した。
【0087】
本明細書において「電極」は電極形状に加工する前の配線も含む。上述したように本発明の電極は、低いシート抵抗と低い反射率を兼ね備えているため、入力装置の入力領域に用いられる電極のみならず、当該電極を延長してパネル外周部の配線領域にも適用可能である。
【0088】
前述した実施の態様1および実施の態様2では、検出用電極および駆動用電極を金属電極により形成し、入力装置を液晶のカラーフィルタとカバーガラスの間に形成する、いわゆるオンセル型構造に適用する例を示し、その構成を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0089】
また、前述の実施の態様3および実施の態様4では、検出用電極および駆動用電極を透明電極とし、前記透明電極間のブリッジ電極を金属電極により形成する入力装置を、液晶セルとは別個に形成する、いわゆるアウトセル型構造に適用する例を示し、その構成を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものでもない。
【0090】
本発明の電極は、例えば液晶表示装置内、例えばTFT基板とカラーフィルタ基板の間に入力装置の電極を組み込んだいわゆるインセル型構造に適用することも可能である。このように本発明は前記実施の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0091】
また本発明の電極が適用される入力装置には、タッチパネルなどのように表示装置に入力手段を備えた入力装置;タッチパッドのような表示装置を有さない入力装置の両方が含まれる。具体的には上記各種表示装置と位置入力手段を組み合わせ、画面上の表示を押すことで機器を操作する入力装置や、位置入力手段上の入力位置に対応して別途設置されている表示装置を操作する入力装置の電極にも本発明の電極を用いることができる。上記入力装置には、本発明の電極に加えて、上記に例示した通り、透明基板、透明電極、接着層、絶縁膜等が含まれうるが、これらは、タッチパネルやタッチパッド等で用いられているものを採用することができる。
【0092】
次に、本発明の電極を製造する方法について説明する。以下では前述の実施の態様1Aを例に製造方法を説明する。
【0093】
上述した積層構造を有する電極を製造するに当たっては、細線化や膜内の合金成分の均一化、更には添加元素量の制御のし易さなどの観点から、スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法にて成膜することが好ましい。
【0094】
特に本発明の電極を特徴付ける第2層を構成するAl−X合金−N層を成膜するには、例えば後にも示す通り、Alスパッタリングターゲットと所望のX群元素を含むスパッタリングターゲットのコスパッタ法;Alスパッタリングターゲット上に所望の元素を含む金属チップをチップオンして成膜する方法などが挙げられる。或いは、所望の組成になるよう合金ターゲットを用いてもよい。
【0095】
生産性および膜質制御などの観点を考慮すると、窒素ガスを含む反応性スパッタリング法を採用することが好ましい。すなわち、本発明に係る電極の製造方法は、窒素ガスを含む反応性スパッタリング法によって上記第2層を構成するAl−X合金−N層を成膜するところに特徴がある。
【0096】
上記第2層を成膜するための反応性スパッタリング法の条件は、例えば、使用するAl合金の種類や導入したい窒素原子比率などに応じて適切に制御すれば良いが、以下のように制御することが好ましい。
・基板温度:室温〜400℃
・雰囲気ガス:窒素ガス、Arガス
・成膜時の窒素ガス流量:Arガスの5〜50%
・スパッタパワー:100〜500W
・到達真空度:1×10
-6Torr以下
【0097】
使用するスパッタリングターゲットは、成膜したい第2層に対応するAlまたはAl合金のスパッタリングターゲットを用いれば良い。Al−X合金−N層を成膜する場合、使用するスパッタリングターゲットとして、成膜したい第2層を構成する金属元素を含む複数のスパッタリングターゲットを用いてもよい。スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状、例えば角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状、円筒状などに加工したものを用いることができる。
【0098】
但し、第2層の成膜方法は上記方法に限定されない。例えば、予め窒化処理された、Al窒化物またはAl合金窒化物のスパッタリングターゲットを用い、Ar等の希ガス元素のみを含む雰囲気、即ち窒素ガスの導入なしでスパッタリングし、所望とする第2層を成膜してもよい。または、所望のAl合金と同じ組成の合金スパッタリングターゲットを用い、かつ雰囲気ガスとして窒素ガスを用いてスパッタリングし、所望とする第2層を成膜してもよい。または、前記合金スパッタリングターゲットの代わりに、組成の異なる二つ以上の純金属ターゲットや合金ターゲットを用い、これらを同時に放電させて第2層を成膜してもよい。第2層中の窒素原子比率を制御する方法として、たとえば、X群元素の種類や添加量を変えたり、成膜時のプロセスガス中の窒素ガスの流量を調整したり、Al合金窒化物ターゲットの窒素原子の含有量を調整することが挙げられる。
【0099】
本発明は上記第2層の成膜方法に特徴があり、それ以外の各層の成膜方法は、本発明の技術分野において通常用いられる方法を適宜採用することができる。
【0100】
上記製造方法では、例として前述の実施の態様1Aに係る電極の製造方法を示したが、他の実施の態様においても、上記第1層と第2層の形成順序を替えて製造することができる。また、第3層である透明導電膜や、更に積層させるMo膜、透明電極を構成する酸化物層等を、公知の方法で形成することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。即ち、以下では、前述の実施の態様1と実施の態様2に係る例を示しているが、本発明の電極を他の実施の態様に適用した場合も同様の効果を奏する。
【0102】
[実施例1]
本実施例では、透明基板側から順に、第1層、第2層および第3層を積層させた構造の試料を作製した。前記第2層として表1に記載のAl−N層またはAl−X合金−N層を用い、表2または表3に示す積層膜の試料を成膜し、反射率およびシート抵抗を測定し、またリン酸硝酢酸系エッチング液によるウェットエッチング加工性の評価を行った。以下では、透明基板側から順に、第1層、第2層、第3層を成膜する方法を順番に説明する。
【0103】
(1)試料の作製
(1−1)第1層の成膜
まず、透明基板として無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を用い、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表2または表3に示す第1層を成膜した。成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10
-6Torrに調整してから、上記金属膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:30sccm
・スパッタパワー:250W
・基板温度:室温
【0104】
(1−2)第2層の成膜
〔第2層が表1のNo.1〜11〕
第2層が表1に記載の組成となるよう、所望組成の合金ターゲットを用い、以下の条件で、窒素ガスとの反応性スパッタリング法による成膜を行なうか、または前記合金ターゲットの代わりに、純AlターゲットとX群元素からなるターゲットとを用いて、窒素ガスとの反応性スパッタリングを行う、コスパッタ法により成膜を行なって、Al−N層、またはAl−X合金−N層としてAl−Ti合金−N層、Al−Ta合金−N層、Al−Mn合金−N層もしくはAl−Cu合金−N層を形成した。本実施例において、表2では、第2層成膜時のArガス流量を一定とし、窒素ガス流量を下記の通りとした。また表3では下記の通り、第2層成膜時のArガス流量と窒素ガス流量は一定とした。表1の「成膜方法」の欄において、前記合金ターゲットを用いて成膜した場合を「1ターゲット」と示し、前記コスパッタ法により成膜した場合を「コスパッタ」と示す。
(反応性スパッタリング条件)
・ガス圧:2mTorr
・Arガス流量:10sccm
・窒素ガス流量:表2のNo.1〜22は3sccm、表3は5sccm
・スパッタパワー:500W
・基板温度:室温
【0105】
〔第2層が表1のNo.A〜C〕
純AlとAl−20原子%Tiターゲットを用い、表1の組成になるように、成膜パワー比を変えてコスパッタ法により薄膜を形成した。その他のスパッタリング条件は以下の通りである。
・ガス圧:2mTorr
・Arガス流量:14sccm
・窒素ガス流量:7sccm
・スパッタパワー:500W
・基板温度:室温
【0106】
〔第2層が表1のNo.D〜F〕
純AlとAl−30原子%Taターゲットを用い、表1の組成になるように、成膜パワー比を変えてコスパッタ法にて薄膜を形成した。その他のスパッタリング条件は以下の通りである。
・ガス圧:2mTorr
・Arガス流量:14sccm
・窒素ガス流量:7sccm
・スパッタパワー:500W
・基板温度:室温
【0107】
〔第2層が表1のNo.G〜M〕
Al−17原子%Cu合金ターゲットを用い、ガス圧:2mTorr、スパッタパワー:500W、Arガスと窒素ガスの合計流量に対する窒素ガス流量の比率:9%〜44%、基板温度:室温の条件で成膜した。
【0108】
〔第2層が表1のNo.N〜R〕
Al−12原子%Cu合金ターゲットを用い、ガス圧:2mTorr、スパッタパワー:500W、Arガスと窒素ガスの合計流量に対する窒素ガス流量の比率:9%〜44%、基板温度:室温の条件で成膜した。
【0109】
〔第2層が表1のNo.S〜X〕
Al−7原子%Cu合金ターゲットを用い、ガス圧:2mTorr、スパッタパワー:500W、Arガスと窒素ガスの合計流量に対する窒素ガス流量の比率:9%〜44%、基板温度:室温の条件で成膜した。
【0110】
尚、後述する第2層の光学定数および電気抵抗率の測定、ならびに第2層の窒素原子比率の分析には、試料として、無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)に、前記第2層のみを前記条件で成膜したものを用いた。また、第1層の電気抵抗率の測定用に、前記第1層のみを前記条件で成膜したものも用意した。
【0111】
(1−3)第3層の成膜
上記のようにして第2層のAl−N層またはAl−X合金−N層を成膜した後、引き続き、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、下記のスパッタリング条件で、透明導電膜としてIZO膜を成膜した。透明導電膜の成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10
-6Torrに調整してから、透明導電膜と同一組成であって直径4インチの円盤型のIZOスパッタリングターゲットを用いた。
(スパッタリング条件)
・ガス圧:2mTorr
・Arガス流量:18sccm
・O
2ガス流量:1sccm
・スパッタパワー:250W
・基板温度:室温
【0112】
このようにして得られた積層膜の反射率、シート抵抗、およびウェットエッチング加工性を以下のようにして測定した。また、第2層の窒素原子比率、光学定数として屈折率と消衰係数、および電気抵抗率を以下のようにして測定した。
【0113】
(2)第2層の窒素原子比率の分析
表1に示す第2層の一部の窒化状態を調べるため、パ−キン・エルマ−社製のPHI650走査型オージェ電子分光装置を用いて、エネルギー:3keV、電流:約50nAの電子線を角度75°で第2層の表面に照射し、AES(Auger Electron Spectroscopy)スペクトル(オージェスペクトルともいう)を測定した。第2層の深さ方向については、Ar
+のイオンスパッタでエッチングしながら、上記の条件で同様に測定を行った。上記方法で測定したAl原子とX群元素原子と窒素原子との総量を分母としたときの、窒素原子の含有比率を、第2層中の窒素原子比率として求めた。その結果を表1の「窒素原子比率」の欄に記載する。
【0114】
(3)第2層の光学定数(屈折率と消衰係数)の測定
上記の方法で得られた第2層の単膜について、J.A.Woollam.Japan社製 分光エリプソメーターM−2000Uを用い、光学定数として屈折率と消衰係数を測定した。そして本実施例では、λ=450nm、550nm、650nmのいずれの波長域においても全て消衰係数が0.15以上、かつλ=450nm、550nm、650nmのいずれの波長域においても全て屈折率が1.0以上の場合を合格とした。
【0115】
(4)第2層の電気抵抗率の測定
4端子法で電気抵抗率を測定した。尚、表1において、例えばNo.1の「4.22E−03」は、4.22×10
-3を意味する。
【0116】
(5)第1層の電気抵抗率の測定
4端子法で電気抵抗率を測定した。本実施例では、第1層の電気抵抗率が20μΩ・cm以下のものを合格と評価した。その結果を表4に示す。表4から本実施例で用いたAl合金膜はいずれも電気抵抗率が20μΩ・cm以下であることがわかる。
【0117】
(6)積層膜の反射率の測定
上記の方法で得られた積層膜の反射率について、日本分光社製V−570分光光度計を用い、450nm、550nm、650nmでの絶対反射率を測定して求めた。波長450nm、550nm、650nmでの反射率がいずれも50%以下のものを合格、即ち低反射率に優れると評価し、一つでも50%超のものを不合格と評価した。
【0118】
(7)積層膜のシート抵抗の測定
4端子法でシート抵抗を測定した。本実施例では、シート抵抗が2.0Ω/□以下のものを合格と評価した。
【0119】
(8)積層膜の、リン酸硝酢酸系エッチング液によるウェットエッチング加工性の評価
リン酸375mL、硝酸15.7mL、酢酸72.9mL、水36.3mLを混合してリン硝酢酸系エッチング液を調整した。このようにして得られたリン硝酢酸系エッチング液を用いて上記積層膜をエッチング加工し、
図21および
図22に示すような順テーパー形状が得られたものをOK、即ちウェットエッチング加工性に優れると評価し、順テーパー形状が得られないものをNGと評価した。
【0120】
これらの結果を表1〜4に示す。表1の最右欄に「評価」の欄を設け、屈折率と消衰係数の全てが合格のものは「OK」と評価し、いずれか一つが不合格のものは「NG」と評価した。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2-1】
【0123】
【表2-2】
【0124】
【表3】
【0125】
【表4】
【0126】
まず、表1を参照する。表1には、純Alまたは種々のAl−X合金(X合金=Ti、Ta、MnまたはCu)の一部を窒化したAl−N層またはAl−X合金−N層の、屈折率および消衰係数の結果を示している。尚、電気抵抗率の結果も併せて示している。
【0127】
表1より、X群元素が同じ元素である場合、Al中に含まれるX群元素の含有量が多くなるに伴い、消衰係数は増加することが分かる。これらのうち、X群元素として43原子%以上のMnを含むAl−Mn−N層は、いずれの波長域においても消衰係数が高く、本発明における第2層として好適に用いられることが分かる。
【0128】
これに対し、純Alの一部を窒化したAl−N層の消衰係数はいずれの波長域においても低い。すなわち、AlNは、本発明における第2層として適さないことが分かる。
【0129】
次に表2および表3に基づき、考察する。
【0130】
表2のNo.2〜6、8、9、11〜16、19、b、c、e〜i、k〜m、o〜qおよび表3の27〜48はいずれも、本発明の要件を満足する本発明例であり、積層膜の反射率およびシート抵抗の両方を低く抑えることができた。また、ウェットエッチング加工性も良好であった。
【0131】
これに対し、表2のNo.1は第1層の膜厚が本発明の好ましい下限の50nmを外れて薄いため、シート抵抗が増加した。
【0132】
表2のNo.7は、第2層として、表1のNo.5のAl−36原子%Mn−Nを用いた例である。No.7の膜厚200nmでは積層膜の反射率を50%以下にすることができず、反射率を小さくするにはNo.8の通り積層膜厚400nmとする必要がある。
【0133】
また、表2のNo.a、d、j、n、およびrは、表1に示す通り消衰係数の小さい第2層を用いているため、積層膜の反射率を50%以下に低減することはできなかった。これらのことから、表2の上記例で形成された表1のNo.A、D、M、R、およびXは、本発明における第2層として適さないことが分かる。
【0134】
表2のNo.10は、No.11〜15と同様、第2層としてAl−17原子%Cu−Nを用いた例であるが、No.11〜15に比べて第2層の膜厚が薄いため、積層膜としたときの反射率が増加した。
【0135】
表2のNo.17、18は、No.19と同様、第2層としてAl−7原子%Cu−Nを用いた例であるが、No.19に比べて第2層の膜厚が薄いため、積層膜としたときの反射率が増加した。
【0136】
表2のNo.20は第2層としてAl−Nを用いたため、450nm、550nmおよび650nmの全ての波長域での積層膜の反射率が増加した。
【0137】
表2のNo.21およびNo.22は、第2層および第3層として本発明に規定する要件を満足するものを用いたが、第1層としてそれぞれ、AgおよびCuを用いたため、ウェットエッチング加工性が低下した。詳細には、これらは反射率およびシート抵抗はいずれも、本発明の合格基準を満足するが、リン硝酢酸系エッチング液への溶解性が高いため、第1層部分がオーバーエッチングされ、加工性が低下した。
【0138】
また、表2のNo.g〜jは、第2層であるAl−17原子%Cu−N薄膜を、窒素ガス流量を変えて成膜した例であり、表1に示す通り第2層の窒素原子比率が異なっている。このNo.g〜jの対比から、X群元素が比較的多く含まれて大きい消衰係数の得られやすいAl−17原子%Cu−Nであっても、第2層の窒素原子比率が多くなると消衰係数が小さくなる傾向にあり、反射率を十分に抑えることは難しいことがわかる。第2層の窒素原子比率が多くなると消衰係数が小さくなる傾向は、第2層がAl−12原子%Cu−Nである表2のNo.k〜nと、第2層がAl−7原子%Cu−NであるNo.o〜rにおいてもみられる。
【0139】
表3では、種々の成分の第1層を形成、但しNo.27とNo.38、No.28とNo.39…とは同じ成分の第1層を形成し、第2層として、表3のNo.27〜37ではAl−17原子%Cu−Nを形成し、No.38〜48ではAl−7原子%Cu−Nを形成した例である。尚、No.27〜48はいずれも、第3層の成分、第1層〜第3層の膜厚、および第2層の成膜方法は同じとした。この表3において、例えばNo.27とNo.38、No.28とNo.39、…No.37とNo.48の組み合わせの様に、第1層が同一膜であって第2層が異なる例を比較すると、第2層として、前記表1の通り450nm、550nmおよび650nmの全ての波長域での消衰係数が大きいAl−17原子%Cu−Nを形成したNo.27〜37の方が、No.38〜48の積層膜よりも反射率が抑えられていることがわかる。
【0140】
図21〜
図23に、表2のNo.4(本発明例、
図21)、No.16(本発明例、
図22)、およびNo.21(比較例、
図23)のそれぞれについて、リン硝酢酸系エッチング液によるウェットエッチング加工後の断面形状を示す。これらの図に示すように、第1層の種類によってウェットエッチング加工後の断面形状は大きく異なることが分かる。詳細には、第1層にAl−1.0原子%Cu−1.0原子%Mnを使用した表2のNo.4およびNo.16のように、本発明において好ましく用いられる第1層を使用することにより、いずれも順テーパー形状が得られており、ウェットエッチング加工性に優れることが分かる。これに対し、表2のNo.21のように第1層としてAgを使用すると、Ag薄膜部分が大幅にオーバーエッチングされていることが分かる。
【0141】
[実施例2]
本実施例では、透明基板側から順に、第3層、第2層および第1層を積層させた構造、または透明基板側から順に、第2層および第1層を積層させた構造の試料を、下記の通り作製した。
【0142】
(1)試料の作製
(1−1)第3層の成膜
まず、透明基板として無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を用い、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表5または表6に示す第3層を成膜した。成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10
-6Torrに調整してから、透明導電膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型IZOスパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・ガス圧:2mTorr
・Arガス流量:18sccm
・O
2ガス流量:1sccm
・スパッタパワー:250W
・基板温度:室温
【0143】
(1−2)第2層の成膜
第2層が表5または表6に記載の組成となるよう、所望組成の合金ターゲットを用い、以下の条件で、窒素ガスとの反応性スパッタリング法による成膜を行なった。
(反応性スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:10sccm
・窒素ガス流量:5sccm
・スパッタパワー:500W
・基板温度:室温
【0144】
(1−3)第1層の成膜
上記の通り、第2層のAl−X合金−N層としてAl−Cu合金−N層を成膜した後、引き続き、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表5または表6に示す第1層を成膜した。成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10
-6Torrに調整してから、上記金属膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:30sccm
・スパッタパワー:250W
・基板温度:室温
【0145】
そして得られた試料を用い、実施例1と同様にして、積層膜の反射率と積層膜のシート抵抗を測定すると共に、積層膜のリン酸硝酢酸系エッチング液によるウェットエッチング加工性の評価を行った。その結果を表5または表6に併記する。
【0146】
【表5】
【0147】
【表6】
【0148】
表5および表6より、No.1〜
10および12〜22のいずれも、第1層および第2層として本発明に規定する要件を満足するものを用い、更には推奨される要件を満たす第3層を形成しているため、積層膜の反射率およびシート抵抗の両方を低く抑えることができた。また、ウェットエッチング加工性も良好であった。
【0149】
なお表5では、特に第2層と第3層の膜厚を変えて積層膜を形成している。表5の結果から、波長が短くなるほど反射率が大きくなる傾向にあることがわかる。波長550nmや波長650nmの反射率は、第3層のみならず第2層の影響も受けていると思われる。この表5の例では、第3層の膜厚が45〜60nmでかつ第2層の膜厚が40〜60nmの範囲内で、波長550nmや波長650nmの反射率をより低く抑えられることがわかる。