(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動力が入力又は出力される回転軸と、前記回転軸に対して径方向に可動に支持された複数のピニオンスプロケット及び複数のガイドロッドと、前記複数のピニオンスプロケット及び前記複数のガイドロッドを前記回転軸の軸心から等距離を維持させながら前記径方向に同期させて移動させる移動機構とを有する複合スプロケットを二組と、前記二組の複合スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備え、前記複数のピニオンスプロケット及び前記複数のガイドロッドの何れをも囲み且つ前記複数のピニオンスプロケット及び前記複数のガイドロッドの何れにも接する円の半径である接円半径の変更によって変速比を変更する変速機構であって、
前記移動機構による前記ピニオンスプロケットの前記径方向への移動に伴って前記ピニオンスプロケットを自転させるラック&ピニオンが備えられているとともに、
前記ラック&ピニオンとは別個のものであって、前記ピニオンスプロケットが最小径に位置すると、前記ピニオンスプロケット又は前記ピニオンスプロケットと一体の部材に係合し、前記ピニオンスプロケットに加わる自転方向の力に対抗するストッパ部材が1種類又は複数種類備えられている
ことを特徴とする、変速機構。
前記移動機構には、前記ピニオンスプロケットの前記径方向への移動時に、前記ピニオンスプロケットの自転方向への回転を規制しながら前記径方向への移動を案内する案内溝を備え、
前記ストッパ部材は、前記案内溝又は前記案内溝に沿って装備された部材に形成された第2のストッパ部材として備えられ、
前記ピニオンスプロケットを支持する支持軸に、前記ストッパ部材と係合する係合面部が固設されている
ことを特徴とする、請求項1記載の変速機構。
前記ピニオンスプロケットと前記ピニオンスプロケットを支持する支持軸との間に、前記支持軸に対する前記ピニオンスプロケットの回転位相のズレを許容しながら動力を伝達する位相ズレ許容動力伝達機構を備えている
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の変速機構。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の変速機構にかかる実施の形態を説明する。本実施形態の変速機構は、車両用変速機に用いて好適である。なお、本実施形態では、変速機構における回転軸の軸心あるいはこの軸心に平行な方向を軸方向とし、回転軸の軸心を基準に径方向及び周方向のそれぞれを定める。
【0021】
〔一実施形態〕
以下、一実施形態にかかる変速機構について説明する。
〔1.構成〕
変速機構は、
図1に示すように、二組の複合スプロケット5,5と、これらの複合スプロケット5,5に巻き掛けられたチェーン6とを備えている。なお、複合スプロケット5とは、詳細を後述する複数のピニオンスプロケット20及び複数のガイドロッド29が多角形(ここでは二十一角形)の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットを意味する。
【0022】
二組の複合スプロケット5,5のうち、一方は、入力側の回転軸1(入力軸)と同心に一体回転する一組の複合スプロケット5(
図1では左方に示す)であり、他方は、出力側の回転軸1(出力軸)と同心に一体回転する複合スプロケット5(
図1では右方に示す)である。これらの複合スプロケット5,5はそれぞれ同様に構成されているため、下記の説明では、主に入力側の複合スプロケット5に着目し、その構成を説明する。
【0023】
複合スプロケット5は、回転軸1と、この回転軸1に対して径方向に可動に支持された複数(ここでは三個)のピニオンスプロケット20及び複数(ここでは十八本)のガイドロッド29とを有している。三個のピニオンスプロケット20は、回転軸1の軸心C
1を中心にした円周上において周方向に沿って等間隔に配置され、ピニオンスプロケット20の相互間にはそれぞれ六本のガイドロッド29が配置されている。
【0024】
この変速機構は、ピニオンスプロケット20及びガイドロッド29が多角形の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットの外径、即ち、複合スプロケット5の外径を変更(拡縮径)することによって変速比を変更するものである。変速比は連続的に変更することができるため、無段変速機構として構成することもできるが、段階的に変更して多段の有段変速機構として構成することもできる。
【0025】
複合スプロケット5の外径とは、複数のピニオンスプロケット20の何れをも囲み、且つ、複数のピニオンスプロケット20の何れにも接する円(接円)の半径(以下、「接円半径」という)に対応するものである。また、複合スプロケット5にはチェーン6が巻き掛けられるため、複合スプロケット5の外径は、複数のピニオンスプロケット20とチェーン6との接触半径、即ち、複合スプロケット5のピッチ円の半径に対応するものともいえる。
このため、変速機構は、接円半径の変更によって変速比を変更するものといえる。
なお、
図1には、入力側の接円半径が最小径であり、出力側の接円半径が最大径のものを示している。
【0026】
図1には図示省略するが、複合スプロケット5は、複数のピニオンスプロケット20を移動させるスプロケット移動機構40Aと、スプロケット移動機構40Aに連動してピニオンスプロケット20に含まれる自転ピニオンスプロケット22,23を自転駆動する機械式自転駆動機構50と、複数のガイドロッド29を移動させるロッド移動機構40Bとを備えている(
図2,
図5〜
図7参照)。これらについては、詳細を後述する。
以下、変速機構の構成を、複合スプロケット5及びこれに巻き掛けられるチェーン6の順に説明する。
【0027】
〔1−1.複合スプロケット〕
以下の複合スプロケット5にかかる構成の説明では、基本的な構成要素である、チェーン6に噛合うピニオンスプロケット20,チェーン6を案内(ガイド)するガイドロッド29,回転軸1と一体に回転する固定ディスク(第一支持部材,径方向移動用固定ディスク,自転用固定ディスク)10,固定ディスク10に対して相対回転可能に設けられた可動ディスク(第一支持部材)19,固定ディスク10と一体に回転する第一回転部15,可動ディスク19と一体に回転する第二回転部16について、順に説明する。
その次に、これらの構成要素を作動させる機構類として、相対回転駆動機構30,スプロケット移動機構40A,ロッド移動機構40B,機械式自転駆動機構50及びピニオンスプロケット20に加わる自転方向の力に対抗するストッパ部材100について、順に説明する。
【0028】
なお、固定ディスク10,可動ディスク19,第一回転部15,第二回転部16は、回転軸1の軸心C
1と同心に配設されており、ディスク10,19における径方向は回転軸1の径方向と一致する。
【0029】
〔1−1−1.ピニオンスプロケット〕
三個のピニオンスプロケット20は、それぞれチェーン6と噛合って動力伝達し、回転軸1の軸心C
1周りに公転する。ここでいう「公転」とは、各ピニオンスプロケット20が、回転軸1の軸心C
1を中心に回転することを意味する。回転軸1が回転すると、この回転に連動して各ピニオンスプロケット20が公転する。つまり、回転軸1の回転数とピニオンスプロケット20が公転する回転数とは等しい。なお、
図1には、白抜きの矢印で反時計回りの公転方向を示している。
【0030】
これらのピニオンスプロケット20は、自転しない一つのピニオンスプロケット(以下、「固定ピニオンスプロケット」という)21と、この固定ピニオンスプロケット21を基準に公転の回転位相が進角側及び遅角側のそれぞれに配置され自転可能な二つの自転ピニオンスプロケット22,23とから構成されている。なお、以下の説明では、固定ピニオンスプロケット21を基準に進角側に設けられたピニオンスプロケット(進角側自転ピニオンスプロケット)を第一自転ピニオンスプロケット22と呼び、遅角側に設けられたピニオンスプロケット(遅角側自転ピニオンスプロケット)を第二自転ピニオンスプロケット23と呼ぶ。
【0031】
各ピニオンスプロケット21,22,23は、何れも、その中心に設けられた支持軸(ピニオンスプロケット軸)21a,22a,23aに対して結合されている。ここでいう「自転」とは、各自転ピニオンスプロケット22,23がその支持軸22a,23aの軸心C
3,C
4周りに回転することを意味する。なお、各支持軸21a,22a,23aの軸心C
2,C
3,C
4及び回転軸1の軸心C
1は、何れも相互に平行である。
【0032】
詳細は後述するが、
図2に示すように、第一自転ピニオンスプロケット22の支持軸22aは、軸方向両端部22A(一方の軸方向端部のみに符号を付す)が固定ディスク10及び可動ディスク19に支持されている。同様に、固定ピニオンスプロケット21及び第二自転ピニオンスプロケット23の各支持軸21a,23aは、軸方向両端部が固定ディスク10及び可動ディスク19に支持されている。
【0033】
図1に示すように、固定ピニオンスプロケット21は、本体部21bとこの本体部21bの外周部全周に形成された歯21cとを有する。同様に、自転ピニオンスプロケット22,23は、何れも本体部22b,23bとこの本体部22b,23bの外周部全周に突出形成された歯22c,23cとを有する。
当然ながら、各ピニオンスプロケット21,22,23に形成される歯の形状寸法及びピッチは同一規格のものとなっている。
【0034】
詳細は図示省略するが、
図1,
図10に示すように、各自転ピニオンスプロケット22,23において、各支持軸22a,23aに対して自転を規制しつつ微小回転(一定範囲内での回転、ここでは±0.5歯分だけの回転)を許容して動力伝達を実現する位相ズレ許容動力伝達機構190が装備されている。この位相ズレ許容動力伝達機構190は、ピニオンスプロケット22,23の内周側に一体回転するように装備されたキー部材191と、ピニオンスプロケット22,23の支持軸21a,22a,23aの外周側に形成されてキー部材191が回転方向に遊びをもって係合するキー溝192と、キー部材191がキー溝192の回転方向の中立位置に位置するように、キー部材191を回転方向の正転と逆転方向との双方から付勢する付勢部材(図示略)とを備え、回転方向の中立位置に付勢し回転を弾性的に規制する。
【0035】
この場合、自転ピニオンスプロケット22,23の本体部22b,23bは、22a,23aに対して微小な回転が許容されつつ動力伝達することができる。この構成を設けることによって、各自転ピニオンスプロケット22,23とチェーン6との噛み合い開始位置における両者の微小な位相ズレを吸収して、各ピニオンスプロケット22,23とチェーン6とを円滑に噛み合わせることが可能となる。なお、ここでは、固定ピニオンスプロケット21については、ピニオンスプロケット21の内周側に一体回転するように装備されたキー部材91と、ピニオンスプロケット21の支持軸21aの外周側に形成されてキー部材91が回転方向にタイトに係合するキー溝92とを備え、固定ピニオンスプロケット21は支持軸21aと位相ズレすることなく回転する。この固定ピニオンスプロケット21においても、位相ズレ許容動力伝達機構190を装備しても良い。
【0036】
詳細は後述するが、第一自転ピニオンスプロケット22は、
図1において、接円半径の拡径時に時計回りに自転し、接円半径の縮径時に反時計回りに自転する。一方、第二自転ピニオンスプロケット23は、
図1において、接円半径の拡径時に反時計回りに自転し、接円半径の縮径時に時計回りに自転する。
なお、第一自転ピニオンスプロケット22と第二ピニオンスプロケット23とは、配設箇所及び自転方向が異なるのを除いて同様に構成されるため、ここでは、第一自転ピニオンスプロケット22に着目して説明する。
【0037】
なおまた、以下の説明で、固定ピニオンスプロケット21,第一自転ピニオンスプロケット22及び第二自転ピニオンスプロケット23を区別なく用いるときには単にピニオンスプロケット20と呼び、同様に、支持軸21a,22a,23aについても区別なく用いるときには支持軸20aと呼ぶ。この支持軸20aにおいて、軸方向両端部を総括して20Aと呼ぶ。
【0038】
本実施形態では、
図2に示すように、ピニオンスプロケット20は、軸方向に三列の歯車20g(一箇所のみに符号を付す)を備え、これらの各列の歯車に対応してチェーン6も三本巻き掛けられている。ここでは、ピニオンスプロケット20の三列の歯車は、スペーサ20s(一箇所のみに符号を付す)を介して互いに間隔をあけて設けられている。
【0039】
ピニオンスプロケット20の歯車の列数は、変速機構の伝達トルクの大きさによるが、二列又は四列以上であってもよいし一列であってもよい。なお、
図2は、理解容易のため模式的に示したものであり、同断面に第一自転ピニオンスプロケット22及び後述する相対回転駆動機構30を示し、入力側の複合スプロケット5と出力側の複合スプロケット5との間に間隔を設けて示している。
【0040】
〔1−1−2.ガイドロッド〕
図1に示すように、複数のガイドロッド29は、チェーン6と回転軸1の軸心C
1との距離の変動(チェーン6の巻き掛け半径の変動)を小さくするように、つまり、回転軸1周りのチェーン6の軌道を可能な限り円軌道に近づけるように、チェーン6をガイドするものである。これらのガイドロッド29は、その径方向外側の周面に当接するチェーン6の軌道をガイドする。ピニオンスプロケット21,22,23及び各ガイドロッド29は多角形(略正多角形)の形状をなすので、チェーン6は、その径方向内側のピニオンスプロケット21,22,23及び各ガイドロッド29に当接しガイドされながら多角形の形状に沿って転動する。
なお、ガイドロッド29はそれぞれ同様に構成されるため、ここでは一つのガイドロッド29に着目して説明する。
【0041】
図1及び
図2に示すように、ガイドロッド29は、ロッド支持軸29a(
図1では破線で示す)の外周に円筒状のガイド部材29bが外挿されたものであり、ロッド支持軸29aによって支持され、ガイド部材29bの外周面でチェーン6をガイドする。
このガイドロッド29の軸方向両端部29A(一方の軸方向端部のみに符号を付す)は、ガイド部材29bからロッド支持軸29aが軸方向に突出しており、この突出したロッド支持軸29aが固定ディスク10及び可動ディスク19に支持される。
【0042】
なお、ガイドロッド29の本数は、十八本に限らず、これよりも多くてもよいし少なくてもよい。この場合、ガイドロッド29は、ピニオンスプロケット20の相互間(ここでは三箇所)に同数設けられることが好ましい。また、ガイドロッド29を多く設けるほど複合スプロケット5を真円に近づけ、チェーン6と回転軸1の軸心C
1との距離の変動を小さくすることができる。
【0043】
しかし、この場合、パーツの増加による製造コストや重量の増加を招くおそれや後述のロッド移動機構40Bの構成に起因してガイドロッド29自体やガイドロッド29を支持する部材の剛性や強度の低下を招くおそれがあるため、これらを考慮してガイドロッド29の本数を設定することが好ましい。
【0044】
〔1−1−3.固定ディスク及び可動ディスク〕
固定ディスク10及び可動ディスク19は、複数のピニオンスプロケット20及び複数のガイドロッド29の軸方向両端部にそれぞれ対を成して設けられているが、ここでは一側に設けられた固定ディスク10,可動ディスク19に着目し、その構成を説明する。
なお、
図2では、複数のピニオンスプロケット20及び複数のピニオンスプロケット29側から軸方向外側に向けて可動ディスク19,固定ディスク10の順に配置されたもの例示する。すなわち、ピニオンスプロケット20及びピニオンスプロケット29の軸方向外側に可動ディスク19が隣接するものを例に挙げて説明する。
【0045】
〔1−1−3−1.固定ディスク〕
固定ディスク10は、回転軸1と一体に形成されるか、或いは、何れも回転軸1と一体回転するように結合されている。
図3及び
図5に示すように、固定ディスク10には、各ピニオンスプロケット21,22,23に対応して設けられたスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cと各ガイドロッド29に対応して設けられたロッド用固定放射状溝12(一箇所のみに符号を付す)との二種の固定放射状溝が形成されている。なお、
図3には、白抜きの矢印で時計回りの公転方向を示している。
【0046】
スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cには、ピニオンスプロケット21,22,23の支持軸21a,22a,23aが内挿されている。固定ピニオンスプロケット21に対応するスプロケット用固定放射状溝11aは、固定ピニオンスプロケット21の径方向移動を案内する溝(固定ピニオンスプロケット案内溝)といえ、同様に、第一自転ピニオンスプロケット22に対応するスプロケット用固定放射状溝11bは、第一自転ピニオンスプロケット22の径方向移動を案内する溝といえ、第二自転ピニオンスプロケット23に対応するスプロケット用固定放射状溝11cは、第二自転ピニオンスプロケット23の径方向移動を案内する溝といえる。このため、これらのスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cは、対応するピニオンスプロケット21,22,23の径方向移動経路に沿っている。
【0047】
スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cは、配設箇所を除いてそれぞれ同様に構成されている。このため、スプロケット用固定放射状溝11aに着目して説明する。
ここでは、スプロケット用固定放射状溝11aが固定ディスク10の径方向θ
sに沿う直線状に形成されている。
このスプロケット用固定放射状溝11aは、固定ピニオンスプロケット21の支持軸21aの外径に対応する溝幅を有する。この溝幅は、支持軸21aの外径よりも微小に大きく設定されている。このため、スプロケット用固定放射状溝11aに内挿される支持軸21aは、干渉することなくスプロケット用固定放射状溝11aに沿って移動可能に構成されている。
【0048】
また、ロッド用固定放射状溝12(一箇所のみに符号を付す)には、対応するガイドロッド29のロッド支持軸29a(一箇所のみに符号を付す)が内挿されている。ロッド用固定放射状溝12は、それぞれ配設箇所が異なる点を除いては同様に構成されている。
ここでは、上記のスプロケット用固定放射状溝11aと同様に、ロッド用固定放射状溝12が固定ディスク10の径方向に沿う直線状に形成されている。また、ロッド用固定放射状溝19aは、ガイドロッド29のロッド支持軸29aの外径よりも微小に大きく設定されている。このため、ロッド用固定放射状溝19aに内挿される支持軸29aは、干渉することなくロッド用固定放射状溝19aに沿って移動可能に構成されている。
なお、ロッド用固定放射状溝12は、ピニオンスプロケット20(
図1参照)が何れの径方向位置にあるときでもピニオンスプロケット20間にガイドロッド29が等間隔に位置するように、スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cに合わせて配設される。
【0049】
〔1−1−3−2.可動ディスク〕
図2に示すように、可動ディスク19は、ピニオンスプロケット20を挟んで一側及び他側のそれぞれに設けられる。これらの可動ディスク19は、連結シャフト19Aで互いに連結されている。ここでは、
図1に示すように、各ピニオンスプロケット21,22,23の相互間にそれぞれ連結シャフト19A(一箇所にのみ符号を付す)が設けられている。これにより、一側の可動ディスク19と他側の可動ディスク19とが一体に回転する。
【0050】
図4及び
図5に示すように、可動ディスク19(
図5には破線で示す)には、スプロケット用可動放射状溝19aとロッド用可動放射状溝19b(何れも一箇所のみに符号を付し、
図5には破線で示す)との二種の可動放射状溝が形成されている。なお、可動ディスク19の外形は円形であり、軸方向視で固定ディスク10の外形(円形)と一致して重合するが、便宜上、
図5では固定ディスク10の外形円よりも可動ディスク19の外形円を縮小して二点鎖線で示している。なおまた、
図4には、白抜きの矢印で時計回りの公転方向を示している。
【0051】
スプロケット用可動放射状溝19aのそれぞれは、上記のスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cのそれぞれに交差して設けられる。スプロケット用可動放射状溝19aとスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cとが交差する第一交差箇所CP
1(
図5のそれぞれに一箇所のみ符号を付す)には、ピニオンスプロケット21,22,23の各支持軸21a,22a,23aが内挿される。
【0052】
スプロケット用可動放射状溝19aは、配設箇所を除いてそれぞれ同様に構成されている。以下の説明では、固定ピニオンスプロケット21に対応するスプロケット用可動放射状溝19aに着目して説明する。
ここでは、スプロケット用可動放射状溝19aが外周に向かうに連れて径方向に対して周方向(ここでは公転方向に対して反対方向)に向けて傾斜して設けられている。このスプロケット用可動放射状溝19aは、滑らかな曲線状に形成されている。
図4に示すように、スプロケット用可動放射状溝19aの内周側端部19eは、この位相に対応する径方向θ
cに対して傾斜している。
このスプロケット用可動放射状溝19aは、スプロケット用固定放射状溝11aと同様に、支持軸21aの外径よりも微小に大きく設定されている。このため、スプロケット用可動放射状溝19aに内挿される支持軸21aは、干渉することなくスプロケット用可動放射状溝19aに沿って移動可能に構成されている。
【0053】
ロッド用可動放射状溝19bは、上述したロッド用固定放射状溝12と交差して設けられ、これらの交差箇所に各ガイドロッド29のロッド支持軸29aが内挿される。なお、各ロッド用可動放射状溝19bは、配設箇所が異なる点を除いては互いに同様に構成されている。
ここでは、ロッド用可動放射状溝19bがスプロケット用可動放射状溝19aと同様に、外周に向かうに連れて径方向に対して周方向(ここでは公転方向に対して反対方向)に向けて傾斜して設けられ、滑らかな曲線状に形成されている。
このロッド用可動放射状溝19bは、ロッド用固定放射状溝12と同様に、ロッド支持軸29aの外径よりも微小に大きく設定されている。このため、ロッド用可動放射状溝19bに内挿される支持軸19bは、干渉することなくロッド用可動放射状溝19bに沿って移動可能に構成されている。
【0054】
なお、
図4及び
図5では、スプロケット用可動放射状溝19aの相互間に六本のロッド用可動放射状溝19bが設けられ、同径方向位置で比較したときに、各ロッド用可動放射状溝19bの径方向に対する傾斜角度が公転方向に向かうに連れて大きくなるものを例示している。ここでは、ロッド用可動放射状溝19bは、ピニオンスプロケット20(
図1参照)が何れの径方向位置にあるときでもピニオンスプロケット20間にガイドロッド29が等間隔に位置するように、スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cに合わせて配設されている。
ただし、各ロッド用可動放射状溝19bは、同径方向位置における径方向に対する傾斜角度が互いに等しく設定されていてもよい。
【0055】
〔1−1−4.第一回転部〕
図2に示すように、第一回転部15は、固定ディスク10と一体回転する部分、即ち、回転軸1と一体回転する部分である。ここでは、第一回転部15が回転軸1の一部に設けられている。この第一回転部15は、固定ディスク10及び可動ディスク19よりも軸方向外側に配設されている。
【0056】
図2,
図7及び
図8に示すように、第一回転部15には、第一カム溝15aが設けられている。この第一カム溝15aは、回転軸1の軸方向に沿って凹設して設けられている。ここでは、第一カム溝15aが回転軸1の軸心C
1と平行に形成されている。
図7には、第一カム溝15a(一箇所のみに符号を付す)が周方向に間隔をおいて三箇所に設けられたものを例示するが、第一カム溝15aの形成箇所や形成個数は、周囲の構成や要求仕様等に応じて設定すればよく、種々の形状や個数のものを採用することができる。
【0057】
〔1−1−5.第二回転部〕
図2,
図6及び
図7に示すように、第二回転部16は、可動ディスク19と接続部17を介して接続されている。なお、
図6及び
図7には、白抜きの矢印で反時計回りの公転方向を示している。
【0058】
まず、接続部17について説明する。
接続部17は、可動ディスク19及び第二回転部16と一体に回転し、固定ディスク10を覆うように配設されている。この接続部17は、固定ディスク10の外周(径方向外側)を覆う軸方向接続部17aと、固定ディスク10の軸方向外側を覆う径方向接続部17bとを有する。
【0059】
接続部17においては、可動ディスク19と第二回転部16との接続のうち、軸方向成分の離隔分を接続しているのが軸方向接続部17aであり、径方向の離隔分を接続しているのが径方向接続部17bである。
軸方向接続部17aは、回転軸1の軸心C
1と同心に設けられるとともに軸方向に延びる円筒形状をなしている。この軸方向接続部17aは、
図2に示すように、軸方向内側が可動ディスク19の外周端部(外周部)19tに結合され、軸方向外側が次に説明する径方向接続部17bに接続されている。
【0060】
図2,
図6及び
図7に示すように、径方向接続部17bは、径方向外側が軸方向接続部17aに接続され、径方向内側が第二回転部16に接続されている。この径方向接続部17bは、回転軸1の軸心C
1と同心に設けられるとともに径方向に延在する円盤から次に説明する肉抜き部17cによって肉抜きされた形状をなしている。
【0061】
図6及び
図7に示すように、径方向接続部17bには、肉抜き部17cが設けられている。この肉抜き部17cは、詳細を後述する機械式自転駆動機構50のラック53,54及びピニオン51,52に対応する箇所に形成されている。
図6には、三箇所に設けられた扇形の肉抜き部17cが、相互間に径方向接続部17bを挟んで等間隔に設けられたものを例示している。ただし、肉抜き部17cの形状や形成個数は、周囲の構成や要求仕様等に応じて設定すればよく、種々の形状や個数のものを採用することができる。
【0062】
次に、第二回転部16について説明する。
図2,
図6及び
図7に示すように、第二回転部16は、第一回転部15の外周(径方向外側)を覆うように設けられ、回転軸1の軸心C
1と同心の円筒形状に形成されている。ここでは、
図2に示すように、第二回転部16が、可動ディスク19の外周端部19tから内周側にシフトされて軸方向に沿って設けられている。
【0063】
図2及び
図8に示すように、第二回転部16には、第二カム溝16aが設けられている。この第二カム溝16aは、第一カム溝15aの外周に隣接して設けられ、また、第一カム溝15aと交差するとともに回転軸1に沿って設けられている。なお、第二カム溝16aは、回転軸1の軸方向に交差するように設けられている。
なお、
図7には、第二カム溝16a(一箇所にのみ符号を付す)が周方向に間隔をおいて三箇所に設けられたものを例示するが、第二カム溝16aの形成箇所や形成個数は、第一カム溝15aの形成箇所や形成個数に応じて設定される。
【0064】
〔1−1−6.相対回転駆動機構〕
相対回転駆動機構30は、上述した第一回転部15に設けられた第一カム溝15aと第二回転部16に設けられた第二カム溝16aとに加えて、第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP
2に配設されたカムローラ90と、このカムローラ90を軸方向に移動させる変速用変速用フォーク(スプロケット移動用軸方向移動部材)35と、この変速用変速用フォーク35を軸方向に移動させる軸方向移動機構31とを備えている。
【0065】
以下、カムローラ90,変速用変速用フォーク35,軸方向移動機構31の順に説明する。
図2及び
図7に示すように、カムローラ90は、円柱状に形成されている。このカムローラ90は、回転軸1の軸心C
1に直交する方向に沿った軸心を有し、第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP
2(何れも一箇所にのみ符号を付す)に挿通されている。このため、カムローラ90は、回転軸1の回転に連動して回転軸1の軸心C
1を中心に回転する。なお、カムローラ90の外周には、第一カム溝15aに対応する箇所にベアリング91aが外嵌され、第二カム溝16aに対応する箇所にベアリング91bが外嵌されている。
【0066】
カムローラ90の一端部90aは、第二交差箇所CP
2から径方向外側に突出されて設けられている。
なお、図示省略するが、カムローラ90は、カム溝15a,16aから脱落しないように、適宜の抜け止め加工が施されている。かかる抜け止め加工としては、例えばカムローラ90の他端部に頭部を設けることや抜け止めピンを追加し、カムローラ90が軸方向に移動可能であって径方向に移動しないようにすることが挙げられる。
【0067】
変速用変速用フォーク35は、二組の複合スプロケット5,5に跨って設けられている。この変速用変速用フォーク35は、各複合スプロケット5,5に対応して設けられた円環状のカムローラ支持部35a(一側にのみ符号を付す)と、各カムローラ支持部35aを連結するブリッジ部35bとを有する。カムローラ支持部35aの内周側には、上記の第一回転部15及び第二回転部16が配設されている。
なお、変速用変速用フォーク35は、ディスク10,19に対して平行なプレート状の部材であって、チェーン6を基準としたときのディスク10,19に対して軸方向外側に並設されている。
【0068】
カムローラ支持部35aには、内周側の全周にわたって溝部35cが凹設されている。
溝部35cは、カムローラ90の突出長さに対応する深さを有し、カムローラ90の一端部90aを収容している。すなわち、溝部35cは、径方向長さがカムローラ90の突出長さの円環状空間を有するものといえる。
【0069】
この溝部35cには、カムローラ90と転がり接触しうる転動体35d(一箇所にのみ符号を付す)が設けられている。この転動体35dは、回転軸1の軸心C
1を中心に回転するカムローラ90が溝部35cの側壁に接触したときにカムローラ90が軸心周りに回転することを抑制するために設けられている。すなわち、溝部35cの側壁を形成するカムローラ支持部35aに、転動体35dが配設されている。ここでは、複数の転動体35dが溝部35cの全周にわたって配設されている。なお、
図2及び
図7には、転動体35dとしてニードルベアリングを例示するが、これに替えて、ボールベアリングを用いてもよい。
【0070】
軸方向移動機構31は、変速用変速用フォーク35を軸方向に移動するために、モータ32と、モータ32の出力軸32aの回転運動を直線運動に切り替える運動変換機構33と、変速用変速用フォーク35を支持するとともに運動変換機構33によって直線運動されるフォーク支持部34とを備えている。なお、モータ32としては、ステッピングモータを用いることができる。
【0071】
以下、
図2及び
図7を参照して、軸方向移動機構31について、フォーク支持部34,運動変換機構33の順に説明する。
フォーク支持部34は、モータ32の出力軸32aと同心の筒軸を有する円筒状に形成されている。このフォーク支持部34には、モータ32の出力軸32aが内挿されている。
また、フォーク支持部34は、内周にモータ32の出力軸32aに形成された雄ネジ部32bに螺合する雌ネジ部34aが螺設され、外周に変速用変速用フォーク35のブリッジ部35bと係合するフォーク溝34bが凹設されている。
【0072】
フォーク溝34bは、変速用変速用フォーク35のブリッジ部35bの厚み(軸方向長さ)に対応する幅(軸方向長さ)に形成されている。このフォーク溝34bにはブリッジ部35bの中間部(二つの複合スプロケット5,5の間)が嵌入され、フォーク支持部34と変速用変速用フォーク35のブリッジ部35bとが一体に結合される。
【0073】
運動変換機構33は、出力軸32aの雄ネジ部32bと、フォーク支持部34の雌ネジ部34aとを有する。出力軸32aが回転すると、雄ネジ部32bと雌ネジ部34aとの螺合によって、雌ネジ部34aが形成されたフォーク支持部34が軸方向に移動される。すなわち、軸方向移動機構31は、モータ3
2の回転運動を運動変換機構33によって直線運動に変換し、この直線運動でフォーク支持部34を軸方向に直線運動させる。
上記の変速用フォーク35,軸方向移動機構31を含む相対回転駆動機構30は、ピニオンスプロケット21,22,23から軸方向にシフトして設けられている。
【0074】
以下、相対回転駆動機構30による可動ディスク19の固定ディスク10に対する相対回転駆動について説明する。
軸方向移動機構31によってフォーク支持部34が軸方向に直線運動されると、フォーク支持部34に結合された変速用フォーク35が一体に軸方向に移動し、この移動にともなってカムローラ90も軸方向に移動される。
【0075】
第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP
2に配設されるカムローラ90が軸方向に移動されると、第二交差箇所CP
2も軸方向に移動する。第一カム溝15aが設けられた第一回転部15は回転軸1及び固定ディスク10と一体回転するため、第二交差箇所CP
2が軸方向に移動すると、第一回転部15に対して第二カム溝16aが設けられた第二回転部16が相対的に回転される。
【0076】
第二回転部16は可動ディスク19と一体回転し、第一回転部10は固定ディスク10と一体回転するので、第一回転部15に対して第二回転部16が相対回転されると、固定ディスク10に対して可動ディスク19が相対的に回転される。
【0077】
固定ディスク10に対して可動ディスク19が相対回転駆動されると、移動機構40A及び40Bにかかる説明で後述するように、固定ディスク10に設けられたスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cと可動ディスク19に設けられたスプロケット用可動放射状溝19aとが交差する第一交差箇所CP
1が径方向に移動される。
このように、相対回転駆動機構30は、軸方向移動機構31によって可動ディスク19を固定ディスク10に対して相対回転駆動して、第一交差箇所CP
1を径方向に移動させる。
【0078】
〔1−1−7.スプロケット移動機構及びロッド移動機構〕
次に、
図2及び
図5を参照して、スプロケット移動機構40A及びロッド移動機構40Bを説明する。
スプロケット移動機構40Aは、複数のピニオンスプロケット20を移動対象とし、また、ロッド移動機構40Bは、複数のガイドロッド29を移動対象としている。
これらの移動機構40A,40Bは、各移動対象(複数のピニオンスプロケット20,複数のガイドロッド29)を回転軸1の軸心C
1から等距離を維持させながら径方向に同期して移動させるものである。
【0079】
スプロケット移動機構40Aは、ピニオンスプロケット21,22,23のそれぞれに設けられた支持軸21a,22a,23aが内挿されるスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cが形成された固定ディスク10と、スプロケット用可動放射状溝19aが形成された可動ディスク19と、相対回転駆動機構30(
図2及び
図7参照)とから構成されている。
【0080】
また、ロッド移動機構40Bは、ロッド支持軸29aが内挿されるロッド用固定放射状溝12が形成された固定ディスク10と、ロッド用可動放射状溝19bが形成された可動ディスク19と、相対回転駆動機構30とから構成されている。
このように、それぞれの移動機構40A,40Bの構成は、各移動対象の支持軸が異なるだけで、その他の構成は同様である。
【0081】
次に、
図5(a)〜
図5(c)を参照して、移動機構40A及び40Bによる移動を説明する。
図5(a)は、放射状溝11a,11b,11c,19aにおけるピニオンスプロケット21,22,23(
図1及び
図2等参照)の支持軸21a,22a,23aと放射状溝12,19bにおけるロッド支持軸29aとが回転軸1の軸心C
1から最も近い位置に位置するものを示す。この場合、相対回転駆動機構30(
図2参照)により可動ディスク19の回転位相を固定ディスク10に対して変更すると、
図5(b),
図5(c)の順に、スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cとスプロケット用可動放射状溝19aとが交差する第一交差箇所CP
1と、ロッド用固定放射状溝12とロッド用可動放射状溝19bとの交差箇所とが、回転軸1の軸心C
1から遠ざかる。すなわち、これらの交差箇所に支持軸21a,22a,23a,29aを支持されたピニオンスプロケット20及びガイドロッド29は、回転軸1の軸心C
1から等距離を維持しながら径方向に同期して移動される。
【0082】
一方、相対回転駆動機構30によって可動ディスク19の回転位相の変更方向を上記の方向と反対にすれば、ピニオンスプロケット20及びガイドロッド29は回転軸1の軸心C
1に近づく。
スプロケット移動機構40Aによりピニオンスプロケット20が移動されると、ピニオンスプロケット20の相互間の距離が変わることにより、チェーン6に対してピニオンスプロケット20の位相ズレが発生してしまう。そこで、かかる位相ズレを解消するために、機械式自転駆動機構50が装備されている。
【0083】
〔1−1−8.機械式自転駆動機構〕
次に、
図2及び
図6を参照して、機械式自転駆動機構50を説明する。ここでは、機械式自転駆動機構50がピニオンスプロケット20を挟んで対称に構成されるため、一側(
図2の上方側)の構成に着目して説明する。
機械式自転駆動機構50は、上記したように、自転ピニオンスプロケット22,23を回転させ、チェーン6に対するピニオンスプロケット20間の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して機械的に自転駆動するものである。言い換えれば、機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aによる複数のピニオンスプロケット20の径方向移動に伴って、チェーン6に対する複数のピニオンスプロケット20の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して自転駆動するものである。
ただし、機械式自転駆動機構50は、径方向移動時の固定ピニオンスプロケット21を自転させない構成も有している。
【0084】
まず、機械式自転駆動機構50について、固定ピニオンスプロケット21(
図1参照)を自転させないための構成を説明する。
図6に示すように、固定ピニオンスプロケット21の支持軸21aは、固定ディスク10のスプロケット用固定放射状溝11aに挿通されている。この支持軸21aには、案内部材59が一体的に結合されている。
【0085】
案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11aに内挿されて径方向に案内される。この案内部材59は、径方向の所定長さにわたってスプロケット用固定放射状溝11aに接触するように対応する形状に形成されている。このため、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力が作用したときには、案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11aに対して回転力を伝達するとともに、この回転力の反作用(抗力)で固定ピニオンスプロケット21を固定するものといえる。すなわち、案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11aにおいて径方向に摺動可能であって回り止め機能を有する形状に形成されている。なお、ここでいう所定長さとは、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力の抗力が確保可能な長さである。
【0086】
図6では、スプロケット用固定放射状溝11aが径方向に長手方向を有する矩形状に形成されており、この矩形状よりも小さい矩形状に形成された案内部材59を例示している。
また、スプロケット用固定放射状溝11aの内壁に接する案内部材59の側壁、特に案内部材59の四隅に、ベアリングを装着すれば、案内部材59のよりスムーズな摺動を確保することができる。
【0087】
次に、機械式自転駆動機構50について、自転ピニオンスプロケット22,23を自転駆動するための構成について説明する。
機械式自転駆動機構50は、自転ピニオンスプロケット22,23の支持軸22a,23aのそれぞれと一体回転するように固設されたピニオン51,52と、ピニオン51,52のそれぞれに対応して噛合するように設けられたラック53,54と、を有する。
【0088】
ピニオン51,52は、自転ピニオンスプロケット22,23の各支持軸22a,23aにおける軸方向両端部にそれぞれ設けられている。かかるピニオン51,52にそれぞれ対応するラック53,54は、スプロケット用固定放射状溝11b,11cの延在方向に沿って固設されている。
【0089】
なお、以下の説明では、第一自転ピニオンスプロケット22のピニオン(進角側ピニオン)51を第一ピニオン51と呼び、この第一ピニオン51と噛合するラック(進角側ラック)53を第一ラック53と呼んで区別する。同様に、第二ピニオンスプロケット23のピニオン(遅角側ピニオン)52を第二ピニオン52と呼び、この第二ピニオン52と噛合するラック(遅角側ラック)54を第二ラック54と呼ぶ。
【0090】
図6に示すように、第一ラック53は、第一ピニオン51に対して公転方向基準で遅角側に配置される。逆に、第二ラック54は、第二ピニオン52に対して公転方向基準で進角側に配置される。このため、ピニオン51,52及びラック53,54は、ピニオン51,52が拡径方向又は縮径方向に移動されると、ピニオン51,52はこれに噛合するラック53,54によって互いに逆方向に回転されるように配設されている。
【0091】
すなわち、機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aにより移動されたピニオンスプロケット20の径方向位置に応じて、自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相を設定するものである。つまり、機械式自転駆動機構50によって、ピニオンスプロケット20の径方向位置と自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相とは一対一の対応関係となる。
このように、機械式自転駆動機構50は、固定ピニオンスプロケット21が自転しないように案内し、自転ピニオンスプロケット22,23が自転するように案内する。
【0092】
なお、ピニオン51,52に対するラック53,54の位置関係が異なる点を除いては、第一ピニオン51と第二ピニオン52とは同様に構成され、また、第一ラック53と第二ラック54とは同様に構成されている。
なおまた、第一自転ピニオンスプロケット22には、前述の位相ズレ許容動力伝達機構に代えて、その支持軸22aと第一ピニオン51との間に皿ばねが介装されていてもよい。この皿ばねによれば、支持軸22aと第一ピニオン51との微小な回転を許容しつつ相対回転を規制することで、変速比の変更中に発生しうる第一自転ピニオンスプロケット22とチェーン6との噛合時のショック(衝撃)を吸収する。この皿ばねは、固定ピニオンスプロケット21及び第二自転ピニオンスプロケット23のそれぞれにも同様に備えられていてもよい。
【0093】
〔1−1−9.ストッパ部材〕
図1,
図10に示すように、回転軸1の外周には、ピニオンスプロケット21,22,23に加わる自転方向の力に対抗するメカニカルストッパ(ストッパ部材)100が固設されている。このメカニカルストッパ100は、各ピニオンスプロケット21,22,23が最も回転軸1に接近した最小径位置に来ると、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯21c,22c,23cのうち、回転軸1の方向に突出した歯群121,122,123が係合する係合溝部101,102,103を有している。
【0094】
なお、
図10に拡大して示す係合溝部102を例に説明すると、係合溝部102は、中央の溝部111と、その両外側の山部112と、山部112の両外側に形成される半溝部113とをそなえている。歯群122は、中央の溝部111に嵌入する歯131と、半溝部113に片半部のみ嵌入する歯132とを合わせた3個からなる。以下、歯群121,122,123については、単に、歯121,122,123とも呼ぶ。
図10においては、係合溝部101,102,103と歯群121,122,123とが隙間を空けて記述されているが、これは、両者を個々に把握しやすいようにしたもので、実際上は、両者の主要な面同士は隙間なく接触する。
【0095】
固定ピニオンスプロケット21は自転しないため、固定ピニオンスプロケット21の径方向位置によらず歯121の回転方向位相は常時一定であり、この固定ピニオンスプロケット21の歯121が係合する係合溝部101は、歯121の凸形状及び凹形状に合わせた凹形状及び凸形状に形成される。ただし、係合溝部101は、製造誤差や動力伝達時の各部の微小な弾性変形等に由来した歯121の位相ズレ等を考慮して、山部112の頭部両側を僅かに且つ滑らかに除去し、係合溝部101に歯121が円滑に進入できるようにすることが好ましい。
【0096】
一方、自転ピニオンスプロケット22,23は自転しながら最小径位置に来るため、自転ピニオンスプロケット22,23の径方向位置に応じて歯122,123の回転方向位相は変化する。したがって、歯122,123は回転方向位相を変えながら係合溝部102,103へ進入する。したがって、係合溝部102,103は、その形状を歯122,123の凸形状に相似するように形成したら、歯122,123の進入時に歯122,123と干渉してしまう。
【0097】
自転ピニオンスプロケット22,23が最小径位置に移動する際の歯122,123は、
図10に二点鎖線で示す状態から破線で示す状態を経て実線で示す係合状態となる。この時の歯122,123の動き(位相変化)常に一定であり、係合溝部102,103の一側(
図10に拡大して示す係合溝部102の場合上方側)から係合溝部102,103内に進入する。
そこで、係合溝部102,103の各一側には、最小径位置に移動する際の歯122,123の軌跡に合わせ、その入口部の一側の山部112の一部を除去した干渉回避部104が形成され、歯122,123が進入する際に係合溝部102,103と干渉しないようになっている。なお、固定ピニオンスプロケット21の歯121が係合する係合溝部101の場合、干渉回避部104は不要であり、拡大図においては一側を除去しない二点鎖線で示す山部112の形状に形成される。
【0098】
なお、これらの係合溝部102,103についても、製造誤差や動力伝達時の各部の微小な弾性変形等に由来した歯122,123の位相ズレ等を考慮して、これらの干渉回避部104も含めて、山部112の頭部両側を僅かに且つ滑らかに除去し、係合溝部102,103に歯122,123が円滑に進入できるようにすることが好ましい。
【0099】
また、位相ずれ許容動力伝達機構190が装備されている自転ピニオンスプロケット22,23については、メカニカルストッパ100の係合溝部102,103を、自転ピニオンスプロケット22,23の支持軸20aに対する中立位置の位相に合わせて配置する。自転ピニオンスプロケット22,23は、最小径位置に移動する途中では、位相ずれ許容動力伝達機構190の機能を適宜利用するが、最小径位置では、中立位置の位相となって係合溝部102,103と係合する。
【0100】
〔1−2.チェーン〕
次に、チェーン6について説明する。
図9に示すように、ガイドロッド29にガイドされるチェーン6は、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯車の列数(ここでは三列)に対応する本数が設けられている。ここでは、第一チェーン6A,第二チェーン6B及び第三チェーン6Cの三本が設けられている。
【0101】
これらのチェーン6A,6B,6Cは、動力伝達方向に位相をずらすように互いにピッチをずらしてピニオンオンスプロケット20に巻き掛けられている。ここでは、1/3ピッチだけ互いのピッチをずらしている。これに対応して、各チェーン6A,6B,6Cに噛合するピニオンスプロケット20の各歯21c,22c,23c(以下、これらを区別せずに示すときには「歯20c」という)の位相もずらして配置されている。
なお、チェーン6A,6B,6Cは、配設ピッチ以外は同様に構成される。
【0102】
また、変速機構の伝達トルクによっては二本又は四本以上のチェーン6が用いられるが、この場合には「1/チェーンの本数」ピッチだけ各チェーンのピッチをずらして設けられるのが好ましい。
【0103】
〔2.作用及び効果〕
本発明の一実施形態にかかる変速機構は、上述のように構成されるため、以下のような作用及び効果を得ることができる。
【0104】
各ピニオンスプロケット21,22,23が回転軸1の軸心C
1に最も接近する最小径位置に来ると、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯21c,22c,23cや支持軸21a,22a,23a等が伝達する駆動力は最大になる。そこで、大きなトルクを伝達するには、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯21c,22c,23cや支持軸21a,22a,23a等を伝達する駆動力に耐えうるように、各ピニオンスプロケット等を高強度化するか、或いは、軸方向に長くして軸方向に荷重分担させる等により、剛性や強度を向上させることが必要になる。
【0105】
これに対し、本変速機構では、各ピニオンスプロケット21,22,23が最小径位置に来ると、メカニカルストッパ100の係合溝部101,102,103に、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯121c,122c,123cが係合して、伝達するトルクの一部が各歯121c,122c,123c及びメカニカルストッパ100を通じて、回転軸1に直接伝達されるので、各ピニオンスプロケット21,22,23のチェーン6と係合する歯21c,22c,23cや支持軸21a,22a,23a等の駆動力伝達負担が軽減され、これらの剛性や強度を向上させることなく、或いは剛性や強度を僅かに向上させるだけで、したがってコスト増や装置の大型化を抑えながら、大きな駆動力を支障なく伝達することができるようになる。
【0106】
特に、本変速機構を車両に適用すると、最大変速比で最大トルクが加えられて発進することになるが、この場合、入力側の複合スプロケット5では最大駆動力を伝達することになる。。一方、出力側の複合スプロケット5が最小駆動径となる場合は、変速比が最小となり、同出力側スプロケット5にはさほど大きなトルクは加わらない。そこで、入力側の複合スプロケット5にのみ、メカニカルストッパ100を装備するようにしても良い。
【0107】
なお、本変速機構を車両に適用した場合、車両の後退駆動時には、変速比を最ローに固定すれば、メカニカルストッパ100を有効に使用できる。
また、車両の前進駆動時に、駆動力を抜かずに最ローに変速する場合、メカニカルストッパ100の係合溝部101,102,103に、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯121c,122c,123cを格納する際は、チェーン6と噛んでいない自転ピニオンスプロケット22,23は位相ズレ許容動力伝達機構190の±0.5歯分の位相ズレ許容機能を適宜活かし、チェーン6と噛んでトルクを伝達している自転ピニオンスプロケット22,23は、+0.5歯のキー部材191の固定端で、ピニオンスプロケット22,23の歯22c,23cをメカニカルストッパ100に噛ませて、機械式自転駆動機構50のラック&ピニオンとメカニカルストッパ100の両方で駆動力を受けるようにすることができる。
【0108】
一方、車両の前進駆動時に、一旦、駆動力を抜いて最ローに変速する場合、チェーン6と噛んでいてもいなくても、位相ズレ許容動力伝達機構190の±0.5歯分の位相ズレ許容機能を活かして、最ローでピニオンスプロケット22,23の歯22c,23cをメカニカルストッパ100に噛ませてメカニカルストッパ100のみで駆動力を受けるようにすることもできる。なお、最ロー以外は、入力側と出力側の機械式自転駆動機構50のラック&ピニオンにて、ピニオンスプロケット22,23の反力を分担することができる。
【0109】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した一実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせてもよい。
【0110】
例えば、ピニオンスプロケット20の径方向への移動時にピニオンスプロケット20の自転方向への回転を規制しながら径方向への移動を案内するスプロケット移動機構40Aのスプロケット用固定放射状溝(案内溝)11a〜11cや、機械式自転駆動機構50のラック53,54のように、スプロケット用固定放射状溝に沿って装備された部材に、メカニカルストッパを装備し、この一方で、ピニオンスプロケット20の支持軸20aの側にメカニカルストッパに係合する係合面部を固設し、これらのメカニカルストッパと係合面部との係合によって、トルク伝達時に、ピニオンスプロケット20の支持軸20aをサポートしても良い。
【0111】
例えば、
図6に二点鎖線で示すように、ラック53,54の一端又は両端を延長し、ピニオンスプロケット20の最小径の位置や最大径の位置に応じた、ピニオン51,52の最小径位置や最大径位置で、ピニオン51,52の何れかの歯(係合面部)が当接する当接面を有するメカニカルストッパ100a〜100dを形成し、ピニオン51,52の歯がメカニカルストッパ100a〜100dの当接面に当接することで、トルク伝達時に、ピニオンスプロケット20の支持軸20aをサポートしても良い。
【0112】
同様に、
図6に二点鎖線で示すように、案内部材59の最小径位置や最大径位置で、案内部材59の側壁が当接する当接面を有するメカニカルストッパ100e,100fを固定ディスク10に形成し、案内部材59の側壁(係合面部)がメカニカルストッパ100e,100fの当接面に当接することで、トルク伝達時に、ピニオンスプロケット20の支持軸20aをサポートしても良い。この場合当然ながら、案内部材59はメカニカルストッパ100e,100fと当接しうるように軸方向に延設される。
【0113】
なお、ピニオンスプロケット20の最大径位置にメカニカルストッパを装備する場合も効果はある。例えば、変速比が最ローで最大トルクが入力されたときに、入力側の複合スプロケット5の最大の駆動力が加わり、この最大の駆動力がチェーン6を介して出力側の複合スプロケット5の各ピニオンスプロケット20に加わるため、これらのピニオンスプロケット20やその支持軸20aにも大きな負荷が加わる。メカニカルストッパを通じてこの負荷を軽減できるので、特に出力側の複合スプロケット5に適用すると有効である。
【0114】
これらのメカニカルストッパ100a〜100f等の全て又は一部を選択し、上記実施形態のメカニカルストッパ100に加えて装備しても良く、或いはメカニカルストッパ100に替えて装備しても良い。