特許第6190812号(P6190812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190812熱可塑性樹脂組成物、樹脂成形品、及びメッキ層付樹脂成形品の製造方法
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  • 特許6190812-熱可塑性樹脂組成物、樹脂成形品、及びメッキ層付樹脂成形品の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190812
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、樹脂成形品、及びメッキ層付樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20170821BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20170821BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20170821BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20170821BHJP
   C08K 13/04 20060101ALI20170821BHJP
   C23C 18/20 20060101ALI20170821BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20170821BHJP
   C23C 18/38 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L77/00
   C08K3/22
   C08K7/14
   C08K13/04
   C23C18/20
   C23C18/30
   C23C18/38
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-535516(P2014-535516)
(86)(22)【出願日】2013年9月5日
(86)【国際出願番号】JP2013073953
(87)【国際公開番号】WO2014042071
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2016年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-203372(P2012-203372)
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】高野 隆大
(72)【発明者】
【氏名】住野 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】明石 尚久
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−79212(JP,A)
【文献】 特開2011−241398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00− 101/16
C08L 77/00− 77/12
C08K 3/00− 3/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂100重量部に対し、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を1〜30重量部と、酸化チタン0.1〜20重量部と、ガラス繊維10〜230重量部とを含み、
前記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤は、L値が50以上であり、かつ、アンチモンと錫とを含む酸化物であり、
前記ガラス繊維は、SiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤は、錫の方がアンチモンよりも含有量が多い、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ガラス繊維の引張り弾性率が80GPa以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ガラス繊維がSガラス繊維である、請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である、請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
【請求項7】
前記樹脂成形品のL値が60以上である、請求項に記載の樹脂成形品。
【請求項8】
携帯電子機器部品である、請求項6または7に記載の樹脂成形品。
【請求項9】
さらに、表面にメッキ層を有する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【請求項10】
前記メッキ層がアンテナとしての性能を保有する、請求項9に記載の樹脂成形品。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の表面に、レーザーを照射後、金属を適用して、メッキ層を形成することを含む、メッキ層付樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
前記メッキ層が銅メッキ層である、請求項11に記載のメッキ層付樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載のメッキ層付樹脂成形品の製造方法を含む、アンテナを有する携帯電子機器部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関する。さらに、この熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品および、この樹脂成形品の表面に、メッキ層を形成したメッキ層付樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンを含む携帯電話の開発に伴い、携帯電話の内部にアンテナを製造する方法が種々検討されている。特に、携帯電話に3次元設計ができるアンテナを製造する方法が求められている。このような3次元アンテナを形成する技術の1つとして、レーザーダイレクトストラクチャリング(以下、「LDS」ということがある)技術が注目されている。LDS技術は、例えば、LDS添加剤を含む樹脂成形品の表面にレーザーを照射し、レーザーを照射した部分のみを活性化させ、該活性化させた部分に金属を適用することによってメッキ層を形成する技術である。この技術の特徴は、接着剤などを使わずに、樹脂基材表面に直接にアンテナ等の金属構造体を製造できる点にある。かかるLDS技術は、例えば、特許文献1〜3等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−503817号公報
【特許文献2】特表2004−534408号公報
【特許文献3】国際公開WO2009/141800号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、樹脂組成物を用いて樹脂成形品を成形する場合には、樹脂成形品を着色する観点から白色の樹脂組成物が求められている。しかし、白色の樹脂組成物によっては、レーザーを照射すると、照射したレーザーが樹脂組成物を透過してしまい、レーザーを照射した部分を適切に活性化することができない場合がある。レーザーを照射した部分を適切に活性化することができないと、樹脂成形品にメッキ層を適切に形成することができなくなってしまう。
また、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品については、機械的強度の向上も求められている。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決することを目的としたものであって、樹脂成形品としたときのメッキ特性を維持しつつ、得られる樹脂成形品の白色度および機械的強度に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる状況のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、L値が50以上であるLDS添加剤と、酸化チタンと、SiO2とAl23とを含み、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むガラス繊維とを熱可塑性樹脂に配合することによって、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは、<2>〜<14>により上記課題は解決された。
<1>熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂100重量部に対し、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を1〜30重量部と、酸化チタン0.1〜20重量部と、ガラス繊維10〜230重量部とを含み、
前記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤のL値が50以上であり、
前記ガラス繊維は、SiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含む、熱可塑性樹脂組成物。
<2>前記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤が、アンチモンと錫とを含む酸化物である、<1>に記載の熱可塑性樹脂組成物。
<3>前記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤は、錫の方がアンチモンよりも含有量が多い、<2>に記載の熱可塑性樹脂組成物。
<4>前記ガラス繊維の引張り弾性率が80GPa以上である、<1>〜<3>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
<5>前記ガラス繊維がSガラスである、<1>〜<4>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
<6>前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である、<1>〜<5>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
<7><1>〜<6>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
<8>前記樹脂成形品のL値が60以上である、<7>に記載の樹脂成形品。
<9>さらに、表面にメッキ層を有する、<8>に記載の樹脂成形品。
<10>携帯電子機器部品である、<8>または<9>に記載の樹脂成形品。
<11>前記メッキ層がアンテナとしての性能を保有する、<9>または<10>に記載の樹脂成形品。
<12><1>〜<6>のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の表面に、レーザーを照射後、金属を適用して、メッキ層を形成することを含む、メッキ層付樹脂成形品の製造方法。
<13>前記メッキ層が銅メッキ層である、<12>に記載のメッキ層付樹脂成形品の製造方法。
<14><12>または<13>に記載のメッキ層付樹脂成形品の製造方法を含む、アンテナを有する携帯電子機器部品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂成形品としたときのメッキ特性を維持しつつ、白色度および機械的強度に優れた熱可塑性樹脂成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】樹脂成形品の表面にメッキを設ける工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0010】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂100重量部に対し、LDS添加剤を1〜30重量部と、酸化チタン0.1〜20重量部と、ガラス繊維10〜230重量部とを含み、LDS添加剤のL値(明度)が50以上であり、ガラス繊維は、SiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、L値が60以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物のL値が60以上であることにより、白色度がより良好となるため、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の白色度を良好にすることができる。したがって、このような樹脂成形品に着色することが可能となる。熱可塑性樹脂組成物のL値は、例えば、測色色差計を用いて測定することができる。
【0012】
<熱可塑性樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されず、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂のアロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリアミド樹脂のアロイ、熱可塑性ポリエステル樹脂、メチルメタクリレート/アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂、メチルメタアクリレート/スチレン共重合樹脂、メチルメタアクリレート樹脂、ゴム強化メチルメタアクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0013】
本発明では、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましく用いられ、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。熱可塑性樹脂は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
ポリアミド樹脂は、その分子中に酸アミド基(−CONH−)を有する、加熱溶融できるポリアミド重合体である。具体的には、ラクタムの重縮合物、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物との重縮合物、ω−アミノカルボン酸の重縮合物等の各種ポリアミド樹脂、またはこれらの共重合ポリアミド樹脂やブレンド物等である。
【0015】
ポリアミド樹脂の重縮合の原料であるラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。
【0016】
ジアミン化合物としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、(2,2,4−または2,4,4−)トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等の脂肪族、脂環式、芳香族のジアミン等が挙げられる。
【0017】
ジカルボン酸化合物としては、例えば、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂肪族、脂環式、芳香族のジカルボン酸等が挙げられる。
【0018】
ω−アミノカルボン酸としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸が挙げられる。
【0019】
これらの原料から重縮合されてなるポリアミド樹脂の具体例としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリメタキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT等が挙げられる。本発明においては、これらポリアミドホモポリマーもしくはコポリマーを、各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0020】
上述のようなポリアミド樹脂の中でも、成形性、耐熱性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、またはα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸とキシリレンジアミンとの重縮合で得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂(MXナイロン)がより好ましく使用される。これらの中でも、さらにMXナイロンが、耐熱性、難燃性の観点から好ましい。また、ポリアミド樹脂が混合物である場合には、ポリアミド樹脂中のMXナイロンの比率が50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。
【0021】
MXナイロンは、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド9T等の脂肪族系ポリアミド樹脂に比べ結晶化速度がやや遅いため、MXナイロンを使用する場合は、成形サイクルを短縮するために、MXナイロンに脂肪族系ポリアミド樹脂を配合して用いることが好ましい。成形サイクル短縮の目的で配合する場合に用いられる脂肪族系ポリアミド樹脂としては、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド9T等の結晶化速度の速いポリアミド樹脂や、ポリアミド66/6T、66/6T/6I等の高融点のポリアミド樹脂が挙げられ、経済性の観点からポリアミド66またはポリアミド6が好ましい。成形性および物性のバランスから、その脂肪族系ポリアミド樹脂の含有率は、全ポリアミド樹脂中の50重量%未満が好ましく、1〜20重量%がより好ましい。脂肪族系ポリアミド樹脂の含有率を50重量%未満にすることにより、耐熱性をより良好に保つことができる。
【0022】
MXナイロンの原料であるα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸の中では、炭素数6〜20のα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸、例えば、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、エイコジオン酸等が好適に使用できる。これらのα,ω−直鎖脂肪族二塩基酸の中でも、成形性、成形品性能等のバランスを考慮すると、アジピン酸が特に好適である。
【0023】
MXナイロンのもうひとつの原料に使用するキシリレンジアミンとは、メタキシリレンジアミン、もしくはパラキシリレンジアミンとメタキシリレンジアミンとの混合キシリレンジアミンである。混合キシリレンジアミン中のメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比率(メタキシリレンジアミン/パラキシリレンジアミン)は55/45〜100/0が好ましく、70/30〜100/0がより好ましい。パラキシリレンジアミンのモル比率を45モル%未満とすることにより、ポリアミド樹脂の融点を低く保ち、MXナイロンの重合やMXナイロンを含む組成物の成形加工が容易になるため好ましい
【0024】
熱可塑性ポリエステル樹脂としては、特開2010−174223号公報の段落番号0013〜0016の記載を参酌することができ、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。例えば、ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂が60重量%以上、好ましくは80重量%以上を占める混合物が挙げられる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中における熱可塑性樹脂の配合量は、合計で、30重量%以上とすることが好ましく35重量%以上とすることが好ましく、35〜70重量%の範囲で含むことがより好ましい。
【0026】
<LDS添加剤>
本発明におけるLDS添加剤は、熱可塑性樹脂(例えば、後述する実施例で合成しているポリアミド樹脂)100重量部に対し、LDS添加剤と考えられる添加剤を10重量部添加し、波長1064nmのYAGレーザーを用い、出力13W、周波数20kHz、スキャン速度2m/sにて照射し、その後のメッキ工程は無電解のMacDermid社製MIDCopper100XB Strikeのメッキ槽にて実施し、該レーザー照射面に金属を適用したときに、メッキを形成できる化合物をいう。本発明で用いるLDS添加剤は、合成品であってもよいし、市販品を用いてもよい。また、市販品は、LDS添加剤として市販されているものの他、本発明におけるLDS添加剤の要件を満たす限り、他の用途として販売されている物質であってもよい。LDS添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
本発明で用いるLDS添加剤は、L値が通常50以上であり、55以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。L値が50以上であるLDS添加剤を熱可塑性樹脂に配合することにより、得られる熱可塑性樹脂組成物のL値をより大きくすることができる。すなわち、L値がより大きくなるほど、得られる熱可塑性樹脂組成物の色がより明るくなるため、より白色の熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。L値の上限は特に定めるものではないが、例えば、100以下とすることができる。LDS添加剤のL値は、上述した熱可塑性樹脂組成物のL値と同様に、例えば、測色色差計を用いて測定することができる。
【0028】
本発明で用いるLDS添加剤としては、上記L値を満たす限り特に定めるものではないが、例えば、アンチモンと錫を含む酸化物、リンと錫とを含む酸化物、アンチモンとリンと錫とを含む酸化物を用いることができ、アンチモンと錫を含む酸化物が好ましい。このように、アンチモンと錫を含む酸化物をLDS添加剤として用いることにより、メッキ特性より良好にすることができる。また、後述する少なくとも2種の金属を含み、かつ、抵抗率が5×103Ω・cm以下の導電性酸化物も例示される。
【0029】
本発明で用いるLDS添加剤として、アンチモンと錫を含む酸化物を用いる場合、錫の配合量がアンチモンの配合量よりも多いものがより好ましく、例えば、錫とアンチモンの合計量に対する錫の量が、80重量%以上であることがより好ましい。このようなLDS添加剤としては、例えば、アンチモンがドープされた酸化錫、酸化アンチモンがドープされた酸化錫が挙げられる。例えば、アンチモンと錫とを含む酸化物において、アンチモンの含有量は、1〜20重量%であることが好ましい。
【0030】
以下に、本発明で用いるLDS添加剤の好ましい実施形態について述べる。本発明で用いるLDS添加剤がこれらに限定されるものでは無いことは言うまでもない。
本発明で用いるLDS添加剤の第1の実施形態は、LDS添加剤に含まれる金属成分は、90重量%以上がスズであり、5重量%以上がアンチモンであり、微量成分として、鉛および/または銅を含む態様である。第1の実施形態におけるLDS添加剤は、より好ましくは、90重量%以上がスズであり、5〜9重量%がアンチモンであり、0.01〜0.1重量%の範囲で鉛を含み、0.001〜0.01重量%の範囲で銅を含む。
【0031】
より具体的には、本発明で用いるLDS添加剤は、酸化スズ90重量%以上と、酸化アンチモン3〜8重量%を含むことが好ましく、また、酸化鉛0.01〜0.1重量%および/または酸化銅0.001〜0.01重量%含むことが好ましい。特に好ましい実施形態は、酸化スズ90重量%以上と、酸化アンチモン3〜8重量%と、酸化鉛0.01〜0.1重量%と、酸化銅0.001〜0.01重量%含むLDS添加剤を用いる形態である。さらに好ましい実施形態は、酸化スズ93重量%以上と、酸化アンチモン4〜7重量%と、酸化鉛0.01〜0.05重量%と、酸化銅0.001〜0.006重量%含むLDS添加剤を用いる形態である。
【0032】
本発明で用いるLDS添加剤は、鉛および/または銅の他に、他の金属を微量含んでいてもよい。他の金属としては、インジウム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、カドミウム、銀、ビスマス、ヒ素、マンガン、クロム、マグネシウム、カルシウムなどが例示される。これら金属は酸化物として存在していてもよい。これら金属の含有量は、それぞれ、LDS添加剤に含まれる金属成分の、0.001重量%以下が好ましい。
【0033】
本発明で用いるLDS添加剤の第2の実施形態は、アンチモンと錫を含む酸化物以外に、マイカ、二酸化ケイ素および酸化チタンから選択される少なくとも1種を含む形態である。第2の実施形態においては、アンチモンと錫を含む酸化物を40〜45重量%、マイカと二酸化ケイ素の合計で50〜60重量%の割合で含むLDS添加剤や、アンチモンと錫を含む酸化物を35〜53重量%、マイカと二酸化ケイ素の合計で35〜53重量%、二酸化チタン11〜15重量%の割合で含むLDS添加剤が好ましい例として例示される。
【0034】
本発明の第3の実施形態で用いるLDS添加剤は、少なくとも2種の金属を含み、かつ、抵抗率が5×103Ω・cm以下の導電性酸化物を含むことが好ましい。導電性酸化物の抵抗率は、8×102Ω・cm以下が好ましく、7×102Ω・cm以下がより好ましく、5×102Ω・cm以下がさらに好ましい。下限については特に制限はないが、例えば、1×101Ω・cm以上とすることができ、さらには、1×102Ω・cm以上とすることができる。
本発明における導電性酸化物の抵抗率は、通常、粉末抵抗率をいい、導電性酸化物の微粉末10gを、内面にテフロン加工を施した内径25mmの円筒内へ装入して100kg/cm2に加圧し(充填率20%)、横河電気製の「3223型」テスターで測定することができる。
【0035】
第3の実施形態で用いるLDS添加剤は、抵抗率が5×103Ω・cm以下の導電性酸化物を含んでいれば特に制限されないが、少なくとも2種類の金属を含むことが好ましく、具体的には、周期表のn族(nは3〜16の整数)の金属とn+1族の金属を含むことが好ましい。nは10〜13の整数が好ましく、12または13がさらに好ましい。
第3の実施形態で用いるLDS添加剤は、LDS添加剤中における、周期表のn族(nは3〜16の整数)の金属の含有量とn+1族の金属の含有量の合計を100モル%としたとき、一方の金属の含有量が15モル%以下であることが好ましく、12モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。下限については特に制限はないが、0.0001モル%以上である。2種類以上の金属の含有量をこのような範囲とすることで、メッキ性を向上させることができる。本発明では特に、n+1族の金属がドープされたn族の金属酸化物が好ましい。
さらに、第3の実施形態で用いるLDS添加剤は、LDS添加剤中に含まれる金属成分の98重量%以上が、上記周期表のn族の金属の含有量とn+1族の金属で構成されることが好ましい。
【0036】
周期表のn族の金属としては、例えば、3族(スカンジウム、イットリウム)、4族(チタン、ジルコニウムなど)、5族(バナジウム、ニオブなど)、6族(クロム、モリブテンなど)、7族(マンガンなど)、8族(鉄、ルテニウムなど)、9族(コバルト、ロジウム、イリジウムなど)、10族(ニッケル、パラジウム、白金)、11族(同、銀、金など)、12族(亜鉛、カドミウムなど)、13族(アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、14族(ゲルマニウム、スズなど)、15族(ヒ素、アンチモンなど)、16族(セレン、テルルなど)、これらの金属酸化物などが挙げられる。中でも、12族(n=12)の金属または金属酸化物が好ましく、亜鉛がより好ましい。
【0037】
周期表のn+1族の金属としては、例えば、4族(チタン、ジルコニウムなど)、5族(バナジウム、ニオブなど)、6族(クロム、モリブテンなど)、7族(マンガンなど)、8族(鉄、ルテニウムなど)、9族(コバルト、ロジウム、イリジウムなど)、10族(ニッケル、パラジウム、白金)、11族(同、銀、金など)、12族(亜鉛、カドミウムなど)、13族(アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、14族(ゲルマニウム、スズなど)、15族(ヒ素、アンチモンなど)、16族(セレン、テルルなど)、これらの金属酸化物などが挙げられる。中でも、13族(n+1=13)の金属または金属酸化物が好ましく、アルミニウムまたはガリウムがより好ましく、アルミニウムがさらに好ましい。
【0038】
第3の実施形態で用いるLDS添加剤は、導電性金属酸化物以外の金属を含有していてもよい。導電性酸化物以外の金属としては、アンチモン、チタン、インジウム、鉄、コバルト、ニッケル、カドミウム、銀、ビスマス、ヒ素、マンガン、クロム、マグネシウム、カルシウムなどが例示される。これら金属は酸化物として存在していてもよい。これら金属の含有量は、LDS添加剤に対してそれぞれ0.01重量%以下が好ましい。
なお、第3の実施形態で用いるLDS添加剤は、L値を向上させる観点から、アンチモンの含有量は、LDS添加剤に対して3重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましく、0.01重量%以下であることがさらに好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。実質的に含まないとは、本発明の効果に影響を与える範囲内で含まないことを意味する。
【0039】
第3の実施形態で用いるLDS添加剤は、波長1064nmの光を吸収可能であることが好ましい。波長1064nmの光を吸収可能とすることで、樹脂成型品表面にメッキ層を形成しやすくなる。
【0040】
第3の実施形態で用いるLDS添加剤の粒子径は、0.01〜50μmであることが好ましく、0.05〜30μmであることがより好ましい。このような構成とすることにより、メッキを適応した際のメッキ表面状態の均一性が良好になる傾向にある。
【0041】
LDS添加剤の粒子径は、0.01〜100μmであることが好ましく、0.05〜10μmであることがより好ましい。このような構成とすることにより、メッキを適応した際のメッキ表面状態の均一性が良好になる傾向にある。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における、LDS添加剤の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、通常1〜30重量部であり、好ましくは2〜25重量部であり、より好ましくは5〜20重量部である。LDS添加剤の配合量をこのような範囲にすることによって、樹脂成形品のメッキ特性をより良好にすることができる。また、後述するように、タルクと組み合わせることにより、少ない添加量でメッキ形成をすることが可能になる。2種類以上のLDS添加剤を含む場合には、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0043】
<ガラス繊維>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ガラス繊維をさらに含む。ガラス繊維を配合することによって、樹脂成形品の機械的強度を向上させることができる。また、ガラス繊維を配合することによって、寸法精度もより向上させることができる。ガラス繊維は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
本発明で用いられるガラス繊維は、組成として、SiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むものである。また、本発明で用いられるガラス繊維は、SiO2と、Al23とともに、B(ホウ素)をさらに含有していてもよく、この場合、B(ホウ素)の含有量が1重量%以下であることが好ましい。また、本発明で用いられるガラス繊維は、引張り弾性率が80GPa以上であることが好ましい。具体的には、本発明で用いられるガラス繊維は、Sガラス(high strength glass:高強度ガラス)が例示される。このような組成のガラス繊維を用いることにより、得られる樹脂成形品の機械的強度(例えば、曲げ応力、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度(ノッチ付き、ノッチなし)等)を良好にすることができる。
【0045】
従来、熱可塑性樹脂組成物には、Eガラス(electrical glass)が用いられていたが、本願発明者が検討したところ、Eガラスを用いると、酸化チタンを配合する処方では、得られる樹脂成形品の機械的強度を高く維持することが困難であることが分かった。一方、本発明で用いる、SiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むガラス繊維を用いると、酸化チタンを配合しても、得られる樹脂成形品の機械的強度を良好にすることができる。
【0046】
従って、本発明の好ましい実施形態として、ガラス繊維成分が、実質的にSiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むガラス繊維のみからなる形態が例示される。
【0047】
本発明で用いられるガラス繊維は、例えば、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。シランカップリング剤の付着量は、通常、ガラス繊維重量の0.01〜1重量%である。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウンム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いてもよい。
【0048】
本発明で用いられるガラス繊維は、平均直径が20μm以下のものが好ましく、さらに1〜15μmのものが、物性バランス(強度、剛性、耐熱剛性、衝撃強度)をより一層高める点、並びに成形反りをより一層低減させる点で好ましい。また、通常断面形状が円形のガラス繊維が一般的に用いられることが多いが、本発明では、特に限定されず、例えば断面形状がまゆ形、楕円形、矩形の形状においても同様に使用できる。
【0049】
ガラス繊維の長さは特に限定されず、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)等から選択して用いることができる。このようなガラス繊維における集束本数は、100〜5000本程度であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物を混練した後の熱可塑性樹脂組成物中のガラス繊維の長さが平均0.1mm以上で得られるならば、いわゆるミルドファイバー、ガラスパウダーと呼ばれるストランドの粉砕品でもよく、また、ガラス繊維は、連続単繊維系のスライバーのものでもよい。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における、ガラス繊維の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、通常10〜230重量部であり、20〜195重量部であることが好ましく、30〜160重量部であることがより好ましい。本発明では、SiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むガラス繊維以外の他のガラス繊維(例えば、Eガラス等)を含んでいてもよい。また、他の無機繊維を含んでいてもよい。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物では、熱可塑性樹脂と、無機繊維(好ましくはガラス繊維、より好ましくはSiO2と、Al23とを含み、かつ、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むガラス繊維)とで、全成分の70重量%以上を占めることが好ましく、全成分の80重量%以上を占めることがより好ましい。
【0051】
<酸化チタン>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、酸化チタンをさらに含んでいる。熱可塑性樹脂組成物に酸化チタンが含有されることによって、樹脂成形品の白色度を高くすることができ、また、表面反射率を高くすることができる。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における酸化チタンの配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、通常0.01〜20重量部であり、好ましくは0.1〜15重量部であり、さらに好ましくは1〜10重量部である。酸化チタンの配合量をこのような範囲とすることによって、樹脂成形品の白色度をより良好にするとともに、加熱処理後の反射率の低下をより抑制することが可能になる。
【0053】
酸化チタンとしては、一般に市販されているもののなかでは、白色度と隠蔽性の点で、酸化チタンを80重量%以上含有するものを用いるのが好ましい。本発明で使用する酸化チタンとしては、例えば、一酸化チタン(TiO)、三酸化ニチタン(Ti23)、二酸化チタン(TiO2)などが挙げられ、これらのいずれを使用してもよいが、二酸化チタンが好ましい。また、酸化チタンとしては、ルチル型の結晶構造を有するものが好ましく使用される。
【0054】
酸化チタンの平均一次粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.001〜0.5μmの範囲内であることがより好ましく、0.002〜0.1μmの範囲内であることがさらに好ましい。酸化チタンの平均粒径をこのような範囲とし、配合量を上述した範囲内とすることにより、白色度が高く、表面反射率の高い成形品を与える熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0055】
酸化チタンとしては、表面処理を施したものを使用してもよい。表面処理剤としては、無機材料および/または有機材料が好ましい。具体的には、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛等の金属酸化物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、有機酸、ポリオール、シリコーン等の有機材料などが挙げられる。また、酸化チタンは、市販されているものを使用してもよい。さらに、酸化チタンは、塊状のものや平均粒径が大きなものを適宜粉砕し、必要に応じて篩い等によって分級して、上述した平均粒径となるようにしたものを使用してもよい。
【0056】
<エラストマー>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、エラストマーさらに含んでいてもよい。このように、エラストマーを含有することによって、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0057】
本発明に用いるエラストマーは、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0058】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも−20℃以下が好ましく、更には−30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴムなどのエチレン−α−オレフィン系ゴム、エチレン−アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0059】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0060】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。なお、本発明におけるコア/シェル型とは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものでは無なくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0061】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。このようなゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるエラストマーの含有量は、熱可塑性樹脂組成物全量の、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは0.5〜25重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。
【0063】
<タルク>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、タルクをさらに含んでいてもよい。タルクを配合することによって寸法安定性、製品外観を良好にすることができ、また、LDS添加剤の添加量を減らしても、樹脂成形品のメッキ特性を良好にすることができ、樹脂成形品に適切なメッキを形成することができる。タルクは、ポリオルガノハイドロジェンシロキサン類およびオルガノポリシロキサン類から選択される化合物の少なくとも1種で表面処理されたものを用いてもよい。この場合、タルクにおけるシロキサン化合物の付着量は、タルクの0.1〜5重量%であることが好ましい。
【0064】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における、タルクの配合量は、熱可塑性樹脂組成物100重量部に対し、0.01〜10重量部であることが好ましく、0.05〜8重量部であることがより好ましく、0.5〜5重量部であることがさらに好ましい。また、タルクがシロキサン化合物で表面処理されている場合には、シロキサン化合物で表面処理されたタルクの配合量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0065】
<離型剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、離型剤をさらに含有していてもよい。離型剤は、主に、樹脂組成物の成形時の生産性を向上させるために使用されるものである。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸アミド系、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。これらの離型剤の中では、特に、カルボン酸アミド系化合物が好ましい。
【0066】
脂肪族カルボン酸アミド系としては、例えば、高級脂肪族モノカルボン酸および/または多塩基酸とジアミンとの脱水反応によって得られる化合物が挙げられる。
【0067】
高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。
【0068】
多塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0069】
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0070】
カルボン酸アミド系化合物としては、ステアリン酸とセバシン酸とエチレンジアミンを重縮合してなる化合物が好ましく、ステアリン酸2モルとセバシン酸1モルとエチレンジアミン2モルを重縮合させた化合物がさらに好ましい。また、N,N'−メチレンビスステアリン酸アミドやN,N'−エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミンと脂肪族カルボン酸とを反応させて得られるビスアミド系化合物の他、N,N'−ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジカルボン酸アミド化合物も好適に使用し得る。
【0071】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0072】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0073】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0074】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0075】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、脂肪族炭化水素の数平均分子量は好ましくは5000以下である。
【0076】
離型剤の含有量は、熱可塑性樹脂とガラス繊維との合計100重量部に対して、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上であり、また、通常2重量部以下、好ましくは1.5重量部以下である。離型剤の含有量を、熱可塑性樹脂とガラス繊維との合計100重量部に対して、0.001重量部以上とすることによって、離型性を良好にすることができる。また、離型剤の含有量を、熱可塑性樹脂とガラス繊維との合計100重量部に対して、2重量部以下とすることによって、耐加水分解性の低下を防止することができ、また、射出成形時の金型汚染を防止することができる。
【0077】
<その他の添加剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、アルカリ、熱安定剤、難燃剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、などが挙げられる。これらの成分は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0078】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、任意の方法を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂と、LDS添加剤と、ガラス繊維とをV型ブレンダー等の混合手段を用いて混合し、一括ブレンド品を調整した後、ベント付き押出機で溶融混練してペレット化する方法が挙げられる。あるいは、二段階練込法として、予め、ガラス繊維以外の成分等を、十分混合後、ベント付き押出機で溶融混練りしてペレットを製造した後、そのペレットとガラス繊維を混合後、ベント付き押出機で溶融混練りする方法が挙げられる。
【0079】
さらに、ガラス繊維以外の成分等を、V型ブレンダー等で十分混合したものを予め調整しておき、この混合物をベント付き二軸押出機の第一シュートより供給し、ガラス繊維は押出機途中の第二シュートより供給して溶融混練、ペレット化する方法が挙げられる。
押出機の混練ゾーンのスクリュー構成は、混練を促進するエレメントを上流側に、昇圧能力のあるエレメントを下流側に配置されることが好ましい。
【0080】
混練を促進するエレメントとしては、順送りニーディングディスクエレメント、直交ニーディングディスクエレメント、幅広ニーディングディスクエレメント、および順送りミキシングスクリューエレメント等が挙げられる。
【0081】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常180〜360℃の範囲から適宜選択することができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。そのため、剪断発熱等を考慮したスクリュー構成を選定することが望ましい。また、混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する観点から、酸化防止剤や熱安定剤を使用することが望ましい。
【0082】
樹脂成形品の製造方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【0083】
<メッキ層付樹脂成型品の製造方法>
次に、本発明のメッキ層付樹脂成型品の製造方法、具体的には、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形した樹脂成形品の表面にメッキを設ける工程を図1に従って説明する。
【0084】
図1は、レーザーダイレクトストラクチャリング技術によって、樹脂成形品1の表面にメッキを形成する工程を示す概略図である。図1において、樹脂成形品1は、平坦な基板となっているが、必ずしも平坦な基板である必要はなく、一部または全部が曲面している樹脂成形品であってもよい。また、樹脂成形品1には、最終製品に限定されず、各種部品も含まれる。
【0085】
本発明における樹脂成形品1としては、携帯電子機器部品が好ましい。携帯電子機器部品は、高い耐衝撃特性と剛性、優れた耐熱性を併せ持つうえ、異方性が小さく、反りが小さいという特徴を有し、電子手帳、携帯用コンピューター等のPDA、ポケットベル、携帯電話、PHSなどの内部構造物及び筐体として極めて有効である。特に、成形品がリブを除く平均肉厚が1.2mm以下(下限値は特に定めるものではないが、例えば、0.4mm以上)である平板形状の携帯電子機器用部品に適しており、中でも筐体として特に適している。
再び図1に戻り、本発明のメッキ層付樹脂成型品の製造方法においては、樹脂成形品1にレーザー2を照射する。
【0086】
レーザー2は、特に限定されるものではなく、YAGレーザー、エキシマレーザー、電磁線等の公知のレーザーから適宜選択することができ、特にYGAレーザーが好ましい。また、レーザー2の波長も特に限定されるものではない。好ましいレーザー2の波長範囲は、200nm〜1200nmであり、特に好ましくは800〜1200nmである。
【0087】
レーザー2が樹脂成型品1に照射されると、レーザー2が照射された部分3のみ、樹脂成形品1が活性化される。このように活性化された状態で、樹脂成形品1をメッキ液4に適用する。メッキ液4としては、特に定めるものではなく、公知のメッキ液を広く採用することができ、金属成分として銅、ニッケル、金、銀、パラジウムが混合されているものが好ましく、銅がより好ましい。
【0088】
樹脂成形品1をメッキ液4に適用する方法についても、特に限定されないが、例えば、メッキ液を配合した液中に投入する方法が挙げられる。メッキ液を適用後の樹脂成形品1は、レーザー2を照射した部分のみ、メッキ層5が形成される。
【0089】
本発明の方法では、1mm以下、さらには、150μm以下の幅の回路間隔(下限値は特に定めるものではないが、例えば、30μm以上)を形成することができる。かかる回路は携帯電子機器部品のアンテナとして好ましく用いられる。すなわち、本発明の樹脂成形品1の好ましい実施形態の一例として、携帯電子機器部品の表面に設けられたメッキ層が、アンテナとしての性能を保有する樹脂成形品が挙げられる。
【0090】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特開2011−219620号公報、特開2011−195820号公報、特開2011−178873号公報、特開2011−168705号公報、特開2011−148267号公報の記載を参酌することができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0092】
<熱可塑性樹脂>
PAMP10:ポリアミド樹脂(三菱瓦斯化学社製)
【0093】
<LDS添加剤>
Iriotec8820:L値:(64.4)、アンチモンドープ酸化スズ((SnxSb1-x)O2:36〜50重量%、マイカ+二酸化ケイ素:35〜53重量%、二酸化チタン:11〜15重量%))(メルク社製)
Minatec40CM:L値:(62.9)、アンチモンドープ酸化スズ((SnxSb1-x)O2:43重量%、マイカ+二酸化ケイ素:57重量%)(メルク社製)
CP5C:L値:(65.9)、アンチモンドープ酸化スズ(酸化スズ95重量%、酸化アンチモン5重量%、酸化鉛0.02重量%、酸化銅0.004重量%)(Keeling&Walker社製)
Black1G:L値:(15.6)、銅クロム酸化物(CuCr24)(シェファードジャパン製)
【0094】
<ガラス繊維>
03T−296GH:Eガラス(日本電気硝子製)
Sガラス(引張り弾性率:86GPa、SiO2:65重量%、Al23:25重量%、B(ホウ素):0.001〜0.01重量%))
【0095】
<白色顔料>
二酸化チタン:CR−63(石原産業製)
硫化亜鉛:タイペークR−630(石原産業製)
【0096】
<エラストマー>
SEBS:FT1901GT(クレイトンポリマー社製)
【0097】
<タルク>
ミクロンホワイト5000S(林化成製)
【0098】
<離型剤>
CS8CP(日東化成工業製)
【0099】
<コンパウンド>
後述する表に示す組成となるように、各成分をそれぞれ秤量し、ガラス繊維を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融した後で、ガラス繊維をサイドフィードして樹脂ペレットを作成した。押出機の温度設定は、280℃にて実施した。
【0100】
<ISO引張り試験片の作成>
上記の製造方法で得られたペレットを80℃で5時間乾燥させた後、ファナック社製射出成形機(100T)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。
【0101】
射出速度:ISO引張試験片中央部の断面積から樹脂流速を計算して300mm/sとなるように設定した。約95%充填時にVP切替となるように保圧に切り替えた。保圧はバリの出ない範囲で高めに500kgf/cm2を25秒とした。
【0102】
<曲げ強度および曲げ弾性率>
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で曲げ強度(単位:MPa)及び、曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。
【0103】
<シャルピー衝撃強度>
上述の方法で得られたISO引張試験片(4mm厚)を用い、ISO179−1またはISO179−2に準拠し、23℃の条件で、ノッチ付きシャルピー衝撃強度及びノッチなしシャルピー衝撃強度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0104】
<Plating外観>
金型として60×60mmで厚みの2mmのキャビティに、樹脂温280℃、金型温度110℃で、幅60mmが1.5mm厚みのファンゲートから樹脂を充填して成形を行った。ゲート部分をカットし、プレート試験片を得た。
得られたプレート試験片の10×10mmの範囲に、Trumpf製、VMc1のレーザー照射装置(波長1064nmのYAGレーザー最大出力15W)を用い、出力60%、周波数100kHz、スキャン速度4m/sにて照射した。その後のメッキ工程は無電解のEnthone社製、ENPLATE LDS CU 400 PCの48℃のメッキ槽にて実施した。メッキ性能は20分間にメッキされた銅の厚みを目視にて判断した。
以下の通り評価した。結果を下記表1に示す。
○:良好な外観(銅の色も濃くメッキが厚く乗っている様子が確認された)
△:メッキは乗っているが若干薄い様子(実用レベル)
×:全くメッキが乗らない様子
【0105】
<L値>
色差計(Spectro Color Meter SE2000)装置(日本電色工業株式会社製)を用いて、60×60mmで厚み2mmの試験片のL値(明度)を測定した。以下の通り評価した。結果を下記表1に示す。
○:L値が60以上(白色度が良好)
×:L値が60未満(白色度が良好ではない)
【0106】
【表1】
【0107】
表1の結果から明らかな通り、実施例1〜3で得られた熱可塑性樹脂組成物は、曲げ強度、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、L値、樹脂成形品のメッキ特性(Plating外観)のいずれにも優れていた。
【0108】
一方、比較例1で得られた熱可塑性樹脂組成物は、L値が50以上であるLDS添加剤を用いなかったため、L値が良好ではなかった。すなわち、比較例1で得られた熱可塑性樹脂組成物は、LDS添加剤として、アンチモンと錫とを含む酸化物ではなく、銅クロム酸化物を含有しているため、白色ではなかった。
【0109】
また、比較例2で得られた熱可塑性樹脂組成物は、SiO2を60〜70重量%、Al23を20〜30重量%の割合で含むガラス繊維を用いていないため、曲げ強度およびシャルピー衝撃強度が良好ではなかった。
【0110】
また、比較例3で得られた熱可塑性樹脂組成物は、酸化チタンを含有していないため、樹脂成形品にメッキ層を適切に形成することができなかった。すなわち、比較例3で得られた熱可塑性樹脂組成物は、酸化チタンではなく硫化亜鉛を含有しているため、樹脂成形品のメッキ特性が良好ではなかった。
【0111】
以上のように、本発明によれば、樹脂成形品としたときのメッキ特性を維持しつつ、白色度および機械的強度に優れた熱可塑性樹脂成形品を提供できることがわかった。
【符号の説明】
【0112】
1 樹脂成形品、2 レーザー、3 レーザーが照射された部分、4 メッキ液、5 メッキ層
図1