特許第6190816号(P6190816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190816テラヘルツ波検出素子とその作製方法および観察装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190816
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】テラヘルツ波検出素子とその作製方法および観察装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20170821BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20170821BHJP
   G01J 1/38 20060101ALI20170821BHJP
   G02F 1/03 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G01J1/02 R
   G01N21/3581
   G01J1/38
   G01J1/02 C
   G02F1/03 505
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-536898(P2014-536898)
(86)(22)【出願日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2013075273
(87)【国際公開番号】WO2014046170
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-209539(P2012-209539)
(32)【優先日】2012年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
(72)【発明者】
【氏名】岩田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】江尻 哲也
【審査官】 ▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−185696(JP,A)
【文献】 特開2003−344457(JP,A)
【文献】 特開2002−337274(JP,A)
【文献】 特開2010−156674(JP,A)
【文献】 特開2003−324226(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0156110(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 − G01J 1/60
G01N 21/00 − G01N 21/61
G02F 1/03 − G02F 1/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射したテラヘルツ波が有する空間的強度分布を検出可能なテラヘルツ波検出素子であって、
前記テラヘルツ波の入射位置における屈折率が前記入射位置における前記テラヘルツ波の入射強度に応じて変化する電気光学結晶からなる電気光学結晶層と、
前記電気光学結晶層を支持する支持基板と、
前記電気光学結晶層と前記支持基板とを接合する樹脂層と、
前記電気光学結晶の表面に設けられた、第1の誘電体多層膜からなる全反射層と、
前記支持基板の表面に設けられた、第2の誘電体多層膜からなる反射防止層と、
を備え、
前記電気光学結晶層に前記テラヘルツ波と重畳的に照射されたプローブ光に生じる、前記テラヘルツ波の入射によって前記電気光学結晶層に生じている屈折率の空間的分布に応じた空間的特性分布を検出することで、前記入射したテラヘルツ波の前記空間的強度分布を検出するようになっており、
前記電気光学結晶層の厚みが1μm以上10μm以下であり、
前記樹脂層の厚みが0.1μm以上1μm以下であり、
前記全反射層の厚みが1μm以上であり、
前記全反射層の厚みに対する前記樹脂層の厚みの比が1/3以下である、
ことを特徴とするテラヘルツ波検出素子。
【請求項2】
請求項1に記載のテラヘルツ波検出素子であって、
前記全反射層の熱膨張係数が、前記電気光学結晶層の熱膨張係数よりも小さい、
ことを特徴とするテラヘルツ波検出素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のテラヘルツ波検出素子であって、
4インチ径換算での前記支持基板の平面度が25μm以下であり、平行度が3μm以下である、
ことを特徴とするテラヘルツ波検出素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のテラヘルツ波検出素子であって、
前記プローブ光に生じる前記空間的特性分布が、前記プローブ光の強度分布である、
ことを特徴とするテラヘルツ波検出素子。
【請求項5】
入射したテラヘルツ波が有する空間的強度分布を検出可能なテラヘルツ波検出素子を作製する方法であって、
テラヘルツ波の入射位置における屈折率が前記入射位置における前記テラヘルツ波の入射強度に応じて変化する電気光学結晶からなる第1の基板と、前記電気光学結晶を支持する第2の基板とを、熱硬化性樹脂からなる接着剤によって接合する接合工程と、
前記接合工程によって得られた接合体の前記第1の基板を研磨して1μm以上10μm以下の厚みに薄層化する研磨工程と、
前記研磨工程を経た前記接合体の前記第1の基板の表面に第1の誘電体多層膜からなる全反射層を形成する全反射層形成工程と、
前記接合体の前記第2の基板の表面に第2の誘電体多層膜からなる反射防止層を形成する反射防止層形成工程と、
前記全反射層と前記反射防止層とが形成された前記接合体を所定の素子サイズの個片にカットすることで多数個のテラヘルツ波検出素子を得る個片化工程と、
を備え、
前記接合工程においては、前記接着剤が熱硬化することで形成される樹脂層の厚みが0.1μm以上1μm以下となるように前記第1の基板と前記第2の基板とを接合し、
前記全反射層形成工程においては、前記全反射層を1μm以上の厚みに形成し、
かつ、
前記全反射層の厚みに対する前記樹脂層の厚みの比を1/3以下とする、
ことを特徴とするテラヘルツ波検出素子の作製方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のテラヘルツ波検出素子を、前記電気光学結晶層側の表面が被検試料の被載置面となるように備えるとともに、
前記被検試料が載置された前記被載置面に向けて前記テラヘルツ波を照射するテラヘルツ波照射光学系と、
前記支持基板の側から前記電気光学結晶層に対し前記プローブ光を照射するプローブ光照射光学系と、
前記テラヘルツ波の入射によって前記屈折率の空間的分布が生じている前記電気光学結晶層から出射された、前記空間的特性分布を有する前記プローブ光の像を観察する観察光学系と、
を備えることを特徴とする観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用したテラヘルツ波の検出に用いる素子であって、特に、テラヘルツ波を利用した観察装置に用いるテラヘルツ波検出素子に関する。
【背景技術】
【0003】
テラヘルツ波とは、一般に、0.1THz〜30THzまでの周波数の電磁波である。テラヘルツ波は、物性、電子分光、生命科学、化学、薬品科学などの基礎科学分野から、大気環境計測、セキュリティ、材料検査、食品検査、通信などの応用分野への展開が期待されている。
【0004】
例えば、テラヘルツ波は、光子エネルギーが小さくかつマイクロ波やミリ波に比して周波数が高いという特徴を活かすべく、対象物を非破壊で診断(検査)する画像診断装置への応用が期待されている。特に、波長範囲が生体細胞の構成物質に固有の吸収波長を含むことから、テラヘルツ波は、生体細胞の検査や観察をリアルタイムで行える装置への応用が期待されている。従来、生体細胞の検査や観察は、顔料などで染色しないと行い得なかったため、時間や手間を要していた。例えば、テラヘルツ波を利用することにより、可視光による観察が困難な細胞試料を高空間分解能で観察することができる装置がすでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示された装置においては、テラヘルツ波の検出素子として、電気光学単結晶が利用されている。具体的には、入射するテラヘルツ波の強度に応じて屈折率が変化する、という電気光学単結晶の性質が利用されている。係る屈折率の変化は、テラヘルツ波が照射されている電気光学単結晶に対し赤外光などの光(検出光、プローブ光などと称する)を重畳的に照射すれば、当該光の位相や偏光、強度(光量)の変化として検出することが可能である。特許文献1に開示された装置においては、被検試料を透過することで強度に空間分布の生じた(強度が空間変調された)テラヘルツ波を電気光学結晶に入射させ、該強度分布に応じて電気光学単結晶に生じた屈折率変化の空間分布を、近赤外光の光量分布として読み出すことで、被検試料の観察が行えるようになっている。
【0006】
このような原理で観察を行う観察装置において、高い空間分解能を得るには、被検試料を透過したテラヘルツ波が回折の影響で広がらないように、電気光学結晶を出来るだけ薄くすることが求められる。特許文献1には、電気光学結晶を補強部材によって支持し、電気光学結晶自体は極めて薄く形成したテラヘルツ波検出素子も開示されている。
【0007】
一方、多重反射による影響を低減して測定可能なテラヘルツ帯域を拡げるべく、電気光学結晶として5μm以上100μm以下の厚みのZnTe結晶を用いるようにしたテラヘルツ電磁波検出器も既に公知である(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に開示された技術においては、電気光学結晶を支持する支持基板にもZnTe結晶が用いられ、両者は熱圧着により接合されている。
【0008】
さらには、電気光学結晶であるニオブ酸リチウム単結晶やタンタル酸リチウム単結晶を0.1μm以上、10μm以下とし、支持基板をフルオレン骨格を有する樹脂で接着した接着体もすでに公知である(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
上述のように、テラヘルツ波を用いた観察装置において高い空間分解能を得るには、検出に用いる電気光学結晶を薄くすることが要求される。これを実現するべく、テラヘルツ波検出素子は通常、特許文献2に開示の熱圧着や特許文献3に開示の樹脂接着といった手法によって電気光学結晶と支持基板とを接合したうえで電気光学結晶を薄層化することにより作製される。
【0010】
なお、より詳細にいえば、テラヘルツ波検出素子は一般に平面視で数mmから数cm角程度という比較的小さなサイズに形成される。それゆえ、上述のように薄層の電気光学結晶を有するテラヘルツ波検出素子は、通常、製造効率の向上や薄層化の精度確保のため、電気光学結晶と支持基板とをそれぞれサイズの大きな母基板として用意し、両母基板を接合して接合体を得た後、電気光学結晶を機械研磨等によって薄層化したうえで、最終的に接合体を所望のサイズの素子(チップ)にカットする、いわゆる多数個取りを行うことによって得られる。また、検出効率を向上させるために検出素子の表裏面に全反射膜や反射防止膜を設ける場合の成膜処理(コーティング処理)も通常、母基板を対象に行われる。
【0011】
また、高空間分解能を実現するには、テラヘルツ波検出素子が優れた平面度や平行度を有していることも必要である。すなわち、テラヘルツ波検出素子が、反りが小さくかつ表面凹凸が小さいものであることが必要である。観察装置に用いたテラヘルツ波検出素子の平面度や平行度が悪い場合、観察像が変質したり、ぼやけたりする現象が生じ、良好な観察を行うことが出来ない。
【0012】
また、検出素子の表裏面に全反射膜や反射防止膜を設ける場合、接合体そのものを直接に加熱することはないものの、成膜時の雰囲気が100℃以上となるために、接合体は雰囲気によって加熱される。それゆえ、電気光学結晶の母基板と支持基板や接着層(樹脂層)との熱膨張係数差に起因する応力(熱応力)によって、加熱後の接合体に反りが生じることがある。そのため、成膜前に上述の平面度をみたしていたとしても、成膜後はこれをみたさなくなることや、中心部と外周部とで全反射膜や反射防止膜の厚みが異なってしまうことがある。
【0013】
係る場合、接合体を分割して得られる個々のテラヘルツ波検出素子における反射防止膜の厚みにばらつきが生じることになるので、素子間で、検出光の強度にばらつきが生じ、さらには、空間分解能にもばらつきが生じてしまう。すなわち、テラヘルツ波検出素子の品質にばらつきが生じるという問題が起こる。
【0014】
さらに、熱圧着の場合は、電気光学結晶の母基板と支持基板の母基板とを両母基板を数百℃以上に加熱するので、熱膨張差に起因する応力(熱応力)の影響がより顕著となる。それゆえ、得られた接合体においては、反りに留まらず、電気光学結晶にクラックが発生したり、接合体自体に割れが発生することもある。また、係る熱応力が内部応力として電気光学結晶基板に内在化すると、電気光学結晶における電気光学定数が本来の値から変化し、結果としてテラヘルツ波の屈折率変化が小さくなって検出感度および空間分解能が劣化するという問題も起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−156674号公報
【特許文献2】特開2003−270598号公報
【特許文献3】特開2002−337274号公報
【発明の概要】
【0016】
本願発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、素子全体の反りや電気光学結晶におけるクラックの発生が好適に抑制されてなり、かつ、電気光学結晶と支持基板との接合強度が好適に確保されたテラヘルツ波検出素子を安定的な品質で提供することを目的とする。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様では、入射したテラヘルツ波が有する空間的強度分布を検出可能なテラヘルツ波検出素子が、前記テラヘルツ波の入射位置における屈折率が前記入射位置における前記テラヘルツ波の入射強度に応じて変化する電気光学結晶からなる電気光学結晶層と、前記電気光学結晶層を支持する支持基板と、前記電気光学結晶層と前記支持基板とを接合する樹脂層と、前記電気光学結晶の表面に設けられた、第1の誘電体多層膜からなる全反射層と、前記支持基板の表面に設けられた、第2の誘電体多層膜からなる反射防止層と、を備え、前記電気光学結晶層に前記テラヘルツ波と重畳的に照射されたプローブ光に生じる、前記テラヘルツ波の入射によって前記電気光学結晶層に生じている屈折率の空間的分布に応じた空間的特性分布を検出することで、前記入射したテラヘルツ波の前記空間的強度分布を検出するようになっており、前記電気光学結晶層の厚みが1μm以上10μm以下であり、前記樹脂層の厚みが0.1μm以上1μmであり、前記全反射層の厚みが1μm以上であり、前記全反射層の厚みに対する前記樹脂層の厚みの比が1/3以下である、ようにした。
【0018】
本発明の第2の態様では、第1の態様に係るテラヘルツ波検出素子において、前記全反射層の熱膨張係数が、前記電気光学結晶層の熱膨張係数よりも小さい、ようにした。
【0019】
本発明の第3の態様では、第1または第2の態様に係るテラヘルツ波検出素子において、4インチ径換算での前記支持基板の平面度が25μm以下であり、平行度が3μm以下である、ようにした。
【0020】
本発明の第4の態様では、第1ないし第3のいずれかの態様に係るテラヘルツ波検出素子において、前記プローブ光に生じる前記空間的特性分布が、前記プローブ光の強度分布である、ようにした。
【0021】
本発明の第5の態様では、入射したテラヘルツ波が有する空間的強度分布を検出可能なテラヘルツ波検出素子を作製する方法が、テラヘルツ波の入射位置における屈折率が前記入射位置における前記テラヘルツ波の入射強度に応じて変化する電気光学結晶からなる第1の基板と、前記電気光学結晶を支持する第2の基板とを、熱硬化性樹脂からなる接着剤によって接合する接合工程と、前記接合工程によって得られた接合体の前記第1の基板を研磨して1μm以上10μm以下の厚みに薄層化する研磨工程と、前記研磨工程を経た前記接合体の前記第1の基板の表面に第1の誘電体多層膜からなる全反射層を形成する全反射層形成工程と、前記接合体の前記第2の基板の表面に第2の誘電体多層膜からなる反射防止層を形成する反射防止層形成工程と、前記全反射層と前記反射防止層とが形成された前記接合体を所定の素子サイズの個片にカットすることで多数個のテラヘルツ波検出素子を得る個片化工程と、を備え、前記接合工程においては、前記接着剤が熱硬化することで形成される樹脂層の厚みが0.1μm以上1μm以下となるように前記第1の基板と前記第2の基板とを接合し、前記全反射層形成工程においては、前記全反射層を1μm以上の厚みに形成し、かつ、前記全反射層の厚みに対する前記樹脂層の厚みの比を1/3以下とする、ようにした。
【0023】
本発明の第の態様では、観察装置が、第1ないし第4のいずれかの態様に係るテラヘルツ波検出素子を、前記電気光学結晶層側の表面が被検試料の被載置面となるように備えるとともに、前記被検試料が載置された前記被載置面に向けて前記テラヘルツ波を照射するテラヘルツ波照射光学系と、前記支持基板の側から前記電気光学結晶層に対し前記プローブ光を照射するプローブ光照射光学系と、前記テラヘルツ波の入射によって前記屈折率の空間的分布が生じている前記電気光学結晶層から出射された、前記空間的特性分布を有する前記プローブ光の像を観察する観察光学系と、を備えるようにした。
【0024】
本発明の第1ないし第5の態様によれば、クラックフリーでかつ高空間分解能のテラヘルツ波検出素子が実現できる。
【0026】
本発明の第の態様によれば、生体試料を高空間分解能でかつリアルタイムに観察可能な観察装置が実現される。

【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】テラヘルツ波検出素子10の構成を示す模式断面図である。
図2】テラヘルツ波検出素子10が組み込まれた観察装置1000の構成を模式的に示す図である。
図3】テラヘルツ波検出素子10の作製の流れを概略的かつ模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<テラヘルツ波検出素子の構成>
図1は、本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10の構成を示す模式断面図である。図2は、テラヘルツ波検出素子10が組み込まれた観察装置1000の構成を模式的に示す図である。なお、図1における各層の厚みの大小関係は、実際のものを反映したものではない。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10は、電気光学結晶層1と、支持基板2と、両者の接合層である樹脂層3とを主に備える。
【0030】
係るテラヘルツ波検出素子10は、主として、図2に示すような、生体細胞の検査や観察を行う観察装置1000において用いられる。当該観察装置1000においては、生体細胞等の被検試料S(図2)をテラヘルツ波検出素子10の被載置面10sに載置させた状態で、テラヘルツ波検出素子10に対しテラヘルツ波THおよびプローブ光PBが重畳的に照射される。すなわち、観察装置1000において、テラヘルツ波検出素子10は、被検試料Sのステージとしての役割も有している。係るテラヘルツ波検出素子10は、被検試料Sを保持するに十分な平面サイズを有していればよいが、典型的には、平面視で数mm角程度の大きさを有する。なお、観察装置1000の構成およびこれを用いた被検試料Sの観察についての詳細は後述する。
【0031】
電気光学結晶層1をなす電気光学結晶としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LN)結晶、タンタル酸リチウム(LT)結晶、ZnTe結晶、GaAs結晶、GaP結晶、KTP(KTiOPO)結晶、DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)結晶などが例示できる。このうち、LNやLTについては、ストイキオメトリー組成であってもよいし、光損傷を低減する目的でMgOなどがドーピングされていてもよい。また、LNやLTを使用する場合、電気光学定数として電気光学効果が大きいr33が利用できるように、z軸が面内方向に存在するx板、y板であることが好ましい。
【0032】
電気光学結晶層1の厚みは、30μm以下とする必要がある。電気光学結晶層1の厚みを30μmよりも大きくすると、テラヘルツ波検出素子10の作製過程において電気光学結晶層1にクラックが発生し得るため、好ましくない。また、電気光学結晶層1の厚みは、10μm以下であるのが好ましい。電気光学結晶層1の厚みが10μm以下であれば、テラヘルツ波検出素子10を観察装置1000に使用した場合の空間分解能を20μm以下とすることが可能となる。空間分解能が20μm以下であれば、生体試料について良好に観察を行うことができる。
【0033】
なお、電気光学結晶層1の厚みが小さいほど空間分解能は高くなるが、加工精度の観点や、プローブ光PBの検出精度の観点などから、電気光学結晶層1は、1μm以上の厚みであるのが好ましい。
【0034】
支持基板2は、上述のように厚みが小さい電気光学結晶層1を支持する基板である。支持基板2は、アモルファス、単結晶、多結晶のいずれかで構成されればよいが、電気光学結晶ではないことが好ましい。また、基板水平方向の電界に対する感受率が小さい方位のものが好ましい。以上の点を鑑みると、支持基板2としては、ガラス基板、水晶基板、アルミナ基板、酸化マグネシウム基板などを用いるのが好適である。支持基板2の厚みについては、ある程度の強度とハンドリング性とが確保される限り、特段の制限はないが、例えば、数百μm〜数mm程度の厚みのものを用いるのが好適である。なお、プローブ光PBの散乱を防止するという観点では、支持基板2の表面粗さはプローブ光PBの波長の1/5以下であるのが好ましい。
【0035】
樹脂層3は、電気光学結晶層1と支持基板2との接合層である。樹脂層3は、エポキシ系の熱硬化性樹脂からなる層である。また、樹脂層3は、電気光学結晶層1の熱膨張係数よりも大きな熱膨張係数を有する。電気光学結晶層1と支持基板2との接合の仕方については後述する。
【0036】
樹脂層3は、電気光学結晶層1と支持基板2との接合状態を保持するという点からは、0.1μm以上の厚みを有していれば十分である。ただし、樹脂層3は、テラヘルツ波検出素子10における反りを抑制し、電気光学結晶層1におけるクラックの発生を防ぐという観点からは1μm以下の厚みに形成するのが好ましい。この点については後述する。
【0037】
以上に示す、電気光学結晶層1と、支持基板2と、これらを接合する樹脂層3とが、テラヘルツ波検出素子10の基本的な構成要素である。
【0038】
ただし、本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10には、さらに、観察装置1000において使用した場合の観察性能の向上を図る目的で、反射防止層4と、全反射層5とが備わっている。
【0039】
反射防止層4は、支持基板2の、樹脂層3とは反対側の面に設けられてなる。反射防止層4は、テラヘルツ波検出素子10に対し支持基板2の側から入射されるプローブ光PBが支持基板2の表面で反射されるのを防止するべく設けられる。
【0040】
具体的には、反射防止層4は、支持基板2の主面上に、相異なる組成の誘電体からなる第1単位反射防止層4aと第2単位反射防止層4bとが繰り返し交互に積層された誘電体多層膜として設けられる。反射防止層4の形成に用いることができる誘電体としては、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化チタン、フッ化マグネシウム、ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、硫化亜鉛等が例示できる。あるいは、反射防止層4は、上記の誘電体の単層膜としてもよい。
【0041】
例えば、蒸着法により、Taからなる第1単位反射防止層4aとSiOからなる第2単位反射防止層4bとをそれぞれ数十nm〜百数十nm程度の厚みに形成し、反射防止層4を全体として0.2μm〜0.5μm程度の厚みに設けるのが好適である。これにより、反射率が0.1%以下の反射防止層4を設けることができる。
【0042】
全反射層5は、電気光学結晶層1の、樹脂層3とは反対側の面に設けられてなる。全反射層5は、テラヘルツ波検出素子10に対し支持基板2の側から入射したプローブ光PBを全反射させるべく設けられる。
【0043】
具体的には、全反射層5は、電気光学結晶層1の主面上に、相異なる組成の誘電体からなる第1単位全反射層5aと第2単位全反射層5bとが繰り返し交互に積層された誘電体多層膜として設けられる。また、全反射層5は、電気光学結晶層1の熱膨張係数よりも小さな熱膨張係数を有する。なお、本実施の形態において、相異なる組成の第1単位全反射層5aと第2単位全反射層5bとの多層膜である全反射層5の熱膨張係数とは、層全体としての実効的な(平均的な)値であるとする。
【0044】
全反射層5の形成に用いることができる誘電体としては、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化チタン、フッ化マグネシウム、ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、硫化亜鉛等が例示できる。
【0045】
全反射層5は、テラヘルツ波検出素子10における反りを抑制し、電気光学結晶層1におけるクラックの発生を防ぐという観点からは、1μm以上の厚みに形成するのが好ましい。この点については後述する。
【0046】
例えば、蒸着法により、SiOからなる第1単位全反射層5aとTaからなる第2単位全反射層5bとをそれぞれサブミクロンオーダーの厚みに形成し、全反射層5を全体として数μm程度の厚みに設けるのが好適である。これにより、反射率が99%以上で熱膨張係数がLN結晶のz軸方向の熱膨張係数よりも小さい全反射層5を設けることができる。
【0047】
テラヘルツ波検出素子10にこれらの反射防止層4と全反射層5とが備わることで、入射したプローブ光PBの損失が低減されるので、テラヘルツ波検出素子10を観察装置1000に用いた場合における観察像の品質が向上する。
【0048】
<観察装置による観察>
次に、観察装置1000の構成と、該観察装置1000を用いた被検試料Sの観察態様について説明する。図2に示すように、被検試料Sを載置するステージとしてのテラヘルツ波検出素子10に加えて、観察装置1000は、テラヘルツ波照射光学系OS1と、プローブ光照射光学系OS2と、観察光学系OS3とを備える。
【0049】
テラヘルツ波照射光学系OS1は、テラヘルツ波発生源101と、パラボリックミラー102とを主として備える。テラヘルツ波発生源101は、波長が800nmのフェムト秒チタンレーザをテラヘルツ波変換素子に照射することによってテラヘルツ波THを発生させるようになっている。
【0050】
プローブ光照射光学系OS2は、プローブ光光源103と、第1中間レンズ104と、無偏光ビームスプリッタ105と、対物レンズ106とを主として備える。プローブ光PBには、テラヘルツ波発生源101で使用するものと同じフェムト秒チタンレーザを用いる。したがって、プローブ光光源103から出射されるフェムト秒チタンレーザを途中で2方向に分岐させ、一方をプローブ光PBとして用い、他方をテラヘルツ波発生源101におけるテラヘルツ波THの発生に利用するようにしてもよい。係る場合、プローブ光光源103を、光遅延部によりテラヘルツ光をサンプリングして検出する、いわゆるテラヘルツ時間領域分光(THz−TDS:Terahertz Time Domain Spectroscopy)法で測定可能なシステムとして構成する態様であってもよい。
【0051】
観察光学系OS3は、第2中間レンズ107と、1/4波長板108と、偏光子109と、例えばCCDからなる撮像素子110とを主として備える。
【0052】
以上のような構成要素を有する観察装置1000においては、テラヘルツ波検出素子10の被載置面10sに被検試料Sが載置された状態で、矢印AR1にて示すようにテラヘルツ波発生源101から出射され、パラボリックミラー102で反射および収束されたテラヘルツ波THが、被検試料Sに対して照射される。上述のように、テラヘルツ波検出素子10には全反射層5が備わっているので、実際には全反射層5の表面が被載置面10sとなる。
【0053】
被検試料Sに照射されたテラヘルツ波THは、被検試料Sにおいて細胞組成や厚みなどの空間分布(2次元分布)に応じた吸収を受け、その強度が空間的に(2次元的に)変調される。そして、この変調を受けたテラヘルツ波THが、テラヘルツ波検出素子10の電気光学結晶層1に入射する。すると、電気光学結晶層1においては、ポッケルス効果により、入射したテラヘルツ波THに生じている強度分布に応じて、複屈折による屈折率変化の程度に分布が生じる。換言すれば、テラヘルツ波THの入射位置における屈折率が当該入射位置におけるテラヘルツ波THの入射強度に応じて変化する。結果として、係る屈折率変化の分布(ひいては屈折率の分布)は、被検試料Sの空間的な情報を反映したものとなっている。
【0054】
一方で、観察装置1000においては、プローブ光光源103から平行光として出射されたプローブ光PBが、第1中間レンズ104にて非平行光とされたうえで、矢印AR2および矢印AR3にて示すように、無偏光ビームスプリッタ105、および対物レンズ106を経て、支持基板2の側から(反射防止層4の側から)テラヘルツ波検出素子10に平行光として入射する。ここで、プローブ光PBとしては、波長帯域が800nm帯のものを用いる。本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10は、支持基板2の表面に反射防止層4を備えているので、プローブ光PBは、損失をほとんど受けることなく電気光学結晶層1に入射する。
【0055】
電気光学結晶層1に入射したプローブ光PBは、上述のようにテラヘルツ波THの強度分布に応じて電気光学結晶層1に生じている屈折率分布に応じて屈折されつつ、テラヘルツ波検出素子10に備わる全反射層5によって全反射される。そして、矢印AR4にて示すように、対物レンズ106および無偏光ビームスプリッタ105に向けて出射される。係る態様にてテラヘルツ波検出素子10から出射されたプローブ光PBは、屈折率(屈折率変化)の空間分布を反映した強度(光量)の空間分布を有するものとなっている。
【0056】
テラヘルツ波検出素子10から出射されて無偏光ビームスプリッタ105に入射したプローブ光PBは、無偏光ビームスプリッタ105に備わるハーフミラー105mで反射される。そして、係るプローブ光PBは、矢印AR5にて示すように、第2中間レンズ107にて平行光とされたうえで1/4波長板108および偏光子109を順次に通過し、撮像素子110に入射する。
【0057】
上述のように、撮像素子110に入射したプローブ光PBは、テラヘルツ波検出素子10において電気光学結晶層1に生じた屈折率分布を反映した強度分布を有するものとなっている。そして、係る屈折率分布は、被検試料Sを透過したテラヘルツ波THが電気光学結晶層1に入射することによって生じたものである。結果として、観察装置1000においては、撮像素子110における結像画像が、被検試料Sの空間的な(2次元的な)状態の分布を表すものとなっている。よって、観察装置1000においては、撮像素子110における結像画像を観察することで、被検試料Sをリアルタイムに観察することが可能となっている。
【0058】
<テラヘルツ波検出素子の作製方法>
次に、上述のような構成を有する、本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10の作製方法について詳述する。図3は、本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10の作製の流れを概略的かつ模式的に示す図である。
【0059】
上述のように、本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10は、電気光学結晶層1と支持基板2とを樹脂層3によって接合した構成を基本としているが、その平面サイズはせいぜい数mm角程度であることから、係る接合を、係る平面サイズの電気光学結晶層1や支持基板2を用意して行うのは困難かつ非効率である。そこで、本実施の形態においては、いわゆる多数個取りの手法にてテラヘルツ波検出素子10を作製する。
【0060】
まず、図3に示すように、素子サイズに比して十分に大きなサイズ(直径)を有する第1母基板1Mと第2母基板2Mとを用意する(ステップS1)。例えば、数インチ径の第1母基板1Mと第2母基板2Mとを用意するのが好適である。
【0061】
ここで、第1母基板1Mとは、上述した電気光学結晶層1と同じ組成および結晶状態を有し、かつ厚みの大きな基板である。ただし、第1母基板1Mとしては、平面度が10μm以下で平行度が3μm以下のものを用いるのが好ましい。また、第1母基板1Mの厚みについては、ある程度の強度とハンドリング性とが確保される値であることが求められる一方で、最終的にテラヘルツ波検出素子10を構成する電気光学結晶層1の厚みとの差異が大き過ぎると、後述する研磨工程に過剰な時間を要することになる。それゆえ、例えば、数百μm〜数mm程度の厚みのものを用いるのが好適である。
【0062】
第2母基板2Mとは、上述した支持基板2と同じ組成、結晶状態、および厚みを有する基板である。ただし、第2母基板2Mとしては、平面度が25μm以下で平行度が3μm以下のものを用いるのが好ましく、平面度が15μm以下で平行度が2μm以下のものを用いるのがより好ましい。
【0063】
なお、特に断らない限り、本明細書において、平面度および平行度は、4インチ径の基板(もしくは接合体)に換算した値として表す。ちなみに、4インチ径換算で25μmの平面度、15μmの平面度は、それぞれ、1cmあたりで5μm、3.8μmである。また、4インチ径換算で3μmの平行度、1μmの平行度は、それぞれ、1cmあたりで0.6μm、0.2μmである。
【0064】
第1母基板1Mと第2母基板2Mとが用意できると、次に、両者を樹脂接着により接合し、接合体10Mを得る(ステップS2)。具体的には、第1母基板1Mの表面にエポキシ系の接着剤を塗布したうえで、第2母基板2Mを、双方のオリフラが一致するように貼り合わせてプレス圧着する。その後、200℃の雰囲気で数時間程度放置して接着剤を硬化させて接着層3Mとすることで、接合体10Mが得られる。
【0065】
なお、以降に説明するプロセスを経た後、最終的に接合体10Mが多数個のテラヘルツ波検出素子10にカットされると、第1母基板1Mと第2母基板2Mと接着層3Mに由来する部分がそれぞれのテラヘルツ波検出素子10の電気光学結晶層1と支持基板2と樹脂層3となるが、便宜上、接合体10Mが得られた以降においては、第1母基板1Mを単に電気光学結晶層1と称し、第2母基板2Mを単に支持基板2と称し、接着層3Mを単に樹脂層3と称することとする。
【0066】
次に、得られた接合体10Mの電気光学結晶層1を、公知の薄板加工手法にて、上述した素子状態での電気光学結晶層1の好ましい厚みである1μm以上10μm以下の厚みとなるまで研磨する(ステップS3)。
【0067】
研磨が終了すると、研磨後の電気光学結晶層1の上に、全反射層5となる誘電体多層膜を蒸着法によって形成し(ステップS4)、続いて、支持基板2の上に、反射防止層4となる誘電体多層膜を蒸着法によって形成する(ステップS5)。これらの誘電体多層膜についてもそれぞれ、便宜上、全反射層5、反射防止層4と称することとする。
【0068】
最後に、反射防止層4までが形成された接合体10Mを、所望の平面サイズを有するようにダイシングなどの公知の手法で接合方向に沿った面で所定の素子サイズの個片にカットすることで、多数個のテラヘルツ波検出素子10が得られる(ステップS6)。
【0069】
<素子品質の安定化>
本実施の形態に係るテラヘルツ波検出素子10において、高空間分解能を実現するには、上述のように電気光学結晶層1の厚みを10μm以下とする必要がある。
【0070】
ただし、テラヘルツ波検出素子10を接合体10Mから多数個取りすることによって作製する場合は、さらに、個々の素子間における品質のばらつきを抑制すべく、接合体10Mの状態において、電気光学結晶層1と支持基板2や樹脂層3との熱膨張係数差に起因する、電気光学結晶層1におけるクラックの発生や、素子全体の反りなどを、抑制する必要がある。
【0071】
係る要求に応えるべく、本実施の形態では、上述のように、接合体10Mの作製にあたって、第1母基板1Mとして平面度が10μm以下で平行度が3μm以下のものを用い、第2母基板2Mとして平面度が25μm以下で平行度が3μm以下のものを用いるようにしている。
【0072】
これに加えて、本実施の形態では、熱膨張係数が30〜80ppm/℃と電気光学結晶層1の熱膨張係数(LNやLTの場合でz軸方向熱膨張係数:5ppm/℃、x軸およびy軸方向熱膨張係数:16ppm/℃)よりも大きい樹脂層3の厚みを0.1μm以上1μm以下とする一方、全反射層5の厚みを1μm以上とすることで熱膨張係数を電気光学結晶層1よりも小さいか電気光学結晶層1と同程度の2ppm/℃〜5ppm/℃とし、さらに、全反射層5の厚みに対する樹脂層3の厚みの比(樹脂層厚み/全反射層厚み)を1/3以下とする。これにより、電気光学結晶層1の両面に作用する熱応力が相殺されるので、電気光学結晶層1におけるクラックの発生や、接合体10Mの反りが低減できる。結果として、高い空間分解能を有するテラヘルツ波検出素子10を安定的に得ることが可能となる。
【0073】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、樹脂層と全反射層の厚みを好適に調整することで、クラックフリーでかつ高空間分解能のテラヘルツ波検出素子を安定的に得ることができる。
【0074】
また、係るテラヘルツ波検出素子を観察装置に適用することで、生体試料を高空間分解能でかつリアルタイムに観察可能な観察装置が実現される。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
本実施例では、電気光学結晶層1の厚みを5水準に違え、かつ、全反射層5の厚みを5水準に違えた計25通りの作製条件にて接合体10Mを作製し、電気光学結晶層1におけるクラック発生などの不良の有無の評価を行った。それぞれの作製条件について、10個のサンプルを作製した。
【0076】
具体的には、いずれの作製条件の場合においても、まず、第1母基板1Mとして、4インチ径で厚みが500μmの、MgO5mol%ドープのx板LN単結晶基板(z軸方向熱膨張係数:5ppm/℃、x軸およびy軸方向熱膨張係数:16ppm/℃)を用意し、第2母基板2Mとして、4インチ径で厚みが500μmのテンパックスガラス(熱膨張係数:3.3ppm/℃)を用意した。
【0077】
第2母基板2Mの平面度は、フジノン製干渉計により測定したところ3μm以内であった。また平行度は、マイクロメータで測定したところ1μm以内であった。
【0078】
第1母基板1Mの表面にエポキシ系接着剤を塗布したうえで、第2母基板2Mを、双方のオリフラが一致するように貼り合わせてプレス圧着した。続いて、200℃の雰囲気で1時間程度放置して接着剤を硬化させて接着層3M(熱膨張係数:40ppm/℃)とすることで、接合体10Mを得た。係る場合においては、あらかじめ行っておいたエポキシ系接着剤の塗布量およびプレス圧と接着層3Mの厚みとの関係を特定するための予備実験の結果に基づき、接着層3Mの厚みが0.3μmとなるように、エポキシ系接着剤の塗布量および圧着の際のプレス圧を調整した。
【0079】
接合体10Mが得られると、公知の薄板加工手法によって電気光学結晶層1を研削・研磨した。より具体的には、樹脂層3の厚みが同じ接合体10Mについて、電気光学結晶層1の厚みを、1μm、3μm、10μm、30μm、35μmの5通りに違えた。研磨後の電気光学結晶層1の平面度と平行度を測定した結果、それぞれ、3μm以内、1μm以内となっていた。
【0080】
その後、それぞれの接合体10Mの電気光学結晶層1の主面上に、蒸着法によって、第1単位全反射層5aとしてのSiO層と第2単位全反射層5bとしてのTa層とを交互に複数層形成することにより、誘電体多層膜としての全反射層5(熱膨張係数:4ppm/℃)を得た。全反射層5の総厚は、0.5μm、0.9μm、1.1μm、3μm、3.5μmの5通りに違えた。なお、その際のSiO層とTa層の厚みはそれぞれ137nmと97nmであった。反射特性を評価したところ、800nm帯にて200nmの帯域で反射率が99%以上であった。
【0081】
さらに、それぞれの接合体10Mの支持基板2の主面上に、蒸着法によって、第1単位反射防止層4aとしてのTa層と第2単位反射防止層4bとしてのSiO層とを交互に、計4層となるように形成することにより、誘電体多層膜としての反射防止層4を得た。より詳細には、支持基板2に近い側から、厚み31nmのTa層、厚み40nmのSiO層、厚み93nmのTa層、厚み125nmのSiO層を順次に形成することにより、総厚が0.3μmの反射防止層4を形成した。
【0082】
反射防止層4を形成した後、それぞれの接合体10Mについて電気光学結晶層1におけるクラックの発生状況を目視および光学顕微鏡にて観察した。
【0083】
表1に、電気光学結晶層1と樹脂層3と全反射層5の厚み条件と接合体10Mの評価結果とを一覧にして示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1からわかるように、全反射層5の厚みが1μm未満の接合体10Mについては、電気光学結晶層1の厚みによらず電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.1−1〜1−5、2−1〜2−5)。また、全反射層5の厚みが1μmより大きく電気光学結晶層1の厚みが30μm以上の接合体10Mについても、電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.3−4、3−5、4−4、4−5、5−4、5−5)。
【0086】
一方、全反射層5の厚みが1μmより大きく、かつ、電気光学結晶層1の厚みが10μm以下の接合体10M(No.3−1〜3−3、4−1〜4−3、5−1〜5−3)については、全てのサンプルにおいて電気光学結晶層1にクラックは確認されなかった。
【0087】
全体としては、全反射層5の厚みによらず、電気光学結晶層1の厚みが小さいほど、クラックが発生しにくい傾向にあった。
【0088】
また、電気光学結晶層1にクラックが発生しなかったサンプルについて、触の厚みゲージ(ハイデンハイン製)により平面度を測定したところ、いずれも2μm以内となっていた。
【0089】
(実施例2)
本実施例では、全反射層5の厚みを3μmに固定する一方、樹脂層3の厚みを0.3μm、0.6μm、1μm、1.1μm、1.5μmの5水準に違えた他は、実施例1と同様の条件および手順で計25通りの作製条件にて接合体10Mを作製し、評価した。係る場合においては、あらかじめ行っておいたエポキシ系接着剤の塗布量およびプレス圧と接着層3Mの厚みとの関係を特定するための予備実験の結果に基づき、接着層3Mの厚みが所望の値となるように、エポキシ系接着剤の塗布量および圧着の際のプレス圧を調整した。
【0090】
表2に、電気光学結晶層1と樹脂層3と全反射層5の厚み条件と接合体10Mの評価結果とを一覧にして示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2からわかるように、樹脂層3の厚みを1μmより大きくした接合体10Mについては、電気光学結晶層1の厚みによらず電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.9−1〜9−5、10−1〜10−5)。また、樹脂層3の厚みが1μm以下であっても、電気光学結晶層1の厚みが30μm以上の接合体10Mについては、電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.6−5、7−5、8−4、8−5)。
【0093】
一方、樹脂層3の厚みが1μm以下で、かつ、電気光学結晶層1の厚みが10μm以下のもの(No.6−1〜6−3、7−1〜7−3、8−1〜8−3)については、全てのサンプルにおいて電気光学結晶層1にクラックは確認されなかった。
【0094】
全体としては、樹脂層3の厚みによらず、電気光学結晶層1の厚みが小さいほど、クラックが発生しにくい傾向にあった。
【0095】
また、電気光学結晶層1にクラックが発生しなかったサンプルについて、触の厚みゲージ(ハイデンハイン製)により平面度を測定したところ、いずれも2μm以内となっていた。
【0096】
(実施例3)
第2母基板2Mとして、4インチ径で厚みが500μmのz板水晶を用いるようにした他は、実施例1と同様の条件および手順で計25通りの作製条件にて接合体10Mを作製し、評価した。
【0097】
なお、第2母基板2Mの平面度は3μm以内、また平行度は1μm以内であった。また、研磨後の電気光学結晶層1の平面度と平行度を測定した結果、それぞれ、3μm以内、1μm以内となっていた。
【0098】
表3に、電気光学結晶層1と樹脂層3と全反射層5の厚み条件と接合体10Mの評価結果とを一覧にして示す。
【0099】
【表3】
【0100】
表3からわかるように、本実施例においても、実施例1と同様、全反射層5の厚みが1μm未満の接合体10Mについては、電気光学結晶層1の厚みによらず電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.11−1〜11−5、12−1〜12−5)。また、全反射層5の厚みが1μmより大きく電気光学結晶層1の厚みが30μm以上の接合体10Mについても、電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.13−4、13−5、14−4、14−5、15−4、15−5)。
【0101】
一方、全反射層5の厚みが1μmより大きく、かつ、電気光学結晶層1の厚みが10μm以下の接合体10M(No.13−1〜13−3、14−1〜14−3、15−1〜15−3)については、全てのサンプルにおいて電気光学結晶層1にクラックは確認されなかった。
【0102】
全体としては、全反射層5の厚みによらず、電気光学結晶層1の厚みが小さいほど、クラックが発生しにくい傾向にあった。
【0103】
また、電気光学結晶層1にクラックが発生しなかったサンプルについて、触の厚みゲージ(ハイデンハイン製)により平面度を測定したところ、いずれも2μm以内となっていた。
【0104】
(実施例4)
第2母基板2Mとして、4インチ径で厚みが500μmのz板水晶を用いるようにした他は、実施例2と同様の条件および手順で計25通りの作製条件にて接合体10Mを作製し、評価した。
【0105】
なお、第2母基板2Mの平面度は3μm以内、また平行度は1μm以内であった。また、研磨後の電気光学結晶層1の平面度と平行度を測定した結果、それぞれ、3μm以内、1μm以内となっていた。
【0106】
表4に、電気光学結晶層1と樹脂層3と全反射層5の厚み条件と接合体10Mの評価結果とを一覧にして示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4からわかるように、本実施例においても、実施例2と同様、樹脂層3の厚みを1μmより大きくした接合体10Mについては、電気光学結晶層1の厚みによらず電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.19−1〜19−5、20−1〜20−5)。また、樹脂層3の厚みが1μm以下であっても、電気光学結晶層1の厚みが30μm以上の接合体10Mについては、電気光学結晶層1にクラックが発生したサンプルがあった(No.16−4、16−5、17−4,17−5、18−4、18−5)。
【0109】
一方、樹脂層3の厚みが1μm以下で、かつ、電気光学結晶層1の厚みが10μm以下のもの(No.16−1〜16−3、17−1〜17−3、18−1〜18−3)については、全てのサンプルにおいて電気光学結晶層1にクラックは確認されなかった。
【0110】
全体としては、樹脂層3の厚みによらず、電気光学結晶層1の厚みが小さいほど、クラックが発生しにくい傾向にあった。
【0111】
また、電気光学結晶層1にクラックが発生しなかったサンプルについて、触の厚みゲージ(ハイデンハイン製)により平面度を測定したところ、いずれも2μm以内となっていた。

【0112】
(実施例1〜実施例4のまとめ)
上述の各実施例の結果は、クラックフリーでかつ反りの小さい接合体10Mを得るには、樹脂層3の厚みを1μm以下とする一方、全反射層5の厚みを1μm以上とする必要があり、係る場合において、全反射層5の厚みに対する樹脂層3の厚みの比(樹脂層厚み/全反射層厚み)が1/3以下であれば、実際に、クラックフリーでかつ反りの小さい接合体10Mが得られることを指し示している。
図1
図2
図3