【文献】
The FASEB Journal,2010年 4月,vol.24, no.1,Supplement 659.5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0057】
例示的な態様の説明
本発明は、インスリンの発現および分泌を誘導するならびに糖尿病を処置する化合物を提供することによって先行技術の欠陥を克服するものである。本発明者らは、以前に、ホメオドメイン転写因子Nkx2.5をコードする遺伝子の活性化物質についてマウス多能性幹細胞において化学ライブラリーをスクリーニングすることによって3,5-二置換イソオキサゾール小分子(Isx)のファミリーを同定した(Sadek et al., 2008)。本発明者らは、付随的な研究において、Isxは、もともと心臓発生小分子として探究されていたが、いくつかのタイプの神経前駆細胞において強力な神経発生活性を有することを発見した(Schneider et al., 2008)。この活性は、BETA2/NeuroD1発現の化学的誘導によって部分的に媒介された。膵臓の発生および膵β細胞におけるインスリン産生におけるBETA2の重要性に起因して、この研究において、本発明者らは、β細胞の特性に対するIsxの効果を調べた。本発明者らは、この分子が、インスリンの産生およびβ細胞の機能を増加させ、長期間のエクスビボ培養の後のヒト膵島によるインスリン産生を回復させることを見出す。本発明者らは、β細胞の本質的な挙動を改善するIsxによって誘発される変化の、初めての特徴付けも提供する。本発明のこれらのおよび他の局面は、下記で詳細に示される。
【0058】
A.本発明の化合物
本発明の化合物は、イソオキサゾールから誘導されると考えられ得る。以下の化合物は、本発明のある特定の化合物の代表的なものである。
式(I)の化合物:
またはその立体異性体、溶媒和物、水和物もしくは薬学的に許容される塩であり、
式中、
Xは、OまたはNHであり、
Yは、SまたはOであり、
Rは、H、置換もしくは非置換アルキル、例えば、C
1-C
6アルキルもしくはC
3-C
6シクロアルキル、または置換もしくは非置換アルケニル、例えば、C
2-C
6アルケニル、置換もしくは非置換アルキニル、例えば、C
2-C
6アルキニルである。式(I)の化合物に関するある特定の態様において、XがOである場合、Rは、置換または非置換C
3-C
6シクロアルキルでなければならない;かつ/またはXがNHである場合、Rは、ピラジニル置換C
1-C
6アルキルであってはならない、というような条件が存在する。
式(Ia)、(Ib)、または(Ic)の化合物:
式中、R
1は、置換もしくは非置換フェニル、非置換ピロリル、非置換ピリジル、非置換フラニル、非置換チエニル、非置換ベンゾフラニル、非置換ベンゾ[b]チオフェニル、または非置換チアゾリルである。これらのR
1置換基のいずれもが同様に置換され得る。
式(II)の化合物:
またはその立体異性体、溶媒和物、水和物、もしくは薬学的に許容される塩であり、
式中、
R
1は、置換もしくは非置換フェニル、置換もしくは非置換チオフェニルまたは式(A):
の置換基であり、
式中:
R
A、R
B、およびR
Cは各々独立して、水素、ハロゲン、C
1-C
6アルキル、C
3-C
6シクロアルキル、アリール、シアノ、ニトロ、およびカルボニル基からなる群より選択され;
Gは、O、-NH、またはSであり;
R
2は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、ニトロ、アリール、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アラルキル、-CHO、-C(O)R
9、-OC(O)R
9、-OC(O)OR
9、-O(CN)OR
9、-C(O)NR
9R
10、-OC(O)NR
9R
10、-NR
9OR
5、または-SO
3R
9であり;
R
9およびR
10は各々独立して、水素、アルキル、アリール、またはアラルキルであり;
R
3は、-NH-O-アルキル、-NH-OH、-OR
11、または-NR
11R
12であり、
R
11およびR
12は各々独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、もしくはアラルキルであるか;または
R
11およびR
12は一体となって、環式基を形成するか;または
R
11およびR
12はそれらが結合している窒素と一体となって、環式基を形成し;
Xは、Oまたは-NR
13であり、
R
13は、水素、アルキル、アリール、またはアラルキルである。
式(V)を有する化合物:
式中:
ABD環は、2つの非隣接二重結合を含み;
A、B、およびDは各々独立して、S、N、O、C、-NR
14、-CR
15、または-CR
15R
16であり、
R
14は、水素、ハロゲン、アルキル、アリール、またはアラルキルであり;
R
15およびR
16は各々独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、ニトロ、アリール、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アラルキル、-CHO、-C(O)R
9、-OC(O)R
9、-OC(O)OR
9、-O(CN)OR
9、-C(O)NR
9R
10、-OC(O)NR
9R
10、-NR
9OR
5、または-SO
3R
9であり;
R
9およびR
10は各々独立して、水素、アルキル、アリール、またはアラルキルであるが、
ただし、A、B、およびDのうちの少なくとも2つは、S、N、またはOを含み;
R
1は、アルキル、-CH=CH-アリール、またはアリールであり;
R
3は、アルキル、アリール、アラルキル、-OR
4、または-NR
4R
5であり;
R
4およびR
5は各々独立して、水素、アルキル、アリール、もしくはアラルキルであるか;または
R
4およびR
5は一体となって環式基を形成するか;または
R
4およびR
5はそれらが結合している窒素と一体となって、環式基を形成する。式(V)の化合物に関するある特定の態様において、式(V
a)の化合物:
は除かれるというような条件が存在し、
式中、R
18は、アルキル、例えば、低級アルキルもしくはシクロペンチル、またはアルケニル、例えば、低級アルケニルもしくはアリルであり、Gは、OまたはSである。
【0059】
B.化学的定義
化学基の文脈において使用されるとき、「水素」は、-Hを意味し;「ヒドロキシ」は、-OHを意味し;「オキソ」は、=Oを意味し;「ハロ」は、独立して、-F、-Cl、-Br、または-Iを意味し;「アミノ」は、-NH
2を意味し(用語アミノを含有する基、例えば、アルキルアミノの定義については下記を参照のこと);「ヒドロキシアミノ」は、-NHOHを意味し;「ニトロ」は、-NO
2を意味し;イミノは、=NHを意味し(用語イミノを含有する基、例えば、アルキルイミノの定義については下記を参照のこと);「シアノ」は、-CNを意味し;「イソシアネート」は、-N=C=Oを意味し;「アジド」は、-N
3を意味し;一価の状況において「ホスフェート」は、-OP(O)(OH)
2またはその脱プロトン化型を意味し;二価の状況において、「ホスフェート」は、-OP(O)(OH)O-またはその脱プロトン化型を意味し;「メルカプト」は、-SHを意味し;「チオ」は、=Sを意味する。
【0060】
化学式の文脈において、記号「-」は、単結合を意味し、「=」は、二重結合を意味し、「≡」は、三重結合を意味する。記号「----」は、存在する場合、単結合または二重結合である随意の結合を表す。記号:
は、単結合または二重結合を表す。したがって、例えば、構造:
は、構造:
を含む。当業者によって理解されるように、そのような環原子は1つも、2つ以上の二重結合の一部を形成しない。記号:
は、結合と交差して垂直に描かれるとき、その基の結合点を示す。結合点は、読み手が結合点を迅速かつ明確に特定するのを助けるために、より大きな基に対してこの様式で典型的に特定されるだけであることに注意されたい。記号:
は、楔形の太いほうの端に付着した基が「ページから外に向かう」単結合を意味する。記号:
は、楔形の太いほうの端に付着した基が「ページの中に向かう」単結合を意味する。記号:
は、立体配座(例えば、RまたはS)または幾何学(例えば、EまたはZ)が不確定である単結合を意味する。
【0061】
本出願に示される構造の原子におけるいずれの未確定の結合価も、その原子に結合されている水素原子を暗に表す。「R」基が、例えば、式:
における環系上の「浮動状態の基(floating group)」として描かれているとき、安定した構造が形成される限り、Rは、環原子のいずれかに付着している任意の水素原子(描かれているか、暗示されるか、または明白に定義されている水素を含む)を置き換え得る。「R」基が、例えば、式:
におけるような縮合環系上の「浮動状態の基」として描かれているとき、別段特定されない限り、Rは、それらの縮合環のいずれかの任意の環原子に付着している任意の水素を置き換え得る。安定した構造が形成される限り、置き換え可能な水素には、描かれている水素(例えば、上記の式における窒素に付着している水素)、暗示される水素(例えば、示されていないが存在すると理解される上記の式の水素)、明白に定義されている水素、および随意の水素(その存在は、環原子が何であるかに依存する)(例えば、Xが-CH-に相当するときのX基に付着している水素)が含まれる。描かれている例において、Rは、縮合環系の5員または6員環上に存在し得る。上記の式において、括弧で囲まれた「R」基の直後の下付き文字「y」は、数値変数を表す。別段特定されない限り、この変数は、0、1、2、または環もしくは環系の置き換え可能な水素原子の最大数によって限定されるだけの2より大きい任意の整数であり得る。
【0062】
下記の基およびクラスについて、以下の挿入句的な下付き文字は、その基/クラスを以下のとおりさらに定義する:「(Cn)」は、その基/クラスにおける炭素原子の正確な数(n)を定義する。「(C≦n)」は、その基/クラスに存在し得る炭素原子の最大数(n)を定義し、ここで、最小数は、問題になっている基に対するできるだけ小さい数であり、例えば、基「アルケニル
(C≦8)」またはクラス「アルケン
(C≦8)」における炭素原子の最小数は、2であると理解される。例えば、「アルコキシ
(C≦10)」は、1〜10個の炭素原子(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個、またはその中の導き出せる任意の範囲(例えば、3〜10個の炭素原子)を有するアルコキシ基を明示する。(Cn-n')は、その基における炭素原子の最小数(n)と最大数(n')の両方を定義する。同様に、「アルキル
(C2-10)」は、2〜10個の炭素原子(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個、またはその中の導き出せる任意の範囲(例えば、3〜10個の炭素原子))を有するアルキル基を明示する。
【0063】
本明細書において使用される用語「飽和」は、下記で述べられる場合を除いて、そのように修飾された化合物または基が、炭素-炭素二重結合および炭素-炭素三重結合を有しないことを意味する。この用語は、炭素-ヘテロ原子多重結合、例えば、炭素酸素二重結合または炭素窒素二重結合を除外しない。さらに、この用語は、ケト-エノール互変異性またはイミン/エナミン互変異性の一部として生じ得る炭素-炭素二重結合を除外しない。
【0064】
用語「脂肪族」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、そのように修飾された化合物/基が、非環式または環式であるが、非芳香族炭化水素の化合物または基であることを表す。脂肪族化合物/基において、炭素原子はともに、直鎖、分枝鎖、または非芳香環(脂環式)に連結され得る。脂肪族化合物/基は、飽和であり得、すなわち、単結合によって連結される(アルカン/アルキル)か、あるいは1つもしくは複数の二重結合(アルケン/アルケニル)または1つもしくは複数の三重結合(アルキン/アルキニル)を有する不飽和であり得る。用語「脂肪族」が、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、炭素原子および水素原子だけが存在する。この用語が「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子が、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。
【0065】
用語「アルキル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての炭素原子、直鎖または分枝鎖、環状、環式または非環式の構造を有し、炭素および水素以外の原子を有しない、一価の飽和脂肪族基のことを指す。したがって、本明細書において使用されるとき、シクロアルキルは、アルキルのサブセットである。-CH
3(Me)、-CH
2CH
3(Et)、-CH
2CH
2CH
3(n-Pr)、-CH(CH
3)
2(iso-Pr)、-CH(CH
2)
2(シクロプロピル)、-CH
2CH
2CH
2CH
3(n-Bu)、-CH(CH
3)CH
2CH
3(sec-ブチル)、-CH
2CH(CH
3)
2(iso-ブチル)、-C(CH
3)
3(tert-ブチル)、-CH
2C(CH
3)
3(neo-ペンチル)、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロヘキシルメチル基は、アルキル基の非限定的な例である。用語「アルカンジイル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての1または2個の飽和炭素原子、直鎖または分枝鎖、環状、環式または非環式の構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有しない、二価の飽和脂肪族基のことを指す。-CH
2-(メチレン)、-CH
2CH
2-、-CH
2C(CH
3)
2CH
2-、-CH
2CH
2CH
2-、および
基は、アルカンジイル基の非限定的な例である。用語「アルキリデン」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、二価の基=CRR'のことを指し、式中、RおよびR'は、独立して、水素、アルキルであるか、またはRおよびR'は、一体となって、少なくとも2つの炭素原子を有するアルカンジイルを表す。アルキリデン基の非限定的な例としては:=CH
2、=CH(CH
2CH
3)、および=C(CH
3)
2が挙げられる。これらの用語のいずれかがが「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。以下の基は、置換アルキル基の非限定的な例である:-CH
2OH、-CH
2Cl、-CF
3、-CH
2CN、-CH
2C(O)OH、-CH
2C(O)OCH
3、-CH
2C(O)NH
2、-CH
2C(O)CH
3、-CH
2OCH
3、-CH
2OC(O)CH
3、-CH
2NH
2、-CH
2N(CH
3)
2、および-CH
2CH
2Cl。用語「ハロアルキル」は、1つまたは複数の水素がハロ基で置換されており、炭素、水素、およびハロゲンを除く他の原子が存在しない、置換アルキルのサブセットである。-CH
2Cl基は、ハロアルキルの非限定的な例である。「アルカン」とは、化合物H-Rのことを指し、ここで、Rはアルキルである。用語「フルオロアルキル」は、1つまたは複数の水素がフルオロ基で置換されており、炭素、水素、およびフッ素を除く他の原子が存在しない、置換アルキルのサブセットである。-CH
2F、-CF
3、および-CH
2CF
3基は、フルオロアルキル基の非限定的な例である。「アルカン」とは、化合物H-Rのことを指し、ここで、Rはアルキルである。
【0066】
用語「アルケニル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての炭素原子、直鎖または分枝鎖、環状、環式または非環式の構造、少なくとも1つの非芳香族の炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有しない、一価の不飽和脂肪族基のことを指す。アルケニル基の非限定的な例としては:-CH=CH
2(ビニル)、-CH=CHCH
3、-CH=CHCH
2CH
3、-CH
2CH=CH
2(アリル)、-CH
2CH=CHCH
3、および-CH=CH-C
6H
5が挙げられる。用語「アルケンジイル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての2つの炭素原子、直鎖または分枝鎖、環状、環式または非環式の構造、少なくとも1つの非芳香族の炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有しない、二価の不飽和脂肪族基のことを指す。-CH=CH-、-CH=C(CH
3)CH
2-、-CH=CHCH
2-、および
基は、アルケンジイル基の非限定的な例である。これらの用語が、「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。-CH=CHF、-CH=CHCl、および-CH=CHBr基は、置換アルケニル基の非限定的な例である。「アルケン」とは、化合物H-Rのことを指し、ここで、Rはアルケニルである。
【0067】
用語「アルキニル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての炭素原子、直鎖または分枝鎖、環状、環式または非環式の構造、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有しない、一価の不飽和脂肪族基のことを指す。本明細書において使用されるとき、用語アルキニルは、1つまたは複数の非芳香族の炭素-炭素二重結合の存在を除外しない。-C≡CH、-C≡CCH
3、および-CH
2C≡CCH
3基は、アルキニル基の非限定的な例である。用語「アルキンジイル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての2つの炭素原子、直鎖または分枝鎖、環状、環式または非環式の構造、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有しない、二価の不飽和脂肪族基のことを指す。これらの用語が、「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。「アルキン」とは、化合物H-Rのことを指し、ここで、Rはアルキニルである。
【0068】
用語「アリール」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての芳香族炭素原子を有する一価の不飽和芳香族基のことを指し、ここで、前記炭素原子は、1つまたは複数の6員芳香環構造の一部を形成し、環原子はすべて炭素であり、その基は、炭素および水素以外の原子からなることはない。2つ以上の環が存在する場合、それらの環は、縮合されていてもよいし、縮合されていなくてもよい。本明細書において使用されるとき、この用語は、第1の芳香環または存在する任意のさらなる芳香環に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容するもの)の存在を除外しない。アリール基の非限定的な例としては、フェニル(Ph)、メチルフェニル、(ジメチル)フェニル、-C
6H
4CH
2CH
3(エチルフェニル)、ナフチル、およびビフェニルから得られる一価の基が挙げられる。用語「アレーンジイル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての2つの芳香族炭素原子を有する二価の芳香族基のことを指し、ここで、前記炭素原子は、1つまたは複数の6員芳香環構造の一部を形成し、環原子はすべて炭素であり、一価の基は、炭素および水素以外の原子からなることはない。本明細書において使用されるとき、この用語は、第1の芳香環または存在する任意のさらなる芳香環に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容するもの)の存在を除外しない。2つ以上の環が存在する場合、それらの環は、縮合されていてもよいし、縮合されていなくてもよい。アレーンジイル基の非限定的な例としては:
が挙げられる。これらの用語が、「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。「アレーン」とは、化合物H-Rのことを指し、ここで、Rはアリールである。
【0069】
用語「アラルキル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、一価の基-アルカンジイル-アリールのことを指し、ここで、アルカンジイルおよびアリールという用語は、各々、上に提供された定義と一致した様式で使用される。アラルキルの非限定的な例は:フェニルメチル(ベンジル,Bn)および2-フェニル-エチルである。この用語が「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、アルカンジイルおよび/またはアリール由来の1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。置換アラルキルの非限定的な例は:(3-クロロフェニル)-メチルおよび2-クロロ-2-フェニル-エチルである。
【0070】
用語「ヘテロアリール」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有する一価の芳香族基のことを指し、ここで、前記炭素原子または窒素原子は、芳香環構造の一部を形成し、環原子の少なくとも1つは、窒素、酸素または硫黄であり、その基は、炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素および芳香族硫黄以外の原子からなることはない。本明細書において使用されるとき、この用語は、芳香環または存在する任意のさらなる芳香環に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容するもの)の存在を除外しない。ヘテロアリール基の非限定的な例としては、フラニル、イミダゾリル、インドリル、インダゾリル(Im)、メチルピリジル、オキサゾリル、ピリジル、ピロリル、ピリミジル、ピラジニル、キノリル、キナゾリル、キノキサリニル、チエニル、およびトリアジニルが挙げられる。用語「ヘテロアレーンジイル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、2つの結合点として、2つの芳香族炭素原子、2つの芳香族窒素原子、または1つの芳香族炭素原子および1つの芳香族窒素原子を有する二価の芳香族基のことを指し、ここで、前記原子は、1つまたは複数の芳香環構造の一部を形成し、環原子の少なくとも1つは、窒素、酸素または硫黄であり、この二価の基は、炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素、および芳香族硫黄以外の原子からなることはない。本明細書において使用されるとき、この用語は、第1の芳香環または存在する任意のさらなる芳香環に結合した1つまたは複数のアルキル基(炭素数の制限が許容するもの)の存在を除外しない。2つ以上の環が存在する場合、それらの環は、縮合されていてもよいし、縮合されていなくてもよい。ヘテロアレーンジイル基の非限定的な例としては:
が挙げられる。これらの用語が、「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。
【0071】
用語「アシル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-C(O)R基のことを指し、ここで、Rは、水素、アルキル、アリール、アラルキル、またはヘテロアリールであり、これらの用語は、上で定義されたとおりである。-CHO、-C(O)CH
3(アセチル,Ac)、-C(O)CH
2CH
3、-C(O)CH
2CH
2CH
3、-C(O)CH(CH
3)
2、-C(O)CH(CH
2)
2、-C(O)C
6H
5、-C(O)C
6H
4CH
3、-C(O)CH
2C
6H
5、-C(O)(イミダゾリル)基は、アシル基の非限定的な例である。「チオアシル」は、-C(O)R基の酸素原子が硫黄原子で置き換えられていること、つまり-C(S)Rであることを除いては類似の様式で定義される。これらの用語のいずれかが、「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。-C(O)CH
2CF
3、-CO
2H(カルボキシル)、-CO
2CH
3(メチルカルボキシル)、-CO
2CH
2CH
3、-C(O)NH
2(カルバモイル)、および-CON(CH
3)
2基は、置換アシル基の非限定的な例である。
【0072】
用語「アルコキシ」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-OR基のことを指し、ここで、Rは、アルキルであり、この用語は、上で定義されたとおりである。アルコキシ基の非限定的な例としては:-OCH
3、-OCH
2CH
3、-OCH
2CH
2CH
3、-OCH(CH
3)
2、-OCH(CH
2)
2、-O-シクロペンチル、および-O-シクロヘキシルが挙げられる。用語「アルケニルオキシ」、「アルキニルオキシ」、「アリールオキシ」、「アラルコキシ」、「ヘテロアリールオキシ」、および「アシルオキシ」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-ORとして定義される基のことを指し、ここで、Rは、それぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、およびアシルである。同様に、用語「アルキルチオ」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-SR基(ここで、Rは、アルキルであり、この用語は、上で定義されたとおりである)のことを指す。これらの用語のいずれかが「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。用語「アルコール」は、水素原子の少なくとも1つがヒドロキシ基で置き換えられた、上で定義されたようなアルカンに対応する。
【0073】
用語「アルキルアミノ」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-NHR基のことを指し、ここで、Rは、アルキルであり、この用語は、上で定義されたとおりである。アルキルアミノ基の非限定的な例としては:-NHCH
3および-NHCH
2CH
3が挙げられる。用語「ジアルキルアミノ」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-NRR'基のことを指し、ここで、RおよびR'は、同じもしくは異なるアルキル基であり得るか、またはRおよびR'は、一体となってアルカンジイルを表し得る。ジアルキルアミノ基の非限定的な例としては:-N(CH
3)
2、-N(CH
3)(CH
2CH
3)、およびN-ピロリジニルが挙げられる。用語「アルコキシアミノ」、「アルケニルアミノ」、「アルキニルアミノ」、「アリールアミノ」、「アラルキルアミノ」、「ヘテロアリールアミノ」、および「アルキルスルホニルアミノ」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-NHRとして定義される基のことを指し、ここで、Rは、それぞれアルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、およびアルキルスルホニルである。アリールアミノ基の非限定的な例は、-NHC
6H
5である。用語「アミド」(アシルアミノ)は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-NHR基のことを指し、ここで、Rは、アシルであり、この用語は、上で定義されたとおりである。アミド基の非限定的な例は、-NHC(O)CH
3である。用語「アルキルイミノ」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、二価の基=NRのことを指し、ここで、Rは、アルキルであり、この用語は、上で定義されたとおりである。これらの用語のいずれかが「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。-NHC(O)OCH
3、および-NHC(O)NHCH
3基は、置換アミド基の非限定的な例である。
【0074】
用語「アルキルホスフェート」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-OP(O)(OH)(OR)基のことを指し、ここで、Rは、アルキルであり、この用語は、上で定義されたとおりである。アルキルホスフェート基の非限定的な例としては:-OP(O)(OH)(OMe)および-OP(O)(OH)(OEt)が挙げられる。用語「ジアルキルホスフェート」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、-OP(O)(OR)(OR')基のことを指し、ここで、RおよびR'は、同じもしくは異なるアルキル基であり得るか、またはRおよびR'は、一体となってアルカンジイルを表し得る。ジアルキルホスフェート基の非限定的な例としては:-OP(O)(OMe)
2、-OP(O)(OEt)(OMe)、および-OP(O)(OEt)
2が挙げられる。これらの任意の用語が「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。
【0075】
用語「アルキルスルホニル」および「アルキルスルフィニル」は、「置換」という修飾語句を伴わずに使用されるとき、それぞれ-S(O)
2Rおよび-S(O)R基のことを指し、ここで、Rは、アルキルであり、この用語は、上で定義されたとおりである。用語「アルケニルスルホニル」、「アルキニルスルホニル」、「アリールスルホニル」、「アラルキルスルホニル」、および「ヘテロアリールスルホニル」は、類似の様式で定義される。これらの任意の用語が「置換」という修飾語句とともに使用されるとき、1つまたは複数の水素原子は、独立して、-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2によって置き換えられている。
【0076】
本明細書において使用されるとき、「キラル補助剤」とは、反応の立体選択性に影響することができる除去可能なキラル基のことを指す。当業者は、そのような化合物に精通しており、多くは、商業的に入手可能である。
【0077】
「薬学的に許容される塩」は、上で定義されたような、薬学的に許容され、所望の薬理学的活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩としては、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など;または有機酸、例えば、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4'-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノ-およびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、第3級ブチル酢酸、トリメチル酢酸など、を用いて形成される酸付加塩が挙げられる。薬学的に許容される塩には、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応することができるとき形成され得る塩基付加塩も含まれる。許容される無機塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、および水酸化カルシウムが挙げられる。許容される有機塩基としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが挙げられる。本発明の任意の塩が、全体として薬理学的に許容される限り、その塩の一部を形成する特定の陰イオンまたは陽イオンは重大でないことが認識されるべきである。薬学的に許容される塩のさらなる例ならびにそれらの調製方法および使用方法は、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use(2002)に提示されている。
【0078】
本明細書全体にわたって開示される化合物、作用物質および活性成分の改変物または誘導体は、本発明の方法および組成物とともに有用であると企図される。誘導体が調製されてもよく、そのような誘導体の特性は、当業者に公知の任意の方法によってそれらの所望の特性についてアッセイされ得る。
【0079】
ある特定の局面において、「誘導体」とは、化学修飾前の化合物の所望の効果をなおも保持する化学的に改変された化合物のことを指す。ゆえに、「イソオキサゾール誘導体」とは、その化学修飾前の親イソオキサゾールの所望の効果をなおも保持する、化学的に改変された化合物のことを指す。そのような効果は、親イソオキサゾールと比べて、増加し得る(例えば、わずかにより有効、2倍有効など)かまたは減少し得る(例えば、わずかにより有効でない、2倍より有効でないなど)が、なおもイソオキサゾール誘導体であると考えられ得る。そのような誘導体は、親分子上の1つまたは複数の化学部分の付加、除去または置換を有し得る。本明細書において開示される化合物および構造に対して行われ得る改変のタイプの非限定的な例としては、低級非置換アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、または置換低級アルキル、例えば、ヒドロキシメチルまたはアミノメチル基;カルボキシル基およびカルボニル基;ヒドロキシル;ニトロ、アミノ、アミド、アゾ基;スルフェート、スルホネート、スルホノ、スルフヒドリル、スルホニル、スルホキシド、ホスフェート、ホスホノ、ホスホリル基およびハロゲン化物置換基の付加または除去が挙げられる。さらなる改変としては、原子骨格の1つまたは複数の原子の付加または欠失、例えば、プロピルによるエチルの置換;より大きいまたは小さい芳香族基によるフェニルの置換が挙げられ得る。あるいは、環式または二環式の構造において、ヘテロ原子、例えば、N、S、またはOが、炭素原子の代わりにその構造に置換され得る。
【0080】
本発明の化合物のプロドラッグおよび溶媒和物もまた本明細書において企図される。本明細書において使用される用語「プロドラッグ」は、対象、例えば、哺乳動物、に投与された際、代謝プロセスまたは化学プロセスによって化学変換を起こして、本明細書において任意の式の化合物またはその塩および/もしくは溶媒和物をもたらす化合物であると理解される(Bundgaard, 1991; Bundgaard, 1985)。本発明の化合物の溶媒和物は、好ましくは、水和物である。
【0081】
薬学的に許容される塩を調製するために使用され得る無機酸の非限定的な例としては: 塩酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などが挙げられる。薬学的に許容される塩を調製するために使用され得る有機酸の例としては:脂肪族モノ-およびジカルボン酸、例えば、シュウ酸、炭酸、クエン酸、コハク酸、フェニル-ヘテロ原子置換アルカン酸、脂肪族および芳香族硫酸など、が挙げられる。したがって、無機酸または有機酸から調製される薬学的に許容される塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、ヨウ化水素酸塩、フッ化水素酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩などが挙げられる。
【0082】
好適な薬学的に許容される塩は、本発明の作用物質を有機塩基、例えば、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチンなど、と反応させることによっても形成され得る。
【0083】
薬学的に許容される塩には、本発明の化合物のいくつかに見られるカルボキシレートまたはスルホネート基と、無機陽イオン、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウムまたはカルシウム、または有機陽イオン、例えば、イソプロピルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、およびイミダゾリウム、との間に形成される塩が含まれる。
【0084】
本発明の任意の塩が、全体として薬理学的に許容される限り、その塩の一部を形成する特定の陰イオンまたは陽イオンは重大でないことが認識されるべきである。薬学的に許容される塩のさらなる例ならびにそれらの調製方法および使用方法は、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use(2002)に提示されており、参照により本明細書に組み入れられる。
【0085】
本明細書において使用されるとき、用語「環式基」とは、炭素環基(例えば、シクロプロピル、シクロヘキシル)、複素環基(例えば、ピロリジニル)、アリール基またはそれらの任意の組み合わせ(例えば、縮合二環式基)のことを指す。
【0086】
本明細書において使用されるとき、「保護基」とは、官能基の他の望まれない反応を防ぐ、その官能基に結合した部分のことを指す。保護基は、当業者に周知である。非限定的な例示的な保護基は、ヒドロキシ保護基、アミノ保護基、スルフヒドリル保護基、およびカルボニル保護基などのカテゴリーに分類される。そのような保護基は、Greene and Wuts(1999)に見られ得る。1つまたは複数の官能基が保護基によって保護されている本発明の化合物が、明確に企図される。
【0087】
本発明の化合物は、1つまたは複数の不斉中心を含有し得るので、ラセミ体およびラセミ混合物、単一のエナンチオマー、ジアステレオ異性混合物、および個々のジアステレオマーとして存在し得る。ある特定の態様において、単一のジアステレオマーが存在する。本発明の化合物の可能性のあるすべての立体異性体が、本発明の範囲内であると企図される。しかしながら、ある特定の局面では、特定のジアステレオマーが企図される。本発明の化合物のキラル中心は、IUPAC 1974 Recommendationsによって定義されているようなS-またはR-配置を有し得る。ある特定の局面において、本発明のある特定の化合物は、特定の炭素中心におけるS-またはR-配置を含み得る。例えば、以下の特定の化合物:
は、不斉中心を含有し、ゆえに、ラセミ混合物(+/-)、R(+)およびS(-)型として主張される。
【0088】
本発明の化合物の合成調製のための溶媒の選択候補は、当業者に公知であろう。溶媒の選択候補は、例えば、どれがすべての試薬の可溶化を促進するか、または例えば、どれが所望の反応を最もうまく促進するか(特に、その反応機序が公知であるとき)に依存し得る。溶媒には、例えば、極性溶媒および非極性溶媒が含まれ得る。溶媒の選択候補としては、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、メタノール、エタノール、ヘキサン、塩化メチレン、およびアセトニトリルが挙げられるが、それに限定されるわけではない。任意の特定の反応または精製手順のために2種以上の溶媒が選択され得る。任意の溶媒の選択候補に水が混和されてもよい。さらに、蒸留水などの水が、溶媒の代わりに反応媒質を構成してもよい。
【0089】
当業者は、本発明の化合物を精製する方法に精通している。当業者は、本発明の化合物が、一般に、中間体の精製ならびに最終生成物の精製を含む任意の工程において精製され得ることを理解するであろう。特定の態様において、精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーまたはHPLCによって行われる。
【0090】
上記の定義を考慮すると、本出願全体にわたって使用される他の化学用語は、当業者によって容易に理解され得る。用語は、単独で、またはそれらの任意の組み合わせで使用され得る。ラジカルの好ましいおよびより好ましい鎖の長さが、そのような組み合わせのすべてに適用される。
【0091】
C.糖尿病およびインスリン欠乏
糖尿病と単純に呼ばれることが多い真性糖尿病は、身体が十分なインスリンを産生しないか、または産生されたインスリンに細胞が応答しないことが原因で、高血糖を有する代謝疾患の一群である。この高血糖は、多尿(頻尿)、多飲(口渇の増加)、および多食(空腹の増加)という古典的な症状をもたらす。糖尿病には3つの主要なタイプがある:
・1型糖尿病:身体がインスリンを産生しないことに起因し、現在、本人がインスリンを注射する必要がある(インスリン依存性真性糖尿病、略してIDDMおよび若年性糖尿病とも称される)
・2型糖尿病:細胞がインスリンを適切に使用できない状態であるインスリン抵抗性に起因し、最終的には、絶対的インスリン欠乏を合併する(以前は、インスリン非依存性真性糖尿病、略してNIDDMおよび成人発症型糖尿病と称されていた)。
・妊娠糖尿病:以前に糖尿病を有したことがない妊婦が、妊娠中に高血糖値を有する。これは、2型真性糖尿病の発症に先行する場合がある。
他の形態の真性糖尿病としては、インスリン分泌の遺伝的欠陥に起因する先天的糖尿病、嚢胞性線維症関連糖尿病、高用量の糖質コルチコイドによって誘導されるステロイド糖尿病、およびいくつかの形態の単一遺伝子糖尿病が挙げられる。
【0092】
1921年にインスリンが入手可能になったので、すべての形態の糖尿病が処置可能になっており、2型糖尿病は、薬剤を用いてコントロールされ得る。1型と2型の両方が、通常治癒できない慢性の状態である。膵臓移植が試みられているが、1型糖尿病での成功は限定的であり;胃のバイパス手術は、病的肥満および2型糖尿病を有する多くにおいて成功している。妊娠糖尿病は、通常、分娩後に回復する。適切な処置を行わない糖尿病は、多くの合併症を引き起こし得る。急性合併症としては、低血糖症、糖尿病性ケトアシドーシス、または非ケトン性高浸透圧性昏睡が挙げられる。重篤な長期合併症としては、循環器疾患、慢性腎不全、網膜損傷が挙げられる。したがって、糖尿病の適切な処置、ならびに血圧のコントロールおよび生活習慣因子、例えば、禁煙および健常体重の維持が重要である。
【0093】
糖尿病は、健康保険の非常に大きな負担であり、2007年には、推定1740億ドルの費用がかかっている。米国だけで、人口の約8%である2300万人を超える人が、糖尿病患者であり;成人のさらなる32%が、糖尿病前症、損なわれた経口耐糖能、または異常に高い空腹時血糖のいずれかを有するリスクがある(NIDDK,ADA statistics)。これは、結局、米国の成人人口の大部分が異常なグルコース代謝を有するということになる。世界的には、2億3000万人が糖尿病に罹患しており、その数は、次の20年にわたって倍増すると予想されている。現在のところ、1型糖尿病は、全体の約5%しか占めない。肥満症が蔓延するようになってきたのにつれて、2型糖尿病は、警戒すべき速度で増加している。これらの気が遠くなるほどの数にもかかわらず、血糖コントロールを改善する介入によって、よくない健康状態の結果が減少することが統計から明らかになっている。
【0094】
真性糖尿病のほとんどの症例が、3つの広範なカテゴリー:1型、2型、および妊娠糖尿病に分類される。いくつかの他のタイプが記載されている。限定のない糖尿病という用語は、通常、真性糖尿病のことを指す。稀な疾患である尿崩症は、真性糖尿病と類似の症状を有するが、糖代謝障害はない。
【0095】
用語「1型糖尿病」は、小児期発症型糖尿病、若年性糖尿病およびインスリン依存性真性糖尿病(IDDM)を含むいくつかの以前の用語に取って代わった。同様に、用語「2型糖尿病」も、成人発症型糖尿病、肥満症関連糖尿病およびインスリン非依存性真性糖尿病(NIDDM)を含むいくつかの以前の用語に取って代わった。これらの2つのタイプ以外に、取り決められた標準的な命名法は存在しない。様々な出典が、「3型糖尿病」を:妊娠糖尿病、インスリン抵抗性1型糖尿病(または「二重糖尿病」)、インスリン注射が必要になるまで進行した2型糖尿病、および成人の潜在性自己免疫性糖尿病(またはLADAもしくは「1.5型」糖尿病)として定義している。
【0096】
1型真性糖尿病は、インスリン欠乏に至る、膵臓におけるランゲルハンス島のインスリン産生ベータ細胞の喪失を特徴とする。このタイプの糖尿病はさらに、免疫介在性または特発性として類別され得る。1型糖尿病の大部分は、β細胞の喪失がT細胞介在性の自己免疫攻撃である免疫介在性の性質である。北アメリカおよびヨーロッパにおいて真性糖尿病の症例のおよそ10%を引き起こす1型糖尿病に対する予防措置は知られていない。罹患したほとんどの人は、発病したときは、その他の点では健康であり、健常体重である。インスリンに対する感度および応答性は、特に初期の段階では、通常、正常である。1型糖尿病は、小児または成人に罹患し得るが、小児における糖尿病の症例の大部分に相当するので、従来より「若年性糖尿病」と呼ばれた。
【0097】
2型真性糖尿病は、比較的減少したインスリン分泌を合併し得るインスリン抵抗性を特徴とする。インスリンに対する体組織の不完全な応答性は、主要因子としての肥満症とともに、考えられ得るたくさんの原因を有する。単一遺伝子変異に関係がある真性糖尿病の発生は、若年成人発症型糖尿病またはMODYとして公知であり、別個に類別される。2型糖尿病は、最も一般的なタイプである。
【0098】
2型糖尿病の初期の段階では、主な異常は、低下したインスリン感度である。この段階では、高血糖症は、インスリン感度を改善するかまたは肝臓によるグルコース産生を減少させる種々の措置および薬剤によって、逆転し得る。
【0099】
妊娠真性糖尿病(GDM)は、比較的不適当なインスリン分泌および応答性の組み合わせを含むいくつかの点において2型糖尿病に似ている。それは、全妊娠の約2%〜5%において生じ、分娩後に改善し得るかまたは消失し得る。妊娠糖尿病は、十分に処置可能であるが、妊娠中全体を通して慎重な医学的監督を必要とする。罹患女性の約20%〜50%が、以後の人生で2型糖尿病を発症する。
【0100】
妊娠真性糖尿病は一過性であり得るにしても、未処置の妊娠糖尿病は、胎児または母体の健康を害し得る。乳児に対するリスクとしては、巨大児(高出生時体重)、先天性の心臓および中枢神経系の異常、ならびに骨格筋の奇形が挙げられる。高い胎児インスリンは、胎児のサーファクタント産生を阻害し得、呼吸窮迫症候群を引き起こし得る。高ビリルビン血症は、赤血球破壊に起因し得る。重篤な症例では、最も一般的には血管の機能障害に起因する不良な胎盤灌流の結果として、周産期死亡が起きることがある。胎盤機能の低下に伴って、分娩誘導の必要が示され得る。著しい胎児仮死、または巨大児に関連する傷害の高リスク、例えば、肩甲難産がある場合、帝王切開術が行われ得る。
【0101】
糖尿病のいくつかの症例は、インスリンに応答しない身体の組織受容体によって引き起こされる(この点は、2型糖尿病と区別される点であるが、インスリンレベルが正常であるときでさえ);この形態は、非常に珍しい。遺伝的変異(常染色体またはミトコンドリア)は、ベータ細胞の機能に欠陥をもたらし得る。いくつかの症例では、異常なインスリンの作用は遺伝的にも判断され得る。膵臓に対して広範囲の損傷を引き起こす任意の疾患が、糖尿病に至り得る(例えば、慢性膵炎および嚢胞性線維症)。インスリン拮抗性ホルモンの過剰な分泌に関連する疾患は、糖尿病を引き起こし得る(これは、典型的には、そのホルモン過多が解消されると回復する)。多くの薬物がインスリン分泌を損ない、いくつかのトキシンは膵臓のβ細胞を損傷する。ICD-10(1992)の診断項目である栄養失調関連真性糖尿病(MRDMまたはMMDM、ICD-10コードE12)は、現在の分類法が1999年に導入されたとき、世界保健機関によって重視されなくなった。
【0102】
D.薬学的組成物および処置方法
1.組成物
宿主への投与について、本発明の化合物および細胞は、宿主への投与に適した製剤に懸濁されると想定される。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される製剤および/または水性媒質に分散された、有効量の化合物および/または細胞を含む。句「薬学的におよび/または薬理学的に許容される」とは、必要に応じて、動物、詳細にはヒトに投与されたとき、不都合な反応、アレルギー性の反応および/または他の有害な反応をもたらさない組成物のことを指す。
【0103】
本明細書において使用されるとき、「薬学的に許容される担体」は、任意の溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および/もしくは抗真菌剤、等張剤、ならびに/または吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質に対するそのような媒質または作用物質の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒質または作用物質が活性成分と不適合である場合を除いては、治療的組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性成分もまた、その組成物に組み込まれ得る。ヒトに投与する場合、調製物は、FDA Office of Biologics基準が要求しているような無菌性、発熱性、全般的な安全性および/または純度の基準を満たすべきである。
【0104】
2.投与
投与するための化合物および/または細胞は、一般に、非経口投与用に製剤化され、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、病巣内、または腹腔内経路を介した注射用に製剤化される。細胞を生存可能な構成要素または成分として含有する水性組成物の調製は、本開示に照らして当業者に公知であろう。すべての場合において、その形態は、滅菌されているべきであり、容易に注射できる程度かつそれらの細胞の生存率が維持される程度に流動性でなければならない。一般に、培養液の大部分が投与前に細胞から除去されることが企図される。
【0105】
膵島移植は、本発明の一部として特に企図される。膵島は、移植されるとインスリンを産生し始め、血液中のグルコースのレベルを積極的に制御する。膵島は通常、患者の肝臓内に注入される。それらの細胞が、遺伝的に同一のドナー由来でない場合、患者の身体はそれらを外来のものとして認識し、任意の移植片拒絶と同様に、免疫系がそれらを攻撃し始める。これを防ぐために、免疫抑制薬が使用される。最近の研究から、膵島移植によって、1つの研究における患者の58%が、手術の1年後にインスリン非依存性になったという点に達したことが示された。
【0106】
膵島移植の目標は、血糖値をコントロールするのに十分な膵島を注入して、インスリン注射の必要を排除することである。平均サイズの人(70kg)の場合、典型的な移植には、2人のドナー膵臓から単離された約100万個の膵島を必要とする。良好な血糖コントロールは、糖尿病に伴う合併症、例えば、神経または眼の損傷の進行を遅延させ得るかまたは予防し得るので、移植の成功は、これらの合併症のリスクを低下させ得る。しかし、移植レシピエントは、移植された膵島を免疫系が拒絶するのを抑える免疫抑制薬を摂取する必要があると考えられる。
【0107】
研究者は、死亡したドナーの膵臓から膵島を単離するために、コラゲナーゼと呼ばれる高度に精製された酵素の混合物を使用する。コラゲナーゼ溶液は、膵臓の頭部、本体、および尾部を通る膵管に注射される。このように送達されると、その酵素溶液は、膵臓の拡張を引き起こし、その膵臓は続いて小さな塊に切断され、いわゆるRicordiチャンバーに移され、膵島が遊離して溶液から取り出されるまで、そこで消化が行われる。次いで、単離された膵島は、精製と呼ばれるプロセスにおいて、外分泌組織および残骸から分離される。
【0108】
移植中、放射線科医は、超音波およびX線撮影を使用して、上腹部を通って肝臓の門脈にカテーテルを留置するのを導く。次いで、膵島が、そのカテーテルを通って肝臓に注入される。患者は、局所麻酔剤を投与されると考えられる。患者が、局所麻酔に耐えられない場合、外科医は全身麻酔を使用することがあり、小さい切り口から移植を行う。この手技での可能性のあるリスクとしては、出血または血餅が挙げられる。
【0109】
膵島が新しい血管に付着してインスリンを放出し始めるまでには時間がかかる。医師は、移植後に血糖値を調べる多くの検査を指図し、コントロールが達成されるまでインスリンが必要になる場合がある。
【0110】
特に、Edmontonプロトコルまたはその変法が企図される。Edmontonプロトコルは、1型真性糖尿病の処置のための膵臓の膵島の埋入の方法である。このプロトコルは、Liberase(登録商標)(Roche)と呼ばれる酵素の混合物を使用して、死体ドナー膵臓から膵島を単離する工程を含む。各レシピエントは、1人から3人ものドナー由来の膵島を受け取る。その膵島は、患者の門脈に注入され、その後、2つの免疫抑制剤シロリムスおよびタクロリムス、ならびにモノクローナル抗体ダクリズマブを使用して、レシピエントの免疫系による攻撃を防ぐ。移植された膵島を免疫系が破壊するのを制止する2つの主要な薬物であるシロリムスおよびタクロリムスは、生涯にわたり摂取しなければならない。
【0111】
2つの最も重要な限界は、膵島拒絶を防ぐための手段が現在のところ不十分であること、および移植のための膵島の供給が限られていることである。現行の免疫抑制レジメンは、数ヶ月から数年にわたって膵島不全を防ぐことができるが、これらの処置において使用される作用物質は、高価であり、特定の悪性疾患および日和見感染に対するリスクを高め得る。加えて、およびいくらか皮肉なことに、最もよく使用される作用物質(カルシニューリン阻害剤およびラパマイシンのような)もまた、正常な膵島機能および/またはインスリン作用を損なうと知られている。さらに、すべての薬剤と同様に、それらの作用物質は、副作用(例えば、口腔潰瘍、末梢浮腫、貧血、体重減少、高血圧症、高脂血症、下痢および疲労)とともに、他の関連する毒性を有する。おそらく、患者および医師にとっての最も大きな懸念は、広く用いられているある特定の免疫抑制剤の腎機能に対する悪影響である。糖尿病を有する患者にとって、腎機能は、長期転帰を決定する際の重大な要素であり、カルシニューリン阻害剤(タクロリムスおよびシクロスポリン)は、有意に腎毒性である。したがって、膵臓移植を受けた一部の患者は、免疫抑制剤に十分に耐え、そのような患者の場合、糖尿病性腎症は、徐々に改善し得るが、他の患者では、最終的な効果(改善された血糖コントロールに起因するリスクの低下、免疫抑制剤が原因であるリスクの増加)は、腎機能を悪化させ得る。実際に、Ojoらは、腎臓以外の同種移植片を受け取った患者のうち、7%〜21%が、移植および/またはその後の免疫抑制の結果として、最終的に腎不全に至ることを示唆する解析結果を発表した。
【0112】
すべての移植治療と同様に、膵島移植もまた、ドナープールが限られていることによって妨げられている。その数は著しく、少なくとも100万人の米国人が1型真性糖尿病を有しているのに、毎年、たった数千のドナー膵臓しか利用可能でない。この臓器不足の問題を回避するために、研究者は、膵島(または少なくとも、生理的に制御されたインスリン分泌が可能な細胞)をインビトロで「育てる」方法を探し続けているが、現在のところ正常血糖を回復させるためには、死体ドナー由来の膵島しか使用することができない。上記問題をさらに深刻にすることには(および各レシピエントに対してただ1人のドナーが必要である腎臓、肝臓、および心臓移植とは異なって)、ほとんどの膵島移植患者が、正常血糖を達成するために2人以上のドナー由来の膵島を必要とする。最後に、膵島単離のための現在の方法は、試みた単離の約半分しか、移植に対応できる膵島をもたらさないので、改善が必要である。ゆえに本発明は、インスリン産生が低下した細胞またはその能力を完全に失った細胞を含むβ細胞を処置するためおよび刺激するための改善された方法を提供する。本発明の組成物は、これらの細胞におけるインスリン産生を増加させ/再活性化し、さらに、β細胞の増殖を誘導し得る。それらの処置は、死体もしくは処置されている患者からの回収後にエクスビボで、または移植後にインビボで行われ得る。
【0113】
一般に、基本分散媒、および細胞の生存能を維持するために必要とされる他の成分、ならびにインビボにおいて増殖、分化または置換/移植をもたらす潜在的なさらなる構成要素を含有する滅菌されたビヒクルに化合物または細胞を組み込むことによって、分散液が調製される。製剤化され次第、溶液は、その投与製剤に適合した様式で、または治療的に有効であるような量で、投与される。処置されている対象の状態に応じて、投与量のいくらかの変動は、必然的に生じる。いずれにしても、投与に対して責任がある者が、個々の対象に対する適切な用量を決定する。
【0114】
3.補助的な治療および手技
本発明において、本明細書において開示される方法を補助的な治療または手技と組み合わせて、全体的な抗糖尿病作用を高めることが有益であると判明する場合がある。そのような治療および手技は、下に大まかに示される。熟練の医師は、これらの治療および手技が用いられ得る最も適切な様式を知らされているだろう。
【0115】
本発明は、他の治療の必要性を排除するように設計されるにもかかわらず、従来のインスリン補充であるがより低いレベル、例えば、通常のインスリンの1日投与量の90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、15%未満、10〜15%、10%未満、5〜10%、5%未満、4%、3%、2%、または1%でのインスリン補充とともに有益な用途を提供することが企図される。TD1に対する通常の1日投与量は、1日あたり30〜60単位である。そのような治療は、現在の臨床上の状況を考慮に入れて個々の患者に対して具体的に調整されるべきであり、イソオキサゾールの供給を開始した後に、対象が、インスリン治療を「離脱」することまたは止めることができると企図される。以下は、注射によるインスリン補充を用いる典型的な「単独療法」に対する一般的ガイドラインであり、たとえ上述の総1日投与量の減少の文脈においても、これがここで適用され得る。
【0116】
インスリンは、大腿、腹部、上腕、または臀部に注射され得る。小児においては、大腿または腹部が好ましい。これらは、高頻度の部位ローテーションのために広い面積を提供し、自己注射のために容易に利用できる。腹部に注射されるインスリンは、急速に吸収される一方で、大腿からは、よりゆっくりと吸収される。ゆえに、患者は、1つの領域から他の領域に無秩序に変更すべきでない。腹部は、注射と食事との間隔が短いことが望まれる時刻(通常、小児が登校するのに急いている場合があるときの朝食前)のために使用されるべきであり、患者が食事のために注射後30分間待つことができるとき(通常、夕食前)は、大腿が使用されるべきである。選択される領域のうち、1ヶ月に多くとも1または2回の注射が任意の単一のスポットに与えられるように、規則正しい部位ローテーションが実行されなければならない。部位ローテーションが実施されない場合、頻繁に注射された部位に、脂肪肥大として知られる脂肪塊が生じ得る。これらの塊は、美容上許容できず、より重要なことは、これらの領域からのインスリン吸収は非常に不安定である。
【0117】
インスリンを注射する前に、選択された部位をアルコールで清浄にするべきである。アルコールが蒸発する前の注射は、かなり有痛であると理解することができる。注射器をペンのように片手で持ち、他方の手の親指と示指との間で皮膚をつまみ上げ、表面に対して45〜90°の角度で皮膚に針を挿入する。ピストンを押し下げて、インスリンを皮下腔(皮膚と筋肉との間の腔)に注射し、次いで、数秒間待った後、つまみ上げた皮膚を開放し、その後、針を抜き取る。注射部位をマッサージすべきでない。
【0118】
糖尿病の日々の管理のために、短時間作用性インスリンと中時間作用性インスリンとの組み合わせが使用される。糖尿病発症後1年目の一部の小児は、毎日単回のインスリン注射において十分にコントロールされた状態で留まり得る。しかしながら、ほとんどの糖尿病の小児は、良好なコントロールのために、1日に2回、3回、または4回ものインスリンのショットを必要とし得る。医師が、どのレジメンが最適であるかを決定するべきである。
【0119】
1回注射レジメン: 1:3または1:4の比率の短時間作用性インスリンと中時間作用性インスリンとの混合物(同じ注射器において混合される)を含む単一の注射を、朝食の20〜30分前に行う。通常の総開始用量は、0.5〜1.0単位/kg体重/日である。このレジメンは、3つの不都合を有する:(1)すべての食事が、固定された時間に消費されなければならない;(2)インスリンの全量が一度に与えられるので、インスリン作用の単一の大きなピークが見られ、深夜および夕方の時間に低血糖になりやすくなる;(3)中時間作用性インスリンの作用は、めったに16〜18時間を超えて続かないので、身体のインスリン要求が実際に最高になる時間である早朝の時間に、患者の身体が十分にインスリン治療されていない状態になる。
【0120】
2回注射レジメン: このレジメンは、かなり一般的である。インスリンの2回のショット、一方は朝食前(総用量の2/3)および他方は夕食前(総用量の1/3)が行われる。各々が、朝の用量の場合1:2または1:3、および夜の用量の場合1:2または1:1の比での短時間作用性インスリンと中時間作用性インスリンとの組み合わせである。このレジメンを用いるとき、単回注射レジメンの不都合は、部分的に修正される。夕食については、いくらか融通が利くようになる。さらに、1日の総インスリンが分割されるので、インスリン作用の単一の大きなピークは生じず、ゆえに、低血糖のリスクは低下し、1日全体を通じておおよそ満遍なくインスリン治療された状態が保たれる。このレジメンでは、朝食前の血糖が高いのに対して午前3時のレベルが低い場合、短時間作用性インスリンを夕食前に提供し、中時間作用性インスリンを就寝前に提供するように、夜の用量を分割する必要があり得る。
【0121】
複数回インスリンレジメン: 通常、身体は、基礎ボーラス様式でインスリンを産生し、すなわち、食事摂取と無関係な一定の基礎分泌が存在し、これに加えて、各食事に応答したボーラスインスリン放出が存在する。複数回インスリンレジメンは、このインスリン産生の生理学的パターンを模倣するために考案された。短時間作用性インスリンを主要な各食事(朝食、昼食、および夕食)の前に投与することにより、「ボーラスインスリン」が提供され、中時間作用性インスリンを「基礎インスリン」のために1日に1回または2回投与する。通常、ボーラスインスリンは、総用量の60%を構成し、基礎インスリンは、残りの40%を占める。このレジメンを用いるとき、多くの融通が利くようになる。ボーラスインスリン用量の適切な変更を行うことによって、各食事のタイミングならびに量の両方が、所望のとおり変更できる。このレジメンを最大限活用するために、「炭水化物計算」を学ぶべきであり、炭水化物:インスリン比(身体が1単位のインスリンを必要とする炭水化物のグラム数)を算出すべきである。
【0122】
4.グルコースレベルのモニタリング
糖尿病に罹患しているどの人も、血糖値を定期的に測定する必要があることをよく知っていると考えられる。血糖値は、血液中のグルコース、すなわち糖の量である。それは、「血清グルコースレベル」とも称される。正常では、血糖値は、一日中、かなり狭い限度内に留まる(4〜8mmol/l)が、食後に高くなることが多く、通常、朝が最も低い。残念ながら、糖尿病を有すると、血糖値は、時折これらの限度外に移動する。したがって、糖尿病患者の課題の多くは、糖尿病に罹患しているとき、グルコースレベルができるだけ正常に近いことが重要である。安定した血糖は、1型糖尿病と診断された10〜15年後およびしばしば2型糖尿病と診断された後10年未満で現れ始める後期の糖尿病性合併症を発症するリスクを有意に低下させる。
【0123】
血糖値は、測定装置自体およびテストストリップからなる家庭用血糖値検査キットを用いて非常に簡単かつ迅速に測定できる。血糖値を調べるために、少量の血液をテストストリップ上に置き、次いでそれを装置に入れる。約30秒後、装置は血糖値を表示する。血液サンプルを採取する最良の方法は、ランセットで指を穿刺することによる方法である。理想値は、(a)食事前の4〜7mmol/l、(b)食事の1時間半後の10mmol/l未満;および(c)就寝前のおよそ8mmol/lである。
【0124】
1型糖尿病を有する人々は、血糖値を1日に1回、朝食前の朝または就寝前に測定するべきである。さらに、1週間に数回、24時間のプロファイル(各食事の前および寝る前の血糖値の測定)が行われるべきである。2型糖尿病を有し、かつインスリンで処置されている人々もまた、上記のスケジュールに従うべきである。2型糖尿病を有し、かつ錠剤または特別食で処置されている人々は、1週間に1回または2回、食事前または食事の1時間半後に血糖値を測定するべきである。彼らは、1ヶ月に1回または2回、24時間のプロファイルも行うべきである。
【0125】
インスリンで処置されている糖尿病患者の血糖値を朝に測定する主な利点は、その血糖値が高いまたは低い場合に、調整された量のインスリンを与えることができる点であり、それによって、後期の糖尿病性合併症を発症するリスクが低下する。同様に、就寝前の血糖値は、7〜10mmol/lであるべきである。就寝前の血糖が非常に低いまたは非常に高い場合、食物摂取量またはインスリン用量を調整する必要があり得る。血糖は、患者の気分が良くないときまたは血糖が高すぎるもしくは低すぎると患者が考えるときもいつでも測定されるべきである。血液中に高レベルのグルコース(20mmol/l超)を有する1型糖尿病を有する人々は、尿中の糖の痕跡に加えて、尿ストリップを用いて尿中のケトン体について調べるべきである。ケトン体が存在する場合、それは、彼らが糖尿病性アシドーシスを有するかまたは発症し得るという警告シグナルである。
【実施例】
【0126】
E.実施例
以下の実施例は、本発明のある特定の好ましい態様を実証するために含められる。以下の実施例に開示される手法は、本発明の実施において十分に機能すると本発明者らによって発見された手法であり、ゆえに、その実施のための好ましい様式を構成すると考えることができることが当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示される特定の態様において行われ得、それらの変更がなおも同様または類似の結果を得ることを認識するべきである。
【0127】
実施例1-材料および方法
材料。 ERK1/2およびpERK1/2に対する抗体は、記載通りのものであった(Lawrence et al., 2008)。BETA2(N-19)、cMaf(M-153)、PDX-1(N-18)、およびp300(C-20)抗体は、Santa Cruz Biotechnology製であった。クロマチン修飾を認識する抗体、pan-AcH4 K5K8K12K16(06-866)、AcH3K9(07-352)、AcH3K14(07-353)、AcH3K9K14(07-353)は、Upstate/Millipore製であった。阻害剤は、以下の供給源から入手した:U0126およびFK506はLC Laboratories; PD0325901はStemgent;ニフェジピンおよびBAPTAはCalbiochem;ワートマニンおよびトリコスタチンAはSigma。小分子3.5-二置換Isxは、以前に記載されたものであり、
図5Aに示されている(Sadek et al., 2008; Schneider et al., 2008)。
【0128】
細胞培養および処理。 MIN6細胞を、25mMグルコース、10%ウシ胎仔血清、10mM Hepes pH7.4、10.2mM L-グルタミン、50mMピルビン酸ナトリウム、2.5mM β-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM(Gibco)中、37℃、10%CO
2において培養した。ヒト膵島を、ICR Basic Science Islet DistributionおよびUniversity of Alabama, Birmingham Islet Resource Facilityから入手し、11mMグルコースを含むRPMI1640中で最長1年間培養した。培地を1週間に2回交換し、膵島が90%コンフルエンスに達したら、それらを継代培養した。Isx処理のために、細胞を、Isxまたは等体積のDMSOビヒクル(0.04%)を含有する培地中でインキュベートした。GSISを測定するために、細胞を、0.1%ウシ血清アルブミンおよび2mMグルコースを含有するKrebs-Ringer炭酸水素塩/Hepes中に2時間入れ、20mMグルコース、1×アミノ酸混合物(DMEMにおけるような濃度)または50nMエキセンディン-4で15分間刺激した。U0126(10μM)、ニフェジピン(3μM)、BAPTA(10μM)、ワートマニン(wortmanin)(0.5μM)、またはFK506(0.1μM)を、示されるように1〜24時間にわたって加えた。
【0129】
DNAコンストラクト。 ラットインスリン1プロモーター-ルシフェラーゼレポーターコンストラクト(pGL3-rIns -410,+1)は、以前に記載された(Lawrence et al., 2005)。MafA:myc、PDX-1:myc、およびBETA2:mycをコードする発現ベクターは、Michael German(UCSF)製であった。p300は、Joseph Garcia(Southwestern)から寄贈されたものであった。MafA:myc点変異体を、Quik-Change突然変異誘発(Agilent Technologies)によって作製した。
【0130】
ChIPおよびQ-PCR解析。 ChIPは、記載の通りであったが(Lawrence et al., 2008)、以下の改変を加えた。クロマチンを1%ホルムアルデヒドで架橋し、氷冷水浴においてBioruptor200(Diagenode)で超音波処理した。プロテインA-Sepharoseビーズ上に固定化された抗体を免疫沈降のために使用した。C1(MafA)、E1(BETA2)、およびA1(PDX-1)結合部位を含むマウスインスリンプロモーターの-157/-50フラグメントを増幅する以下のプライマー:
を使用する、リアルタイムPCR解析について以前に記載されたようなリアルタイムQ-PCRによって(Lawrence et al., 2008)、ChIP産物を解析した。結果は、投入量に対して表現され、3つ組での少なくとも2つの独立した実験の平均値+/-SEMとして提示された。
【0131】
HATおよびHDACアッセイ。 ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性および脱アセチル化酵素活性は、Biovision Biotechnology製のHATおよびHDAC活性比色アッセイキットを製造者の推奨に従って使用して、50μgの核タンパク質において測定した。
【0132】
遺伝子発現解析。 製造者のプロトコル(Ambion)に従ってTRI試薬を用いて、ヒト膵島調製物から全RNAを抽出した。ランダムヘキサマーおよびオリゴ-dTをプライマーとして用いる逆転写の混合物(iScript Biorad)によって全RNAからcDNAを調製した。18S RNAと比較したインスリンおよびグルカゴンの発現を、TaqManアッセイ(Applied Biosystems)によって評定した。膵因子の相対的な発現を、Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Bio systems)を使用して計測した。qRT-PCR用のプライマー配列は、STable1におけるものである。SYBR GreenおよびTaqManプローブに基づくPCRを、標準的な蛍光化学および製造者が指定する熱サイクル条件:50℃2分、95℃10分の1サイクル、および95℃15秒、次いで58℃1分のさらなる40サイクルとともにABI 7500 DNA Sequence Detection Systemを使用して行った。
【0133】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ。 3つ組のHEK293細胞(0.15×10
6細胞)を、Lipofectamine2000(Invitrogen)を使用して、pGL3-rInsレポーターコンストラクト(0.1μg/ウェル)(Stratagene)でトランスフェクトし、0.5μg/ウェルの空ベクター(pcDNA3.1)、またはBETA2:myc、MafA:myc、もしくはPDX-1:mycをコードするベクターでコトランスフェクトした。24時間後、細胞を、さらに24時間にわたって20μM IsxまたはDMSOで刺激した。内部対照としてウミシイタケルシフェラーゼを用いるデュアルルシフェラーゼレポーターシステム(Promega)を使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0134】
統計。 2群を用いた実験を、対応のない両側スチューデントt検定を使用して統計的有意性について解析した。エラーバーは、別段述べられない限り、標準偏差(s.d.)を表す。p<0.05の値を、統計学的に有意であるとみなした。
【0135】
実施例2-結果
Isxは、グルコース誘導性インスリン分泌を増加させ、ヒト膵島におけるインスリン遺伝子の転写にとって重要な因子の発現を高める。 本発明者らは、最長1年間培養液中で維持されたヒト膵島内のβ細胞の機能に対するIsxの効果を調べた。下に記載される培養細胞における濃度効果および他の細胞型における以前の研究(Sadek et al., 2008; Schneider et al., 2008)に基づいて、研究の大部分は、20または40μMのIsxを用いた。膵島は、β細胞に加えて、他の2つの主要な細胞型であるαおよびδ細胞(グルカゴンおよびソマトスタチンを分泌する)ならびにγまたはpp細胞(膵ポリペプチドを分泌する)を含有する(Steiner et al., 2010)。これらの細胞型は、栄養素によって制御される異なるホルモン分泌を媒介する、共有される転写因子と細胞特異的転写因子の両方を発現し、それらの間の相互作用は、膵島の機能にとって重要である。数ヶ月間の培養の後、膵島は、β細胞に限定される転写因子の発現の低下を示し、グルコース負荷に応答してそれほどインスリンを分泌できなくなる(Buitrago et al., 1975; Hollande et al., 1976)。
【0136】
6ヶ月間培養されていたヒト膵島をIsxで1〜2日間処理することにより、プレプロインスリンmRNAの大幅な増加が誘導された一方で、グルカゴンmRNAは、同じ状況下においてほぼ80%減少した(
図1A)。これらの膵島から24時間にわたって分泌されたインスリンもまた、顕著に増加した(
図1B)。その化合物によって引き起こされるこれらの変化の相対的有意性を判定するために、本発明者らは、3ヶ月間培養されたヒト膵島に対するIsxの効果を、新しく得たヒト膵島と比較した。3ヶ月齢の膵島におけるインスリン含有量は、Isxによって、たった1週間前に単離された膵島のインスリン含有量のほぼ75%の値まで、約10倍増加した(
図1C)。さらに、Isxに対する2日間の曝露によって、その新鮮膵島のインスリン含有量がほぼ25%増加した。2ヶ月間培養され、Isxで2日間処理された膵島は、Ngn3、BETA2、およびインスリン免疫染色の明らかな増加を示した(
図1E)。
【0137】
本発明者らは、1年間培養液中で維持された膵島における一連のmRNAに対するIsxの作用の時間経過を調べた。プレプロインスリンmRNAは、Isx曝露の24時間後に10倍、および数日後に50倍以上増加した(
図1D)。Isxは、グルコース応答性も増加させたので、本発明者らは、β細胞のグルコース感知特性に必須のタンパク質であるグルコキナーゼおよびGlut2の発現に対するその効果も評価したところ、その両方が、顕著に増加し、4日間の曝露の後にピークを迎えることを見出した。BETA2に加えて、本発明者らは、インスリン遺伝子の転写、ならびにβ細胞の分化および分化機能に関連する転写因子の発現を調べた。試験されたものの大部分は、時間的に2つの発現パターンのうちの1つを示した。いくつかが、その時間経過全体にわたって増加したか、またはプラトーに達するまで増加した;これらには、インスリン自体に加えて、BETA2、MafA、PDX-1、Pax6、Nkx6.1、Nkx2.2、Foxa2、Hnf6、Hnf1α、Hnf1β、Hnf4α、およびIsl1が含まれた(Wilson et al., 2003; Lyttle et al., 2008; Oliver-Krasinski and Stoffers, 2008; Scearce et al., 2002; White et al., 2008)(
図1Dおよび
図5B)。急速に増加し、次いで、より長い曝露の時間とともに減少したその他のものには、Ngn3およびPax4が含まれた。PDX-1、Hnf、およびIsl1の増加は比較的小さかったが、他の因子の増加は概して10倍超だった。増殖の指標であるPCNAも、幹細胞に関連する因子であるOct4も、mRNA発現の一貫したまたは実質的な変化を示さなかった。
【0138】
Isxは、BETA2の発現およびMIN6β細胞からのインスリンの分泌を増加させる。 単離されたMIN6β細胞におけるIsxによって誘導された変化を調べるために、本発明者らは、まず、Isxが、この培養されたβ細胞株におけるBETA2および他の因子の発現を高めることを示した。曝露の24時間後、免疫反応性BETA2は、試験されたすべての濃度のIsxにおいて増加した(
図2A)。MafAの発現もまた、実質的に増加した一方で、PDX-1の変化はほとんど検出されなかった。次いで、本発明者らは、グルコース刺激性インスリン遺伝子転写にとって不可欠なERK1/2の活性を調べた。Isxによって増加するERK1/2のリン酸化は、曝露の24時間後に検出可能だった。20μM Isxによる処理の時間経過から、ERK1/2に対する二相効果(初めの数分以内の小さな最初の活性化に続いて、Isx曝露のおよそ2時間後に始まるより遅くより明白かつ持続性の活性化)が示唆された(
図6)。この化合物で処理された他の細胞型において以前に見られたように(Sadek et al., 2008)、遺伝子誘導の指標であるヒストンH3およびH4のアセチル化もまた、β細胞においてIsxによって増加した。これらの変化のすべてが、プレプロインスリンmRNAの4倍もの増加を伴った(
図2B)。
【0139】
インスリン分泌を調べるために、MIN6β細胞を、4.5mMグルコースを含む完全培地中で24時間インキュベートした後、Isxで処理した。グルコース刺激性インスリン分泌(GSIS)は、インスリン含有量の比較的小さい増加にもかかわらず(
図2D)、Isx前処理によってほぼ4倍増加した(
図2C)。GSISの増加は、MEK阻害剤を使用してERK1/2活性化を阻害することによって、部分的に阻止された。追跡実験は、Isxが、グルコース、アミノ酸およびエキセンディン-4(長時間作用性グルカゴン様ペプチド1アゴニスト)によるインスリン分泌の刺激を、個々におよび組み合わせて、2〜5倍増加させることを示した(
図2E)。Isxによって増加するGSISに対する他の阻害剤の影響もまた調査した。カルシニューリン阻害剤FK506(これもERK1/2を阻害する(Lawrence et al., 2005))、PI3-キナーゼ阻害剤ワートマニン、およびL型電圧依存性カルシウムチャネルの阻害剤であるニフェジピンはすべて、キレート剤BAPTAとともに、Isxによって引き起こされるGSISの増加を減少させた(
図5E)。
【0140】
Isxの作用に寄与するエピジェネティック機序。 Isxによって引き起こされる機能変化を調査するために、本発明者らは、MIN6および293細胞において過剰発現アッセイおよび再構成アッセイを使用して、誘導される因子の活性もまたその化合物によって影響されるかを判定した。インスリン遺伝子レポーター活性は、Isxの存在下においてBETA2またはMafAによって4倍以上増加した(
図3A,
図7)。対照的に、PDX-1の活性の増加は、Isxによって2倍以下であった。インスリン遺伝子プロモーターへのBETA2およびMafAの同程度またはそれ以上のクロマチン結合が、Isxによって引き起こされた;Isxによって誘導される結合は、これらの因子のグルコース刺激性結合について以前に示されたように(Lawrence et al., 2005)、ERK1/2の活性化を阻止することによって阻害された(
図3D〜E)。Isxはまた、HDAC阻害剤である酪酸ナトリウムよりも強くBETA2のアセチル化を引き起こした(
図3C)。BETA2は、ERK1/2基質であるが(Khoo et al., 2003)、本発明者らは、MafAがERK1/2の基質であることを示すことができなかった。他の酵素によるセリン-プロリン部位におけるMafA調節性リン酸化が報告されている(Benkhelifa et al., 2001; Han et al., 2007)。セリン修飾に対する役割と一致して、セリン65およびそれほどではないにせよセリン14の変異は、IsxがMafAの転写活性を増加させる能力を制限した(
図3B)。
【0141】
IsxはHAT活性を増加させることによってヒストンアセチル化を制御する。 以前に、本発明者らは、Isxが、HDAC5のリン酸化を減少させ、その核外輸送を増加させることを示した。これは、おそらくNkx2.5の転写の変化を説明するものである。(Schneider et al., 2008)。ここで、本発明者らは、BETA2のアセチル化に対する効果に加えて、Isxが、ヒストンのアセチル化に対しても著しい効果を有することを見出す(
図4A)。カルシウムチャネル遮断剤であるニフェジピンは、キレート剤BAPTAとともに、Isxによって誘導されるリジン9および14におけるH3のアセチル化を減少させたが、H4のアセチル化に対してほとんど影響を及ぼさなかった。MEK/ERK経路阻害剤であるU0126およびPD325901は、Isxによって誘導されるH4のアセチル化をカルシニューリン阻害剤FK506と同様に阻害したが、H3アセチル化に対してほとんど影響を及ぼさなかった。対照的に、PI-3キナーゼ阻害剤ワートマニンは、これらの読み取り結果のいずれに対しても影響を及ぼさなかった。
【0142】
β細胞におけるヒストンアセチル化の増加に対する根拠を特定するために、ビヒクルまたはIsxで24時間処理されたMIN6またはHeLa細胞由来の核抽出物においてHDAC活性およびHAT活性を測定した(
図4B〜C)。MIN6細胞におけるHDAC活性は、その化合物によって影響されなかったが、HDAC阻害剤トリコスタチンAによって阻害された(Bieliauskas and Pflum, 2008)。活性の単位は、MIN6およびHeLa核抽出物において似ていた。他方で、Isxで処理されたMIN6細胞由来の核抽出物におけるHAT活性は、Isxによって約2倍増加した。Isxで処理された細胞におけるHAT活性は、MEK阻害剤感受性によって示唆されるように、ERK1/2に部分的に依存した(
図4D)。293細胞において発現されたHATに対するIsxの効果は、PCAFまたはGCN5の活性ではなくp300およびCBPの活性が、ERK2発現とIsxの組み合わせによって増加するが、キナーゼデッドERK2(K52R)の発現によって阻止されることを示唆した(
図8)。Isxによるp300の明らかな制御を確証するために、MIN6細胞においてp300を発現させた。Isxは、発現されたp300に起因するものに加えて、核抽出物においてHAT活性を増加させた。U0126は、Isxによって誘導されるHAT活性の増加を阻害した。グルコースによる刺激の際のインスリンプロモーターへのp300のクロマチンリクルートメントは、Isx前処理によってERK1/2依存的様式で増加した(
図4E)。これらの知見は、Isxがp300活性を刺激し、ヒストンおよび転写因子のアセチル化のIsx誘導性変化がp300の制御によって少なくとも部分的に引き起こされるという結論と一致する。
【0143】
MIN6(ベータ細胞株)においてラットインスリンレポーター活性を使用するレポーターアッセイ。 さらなるイソオキサゾール化合物を
図9に示す(Isx-9 Iは上で論じられたIsxと同じ)。最初の実験において、Isx-9処理(10μM)を、HA-104-94(10μMおよび2μM)の処理と比較した。2μMでさえ、HA-104-94分子は、10μMのIsx-9に匹敵する活性を有した(
図10)。次に、本発明者らは、0.625μMという低い濃度のHA-104-94が、インスリン遺伝子レポーターを2倍活性化し得ることを見出した(
図11)。
【0144】
MIN6細胞における内因性インスリンの発現。 Isx-9は、20μM濃度において最適に内因性インスリン遺伝子発現を活性化する。2μMおよび20μMにおける関連小分子と比較して、Isx-OH(HA-104-94)は、20μMにおけるIsx-9と同様に、2μMにおいて、インスリン遺伝子を活性にするより大きな能力を有する(
図12)。
【0145】
新規イソオキサゾール化合物の同定。 構造活性相関(SAR)スクリーニングに基づいて、本発明者らは、いくつかのイソオキサゾール関連化合物(
図19)の特性を特徴付けた。2つ(LSH-18およびLSH-97)が、ベータ細胞の機能およびインスリン分泌を高める際に、マイクロモル以下の濃度において本発明の親イソオキサゾール分子LSH-1よりも良い成績だったので、それらをより詳細な解析のために選択した。
図13に示されているように、LSH-97は、62.5nMにおいてもなお有効である。
【0146】
2つのISX化合物は、グルコース、および受容体によって活性化される分泌促進物質に応答して、インスリン分泌を増加させる。 ここで論じられているイソオキサゾール誘導体は、処理の際にインスリン分泌を誘導しないので、それらはインスリン分泌促進物質ではないことを認識することが重要である。その代わりに、それらのIsx分子は、膵ベータ細胞の機能を高める。前処理されたベータ細胞は、グルコース、アミノ酸(AA)または、GLP1受容体アゴニストであるエキセンディン-4(Ex-4)による刺激に応答して、有意により多いインスリン分泌を示した(
図14)。
【0147】
1μM LSH-097による前処理は、ベータ細胞の機能を高める。 上記Isx分子は、遺伝子発現を活性化するエピジェネティック変化(ヒストンアセチル化)を誘導する能力を有する。それらのIsx分子は、おそらく、ベータ細胞の最終分化を改善し、ゆえに、それらの機能を高める。例えば、
図15Aは、48時間にわたる1μM LSH-97による前処理ありまたはなしでの、アミノ酸(AA)、エキセンディン-4(Ex-4)、グルコースまたはGPR40(脂肪酸受容体1)アゴニストGW9508による刺激後のA-シグナル伝達を示している。
図15Bは、48時間にわたって1μM Isx LSH-97で前処理されたMIN6細胞におけるインスリン分泌を示している。
【0148】
Isx誘導体であるLSH-097(およびLSH-18、データ示さず)は、ベータ細胞の機能を改善し、グルコース依存性インスリン分泌を増強するために使用することができるが、単独では実質的な分泌を誘導しない。LSH-097は、刺激濃度のグルコース、アミノ酸およびGLP1(およびおそらくその他のもの)の存在下において選択的にインスリン分泌を増加させるが、GPR40に対するリガンドによってはインスリン分泌を増加させない。
【0149】
ベータ細胞の機能を測定する方法としてのカルシウム流入。 細胞内カルシウムの上昇は、ベータ細胞において、制御されたインスリン分泌を引き起こす。MIN6細胞において、インスリン分泌の改善は、分泌促進物質によって誘導される細胞内カルシウム流入の有意な刺激と同時に起きる(
図16A〜B)。
【0150】
イソオキサゾールは、遊離脂肪酸(FFA)誘導性の機能不全から膵ベータ細胞を保護する。 LSH-018およびLSH-097は、GW9508を除く様々な分泌促進物質に応答してインスリン分泌を有意に改善した。実際に、LSH-018(
図17A〜B)およびLSH-097(データ示さず)は、インスリン分泌に対するその増強効果に関していかなる影響も及ぼさずに、遊離脂肪酸受容体GPR40アゴニストによって誘導されるMAPキナーゼERK1/2シグナル伝達を有意に減少させた。
【0151】
GPR40およびGPR120は、ERストレス、およびII型糖尿病におけるベータ細胞喪失の主な原因であるブドウ糖脂肪毒性の脂肪酸(FFA)誘導のために必要である。FFAは、短期的にはグルコース誘導性インスリン分泌を増強し得るが、しかしながら、FFAへの長期間曝露は、有害な影響を及ぼし、ベータ細胞の機能を損ない、II型糖尿病の進行を暗示させる。したがって本発明者らは、イソオキサゾール小分子が、ベータ細胞の機能喪失および脂肪毒性傷害中のアポトーシスを妨げ得ると仮定する。
【0152】
培養されたヒト膵島におけるIsxの効果。 ヒト膵臓の膵島は、十分に長く培養下に置かれると、膵島因子の発現を失う。これはグルコース誘導性インスリン分泌の喪失と相関する。新規Isx化合物が、親LSH-1よりも良く機能し得るかを判定するために、2ヶ月間培養されたヒト膵島を様々なLSH化合物で7日間処理し、結果は、培養されたヒト膵島において再現され得る。いくつかのIsx分子が、増加した転写物レベル(
図18A)およびタンパク質レベル(
図18B)によって判断されるように、インスリン合成を有意に増加させた。
【0153】
実施例3-考察
Isxは、β細胞分化を増加させ、栄養素応答性インスリン遺伝子転写をコントロールする転写因子(MafAおよびBETA2を含む)の発現を増加させたことから、プレプロインスリンmRNAおよび細胞内インスリン含有量の増加がもたらされた。Isxは、細胞内インスリン含有量の増加の前に、栄養素およびホルモン分泌促進物質によって誘導されるインスリン分泌を増強したことから、Isxが分泌機構の効率も調整することが示唆される。最終結果は、成熟β細胞の機能、分泌負荷に応答したインスリンの生合成および放出にとって不可欠な特徴の実質的な増加である。
【0154】
長期間培養された膵島においてこれらの変化をもたらすために、Isxは、β細胞分化を指示する因子の集団を誘導した。これらの転写因子は、β細胞の発生における(しばしば重複する)機能を有し、いくつかは、成熟β細胞においても同様に、重複する機能を有する(Oliver-Krasinski and Stoffers, 2008)。Ngn3は、膵臓前駆体においてBETA2の発現を誘導し、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤の誘導によって細胞分裂を抑制する(Miyatsuka et al., 2011)。Ngn3は、α細胞とβ細胞とに区別される前の膵島分化の初期に上昇し、他のいくつかの因子とは対照的に、Ngn3は、成体の膵臓では検出不可能になる(Huang et al., 2000; Schwitzgebel et al., 2000)。BETA2およびNgn3は、機能的に重複していないが、両方とも、膵島分化を推進し得、ホメオドメインタンパク質Nkx2.2を誘導し得る(White et al., 2008; Gasa et al., 2008; Gu et al., 2010);Ngn3は、Pax4も誘導する。Nkx2.2およびPax4は、β細胞系列の発生のために必要である(Habener and Stoffers, 1998; Smith et al., 2000; Smith et a., 2003; Brun and Gauthier, 2008)。
【0155】
Foxa2およびPDX-1に加えて、Nkx2.2は、MafAの発現を直接制御する(Anderson et al., 2009; Doyle and Sussel, 2007; Raum et al., 2006; Lynn et al., 2007)。Nkx2.2の下流でもあるNkx6.1は、とりわけβ細胞の発生の第二波において、β細胞前駆体の発生に必要である(Sander et al., 2000)。Nkx6.1はまた、グルカゴン発現を抑制し、これはおそらく、Isxによるグルカゴンの抑制を説明するものである。Foxa2は、その発生上の役割に加えて、グルコース代謝およびインスリン分泌においても重要であり、ATP感受性K+チャネルサブユニット、Kir6.2およびSur-1をはじめとした遺伝子を制御する(Wang et al., 2002; Lee et al., 2002; Lantz et al., 2004; Gao et al., 2007)。若年成人発症型糖尿病(MODY)は、Hnf4α、Hnf1α、およびHnf1β(これらは、グルコース感知機能およびβ細胞の他の機能にとって重要ないくつかの分子も制御する)の変異によって引き起こされ得る(Eeckhoute et al., 2001; Gupta et al., 2005)。MafAの標的は、グルコキナーゼ、Glut2、グルカゴン様ペプチド1受容体、およびプロインスリンを処理するプロホルモンコンバターゼ(Pcskl)である(Wang et al., 2007)。MafAによるこれらの遺伝子のコントロールと一致して、その過剰発現は、インスリン分泌のグルコース感度を左方移動させた(Wang et al., 2007)。MafAによるこれらのタンパク質の誘導は、Isxに曝露されたβ細胞および膵島のインスリン産生の向上および分泌応答性の改善に寄与する可能性がある。
【0156】
Isxは、p300を含むアセチルトランスフェラーゼに対する作用を通じて、核タンパク質のアセチル化を刺激した。p300は、インスリン遺伝子の転写を含むβ細胞の分化および分化機能に対して大きな影響を及ぼす(Sharma et al., 1999; Qiu et al., 1998)。ヒストン修飾に加えて、p300は、β細胞の機能を支持する他のタンパク質、例えば、BETA2をアセチル化し得る(Qiu et al., 2004)。変異体を用いた研究から、BETA2のアセチル化は、DNA結合と活性化機能の両方に影響すると示唆される。最近、Kruppel様因子KLF11(MODY7)の変異が、早期発症型2型糖尿病との関連を明らかにした(Neve et al., 2005)。KLF11は、他のMODY遺伝子の大部分と同様にp300によって活性化される(Fernandez-Zapico et al., 2009)。
【0157】
したがって、p300の活性化は、Isxの重大な作用機序の1つである可能性がある。Isxによって制御されるシグナル伝達事象は、栄養素によって誘導されるものとは時間的に異なるERK1/2の二相性の活性化を含む。いくつかのグルコース感受性インスリン遺伝子転写因子は、ERK1/2によって制御される。MafAは、生理学的なERK1/2の基質ではないとみられるが、MafAのクロマチン結合は、BETA2およびPDX-1と同様に、ERK1/2依存性である(Lawrence et a., 2005; Lawrence et al., 2008)。ERK1/2はまたp300をリン酸化し、その活性およびクロマチン会合をコントロールする(これはおそらく、U0126またはキナーゼデッドERK2変異体の共発現によって引き起こされる、Isxが増加させるp300活性の部分的抑制を説明する(Chen et al., 2007; Foulds et al., 2004)。インスリン遺伝子プロモーターからのp300の喪失は、これらの3つの必須因子の喪失を伴うことから、ERK1/2によって制御される事象が、それらの3つの因子が近位のプロモーターに接近するのをコントロールすると考えられるアセチル化であると示唆される。
【0158】
幹細胞、膵管、および他の分化細胞型からベータ細胞を作製するいくつかのストラテジーが記載されている(Borowiak and Melton, 2009)。これらの大部分は、転写因子の群、またはベータ細胞の分化を誘導するホルモン因子の段階的な群の異種発現を含んだ(Kobinger et al., 2005; Zhang et al., 2009; D'Amour et al., 2006; Zhou et al., 2008; Kroon et al., 2008)。胚性幹細胞から膵臓の前駆体を誘導する小分子が同定された(Chen et al., 2009)。β細胞の増殖を高めた化合物も報告されている(Wang et al., 2009)。植物アルカロイドであるコノフィリンは、処置の3〜6週間後に、ラット膵腺房細胞および胎仔膵臓組織からのベータ細胞の分化を誘導し得る(Kawakami et al., 2010)。コノフィリンは、その作用の明らかに遅い時間経過に加えて、Isxに対してここで述べられた程度よりも大きくPDX-1 mRNAの発現を増加させることから、異なる作用機序が示唆される。
【0159】
結論として、Isxは、ベータ細胞の機能を劇的に改善し得る、これまで同定された比較的少ない単一分子である。Isx誘導体は、β細胞の機能を研究するための新しいツールであり、移植前の活動休止状態のヒト膵島において、およびおそらく糖尿病患者において直接、インスリン生合成をレスキューすることができる薬物に関するリード化合物である。現在利用可能な化合物は、その効果を発揮するためにマイクロモル濃度が必要であるため、それらが患者において有用である可能性は低い。それにもかかわらず、これらは、β細胞の機能を改善する非侵襲性アプローチを開発するために価値ある助けである。
【0160】
ここで論じられたいくつかのイソオキサゾール小分子は、膵ベータ細胞のホメオスタシスおよび機能に関連性がある因子の発現を誘導する。ゆえに、これらのおよび他のイソオキサゾール誘導体は、糖尿病の予防または処置のための作用物質として有用であり得る。イソオキサゾール化合物の使用は、受容体アゴニストおよびスルホニル尿素などのインスリン分泌促進物質に関連する負の結果であり得る低血糖症の誘導の低リスクと関連するはずである。それらは、高脂肪酸食事の阻害的結果に対して有益な効果も有し得るという可能性がある。
【0161】
本明細書において開示されたおよび主張された方法および装置のすべてが、本開示に照らして、過度の実験を行うことなく、作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい態様に関して説明されてきたが、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、それらの方法および装置、ならびに本明細書において記載される方法の工程または工程の順序にバリエーションが適用され得ることが当業者には明らかであろう。より詳細には、化学的かつ生理的に関係するある特定の作用物質が、本明細書において記載される作用物質の代わりに用いられ得るが、同じまたは類似の結果が達成され得ることが明らかである。当業者に明らかなそのような類似の代替および改変のすべてが、添付の請求項によって定義される本発明の精神、範囲および概念の中に含まれるとみなされる。
【0162】
参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において示されるものを補足する例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する程度まで、明確に参照により本明細書に組み入れられる。