【文献】
J. Invest. Dermatol., 2014, Vol.134, No.1, pp.58-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
皮膚の老化は、皮膚の最も内部の層を構成する真皮の細胞外マトリックスの構成成分の合成および分解の制御機序の多少とも重大な不均衡に起因する。こうして、皮膚の老化の際には、真皮の細胞外マトリックス内部に、一方では、一部の高分子、特にコラーゲンおよびエラスチンの合成の低下、そして他方では、マトリックスメタロプロテイナーゼすなわちMMPなどの一部の酵素の発現の増大が見られる。このマトリックスメタロプロテイナーゼは、特に、コラーゲン分解およびエラスチン分解活性を有し、このため真皮のマトリックスの高分子の分解に寄与する。したがって、真皮はその筋緊張を失い、皮膚はたるみ、それにより皺が出現するに至る。この現象は、同様に、紫外線、汚染、ストレスさらにはタバコに対する曝露などの外部要因によっても増幅され得る。
【0004】
従来、当該技術分野の現状から、皺の出現を遅らせるための戦略が公知である。このような戦略は、特に以下のことで構成されている。
− 皮膚の厚みを低減させる目的での皮膚の攻撃的な処置に相当する、落屑または皮膚擦傷、
− それぞれ、皺を埋める効果、および一時的に皺を緩和させる、標的の筋肉の麻痺を示す、ヒアルロン酸またはボツリヌストキシンの皺取り注入。しかしながら、これらの技術は高価で、短期的な効果しか示さない、
− 保湿製品、皺防止クリームまたはスムージングクリームなどの表皮トリートメントの使用。これらの製品は皺の出現を遅らせるもののすでに形成された皺の修正はしない、
− 自家幹細胞に基づく療法。これはまだほとんど究められていない。
【0005】
数年前から、研究所では、皮膚老化の影響と闘う目的で、他の戦略が実施されてきた。
【0006】
詳細には、N−アシルアミノアミド誘導体などの化合物の使用が、欧州特許出願第1275372号明細書中で提案されている。より詳細には、この文書は、上述のN−アシルアミノアミド誘導体以外に、コラーゲンの分解に関与するものであるメタロプロテイナーゼ阻害性タンパク質も組込まれている組成物について記述している。
【0007】
しかしながら、このような解決法は、特に一方では複数の化合物の組合せを必要とし、また他方ではコラーゲン合成に積極的に作用させることができないことを理由として、最適なものではない。
【0008】
特に皮膚老化の症候を予防するため、一部のペプチド誘導体の使用もまた開発されている。
【0009】
その結果として、例えば仏国特許第285489号明細書において、エラスチンタンパク質に由来するペプチド誘導体を含む化粧品組成物が公知である。より詳細には、ペプチド誘導体は、R1−(AA)n−Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly−OR2という配列を呈する可能性があり、ここで、
− R1は、H、または2〜22個の炭素を含むアルコキシル鎖に相当し、
− (AA)nは、AAが任意のアミノ酸またはアミノ酸誘導体から成り、および/またはnが0〜3である、ペプチド鎖に相当し、
− R2は、H、または1〜24個の炭素を含むアルキル鎖に相当している。
【0010】
このようなペプチド誘導体を組込んだ化粧品組成物は、特に、引締め効果および再構築効果を可能にする。
【0011】
しかしながら、このようなペプチド誘導体またはこの誘導体を組込んだ組成物では、生体の組織、特に真皮の細胞外マトリックスの主要なタンパク質を構成するコラーゲンの分解に関与するプロテイナーゼMMPの活性および/または発現を阻害することができない。コラーゲンでは、特に組織にその耐張力性を付与する。したがって、上述の文書中に記述されたペプチドでは、真皮の筋緊張を保つために不可欠であるこのタンパク質の分解の回避を可能にするものではない。
【0012】
同様に、国際公開第2006053688号から、複数のペプチドを組込み、皺取り治療において使用される組合せも公知である。詳細には、この組合せのペプチドは、コラーゲンおよび/またはフィブロネクチンの合成プロセスに複数のレベルで、特にこの合成を刺激して関与する。
【0013】
独国特許第102004055541号明細書に関しては、コラーゲン合成を誘発し得る成長因子TGF−βの遊離を刺激するという観点から、ペプチドの組合せを含む組成物について記述している。
【0014】
しかしながら、これらの特許文書中に記載のペプチドでは、前述のものと同じ欠点、特にここで提案されている配列が細胞外マトリックスのタンパク質、特にコラーゲンの分解を担う酵素の発現を低減させることができないという欠点を呈している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、コラーゲン合成を刺激する特性とコラーゲンの分解カスケードに入るプロテイナーゼを阻害する特性との両方を呈する、二官能性ペプチドを提案することにより、技術的現状のさまざまな欠点を軽減する可能性を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このため、本発明は、コラーゲン合成を活性化しマトリックスメタロプロテイナーゼの産生を阻害することのできる二官能性ペプチドにおいて、
− 少なくとも三回反復されたヘキサペプチドに相当し、コラーゲン合成を刺激するためエラスチンを結合させる受容体タンパク質に結合できる、第一のペプチド部分A、
− ウロキナーゼプロテアーゼの競合阻害物質として作用し、かつ前記プロテアーゼにより開裂され得るテトラペプチドに相当する、第二のペプチド部分B、
− 前記プロテイナーゼの阻害を可能にするためマトリックスメタロプロテイナーゼの少なくとも一つの活性部位を占有するトリペプチドに相当する、第三のペプチド部分C;
という三つのペプチド部分A、BおよびCを含む配列を呈する、二官能性ペプチドに関する。
【0017】
有利には、コラーゲン合成を刺激する第一のペプチド部分Aは、配列X1−Gly−X2−X3−Pro−Glyを呈し、この配列は少なくとも三回反復され、ここで、
− X1は、任意のアミノ酸に相当し、
− X2は、Val、Thr、Gln、Ala、Leuの中から選択されるアミノ酸に相当し、
− X3は、Ala、Leu、Ileの中から選択されるアミノ酸に相当している。
【0018】
さらにより有利には、前記ペプチドの第一のペプチド部分Aは、配列Val−Gly−Val−Ala−Pro−Glyを呈する。
【0019】
好ましくは、プロテアーゼにより開裂可能な第二のペプチド部分Bは、配列Arg−Y1−Arg−Y2を呈し、ここでY1とY2は、Ser、Tyr、Gly、Ala、Arg、Val、Leuの中から選択されるアミノ酸に各々相当している。
【0020】
さらにより好ましくは、前記ペプチドの第二のペプチド部分Bは、配列Arg−Val−Arg−Leuを呈する。
【0021】
有利な一実施形態によると、マトリックスメタロプロテイナーゼの阻害を可能にする第三の部分Cは、配列Z1−Ile−Z2を呈し、ここで、
− Z1は、Gly、Ile、Leuの中から選択されるアミノ酸に相当し、
− Z2は、Leu、Phe、Ala、Ile、Valの中から選択されるアミノ酸に相当している。
【0022】
さらに一層有利には、前記ペプチドの第三のペプチド部分Cは、配列Gly−Ile−Leuを呈する。
【0023】
好ましい一実施形態によると、本発明に係るペプチドは、
S1:N−(Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly)n−Arg−Val−Arg−Leu−Gly−Ile−Leu−OH
という配列番号1に相当する配列S1を呈し、
ここで、NおよびOHは、それぞれ前記ペプチドの末端のN末端およびC末端に相当し、n=3である。
【0024】
しかしながら、本発明に係る二官能性ペプチドの配列は、また、配列番号2〜配列番号26の配列の一つに相当してよい。
【0025】
好ましくは、本発明に係る二官能性ペプチドは、化学合成により得られる。さらに、そのペプチドは、有利には、凍結乾燥された形で保存され得る。
【0026】
有利には、本発明に係る二官能性ペプチドは、慢性瘢痕形成疾患の治療、特に焼痂または潰瘍の治療のために使用することができる。
【0027】
本発明に係る二官能性ペプチドは、また、真皮組織の修復および/または再生のために、特に皮膚老化の治療のためにも使用可能である。
【0028】
本発明は、また、本発明に係る二官能性ペプチドを組込んだ化粧品組成物および/または医薬組成物にも関する。
【0029】
好ましくは、化粧品組成物中の二官能性ペプチドの濃度は、10μg/mL〜1mg/mLであり、好ましくは、ほぼ100μg/mLに等しい。
【0030】
本発明に係る二官能性ペプチドには数多くの利点がある。一方では、この二官能性ペプチドは、特にI型およびIII型コラーゲンのコラーゲンタンパク質合成の刺激を可能にする。このIII型コラーゲンの産生の増加は、極めて有利である。実際、この型のコラーゲンは、胎児期および幼年時代の間に主として合成されることから、「胎児」型コラーゲンと呼ばれる。この型のコラーゲンは、「完全」瘢痕形成と呼ばれる組織の極めて最適な瘢痕形成を可能にする。他方では、前記ペプチドは、プロテアーゼによるコラーゲン分解の低減を可能にする。その上、二官能性ペプチドのペプチド部分AおよびCそれぞれにより、コラーゲンの合成の刺激とメタロプロテイナーゼの阻害は同時に得られ、二官能性ペプチドはさらに、他のその二つの部分を連結してウロキナーゼにより開裂され得るペプチド部分Bを含む。このため、本発明に係るペプチドは、およそ25個のアミノ酸の短い配列を呈することができ、このことで化学的方法によるその合成が容易になっている。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、添付図面を参照して、本発明の非限定的な実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
予備的に、一情報として、本明細書では三文字の国際コードを用いてアミノ酸を呼称している。したがって、Alaはアラニン(A)に、Cysはシスティン(C)に、Aspはアスパラギン酸(D)に、Gluはグルタミン酸(E)に、Pheはフェニルアラニン(F)に、Glyはグリシン(G)に、Hisはヒスチジン(H)に、Ileはイソロイシン(I)に、Lysはリシン(K)に、Leuはロイシン(L)に、Metはメチオニン(M)に、Asnはアスパラギン(N)に、Proはプロリン(P)に、Glnはグルタミン(Q)に、Argはアルギニン(R)に、Serはセリン(S)に、Thrはトレオニン(T)に、Valはバリン(V)に、Trpはトリプトファン(W)に、そしてTyrはチロシン(Y)に相当する。
【0034】
皮膚老化およびその結果生じる皺の出現は、細胞および分子レベルで、コラーゲンまたはエラスチンなどの細胞外マトリックスの組成に入る高分子の合成を担う遺伝子の発現の減少によって特徴づけられる。その上、マトリックスのこれらのタンパク質の産生の低下には、概して前記マトリックスタンパク質の分解を担う酵素の過剰発現が随伴する。したがって、これらの酵素、すなわちマトリックスメタロプロテイナーゼつまりMMPが、真皮レベルの筋緊張の低下、皮膚のたるみそして最終的には皺の出現の原因の一部である。
【0035】
コラーゲンタンパク質は、有機体の組織の細胞外マトリックスの構成において優勢なタンパク質である。詳細には、コラーゲンは、真皮レベルで90%程度存在し、この真皮は皮膚の堅牢な支持体を構成し、また、栄養摂取、体温調節および病原性微生物に対する防御の役目を同時に果たしている。真皮は、主として、特にコラーゲンの合成ならびに細胞外マトリックスの組織化に関与する線維芽細胞と呼ばれる細胞で構成されている。
【0036】
したがって、細胞外マトリックスの構造は、コラーゲンだけでなく、エラスチン、構造糖タンパク質およびプロテオグリカンからも構成されている。より特定的には、真皮マトリックスは、I型およびIII型コラーゲンのフィブリルおよびV型コラーゲンのコアを含む。
【0037】
これらは、26以上の成員を含むファミリーをもつMMPと呼ばれるタンパク質によって分解される可能性がある。より詳細には、これらのタンパク質は、エンドペプチダーゼ、すなわちタンパク質の内部でペプチド結合を破断するものに相当する。
【0038】
科学者(Voorhesら、Hornebeckら、2009)により行われた研究作業により、真皮細胞つまり線維芽細胞のエイジングが、特にMMP−1に関して、これらのエンドペプチダーゼの発現の増加により特徴づけられることを明らかにすることができた。このMMP−1は、間質コラゲナーゼのグループに入っており、I型およびIII型コラーゲンタンパク質の開裂を担う。MMP−1は、皮膚老化が経時老化であるか光誘発性老化であるかに関わらず、皮膚老化の推移に関与する主要なコラゲナーゼとみなされている。
【0039】
したがって、分解酵素、特にMMP−1の増加と結びつけられる、真皮マトリックスタンパク質、特にコラーゲンの減少は、皮膚の筋緊張の低下および目に見える皺の出現という形をとる皮膚老化に介入する重要な要素である。
【0040】
したがって、本発明のアプローチの枠内において、本発明者らは、複数の機能を有し、かつコラーゲン分子の合成プロセスのレベルにおいても、またこれらの同じコラーゲン分子の分解カスケードのさまざまなレベルにおいても作用を可能にするペプチドを開発した。
【0041】
したがって、きわめて有利なことに、本発明に係る二官能性ペプチドは、特に真皮の細胞外マトリックスの同化プロセス(合成)と異化プロセス(分解)との間の均衡を回復させることに有利に作用するという特性を示す。
【0042】
極めて好ましいことに、本発明に係るペプチドは、二官能性であり、以下の三つの部分に分けることができる配列を含む。
− 有利にもコラーゲン合成を増大させる能力を示す、部分Aと呼ばれる第一のペプチド部分、
− 好ましくは、一つのプロテアーゼ、すなわちウロキナーゼにより認識される配列を呈し、このときこのプロテアーゼによって開裂され得る、部分Bと呼ばれる第二のペプチド部分、
− MMPを阻害することのできる、部分Cと呼ばれる第三のペプチド部分。
【0043】
したがって、本発明に係るペプチドは、一方では、コラーゲン合成を刺激し、他方ではウロキナーゼおよびプロテアーゼMMP、特にMMP−1を阻害することによって前記コラーゲンの分解を低減できるようにする。
【0044】
より詳細には、コラーゲン合成の増大を可能にするペプチド部分Aは、ヘキサペプチド、すなわち一連の6個のアミノ酸残基で構成される。有利には、このヘキサペプチドは、本発明に係る二官能性ペプチドの内部で少なくとも3回反復される。
【0045】
好ましくは、二官能性ペプチドのペプチド部分Aは、X1−Gly−X2−X3−Pro−Glyという配列を呈し、ここで、X1、X2およびX3は、アミノ酸に相当する。以上で明記した通り、このヘキサペプチド配列X1−Gly−X2−X3−Pro−Glyは、本発明に係るペプチドの内部で少なくとも三回反復される。実際、一部の研究作業により、前記配列の三回の反復が、配列の活性の観点から見て異なる結果、さらにはより有利な結果を導くことが示された(Alix 2001)。
【0046】
有利な一実施形態によると、ペプチド部分Aの残基X1は、アミノ酸のいずれか一つに相当する。残基X2に関しては、有利には、Val、Thr、Gln、AlaおよびLeuの中から選択されるアミノ酸に相当する。最後に、残基X3は、好ましくは、Ala、LeuおよびIleの中から選択されるアミノ酸に相当する。
【0047】
さらにより好ましくは、X1とX2はValに、そしてX3はAlaに相当する。こうして、二官能性ペプチドの部分Aに相当するヘキサペプチドは、好ましくは、配列Val−Gly−Val−Ala−Pro−Glyを呈する。
【0048】
少なくとも三回反復され、かつペプチド部分BおよびCに結びつけられたこのような配列は、添付
図3Aおよび3Bでならびに以下の実施例1中で示され説明されている通り、特にIII型コラーゲンに関して、コラーゲンのタンパク質発現の有意な刺激を可能にする。
【0049】
本発明に係るペプチドは、同様に、
図4で示されている通り、それぞれI型コラーゲンおよびIII型コラーゲンをコードする、遺伝子COL1A1およびCOL3A1の遺伝子発現の増大も可能にする。III型コラーゲンの合成に対する二官能性ペプチドの作用は、極めて有利である。実際、このIII型コラーゲンは、胎児レベルにおいて大半を占めるコラーゲンであるものとして公知であり、その産生は、幼年時代の間、漸進的に減少し続け、成人においては非常に低い産生レベルに達する。一例を挙げると、成人においてIII型コラーゲンの量は、I型コラーゲンに比べて6分の1である(Melissopoulos、1998;Herbage、1997)。III型コラーゲンは、大半は筋線維芽細胞によって瘢痕形成中に合成されて、損傷を受けた組織を置換える。胎児レベルで、III型コラーゲンは、いわゆる「完全」瘢痕形成を可能にする(Lorenaら、2002;FergusonおよびO’Kane、2004)。
【0050】
本発明に係る二官能性ペプチドの配列Val−Gly−Val−Ala−Pro−Glyは、弾性繊維の分解に由来するエラスチンまたはエラストカインのペプチドから構想されたものである。このような配列は、前記配列X1−Gly−X2−X3−Pro−Glyの内部でのプロリンおよびグリシン残基の存在のため、VIII型のL字形立体配座βを取る(Floquetら、2004)。この構造モチーフは、従来その英語名Elastin Binding Protein(エラスチン結合タンパク質)、略してEBPの呼称で引用されているエラスチン受容体タンパク質によって認識される。このエラスチン結合タンパク質は、他の二つのサブユニット、すなわち細胞膜に結合している、防御タンパク質またはカテプシンA(PPCA)およびノイラミニダーゼ(Neu−1)と結びつけられて、細胞表面に固定化されている。
図1に表されている、二官能性ペプチドのペプチド部分Aによる受容体タンパク質EBPの占有は、分子集合体の活性化をひき起こし、その結果、特にI型およびIII型コラーゲンの合成がもたらされる。
【0051】
分子集合体のこのような活性化は、同様に、線維芽細胞の走化性、増殖、接着および生存だけでなく、血管形成にも作用する可能性があり、この血管形成は、焼痂または潰瘍などの慢性創傷の血管再生プロセスにおいて不可欠である。
【0052】
ペプチド部分Bに関しては、この部分は好ましくは、テトラペプチド、すなわち4個のアミノ酸を含む配列で構成されている。
【0053】
より詳細には、このテトラペプチドは、基質または競合阻害物質としてセリンプロテアーゼであるウロキナーゼと相互作用することのできるアームを表す。したがってこれにより、細胞の近傍で、他の二つのペプチド部分AおよびCを遊離させることが可能になる。
【0054】
ウロキナーゼは、好ましくは、二つのアミノ酸Argを呈する配列を開裂する。このため、ペプチド部分Bは、有利には、配列Arg−Y1−Arg−Y2を呈し、ここでY1とY2はアミノ酸に相当する。
【0055】
特定の一実施例によると、Y1とY2はSer、Tyr、Gly、Ala、Arg、ValおよびLeuの中から選択されるアミノ酸に各々相当する。開裂可能な部位Argに結びつけられたこれらのアミノ酸は、好ましくはウロキナーゼプロテアーゼによって開裂される。
【0056】
さらにより好ましくは、本発明に係る二官能性ペプチドのペプチド部分Bは、配列Arg−Val−Arg−Leuを含む。
【0057】
ウロキナーゼプロテアーゼは、プラスミノーゲン−プラスミン系の活性化因子の一つである。プラスミノーゲンは、ウロキナーゼの生理学的基質であり、これがプラスミンの形でその活性化を可能にする。この活性化は、特にMMP−1とMMP−3の活性化を結果としてもたらす、タンパク質分解カスケードを開始させる。ウロキナーゼプロテアーゼによって開始される、プラスミノーゲン/プラスミン系の酵素カスケードは、添付の
図2に表されている。
【0058】
このように、プラスミノーゲンに対するウロキナーゼ活性は、コラーゲン、特にI型およびIII型コラーゲンの分解を間接的に担っている。このため、本発明に係る二官能性ペプチド中のペプチド部分Bの存在は、ウロキナーゼの基質または競合阻害物質として作用する。その結果、ウロキナーゼは、ペプチド部分B上に存在する部位Argを開裂し、プラスミノーゲンからプラスミンへの阻害をひき起こすためのその利用可能性は低くなる。したがってコラーゲン分子の分解は削減される。ウロキナーゼの活性に対する本発明に係るペプチドの効果は、特に
図6Aおよび6Bに示されている。
【0059】
ここで二官能性ペプチドのペプチド部分Cに関して言うと、この部分は有利には、トリペプチドすなわち3個のアミノ酸を含む配列で構成されている。
【0060】
好ましくは、ペプチド部分Cは、配列Z1−Ile−Z2を呈し、ここでZ1とZ2は各々一つのアミノ酸残基に相当する。
【0061】
有利な一実施例によると、Z1は、Gly、IleおよびLeuの中から選択されるアミノ酸であり、一方でZ2は、Leu、Phe、Ala、Ile、Valの中から選択されるアミノ酸である。
【0062】
さらにより好ましくは、Z1はGlyに相当し、Z2はLeuに相当する。したがって、二官能性ペプチドのペプチド部分Cは、有利には、配列Gly−Ile−Leuを呈する。トリペプチドGly−Ile−Leuは、実際には、MMP−1の活性部位の一部分を占有し、その酵素の競合阻害物質として作用し得る。
【0063】
実際には、これらのアミノ酸は、I型MMPのポケットのうちの三つ、すなわちポケットP’1、P’2およびP’3を占有する可能性があることから、特に有利である。その結果、I型コラゲナーゼの活性部位は、前記コラゲナーゼの活性にとって不可欠であるイオンZn
2+をもはやキレート化することができない。したがって、MMP−1によるコラーゲン分子の分解は、本発明に係る二官能性ペプチドによって低減される。このことは特に、添付の
図7Aおよび7Bに示されている。
【0064】
したがって、コラーゲン合成、およびMMP、特にMMP−1の阻害の観点から見て有利な結果を得ることを可能にする好ましい一実施形態によると、本発明に係る二官能性ペプチドは、下記の配列S1と記され配列番号1に相当する、
S1:N−(Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly)n−Arg−Val−Arg−Leu−Gly−Ile−Leu−OH
という配列を呈する。
【0065】
好ましくは、配列Val−Gly−Val−Ala−Pro−Glyは、三回反復される。換言すると、nは有利には3に等しい。しかしながら、配列はまた、3回超反復されてもよい。
【0066】
本発明に係るペプチドは、また、例えば配列番号2〜配列番号26と識別される配列を呈することもできる。しかしながら、この配列表は網羅的なものではなく、したがって本発明を限定するものではない。
【0067】
特に、配列番号1〜26の配列のアミノ酸は、例えば、化学的に等価である、すなわち等価の物理化学特性を呈するアミノ酸によって置換されてよい。等価のアミノ酸間の置換は、例えば、脂肪族無極アミノ酸Ala、Val、Ile、Leuの間、あるいは、ヒドロキシル基を有する極性アミノ酸SerおよびThrの間、アミノ酸AsnとGlnの間、二つの酸性官能基を有するアミノ酸AspおよびGluの間などで行われる。これらの情報は、プロテアーゼデータベース、Merops(http://merops.sanger.ac.uk/)中に列挙されている。
【0068】
本発明に係る二官能性ペプチドは、好ましくは化学合成によって得られる。
【0069】
有利には、樹脂Fmoc−Leu−Wang PS上でペプチド鎖の延長を得るために利用されるのは、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)/ターシャルブチル(tBu)の技術である。
【0070】
しかしながら、このような実施形態は本発明を限定するものではなく、二官能性ペプチドの化学的合成は、その効果に適した、当業者にとって公知の他のあらゆる技術によって得ることができる。
【0071】
有利には、本発明に係るペプチドは、それを最適な形で保存するように凍結乾燥される。
【0072】
本発明に係る二官能性ペプチドは、真皮組織の修復および/または再生に有利に作用させることを目的とした化粧品組成物の製造に用いるために特に有利である。実際、コラーゲン産生に対するその作用によって、前記ペプチドは、特に、皺の出現を制限することができる。
【0073】
その上、発明者らは、コラーゲン産生に対する本発明による二官能性ペプチドの効果が、患者の年令により左右されると思われることを示した。実際、
図5に関連して以下の実施例3で示されている結果は、I型コラーゲンの発現と、特にIII型コラーゲンの発現がより高齢の患者においてより大きいことを示している。したがって、このような結果は、皮膚老化と閾うことを目的とした化粧品組成物の枠内で使用するにあたっての前記ペプチドの利点を堅固なものにしている。
【0074】
しかしながら、このような実施形態は、本発明を限定するものではない。例えば、本発明に係る二官能性ペプチドは、同様に、医薬組成物の調製にも役立つ可能性がある。
【0075】
実際、コラーゲンなどのマトリックスタンパク質の合成とこれらの同じタンパク質の分解との間の均衡の破綻が、焼痂、潰瘍さらには重度の火傷などの慢性瘢痕形成疾患とも呼ばれる慢性創傷の出現をひき起こす可能性があることがわかっている。これらの疾患は、詳細には、マトリックスタンパク質MMPの過剰発現により特徴づけられ、概して糖尿病または血管障害などの病変を併発している。
【0076】
これらの慢性瘢痕形成疾患は、特に人口の高齢化のため、先進国においてつねに増加の一途をたどっている。このため、これらの疾患の治療および費用負担は、無視できないようなコストとなっている。
【0077】
細胞レベルでは、大量のプロテアーゼ、特にMMP−1型のメタロプロテイナーゼが、焼痂タイプのこれらの慢性創傷の近傍で遊離されることが実証された。同様に、研究によって、I型またはMMP−1型のコラゲナーゼの活性が慢性創傷の滲出物中で著しく増大することを証明することもできた。このような増大が、前記創傷の近傍に存在するI型およびIII型のコラーゲン分子の分解の原因である(Baroneら、1998;Shiら、2006)。
【0078】
ここで潰瘍に関してより詳細に言うと、大量のプロテアーゼがこれらの創傷の近傍において見出されることも実証された。詳細には、研究により、正常値よりも65倍多いMMP−1の割合を識別することができており、これらのMMPはこのとき、細胞外マトリックスのタンパク質および同様に成長因子の過剰でかつ長時間の分解を誘発し、瘢痕形成の遅延をひき起こす(Fischerら、2009)。
【0079】
最後に、
図2を見れば理解できるように、プラスミノーゲン/プラスミン系の活性化因子であり、一部のMMPの活性化を間接的に担うウロキナーゼの濃度が、特に脚の潰瘍中ならびに焼痂のレベルで、大幅に増大することが実証された(Werckrothら、2004)。
【0080】
このようにして、プロテアーゼMMPの活性の低下とマトリックスタンパク質合成の増加との両方を可能にする本発明に係るペプチドは、これらの慢性創傷の治療を促進するのに貢献するものであり、負担が大きくコストが高いうえに効果の低い現在の医療的処置に置き換わることができる、ということが明らかである。
【0081】
特定の一実施形態によると、本発明に係る二官能性ペプチドは、慢性創傷を受けた身体のゾーンに貼り付けることを目的としたパッチの中に組込まれる。
【0082】
しかしながら、このような実施形態は、いかなる場合であれ本発明を限定するものではなく、クリーム、軟こう、ジェルなどの、治療すべき創傷上に塗布できる調製物に対して本発明に係る二官能性ペプチドを組込むことは、容易に企図できる。
【0083】
一実施例によると、二官能性ペプチドは、好ましくは、ほぼ10μg/ml〜1mg/mlの濃度で使用される。実際、本発明に係るペプチドの毒性は、1mg/mlまでのペプチド濃度で処理された真皮線維芽細胞上では一切確認されなかった。その上、統計的アプローチSAM(Signifiance Analysis of Microarrays)により毒性遺伝子を調べるために行なわれた研究によって、細胞の死滅、結合組織の崩壊および腫瘍浸潤が、1mg/ml超の高い二官能性ペプチド濃度からでしか誘発されないことが示された。
【0084】
さらに一層好ましくは、特に医薬組成物および/または化粧品組成物中での、ペプチドの使用のために推奨される濃度は、ほぼ100μg/mlに等しい。
【0085】
本発明の他の利点および特徴は、同様に、一例として非限定的に示された以下の実施例を読むことによっても明らかになる。
【実施例】
【0086】
実施例1:コラーゲン合成に対する二官能性ペプチドの効果−タンパク質分析
35〜75才の健康な患者に対して行なわれた外科手術中に得た腹部の皮膚の生検試料から、真皮線維芽細胞を単離する。
【0087】
表皮を除去した後、酵素消化により線維芽細胞を回収し、その後10%のウシ胎児血清と1%のペニシリン/ストレプトマイシンを補足したDMEM培地(Dubelcco’s Modified Eagle Medium)中で37℃でインキュベートする。
【0088】
その後、100μg/mlの濃度で、配列S1を呈するペプチドでか、またはこの配列の複数の異なるフラグメントで、線維芽細胞を処理する。試験した複数の異なるフラグメントは以下の通りである。
− ペプチド1(pept1):配列S1を呈するペプチド、
− ペプチド2(pept2):配列N−(Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly)
3−Arg−Val−Arg−Leu−OH
− ペプチド3(pept3):N−(Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly)
3−OH
− ペプチド4(pept4):N−Arg−Val−Arg−Leu−Gly−Ile−Leu−OH
− ペプチド5(pept5):N−Gly−Ile−Leu−OH
【0089】
次に、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのタンパク質発現をウェスタンブロット法によって示し、ImageJにより定量した。結果はそれぞれ添付
図3Aおよび3Bに示されている。対照(Ctr1)は、ペプチドにより処理されていない細胞レベルでのI型およびIII型コラーゲンの発現に相当する。実験は、トリプリケートで実施された。
【0090】
図3Aに見られる結果は、本発明に係るペプチド(pept1)ならびに本発明に係るペプチドの部分Aに相当する配列Val−Gly−Val−Ala−Pro−Glyを組込んだフラグメント(pept2とpept3)が、I型コラーゲンのタンパク質発現を30%刺激することを示している。本発明に係るペプチドの部分Aを含まないペプチドフラグメント(pept4およびpept5)は、I型コラーゲン合成の刺激を可能にしない。反対に、線維芽細胞がpept4およびpept5と接触状態にある場合に合成されるコラーゲンの割合は、より低いように思われる。したがって配列Val−Gly−Val−Ala−Pro−Glyは、I型コラーゲンの合成の刺激を大きく担っている。
【0091】
図3Bは、配列S1を呈する本発明に係るペプチドが、III型コラーゲンの合成の増加を可能にすることを示している。実際、ヒストグラムを見ればわかるように、III型コラーゲンの産生は、配列S1を呈するペプチドで線維芽細胞を処理した場合に二倍超に増える。
【0092】
同様に、配列S1を呈するペプチド(pept1)での線維芽細胞の処理が、配列(Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly)
3のみを呈するペプチド(pept3)により処理された線維芽細胞に比べて、III型コラーゲン合成の36%の増加を可能にするという点を指摘しておくことも有利である。したがって、本発明に係るペプチドの他の部分も同様に、III型コラーゲンの合成の増加において一定の役割を果たす。
【0093】
したがって、本発明に係るペプチドは、極めて有利である。実際、I型コラーゲンの合成の増加を可能にすることに加えて、このペプチドは同様に、III型コラーゲンの産生にも有利に作用する。
【0094】
実施例2:コラーゲン合成に対する二官能性ペプチドの効果−遺伝子発現の分析
100μg/mlの濃度の複数の異なるペプチド(pept1〜pept5)の存在下で、線維芽細胞の培養におけるI型およびIII型コラーゲンの遺伝子発現も同様に試験した。
【0095】
複数の異なるペプチドにより24時間処理した後、RNeasy(登録商標)キット(QIAGEN)を用いて培養からRNAを抽出し、次にSABiosciences(商標)のRT
2 First Strand Kitというキットを用いて相補的DNA(cDNA)の逆転写をした。
【0096】
その後、96ウェルプレートでStratageneのサーマルサイクラーMx3000pを用いて、実時間PCR分析を行う。各試料をトリプリケートで分析する。cDNAは、試薬RT
2 SYBR(登録商標) Green/ROX(商標) qPCR Master Mix(SABiosciences(商標))および増幅すべき遺伝子に特異的なセンスおよびアンチセンスプライマを含む反応混合物中で、マトリックスとして役立つ。各サイクルの最後で蛍光の読取りを実施し、ソフトウェアMxPro(Stratagene)により解析する。この場合グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードする遺伝子のRNAである「ハウスキーピング」遺伝子から増幅されたDNA数量で研究対象の遺伝子の増幅産物の数量を標準化することによって、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンをそれぞれコードする関心対象の遺伝子COL1A1およびCOL3A1の相対的発現を得る。100%の効率を有する増幅に相当するサイクル数から起算して、研究対象のcDNAの相対的数量を、2
−△△CTの方法を用いて計算する(Livak&Schmittgen、2001)。
【0097】
図4に見られる結果は、タンパク質発現の研究の際に得られた結果を確認するものである。本発明に係る二官能性ペプチドならびに配列(Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly)
3を含むペプチドフラグメントpept2およびpept3は、I型およびIII型コラーゲンの遺伝子発現を刺激する。同様に、配列(Val−Gly−Val−Ala−Pro−Gly)
3のみを含むペプチド3の存在下に置かれた細胞に比べて、配列S1を呈するペプチド(pept1)で線維芽細胞を処理した場合のIII型コラーゲンの合成の増大も確認される。
【0098】
配列Gly−Ile−Leuを含む、誘導ペプチドpept4およびpept5は、I型およびIII型コラーゲンをコードする遺伝子の発現に対して、いかなる効果も及ぼさない。
【0099】
対照(Ctr1)は、線維芽細胞が処理されていない場合に、二つのタイプのコラーゲンをコードする遺伝子の発現に相当する。
【0100】
実施例3:コラーゲン合成に対する二官能性ペプチドの効果−患者の年令に応じたタンパク質発現および遺伝子発現の試験
多少、年を取った患者(35、42および53才)に由来する真皮線維芽細胞を培養し、配列S1を呈する本発明に係る二官能性ペプチドを、I型およびIII型コラーゲンのタンパク質発現および遺伝子発現について試験した。二つのタイプのコラーゲンのタンパク質発現に関して得た結果は、
図5に見られる。コラーゲン合成に対する本発明に係るペプチドの作用は、線維芽細胞がより高齢の患者に由来するものである場合により大きいことが分かる。
【0101】
実施例4:二官能性ペプチドによるウロキナーゼの競合阻害
プロテイナーゼMMP−1の活性化カスケードの上流側の酵素であるウロキナーゼに対する本発明に係る二官能性ペプチドの作用を評価した。
【0102】
合成基質、D−Glu−Gly−Arg+NHPhNO2(S2444)に対するウロキナーゼの活性を、異なる濃度の本発明に係るペプチドの存在下および不在下で試験した。
【0103】
結果は添付
図6Aおよび6Bに示されている。
【0104】
1時間、配列S1を呈する、10
−3、10
−4および10
−5Mの濃度の二官能性ペプチドの存在下でウロキナーゼ(9.25×10
−6mM)による基質S2444(0.3mM)の加水分解反応速度を実施した。非処理物は、ペプチドの不在下での反応速度に相当する。35分間にわたり5分毎に405nmで吸光度(DO)を測定することにより、酵素活性を評価する。結果は、
図6Aに見られる。
【0105】
図6Bは、15分の時点における、使用された二官能性ペプチドの濃度とウロキナーゼの活性との効果/用量の関係のグラフ表示である。図中の点線によって、IC
50すなわちウロキナーゼの活性を50%低減させるのに必要なペプチド濃度を判定することができる。IC
50は、0.83×10
−5Mのペプチド、つまり19μg/mlのペプチドの質量濃度に相当する。
【0106】
したがって、本発明に係る二官能性ペプチドは、ウロキナーゼの競合阻害物質として挙動することが分かる。
【0107】
実施例5:プロテアーゼMMP−1の活性に対する二官能性ペプチドの効果
次に、ウロキナーゼにより活性化されるカスケードの下流側の酵素であるMMP−1の活性に対する、本発明に係る二官能性ペプチドの効果を直接評価した。
【0108】
ペプチドの存在下での自らの活性を試験するために使用されたMMP−1の基質は、合成基質、DNP−Pro−Cha−Gly−Cys(Me)−His−Ala−Lys(N−Me−Abz)−NH
2である。
【0109】
濃度80ng/μlのMMP−1を、1時間、10
−3、10
−4および10
−5Mの濃度の二官能性ペプチドの存在下または不在下で、0.4ng/μlの合成基質の存在下に置いた。結果は、
図7Aおよび7Bに示されている。
【0110】
より詳細には、
図7Aは、異なる濃度のペプチドの存在下または不在下(非処理物)でのMMP−1の合成基質の加水分解化学速度を表わしている。35分間にわたり5分毎に465nmで吸光度(DO)を測定することによって、MMP−1の酵素活性を評価する。
【0111】
図7Bは、15分の時点における、使用された二官能性ペプチドの濃度とMMP−1の活性の用量−効果関係のグラフ表示である。図中の点線によって、IC
50を判定することができ、IC
50は、ここでは0.4×10
−4M、つまり91μg/mlの二官能性ペプチドの濃度に相当する。
【0112】
自らの天然基質すなわちヒトの真皮コラーゲン繊維の存在下でのMMP−1の活性に対する本発明に係るペプチドの効果も同様に試験した。
【0113】
このために、MMP−1を予め37℃で1時間半にわたり20mMのAPMA(酢酸4−アミノフェニル水銀)により活性化した。このように活性化されたMMP−1を、次に、本発明に係るペプチド(100μg/ml)の存在下または不在下で厚み5μの皮膚切片上に被着させる。3時間後、皮膚の切片を免疫標識して、I型およびIII型コラーゲンの存在を明らかにし、共焦点顕微鏡で観察する。図示していないものの、結果は、ペプチドで処理しなかった切片のレベルで、コラーゲンIおよびIIIがMMP−1によって完全に分解されたことを示している。反対に、二官能性ペプチドの存在下では、前記MMP−1の作用は阻害される。実際、コラーゲンIおよびIIIが検出されている。
【0114】
本発明に係る二官能性ペプチドは、MMP−1の活性をインシチューで阻害することにより、コラーゲンの分解を阻害する。
【0115】
実施例6:ウロキナーゼによる二官能性ペプチドの開裂
細胞周囲レベルでは、およそ10
−4Mの過剰のウロキナーゼが観察される。したがって、ウロキナーゼは本発明に係るペプチドの部分Bのアルギニン(Arg)残基レベルで特に作用するので、ペプチドを開裂することができる。
【0116】
Chromolith Jupiter C18(50×4.6mm)カラム上でのHPLCにより、0.1%のTFA水中の0.1%のTFAアセトニトリルの線形勾配の0%から100%までを100分間にわたり適用することによって研究を行なった。結果は、二官能性ペプチドの特徴である11.75分の時点におけるスペクトルピークの存在を示している(
図8A)。しかしながら、二官能性ペプチドに対する過剰のウロキナーゼの作用(0.45mM)後、スペクトルピークは異なっている。実際、新たなピークは20分の時点で溶出されており、こうして、ウロキナーゼによる二官能性ペプチドの開裂を特徴づけている(
図8B)。
【0117】
こうして、皮膚老化という条件下で、大量のウロキナーゼの存在下において、本発明に係る二官能性ペプチドは開裂され、こうして配列Gly−Ile−Leuを組込んだ前記ペプチドのC末端部分を遊離する。
【0118】
実施例7:MMP−1の活性に対する配列Gly−Ile−Leuの効果
発明者らは、I型コラゲナーゼ、MMP−1のポケットP’1、P’2およびP’3を占有する能力を理由として配列Gly−Ile−Leuを選択した。MMP−1の活性を、10
−5、10
−4および10
−3Mの濃度の配列Gly−Ile−Leuを呈するペプチド5の存在下または不在下で、その合成基質DNP−Pro−Cha−Gly−Cys(Me)−His−Ala−Lys(N−Me−Abz)−NH
2上で試験した。
【0119】
結果(図示せず)は、ペプチド5が、その合成基質上でのMMP−1の活性を用量依存的に減少させることを示している。ペプチドGly−Ile−LeuのIC50を測定した。これは、0.71×10
−4M、つまり21.3μg/mlのペプチド濃度である。
【0120】
したがって、ウロキナーゼが過剰である場合に本発明に係る二官能性ペプチドの末端部分C、Gly−Ile−Leuを生成することができ、これはMMP−1の活性を阻害できる。これらのデータは、皮膚老化および/または慢性創傷の瘢痕形成と閾うためのペプチドの利点を確証している。
【0121】
より完全な研究モデル、すなわち、皮膚老化ならびにそれに付随する一部の病変を模倣することのできるエクスビボの皮膚モデルについても、同様に研究を行なった。得られた結果は示されていないが、インビトロで得られた結果を確証するものである。
【0122】
当然のことながら、本発明は、以上で例示し記述した実施例に限定されず、これらの実施例は、本発明の枠内から逸脱することなく、変形形態および修正を呈することが可能である。
【0123】
参照文献