特許第6190847号(P6190847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190847平面ディスプレイ又は曲面ディスプレイ向け低反射電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190847
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】平面ディスプレイ又は曲面ディスプレイ向け低反射電極
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/28 20060101AFI20170821BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20170821BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20170821BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20170821BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20170821BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01L21/28 301R
   H01L21/285 S
   H01L29/78 616U
   H01L29/78 616V
   H01L29/78 617L
   H01L29/78 617M
   H01L29/78 627F
   C23C14/34 A
   C23C14/06 N
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-121211(P2015-121211)
(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-5233(P2017-5233A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年3月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 敏洋
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕史
(72)【発明者】
【氏名】志田 陽子
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−079941(JP,A)
【文献】 特開2004−335127(JP,A)
【文献】 特開2007−264102(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046180(WO,A1)
【文献】 特開2015−007280(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/035196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
C23C 14/06
C23C 14/34
H01L 21/285
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、前記基板側から順に第1層と、第2層とを備えた積層構造を有する電極であって、
前記基板は屈折率が1.4以上の、樹脂基板又はセラミックス基板であり、
前記第1層は窒素及び酸素の少なくとも1種以上が合計で5〜50原子%、ニッケルが金属原子比で50原子%以上70原子%以下で含有されているCu−Ni−O−N薄膜であり、
前記第2層はCu膜又はCu合金膜であり、かつ
前記積層構造において、前記基板側から見たときの波長450nm、波長550nm、および波長650nmにおける反射率がいずれも30%以下であり、
前記第1層及び前記第2層からなる積層配線の電気抵抗率が3μΩ・cm以下であることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記基板と前記第1層の間に透明導電膜を有することを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記基板と前記第1層の間にシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を有することを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記Cu合金膜がTi、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ta、LaおよびNdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項5】
前記透明導電膜が、少なくともIn及びSnを含む酸化物からなる透明導電膜、少なくともIn及びZnを含む酸化物からなる透明導電膜、又は少なくともIn及びGaを含む酸化物からなる透明導電膜であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
過酸化水素水含有のエッチング液を用いたウェットエッチングが可能なことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記積層構造において、300℃以上の熱処理後における、前記基板側から見たときの波長450nm、波長550nm、および波長650nmにおける反射率がいずれも30%以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項8】
前記第1層の膜厚が50〜100nmである請求項1に記載の電極。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電極を有することを特徴とする表示装置。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電極を有することを特徴とする入力装置。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電極を構成する第1層の成膜に用いられるスパッタリングターゲットであって、
Cu及びNi、又は、一部が窒化されたCu及びNiを主材料として含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項12】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電極を製造する方法であって、
窒素ガスを含む反応性スパッタリング法によって、前記電極を構成する第1層を成膜することを特徴とする電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に、前記基板側から順に第1層と、第2層とを備えた積層構造を有する電極に関し、より詳細には、特定の基板及び、Cu膜である第1層とCu膜又はCu合金膜である第2層とを備えた積層構造を有する電極に関する。本発明に係る電極は、主に平面ディスプレイ又は曲面ディスプレイ向けの低反射電極として用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置(ディスプレイ)のゲート電極、ソース・ドレイン電極や、該表示装置の表示画面上に貼り合せて使用されるタッチパネルセンサー等の入力装置における配線に求められる要求特性は、ディスプレイやセンサーの製造時に付与される熱に対する耐変形性・耐熱性、ディスプレイやセンサーとしての電気抵抗率、電気的コンタクト抵抗率などが専らであった。
【0003】
しかし近年、表示装置としては、フルハイビジョン(FHD:1920×1080)規格の高解像度が普及し、さらにUHD(4K)やスパーハイビジョン(8K)と呼ばれる次世代高解像度規格が登場している。UHDなどの高解像ディスプレイは縦に4000本、横に2000本の走査線で表示するディスプレイであり、FHDと比べて約2倍の密度向上がなされている。
【0004】
また、テレビなどの大型ディスプレイの最適視認距離は、ディスプレイ高さの約3倍程度といわれており、50インチであれば約2m、75インチであれば約3mとされる。
【0005】
従来と比べて最適視認距離が近くになってきている点、また走査線密度が高くなっている(走査線数が多くなっている)点から、これまで問題となっていなかった金属電極・配線からの反射が視認されることが課題になりつつある。
また、表示装置においても、金属電極配線は反射率が高く、視認者の肉眼で見えるため、コントラスト比が低下する点から、金属電極配線からの反射が視認されることが課題となる。
【0006】
金属電極配線からの反射を制御するには、不可視化など光学特性を改善する必要があり、これまで要求されてこなかった光学特性を新たに付与する必要がある。それと同時に上記のようなディスプレイ配線としての従来の要求特性を満たす必要がある。
【0007】
上記従来の要求特性のうち、配線の酸化を有効に防止するものとして、特許文献1に純Cu又は電気抵抗率の低いCu合金からなる第一層と、特定の元素を含むCu−Z合金からなる第二層とを含むCu合金層を備えた配線構造が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、ブリッジ電極の黒化処理に関し、Al、Au、Ag、Sn、Cr、Ni、Ti又はMgなどの金属を材料として用いて構成し、薬品との反応により金属酸化物、窒化物、フッ化物などで黒化させることが開示されている。特許文献3には、反射防止層を構成する透明電極として、シリコン、アルミニウムの何れかを主成分とする窒化物を使用することが開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、導電性透明パターンセルを相互接続するブリッジ電極における視認性の問題を解決するため、導電性パターンセルに形成される絶縁層上に、黒色の導電材料を用いてブリッジ電極を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5171990号公報
【特許文献2】特開2013−127792号公報
【特許文献3】特開2014−78198号公報
【特許文献4】特開2013−127792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のCu合金は高耐熱性及び良好な電気的特性を示すものの、低反射率に関する記載はない。また特許文献4では、金属の黒色化処理によるブリッジ電極の反射率低減化技術が開示されているに過ぎず、電気抵抗率の低減には全く留意していない。よって高電気抵抗率のものも含まれており、良好な電気特性及び低反射率を共に満たすことは難しい。
【0012】
また、Cu合金をディスプレイ用の電極に用いた場合、Al合金を用いた場合に比べて電気抵抗率が小さいため、応答速度が高く、好ましい。さらに、Cuは所望のシート抵抗を得るための電極膜厚をAlよりも薄くすることができる。そこでフィルム基材の場合に電極の応力起因で生じる基材のカーリングの問題が軽減できる。特許文献2はブリッジ電極を黒化することで色相、明度又は反射率を調節できることが記載されているものの、Cuについて一切開示も示唆もされていない。また、特許文献3は透明膜としてAl合金が開示されているに過ぎず、Cuについて一切開示も示唆もされていない。すなわち、Cu合金を用いた優れた低反射配線膜に関する報告はされていない。
【0013】
本発明は上記事情に着目してなされたものであり、低反射率、高耐熱性、及び良好な電気的特性を満たす電極として、Cu合金を用いた新規な低反射配線膜を提供することを目的とする。本発明に係る電極は液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに代表される表示装置やタッチパネルセンサー等の入力装置等におけるゲート電極およびソース・ドレイン電極として主に用いられる。
【0014】
また本発明は、該電極を製造するためのスパッタリングターゲット及び該電極の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の基板及び、Cu−Ni−O−N薄膜である第1層とCu膜又はCu合金膜である第2層とを備えた積層構造を有することにより、前記積層構造において、基板側から見たときの波長450nm、波長550nm、および波長650nmにおける反射率がいずれも30%以下であるCu合金を用いた電極が得られ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[12]に係るものである。
[1] 基板上に、前記基板側から順に第1層と、第2層とを備えた積層構造を有する電極であって、
前記基板は屈折率が1.4以上の、樹脂基板又はセラミックス基板であり、
前記第1層は窒素及び酸素の少なくとも1種以上が合計で5〜50原子%、ニッケルが金属原子比で50原子%以上70原子%以下で含有されているCu−Ni−O−N薄膜であり、
前記第2層はCu膜又はCu合金膜であり、かつ
前記積層構造において、前記基板側から見たときの波長450nm、波長550nm、および波長650nmにおける反射率がいずれも30%以下であり、
前記第1層及び前記第2層からなる積層配線の電気抵抗率が3μΩ・cm以下であることを特徴とする電極。
] 前記基板と前記第1層の間に透明導電膜を有することを特徴とする前記[1]に記載の電極。
] 前記基板と前記第1層の間にシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を有することを特徴とする前記[1]に記載の電極。
] 前記Cu合金膜がTi、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ta、LaおよびNdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことを特徴とする前記[1]に記載の電極。
] 前記透明導電膜が、少なくともIn及びSnを含む酸化物からなる透明導電膜、少なくともIn及びZnを含む酸化物からなる透明導電膜、又は少なくともIn及びGaを含む酸化物からなる透明導電膜であることを特徴とする前記[]〜[]のいずれか1に記載の電極。
] 過酸化水素水含有のエッチング液を用いたウェットエッチングが可能なことを特徴とする前記[1]〜[]のいずれか1に記載の電極。
] 前記積層構造において、300℃以上の熱処理後における、前記基板側から見たときの波長450nm、波長550nm、および波長650nmにおける反射率がいずれも30%以下であることを特徴とする前記[1]〜[]のいずれか1に記載の電極。
] 前記第1層の膜厚が50〜100nmである前記[1]に記載の電極。
] 前記[1]〜[]のいずれか1に記載の電極を有することを特徴とする表示装置。
10] 前記[1]〜[]のいずれか1に記載の電極を有することを特徴とする入力装置。
11] 前記[1]〜[]のいずれか1に記載の電極を構成する第1層の成膜に用いられるスパッタリングターゲットであって、
Cu及びNi、又は、一部が窒化されたCu及びNiを主材料として含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
12] 前記[1]〜[]のいずれか1に記載の電極を製造する方法であって、
窒素ガスを含む反応性スパッタリング法によって、前記電極を構成する第1層を成膜することを特徴とする電極の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電極によれば、低反射率、高耐熱性及び良好な電気的特性を同時に達成できる。そのため、本発明に係る電極をゲート電極およびソース・ドレイン電極に用いた場合、同電極からの反射が視認されない表示装置(ディスプレイ)や入力装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、Cu主配線電極及びバリアメタル層(Cu薄膜)を備えたゲート電極およびソース・ドレイン電極を用いた、一般的な液晶ディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板を模式的に示す概略断面図である。
図2図2は、Cu主配線電極及びバリアメタル層(Cu薄膜)を備えたゲート電極およびソース・ドレイン電極を用いた、一般的なボトムエミッション型有機ELディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板を模式的に示す概略断面図である。
図3図3は、本発明に係るCu主配線電極層及び光学調整層(Cu薄膜)を備えたゲート電極およびソース・ドレイン電極を用いた、ボトムエミッション型有機ELディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板を模式的に示す概略断面図であり、また、本発明の実施の様態1Aに該当する概略断面図でもある。
図4図4は、本発明に係るCu主配線電極層、Cu反応層及び透明導電膜(Cu薄膜)を備えたゲート電極およびソース・ドレイン電極を用いた、ボトムエミッション型有機ELディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板を模式的に示す概略断面図であり、また、本発明の実施の様態1Bに該当する概略断面図でもある。
図5図5は、本発明に係るCu主配線電極層、Cu反応層及びシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜(Cu薄膜)を備えたゲート電極、並びに、Cu主配線電極層及びCu反応層(Cu薄膜)を備えたソース・ドレイン電極を用いた、ボトムエミッション型有機ELディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板を模式的に示す概略断面図であり、また、本発明の実施の様態1Cに該当する概略断面図でもある。
図6図6は、本発明の実施例1Aの第1層(Cu−Ni−O薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造における、ガラス基板側から測定した反射率とNi添加量(原子%)との関係を示す図である。
図7図7は、本発明の実施例1Bの第1層(Cu−Ni−N薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造における、ガラス基板側から測定した反射率とNi添加量(原子%)との関係を示す図である。
図8図8(a)〜図8(d)は、本発明の実施例1Aの第1層(Cu−Ni−O薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造における、波長域400nm〜800nmの反射率を示す図であり、Ni添加量は図8(a)が30原子%、図8(b)が40原子%、図8(c)が50原子%、図8(d)が70原子%である。図8(e)〜図8(h)は、本発明の実施例1Bの第1層(Cu−Ni−N薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造における、波長域400nm〜800nmの反射率を示す図であり、Ni添加量は図8(e)が30原子%、図8(f)が40原子%、図8(g)が50原子%、図8(h)が70原子%である。
図9図9(a)は、本発明の実施例1Aの第1層(Cu−Ni−O薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造における、電気抵抗率とNi添加量(原子%)との関係を示す図であり、図9(b)は、本発明の実施例1Bの第1層(Cu−Ni−N薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造における、電気抵抗率とNi添加量(原子%)との関係を示す図である。
図10図10は、本発明の実施例1A及び実施例1Bの第1層であるCu−Ni−O薄膜又はCu−Ni−N薄膜における、過酸化水素水含有のエッチング液によるエッチング速度と第1層に含まれるNi添加量(原子%)との関係を示す図である。
図11図11は、本発明の実施例1Bの第1層(Cu−Ni−N薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造において、Ni添加量ごとにエッチング後の形状を示す、断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図12図12(a)〜図12(c)は、本発明の実施例2の第1層(Cu−Ni−O−N薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造において、成膜直後と熱処理後における波長域400nm〜800nmの反射率を、第1層形成時のガス流量比ごとに示す図である。
図13図13(a)〜図13(d)は、本発明の実施例2の第1層(Cu−Ni−O−N薄膜)と第2層(純Cu薄膜)とを備えた積層構造において、成膜直後と熱処理後における波長域400nm〜800nmの反射率を、Ni添加量ごとに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る電極は主に液晶表示装置等の表示装置(ディスプレイ)やタッチパネルセンサー等の入力装置における薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下「TFT」と称することがある。)の電極として好適に用いられる。以下、薄膜トランジスタの電極として、表示装置(ディスプレイ)を例として説明するが、これらに限定されるものではない。
【0020】
<液晶ディスプレイ>
図1は、一般的な液晶ディスプレイのTFT電極の構成を模式的に示す概略断面図である。すなわち、図1に示す液晶ディスプレイは、TFT基板(TFTアレイ基板)10を示している。TFTアレイ基板には、ゲート電極12およびソース・ドレイン電極11が搭載されている。
50インチ以上の液晶ディスプレイのゲート電極およびソース・ドレイン電極には主成分にCuを含むCu主配線電極層3と該Cu主配線電極層3の下部にはバリアメタル層2を積層したものが使用されることが多い。Cu主配線電極層は純Cuをそのまま用いられることが多く、バリアメタル層は主に純Moや純Tiといった高融点金属薄膜が使用されることが多い。
【0021】
視認者は図1に示す矢印A側から液晶ディスプレイをみることになり、バックライトユニット20からの透過光(矢印D)をみることにより、映像として視認することができる。また視認者側から入った外光(矢印B)は、TFTアレイ基板のゲート電極およびソース・ドレイン電極表面、つまりCu主配線電極層表面から反射され、該反射光(矢印C)が再び視認者に認知されることになる。
【0022】
<有機ELディスプレイ>
次にボトムエミッション型有機EL表示装置における薄膜トランジスタの電極について説明する。
【0023】
図2は、一般的なボトムエミッション型有機ELディスプレイのTFT電極の構成を模式的に示す概略断面図である。TFTアレイ基板10の構成は図1におけるTFTアレイ基板10とまったく同じであり、50インチ以上の液晶ディスプレイのゲート電極12およびソース・ドレイン電極11には主成分にCuを含むCu主配線電極層3と該Cu主配線電極層3の下部にはバリアメタル層2を積層したものが使用されることが多い。Cu主配線電極層は純Cuをそのまま用いられることが多く、バリアメタル層は主に純Moや純Tiといった高融点金属薄膜が使用されることが多い。
【0024】
視認者は図2に示す矢印Aのように、図1とは反対側からディスプレイをみることになり、TFTアレイ基板内に内蔵された有機EL発光層21からの透過光(矢印E)をみることにより、映像として視認することができる。また視認者側から入った外光(矢印B)は、TFTアレイ基板のゲート電極およびソース・ドレイン電極下面、つまりバリアメタル層下面から反射され、該反射光(矢印C)が再び視認者に認知されることになる。
【0025】
<電極>
本発明に係る電極は、基板上に、前記基板側から順に第1層と、第2層とを備えた積層構造を有する電極であって、前記基板は屈折率が1.4以上の、樹脂基板又はセラミックス基板であり、前記第1層はCu膜の一部に窒素及び酸素の少なくとも1種以上が含有されているCu膜であり、前記第2層はCu膜又はCu合金膜であり、かつ前記積層構造において、前記基板側から見たときの波長450nm、波長550nm、および波長650nmにおける反射率がいずれも40%以下であることを特徴とする。
【0026】
基板は通常用いられる樹脂基板又はセラミックス基板を用いることができ、屈折率が1.4以上であればよい。
【0027】
樹脂基板としては、ポリカーボネート樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0028】
セラミックス基板としては、ガラス基板、サファイヤガラス等が挙げられる。TFT電極の場合、基板は耐熱性の点からガラス基板が好ましく用いられる。基板の厚さは0.2〜5mmであればよく、好ましくは0.5〜0.7mmである。
【0029】
前記基板上に、基板側から順にCu膜の一部が窒素及び酸素の少なくとも1種以上が含有されているCu膜(第1層)と、Cu膜又はCu合金膜(第2層)とを積層する。
かかる構造とすることにより、第1層と第2層を含む積層構造における、基板側から見たときの波長450nm、波長550nm、および波長650nmにおける反射率をいずれも40%以下とすることができる。
【0030】
第1層であるCu膜の一部が窒素及び酸素の少なくとも1種以上が含有されているCu膜とは、Cu−O膜、Cu−N膜、又はCu−O−N膜である。また、第1層にNiが含まれる場合は、Cu−Ni−O薄膜、Cu−Ni−N薄膜、又はCu−Ni−O−N薄膜である。
【0031】
第1層におけるO及びNの含有量は合計で5〜50原子%であればよく、10〜30原子%が低反射率の点から好ましい。
【0032】
第1層は、金属組成部における原子比でNiを25原子%以上70原子%以下含むことが熱処理後でも低反射率を実現できる点からより好ましく、30原子%以上がさらに好ましい。ただし、本明細書における第1層中のNiの含有量は、第1層の形成に用いるCu−Ni合金ターゲットにおけるNi含有量と同義であり、Ni添加量と同じ値を意味する。
【0033】
さらに第1層には、Cu、O、N、Ni以外の元素として、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ta、LaおよびNdからなる群より選択された1種以上の元素を含んでいてもよいが、第1層中のCu、O、N、Ni以外の元素の割合は合計で0.1〜10原子%であることが好ましい。
【0034】
なお、第1層に含まれる元素の種類と量はICP発光分析装置により測定することができる。
【0035】
第1層の膜厚は低反射率化の点から50〜100nmであることが好ましいが、スパッタのパワーや時間を変えることで、膜厚を調整することができる。
【0036】
第2層がCu膜である場合、純Cu膜である。
【0037】
また、第2層がCu合金膜である場合、Cu以外の元素として、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ta、LaおよびNdからなる群より選択された1種以上の元素を含むことが耐熱性や密着性、耐湿性の点から好ましく、中でもTi、Mn、Ni、Znがより好ましい。
【0038】
Cu合金膜におけるCu以外の元素の割合は合計で0.1〜10原子%であることが好ましい。
【0039】
なお、第2層であるCu合金膜に含まれる元素の種類と量はICP発光分析装置により測定することができる。また、第2層の膜厚は低反射率化の点から50〜100nmであることが好ましい。膜厚はスパッタのパワーや時間を変えることで調整することができる。
【0040】
以下、表示装置を例に用いて、本発明の電極の好ましい実施態様を例示して、本発明の電極について説明する。
【0041】
<実施の態様1A:ボトムエミッション型有機ELディスプレイにおける断面構造1>
図3はボトムエミッション型有機ELディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板10を模式的に示す概略断面図であり、ゲート電極12およびソース・ドレイン電極11にCu主配線電極層3及び光学調整層5のCu薄膜を用いている。光学調整層5が第1層であり、Cu主配線電極層3が第2層である。
【0042】
外光(矢印B)からの反射光(矢印C)の視認を抑制するために、TFTアレイ基板10におけるゲート電極12およびソース・ドレイン電極11の下層側に従来のバリアメタル層に替わって光学調整層5(第1層)を配置する。
【0043】
第1層はCu膜の一部に窒素と酸素のうち少なくとも1種以上が含有されているCu膜からなる。第1層の組成を調整し、視認者側(矢印A、TFTアレイ基板側)から測定したゲート電極およびソース・ドレイン電極の、波長450nm、550nm及び650nmにおける反射率がいずれも40%以下となるようにする。該反射率は、いずれも30%以下であることが好ましい。
【0044】
具体的には、第1層のCu膜に酸素及び窒素の少なくともいずれか一方を含むことにより、波長450nm、550nm及び650nmにおける反射率を低くすることができる。
【0045】
さらにTFTアレイ基板の製造工程において、300℃以上の熱履歴を受けた後も、視認者側(矢印A、TFTアレイ基板側)から測定したゲート電極およびソース・ドレイン電極の、波長450nm、550nm及び650nmにおける反射率がいずれも40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0046】
具体的には、第1層であるCu膜を、Niを含むCu−Ni合金膜とすることにより、熱処理後でも低い反射率を達成することができるようになる。
【0047】
第1層と第2層の積層構造(積層配線)の電気抵抗率は5μΩ・cm以下であることが好ましく、3μΩ・cm以下がより好ましい。電気抵抗率は第2層の合金成分の添加量を少なくする、あるいは、第1層と第2層の膜厚の比を大きくする(第2層を厚くする)ことにより、低くすることができる。
【0048】
第1層と第2層の積層構造(積層配線)の厚みは、薄すぎると見かけの抵抗が高くなり、厚すぎるとエッチング加工が難しくなるため、100〜1000nmの間であることが好ましい。厚みはスパッタ成膜のパワーと成膜時間によって調整することができる。
【0049】
第1層と第2層の積層配線は過酸化水素水を含有するエッチング液での電極加工(ウェットエッチング)できることが量産ラインへの適合性の点で好ましい。
エッチング液は過酸化水素水を主成分とすることが好ましく、過酸化水素水が3%以上であることが好ましい。
【0050】
<実施の態様1B:ボトムエミッション型有機ELディスプレイにおける断面構造2>
図4はボトムエミッション型有機ELディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板10を模式的に示す概略断面図であり、実施の態様1Aに示した光学調整層5に代わり、Cu反応層7(第1層)及び透明導電膜6により構成される。
【0051】
透明導電膜6は基板と第1層との間に存在し、第1層と合わせて、積層構造の光学調整層として有効に作用し、低反射率を実現するものである。
【0052】
Cu反応層としては、Cu膜の一部に窒素と酸素のうち少なくとも1種以上が含有されているCu膜が用いられる。
【0053】
Cu反応層の厚みは好ましくは50〜100nmである。
【0054】
透明導電膜の材料は特に限定されないが、少なくともIn及びSnを含む酸化物からなる透明導電膜(ITO;In−Sn−O)、少なくともIn及びZnを含む酸化物からなる透明導電膜(IZO;In−Zn−O)、又は、少なくともIn及びGaを含む酸化物からなる透明導電膜(IGO;In−Ga−O)などが、導電性が高く、エッチング加工性が良好で、積層したときに積層構造での反射率がより低くなることから好ましく用いられる。
【0055】
Cu反応層7及びCu主配線電極層3の好ましい態様は、実施の態様1Aにおける第1層及び第2層の好ましい条件とそれぞれ同様である。
【0056】
<実施の態様1C:ボトムエミッション型有機ELディスプレイにおける断面構造3>
図5はボトムエミッション型有機ELディスプレイ(表示装置)のTFTアレイ基板10を模式的に示す概略断面図であり、実施の態様1Aに示した光学調整層5に代わり、Cu反応層7(第1層)及びシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜8により構成される。
【0057】
ただし、この場合、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜はいずれも絶縁膜であり、ソース・ドレイン電極11の下部には半導体層4との電気的接続ができないことから、実施の態様1Cはゲート電極12へのみの適用となる。
【0058】
シリコン酸化膜としては、SiO、SiOを含むSiOx(但し0<x≦2)が挙げられる。シリコン窒化膜としては、SiN等が挙げられる。
基板と第1層との間にシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜を有することにより、低反射率化の点で好ましくなるものと考えられる。シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜の膜厚は、好ましくは50nm〜400nmである。膜厚は成膜時間により調整することができる。
【0059】
その他、Cu反応層7及びCu主配線電極層3の好ましい態様は、実施の態様1Aにおける第1層及び第2層の好ましい条件とそれぞれ同様であり、Cu反応層7は実施の態様1AにおけるCu反応層7と同様である。
【0060】
<第1層の成膜方法>
本発明における第1層は反応性スパッタリング法によって製膜することができる。具体的には、目的とする膜組成のスパッタリングターゲットを用いてスパッタすることにより製膜することができる。すなわち、純Cuのターゲットを用いてAr等の不活性ガスとO及びNの少なくともいずれか一方のガスとの混合ガス流通下でスパッタリングすることにより、Cu−O薄膜、Cu−N薄膜、又はCu−O−N薄膜が得られる。
【0061】
また、Cu−Ni合金ターゲットを用いてAr等の不活性ガスとO及びNの少なくともいずれか一方のガスとの混合ガス流通下でスパッタリングすることにより、Cu−Ni−O薄膜、Cu−Ni−N薄膜、又はCu−Ni−O−N薄膜が得られる。
【0062】
Cu−Ni合金ターゲットのNi含有量が異なるターゲットを用いることで、得られる第1層中のNi含有量を調整することができる。
【0063】
また、スパッタ時に流通するOガス及び/又はNガスの流量を変えることで、第1層中に含まれるO及び/又はNを所望の値にすることができる。
【0064】
スパッタの条件は従来通常スパッタが行われている範囲であればよく、例えば、到達真空度は1×10−6Torr以下であることが好ましく、基板温度は室温〜100℃が好ましく、成膜温度は室温〜100℃が好ましく、スパッタ時のガス圧は1mTorr〜10mTorrが好ましい。
【0065】
第1層の膜厚はスパッタ放電のパワーと放電時間により調整することができ、触針式段差計で測定することができる。
【0066】
<スパッタリングターゲット例1>
実施の態様1Aにおける第1層(光学調整層)を成膜するためのスパッタリングターゲットとして、純Cuターゲット、またはCu−Ni合金ターゲットを用いる。
【0067】
また、Cu膜中のNi添加量はCu−Ni合金ターゲットのNi量に依存するため、ターゲット中のNi含有量を調整することにより、第1層のNi含有量を所望のものとすることができる。
【0068】
Cu−Ni合金ターゲットである場合、Cu及びNi、又は、一部が窒化されたCu及びNiを主材料として含むことが好ましい。
【0069】
なお、スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状、円筒状など)に加工したものを用いることができる。
【0070】
<スパッタリングターゲット例2>
実施の態様1B及び1Cにおける第1層(Cu反応層)を成膜するためのスパッタリングターゲットとして、純Cuターゲット、またはCu−Ni合金ターゲットを用いる。
また、Cu膜中のNi添加量は<スパッタリングターゲット例1>と同様に所望のものとすることができる。
【0071】
<電極の製造方法>
窒素ガスや酸素ガスを用いた反応性スパッタリング法である前記<第1層の成膜方法>により第1層を成膜するところに本発明に係る電極の製造方法の要旨を有する。第1層の成膜以外の、第2層の形成や透明導電膜の形成、シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜の形成等は、公知の方法に従って公知の条件で行うことができ、本発明に係る電極を製造することができる。
【0072】
積層構造を有する電極を製造するに当たっては、細線化や膜内の合金成分の均一性、さらには添加元素量の制御の容易さ、製造時のスループットの高さなどから、スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法にて成膜することが好ましい。
【0073】
ただし、第2層の成膜に用いられるスパッタリングターゲットも本発明の範囲であり、その主たる材料はCuまたは一部が窒化されたCuであり、さらに不可避的不純物が含まれることも許される。
【0074】
具体的には、第2層は、目的とする膜組成のスパッタリングターゲットを用いてスパッタすることにより製膜することができる。すなわち、純Cuのターゲットを用いてAr等の不活性ガス流通下でスパッタリングすることにより、純Cu薄膜が得られる。また、所望のCu合金ターゲットを用いて同様にスパッタリングすることにより、ターゲット組成に依存した組成のCu合金薄膜を得ることができる。
【0075】
スパッタの条件は従来通常スパッタが行われている範囲であればよく、例えば、到達真空度は1×10−6Torr以下であることが好ましく、基板温度は室温〜100℃が好ましく、成膜温度は室温〜100℃が好ましく、スパッタ時のガス圧は1mTorr〜10mTorrが好ましい。
【0076】
第1層の膜厚はスパッタ放電のパワーと放電時間により調整することができ、触針式段差計で測定することができる。
【0077】
<表示装置、入力装置>
本発明に係る電極は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置(ディスプレイ)の配線(ゲート電極、ソース・ドレイン電極)や、該表示装置の表示画面上に貼り合せて使用されるタッチパネルセンサー等の入力装置の配線(ゲート電極、ソース・ドレイン電極)に好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0079】
<実施例1A>
透明基板として無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を用い、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により第1層であるCu−Ni−O薄膜を成膜した。ターゲットは直径4インチの円盤型Cuターゲット又はCu−Ni合金ターゲットとし、酸素ガスを成膜装置に導入する反応性スパッタリングを行った。反応性スパッタリング条件は以下のとおりである。
【0080】
(酸素添加反応性スパッタリング条件)
・ガス圧: 3mTorr
・ガス流量比: Ar:O= 15sccm:15sccm
・スパッタパワー: 500W
・基板温度: 室温
・成膜温度: 室温
・到達真空度: 1×10−6 Torr以下
【0081】
第1層の成膜時に組成の異なるCu−Ni合金ターゲットを用いて膜中のNi添加量が原子比で0%、5%、10%、15%、30%、40%、50%、70%である8種類の膜をそれぞれ成膜した。
【0082】
続けて下記(第2層(Cu主配線電極層)のスパッタリング法の条件)にて第2層(純Cu薄膜)を成膜し、基板、第1層及び第2層とからなる積層構造を得た。ターゲットは純Cuターゲットを用いた。
【0083】
(第2層(Cu主配線電極層)のスパッタリング法の条件)
・ガス圧: 2mTorr
・ガス流量: Ar= 15sccm
・スパッタパワー: 500W(4インチ径ターゲット)
・基板温度: 室温
・成膜温度: 室温
・雰囲気ガス: Arガス
・到達真空度: 1×10−6 Torr以下
【0084】
第1層の膜厚を触診式段差計により測定した所、50nmであった。
得られた積層構造について、ガラス基板側からの反射率測定を行った。第1層であるCu−Ni−O薄膜に含まれる金属組成中のNi添加量と反射率の関係を図6に示した。図6中、「550nm」または「650nm」とはそれぞれ反射率を測定した波長を示し、「asdepo」とは成膜直後(as−deposited)、「350C」とは350℃にて5分間熱処理を行った後の結果であることを示す。
【0085】
なお、熱処理は、具体的には以下のような手順で行った。赤外線ランプ加熱炉を用い、室温でサンプルを炉内に入れたのち、真空度1×10−4Torr以下まで真空引きしたあとに、350℃5分間熱処理を行い、再び室温まで冷却してから炉内を大気圧に戻し、サンプルを取りだした。
【0086】
図6から明らかなように、第1層にCu−Ni−O薄膜を用いた場合、成膜直後では、波長に関わらず、少なくともNi添加量が70原子%以下であれば、反射率が目標の40%を下回る結果となった。一方、350℃にて5分間の熱処理を行うことで反射率変化が発生し、Ni添加量が35原子%程度以上であれば、反射率が40%を下回ることがわかる。
【0087】
<実施例1B>
第1層の形成において、酸素ガスを成膜装置に導入する反応性スパッタリングに代えて、窒素ガスを用いた下記条件での反応性スパッタリングを行った以外は、実施例1Aと同様にして、第1層と第2層を形成し、積層構造を得た。
【0088】
(窒素添加反応性スパッタリング条件)
・ガス圧: 5mTorr
・ガス流量比: Ar:N= 27sccm:27sccm
・スパッタパワー: 500W
・基板温度: 室温
・成膜温度: 室温
・到達真空度: 1×10−6 Torr以下
【0089】
第1層の膜厚を触針式段差計により測定した所、50nmであった。
【0090】
得られた積層構造について、ガラス基板側からの反射率測定を行った。第1層であるCu−Ni−N薄膜に含まれる金属組成中のNi添加量と反射率の関係を図7に示した。図7中、「550nm」または「650nm」とはそれぞれ反射率を測定した波長を示し、「asdepo」とは成膜直後(as−deposited)、「350C」とは350℃にて5分熱処理を行った後の結果であることを示す。なお、熱処理は実施例1Aと同様の方法と条件で行った。
【0091】
図7から明らかなように、第1層にCu−Ni−N薄膜を用いた場合、成膜直後では、Ni添加量に関わらず、反射率が目標の40%を下回る良好な結果が得られた。また、350℃にて5分間の熱処理を行うと、Ni添加量が少ない場合には反射率が高くなる結果となったが、Ni添加量を30%とすると、極端に反射率が低下した。これより、Ni添加量が25原子%以上程度含まれていれば、反射率が40%を下回るものと推察される。
【0092】
実施例1Aの構造積層体について、波長域400nm〜800nm(Ni添加量が30原子%である図8(a)については波長域250nm〜850nm)の反射率を図8(a)〜図8(d)に示し、実施例1Bの構造積層体について、波長域400nm〜800nm(Ni添加量が30原子%である図8(e)については波長域250nm〜850nm)の反射率を図8(e)〜図8(h)に示した。図8(a)〜図8(h)中、「asdepo」とは成膜直後(as−deposited)、「350℃、5min」とは350℃にて5分熱処理を行った後の結果であることを示す。
【0093】
第1層をCu−Ni−O薄膜とした場合、成膜直後に比べて熱処理を行うと全体的に反射率が高くなる傾向が見られたものの、金属組成中のNi添加量が少なくとも30原子%〜70原子%の範囲内であれば、波長450nm、550nm及び650nmのいずれにおいても、反射率が30%を下回る、良好な結果が得られた。
【0094】
また、第1層をCu−Ni−N薄膜とした場合、Ni添加量が40原子%、50原子%及び70原子%においては、成膜直後と熱処理後とで反射率にさほどの変化は見られなかった。また、金属組成中のNi添加量が少なくとも30原子%〜70原子%の範囲内であれば、波長450nm、550nm及び650nmのいずれにおいても、反射率が40%を下回る、良好な結果が得られた。
【0095】
実施例1Aの構造積層体について、第1層(Cu−Ni−O薄膜)におけるNi添加量と該第1層の上に第2層(純Cu薄膜)を積層した積層構造の電気抵抗率との関係を図9(a)に示した。同様に、実施例1Bの構造積層体について、第1層(Cu−Ni−N薄膜)におけるNi添加量と該第1層の上に第2層(純Cu薄膜)を積層した積層構造の電気抵抗率との関係を図9(b)に示した。図9(a)及び図9(b)において、「asdepo」とは成膜直後(as−deposited)、「350℃」とは350℃にて5分熱処理を行った後の結果であることを示す。なお、熱処理方法と条件は先述したとおりである。
【0096】
成膜直後後および350℃、5分の熱処理後いずれにおいても、金属組成中のNi添加量にかかわらず、積層構造の電気抵抗率は3μΩ・cm以下であった。
【0097】
第1層をCu−Ni−O薄膜、第2層を純Cu薄膜とした実施例1Aにおける積層構造及び、第2層をCu−Ni−N薄膜、第2層を純Cu薄膜とした実施例1Bにおける積層構造である積層膜上にフォトレジストをパターニングし、該積層膜のエッチング特性を評価した。エッチング液には過酸化水素水を3%以上含むエッチング液を使用し、エッチングは液温を室温とした条件下で行った。エッチング速度とNi添加量(原子%)との関係を図10に示す。
【0098】
図10から明らかなように、実施例1Bである第1層がCu−Ni−N薄膜である場合、Ni添加量が少ないほどエッチングレートが高くなり、金属組成中のNi添加量がおおよそ30原子%以上70原子%以下の範囲内であれば、第2層を構成する純Cu薄膜(エッチング速度271.5nm/分)とほぼ同じエッチング速度が得られることがわかった。
【0099】
実施例1Bの積層構造のエッチング後における断面の走査型電子顕微鏡写真を図11に示す。その結果、パターニング形状から、Ni添加量に関わらず良好なテーパー形状が得られていることがわかる。
【0100】
一方、実施例1Aである第1層がCu−Ni−O薄膜である場合、金属組成中のNi添加量に依存せず、第1層がエッチングできないことが分かった。すなわち、第1層がCu−Ni−O薄膜である場合、パターニングのためのエッチング液には過酸化水素水ベースのエッチング液は適さないことが判明した。
【0101】
以上の結果から、第1層をCu膜の一部に窒素及び酸素の少なくとも1種以上が含有されているCu−O膜またはCu−N膜とすることにより、低反射率の電極が得られることが分かった。また、300℃以上の熱処理を行う場合には、金属組成中のNi添加量が30原子%以上70原子%以下であるCu−Ni−O薄膜またはCu−Ni−N薄膜とすると、低い反射率が得られることが実証された。なお、反射率を測定したNi添加量の下限は30原子%であったが、30原子%でも十分に低い反射率が得られたことから、NI添加量が25原子%以上であれば、反射率40%以下という良好な結果が得られるものと推測される。
【0102】
またエッチング液に過酸化水素水ベースのエッチング液を使う場合には、第1層としてCu−Ni−N薄膜を用いることが好ましいことがわかった。
【0103】
<実施例2>
第1層の形成において、酸素ガスを成膜装置に導入する反応性スパッタリングに代えて、窒素ガス及び酸素ガスを用いた下記条件での反応性スパッタリングを行った以外は、実施例1Aと同様にして、第1層と第2層を形成し、積層構造を得た。第1層形成のスパッタリング条件におけるガス流量比のNとOの割合を変えることで、OとNの比が異なる第1層(Cu−Ni−O−N薄膜)を得た。
【0104】
(窒素・酸素添加反応性スパッタリング条件)
・ガス圧: 5mTorr
・ガス流量比: Ar:N:O= 27sccm:22〜26sccm:1〜5sccm
・スパッタパワー: 500W
・基板温度: 室温
・成膜温度: 室温
【0105】
第1層の膜厚を触針式段差計により測定した所、50nmであった。
【0106】
得られた積層構造について、ガラス基板側からの反射率測定を行った。第1層であるCu−Ni−O−N薄膜に含まれる金属組成中のNi添加量を40原子%としたときの反射率を図12(a)〜図12(c)に示した。第1層形成時のガス流量比Ar:N:Oが、図12(a)は27:22:5、図12(b)は27:12:15、図12(c)は27:17:10である。図12(a)〜図12(c)中、「Before ann.」は成膜直後で熱処理を行う前の状態であり、「After ann.」は350℃にて5分熱処理を行った後の結果であることを示す。なお、熱処理は実施例1Aと同様の方法と条件で行った。
【0107】
図12(a)〜図12(c)から明らかなように、金属組成中のNi添加量が40原子%の場合、適切な窒素(N)流量および酸素流量(O)を選択することにより、熱処理後であっても少なくとも波長450nm〜750nmの波長領域において、40%以下という低い反射率が得られることがわかった。
【0108】
第1層形成時のスパッタ条件において、窒素(N)流量および酸素(O)流量を22:25に固定し、Cu−Ni−O−N薄膜(第1層)に含まれる金属組成中のNi添加量を30原子%、40原子%、50原子%及び70原子%としたときの反射率を図13(a)〜図13(d)に示した。図13(a)〜図13(d)中、「Asdepo」とは成膜直後(as−deposited)、「350℃5分」とは350℃にて5分熱処理を行った後の結果であることを示す。熱処理の方法と条件は先述のとおりである。
【0109】
その結果、金属組成中のNi添加量が30原子%〜70原子%の範囲において、適切な窒素(N)流量および酸素(O)流量を選択することにより、波長450nm、550nm及び650nmのいずれにおいても、反射率が40%を下回る、良好な結果が得られることが分かった。
【0110】
以上の結果から、第1層がCu−Ni−O−N薄膜においても、金属組成中のNi添加料が少なくとも30原子%以上70原子%以下の範囲内であれば、300℃以上の熱処理後であっても40%以下という低い反射率を達成できることがわかった。
【符号の説明】
【0111】
1 ガラス基板
2 バリアメタル層
3 Cu主配線電極層
4 半導体層
5 光学調整層
6 透明導電膜
7 Cu反応層
8 シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜
10 TFTアレイ基板
11 ソース・ドレイン電極
12 ゲート電極
20 バックライトユニット
21 有機EL発光層
A 視認者の向き
B 外光の向き
C 反射光の向き
D バックライトユニットからの透過光の向き
E 有機EL発光層からの透過光の向き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13