(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190884
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ニアアイディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20170821BHJP
G02B 27/44 20060101ALI20170821BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20170821BHJP
G02B 27/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B27/44
G02B27/01
G02B27/02 Z
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-532479(P2015-532479)
(86)(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公表番号】特表2015-534117(P2015-534117A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】FI2013050903
(87)【国際公開番号】WO2014044912
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2015年12月15日
(31)【優先権主張番号】20125971
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516265414
【氏名又は名称】ディスぺリックス オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】アンティ スンナリ
(72)【発明者】
【氏名】オッリ−ヘイッキ フットゥネン
(72)【発明者】
【氏名】ユーソ オルッコネン
【審査官】
吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】
特表昭58−500916(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0091369(US,A1)
【文献】
特開平08−271712(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01767964(EP,A1)
【文献】
特開2008−070867(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0263285(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0081246(US,A1)
【文献】
特開2010−243786(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/113662(WO,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02196842(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0245730(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02244114(EP,A1)
【文献】
特開平02−165023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を光コンバイナとして備えたニアアイディスプレイであって、前記光学素子は、
透過的な基板と、
前記基板に入射する光を回折して、前記基板内で全反射を経て伝搬させる手段と、
前記基板内を伝搬して前記基板から出る光を回折するように構成される光取り出し回折格子と、を備え、
前記光取り出し回折格子は、第1の厚さであり透過的な第1の回折格子層を備え、前記第1の回折格子層は、周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を含み、
前記光取り出し回折格子は、前記第1の回折格子層上に位置するとともに、周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を含む、第2の厚さであり透過的な第2の回折格子層を更に備え、前記第1の回折格子層のより高い屈折率を有する前記領域が、少なくとも部分的に、前記第2の回折格子層のより低い屈折率を有する前記領域と並ぶとともに、前記第1の回折格子層のより低い屈折率を有する前記領域が、少なくとも部分的に、前記第2の回折格子層のより高い屈折率を有する前記領域と並び、
前記第1の回折格子層及び第2の回折格子層の、周期と、層の厚さと、屈折率とを調整して、450−650ナノメートルの波長域に対する、1次透過オーダーの回折効率を、1次反射オーダーの回折効率よりも低くしたことを特徴とする、ニアアイディスプレイ。
【請求項2】
450−650ナノメートルの波長域に対する、前記1次透過オーダーの回折効率が0.4%以下であり、1次反射オーダーの回折効率が少なくとも3%であることを特徴とする、請求項1に記載のニアアイディスプレイ。
【請求項3】
前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層は同じ回折格子周期を有し、前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層のそれぞれは、単一の回折格子周期に、相違する屈折率を有する2種類の領域を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のニアアイディスプレイ。
【請求項4】
前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層の厚さが等しいことを特徴とする、請求項1−3のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項5】
前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層の材料特性が異なり、前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層の厚さが相違することを特徴とする、請求項1−3のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項6】
前記第2の回折格子層の前記屈折率の少なくとも一方が、前記第1の回折格子層の前記屈折率と同じであることを特徴とする、請求項1−5のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項7】
前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層は、1つ以上の同一方向で、周期的であることを特徴とする、請求項1−6のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項8】
前記第1の回折格子層のより高い屈折率を有する前記領域が、前記第2の回折格子層のより低い屈折率を有する前記領域と完全に並ぶとともに、前記第1の回折格子層のより低い屈折率を有する前記領域が、前記第2の回折格子層のより高い屈折率を有する前記領域と完全に並ぶことを特徴とする、請求項1−7のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項9】
前記第2の回折格子層は、前記第1の回折格子層と同じ内部構造を有するが、前記回折格子の周期方向において、前記第1の回折格子層に対して、回折格子周期の半分だけ横方向に位置を変えることを特徴とする、請求項1−8のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項10】
前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層は、均一の誘電体層によって分離されることを特徴とする、請求項1−9のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項11】
前記回折格子層は、金属又は導電性酸化物を含むことを特徴とする、請求項1−10のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項12】
前記第1の回折格子層及び/又は前記第2の回折格子層の前記領域の少なくともいくつかは、前記基板と同じ材料、又は前記基板と屈折率が等しい材料を含むことを特徴とする、請求項1−11のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項13】
前記回折格子を前記基板の表面に設け、前記回折格子は前記回折格子の他方側に塗膜層を備え、それによって、前記第1の回折格子層及び/又は前記第2の回折格子層の前記領域の少なくともいくつかは、前記塗膜層と同じ材料を含むことを特徴とする、請求項1−12のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項14】
前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層の周期は300ナノメートルから1500ナノメートルの間であり、前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層の層の厚さは5ナノメートルから200ナノメートルの間であることを特徴とする、請求項1−13のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項15】
前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層のそれぞれにおいて、前記より低い屈折率は1.3から1.7の間であり、前記第1の回折格子層及び前記第2の回折格子層のそれぞれにおいて、前記より高い屈折率は1.5から2.2の間であることを特徴とする、請求項1−14のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項16】
前記基板に入射する光を回折する前記手段は、前記基板の外側からの光を、前記基板内へ、そして更に前記光取り出し回折格子に向かってに回折するように構成される光取り込み回折格子を備え、光は、導光する前記基板内で全反射を経て伝搬することを特徴とする、請求項1−15のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項17】
前記光学素子は、前記基板の前記表面上の前記光取り込み回折格子を照射できるライトプロジェクタを備えることを特徴とする、請求項16に記載のニアアイディスプレイ。
【請求項18】
前記2つの層の回折格子構造が二重に周期的であることを特徴とする、請求項1−17のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【請求項19】
前記光学素子は、視覚補助具で使用する透過的な要素であることを特徴とする、請求項1−18のいずれかに記載のニアアイディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子に関するものである。特に、本発明は例えば、ヘッドアップディスプレイ(HUDs)、ニアアイディスプレイ(NEDs)又は射出瞳拡大素子(EPEs)で用いることができる光取り出し回折格子に関するものである。本光学素子は、導光基板と、導光基板の内部に又は導光基板の表面の少なくとも一部の上に配置される回折格子とを備える。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイ及びニアアイディスプレイは、3つの基本部品である、ライトプロジェクタと、ライトプロジェクタを制御する演算ユニットと、ライトプロジェクタからの光を透明なディスプレイに映し、ヘッドアップディスプレイ又はニアアイディスプレイのユーザに、視点の変更を要求することなく、ディスプレイ後方の景色及び投影光の両方を見せるように構成される光コンバイナとを備える。光コンバイナは、回折光学素子をベースにすることができ、ホログラフィック光学素子(HOEs)と呼ばれることもある。
【0003】
特許文献1は、光学基板内へ光を取り込み、光学基板外に光を取り出す回折要素を備えるニアアイディスプレイ装置を論じている。同様の一般原理で動作する、旧型の装置の更なる製品及び変形例が、特許文献2−5で紹介されている。
【0004】
特許文献6は、同様の原理で動作するディスプレイ装置を開示しており、2つの回折格子のうち少なくとも1つが、複数の回折構造を有するバイナリブレーズ回折格子である。回折格子は、ブレーズ効果をもたらし平面視で閉鎖した幾何学面形状を持つ別個の下部構造の、複数から構成される。ここで提案する構造は、光を入力回折格子によって可能な限り最大の回折効率で導光平面板に取り込み、光を出力回折格子によって再度均一に取り出す、光学ディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【0005】
特許文献7は、カラーのヘッドアップディスプレイ(HUD)装置用の回折コンバイナを開示する。この装置は、第1の波長を持ち第1の光学回折格子にある入射方向で入射する光を、回折方向に回折するために構成される第1の光学回折格子と、第2の波長を持ち第2の光学回折格子に当該入射方向で入射する光を、同じ方向に回折するために構成される第2の光学回折格子とを備える。第1の光学回折格子及び第2の光学回折格子は、コンバイナの対向する第1及び第2の面に浮き彫りで形成される。第1及び/又は第2の光学回折格子は、波長多重光学回折格子として製造され、第1の光学回折格子及び/又は第2の光学回折格子に当該入射方向で衝突する、第3の波長の光を当該回折方向に回折するために構成される。
【0006】
しかしながら、上述した解決策の少なくともいくつかは、回折格子を通り観察者の目に到達する透過光による不所望な効果に、即ちいわゆるレインボー効果に、悩まされる。レインボー効果は、所望する回折像に加えて、色彩に富んだ可視パターンのようなものを映す。この課題を解決しない限り、回折コンバイナ素子技術はある用途で実用上役に立たないものとなる。
【0007】
特許文献8は、基板と基板上に形成されるディスプレイパターンとを備える、ディスプレイ要素を開示しており、ディスプレイパターンは、第1の回折格子構造と、第2の回折格子構造とを有する。第1の回折格子構造の回折格子線の方向が、第2の回折格子構造の回折格子線の方向と異なり、これにより、レインボー状の像の発生を防止しようとしている。提案されたこの解決策は、2方向に周期的とすることで、光を複数方向に回折し、個々の回折オーダーを弱める。しかしながら、透過した回折オーダーは依然としてかなり強く、結果はレインボー干渉像に関して最適からほど遠いものである。さらに、この構造の製造は比較的困難である。
【0008】
したがって、改善した光学素子が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2006/064301号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/52002号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2009/077802号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/077803号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2011/110728号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2009/0245730号明細書
【特許文献7】国際公開第2011/113662号パンフレット
【特許文献8】米国特許第4,856,869号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ヘッドアップディスプレイのコンバイナ部品を改善するために、特に透過光のレインボー効果を低減し又は完全に防止するために、用いることができる、新たな解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、独立請求項が定める発明によって達成される。
【0012】
光学素子は、透過的な基板と、基板の上にある、又は少なくとも一部が基板の内部にある、回折格子とを備える。回折格子は透過的な第1の回折格子層を備え、この第1の回折格子層は、周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を更に備える。この光学素子は、第1の回折格子層の上に位置し(しかしながら必ずしも第1の回折格子層に直接対向する必要はない)、周期的に互い違いにした、相違する屈折率を有する領域を含む、透過的な第2の回折格子層を更に備える。第1の回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に、第2の回折格子層のより低い屈折率を有する領域と並ぶとともに、第1の回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に、第2の回折格子層のより高い屈折率を有する領域と並び、それによって、第2の回折格子層が、ゼロ次以外の透過オーダーに回折される光の量を、類似するが第2の回折格子層がない構造と比較して、低減する。
【0013】
好ましくは、第1の回折格子層及び第2の回折格子層の周期と、層の厚さと、屈折率とを調整して、450−650ナノメートルの波長域に対する、透過オーダー、特に1次透過オーダーの回折効率を、反射オーダー、特に1次反射オーダーの回折効率よりも低くする。
【0014】
さらに、一実施形態では、450−650ナノメートルの波長域に対する、1次透過オーダーの回折効率が0.4%以下であり、1次反射オーダーの回折効率が少なくとも3%である。
【0015】
好ましくは、第1の回折格子層及び第2の回折格子層は、同一方向で周期的であり、又は、回折格子が二重に周期的である場合には、基板の面内及び回折格子内の、直交する2つの方向で周期的である。
【0016】
好適な実施形態によれば、回折格子構造は、同一の回折格子周期(Λ)を有する、2つの連続する回折格子層、すなわち第1の回折格子層及び第2の回折格子層からなる。それぞれの回折格子層は、単一の回折格子周期の中に、相違する屈折率を有する2つの領域を含む。すなわち、回折格子層はいわゆるバイナリ回折格子である。回折格子層は、第1の回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に、第2の回折格子層のより低い屈折率を有する領域と並ぶとともに、第1の回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、少なくとも部分的に、第2の回折格子層のより高い屈折率を有する領域とが並ぶように、位置合わせされている。このような2層の回折構造は、ゼロ次以外の奇数次透過オーダーに回折される光の量を、対応する単一層の回折格子よりも、著しく少なくする。このことは、第1の回折格子層から散乱される光と、第2の回折格子層から散乱される光とが、ゼロ次以外の奇数次透過オーダーの方向で相殺的に干渉するように、2つの回折格子層が設計される場合に、起きる。相殺的な干渉は、同じ方向に伝搬する2つの波の間で、位相差が90°より大きく270°より小さい場合に発生し、相殺的な干渉は位相差が180°の場合に最大となる。
【0017】
2つのバイナリ回折格子を用いることで、2つの回折格子層から散乱される場の間の相殺的な位相シフトを都合良く得ることができる。半分のデューティサイクルを有する(すなわち、回折周期内のより屈折率の高い領域とより屈折率の低い領域との、回折格子の周期方向における幅が等しい)2つのバイナリ回折格子が、第2の回転格子でより高い屈折率の領域の位置とより低い屈折率の領域の位置とが入れ替わっている点を除いて、同じである場合、第2の回折格子が生み出す奇数次反射オーダー及び奇数次透過オーダーの位相は、第1の回折格子が生み出す対応オーダーの位相と180°だけ異なる。したがって、回折格子が無限に薄く、かつ回折格子が互いに重なって配置されている場合には、2つの回折格子層が奇数次透過オーダー(奇数次反射オーダー)の方向に生み出す透過場(反射場)は、180°の位相差のために、相殺的に干渉するであろう。実際には、回折格子層は無限に薄くはなく、それ故に奇数次オーダーの方向の反射場間の180°の位相差はたやすく失われ、建設的干渉が起きる。入射場は第1の回折格子層から直接散乱するのに対し、第2の回折格子層については、入射場は最初に第1の回折格子層を通過し、それから場は第2の回折格子層から散乱し、次に散乱した場は第1の回折格子層を通過して伝搬し、最終的に散乱した場は第1の回折格子層から直接散乱された場と干渉するために、建設的干渉が起こる。奇数次透過オーダーに関しては、180°の位相差はより良く維持される。これは、第1の回折格子層から散乱される場は第2の回折格子層を通って進む必要があるのに対し、第2の回折格子層に関して入射場は第2の回折格子層から散乱される前に第1の回折格子層を通って進むためである。したがって、説明した2層の回折構造によって、この構造は依然としてかなりの量の光を、奇数次及び偶数次の反射オーダーに反射させながら、奇数次透過オーダーの回折効率を、透過光のレインボー効果が人間の目に見えないほど低いレベルまで低減することができる。この構造の明白な利点は、回折格子構造を適切に設計した場合に、あらゆる可視波長域で、奇数次透過オーダーの回折効率を低くできることである。
【0018】
説明した回折格子構造は、偶数次透過オーダーの回折効率を低減しないかもしれない。しかしながら、このことは通常問題とはならない。多くの用途において、回折周期はとても小さく、0次及び±1次以外のオーダーの回折効率は、ゼロであるか又は極めて小さいためである。
【0019】
本発明は、ゼロ次透過オーダーの回折効率が、可視波長域にわたって、波長域の影響をほぼ受けず、それ故に、光が回折格子構造を透過する際にカラーバランスの大幅な変化を引き起こさず、さらに目に見える画像ボケが発生しないように、2層の回折格子構造を設計できるという、更なる利点を有する。また、提案する構造は回折光学に基づくとともに確立した技術を用いて製造できるため、提案する構造は比較的安価に製造できる。
【0020】
第1の回折格子層及び第2の回折格子層の周期と、層の厚さと、屈折率とを適切に選択することで、ゼロ次以外の透過オーダーへ大幅に回折することなく可視光をゼロ次以外の反射オーダーへ回折する回折格子を製造することができる。その結果、光の可視波長域で、透過光によるレインボー効果は実質的に観察されないであろう。
【0021】
一実施形態によれば、第2の回折格子層の屈折率の少なくとも一方、好ましくは両方が、第1の回折格子層の屈折率と同じである。
【0022】
一実施形態によれば、第1の回折格子層及び第2の回折格子層の厚さを等しくする。このことで、少なくとも、回折格子層の内部構造(寸法及び屈折率)が類似している場合に、ゼロ次以外の透過回折オーダー、ひいてはレインボー効果を最大限に抑制することができる。
【0023】
あるいは、第1の回折格子層及び第2の回折格子層の材料特性が異なり、第1の回折格子層及び第2の回折格子層の厚さが相違する。このことは、使用可能な材料の選択に制限があって回折格子層同士を同一に製造できない場合に、有益である。さらに厚さを利用して、レインボー効果を最大限に抑制することができる。
【0024】
一実施形態によれば、第1の回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、第2の回折格子層のより低い屈折率を有する領域と完全に並ぶとともに、第1の回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、第2の回折格子層のより高い屈折率を有する領域と完全に並ぶ。特に、第2の回折格子層は、第1の回折格子層と類似する内部構造を有するが、回折格子の周期方向において、回折格子周期の半分だけ横方向に位置を変えて、完全に位置合わせすることができる。
【0025】
一実施形態によれば、第1の回折格子層及び/又は第2の回折格子層の領域の少なくともいくつかは、基板と同じ材料、又は基板と屈折率がほぼ等しい材料を含む。基板は微細加工部を含むことができ、微細加工部の上に回折格子層を製造することができる。製造技術のいくつかの例を、実施形態の詳細な説明で示す。
【0026】
一実施形態によれば、回折格子を基板の表面に設け、回折格子は回折格子の他方側に塗膜層を備え、それによって、第1の回折格子層及び/又は第2の回折格子層の領域の少なくともいくつかは、塗膜層と同じ材料を含む。
【0027】
一実施形態によれば、第2の回折格子層の屈折率の少なくとも1つ、好ましくは両方が、第1の回折格子層と同じである。屈折率の1つが同じである場合、屈折率を定める3つの異なる材料のみを用いて、回折格子の全体を製造することができる。屈折率の両方が同じである場合、屈折率を定める2つの異なる材料のみを用いて、回折格子の全体を製造することができる。その他の場合、屈折率を定める4つの異なる材料が必要になる。これらのバージョンの全てを、レインボー効果を低減するために用いることができる。したがって、回折格子の材料構成を、素子の他の要求によって決めることができる。
【0028】
典型的な構成では、両方の回折格子層の周期を、300ナノメートルから1500ナノメートルの間で等しくし、第1の回折格子層及び第2の回折格子層の厚さを5ナノメートルから200ナノメートルの間とする。第1の回折格子層及び第2の回折格子層のそれぞれにおいてより低い屈折率は典型的には1.3から1.7の間であり、第1の回折格子層及び第2の回折格子層のそれぞれにおいてより高い屈折率は1.5から2.2の間である。これらの回折格子層は、アルミニウム、金及び銀等の金属、イリジウムスズ酸化物(ITO)等の導電性酸化物、又は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフエン)(PEDOT)及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフエン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)等の導電性透明高分子を含むこともできる。
【0029】
上述したように、この回折格子は光取り出し回折格子として機能することができ、この光取り出し回折格子は、基板の透過性を維持しながら、基板の外側の導光基板から光取り出し回折格子へ向けられた光を回折するように構成される。したがって、回折格子及び基板は、光学ディスプレイ装置のためのコンバイナ要素としての機能を果たす。光を基板内へ、そして更に光取り出し回折格子へ導くために、かかる装置は典型的には、基板の異なる位置に配置される光取り込み回折格子も備える。さらに、光取り込み回折格子へ光を導くために、光源又はプロジェクタを設けることができる。したがって、十分に機能するヘッドアップディスプレイ(HUD)、ニアアイディスプレイ(NED)若しくは射出瞳拡大素子(EPE)、又はこれらの部品が提供される。
【0030】
上述した用途に加えて、この光学素子を、建設業、照明器具、又は眼鏡類等の視覚補助具の要素で使用することができる。この眼鏡類は、装飾用、安全用又は他の目的のための、眼鏡、サングラス及びスポーツグラス等である。例えば、建物の外側ではレインボー効果が見えるが、建物の内側ではレインボー効果が見えないガラスパネルを製造することができる。他の例を挙げると、偽造を防止することができ、又は、真正性を眼鏡類に表示して、この表示が一つの眼鏡類の外側からは見えるが、この表示が通常の使用の妨げとならないようにできる。
【0031】
コンバイナ要素を特に、航空産業のディスプレイ装置、自動車産業のディスプレイ装置、ゲーム用ディスプレイ装置若しくは拡張現実ディスプレイ装置、又は誘導手術若しくは組立ディスプレイ装置に設けることができる。
【0032】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態をより詳細に説明する。最初に、説明で使用する定義を行う。
【0033】
他で言及しない限り、下記の説明、実施例及び図面において、下記の定義を適用する。
【0034】
回折効率は、(厳密結合波理論としても知られる)フーリエモード法によって、回折格子が非偏光光を受ける状況に対応する、TE偏光及びTM偏光の平均として計算される。
【0035】
特に記載されている場合を除いて、すべての実施例において、回折格子周期は450ナノメートルであり、回折格子は垂直入射平面波により照射される。図面は必ずしも縮尺通りに描かれる必要はない。
【0036】
用語「透過的な」(例えば「透過的な」材料層)は、可視波長域450−650ナノメートルでの透過率が少なくとも50%である構造をいう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明に係る回折格子構造の全体像を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る回折格子構造を示す図である。
【
図3a】他の実施形態に係る回折格子構造を示す図である。
【
図3b】
図3aに係る、典型的な寸法及び屈折率を有する二重層回折格子構造に対する、自由空間波長の関数としての、1次反射オーダーの計算された回折効率(R
+1)及び1次透過オーダーの計算された回折効率(T
+1)を示す図である。
【
図3c】回折格子層を1層のみ含むが、その他の点では
図3bでモデル化した構造と同じである単一層回折格子構造に対する、自由空間波長の関数としての、1次反射オーダーの計算された回折効率(R
+1)及び1次透過オーダーの計算された回折効率(T
+1)を示す図である。
【
図4a】他の実施形態に係る回折格子構造を示す図である。
【
図4b】
図4aに係る、典型的な寸法及び屈折率を有する構造に対する、自由空間波長の関数としての、1次反射オーダーの計算された回折効率(R
+1)及び1次透過オーダーの計算された回折効率(T
+1)を示す図である。
【
図5a】金属メッキを用いて実現した別の実施形態に係る回折格子構造を示す図である。
【
図5b】
図5aに係る、典型的な寸法及び屈折率を有する構造に対する、自由空間波長の関数としての、1次反射オーダーの計算された回折効率(R
+1)及び1次透過オーダーの計算された回折効率(T
+1)を示す図である。
【
図5c】
図5bでモデル化された構造に対する、自由空間波長の関数としての、ゼロ次透過(T
0)オーダーの計算された回折効率を示す図である。
【
図5d】回折格子層を1層のみ含むが、その他の点では
図5bでモデル化した構造と同じである構造に対する、自由空間波長の関数としての、1次反射オーダーの計算された回折効率(R
+1)及び1次透過オーダーの計算された回折効率(T
+1)を示す図である。
【
図6】本発明に係る二重に周期的な回折格子構造の全体像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、本発明に係る2層の回折格子の全体構造を示す。回折格子は、第1の回折格子層11と第2の回折格子層12とを備える。両回折格子層は、同じ回折格子周期(Λ)を持ち、バイナリである。第1の回折格子層は、相違する屈折率n
11及びn
12をそれぞれ有する材料領域11A及び11Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。同様に、第2の回折格子層は、相違する屈折率n
21及びn
22をそれぞれ有する材料領域12A及び12Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。2層の回折格子の第1の側面に屈折率n
1を有する第1の光学的に透過的な材料層10を設け、回折格子の第2の側面に屈折率n
2を有する第2の光学的に透過的な材料層13を設ける。回折格子の一方又は両方の側面上の、層10又は13は、空気層(又は真空層)、すなわち材料が中実でない層を備えることもできる。
【0039】
単純化され、より実用性が高い構造を
図2に示す。この構造は、
図1と同様に、第1の回折格子層21と第2の回折格子層22とを備える。さらに、第1の回折格子層は、相違する屈折率n
11及びn
1をそれぞれ有する材料領域21A及び21Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。同様に、第2の回折格子層は、相違する屈折率n
21及びn
2をそれぞれ有する材料領域22A及び22Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。
図1との根本的な違いは、回折格子層21及び22の各側面上の、材料層20及び23がそれぞれ、回折格子領域21A及び22Aから途切れなく連続していることである。
【0040】
図3aに、さらに単純化した構造を示す。この構造は、
図1及び2と同様に、第1の回折格子層31と第2の回折格子層32とを備える。これらの回折格子層は、(各層内で)相違する屈折率 n 及びn
1 並びにn 及びn
2 をそれぞれ有する材料領域31A及び31B並びに32A及び32Bを互い違いにした周期的なパターンから構成される。この実施形態でも、回折格子層31及び32の各側面上の、材料層30及び33がそれぞれ、回折格子領域31A及び32Aから途切れなく連続している。この構成では、回折格子層31及び32のそれぞれの領域31B及び32Bでの材料は同じであり、それ故に領域31B及び32Bは同じ屈折率n を有する。
【0041】
材料領域31A及び32Aを同じ材料から製造すること、すなわちn
1 = n
2とすることも除外されず、それによって、提案する構造を製造するために異なる2つの材料のみが必要となるだろう。同様のことを、本明細書に記載された他の構造に対して適用できる。
図1を参照して、一実施形態によれば、第1の回折格子層のn
11領域(n
12領域)は、第2の回折格子層のn
21領域(n
22領域)と同じ屈折率を有する。この実施形態は、回折格子層の厚さが等しい場合に、奇数次透過回折オーダーを最適に抑制する。n
11 ≠ n
21 又はn
12 ≠ n
22 の場合には、回折格子層の厚さを異なるものとすることで、最適に抑制することができる。
【0042】
図3bは、
図3aに従うとともに、n
1= n
2 = 1.7, n = 1.3, h
1 = h
2 = 50 nm(ナノメートル)かつ Λ = 450 nm のパラメータを有する構造に対する、自由空間波長(λ
0)の関数としての、1次の透過オーダーの回折効率(T
+1)と、1次反射オーダーの回折効率(R
+1)とを示す。この構造は、垂直入射平面波により照射される。
図3cは、回折格子層を1層のみ含むことを除いて、
図3bでモデル化された構造と同じ構造に対する、同様の結果を示す。
図3bにおけるT
+1は、
図3cにおけるT
+1よりも明らかに弱い。本明細書で示すモデリング結果は全て、金属回折格子構造も有し、的確なフーリエ因数分解ルールを利用して良好に収束させる(厳密結合波理論としても知られる)フーリエモード法によって得られた。
【0043】
図4aは、互い違いにした材料領域41B及び42Bが、回折格子に対して垂直な方向で互いに重なり合う、モデル化した回折格子の構造を示す。したがって、実際の回折格子層41及び42の間に、屈折率n を有する材料からなる一体化した層が存在する。この実施形態でも、回折格子層41及び42の各側面上の、屈折率n
1及びn
2をそれぞれ有する、材料層40及び43がそれぞれ、回折格子領域41A及び42Aから途切れなく連続している。
【0044】
図4bは、
図4aに従うとともに、n
1= n
2 = 1.7, n = 1.3, h
1 = 50 nm, h
2 = 80 nmかつ Λ = 450 nmのパラメータを有する構造に対する、自由空間波長(λ
0)の関数としての、1次透過オーダーの回折効率(T
+1)と、1次の反射オーダーの回折効率(R
+1)とを示す。この構造は垂直入射平面波により照射される。
図3bと比較して、厚さ50ナノメートルの回折格子層の間の、厚さ30ナノメートルの均一な誘電体層が、R
+1 を高める。T
+1もわずかに増加するが、
図3cよりも依然として著しく小さい。
【0045】
図5aは、さらに他の実施形態を示す。この実施形態では、リッジ51Aが設けられるとともに薄層54Bを有する基板50によって、所望の二重回折格子を形成する。薄層54Bは、金若しくは銀等の金属、又はイリジウムスズ酸化物(ITO)等の高屈折率の材料からなり、各溝52Aの底部と、溝52A間に形成される各リッジ51A上とに設けられる。この構造の第2の側面上には、正反対に成形された層53及び52Aを設ける。
【0046】
図5bは、
図5aに従うとともに、n
1= n
2 = 1.5, n は波長に依存する銀の屈折率(CRC handbook of Chemistry and Physics, 83
rd edition), t = 50 nmかつ Λ = 450 nmのパラメータを有する構造に対する、自由空間波長(λ
0)の関数としての、1次透過オーダーの回折効率(T
+1)と、1次反射オーダーの回折効率(R
+1)とを示す。銀の領域の厚さは10ナノメートルであり、この構造は垂直入射平面波により照射される。
図5bは、同様の構造に対するゼロ次透過オーダーの回折効率を示す。平均スペクトルのゼロ次オーダーの透過率は60%を超える。
図5cは、銀の回折格子層を1層のみ含む構造に対する同様の結果を示す。(
図5bでモデル化した構造のように、n
1 = n
2 であり、この構造は、均一の誘電体層によって分離される2つの金属回折格子層からなると考えることができる。)
図5bと
図5cとを比較することで、1次透過オーダーに回折する光が、2層の回折格子構造では、単一層の構造よりも著しく少なくなることが明確に理解できる。
【0047】
これまでに説明した実施形態は、一方向のみに周期的である。説明した実施形態の全てを、(二重周期構造とも呼ばれる)二重に周期的な構造として実施することもできる。
図3aの構造の二重に周期的なバージョンを
図6に示す。なお、二重に周期的な回折格子の一単位セルのみを
図6に示す。この回折格子は、2層の回折格子層からなる。各回折格子層の単位セルは、高さ、幅及び奥行きが等しい4つの長方形の領域を含む。それぞれの層は、屈折率が異なる2つの材料からなる。各回折格子層の単位セルにおいて、長方形の材料領域は碁盤目状に配置される。回折格子層は、第1の回折格子層のより高い屈折率を有する領域が、第2の回折格子層のより低い屈折率を有する領域と並ぶとともに、第1の回折格子層のより低い屈折率を有する領域が、第2の回折格子層のより高い屈折率を有する領域と並ぶように、位置合わせされている。
【0048】
上述した全てにおいて、両回折格子層のリッジ部及び溝部の幅を等しくすることが好ましい。上述した実施例の全てにおいて、回折格子層の互い違いの領域が互いに、回折格子の横方向において、完全に並び、最適な性能をもたらしている。しかしながら、領域が部分的に並ぶ場合にも、例えば、最適な場所から回折格子の周期の4分の1未満だけずれている場合にも、この構造を機能させることが期待される。
【0049】
2つの回折格子層を、直接重ね合わせることができ、又は、典型的にはリッジ及び溝の幅よりも小さい、ある距離だけ離すこともできる。
【0050】
図2、3a、4a及び5aの構造の全てを、
a)屈折率n
1 を有する、光学的に透過的な底部基板を設け、
b)底部基板に一連の溝とリッジとを製造し、
c)溝に、屈折率n
11 又はn を有する光学的に透過的な材料の第1の領域を堆積して、第1の回折格子層を完成させ、
d)リッジ上に、屈折率n
21 又はn を有する光学的に透過的な材料の第2の領域を堆積し、
e)第2の領域同士の間に、任意に第2の領域の上にも均一な被覆層として、(n
1 と等しくすることができるが、等しくする必要は無い)屈折率n
2 を有する光学的に透過的な材料を任意に堆積する、
ことによって製造することができる。
【0051】
図3の構造について、製造工程(c)及び(d)を一度の堆積で行うことができる。すなわち、第1の回折格子の溝を屈折率n を有する材料で充填する際に、第2の回折格子層のリッジ領域を同時に形成する。
【0052】
機械彫刻、(熱)エンボス加工、レーザ(電子ビーム)製造、エッチング、又はナノインプリンティング等の材料堆積技術等の、任意の既知の微細加工技術を用いて、溝及びリッジを基板に設けることができる。
【0053】
好ましくは、回折格子層における、基板及び上部層とは屈折率が異なる材料領域の堆積を、グラビア印刷、リバースグラビア印刷、フレキソ印刷及びスクリーン印刷等の印刷方法、塗布方法、散布方法、又は、熱蒸着、スパッタリング及び原子層堆積等の周知の薄膜堆積方法を用いて行う。
【0054】
適切な、塗布方法、散布方法又は印刷方法によって、上部層を設けることができる。
【0055】
基板及び上部層の材料は、例えば、ガラス、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリカーボネート、アセチルセルロース、ポリビニルピロリドン又はエチルセルロースを含むことができる。
【0056】
他の材料領域は、例えば、ナフィオン(登録商標)のようなスルホン化フッ素重合体を含むことができる。
【0057】
材料及び屈折率を置き換えることもできる。
【0058】
図5aについて、例えば化学蒸着(CVD)等の蒸着方法、原子層堆積(ALD)又はこれらを任意に変更したものを用いて、金属含有層を堆積することができる。金属含有層の厚さを、例えば1−50ナノメートル、好ましくは5−20ナノメートルとすることができる。