(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シート状のフィルター要素と、前記フィルター要素を挟む入口側可撓性容器及び出口側可撓性容器と、前記入口側可撓性容器に設けられ、且つ処理前の血液を受け入れる入口ポートと、前記出口側可撓性容器に設けられ、且つ前記フィルター要素で処理された血液を排出する出口ポートと、を備えた血液処理フィルターであって、
前記フィルター要素と前記出口側可撓性容器との間に配置された流路確保シートと、
少なくとも前記フィルター要素と前記流路確保シートとをシールし、前記出口側可撓性容器と離間するように設けられた帯状の第一シール部と、
少なくとも前記入口側可撓性容器と前記出口側可撓性容器とをシールし、前記フィルター要素と流路確保シートとを囲むように設けられた環状の第二シール部と、を備え、
前記第一シール部は、前記出口ポートを挟んで対向配置された一対の側部と、前記一対の側部に接続された連絡部と、を有し、
前記連絡部は、下辺部及び上辺部を有し、
前記流路確保シートは、前記一対の側部よりも内側で、且つ前記出口ポートを挟んで対向配置された一対のリブと、前記一対のリブの内側で、且つ前記連絡部によって形成された凹部に連通するスリットと、前記一対のリブの外側で、且つ前記リブから前記側部にかけて連続して開口し、且つ前記下辺部から前記上辺部にかけて連続して開口すると共に、前記側部及び前記連絡部によって形成された凹部に連通する拡散開口部とを有し、
前記流路確保シートに設けられた前記リブは一対のみであり、
前記拡散開口部の前記リブから前記側部にかけての幅は、20mm〜30mmである、血液処理フィルター。
前記流路確保シートは、前記フィルター要素の濾過部の有効濾過面積に対する前記スリット及び前記拡散開口部の総面積の割合が30%〜97%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の血液処理フィルター。
前記フィルター要素の前記流路確保シート側に、前記出口ポート側への流れを確保するポストフィルター層を更に配置している、請求項1〜8のいずれか一項記載の血液処理フィルター。
前記第二シール部は、前記入口側可撓性容器と前記出口側可撓性容器との間で前記流路確保シートを挟んで密着している、請求項1〜10のいずれか一項記載の血液処理フィルター。
前記第一シール部は、前記入口側可撓性容器と前記流路確保シートとの間で前記フィルター要素を挟んで密着している請求項1〜11のいずれか一項記載の血液処理フィルター。
前記第一シール部は、前記フレームシートと前記流路確保シートとで前記フィルター要素を挟んだ状態で、前記フレームシート、前記フィルター要素、及び前記流路確保シートを帯状にシールして形成されている、請求項14記載の血液処理フィルター。
前記フレームシートと前記流路確保シートとが同一形状であり、回転対称であるため、前記入口側可撓性容器と前記出口側可撓性容器とを逆にして用いることができる、請求項14または15記載の血液処理フィルター。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の流路確保シートを備える血液処理フィルターでは、流路確保シートの各流路孔間におけるリブの部分に血液製剤が溜り、血液製剤の回収率が低下するという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、濾過流速を低下させることなく、血液製剤の回収率を向上させることができる血液処理フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは上記の課題を解決するために、血液処理フィルターの可撓性容器、フィルター要素、流路確保シート等の形状について研究し、流路確保シートを配置することの利点を損なうことなく、血液製剤の回収率を向上させることのできる血液処理フィルターを見出して課題を解決するに到った。
【0015】
すなわち、本発明の一態様は、シート状のフィルター要素と、前記フィルター要素を挟む入口側可撓性容器及び出口側可撓性容器と、前記入口側可撓性容器に設けられ、且つ処理前の血液を受け入れる入口ポートと、前記出口側可撓性容器に設けられ、且つ前記フィルター要素で処理された血液を排出する出口ポートと、を備えた血液処理フィルターであって、前記フィルター要素と前記出口側可撓性容器との間に配置された流路確保シートと、少なくとも前記フィルター要素と前記流路確保シートとをシールし、前記出口側可撓性容器と離間するように設けられた帯状の第一シール部と、少なくとも前記入口側可撓性容器と前記出口側可撓性容器とをシールし、前記フィルター要素と前記流路確保シートとを囲むように設けられた環状の第二シール部と、を備え、前記第一シール部は、前記出口ポートを挟んで対向配置された一対の側部と、前記一対の側部に接続された連絡部と、を有し、
連絡部は、下辺部及び上辺部を有し、流路確保シートは、一対の側部よりも内側で、且つ出口ポートを挟んで対向配置された一対のリブと、一対のリブの内側で、且つ連絡部によって形成された凹部に連通するスリットと、一対のリブの外側で、且つリブから側部にかけて連続して開口
し、且つ下辺部から上辺部にかけて連続して開口すると共に、側部によって形成された凹部に連通する拡散開口部と
を有し、流路確保シートに設けられたリブは一対のみであり、拡散開口部のリブから側部にかけての幅は、20mm〜30mmである。なお、本発明における血液とは、輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの血液製剤を含む。また、本発明における連通可能とは、血液を流している状態を想定した場合、または実際に流している場合において、出口側可撓性容器とその他の要素との間で密着していない連続した空隙が形成可能であることを意味する。
【0016】
この血液処理フィルターによれば、濾過時に入口側の陽圧と出口側の陰圧とによって二重の力が作用したとしても、流路確保シートの一対のリブが出口ポート近傍での密着を防ぎ、また、一対のリブの内側に形成されたスリットによって出口ポートまでの流路が確保される。その結果、流れが阻害されたり、濾過性能が低下されたりすることが回避される。また、拡散開口部を有するので、リブから側辺部までの連続した広い範囲を有効な濾過面として利用でき、血液製剤が滞り難くなり、血液製剤の回収率を向上させることができる。
【0017】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記一対のリブは、直線、折れ曲がった直線、曲線、または、これらいずれかの組み合わせであってもよい。
【0018】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記連絡部は、前記出口ポートを挟んで対向配置された一対の辺部を有し、前記スリットは、前記一対の辺部によってそれぞれ形成された凹部に連通していてもよい。
【0019】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記一対のリブは、前記出口ポートを囲むように先端が互いに接続していてもよい。
【0020】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記フィルター要素は、濾過部の有効濾過面積が、20×10
−4m
2〜70×10
−4m
2であってもよい。
【0021】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記流路確保シートは、前記フィルター要素の濾過部の有効濾過面積に対する前記スリット及び前記拡散開口部の総面積の割合が30%〜97%であってもよい。
【0022】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記一対のリブの間隔は、前記出口ポートの出口開口部の幅の0.1倍〜2倍であってもよい。
【0023】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記一対のリブの間隔は、0.5mm〜10mmであってもよい。
【0024】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記フィルター要素の前記流路確保シート側に、前記出口ポート側への流れを確保するポストフィルター層を配置していてもよい。
【0025】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記ポストフィルター層は、通気度180〜300cc/cm
2/sec、厚さ0.2〜2.0mmの不織布を1または複数枚積層して形成されたフィルター層であってもよい。
【0026】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記第二シール部は、前記入口側可撓性容器と前記出口側可撓性容器との間で前記流路確保シートを挟んで密着していてもよい。
【0027】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記第一シール部は、前記入口側可撓性容器と前記流路確保シートとの間で前記フィルター要素を挟んで密着していてもよい。
【0028】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記流路確保シートは、厚さが0.1mm〜3.5mmであってもよい。
【0029】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記フィルター要素と前記入口側可撓性容器との間に、開口部を有するフレームシートが配置されていて
おり、第一シール部は、入口側可撓性容器と離間するように設けられており、フレームシートは、第一シール部の一対の側部よりも内側で、且つ入口ポートを挟んで対向配置された一対のリブと、一対のリブの内側に形成された第一開口部と、一対のリブの外側に形成された第二開口部とを有していてもよい。
【0030】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記第一シール部は、前記フレームシートと前記流路確保シートとで前記フィルター要素を挟んだ状態で、前記フレームシート、前記フィルター要素、及び前記流路確保シートを帯状にシールして形成されていてもよい。
【0031】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記フレームシートと前記流路確保シートとが同一形状であり、回転対称であるため、前記入口側容器と前記出口側容器とを逆にして用いることができてもよい。
【0032】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記スリットの端から前記連絡部の前記スリット側の端までの距離は0〜4mmであってもよい。
【0033】
さらに、上記の血液処理フィルターでは、前記拡散開口部の端から前記第一シール部の前記側部の前記拡散開口部側の端までの距離は0〜4mmであってもよい。
【0034】
さらに、上記の血液処理フィルターは、平均処理速度が12.0g/分以上であると好適である。また、この平均処理速度は15.0g/分以上が好ましく、17.0g/分以上が更に好ましい。
【0035】
この平均処理速度は、前記血液の代わりに被処理液体を用い、300gの前記被処理液体を濾過前の液体貯留バッグに注入した後に空気を15mL注入し、前記液体貯留バッグから前記血液処理フィルターの入口までの上流側落差、前記血液処理フィルターの入口と出口との間の落差、及び前記血液処理フィルターの出口から液体回収バッグまでの下流側落差を合計した全落差を150cmで固定し、室温にて重力を用いて流した時の、回収量と総処理時間とから計算される平均処理速度である。また、前記被処理液体は、温度25℃で粘度17mPa・sであり、且つ、pH3.8に調製された重量平均分子量が36万のポリビニルピロリドン水溶液である。
【0036】
さらに、上記の血液処理フィルターは、処理終了後に前記血液処理フィルター内に残存する液体の残存量が30.0g以下であると好適である。また、この残存量は28.0g以下であると好ましく、26.0g以下であると更に好ましい。
【0037】
この残存量は、前記血液の代わりに被処理液体を用い、300gの前記被処理液体を濾過前の液体貯留バッグに注入した後に空気を15mL注入し、前記液体貯留バッグから前記血液処理フィルターの入口までの上流側落差、前記血液処理フィルターの入口と出口との間の落差、及び前記血液処理フィルターの出口から液体回収バッグまでの下流側落差を合計した全落差を150cmで固定し、室温にて重力を用いて流した時の、処理終了後(濾過終了後)の前記血液処理フィルター内に残存する前記被処理液体の量である。また、前記被処理液体は、温度25℃で粘度17mPa・sであり、且つ、pH3.8に調製された重量平均分子量が36万のポリビニルピロリドン水溶液である。
【0038】
さらに、本発明の一態様は、血液処理フィルターを用いる血液処理方法であって、前記血液処理フィルターは、シート状のフィルター要素と、前記フィルター要素を挟む入口側可撓性容器及び出口側可撓性容器と、前記入口側可撓性容器に設けられ、且つ処理前の血液を受け入れる入口ポートと、前記出口側可撓性容器に設けられ、且つ前記フィルター要素で処理された血液を排出する出口ポートと、を備えた血液処理フィルターであって、前記フィルター要素と前記出口側可撓性容器との間に配置された流路確保シートと、少なくとも前記フィルター要素と前記流路確保シートとをシールし、前記出口側可撓性容器と離間するように設けられた帯状の第一シール部と、少なくとも前記入口側可撓性容器と前記出口側可撓性容器とをシールし、前記フィルター要素と前記流路確保シートとを囲むように設けられた環状の第二シール部と、を備え、前記第一シール部は、前記出口ポートを挟んで対向配置された一対の側部と、前記一対の側部に接続された連絡部と、を有し、
連絡部は、下辺部及び上辺部を有し、流路確保シートは、一対の側部よりも内側で、且つ出口ポートを挟んで対向配置された一対のリブと、一対のリブの内側で、且つ連絡部によって形成された凹部に連通するスリットと、一対のリブの外側で、且つリブから側部にかけて連続して開口
し、且つ下辺部から上辺部にかけて連続して開口すると共に、側部によって形成された凹部に連通する拡散開口部と
を有し、流路確保シートに設けられたリブは一対のみであり、拡散開口部のリブから側部にかけての幅は、20mm〜30mmである。
【0039】
さらに、上記の血液処理フィルターは、前記フィルター要素の前記流路確保シート側に、前記出口ポート側への流れを確保するポストフィルター層を有し、前記血液処理フィルターを用いた血液処理方法では、前記ポストフィルター層内を流れる前記血液の流れのうち、前記スリットに重なる領域では前記出口ポートに向かう方向の流れが形成され、前記拡散開口部に重なる領域では、前記スリットに重なる領域よりも拡散した流れが形成されると好適である。
【0040】
さらに、上記の血液処理方法によって白血球を除去すると好適である。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、濾過流速を低下させることなく、血液製剤の回収率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態中で説明する血液とは、輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの血液製剤を含む。また、血液処理フィルターの外形は、矩形状、円盤状、長円盤状、楕円状などの様々態様を採用できるが、製造時の材料ロスを少なくするためには矩形状が好ましく、従って、以下の実施形態では矩形状を例に説明する。なお、各図面において同一又は対応する部分に対しては同一の符号を附し、重複する説明を省略する。
【0044】
まず、
図1を参照して、第1実施形態に係る血液処理フィルター1Aを形成する各部材について説明する。
図1に示されるように、血液処理フィルター1Aは、入口側容器(入口側可撓性容器)9、フレームシート10、フィルター要素5、流路確保シート7、及び、出口側容器(出口側可撓性容器)11の各要素を備えている。
【0045】
入口側容器9は、矩形シート状である。入口側容器9には、血液が流動する入口側回路102(
図10参照)を形成した際に処理前の血液を受け入れる入口ポート9aがシールされている。入口ポート9aには、処理前の血液を受け入れる入口流路9b(
図2,3参照)が形成され、さらに入口ポート9aには、入口流路9bと入口側容器9の内部とを連通する入口開口部9cが形成されている。なお、シールするとは、液体の漏洩を防止できる程度に接着(溶着含む)にて固定することを意味する。
【0046】
フレームシート10は、入口側容器9とフィルター要素5との間に配置されている。フレームシート10は、矩形シート状であり、入口ポート9aを挟んで対向配置された一対のリブ10aと、一対のリブ10aの内側に形成されたスリット状の第一開口部(開口部)10bと、一対のリブ10aの外側に形成された2つの第二開口部(開口部)10cと、を有している。
【0047】
フィルター要素5は、フレームシート10と流路確保シート7との間に配置されている。フィルター要素5は、所定の厚みを有する矩形シート状である。フィルター要素5は、入口側容器9に近い方から、プレフィルター層51、メインフィルター層52、及びポストフィルター層53の順番で積層されて構成されている。
【0048】
流路確保シート7は、フィルター要素5と出口側容器11との間に配置されている。流路確保シート7は、矩形シート状であり、出口ポート11aを挟んで対向配置された一対のリブ7aと、一対のリブ7aの内側に形成されたスリット7bと、一対のリブ7aの外側に形成された2つの拡散開口部7cと、を有している。流路確保シート7は、フレームシート10と同一形状である。
【0049】
出口側容器11は、矩形シート状である。出口側容器11には、出口ポート11aがシールされている。出口ポート11aには、血液が流動する出口側回路104(
図10参照)を形成した際に、フィルター要素5で処理された血液を排出する出口流路11b(
図2,3参照)が形成され、さらに出口ポート11aには、出口流路11bと出口側容器11の内部とを連通する出口開口部11cが形成されている。出口側容器11は、入口側容器9と同一形状である。
【0050】
次に、
図2、
図3、及び
図4を参照して血液処理フィルター1Aについて説明する。血液処理フィルター1Aは、可撓性容器3を備えている。可撓性容器3は、フィルター要素5を挟む入口側容器9及び出口側容器11を有する。可撓性容器3は、矩形扁平状の容器であり、扁平状とは、厚みが薄くて面が広い形状を意図する。
【0051】
流路確保シート7とフレームシート10とは、フィルター要素5の周縁に沿ってフィルター要素5を挟みつけた状態でシールされている。フィルター要素5の周縁に沿った帯状の接着領域は内側シール部(第一シール部)13である。内側シール部13は、入口側容器9及び出口側容器11のそれぞれから離間するように設けられている。
【0052】
内側シール部13は、入口ポート9a及び出口ポート11aを矩形環状に囲んでおり、下辺部(連絡部)13a、上辺部(連絡部)13b、及び一対の側辺部(側部)13cを備えている。一対の側辺部13cは、入口ポート9a及び出口ポート11aを挟んで対向配置されている。また、下辺部13a及び上辺部13bは、それぞれ入口ポート9a及び出口ポート11aを挟んで対向配置されるとともに、両端が一対の側辺部13cの両端に接続されている。
【0053】
可撓性容器3内における内側シール部13よりも内側の領域は血液が流動する濾過部となり、濾過部に面したフィルター要素5の一部分は有効濾過部分5a(
図6、
図7参照)になる。有効濾過部分5aの面積(有効濾過面積)は、20×10
−4m
2〜70×10
−4m
2であり、好ましくは35×10
−4m
2〜60×10
−4m
2であり、より好ましくは40×10
−4m
2〜55×10
−4m
2であり、さらに好ましくは40×10
−4m
2〜45×10
−4m
2である。有効濾過面積が20×10
−4m
2未満であると、血液製剤の回収率が損なわれ、濾過時間が長くなる可能性があり、一方で、70×10
−4m
2を超えると、血液製剤の回収率が損なわれる可能性がある。なお、可撓性容器3内における内側シール部13の外側には、フィルター要素5の端部であるはみ出し不織布部分5cが突き出している。
【0054】
入口側容器9、及び出口側容器11の周縁は、フレームシート10、及び流路確保シート7の周縁に重なり、帯状にシールされて矩形環状の外側シール部(第二シール部)15が形成されている。すなわち、外側シール部15は、入口側容器9と出口側容器11との間で流路確保シート7及びフレームシート10を挟んで密着している。なお、内側シール部13及び外側シール部15の形成は、高周波溶着を利用して行うことができるが、これに限定するものではなく、超音波溶着、熱溶着などのあらゆる接着技術を用いることができる。
【0055】
フィルター要素5及び流路確保シート7の出口側には、内側シール部13に対応して矩形環状の凹部6が形成されている。この凹部6は、下辺部13aによって形成された下辺凹部6a、上辺部13bによって形成された上辺凹部6b、及び側辺部13cによって形成された側辺凹部6cからなっている。
【0056】
入口側容器9及び出口側容器11は、内側シール部13に非接着であり、静置状態において内側シール部13から離間するように設けられている。出口側容器11は、多少の伸縮代はあるもののいくらでも伸びる素材ではない。このため、血液を流している状態(出口側陰圧状態)であっても、内側シール部13の近傍では凹部6が形成されていることによって、出口側容器11がフィルター要素5及び流路確保シート7に貼り付いて接触することなく、血液の通路領域S(
図8及び
図9参照)が確保される。
【0057】
流路確保シート7は、内側シール部13の内側に、一対のリブ7aと、スリット7bと、2つの拡散開口部7cと、を有している。スリット7bは、一対のリブ7aの内側で、2つの拡散開口部7cは、一対のリブ7aの外側である。出口開口部11cの幅L1に対して、一対のリブ7aは、リブ開口幅、即ちスリット7bの幅L2(一対のリブ7aの間隔)が出口開口部11cの幅L1とほぼ同じになるように形成されている。また、拡散開口部7cは、幅L5で形成されている。スリット7bの幅L2は、出口開口部11cの幅L1の0.1倍〜2倍であると好適である。また、スリット7bの幅L2は、例えば、0.5mm〜10mmであると好適であり、より好ましくは1〜5mmである。拡散開口部7cの幅L5は、例えば、5〜40mm、20〜35mm、20〜30mmであると好適である。
【0058】
一対のリブ7aは、一対の側辺部13cよりも内側で、且つ出口ポート11aを挟んで対向配置され、それぞれ、下辺部13aから上辺部13bにかけて連続している。また、スリット7b及び2つの拡散開口部7cは、それぞれ下辺部13aから上辺部13bにかけて連続して開口している。その結果として、スリット7b及び2つの拡散開口部7cはそれぞれ、下辺凹部6a及び上辺凹部6bの両方に連通している。さらに、2つの拡散開口部7cはそれぞれ、リブ7aから側辺部13cにかけて連続して開口している。このため、拡散開口部7cは、側辺凹部6cにも連通している。なお、スリット7b及び拡散開口部7cが凹部6に連通しているとは、スリット7b及び拡散開口部7cが形成する血液流路が、凹部6が形成する通路領域Sに面し、スリット7bと通路領域Sとの間、及び拡散開口部7cと通路領域Sとの間で血液が出入り自在であることを示す。
【0059】
このように流路確保シート7は、内側シール部13で囲まれた内側の部分において、2本のリブ7aを残し、実質的に全て切り取られた形状をなし、その結果としてスリット7b及び2つの拡散開口部7cが形成されている。フィルター要素5の有効濾過部分5aの面積に対するスリット7b及び2つの拡散開口部7cの総面積の割合は30%〜97%であり、好ましくは50%〜97%であり、より好ましくは60%〜97%であり、さらに好ましくは80%〜97%である。この割合が30%未満の場合、濾過流速を確保することはできても血液製剤の回収率が損なわれる可能性があり、97%を超えるとリブ7aが細くなり過ぎることにより、倒れたり捻じれたりするなどの不具合が発生しやすくなり、流路を確保するというリブ7aの機能が損なわれる可能性が大きくなる。また、7aの充分な強度が得られず、製造や形状維持が困難になる。なお、フレームシート10も同一の形状を有している。
【0060】
本実施形態では、出口ポート11aは、スリット7bに重なるように配置されているため、出口ポート11aは、血液を流している状態(出口側陰圧状態)において、スリット7bを介して、凹部6によって形成される血液の通路領域S(
図8及び
図9参照)に連通可能である。スリット7b及び拡散開口部7c同士は、通路領域Sを介して血液が出入り自在に連絡し、血液の流出入が安定して維持される(
図5参照)。
【0061】
入口側容器9にシールされた入口ポート9aは、内側シール部13の内側の領域に適宜に配置することができる。本実施形態に係る入口ポート9aは、内側シール部13の一対の側辺部13c間の中央であって、下辺部13aよりも上辺部13bに近い位置に配置されている。すなわち、本実施形態に係る入口ポート9aは、血液処理フィルター1Aを血液処理のために立てた状態において上側に配置されているが、これに限られない。
【0062】
出口側容器11にシールされた出口ポート11aは、一対のリブ7aに挟まれる位置であれば、内側シール部13の内側の領域に適宜に配置することができる。出口ポート11aの出口開口部11cは、少なくとも一部分が流路確保シート7のスリット7bに平面視で重なるように配置されている。これによって、血液が効率的に流れ、濾材としてのフィルター要素5を有効活用できる。本実施形態に係る出口ポート11aは、内側シール部13の一対の側辺部13c間の中央であって、上辺部13bよりも下辺部13aに近い位置に配置されている。すなわち、本実施形態に係る出口ポート11aは、血液処理フィルター1Aを血液処理のために立てた状態において下側に配置されているが、これに限られない。
【0063】
次に、
図5〜7を参照して、血液処理フィルター1Aにおける血液の流れについて説明する。フィルター要素5を一様に通過した血液の流れF0は、スリット7b及び拡散開口部7cから出口側容器11内に流出する。続いて、拡散開口部7cからは側辺凹部6cによって確保された通路領域Sに向かう血液の流れF1が形成される。続いて、通路領域Sを通じて側辺凹部6cから下辺凹部6aに向かう血液の流れF2が形成される。さらに、スリット7bを通じて通路領域Sから出口ポート11aに向かう血液の流れF3が形成される。
【0064】
ここで、
図8及び
図9を参照し、スリット7bの端7fから下辺部13aのスリット7b側の端13fまでの距離L3と流量との関係について説明する。
図8及び
図9は、血液を流している状態(出口側陰圧状態)での内側シール部13の下辺部13a近傍を拡大して示す断面図である。そして、
図8は、相対的に距離L3が短い場合であり、
図9は、相対的に距離L3が長い場合である。
【0065】
下辺部13a近傍では、下辺凹部6aが形成されている。その結果、出口側容器11が容易にフィルター要素5に貼り付いて接触することを防ぎ、通路領域Sが確保される。次に、通路領域Sから出口ポート11aに向かう血液の流れF3と距離L3との関係であるが、
図8に示す態様では距離L3が短いので、相対的に流路確保シート7が流れF3を阻害し難く、
図9で示す態様では距離L3が長いので、相対的に流路確保シート7が流れF3を阻害し易い。つまり、距離L3が所定の範囲を超えている場合には、通路領域Sが確保されていたとしても、血液の効率的な流れを阻害する可能性がある。
【0066】
ここで、血液の流れF3の流量を安定的に維持するという観点に立てば、距離L3は小さい(短い)方がよい。すなわち、スリット7bの面積のうち、下辺凹部6aによって確保される通路領域S内に配置される面積が大きいほどよい。しかしながら、スリット7bの一部分が内側シール部13にかかる(重なる)ようになると、内側シール部13の形成に支障を来たす可能性があるので、距離L3は“0”以上の距離、つまり、マイナス(負)にはならない距離である方がよい。
【0067】
また、拡散開口部7cから通路領域Sに向かう血液の流れF1(
図5参照)についても同様であり、流れF1の流量を安定的に維持するという観点に立てば、拡散開口部2cの端7gから側辺部13cの拡散開口部7c側の端13gまでの距離L4は、小さい(短い)方がよい。すなわち、拡散開口部7c(
図4参照)の面積のうち、側辺凹部6cによって確保される通路領域S内に配置される面積が大きいほどよい。しかしながら、拡散開口部7cの一部分が内側シール部13にかかる(重なる)ようになると、内側シール部13の形成に支障を来たす可能性があるので、距離L4は“0”以上の距離、つまり、マイナス(負)にはならない距離である方がよい。なお、本実施形態では、距離L3及びL4は等しくなるように形成されているが、異なっていてもよい。
【0068】
また、距離L3及び距離L4は0〜4mmであり、好ましくは、0〜3mmであり、より好ましくは0〜2mmであり、更に好ましくは0〜1.5mmである。流れ性を良くするためには0mmであることが好ましいが、フィルター成形時の位置合わせの精度が悪い工程では、不具合を低減するために0mmよりも大きくすることができる。
【0069】
流路確保シート7の厚さtは、通常、可撓性容器3と同程度のものを使用することができる。流路確保シート7の厚さtが厚い程、スリット7bのスリット幅L2が同じであっても、より大きな流路を確保することになり、また、出口側容器11の撓みによる閉塞の懸念が少なくなる。一方で、流路確保シート7の厚さtが厚い程、スリット7b内部の空間の増加により定性的には血液製剤のロス量が増加する傾向がある。このため、流路確保シート7の厚さtとしては、0.1mm〜3.5mmであるとよく、好ましくは0.1mm〜3.0mm、より好ましくは0.2mm〜2.5mmであるとよく、さらに好ましくは0.5mm〜2.0mm、0.5mm〜1.5mmであるとよい。流路確保シートの厚さtは、ポストフィルター層の有無を踏まえて、設計することが好ましい。
【0070】
次に、血液処理フィルター1Aに用いられる各要素の材料や形状について説明する。上述の通り、可撓性容器3は、入口側容器9及び出口側容器11によって形成される。可撓性容器3に用いる可撓性樹脂には、シートまたはフィルムとして市販されている材料を使用することができる。例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン、スチレンーブタジエンースチレン共重合体の水添物、スチレンーイソプレンースチレン共重合体またはその水添物等の熱可塑性エラストマー、及び、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が好適な材料として挙げられる。血液との接触が考えられるため、好ましくは血液バック等の医療品の材料として用いられている、軟質塩化ビニル、ポリウレタン、ポリオレフィン、及び、これらを主成分とする熱可塑性エラストマーであり、更に好ましくは軟質塩化ビニルである。
【0071】
なお、特に、赤血球製剤の製造方法では、遠心分離を行って血液成分を分離する工程を含むことが多いが、遠心分離機に収納する際、血液バック等の他の部材を傷つけないという観点から、可撓性容器3を備えた血液処理フィルター1Aを用いることが好ましい。また、蒸気透過性の良さから、滅菌性に優れるものとして可撓性容器3を備えた血液処理フィルター1Aが望まれる。さらに、可撓性容器3を備えた血液処理フィルター1Aは、硬質の容器のフィルターに比し、経済性にも優れている。また、可撓性容器3には、例えば、特開平7−267871号公報に記載されている容器や、国際公開第95/017236号パンフレットに記載されている容器などを用いることもできる。
【0072】
フィルター要素5は、不織布や織布などの繊維状集積体やスポンジなどの多孔質体からなるフィルター材料を用いて製造される。なお、本実施形態に係るフィルター要素5において、血液がフィルター材料に濡れ易くするために、親水性ポリマーをコーティングしてもよい。また、血液から白血球を除去するために血液処理フィルター1Aを用いるときには、白血球がフィルター要素5に付着し易くするために、ポリマーをコーティングしたフィルター材料を用いてもよい。
【0073】
また、フィルター要素5(
図1参照)は、入口側容器9に近い方から、例えば、プレフィルター層51、メインフィルター層52、及びポストフィルター層53の順番で積層されている。プレフィルター層51は、例えば、平均繊維径が数〜数十μmの不織布からなり、血液中の微小凝集物を補足する機能を有する。具体的には、プレフィルター層51は、通気度が180〜300(cc/cm2/sec)で厚さ0.2〜2.0(mm)の不織布を1または複数枚(例えば、2枚〜6枚)積層して形成できる。ここで、不織布の通気度に関しては、200〜280(cc/cm2/sec)が好ましく、220〜260(cc/cm2/sec)が更に好ましい。また、不織布の厚さに関しては、0.5〜1.5(mm)が好ましく、0.6〜1.2(mm)が更に好ましい。なお、比較的薄い不織布を使用する場合には、多数枚を積層して形成し、比較的厚い不織布を使用する場合には、少数枚を積層して形成すれば足りる。
【0074】
メインフィルター層52は、平均繊維系がプレフィルター層51よりも小さい不織布からなり、主として白血球や血しょう板を除去する機能を有する。具体的には、メインフィルター層52は、通気度が6.0〜9.0(cc/cm2/sec)で厚さ0.1〜1.0(mm)の不織布を数枚積層して形成できるが、比較的薄い不織布を使用する場合には、多数枚を積層して形成し、比較的厚い不織布を使用する場合には、少数枚を積層して形成すれば足りる。
【0075】
ポストフィルター層53は、例えば、平均繊維径が数〜数十μmの不織布からなり、通気度180〜300cc/cm
2/secで厚さ0.2〜2.0mmの不織布を1または複数枚(例えば、2枚〜6枚)積層して形成されたフィルター層である。ここで、不織布の通気度に関しては、200〜280(cc/cm
2/sec)が好ましく、220〜260(cc/cm
2/sec)が更に好ましい。また、不織布の厚さに関しては、0.5〜1.5(mm)が好ましく、0.6〜1.2(mm)が更に好ましい。なお、比較的薄い不織布を使用する場合には、多数枚を積層して形成し、比較的厚い不織布を使用する場合には、少数枚を積層して形成すれば足りる。ポストフィルター層53は、流路確保シート7側に配置され、出口ポート11a側への流れを確保する機能を有する。プレフィルター層51とポストフィルター層53とは、同じものであってもよい。なお、フィルター要素5は、単一のフィルター層であってもよい。
【0076】
本実施形態に係る血液処理フィルター1Aでは、ポストフィルター層53を有するので、適切な通気抵抗を有する血液流路を形成しつつ、血液処理フィルター1A内の血液製剤の残存量を減少させることができ、結果的に、流速を維持しつつ、回収率を高めるという効果を享受する上で更に有利である。また、本実施形態では多数のリブを有さず、出口ポート11aの周辺に2本のリブ7aのみを設けることでスリット7bの他に幅広の拡散開口部7cを形成した流路確保シート7を用いている。そして、本実施形態に係る流路確保シート7を用いた場合においては特に、流速を維持するために、ポストフィルター層53を設けることが効果的であり、ポストフィルター層53を積層する意義が一層大きくなる。
【0077】
流路確保シート7は、可撓性容器3と同様の材料を用いて製造でき、スリット7b及び拡散開口部7cは、適宜に打ち抜き加工、その他の方法で製造できる。フレームシート10は、流路確保シート7と同じく可撓性容器3と同様の材料を用いて製造でき、第一開口部10b及び第二開口部10cは、適宜に打ち抜き加工、その他の方法で製造できる。
【0078】
次に、第1実施形態に係る血液処理フィルター1Aを備えて構成される血液処理システム100について
図10を参照して説明する。
図10は、血液処理システムの概略を示す正面図である。
【0079】
血液処理フィルター1Aは、重力を用いての濾過に使用することができる。例えば、血液処理フィルター1Aを適用した血液処理システム100は、採血後の血液を入れた貯留バッグ101と、血液処理フィルター1Aと、濾過後の血液をためる回収バッグ103と、を備える。貯留バッグ101と血液処理フィルター1Aの入口ポート9aとは、血液チューブなどの導管102aによって互いに接続され、回収バッグ103と血液処理フィルター1Aの出口ポート11aとは、血液チューブなどの導管104aによって互いに接続されている。更に、上流側の導管102aには、流路を開閉するローラークランプなどの開閉手段102bやチャンバー102cなどが取り付けられており、導管102a、開閉手段102b、及びチャンバー102cなどによって入口側回路102が形成される。また、下流側の導管104aなどによって出口側回路104が形成される。
【0080】
そして、採血後の血液を入れた貯留バッグ101は血液処理フィルター1Aよりも30〜70cm高い位置に設置され、濾過後の血液をためる回収バッグ103を血液処理フィルター1Aよりも50〜120cm程度低い位置に設置されている。全落差は150cmである。血液処理システム100の流路を開放することで血液の濾過処理が行われる。濾過処理を行っている際(使用時)に、血液処理フィルター1Aの可撓性容器3の出口側では陰圧が発生し、出口側容器11は撓んでフィルター要素5に密着しようとする。しかしながら、
図5に示したように、フィルター要素5の出口側には凹部6が形成されているので、フィルター要素5と出口側容器11との間には血液流路となる通路領域Sが形成される。さらに、流路確保シート7のスリット7bの一部分は通路領域Sに配置され、通路領域Sは出口ポート11aに連絡しているので、スリット7bから出口ポート11aまでを結ぶ血液流路が閉塞することなく安定的に維持される。
【0081】
次に、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aの作用、及び効果について説明する。血液処理フィルター1Aでは、濾過時に入口側の陽圧と出口側の陰圧とによって二重の力が作用したとしても、流路確保シート7のスリット7bと出口ポート11aとの間で血液の流路が確保される。従って、血液処理フィルター1Aの出口側容器11とフィルター要素5との間の密着等により流れが阻害されたり濾過性能を低下されたりすることを回避し、フィルター要素5全体を有効に利用するうえで有利であり、高い濾過流速と高い濾過性能とを両立できる。
【0082】
特に、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aでは、流路確保シート7に形成されたスリット7b及び拡散開口部7cの少なくとも一部が、凹部6に連通して配置され、また、血液を流している状態において凹部6によって形成される通路領域Sに配置されているので、スリット7b及び2つの拡散開口部7cの全てが通路領域Sを介して連結されることになり、血液流路の閉塞に伴う濾過性能の低下を抑止できる。拡散開口部7cから流出した血液が通路領域Sに流れて拡散するため、出口ポート11aに集中するような流れの閉塞が生じない。このように出口側容器11内で血液の流れが均質となるため、フィルター要素5全体が有効に利用され、高い流速と高い濾過性能を同時に達成する。
【0083】
さらに本実施形態に係る血液処理フィルター1Aでは、出口ポート11aの出口開口部11cの少なくとも一部分がスリット7bに平面視で重なるように配置されているので、フィルター要素5によって処理された後の血液を血液処理フィルター1Aの外部へ効果的に排出でき、同時に、フィルター要素5によって出口開口部11cが閉塞する可能性も回避することができる。なお、出口ポート11aは、通路領域Sに平面視で重なるように配置されていてもよい。
【0084】
また、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aでは、内側シール部13に出口側容器11が含まれず、従って、内側シール部13近傍のフィルター要素5が可撓性容器3に挟まれて流れが阻害されることを防ぐことができる。そればかりでなく、内側シール部13に対応する凹部6によって通路領域Sが形成され、通路領域Sを血液流路として利用できる。このため、従来の血液処理フィルター、例えば、第1比較形態の血液処理フィルター1E(
図14参照)では、内側シール部113近傍のフィルター要素5周縁部分の濾材は血液が流れ難い傾向にあったのに対し、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aでは、内側シール部13近傍のフィルター要素5を効率よく利用することができる。
【0085】
なお、
図14に示されるように、血液処理フィルター1Eは、流路確保シート7及びフレームシート10を有さず、入口側容器109とフィルター要素105と出口側容器111とを重ね、内側シール部113及び外側シール部115が形成されている点で、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aと相違している。また、血液処理フィルター1Eの他の要素において、血液処理フィルター1Aと共通する点においては便宜上、同一の符号を付している。
【0086】
また、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aでは、流路確保シート7は、広い開口面積を有する拡散開口部7cを有するので、血液製剤が滞り難く、血液製剤の回収率を向上させることができる。
【0087】
また、本実施形態の血液処理フィルター1Aでは、流路確保シート7とフレームシート10とが同一形状であり、回転対称であると共に、出口側容器11と入口側容器9とが同一形状であり、回転対称である。さらに、フィルター要素5は、プレフィルター層51とポストフィルター層53とが同一で対称形であるため、出口側容器11と入口側容器9とを逆にして用いることができる。これによって、出入口を気にせずに使用することができる。また、部品材料の種類数が低減することによって、製造工程を簡易化することができる。
【0088】
また、本実施形態の血液処理フィルター1Aの流路確保シート7は、第2比較形態の血液処理フィルター1F(
図15参照)のものと比べて、リブ7aの本数が少なく、形状がシンプルである。流路確保シート7を打ち抜く際に必要な力は、打ち抜く線の総和に比例する。したがって、血液処理フィルター1Aによれば、流路確保シート7を打ち抜く際に必要な力が少なくて済み、加工が容易である。また、打ち抜き刃の劣化等が少なくなると共に、切りバリの発生が低減する。さらに、第2比較形態の血液処理フィルター1Fでは、流路確保シート7に多数(3本以上)のリブ7kが設けられているので打ち抜いた際の切り屑が細かく、且つ、数も多いため、切り屑が流路孔7hに挟まり易かったが、本実施形態の血液処理フィルター1Aでは、打ち抜いた際の切り屑が大きく、且つ、数も少ないため、このようなことが生じ難い。
【0089】
なお、第2比較形態に係る血液処理フィルター1Fは、本実施形態のリブ7aに対応するリブ7kに加え、そのリブ7kと幅L6が同じ複数のリブ7kを更に有し、内側シール部130の内側に複数のスリット状の流路孔7hを有している。血液処理フィルター1Fは、流路確保シート107のリブ7kの本数が異なる点で、本実施形態の血液処理フィルター1Aと相違している。また、血液処理フィルター1Fの他の要素において、血液処理フィルター1Aと共通する点においては便宜上、同一の符号を付している。
【0090】
以上の説明を整理する。つまり、血液処理フィルター1Fにおける多数の開孔を有する流路確保シート107を製造する場合と、血液処理フィルター1Aにおけるスリット7b及び拡散開口部7cを有する流路確保シート7を製造する場合とを比較した場合、血液処理フィルター1Aの方が打ち抜きの際に必要な力が小さくて済むため、製造上容易であり、経済的であるため好ましい。また、多数の開孔を打ち抜く血液処理フィルター1Fの場合、切り屑が発生しやすくなるが、血液処理フィルター1Aの場合、打ち抜く開孔数が少ないため、切り屑が発生しにくく、不良品が減るため好ましい。
【0091】
また、本実施形態の血液処理フィルター1Aは、フィルター要素5がポストフィルター層53を有している。血液処理フィルター1Aは、拡散開口部7cの開口面積が広いため、この部分のフィルター要素5が出口側容器11に貼り付き易いが、ポストフィルター層53の存在によって、血液の流れを確保することができる。これに対して、第1比較形態の血液処理フィルター1Eでは、凹部6による通路領域Sを有さず、血液の流れが出口ポート11aに集中するため、ポストフィルター層53の量を増やす必要があり、血液製剤のロス量が増える。
【0092】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、一対のリブ7aがそれぞれ下辺部13aから上辺部13bにかけて連続した直線からなり、スリット7bが下辺部13aから上辺部13bにかけて連続して開口するものを例示したが、リブが出口ポートを挟んで対向配置され、スリットが連絡部によって形成された凹部に連通するような態様であればよく、様々な形状をとり得る。
【0093】
図11は、変形例に係る血液処理フィルター1Dの平面図である。
図11に示されるように、一対のリブ7aは、上辺部13bまで連続せず、出口ポート11aを囲むように先端が互いに接続している。この場合、拡散開口部7cのリブ7aより上辺部13b側に位置する部分は、1対の側辺部13c間で連続したものとなる。血液処理フィルター1Dによれば、リブ7aが短くなる分、血液の溜まる部分が減少し、血液のロス量を減少させることができる。また、本実施形態及び変形例において、例えば、一対のリブ7aは、直線、折れ曲がった直線、曲線、または、これらいずれかの組み合わせであってもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、拡散開口部7cが同一形状の2つからなり、下辺部13aから上辺部13bにかけて連続して開口するものを例示したが、拡散開口部7cは側辺部13cによって形成された側辺凹部6cに連通するような形態であれば、様々な形状をとり得る。例えば、2つの拡散開口部7cが異なる大きさを有していてもよい。また、流路確保シート7が、リブ7aから側辺部13cまで連続する横リブを有し、拡散開口部7cが3つ以上の複数からなっていてもよい。
【0095】
また、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aを用いれば、高い平均処理速度を達成することが可能である。具体的には、以下の性能評価の為の試験を行った際に、少なくとも平均処理速度(g/分)が12.0g/分以上の結果を得ることができる。
【0096】
この試験では、例えば、上述の血液処理システム100を利用して血液処理フィルター1Aの性能評価を行う。具体的には、血液の代替として被処理液体を用い、300gの被処理液体を貯留バッグ(濾過前の液体貯留バッグ)101に注入した後に空気を15mL注入する。この被処理液体は、温度25℃で粘度17mPa・s、pH3.8に調製したポリビニルピロリドン(重量平均分子量36万)水溶液(和光純薬工業株式会社 K90/Wako Pure Chemical Industries, Ltd. K90)である。
【0097】
回収バッグ(液体回収バッグ)103を回収台に設置した状態において、貯留バッグ101を所定の高さに固定する。具体的には、貯留バッグ101から血液処理フィルター1Aの入口ポート9a(入口)までの上流側落差、血液処理フィルター1Aの入口ポート9aと出口ポート(出口)11aとの間の落差、及び血液処理フィルター1Aの出口ポート(出口)11aから回収バッグ103までの下流側落差を合計した全落差を150cmで固定する。
【0098】
血液処理システム100の設置が完了すると、室温(22℃±2℃)にて重力を用いて被処理液体を流した時の、回収量と総処理時間から平均処理速度を計算する。その結果、少なくとも平均処理速度(g/分)が12.0g/分以上の結果を得ることができた。この平均処理速度(g/分)は15.0g/分以上が好ましく、17.0g/分以上が更に好ましい。
【0099】
上記の平均処理速度(g/分)が12.0g/分以上の結果を得ることができた主な要因は、流路確保シート7のスリット7bと拡散開口部7cとの関係にあると考えられる。具体的には、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aでは、ポストフィルター層53が流路確保シート7に重なるように設けられている。また、出口ポート11aは、流路確保シート7のスリット7bに重なるように配置されている。スリット7bは縦長の開口であり、更に、出口ポート11aに重なるように設けられているので、スリット7bに重なる領域のポストフィルター層53内での被処理液体の主な流れは、スリット7bに平行、且つ出口ポート11a(出口開口部11c)に向けた方向の流れになる。一方で、拡散開口部7cは、一対のリブ7aの外側で、且つリブ7aから側辺部13cにかけて連続して開口すると共に、側辺部13cによって形成された凹部6に連通する。その結果、拡散開口部7cに重なる領域でのポストフィルター層53内での被処理液体の流れの向きは、一方向では無く、凹部6に向けて拡散した流れとなる。
【0100】
すなわち、拡散開口部7cに重なる領域では、リブ7aの中央部付近から最寄りの凹部6に向かって放射状に流れる作用と、重力を受ける場合は下向きに流れようとする作用が合わさって、凹部6に向けて拡散する流れとなる。ここで、血液の流速が大きいほど、重力による影響が相対的に小さくなり、放射状の流れに近くなる傾向にある。また、血液処理フィルター1Aを水平に設置した場合は、重力の作用をほぼ無視できるため、放射状の流れに近くなる。この拡散する流れは、血液処理フィルター1Aの構造によって達成されるものである。一方、第1比較形態の血液処理フィルター1Eでは流れが拡散せずに出口ポート11a(出口開口部11c)に集中する流れとなる。つまり、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aによれば、拡散開口部7cに重なる領域における拡散する流れの結果として濾材を余すところなく有効活用でき、その結果、平均処理速度(g/分)が12.0g/分以上を実現できたと考えることができる。
【0101】
また、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aを用いれば、血液処理終了後の血液処理フィルター1A内の血液残存量(ロス量)を低くすることができる。具体的には、以下の性能評価のための試験を行った際に、少なくとも濾過終了後の血液処理フィルター1A内の被処理液体の残存量が、30g以下の結果を得ることができる。
【0102】
この試験では、上述同様に、血液処理システム100を利用して血液処理フィルター1Aの性能評価を行う。更に、血液処理システム100の設置までは、上述の試験と同じであり、被処理液体及び15mLの空気を注入した貯留バッグ101から血液処理フィルター1Aの入口ポート9a(入口)までの上流側落差、血液処理フィルター1Aの入口ポート9aと出口ポート(出口)11aとの間の落差、及び血液処理フィルター1Aの出口ポート(出口)11aから回収バッグ103までの下流側落差を合計した全落差を150cmで固定する。
【0103】
血液処理システム100の設置が完了すると、室温(27℃)にて重力を用いて被処理液体を流した時の、濾過終了後の血液処理フィルター1A内の被処理液体の残存量を図る。その結果、少なくとも、残存量が30.0g以下の結果を得ることができた。この残存量は28g以下が好ましく、26g以下が更に好ましい。
【0104】
上記の残存量が30g以下の結果を得ることができた主な要因は、ポストフィルター層53を設置したことにあると考えられる。更に、液体の残存量を低減するために、出口側に配置された流路確保シート7のリブ7aの本数の影響が大きいと考えられる。
【0105】
次に、血液処理フィルター1Aを用いる血液処理方法の特徴について、説明する。血液処理フィルター1Aの上述した特徴により、フィルター要素5に、血液が均質に流れを偏りなく利用することを達成している。即ち、
図8に示されるようにL3が十分に小さな値であれば、凹部6によって形成される通路領域Sと、拡散開口部7cや一対のリブ7aにより形成される流路とが連通することで、
図5の流れF1、流れF2、流れF3を達成でき、
図7のように、フィルター要素5を均質に利用することができる。なお、
図5の流れF1は拡散開口部7cの領域でリブ7aから側辺部13cまたは下辺部13aや上辺部13bに向かう流れである。流れF2は通路領域Sを流れる流れである。また、流れF3はリブ7aにより形成される流路を流れる流れである。
【0106】
この時、
図5の流れF1は、出口側容器11とフィルター要素5との間に形成された空隙のみでなく、メインフィルター層52に比べて通液抵抗が小さいポストフィルター層53を通過して、通路領域Sに向かって拡散する流れを形成している。ここで、流れF1は、リブ7aに平行な方向以外の向きを有していることが好ましい。また、流れF2は、環状の通路領域Sを流れ、通路領域Sと一対のリブ7aの内側であるスリット7bにより形成される流路との連結部に向かう流れを形成し、流れF3は、一対のリブ7aにより形成される流路(スリット7b内の流路)中を出口ポート11aに向かう流れを形成する。
【0107】
本実施形態に係る血液処理方法において上記のような流れを形成することにより、同じフィルター要素5を用いた場合であっても、より高い平均処理速度(g/分)を達成することができる。高い平均処理速度(g/分)は、フィルター要素5をより均一に利用することによって達成でき、その結果、高い除去率を達成する事もできる。例えば、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aを白血球除去の目的で用いる場合、白血球除去率の向上に有利であり、従来の血液処理フィルターや白血球除去方法に比べ、より高い白血球除去率を実現できる。
【0108】
また、本実施形態に係る血液処理フィルター1Aは、流路確保シート7に一対のリブ7aを形成してスリット7bと拡散開口部7cを形成し、また、フィルター要素5の流路確保シート7側にポストフィルター層53を配置することで、通路領域Sを介してフィルター要素5の全面と出口ポート11aの連結を達成している。特に、一対のみのリブ7aを設けることで、同じフィルター要素5を用いた場合であっても、より小さなロス量(g)に抑えることができる。高い平均処理速度、濾過性能(白血球除去率)に加え、高い回収量(小さなロス量)を達成するためには、ポストフィルターの設置とその物性、流路確保シート7の設計(特に、L3の値、厚み、スリット、拡散開口部の大きさなど)を制御することが非常に有効である。
【0109】
また、本実施形態の血液処理フィルター1Aは、レトロプライミングを行う血液処理方法において好適に用いられる。レトロプライミングとは、血液処理の前処理方法であり、予め血液処理時とは逆方向に保存液を血液処理フィルターに通過させ、血液処理フィルターを湿潤化させて、システム内の空気を予め取り除いておく作業である。例えば、回収バック中の保存液を、血液処理フィルターに通して、貯留バックまで送り、貯留バック中の血液製剤を希釈して、その後、通常の血液処理を行うことが考えられる。もし、血液処理フィルター内に空気が残存したまま、血液処理を行うと、フィルター要素の濾過面積を有効に利用できないため、偏流れが起こり、流速、濾過性能の低下につながる。レトロプライミングを行うことで、血液処理前に血液処理フィルター内の空気を取り除くことができるため、流速を向上させ、濾過性能を維持することができる。また、血液処理後には、貯留バック中の空気によって、血液バックと血液処理フィルターを接続するチューブ内、もしくは、フィルター内に残存した血液製剤が押し出されるため、回収率を向上させることができる。本実施形態の血液処理フィルター1Aは、高い処理速度と回収率を両立するものであり、レトロプライミングを行う血液処理方法に用いることで、その性能を存分に発揮できる。
【0110】
また、本実施形態の血液処理フィルター1Aは、トップアンドボトムシステムの血液製剤に接続させて、血液処理を行う血液処理方法において好適に用いられる。献血された血液と抗凝固剤を混和した全血を遠心分離すると、上部に比重の軽い血漿層が、下部に主に比重の大きな赤血球からなる濃厚赤血球層が、それらの中間に、主に血小板と白血球からなるバフィコート層が形成される。そして、遠心分離を行った後に、血液バッグの上部出口から血漿を、下部出口から濃厚赤血球を、それぞれの別の容器に移送し、バフィコートのみを残す。この上部出口と下部出口を用いるシステムがトップアンドボトムシステムである。下部出口から移送された濃厚赤血球はヘマトクリット値が大きくそのままでは流れ性の観点から濾過を行うことが好ましくない。また、ヘマトクリット値が大きい血液製剤はシステムの系内に血液が残留しやすく、回収率も低下しやすい。本実施形態の血液処理フィルター1Aは、トップアンドボトムシステムの血液製剤に接続させて、濃厚赤血球製剤の処理を行う際に好適に用いることができる。また、濃厚赤血球のヘマトクリット値を小さくするために、濾過前に赤血球保存液を混和することが有効であるが、ここでレトロプライミングを行うことで、混和に加えて、系内の空気を濾過前血液バッグに移送して後の回収ステップに備えることができ、フィルターの湿潤化を同時に達成することができる。以上より、本実施形態の血液処理フィルター1Aは、トップアンドボトムシステムの血液製剤に接続させて、レトロプライミングを行う血球処理に好適に用いることができる。
【0111】
次に、
図12を参照して、第2実施形態に係る血液処理フィルター1Bについて説明する。血液処理フィルター1Bは、血液処理フィルター1Aと実質的に同一の要素や構造を備えているため、同一の要素や構造には同一の符号を付して詳しい説明は省略し、以下の説明では異なる要素や構造を中心に説明する。
【0112】
図12に示されるように、血液処理フィルター1Bは、フレームシート10がリブ10aを有さない点で、血液処理フィルター1Aと相違している。第一開口部10bと第二開口部10cとが全てつながり、1つの開口部10dを形成している。つまり、フレームシート10には、内側シール部13で囲まれた内側のほぼ全部分が切り取られたような形状にて1つの開口部10dが設けられている。
【0113】
血液処理フィルター1Bによれば、血液処理フィルター1A同様に、濾過時に入口側の陽圧と出口側の陰圧とによって二重の力が作用したとしても、凹部6により形成される通路領域Sによって、出口ポート11aは、流路確保シート7のスリット7b及び拡散開口部7cとの間で連通可能である。このため、出口側容器11とフィルター要素5との間の密着により血液の流れが阻害されたり、濾過性能を低下させられたりすることが回避される。
【0114】
また、血液処理フィルター1Bによれば、フレームシート10がリブ10aを有さないことにより、この部分における血液の溜まりがなく、血液製剤のロス量を減少させることができる。
【0115】
次に、
図13を参照して、第3実施形態に係る血液処理フィルター1Cについて説明する。血液処理フィルター1Cは、血液処理フィルター1Aと実質的に同一の要素や構造を備えているため、同一の要素や構造には同一の符号を付して詳しい説明は省略し、以下の説明では異なる要素や構造を中心に説明する。
【0116】
図13に示されるように、血液処理フィルター1Cは、フレームシート10を有さず、内側シール部13は、入口側容器9と流路確保シート7との間でフィルター要素5を挟んで密着している点で、血液処理フィルター1Aと相違している。
【0117】
血液処理フィルター1Cによれば、血液処理フィルター1A同様に、濾過時に入口側の陽圧と出口側の陰圧とによって二重の力が作用したとしても、凹部6により形成される通路領域Sによって、出口ポート11aは、流路確保シート7のスリット7b及び拡散開口部7cとの間で連通可能である。このため、出口側容器11とフィルター要素5との間の密着により血液の流れが阻害されたり、濾過性能を低下させられたりすることが回避される。
【0118】
また、フレームシート10を有さないので、その分のコストが削減される。また、入口側容器9が内側シール部13でシールされているため、濾過時にフィルター要素5の入口側の空間が陽圧で膨らみ難い。
【実施例】
【0119】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
[実施例]
【0120】
実施例は、上記の第1の実施形態に係る血液処理フィルター1A(
図3参照)に対応したフィルターを用いている。具体的には、入口側容器(入口側可撓性容器)と出口側容器(出口側可撓性容器)とフィルター要素とフレームシート、そして流路確保シートからなるフィルターを用いて、その入口ポートを、長さ50cmの入口側回路を介して濾過前液体貯留バッグと接続した。また該フィルターの出口ポートを、長さ100cmの出口側回路を介して濾過後液体回収バッグに接続した。入口側回路、出口側回路には、内径2.9mm、外径4.2mmの軟質塩化ビニル製のチューブを使用した。
【0121】
フィルターの作製に当たっては、内側シール部(第一シール部)の内側の縦の寸法を74cm、横の寸法を57cmとして有効濾過部分を長方形とし、角部分を曲線とし、有効濾過面積を42×10
−4(m
2)に合わせた。フィルター要素は血液を濾過する際の入口から出口にかけて、通気度237.3(cc/cm
2/sec)、厚さ0.2mmのポリエステル製不織布を4枚、通気度8.4(cc/cm
2/sec)、厚さ0.4mmのポリエステル製不織布を1枚、通気度7.7(cc/cm
2/sec)、厚さ0.20mmのポリエステル製不織布を32枚、通気度8.4(cc/cm
2/sec)、厚さ0.4mmのポリエステル製不織布を1枚、通気度237.3(cc/cm
2/sec)、厚さ0.2mmのポリエステル製不織布を4枚の順に積層したものを用いた。なお、通気度は日本工業規格JIS L-1096,6.27.1Aに基づく方法によって測定した。
【0122】
入口側容器、出口側容器、フレームシートおよび流路確保シートには、いずれも同じく厚さが0.4mmの可撓性シートを用いた。
【0123】
フレームシートと流路確保シートによりフィルター要素を挟み同時にシールすることで、内側シール部を形成した。次に、入口側容器と出口側容器により、フレームシートと流路確保シートにより内側シール部でシールされたフィルター要素を挟み、入口側容器、フレームシート、流路確保シート、出口側容器を同時にシールすることで、外側シール部を形成した。フレームシートおよび流路確保シートには、それぞれ同様に、内側シール部より内側となる部分に、幅が3mmで間隔が4mmのリブを2本垂直方向に作製し、左右対象となるよう配置した。フレームシートおよび流路確保シートの内側シール部より内側はリブを除いて全て流路孔とした。すなわち、フレームシートは、流路孔として、第一開口部及び2つの第二開口部を有する状態とし、流路確保シートは、流路孔として、スリット及び2つの拡散開口部を有する状態とした。
【0124】
入口ポートは、入口側容器にシールする際、入口ポートから可撓性容器内部へ血液が流出するための入口開口部を、内側シール部の上辺部の有効濾過部分側の端から2.4cm下方、内側シール部の一対の側辺部間の中央に配置するようにシールおよび組み立てを行った。また、出口ポートは、出口側容器にシールする際、フィルター要素で処理された後の血液が出口ポート内の出口流路へ流出するための出口開口部を、内側シール部の下辺部の有効濾過部分側の端から2.4cm上方の場所に配するようにシールおよび組み立てを行った。出口ポートの出口開口部は縦5mm、横4mmであり、内側シール部の一対の側辺部間の中央に配置した。すなわち、出口開口部とスリットとが連通するように組み立てを行った。
【0125】
上流側落差、血液処理フィルターの入口と出口間の落差、下流側落差とを合計した全落差を150cmで固定した後、被処理液体(血液の代替)として、粘度17mPa・s(25℃)、pH3.8に調製したポリビニルピロリドン(重量平均分子量36万)水溶液(和光純薬工業株式会社 K90)300gを濾過前液体貯留バッグに注入した後に空気を15mL注入し、室温にて重力を用いて流した。濾過後液体回収バッグは予め上皿天秤の上に載せておき、重量の変化を確認できるようにした。
【0126】
この時、該被処理液体を流し始めてから最初に濾過後液体回収バッグの入口に到達するまでに要した時間を測定し、これをプライミング時間(分)とした。また、該被処理液体を流し始めてから濾過前液体貯留バッグ内の全ての被処理液体が排出されて、濾過前液体貯留バッグに注入した後空気がフィルターに到達して、濾過後液体回収バッグの重量変換の重量増加が停止するまでに要した時間、すなわち全ての液体を濾過するに要した時間を測定し、総処理時間(分)とした。濾過後液体回収バッグ内に回収された液体の重量を測定し、回収量(g)とした。回収量と総処理時間から計算し平均処理速度(g/分)を求めた。濾過後液体貯留バッグに注入された300gと回収量の差異を計算により求め、ロス量(g)とした。
[比較例1]
【0127】
比較例1は、上述の第1比較形態に係る血液処理フィルター1E(
図14参照)に対応しており、入口側容器とフィルター要素と出口側容器とを重ね内側シール部を形成し、その後に引き続き外側シール部を形成したこと以外は、実施例と同じ方法で、流路確保シート及びフレームシートを有さない血液処理フィルターを組み立て、濾過を行った。
[比較例2]
【0128】
比較例2は、上述の第2比較形態に係る血液処理フィルター1F(
図15参照)に対応しており、流路確保シートとして、内側シール部の内側の11箇所に縦72mm、幅3mmのスリット状の流路孔を有するものを用いた以外は実施例と同じ方法で血液処理フィルターを組み立て、濾過を行った。なお、
図15では、フィルター要素、入口ポート、及び出口ポートを省略して示す。
【0129】
実施例、比較例1、及び、比較例2の結果をまとめて表1に示す。
【表1】
【0130】
実施例は、比較例1に比べ
て総処理時間が短縮し平均処理速度が向上している。これは、実施例では流路確保シートが用いられることにより、出口ポートと遠位にある濾材も有効に活用されて、また出口ポートの出口開口部が濾材に接触して閉塞するようなことがないためである。つまり、面方向の各部位から流出した液体は出口ポートの一点に向かい集中するのではなく、流路確保シートの拡散開口部によって拡散する方向で流れ内側シール部に対応する通路領域を流路として通過し、出口ポートの出口開口部と連結したスリットに再び流入して出口ポートを介してフィルター外へ排出された。また、実施例は、内側シール部及びリブといった血液製剤が溜り易い構造を有するが、ロス量は比較例1とほぼ同等であった。
【0131】
実施例は、比較例2に比べてロス量が減少している。つまり、回収率を向上している。これは、実施例では流路確保シートのリブの本数が少ないため、リブの部分に生じる血液製剤残りが減少したことによる。また、実施例は、プライミング時間、総処理時間及び平均処理速度が比較例2とほぼ同等であった。