特許第6190928号(P6190928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6190928-血漿中アミノ酸分析用標準液 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190928
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】血漿中アミノ酸分析用標準液
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20170821BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20170821BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20170821BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20170821BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20170821BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/483 Z
   G01N27/62 V
   G01N30/04 P
   G01N30/72 C
   G01N30/88 F
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-159826(P2016-159826)
(22)【出願日】2016年8月17日
(62)【分割の表示】特願2013-524740(P2013-524740)の分割
【原出願日】2012年7月19日
(65)【公開番号】特開2016-191721(P2016-191721A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2016年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-160364(P2011-160364)
(32)【優先日】2011年7月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】和光純薬工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌子
(72)【発明者】
【氏名】新保 和高
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛郎
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−532481(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0281361(US,A1)
【文献】 TrophAmine(R) Amino Acid Injection,B. Braun Medical Inc.,2012年
【文献】 PIRAUD, M et al.,Rapid Commun Mass Spectrom.,2005年,19,3287-3297
【文献】 SHIMBO, K et al.,Rapid Commun mass Spectrom.,2009年,23,1483-1492
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 27/62
G01N 30/00−30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の安定同位体で標識された、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びアスパラギンを含み、これらの中でタウリンの濃度が最も高濃度であることを特徴とする、
血漿中アミノ酸分析用内部標準液。
【請求項2】
1つ以上の安定同位体で標識された、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、オルニチン、エタノールアミン、グルタミン酸、3-メチルヒスチジン、セリン、ヒスチジン、及び、アルギニンを含み、これらの中でタウリンの濃度が最も高濃度であることを特徴とする、
血漿中アミノ酸分析用内部標準液。
【請求項3】
プロリンの濃度が最も低濃度であることを特徴とする、請求項1又は2記載の内部標準液。
【請求項4】
1つ以上の安定同位体で標識された、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びアスパラギンを含み、これらの中でプロリンの濃度が最も低濃度であることを特徴とする、
血漿中アミノ酸分析用内部標準液。
【請求項5】
1つ以上の安定同位体で標識された、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、オルニチン、エタノールアミン、グルタミン酸、3-メチルヒスチジン、セリン、ヒスチジン、及び、アルギニンを含み、これらの中でプロリンの濃度が最も低濃度であることを特徴とする、
血漿中アミノ酸分析用内部標準液。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の血漿中アミノ酸分析用内部標準液を凍結乾燥して得られる、
血漿中アミノ酸分析用内部標準物質。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の内部標準液又は内部標準物質を用いることを特徴とする、
血漿中アミノ酸の定量方法。
【請求項8】
質量分析計により測定することを特徴とする、
請求項7に記載の血漿中アミノ酸の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸分析用標準液、特に、外部又は内部標準物質用途の標準液、並びにそれらを用いたアミノ酸の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体内の代謝物は、遺伝的な要因だけでなく、環境的な要因も多く受けていることが判り、遺伝子やタンパク質の分析と同様に、これら代謝物の分析は、病気の診断や健康状態の指針として注目されている。中でも、アミノ酸やアミンなどのアミノ酸関連化合物は最も多く存在する代謝物群のひとつであり(例えば、非特許文献1)、その定量分析は古くから行われ、様々な分析方法が開発されてきた。
一方、定量分析においては、通常、分析対象化合物の測定点を挟んで複数の濃度の標準物質を分析して検量線を作製する、検量線法が一般的に用いられる。このような検量線法による定量分析では、既知濃度の外部標準を用いて濃度とシグナル(信号、具体的には、ピーク面積やピーク高さなどを表す)との相関を予め求め、そこで得られた情報(つまり、検量線)に基づいて検体試料中の濃度を求める。よって、検量線法を用いる定量分析においては、外部標準(基準)から得られる検量線が基準となるので、高精度な解析のためには定量用の標準品が極めて重要となる。そして、検量線法による定量分析を高精度に行うためには、いくつかの異なる濃度系列の標準品を用意し、実際に、それらを測定することで検量線を作製し、且つ、検体試料中の測定対象の濃度が検量線作製に使用した標準品の濃度間に入っていることが精度のよい定量をする上で重要となる。具体的には、検体試料中の対象の濃度が50μM(μmol/l)の検体であれば、25μMから75μMの標準品を用いるのが好ましい。更に、この際の標準品の検量点(測定点)の範囲は、狭い方が、濃度とシグナルとの直線性が確保されやすいため好ましい。より具体的に述べれば、1μMから100μMで検量点をとるよりも、25μMから75μMで検量点をとるのが好ましい。
【0003】
しかしながら、生体内のアミノ酸(アミノ酸関連化合物)は種類が多い。例えば、株式会社エスアールエルのアミノ酸分析の検査項目では、39種類のアミノ酸関連化合物を分析対象として挙げている(例えば、非特許文献2)。そして、生体内のアミノ酸濃度はアミノ酸の種類により大きく異なり、濃度の高いアミノ酸と濃度の低いアミノ酸では、100倍程度(2桁)の濃度差があることが知られている。そのため、既存の混合標準液[例えば、アミノ酸混合標準液AN-II型(コード番号:015-14461、011-14463)、B型(コード番号:016-08641、012-08643)、H型(コード番号:013-08391、019-08393)など(いずれも和光純薬工業株式会社より販売)]を用いて分析を行う際には、各アミノ酸関連化合物の濃度範囲に依存して、標準物質または検体試料の希釈が必要になる等、準備に手間を要するという課題があった。
一方、ヒト血漿中のアミノ酸に対する参照標準物質についての報告がなされているが(非特許文献3)、該報告における標準物質は、不特定多数のアメリカ人の男女100名から得た血漿を混合させた血漿プールであるため、ロット間による濃度値のバラツキを避けることはできなかった。また、これを標準液として用いてアミノ酸測定を行った場合、当該標準物質に含まれる各種アミノ酸の濃度は100人の平均値となっているため、検体のアミノ酸濃度が平均値を超えるものであった場合には、その濃度は検量線の範囲から外れ、測定精度において信頼性を欠いていた。更に、該標準物質は、アミノ酸以外の種々の生体物質を含むものであるため、これら物質による測定値への影響の可能性を否定できず、高精度な定量分析を行ための標準物質として用いるには課題を有していた。
【0004】
よって、測定するアミノ酸の種類に応じて濃度を調整する必要がなく、1つの溶液を適宜希釈したものを用いれば、生体由来の検体中の各種アミノ酸について高精度に定量できる検量線を作製し得る標準物質の開発が望まれていた。
さらにまた、検量線法を用いる定量分析法には、いわゆる、外部標準法と内部標準法などがあるが、内部標準物質についても外部標準物質と同様に、検体試料の特性に合わせて標準物質を設計することにより、定量精度を上げることが可能となる。特に質量分析計を検出器とした場合、試料中のマトリックス効果の影響は大きく、内部標準物質を使用することは、精度よく測定する上で非常に重要なものとなる。
この内部標準法を用いたアミノ酸の測定については、いくつかの研究が報告されているが(例えば、非特許文献4、5)、従来の内部標準物質は、濃度とシグナルとの直線性が悪いものもあり、これらを用いた場合にアミノ酸の測定の精度が良くない等の問題を有していた。そのため、このような問題を解消した内部標準物質の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2003/069328
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. D. Bennett, E. H. Kimball, M. Gao, R. Osterhout, S. J. Van Dien and J. D. Rabinowitz, Nat. Chem. Biol., 5, 593-599 (2009).
【非特許文献2】http://www.srl.info/srlinfo/kensa_ref_CD/KENSA/SRL6354.htm
【非特許文献3】http://www.nist.gov/cstl/analytical/organic/metabolitesinserum.cfm
【非特許文献4】Kazutaka Shimbo, Takashi Oonuki, Akihisa Yahashi, Kazuo Hirayama and Hiroshi Miyano, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2009; 23: 1483-1492.
【非特許文献5】E. A. McGaw, K. W. Phinney and M. S. Lowenthal. J Chromatogr A. 2010; 1217: 5822-5831.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、アミノ酸の定量を簡便に、精度良く実施することにある。より詳細には、血漿中に存在するアミノ酸の定量分析を簡便、高精度に分析するための、外部標準液、外部標準物質、内部標準液、及び、内部標準物質、並びに、それらを用いた血漿中アミノ酸の定量方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、先ず、6469検体のヒト血漿検体中のそれぞれのアミノ酸濃度を分析することによって基準となるヒト血漿中の各アミノ酸の濃度分布を統計学的に求めた。そして、該濃度分布を元に外部標準液を調製した。その結果、該外部標準液は、従来のものと異なり、外部標準液とこれを適宜希釈したものを用いて検量線を作製すればほとんどの検体中の各種アミノ酸濃度はこれらを用いた検量線内に入るようになるため、精度よく検体中のアミノ酸濃度を測定し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。更に、本発明者らは、例えば質量分析計を検出器とした液体クロマトグラフを用いる場合に、安定同位体で標識した特定のアミノ酸を内部標準物質として用いることにより、内部標準物質の濃度とシグナルとの関係が直線となり、高精度なアミノ酸分析が可能となることを見出し、本発明を完成する至った。
【0009】
すなわち、本発明の血漿中アミノ酸分析用外部標準液(以下、単に本発明の外部標準液と略記する場合がある)は、6469検体もの検体データから得た血漿中の各種アミノ酸濃度分布に基づいて、各種アミノ酸を実際の血漿中の濃度バランスで含有するものであり、当該標準液をアミノ酸の定量分析の検量線作製用に用いることにより、実際の血漿中アミノ酸濃度の最小濃度から最大濃度の大部分をカバーするような濃度差で検量線を作製することができ、その結果、従来よりも簡便で精度良くアミノ酸分析を行うことができるという効果を奏する。また、本発明の外部標準液は、例えば液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、超臨界流体クロマトグラフ法、電気泳動法、誘導結合プラズマ法等と質量分析を組みあわせた各種分離分析方法に適し、特に質量分析を組みあわせたクロマトグラフ法による各種アミノ酸の分離分析測定に適することを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「(1)下記A成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき0.0007M(mol/l)〜0.49M、及び(2)(i)下記B成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき、A成分から選ばれるアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の0.2〜0.9倍濃度、(ii)下記C成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき、A成分から選ばれるアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の0.1〜0.4倍濃度、且つ、B成分を含む場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度、又は、(iii)下記D成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき、A成分から選ばれるアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の0.05〜0.2倍濃度、且つ、B成分を含む場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度、且つ、C成分を含む場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度を含有する、血漿中アミノ酸分析用外部標準液;
[A成分]
バリン、グリシン、アラニン及びグルタミン
[B成分]
セリン、プロリン、スレオニン、タウリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシン
[C成分]
アスパラギン、オルニチン、アルギニン及びトリプトファン
[D成分]
グルタミン酸、メチオニン、シトルリン及びシスチンであることを特徴とする。
また、本発明の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「(1)A成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき0.0007M〜0.49M、及び
(2)B成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき、A成分から選ばれるアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の0.2〜0.9倍濃度含有する」ことを特徴とする。
また、本発明の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「上記外部標準液に、更に、C成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき、A成分から選ばれるアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の0.1〜0.4倍濃度、且つ、B成分のアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度含有する」ことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「上記外部標準液に、更に、D成分から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を、一つにつき、A成分から選ばれるアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の0.05〜0.2倍濃度、B成分のアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度、且つ、C成分のアミノ酸のうち最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度含有する」ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「バリンと、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、及びシトルリンの少なくとも1つとを含んでなり、バリンを0.0003M〜0.49M、ロイシンを含む場合にはバリンの0.1〜1倍未満濃度、イソロイシンを含む場合にはバリンの0.05〜0.7倍濃度、フェニルアラニンを含む場合にはバリンの0.1〜0.6倍濃度、チロシンを含む場合にはバリンの0.1〜0.7倍濃度、ヒスチジンを含む場合にはバリンの0.1〜0.8倍濃度、トリプトファンを含む場合にはバリンの0.1〜0.6倍濃度、且つ、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン又はヒスチジンを含む場合には、これらの1倍未満濃度、シトルリンを含む場合にはバリンの0.01〜0.3倍濃度、且つ、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン又はトリプトファンを含む場合には、これらの1倍未満濃度含有する」ことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の別の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「バリンと、ロイシン及びイソロイシンの少なくとも1つとを含んでなり、バリンを0.0003M〜0.49M含有し、ロイシンを含む場合にはバリンの0.1〜1倍未満濃度、イソロイシンを含む場合にはバリンの0.05〜0.7倍濃度含有する」ことを特徴とする。
【0014】
さらにまた、本発明の別の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「上記標準液に、更に、フェニルアラニン及びチロシンの少なくとも1つを含んでなり、フェニルアラニンを含む場合にはバリンの0.1〜0.6倍濃度、チロシンを含む場合にはバリンの0.1〜0.7倍濃度含有する」ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の別の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「上記標準液に、更に、ヒスチジン及びトリプトファンの少なくとも1つを含んでなり、ヒスチジンを含む場合にはバリンの0.1〜0.8倍濃度、トリプトファンを含む場合には、バリンの0.1〜0.6倍濃度、且つ、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン又はヒスチジンを含む場合には、これらの1倍未満濃度含有する」ことを特徴とする。
【0016】
更にまた、別の本発明の別の一形態において、血漿中アミノ酸分析用外部標準液は、「上記標準液に、更に、シトルリンを含んでなり、シトルリンをバリンの0.01〜0.3倍濃度、且つ、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン又はトリプトファンを含む場合には、これらの1倍未満濃度含有する」ことを特徴とする。
【0017】
つまり、本発明は、従来の市販のほぼ一律濃度のアミノ酸を混合して調製した外部標準物質とは異なり、実際のヒトの血漿中のアミノ酸存在濃度の比率(アミノ酸バランス)に合わせて調製した外部標準液を提供することができ、該外部標準液から数個〜10個程度の希釈液を調製し、これらを用いれば、ヒトの血漿中のアミノ酸の定量分析のための各種アミノ酸の検量線を作製することができ、当該外部標準液をアミノ酸の定量方法の標準液として用いることによって、生体内のアミノ酸の定量を、従来の標準物質を用いた場合と比較して、簡便で精度よく分析することができる。
【0018】
また、本発明の血漿中アミノ酸分析用内部標準液(以下、単に本発明の内部標準液と略記する場合がある)は、濃度とシグナルとの間で良好な直線性を示すため、高精度なアミノ酸測定を可能とし、且つ、クロマトグラフ法において用いた場合、内部標準液中のアミノ酸と測定対象となるアミノ酸の保持時間に差がほとんどないため、測定を可能とするという効果を奏するものである。
【0019】
本発明の内部標準液は、「1つ以上の安定同位体で標識された、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン及びタウリンを含むこと」を特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の内部標準液は、「1つ以上の安定同位体で標識された、プロリン、グリシン、バリン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びアスパラギンを含むこと」を特徴とする。
【0021】
さらにまた、本発明の内部標準液は、「1つ以上の安定同位体で標識された、プロリン、グリシン、バリン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、オルニチン、エタノールアミン、グルタミン酸、3-メチルヒスチジン、セリン、ヒスチジン、及び、アルギニンを含むこと」を特徴とする。
【0022】
本発明は、血漿中アミノ酸の特性に合わせた、例えば、クロマトグラフ法において保持時間の差異がほとんどなく、且つ濃度とシグナルとの関係が直線に保たれるという効果を奏する内部標準液を提供するものであり、上記の如き本発明の内部標準液をアミノ酸の定量方法に用いると、生体内のアミノ酸の定量を簡便で高精度に分析することが可能となる。
【0023】
本発明のさらにまた別の視点において、本発明のアミノ酸の定量方法は、「上記外部標準液若しくは外部標準物質を用いること」を特徴とし、また、「上記外部標準液若しくは外部標準物質に、更に、内部標準液又は内部標準物質を用いること」を特徴とし、さらにまた、「上記内部標準液又は内部標準物質を用いること」を特徴とする。このようにすることにより、血漿中のアミノ酸の定量を簡便且つ精度よく分析することができる。また、本発明の定量方法においては、特に、質量分析計により測定することが好ましい。したがって、本発明のアミノ酸の定量方法は、従来の外部標準物質又は/及び内部標準物質を用いた場合に比較して、血漿中のアミノ酸の定量を簡便に分析できるだけでなく、格段に優れた精度で分析することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の標準液は、6469検体ものヒト血漿検体を個々に分析したデータを元にヒト血漿中の各種アミノ酸の濃度分布を統計学的に求め、それに準じて各種アミノ酸濃度を設定している。よって、ヒト血漿中アミノ酸の標準誤差が非常に低く、該標準液及びこれを適宜希釈したものをアミノ酸の定量分析用の検量線作製のために用いることで精度の高い測定を可能とする。また、従来の標準液は、ほぼ同一濃度のアミノ酸を混合した混合溶液であったため、各種アミノ酸の測定濃度範囲が作製する検量線の範囲内に入るようにするためには、非常に多くの検量点で測定を行う必要があった。しかし、本発明の標準液においては、上記のように多量のヒト血漿検体を分析したデータを元にアミノ酸濃度を設定しているため、これを特定の複数の希釈倍率で希釈する一連の操作(数個から10個以内の希釈系列の作製)を一旦行えば、分析対象とする血漿中の各種アミノ酸濃度に合わせた検量線用標準液を簡便に提供することができる。その結果、検量点を減らし、簡便な測定を可能とし、更に、精度の高い定量分析を可能とする。
【0025】
また、本発明の内部標準液は、従来のアミノ酸の内部標準液と比較して、これを適宜希釈して用いれば濃度とシグナルとの関係が直線性になるため、高精度なアミノ酸測定を可能とする。特にクロマトグラフ法において用いた場合、内部標準液中のアミノ酸と測定対象となるアミノ酸の保持時間に差がほとんどないため、高精度な測定を可能とする。
【0026】
更に、本発明の血漿中アミノ酸の測定方法においては、上記本発明の外部標準液と、本発明の内部標準液とを組み合わせて用いることで、より精度の高い定量分析を可能とする。
従って、本発明は血漿中アミノ酸の定量分析において極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実験例1で測定した各種アミノ酸の、平均濃度、最大濃度、最小濃度、平均濃度+2SD(標準偏差)及び平均濃度−2SD(標準偏差)、実施例1で調製した本発明の外部標準液(濃度1及び濃度5)、並びに比較例1で調製した従来のアミノ酸混合標準液(濃度1’及び濃度5’)の濃度分布について表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の血漿中アミノ酸分析用外部標準液(本発明の外部標準液)
本発明の外部標準液は、検量線法を用いる定量分析法で採用する、いわゆる、外部標準のために用いられるものであり、具体的には、測定対象のヒトの生体試料中の各種アミノ酸の存在濃度の比率に合わせて、標準物質(基準)としての複数のアミノ酸製品(市販品)を調製して混合した溶液であり、外部混合標準液ともいう。
本発明の外部標準液を用いて測定するアミノ酸としては、例えば、バリン(Val)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、グルタミン(Glu)、セリン(Ser)、プロリン(Pro)、スレオニン(Thr)、タウリン(Tau)、ロイシン(Ler)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、アスパラギン(Asn)、オルニチン(Orn)、アルギニン(Arg)、トリプトファン(Trp)、グルタミン酸(Glu)、メチオニン(Met)、シトルリン(Cit)、シスチン(Cys)、α-アミノ酪酸(ABA)、エタノールアミン(EtOHNH2)、ザルコシン(Sar)、γアミノ酪酸(GABA)、β-アミノイソブチル酸(β-AiBA)、ヒドロキシプロリン(HyPro)、アスパラギン酸(Asp)、α-アミノアジピン酸(α-AAA)、ヒドロキシルリジン(HyLys)、1-メチルヒスチジン(1MeHis)、3-メチルヒスチジン(3MeHis)、カルノシン(Car)、アンセリン(Ans)等が挙げられるが、特に、バリン(Val)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、グルタミン(Glu)、セリン(Ser)、プロリン(Pro)、スレオニン(Thr)、タウリン(Tau)、ロイシン(Ler)、イソロイシン(Ile)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、アスパラギン(Asn)、オルニチン(Orn)、アルギニン(Arg)、トリプトファン(Trp)、グルタミン酸(Glu)、メチオニン(Met)、シトルリン(Cit)、シスチン(Cys)等が好ましい。
【0029】
本発明の外部標準液は、測定するアミノ酸に応じて、上記アミノ酸より適宜選択されるが、下記A成分に含まれるアミノ酸を少なくとも1つ含み、且つ、下記B〜D成分に含まれるアミノ酸を少なくとも1つ含むものである。具体的には、A成分に含まれるアミノ酸を少なくとも1つ含み、且つ、B成分に含まれるアミノ酸を少なくとも1つ含むものが好ましく、更に、C成分に含まれるアミノ酸を少なくとも1つ含むものが好ましく、更に、D成分に含まれるアミノ酸を少なくとも1つ含むものが好ましい。
【0030】
[A成分]
バリン、グリシン、アラニン及びグルタミン
[B成分]
セリン、プロリン、スレオニン、タウリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシン
[C成分]
アスパラギン、オルニチン、アルギニン及びトリプトファン
[D成分]
グルタミン酸、メチオニン、シトルリン及びシスチン
上記A成分の中でも、バリンが好ましい。
上記B成分の中でも、セリン、プロリン、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びチロシンが好ましく、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシンがより好ましい。
【0031】
上記C成分の中でもトリプトファン、アスパラギンが好ましく、トリプトファンがより好ましい。
上記D成分の中でもシトルリン、メチオニンが好ましく、シトルリンがより好ましい。
【0032】
尚、本願発明の外部標準液は、上記A〜D成分以外のアミノ酸として、エタノールアミン、ザルコシン、γアミノ酪酸、、β-アミノイソブチル酸、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、α-アミノアジピン酸、ヒドロキシリジン、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、カルノシン、アンセリン又はα-アミノブチル酸(以下、E成分と略記する)を含んでいてもよい。
【0033】
上記A〜Dの成分は、ヒトの血漿中に存在するアミノ酸の存在濃度の比率に合わせて分類したものであり、A成分、B成分、C成分、D成分の順でヒトの血漿中のアミノ酸の存在濃度が低くなる。このグループ分けは、ヒトの生体試料中のアミノ酸の存在濃度の比率に合わせたものであるが、より具体的には、単に平均存在濃度の比率に合わすことだけでなく、(1)存在濃度の中央値、最大値及び最小値などを考慮して、存在濃度の最大値が高いアミノ酸については平均存在濃度の比率より高めに設定し、存在濃度の最小値が低いアミノ酸については平均存在濃度の比率より低めに設定する、(2)アミノ酸の濃度分布を考慮して、平均存在濃度より高い濃度に多く分布している場合は平均存在濃度の比率より高めに設定し、平均存在濃度より低い濃度に多く分布している場合は平均存在濃度の比率より低めに設定する、又は、(3)これらの複数の要素を総合的に考慮して設定する等によりなされる。具体的には、例えば、タウリンの場合、単に平均存在濃度の比率に合わせるとグループCに属するが、存在濃度の最大値が高いため、グループCではなく高濃度のグループBに設定されるのが好ましい。また、イソロイシンの場合、単に平均存在濃度の比率に合わせるとグループCに属するが、アミノ酸分布によれば、平均存在濃度よりも高い濃度で存在することが多いため、グループCよりも高濃度のグループBに設定されるのが好ましい。
【0034】
尚、ヒトの血漿中に存在するアミノ酸の存在濃度は、多数の検体を用いて得たデータを元に求めればよいが、検体数が多ければ多い程高い精度で、より実際のヒト血漿中濃度を反映した好ましい外部標準液となる。本発明の外部標準液におけるアミノ酸の濃度比は、6469検体を用いて算出されたものであり、標準誤差の少ない優れたものである。尚、一般に、標準偏差σ、要素数Nの母集団からn個の標本を抽出するとき、標本平均の標準誤差は、√((N-n)/(N-1))*(σ/√n) により推定され、Nが十分大きい場合には、σ/√n により推定される。6469検体から濃度データを算出した場合、例えば300検体から濃度データを算出した場合と比較して、標本平均の標準誤差は約0.22倍となり、より標準誤差の少ないデータが得られることが判る。
【0035】
上記A〜D成分のアミノ酸群の具体的なモル濃度比、並びに好ましいモル濃度は、以下の表のようになる。尚、表中、グループAを1とした時のモル濃度比及び好ましいモル濃度比については、A成分が1つの場合には、そのアミノ酸を1とした時のモル濃度比であり、A成分が複数ある場合には最も低濃度のアミノ酸を1とした時のモル濃度比を表す。また、C成分の“但し、グループBの1倍未満”とは、本発明の外部標準液がB成分を含み、B成分が1つの場合には、そのアミノ酸濃度の1倍未満濃度、B成分が複数の場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度となることを表す。D成分の“但し、グループBの1倍未満、且つ、グループCの1倍未満”とは、本発明の外部標準液がB成分を含み、B成分が1つの場合には、そのアミノ酸濃度の1倍未満濃度、B成分が複数の場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度であって、且つ、本発明の外部標準液がC成分を含み、C成分が1つの場合には、そのアミノ酸濃度の1倍未満濃度、C成分が複数の場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度となることを表す。
【0036】
【0037】
また、本発明の外部標準液中のグループA成分の濃度は、通常、0.0007M〜0.49Mである。その下限は、グループA成分の中で平均濃度+2SDが最も高いグルタミンの767.7μMよりも濃度が高い0.0008M以上が好ましく、グループA成分の中で最大濃度が最も高いグルタミンの1276.9μMよりも濃度が高い0.0013M以上がより好ましい。上限は、0.1M以下が好ましく、0.05M以下がより好ましい。グループB〜Cは、グループAに対するモル濃度比が上記表の範囲となるように設定されればよい。
【0038】
尚、本発明の外部標準液が上記E成分を含む場合、E成分の濃度は、本発明の外部標準液が、B成分を含む場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度、且つ、C成分を含む場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度、且つ、D成分を含む場合には、そのうちの最も低濃度のアミノ酸の1倍未満濃度となるようにして設定されればよい。
【0039】
本発明の外部標準液は、保存時には、A成分及びB成分と、D成分又は/及びE成分とを共存させないことが好ましい。具体的には例えば、本発明の外部標準液としてA〜E成分全てを含むものを使用する場合、A成分、B成分及びC成分とD成分及びE成分とに分けて保存し、使用時に必要量を混合してA〜E成分全てを含む外部標準液に調製して用いるのが好ましい。
【0040】
本発明の外部標準液に含まれるアミノ酸の好ましい具体例としては、例えば、バリンと、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン及びシトルリンの何れか少なくとも1つとを含むものが挙げられる。その中でも、バリンと、ロイシン及びイソロイシンの少なくとも1つを含むものが好ましく、バリンと、ロイシン及びイソロイシンの少なくとも1つと、フェニルアラニン及びチロシンの少なくとも1つとを含むものがより好ましく、バリンと、ロイシン及びイソロイシンの少なくとも1つと、フェニルアラニン及びチロシンの少なくとも1つと、ヒスチジン及びトリプトファンの少なくとも1つとを含むものが更に好ましく、バリンと、ロイシン及びイソロイシンの少なくとも1つと、フェニルアラニン及びチロシンの少なくとも1つと、ヒスチジン及びトリプトファンの少なくとも1つと、シトルリンとを含むものが特に好ましい。
【0041】
バリンと、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン及びシトルリンの何れか少なくとも1つからアミノ酸を選択して外部標準液とする場合、それぞれの濃度比及び好ましい濃度比は、以下の通りである。
【0042】
また、本発明の外部標準液が、バリンを少なくとも含み、且つ、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン及びシトルリンの少なくとも何れか1つを含むものである場合、バリンの濃度は、通常、0.0003M〜0.49Mである。その下限は、バリンの平均濃度+2SDである341.4μMよりも濃度が高い0.0004M以上が好ましく、バリンの最大濃度である469.9μMよりも濃度が高い0.0005M以上がより好ましい。上限は、0.1M以下が好ましく、0.05M以下がより好ましい。その他のアミノ酸については、上記アミノ酸比となる範囲で適宜設定されればよい。
【0043】
本発明の外部標準液の調製方法
本発明の外部標準液は、上記のアミノ酸を、上記濃度範囲内で上記の濃度比となるように、水又は緩衝液等に溶解して調製すればよい。このような緩衝液としては、具体的には、例えばリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液等のトリス緩衝液、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)緩衝液、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液等のグッド緩衝液等が挙げられる。
【0044】
本発明の外部標準液は、ある特定のアミノ酸濃度を基準にして各アミノ酸との濃度比率を調製することによって、ヒトの血漿試料中の実際のアミノ酸濃度バランスに合わせて調製される。例えば、ヒトの血漿6469検体を従来の標準物質を用いることによって求めた、下記実施例1の表3に示されるアミノ酸濃度の基準値に基づいて、調製することができる。具体的には、例えば各アミノ酸を用いて、下記表1に示されるような5段階の濃度1〜5の外部標準物質を調製すればよい。尚、下記表1に示す濃度1〜5において、濃度3が最も血漿中の平均濃度に近いものであるが、本発明の外部標準液としては、表1の濃度1のもののみを提供し、使用時にこれを適宜希釈して表1の濃度2〜5のものを調製して用いることが望ましい。
【0045】
【表1】
【0046】
また、本発明の外部標準液の調製においては、標準液の保存時の項で記載しているように、前記A成分及びB成分と、D成分又は/及びE成分とを共存させないことが好ましく、予め2つのアミノ酸混合液として調製するのが好ましい。
更にまた、予め調製した2つのアミノ酸混合液(1及び2)と、溶液中での安定性が低いアミノ酸の用事調製とによって混合して調製し、最終的な外部標準物質を調製することがより好ましい。すなわち、本発明の別の好ましい実施形態において、本発明の外部標準物質溶液は、2つのアミノ酸混合液1及び2と用事調製用アミノ酸とを含んでなるキットによって調製されることが好ましい。より詳細には、アミノ酸混合液1は、血漿中で比較的存在濃度が低いアミノ酸を含むものであり、これらアミノ酸の具体例は、β-AiBA、HyPro、Asp、α-AAA、Sar、δ-HyLys、EtOHNH2、3MeHis、1MeHis、Ans、Car、GABA、α-ABA、Cit、Cys2、Glu、Met等である。アミノ酸混合液2は、血漿中で比較的存在濃度が高いアミノ酸を含むものであり、アミノ酸の具体例はArg、Orn、Ile、Leu、Phe、Pro、Ser、Thr、Tyr、Tau、His、Lys、Gly、Ala、Val等である。また、用事調製用アミノ酸は溶液中で比較的安定性が低いアミノ酸であり、具体例としては、Asn、Gln、Trp等である。
【0047】
したがって、本発明の外部標準物質はこれらの試薬(つまり、アミノ酸混合液1及び2、用事調製用アミノ酸)を混合することで調製される。調製された本発明の好ましい外部標準物質の組成は、例えば、Asp、3MeHis、EtONH2、1MeHis、HyPro、Sar、α-AAA、β-AiBA、δ-HyLys、GABA、Ans、Car等を各0.02M、例えばα-ABAを0.05M、Met、Cit、Glu、Cys2を各0.1M、例えばTrp、Orn、Asn、Arg等を各0.25M、例えば、Phe、Tyr、Tau、His、Ile、Ser、Leu、Thr、Pro、Lys等を各0.50M、例えば、Val、Gly、Ala、Gln等を各1.0Mを含んでなるものである。
【0048】
本発明の血漿中アミノ酸分析用外部標物質
本願発明の外部標準物質は、一定量の水又は緩衝液に一定量を溶解することで、上記本発明の外部標準液となるように各種アミノ酸を混合したものであればよく、該アミノ酸は、上記外部標準液で述べたものと同じものが挙げられる。また、該外部標準物質は、本発明の外部標準液を凍結乾燥したもの等が好ましい。
【0049】
本発明の血漿中アミノ酸分析用内部標準液
本発明の内部標準液は、検量線法を用いる定量分析法で使用する、いわゆる、内部標準であり、具体的には、主に、測定対象の生体試料中のアミノ酸の存在濃度の比率と検出感度などを考慮して、標準物質(基準)としての複数のアミノ酸製品を調製して混合した溶液であり、内部混合標準液ともいう。
【0050】
本発明の内部標準液は、1つ以上の安定同位体で標識されたアミノ酸を含むことを特徴とするが、生体試料中のアミノ酸の特性に合わせて調製されるのが好ましい。即ち、例えば、アミノ酸の存在濃度、夾雑成分の存在、検出感度(特に液体クロマトグラフ-質量分析計に対する検出感度)、アミノ酸と内部標準物質のピークの重なり具合、又は、これらの複数の要素を総合的に考慮して、内部標準物質に添加するアミノ酸の種類、内部標準物質の濃度、及び、安定同位体で標識される元素を決定するのが好ましい。例えば、液体クロマトグラフィー−質量分析計に対する検出感度が良いプロリンについては、ヒト血漿バランスアミノ酸濃度と比較して内標濃度を低く設定するのが好ましく、本発明の内部標準液において最も低濃度にすることがより好ましい。一方、液体クロマトグラフィー−質量分析計に対する検出感度が悪く、かつ、夾雑成分の影響を受け安いタウリンと、液体クロマトグラフィー−質量分析計に対する検出感度が悪く、かつ、ピークがスプリットして測定の安定性が良くないシスチンについては、ヒト血漿バランスアミノ酸濃度と比較し内標濃度を高く設定するのが好ましく、本発明の内部標準液においてタウリンの内標濃度を最も高濃度にすることがより好ましく、タウリンの内標濃度を最も高濃度及びシスチンの内標濃度をタウリンの次に高濃度にすることが更に好ましい。
【0051】
本発明の内部標準液における、1つ以上の安定同位体で標識されたアミノ酸としては、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、オルニチン、エタノールアミン、グルタミン酸、3-メチルヒスチジン、セリン、ヒスチジン及びアルギニン、ザルコシン、アラニン、γアミノ酪酸、β-アミノイソブチル酸、α-アミノブチル酸、スレオニン、ヒドロキシプロリン、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン、リジン、α-アミノアジピン酸、δ-ヒドロキシリジン、1-メチルヒスチジン、シトルリン、カルノシン、アンセリン、シスチン等が挙げられる。中でも、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン及びタウリンを少なくとも含むものが好ましく、プロリン、グリシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、タウリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びアスパラギンを少なくとも含むものがより好ましい。
【0052】
本発明の内部標準液における、安定同位体としては、例えばH、13C、15N、18O等が挙げられ、13C、15N等が好ましい。
【0053】
1つ以上の安定同位体で標識されたアミノ酸は、非標識体のアミノ酸との質量差が3以上であることが好ましい。非標識体のアミノ酸に対し、安定同位体により3つ以上の質量差になるように標識することで、非標識体中の同位体の天然存在比による影響が少なくなり、より高精度な分析が得られる。例えば、アラニン(分子式;C3H7NO2、分子量88)における天然同位体の分布は、分子量88(95.8%)、89(3.74%)、90(0.34%)、91(0.02%)であり、質量差を3以上にすることで、天然同位体の影響はほぼ無くなる。
【0054】
1つ以上の安定同位体で標識されたアミノ酸の具体例としては、例えばPro-U13C5,15N、Gly-U13C2,15N、Val-U13C5,15N、Met-U13C5,15N、Trp-U13C11,15N2、Tyr-Ring-13C6、Tau-U13C2、Ile-U13C6,15N、Phe-U13C9,15N、Asn-U13C4,15N2、Orn-U13C5、EtONH2-1,1,2,2-d4、Glu-U13C5、3MeHis-methyl-d3、Ser-U13C3,15N、His-U13C6,15N3、Arg-U15N4等が挙げられる。
【0055】
本発明の内部標準液における、1つ以上の安定同位体で標識されたアミノ酸の濃度は、通常10〜300μMである。各アミノ酸の濃度については、プロリンは何れのアミノ酸濃度よりも低くすることが好ましく、タウリンは何れのアミノ酸濃度よりも高くかつプロリンは何れのアミノ酸濃度よりも低くすることがより好ましい。より具体的には、タウリン>エタノールアミン、グルタミン酸、3-メチルヒスチジン、セリン、ヒスチジン、アルギニン、チロシン>アスパラギン>イソロイシン、オルニチン、フェニルアラニン、トリプトファン>グリシン、バリン、メチオニン>プロリンの順で濃度が低くなるように設定するのが好ましい。
【0056】
本発明の内部標液の調製方法
本発明の内部標準物質は、生体試料中のアミノ酸の特性に合わせて、上記の如き1つ以上の安定同位体で標識されたアミノ酸を上記濃度範囲となるように、水又は緩衝液等に溶解して調製される。具体的には、下記実施例の表3のアミノ酸濃度に関する基準値などに基づいて調製することができる。尚、上記緩衝液は、上記本発明の外部標準液と同じものが挙げられる。
【0057】
本発明の血漿中アミノ酸分析用内部標準物質
本願発明の内部標準物質は、一定量の水又は緩衝液に一定量を溶解することで、上記本発明の内部標準液となるように各種アミノ酸を混合したものであればよく、該アミノ酸は、上記内部標準液で述べたものと同じものが挙げられる。また、該内部標準物質は、本発明の内部標準液を凍結乾燥したもの等が好ましい。
【0058】
本発明の血漿中アミノ酸の定量方法
一般的に、検量線法を用いる定量分析法においては、外部標準法(つまり、本発明の外部標準液又は外部標準物質を用いる手法)と内部標準法等がある。本発明の定量方法においては、外部標準だけではなく、検体内に検体と同様の挙動をする標準物質(つまり、本発明の内部標準液又は内部標準物質)を予め検体試料に添加しておけば、定量の精度を高めることが可能となる。即ち、本願発明においては、外部標準液又は外部標準物質を用いた方法、又は、内部標準液又は内部標準物質を用いた方法のみで行うことも可能であるが、両方を合わせて用いることで、より精度の高い定量分析を行うことができる。
【0059】
本発明における、外部標準液又は外部標準物質を用いるアミノ酸の定量方法としては、自体公知の検量線法に従ってなされればよいが、具体的には、例えば、本発明の外部標準液(若しくは外部標準物質を水等に溶解したもの)の、2倍希釈液、4倍希釈液、10倍希釈液及び20倍希釈液を調製し、原液とこれらの希釈液を適当な分析法で測定し、ピーク面積又はピーク高さと濃度の関係を表した検量線を作製する。その後、例えばヒト血漿を用いて測定対象であるアミノ酸を測定し、得られたピーク面積又はピーク高さを、前記検量線に当てはめて濃度を算出する事によりなされる。上記分析方法としては、通常この分野でなされる分析方法であればよいが、具体的には例えば、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC-MS)、液体クロマトグラフィー−質量分析-質量分析(LC-MS-MS)、液体クロマトグラフィー-蛍光分析、液体クロマトグラフィー-UV検出等が挙げられるが、中でも質量分析計を用いたLC-MS、LC-MS-MS等が好ましい。これら分析の条件については、自体公知の方法に準じてなされればよい。
【0060】
尚、殆どのアミノ酸は吸収、蛍光性及び電気化学的応答が非常に弱いため、分析の条件に応じて、アミノ酸のアミノ基を標識した上で分析を行うのが好ましい。この場合、より高感度で高い選択性を発揮できる標識試薬を用いるのが好ましく、該標識試薬としては、具体的には例えば、特許文献1に記載のカルバメート化合物が挙げられ、中でも、3−アミノピリジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(APDS)が好ましい。
【0061】
本発明における、内部標準液又は内部標準物質を用いるアミノ酸の定量方法としては、自体公知の内標を用いる方法に従ってなされればよいが、具体的には例えば、内部標準液(若しくは内部標準物質を水等に溶解したもの)を、検体である例えばヒト血漿中に添加し、これを用いて、測定対象であるアミノ酸と内部標準液中の安定同位体で標識されたアミノ酸とを、上記外部標準液を用いる定量方法で記載されている方法等で測定する。得られた、測定対象であるアミノ酸のピーク面積又はピーク高さと、安定同位体で標識されたアミノ酸のピーク面積又はピーク高さから、その比を求め、その値を元に、調製時や試料注入時の誤差等を補正し、測定対象であるアミノ酸濃度を算出することによりなされる。
【0062】
以下に、具体的な実施例を掲げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実験例1 血漿バランスアミノ酸濃度の決定
(1)検体
血漿バランスアミノ酸濃度を求めるための検体として、6469のヒト血漿検体を使用した。
【0064】
(2)外部標準液
市販品のアミノ酸混合標準溶液H型とB型(和光純薬工業(株)製)に、下記表中の濃度となるように下記表中の各種アミノ酸を加えて、上記ヒト血漿検体に添加するための外部標準液7種を調製した。表中の濃度は、調製後の濃度を示す。
【0065】
【表2】
【0066】
(3)内部標準液
下記の安定同位体標識したアミノ酸を、味の素(株)及びCambridge Isotope Laboratories、Isotecから入手して、Gln-U13C5,15N2(100μM)、Arg-U15N4(100μM)、His-U15N3(100μM)(一部はHis-U13C6,15N3(100μM))、Glu-U13C5,15N(200μM)、Ser-U13C3,15N(100μM)、Gly-2,2-d22(50μM)、Ala-3,3,3-d3(80μM)、Leu-5,5,5-d3(80μM)、Lys-4,4,5,5-d4(100μM)、Val-2,3,4,4,4,5,5,5-d5(25μM)、Met-methyl-d3(25μM)、Pro-d7(100μM)、Trp-U13C11,15N2(100μM)、Phe-phenyl-d5(100μM)、Orn-U13C5(80μM)及びCit-4,4,5,5-d4(100μM)を含有する内部標準液を調製した。
【0067】
(4)検体の前処理
上記の内部標準液50μLに上記検体50μLを加えてよく混和した後、アセトニトリル100μLを加えて更によく混和した。該溶液を、微量高速冷却遠心機で遠心分離した後、その上清画分を抽出した。
【0068】
(5)プレカラム誘導体化
得られた上清画分、標識試薬(3-アミノピリジル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート試薬)を用いて、プレカラム誘導体化を行った。具体的には、200mMホウ酸緩衝液(pH8.8)12μLに、上清画分4μLを添加し、よく混和し、さらに、3-アミノピリジル- N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート試薬(20mgをアセトニトリル1mLに溶解したもの)4μLを添加して良く混合した後、55℃で5分間加温した。次いで、該溶液に、25mMギ酸アンモニア水溶液(pH6.0)60μLと0.1%ギ酸水溶液20μLを加えてよく混合したものを、高速液体クロマトグラフ-質量分析の分析用試料とした。
【0069】
(6)高速液体クロマトグラフ-質量分析装置での分析
下記条件で分析を行った。
高速液体クロマトグラフ:L-2100シリーズ(日立ハイテクノロジーズ)
分析カラム :Wakosil-II 3C8-100HG(和光純薬工業)
ガードカラム :Wakosil-II 3C8-100HG(和光純薬工業)
移動相:移動相A:25mMギ酸(pHをアンモニア水で6.0に調製)
移動相B:アセトニトリル/水(6:4(v/v))
カラム温度 :40℃
試料注入量 :5μL
質量分析装置 : Thermo Scientific Surveyor MSQ Plus(Thermo Fisher Scientific)
モニターイオン:
EtONH2:182、 Gly:196、 Ala:210、 Sar:210、 GABA:224、 β-AiBA:224、α-ABA:224、 Ser:226、 Pro:236、 Val:238、 Thr:240、 Tau: 246、 HyPro:252、 Ile:252、 Leu:252、 Asn:253、 Asp:254、 Gln:267、 Glu:268、 Met:270、 His:276、 α-AAA:282、 Phe:286、 1MeHis:290、 3MeHis:290、 Arg:295、 Cit:296、 Tyr:302、 Trp:325、 Car:347、 Ans:361、 Orn:373、 Lys:387、 δ-HyLys:403、 Cys2:481
【0070】
(7)検量線の作製
外部標準液については表2の濃度1〜7の7点のうち5点以上(正確性が±15%(下限は±20%)の範囲内から外れる点については除外)を用い、原点を通らず、重み付けには1/xを利用した。
【0071】
以上より、高速液体クロマトグラフ-質量分析装置の結果を、検量線に当てはめて6469検体のアミノ酸濃度(血漿バランスアミノ酸濃度)を算出した。その平均濃度、最大濃度、最小濃度、標準偏差を下記表3に示す。また、そのグラフを図1に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例1 本発明の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合物質含有溶液)の調製
各種アミノ酸製品(EtONH2、Gly、Sar、Ala、GABA、β-AiBA、α-ABA、Ser、Pro、Val、Thr、Tau、Hypro、Leu、Ile、Orn、Asp、Lys、Glu、Met、His、α-AAA、δ-HyLys、Phe、1MeHis、3MeHis、Arg、Cit、Tyr、Car、Ans、Cys2、以上、和光純薬工業(株)製)を用い、血漿中のアミノ酸濃度比率[つまり、実験例1で決定したヒト血漿バランスアミノ酸濃度(表3及び図1参照)]及びアミノ酸の安定性を加味し、下記アミノ酸混合液1及び2を調製した。
【0074】
アミノ酸混合液1:
β-AiBA、HyPro、Asp、α-AAA、Sar、δ-HyLys、EtONH2、3MeHis、1MeHis、Ans、CarおよびGABAを200μM、α-ABAを500μM、Cit、Cys2、GluおよびMetを1000μM含有する水溶液
アミノ酸混合液2:
Arg及びOrnを2500μM、Ile、Leu、Phe、Pro、Ser、Thr、Tyr、Tau、His及びLysを5000μM、Gly、Ala、及びValを10000μM含有する水溶液
【0075】
その後、アミノ酸混合溶液1、2および用事調製を行ったAsn、Gln及びTrp(シグマ社製)を混合し、以下に示す組成でアミノ酸を混合した外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)を調製した。
Asp、3MeHis、EtONH2、1MeHis、HyPro、Sar、α-AAA、β-AiBA、δ-HyLys、GABA、Ans及びCarを20μM、α-ABAを50μM、Met、Cit、Glu及びCys2を100μM、Trp、Orn、Asn及びArgを250μM、Phe、Tyr、Tau、His、Ile、Ser、Leu、Thr、Pro及びLysを500μM、Val、Gly、Ala及びGlnを1000μM含有。
【0076】
下記の表4は、上記の結果から調製した本発明の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)の内容を示す。また、濃度1と濃度5についてのグラフを図1に示す。
【0077】
比較例1 従来品としての外部標準液
実施例1の本発明の外部標準液の比較対照として、上記アミノ酸混合液1および2の代わりに、アミノ酸混合標準液Type B(和光純薬工業(株)製)およびアミノ酸混合標準液Type ANII(和光純薬工業(株)製)を用いて、アミノ酸混合標準液を調製した。
【0078】
下記の表4には、上記本発明の外部標準液と併せて、該アミノ酸混合標準液の内容を示す。また、濃度1’と濃度5’についてのグラフを図1に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
実施例2 本発明の内部標準液の調製
下記の安定同位体標識したアミノ酸を、味の素(株)、Cambridge Isotope Laboratories、Isotecから入手して、Gln-U13C5,15N2(100μM)、Arg-U15N4(100μM)、His-U13C6,15N3(100μM)、Glu-U13C5,15N(100μM)、Ser-U13C3,15N(100μM)、Gly-U13C2,15N(50μM)、Ala-3,3,3-d3(100μM)、Leu-5,5,5-d3(80μM)、Lys-U13C6,15N2(130μM)、Val-U13C5,15N(50μM)、Met-U13C5,15N(50μM)、Pro-U13C5,15N(25μM)、Trp-U13C11,15N2(80μM)、Phe-U13C9,15N(80μM)、Orn-U13C5(80μM)、Cit-4,4,5,5-d4(100μM)、Thr-U13C4(100μM)、Tyr-Ring-13C6(100μM)、Tau-U13C2(250μM)、Ile-U13C6,15N(80μM)、Asn-U13C4,15N2(90μM)、3MeHis-methyl-d3(100μM)、Asp-2,3,3-d3(100μM)、Cys2-3,3,3',3'-d4(200μM)及びEtONH2-1,1,2,2-d4(100μM)を含有する内部標準液を調製した。
【0081】
比較対照として、非特許文献4に記載の内部標準液を調整し、実施例2に対する比較例としての内部標準液(従来の内部標準液)とした。
【0082】
下記の表5は、上記内部標準液(本発明の内部標準液)または比較例の内部標準液(従来の内部標準液)を用いてヒト血漿中の各種アミノ酸濃度を測定する際の、各種アミノ酸に対する内部標準液を示す。表中、枠内にグレーを付しているものは、内部標準液として、それ自身の安定同位体が用いられていないアミノ酸であることを表す。これらグレーを付した枠内のアミノ酸については、安定同位体で標識されていないアミノ酸との保持時間の近さ、化合物の物性、添加回収試験の結果等を考慮して、種々の安定同位体で標識されたアミノ酸の中から最適なものを選定した。
【0083】
【表5】
【0084】
実施例3 本発明の外部標準液を用いたアミノ酸の定量分析
(1)生体試料の調製
生体試料として、健常人ボランティア5名の採血を行い、血漿分離後に血漿を混合し、プール血漿とした。
【0085】
(2)既知濃度アミノ酸添加血漿及びコントロール血漿の調製
得られたプール血漿と下記表6に記載の既知濃度アミノ酸混合溶液とを1:1で混合した検体を既知濃度アミノ酸添加血漿とし、得られたプール血漿と水とを1:1で混合した検体をコントロール血漿とした。
【0086】
(3)検体の前処理
上記の既知濃度アミノ酸添加血漿又はコントロール血漿50μLに、実施例2の内部標準液50μLを添加した後、良く混和してアセトニトリル100μLを加えて良く混和した。
次いで、それぞれを微量高速冷却遠心機で遠心分離した後、得られた上清画分を分析に用いた。
【0087】
(4)プレカラム誘導体化
得られた上清画分、標識試薬(3-アミノピリジル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート試薬)を用いて、プレカラム誘導体化を行った。具体的には、200mMホウ酸緩衝液(pH8.8)60μLに、上清画分20μLを添加し、よく混和した。さらに3-アミノピリジル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート試薬(20mgをアセトニトリル1mLに溶解したもの)20μLを添加して良く混合後、55℃で10分間加温した。次いで、該溶液を室温で放冷した後、0.1%ギ酸水溶液を100μL添加してよく混合したものを、高速液体クロマトグラフ-質量分析の分析用試料とした。
【0088】
(5)高速液体クロマトグラフ-質量分析装置での分析
下記条件で分析を行った。
高速液体クロマトグラフ:10Avpシリーズ(島津製作所)
分析カラム :Inartsil C8-3(ジーエルサイエンス)
ガードカラム:Inartsil ODS-3(ジーエルサイエンス)
移動相:移動相A:25mMギ酸(pHをアンモニア水で6.0に調製)
移動相B:アセトニトリル/水(6:4(v/v))
カラム温度 :40℃
試料注入量 :3μL
質量分析装置 :API3000 LC/MS/MSシステム(AB SCIEX)
モニターイオン(Q1/Q3):
EtONH2:182/121、 Gly:196/121、 Ala:210/121、 Sar:210/121、 GABA:224/121、 β-AiBA:224/121、 α-ABA:224/121、Ser:226/121、 Pro:236/121、 Val:238/121、 Thr:240/121、 Tau:246/121、 HyPro:252/121、 Ile:252/121、 Leu:252/121、 Asn:253/121、 Asp:254/121、 Gln:267/121、 Glu:268/121、Met:270/121、 His:276/121、 α-AAA:282/121、 Phe:286/121、1MeHis:290/121、 3MeHis:290/121、 Arg:295/121、 Cit:296/121、 Tyr:302/121、 Trp:325/121、 Car:347/121、 Ans:361/121、 Orn:373/121、 Lys:387/121、 δ-HyLys:403/121、 Cys2:481/121
【0089】
(6)検量線の作製
実施例1の外部標準液を用いて、上記既知濃度アミノ酸添加血漿と同様に、上記(4)の誘導体化処理を行い、(5)の分析を行った。その分析結果より、上限濃度と下限濃度の差を20倍とした検量線を作製した。外部標準液としては、表4の濃度1〜5(血漿バランスアミノ酸混合標準液)の5点を用い、原点を通らず、重み付けには1/xを利用した。
【0090】
(7)血漿中へのアミノ酸添加回収
既知濃度アミノ酸添加血漿の測定結果より、添加回収率を求めた。添加回収率は以下のように算出した。
添加回収率={(既知濃度アミノ酸添加血漿中アミノ酸濃度)-(コントロール血漿中アミノ酸濃度)}×2÷添加既知濃度アミノ酸(%)
尚、各濃度は、ピーク面積比{(各成分のピーク面積)÷(内部標準液のピーク面積)}を求め、上述の検量線を用いて算出した。その結果を表6に示す。ここで、実施例の添加回収率は、実施例1の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)を用い作製した検量線を元に計算した値である。
【0091】
比較例2 比較例1の外部標準液を用いたアミノ酸の定量分析
実施例3の(6)において、外部標準液として、表4の濃度1’〜5’(従来のアミノ酸混合標準液)の5点を用いた以外は、実施例3と同様の方法により、ヒト血漿中にアミノ酸を添加した時の、添加回収率を求めた。その結果を実施例3の結果と併せて表6に示す。表中、比較例の添加回収率は、比較対照として調製した外部標準液(従来のアミノ酸混合標準液)を用い作製した検量線を元に計算した値である。
【0092】
【表6】
【0093】
実施例1で調製した本発明の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)を用いた場合、標準品として用いた35種の化合物の回収率は、80〜111%であったが、比較例の外部標準液(従来品のアミノ酸混合標準液)を用いた場合、0〜392%であった。即ち、比較例の外部標準液(従来品のアミノ酸混合標準液)を用いて、下限濃度が上限濃度の20倍希釈となる範囲で5点の検量点で検量線を作製した場合には、定量値が検量線範囲外である化合物も多く、精度に欠く結果であった。言い換えれば、比較例の外部標準液(従来品のアミノ酸混合標準液)を用いて、各種アミノ酸を検量線の範囲内にするためには、上限濃度に対する下限濃度の希釈倍率を増やし、且つ、検量点を増やす(例えば1000倍濃度で10検量点等)必要があることがわかった。
【0094】
一方、実施例1で得られた本発明の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)を用いて検量線を作製した場合、最低濃度が最高濃度の20倍希釈となる範囲で、且つ、検量点が5点あっても、各種アミノ酸濃度は検量線の範囲内に入るため、各種アミノ酸を精度よく測定できることが分かった。よって、本発明の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)は生体試料中のアミノ酸測定において非常に有用であることがわかった。
【0095】
実施例4 本発明の内部標準液を用いた外部標準液中のアミノ酸の定量分析
(1)本発明の内部標準液及び外部標準液
実施例2で調製した本発明の内部標準液(表5中の実施例2)を、内部標準として用いた。また、比較例として、実施例2で調製した従来の内部標準液(表5中の比較例)を、内部標準として用いた。
また、実施例1で得られた表4の濃度1の本発明の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)を、順次5/4倍、5/3倍、2倍、5/2倍、10/3倍、5倍、10倍、20倍、40倍まで段階希釈し、測定用のアミノ酸として10濃度を調製した。
【0096】
実施例1の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)75μLに対して、実施例2の本発明の内部標準液75μLを添加した後に、良く混和し、アセトニトリル150μL加え、良く混和した。同様に、実施例1の外部標準液(血漿バランスアミノ酸混合標準液)75μLに対して、実施例2の従来の内部標準液75μLを添加した後に、良く混和し、アセトニトリル150μL加え、良く混和した。
【0097】
(2)プレカラム誘導体
3-アミノピリジル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート試薬を用いて、プレカラム誘導体化を行った。200mMホウ酸緩衝液(pH8.8)185μLに、上記(1)の本発明の内部標準液を含む溶液のうち10μLを添加し、良く混和した。さらに3-アミノピリジル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート試薬(20mgをアセトニトリル1mLに溶解したもの)5μLを添加し、良く混合後、60℃で5分間加温したものを、分析用試料とした。同様に、200mMホウ酸緩衝液(pH8.8)185μLに、上記(1)の従来の内部標準液を含む溶液のうち10μLを添加して、良く混和した。さらに、3-アミノピリジル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート試薬 5μLを添加して、良く混合後、60℃で5分間加温し、これを、比較例としての分析用試料とした。
【0098】
(3)高速液体クロマトグラフ-質量分析装置での分析
上記分析用試料それぞれを、下記条件で分析した。
高速液体クロマトグラフ:20Aシリーズ(島津製作所)
分析カラム :Inertsil ODS-3(ジーエルサイエンス)
プレフィルタ:0.5μmディスク、プレフィルタ用(島津製作所)
移動相:移動相A :25mMギ酸(pHをアンモニア水で6.0に調製)
移動相B :アセトニトリル
カラム温度 :40℃
試料注入量 :5μL
質量分析装置 :LCMS2020(島津製作所)
モニターイオン:
EtONH2:182、Gly:196、Ala:210、Sar:210、GABA:224、β-AiBA:224、α-ABA:224、Ser:226、Pro:236、Val:238、Thr:240、Tau:246、HyPro:252、Ile:252、Leu:252、Asn:253、Asp:254、Gln:267、Glu:268、Met:270、His:276、α-AAA:282、Phe:286、1MeHis:290、3MeHis:290、Arg:295、Cit:296、Tyr:302、Trp:325、Car:347、Ans:361、Orn:373、Lys:387、δ-HyLys:403、Cys2:481
【0099】
測定後、得られた測定結果を用いて、規格化したレスポンスファクターの算出を行った。即ち、ピーク面積比を濃度値で割り、レスポンスファクターを算出し、濃度8のレスポンスファクターを1.0とし、規格化した。
【0100】
下記の表7は、本発明の内部標準液を用いた結果より得たレスポンスファクターを、表8は、従来の内部標準液を用いた結果より得たレスポンスファクターを表す。尚、表7及び表8は、内部標準液が異なるアミノ酸についてのみ記載する。
【0101】
尚、上記結果に基づき、実施例と比較例とで直線性に差がみられたものについては、表中の枠内にグレーを付してあり(グレー:表3に示したヒト血漿中のアミノ酸の最小濃度〜最大濃度に該当する濃度範囲)、アミノ酸略号の横に、それぞれ、◎:グレー部分において実施例と比較例との差が0.3より大きいもの、○:差が0.2〜0.3であるもの、△:差が0.1〜0.2であるもの、▲:差が0.1未満であるものを、付してある。また、*は、このような差がみられるもののうち、標識された元素が異なるものを表し、**については差がみられるもののうち、異なるアミノ酸の安定同位体を使用しているものを表す。
【0102】
【表7】
【0103】
【表8】
【0104】
本発明の内部標準液を用いると、従来の内部標準液と比較し、Asn、Gly、Tau、Pro、Tyr、Val、Met、Ile、Phe、Trpの直線性は改善されていることがわかった。つまり、本発明の内部標準液は、広い濃度範囲で定量性を担保でき、生体試料中のアミノ酸測定において非常に有用であることが示唆された。また、ヒト血漿中のアミノ酸の濃度範囲(表中のグレー部分)においては、従来の内部標準液と比較し、特に、Gly、Tau、Pro、Tyr、Val、Met、Trpで直線性が改善されたおり、その中でも特に、Tau、Proで直線性が改善されていることがわかった。
【0105】
上記の各実施形態を組み合わせ、又は当業者に公知の方法で種々の変更を加えたその他の実施形態もまた本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、血漿中のアミノ酸の定量分析において、分析対象とするアミノ酸の存在濃度の比率に合わせた外部標準液、及び該外部標準液を用いたアミノ酸の定量方法を提供するものである。これにより、検量線作製の検量点を減らすことができると共に、分析対象とするアミノ酸の濃度範囲を絞ることができ、より精度よくアミノ酸の定量分析が可能となる。よって、本発明は、従来技術と比較して顕著な効果を奏するものであり、極めて有用なものである。
【符号の説明】
【0107】
図1中、−□−は、実験例1で測定した6469検体の各種アミノ酸の平均濃度を表し、--◆--は、実験例1で測定した各種アミノ酸の平均濃度+2SD(標準偏差)を表し、--▲--は、実験例1で測定した各種アミノ酸の平均濃度−2SD(標準偏差)を表し、−◇−は、実施例1で調製した本発明の外部標準液(濃度1)を表し、−△−は、実施例1で調製した本発明の外部標準液(濃度5)を表し、−*−は、比較例1で調製した従来のアミノ酸混合標準液(濃度1’)を表し、−○−は、比較例1で調製した従来のアミノ酸混合標準液(濃度5’)をそれぞれ表す。また、上下に延びるバーは、6469検体のアミノ酸を測定した際の最大値と最小値を表す。
図1