特許第6190933号(P6190933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6190933重合性組成物およびキット、ならびに重合開始剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6190933
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】重合性組成物およびキット、ならびに重合開始剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/12 20060101AFI20170821BHJP
   C08F 4/52 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 6/00 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 6/083 20060101ALI20170821BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20170821BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20170821BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170821BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20170821BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20170821BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C08F4/12
   C08F4/52
   A61K6/00 A
   A61K6/083 530
   C09J4/02
   C09J133/04
   C09J11/06
   C09J11/04
   C08F2/44 C
   C08F265/06
【請求項の数】26
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-165875(P2016-165875)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-141423(P2017-141423A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2016年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2016-22576(P2016-22576)
(32)【優先日】2016年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592093578
【氏名又は名称】サンメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】大槻 環
(72)【発明者】
【氏名】小里 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕也
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】荒田 正三
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/140138(WO,A1)
【文献】 特開2008−189581(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/160452(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/12
A61K 6/00
A61K 6/083
C08F 2/44
C08F 4/52
C08F 265/06
C09J 4/02
C09J 11/04
C09J 11/06
C09J 133/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機ボランと、
(B)酸性基を有しない重合性単量体と、
(C)前記有機ボラン(A)の安定化剤と
を含有する重合性組成物であり、
前記安定化剤(C)が、
(C1)アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種である、前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基と、
(C2)前記(C1)以外の安定化剤であって、
(C2a)共役電子系を有し、ジケトン構造を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物であって、α−ジケトン、β−ジケトンおよびγ−ジケトンから選ばれる少なくとも1種;
(C2b)アスコルビン酸、カルシフェロール、α−トコフェロールおよびケルセチンから選ばれる少なくとも1種;
(C2c)炭素−炭素二重結合を5〜20含む共役電子系を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有するカロテン;ならびに
(C2d)下記式で示される有機すず化合物およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種;
【化1】
[Rはアルキル基であり、Xは脂肪酸残基であり、nは0〜20の整数である。]
から選ばれる少なくとも1種と
を含み、
前記有機ボラン(A)と前記ルイス塩基(C1)とは有機ボラン−ルイス塩基錯体を形成している
ことを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
前記ルイス塩基(C1)が、アミンであり、
前記アミンが、第1級モノアミン、第2級モノアミン、ジアミン、トリアミンおよびテトラアミンから選ばれる少なくとも1種であり、
前記第1級モノアミンが、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ベンジルアミン、メトキシエチルアミン、メトキシプロピルアミン、メトキシブチルアミン、エトキシプロピルアミン、プロポキシプロピルアミン、エタノールアミンおよびポリオキシアルキレンモノアミンから選ばれる少なくとも1種であり、
前記第2級モノアミンが、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、N−フェニルグリシンおよびN−トリルグリシンから選ばれる少なくとも1種であり、
前記ジアミンが、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,12−ジアミノドデカン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、3−メチル−1,5−ジアミノペンタン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノブチルアミンおよびイソホロンジアミンから選ばれる少なくとも1種であり、
前記トリアミンが、ジエチレントリアミンおよびジプロピレントリアミンから選ばれる少なくとも1種であり、
前記テトラアミンが、トリエチレンテトラアミンであ
請求項1の重合性組成物。
【請求項3】
前記アミンが、第1〜第3級のモノアミンである請求項1の重合性組成物
【請求項4】
前記有機ボラン(A)が、BR3で表される化合物(前記式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基である)である請求項1〜3のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項5】
(A)有機ボランと、
(B)酸性基を有しない重合性単量体と、
(C)前記有機ボラン(A)の安定化剤と
を含有する重合性組成物であり、
前記有機ボラン(A)が、BR3で表される化合物であり、前記Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20の飽和もしくは不飽和脂環式基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または炭素数2〜20のアルキル(アミノ)アルコキシ基(N(R1)m(H)n−R2O−;式中R1はアルキル基、R2はアルキレン基、mは1または2、nは1または0)であり、2つ以上のRが相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、少なくとも1つのRは前記アルキル(アミノ)アルコキシ基であり、当該基が分子内でホウ素原子に対する配位結合を形成しており
前記安定化剤(C)が、
(C2a)共役電子系を有し、ジケトン構造を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物であって、α−ジケトン、β−ジケトンおよびγ−ジケトンから選ばれる少なくとも1種;
(C2b)アスコルビン酸、カルシフェロール、α−トコフェロールおよびケルセチンから選ばれる少なくとも1種;
(C2c)炭素−炭素二重結合を5〜20含む共役電子系を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有するカロテン;ならびに
(C2d)下記式で示される有機すず化合物およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種;
【化2】
[Rはアルキル基であり、Xは脂肪酸残基であり、nは0〜20の整数である。]
から選ばれる少なくとも1種
を含む
ことを特徴とする重合性組成物。
【請求項6】
前記組成物を45℃の条件下で48時間静置させた場合に、E型粘度計にて温度25℃、回転数50rpmの条件下で測定した、前記静置前と前記静置後との粘度比(前記静置後の粘度/前記静置前の粘度)が、100未満である請求項1〜5のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項7】
前記化合物(C2a)が、α−ジケトンおよびβ−ジケトンから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項8】
前記化合物(C2a)が、下記式で表される化合物である請求項1〜7のいずれか1項の重合性組成物。
A−CO−RD−CO−CHRBC
[上記式中、RAは炭化水素基、エーテル結合含有基または遷移金属であり;RBおよびRCは、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基、エーテル結合含有基または遷移金属であり;RDは直接結合、メチレン基または1,2−エチレン基である。]
【請求項9】
前記化合物(C2c)が、α−カロテンおよびβ−カロテンから選ばれる少なくとも1種のカロテンである請求項1〜8のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項10】
前記安定化剤(C)の含有量が、前記成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、0.001〜100質量部である請求項1〜9のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項11】
前記重合性単量体(B)により膨潤し、または重合性単量体(B)に溶解するポリマー(D)をさらに含有する請求項1〜10のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項12】
前記ポリマー(D)が、ポリメチル(メタ)アクリレートである請求項11の重合性組成物。
【請求項13】
充填材(E)をさらに含有する請求項1〜12のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項14】
前記充填剤(E)の含有量が、前記成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、0.1〜500質量部である請求項13の重合性組成物。
【請求項15】
酸を含有する前処理剤と組み合わせて使用される請求項1〜14のいずれか1項の重合性組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項の重合性組成物と、酸性基を有する化合物(α)または前記化合物(α)を含有する組成物からなる添加剤とを有することを特徴とする重合性組成物キット。
【請求項17】
前記酸性基を有する化合物(α)が、酸性基を有する重合性単量体である請求項16の重合性組成物キット。
【請求項18】
前記酸性基を有する重合性単量体が、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物および10−メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェートから選ばれる少なくとも1種である請求項17の重合性組成物キット。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれか1項の重合性組成物と、前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基(C1)に対して反応性を有する脱錯化剤(β)または前記脱錯化剤(β)を含有する組成物からなる添加剤とを有することを特徴とする重合性組成物キット。
【請求項20】
前記脱錯化剤(β)が、酸、アルデヒド、イソシアネート、酸塩化物、スルホニルクロライド、これらの2種以上の混合物である請求項19の重合性組成物キット。
【請求項21】
接着剤として用いられる請求項1〜15のいずれか1項の重合性組成物または請求項16〜20のいずれか1項の重合性組成物キット。
【請求項22】
医療および/または歯科用途に用いられる請求項1〜15のいずれか1項の重合性組成物または請求項16〜20のいずれか1項の重合性組成物キット。
【請求項23】
医療および/または歯科用途での接着剤として用いる際に、酸または酸化剤を含有する歯面処理剤と併用される請求項22の重合性組成物または重合性組成物キット。
【請求項24】
(A)有機ボランと、
(C1)アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種である、前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基と、
(C2)前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基以外の安定化剤と
を含有し、
前記安定化剤(C2)が、
(C2a)共役電子系を有し、ジケトン構造を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物であって、α−ジケトン、β−ジケトンおよびγ−ジケトンから選ばれる少なくとも1種;
(C2b)アスコルビン酸、カルシフェロール、α−トコフェロールおよびケルセチンから選ばれる少なくとも1種;
(C2c)炭素−炭素二重結合を5〜20含む共役電子系を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有するカロテン;ならびに
(C2d)下記式で示される有機すず化合物およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種;
【化3】
[Rはアルキル基であり、Xは脂肪酸残基であり、nは0〜20の整数である。]
から選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機ボラン(A)と前記ルイス塩基(C1)とは有機ボラン−ルイス塩基錯体を形成している
ことを特徴とする重合開始剤。
【請求項25】
(A)有機ボランと、
(C)前記有機ボラン(A)の安定化剤と
を含有し、
前記有機ボラン(A)が、BR3で表される化合物であり、前記Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20の飽和もしくは不飽和脂環式基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または炭素数2〜20のアルキル(アミノ)アルコキシ基(N(R1)m(H)n−R2O−;式中R1はアルキル基、R2はアルキレン基、mは1または2、nは1または0)であり、2つ以上のRが相互に結合して環を形成していてもよく、ただし、少なくとも1つのRは前記アルキル(アミノ)アルコキシ基であり、当該基が分子内でホウ素原子に対する配位結合を形成しており
前記安定化剤(C)が、
(C2a)共役電子系を有し、ジケトン構造を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物であって、α−ジケトン、β−ジケトンおよびγ−ジケトンから選ばれる少なくとも1種;
(C2b)アスコルビン酸、カルシフェロール、α−トコフェロールおよびケルセチンから選ばれる少なくとも1種;
(C2c)炭素−炭素二重結合を5〜20含む共役電子系を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有するカロテン;ならびに
(C2d)下記式で示される有機すず化合物およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種;
【化4】
[Rはアルキル基であり、Xは脂肪酸残基であり、nは0〜20の整数である。]
から選ばれる少なくとも1種
を含む
ことを特徴とする重合開始剤。
【請求項26】
さらに重合禁止剤を含有する請求項24〜25のいずれか1項の重合開始剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体における硬組織への高い接着性を有し、かつ保存安定性に優れる重合性組成物に関し、詳しくは、有機ボランを含有する重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2には、アクリル系接着剤組成物を重合させ得る2分割型開始剤系について開示されている。2分割型の第1部分は安定な有機ボラン−アミン錯体を含み、第2部分は(メタ)アクリル酸や安息香酸等の有機酸またはベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物といった活性化剤を含む。活性化剤は前記錯体からアミンを遊離させ、これにより発生した有機ボランによってラジカル重合の開始が可能となる。
【0003】
しかしながら、有機ボラン−アミン錯体の多くは(メタ)アクリルモノマー組成物中において経時的に解離して、前記モノマーの重合を誘発する。このため、設計よりも早期に重合が進行してしまうという問題がある。また、遊離アミンが重合硬化後の表層部ににじみ出て接着耐久性に影響を与えたり、硬化物の変色を引き起こしたりする問題も呈している。
【0004】
特許文献3には、表面エネルギーの低いポリマー樹脂に有用なアクリル系接着剤として、少なくとも1つのアクリル系モノマーと有機ボラン−アミン錯体およびアクリル系モノマーの重合を開始させるための有効量の酸について開示されている。
【0005】
特許文献4にも、表面エネルギーの低いポリマー樹脂に有効な接着剤として、アクリル系モノマー、有機ボラン−ポリアミン錯体およびアミンに反応性を有する化合物を含むアクリル系組成物について開示されている。
【0006】
特許文献5には、有機ボラン−アミン錯体とβ−ケトン化合物の両方を含む開始剤系が提案されており、この開始剤系では錯体分解剤であるβ−ケトン化合物によってゆっくりと有機ボランが遊離して接着用組成物の作用寿命を長くすることが提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献3〜5においても特許文献1〜2と同様に有機ボラン−アミン錯体が(メタ)アクリルモノマーと共存している場合の、前記錯体自身の安定性については言及されておらず、またこの保存安定性を高めるための方策についての記載もない。さらに特許文献1〜5の何れにおいても、前記組成物が生体における硬組織(例えば歯質)に対して優れた接着性を示すことについての報告は認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−72264号公報
【特許文献2】特公平7−116249号公報
【特許文献3】特許第3535167号公報
【特許文献4】特許第4035634号公報
【特許文献5】特許第4975952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有機ボランおよび重合性単量体を含有する重合性組成物の長期の保存安定性を改善することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、以下の構成を有する重合性組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、例えば以下の[1]〜[26]である。
【0011】
[1](A)有機ボランと、(B)酸性基を有しない重合性単量体と、(C)前記有機ボラン(A)の安定化剤とを含有する重合性組成物であり、前記組成物を45℃の条件下で48時間静置させた場合に、E型粘度計にて温度25℃、回転数50rpmの条件下で測定した、前記静置前と前記静置後との粘度比(前記静置後の粘度/前記静置前の粘度)が、100未満であることを特徴とする重合性組成物。
【0012】
[2]前記安定化剤(C)が、(C1)前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基、および(C2)前記(C1)以外の安定化剤から選ばれる少なくとも1種を含む前記[1]の重合性組成物。
【0013】
[3]前記安定化剤(C)が、(C1)前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基、および(C2)前記(C1)以外の安定化剤を含む前記[2]の重合性組成物。
[4]前記有機ボラン(A)と前記ルイス塩基(C1)とから形成された有機ボラン−ルイス塩基錯体を含有する前記[2]または[3]の重合性組成物。
【0014】
[5]前記安定化剤(C2)が、(C2a)共役電子系を有し、ジケトン構造を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物、(C2b)環状構造の少なくとも一部を構成する共役電子系を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物、(C2c)二重結合を5個以上含む共役電子系を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物、ならびに(C2d)還元性化合物、ハイドロタルサイト様化合物および金属塩から選ばれる少なくとも1種の化合物、から選ばれる少なくとも1種である前記[2]〜[4]のいずれか1項の重合性組成物。
【0015】
[6]前記化合物(C2a)が、α−ジケトンおよびβ−ジケトンから選ばれる少なくとも1種である前記[5]の重合性組成物。
[7]前記ルイス塩基(C1)が、アンモニア、アミン、ヒドロキシドおよびアルコキシドから選ばれる少なくとも1種である前記[2]〜[6]のいずれか1項の重合性組成物。
【0016】
[8]前記安定化剤(C)の含有量が、前記成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、0.001〜100質量部である前記[1]〜[7]のいずれか1項の重合性組成物。
【0017】
[9]前記有機ボラン(A)が、BR3で表される化合物(前記式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基である)である前記[1]〜[8]のいずれか1項の重合性組成物。
【0018】
[10]前記重合性単量体(B)により膨潤し、または重合性単量体(B)に溶解するポリマー(D)をさらに含有する前記[1]〜[9]のいずれか1項の重合性組成物。
[11]前記ポリマー(D)が、ポリメチル(メタ)アクリレートである前記[10]の重合性組成物。
【0019】
[12]充填材(E)をさらに含有する前記[1]〜[11]のいずれか1項の重合性組成物。
[13]前記充填剤(E)の含有量が、前記成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、0.1〜500質量部である前記[12]の重合性組成物。
【0020】
[14]酸を含有する前処理剤と組み合わせて使用される前記[1]〜[13]のいずれか1項の重合性組成物。
[15]前記[1]〜[14]のいずれか1項の重合性組成物と、酸性基を有する化合物(α)または前記化合物(α)を含有する組成物からなる添加剤とを有することを特徴とする重合性組成物キット。
【0021】
[16]前記酸性基を有する化合物(α)が、酸性基を有する重合性単量体である前記[15]の重合性組成物キット。
[17]前記酸性基を有する重合性単量体が、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物および10−メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェートから選ばれる少なくとも1種である前記[16]の重合性組成物キット。
【0022】
[18]前記[1]〜[14]のいずれか1項の重合性組成物と、前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基(C1)に対して反応性を有する脱錯化剤(β)または前記脱錯化剤(β)を含有する組成物からなる添加剤とを有することを特徴とする重合性組成物キット。
【0023】
[19]前記脱錯化剤(β)が、酸、アルデヒド、イソシアネート、酸塩化物、スルホニルクロライド、これらの2種以上の混合物である前記[18]の重合性組成物キット。
[20]接着剤として用いられる前記[1]〜[14]のいずれか1項の重合性組成物または前記[15]〜[19]のいずれか1項の重合性組成物キット。
【0024】
[21]医療および/または歯科用途に用いられる前記[1」〜[14]のいずれか1項の重合性組成物または前記[15]〜[19]のいずれか1項の重合性組成物キット。
[22]医療および/または歯科用途での接着剤として用いる際に、酸または酸化剤を含有する歯面処理剤と併用される前記[21]の重合性組成物または重合性組成物キット。
【0025】
[23](A)有機ボランと、(C2)前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基以外の安定化剤とを含有することを特徴とする重合開始剤。
[24](C1)前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基をさらに含有する前記[23]に記載の重合開始剤。
【0026】
[25]前記有機ボラン(A)と前記ルイス塩基(C1)とから形成された有機ボラン−ルイス塩基錯体を含有する前記[24]の重合開始剤。
[26]さらに重合禁止剤を含有する前記[23]〜[25]のいずれか1項の重合開始剤。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、有機ボランおよび重合性単量体を含有する重合性組成物であって、長期にわたり保存安定性に優れる重合性組成物を提供することができる。前記組成物は、生体における硬組織に対して高い接着性を有しており、したがって特に医療および/または歯科材料として有用性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
[重合性組成物]
本発明の重合性組成物は、有機ボラン(A)と、酸性基を有しない重合性単量体(B)と、有機ボラン(A)の安定化剤(C)とを含有する。前記各々を成分(A)、成分(B)、成分(C)ともいう。成分(A)〜(C)は、例えば1つの系内(例:容器内)に存在しており、前記重合性組成物は、例えば成分(A)〜(C)を含む混合物である。一実施形態として、本発明の重合性組成物では、成分(A)〜(C)が1つの容器内に保存される。
【0029】
有機ボラン(A)は、単量体(B)に対する重合開始剤として作用する。安定化剤(C)は、有機ボラン(A)の活性を抑制し、重合開始剤として作用する前記(A)の活動を低減させる効果があり、成分(A)〜(C)を含有する重合性組成物の長期の保存安定性を高める。
【0030】
本発明の重合性組成物は、ルイス酸等の酸を含有する前処理剤と組み合わせて使用されることが好ましい。この態様によれば、前記酸の作用により、成分(C)による成分(A)の安定化が解け、例えば成分(A)が遊離し、成分(A)による成分(B)の重合反応が速やかに開始する。
【0031】
<有機ボラン(A)>
有機ボラン(A)としては、例えば、ホウ素原子が空のp軌道または求電子的特性を有する有機ボラン(A1)、ホウ素原子が4価のアニオンとなっている有機ボラン(A2)が挙げられる。
【0032】
有機ボラン(A1)としては、BR3で表される化合物が好ましい。前記式中、Bはホウ素原子であり、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20の飽和または不飽和脂環式基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または炭素数2〜20のアルキル(アミノ)アルコキシ基(N(R1)m(H)n−R2O−;式中R1はアルキル基、R2はアルキレン基、mは1または2、nは1または0)であり、2つ以上のRが相互に結合して脂肪族環等の環を形成していてもよいが、活性の点から前記環を形成していない方が好ましい。Rは、好ましくはアリール基以外の前記基であり、より好ましくは前記アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。全てのRは、同一の基であることが好ましい。
【0033】
BR3で表される化合物としては、例えば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリ−n−プロピルボラン、トリイソプロピルボラン等のトリプロピルボラン、トリ−n−ブチルボラン、トリイソブチルボラン、トリ−sec−ブチルボラン等のトリブチルボランなどのトリアルキルボラン;エチルジシクロヘキシルボラン、(1,3−シクロペンタジエニル)ジメチルボラン等のアルキルおよび脂環含有ボラン;フェニルジエチルボラン等のアリールジアルキルボランが挙げられる。これらの化合物において、ホウ素原子における置換基のうち少なくとも1つがアルコキシ基やアルキル(アミノ)アルコキシ基に置換されていてもよい。例えば、H3C−NH−(CH22−O−B(CH2CH32、H3C−NH−(CH22−O−B(C6112が挙げられる。なお、前記例示化合物のように、アルキル(アミノ)アルコキシ基を有し、分子内でホウ素原子に対する配位結合を形成可能な化合物の場合、後述するルイス塩基(C1)を用いず、安定化剤(C2)のみを用いてもよい。
【0034】
有機ボラン(A1)において、1つ以上の炭素原子がホウ素原子に直接結合していることが好ましい。ただし、芳香環のようなπ電子系原子団とホウ素原子の空のp軌道とが共役可能な状態にて結合していると、トリフェニルボランのように安定化して活性が低下することがある。
【0035】
有機ボラン(A2)としては、M+BR4-で表される化合物が好ましい。前記式中、Mはアルカリ金属であり、Bはホウ素原子であり、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数3〜20の飽和または不飽和脂環式基、炭素数1〜20のアルコキシ基、または炭素数2〜20のアルキル(アミノ)アルコキシ基であり、2つ以上のRが相互に結合して脂肪族環等の環を形成していてもよい。M+BR4-で表される化合物としては、例えば、Li+〔HB(CH(CH3)CH2CH33-が挙げられる。有機ボラン(A2)において、1つ以上の水素原子がホウ素原子に直接結合していることが好ましい。なお、M+BR4-で表される化合物の場合、後述するルイス塩基(C1)を用いず、安定化剤(C2)のみを用いてもよい。
【0036】
有機ボラン(A)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の重合性組成物は、有機ボラン(A)と重合性単量体(B)との合計100質量部に対して、有機ボラン(A)を、通常は0.001〜50質量部、好ましくは0.01〜30質量部、より好ましくは0.1〜10質量部の範囲で含有する。このような態様は、重合効率の点で好ましい。なお、有機ボラン(A)が安定化剤(C)、特にルイス塩基(C1)と錯体を形成している場合は、有機ボラン(A)の含有量には、前記錯体を構成する有機ボランの量も含めるものとする。
【0037】
<酸性基を有しない重合性単量体(B)>
重合性単量体(B)は、ラジカル重合ができる少なくとも1種のエチレン性不飽和基を有し、酸性基を有しない。酸性基としては、例えば、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基等のカルボン酸基、リン酸基、チオリン酸基、ピロ燐酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基が挙げられる。
【0038】
単量体(B)としては、(メタ)アクリルモノマーが好ましい。なお、「(メタ)アクリルモノマー」とは、アクリルモノマーおよびメタクリルモノマーの総称で用いる。
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の、1価のアルコール(特に炭素数1〜12のアルカノール)の(メタ)アクリル酸エステル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、グリセリンおよびトリメチロールプロパン等の多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステルおよびジ(メタ)アクリル酸エステル;エトキシ化ジフェノールプロパンおよびプロポキシ化ジフェノールプロパンのジ(メタ)アクリル酸エステル;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−((メタ)アクリロイル)モルホリン、N−((メタ)アクリロイル)ピペリジン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系化合物が挙げられる。これらの中でも、重合性組成物の保存安定性の観点から、1価のアルコールの(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
重合性単量体(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
<有機ボラン(A)の安定化剤(C)>
安定化剤(C)は、有機ボラン(A)の高い反応活性を適度な程度に保つ性能を有する。重合性組成物中の有機ボラン(A)は安定化剤(C)によって反応活性が抑制されているので、例えば室温条件下において、有機ボラン(A)と酸性基を有しない重合性単量体(B)とを共存させても、重合性組成物は重合硬化せずに充分な保存安定性を有する。また、酸性基を有する化合物または脱錯化剤が重合性組成物に添加されると、成分(C)による成分(A)の安定化が解け、例えば成分(A)が遊離し、成分(A)による成分(B)の重合反応が速やかに開始する。
【0040】
安定化剤(C)としては、前記有機ボラン(A)と錯体を形成可能なルイス塩基(C1)、および前記(C1)以外の安定化剤(C2)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0041】
〈ルイス塩基(C1)〉
本発明の重合性組成物は、安定化剤(C)として少なくともルイス塩基(C1)を含有することが好ましい。組成物調製時には、有機ボラン(A)およびルイス塩基(C1)を別々に系内に添加してもよいが、有機ボラン−ルイス塩基錯体を予め形成し、前記錯体を系内に添加してもよい。
【0042】
有機ボラン−ルイス塩基錯体は、公知の方法により調製することできる。通常、ルイス塩基(C1)を、反応系をゆっくり攪拌しながら、窒素等の不活性ガス雰囲気下で、有機ボラン(A)と反応させる。有機ボラン(A)を反応系に滴下し、発熱が観察される場合には冷却することが好ましい。反応温度は、高い蒸気圧を有する化合物の場合には、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下にする。調製された錯体は冷暗所で密閉系の容器内で保管することが好ましい。
【0043】
錯体中の有機ボラン(A)およびルイス塩基(C1)のモル比(C1/A)は、好ましくは0.5〜3.0であり、より好ましくは1.0〜2.0である。このような態様であると、錯体の安定性、および重合性組成物を接着剤として使用する場合の接着性の点で好ましい。
【0044】
前記錯体の製造で用いられる溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル;ヘキサン、ヘプタン等の低分子量アルカンが挙げられる。反応終了後、溶媒は、例えばロータリーエバポレーターを用いて除去する。
【0045】
本発明の重合性組成物中の有機ボラン−ルイス塩基錯体の含有量は、酸性基を有する化合物または脱錯化剤が前記組成物に添加された場合に、重合性単量体の重合が容易に起こる量であり、かつ生体由来の硬組織(例:骨、歯)への優れた接着性が得られる量である。
【0046】
ルイス塩基(C1)としては、例えば、アンモニア、アミン、ヒドロキシド、アルコキシドが挙げられ、アミンが好ましい。アミンとしては、例えば、第1級〜第3級のモノアミン、ポリアミン(ただし、これらのモノアミンおよびポリアミンにおいて、複素環式アミンおよびアミジン構造を有するアミンは除く)、複素環式アミン(ただし、アミジン構造を有するアミンを除く)、アミジン構造を有するアミンが挙げられ、その他、特表2003−517009号公報に記載されている、共役イミン、水素結合受容基を有する第1級アミンが挙げられる。これらの中でも、モノアミンおよびポリアミンが好ましい。
【0047】
アミド(R−CO−NH2)およびカルバミド(R−NH−CO−NH2)のように、ルイス塩基部にカルボニル基等の強力な電子求引性原子(団)が近隣に存在すると当該ルイス塩基性は低下することがある。
【0048】
《第1級〜第3級のモノアミン》
モノアミンにおける水素原子の置換基としては、有機基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、ポリオキシアルキル基が挙げられる。前記アリール基が有する1以上の水素原子は、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルデヒド基およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種により置換されていてもよい。
【0049】
具体例としては、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ベンジルアミン、メトキシエチルアミン、メトキシプロピルアミン、メトキシブチルアミン、エトキシプロピルアミン、プロポキシプロピルアミン、エタノールアミン、ポリオキシアルキレンモノアミン等の第1級モノアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、N−フェニルグリシン、N−トリルグリシン等の第2級モノアミン;トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−tert−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン等の第3級アミンが挙げられる。これらの中でも、第1級モノアミンが好ましい。
【0050】
《ポリアミン》
ポリアミンとしては、例えば、ジアミン、トリアミン、テトラアミン等が挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,12−ジアミノドデカン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、3−メチル−1,5−ジアミノペンタン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノブチルアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン等の脂環族ジアミンが挙げられる。ジアミンは、2つのアミノ基の間に、少なくとも2個の炭素原子を有することが好ましく、少なくとも3個の炭素原子を有することが好ましい。
【0051】
トリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン等の脂肪族トリアミンが挙げられる。テトラアミンとしては、例えば、トリエチレンテトラアミン等の脂肪族テトラアミンが挙げられる。トリアミンおよびテトラアミンは、アミノ基の間に、少なくとも2個の炭素原子を有することが好ましい。
【0052】
また、ポリアミンとしては、分子量が1000以下のポリオキシアルキレンポリアミンも挙げられる。ポリオキシアルキレンポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドトリアミン、ジエチレングリコールジプロピルアミン、トリエチレングリコールジプロピルアミン、ポリテトラメチレンオキシドジアミン、ポリ(エチレンオキシド−iso−プロピレンオキシド)ジアミン、ポリ(エチレンオキシド−iso−プロピレンオキシド)トリアミン、トリメチロールプロパントリス(ポリ(プロピレングリコール),アミン末端)エーテルが挙げられる。
【0053】
《複素環式アミン》
複素環式アミンは、複素環中に少なくとも1個の窒素原子を有する脂肪族複素環式化合物または芳香族複素環式化合物であり、前記複素環中に1個以上の酸素原子、硫黄原子または二重結合をさらに有してもよい。複素環式アミンは、多環の少なくとも1つがその環中に窒素原子を有する化合物であってもよい。
【0054】
複素環式アミンは、式(1)で表される化合物が好ましい。
【0055】
【化1】
【0056】
式(1)中、R1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、好ましくは水素原子またはメチル基である。Zは、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子または−N(R2)−であり、好ましくは−N(R2)−である。R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基であり、好ましくは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくは水素原子またはメチル基である。xはそれぞれ独立に1〜9の整数であり、ただし全てのxの合計は2〜10であることを条件とする。xは好ましくは1〜4の整数であり、ただし全てのxの合計は好ましくは3〜5である。yはそれぞれ独立に0または1である。なお、式中の−NH−における水素原子はアミノ基またはアミノアルキル基に置き換えられてもよく、環構造を形成する一部のアルキレン基がアルケニレン基に置き換えられていてもよい。
【0057】
複素環式アミンとしては、例えば、アジリジン、ピロリジン、3−ピロリン、ピペリジン、モルホリン、N−(3−アミノプロピル)モルホリン、ピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、ホモピペラジン、チアゾリジン等の上記式(1)で表される化合物のほか、1,3,3−トリメチル−6−アザビシクロ[3.2.1]オクタン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、4−(N,N−ジメチルアミノ)−ピリジンが挙げられる。
【0058】
《アミジン構造を有するアミン》
アミジン構造を有するアミンは、式(2)で表される化合物が好ましい。
【0059】
【化2】
【0060】
式(2)中、R1〜R3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数5〜6のシクロアルキル基である。R1は、−N(R32であってもよい。2つ以上のR1〜R3が相互に結合して、単環および二環等の環構造を形成してもよく、当該環は1個以上の窒素原子、酸素原子、硫黄原子または二重結合を有してもよい。具体的には、R2と一方のR3とが結合した単環構造や、R1と一方のR3とが結合し、R2と他方のR3とが結合した二環構造が挙げられる。
【0061】
アミジン構造を有するアミンとしては、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、2−メチル−2−イミダゾリン、2−メチルイミダゾール、テトラヒドロピリミジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが挙げられる。
【0062】
《ヒドロキシド、アルコキシド》
ルイス塩基(C1)としては、(R−O-mn+で表される、ヒドロキシドおよび/またはアルコキシドを用いることもできる。前記式中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。mは整数である。Mn+は対イオンであり、例えば、ナトリウム、カリウム、テトラアルキルアンモニウムまたはそれらの組み合わせであり、nは整数である。
【0063】
〈安定化剤(C2)〉
本発明の重合性組成物は、前記安定化剤(C1)以外の安定化剤(C2)をさらに含有することが、長期の保存安定性の観点から好ましい。安定化剤(C2)としては、ラジカル除去機能を有する成分であることが好ましく、例えば、共役電子系を有し、かつ、前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子を有する化合物が挙げられる。
【0064】
本明細書において「共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子」は、前記共役電子系の構造骨格を構成する炭素原子等に結合している水素原子や、前記共役電子系の構造骨格を構成する炭素原子等に結合する炭素原子または酸素原子に結合している水素原子である。
【0065】
なお、共役電子系に属していても、芳香環と直接結合している水素原子は、本発明の効果を奏し難い。例えば、ベンジル(別称:ジフェニルエタンジオン)の場合、有機ボラン(A)の安定化の効果が殆ど発現されない。ただし、芳香環がただ存在しているだけの場合は勿論、当該共役電子系を構成する場合であっても、共役電子系に属し、かつ芳香環とは直接結合していない水素原子があれば問題なく、例えば、1−フェニル−1,2−プロパンジオンは、有機ボラン(A)の高い安定性を発現できる。
【0066】
安定化剤(C2)としては、例えば、以下の安定化剤(C2a)〜(C2d)が挙げられる。安定化剤(C2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
《安定化剤(C2a)》
安定化剤(C2a)は、共役電子系を有し、ジケトン構造を有し、かつ、"前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子"を有する化合物である。安定化剤(C2a)としては、例えば、α−ジケトン、β−ジケトンおよびγ−ジケトンが挙げられ、重合性組成物の保存安定性の観点から、α−ジケトンおよびβ−ジケトンが好ましく、α−ジケトンがより好ましい。なお、ジケトン構造を有する化合物には、ケト・エノール互変異性により共役電子系を取りうる化合物も含める。
【0068】
安定化剤(C2a)としては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
A−CO−RD−CO−CHRBC
上記式中、RAは炭化水素基、エーテル結合含有基または遷移金属であり、好ましくは炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基である。RBおよびRCは、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基、エーテル結合含有基または遷移金属であり、好ましくは水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子である。RDは直接結合、メチレン基または1,2−エチレン基である。ジケトンのα−炭素原子に結合した水素原子は、本発明の効果を顕著に発現する。
【0069】
安定化剤(C2a)としては、例えば、1−フェニル−1,2−プロパンジオン、2,3−ブタンジオン等のα−ジケトン;アセチルアセトン等のβ−ジケトン;2,5−ヘキサンジオン等のγ−ジケトンが挙げられる。
【0070】
《安定化剤(C2b)》
安定化剤(C2b)は、環状構造の少なくとも一部を構成する共役電子系を有し、かつ、"前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子"を有する化合物である(前記(C2a)および下記(C2c)を除く)。安定化剤(C2b)は、芳香環を有しても有していなくてもよい。安定化剤(C2b)が芳香環を有していなくともよい理由は、環状構造による立体規制により、共役電子系の平面構造が保てやすいためである。安定化剤(C2b)としては、例えば、アスコルビン酸、カルシフェロール、α−トコフェロール;ケルセチン等のポリフェノール類(分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(例:ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環に結合したヒドロキシ基)を有する化合物)が挙げられ、重合性組成物の保存安定性の観点から、ポリフェノール類以外の前記安定化剤(C2b)が好ましい。
なお、本明細書において特に言及しない限り、例示化合物において複数の光学異性体を有するものは、いずれの光学異性体を用いてもよい。例えばアスコルビン酸には光学異性体があるが、いずれの光学異性体を用いてもよい。
【0071】
《安定化剤(C2c)》
安定化剤(C2c)は、二重結合を5個以上含む共役電子系を有し、かつ、"前記共役電子系に属する、芳香環とは直接結合していない水素原子"を有する化合物であり(前記(C2a)を除く)、好ましくは当該要件を満たす炭化水素化合物である。前記二重結合は、炭素−炭素二重結合であることが好ましい。なお、前記二重結合数は、表式上、芳香環中に現れる二重結合を除いての数である。共役している電子が増えるほど、エネルギー障壁が低下して、水素やラジカルの移動が容易になるためと考えられ、前記二重結合数は7個以上が好ましく、前記二重結合数の上限は例えば20個である。安定化剤(C2)としては、例えば、α−カロテン、β−カロテン等のカロテンが挙げられる。
【0072】
《安定化剤(C2d)》
安定化剤(C2d)は、上記安定化剤(C2a)〜(C2c)以外の、還元性化合物、ハイドロタルサイト様化合物および金属塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0073】
還元性化合物としては、例えば、ビタミン類、硫黄原子、すず原子等のヘテロ原子の還元作用に基づく、有機スルフィン酸塩、無機硫黄化合物、有機すず化合物が挙げられる。
ビタミン類としては、例えば、水溶性のビタミンB群が挙げられる。
【0074】
有機スルフィン酸塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタレンスルフィン酸等の芳香族スルフィン酸の塩類が挙げられる。
【0075】
無機硫黄化合物としては、例えば、亜硫酸、重亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、1亜2チオン酸、1,2−チオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸等の化合物の塩類が挙げられる。
【0076】
有機すず化合物としては、例えば1から4有機基置換すず化合物が挙げられる。1有機基置換すず化合物としてはメチルすず、ブチルすず、オクチルすず、モノエステルすず化合物が、2有機基置換すず化合物としてはジブチルすずオキシド、ジブチルすずクロリドが、3有機基置換すず化合物としてはトリブチルすずが、4有機基置換化合物としてはテトラブチルすず、マレイン酸ジブチルすず、ジラウリン酸ジブチルすずが、それぞれ挙げられる。これらの中で特に、ジラウリン酸ジブチルすずが好適に用いられる。前記有機基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、ラウリン酸残基等の脂肪酸残基、マレイン酸残基等のジカルボン酸残基が挙げられる。
【0077】
なお、有機すず化合物としては、例えば下記式で示される化合物が挙げられ、Rがメチル基、ブチル基またはオクチル基等のアルキル基、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、Xが脂肪酸残基であり、例えばラウリン酸残基(C1123−COO−)であり、nが整数であり、例えば0〜20の整数である。
【0078】
【化3】
【0079】
ハイドロタルサイト様化合物としては、例えば、一般式M18-x2x(OH)16CO2・nH2Oで表される複水酸化物が挙げられる。M1はMg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+であり、M2はAl3+、Fe3+、Mn3+であり、xは1〜7の整数であり、nは整数である。ハイドロタルサイト様化合物としては、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムAl23・MgO・1.7SiO2・nH2Oも挙げられる。
金属塩としては、例えば、遷移金属の塩で還元性を有する金属塩が挙げられ、塩化第二鉄(FeCl3)が好ましく用いられる。
【0080】
〈安定化剤(C)の含有量〉
本発明の重合性組成物は、成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、成分(C)を、通常は0.001〜100質量部、好ましくは0.005〜30質量部、より好ましくは0.01〜20質量部の範囲で含有する。前記数値範囲の下限値以上であると重合性組成物の安定性が優れ、前記数値範囲の上限値以下であると酸性基を有する化合物または脱錯化剤を重合性組成物に添加すると速やかに重合が開始する点で好ましい。
【0081】
本発明の重合性組成物において、有機ボラン(A)と安定化剤(C2)とのモル比(A/C2)は、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.5〜10、さらに好ましくは1〜5である。前記数値範囲の上限値以下であると有機ボラン(A)が安定であり、下限値以上であると重合性組成物の重合を速やかに開始できる点で好ましい。
【0082】
本発明の重合性組成物において、ルイス塩基(C1)と安定化剤(C2)とのモル比(C1/C2)は、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.5〜10、さらに好ましくは1〜5である。前記数値範囲の上限値以下であると保存時において前記組成物の重合を防止でき、下限値以上であると重合時において前記組成物の重合を開始できる点で好ましい。
【0083】
<ポリマー(D)>
ポリマー(D)は、重合性単量体により膨潤し、または重合性単量体に溶解する成分である。ポリマー(D)を用いることにより、重合性単量体からなる液の粘度を上昇させるとともに、硬化時間を調整することができる。
【0084】
ポリマー(D)のポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは10,000〜800,000である。前記分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定する。
【0085】
ポリマー(D)の平均粒径(体積基準)は、好ましくは0.1〜300μm、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。ポリマー(D)は、例えば、粉末である。平均粒径は、粒度分布測定装置(レーザー回折/散乱法)により測定する。
【0086】
ポリマー(D)としては、例えば、重合性単量体(B)として使用することのできる単官能重合性単量体(例:単官能(メタ)アクリルモノマー)の単独重合体および/または共重合体が挙げられる。具体的には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレートとエチル(メタ)アクリレートとの共重合体が挙げられ、ポリメチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0087】
ポリマー(D)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリマー(D)を用いる場合の本発明の重合性組成物における前記(D)の含有量は、用途によって異なるが、成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、例えば1〜300質量部である。
【0088】
<充填材(E)>
本発明の重合性組成物は、所望により充填材(E)を含有してもよい。充填材(E)を用いることにより、重合性組成物の粘度を調整したり、所望の重合速度または硬化時間になるように調整したりすることができる。
【0089】
充填材(E)としては、例えば、無機フィラー、有機フィラー、または有機成分と無機成分とを複合した有機質複合フィラーが挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、無定形シリカ、アルミナ、石英、アルミナ石英、シリカ−アルミナ化合物、シリカ−ジルコニア化合物、シリカ−チタニア化合物、酸化チタン、ガラス(バリウムガラスを含む)、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトが挙げられる。無機フィラーは、あらかじめシランカップリング剤やチタネートカップリング剤などで表面処理されていてもよい。
【0090】
有機フィラーとしては、重合性単量体に実質的に溶解しないポリマーであり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンターポリマー、ポリイソプレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、シリコーンポリマーおよびアクリル酸エステル共重合体等のポリマーからなるフィラーが挙げられる。
【0091】
有機質複合フィラーとしては、例えば、上記無機フィラー表面を重合性単量体で重合して被覆した後に粉砕して得られるフィラーが挙げられる。具体的には、微粉末シリカをトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPT)を主成分とする重合性単量体で重合被覆し、得られた重合体を粉砕したフィラー(TMPT・f)が挙げられる。
【0092】
充填材(E)の平均粒径(体積基準)は、好ましくは0.01〜100μmであり、使用に当たっては異なる粒径の充填材(E)を混合して用いることがより好ましい。平均粒径は、粒度分布測定装置(レーザー回折/散乱法)により測定する。
【0093】
充填材(E)を用いる場合の本発明の重合性組成物における前記(E)の含有量は、用途によって異なるが、成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、例えば0.1〜500質量部である。
【0094】
<その他成分(F)>
本発明の重合性組成物は、上述した成分に加えて、その他成分(F)を含有することができる。その他成分(F)としては、例えば、重合禁止剤(貯蔵中に重合性単量体の分解を防止または低減するための少量であり、重合性組成物の重合速度を実質的に低減しない量であり、典型的には重合性単量体の質量を基準として10〜10,000ppmの量)、過酸化物(典型的には、全組成物の質量を基準として2質量%以下の量)、光重合開始剤(典型的には、全組成物の質量を基準として5質量%以下の量)が挙げられる。
【0095】
本発明の重合性組成物には、所望により溶媒を添加することができる。溶媒としては、例えば、水;エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどの有機溶媒が挙げられる。なお、前記水としては、蒸留水、イオン交換水、日本薬局方精製水などを使用することができるが、水の代わりに生理的食塩水などを使用することもでき、特に日本薬局方精製水が好ましい。溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
<重合性組成物の調製>
本発明の重合性組成物は、上述した成分(A)〜(C)と必要に応じて他の成分とを混合することにより調製することができる。また、成分(C)として少なくともルイス塩基(C1)を用いる場合、あらかじめ、有機ボラン−ルイス塩基錯体を調製し、前記錯体と成分(B)と必要に応じて成分(C2)、他の成分とを混合することにより、前記組成物を調製することができる。
【0097】
本発明の重合性組成物において、成分(A)〜(C)の合計量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。成分(A)〜(C)の合計量の上限値は100質量%であってもよく、また重合性組成物が他の成分を含む場合は、前記上限値はそれらの量による。
【0098】
本発明の重合性組成物は、酸性基を有する化合物または脱錯化剤を加えるなど、重合を開始させる成分を加えない限り安定である。例えば、本発明の重合性組成物の一実施形態は、45℃の条件下で48時間静置させても硬化せず、さらに、45℃の条件下で好ましくは96時間、特に好ましくは168時間静置させても硬化しない。また、本発明の重合性組成物の一実施形態は、25℃の条件下で3〜12ヵ月静置させても硬化しない。なお、硬化状態の判定方法は、例えば、目視にて、液体状態等のように流動性を有しているか(すなわち硬化していない)、否か(すなわち硬化している)を確認する方法が挙げられる。
【0099】
一実施形態において、本発明の重合性組成物は、45℃の条件下で48時間静置させた場合に、前記静置前と前記静置後との粘度比(前記静置後の粘度/前記静置前の粘度(初期粘度))が100未満であり、好ましくは70未満、より好ましくは50未満、さらに好ましくは1〜30、特に好ましくは1〜5である。さらに、45℃の条件下で好ましくは96時間、特に好ましくは168時間静置させても、粘度比(前記静置後の粘度/前記静置前の粘度(初期粘度))が100未満であり、好ましくは70未満、より好ましくは50未満、さらに好ましくは1〜30、特に好ましくは1〜5である。前記粘度は、E型粘度計により、温度25℃、回転数50rpmの条件下、通常は大気圧下で測定する。
【0100】
本発明の重合性組成物の前記静置前の初期粘度は特に限定されないが、一実施態様において、例えば0.1〜100,000mPa・s、好ましくは0.1〜20,000mPa・sである。前記粘度は、E型粘度計により、温度25℃、回転数50rpmの条件下、通常は大気圧下で測定する。
【0101】
[重合開始剤]
上述した本発明の重合性組成物において、酸性基を有しない重合性単量体(B)を含まない組成物は、保存安定性に優れており、かつ、例えば酸性基を有する化合物または脱錯化剤が添加された場合に充分に活性の高い重合開始能を有する重合開始剤として、優れた性能を有する。
【0102】
すなわち、上述した本発明の重合性組成物において、酸性基を有しない重合性単量体(B)を含有しない組成物は、重合開始剤として保存安定性および重合開始能に優れており、さらに重合禁止剤を含有する前記組成物は、酸性基を有しない重合性単量体(B)と混合した場合に、保存安定性により優れている。前記重合開始剤は、酸性基を有する重合性単量体または脱錯化剤と共に使用することで、優れた重合開始能を発揮する。
【0103】
本発明の重合開始剤は、具体的には、有機ボラン(A)と、前記ルイス塩基(C1)以外の安定化剤(C2)とを含有し、好ましくは前記ルイス塩基(C1)をさらに含有する。上記重合開始剤において、各成分の詳細については[重合性組成物]の欄に記載したとおりであり、また有機ボラン(A)と安定化剤(C)の量比等については[重合性組成物]の欄に記載した各モル比を採用することができる。
【0104】
重合禁止剤としては、例えば、キノン系化合物、芳香環に2つ以上の置換基を有するフェノール系化合物、カテコール系化合物、オキシジフェニルアミン系化合物、ニトロソ系化合物、ニトロン系化合物、ニトリル系化合物、ヒドラジル系化合物、フェノチアジン系化合物が挙げられる。
【0105】
キノン系化合物としては、ヒドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン、2,6−ジクロロ−p−ベンゾキノン、2,5−ジクロロ−p−ベンゾキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシアニソールが好ましい。
【0106】
芳香環に2つ以上の置換基を有するフェノール系化合物としては、3,5−t−ジブチル−6−ヒドロキシトルエンが好ましい。
カテコール系化合物としては、カテコール、4−t−ブチルカテコールが好ましい。
【0107】
オキシジフェニルアミン系化合物としては、2−オキシジフェニルアミン、その水酸基位置の相違する異性体(3−オキシ体、4−オキシ体)、前記アミンにおいてメチル基等の炭化水素基および塩素原子等のハロゲン原子などの置換基を1つ以上有するものが好ましい。
【0108】
ニトロソ系化合物としては、メチル−α−ニトロソイソプロピルケトン等のカルボニルのα炭素にニトロソ基が結合した化合物類、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等のN−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミン類が好ましい。
【0109】
ニトロン系化合物としては、フェニル−t−ブチルニトロンが好ましい。
ニトリル系化合物としては、フルフリリデンマロノニトリル等のニトリル基が共役系を形成している化合物類が好ましい。
【0110】
ヒドラジル系化合物としては、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジルが好ましい。
フェノチアジン系化合物としては、フェノチアジンまたはその芳香環部分にメチル基等の炭化水素基および塩素原子等のハロゲン原子などの置換基を1つ以上有するものが好ましい。
【0111】
上記重合開始剤において、重合禁止剤の含有量は、例えば成分(A)を100質量部としたときに、通常は0.1〜1000質量部であり、好ましくは1〜500質量部である。
【0112】
[重合性組成物キット]
本発明の重合性組成物キットは、成分(A)〜(C)を含有する上述した本発明の重合性組成物(以下「組成物(1)」ともいう)と、特定の成分を含有する添加剤(以下「添加剤(2)」ともいう)とを有する。上記キットでは、例えば、それぞれの組成物(1)および添加剤(2)が別々の容器内に保存される。重合性組成物(1)と添加剤(2)とを混合することにより、速やかに、例えば1時間以内に、重合硬化が進行する。
【0113】
<組成物(1)>
組成物(1)は、上述した本発明の重合性組成物である。
【0114】
<添加剤(2)>
添加剤(2)は、例えば、酸性基を有する化合物(α)、または前記化合物(α)を含有する組成物である。あるいは、添加剤(2)は、重合開始剤である成分(A)を遊離させるようにルイス塩基(C1)に対して反応性を有する脱錯化剤(β)、または前記脱錯化剤(β)を含有する組成物である。
【0115】
化合物(α)または脱錯化剤(β)を、例えば有機ボラン−ルイス塩基錯体において重合開始剤である有機ボランを遊離させるように、上述した本発明の重合性組成物に添加することにより、重合性単量体の重合を速やかに開始することができ、硬化物を得ることができる。
【0116】
化合物(α)または脱錯化剤(β)を含有する上記組成物は、さらに上述した成分(B)、(D)および(E)、ならびにその他成分(F)から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。好ましい態様としては、上記組成物は、酸性基を有しない重合性単量体(B)をさらに含有する。
【0117】
〈酸性基を有する重合性化合物(α)〉
化合物(α)において酸性基としては、例えば、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基等のカルボン酸基、リン酸基、チオリン酸基、ピロ燐酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基が挙げられる。化合物(α)は、酸性基を1種有してもよく、2種以上有していてもよい。
【0118】
化合物(α)としては、例えば、酸性基を有する重合性単量体が挙げられる。
カルボキシル基およびそれに相当する官能基(カルボン酸無水物基等)を有する重合性単量体としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸、およびこれらの酸無水物が挙げられる。
【0119】
具体的には、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等の、ビニル基にカルボキシル基が直接結合した単量体;p−ビニル安息香酸等の、ビニル基とカルボキシル基との間に芳香環等の基が挿入されている単量体;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(メタクリレートの場合、MAC−10)等の、(メタ)アクリロイルオキシ基を有し、カルボキシル基を1つ以上有する脂肪族カルボン酸およびその無水物;4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸(メタクリレートの場合:4−MET、無水物のメタクリレートの場合:4−META)、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する鎖状炭化水素基を持ち、1つ以上のカルボキシル基を有する単環系芳香族カルボン酸およびその無水物;6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する鎖状炭化水素基を持ち、1つ以上のカルボキシル基を有する多環系芳香族カルボン酸およびその無水物;4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と1つ以上の水酸基等の親水性官能基とを有する鎖状炭化水素基を持ち、1つ以上のカルボキシル基を有する単環系芳香族カルボン酸およびその無水物;2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート等の、1つ以上のカルボキシル基を有するベンゾイルオキシを1つ以上有するアルコールの(メタ)アクリレート;2,3または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸等の、(メタ)アクリロイルオキシを1つ以上有する安息香酸;O−(メタ)アクリロイルオキシ−N−(メタ)アクリロイルチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン等の、N−(メタ)アクリロイル基および/またはO−(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアミノ酸;N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸(メタクリレートの場合:5−MASA)、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の、Nおよび/またはO−モノまたはジ(メタ)アクリロイルアミノ安息香酸、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸等の、水酸基等の親水性基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する鎖状炭化水素基がアミノ基および/またはカルボキシル基に結合したアミノフタル酸が挙げられる。これらの中でも、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)、4−METの無水物(4−META)、およびN−メタクリロイル−5−アミノサリチル酸(5−MASA)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0120】
リン酸基またはチオリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2および/または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルキルアシドホスフェート;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェート等の、1つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルキル基と0個以上のその他の置換基とを有する芳香族系アシドホスフェートが挙げられる。これらの化合物におけるリン酸基は、チオリン酸基に置き換えることができる。これらの中でも、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート(Phenyl P)、および10−メタクリロイルオキシデシルアシドホスフェート(MDP)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0121】
ピロ燐酸基を有する重合性単量体としては、例えば、ピロ燐酸ジ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}、ピロ燐酸ジ{4−(メタ)アクリロイルオキシブチル}、ピロ燐酸ジ{6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル}、ピロ燐酸ジ{8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル}、ピロ燐酸ジ{10−(メタ)アクリロイルオキシデシル}等のピロ燐酸ジ{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}化合物が挙げられる。
【0122】
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等の、1つ以上のスルホン酸基と0個以上のその他置換基(例:アルキル、ハロゲン、アルコキシ)とを有するアルキル(メタ)アクリレート;1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド等の、1つ以上のスルホン酸基と0個以上のその他置換基(例:アルキル、ハロゲン、アルコキシ)とを有するアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。これらの中でも、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸が好ましい。
【0123】
ホスホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピル−3−ホスホノプロピオネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルホスホノアセテート、4−(メタ)アクリロキシブチル−3−ホスホノプロピオネート、4−(メタ)アクリ ロキシブチルホスホノアセテート、5−(メタ)アクリロキシペンチル−3−ホスホノプ ロピオネート、5−(メタ)アクリロキシペンチルホスホノアセテート、6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホノアセテート、2−(メタ)アクリロキシエチル−フェニルホスホネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、N−(メタ)アクリロイル−ω−アミノプロピルホスホン酸が挙げられる。
【0124】
化合物(α)は、有機ボラン−ルイス塩基錯体から有機ボランを遊離させてラジカル重合を開始させる役割を果たすことはもちろん、硬組織への単量体(B)の浸透および重合性を高める役割がある。4−MET、4−META、Phenyl PおよびMDPから選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、4−MET、4−METAおよびMDPから選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0125】
化合物(α)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の重合性組成物キットにおいて、添加剤(2)中の化合物(α)の量は、組成物(1)中の有機ボラン(A)と酸性基を有しない重合性単量体(B)との合計100質量部に対して、通常は0.01〜500質量部、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは1〜100質量部である。このような態様であると、有機ボランが重合性単量体の重合を良好に開始できる点で好ましい。
【0126】
〈脱錯化剤(β)〉
脱錯化剤(β)の一例であるアミン反応性化合物は、アミンと反応し、それにより有機ボランをアミンとの化学的結合から分離することにより、有機ボラン−アミン錯体において有機ボランを遊離させる。アミン以外のルイス塩基(C1)でも同様である。
【0127】
好ましいアミン反応性化合物は、一般に周囲条件下で容易に用いられかつ硬化され得る組成物をもたらすように、室温程度、例えば20〜22℃程度において、アミンとの反応生成物を容易に形成し得るような物質である。
【0128】
脱錯化剤(β)としては、例えば、酸、アルデヒド、イソシアネート、酸塩化物、スルホニルクロライド、これらの2種以上の混合物が挙げられ、好ましくは酸である。ブレンステッド酸およびルイス酸の両方共が用いられ得る。Pociusの米国特許第5,718,977号は、第9欄第1〜15行(本明細書において前記欄の開示化合物を援用する)において、好ましい酸化合物を記載する。最も好ましい酸は、(メタ)アクリル酸であり、その他、上述した酸性基を有する重合性単量体も挙げられる。
【0129】
本発明の重合性組成物キットにおいて、添加剤(2)中の脱錯化剤(β)の量は、組成物(1)中の有機ボラン(A)と酸性基を有しない重合性単量体(B)との合計100質量部に対して、通常は0.01〜500質量部、好ましくは0.1〜200質量部、より好ましくは1〜100質量部である。このような態様であると、有機ボラン−アミン錯体を解離させ、それにより有機ボランが重合性単量体の重合を良好に開始できる点で好ましい。
【0130】
<本発明の重合性組成物キットの構成>
本発明の重合性組成物キットにおいて、重合性組成物(1)および添加剤(2)を混合して得られた組成物の総質量を基準として、重合性単量体の量の下限値は、好ましくは10質量%、より好ましくは30質量%であり;上限値は、好ましくは95質量%、より好ましくは90質量%、さらに好ましくは85質量%である。前記重合性単量体には、例えば、酸性基を有しない重合性単量体(B)、酸性基を有する重合性単量体が含まれる。
【0131】
本発明の重合性組成物キットにおいて、重合性組成物(1)および添加剤(2)を混合して得られた組成物の総質量を基準として、有機ボラン−ルイス塩基錯体の量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは1質量%であり;上限値は、好ましくは30質量%、より好ましくは20質量%、さらに好ましくは10質量%である。
【0132】
本発明の重合性組成物キットにおいて、ポリマー(D)および/または充填材(E)を用いる場合、重合性組成物(1)および添加剤(2)中の成分(A)および(B)の合計を100質量部としたときに、ポリマー(D)の量は、例えば1〜300質量部であり、充填材(E)の量は、例えば0.1〜500質量部である。
【0133】
[重合性組成物およびキットの用途]
本発明の重合性組成物およびキットは、接着剤およびコーティング剤として好適に用いることができ、また医療および/または歯科用途に好適に用いることができ、前記用途の接着剤およびコーティング剤として特に好適に用いることができる。
【0134】
本発明の重合性組成物およびキットは、例えば、上記用途における接着剤やコーティング剤として好適であり、特に、生体における硬組織と硬組織との接着剤、被着体と硬組織との接着剤、被着体または硬組織表面のコーティング剤として好適である。生体における硬組織としては、例えば、歯質、骨が挙げられる。被着体としては、例えば、歯科用金属、歯科用合金、歯科用陶材、歯科用レジンが挙げられる。
【0135】
本発明の重合性組成物は、生体における硬組織に対して優れた接着性を有し、硬組織への前処理後でも優れた接着性を有することおよび重合開始のメカニズムの観点から、前記組成物は前処理と組み合わせて用いられることが好ましい。本発明の重合性組成物キットは、硬組織への前処理があっても初期の接着性には特に影響はないが、接着耐久性の観点からは、前記キットは前処理と組み合わせて用いられることが好ましい。前処理としては、例えば、酸を含有する歯面処理剤によるエッチング、酸化剤を含有する歯面処理剤による表面改質が挙げられる。
【0136】
前処理について詳細には、本発明の重合性組成物またはキットを歯質と直接接触させて使用する場合には、状況に応じて歯質表面を前処理した後に、本発明の重合性組成物またはキットを適用すると接着耐久性が向上するため好ましい。
【0137】
前処理には、ルイス酸等の酸を含有する前処理剤を用いることができ、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸、しゅう酸等のエチレン性不飽和二重結合を有しない酸や、マレイン酸、4−META、MDP等の酸性基を有する重合性単量体などを含有し、必要に応じてさらに有機溶媒を含有するpH5以下の水溶液;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート化合物を含有する水溶液が挙げられ、その他の前処理剤としては、例えば、過酸化水素水や次亜塩素酸ナトリウム水溶液が挙げられる。本発明の重合性組成物では、上記pH5以下の水溶液との組合せ、または過酸化水素や次亜塩素酸ナトリウム水溶液との組合せが、重合開始の観点から好ましい。
【実施例】
【0138】
本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されない。
<有機ボラン−ルイス塩基錯体の合成>
[合成例1]
フラスコ中を窒素置換し、0.1モルの1,3−ジアミノプロパンを添加した。0.1モルのトリエチルボランをテトラヒドロフラン100mLに溶解させた溶液を、前記フラスコ中に添加した。フラスコ中の溶液を冷却し約40℃に保ちながら、トリエチルボランの前記溶液を全量添加後、1時間程度撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターにてテトラヒドロフランを除去し、トリエチルボラン−1,3−ジアミノプロパン錯体(TEB−DAP)を得た。
【0139】
[合成例2]
1,3−ジアミノプロパンの代わりに3−メトキシ−1−プロピルアミンを使用し、トリエチルボランの代わりにトリ−n−ブチルボランを使用したこと以外は合成例1と同様にして、トリブチルボラン−3−メトキシ−1−プロピルアミン錯体(TBB−MPA)を得た。
【0140】
[合成例3]
1,3−ジアミノプロパンの代わりにジエチレントリアミンを使用したこと以外は合成例1と同様にして、トリエチルボラン−ジエチレントリアミン錯体(TEB−DETA)を得た。
【0141】
<重合性組成物の調製>
[実施例1]
合成例1で得られたTEB−DAPを0.21gと、メチルメタクリレート(MMA)を5.0gと、アスコルビン酸を0.07gとを混合し、重合性組成物を得た。
【0142】
[実施例2〜14および比較例1〜5]
実施例1において、配合組成を表1−1および表1−2(まとめて「表1」ともいう)に記載したとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、重合性組成物を得た。なお、表1には、上記錯体を用いた場合は、上記錯体を構成する(A)および(C1)の量を記載した。
【0143】
[実施例15]
合成例1で得られたTEB−DAPを0.21gと、MMAを2.5gと、アスコルビン酸を0.07gとを混合し、重合性組成物キットのAパートとした。次に、MMAを2.5gと、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物(4−META)を0.25gと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を9.5gとを混合し、重合性組成物キットのBパートとした。なお、PMMAのゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量は40万、粒度分布測定装置(レーザー回折/散乱法)により測定した体積基準の平均粒径は32μmであった。AパートとBパートとは分割して保存し、使用時に混合した。
【0144】
[実施例16〜21]
実施例15において、配合組成を表2に記載したとおりに変更したこと以外は実施例15と同様にして、重合性組成物キットを得た。なお、表2には、上記錯体を構成する(A)および(C1)の量を記載した。「TMPT・f」は、微粉末シリカをトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPT)を主成分とする重合性単量体で重合被覆し、得られた重合体を粉砕したフィラーである。
【0145】
《評価》
<熱安定性試験>
実施例または比較例で得られた重合性組成物を、ガラス製サンプル瓶にそれぞれ全量充填した。これを、45℃に設定したオーブン中で静置した。静置開始から、1時間後、15時間後、48時間後、96時間後および168時間後の重合度合いを、目視および触診にて確認し、静置前後での粘度比により以下のように評価した。結果を表1または2に示す。なお、実施例15〜21では、重合性組成物キットのAパートとBパートとを混合せずにAパートのみを用いた。粘度は、E型粘度計により25℃、50rpm、大気圧下の条件下で測定した。
・上記組成物が液体であった場合:AA(粘度比が1〜5)
・上記組成物の増粘が確認された場合:BB(粘度比が5超〜100未満)
・上記組成物が硬化していた場合:CC(粘度比が100以上)
【0146】
<長期安定性試験>
実施例または比較例で得られた重合性組成物を、ガラス製サンプル瓶にそれぞれ全量充填した。これを、室温(25℃)で静置した。静置開始から、3日後、7日後、3カ月後、6カ月後および12カ月後の重合度合いを、目視および触診にて確認し、静置前後での粘度比により以下のように評価した。結果を表1または2に示す。なお、実施例15〜21では、重合性組成物のAパートとBパートとを混合せずにAパートのみを用いた。粘度は、E型粘度計により25℃、50rpm、大気圧下の条件下で測定した。
・上記組成物が液体であった場合:AA(粘度比が1〜5)
・上記組成物の増粘が確認された場合:BB(粘度比が5超〜100未満)
・上記組成物が硬化していた場合:CC(粘度比が100以上)
【0147】
<接着試験>
抜去後、冷凍保存されていた新鮮なウシ下顎前歯を解凍した。その後、エナメル質または象牙質の平坦面が露出するように、回転式研磨機ECOMET−III(BUEHLER製)を用いて、注水および指圧下、耐水エメリー紙#180で、前記前歯を研磨した。
【0148】
研磨歯面の水分をエアーブローによって除去し、直ちに片面に粘着材のついた内径4.8mm円孔を有する厚さ1mmのモールドにて、研磨歯面が上面となるよう歯を固定した。次にエナメル質および象牙質の平坦面に4−METAを含有するティースプライマー(サンメディカル株式会社製)を塗布し、20秒間静置した。その後、エアーブローによってプライマーに含まれる溶媒成分を除去し、被着体を得た。
【0149】
上記の熱安定性試験において、45℃下で168時間静置させた後の実施例1〜14の重合性組成物を、前記被着体の表面に塗布し、エアーブロー後、アクリル棒を植立した。また、同試験後の実施例15〜21の重合性組成物のAパートにBパートを混合して得られた重合性組成物を、前記被着体の表面に塗布し、アクリル棒を植立した。なお、前記条件においてCCと判断された重合性組成物については接着試験を行わなかった。またさらに、比較例1〜5で得られた調製直後の重合性組成物を、前記被着体の表面に塗布し、エアーブロー後、アクリル棒を植立した。
【0150】
アクリル棒を植立して1時間静置した後、37℃下で一晩水中に浸漬させ、クロスヘッドスピード2mm/minで引張り強さを測定した。結果を表1および表2に示す。
表1および表2の結果から、本発明の重合性組成物は、熱安定性および長期安定性に優れ、かつ、硬組織である歯質への接着性に優れることがわかる。したがって、本発明の重合性組成物は、特に医療および/または歯科材料として有効である。
【0151】
【表1-1】
【0152】
【表1-2】
【0153】
【表2】