特許第6190992号(P6190992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6190992
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】雨水貯水システム
(51)【国際特許分類】
   E03B 3/03 20060101AFI20170828BHJP
   E03B 11/14 20060101ALI20170828BHJP
   E03F 1/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   E03B3/03 B
   E03B11/14
   E03F1/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-63389(P2016-63389)
(22)【出願日】2016年3月28日
【審査請求日】2017年1月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507214050
【氏名又は名称】株式会社大建
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】河野 新司
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−137187(JP,A)
【文献】 特開昭55−157374(JP,A)
【文献】 特開2002−371596(JP,A)
【文献】 特開2007−270487(JP,A)
【文献】 特開2009−235884(JP,A)
【文献】 特開2015−157233(JP,A)
【文献】 特開平05−068988(JP,A)
【文献】 特開2003−024963(JP,A)
【文献】 特開2012−207510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03B 1/00〜 11/16
E03F 1/00〜 11/00
C02F 1/00〜 1/28
C02F 3/02〜 3/10
C12M 1/00〜 3/10
F24F 1/06〜 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入する雨水を貯水する雨水貯水システムであって、
側面及び底部が遮水され、砕石が充填された砕石層を有する貯水槽と、
下端が前記砕石層にあり、上端が前記砕石層よりも上にある取水さや管と、
取水部を備え、
前記雨水は、前記貯水槽の前記砕石層の上から流入し、前記砕石層の側面及び底部が遮水されていることにより前記砕石層の砕石の空隙に貯水され、
前記取水部は、
前記取水さや管の下端が前記砕石層にあることを利用して前記取水さや部の上端から前記砕石層に貯水された前記雨水を取水することにより、前記砕石層において水の流れを生じさせ、
前記砕石層に生じた前記水の流れによって前記砕石の表面に微生物を生存させるとともに前記砕石層において前記微生物により浄化された水を取水するものであり、
前記砕石層に充填された砕石は単粒度砕石4号であり、
前記取水部から取水された水は、一般細菌数が100個体/mL以下である、雨水貯水システム。
【請求項2】
流入する雨水を貯水する雨水貯水システムであって、
砕石が充填された砕石層と、前記砕石層の側面及び底部を遮水する遮水部を有する貯水槽と、
下端が前記砕石層にあり、上端が前記砕石層よりも上にある取水さや管を有する取水部を備え、
前記雨水は、前記貯水槽の前記砕石層の上から流入し、前記砕石層の側面及び底部が遮水されていることにより前記砕石層の砕石の空隙に貯水され、
前記取水部は、
前記取水さや管の下端が前記砕石層にあることを利用して前記取水さや部の上端から前記砕石層に貯水された前記雨水を取水して、前記貯水槽に流入する前記雨水を、前記砕石層を経由して取水することにより、前記砕石層において水の流れを生じさせ、
前記砕石層に生じた前記水の流れによって前記砕石の表面に微生物を生存させるとともに前記砕石層において前記微生物により浄化された水を取水するものであり、
前記取水部は、複数存在し、
前記各取水部において取水された水の水質によって前記各取水部の取水量を変更することにより、前記砕石層における水の流れを変更して前記各取水部により取水された水の水質を変更する、雨水貯水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水貯水システムに関し、特に、流入する雨水を貯水する雨水貯水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、埋設型の雨水貯水システムを開発して販売してきた(特許文献1参照)。図7は、出願人が提案した埋設型の雨水貯水システムの概要を示す図である。雨水貯水システム101は、地表を掘削し、シート103(保護シート及び遮水シート)を設置して、取水さや管105を設置する。そして、砕石が充填される砕石層107と、その上に埋戻土を転圧して埋戻土層109を形成する。埋戻土層109の厚さは、例えば80cmである。雨水は、砕石層107の石同士の空隙に貯水する。そして、取水さや管105を利用してポンプ111により水を取水する。これは、経済的に優れた雨水貯水システムであり、出願人は、このシステムによって、国内だけでなく国際的にも様々な貢献をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−137187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の雨水貯水システムでは、砕石層は、専ら、貯水槽の上を活用するために設けられるものであった。雨水貯水システムを単に貯水のためのものとして捉えるならば、例えば中空のタンクのようなものは、貯水量が多くなる。そのため、特許文献1記載の雨水貯水システムは、砕石が充填されているために貯水量が小さくなり、評価が低くなりがちであった。
【0005】
出願人は、雨水貯水システムが、貯水だけでなく、利水、すなわち、貯水された水を有効活用するかも重要であると考える。そうすると、雨水貯水システムでは、貯水できることに加え、いかに貯水するかも重要である。すなわち、雨水貯水システムでは、単に貯水するだけでなく、貯水された水の水質も重要になる。しかしながら、貯水された水の水質は、研究者や業者らからは着目されておらず、これまでに設置されたもので測定されていない。
【0006】
ゆえに、本発明は、貯水した水を「きれいな水」として有効活用することに適した雨水貯水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の観点は、流入する雨水を貯水する雨水貯水システムであって、前記雨水を貯水する貯水槽と、前記貯水槽が貯水する水を取水する取水部を備え、前記貯水槽は、砕石が充填された砕石層が存在し、前記取水部は、前記貯水槽に流入する前記雨水を、前記砕石層を経由して取水することにより、前記砕石層において水の流れを生じさせ、前記砕石層に生じた前記水の流れによって前記砕石の表面に微生物を生存させるとともに前記砕石層において前記微生物により浄化された水を取水するものである。
【0008】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の雨水貯水システムであって、前記砕石層に充填された砕石は、単粒度砕石であり、粒径がより小さい場合及びより大きい場合よりも高度に浄化するものである。
【0009】
本願発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の雨水貯水システムであって、前記砕石層に充填された前記砕石の一部又は全部は、前記砕石層に充填される前に、前記砕石の表面の前記微生物を養生したものである。
【0010】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の雨水貯水システムであって、前記砕石層は、前記微生物による浄化を活性化する添付剤が加えられたものである。
【0011】
本願発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点の雨水貯水システムであって、前記取水部とは別に、前記砕石層において水の流れを生じさせる流水制御手段を備えるものである。
【0012】
本願発明の第6の観点は、第5の観点の貯水システムであって、前記流水制御手段は、前記砕石層に前記雨水とは異なる気体及び/又は液体を流入させるものである。
【0013】
本願発明の第7の観点は、第5又は第6の観点の貯水システムであって、前記流水制御手段は、建造物との熱交換により前記砕石層の内部の水に温度差を生じさせる。
【0014】
本願発明の第8の観点は、第1から第7のいずれかの観点の貯水システムであって、前記取水部は、複数存在し、前記各取水部において取水された水の水質によって前記各取水部の取水量を変更することにより、前記砕石層における水の流れを変更して前記各取水部により取水された水の水質を変更する。
【0015】
なお、本願発明を、本願発明の各観点の雨水貯水システムにおいて、雨水は、前記貯水槽の上部に流入し、前記取水部は、前記砕石層の下部において取水するものとして捉えてもよい。
【0016】
ここで、砕石層における水の流れが変更することは、砕石層において水が移動する向き及び/又は量が変更することである。また、水質が変更するとは、例えば、一般細菌数、pH値、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、鉄(その化合物)、塩酸化イオン、硬度(カルシウム・マグネシウム等)、有機物(TOC)、味、臭気、色度、濁度などの一部又は全部が変更することである。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の各観点によれば、貯水槽において、砕石の表面に存在する微生物による浄化により「きれいな水」を貯水することができる。一般に、水質は、貯水時には劣化すると考えられてきた。そのため、貯水システムでは、「きれいな水」を貯水することは期待されてこなかった。
【0018】
本願発明の各観点では、雨水の流入から砕石層に至るまでの沈降距離が短い。また、砕石層では、砕石が充填されているために表面積が増大している。そのため、砕石の表面に存在する微生物による浄化が有効に機能する環境にある。
【0019】
出願人は、国立大学法人九州大学の協力により「きれいな水」を貯水することができることを実験により初めて明らかにした。そして、出願人は、この特許出願により、取水により生じる砕石層における水の流れを利用して、浄水環境を継続して維持し、砕石の表面に存在する微生物による浄化を継続して行うことが可能であることを明らかにしたのである。
【0020】
このような「きれいな水」を貯水することは、貯水により水質が劣化するという常識から導くことのできないことである。出願人が独自に開発し、継続して設置等を行ってきたからこそ、見出し、そして、実験により明確化できたものである。特に、雨水の流入部と取水部との距離が、貯水槽の最大幅の半分以上とすることにより、貯水槽を半分に分けて、一方に雨水の流入部が、他方に取水部が存在するようにでき5砕石層の一部ではなく、全体的に水の流れを作ることができるようになる。
【0021】
なお、浄水のために、粒状体を充填してフィルタとして機能させて濾過することは知られている。しかしながら、これは、貯水のためのものではない。
【0022】
さらに、本願発明の第5〜第7の観点にあるように、取水による水の流れを、他の要素によって変更したり、水質によって変更したりするようにしてもよい。
【0023】
本願発明の第5の観点によれば、砕石層において、流水手段によって、水の流れを生じさせるようにしてもよい。
【0024】
特に、第6の観点によれば、流水手段が気体や液体を流入させて、砕石層における水の流れを制御することができる。従来のように貯水という目的のみに着目すれば、このような流入は不要なものである。本願発明によれば、浄水のために水の流れに着目して、このような付加的な構成を設けることによって、水の流れを制御することができる。
【0025】
また、第7の観点によれば、熱交換による熱を利用して、水の流れを変更させることができる。従来、熱交換については、蓄熱に着目してきた。そのため、貯水槽全体として、どの程度の熱を蓄えるかに着目してきた。本願発明によれば、浄水のために水の流れに着目し、砕石層の内部の水に温度差を生じさせて、水の流れを制御することができる。
【0026】
本願発明の第8の観点によれば、複数の取水部を利用して各地点の取水量を調整することにより、流入部と取水部の直線的な水の流れの制御だけでなく、流入部と複数の取水部との平面的な水の流れの制御を行うことができる。これにより、砕石層全体を用いた浄水を有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本願発明の実施の形態に係る雨水貯水システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図1の貯水槽3の取水位置と流入位置の位置関係の一例を示す図である。
図3】本願発明の雨水貯水システムによる水質浄化性能の実験のための試験貯水容器を説明する図である。
図4図3の試験貯水容器による実験結果を示す第1図である。
図5図3の試験貯水容器による実験結果を示す第2図である。
図6図3の試験貯水容器による実験結果を示す第3図である。
図7】従来の雨水貯水システムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明の実施の形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
図1は、本願発明の実施の形態に係る雨水貯水システムの構成の一例を示すブロック図である。雨水貯水システム1は、貯水槽3(本願請求項の「貯水槽」の一例)と、取水さや管5と、ポンプ7(本願請求項の「取水部」の一例)と、送出部9と、送出パイプ11(送出部9と送出パイプ11を併せたものが、本願請求項の「流水手段」の一例。)を備える。ポンプ7は、取水量調節部15を備える。
【0030】
導管17は、一端が建物19(本願請求項の「建造物」の一例)の雨どい21であり、他端が貯水槽3の埋戻土層29の上又は内部にあり(導管17の他端が、本願請求項の「流入部」の一例)、建物19に降った雨水を貯水槽3に導くものである。建物19は、と、熱交換部23(本願請求項の「流水手段」の他の一例)を備える。
【0031】
貯水槽3は、地表を掘削して作成されたものである。すなわち、地表を掘削し、シート25(保護シート及び遮水シート)を設置して、取水さや管5を設置する。そして、砕石が充填される砕石層27(本願請求項の「砕石層」の一例)と、その上に埋戻土を転圧して埋戻土層29を形成する。埋戻土層29の厚さは、例えば80cmである。そのため、雨水の流入から砕石層に至るまでの沈降距離が短い。雨水は、砕石層27の石同士の空隙に貯水する。
【0032】
取水さや管5は、下端が砕石層27の中にあり、上端は埋戻土層25の上にある。ポンプ7は、取水さや管5の上部に設けられ、取水さや管5の下端が砕石層27の中にあることを利用して、砕石層27に貯水された水を取水する。取水量調整部15は、取水量を調整するためのものである。
【0033】
建物19に降った雨水は、雨どい21に集められ、導管17により貯水槽3に流入する。これは、埋戻土層29を経由して、砕石層27の石同士の空隙に貯水される。ポンプ7は、砕石層27に貯水された水を取水する。ポンプ7による取水により、貯水槽3の砕石層27では、水の移動を生じさせることができる。
【0034】
砕石層27では、砕石が充填されているために表面積が増大している。砕石層27の砕石の表面には、微生物が生存している。そのため、砕石の表面に存在する微生物による浄化が有効に機能する環境にある。ここで、水の浄化とは、水質が変更して、基準値以上となることである。水質の変更とは、例えば、一般細菌数、pH値、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、鉄(その化合物)、塩酸化イオン、硬度(カルシウム・マグネシウム等)、有機物(TOC)、味、臭気、色度、濁度などの一部又は全部が変更することである。砕石の表面に生存する微生物により、水を浄化することができる。そして、取水により生じる砕石層における水の流れを利用して、浄水環境を継続して維持し、砕石の表面に存在する微生物による浄化を継続して行うことが可能である。
【0035】
図2を参照して、砕石層27に貯水された水の動きの一例を説明する。簡単のために、貯水槽3は、円形であるとする。
【0036】
図2(a)を参照して、△印は、ポンプ7による取水位置33である。×印は、導管17による雨水の流入位置35である。取水位置33と流入位置35との距離Dは、取水槽3の幅Wの半分以上とする。これにより、ある中心線L1(例えば、貯水槽3の中心を通り、取水位置33と流入位置35を結ぶ線分に垂直な線)を基準に、一方側に取水位置33が、他方側に流入位置35とすることができ、貯水槽3を、局所的ではなく、広く水を動かすことができる。
【0037】
取水位置33が1か所の場合、図2(b)にあるように、水は、流入位置35から取水位置33に向かって移動する。
【0038】
他方、図2(c)〜(e)にあるように、取水位置33を複数設けてもよい。簡単のために、図2(a)及び(b)と同じ取水位置33に加え、取水位置37を設ける。図2(c)にあるように、取水位置33のみから取水する場合は、図2(b)と同じ水の動きとなる。図2(d)にあるように、取水位置37のみから取水すると、新たな水の動きを生じることとなる。図2(e)にあるように、両方から取水すると、新たな水の動きを生じさせることができる。このように、複数の取水位置から取水することにより、より広い範囲で、水の移動を複雑に生じさせることができる。
【0039】
よって、取水位置と流入位置の距離を貯水槽3の幅の半分以上とすることにより、広い範囲で水の移動を生じさせ、さらに、複数の取水位置とすることにより、より広く、かつ、複雑に水を移動させることができ、砕石層27における水の浄水をより有効に機能させることができる。
【0040】
なお、取水量調整部15は、取水された水質によって、取水量を調整するようにしてもよい。例えば、汚染されているときには、取水量を少なくして微生物が機能する時間を増やすようにしたり、複数の取水位置で浄化の度合いが異なる場合には、きれいな取水位置の取水量を増やし、汚い取水位置の取水量を減らしたりするようにしてもよい。
【0041】
送出パイプ11は、下端が砕石層27にあり、上端が埋戻土層29の上にある。送出パイプ11の砕石層27にある部分には、例えば、複数の穴が設けられている。送出部9は、送出パイプ11の上部に設けられている。送出部9は、送出パイプ11の下端が砕石層27にあることを利用して、雨水とは異なる気体や液体を砕石層27に送出する。例えば、空気を送出したり、浄水を送出したりする。これにより、砕石層27に水の動きを生じさせることができる。
【0042】
熱交換部23は、建物19と貯水槽3との間で熱交換をする。ここで、熱交換部23は、砕石層27において温度差を設けることにより、水の動きを生じさせる。従来の熱交換では、蓄熱を目的とするため、貯水槽3の全体での蓄熱量にのみ着目するものであった。本願発明は、水の動きというベクトル量に着目するため、砕石層27における温度差に着目するものである。
【0043】
続いて、本願発明の雨水貯水システムによる水質浄化性能を確認するために行った実験について説明する。これは、雨水貯留槽内の充填物を変えることによって、雨水の水質変化過程に差異が生じるのかを実験的に検討したものである。実験は、平成28年1月7日から開始し、1日目、21日目、42日目、63日目の4回採水を行った。この実験では、充填物によって水質に大きな差異が生じるという大変興味深い結果を得た。
【0044】
図3は、本願発明の雨水貯水システムによる水質浄化性能の実験のための試験貯水容器を説明する図である。試験貯水容器51は、約54×40×34cmのコンテナ容器である。使用する容器は、水道水でよく洗浄し、乾燥する。
【0045】
砕石55は、以下の6種類である。割栗石(粒径20cm)、クラッシャーラン、細礫(粒径2〜4.75mm)、粗砂(粒径0.85〜2mm)、割栗石(粒径10cm)、粒度砕石4号(粒径約20mm)。なお、砕石は、同一石材により調整したものを使用する。使用する砕石の空隙率を確認する。なお、比較のために、プラスティック等のメッシュによる上下2段のものと、雨水のみのものも用意する。また、割栗石(粒径10cm)と粒度砕石4号については、微生物を活性化する添加剤を加えたものも用意する。
【0046】
雨水の出し入れは、同じ位置から行う。図3では、一つの角53から出し、対角に設置されたバルブ59で底面より5cmの位置から採取する。パイプ57は、排水用塩ビパイプ(内径16mm)である。
【0047】
砕石を入れた貯水容器を使用する雨水で軽くすすいだ後、雨水を満水とし、2〜3週間予備養生を行う。
【0048】
雨水を作成した各貯水容器に満水とし、一定間隔における水質資料を採取し、分析資料とする。また、使用する前の雨水の分析も行う。水質分析項目は、飲用井戸の検査項目、すなわち、水質分析項目は、水温、一般細菌、大腸菌、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素、鉄及びその化合物、塩化物イオン、カルシウム・マグネシウム等(硬度)、有機物(TOC)、pH値、味、臭気、色度、濁度の13項目である。分析方法は、水道水質基準で定める分析方法とする。
【0049】
図4図6は、図3の試験貯水容器による実験結果を示す図である。
【0050】
図4は、比較のための雨水のみとメッシュ2段の検査結果を示す。図5は、割栗石(粒径20cm)、クラッシャーラン、細礫(粒径2〜4.75mm)、及び、粗砂(粒径0.85〜2mm)の検査結果を示す。図6は、割栗石(粒径10cm)と粒度砕石4号について、添加剤を加えていない場合と、添加剤を加えた場合を比較するものである。各水質分析項目は「項目」の欄に示す。各水質分析項目の水質基準は図4の「水道水質」の欄に示す。
【0051】
原水は雨水であり、水道水質基準と比較すると一般細菌およびpHが水道水質基準を満たしていない。
【0052】
一般細菌について、実験開始時は18,000個体/mlと高い値であったが、3週間後には「雨水のみ」及び「メッシュ2段」に関して、1,000個体/ml程度にまで大幅に減少しているが、メッシュを導入しても何も「雨水のみ」の場合とほぼ同じ値であり、一般細菌の減少には寄与していないことが分かる。
【0053】
他方、他の充填物は100個体/mlまで大幅に減少する。特に、単粒度砕石は、6、9週間後まで引き続きさらに減少し、飲料基準を下回っている。よって、充填物を貯留槽に入れることによって、一般細菌を減少させる効果が認められる。さらに、添加剤を加えることにより、割栗石(粒径10cm)も単粒度砕石4号も、共に、大幅に改善して水質基準を満たすとともに、単粒度砕石4号では、5個/mLという結果となった。そのため、これらは、微生物による水質改善であると認められる。
【0054】
TOCは、粒径が小さいものほど除去率が高い傾向にある。また、時間とともにその値は減少する。よって、空隙の間隔が除去効果に影響していると推察される。沈降又は分解により減少していると考えることができる。
【0055】
硬度、塩化物並びに硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素は、時間とともに増加する傾向にあるが、「雨水のみ」「メッシュ」は変化しない。材料が細かいもののほうが溶出する傾向にある。これは、材料の表面積と関係しており、細かい材料を含むものが、表面性が大きく、溶出量が大きくなっているものと推察される。クラッシャーランは非常に細かい材料が含まれているため、溶出が大きくなっている。いずれの材料においても飲料基準を上回るものはない。
【0056】
「鉄およびその化合物」「濁度」は、非常に類似した挙動を示す。クラッシャーランが極めて高い値を、ついで粗砂が高い値を示す。その他の材料は時間とともに値は減少しており、極めて小さい値を示す。クラッシャーランや粗砂の濁りは、鉄由来と推定される。鉄の基準が2mg/l以下、濁度の基準が2度以下であるので、クラッシャーランおよび粗砂は飲料基準を満たしていない。クラッシャーランと粗砂が高い値を示したのは粒径とともに材料の特性が関係している可能性がある。
【0057】
pH値は「雨水のみ」「メッシュ2段」の2つのみは、酸性雨の影響を受け低いpHを示しているが、それ以外は弱アルカリを示している。この挙動は硬度と類似しており、鉱物の水酸化作用によるものと考えられるが、3週間以降は弱アルカリで安定しており、飲料基準を満たしている。
【0058】
以上より、プラスティックのメッシュ材は水質浄化効果がほとんど認められない。他方、充填物を貯留槽に入れることによって、水質が改善されることが実験により明らかとなった。
【0059】
特に、一般細菌に関しては、充填物を貯留槽に入れることによって、一般細菌を減少させる効果が認められる。そのなかでも、単粒度砕石4号を充てんした貯留槽は極めて一般細菌数が少なく、飲料基準を満たしている。
【0060】
また、TOCは、粒径が小さいものほど除去率が高い傾向にある。沈降及び微生物による浄化のためと考えられ、いずれの槽も飲料基準を満たす。
【0061】
さらに、pHは、石材を充てんした槽は、酸性水質を弱アルカリ性にし、飲料基準に適するようにする。
【0062】
硬度および塩化物イオンは、時間とともに増加する傾向にあるが、「雨水のみ」「メッシュ」は変化しない。細かい材料のほうが溶出する傾向にある。いずれの材料においても飲料基準を上回るものはない。
【0063】
「鉄およびその化合物」「濁度」は、非常に類似した挙動を示し、クラッシャーランが極めて高い値を、ついで粗砂が高い値を示す。その他の材料は時間とともに値は減少しており、極めて小さい値を示す。
【0064】
溶質に関しては、粒径の大きい材料が、溶質量が少なく、沈降や付着微生物が効果を発揮するものについては粒径の小さな材料が、沈降距離が小さく、表面積が大きいため効果が大きいなど粒径によって水質の挙動は異なる。
【0065】
今回実験した材料の中では、単粒度砕石4号が、粒径が中庸であり臭気を除くすべての項目で飲料基準を満たし、雨水貯留槽の充填剤として最適な材料であることが明らかとなった。空隙の沈降距離、材料の表面積が適切であったことを示している。
【符号の説明】
【0066】
1 雨水貯水システム、3 貯水槽、5 取水さや管、7 ポンプ、9 送出部、11 送出パイプ、15 取水量調節部、17 導管、19 建物、21 雨どい、23 熱交換部、25 シート、27 砕石層、29 埋戻土層、33,37 取水位置、35 流入位置
【要約】
【課題】 貯水した水を「きれいな水」として有効活用することに適した雨水貯水システムを提供する。
【解決手段】 流入する雨水を貯水する雨水貯水システム1であって、雨水を貯水する貯水槽3と、貯水槽3が貯水する水を取水する取水部7を備え、貯水槽3は、砕石が充填された砕石層27が存在し、取水部7は、貯水槽3に流入する雨水を、砕石層27を経由して取水することにより、砕石層27において水の流れを生じさせ、砕石層27に生じた水の流れによって砕石の表面に微生物を生存させるとともに砕石層27において微生物により浄化された水を取水する。
【選択図】 図1
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図2
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図7