特許第6191003号(P6191003)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6191003-高純度窒素ガス生成システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6191003
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】高純度窒素ガス生成システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0662 20160101AFI20170828BHJP
   C01B 21/04 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H01M8/06 S
   C01B21/04 D
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-30521(P2017-30521)
(22)【出願日】2017年2月21日
【審査請求日】2017年2月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154521
【氏名又は名称】株式会社フクハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】福原 廣
【審査官】 武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−048847(JP,A)
【文献】 特開2015−185265(JP,A)
【文献】 特開平07−185253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/24
C01B 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスが貯留されている水素ガス提供手段と、
該水素ガス提供手段からの水素ガスが導入される第1の導入口を有する燃料電池であって、
窒素及び酸素を含む空気を導入する空気取り入れ口と、
前記水素ガス中の水素と前記酸素が反応して生成された水が排出される第1の排水口と、
前記酸素が反応することにより窒素濃度が高まった窒素リッチガスが排気される第1の排気口と、
を含む燃料電池と、
水素ガスが導入される第2の導入口を有する加熱反応槽であって、
前記第1の排気口と接続管を介して接続されて前記窒素リッチガスが導入される排気取り入れ口と、
前記水素ガス中の水素と前記窒素リッチガス中の残存酸素とが反応して生成された水が排出される第2の排水口と、
前記残存酸素が反応することにより窒素濃度がさらに高まった高純度窒素ガスが排気される第2の排気口と、
を含む加熱反応槽と、
前記加熱反応槽の内部に充填されていて前記水素と前記残存酸素との反応性を高める触媒とを備え
前記加熱反応槽の上側には、前記残存酸素と反応せずに残った余剰の水素を排出するための水素排出管が延びていることを特徴とする高純度窒素ガス生成システム。
【請求項2】
前記第2の導入口は、前記水素ガス提供手段と接続されていることを特徴とする請求項1に記載の高純度窒素ガス生成システム。
【請求項3】
前記第2の導入口は、前記加熱反応槽の下部に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の高純度窒素ガス生成システム。
【請求項4】
前記加熱反応槽は、前記燃料電池の排熱を利用して加熱されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高純度窒素ガス生成システム。
【請求項5】
前記加熱反応槽は、改質器である前記水素ガス提供手段の排熱を利用して加熱されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高純度窒素ガス生成システム。
【請求項6】
前記触媒は、前記燃料電池の発する電力が通電され加熱されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高純度窒素ガス生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を利用して純度の高い窒素ガスを生成するための高純度窒素ガス生成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質を介した燃料極及び空気極で形成されている。ここに燃料ガスを供給して発電が行われる。燃料電池の種類としては、固体高分子形(PEFC)、リン酸形(PAFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、そして固体酸化物形(SOFC)が知られている。これらの燃料電池において、電解質はそれぞれ異なっているが、いずれも燃料ガスとして水素を利用可能である。燃料極ではこの水素がイオン化し、イオン化した水素は電解質を通って空気極で酸素と反応して水を排出する。空気極に供給される酸素は、主として空気中の酸素が利用されている。
【0003】
ここで、空気極に利用される空気には酸素の他に多量の窒素が含まれている。燃料電池では、反応により酸素が低減するため、排気ガス中には窒素が高濃度で含まれることになる。これは、窒素リッチガスと称されている。
【0004】
このような窒素リッチガスは半導体製造やレーザー等で利用可能である。燃料電池の排気ガスでは、窒素濃度は約92%〜97%であるが、さらに窒素濃度を高めることにより、高効率で上記分野に適用することができる。このような窒素リッチガスよりもさらに窒素濃度を高めた高純度窒素ガスが産業界において求められている。
【0005】
このような高純度窒素ガスを生成するため、本願出願人は鋭意研究を重ね、従来技術を開示するに至っている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−149283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構造では膜分離方式やPSA方式からなる窒素ガス発生装置が必要である。これらは装置が大型であり、設置に際して種々の制約があったり、スペース的にも効率が悪いものであった。
【0008】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、簡単な構造で高純度窒素ガスを容易に生成することができる高純度窒素ガス生成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明では、水素ガスが貯留されている水素ガス提供手段と、該水素ガス提供手段からの水素ガスが導入される第1の導入口を有する燃料電池であって、窒素及び酸素を含む空気を導入する空気取り入れ口と、前記水素ガス中の水素と前記酸素が反応して生成された水が排出される第1の排水口と、前記酸素が反応することにより窒素濃度が高まった窒素リッチガスが排気される第1の排気口とを含む燃料電池と、水素ガスが導入される第2の導入口を有する加熱反応槽であって、前記第1の排気口と接続管を介して接続されて前記窒素リッチガスが導入される排気取り入れ口と、前記水素ガス中の水素と前記窒素リッチガス中の残存酸素とが反応して生成された水が排出される第2の排水口と、前記残存酸素が反応することにより窒素濃度がさらに高まった高純度窒素ガスが排気される第2の排気口とを含む加熱反応槽と、前記加熱反応槽の内部に充填されていて前記水素と前記残存酸素との反応性を高める触媒とを備えたことを特徴とする高純度窒素ガス生成システムを提供する。
【0010】
好ましくは、前記第2の導入口は、前記水素ガス提供手段と接続されている。
【0011】
好ましくは、前記加熱反応槽の上側には、前記残存酸素と反応せずに残った余剰の水素を排出するための水素排出管が延びている。
【0012】
好ましくは、前記第2の導入口は、前記加熱反応槽の下部に形成されている。
【0013】
好ましくは、前記加熱反応槽は、前記燃料電池の排熱を利用して加熱されている。
【0014】
好ましくは、前記加熱反応槽は、改質器である前記水素ガス提供手段の排熱を利用して加熱されている。
【0015】
好ましくは、前記触媒は、前記燃料電池の発する電力が通電され加熱されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、窒素リッチガスに対してさらに水素を反応させる加熱反応槽を設けているので、窒素リッチガス中に残った低濃度の残存酸素がさらに水素と反応し、限りなく窒素リッチガス中の窒素濃度を高めることができ、高純度窒素ガスを生成することができる。窒素リッチガスは燃料電池の副産物として廃棄されていたものであるが、このような構成を適用することで窒素リッチガスを有効活用することができる。また燃料電池の副産物たる窒素リッチガスを用いることで、高純度窒素ガスの生成について低コストでこれを生成できるようになる。このような高純度窒素ガスの生成の際、二酸化炭素が全く排出されないので、環境にも好ましい。
【0017】
また、燃料電池を運転することで得られる排熱を利用して加熱反応槽が加熱される場合、エネルギー効率が高い。
【0018】
さらに、燃料電池を運転することで得られる電力を利用して触媒が加熱される場合、外聞電力を要することなく自立して運転可能である。
【0019】
そして、燃料電池と加熱反応槽とに使用する水素の供給源を同一の水素ガス提供手段とすることで、スペース的に効率がよくなり、構造が簡略化され適用範囲が拡大される。また、加熱反応槽に水素排出管を設けることで、水素と高純度窒素ガスとを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る高純度窒素ガス生成システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明に係る高純度窒素ガス生成システム1は、水素ガス提供手段2と、燃料電池3と、加熱反応槽4とで構成されている。水素ガス提供手段2は、改質器もしくは水素ガスタンクであって、燃料電池3に水素ガスを供給する。この水素ガス提供手段2には三方弁5を介して燃料電池3の方向へ延びる第1の供給管6及び加熱反応槽4の方向へ延びる第2の供給管7と接続されている。燃料電池3には、第1の供給管6と接続される第1の導入口8が形成されている。燃料電池3は空気極9及び燃料極10を有し、これらの間には電解質11が配されている。水素ガス提供手段2から供給される水素ガスは、燃料極10にてイオン化されて水素イオンとなる。水素イオンは電解質を通り、空気極9へと到達する。一方で、燃料電池3は空気極9側に窒素及び酸素を含む空気を導入する(矢印A)ための空気取り入れ口12を備えている。空気極9では、水素イオンと空気中の酸素、及び燃料極10にてイオン化された際に水素から分離した電子とが反応して水が生成される。なお、燃料極10にて発生した電子は電池13等で電力として利用される。
【0022】
空気極9で水素ガス中の水素と酸素が反応して生成された水は、燃料電池3に備わる第1の排水口14から排出される(矢印B)。燃料電池3に取り入れられた空気は、空気極9にて酸素が反応するため酸素濃度が低くなっていき、相対的に窒素濃度が高まっていく。具体的には、燃料電池3にて酸素反応前の空気中の窒素濃度は約80%、酸素濃度は約20%であるが、酸素が水素と反応することで窒素濃度は92%乃至97%程度となる。このような高濃度のガスは窒素リッチガスと称され、燃料電池3に設けられた第1の排気口15から排気される。
【0023】
本システム1では、この窒素リッチガスをさらに利用するために加熱反応槽4を設けている。加熱反応槽4には窒素リッチガスを導入するための排気取り入れ口16が備わっている。この排気取り入れ口16は燃料電池3の第1の排気口15と接続管17により接続されている。したがって燃料電池3で生成された窒素リッチガスは、燃料電池3の第1の排気口15から接続管17を通って排気取り入れ口16から加熱反応槽4内へと取り入れられる。加熱反応槽4はさらに第2の導入口18を備えている。この第2の導入口18は上述した水素ガス提供手段2と第2の供給管7を介して接続されている。したがって、水素ガス提供手段2内の水素ガスは第2の供給管7を通って第2の導入口18から加熱反応槽4内へと導入される。また、加熱反応槽4内部は、第1の方法もしくは第2の方法で加熱されている(高エネルギー状態とされている)。
【0024】
前記第1の方法として、加熱反応槽4は、燃料電池3もしくは水素ガス提供手段2(改質器である場合)の排熱を利用して加熱されている(高エネルギー状態とされている)。排熱の回収態様としては、燃料電池3から排気される窒素リッチガスが既に所定高温状態であればそのまま利用すればよく、そうでない場合は、燃料電池3に排熱回収機構を設けて排熱を回収した上でさらに昇温して加熱反応槽4を加熱すればよい。
【0025】
前記第2の方法として、加熱反応槽4は、内部に充填されている触媒19に燃料電池3が発する電力を通電することで加熱されている(高エネルギー状態とされている)。
【0026】
このように、加熱されている加熱反応槽4内には窒素リッチガスと水素ガスとが充満することになる。そして、加熱反応槽4内は触媒19が充填されている。加熱下(高エネルギー下)にあって、この触媒19の作用により、残存酸素はそのほとんどが水素と反応し、水が生成される。この水は加熱反応槽4の下部に設けられた第2の排水口20から排出される(矢印C)。
【0027】
一方、残存酸素がほぼ反応された窒素リッチガスはさらに窒素濃度が高まり、高純度窒素ガスとなる。この高純度窒素ガスは加熱反応槽4に備わる第2の排気口21から排出される(矢印D)。排出された高純度窒素ガスは、適宜回収されて半導体やレーザー分野等で有効的に利用される。
【0028】
上述した例では、水素ガス提供手段2を燃料電池3と加熱反応槽4とで共用する例を示したが、それぞれ別々に水素供給源となるものを設けてもよい。ただし水素ガス提供手段2として共用すれば、スペース的に効率がよくなり、構造が簡略化され適用範囲が拡大される。例えば狭小な工場や研究室でも適用可能となる。
【0029】
なお、触媒19について、それが銅である場合の加熱量は200℃程度である。触媒119については他に白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、ジルコニウムなど、あるいはこれらの合金等の金属触媒を適用可能である。通電しない場合については、金属の微粒子として、それをさらにアルミナなどに担持させるなどの実施が考えられる。通電する場合については、導電性がよいものを網状にするなどが考えられる。どちらにしても、水素ガスや酸素が触れる表面積を多くすることが肝要である。
【0030】
また、加熱反応槽4の上側に水素排出管22を設けてもよい。この水素排出管22残存酸素と反応せずに残った余剰の水素を排出するためのものである。これは、多くの場合、燃料電池3の運転終了後などに残存水素ガスを排出する目的で使用される。運転水素は軽いため、加熱反応槽4の上側に設けることでそれを容易に取り出すことができる。取り出された水素は再利用(再加工)して再び加熱反応槽4に導入してもよい。なお、水素排出管22から水素を取り出す配管上に安全バルブ23を取り付けてもよい。このような水素の性質を利用して、加熱反応槽4に設けられた第2の導入口18は加熱反応槽4の下部に設けることが好ましい。水素ガスは加熱反応槽4内を上昇するので、万遍なく加熱反応槽4内に水素ガスを行き渡らせて残存酸素との反応性を高めることができる。
【0031】
以上説明したように、本発明では、窒素リッチガスに対してさらに水素を反応させる加熱反応槽4を設けているので、窒素リッチガス中に残った低濃度の残存酸素をさらに水素と反応させることができる。このため、限りなく窒素リッチガス中の窒素濃度を高めることができ、高純度窒素ガスを生成することができる。窒素リッチガスは燃料電池の副産物として廃棄されていたものであるが、このような構成を適用することで窒素リッチガスを有効活用することができる。また燃料電池の副産物たる窒素リッチガスを用いることで、高純度窒素ガスの生成について低コストでこれを生成できるようになる。さらに、燃料電池3を運転することで得られるエネルギーを用いて加熱反応槽4を加熱(高エネルギー状態)するので効率が良い。そして、このような高純度窒素ガスの生成の際、二酸化炭素が全く排出されないので、環境にも好ましい。特に、燃料電池を発電機として用いている、あるいは導入予定の企業等にとっては、電気の他に高純度窒素ガスも生成することができるようになる。このことは自社で窒素ガスを使用している企業にとっては大変有用であり、自社で使用していない場合でも売却等することで資産として活用できることになる。
【符号の説明】
【0032】
1:高純度窒素ガス生成システム、2:水素ガス提供手段、3:燃料電池、4:加熱反応槽、5:三方弁、6:第1の供給管、7:第2の供給管、8:第1の導入口、9:空気極、10:燃料極、11:電解質、12:空気取り入れ口、13:電池、14:第1の排水口、15:第1の排気口、16:排気取り入れ口、17:接続管、18:第2の導入口、19:触媒、20:第2の排水口、21:第2の排気口、22:水素排出管、23:安全バルブ
【要約】
【課題】簡単な構造で高純度窒素ガスを容易に生成することができる高純度窒素ガス生成システムを提供する。
【解決手段】高純度窒素ガス生成システム1は、水素ガスが貯留されている水素ガス提供手段2と、水素ガス提供手段2からの水素ガスが導入される第1の導入口を有し、窒素及び酸素を含む空気を導入する空気取り入れ口12と、水が排出される第1の排水口14と、窒素リッチガスが排気される第1の排気口15とを含む燃料電池3と、水素ガスが導入される第2の導入口18を有し、窒素リッチガスが導入される排気取り入れ口16と、水が排出される第2の排水口20と、高純度窒素ガスが排気される第2の排気口21とを含む加熱反応槽4と、加熱反応槽4の内部に充填されている触媒19とを備えている。
【選択図】 図1
図1