特許第6191035号(P6191035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191035
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】投げ込み式波浪計測ブイ
(51)【国際特許分類】
   B63B 22/00 20060101AFI20170828BHJP
   B63B 22/18 20060101ALI20170828BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20170828BHJP
   G01C 13/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B63B22/00 A
   B63B22/00 C
   B63B22/18
   B63C11/48 C
   G01C13/00 W
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-129835(P2013-129835)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-3616(P2015-3616A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年4月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】平川 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】高山 武彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 次清
【審査官】 常盤 務
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−191268(JP,A)
【文献】 特開平02−038823(JP,A)
【文献】 特開平08−278130(JP,A)
【文献】 特開平08−258789(JP,A)
【文献】 米国特許第05973994(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 22/00
B63B 22/18
B63C 11/48
G01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮遊する投げ込み式波浪計測ブイであって、
少なくとも前記投げ込み式波浪計測ブイの姿勢の変化を計測する計測手段と、
前記計測手段を液密に収容する収容部と、
前記収容部の周囲に配置され、前記収容部と一体に接続される複数のフロートと、
前記収容部と前記複数のフロートとをそれぞれ接続する複数の接続部材と、を有し、
前記接続部材は、板状を呈し、一端が前記収容部に接続されると共に他端が前記フロートに接続され、前記フロート側の端部の高さよりも前記収容部側の端部の高さの方が長く、
前記収容部および複数の前記フロートは、前記投げ込み式波浪計測ブイの吃水線よりも下方に向けて幅が漸減する形状を有する投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項2】
水面に浮遊する投げ込み式波浪計測ブイであって、
少なくとも前記投げ込み式波浪計測ブイの姿勢の変化を計測する計測手段と、
前記計測手段を液密に収容する収容部と、
前記収容部の周囲に配置され、前記収容部と一体に接続される複数のフロートと、
前記収容部と前記複数のフロートとをそれぞれ接続する複数の接続部材と、を有し、
前記接続部材は、板状を呈し、一端が前記収容部に接続されると共に他端が前記フロートに接続され、前記フロート側の端部の高さよりも前記収容部側の端部の高さの方が長く、
前記収容部および複数の前記フロートは、前記投げ込み式波浪計測ブイの吃水線よりも上方および下方に向けて幅が漸減する形状を有する投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項3】
前記漸減する形状が円錐形である請求項1または2に記載の投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項4】
前記収容部に接続され、前記投げ込み式波浪計測ブイを引き寄せて回収するケーブルを有する請求項1から3のいずれか1項に記載の投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項5】
前記ケーブルを巻き取る巻取り具を有する請求項4に記載の投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項6】
前記ケーブルが、前記吃水線よりも上方の前記収容部の端部に接続されている請求項4または5に記載の投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項7】
3つの前記フロートを有し、
平面視において、3つの前記フロートをつないで形成される三角形の重心に、前記収容部が配置されている請求項1から6のいずれか1項に記載の投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項8】
前記計測手段は、計測結果を送信する送信手段を有している請求項1から7のいずれか1項に記載の投げ込み式波浪計測ブイ。
【請求項9】
前記収容部は、前記吃水線よりも上方よりも前記吃水線よりも下方の方が大きい請求項1から8のいずれか1項に記載の投げ込み式波浪計測ブイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投げ込み式波浪計測ブイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、実海域で波浪情報を得るため、海底設置式波浪計やブイ式波浪計を用いた測定、船舶乗組員による目視観測、などが行われている。例えば、特許文献1に記載の波浪計測装置(ブイ、buoy)では、複数のGPS(Global Positioning System)受信機を有しており、各GPS受信機でそれぞれ計測される各装置の運動の相対的な関係から、ブイの運動を求め、ブイが浮かぶ水面の波浪の高さや向きを計測している。
【0003】
また、非特許文献1に記載のブイは、小型化することで取扱いが容易なものとなっている。このブイは、実際に波浪情報を測定する海域にブイを積載した船舶を出港させて、船舶の近傍に浮遊させて用いる。また、船舶とブイとの間で通信を行うことで、ブイで計測した計測結果を船舶上で収集する構成となっている。このようにして計測した波浪情報は、実際に船舶が受けている波浪についての波浪情報と概ね一致すると考えられることから、波が船舶の航行や燃費に及ぼす影響を調べるための重要な情報となる。そのため、このようなブイを用いて波浪情報を収集し、得られた結果を、例えば船舶の設計に役立たせることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−317182号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本船舶海洋工学会講演会論文集 第12号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、上記特許文献1に記載するようなブイは大型なものが多く、取扱いが困難である。例えば、大型のブイを用いる場合、ブイを積載した船舶からクレーン等を用いて水面上にブイを浮かべる必要が生じ、操作が困難となりやすい。
【0007】
また、上記非特許文献1に記載するブイは、重量が約13kgであり、上記特許文献1に記載するようなブイと比べると小型化され取扱いが容易ではあるが、使用時には以下のような課題がある。
【0008】
例えば、波浪情報を測定する海域にブイを積載した船舶を出港させ、当該海域の水面にブイを浮かべる場合、ブイを積載する船舶が小型船であれば乾舷が低いため、ブイの揚げ降ろしの作業は容易である。しかし、小型船の場合には、波浪情報を測定する海域が荒れている場合、そもそも出港自体が困難となるおそれがある。
【0009】
逆に、ブイを積載する船舶が大型船であれば、波浪情報を測定する海域が荒れている場合であっても、当該海域に向けて出港可能である。しかし、大型船は乾舷が高く、ブイの揚げ降ろしの作業が困難となりやすい。また、大型船の近傍にブイを浮かべた場合、航行する大型船にブイが巻き込まれ破損するおそれがある。
【0010】
なお、これまで実海域における波浪情報を測定する場合について説明したが、同じ問題は、湖や川などの水面上でも生じうる。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、波浪情報を測定する水面上に容易に浮かべることができ、且つ浮かべる際の破損が抑制された投げ込み式波浪計測ブイを提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、波浪情報を測定する水面上に容易に浮かべることができ、且つ浮かべる際の破損が抑制され、さらに測定後の回収が容易な投げ込み式波浪計測ブイを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る第1の投げ込み式波浪計測ブイは、水面に浮遊する投げ込み式波浪計測ブイであって、少なくとも前記投げ込み式波浪計測ブイの姿勢の変化を計測する計測手段と、前記計測手段を液密に収容する収容部と、前記収容部の周囲に配置され、前記収容部と一体に接続される複数のフロートと、を有し、前記収容部および複数の前記フロートは、前記投げ込み式波浪計測ブイの吃水線よりも下方に向けて幅が漸減する形状を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る第2の投げ込み式波浪計測ブイは、水面に浮遊する投げ込み式波浪計測ブイであって、少なくとも前記投げ込み式波浪計測ブイの姿勢の変化を計測する計測手段と、前記計測手段を液密に収容する収容部と、前記収容部の周囲に配置され、前記収容部と一体に接続される複数のフロートと、を有し、前記収容部および複数の前記フロートは、前記投げ込み式波浪計測ブイの吃水線よりも上方および下方に向けて幅が漸減する形状を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様によれば、前記漸減する形状が円錐形である構成としてもよい。
【0015】
本発明の一態様によれば、前記収容部に接続され、前記投げ込み式波浪計測ブイを引き寄せて回収するケーブルを有する構成としてもよい。
【0016】
本発明の一態様によれば、前記ケーブルを巻き取る巻取り具を有する構成としてもよい。
【0017】
本発明の一態様によれば、前記ケーブルが、前記吃水線よりも上方の前記収容部の端部に接続されている構成としてもよい。
【0018】
本発明の一態様によれば、3つの前記フロートを有し、平面視において、3つの前記フロートをつないで形成される三角形の重心に、前記収容部が配置されている構成としてもよい。
【0019】
本発明の一態様によれば、前記計測手段は、計測結果を送信する送信手段を有している構成としてもよい。
【0020】
本発明の一態様によれば、前記収容部は、前記吃水線よりも上方よりも前記吃水線よりも下方の方が大きい構成としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、波浪情報を測定する水面上に容易に浮かべることができ、且つ浮かべる際の破損が抑制された投げ込み式波浪計測ブイを提供することができる。また、本発明によれば、波浪情報を測定する水面上に容易に浮かべることができ、且つ浮かべる際の破損が抑制され、さらに測定後の回収が容易な投げ込み式波浪計測ブイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るブイ1を示す模式図である。
図2】ブイ本体1Aについての説明図である。
図3】計測手段7を示す模式図である。
図4】本実施形態のブイ1の使用方法を示す説明図である。
図5】浮遊するブイ本体1Aの様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1図5を参照しながら、本発明の実施形態に係る投げ込み式波浪計測ブイ(以下、「ブイ」と略称する)について説明する。ここでは、投げ込み時の破損が抑制され、測定後の回収が容易なブイの例について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0024】
なお、本明細書において、「投げ込み」とは、ブイを積載した船舶から水平方向に離間するようにブイを飛翔させ、水面上の所望の領域に着水させて、当該領域に浮遊させる行為を意味する。また、「投げ込み式」とは、本発明のブイが、ブイを積載した船舶上(例えば、乾舷の上)から、波浪情報を計測する領域に向けて投げ込んで用いるものであることを示している。そのため、使用時には、ブイは重力方向に対して斜めの侵入角で着水することとなる。
【0025】
この意味において、例えば、船舶の乾舷で水面に向けてブイを吊り下げ、水面に向けて降ろすような行為については、本明細書の「投げ込み」には該当しない。また、水面の上方にわずかに高い位置に吊り下げたブイを、水面に向けて降ろして所望の位置に浮遊させる(すなわち、重力方向に平行な侵入角で着水する)ような使用方法を採用するブイについては、「投げ込み式」のブイには該当しない。
【0026】
図1は、本実施形態に係るブイ1を示す模式図であり、図1(a)は斜視図、図1(b)は、ブイ1の使用の様子を示す模式図である。
【0027】
図1(a)に示すように、ブイ1は、ブイ本体1Aと、ブイ本体1Aに接続されたケーブル5と、ケーブル5を巻き取るリール(巻取り具)6と、を有している。また、ブイ本体1Aは、収容部2と、複数(図では3つ)のフロート3と、収容部2とフロート3とを接続する接続部材4と、を有している。
【0028】
ケーブル5は、一端が収容部2の端部に設けられた接続部25に接続され、他端がリール6に接続されて他端側がリール6に巻き取られている。ケーブル5は、金属製のワイヤであってもよく、樹脂製の紐やロープであってもよい。
【0029】
リール6は、ケーブル5の巻取りが可能であれば、手動でケーブル5を巻き取る構成であってもよく、自動でケーブル5を巻き取る構成であってもよい。なお、リール6を用いない構成とすることもできる。
【0030】
図1(b)に示すように、ブイ1は、ケーブル5の他端側(すなわちリール6の側)を船舶100で保持し、ブイ本体1Aを例えば海洋Sにおいて波浪情報を計測したい領域の水面に浮遊させて使用する。
【0031】
図2は、ブイ本体1Aについての説明図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は平面図、図2(c)は収容部2の断面図である。
【0032】
(収容部)
図2(a)(b)に示すように、収容部2は平面視において円形を呈し、円の中心に設定される回転軸に対して回転対象な外形を有している。また、収容部2は、設定される吃水線DLに対して下方の端部2aに向けて幅(直径)が漸減するとともに、吃水線DLに対して上方の端部2bに向けて幅(直径)が漸減する形状を有している。図では、収容部2が紡錘形であることとして示している。
【0033】
なお、本明細書においては、ブイ本体1Aの形状や寸法について説明する場合、ブイ本体1Aを図2(a)の視野で見たときの収容部2の上下方向、すなわち吃水線DLに対して直交する方向を「高さ」方向として示している。同様に、吃水線DLに対して平行な方向を「幅」方向として示している。
【0034】
端部2bには、図1に示すケーブル5を繋ぎ止めるための接続部25が形成されている。図では、接続部25を環状の構成として示しているが、これに限らない。また、接続部25は、上記回転軸を中心に回転可能な構成であれば、ケーブル5の絡まりが抑制でき好ましい。
【0035】
本実施形態において、収容部2の最大直径は、例えば90mmである。また、収容部2は、吃水線DLから端部2aまでの高さ(収容部2の吃水)H1が、吃水線DLから端部2bまでの高さH2よりも大きくなるように設計されている。本実施形態においては、例えば、吃水H1が200mm、高さH2が150mm(全高350mm)となるように設計されている。すなわち、ブイ本体1Aを水面に浮遊させた際に、水面下に没する部分よりも、水上に露出する部分のほうが低く(小さく)なっている。水上に露出する部分は、測定時に水面に浮遊させた際に風を受けることで測定に影響を与えるため、小さい方が好ましい。
【0036】
また、図2(c)に示すように、収容部2は、第1部材21および第2部材22を有し、内部に液密の収容空間2Sが形成された中空の容器である。第1部材21は、中空の円錐状を呈している。また、第2部材22は中空の円筒形状の一端に、中空の円錐状の部分が結合した形状を呈しており、中空の円筒形状を有する部分と中空の円錐状の部分とが一体に形成されている。これにより、第2部材22を複数の部材で形成する場合と比べ、収容部2の防水性を高めることができる。第1部材21および第2部材22は、いずれも収容空間2Sを形成する空洞部を有している。
【0037】
第1部材21の下方端の縁部分の内側には雌ねじ21aが形成されており、第2部材22の上方端の縁部分の外側には雄ねじ22aが形成されている。第1部材21と第2部材22とは、雌ねじ21aおよび雄ねじ22aによりねじ止めされている。すなわち、第2部材22の円筒形状を有する部分の他端に、円錐状の第1部材21がねじ止めされて結合することにより、全体として紡錘形の収容部2を形成している。第1部材21と第2部材22との接続部分では、外部側面に接続線29が形成されている。
【0038】
第1部材21と第2部材22との接続部分には、収容空間2Sを液密な空間とするために不図示のパッキンを設けることとしてもよい。その他、収容空間2Sを液密な空間とするための通常知られた構成を採用することができる。
【0039】
収容部2の収容空間2Sには、波浪情報を計測するための計測手段が収容されている。計測手段について詳しくは後述する。収容空間2Sには、計測手段を外部衝撃から保護し、収容空間2S内で位置を固定するために緩衝材を配置しても構わない。
【0040】
このような収容部2は、樹脂材料や金属材料を形成材料として用いることができる。樹脂材料としては、塩化ビニル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。浮力を得やすいために、これらの樹脂材料の発泡体を用いるとよい。
【0041】
金属材料を形成材料とする場合には、内部に収容する計測手段の精度に影響を与えないように、銅、ステンレス、アルミニウム、真鍮などの非磁性物質を形成材料として用いることが好ましい。また、金属材料を形成材料とする場合には、表面に防錆処理が施されていると良い。防錆処理としては、塗装が挙げられる。
【0042】
これらの形成材料は、1種のみ用いることとしてもよく、2種以上を併用しても構わない。例えば、樹脂材料を収容部2の形成材料として採用するとともに、接続部25の近傍や、収容部2と接続部材4との接続部分の近傍など、外部応力が集中し破損しやすいことが想定される部分については、金属材料を形成材料として採用することとしてもよい。
【0043】
(フロート)
フロート3は、自身の下方の端部および上方の端部に向けて幅が漸減する形状を有している。図では、フロート3は、下方の端部および上方の端部が円錐状である紡錘形であることとして示している。また、フロート3の形成材料としては、上述の収容部2の形成材料と同様のものを好適に用いることができる。本実施形態において、フロート3の吃水は、例えば50mmである。
【0044】
図2(b)に示すように、ブイ本体1Aでは3つのフロート3が、3つのフロート3をつないで形成される三角形が正三角形となるように収容部2の周囲に配置されている。さらに、収容部2は、平面視において当該正三角形の重心に配置されている。フロート3をこのような配置とすることで、ブイ本体1Aを水面に浮遊させたときのバランスがよく、フロート3をすべて同じ構成とすることができるため好ましい。
【0045】
フロート3の大きさや、収容部2の中心とフロート3の中心との距離L1については、ブイ本体1Aの質量や重心(質量中心)の位置などに応じて、適宜設計することができる。設計においては、ブイ本体1Aを浮かべた領域に発生する波面に、ブイ本体1Aの姿勢を追従させやすくするため、各数値を定める。
【0046】
例えば、周期2秒、波高0.15mの波を想定した場合、水面に浮遊させたブイ本体1Aがこのような波に完全に追従するためには、ブイの直径は0.3m〜0.5m(300mm〜500mm)とすることが好ましい。
【0047】
本実施形態においては、例えば、収容部2の中心とフロート3の中心との距離L1が150mm、平面視においてフロート3の直径L2が30mm、ブイ本体1Aが内接する円の半径L3が165mm(当該円の直径が330mm)となるように設計されている。ここで、「ブイ本体1Aが内接する円」の直径が、上述の「ブイの直径」に該当する。
【0048】
(接続部材)
接続部材4は、収容部2とフロート3と一体に接続する部材であり、図では板状の部材であることとして示している。ここで「一体に接続する」とは、接続部材4により、収容部2とフロート3とが1つの剛体として振る舞うように接続されることを意味している。
【0049】
接続部材4は、フロート3側の端部の高さがフロート3の高さと同程度の長さとなっている。これにより、フロート3に応力が加わったときに、接続部材4とフロート3との接続箇所では応力が分散され、破損が抑制される。
【0050】
また、接続部材4は、フロート3側の端部の高さよりも収容部2側の端部の高さの方が長くなっている。フロート3に応力が加わったときに、接続部材4を介して接続部材4と収容部2との接続箇所に応力が伝わるが、このような形状とすることで、接続部材4と収容部2との接続箇所では応力が分散され、破損が抑制される。
【0051】
接続部材4は、収容部2とフロート3と一体に接続することが可能であれば、板材でなくてもよく、棒状の部材であっても構わない。また、接続部材4の形成材料としては、上述の収容部2の形成材料と同様のものを好適に用いることができる。
【0052】
このようなブイ本体1Aは、重心(質量中心)が、吃水線DLよりも下方となるように設計されている。また、重心位置は、吃水線DLよりも下方であれば、適宜設定可能であるが、ブイ本体1Aが波面に追従しやすく、後述する計測手段による計測精度が高くなるため、吃水線DLに近い方が好ましい。
【0053】
本実施形態においては、ブイ本体1Aの取扱いを容易なものとするため、ブイ本体1Aの質量は、例えば1kg〜1.5kg程度となるように設計されている。
【0054】
図3は、収容部2の内部(図2に示す収容空間2S)に収容される計測手段7を示す模式図である。計測手段7は、計測装置71と、計測装置71による計測結果を船舶100(図1参照)に向けて送信する送信装置(送信手段)72と、計測装置71および送信装置72に電力を供給するバッテリ73と、を有している。
【0055】
計測装置71は、ブイ本体1Aの現在位置を計測するためのGPS受信機711と、互いに直交する3軸方向の加速度をそれぞれ計測する3軸加速度センサである第1センサ712と、上記3軸回りの角度や角速度を計測するジャイロセンサである第2センサ713と、GPS受信機711と第1センサ712と第2センサ713とを用いて得られる計測結果を収集し、送信可能な信号に変換する制御部714と、を有している。
【0056】
送信装置72は、制御部714で変換された信号を出力する送信機と、信号を送信するためのアンテナと、を有している。
【0057】
また、計測装置71は、必要に応じて制御部714で収集した計測結果や、計測結果を送信可能に変換した信号などのデータを蓄積するための記憶部を有していてもよい。さらに、計測装置71は、ON,OFFを制御するスイッチなど、計測装置が通常有する構成を備えていてもよい。
【0058】
図4は、本実施形態のブイ1の使用方法を示す説明図である。
まず、図4(a)に示すように、ブイ1の積載した船舶100の上から、波浪情報を計測する領域に向けてブイ本体1Aを投げ込む。投げ込む前に、図3で示した計測手段7を起動させておくことは言うまでもない。また、計測前に行うべき必要な操作、例えば、計測手段7と船舶100に積載するデータ収集用の処理端末との通信接続確認も予め行っておく。
【0059】
ブイ本体1Aの投げ込みは、使用者が自らの力で投げることで行ってもよいが、例えば、竿状の治具の先端にブイ本体1Aを取り付け、使用者が治具の他端を持ち、投げ釣りの要領でブイ本体1Aに遠心力を加えることで行ってもよい。また、ブイ本体1Aを射出するための道具を使用して行うこととしてもよい。
【0060】
投げ込まれたブイ本体1Aは、収容部2においてケーブル5が接続されている端部とは反対側の端部2aを前方に向け、所望の領域に向けて落下する。このとき、収容部2に接続された板状の接続部材4は、ブイ本体1Aの飛翔時に尾翼として機能し、端部2aを前方に向けて所望の領域に向けて落下しやすくする。また、端部2aを前方に向けやすくするために、ブイ本体1Aの重心(質量中心)側を端部2aの方に設定しておいてもよい。
【0061】
投げ込まれたブイ本体1Aは端部2aから着水する。このとき、収容部2は端部2aに向けて幅(直径)が漸減する形状を有しているため、例えば、収容部2が円筒状で、且つ端部2aに対応する端部が平面である場合と比べ、着水時に水面から収容部2に加わる衝撃が緩和される。
【0062】
同様に、フロート3も吃水線に対して下方に向けて幅が漸減する形状を有しているため、着水時の衝撃が緩和される。そのため、ブイ本体1Aを投げ込んだとしても、ブイ本体1A自身や収容部2に収容されている計測装置の破損を抑制することができる。
【0063】
次いで、図4(b)に示すように、投げ込まれたブイ本体1Aが浮遊する領域の波浪情報を計測し、ブイ本体1Aから送信される計測結果を船舶100にて受信、収集する。このとき、ケーブル5によってブイ本体1Aが船舶100側に牽引され、計測結果に影響を与えないように、船舶100とブイ本体1Aとの離間距離よりもケーブル5を長く巻き出しておく。
【0064】
図5は、波浪情報を計測する領域に浮遊するブイ本体1Aの様子を示す模式図であり、図5(a)は、ブイ本体1Aが浮遊する領域に波が無い場合、図5(b)は、ブイ本体1Aが浮遊する領域に波が生じた場合を示している。
【0065】
図に示すように、ブイ本体1Aが浮遊する領域に波が生じると、フロート3が収容部2と一体に接続されているブイ本体1Aでは、波面に追従してブイ本体1A全体が傾き、図5(a)に示す状態から図5(b)に示す状態に姿勢が変化する。図3に示す第1センサ712や第2センサ713では、このようなブイ本体1Aの姿勢変化に伴いブイ本体1Aに加わる加速度や角速度を計測する。
【0066】
これらの計測結果から、ブイ本体1Aの動作を算出することができ、ブイ本体1Aの動作の原因である波の方向、周期および波高を求めることができる。
【0067】
また、図3に示すGPS受信機711では、断続的にブイ本体1Aの座標(緯度及び経度)を計測する。
【0068】
これらの計測結果から、GPS受信機711で計測したブイ本体1Aの座標ごとに、ブイ本体1Aが浮遊する領域に発生している波の方向、周期および波高を求めることができる。
【0069】
所望の測定が終了した後は、ブイ本体1Aを回収する。図4(c)に示すように、本実施形態のブイ1では、ブイ本体1Aと船舶100とを接続するケーブル5を用いてブイ本体1Aを引き寄せることで、容易に回収することができる。
【0070】
回収時には、ブイ本体1Aは、ケーブル5が接続されている端部2bを前方に向けて、水面上を船舶100の方向に移動する。このとき、収容部2は端部2bに向けて幅(直径)が漸減する形状を有しているため、例えば、収容部2が円筒状で、且つ端部2bに対応する端部が平面である場合と比べ、移動時の水の抵抗が小さくなる。同様に、フロート3も吃水線に対して上方に向けて幅が漸減する形状を有しているため、水の抵抗が小さくなる。そのため、ブイ本体1Aを容易に回収することができる。
本実施形態のブイ1は、以上のような構成となっている。
【0071】
以上のような構成のブイ1によれば、波浪情報を測定する水面上に容易に浮かべることができ、且つ浮かべる際の破損が抑制され、さらに測定後の回収が容易な投げ込み式波浪計測ブイを提供することができる。
【0072】
なお、本実施形態においては、フロート3の数を3つとしたが、ブイ本体1Aを水面に浮かべ、ブイ本体1Aを波面に追従させることが可能であれば、フロート3の数は3には限らない。例えば、フロート3が4以上であってもよい。この場合にも、平面視でフロートをつないで形成される多角形の重心に、収容部2を配置することが好ましい。
【0073】
また、本実施形態においては、収容部2およびフロート3は、端部方向に向けて幅が漸減する形状として円錐状であることとして説明したが、これに限らない。他にも、多角錐状としてもよい。
【0074】
また、収容部2やフロート3の端部方向に向けて幅が漸減する形状としては、厳密に端部まで幅が漸減していなくても、幅が漸減する部分を一部に有する円錐台や多角錐台であってもよい。
【0075】
また、本実施形態においては、ケーブル5が収容部2の上方の端部2bに接続されていることとしたが、他の位置に接続されていてもケーブル5を用いたブイ本体1Aの回収は可能である。
【0076】
例えば、ケーブル5の接続位置が収容部2の端部2bではなく、第1部材21の外面であって端部2bからずれた位置である場合には、収容部2の形状は、ケーブルの接続位置ではない位置に向けて幅が漸減する形状となる。しかし、このような形状であっても、ブイ本体1Aの回収時には、端部2bを概ね前方に向けて、水面上を船舶100の方向に移動するため、回収は容易である。
【0077】
また、本実施形態においては、ブイ本体1Aを回収するためのケーブル5が接続されていることとしたが、ケーブル5がなくても、波浪情報の計測という目的を達することができる。
【0078】
また、本実施形態においては、収容部2を円錐状の第1部材21と、中空の円筒形状を有する部分と中空の円錐状の部分とが一体に形成された第2部材22と、により形成されていることとしたが、これに限らない。
【0079】
例えば、本実施形態の第2部材22に相当する部材を、中空の円筒形状を有する部材と、円錐状の部材と、の2つの部材を用いて構成することとしてもよい。このような構成とした場合、円錐状の部材としては、例えば第1部材21と同じものを用いることができ、収容部2の製造が容易となる。さらに、中空の円筒形状の部材は単純な形状であるため、例えば、高さの変更のような設計変更が容易となり、多様なブイを容易に製造することが可能となる。
【0080】
また、本実施形態においては、投げ込み時の破損が抑制され、測定後の回収が容易なブイの例について説明したために上記構成したが、測定後の回収について考慮せず、測定時の破損を抑制することを目的とする場合には、以下のようにすればよい。
【0081】
例えば、本実施形態においては、収容部2やフロート3が吃水線に対して上方に向けて幅が漸減する形状であることとしたが、このような形状でなくてもケーブル5を用いたブイ本体1Aの回収は可能である。
【0082】
例えば、収容部2の下方(第2部材22の端部の形状)や、フロート3の下方の形状のみ円錐状とし、収容部2の上方(第1部材21の端部の形状)や、フロート3の上方の形状を例えば円筒状として、収容部2やフロート3の上方の端部を平面としたブイ本体であっても、ケーブルが接続されていれば、ブイ本体の回収は可能である。
【0083】
その場合、本実施形態で示したブイ本体1Aを用いる場合よりも、回収時の水の抵抗が増し、ブイ本体とケーブルとの接続部分が破損しやすくなることが予想される。そのため、このような形状のブイ本体を用いる場合には、ケーブルの接続部分の材料に金属材料を用いる、本実施形態の接続部25に対応する構成をブイ本体と一体成型した構造とする、など、破損しにくい構成とするとよい。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…ブイ、2…収容部、2a,2b…端部、3…フロート、4…接続部材、5…ケーブル、6…リール(巻取り具)、7…計測手段、72…送信装置(送信手段)、DL…吃水線、H1…吃水、100…船舶
図1
図2
図3
図4
図5