特許第6191138号(P6191138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191138
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20170828BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20170828BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20170828BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20170828BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20170828BHJP
   H01J 11/34 20120101ALI20170828BHJP
   H01J 17/16 20120101ALI20170828BHJP
   H01L 31/0392 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C03C3/087
   C03C3/083
   C03C3/085
   C03C3/091
   C03C3/093
   H01J11/34
   H01J17/16
   H01L31/04 284
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-3063(P2013-3063)
(22)【出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2013-163633(P2013-163633A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-4158(P2012-4158)
(32)【優先日】2012年1月12日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】六車 真人
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 寛典
(72)【発明者】
【氏名】三和 晋吉
【審査官】 山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−335133(JP,A)
【文献】 特開2007−246365(JP,A)
【文献】 特表2002−513730(JP,A)
【文献】 特開2001−080935(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/097538(WO,A1)
【文献】 特許第4087113(JP,B2)
【文献】 特表2010−538963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 40〜60%、Al 5〜15%、B 0〜5%、MgO 0〜15%、CaO 0〜15%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜5%、LiO 0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0.1〜6.5%、ZrO 0〜10%、Fe 0〜0.04%未満、SO 0.005〜0.07%を含有すると共に、板形状であり、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率が86〜92%であることを特徴とするガラス。
【請求項2】
Feに換算したt−Fe(全鉄量)に占めるFeOに換算したFe2+の質量割合Fe2+/t−Feが0.70以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
下記酸化物換算の質量%で、Fe 0.001〜0.035%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
歪点が520〜700℃であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のガラス。
【請求項5】
30〜380℃における熱膨張係数が70×10−7〜100×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のガラス。
【請求項6】
面に反射防止膜及び/又は透明導電膜が成膜されてなることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のガラス。
【請求項7】
ィスプレイに用いられることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のガラス。
【請求項8】
陽電池に用いられることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスに関し、プラズマディスプレイパネル(PDP)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)、CIS系太陽電池、CdTe系太陽電池等の薄膜太陽電池、及び色素増感太陽電池に好適なガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
PDPは、以下のようにして作製される。まず前面ガラス板の表面にITO膜、ネサ膜等の透明電極を成膜し、その上に誘電体層を形成すると共に、背面ガラス板の表面にAl、Ag、Ni等の電極を形成し、その上に誘電体層を形成し、更にその上に隔壁を形成する。次に、前面ガラス板と背面ガラス板を対向させて電極等の位置合わせを行った後、前面ガラス板と背面ガラス板の外周縁部を450〜550℃の温度域でフリットシールする。その後、排気管を通じて、パネル内部を真空排気し、更にパネル内部に希ガスを封入する。
【0003】
従来、PDPには、フロート法等により板厚1.5〜3.0mmに成形されたソーダ石灰ガラス(熱膨張係数:約84×10−7/℃)からなるガラス板が用いられていた。しかし、ソーダ石灰ガラスは、歪点が500℃程度であるため、熱処理工程で熱変形、熱収縮が生じ易かった。このため、現在では、ソーダ石灰ガラスと同等の熱膨張係数を有し、且つ高歪点のガラス板が使用されている。
【0004】
一方、薄膜太陽電池、例えばCIS系太陽電池では、Cu、In、Ga、Seからなるカルコパイライト型化合物半導体、Cu(InGa)Seが光電変換膜としてガラス板上に形成される。多元蒸着法、セレン化法等によりCu、In、Ga、Seをガラス板上に塗布して、カルコパイライト型化合物を形成するためには、500〜600℃程度の熱処理工程が必要になる。また、光電変換膜とガラス板との熱膨張係数差が大きいと、膜剥がれ不良が発生して、変換効率が低下し易くなる。このため、ガラス板の熱膨張係数を適正範囲に規制する必要がある。
【0005】
CdTe系太陽電池においても、Cd、Teからなる光電変換膜がガラス板上に形成される。この場合も、TCO膜やCdTe膜の成膜に500℃〜600℃程度の熱処理工程が必要になる。また、光電変換膜とガラス板の熱膨張係数差が大きいと、膜剥がれ不良が発生して、変換効率が低下し易くなる。このため、ガラス板の熱膨張係数を適正範囲に規制する必要がある。
【0006】
従来、CIS系太陽電池、CdTe系太陽電池等では、ガラス板として、ソーダ石灰ガラスが用いられていた。しかし、ソーダ石灰ガラスは、高温の熱処理工程で熱変形や熱収縮が生じ易い。この問題を解決するために、現在では、ガラス板として、高歪点ガラスを用いることが検討されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−252828号公報
【特許文献2】特開平10−72235号公報
【特許文献3】特開2000−143284号公報
【特許文献4】特開平11−135819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、PDP等のFPDの消費電力を削減するためには、鉄をはじめとした着色剤の含有量を低減して、ガラス板の透過率を高めることが有効である。しかし、従来からPDPに用いられている高歪点ガラスは、色調調整のために鉄分を多く含み、可視域長波長帯から近赤外領域における透過率が十分に高くない。例えば、特許文献1、2には、従来の高歪点ガラス中に多くの鉄分が含まれることが記載されている。
【0009】
また、CIS系太陽電池では、ガラス板中の鉄分が光電変換層に拡散して、変換効率を低下させることが懸念される。更に、CdTe系太陽電池、色素増感太陽電池では、ガラス板中に鉄分が多いと、鉄による光吸収のため、光電変換層への光到達量が少なくなって、変換効率が低下すると考えられる。
【0010】
そこで、特許文献1、2には、高歪点を有し、且つ低鉄分のガラスが記載されている。しかし、このガラスもコントラストの調整のために、比較的多くの鉄分を含んでおり、上記問題を完全に解決し得るものではない。
【0011】
また、ガラス板の熱膨張係数を周辺部材(シールフリット、光電変換膜等)の熱膨張係数に整合させることは、PDP等のディスプレイのシール不良、太陽電池の変換効率の低下を回避する上で重要である。
【0012】
更に、PDPの封着工程や太陽電池の成膜工程のような高温の熱処理工程において、寸法変化によるパターンズレやガラス板の撓み等を回避する上で、ガラス板の歪点を高めることが重要である。特に、CIS系太陽電池では、高温で光電変換膜を成膜すると、変換効率が高まると共に、CdTe太陽電池では、高温で光電変換膜を成膜すると、生産効率が高まると考えられる。
【0013】
しかし、高歪点、且つ高熱膨張係数のガラスは、高鉄量、或いは高屈折率になり易いため、透過率が低くなり易い。特許文献1に記載のガラス板は、熱膨張係数と歪点が考慮されたガラス組成を有しているが、600〜2000ppmのFeを含むため、波長1000〜1200nm付近にピークを持つFe2+の光吸収により、透過率が低くなるという問題を有する。このガラス板をディスプレイに用いると、ガラス板の光吸収によって、ディスプレイの輝度が低下して、消費電力の増加が惹起される。また、このガラス板を太陽電池に用いると、光電変換層への光到達量の低下、或いは光電変換膜中への鉄拡散によって、変換効率の低下が懸念される。
【0014】
また、特許文献2に記載のガラス板は、歪点、熱膨張係数、及び透過率が考慮されたガラス組成を有している。しかしながら、このガラス板の鉄分量は400ppm以上であり、波長1000〜1200nm付近にピークを持つFe2+の光吸収により、可視長波長域〜近赤外領域における透過率が低くなるという問題を解決し得るものではない。
【0015】
更に、特許文献3には、高透過率のガラス板が開示されている。このガラス板の熱膨張係数は84×10−7/℃程度であるが、歪点が510℃程度である。よって、このガラス板をディスプレイに用いると、寸法変形によるパターンズレや熱変形等の問題が惹起される。また、このガラス板を太陽電池に用いると、光電変換膜の成膜プロセスを高温化できず、また成膜速度が遅くなるため、変換効率又は生産効率の低下等の問題が惹起される。
【0016】
そこで、本発明の技術的課題は、透過率が高いと共に、高歪点であり、しかも適正な熱膨張係数を有するガラス(特にガラス板)を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、鋭意検討した結果、ガラス組成を所定範囲に規制すると共に、ガラスの透過率を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 40〜60%、Al 5〜15%、B 0〜5%、MgO 0〜15%、CaO 0〜15%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜5%、LiO 0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0.1〜6.5%、ZrO 0〜10%、Fe 0〜0.04%未満、SO 0.005〜0.07%を含有すると共に、板形状であり、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率が86〜92%であることを特徴とする。ここで、「厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率」は、板状に両面鏡面研磨したものを試料とし、汎用の可視−赤外分光光度計を用いて、25℃、大気中で測定した透過率を指し、透明導電膜や反射防止膜等が成膜されていない状態で測定した値を指す。なお、試料厚みが1.8mm未満の場合には、数式1を用いて、試料厚みを1.8mmに換算した上で測定を行えばよい。波長1100nmにおける屈折率n1100は、波長587.6nm、780nm、1310nm、1550nmにおける屈折率を用い、コーシーの分散式から算出される値である。
【0018】
【数1】
【0019】
本発明のガラスは、上記のようにガラス組成範囲を規制している。このようにすれば、歪点520〜700℃、熱膨張係数70×10−7〜100×10−7/℃を達成し易くなる。
【0020】
また、本発明のガラスは、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率が86〜92%である。このようにすれば、可視長波長域〜近赤外領域において、透過率が低くなるという問題を解決することができる。
【0021】
発明のガラスは、Feに換算したt−Fe(全鉄量)に占めるFeOに換算したFe2+の質量割合Fe2+/t−Feが0.70以下であることが好ましい。ここで、「Feに換算したt−Fe(全鉄量)に占めるFeOに換算したFe2+の質量割合Fe2+/t−Fe」は、化学分析により測定可能である。なお、「t−Fe(全鉄量)」は、Feの価数に係らず、「Fe」に換算して表記するものとする。
【0022】
発明のガラスは、下記酸化物換算の質量%で、F 0.001〜0.035%を含有することが好ましい。
【0023】
発明のガラスは、歪点が520〜700℃であることが好ましい。ここで、「歪点」は、ASTM C336−71に基づいて測定した値を指す。
【0024】
発明のガラスは、30〜380℃における熱膨張係数が70×10−7〜100×10−7/℃であることが好ましい。ここで、「熱膨張係数」は、ディラトメーターにより30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した値を指す。
【0025】
第六に、本発明のガラスは、表面に反射防止膜及び/又は透明導電膜が成膜されてなることが好ましい。
【0026】
発明のガラスは、ディスプレイに用いられることが好ましい。
【0027】
発明のガラスは、太陽電池に用いられることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ガラス中の残存SO量と厚み1.8mm、1100nmにおける透過率との関係を示すデータである。
図2】ガラス−空気界面の反射を考慮した場合の内部透過率の最大値の屈折率依存性を示すデータである。
図3】厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.1の透過率曲線である。
図4】厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.2の透過率曲線である。
図5】厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.3の透過率曲線である。
図6】厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.5の透過率曲線である。
図7】厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.6の透過率曲線である。
図8】厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.7の透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 40〜60%、Al 5〜15%、B 0〜5%、MgO 0〜15%、CaO 0〜15%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜5%、LiO 0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0.1〜6.5%、ZrO 0〜10%、Fe 0〜0.04%未満、SO 0.005〜0.07%を含有すると共に、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率が86〜92%であることを特徴とする。上記のように、各成分の含有量を規制した理由を下記に示す。
【0030】
SiOは、ガラスネットワークを形成する成分である。その含有量は40〜60%、好ましくは42〜60%、より好ましくは45〜60%、更に好ましくは50〜58%である。SiOの含有量が多過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなることに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎて、シールフリット等の周辺部材の熱膨張係数に整合させ難くなる。なお、本発明に係るガラス組成系では、SiOの含有量を増加させても、歪点があまり上昇しない。一方、SiOの含有量が少な過ぎると、耐失透性、耐候性が低下し易くなる。更に、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなり、結果として、PDP等を製造する際の熱処理工程で、ガラス板に割れが発生し易くなる。
【0031】
Alは、歪点を高める成分であると共に、耐候性、化学的耐久性を高める成分である。その含有量は5〜15%、好ましくは5〜15%、更に好ましくは7.5〜14%である。Alの含有量が多過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなる。一方、Alの含有量が少な過ぎると、歪点が低下し易くなる。
【0032】
は、ガラスの粘度を低下させることにより、溶融温度、成型温度を低下させる成分であるが、歪点を低下させる成分であり、また溶融時の成分揮発に伴い、炉耐火物材料を消耗させる成分である。よって、Bの含有量は0〜5%、好ましくは0〜1%、更に好ましくは0〜0.1%である。
【0033】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、MgOは、アルカリ土類酸化物の中では、ガラスを割れ難くする効果が大きい成分である。一方、MgOは、耐失透性を低下させ易い成分である。また、MgOの導入原料である水酸化マグネシウムやドロマイトには、不純物として、比較的多くのFeが含まれる。よって、高透過率の要求を満たすためには、その使用量が制限される。MgOの含有量は0〜15%、好ましくは0.01〜10%、より好ましくは0.03〜8%、更に好ましくは0.05〜6%である。
【0034】
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。CaOの含有量は0〜15%、好ましくは1.5〜10%、より好ましくは4〜8%である。CaOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、ガラス板に成形し難くなる。一方、CaOの含有量が少な過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなる。また、CaOの導入原料である石灰石、炭酸カルシウム、ドロマイト等には、不純物として、比較的多くのFeが含まれる。よって、高透過率の要求を満たすためには、その使用量が制限される。また、CaOは、屈折率を高める成分であるため、ガラス−空気界面の反射率を高めて、透過率を低下させる効果を有する。
【0035】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、SrOは、ZrOと共存する場合に、ZrO系の失透結晶を析出し難くする成分である。SrOの含有量は0〜20%、好ましくは2〜18%、より好ましくは3〜15%、更に好ましくは5〜13%である。SrOの含有量が多過ぎると、長石族の失透結晶が析出し易くなり、また原料コストが高騰する。一方、SrOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。また、SrOは、屈折率を高める成分であるため、ガラス−空気界面の反射率を高めて、透過率を低下させる効果を有する。更に、SrOの含有量が少な過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなる。
【0036】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。BaOの含有量は0〜20%、好ましくは2.0超〜15%、より好ましくは3〜10%である。BaOの含有量が多過ぎると、バリウム長石族の失透結晶が析出し易くなり、また原料コストが高騰する。更に、密度が増大して、支持部材のコストが高騰し易くなる。一方、BaOの含有量が少な過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなる。また、BaOは、屈折率を高める成分であるため、ガラス−空気界面の反射率を高めて、透過率を低下させる効果を有する。
【0037】
LiOは、熱膨張係数を調整する成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。しかし、LiOは、原料コストが高いことに加えて、歪点を大幅に低下させる成分である。よって、LiOの含有量は0〜10%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜0.1%未満である。
【0038】
NaOは、熱膨張係数を調整する成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、NaOは、CIS系太陽電池に用いる場合、ガラス中のNaが光電変換膜に拡散することにより、変換効率を改善させる有用な成分である。NaOの含有量は0.1〜20%、好ましくは2〜15%、より好ましくは3〜12%である。NaOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。結果として、PDP等を製造する際の熱処理工程で、ガラス板に熱収縮や熱変形が生じたり、割れが発生し易くなる。一方、NaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。
【0039】
Oは、熱膨張係数を調整する成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。Alを10%超含むガラス系において、KOの含有量が多過ぎると、KAlSiO系の失透結晶が析出し易くなる。また、KOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。結果として、PDP等を製造する際の熱処理工程で、ガラス板に熱収縮や熱変形が生じたり、割れが発生し易くなる。一方、KOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。よって、KOの含有量は0.1〜6.5%、好ましくは2〜6.5%、より好ましくは3〜6.5%である。
【0040】
ZrOは、高温粘度を上げずに、歪点を高める成分である。しかし、ZrOの含有量が多過ぎると、密度が高くなり易く、またガラスが割れ易くなり、更にはZrO系の失透結晶が析出し易くなり、ガラス板に成形し難くなる。また、ZrOの導入原料であるジルコンには、不純物として、比較的多くのFeが含まれる。よって、高透過率の要求を満たすためには、その使用量が制限される。また、ZrOは、屈折率を高める成分であるため、ガラス−空気界面の反射率を高めて、透過率を低下させる効果を有する。よって、ZrOの含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜9%、より好ましくは2〜8%である。
【0041】
ガラス中のFeは、Fe2+又はFe3+の状態で存在するが、特にFe2+は可視長波長から近赤外領域にかけて強い光吸収特性を有する。汎用のソーダ石灰ガラスには、原料不純物に起因するFeが多く含まれる。PDP用基板に代表される高歪点ガラスには、色調調整又は原料不純物として、Feが多く含まれる。全鉄量の下限は、コストの観点から、低鉄分原料の使用が制限されることによる。特に、ZrOの導入原料として、ジルコンを使用する場合、ジルコン由来の鉄不純物により、全鉄量の下限が制限される。高透過率の要求を満たすために、Feの含有量は0〜0.04%未満、好ましくは0.001〜0.0.035%、より好ましくは0.005〜0.030%、更に好ましくは0.01〜0.025%である。
【0042】
SOは、清澄剤として作用する成分である。また、ガラス中のSOにより、Feの価数や透過率が変化するため、透過率の観点から、SOの含有量を最適化する必要がある。SOの含有量は0.005〜0.07%であり、好ましくは0.01〜0.07%、更に好ましくは0.015〜0.05%である。SOの含有量が多過ぎると、ガラス中に溶解したSOが再蒸発し易くなり、泡不良が発生し易くなる。ガラス中の残存SO量と厚み1.8mm、1100nmにおける透過率との関係を示すデータを図1に示す。なお、図1では、母組成と全鉄量が等しく、SOの含有量のみが異なる試料No.2〜8について、データをプロットしている。なお、フロート法でガラス板を成形すると、安価にガラス板を大量生産し得るが、この場合、清澄剤として芒硝を用いることが好ましい。
【0043】
上記の成分以外にも、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0044】
TiOは、紫外線による着色を防止すると共に、耐候性を高める成分である。しかし、TiOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透したり、ガラスが茶褐色に着色し易くなる。また、TiOは、屈折率を高める成分であるため、ガラス−空気界面の反射率を高めて、透過率を低下させる効果を有する。よって、TiOの含有量は0〜10%、特に0〜0.1%未満が好ましい。
【0045】
は、耐失透性を高める成分、特にZrO系の失透結晶の析出を抑制する成分であり、またガラスを割れ難くする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが乳白色に分相し易くなる。よって、Pの含有量は0〜10%、0〜0.2%、特に0〜0.1%未満が好ましい。
【0046】
ZnOは、高温粘度を低下させる成分である。ZnOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。よって、ZnOの含有量は0〜5%である
【0047】
CeOは、清澄剤や酸化剤として作用する成分であり、Feを3価にする能力が高く、可視長波長側から近赤外波長までの透過率の改善に有効な成分である。その一方で、CeOは、ガラスを黄色に着色させる効果が大きいため、その使用量を制限することが好ましい。よって、CeOの含有量は0〜2%、特に0〜1%が好ましく、不可避の不純物以外に含有させないこと(例えば0.1%未満)が望ましい。
【0048】
Asの含有量は0〜1%、特に0〜0.1%未満が好ましい。Asは、清澄剤や酸化剤として作用する成分であるが、フロート法でガラス板を成形する場合、ガラスを着色させる成分であり、また環境的負荷が懸念される成分である。
【0049】
Sbの含有量は0〜1%、特に0〜0.1%未満が好ましい。Sbは、清澄剤や酸化剤として作用する成分であり、Feを3価にする能力が高いが、フロート法でガラス板を成形する場合、ガラスを着色させる成分であり、また環境的負荷が懸念される成分である。
【0050】
SnOの含有量は0〜1%、特に0〜0.1%未満が好ましい。SnOは、清澄剤や酸化剤として作用する成分であるが、耐失透性を低下させる成分である。
【0051】
上記成分以外にも、溶解性、清澄性、成形性を高めるために、F、Clを合量で各々1%まで添加してもよい。また、化学的耐久性を高めるために、Nb、HfO、Ta、Y、Laを各々3%まで添加してもよい。更に、レドックス調整のために、上記以外の金属酸化物を合量で2%まで添加してもよい。
【0052】
本発明のガラスにおいて、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率は86〜92%であり、好ましくは88〜92%、より好ましくは89〜92%である。透過率が低過ぎると、PDP等のディスプレイの消費電力を増大させ、また太陽電池等の変換効率を低下させる虞がある。一方、種々の特性との関係から、透過率の上限が規制される。例えば、熱膨張係数が70×10−7〜100×10−7/℃、歪点が520〜700℃に規制される場合、ガラスの屈折率ndは1.50以上になるが、この場合、ガラス−空気の光反射を考慮すると、透過率の上限は実質的に92%以下に制限される。また、上記熱膨張係数、歪点に加えて、高温粘度、液相粘度を考慮すると、ガラスの屈折率ndは1.54以上になるが、この場合、透過率の上限は実質的に91%未満に制限される。
【0053】
Feに換算したt−Fe(全鉄量)に占めるFeOに換算したFe2+の質量割合Fe2+/t−Feは、好ましくは0.7以下、特に0.1〜0.7である。Fe2+/t−Feの値が大き過ぎると、硫化鉄によりアンバー色に着色し易くなる。なお、Fe2+/t−Feの値が小さ過ぎると、Fe3+により、ガラスが薄黄色に着色し易くなる。
【0054】
ガラス中のFe2+/t−Feについては、例えば、ガラス原料に添加される還元剤の量により変更することが好ましい。フロート法でガラス板を成形する場合、一般に芒硝が用いられるが、この場合、芒硝量の調整や還元剤としてカーボンを添加することにより、Fe2+/t−Feを変更することができる。なお、カーボンはガラス中の芒硝の分解温度を低下させる効果も有する。カーボンの添加量は、ガラス100g当たり、0.001〜0.15g、特に0.003〜0.09gが好ましい。
【0055】
汎用のフロート窯でガラス板を製造する場合、CeO等を添加して、Fe2+/t−Feの値を低下させる必要性が高くなるが、この場合、ガラス板の製造コストが高騰する虞がある。
【0056】
一方、ガラス中のFeは、Fe2+又はFe3+の状態で存在し、清澄剤として作用する。Feの清澄作用を考慮した上で、SOのリボイルを抑制するために、残存SO量を減少させる場合には、Fe2+/t−Feの値(FeOに換算したFe2+とFeに換算したFe3+の合量に占めるFeOに換算したFe2+の質量割合)を大きくすることが好ましい。よって、Fe2+/(Fe2++Fe3+)の値は、好ましくは0.1〜0.7%、0.2〜0.6、0.3〜0.5、特に0.4〜0.45である。
【0057】
熱膨張係数は70×10−7〜100×10−7/℃、特に80×10−7〜90×10−7/℃が好ましい。このようにすれば、シールフリットや光電変換膜等の周辺部材の熱膨張係数に整合し易くなる。なお、熱膨張係数が高過ぎると、耐熱衝撃性が低下し易くなり、結果として、PDP等のディスプレイやCIS系太陽電池、CdTe系太陽電池、色素増感太陽電池等の太陽電池を製造する際の熱処理工程で、ガラス板に割れが発生し易くなる。
【0058】
密度は2.90g/cm以下、特に2.85g/cm以下が好ましい。このようにすれば、PDP等のディスプレイや各種太陽電池の支持部材のコストを低廉化し易くなる。なお、「密度」は、周知のアルキメデス法で測定可能である。
【0059】
歪点は550〜700℃、570〜680℃、特に600〜650℃が好ましい。このようにすれば、PDP等のディスプレイや各種太陽電池を製造する際の熱処理工程で、ガラス板に熱収縮や熱変形が生じ難くなる。特に、CdTe系太陽電池の製造工程において、CdTeを蒸気で搬送し成膜する方法を採用する場合、歪点を高めると、成膜速度を高めることが可能になり、タクト削減に有用である。
【0060】
104.0dPa・sにおける温度は1200℃以下、特に1180℃以下が好ましい。このようにすれば、低温でガラス板を成形し易くなる。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0061】
102.5dPa・sにおける温度は1520℃以下、特に1460℃以下が好ましい。このようにすれば、低温でガラス原料を溶解し易くなる。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0062】
液相温度は1160℃以下、特に1100℃以下が好ましい。液相温度が上昇すると、成形時にガラスが失透し易くなり、成形性が低下し易くなる。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、この白金ボートを温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値である。
【0063】
液相粘度は104.0dPa・s以上、特に104.3dPa・以上が好ましい。液相粘度が低下すると、成形時にガラスが失透し易くなり、成形性が低下し易くなる。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。なお、液相温度が低い程、また液相粘度が高い程、耐失透性が向上し、成形時にガラス中に失透結晶が析出し難くなり、結果として、大型のガラス板を安価に作製し易くなる。
【0064】
体積電気抵抗率(150℃)は、好ましくは11.0以上、特に11.5以上である。このようにすれば、アルカリ成分がITO膜等の電極と反応し難くなり、結果として、電極の電気抵抗が変化し難くなる。ここで、「体積電気抵抗率(150℃)」は、ASTM C657−78に基づいて、150℃で測定した値を指す。
【0065】
誘電率は、好ましくは8以下、7.9以下、特に7.8以下である。このようにすれば、セルを1回発光させるために必要な電流量が小さくなるため、PDP等の消費電力を低減し易くなる。ここで、「誘電率」は、ASTM D150−87に基づいて、25℃、1MHzの条件で測定した値を指す。
【0066】
誘電正接は、好ましくは0.05以下、0.01以下、特に0.005以下である。誘電正接が高くなると、画素電極等に電圧が印加された際に、ガラスが発熱して、PDP等の動作特性に悪影響を及ぼす虞がある。ここで、「誘電正接」は、ASTM D150−87に基づいて、25℃、1MHzの条件で測定した値を指す。
【0067】
屈折率ndは、好ましくは1.50〜1.72、1.53〜1.60、特に1.54〜1.58である。屈折率が1.50未満の場合、熱膨張係数を70×10−7〜100×10−7/℃、歪点を520〜700℃に規制し難くなり、ディスプレイ用途や太陽電池用途に使用し難くなる。一方、屈折率が1.72を越えると、ガラス−空気界面の光反射が増加して、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率が86%未満になり易い。結果として、PDP等のディスプレイの消費電力を増加させると共に、太陽電池の変換効率を低下させることになる。参考までに、ガラス−空気界面の反射を考慮した場合の内部透過率の最大値の屈折率依存性を示すデータを図2に示す。
【0068】
ヤング率は78GPa以上、特に80GPa以上が好ましい。また、比ヤング率は、27.5GPa/(g/cm)以上、特に28GPa/(g/cm)以上が好ましい。このようにすれば、ガラス板が撓み難くなるため、搬送工程や梱包工程における取り扱いの際に、ガラス板が大きく揺動して落下したり、他の部材と接触して破損し難くなる。ここで、「ヤング率」は、共振法で測定した値を指す。「比ヤング率」は、ヤング率を密度で割った値である。
【0069】
厚み3.2mmにおける可視光透過率は86〜92%、特に86〜90%未満が好ましい。このようにすれば、ガラス板の製造コストを抑制しつつ、ディスプレイの消費電力削減、又は太陽電池の高効率化を達成し易くなる。ここで、「可視光透過率」は、JIS R3106に基づいて測定した値である。但し、可視光透過率の測定光源をC光源とした。なお試料厚みが3.2mmより大きい場合は、試料厚みを3.2mmまで研磨した後に測定する。試料厚みが3.2mm未満の場合には、数式1を用いて厚み換算を行うこともできる。但し、nx=ndとする。
【0070】
厚み3.2mmにおける日射透過率は85〜89%、特に85〜87.5%未満が好ましい。このようにすれば、ガラス板の製造コストを抑制しつつ、ディスプレイの消費電力削減、又は太陽電池の高効率化を達成し易くなる。ここで、「日射透過率」は、JIS R3106に基づいて測定した値である。なお試料厚みが3.2mmより大きい場合は、試料厚みを3.2mmまで研磨した後に測定する。試料厚みが3.2mm未満の場合には、数式1を用いて厚み換算を行うこともできる。但し、nx=ndとする。
【0071】
本発明のガラスにおいて、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率は、反射防止膜や透明導電膜等が成膜されていない状態で測定した値であるが、ガラス板に反射防止膜を成膜すると、透過率を更に高めることができる。また、透明導電膜を成膜すると、各種デバイスに適用し易くなる。
【0072】
本発明のガラスは、上記のガラス組成範囲になるように、調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を加熱溶融した後、得られたガラス融液を脱泡した上で、成形装置に供給し、板状等に成形、徐冷することにより、作製することができる。
【0073】
ガラス板の成形方法としては、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法等を例示できるが、安価にガラス板を大量生産する場合、フロート法を採用することが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0075】
表1〜4は、試料No.1〜27を示している。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
次のようにして、試料No.1〜27を作製した。まず表中のガラス組成になるように調合したガラス300g相当量のバッチを直径80mm、高さ90mmの白金坩堝に入れ、1550℃で2時間溶融した。Fe2+/t−Feの値については、バッチ中に添加する芒硝、及びカーボン量にて調整した。なお、試料No.11を除き、バッチ中のSOの含有量は0.2質量%とした。ガラス100g当たりに添加したカーボン量も表1〜3に記載されている。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出して、平板形状に成形した後、徐冷した。その後、各測定に応じて、所定の加工を行った。溶融後のガラスの残存SO量は、蛍光X線分析により測定された。全鉄量(t-Fe)、Fe2+、及びFe3+の含有量は化学分析により測定された。なお、全鉄量(t-Fe)はFeに換算して算出した値であり、Fe2+はFeOに換算して算出した値であり、Fe3+はFeに換算して算出した値である。
【0081】
次のようにして、全鉄量(t-Fe)、Fe2+、及びFe3+の含有量を測定した。Fe2+の含有量については、まず試料0.5g〜1.5gが入ったテフロン(登録商標)瓶中に硫酸15mlを加えた後、100℃にセットしたウォーターバス中に入れて、不活性ガス雰囲気中で10分間加温した。次に、テフロン(登録商標)瓶中に弗酸7mlを追加して、再びウォーターバス中、及び不活性ガス雰囲気中で試料を約30分間加熱分解させた。続いて、テフロン(登録商標)瓶中に硼酸6gを加えた後、不活性ガスを導入し、再びウォーターバス中で試料を約10分間加熱した。更に、不活性ガスを導入した状態で試料を冷却した後、O−フェナントロリン溶液0.5mlを指示薬として、N/200 Ce(SO溶液を用いて、オレンジ色から淡青色に変わるまで滴定した。最後に、その滴定量により、Fe2+の含有量を求めた。全鉄量については、まず試料0.3gを白金皿に秤量し、硝酸2ml、硫酸3ml、弗酸20mlにより、試料を分解させた。続いて、塩酸10ml、HOにより、試料を加熱溶解させた後、5C濾紙にて濾過した。最後に、試料を100ml定容した後、ICP発光分析装置により、全鉄量(t-Fe)を測定した。なお、Fe3+の含有量は、全鉄量(t-Fe)、及びFe2+の含有量から算出された値である。
【0082】
得られた各試料について、熱膨張係数α、密度d、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、10dPa・sにおける温度、102.5dPa・sにおける温度、液相温度TL、液相粘度log10ηTL、体積電気抵抗率ρ(150℃、250℃、350℃)、誘電率ε、誘電正接tanδ、ヤング率、比ヤング率、屈折率nd、1100nm透過率、可視光透過率、日射透過率を評価した。これらの結果を表に示す。
【0083】
熱膨張係数αは、ディラトメーターにより30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した値である。なお、測定試料として、直径5.0mm、長さ20mmの円柱試料を用いた。
【0084】
密度dは、公知のアルキメデス法で測定した値である。
【0085】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336−71に基づいて測定した値である。
【0086】
10dPa・sにおける温度、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。なお、10dPa・sにおける温度は、成形温度に相当している。
【0087】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、この白金ボートを温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値である。液相粘度log10ηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0088】
体積電気抵抗率ρは、各温度において、ASTM C657−78に基づいて測定した値を指す。
【0089】
誘電率ε、誘電正接tanδは、ASTM D150−87に基づいて、25℃、1MHzの条件で測定した値である。
【0090】
ヤング率は、共振法で測定した値を指す。また、比ヤング率は、ヤング率を密度で割った値である。
【0091】
屈折率ndは、屈折率計(島津カルニュー製 KPR−2000)を用いて、ヘリウムランプのd線(波長:587.6nm)において測定した値である。
【0092】
1100nm透過率は、積分球を搭載した汎用の分光光度計により、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率を測定した値である。
【0093】
厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.1の透過率曲線を図3に示す。
【0094】
厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.2の透過率曲線を図4に示す。
【0095】
厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.3の透過率曲線を図5に示す。
【0096】
厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.5の透過率曲線を図6に示す。
【0097】
厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.6の透過率曲線を図7に示す。
【0098】
厚み1.8mm、波長1100nmにおける試料No.7の透過率曲線を図8に示す。
【0099】
日射透過率および可視光透過率は、厚み3.2mmにおいて、JIS R3106に基づいて測定した値である。但し、可視光透過率の測定光源をC光源とした。
【0100】
表から明らかなように、試料No.2〜11、13〜27は、歪点が520〜700℃であるため、高い耐熱性を有する。また、試料No.2〜11、13〜27は、熱膨張係数が70×10−7〜100×10−7/℃であるため、PDP等の構成部材の熱膨張係数に整合させ易い。更に、試料No.2〜11、13〜27は、全鉄量(t−Fe)が0.04%未満、Fe2+/t−Feの値が0.76以下、ndが1.50〜1.65であり、厚み1.8mm、波長1100nmにおける透過率が86〜92%であった。なお、試料No.2は、残存SO量が比較的多く、多くの泡を内包していた。
【0101】
試料No.7、8は、試料No.6を更に還元させたガラスである。ガラス中のFe2+/t−Feは未測定であるが、図に示す透過率曲線から、Fe2+/t−Feの値が0.76超であると推定される。これは、ガラスが褐色を呈して、透過率が低下したものである。
【0102】
一方、試料No.1は、特許文献4に記載の高歪点ガラスであるが、この高歪点ガラスをCIGS系太陽電池に使用する場合、ガラス板から光電変換膜へ鉄分が拡散して、変換効率を低下させる虞がある。またCdTe系太陽電池に代表されるスーパーストレート型太陽電池に使用する場合、Fe2+によるガラス着色により、変換効率が低下させる虞がある。更に、ディスプレイに使用した場合、Fe2+による着色により、透過率が低下して、ディスプレイの低消費電力化に寄与できないものと考えられる。また、試料No.12は、特許文献3に記載の高透過率ガラスである。このガラスは、透過率は高いものの、歪点が低いため、高耐熱性を求められるディスプレイ用途や薄膜太陽電池用途に不向きである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のガラスは、PDP、フィールドエミッションディスプレイ等のFPD、CIS系太陽電池、CdTe系太陽電池等の薄膜太陽電池、色素増感太陽電池以外にも、シリコン太陽電池に適用することも可能である。
図1
図2
図3
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図5
図6
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図8