特許第6191184号(P6191184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6191184リチウムイオン二次電池用負極活物質及び該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
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  • 特許6191184-リチウムイオン二次電池用負極活物質及び該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191184
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質及び該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20170828BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170828BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20170828BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   B22F1/00 M
   B22F5/00 K
   B22F9/04 C
   B22F1/00 R
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-61912(P2013-61912)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-186907(P2014-186907A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】宇野 貴博
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−146838(JP,A)
【文献】 特開2003−236835(JP,A)
【文献】 特開2009−245940(JP,A)
【文献】 特開2008−311209(JP,A)
【文献】 特開2000−311681(JP,A)
【文献】 特開2012−164650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
B22F 1/00
B22F 5/00
B22F 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫とコバルトの準安定相の合金粉末、及び/又は、錫とコバルトの安定相の合金粉末からなり、
X線回折パターンにおいて回折角2θは、錫とコバルトの合金の準安定相の領域である32.5°以上33.0°以下の間に第1ピークを有し、及び/又は、錫とコバルトの合金の安定相の領域である35.3°以上35.8°以下の間に第2ピークを有し、
前記第1ピークを有するときの前記第1ピークの半値幅は0.3°以上であり、前記第2ピークを有するときの前記第2ピークの半値幅は0.2°以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
湿式還元法により錫とコバルトの準安定相の合金を作製する工程と、前記錫とコバルトの準安定相の合金を遊星ボールミル装置で3時間〜100時間微粉砕する工程と、を有することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池負極活物質の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫とコバルトからなるリチウムイオン二次電池用負極活物質及び該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法、特に、湿式還元法によって合金化した錫とコバルトの合金粉末をメカノケミカル処理して作製した負極活物質及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の負極活物質にリチウムと合金化する金属、例えば錫を用いるとリチウムの吸蔵及び放出に伴い大きな体積膨張及び収縮が生じ、電極活物質が微粉化し、集電体から離脱するために、十分なサイクル特性が得られなかった。そこで、錫に、リチウムと合金化しない金属、例えば、コバルトとからなる島状に分離された合金薄膜を負極活物質とし、島間の空間で充放電の膨張収縮を吸収しサイクル特性の得られるリチウムイオン二次電池を得ていた(特許文献1参照。)。更に、サイクル特性の劣化は、錫などが凝集あるいは結晶化することであり、炭素を他の元素と結合させて凝集あるいは結晶化を抑制することで、より良好なサイクル特性の負極活物質を得ている。具体的には、錫、コバルトのそれぞれの粉末を合金化して合金粉末とした後、炭素粉末を加え乾式混合し、遊星ボールミル装置によりメカノケミカル反応を利用して微粉砕して負極活物質を得ていた。この負極活物質をX線解析すると2θ=20°〜50°の間にピークがあり、このうち2θ=41°〜45°にあるピークの半値幅が1.0°以上であり、そのピーク中には炭素と他のピークが含まれ、炭素と他の元素が結合していて、炭素によって低結晶化あるいは非結晶化していた(特許文献2参照。)。一方、炭酸カルシウムの結晶形にはカルサイト、アラゴナイト、バテラトの3種類があり、常温常圧ではカルサイトが安定でアラゴナイトが準安定相である。常温常圧下ではカルサイトからアラゴナイトへの相移転は発生しないが、媒体撹拌型ボールミルによりカルサイトを長時間微粉砕すると、アラゴナイトに相移転し更に微粉砕を続けるとアラゴナイトが減少し、カルサイトとアラゴナイトの量が平衡状態になる、いわゆるメカノケミカル効果は公知である。(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−373647号公報(段落[0003]〜[0017])
【特許文献2】特開2008−293955号公報(段落[0032]〜[0097])
【非特許文献1】山本英夫他、微粉砕操作に伴う石灰石のメカノケミカル相転移、日本国、東京大学生産技術研究所、1988年4月1日、40巻4号、pp.188-190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の特許文献1、2では、サイクル特性即ち容量維持率の良好な負極活物質を得ることは記載されているものの、実際にリチウムイオン二次電池を作製した場合の正極側のリチウムイオンの放出能力との関係いわゆる積算不可逆容量比についての言及はなかった。また、上記特許文献2に記載される、錫、コバルト、鉄、炭素を材料とした負極活物質は、遊星ボールミル装置で2θ=20°〜50°の間のピークの半値幅が広く(1°以上)、そのような材料は、炭素によって低結晶化あるいは非結晶化されていて容量維持率がよくなると記載されているものの、遊星ボールミル装置によって錫、コバルト、鉄からなる合金の結晶が如何に変化しているかの記載はみあたらなかった。一方、非特許文献1には、炭酸カルシウムの結晶を微粉砕することでメカノケミカル効果により常温常圧で安定相から準安定相になることは記載されているものの、炭酸カルシウム以外の例えば合金の微粉砕による効果には言及がなく、個々の合金が微粉砕により安定相と準安定相は得られるであろうとは予想されるが如何なる性質が得られるかは未知であった。
【0005】
本発明の目的は、サイクル特性即ち容量維持率を満足しつつ積算不可逆容量比特性の良いリチウムイオン二次電池用負極活物質及び該負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法を簡便に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、錫とコバルトを湿式還元法を用いて準安定相の錫コバルト合金を作製し、作製した錫コバルト合金を微粉砕し準安定相から安定相に変化する準安定相の錫コバルト合金と安定相の錫コバルト合金が混在する過程にある合金を用いて容量維持率を満足しつつ積算不可逆容量比特性をもつ負極活物質が得られることを見出し本発明を完成させた。
【0008】
本発明の第の観点は、錫とコバルトの合金粉末からなり、X線回折パターンにおいて回折角2θは、錫とコバルトの合金の準安定相の領域である32.5°以上33.0°以下の間に第1ピークを有し、及び/又は錫とコバルトの合金の安定相の領域である35.3°以上35.8°以下の間に第2ピークを有し、前記第1ピークを有するときの前記第1ピークの半値幅は0.3°以上であり、前記第2ピークを有するときの前記第2ピークの半値幅は0.2°以上であるリチウムイオン二次電池用負極活物質にある。
【0009】
本発明の第の観点は、第1の観点に基づく発明であって、第1の観点負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池にある。
【0010】
本発明の第3の観点は、湿式還元法により錫とコバルトの準安定相の合金を作製する工程と、前記錫とコバルトの準安定相の合金を遊星ボールミル装置で3時間〜100時間微粉砕する工程と、を有することを特徴とする第1の観点のリチウムイオン二次電池負極活物質の製造方法にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第の観点では、錫とコバルトの準安定相の合金粉末、及び/又は、錫とコバルトの安定相の合金粉末からなり、X線回折パターンにおいて回折角2θは、錫とコバルトの合金の準安定相の領域である32.5°以上33.0°以下の間に第1ピークを有し、及び/又は、錫とコバルトの合金の安定相の領域である35.3°以上35.8°以下の間に第2ピークを有し、前記第1ピークを有するときの前記第1ピークの半値幅は0.3°以上であり、前記第2ピークを有するときの前記第2ピークの半値幅は0.2°以上であるリチウムイオン二次電池用負極活物質によって、サイクル特性即ち容量維持率と積算不可逆容量比特性の良いリチウムイオン二次電池の負極活物質を得ることができる。
【0014】
本発明の第の観点では、第1の観点で作製した負極活物質を用いてサイクル特性即ち容量維持率と積算不可逆容量比特性の良いリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0015】
本発明の第3の観点では、湿式還元法により錫とコバルトの準安定相の合金を作製する工程と、前記錫とコバルトの準安定相の合金を遊星ボールミル装置で3時間〜100時間微粉砕する工程と、を有する第1の観点のリチウムイオン二次電池負極活物質の製造方法によって、サイクル特性即ち容量維持率と積算不可逆容量比特性の良いリチウムイオン二次電池の負極活物質を特殊な溶剤や添加剤を使用することも高温高圧をかけることもなく簡便に得ることができる。
【0016】
本発明の第の観点では、第1の観点の負極活物質又はの観点の製造方法により製造された負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法によって、サイクル特性即ち容量維持率と積算不可逆容量比特性の良いリチウムイオン二次電池を特殊な溶剤や添加剤を使用することも高温高圧をかけることもなく簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例、比較例のXRD(X線回折:X-ray Diffraction )による解析結果を表す図である。
図2】湿式還元法により合成した直後の錫とコバルトの合成粉(比較例1)のSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning electron microscope)による写真である。
図3】湿式還元法により合成した後、遊星ボールミル処理した錫とコバルトの合成粉(実施例1)のSEMによる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0019】
本発明は、湿式還元法により錫とコバルトの合金を作製し、その合金を微粉砕しリチウムイオン二次電池の負極活物質とする方法の改良である。
【0020】
本発明の特徴ある構成は、湿式還元法により錫とコバルトの準安定相の合金を作製し、錫とコバルトの準安定相の合金を遊星ボールミルなどのメカノケミカル効果を伴う粉砕により微粉砕し錫とコバルトの安定相の合金を作製する過程にある錫とコバルトの準安定相の合金、及び/又は、錫とコバルトの安定相の合金をリチウムイオン二次電池の負極活物質とすることである。
【0021】
本発明の実施の工程を詳しく説明する。
【0022】
まず、錫とコバルトの準安定相の合金を得るための湿式還元法による湿式還元の工程について説明する。
【0023】
イオン交換水に分散剤、塩化錫(II)および塩化コバルト(II)を加え撹拌溶解し、35質量%の塩酸を加えてpHを調整する。これを錫コバルト溶液とする。分散剤はポリアクリル酸、水溶性セルロース、ポリビニルピロリドンなどを用いるが、これに限定されるものではない。
【0024】
一方、イオン交換水に塩化クロム(III)を加えて撹拌溶解し、これを電気化学的もしくは金属亜鉛(Zn)を投入することでクロムイオンを3価から2価に還元し、全クロムイオン中の2価のクロム比が70%以上となるように調製し、これをクロム溶液とした。
【0025】
錫コバルト溶液とクロム溶液を混ぜ合わせ所定時間撹拌混合する。撹拌混合した液を静置すると、合成した負極活物質は沈降するので上液を除去する。イオン交換水を加えて撹拌洗浄・静置沈降・上液除去を数回繰り返し、最後にエタノールで撹拌洗浄・静置沈降・上液除去して、得られた沈降物を真空乾燥して目的の錫とコバルトの合金を得た。この、錫とコバルトの合金をXRDにより評価した結果、Sn2Coの準安定相であることが確認できた。
【0026】
次に、錫とコバルトの準安定相の合金を微粉砕しメカノケミカル効果により錫とコバルトの安定相の合金を得る工程について説明する。
【0027】
メカノケミカル処理には、一般に、ボールミル装置が用いられるが、本発明には、例えば、遊星ボールミル、3Dボールミルなど、如何なるボールミル装置をも使用できる。また、メカノケミカル効果が得られればどのような微粉砕装置でも使用できる。
【0028】
メカノケミカル処理には遊星ボールミル装置を用いた。湿式還元法により合成した粉末と潤滑剤を少量加えたものを、ボールミルジャーに入れ、不活性雰囲気中でクランプにより密閉した。添加剤として炭素(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバーなど)及び潤滑剤としてステアリン酸、カンファーなどを用いるが、これに限定されるものではない。
【0029】
遊星ボールミル装置による処理は、200rpmで3時間から150時間の間で実施し、処理後の開封は負極活物質の急激な酸化を防止するため、不活性雰囲気で行った。
【0030】
続いて、負極電極を作製する工程を説明する。活物質粉末を導電助剤、結着剤、溶媒と混合しスラリーを調製する。
【0031】
合成した負極活物質粉末4g、アセチレンブラック0.5g、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)0.5g、n−メチルピロリジノン(NMP)5gを秤量し、混練機を用いてスラリーを作製する。混練装置には、シェイカーミル、ホモジナイザ、プラネタリミキサーなどを用いるが、特にこれに限定されるものではない。
【0032】
得られたスラリーはアプリケータ等を用いて銅箔に活物質密度が5mg/cm2となるように塗布し、乾燥、圧延し、幅3cm長さ3cmに切断することで負極電極を作製した。
【0033】
上記負極電極を用いてハーフセル(負極とリチウムメタルを組み合わせた半電池)を組み、電池測定評価として充放電サイクル試験を行った。対極および参照極にはリチウムメタルを用い、電解液には1M濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解した炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)の等体積溶媒を用いた。充電は電圧が5mVとなるまで0.5mA/cm2の定電流条件で実施し、その後、電流が0.01mA・cm2になるまで5mVの定電圧条件で実施した。
【0034】
放電は電圧が1Vになるまで0.5mA/cm2の定電流条件とした。充電と放電を各1回実施した状態を1サイクルとし、100サイクルまでの充放電試験を行い、初回の活物質重量あたりの放電容量(1サイクル時の放電容量)と、100サイクル時の放電容量の1サイクル時の放電容量に対する割合を寿命特性(100サイクル時の容量維持率)とし、100サイクルまでの積算充電容量(100サイクルまでの各サイクルにおける充電容量の積算値)から100サイクルまでの積算放電容量(100サイクルまでの各サイクルにおける放電容量の積算値)を1サイクル時の放電容量で除算した値を100サイクルまでの積算不可逆容量比として性能評価した。
【0035】
100サイクル時の容量維持率は、初期の電池性能と比較してどの程度容量が劣化したかを示す数値であり、この値が小さいほど劣化が早い電池であるため、この値が60%以上であることを目標とした。また、100サイクルまでの積算不可逆容量比は、今回の実験では、リチウムメタルを正極として使用したハーフセルのため、リチウムイオンの放出に制限がないが、実用的な正極を基にフルセルとした場合には、正極側のリチウムイオンの放出能力を高くしなければならないので、実使用上は4.0以下が適当である。
【0036】
上記の観点から、以下に示す実施例を評価した。
【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0038】
<実施例1>
錫とコバルトの合金粉末を上記湿式還元法により合成し、その粉末を200rpmで遊星ボールミル装置(Retsch製のBall Mills Type PM100を使用。)により3時間、遊星ボールミル装置による処理を実施した。錫とコバルトの合金粉末を98質量%、添加剤にはアセチレンブラックを2質量%、錫とコバルトの合金粉末98質量部とアセチレンブラック2質量部に対して潤滑剤としてステアリン酸を1質量部用い負極活物質を作製した。これを負極活物質として負極電極を作製し、充放電試験を実施し、100サイクル時の容量維持率、及び100サイクルまでの積算不可逆容量比を測定した。
【0039】
<実施例2>
遊星ボールミル装置による処理を6時間実施した以外は実施例1と同様とした。
【0040】
<実施例3>
遊星ボールミル装置による処理を12時間実施した以外は実施例1と同様とした。
【0041】
<実施例4>
遊星ボールミル装置による処理を22時間実施した以外は実施例1と同様とした。
【0042】
<実施例5>
遊星ボールミル装置による処理を70時間実施した以外は実施例1と同様とした。
【0043】
<実施例6>
遊星ボールミル装置による処理を100時間実施した以外は実施例1と同様とした。
【0044】
<比較例1>
遊星ボールミル装置により遊星ボールミル処理を実施しない以外は実施例1と同様とした。
【0045】
<比較例2>
遊星ボールミル装置による処理を150時間実施した以外は実施例1と同様とした。
【0046】
<実施例1〜6と比較例1、2との対比>
実施例1〜6と比較例1、2で得られた負極活物質についてのXRD評価結果を図1に、実施例1の合成粉のSEM写真を図2、比較例1の合成粉のSEM写真を図3、実施例1〜6と比較例1、2で得られた負極活物質についてのXRDによる結晶のピーク(2θ)と半値幅、及び容量維持率、積算不可逆容量比の評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
XRD評価結果(図1)の2θ=32.5〜33.0は、Sn2Co準安定相(metastable)と同定されるポイントであり、2θ=35.3〜35.0は、Sn2Co安定相(stable)と同定されるポイントである。
【0049】
ここで、表1より遊星ボールミル処理を行わない比較例1や前記処理の少ない実施例1では1サイクル時の放電容量が高いので、負極活物質はリチウムイオンを多く吸蔵していると考えられる。逆に、遊星ボールミル処理を多く行った比較例2や実施例6では、最大放電量が低いので、負極活物質はリチウムイオンの吸蔵が少ないと考えられる。特に比較例2では、容量維持率の目標値である60%を下回る結果となった。一方、比較例1では100サイクル目までの積算不可逆容量比は4.04と実用フルセルの二次電池とするには、正極側とのバランスを保てないほどの値となったが、その他の遊星ボールミル処理を行った例では、いずれも4以下と良好な値となった。
【0050】
次に、比較例1と実施例1の組織の状態をSEM写真にて観察した。SEM写真は、日立製作所のS−4300SEを使用して撮影した。その結果を図2及び図3に示す。
【0051】
図2(比較例1)では湿式還元によって合成された結晶がそのままの状態で存在しているが、図3(実施例1)では、結晶が微粉砕されている様子が確認できた。この図2より、湿式還元法で合成した結晶は方形の大小の結晶からなることがみえる。また、結晶間に隙間が生じている。一方、湿式還元法で合成した後に遊星ボールミル装置によりメカノケミカル処理した図3では、結晶が微粉砕され方形から角が取れてやや球形に近く変化し、結晶どうしの隙間が少なくなっているようである。このことから、微粉砕されない結晶では、表面近辺だけではなく表面から奥の方向に錫と合金化してより多くのリチウムを吸蔵できると考えられ充電容量は微粉砕したものより大きくなると考えられる。しかし、奥底にいくほど隙間は少なくなり錫とコバルトの結晶が電解液に触れる面積は少ないと考えられるから、定格の電圧面積で放出する場合、リチウムイオン放出末期には、遊星ボールミル装置でメカノケミカル処理した吸蔵が浅いところまでのものより、より多くの不可逆容量が残ってしまうと考えられる。
【0052】
上記結果より、実施例に記載した湿式還元法と遊星ボールミル処理により簡便に作製した負極活物質は実用フルセルに使用良好なサイクル特性即ち良好な容量維持率と積算不可逆容量比を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の負極活物質を使用したリチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯端末、電動アシスト自転車、電動スクータ、電気自動車等の二次電池として利用できる。
図1
図2
図3