(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年のゴミの最終処分問題、リサイクル法等により、飲食物、調味料、薬品等に用いる容器は、プラスチックボトルから、かさばらず樹脂の使用量が少ないスタンディングパウチ、スパウトパウチなどの易引裂包装袋に変わってきている。そして、この易引裂包装袋は、刃物を使用しなくても簡単に切ることができる易開封性を有する包装用積層体を用いて製造されている。
従来の易引裂包装袋に用いられている包装用積層体は、易引裂性、ヒートシール性、耐突き刺し性などを有する容器として必要な特性付与の観点から、二軸延伸したポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン等のフィルムを基材とし、この基材にヒートシール層樹脂として高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等からなる無延伸ポリエチレン系樹脂を積層したものが用いられていた。
【0003】
しかし、近年、容器の大型化、長期保存化等が要求されるに伴い、これらの積層体からなる包装用積層体は、耐衝撃性、耐ピンホール性、耐ストレスクラッキング性、耐熱性、ヒートシール性、ホットタック性等の不足が指摘されるようになり、これらの特性を補い、内容物の確実な保護の観点から、上記構成の無延伸ポリエチレンに代わって、透明性、耐引裂性、低温ヒートシール性、ホットタック性、狭雑物シール性、ヒートシール強度、破袋強度、耐熱性等が優れた直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の使用が提案されてきている。
【0004】
しかしながら、LLDPEにおいては、エチレンと1−ブテンの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン(C4−LLDPE)は、易引裂性及びホットタック性の改善は充分でなく、内容物保護の点で十分でなかった。また、エチレンといわゆるHAO(ハイアーα−オレフィン)と呼ばれる1−ヘキセンもしくは1−オクテン等のC6以上のα−オレフィンとの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン(HAO−LLDPE)は、ホットタック性や衝撃強度に優れ液状の飲食物向けのパウチ等に使用されているが、フィルムとしての優れた性能を持つ反面、易引裂性を犠牲にするものであった。すなわち、引裂開封を行う用途においては、LLDPEは引裂強度、伸びが大きく、引裂開封がしにくいという欠点があり、必ずしも好適な材料とは言えなかった。
【0005】
このような欠点を改善するため、環状オレフィン系樹脂を用いることによりカット性を付与しようとする試みがなされている。例えば、中間層が、環状オレフィン系樹脂層からなる積層フィルム(特許文献1参照)、中間層が、直鎖状低密度ポリエチレン50ないし95重量%と環状オレフィンとα−オレフィンの共重合体5ないし50重量%を含む組成物によって構成された包装用フィルム(特許文献2参照)、線状低密度ポリエチレン60〜90重量%と環状ポリオレフィン10〜40重量%との混合物からなる中間層を含んだ積層ポリオレフィンフィルム(特許文献3)、ポリオレフィン系樹脂に環状ポリオレフィン系樹脂を3〜50重量%混合した混合樹脂からなるポリオレフィン系樹脂層を少なくとも有する包装フィルム(特許文献4)が知られている。
【0006】
また、アイオノマー樹脂を組み合わせて使用することによりカット性を改善しようとする試みもなされている。例えば、少なくとも一つの層が、ポリオレフィン樹脂60〜20重量部及びアイオノマー樹脂40〜80重量部からなる樹脂組成物によって構成された多層フィルム(特許文献5参照)が知られている。
また、特定のポリエチレンからなる外層、環状オレフィン系樹脂と、特定の直鎖状低密度ポリエチレンとからなる中間層、及び特定のポリエチレンからなる内層が、順に積層されてなることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提案されている。(特許文献6)
【0007】
しかし、これらのフィルムは、いずれにおいても易引裂性を付与すると衝撃強度が低下する問題があった。
特に、中間層に、密度が0.930g/cm
3以上の直鎖状ポリエチレンを使用すると、衝撃強度が低くなり、輸送時に破袋してしまう等の問題があった。
したがって、縦方向及び横方向の引裂性に優れ、さらに、縦方向及び横方向の引裂性のバランスに優れ、衝撃強度、ヒートシール性等の包装用フィルムに必要とされる特性も併せ持つ、包装材に好適な易引裂性フィルムが望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、縦方向及び横方向の引裂性に優れる上に、衝撃強度も兼ね備えた易引裂性多層フィルム及びこれを用いた包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリエチレン(a)を樹脂主成分とする外層、環状オレフィン系樹脂(b1)とポリエチレン樹脂(b2)の混合樹脂を樹脂主成分とする中間層(B)及びポリエチレン(c)を樹脂主成分とする内層(c)が順に積層されたフィルムに電子線照射してなることを特徴とする易引裂性多層フィルム、特に好ましくは、特定の密度のポリエチレンからなる外層、環状オレフィン系樹脂10〜90重量%と特定の密度の直鎖状ポリエチレン10〜90重量%とからなる中間層及び特定のポリエチレンからなる内層が、順に積層されてなる多層フィルムを電子線照射することにより、上記課題を解決することができることを見出した。それらの知見に、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリエチレン(a)を樹脂主成分とする外層、環状オレフィン系樹脂(b1)とポリエチレン樹脂(b2)の混合樹脂を樹脂主成分とする中間層(B)及びポリエチレン(c)を樹脂主成分とする内層(c)が順に積層されたフィルムに電子線照射してなることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、密度が0.870〜0.960g/cm
3のポリエチレン(a)からなる外層(A)、環状オレフィン系樹脂(b1)10〜90重量%と、密度が0.870〜0.960g/cm
3の直鎖状ポリエチレンを主成分とするポリエチレン(b2)10〜90重量%とからなる中間層(B)及び密度が0.870〜0.960g/cm
3のポリエチレン(c)からなる内層(C)が、順に積層されたフィルムに電子線照射してなることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は第2の発明において、密度が0.870〜0.960g/cm
3のポリエチレン(a)からなる外層(A)、環状オレフィン系樹脂(b1)10〜90重量%と、密度が0.930〜0.960g/cm
3の直鎖状ポリエチレンを主成分とするポリエチレン(b2)10〜90重量%とからなる中間層(B)及び密度が0.870〜0.960g/cm
3のポリエチレン(c)からなる内層(C)が、順に積層されたフィルムに電子線照射してなることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、環状オレフィン系樹脂(b1)は、エチレン・環状オレフィン共重合体であることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記エチレン・環状オレフィン共重合体は、エチレン/環状オレフィンの含有割合が重量比で15〜40/85〜60のものであることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記エチレン・環状オレフィン共重合体は、ガラス転移点が60℃以上であることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、環状オレフィン系樹脂(b1)は、フィルム全体を基準として、20〜70重量%含まれることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、ポリエチレン(a)、直鎖状ポリエチレン(b2)およびポリエチレン(c)は、190℃におけるメルトインデックスが0.1〜30g/10分であることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、ポリエチレン(a)及びポリエチレン(c)は、直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、JIS K7128−2に準拠して測定したエルメンドルフ引裂強度が、縦方向及び横方向において、それぞれ10N/mm以下であることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0020】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明において、JIS K7124−1に準拠して測定した衝撃強度が、180g以上であることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0021】
また、本発明の第12の発明によれば、第1〜11のいずれかの発明において、中間層(B)の厚さは、フィルム全体を基準として、20〜70%であることを特徴とする易引裂性多層フィルムが提供される。
【0022】
また、本発明の第13の発明によれば、第1〜12のいずれかの発明において、照射する電子線の線量が90kGy以上250kGy未満であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の易引裂性多層フィルムが提供される。
【0023】
また、本発明の第14の発明によれば、第1〜13のいずれかの発明の易引裂性多層フィルムを用いてなることを特徴とする包装材が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の易引裂性多層フィルム及び包装材によれば、縦方向及び横方向の引裂強度の値が小さく易引裂性に優れる上に、両方向の引裂強度のバランスが優れ、衝撃強度にも優れる易引裂性多層フィルムである。
特に第2、第3の発明においては、特定の密度のポリエチレンからなる外層、環状オレフィン系樹脂を特定量と特定の密度の直鎖状ポリエチレン特定量とからなる中間層及び特定のポリエチレンからなる内層が組み合わされた多層フィルムにより、縦方向及び横方向の引裂強度の値が小さく易引裂性に優れる上に、両方向の引裂強度のバランスが優れ、衝撃強度にも優れる易引裂性多層フィルムである。
【0025】
また、第4の発明においては、中間層がエチレン・環状オレフィン共重合体を含むことにより、外層及び内層との密着性が優れる。
【0026】
また、第5の発明においては、前記エチレン・環状オレフィン共重合体が特定のエチレン/環状オレフィンの含有割合であることにより、また、特に易引裂性に優れ、しかも外層及び内層との密着性が優れる。
【0027】
また、第6の発明においては、前記エチレン・環状オレフィン共重合体が特定のガラス転移点を持つものであることにより、特に易引裂性に優れ、しかも外層及び内層との密着性が優れる。
【0028】
また、第7の発明においては、環状オレフィン系樹脂が特定の割合で含まれるものであることにより、特に易引裂性に優れ、しかも中間層と、外層及び内層との密着性が優れる上に、コスト的に有利である。
【0029】
また、第8の発明においては、ポリエチレン(a)、直鎖状ポリエチレン(b2)及びポリエチレン(c)が特定のメルトインデックスであることにより、フィルム成形が安定に行える。
【0030】
また、第9の発明においては、ポリエチレン(a)及びポリエチレン(c)は、直鎖状低密度ポリエチレンであることにより、中間層と、外層及び内層との密着性が優れる上に、外層、中間層及び内層のバランスが優れ、易引裂性フィルムとして優れる。
【0031】
また、第10の発明においては、縦方向及び横方向の引裂強度が特定の値であることにより、易引裂性に優れる。
【0032】
また、第11の発明においては、衝撃強度が特定の値であることにより、易引裂性に優れる上に、包装材として必要な機能に優れる。
【0033】
また、第12の発明においては、中間層の厚さが特定の値であることにより、易引裂性に優れる上に、コスト的に有利である。
【0034】
また、第13の発明においては、より衝撃強度の高いフィルムを得ることができる。
また、第14の発明においては、第1〜10の易引裂性多層フィルムを用いてなる包装材であるため、引裂性に優れる上に、衝撃強度も兼ね備えた、品質の高い包装材である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の易引裂性フィルム及び包装材について、各項目ごとに詳細に説明する。
本発明の易引裂性フィルムは、特定の密度のポリエチレンからなる外層、環状オレフィン系樹脂10〜90重量%と特定の密度の直鎖状ポリエチレン10〜90重量%とからなる中間層及び特定のポリエチレンからなる内層が、順に積層されてなることを特徴とする。
また、本発明の包装材は、前記易引裂性フィルムを用いてなることを特徴とする。
【0038】
1.易引裂性フィルムを構成する層
(1)中間層(B)
本発明のフィルムにおける中間層(B)は、環状オレフィン系樹脂(b1)とポリエチレン樹脂(b2)の混合樹脂を樹脂主成分とする層であり、好ましくは、環状オレフィン系樹脂(b1)10〜90重量%と、密度が0.870〜0.960g/cm
3の直鎖状ポリエチレン(b2)10〜90重量%、特に好ましくは密度が0.930〜0.960g/cm
3の直鎖状ポリエチレン(b2)10〜90重量%とからなることを特徴とする。すなわち、中間層(B)は、環状オレフィン系樹脂(b1)10重量%以上からなることが好ましい。より好ましくは、環状オレフィン系樹脂(b1)20〜80重量%と、密度が0.930〜0.960g/cm
3の直鎖状ポリエチレン(b2)20〜80重量%とからなることが好ましい。環状オレフィン系樹脂が10重量%未満であると十分な易引裂性が得られない恐れがあり好ましくない。
【0039】
(a)環状オレフィン系樹脂(b1)
本発明の易引裂性フィルムの中間層(B)で用いる環状オレフィン系樹脂(b1)としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」ともいう。)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のα−オレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」ともいう。)等が挙げられる。また、COP及びCOCの水素添加物も用いることができる。
【0040】
COCとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等のα−オレフィンなどの直鎖状モノマーとテトラシクロドデセン、ノルボルネンなどの環状モノマーとから得られた環状オレフィン共重合体が挙げられる。さらに具体的には上記直鎖状モノマーと炭素数が3〜20のモノシクロアルケンやビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン(ノルボルネン)及びこの誘導体、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]−3−デセン及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.1.
2,5.1
7,10]−3−ドデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]−4−ペンタデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.1
2,5.1
9,12.0
8,13]−3−ペンタデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.1
2,5.1
9,12.0
8,13]−3−ヘキサデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.1
3,6.0
2,7.0
9,14]−4−ヘキサデセン及びこの誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.1
3,6.1
10,13.0
2,7.0
9,14]−4−ヘプタデセン及びこの誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.1
2,9.1
4,7.1
11,17.0
3,8.0
12,16]−5−エイコセン等およびこの誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.1
3,6.1
10,17.1
12,15.0
2,7.0
11,16]−4−エイコセン及びこの誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.1
2,9.1
4,7.1
11,18.0
3,8.0
12,17]−5−ヘンエイコセン及びこの誘導体、オクタシクロ[8.8.0.1
2,9.1
4,7.1
11,18.1
13,16.0
3,8.0
12,17]−5−ドコセン及びこの誘導体、ノナシクロ[10.9.1.1
4,7.1
13,20.1
15,18.0
2,10.0
3,8.0
12,21.0
14,19]−5−ペンタコセン及びこの誘導体等の環状オレフィンとの共重合体からなる環状オレフィン共重合体などが挙げられる。直鎖状モノマー及び環状モノマーは、それぞれ単独でも、2種類以上を併用することもできる。また、このような環状オレフィン共重合体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。また、環状オレフィン系樹脂(b1)に、前記COPとCOCを併用することもできる。その場合は、COPとCOCのそれぞれの異なった性能を付与することができる。
【0041】
本発明においては、ポリエチレンに対する分散性の理由により、環状オレフィン系樹脂(b1)はCOCであることが好ましい。また、COCとしては、直鎖状モノマーがエチレンである、エチレン・環状オレフィン共重合体であることが好ましい。さらには、環状モノマーは、ノルボルネン等であることが好ましい。
【0042】
また、本発明においては、エチレン・環状オレフィン共重合体は、エチレン/環状オレフィンの含有割合が重量比で15〜40/85〜60のものであることが好ましい。より好ましくは30〜40/70〜60のものである。エチレンが15重量%未満であると、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適正を悪化させるため好ましくない。一方、エチレンが40重量%以上であると、十分な易引裂性、剛性が得られないため好ましくない。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引き裂き性、加工安定性、衝撃強度が向上するため好ましい。
さらにまた、エチレン・環状オレフィン共重合体は、ガラス転移点が60℃以上であることが好ましい。より好ましくは70℃以上のものである。環状オレフィンの含有量が上記範囲を下回ると、ガラス転移点が前記範囲を下回るようになり、例えば、芳香成分のバリアー性が低下するようになる、十分な剛性が得られず、高速包装機械適正に劣る等の恐れがある。一方、環状オレフィンの含有量が上記範囲を上回ると、ガラス転移点が高くなりすぎ、共重合体の溶融成形性やオレフィン系樹脂との接着性が低下する恐れがあり好ましくない。
また、環状オレフィン系樹脂(b1)の重量平均分子量は、5,000〜500,000が好ましく、より好ましくは7,000〜300,000である。
【0043】
環状オレフィン系樹脂(b1)は、易引裂性多層フィルム全体を基準として、20〜70重量%含まれることが好ましい。より好ましくは、20〜50重量%である。20重量%より少ないと、十分な易引裂性が得られないので好ましくない。一方、70重量%より多いと、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適正を悪化させるため好ましくない。
【0044】
環状オレフィン系樹脂(b1)として用いることができる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、チコナ(TICONA)社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。本発明においては、ノルボルネン系単量体の含有比率が、前述の範囲にあること、加工性等の理由から、TOPASのグレード8007が好ましい。
尚、ノルボルネン系の場合の、ノルボルネン含量は好ましくは、30mol%以上70mol%以下、より好ましくは35mol%以上65mol%以下、さらに好ましくは36mol%以上60mol%以下である。ノルボルネン含量が30mol%未満であると、易引き裂き性が得られない可能性がある。また、70mol%を超えると、加工性が悪くなる可能性がある。
【0045】
(b)直鎖状ポリエチレン(b2)
中間層(B)を形成するのに用いる直鎖状ポリエチレン(b2、以下、「LLDPE(b2)」ともいう。)は、エチレンとα−オレフィンとの共重合体であって、メタロセン触媒、Ziegler触媒、Phillips触媒等により重合されたもののいずれであっても良いが、密度は0.870〜0.960g/cm
3の範囲から選ばれるが、本発明において好ましくは、0.930〜0.960g/cm
3であることがあげられる。更に好ましくは0.935〜0.950g/cm
3である。中間層のポリエチレンとして、密度が0.930g/cm
3以上の直鎖状ポリエチレンに本発明の特徴である電子線架橋を行うと衝撃強度の十分な改良効果が得られる。一方、密度が0.960g/cm
3を超える場合は、フィルムの十分な透明性が得られない恐れがある。
なお、本発明において、密度は、JIS K 6922−2に基づいて測定する値である。
【0046】
また、LLDPE(b2)のメルトインデックス(MI)は、190℃において0.1〜30g/10分であることが好ましい。より好ましくは0.5〜4.0g/10分である。MIが0.1g/10分未満の場合は、溶融流れ性が悪く、押出フィルム加工が困難になる、モーター負荷が大きくなり、さらにフィルムの透明性が低くなるといった問題が生じる恐れがあり好ましくない。一方、30g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて、押出加工時の製膜安定性が低下する恐れがあり好ましくない。
なお、本発明において、メルトインデックス(MI)は、JIS−K−7210により測定したメルトインデックス値である。
【0047】
本発明において用いるLLDPE(b2)は、具体的には以下のようなものである。すなわち、エチレンと共重合するα−オレフィンは、0.1〜15モル%、好ましくは0.5〜10モル%、特に好ましくは0.5〜5モル%の量で共重合しているものであり、α−オレフィンの種類としては、通常は炭素数3〜8のα−オレフィンであり、具体的にはプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1を挙げることができる。
【0048】
(2)外層(A)
本発明の易引裂性多層フィルムにおける外層(A)は、密度が0.870〜0.960g/cm
3のポリエチレン(a)からなることを特徴とする。好ましくは、密度は0.910〜0.950g/cm
3である。上記密度範囲内にあるポリエチレンであれば、強度、剛性、透明性が良好であるため、いずれのものも使用できる。
また、190℃におけるメルトインデックスが0.1〜30g/10分であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜4.0g/10分である。上記密度範囲内にあるポリエチレンであれば、フィルム物性、製膜安定性が良好であるため、いずれのものも使用できる。
【0049】
(3)内層(C)
本発明の易引裂性多層フィルムにおける外層(C)は、密度が0.870〜0.960g/cm
3のポリエチレン(a)からなることを特徴とする。好ましくは、密度は0.910〜0.950g/cm
3である。上記密度範囲内にあるポリエチレンであれば、強度、剛性、透明性、ヒートシール性が良好であるため、いずれのものも使用できる。
また、190℃におけるメルトインデックスが0.1〜30g/10分であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜4.0g/10分である。上記密度範囲内にあるポリエチレンであれば、フィルム物性、製膜安定性が良好であるため、いずれのものも使用できる。
【0050】
本発明において、外層(A)、中間層(B)及び内層(C)には、防曇剤、帯電防止剤、熱安定剤、造核剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤等の成分を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。特に、フィルム成形時の加工適性、充填機の包装適性を付与するため、外層(A)及び内層(C)の摩擦係数を1.5以下、中でも1.2以下にすることが好ましいので、外層(A)及び内層(C)には、滑剤やアンチブロッキング剤を適宜添加することが好ましい。
【0051】
2.易引裂性多層フィルム
本発明の易引裂性多層フィルムは、前述したように、特定の外層(A)/特定の中間層(B)/特定の内層(C)との構成からなるものである。
図1に、本発明の易引裂性多層フィルムの一例の断面の概略図を示す。1は外層(A)、2は中間層(B)、3は内層(C)を示す。
易引裂性多層フィルム全体の厚さとしては、30〜150μmのものが好ましい。多層フィルムの厚さが30μm以上であれば、優れた二次成形性が得られる。また、多層フィルムの厚さが50〜80μmの範囲では、内層(C)同士をヒートシールさせた袋状の包装材として使用できる。さらに、本発明の易引裂性多層フィルムは、その厚さが100μm以上の厚膜であっても、易引裂性に優れる。
【0052】
また、本発明の易引裂性多層フィルム中の中間層(B)の厚さは、易引裂性多層フィルム全体を基準として、20〜70%であることが好ましい。より好ましくは20〜50%である。すなわち、外層(A)/中間層(B)/内層(C)が1:0.5:1の厚さ〜1:4:1程度の厚さをとることができる。中間層(B)が20%より薄いと、十分な易引裂性が得られないので好ましくない。一方、70%より厚いと、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適正を悪化させるため好ましくない。中間層(B)がこの範囲であれば、易引裂性に優れる上に、コスト的に有利であり、易引裂性多層フィルムの透明性、引き裂き性、耐ピンホール性が向上するため、好ましい。
【0053】
本発明の易引裂性フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、外層(A)に用いるポリエチレン(a)と、中間層(B)に用いる環状オレフィン系樹脂(b1)及び/又は直鎖状ポリエチレン(b2)と、内層(C)に用いるポリエチレン(c)とを、それぞれ別の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で(A)/(B)/(C)の順で積層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりフィルム状に成形する共押出法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた多層フィルムが得られるので好ましい。さらに、本発明で用いる直鎖状ポリエチレン(b2)と環状オレフィン系樹脂(b1)との軟化点(融点)の差が大きいため、相分離やゲルを生じることがある。このような相分離やゲルの発生を抑制するためには、比較的高温で溶融押出を行うことができるTダイ・チルロール法が好ましい。
また、本発明の易引裂性フィルムは、上記の製造方法によって、実質的に無延伸の多層フィルムとして得られるため、真空成形による深絞り成形等の二次成形が可能となる。
さらに、通常用いられる方法により、本発明の易引裂性フィルムをシーラントフィルムとして用い、外層(A)上に接着性樹脂や接着剤を介して基材をラミネートしてラミネートフィルムとすることもできる。
3.電子線照射
本発明の特徴は、上記の層構成を有するフィルムに電子線照射してなることを特徴とする。該処理方法としては、フィルム製膜時のインライン処理でも、フィルム製膜後のバッチ処理でもよく、更には包装袋などに加工した後でもかまわない。
電子線照射の方法としては、公知の方法を採用することができ、具体的な例については後述する実施例に記載する。
尚、電子線の好ましい線量は、90kGy以上250kGy未満である。より好ましくは、95kGy以上230kGy未満、さらに好ましくは100kGy以上220kGy未満、さらに好ましくは150kGy以上220kGy未満である。
電子線の線量が250kGyを超えると、フィルム中で樹脂の切断が発生し、フィルムの衝撃強度が発生する可能性がある。また、90kGy未満であると、十分な衝撃強度改良効果が見られない。
【0054】
本発明の電子線照射された易引裂性フィルムは、JIS K7128−2に準拠して測定したエルメンドルフ引裂強度が、縦方向及び横方向において、それぞれ10N/mm以下であることが好ましい。より好ましくは、7N/mm以下である。
また、JIS K7124−1に準拠して測定した衝撃強度が、180g以上であることが好ましい。より好ましくは、300g以上である。なお、JIS K7124−1による衝撃強度とは、落槍衝撃強度又は打抜き強度(Dart Drop Impact Strength、DDI)とも呼ばれ、フィルム上に特定の重りを落として測定するものである。
本発明の易引裂性フィルムは、縦方向及び横方向におけるエルメンドルフ引裂強度の値が小さく、易引裂性に優れるにもかかわらず、縦方向及び横方向におけるエルメンドルフ引裂強度の差が小さくバランスがとれるためか、衝撃強度が強いという特徴を有する。
【0055】
4.包装材
本発明の易引裂性フィルムからなる包装材としては、食品、薬品、医療器具、工業部品、雑貨、雑誌等の用途に用いる包装袋、包装容器等が挙げられる。
【0056】
前記包装袋は、本発明の易引裂性フィルムの内層(C)をヒートシール層として、内層(C)同士を重ねてヒートシールすることにより形成した包装袋が挙げられる。2枚の当該易引裂性フィルムを所望とする包装袋の大きさに切り出して、それらを重ねて3辺をヒートシールして袋状にした後、ヒートシールをしていない1辺から内容物を充填した後、ヒートシールして密封することで包装袋として用いることができる。また、1枚の当該易引裂性フィルムを用いて、ピロー包装の形態でも用いることができる。さらに、内層(C)とヒートシール可能な別のフィルムを重ねてヒートシールすることにより包装袋を形成することも可能である。その際、使用する別のフィルムとしては、比較的機械強度の弱いLDPE、EVA等のフィルムを用いることができる。また、LDPE、EVA等のフィルムと、比較的引き裂き性の良い延伸フィルム、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(OPET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)等とを貼り合わせたラミネートフィルムも用いることができる。
【0057】
また、前記包装容器としては、本発明の易引裂性フィルムを二次成形することにより得られる深絞り成形品(上部に開口部がある底材)が挙げられ、代表的なものとしてブリスターパックの底材が挙げられる。この底材を密封する蓋材は、底材とヒートシールできるものであれば特に材質は問わないが、蓋材と底材を同時に引き裂いて開封できることから、本発明の易引裂性フィルムを蓋材として用いることが好ましい。
【0058】
上記の二次成形方法としては、例えば、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等が挙げられる。これらの中でも、フィルムあるいはシートを包装機上にてインラインで成形し、内容物を充填できるため真空成形が好ましい。
【0059】
本発明の易引裂性フィルムを用いた包装材には、初期の引き裂き強度を弱め、開封性を向上するため、シール部にVノッチ、Iノッチ、ミシン目、微多孔などの任意の引き裂き開始部を形成すると好ましい。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、これによって限定されるものではない。
なお、実施例に於ける各種物性の測定は、下記要領に従った。
【0061】
[測定方法]
(1)衝撃強度(DDI:Dart Drop Impact Strength)
JIS K7124−1に準拠して測定した。
(2)エルメンドルフ引裂強度
JIS K7128−2に準拠して測定した。なお、MDは流れ方向(MD:Macine Direction)であり、TDは垂直方向(TD:Transverse Direction)の値である。
【0062】
[インフレーションフィルムの成形条件および成形性評価法]
以下のインフレーションフィルム製膜機(成形装置)を用いて、下記の成形条件で、インフレーションフィルムを成形し、評価した。
【0063】
(3種3層インフレーション成形機)
装置:インフレーション成形装置(プラコー(株)製)
押出機スクリュー径:40mmφ×3
ダイ径:105mmφ
押出量:20kg/hr
ダイリップギャップ:2.5mm
引取速度:27m/分
ブローアップ比:2.0
成形樹脂温度:190℃
フィルム厚み:30μm
冷却リング:2段式風冷リング
【0064】
電子線放射の方法
日本電子照射サービス(株)つくばセンターにて実施した。
使用装置 電子線照射装置(RDI社製ダイナミトロン型電子加速器)
線量測定装置(CTA線量計用 島津UV1800 分光光度計)
線量計 CTA線量計(富士写真フィルム社製 FTR−125)
照射条件
【0065】
【表1】
試験方法 電子線照射及び線量測定方法
電子線照射を行う前に、線量計の照射前吸光度測定を実施し、あらかじめ決めておいた測定位置に線量計を装着する。試験品を照射用カートに設置し、電子線照射を行った後、線量計を取り外し照射後吸光度を測定する。線量結果は、照射前と照射後の吸光度の差を所定の換算方式に従って算出する。
線量測定結果
100kGy:サンプル表面上 99.7〜100.8kGy
:サンプル表面下 109.6〜110.7kGy
:支持材上 100.0kGy
200kGy:サンプル表面上 200.6〜203.4kGy
:サンプル表面下 215.9〜224.5kGy
:支持材上 201.2kGy
【0066】
[使用原料]
実施例で使用した原料は、下記の通りである。なお、密度の単位はg/cm
3、MFRの単位はg/10分である。
(1)直鎖状ポリエチレン(エチレン・α−オレフィン共重合体)(A):
日本ポリエチレン社製ノバテックLL「UF946」
密度0.936、MFR1.5のエチレン・ブテン−1共重合体
(2)高圧法低密度ポリエチレン
日本ポリエチレン社製ノバテックLL「LF280」
密度0.928、MFR0.7の高圧法低密度ポリエチレン
(3)COC
商品名TOPAS「8007」を使用。
ノルボルネン含有量 36mol%
【0067】
[実施例及び比較例]
(実施例1〜4)
表1の通り、外層をUF946、LF280、内層をUF946、LF280、中間層をUF946、LF280、COCとし、層比1:1:1構成のインフレーションフィルムを得た。
実施例1、実施例3は厚み70μm、実施例2、実施例4では厚み90μmとした。さらに、実施例1、2では、100kGyの、実施例3、4では、200kGyの電子線照射を行った。
評価結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
(比較例1〜2)
表3の通り、実施例1〜4と同様構成のインフレフィルムを準備した。これらについては、電子線照射を実施しなかった。
【0070】
【表3】
【0071】
[評価]
表2、表3から明らかなように、本発明の特定事項である特定の層構成のフィルムに対し、電子線照射を行ったフィルムは、引裂強度が低いため十分な易引裂性を有すると共に、十分なダートドロップインパクト(衝撃強度)を有し、その衝撃強度の改良効果は電子線照射量が大きいほど高いことがわかる。一方、電子線照射されるとの要件を満たさない比較例1〜2は、エルメンドルフ引裂強度の値が低いため易引裂性は有するものの、衝撃強度は十分ではない。