特許第6191212号(P6191212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6191212プリント配線基板の製造方法、及びプリント配線基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6191212
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】プリント配線基板の製造方法、及びプリント配線基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/18 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   H05K3/18 E
   H05K3/18 H
   H05K3/18 J
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-86170(P2013-86170)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-212143(P2014-212143A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三浦 徹
(72)【発明者】
【氏名】横沢 伊裕
【審査官】 内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−319918(JP,A)
【文献】 特開2007−184441(JP,A)
【文献】 特開平05−041576(JP,A)
【文献】 特開2012−069939(JP,A)
【文献】 特開2007−243043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/10 〜 3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムの表面に配線を有するプリント配線基板の製造方法であって、
1)ポリイミドフィルムの少なくとも一部に、少なくとも無電解金属めっき層を含む金属下地層を形成する工程と、
2)該金属下地層上に、配線となる銅層を無電解めっき、または電解めっきにより形成し、銅配線パターンを形成する工程と、
3)配線間に露出したポリイミドフィルムの表面を、ポリイミドエッチングにより除去する工程とを有し、
上記工程1)で形成される無電解金属めっき層は、ポリイミド表層部に形成されるポリイミドと金属との混在層を介して、ポリイミドフィルム表面に無電解金属めっき層を形成しており、
かつ、
工程1)以降、工程2)より前、及び工程2)以降、工程3)より前、の2回、混在層に熱処理を行うことを特徴とする、プリント配線基板の製造方法。
【請求項2】
熱処理の温度が、100〜180℃であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線基板の製造方法。
【請求項3】
熱処理の時間が、0.5〜10時間であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のプリント配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記工程3)においてポリイミドを除去する厚みが30nm〜80nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリント配線基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板の製造方法、及びプリント配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブル配線基板における配線の高密度化に伴い、その配線間の狭さのため、従来の技術では十分な絶縁信頼性が得られなくなりつつある。特にスパッタリング法では、ラミネート法、キャスト法と比較して絶縁信頼性の確保に十分な配慮が必要で、銅の下地としてスパッタリングされるニッケル、クロムなどの下地金属層が、配線形成後にも配線間に残存し、これが絶縁信頼性を低下させている要因の一つとして挙げられている。
【0003】
また、無電解めっきにより金属下地層を形成するセミアディティブ法においても配線間の絶縁信頼性が問題となっている。無電解めっきは、まず基板にパラジウムなどの金属からなる触媒核を付着させ、それを核としてめっきを成長させるので、配線層形成後に配線間に触媒核や金属残渣が残存し、これが絶縁信頼性を低下させる原因となっている。ガラスエポキシ基板に代表されるリジット配線基板の分野では、これを解決するために、配線形成後に配線間を樹脂ごとエッチングして触媒核を除去する方法(特許文献1)が提案されている。
【0004】
しかし、これらの方法をフレキシブル配線基板に適用することは容易ではない。例えば、特許文献1においては触媒核を絶縁樹脂ごと除去するために、N,N−ジメチルホルムアミドなどの溶媒が使用されている。リジット基板の絶縁層であるエポキシ樹脂はこれらの溶媒で除去出来るが、フレキシブル配線基板の絶縁層として代表的なポリイミドフィルムは、一般的な溶媒への溶解性が非常に低く、通常の溶媒を用いたのでは触媒核を絶縁樹脂ごと除去する事が出来ない。
【0005】
ポリイミドフィルムを基材として用いている場合、特許文献2では、樹脂フィルム基材上にスパッタリングで金属薄膜を形成し、その上にレジストでパターン加工した後、パターン銅めっき層を形成し、次いでレジストを剥離した後に、金属配線間の金属薄膜をエッチングして回路基板を作成した際の絶縁信頼性を向上させる為に、湿式エッチング液で、配線間に露出しているポリイミド樹脂を厚さ方向に3μm程度除去している。ここで、湿式エッチング液としては、東レエンジニアリング株式会社製の「TPE3000」などの無機アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)と有機アルカリ(例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン等)からなるものが使用されている。
【0006】
また、特許文献3では、樹脂フィルム基材上にスパッタリング、蒸着等によって金属配線パターンを形成した配線回路基板において、隣り合った金属配線間のスペース部の樹脂フィルム基材表層を、強アルカリに調整した過マンガン酸塩溶液に代表されるエッチング液を用いた湿式エッチングによって除去している。
【0007】
一般的に、このようなポリイミドエッチングの手法はスパッタリングによって基材表面に金属層を形成して物理的に接着している場合には有効である。一方、湿式めっきプロセスによって金属層を形成している場合、つまり、基材表面を無機アルカリや有機アルカリによって改質処理し、更にこの改質された基材表面部分にパラジウムなどを吸着させ、このパラジウムを触媒として金属を析出させる湿式めっきプロセスによって金属層を形成している所謂無電解めっきの場合、基材表面にアルカリによる改質処理された層が存在し、この改質されたポリイミド層に、この後の処理でパラジウムやニッケルなどの金属元素が金属状態やイオン状態で入りこんで混在層を形成している。
この混在層の存在により、金属配線間の金属下地層をエッチングした後にこの残渣が残りやすく、特に高精細化が進んだ場合は、配線間の金属下地層をエッチングするだけでは、絶縁信頼性が十分に確保出来ない場合がある。特に理想的な処理では良好であっても、処理のバラつきや工程傷といった変動要因の許容範囲が狭くなり良品が十分に確保しにくいという問題がある。
更に、このような混在層は改質処理を受けている為、ポリイミドエッチング液のような強力な化学処理薬剤に対する耐性が低くなる傾向にあり、特に強アルカリ対してこの傾向が顕著に現れる。そのため、湿式めっきプロセスによって作製した回路基板に上記特許文献2で用いられているような手法を用いた場合には、配線間の露出した基材表面を除去する際に、配線下の混在層も同時にダメージを受け、アンダーカットによる配線の剥離や、密着信頼性の低下などの問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−8513号公報
【特許文献2】特開2004−31428号公報
【特許文献3】特開2005−236249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリイミドフィルムに無電解めっきで金属層を形成して製造される高精細なプリント配線基板において、絶縁信頼性向上のためにポリイミドエッチングにより配線間のポリイミド表面を除去しようとした際に、配線下の、改質されたポリイミド層と金属とからなる混在層もダメージを受け、配線下部にアンダーカットや脆弱部が発生し、ポリイミド基板と配線の密着性が低下する、という問題がある。
本発明の目的は、これらの課題を解決し、絶縁信頼性が高く、且つ、耐薬品性に優れたプリント配線基板の製造方法及びプリント配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の各項に関する。
1.ポリイミドフィルムの表面に配線を有するプリント配線基板の製造方法であって、
1)ポリイミドフィルムの少なくとも一部に、少なくとも無電解金属めっき層を含む金属下地層を形成する工程と、
2)該金属下地層上に、配線となる銅層を無電解めっき、または電解めっきにより形成し、銅配線パターンを形成する工程と、
3)配線間に露出したポリイミドフィルムの表面を、ポリイミドエッチングにより除去する工程とを有し、
上記工程1)で形成される無電解金属めっき層は、ポリイミド表層部に形成されるポリイミドと金属との混在層を介して、ポリイミドフィルム表面に無電解金属めっき層を形成しており、
かつ、
工程1)以降、工程3)より前に、少なくとも1回、混在層に熱処理を行うことを特徴とする、プリント配線基板の製造方法。
2.工程1)以降、工程2)より前、及び工程2)以降、工程3)より前、の2回の熱処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載のプリント配線基板の製造方法。
3.熱処理の温度が、100〜180℃であることを特徴とする請求項1または2に記載のプリント配線基板の製造方法。
4.熱処理の時間が、0.5〜10時間であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリント配線基板の製造方法。
5.前記工程3)においてポリイミドを除去する厚みが30nm〜80nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプリント配線基板の製造方法。
6.請求項1〜5のいずれか1項に記載のプリント配線基板の製造方法により製造したことを特徴とするプリント配線基板。
7.片側のアンダーカットが0.5μm以下であることを特徴とする請求項6に記載のプリント配線基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、プリント配線基板の配線下の、改質されたポリイミド層と金属とからなる混在層が安定化され、ポリイミドエッチングにより配線間のポリイミド表面を除去しようとした際に、この混在層が受けるダメージを低減することが可能となる。これにより、配線下部にアンダーカットや脆弱部が発生する問題がなく、絶縁信頼性が高く、且つ、耐薬品性に優れたプリント配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のプリント配線基板の製造方法の一例を説明する概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のプリント配線基板の製造方法は、
1)ポリイミドフィルムの少なくとも一部に、少なくとも無電解金属めっき層を含む金属下地層を形成する工程
2)該金属下地層上に、配線となる銅層を無電解めっき、または電解めっきにより形成し、銅配線パターンを形成する工程
3)配線間に露出したポリイミドフィルムの表面を、ポリイミドエッチングにより除去する工程
を有し、工程1)以降、工程3)より前に、少なくとも1回、熱処理を行う工程を含むことを特徴とする。本発明の製造方法は、セミアディティブ法、サブトラクティブ法、フルアディティブ法のいずれの方法にも適用可能であるが、高精細な配線が高品質に形成しやすいためセミアディティブ法が好ましい。
【0014】
本発明で用いるポリイミドフィルムは、従来公知の方法で製造したものを用いることができる。例えば、ポリアミック酸と有機溶媒とを含むポリイミド前駆体溶液を支持体にキャストし、乾燥して自己支持性を有する自己支持性フィルムを形成し、得られた自己支持性フィルムを加熱処理してイミド化を完結することでポリイミドフィルムを製造できる。
【0015】
また、本発明で用いるポリイミドフィルムは、配線基板などの各種基板に好適に用いることができる市販のポリイミドフィルムを用いることができる。ポリイミドフィルムの線膨張係数(50〜200℃)は、積層する銅の線膨張係数に近いことが好ましく、0.3×10-5〜2.8×10-5cm/cm/℃であることが好ましい。また、熱収縮率が0.05%以下のものが、熱変形が小さく好ましく、耐熱性、電気絶縁性などに優れるポリイミドフィルムを好適に用いることができる。また、ポリイミドフィルムは単層、または2層以上を積層した複層のフィルムのいずれでも良く、シート状のものを用いることができる。
【0016】
例えば単層のポリイミドフィルムは、
(1)ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を支持体に流延又は塗布し、イミド化する方法、
(2)ポリイミド溶液を支持体に流延又は塗布し、必要に応じて加熱する方法、などにより得ることができ、
2層以上のポリイミドフィルムは、
(3)ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を支持体に流延又は塗布し、さらに2層目以上のポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を逐次、前に支持体に流延又は塗布したポリアミック酸層の上面に流延又は塗布し、イミド化する方法、
(4)2層以上のポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を同時に支持体に流延又は塗布し、イミド化する方法、
(5)ポリイミド溶液を支持体に流延又は塗布し、さらに2層目以上のポリイミド溶液を逐次、前に支持体に流延又は塗布したポリイミド層の上面に流延又は塗布し、必要に応じて加熱する方法、
(6)2層以上のポリイミド溶液を同時に支持体に流延又は塗布し、必要に応じて加熱する方法、
(7)上記(1)から(6)で得られた2枚以上のポリイミドフィルムを直接、又は接着剤を介して積層する方法、などにより得ることができる。
【0017】
ポリイミドフィルムは、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)及びピロメリット酸二無水物(PMDA)などから選ばれる成分を主成分として含むテトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)及び3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−DADE)などから選ばれる成分を主成分として含むジアミン成分とから合成されるポリイミドからなる。
【0018】
好適なポリイミドとしては、例えば、以下の(1)〜(4)のポリイミドが挙げられる。
(1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とパラフェニレンジアミン(PPD)と場合によりさらに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)とから製造されるポリイミド。この場合、PPD/4,4’−DADE(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。
(2)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とピロメリット酸二無水物(PMDA)とパラフェニレンジアミン(PPD)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)とから製造されるポリイミド。この場合、s−BPDA/PMDAは15/85〜85/15で、PPD/4,4’−DADEは90/10〜10/90であることが好ましい。
(3)ピロメリット酸二無水物(PMDA)とパラフェニレンジアミン(PPD)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)とから製造されるポリイミド。この場合、4,4’−DADE/PPDは90/10〜10/90であることが好ましい。
(4)3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)およびピロメリット酸二無水物(PMDA)とパラフェニレンジアミン(PPD)および4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DADE)とから製造されるポリイミド。この場合、BTDA/PMDAが20/80〜90/10、PPD/4,4’−DADEが30/70〜90/10であることが好ましい。
【0019】
ポリイミドの合成において、ポリイミドの物性を損なわない種類と量の他のテトラカルボン酸二無水物やジアミンを使用してもよい。
【0020】
ポリイミドフィルムは、フィルム表面を無機酸化物変性したものを用いることができる。フィルム表面を無機酸化物変性したポリイミドフィルムは、より高い密着強度と耐熱性を有することがある。無機酸化物変性したポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミド前駆体(ポリアミック酸など)の溶液を支持体上に流延塗布し、加熱して製造されたポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムの片面若しくは両面に適当な無機元素(例えば、金属化合物)を含む溶液を塗布して、無機酸化物変性したフィルムである。無機酸化物変性とは、金属酸化物や、金属酸化物と類似の固体酸化物となる半導体元素の酸化物(以降、単に金属酸化物という)で変性された状態を指し、少なくとも表面の一部に無機物(金属元素または半導体元素)−酸素結合が形成されている状態を指す。
【0021】
ポリイミドフィルムは、好ましくはアルミニウム酸化物変性、チタン酸化物変性若しくはシリコン酸化物変性され、少なくとも表面の一部にアルミニウム−酸素結合、チタン−酸素結合若しくはシリコン(ケイ素)−酸素結合が形成されていることが好ましい。無機酸化物変性された状態は、完全な酸化物でなくても、例えば水酸化アルミニウム、チタンの水酸基、シリコンの水酸基などや、あるいはダングリングボンドなどが一部に存在していたり、有機物との結合が存在していてもよい。
【0022】
ポリイミドフィルムとして、少なくとも片面がコロナ放電処理、プラズマ処理、化学的粗面化処理、物理的粗面化処理などの表面処理がされたポリイミドフィルムを用いることもできる。
【0023】
ポリイミドフィルム1の厚みは、特に限定されず、製造や取扱が問題なく行なえ、形成する金属層や配線パターン層を充分に支持できる厚みであればよく、好ましくは1〜500μm、より好ましくは2〜300μm、さらに好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜175μm、特に好ましくは5〜100μmであることが好ましい。
【0024】
本発明の工程1)における無電解金属めっきは、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、ポリイミドフィルムの表面を、界面活性剤を含む酸またはアルカリ性の脱脂液で洗浄し、アルカリ溶液で処理して改質層を形成する。次いで、この改質層に触媒を付与し、触媒を核として金属を析出させることにより、ポリイミド表面に無電解金属めっき層を形成することができる。ポリイミドフィルム表面の配線パターンとなる部位のみに無電解金属めっき層を形成する場合(フルアディティブ法)は、前記触媒を付与したポリイミドフィルム上にドライフィルムレジストを張り付け、フォトマスクを介して露光し、配線となる部分のレジストを現像除去して、配線パターンにのみ無電解金属めっき層を形成する。
【0025】
無電解金属めっき層を形成する際に使用する金属としては、金、白金、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ、インジウム等の金属単体やニッケル・クロムアロイ等の2種類以上の金属の固溶体(アロイ)を使用することができる。中でも、イオン化傾向、めっき浴安定性、皮膜厚み均一性、樹脂中でのマイグレーションのしづらさの観点からニッケルが特に好ましい。また、無電解金属めっき層は単層であっても、異なる金属が2層以上積層した複層構造であってもよい。
【0026】
無電解金属めっき層の膜厚は、十分密着が得られて後に除去可能な厚みであれば特に制限されるものではないが、0.1μmから0.3μmであることが好ましく、0.11μmから0.28μmであることがより好ましく、0.12μmから0.27μmであることが特に好ましい。無電解金属めっき層の膜厚が0.1μm未満であると、長期の熱負荷時に、銅配線から銅がポリイミドフィルム側へ拡散移行する現象を十分に防止できないため、長期の熱負荷時の密着強度の低下や、絶縁信頼性の低下を抑制することが難しくなる場合がある。また、無電解金属めっき層の膜厚が0.3μmを超えると、混在層に熱処理を施して混在層を安定化させる工程で、無電解金属めっき層とポリイミドフィルムとの密着性が低下することがある。
【0027】
めっきプロセスの公知の技術としては、例えば、株式会社JCU社製のエルフシード(登録商標)プロセス、奥野製薬工業株式会社のSLPプロセスなどが挙げられる。また、無電解ニッケルめっきは純粋なニッケルでも良いが膜質を制御するためにリンなどの他成分を含有してもよい。
【0028】
本発明の工程1)おける、ポリイミドフィルムの少なくとも一部に、少なくとも無電解金属めっき層を含む金属下地層を形成する方法の一例として、ポリイミドフィルム上に、無電解ニッケルめっき層を形成し、さらにその上に無電解銅めっき層を形成したポリイミドフィルムを製造する工程を詳しく以下に示す。
【0029】
i)界面活性剤を含む酸またはアルカリ性の脱脂液で洗浄する工程
ポリイミドフィルムの表面の油脂成分などを除去するために、洗浄効果を有する脱脂液でポリイミドフィルムの表面を処理する。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの界面活性剤と水酸化ナトリウムなどのアルカリを含むアルカリ水溶液に、30〜60℃で1〜10分間浸漬して油脂成分などの汚れを除去することができる。必要に応じて、モノエタノールアミンなどを加えることにより、ポリイミド表面が一部膨潤するため、後の改質層を形成する工程において混在層を形成しやすくなる。
【0030】
ii)アルカリ溶液で処理し、改質層を形成する工程
ポリイミドフィルムの表面に、アルカリ溶液、例えば水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ溶液を、噴きつけや浸漬などの方法で接触させて、ポリイミドフィルムの表面を処理する。例えば、10〜200g/lの水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム水溶液に、25〜80℃で10秒〜10分間浸漬することにより、改質層を形成することができる。
【0031】
iii)改質層に触媒を付与する工程
ポリイミドフィルムの表面を、一般的な触媒である塩化パラジウム溶液や、ポリイミドとの結合を強固にするためのアミノ酸を含む塩基性パラジウム溶液に、噴きつけや浸漬などの方法で接触させる。例えば、水酸化カリウムでpHを6に調整した、30〜300g/lのパラジウムリシン塩酸塩又はパラジウムアルギニン塩酸塩の水溶液に、30〜60℃で10秒〜10分間浸漬することにより、改質層に触媒を付与することができる。
【0032】
iv)触媒を還元する工程
ポリイミドフィルムの表面に、上記工程で表面にパラジウム触媒を付与したポリイミドフィルムを、酸性の還元溶液に浸漬して、パラジウムイオンを金属パラジウムに還元することにより、触媒を活性化させることができる。
【0033】
v)ニッケルめっき層を形成する工程
ニッケルを無電解めっき法により析出させ、無電解下地ニッケル層を形成する。例えば、硫酸ニッケルを主成分とする市販の無電解ニッケルめっき浴に、25〜45℃で2分〜20分間浸漬することによりニッケルめっき層を形成することができる。
【0034】
上記、ii)アルカリ溶液で処理し、改質層を形成する工程で形成されたポリイミドの改質層中に、更に上記、iii)改質層に触媒を付与する工程、及びv)ニッケルめっき層を形成する工程によって、金属元素が入り込んでいる状態のものが混在層である。この混在層内部の金属元素は表面から徐々に深さ方向に濃度傾斜を持っているのが一般的である。つまり、v)ニッケルめっき層を形成する工程後に形成されている混在層には、上記iii)の工程のうちのパラジウムと、v)の工程のうちのニッケルを含む。混在層中のパラジウムやニッケルはイオン、もしくは金属の状態である。
【0035】
vi)金属下地層を形成する工程
前記ニッケルめっき層上に、必要に応じて、無電解銅めっき層を形成する。これにより、無電解ニッケルめっき層、及び無電解銅めっき層からなる金属下地層が形成される。なお、本工程で無電解銅めっき層を形成する目的として、以下の理由を挙げることができる。
a)後述の配線パターン形成時における給電時の抵抗低減のために、無電解銅めっき層を形成する。
b)電解銅めっきとの密着性を向上させる為に、中間層として無電解銅めっき層を形成する。
【0036】
無電解銅めっき層の形成は、公知の無電解銅めっきプロセスを適宜選択して行うことができる。例えば、素地金属の溶解による電子を利用して金属イオンが還元されて金属析出する置換タイプの無電解めっきや、還元剤の酸化による電子を利用して金属イオンが還元されて金属析出する還元剤タイプの無電解めっきが挙げられる。置換タイプの無電解銅めっきとしては、例えば株式会社JCU社製エルフシード(登録商標)プロセスES−PCDが挙げられる。還元剤タイプの無電解銅めっきとしては、例えば上村工業製スルカップ(登録商標)PEAが挙げられる。前記a)の場合は、抵抗低減に必要な厚み確保のため還元剤タイプの無電解銅めっきが好適に用いられ、前記b)の場合は、置換タイプ、還元剤タイプ何れの無電解銅めっきも好適に用いる事ができる。無電解銅めっき層の形成工程で形成される無電解銅めっき層の厚みはどのような厚みでもよいが、好ましくは0.001〜1.0μmである。
【0037】
セミアディティブ法の場合は、後述の配線パターン形成時における給電時の抵抗低減のために、金属下地層としてさらに電解銅めっき層を形成してもよい。
【0038】
電解めっきは、公知のプロセスを適宜選択して行うことができる。例えば、無電解銅めっき層を形成した後に酸等で洗浄し、代表的には硫酸銅を主成分とする溶液中で無電解金属めっき層及び無電解銅めっき層をカソード電極として0.1〜10A/dmの電流密度で電解銅めっきを行ない、銅めっき層を形成することができる。めっき液としては、例えば硫酸銅180〜240g/l、硫酸45〜60g/l、塩素イオン20〜80mg/l、添加剤としてチオ尿素、デキストリン又はチオ尿素と糖蜜とを添加したものを用いることができる。形成される銅層の厚みは、特に限定するものではないが、好ましくは片面の厚みが0.1〜1.0μmである。
【0039】
本発明の工程2)おける、銅配線パターン形成の工程を詳しく以下に示す。
【0040】
セミアディティブ法の場合における本工程は、金属下地層にドライフィルムレジストを張り付け、フォトマスクを介して露光し、配線となる部分のレジストを現像除去して、配線パターンにのみ電解銅めっきを行い、銅配線パターンを形成する。次いで、2%水酸化ナトリウム水溶液にてドライフィルムレジストを除去し、金属下地層をエッチングにより除去することにより配線パターンが形成される。エッチング液としては、公知のものを用いることができ、例えば硫酸に過酸化水素を混合したものや、あるいは薄い塩化第2鉄の水溶液を主成分とするものが挙げられ、例えば荏原電産製FE−830、旭電化工業製AD−305Eなどが挙げられる。
【0041】
金属下地層が無電解ニッケルめっき層のみからなる場合においては、ニッケルのみを選択的にエッチングするエッチング液を用いて、無電解ニッケルめっき層を選択的にエッチング除去すればよい。また、金属下地層が銅めっき層と無電解ニッケルめっき層とで構成される場合においては、まず、銅めっき層のみを選択的にエッチング除去し、次いで、ニッケルのみを選択的にエッチングするエッチング液を用いて、無電解ニッケルめっき層を選択的にエッチング除去して行うことができる。また、好適には銅とニッケルに対してエッチング能力のある、例えば硫酸と硝酸と過酸化水素とを混合したエッチング液を用いることができ、金属下地層をエッチング除去すると共に、銅配線層の側面を同時にエッチングすることにより、無電解ニッケルめっき層のアンダーカットを抑制出来る。エッチング工程にて形成する配線パターンとしては、例えば5μm〜1000μmピッチのインナーリードや、5μm〜5000μmピッチのアウターリード、直径20μm〜5000μmのランド、5μm〜10000μm幅のラインなどを有するもので、その配線パターンは特に限定されるものではなく、どのようなパターンであってもよい。
【0042】
サブトラクティブ法の場合の本工程は、電解銅めっきによって、目的の配線高さまで電解銅めっき層を形成する。次いで、配線となる銅層にドライフィルムレジストを張り付け、フォトマスクを介して露光し、配線間となる部分のレジストを現像除去して、露出した部分の銅及び金属下地層をエッチングにより除去することにより配線パターンが形成される。
【0043】
本発明の工程3)では、ポリイミドエッチングを行うことにより、金属下地層の除去後に配線間に残留した金属残渣を、配線間に露出した、混在層を含むポリイミドフィルム表面と共に除去する。ポリイミドエッチング液は、ポリイミドに対してエッチング能力を持つ公知のものを適宜使用することがでる。例えば、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、過酸化水素などを含む酸化剤等が挙げられる。中でも、強アルカリに調整した過マンガン酸塩、代表的には過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の水溶液を用いることが好ましく、例えばライザトロンデスミアプロセス(株式会社JCU社製)を好適に用いることが出来る。
【0044】
配線間に露出した樹脂フィルム基材表面の残渣除去は、従来、銅エッチング液やニッケル又はクロム選択エッチング液で除去する方法を用いていた。このように、金属下地層の除去後に、残渣除去工程で金属を溶解させる除去液を使用した場合、金属下地層や銅配線層も不用意に削ってしまい、著しい配線の形状不良が見受けられる場合があったが、混在層を含むポリイミドフィルムをエッチングする能力を持つ残渣除去液を使用した場合には金属配線に与える影響がないので好ましい。
【0045】
混在層を含むポリイミドフィルムの表面を除去する厚みは、好ましくは1nm〜100nm、更に好ましくは10〜90nm、特に好ましくは30〜80nmである。また、一般的な酸化剤である過マンガン酸塩を用いた場合の処理時間は、好ましくは10秒〜10分、さらに好ましくは30秒〜5分である。また、処理温度は、30〜80℃、好ましくは40〜60℃である。
【0046】
本発明においては、工程1)以降、工程3)より前に、少なくとも1回、熱処理を行う工程を含む。これにより、混在層が安定化され、ポリイミドエッチングによる不要なエッチングが抑制され、配線の剥離や密着性の著しい低下を防止することが出来る。
【0047】
熱処理を行うのは、工程1)以降、工程3)より前であれば特に制限されず、金属下地層を形成する工程の途中でも良いし、金属下地層を形成する工程が終了した後でも良い。より具体的な例として、金属下地層が無電解金属めっき層と無電解銅めっき層で形成される場合、金属下地層を形成する工程の一部である無電解金属めっき層の形成後に熱処理を施し、続いて無電解銅めっきを行っても良いし、無電解金属めっき層及び無電解銅めっき層を形成後、即ち、金属下地層の構成すべてを形成後、熱処理を施しても良い。また、金属下地層上に配線となる銅層を形成した後でも良い。
【0048】
熱処理は少なくとも1回行えばよいが、2回行うのがより好ましい。具体的には、工程1)以降、工程2)より前、及び工程2)以降、工程3)より前の2回行うことが好ましく、後者において金属下地層の除去工程が含まれる場合には、その前に行うことが好ましい。2回の熱処理を行うことにより、混在層から銅配線までの各層、及び層間が安定した状態となり、金属下地層除去時、及びポリイミドエッチング処理時の不要なエッチングが抑制される。
【0049】
熱処理温度は、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは120〜160℃である。この温度範囲で熱処理を行うことにより、混在層が安定化されてポリイミドエッチング処理時の過度なエッチングを防止できる。80℃以下の熱処理では、混在層の安定化が十分でない場合があり、200℃より高温での熱処理では、銅の酸化が進み易く、また、ポリイミドと銅配線との密着性低下が生じることがあり、好ましくない。
【0050】
本発明のプリント配線基板の製造方法の一実施形態について、セミアディティブ法を例として、図1を用いてより具体的に説明する。
【0051】
1)ポリイミドフィルムの少なくとも一部に、少なくとも無電解金属めっき層を含む金属下地層を形成する工程
ポリイミドフィルム1の少なくとも片面に、有機アルカリや無機アルカリによって改質層2を形成する(b)。その後、改質層2にパラジウム触媒を吸着させ、無電解ニッケルめっき処理によって無電解ニッケルめっき層が形成される。必要に応じて、この無電解ニッケルめっき層上に、無電解銅めっき層を形成し金属下地層3を形成する。
ここでは改質層2は、ポリイミドとパラジウム及びニッケルがポリイミドと混在した状態であり、これが混在層2’である。(c)
更に、この混在層2’には拡散や置換等によって銅が混在している場合も有る。
【0052】
2)該金属下地層上に、配線となる銅層を無電解めっき、または電解めっきにより形成し、銅配線パターンを形成する工程
金属下地層3上に、ドライフィルムレジストでレジストパターン4を形成し(d)、レジストパターン4以外の部分に電解銅めっきによって、銅配線パターン5を形成する(e)。その後、レジストパターン4を剥離し(f)、配線間の金属下地層3をエッチング除去する(g)。
【0053】
3)配線間に露出したポリイミドフィルムの表面を、ポリイミドエッチングにより除去する工程
配線間の残渣を、ポリイミド表面ごとエッチング除去する(h)。
【0054】
これらの工程において、前記工程1)における無電解金属めっき層の形成後に熱処理を行い、その後、必要に応じて、この無電解ニッケルめっき層上に、無電解銅めっき層を形成し金属下地層3を形成する。さらに、前記工程2)における銅配線パターン5の形成後、レジストパターン4を剥離した後、熱処理を行い、その後、配線間の金属下地層3をエッチング除去する。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。ただし、本発明は実施例により制限されるものでない。
【0056】
以下の例における評価方法は次の通りである。
(絶縁信頼性試験)
製造したプリント配線基板を3%硫酸で酸洗浄処理をして、十分に乾燥させてからカバー材を張り付けて、85℃、85%Rhの環境下で52Vのバイアス電圧を印加して絶縁信頼性試験を行った。1000時間経過時においても1011Ω以上を保持していた場合を◎、保持できなかった場合を△とした。
(細線ピール強度測定)
細線を用いた部分以外は、JIS C6481と同様の方法で、ポリイミド基板から引きはがした銅配線の一端を引っ張り試験機に固定し、剥離面と垂直になる方向に引っ張り、90度ピール強度を測定した。
(細線による耐薬品試験)
製造したプリント配線基板を、下記の条件で5分間浸漬処理した後又は下記の条件でめっき処理した後に、150℃で1時間熱処理し、前記細線ピール強度測定に記載の方法でピール強度を測定した。ピール強度が0.4N/mm以上であるものは◎、0.4N/mm未満であるものは△、測定前に剥離していたものは×として耐薬品性を評価した。
(1)3%塩酸 室温
(2)7%塩酸 室温
(3)3%塩酸 50℃
(4)3%硫酸 室温
(5)10%硫酸 室温
(6)3%硫酸 50℃
(7)3%水酸化Na水溶液 室温
(8)8%水酸化Na水溶液 室温
(9)3%水酸化Na水溶液 50℃
(10)電解ボンディングNi−Auめっき処理
(11)無電解Snめっき処理
なお、(10)の処理は以下の通りである。
30℃の酸性クリーナー液に2分間浸漬処理した後に、29℃のソフトエッチング液に20秒間浸漬し、更に常温の5%硫酸に30秒間浸漬し、めっき前処理を行った。
その後、52℃の軟質Niめっき (PH=4.2)を90秒間行い、更に23℃でストライク金めっき(PH=4.2)を20秒間行った後に、68℃でボンディング金めっき(PH=5.87)を3分間行った。
また、(11)の処理は以下の通りである。
常温の10%硫酸に1分間浸漬処理し、室温でSnめっきのプレディップ処理を45秒間行った後に、70℃で無電解Snめっきを3分48秒行い、70℃の温水で4分間洗浄した。
(ポリイミドフィルムの除去厚み測定)
製造したプリント配線基板から、塩化第二鉄溶液を用いて金属配線を除去して測定サンプルを作製した。サンプルにおけるポリイミドフィルムの表面が除去された部分と、除去されていない部分との段差を、原子間力顕微鏡(Digital Instruments社製 NanoScope)を用いて測定することによって、ポリイミドフィルムの除去厚みの測定を行った。
(アンダーカット)
製造したプリント配線基板について200倍の顕微鏡による裏面観察を行い、任意の3サンプルについて、絶縁信頼性試験用25μmピッチ櫛歯回路の中央部分の配線に入った片側当たりのアンダーカットの幅を測定した。
(良品率)
製造したプリント配線基板5枚の配線パターン(150個)について、200倍の顕微鏡による目視検査を実施し、配線に異常の無いものを良品、配線間にまたがる金属残渣が存在するものを不良品として、良品率を算出した。
下記記載を上記に合わせて記載する。
良品率=(A-B)/A ×100 (%)
・A=作製した全サンプル
・B=顕微鏡での目視検査で、配線間にまたがる金属残渣が存在するサンプル
【0057】
(金属エッチング液の調整)
95%硫酸6.84mlと、30%過酸化水素249.6mlと、60%硝酸495mlと、純水3371mlとを混合し金属エッチング液を調製した。この金属エッチング液は、銅及びニッケルに対してエッチング能力を有するものであった。
(ポリイミドエッチング用処理液の調製)
脱脂処理液の調整:JCU社製ライザトロンデスミアプロセスのDS−110 130mlと、DS−150B 65mlと、純水 805mlとを混合し、脱脂処理液を調整した。
ポリイミドエッチング液(過マンガン酸ナトリウム溶液)の調整:
DS−250NA 130mlと、DS−150B 104mlと、純水 766mlとを混合し、ポリイミドエッチング液を調整した。
中和還元処理液の調整:DS−310 65mlと、DS−320 13mlと、濃硫酸 13gと、純水 912mlとを混合し、中和還元処理液を調整した。
【0058】
[参考例1]ポリイミドフィルムの製造
撹拌機、窒素導入管および還流管を備えたガラス製反応容器に、N,N−ジメチルアセトアミド183gおよび0.1gのモノステアリルリン酸エステルトリエタノ−ルアミン塩を加え、撹拌および窒素流通下、パラフェニレンジアミン10.81g(0.1000モル)を添加し、完全に溶解させた。この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.229g(0.09935モル)を添加し、5時間反応を続けた。この後、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2水和物0.2381g(0.00065モル)を溶解させた。得られたポリアミック酸溶液は褐色粘調液体であった。
前記のポリアミック酸溶液をガラス基板上に流延塗布し、150℃で10分間乾燥し、基板から剥がしして自己支持性フィルムを製造した。得られた自己支持性フィルムの両端をフレーム上に拘束して、5質量%の濃度でシランカップリング剤(N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)を含有するN,N−ジメチルアセトアミド溶液(約10g/mで塗工)を両面に塗工し、更に200℃で3分間、300℃で3分間、540℃で2分間加熱イミド化して、厚み25μmの変性ポリイミドフィルムを得た。
【0059】
[実施例1]
(脱脂処理およびアルカリ金属水酸化物水溶液による改質処理)
参考例1で製造したポリイミドフィルムに、エルフシードプロセス クリーナーES−100(株式会社JCU社製)を用いて、50℃で2分間処理することにより脱脂処理を行った後、エルフシードプロセスモディファイヤーES−200(株式会社JCU社製)を用いて、50℃で30秒処理することによりアルカリ金属水酸化物水溶液による改質処理を行った。
(触媒付与および還元処理)
改質処理したポリイミドフィルムの両面を、エルフシードプロセスアクチベーター ES−300(株式会社JCU社製)にて50℃で2分間処理することにより触媒付与を行った後、エルフシードプロセスアクセレレータES−400(株式会社JCU社製)にて35℃で2分間処理することにより還元処理を行った。
(金属下地層:無電解ニッケルめっき層の形成)
無電解ニッケルめっき ES−500(株式会社JCU社製)にて35℃で8分間で無電解ニッケルめっきを行い、ポリイミドフィルムの両面に、130nmの厚みの無電解ニッケルめっき層を形成した。
(熱処理1)
ADVANTEC社製のクリーンオーブンDRC423FAにて、150℃で1時間熱処理を行った後、乾燥オーブンから取り出した。
(金属下地層:銅めっき層の形成)
無電解ニッケルめっき層が両面に形成された基材に、電解銅めっきとの密着性向上のために、置換タイプの無電解銅めっきであるエルフシードプロセスES−PDCにて25℃で1分間処理することにより無電解ニッケルめっき皮膜を活性化し、導電性向上の為に、硫酸銅めっき浴にて電流密度2A/dmで1分間電解銅めっきを行い、0.45μm厚の電解銅めっき層を形成した。
【0060】
セミアディティブ法を用いた配線加工により、配線を有するプリント基板を作製した。(配線パターン形成)
電解銅めっき層表面を酸洗浄処理し、ドライフィルムレジストUFG−155(旭化成イーマテリアルズ社製)を熱ラミネートにてラミネートした後、その一部を露光装置UFX−2023B−AJM01(ウシオ電機社製)にて露光量140mJ/cmで各ピッチの配線が形成できるマスクを介して露光した。続いて、1%炭酸ナトリウム水溶液にて露光されていないドライフィルムレジストを除去した後、硫酸銅めっき浴にて電流密度2A/dmで8μmの厚みの銅配線パターンを電解銅めっきにより形成した。続いて、2%水酸化ナトリウム水溶液にてドライフィルムレジストを除去した。
(熱処理2)
ADVANTEC社製のクリーンオーブンDRC423FAにて、表1に記載の時間で熱処理を行った後、乾燥オーブンから取り出した。
ここでTOF−SIMS(アルバック・ファイ社製 TRIFT V nano TOF)で断面の二次イオンのマッピング、及びライン分析を行った結果、ニッケル元素はポリイミド表面から200nmまで傾斜的にフィルム内に入り込んでポリイミドと金属の混在層を形成しており、これを介してポリイミドフィルム上に金属下地層が形成されていることを確認した。
(金属下地層の除去)
前記金属エッチング液を用い、30℃で20秒間、スプレー圧0.05MPaでスプレー処理して金属下地層をエッチング除去した。ここで、ニッケル層のアンダーカットを抑制するために銅配線層の側面も同時にエッチングした。
【0061】
(ポリイミドエッチングによる残渣除去処理)
下地金属層を除去して得られた配線基板を、ポリイミドエッチング用処理液を用いて、脱脂処理液 に50℃で2分間浸漬して脱脂(膨潤化処理)処理を行い、続いて前記ポリイミドエッチング液に50℃で60秒間浸漬して露出したポリイミド表面の除去処理を行い、最後に前記中和還元処理液に30℃で2分間浸漬してポリイミドエッチング液の中和処理を行った。
【0062】
以上のようにして製造したプリント配線基板について、評価結果を表1に示した。
【0063】
[実施例2〜5]
実施例1における熱処理2の時間、及びポリイミドエッチングによる残渣除去処理におけるポリイミドエッチング液の浸漬時間を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に行った。製造したプリント配線基板の評価結果を表1に示した。
【0064】
[比較例1]
熱処理1及び熱処理2を共に行わない以外は、実施例1と同様に行ったところ、金属下地層とポリイミドフィルム表面との界面に大きなダメージが発生し、25、30μmピッチでは配線剥離が起こった。製造したプリント配線基板の評価結果を表1に示した。
【0065】
[比較例2]
熱処理2及びポリイミドエッチングによる残渣除去処理を行わない以外は、実施例1と同様に行った。製造したプリント配線基板の良品率は5%で、絶縁信頼性試験の結果、1000時間経過時において、75%の確率で抵抗値が10乗Ω、又は開始直後に短絡状態となり、25%の確率で1011乗Ω以上を保持していた。評価結果を表1に示した。
【0066】
[比較例3]
熱処理2を行わず、ポリイミドエッチングによる残渣除去処理を、13%硫酸水溶液に、50℃で3分間浸漬する処理に変えた以外は、実施例1と同様に行った。製造したプリント配線基板の良品率は10%で、配線の片側に入ったアンダーカットの幅は0.6〜1.0μmであった。また、絶縁信頼性試験の結果、1000時間経過時において、抵抗値が10Ωとなり、絶縁信頼性が著しく低下した。
【0067】
以上のように、無電解ニッケルめっき層の形成以降、ポリイミドエッチングによる残渣除去処理より前に、熱処理を行って混在層を安定化させた上で、ポリイミドエッチングによる残渣除去処理を行った実施例1〜5では、ポリイミドエッチングによるアンダーカットが抑制され、かつ良好な絶縁信頼性が得られている。更に、配線パターン形成後に熱処理を加えた実施例1〜4では、金属下地層の除去における銅めっき層へのアンダーカットも抑制され、特に良好な配線基板が得られている。
【0068】
熱処理を行わずにポリイミドエッチングによる残渣除去処理を行った比較例1は、配線下に大きなダメージを受けて配線が剥離した。また、無電解ニッケルめっき層の形成に続いて熱処理を行ったが、ポリイミドエッチングによる残渣除去処理を行わなかった比較例2では、実施例1〜4と同様にアンダーカットは生じなかったが、良品率、及び絶縁信頼性が不十分であった。さらに、ポリイミドエッチングによる残渣除去処理に変えて、13%硫酸水溶液による残渣除去処理を50℃で3分間行った比較例3では、実施例1〜5と比較して、アンダーカットが大きくなり、また良品率、及び絶縁信頼性が不十分であり、更に耐薬品試験においても密着信頼性が大きく低下した。
【0069】
【表1】
【符号の説明】
【0070】
1:ポリイミドフィルム
2:改質層
2’:混在層
3:金属下地層
4:ドライフィルムレジスト
5:銅配線層
図1