(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成形加工シートのシート面の全面積に対して、前記高密度領域が占める割合が5〜70%であり、前記低密度領域が占める割合が30〜95%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の成形加工シート。
前記加熱加圧工程は、前記不織布シートの5〜70%の領域を、平均圧力よりも高圧で加圧する工程を含むことを特徴とする請求項12に記載の成形加工シートの製造方法。
前記加熱加圧工程は、凹凸形状を有する金型を、前記不織布シートに押し当ててプレス加工をする工程を含むことを特徴とする請求項12または13に記載の成形加工シートの製造方法。
前記加熱加圧工程は、複数枚積層した不織布シートを加熱加圧処理する工程であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載の成形加工シートの製造方法。
前記成形加工シートは少なくとも一方の面に凹凸構造を有しており、凹凸構造を有する面同士が向かい合うように積層されることを特徴とする請求項19に記載の多層吸音材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは上述したようなPEI等の熱可塑性樹脂は難燃性および耐熱性を有するため、当該樹脂を直径の細い繊維とし、当該繊維含む不織布の密度を制御すると、プラスチック成形体の前駆体として用いられるだけではなく、電子機器や自動車等の吸音材として用いられ得ると考えた。このような吸音材は、電子機器の発熱部材の周辺や自動車のエンジンルームといった高温環境下に設けられることもあるため、吸音特性だけではなく、耐熱性と難燃性を有することが求められている。このため、特許文献3に記載されているような、耐熱性と難燃性を兼ね備えているポリエーテルイミド(PEI)樹脂を含む不織布は、吸音材として好適であると考えられる。
しかしながら、上述したような不織布を吸音材として用いた場合、強度が十分ではなく、耐久性が不足していることが本発明者らの検討により明らかとなった。特に、電子機器や自動車等の吸音材として用いられる場合は、高い吸音効果を発揮することに加えて、高強度で、耐久性に優れることが求められる。強度が不足した場合は、形状が維持できないだけでなく、繊維等が脱落する等の不具合を生じさせることがあるため問題となっていた。
【0006】
また、一般的に吸音材として使用されている不織布は、綿状であり、装置等に組み込む際のハンドリング性に劣り、また、組み込みする際に詰め込み方にばらつきが出やすく、吸音特性が装置個体毎にばらつくという問題を起こしやすい。一方で、強度やハンドリング性を重視してプレス成型等によって高密度の繊維強化プラスチック成形体とした場合は、所望の吸音特性が得られないという問題点を抱えていた。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、耐熱性と難燃性を兼ね備えた不織布の成形加工シートであって、吸音効果を十分にかつ安定して発揮でき、かつ耐久性に優れる成形加工シートを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維成分と熱可塑性樹脂を含む成形加工シートにおいて、低密度領域と高密度領域を形成し、各々の領域の密度を特定条件とすることにより、優れた吸音効果を発揮すると同時に、十分な強度を有する成形加工シートを得ることができることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1]低密度領域と高密度領域を有する成形加工シートであって、前記低密度領域と高密度領域は、各々、繊維成分と熱可塑性樹脂を含み、前記低密度領域の密度をPとし、前記高密度領域の密度をQとすると、1.5P<Qであることを特徴とする成形加工シート。
[2]前記繊維成分は、繊維径が20μm以下であり、ガラス転移温度が210℃以上であり、弾性率が150MPa以下である繊維からなり、前記熱可塑性樹脂のLOI値(限界酸素指数)は30以上であることを特徴とする[1]に記載の成形加工シート。
[3]前記繊維成分と前記熱可塑性樹脂の含有質量比率は前記成形加工シートの全領域において略一定であることを特徴とする[1]または[2]に記載の成形加工シート。
[4]前記繊維成分と前記熱可塑性樹脂の含有質量比率は、0.2:1〜10:1であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の成形加工シート。
[5]前記成形加工シートの外周領域が高密度領域であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の成形加工シート。
[6]前記成形加工シートは凹凸構造を有し、凸部の最高点が低密度領域に属することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の成形加工シート。
[7]前記低密度領域、あるいは高密度領域のいずれか一方が、非連続領域として形成されることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の成形加工シート。
[8]前記繊維成分は、ガラス繊維であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の成形加工シート。
[9]前記熱可塑性樹脂は、ポリエーテルイミド樹脂であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載の成形加工シート。
[10]前記成形加工シートのシート面の全面積に対して、前記高密度領域が占める割合が5〜70%であり、前記低密度領域が占める割合が30〜95%であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載の成形加工シート。
[11]繊維成分と熱可塑性樹脂を含む不織布シートを得る工程と、前記不織布シートを加工処理する加工工程を含み、前記加工工程は、前記熱可塑性樹脂の少なくとも一部が溶融する温度まで加熱しつつ加圧を行う加熱加圧工程を含み、前記加熱加圧工程では、前記不織布シートにかかる圧力に分布があることを特徴とする成形加工シートの製造方法。
[12]前記加熱加圧工程は、前記不織布シートの5〜70%の領域を、平均圧力よりも高圧で加圧する工程を含むことを特徴とする[11]に記載の成形加工シートの製造方法。
[13]前記加熱加圧工程は、凹凸形状を有する金型を、前記不織布シートに押し当ててプレス加工をする工程を含むことを特徴とする[11]または[12]に記載の成形加工シートの製造方法。
[14]前記加熱加圧工程は、Tg〜Tg+100℃に加熱する工程を含むことを特徴とする[11]〜[13]のいずれかに記載の成形加工シートの製造方法。(但し、Tgは、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を表す。)
[15]前記加熱加圧工程は、複数枚積層した不織布シートを加熱加圧処理する工程であることを特徴とする[11]〜[14]のいずれかに記載の成形加工シートの製造方法。
[16][11]〜[15]のいずれかに記載の製造方法により製造された成形加工シート。
[17][1]〜[10]および[16]のいずれかに記載の成形加工シートを用いることを特徴とする吸音材。
[18]前記吸音材は、略円柱体または略円筒体であることを特徴とする[17]に記載の吸音材。
[19][1]〜[10]および[16]のいずれかに記載の成形加工シートを複数枚積層することを特徴とする多層吸音材。
[20]前記成形加工シートは少なくとも一方の面に凹凸構造を有しており、凹凸構造を有する面同士が向かい合うように積層されることを特徴とする[19]に記載の多層吸音材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた吸音効果を発揮しつつも、十分な強度を有する成形加工シートを得ることができる。すなわち、本発明によれば、耐熱性と難燃性を兼ね備えた成形加工シートであって、吸音性と耐久性に優れた成形加工シートを得ることができる。このため、本発明の成形加工シートは、あらゆる電子機器や建築材の吸音材として好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(成形加工シート)
本発明は、低密度領域と高密度領域を有する成形加工シートに関する。低密度領域と高密度領域は、各々、繊維成分(強化繊維)と熱可塑性樹脂を含み、低密度領域の密度をPとし、高密度領域の密度をQとすると、1.5P<Qである。なお、密度とは、一定領域の質量を該領域の体積で割った値を示し、低密度領域とはその密度が平均密度よりも低い領域をいう。一方、高密度領域とはその密度が平均密度よりも高い領域をいう。本発明では、低密度領域と高密度領域を有することにより、十分な強度を発揮できることに加え、優れた吸音効果を発揮することができる。さらに、本発明の成形加工シートは、高い耐熱性と難燃性を兼ね備えているため、吸音材として、様々な用途に用いることができる。
【0014】
本発明の成形加工シートは低密度領域を有し、この部分で繊維成分と熱可塑性樹脂が絡み合うように存在することにより、空気の層を幾重にも保持することができる。このように、低密度領域が空気層を有することで、音の振動の伝達を抑制することができ、その結果、高い吸音率を発揮することができる。なお、吸音効果については、実際の使用状況に近い吸音材設置状況、音源、周囲状況で効果を測定するのが良いが、定量的に垂直入射吸音率や残響室吸音率等により評価することもできる。壁材など大型の試料の場合はJIS A 1409等の残響室吸音率法が、小型のサンプルの測定には垂直入射吸音率法が適している。垂直入射吸音率測定の方法としては、ISO 10534−2、ASTM E−1050、JIS 1405−2等が挙げられる。
【0015】
本発明の成形加工シートは、高密度領域を有する。この部分では、熱可塑性樹脂の少なくとも一部が溶解し固化した状態となる。これにより、繊維間に含まれる空気量が少なくなり、各繊維は強固に結合する。このように、強固に結合した繊維を有する箇所では、成形加工シートの強度が高められることとなる。
【0016】
低密度領域の密度は低いことが好ましく、密度が低いほど吸音率を高めることができる。これは、低密度領域に含まれる空気層が厚くなるため、音の振動の伝達をより抑えることができるためである。ただし、低密度領域の密度が極端に低い場合、低密度領域に含まれる繊維成分や繊維状の熱可塑性樹脂が成形加工シートから飛散したり、脱落したりするため好ましくない。特に、成形加工シートが吸音材として電子機器等の精密機器に用いられる場合、このような繊維成分の飛散や脱落は電子機器に重大な不具合を発生させることになるため、好ましくない。また、密度が低すぎた場合、通気度が上がって逆に音が通りやすくなり、また単位体積に含まれる吸音材の質量が少なくなり、厚みを増やさないと所望の吸音効果が得られない。このため、低密度領域の密度は0.1〜1.3g/cm
3であることが好ましく、0.2〜1.0g/cm
3であることがより好ましく、0.2〜0.8g/cm
3であることがさらに好ましい。
【0017】
一方、高密度領域の密度は高い方が成形加工シートの強度を高めることができるため好ましく、使用する材料の密度と同等まで高めることができる。例えば高密度領域の密度は、ガラス繊維を50重量%、ポリエーテルイミド繊維を50%含む成形加工シートの場合、上限はガラス繊維密度である2.54g/cm
3とポリエーテルイミドの1.27g/cm
3より算出される1.9g/cm
3まで高めることができる。そのため、好ましい密度としては、前記の場合は、1.0〜1.9g/cm
3であり、1.2〜1.9g/cm
3であることがより好ましく、1.3〜1.9g/cm
3であることがさらに好ましい。高密度領域の密度を上記範囲内とすることにより、成形加工シートの強度を高めることができ、耐久性を高めることができる。
【0018】
図1は、本発明の成形加工シート10の一態様を示す図である。
図1(a)は、本発明の成形加工シート10の概略平面図を示しており、
図1(b)は、本発明の成形加工シート10の概略断面図を示している。
図1(a)に示されているように、成形加工シート10は、低密度領域12と高密度領域14を有する。
図1(a)のように低密度領域12を高密度領域14に比べて広く設けることにより、より高い吸音効果を発揮することができる。また、
図1(b)に示されているように、低密度領域12は、高密度領域14と比較して、平均膜厚が厚いことが好ましい。これにより、低密度領域12に空気層が形成されやすくなり、より優れた吸音効果を発揮することができる。
【0019】
なお、本発明では、
図1(b)のように低密度領域12の平均膜厚が厚いことが好ましいが、低密度領域12と高密度領域14の平均膜厚は略同一であってもよく、低密度領域12の平均膜厚が薄くてもよい。なお、低密度領域12と高密度領域14の平均膜厚が略同一の場合や、低密度領域12の平均膜厚が高密度領域14の平均膜厚よりも薄い場合は、低密度領域12の密度が所定の範囲内となるように、低密度領域12に含まれる繊維成分や熱可塑性樹脂の量が調節される。
【0020】
図1(b)のように低密度領域12の平均膜厚の方が高密度領域14の平均膜厚よりも厚い場合は、成形加工シートの表面には凹凸構造が形成されることとなる。本発明では、このような凹凸構造の凸部の最高点が低密度領域に属することとなり、凹部の最深点が高密度領域に属することとなる。
図1(b)に示されるように、低密度領域12は、中央の凸部を構成し、高密度領域14は、端部の凹部を構成する。凸部を形成する低密度12は、1つ以上形成されることが好ましく、2つ以上形成されることがより好ましい。
【0021】
図1に示されているように、成形加工シート10の外周領域は高密度領域14であることが好ましい。ここで、成形加工シート10の外周領域とは、
図1(a)の高密度領域14として示されているように、成形加工シート10の外周縁を含む領域であって、外周縁に添って略一定幅を有するように形成される領域のことをいう。一定幅とは、成形加工シート10が四角形である場合は、その幅が含まれる四角形の一辺の全長の1〜20%の長さであることが好ましく、2〜10%の長さであることが好ましい。なお、成形加工シート10が四角形ではなく、円形等である場合は、成形加工シート10の面積の1〜30%、好ましくは、2〜20%を占めるように、略一定幅の高密度領域14が形成されることが好ましい。このように、外周領域を高密度領域14とすることにより、成形加工シート10から繊維成分が飛散したり、脱落したりすることを防ぐことができる。また、外周領域を高密度領域14とすることにより、角部や端部が強固な構造となるため、成形加工シート10の強度を効果的に高めることができる。
【0022】
図2は、本発明の成形加工シート10の他の態様を示す図である。
図2(a)は、本発明の成形加工シート10の概略平面図を示しており、
図2(b)は、本発明の成形加工シート10の概略断面図を示している。本発明では、低密度領域12、あるいは高密度領域14のいずれか一方が、非連続領域として形成されることが好ましい。例えば、
図2(a)に示されているように、低密度領域12は、成形加工シート10の面上に間欠的に設けられていてもよい。この場合、高密度領域14は、低密度領域12の隙間を埋めるように低密度領域12の周囲に存在することとなる。なお、低密度領域12の平均膜厚が高密度領域14の平均膜厚よりも厚い場合、
図2(b)に示されるように、凸部の最高点は低密度領域に属し、凹部の最深点は高密度領域に属する。
【0023】
図2(a)に示されるように、低密度領域12はドットパターンとなるよう形成されてもよい。このように、低密度領域12を間欠的に複数個設けることにより、吸音効果を効果的に発揮することができる。また、高密度領域14も成形加工シート10の全域に散在することにより、強度を高めることができる。
さらに、
図2(a)に示されるように、低密度領域12をドットパターンで設けることにより、成形加工シート10を吸音材として電子機器等に用いた場合、音を発する部材(例えば、モーター等)と点で接触することが可能となり、モーターを点接触により支持することができる。これにより、より高い吸音効果を発揮するだけでなく、吸振動性も発揮することができる。
【0024】
なお、低密度領域の形状は、特に制限されることはないが、
図2(a)のように円形とすることが好ましい。また、円形の他に、四角形、三角形、楕円形、星型等の形状とすることもできる。
【0025】
本発明では、
図3に示されているように、低密度領域12は円錐型となるように形成されてもよい。
図3では、成形加工シート10の一方の面に円錐形状の低密度領域12が形成されている。このように、低密度領域12を円錐型とすることにより、より効果的に吸音効果を発揮することができる。また、成形加工シート10を吸音材として電子機器等に用いた場合、音を発する部材とより小さな点で接触することが可能となり、優れた吸音効果を発揮することが可能となる。
【0026】
図4に示されているように、低密度領域12が構成する凸部は、成形加工シート10の両面に突出するように形成されてもよい。この場合、成形加工シート10は、両面に凸部構造を有するため、その両面で音を発する部材と点接触することができる。これにより、より効果的に吸音効果を発揮することができ、より高い吸振動性も発揮することができる。
【0027】
本発明の成形加工シートでは、低密度領域12と高密度領域14の形状は、目的や用途に応じて、様々な形状とすることができる。例えば、
図5(a)に示されているように、低密度領域12と高密度領域14は、ストライプ状となるように設けられてもよい。また、
図5(b)に示されているように、低密度領域12同士を交差させて×印のような形状としてもよい。このような形状は、後述するように、凹凸形状を有する金型を用いて加熱加圧処理を行うことにより達成することができる。
【0028】
成形加工シートのシート面の全面積に対して、高密度領域が占める割合は5〜70%であることが好ましく、10〜65%であることがより好ましく、15〜60%であることがさらに好ましい。また、低密度領域が占める割合は30〜95%であることが好ましく、35〜90%であることがより好ましく、40〜85%であることがさらに好ましい。このように、高密度領域および低密度領域が占める割合を上記範囲内とすることにより、吸音効果と高強度を両立することができる。これにより、本発明の成形加工シートは、吸音材として様々な用途に用いることが可能となる。
【0029】
成形加工シートの高密度領域の平均膜厚は特に限定されないが、一般的な機械強度を持たせ、かつ軽量構造材とするためには0.5〜50mmであることが好ましく、1.0〜30mmであることがより好ましく、1.0〜10mmであることがさらに好ましい。また、低密度領域の平均膜厚は1.5〜150mmであることが好ましく、2.0〜90mmであることがより好ましく、2.0〜30mmであることがさらに好ましい。成形加工シートの高密度領域の平均膜厚と低密度領域の平均膜厚を上記範囲内とすることにより、より高い吸音効果が得られると同時に、十分な強度を得ることができる。
【0030】
(繊維成分(強化繊維))
本発明で用いられる繊維成分は、成形加工シートの強度を高めるために機能する強化繊維となり得る。本発明で用いられる繊維成分(強化繊維)の繊維径は20μm以下であり、ガラス転移温度が210℃以上であり、弾性率が150MPa以下であることが好ましい。なお、繊維成分として用いるものは、上記条件を満たすものであって、成形加工シートの強度強化や吸音効果の妨げにならないものであれば特に制限されることはない。
【0031】
本発明で用いる繊維成分は、十分な吸音性を発揮させるために、繊維径は細い方がこのましい。繊維径が細い方が繊維1本当たりの吸音効果が良いだけでなく、単位重量辺りの繊維本数が増えるので、吸音効果が高くなる。一般的に繊維径は20μm以下であることが好ましい。繊維径は、0.1〜18μmであることが好ましく、2〜16μmであることがより好ましく、3〜12μmであることがさらに好ましい。繊維径を上記範囲内とすることにより、成形加工シートの吸音効果を高めることができる。
なお、繊維成分が無機繊維である場合、繊維径が3μmより太いことが望ましい。3μmより細い場合、製造工程あるいは使用中に人体に取り込まれた場合に発ガン性を生じる場合があるため好ましくない。また、強化繊維の繊維径がこれよりも太いと熱可塑性樹脂繊維との混合物の均一性が悪くなり、強度が得られない点で好ましくない。
【0032】
繊維成分の繊維長は、3〜30mmであることが好ましく、4〜28mmであることがより好ましく、5〜25mmであることがさらに好ましい。繊維成分の繊維長が上記上限値よりも長いと、繊維が均一に分散せず、成形加工シート内の均一性や強化繊維との混合比の均一性が低下する傾向となる。また、上記下限値よりも短いと、成形加工シートの強度が低下する傾向となる。繊維径及び繊維長は単一であってもよく、また異なる繊維径、繊維長のものをブレンドして使用してもよい。
【0033】
また、繊維成分のガラス転移温度は210℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることがさらに好ましい。なお、繊維成分のガラス転移温度の上限値は特に設ける必要はない。繊維成分のガラス転移温度を上記とすることにより、後述する熱可塑性樹脂が溶融する温度で加熱された場合であっても、繊維成分が溶融することがなく、成形加工シートを強化する機能を発揮することができる。
【0034】
さらに、繊維成分の弾性率は、繊維による音の伝播を抑制するために150MPa以下であることが好ましく、140MPa以下であることがより好ましく、130MPa以下であることがさらに好ましい。また、繊維成分の弾性率は、低密度領域を低密度に維持するために20MPa以上であることが好ましい。このように、繊維成分の弾性率を上記内とすることにより、吸音特性と成形加工シートの形態維持を両立することができる。
【0035】
本発明で用いることができる繊維成分としては、例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ロックウール繊維等を例示することができる。中でも、価格と、耐熱性、入手の容易さと吸音性のバランスからガラス繊維を用いること特に好ましい。ガラス繊維にはEガラス、Sガラス等の種類があるが特に限定されない。一般的に入手が容易なEガラスを用いるのが効率的である。吸音性に関してはガラス繊維の繊維径が細いほど望ましいが、直径3μ未満のガラス繊維は人体に対する影響が懸念されているため、3μm以上とすることがよい。
【0036】
なお、繊維成分として、ガラス繊維以外に他の繊維を混合して用いてもよい。例えば、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等の繊維を混合してもよい。ただし、繊維成分を100質量部とした場合に、ガラス繊維は80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、95質量部以上であることがさらに好ましい。
【0037】
(熱可塑性樹脂)
本発明の成形加工シートに使用する熱可塑性樹脂は、いわゆるスーパーエンプラと呼ばれる繊維であって、耐熱性で難燃性の熱可塑性樹脂を繊維化したものが好適である。
【0038】
本発明の成形加工シートに使用する熱可塑性樹脂繊維は、繊維状態においてLOI値(限界酸素指数)が30以上である。ここで「LOI値(限界酸素指数)」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。すなわち、限界酸素指数が20以下である場合は、通常の空気中で燃焼することを示す。LOI値(限界酸素指数)は、30以上であればよく、35以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましい。LOI値(限界酸素指数)を上記範囲内とすることにより、成形加工シートは非常に高い難燃性を示すことができる。
【0039】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は140℃以上であることが好ましい。また、ガラス転移温度がこれ以下であったとしても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となる樹脂であることが好ましい。なお、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、上述した繊維成分のガラス転移温度よりも低いことが好ましい。これにより、成形加工シートを加熱加圧処理した際に、熱可塑性樹脂のみを溶融することができ、吸音性を維持したまま成形加工シートの強度を高めることができる。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等が例示されるが、これに限定されるものではない。熱可塑性樹脂は、加熱処理前には、粉体、繊維状として存在していてもよい。熱可塑性樹脂が繊維状であったほうが、繊維成分との均一混合性、製造時のシート強度の面から特にこのましい。特に中でも、熱可塑性樹脂繊維としては、ポリエーテルイミド(PEI)を繊維化したPEI繊維を用いることが好ましい。PEI樹脂は、溶融し成形加工された状態での限界酸素指数が40以上、またASTM E−662に記載の方法で測定した20分燃焼時の発煙量が30ds前後と、非常に発煙量が少ないため好ましく用いられる。
【0041】
本発明の成形加工シートに使用する熱可塑性樹脂繊維には、成形加工シートを加熱加圧処理する際の220〜400℃というような温度条件下で十分に流動的であることが求められる。また、加熱加圧処理を施す前の不織布シートの製造段階の加熱条件下においては十分に繊維状態を維持できることが好ましい。このため、繊維化したスーパーエンプラ繊維のガラス転移温度は140℃以上であることが好ましい。また、ガラス転移温度がこれ以下であったとしても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となる樹脂であることが好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂繊維は、加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を形成する。このような繊維成分と熱可塑性樹脂を用いた不織布状の成形加工シートは、熱硬化性樹脂を使用した成形加工シートに比べて、オートクレーブ処理が不要で、加工する際の加熱加圧成形時間が短時間ですみ、生産性を高めることができる。しかし、成形加工シートを短時間で加熱加圧処理するためには、使用される熱可塑性樹脂繊維が高温条件下で速やかに溶融することが必要であり、そのためには、熱可塑性樹脂繊維の繊維径は細いことが好ましい。これは、繊維径が細い場合、繊維同士の接触点数が増加するため、繊維同士の接触面積が増加し、熱伝導が良好となるためである。また、繊維の熱容量が小さくなるため、溶融させるために必要な熱量が少なくなるためである。また、加熱加圧処理を施したあとに残存した繊維状の熱可塑性樹脂繊維による吸音効果も繊維径が細い方がより高い吸音効果が得られる。本発明者らの検討によれば、繊維径は30μm以下であることが好ましく20μm以下であることがより好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂繊維の繊維長は特に限定されないが、3〜30mmであることが好ましく、4〜28mmであることがより好ましく、5〜25mmであることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維成分と均一に混合されるため、防音効果を発揮しやすくなる。また、成形加工シートの強度を効果的に高めることができる。なお、繊維長が上記上限値よりも長いと、繊維が均一に分散せず、シートの均一性や繊維成分との混合比の均一性が低下する。また、これより短いと、成形加工シートの強度が低下し、製造工程で破断等が生じやすくなる。繊維径及び繊維長は単一であってもよく、また異なる繊維径、繊維長のものをブレンドして使用してもよい。
【0044】
熱可塑性樹脂繊維の繊維径は繊維成分の繊維径の4倍以下であることが好ましく、3倍以下であることがより好ましく、熱可塑性樹脂繊維の繊維径と繊維成分の繊維径は同程度であることがさらに好ましい。これにより、繊維成分と熱可塑性樹脂繊維は均一に混合されやすくなる。これにより、高い強度の成形加工シートを得ることができる。
【0045】
本発明では、繊維成分と熱可塑性樹脂の含有質量比率は、成形加工シートの全領域において略一定であることが好ましい。すなわち、本発明では、繊維成分と熱可塑性樹脂の含有質量比率をシート内で変化させなくても、優れた吸音効果を発揮する成形加工シートを得ることができる。このため、成形加工シートの製造工程が簡略化でき、生産コストを抑制することができる。なお、繊維成分と熱可塑性樹脂の含有質量比率が略一定であることは、含有質量比率に±5%の変動があってもよいことを示す。
【0046】
繊維成分と熱可塑性樹脂の含有質量比率は、0.2:1〜10:1であることが好ましく、0.5:1〜5:1であることがより好ましく、0.7:1〜3:1であることがさらに好ましい。繊維成分と熱可塑性樹脂の含有質量比率を上記範囲内とすることにより、吸音効果を発揮でき、かつ成形加工シートの強度を高めることができる。
一般的に、スーパーエンプラ樹脂は、溶融粘度が高いため、射出成形等の方法では強化繊維を多量に配合すると、強化繊維を均一に分散させることが難しいため、強化繊維の配合比には限界がある。しかし、本発明の成形加工シートでは、必要とされる強度に応じて比較的自由に強化繊維とマトリックス樹脂繊維との比率を設定することができる。
【0047】
(その他の成分)
本発明の成形加工シートは、さらにバインダー成分を含んでもよい。バインダー成分は、層間の隙間を埋め、強度を高めるように機能したり、表面の毛羽立ちを抑制したり、シート製造工程でのシート強度を向上させる作用を発揮する。バインダー成分としては、熱可塑性樹脂をPEI樹脂とした場合、バインダー力(結着力)および耐熱性を維持するためにPEI樹脂(繊維)と相溶するバインダーが好ましく、例えばポリエステル樹脂または変性ポリエステル樹脂等を例示することができる。また、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、SBR樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等も用いることが出来る。
ただし、一般にバインダー成分の限界酸素指数はPEI樹脂と比べて低いため、バインダーの含有率が多いと難燃性を損ねることとなる。このため、バインダーの含有率は、成形加工シートの全質量に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
バインダー成分の添加方法は、特に限定されず、粉、繊維状のものを抄き込み、あるいは散布してもよい。また、液体あるいは樹脂エマルジョン形状のものを抄紙時に添加、あるいは散布(シャワー等)、塗布、含浸等の方法で添加してもよい。あるいは、強化繊維等、他のシート成分にあらかじめ添加、コーティングしてあってもよい。
【0049】
(成形加工シートの製造方法)
本発明の成形加工シートの製造方法は、繊維成分と熱可塑性樹脂を含む不織布シートを得る工程と、不織布シートを加工処理する加工工程を含む。
不織布シートを得る工程は、一般に不織布シートを得る乾式あるいは湿式の方法が使用できる。乾式、特にエアレイド法は嵩高い高坪量のシートを得られる点で好適である。また、湿式の不織布製造法は、均一で広幅のシートを得やすい点で好適である。
加工工程は、熱可塑性樹脂の少なくとも一部が溶融する温度まで加熱しつつ加圧を行う加熱加圧工程を含み、この加熱加圧工程では、不織布シートにかかる圧力に分布が付与される。すなわち、本発明の成形加工シートの製造方法においては、加熱加圧工程では、不織布シートの一部分に付与される圧力と、その他の部分に付与される圧力が異なっている。
【0050】
加熱加圧工程では、不織布シートの5〜70%の領域に、平均圧力よりも高い圧力がかかることが好ましい。平均圧力よりも高圧で加圧処理される領域は、高密度領域となり、それ以外の領域は低密度領域となる。なお、低密度領域には、圧力が付与されなくてもよく、平均圧力よりも低い圧力がかかるように加圧処理されてもよい。
【0051】
加熱加圧工程では、凹凸形状を有する金型を、不織布シートに押し当ててプレス加工処理を施すことが好ましい。具体的には、あらかじめ加熱した凹凸形状の金型を不織布シートに押し当てることにより、加熱加圧処理をすることができる。不織布シートに金型を接触させた際に、金型と不織布シート間に空間が形成され得る箇所では低密度領域が形成されることとなり、金型と不織布シート間にほとんど空間が形成されない箇所では高密度領域が形成されることとなる。本発明では、金型の凹凸形状を様々な形状とすることにより、低密度領域の形状を自在に変更することができ、低密度領域の面積も適宜変更することができる。
【0052】
加熱加圧工程では、不織布シートの表面温度がTg〜Tg+100℃となるように加熱することが好ましい。ここで、Tgは、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を表す。すなわち、熱可塑性樹脂繊維が流動する温度にまで加熱を行うことにより、高密度領域が形成されることとなる。なお、加熱温度は、熱可塑性樹脂繊維が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。このような温度帯とすることにより、成形加工シートの強度を高めることができる。
【0053】
不織布シートを得る工程では、例えば、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を交互に編込む混織法や、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を一定の長さにカットしたチョップドストランドを空気中に分散させてネットに捕捉してウエブを形成する方法(乾式不織布法)や、両チョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)等を用いることができる。
【0054】
加熱加圧処理前の本不織布シートでは、熱可塑性樹脂と強化繊維が互いに交差して存在することによりシート中に空隙が存在している。そのため、溶融法(ホットメルト法)、溶剤法、ドライパウダーコーティング法、パウダーサスペンション法、樹脂フィルム含浸法(フィルムスタッキング法)等、繊維間を樹脂が完全に埋めている不織布とは異なり、熱成形前はシート自体がしなやかでドレープ性があり、巻き取りの形態で保管・輸送が可能となることや、曲面の型に沿わせて配置した後、加熱加圧成形することができる等、ハンドリング性に優れることが特徴である。また、成形加工シートに加工した場合に低密度領域と高密度領域を形成することが可能となる。
【0055】
不織布シートにバインダーを含有させる場合は、不織布のシートが形成される工程で混合、あるいは、不織布のシートが形成されたのちに液体あるいはエマルジョン状のバインダーを散布法、塗工法又は含浸法でシートに付与することができる。なお、バインダーは、不織布シートの両表層に集中するように含有されることが好ましい。これにより、表面繊維の飛散、毛羽立ちや脱落を抑制することができ、ハンドリング性に優れた成形加工シートを得ることができる。また、シートの不織布の内部(中層)にもバインダーが含有されていることが、シートの層間強度を維持するために好ましい。
【0056】
本発明においては、1枚の不織布シートに加熱加圧処理が施されてもよく、所望の厚さとなるように複数枚積層したものに加熱加圧処理が施されてもよい。不織布シートを複数枚積層したものを加工することにより、より吸音性に優れた成形加工シートを得ることができる。さらに、不織布シートを複数枚積層したものを加工することにより、断熱効果を発揮することができ、電子機器や建築材として好ましく用いられる。
【0057】
以上の工程で製造された成形加工シートは、優れた吸音効果を発揮することができ、かつ十分な強度を有する。また、断熱性にも優れるためあらゆる用途に適用が可能である。
【0058】
(吸音材)
本発明の吸音材は、上述したような成形加工シートからなる。本発明の吸音材は、その目的や用途に合わせて公知の方法を利用して、適宜適当な大きさ、形状等に加工することができる。本発明の吸音材は難燃性であり、吸音効果に優れるため、種々の用途に用いることができる。例えば、電子機器、自動車、貨車の車両、船舶もしくは航空機等の輸送用機器の内装材、土木・建築用の壁材や天井材等に好適に使用され得る。本発明の吸音材が自動車のエンジンルームの内装材に使用される場合、エンジンルームから発火した際の類焼を防止することができることに加え、エンジン音を外部へ漏出させることを防止することができる。その他にも、電気掃除機や換気扇、電気洗濯機等のモーター周辺でも同様の効果を発揮することができる。
【0059】
本発明の吸音材は、1枚のパネル状にして、吸音パネルとして用いてもよい。このような吸音パネルは、軽量で薄型であるが、優れた吸音効果を発揮することができるため、パーテションや建築材として好ましく用いることができる。
また、本発明の吸音材は、シート状の成形加工シートを略円柱体または略円筒体となるように加工してもよい。このように加工された略円柱体または略円筒体の吸音材は、ダクトパイプに適用することもできる。また、モーター、エンジン等の騒音発生源を囲むケース状の形態としてもよい。
【0060】
本発明では、成形加工シートを複数層重ね合わせた多層吸音材として用いてもよい。例えば、貨車の車両、船舶もしくは航空機等の輸送用機器の内装材として吸音材を用いる場合は、吸音効果を発揮するだけでなく、振動を低減することも求められる。このような場合、多層吸音材は、優れた吸音効果を発揮することに加え、振動を吸収することもできるため、好ましく用いられる。多層吸音材が高い吸音効果と吸振動性を発揮するためには、成形加工シートの凹凸構造を有する面が内側に向かって位置するように積層されることが好ましい。本発明の成形加工シートは、少なくとも一方の面が凹凸構造を有していることが好ましく、凹凸構造を有する面同士が向かい合うように積層されることが好ましい。これにより、2枚の成形加工シートの間に空間が形成されることとなり、高い吸音効果と吸振動性を得ることができる。なお、貨車の車両、船舶もしくは航空機等の輸送用機器の内装材として用いられる場合、成形加工シートの凹凸構造は、成形加工シートの一方の面にのみ設けられることが好ましく、内装材として表面に露出する面は平坦面であることが好ましい。
【0061】
さらに、本発明の吸音材や多層吸音材は、その裏面や側面に反射板や固定板等の部材を取り付けて使用してもよい。これらの部材の形状は特に限定されず、板状であってもよく、フレーム状であってもよい。反射板としては、金属板、樹脂板などを例示することができ、このような反射板を設けることにより吸音効果をより高めることができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、各製造例において部及び%は、特にことわらない限り、質量部及び質量%を表す。
【0063】
(実施例1)
繊維径が6μmであり、繊維長が18mmのガラス繊維(弾性率150Mpa)50部、LOI値が30以上で、繊維径15μmのPEI繊維(Fiber Innovation Technology社製、繊維長12mm)50部、鞘部に変性PET(融点110℃)、芯部にPET繊維を使用した芯鞘バインダー繊維(クラレ製 N−720)5部を水中に投入した。水の量は、投入した繊維の重量に対し200倍となるとした(繊維スラリー濃度として0.5%)。
このスラリーに、分散剤として「エマノーン3199」(花王株式会社、商品名)を繊維100質量部に対し1質量部となるよう添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを調製した。
【0064】
上記繊維スラリーから湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、180℃で加熱乾燥することにより表1に示すバインダー量で目付けが450g/m
2である不織布を作製した。
この不織布を、6枚積層したのち、厚さ30mmの30cm角のアルミ板に直径35mmの穴を
図2(a)のような配置で略等間隔に49個あけたものを片面に当てて、圧力2MPa、温度280℃で加熱加圧下のち冷却し、高密度部厚さ2mm、高密度部密度1.35g/cm
3、低密度部厚さ6mm、低密度部密度0.45g/cm
3の、形状が
図2(b)のような成形加工シートを作製した。
【0065】
(実施例2)
実施例1のアルミ板を両面に当てた以外は実施例1と同様にして、
図4の成形加工シートを作成した。高密度部は実施例1と同じであり、低密度部は密度が0.225g/cm
3であった。
【0066】
(実施例3)
実施例1の不織布を6枚重ね、
図6のような金型を両面に当てて、成形加工シートを作製した。ここで、
図6(a)は金型の上面図を表し、
図6(b)は金型の側面断面図を表す。実施例3で用いた金型では、
図6(b)でXmmと表されている深さは、0.6mmであった。得られた成形加工シートは、周囲30mmが高密度部であり、高密度部の厚さが2mm、密度が1.30g/cm
3、低密度部の厚さが3.2mm、密度が0.844g/cm
3であった。尚、プレス圧については、高密度部の厚さが2mmとなるよう適宜調整した。
【0067】
(実施例4)
実施例1の不織布を4枚重ね、
図6のような金型を両面に当てて、成形加工シートを作製した。実施例4で用いた金型では、
図6(b)でXmmと表されている深さは、0.5mmであった。得られた成形加工シートは、周囲30mmが高密度部であり、高密度部の厚さが1.8mm、密度が1.00g/cm
3、低密度部の厚さが2.8mm、密度が0.64g/cm
3であった。尚、プレス圧については、高密度部の厚さが1.8mmとなるよう適宜調整した。
【0068】
(比較例1)
実施例1の不織布を6枚重ね、
図6のような金型を両面に当てて、成形加工シートを作製した。比較例1で用いた金型では、
図6(b)でXmmと表されている深さは、0.45mmであった。得られた成形加工シートは、周囲30mmが高密度部であり、高密度部の厚さが2mm、密度が1.3g/cm
3、低密度部の厚さが2.9mm、密度が0.93g/cm
3であった。尚、プレス圧については、高密度部の厚さが2mmとなるよう適宜調整した。
【0069】
(比較例2)
実施例1の不織布を4枚重ね、
図6のような金型を両面に当てて、成形加工シートを作製した。比較例2で用いた金型では、
図6(b)でXmmと表されている深さは、0.35mmであった。得られた成形加工シートは、周囲30mmが高密度部であり、高密度部の厚さが1.8mm、密度が1.00g/cm
3、低密度部の厚さが2.5mm、密度が0.72g/cm
3であった。尚、プレス圧については、高密度部の厚さが1.8mmとなるよう適宜調整した。
【0070】
(評価方法)
<強度>
実施例及び比較例で作製した成形加工シートを手作業でハンドリングする際の強度につき、以下の基準で評価した。
5:十分な強度を有し、手作業で取り扱った場合はいかなる取り扱いをしても成形加工シートに折れ曲がりや型崩れが発生しない。
4: 通常の手作業で取り扱った場合において、手作業で取り扱った場合では成形加工シートに折れ曲がりや型崩れが発生しない。
3:ある程度ゆっくりと取り扱わないと動かしたときの風圧で成形加工シートが折れ曲がる。
2:注意深く取り扱わないと風圧で成形加工シートが折れ曲がる。
1:成形加工シートを持ち上げただけでも型崩れが生じる。
【0071】
<吸音性>
内部に7cmφフルレンジスピーカー(FOSTER社製 FF70EG)を置いた、厚さ2mmのアクリル板を6枚使用した30cm角の立方体の箱を作成し、スピーカーケーブルをCDプレーヤーに接続し、ホワイトノイズを収録したCDを再生した。この際、箱からの距離が50cmのところの音量が50dBとなるよう、CDプレーヤーの出力を調整した。
そして、実施例及び比較例で作製した成形加工シートを、上記立方体の箱の内部6面全面に貼り付けた厚さ2mmのアクリル板からなる、上記と同一のスピーカーを内部に置いた30cmの立方体を作成し、上記と同一の出力でCDを再生し、上記のアクリル板のみの場合と、音量を聴感で比較し、吸音性を以下の基準で評価した。
5:アクリル板のみの箱と比較試聴せずとも一聴して明らかにアクリル板のみの箱よりもホワイトノイズの音量が小さくなって。
4:アクリル板のみの箱と比較試聴せずとも、多少注意して聴けばアクリル板のみの箱よりもホワイトノイズの音量が小さくなっている。
3:1〜2回交互に比較試聴すれば容易にアクリル板のみの箱よりも音量が小さくなっている。
2:5回比較試聴しなければホワイトノイズの音量が小さくなっていることがわからない。
1:5回以上比較試聴してもホワイトノイズの音量を小さくする効果が認められない。
【0072】
【表1】
【0073】
表1より、実施例1〜4の成形加工シートを吸音材として用いた場合、吸音性が高いレベルで維持されるとともに、成形加工シート自体の強度も高いことがわかる。一方、比較例1及び2では、吸音性に劣り、吸音材として満足するものは得られないことがわかる。